JP3728130B2 - 溶接熱影響部の靱性に優れた鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は溶接熱影響部(Heat Affected Zone:HAZ)靭性の優れた500〜600MPa級高張力鋼板に関するものである。本発明鋼板は、小入熱溶接から超大入熱溶接までの広範な溶接条件において良好なHAZ靱性を有するので、建築、橋梁、造船、ラインパイプ、建設機械、海洋構造物、タンクなどの各種の溶接鋼構造物に用いられる。
【0002】
【従来の技術】
HAZにおいては溶融線に近づくほど溶接時の加熱温度は高くなり、特に溶融線近傍の1400℃以上に加熱される領域では加熱オーステナイト(γ)が著しく粗大化してしまい、冷却後のHAZ組織が粗大化して靭性が劣化する。この傾向は溶接入熱量が大きくなるほど顕著である。
【0003】
このような問題点を解決する手段として、特開昭60ー245768号公報、特開昭60ー152626号公報、、特開昭63ー210235号公報、特開平2ー250917号公報、特願平1−73320号公報は、粗大なγ粒の内部に、Ti酸化物やTiNとMnSの複合析出物を核とした粒内変態フェライトを積極的に生成せしめ、HAZ靭性の向上をはかってきた。しかしながら、これらの技術によって製造された鋼も、溶接入熱量が20kJ/mmを超えるような大入熱溶接HAZにおいては十分な靭性を得ることは困難であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、溶接入熱量が20kJ/mmを超えるような大入熱溶接においても良好なHAZ靭性を有する500〜600MPa級の高張力鋼板を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、溶接入熱量が20kJ/mmを超える大入熱溶接HAZ靭性の向上を狙いとして、▲1▼加熱γ粒成長抑制、▲2▼粒内変態促進、▲3▼適正なTiとNの存在形態、について鋭意検討し、新たな金属学的効果を知見して本発明に至った。
【0006】
本発明の要旨は、以下の通りである。
【0007】
(1) 重量%で、C:0.03〜0.2%、Si:0.4%以下、Mn:0.5〜2%、P:0.015%以下、S:0.0005〜0.006%、Al:0.001〜0.01%、Ti:0.007〜0.02%、Mg:0.0001〜0.003%、O:0.001〜0.004%、N:0.0025〜0.006%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる化学成分を有し、MgとAlから成る酸化物を内包する0.01以上0.5μm未満のTiNが10000個/mm2以上存在し、重量%を用いて下記の(1)式あるいは(2)式で計算される有効Ti量が−0.010%〜+0.005%の範囲であり、さらに、MgとTiの平均含有量の和が15重量%以上である0.5〜5μmの大きさの酸化物が30個/mm2以上存在することを特徴とする−40℃での溶接熱影響部靱性の優れた鋼板。
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al≧0の場合、
有効Ti量=Ti−2(O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al)−3.4N・・・(1)
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al<0の場合、
有効Ti量=Ti−3.4N・・・(2)
【0008】
(2) 重量%で更に、Cu:1.5%以下、Ni:1.5%以下、Mo:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Nb:0.05%以下、V:0.05%以下、B:0.002%以下の1種または2種以上を含有し、重量%を用いて下記の(1)式あるいは(2)式で計算される有効Ti量が−0.010%〜+0.005%の範囲であることを特徴とする前記(1)項記載の−40℃での溶接熱影響部靱性の優れた鋼板。
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al≧0の場合、
有効Ti量=Ti−2(O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al)−3.4N・・・(1)
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al<0の場合、
有効Ti量=Ti−3.4N・・・(2)
