JP2010100909A - 抵抗スポット溶接の継手強度に優れた高耐食性フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.003〜0.010質量%,Si:0.15質量%以下,Mn:0.2質量%以下,P:0.04質量%以下,S:0.005質量%以下,Al:0.05質量%以下,N:0.010質量%以下,Cr:20〜23質量%,Cu:0.3〜0.6質量%,Ni:0.5質量%以下,Nb:0.25〜0.5質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有するスラブを1000℃以上1200℃以下に加熱した後、仕上げ温度を950℃以下とし巻取り温度を500℃以下として熱間圧延を行ない、得られた熱延鋼板に熱延板焼鈍を施し、さらに酸洗を施し、次いで冷間圧延を行ない、得られた冷延鋼板に冷延板焼鈍を施す。
【選択図】なし
Description
フェライト系ステンレス鋼板を用いて各種機器類を製造する際には、フェライト系ステンレス鋼板を所定の形状に成形し、さらに接合を行なう。C,Nを低減しCrを増加させた高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の抵抗スポット溶接を行なうと、溶接金属や溶接熱影響部のフェライト結晶粒が粗大化し易い。高耐食性フェライト系ステンレス鋼板が厚肉である場合は、フェライト結晶粒の粗大化が溶接継手の強度に及ぼす影響は少ない。しかし高耐食性フェライト系ステンレス鋼板が薄肉である場合には、溶接部近傍のフェライト結晶粒が粗大化すると、溶接継手の強度が著しく低下する。
たとえば特許文献1には、高耐食性フェライト系ステンレス鋼板にMgを添加することによって溶接金属と溶接熱影響部の酸化物の密度を高めて、フェライト結晶粒の粗大化を抑制する技術が開示されている。しかしMgは溶接の際に溶融メタルの表層部に浮上し易いので、溶融メタルが凝固した溶接金属の表層部に濃縮される。そのため、溶接金属の表層部のフェライト結晶粒の粗大化は抑制できるが、厚さ方向中央部のフェライト結晶粒の粗大化を抑制することは困難である。また、熱影響部のフェライト粒も粗大化する。つまり特許文献1に開示された高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の抵抗スポット溶接では、溶接継手の強度の低下を防止できない。
(a)溶接熱影響部のフェライト結晶粒が微細であれば、溶接熱影響部の外側で破壊が発生する、
(b)溶接熱影響部のフェライト結晶粒が粗大であれば、溶接金属と溶接熱影響部の境界で破壊が発生する
という知見を得た。つまり上記の(a)に示したように、溶接熱影響部のフェライト結晶粒を微細化することによって、溶接継手の破壊を防止することができる。
すなわち本発明は、C:0.003〜0.010質量%,Si:0.15質量%以下,Mn:0.2質量%以下,P:0.04質量%以下,S:0.005質量%以下,Al:0.05質量%以下,N:0.010質量%以下,Cr:20〜23質量%,Cu:0.3〜0.6質量%,Ni:0.5質量%以下,Nb:0.25〜0.5質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、厚さ方向の1/4〜3/4の領域に粒径70nm以下のNb炭化物および/またはNb炭窒化物が分散して析出した組織と、を有する抵抗スポット溶接継手強さの高い高耐食性フェライト系ステンレス鋼板である。
C:0.003〜0.010質量%