【0009】
(3) 重量%で更に、Ca:0.003%以下、REM:0.003%以下の1種または2種を含有し、重量%を用いて下記の(1)式あるいは(2)式で計算される有効Ti量が−0.010%〜+0.005%の範囲であることを特徴とする前記(1)項または(2)項記載の−40℃での溶接熱影響部靱性の優れた鋼板。
【0011】
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al≧0の場合、
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al<0の場合
、
有効Ti量=Ti−3.4N・・・(2)
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明で知見した新たな金属学的効果について以下に説明する。
【0013】
まず、加熱γ粒成長抑制について説明する。溶融線近傍HAZは加熱温度が1400℃にも及ぶため、炭化物や窒化物が溶解・粗大化することでγ粒界の移動をピンニングする力が著しく低下し、γ粒の成長を避けることはできなかった。そこで、1400℃以上の高温でも熱的に安定である酸化物によるピンニングによってγ粒成長を抑制させることを検討した。その結果、微量のMgとAlを含有させることで、0.01〜0.1μmの大きさの従来にない極めて微細なMgとAlから成る酸化物が多量に生成することを見いだした。さらに、0.01以上0.5μm未満の大きさの微細なTiNがこのMgとAlから成る酸化物上に複合析出し、1400℃以上の高温で従来にない非常に強力なピンニング力を発揮することを明らかにした。なお、TiN複合粒子は、0.01超〜0.2μmとすることが好ましい。
【0014】
このMgとAlから成る酸化物はTiNとの格子整合性がよいため、TiNの析出核として有効に作用する。そして、0.01〜0.1μmのMgとAlから成る酸化物にTiNが複合することでその表面積が増し、より強力なピンニング力が発現される。図2は溶接冷却時の800℃から500℃までの冷却時間が330sである場合のHAZ靭性に及ぼすγ粒径の影響を示す。この冷却時間は板厚80mmの鋼板を約70kJ/mmの溶接入熱量でエレクトロスラグ溶接した場合に相当する。図2からγ粒の細粒化に伴いHAZ靭性が向上する。これは、γ粒の細粒化に伴ってγ粒界から変態する粒界フェライトやフェライトサイドプレートが小さくなり、HAZ組織が微細化されるためである。このような効果はγ粒径が150μm以下のときに顕著である。図3は1400℃で30s間保持した場合のγ粒径に及ぼす0.01以上0.5未満μmの複合析出TiNの個数の影響を示す。この加熱条件は、板厚80mmの鋼板を約70kJ/mmの溶接入熱量でエレクトロスラグ溶接したときの溶融線近傍HAZに相当する。図3から複合析出TiNの個数が10000個/mm2以上のときにγ粒径は150μm以下となり、図2から良好なHAZ靭性が得られる。複合析出TiNの個数が10000個/mm2未満の場合にはγ粒径が150μm以上となり、HAZ組織が十分に微細化されないために良好な靭性は得られない。γ粒成長抑制に有効なこのような複合析出TiNの分散状態は、Mg、Al、Ti、O、Nの量を本発明の範囲に制御することで達成される。
【0015】
次に、粒内変態促進について説明する。粒内変態フェライトに生成を促進してHAZ組織を微細化するためには、粒内変態の核となる酸化物の個数を増加させる必要がある。発明者らは、微量のAl量のもとでTiと微量のMgを含有させることにより、TiとMgを含有する酸化物が微細に分散し、HAZでの粒内変態が顕著に促進され、HAZ靭性が向上することを見いだした。このとき、粒内変態の核となる酸化物の大きさは0.5〜5μmであるが、0.5〜3μmが好ましい。このような大きさの酸化物にはTiとMgのほかに、Al、Ca、REM、Mn、Siが含まれる場合があり、酸化物上にTiNやMnSが複合析出する場合もある。十分な量の粒内変態組織を生成するためには、0.5〜5μmの酸化物の平均組成においてMgとTiの含有量の和が15重量%以上であり、その個数が30個/mm2以上であることが必要である。酸化物組成においてTiとMgの含有量の和が15重量%未満の場合、酸化物からの粒内変態が起こりにくくなる。粒内変態の促進に有効なこのようなTi−Mg系酸化物の分散状態は、Mg、Al、Ti、Oの量を本発明の範囲に制御することで達成される。
【0016】
次に各々の化学成分の限定理由について説明する。
【0017】
Cの下限は母材及び溶接部の強度、靱性を確保するための最小量である。しかし、Cが多すぎると母材及びHAZの靭性を低下させるとともに溶接性を劣化させるため、その上限を0.2%とする。
【0018】
Siは脱酸のために鋼に含有されるが、多すぎると溶接性およびHAZ靭性が劣化するため、上限を0.4%とする。本発明の脱酸はTiだけでも十分可能であり、良好なHAZ靭性を得るためにはSiを0.3%以下にするのが望ましい。
【0019】
Mnは母材及び溶接部の強度、靭性の確保に不可欠であり、また、Sと結合してTi−Mg系の酸化物上にMnSとして析出することで粒内変態の生成を促進するため、下限を0.5%とする。しかし、Mnが多すぎるとHAZ靭性を劣化させ、スラブの中心偏析を助長し、溶接性を劣化させるので上限を2%とする。
【0020】
Pは本発明鋼において不純物元素であり0.015%以下とする。Pの低減はスラブ中心偏析の軽減を通じて母材およびHAZの機械的性質を改善し、さらには、HAZの粒界破壊を抑制する。
【0021】
SはTi−Mg系酸化物上にMnSを形成して粒内変態の生成を促進するため、0.0005%以上必要であるが、好ましくは0.002%以上である。しかし、Sが多すぎると中心偏析を助長したり、延伸したMnSが多量に生成したりして、母材およびHAZの機械的性質が劣化するため、その上限を0.006%とする。
【0022】
Alは、γ粒成長のピンニング粒子である複合析出TiNの析出核である0.01〜0.1μmのMgとAlから成る酸化物や、粒内変態の核である0.5〜5μmのTi−Mg系酸化物の分散状態と組成を制御するうえで重要である。Alが0.001%未満の場合、MgとAlから成る酸化物の個数が10000個/mm2未満となり、複合析出TiNの個数が不足することでγ粒が十分に細粒化されず、良好なHAZ靭性が得られない。一方、Alが0.01%を超える場合、0.5〜5μmのTi−Mg系酸化物中のAl含有量が増加することでMgとTiの含有量の和が15重量%未満となり、酸化物からの粒内変態能が低下し、十分な量の粒内変態組織が生成せずに良好なHAZ靱性が得られない。
【0023】
Tiは、ピンニング粒子としての複合析出TiNや、粒内変態核であるTi−Mg系酸化物の分散状態と組成を制御するうえで重要であり、後述する有効Ti量の適正範囲と相俟って狭い範囲に限定されなければならない。Tiが0.007%未満の場合、MgとAlから成る酸化物上に複合析出するTiNの個数が10000個/mm2未満となり、HAZ靭性向上に必要なγ粒成長抑制効果が得られない。同時にこのような場合、0.5〜5μmのTi−Mg系酸化物中のMgとTiの含有量の和が15重量%未満となり、酸化物からの粒内変態能が低下してHAZ靭性向上に十分な量の粒内変態組織が生成しない。一方、Tiが0.02%を超える場合、有効Ti量が適正範囲内にあっても実質的にTiCが過剰に生成し、HAZ靭性が低下する。したがって、Tiの含有量は0.007〜0.02%としたが、0.007〜0.015%とすることが好ましい。TiNは厚板圧延でのスラブ加熱時のγ粒成長抑制を通じて母材組織を微細化し、鋼板の強度と靭性を向上させることにも貢献する。
【0024】
ここで、適正なTiとNの存在形態について説明する。鋼中のTiはOと結合して酸化物を生成し、残りのTiはNと結合してTiNを形成し、さらに残ったTiが存在すれば、これらの過剰なTiはCと結合してTiCを形成するが、TiCは析出脆化をもたらす。一方、鋼中のTiが酸化物およびTiNとして全て消費されれば、Tiと結合できなかった過剰なNが地鉄中に固溶するが、固溶Nもまた脆化をもたらす。このように、酸化物および窒化物として消費された残りのTiが存在するか否かによってTiとNの存在形態が異なり、このことが靱性に大きな影響を及ぼす。本発明では、酸化物および窒化物として消費された残りのTi量を「有効Ti量」として重量%を用いて(1)式および(2)式で定義する。
【0025】
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al≧0の場合、
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al<0の場合
、
有効Ti量=Ti−3.4N・・・(2)
【0026】