Cは、高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の強度を高める作用を有する元素である。しかしCは、後述するCrと結合することによってCr炭化物を析出して固溶Crを減少させ、高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の耐食性を劣化させる。そこで本発明ではNbを添加し、CをNbと結合させてNb炭化物(すなわちNbC)やNb炭窒化物を析出させることによって固溶Crの減少を防止する。Nb炭化物やNb炭窒化物は、固溶Crの減少の防止に加えて、抵抗スポット溶接にて形成される溶接熱影響部のフェライト結晶粒の粗大化を防止して溶接継手の強度を高める効果も有する。C含有量が0.003質量%未満では、十分な量のNb炭化物やNb炭窒化物が析出しないので、溶接熱影響部のフェライト結晶粒の粗大化を防止できない。一方、0.010質量%を超えると、Cr炭化物が析出して十分な固溶Crを維持できないので、高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の耐食性が劣化するとともに、溶接熱影響部のフェライト結晶粒が粗大化する。したがって、Cは0.003〜0.010質量%の範囲内とする。
Siは、高耐食性フェライト系ステンレス鋼の溶製段階で脱酸剤として用いられる。しかし固溶強化によって高耐食性フェライト系ステンレス鋼板を硬質化する作用を有する。Si含有量が0.15質量%を超えると、高耐食性フェライト系ステンレス鋼板が著しく硬質化して延性の低下を招く。したがって、Siは0.15質量%以下とする。
Mnは、高耐食性フェライト系ステンレス鋼の溶製段階で脱酸剤として用いられる。Mn含有量が0.2質量%を超えると、後述するSと結合してMnSの析出が促進され、耐食性が低下する。したがって、Mnは0.2質量%以下とする。
P:0.04質量%以下
Pは、フェライト結晶粒の粒界に偏析して脆性破壊を誘起する。P含有量が0.04質量%を超えると、粒界における偏析の問題に加えて、固溶強化によって高耐食性フェライト系ステンレス鋼板が硬質化する。したがって、Pは0.04質量%以下とする。
Sは、Mn等と結合してMnSを生成する元素である。MnSは溶接継手に生じる亀裂の起点となる。S含有量が0.005質量%を超えると、MnSが多量に析出して亀裂の起点となり、溶接継手の破壊を招く。したがって、Sは0.005質量%以下とする。
Al:0.05質量%以下
Alは、フェライト系ステンレス鋼の溶製段階で脱酸剤として用いられる。Al含有量が0.05質量%を超えると、Al脱酸生成物が凝集して粗大化し、抵抗スポット溶接にて形成される溶接熱影響部のフェライト結晶粒が粗大化して、溶接継手の強度低下を招く。したがって、Alは0.05質量%以下とする。
Nは、後述するCrと結合することによってCr窒化物を析出して固溶Crを減少させ、高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の耐食性を劣化させる。そこで本発明ではNbを添加し、NをNbと結合させてやNb炭窒化物を析出させることによって固溶Crの減少を防止する。Nb炭窒化物は、固溶Crの減少の防止に加えて、抵抗スポット溶接にて形成される溶接熱影響部のフェライト結晶粒の粗大化を防止して溶接継手の強度を高める効果も有する。N含有量が0.010質量%を超えると、Cr窒化物が析出して十分な固溶Crを維持できないので、高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の耐食性が劣化するとともに、溶接熱影響部のフェライト結晶粒が粗大化して溶接継手の強度が低下する。したがって、Nは0.010質量%以下とする。
Crは、高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の表面に不動態皮膜を形成して耐食性を高める元素である。一般的なフェライト系ステンレス鋼(たとえばSUS430等)はCrを18質量%程度含有するが、本発明はSUS430を凌ぐ耐食性を有する高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の継手強度の向上を課題としており、Cr含有量が20質量%未満では、十分な耐食性が得られない。一方、23質量%を超えると、溶接熱影響部にNbとCrの硬質な化合物が生成して熱影響部の靭性が劣化し、継手強度が低下する。したがって、Crは20〜23質量%の範囲内とする。