(1)式および(2)式の各元素の係数は想定される酸化物および窒化物から化学量論的に決定された値である。1400℃を超えるような溶融線近傍HAZでは、TiとNの存在形態はさらに複雑である。その理由は、溶接加熱時にTiCとTiNの多くが地鉄中に一旦固溶し、固溶したTi、N、Cは溶接冷却時にTiNあるいはTiCとして再析出するとともに、一部は固溶のまま存在するからである。このようなTiとNの存在形態を制御してHAZ靭性の向上を目指すためには、TiとNの各々の量を規定するとともに、有効Ti量の概念を用いて他の成分とのバランスをはかることが有効である。図1は溶接入熱量が50kJ/mmの場合をシミュレートした1400℃加熱再現HAZ靭性に及ぼす有効Ti量の影響を示す。有効Ti量が−0.010%〜+0.005%の範囲で良好な靭性を示す。すなわち、この範囲がTiCの析出脆化とNの固溶脆化の両方を回避できる適正な成分範囲であること示す。有効Ti量が−0.010%未満の場合は固溶N量が過剰となり、有効Ti量が+0.005%を超える場合にはTiC析出量が過剰となり、HAZ靭性が劣化する。
【0027】
このように有効Tiを考慮することにより、さらに良好なHAZ靭性が得られる。
【0028】
Mgは本発明の特徴的な元素であり、もっとも重要な役割を有する。Mgを適量含有することで本発明における酸化物の分散状態を達成することができる。Mgが0.0001%未満の場合、TiNの析出核であるMgとAlから成る酸化物や粒内変態核であるTi−Mg系酸化物の個数が不足する。一方、酸化物として消費されるMgは0.003%あれば十分であり、これ以上のMgは金属学的に何ら効果をもたらさない。Mgは蒸気圧が高くて酸化力が強い非常に活性な元素であることから、必要以上に鋼中に含有させることは製造コストの上昇を招き好ましくない。
【0029】
Oは、TiNの析出核であるMgとAlから成る酸化物や、粒内変態核であるTi−Mg系酸化物の個数を確保するうえで必要である。Oが0.001%未満の場合、これらの酸化物の個数が不足し、HAZ靱性が劣化する。一方、Oが0.004%を超える場合、鋼の清浄度が低下して機械的性質が劣化する。
【0030】
Nは、ピンニング粒子である複合析出TiNの個数を確保するうえで必要であり、有効Ti量の適正範囲と相俟って狭い範囲に限定されなければならない。Nが0.0025%未満の場合、TiNの個数が確保できない。一方、Nが0.006%を超える場合、有効Ti量が適正範囲内にあっても実質的に固溶Nが過剰となり、HAZ靭性が低下する。
【0031】
続いて、Cu、Ni、Mo、Cr、Nb、V、B、Ca、REMを添加する理由について説明する。
【0032】
Cu、Niは溶接性およびHAZ靭性に悪影響を及ぼすことなく母材の強度、靭性を向上させる。しかし、1.5%を超えると溶接性およびHAZ靭性が劣化する。
【0033】
Mo、Crは母材の強度、靭性を向上させる。しかし、1.0%を超えると母材靭性、溶接性およびHAZ靭性が劣化する。
【0034】
Nbは母材組織の微細化に有効な元素であり、母材の機械的性質を向上させる。しかし0.05%を超えるとHAZ靱性が劣化する。
【0035】
Vは母材の強度を向上させる。しかし0.05%を超えると溶接性およびHAZ靭性が劣化する。
【0036】
Bは焼き入れ性を高めて母材やHAZの機械的性質を向上させる。しかし0.002%を超えて添加するとHAZ靱性や溶接性が劣化する。
【0037】
Ca、REMは酸化物や硫化物を形成して材質を改善する。ここで、REMとはLa、Ceなどの希土類金属元素を示す。これらの元素を各々0.003%を超えて添加すると、0.5〜5μmの酸化物の組成においてこれらの含有量が増し、その結果、酸化物中のTiとMgの含有量の和が15重量%未満となり、酸化物からの粒内変態能が低下し、十分な量の粒内変態組織が生成せずHAZ靭性が劣化する。
【0038】
本発明鋼は、鉄鋼業の製鋼工程において所定の化学成分に調整し、連続鋳造を行い、鋳片を再加熱した後に厚板圧延によって形状と母材材質を付与することで製造される。必要に応じ、鋼板に各種の熱処理を施して母材の材質を制御することも行われる。鋳片を再加熱することなく、ホットチャージ圧延することも可能である。
【0039】
本発明で規定した介在物の分散状態は、たとえば以下のような方法で定量的に測定される。0.01以上0.5μm未満のMgとAlから成る酸化物とTiNの複合介在物の分散状態は、母材鋼板の任意の場所から抽出レプリカ試料を作製し、これを透過電子顕微鏡(TEM)を用いて10000〜50000倍の倍率で少なくとも1000μm2以上の面積にわたって観察し、対象となる大きさの複合介在物の個数を測定し、単位面積当たりの個数に換算する。このとき、MgとAlから成る酸化物とTiNの同定は、TEMに付属のエネルギー分散型X線分光法(EDS)による組成分析と、TEMによる電子線回折像の結晶構造解析によって行われる。このような同定を測定するすべての複合介在物に対して行うことが煩雑な場合、簡易的に次の手順による。まず、四角い形状の介在物をTiNとみなし、対象となる大きさのTiN中に介在物が複合しているものの個数を上記の要領で測定する。次に、このような方法で個数を測定した複合介在物のうち少なくとも10個以上について上記の要領で同定を行い、MgとAlから成る酸化物とTiNが複合的に存在している割合を算出する。そして、はじめに測定された複合介在物の個数にこの割合を掛け合わせる。鋼中の炭化物が以上のTEM観察を邪魔する場合、500℃以下の熱処理によって炭化物を凝集・粗大化させ、対象となる複合介在物の観察を容易にすることができる。