Cuは、アノード反応による地鉄の溶解を低減する作用を有する。また、固溶状態ではFe格子を歪ませて、微細なNbCを分散して析出させ、溶接熱影響部のフェライト結晶粒を微細化する作用を有する。Cu含有量が0.3質量%未満では、これらの効果は得られない。一方、0.6質量%を超えると、CuSが析出し易くなり、それを起点として高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の亀裂が進行するとともに、Cuが析出して熱影響部の靭性が劣化して、継手強度が低下する。したがって、Cuは0.3〜0.6質量%の範囲内とする。
Niは、耐食性を向上する作用を有する。しかしNi含有量が0.5質量%を超えると、高耐食性フェライト系ステンレス鋼板が硬質化して延性が損なわれる。したがって、Niは0.5質量%以下とする。
Nb:0.25〜0.5質量%
Nbは、C,Nと結合してNb炭化物やNb炭窒化物を形成することによってC,Nを固定し、Cr炭窒化物による鋭敏化を防止する作用を有する。Nb含有量が0.25質量%未満では、この効果は得られない。一方、0.5質量%を超えると、粗大なNb炭化物やNb炭窒化物が析出して、溶接熱影響部のフェライト結晶粒が粗大化する。また、Crとの化合物も生成しやすくなり、熱影響部の靭性が劣化して、継手強度も低下する。したがって、Nbは0.25〜0.5質量%の範囲内とする。
Ti:0.08質量%以下
Tiは、C,Nと結合してTi炭窒化物を形成することによってC,Nを固定し、Cr炭窒化物による鋭敏化での耐食性の劣化を防止する作用を有する。たとえば、Tiを添加することによって、耐硫酸腐食性を一層高めることができる。Ti含有量が0.08質量%を超えると、Tiを含む析出物が粗大化して、溶接熱影響部のフェライト結晶粒が粗大化して、溶接継手の強度が低下する。したがって、Tiは0.08質量%以下が好ましい。なお、Ti含有量が0.005質量%未満では、Ti炭窒化物が十分に生成されず、Tiを添加した効果が得られない。したがって、Tiは0.005〜0.08質量%の範囲内が一層好ましい。
次に、本発明の高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の組織を説明する。
抵抗スポット溶接の溶接熱影響部に応力が加わると、表面近傍では応力が緩和されるので、厚さ方向の中央部で応力を支えることになる。したがって、高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の厚さ方向の中央部(すなわち1/4〜3/4の領域)に微細なNb炭化物および/またはNb炭窒化物を析出させて、溶接熱影響部のフェライト結晶粒を微細化することによって、溶接継手の強度を向上させる。 厚さ方向の1/4〜3/4の領域に析出したNb炭化物および/またはNb炭窒化物の粒径が70nmを超えると、溶接熱影響部のフェライト結晶粒の成長を抑えることができず、微細化を達成できない。したがって、70nm以下とする。
所定の成分を有するフェライト系ステンレス鋼を溶製し、さらにスラブとした後、1000℃以上1200℃以下に加熱して熱間圧延(仕上げ温度:950℃以下,巻取り温度:500℃以下)を行ない、熱延鋼板とする。
加熱温度:1000℃以上1200℃以下
スラブの加熱温度が1200℃を超えると、スラブのフェライト結晶粒が粗大化する。フェライト系ステンレス鋼では、フェライト単一相のままで熱間圧延されるので、スラブの粗大化したフェライト結晶粒の再結晶が遅れて、後述する冷間圧延を行なった後も粗大なフェライト結晶粒が残留する。したがって、スラブの加熱温度は1200℃以下とする。加熱温度が1000℃未満では、Nb炭化物が熱間圧延前に粗大なままで溶解せず、結果として微細なNb炭化物を得ることができない。したがって、加熱温度は1000〜1200℃の範囲内とする。
熱間圧延の仕上げ温度が950℃を超えると、熱延鋼板のフェライト結晶粒が粗大化し、後述する冷間圧延を行なった後も粗大なフェライト結晶粒が残留する。したがって、熱間圧延の仕上げ温度は950℃以下とする。なお、仕上げ温度が800℃未満では、熱延ロールと圧延材間の摩擦係数が大きくなり、圧延材の表面性状が劣化する。したがって、加熱温度は800〜950℃の範囲内が好ましい。