【0040】
0.5〜5μmのTi−Mg系酸化物の個数の測定例を次に示す。母材鋼板の任意の場所から小片試料を切り出し、これを1400〜1450℃で10分間以上保持することで酸化物以外の0.5〜5μmの介在物を溶体化させ、その後水冷する。これを鏡面研磨し、光学顕微鏡を用いて1000倍の倍率で少なくとも1mm2以上の面積にわたって観察し、対象となる大きさの酸化物の個数を測定し、単位面積当たりの個数に換算する。さらに、対象となる大きさの酸化物のうち少なくとも10個以上についてX線マイクロアナライザー(EPMA)に付属の波長分散型分光法(WDS)を用いて組成を分析し、酸化物の平均組成におけるTiとMgの含有量の和を重量%で求める。このとき、酸化物組成の分析値に地鉄のFeが検出される場合は、分析値からFeを除外して酸化物の平均組成を求める。
【0041】
【実施例】
表1に鋼板の化学成分と介在物の分散状態を、表2に鋼板の製造条件と機械的性質を示す。
【0042】
表1のピンニング粒子の個数の測定は、鋼板母材の板厚中心部から抽出レプリカ試料を作製し得、これを30000倍の倍率で2000μm2の面積にわたってTEM観察することで行った。また、表1の粒内変態核酸化物の個数の測定は、同じく鋼板母材の板厚中心部から小片を切り出して1400℃で20分間保定した後に水冷し、鏡面研磨面を1000倍の倍率で4mm2の面積にわたって光学顕微鏡観察することで行った。さらに、EPMA−WDSによって0.5〜5μmの20個の酸化物について組成を分析し、地鉄(Fe)の分析値を差し引いて平均組成を求め、TiとMgの含有量の和を求めた。本発明鋼はTSが520〜660MPaであり、溶接入熱量が20〜100kJ/mmのエレクトロガス溶接部あるいはエレクトロスラグ溶接部の溶融線において従来にない良好なHAZ靱性を有する。本発明鋼は、Al、Ti、Mg、O、Nの量を厳密に制御し、有効Ti量なる概念を用いてHAZにおけるTiとNの存在形態を適正化し、さらに、γ粒成長抑制や粒内変態に有効な介在物の分散状態を所有することで、大入熱溶接においても良好なHAZ靱性を達成している。一方、比較鋼は化学成分や介在部の分散状態が適正でないため、母材およびHAZの機械的性質が劣っている。鋼11はCが量が低すぎるために、鋼12はC量が高すぎるために、母材およびHAZの靱性が劣る。鋼13はSi量が高すぎるためにHAZ靱性が劣る。鋼14はMn量が低すぎるために、鋼15はMn量が高すぎるために、母材およびHAZの靱性が劣る。鋼16はP量が高すぎるために、母材およびHAZの靱性が劣る。鋼17はS量が低すぎるために粒内変態フェライトが十分に生成せず、HAZ靱性が劣る。鋼18はS量が高すぎるために母材およびHAZの靱性が劣る。鋼19はAl量が低すぎるためにTiNの析出核であるMgとAlから成る酸化物の個数が少なく、γ粒が粗大化してHAZ靱性が劣る。鋼20はAl量が高すぎるため、粒内変態核となり得る大きさの酸化物におけるTiとMgの含有量の和が少なく、粒内変態組織が十分に生成しないためHAZ靱性が劣る。鋼21はTi量が低すぎるため、ピンニング粒子であるTiNの個数が少なく、また、粒内変態核の大きさの酸化物におけるTiとMgの含有量の和が少ないため、HAZ組織が著しく粗大化してHAZ靱性が劣る。鋼22はTi量が高すぎるため、有効Ti量が適正範囲から外れ、TiC析出脆化によってHAZ靱性が劣る。鋼23はMg量が低すぎるため、TiNの析出核であるMgとAlから成る酸化物の個数が少なく、また、粒内変態核となり得る大きさの酸化物の組成と個数が十分でないため、HAZ組織が著しく粗大化してHAZ靱性が劣る。鋼24、鋼25はそれぞれCa量、REM量が高すぎるため、粒内変態核となり得る大きさの酸化物におけるTiとMgの含有量の和が少なくなり、粒内変態組織が十分に生成せずにHAZ靱性が劣る。鋼26はO量が低すぎるため、MgとAlから成る酸化物およびTi−Mg系酸化物の個数が少なく、HAZ組織が粗大化してHAZ靱性が劣る。鋼27はO量が高すぎるため、鋼の清浄度が悪くなり、破壊起点が増えてHAZ靱性が劣る。鋼28はN量が低すぎるため、ピンニング粒子であるTiNの個数がすくなく、γ粒が粗大化してHAZ靱性が劣る。鋼29はN量が高すぎるため、有効Ti量が適正範囲から外れ、固溶Nが過剰となりHAZ靱性が劣る。鋼30と鋼31は各々の元素は適正であるが有効Ti量が不適当なため、TiC析出脆化あるいは固溶N脆化によりHAZ靱性が劣る。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【発明の効果】
本発明により大入熱溶接においても良好な−40℃でのHAZ靱性を有する500〜600MPa級の鋼板が製造可能となり、各種の溶接構造物の安全性が格段に向上した。また、本発明鋼を使用することで高能率溶接の適用領域が広がり、溶接施工コストを大幅に低減することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】1400℃加熱HAZ靱性に及ぼす有効Ti量の影響を示す図である。
【図2】HAZ靱性に及ぼすγ粒径の影響を示す図である。
【図3】1400℃加熱γ粒径に及ぼすピンニング粒子個数の影響を示す図である。
Claims (3)
- 重量%で、
C:0.03〜0.2%、
Si:0.4%以下、
Mn:0.5〜2%、
P:0.015%以下、
S:0.0005〜0.006%、
Al:0.001〜0.01%、
Ti:0.007〜0.02%、
Mg:0.0001〜0.003%、
O:0.001〜0.004%、
N:0.0025〜0.006%
を含有し、重量%を用いて下記の(1)式あるいは(2)式で計算される有効Ti量が−0.010%〜+0.005%の範囲であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる化学成分を有し、MgとAlから成る酸化物を内包する0.01以上0.5μm未満のTiNが10000個/mm2以上存在し、さらに、MgとTiの平均含有量の和が15重量%以上である0.5〜5μmの大きさの酸化物が30個/mm2以上存在することを特徴とする−40℃での溶接熱影響部靱性の優れた鋼板。
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al≧0の場合、
有効Ti量=Ti−2(O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al)−3.4N・・・(1)
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al<0の場合、
有効Ti量=Ti−3.4N・・・(2) - 重量%で更に、
Cu:1.5%以下、
Ni:1.5%以下、
Mo:1.0%以下、
Cr:1.0%以下、
Nb:0.05%以下、
V:0.05%以下、
B:0.002%以下
の1種または2種以上を含有し、重量%を用いて下記の(1)式あるいは(2)式で計算される有効Ti量が−0.010%〜+0.005%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の−40℃での溶接熱影響部靱性の優れた鋼板。
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al≧0の場合、
有効Ti量=Ti−2(O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al)−3.4N・・・(1)
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al<0の場合、
有効Ti量=Ti−3.4N・・・(2) - 重量%で更に、
Ca:0.003%以下、
REM:0.003%以下
の1種または2種を含有し、重量%を用いて下記の(1)式あるいは(2)式で計算される有効Ti量が−0.010%〜+0.005%の範囲であることを特徴とする請求項1または2記載の−40℃での溶接熱影響部靱性の優れた鋼板。
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al≧0の場合、
有効Ti量=Ti−2(O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al)−3.4N・・・(1)
O−0.17REM−0.40Ca−0.66Mg−0.89Al<0の場合、
有効Ti量=Ti−3.4N・・・(2)
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