熱延鋼板の巻取り温度が500℃を超えると、粗大なNb炭化物やNb炭窒化物が析出する。したがって、熱延鋼板の巻取り温度は500℃以下とする。なお、巻取り温度が350℃未満では、熱延鋼板の形状が損なわれる。したがって、巻取り温度は350〜500℃の範囲内が好ましい。
熱延板焼鈍の1000℃以下,加熱時間:500秒以下
熱延板焼鈍の加熱温度が1000℃を超えると、Nb炭化物やNb炭窒化物が粗大化するので、抵抗スポット溶接の溶接熱影響部のフェライト結晶粒の微細化を達成できない。加熱温度が1000℃以下であっても、加熱時間(すなわち600℃以上に保持される時間)が500秒を超えると、Nb炭化物やNb炭窒化物が粗大化する。したがって、加熱温度を1000℃以下,加熱時間を500秒以下として熱延板焼鈍を行なうことが好ましい。
次いで、冷間圧延を行ない、冷延鋼板とする。得られた冷延鋼板に冷延板焼鈍を施して、高耐食性フェライト系ステンレス鋼板とする。冷延板焼鈍は、加熱温度:800℃以上で行なうことが好ましい。
冷延板焼鈍の加熱温度:800℃以上
冷延板焼鈍の加熱温度が800℃未満では、高耐食性フェライト系ステンレス鋼板のフェライト結晶粒が圧延方向に展伸したままで、抵抗スポット溶接の溶接継手の強度が低下する。なお、加熱温度が1000℃を超えると、Nb炭化物やNb炭窒化物が粗大化する。したがって、冷延板焼鈍の加熱温度は800〜1000℃の範囲内が一層好ましい。
このようにして製造した高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の厚さ方向中央部から薄膜をツインジェット法で作製し、透過型電子顕微鏡でNb炭化物やNb炭窒化物の粒径を測定した。その結果を表2に示す。
さらに、高耐食性フェライト系ステンレス鋼板から短冊状の溶接試験片(30mm×100mm)を切り出して、溶接試験片2枚の長辺を平行に30mm重ね合わせて、重ね合わせ部の中央を抵抗スポット溶接で接合した。抵抗スポット溶接は、単相交流機を使用し、電極はクロム銅のDR型を使用した。加圧力は3920N(=400kgf),スクイズは30cycles/50Hz,通電時間は10cycles/50Hz,通電後の保持時間は10cycles/50Hz,溶接電流は8kAとした。得られた溶接継手の引張せん断試験を行なった。溶接継手の引張せん断試験は、溶接試験片の長辺の両端を引張試験機で引張り、最大荷重を測定した。最大荷重の測定値を引張せん断強さとして表2に示す。
No.9〜13は、Ti含有量を変化させた例である。Ti含有量が本発明の範囲を満足するNo.9〜12では、溶接継手の引張せん断強さが7kNを超えた。Ti含有量が本発明の範囲より高いNo.13では、Nb炭化物やNb炭窒化物の粒径が大きく、引張せん断強さが低い。
Claims (6)
- C:0.003〜0.010質量%、Si:0.15質量%以下、Mn:0.2質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.005質量%以下、Al:0.05質量%以下、N:0.010質量%以下、Cr:20〜23質量%、Cu:0.3〜0.6質量%、Ni:0.5質量%以下、Nb:0.25〜0.5質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、厚さ方向の1/4〜3/4の領域に粒径70nm以下のNb炭化物および/またはNb炭窒化物が分散して析出した組織と、を有することを特徴とする抵抗スポット溶接継手強さの高い高耐食性フェライト系ステンレス鋼板。
- 前記高耐食性フェライト系ステンレス鋼板のNb含有量とC含有量とN含有量とを用いて算出される[Nb]/([C]+[N])値が15〜35の範囲内を満足することを特徴とする請求項1に記載の抵抗スポット溶接継手強さの高い高耐食性フェライト系ステンレス鋼板。
- 前記高耐食性フェライト系ステンレス鋼板が、前記組成に加えてTi:0.08質量%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の抵抗スポット溶接継手強さの高い高耐食性フェライト系ステンレス鋼板。
- C:0.003〜0.010質量%、Si:0.15質量%以下、Mn:0.2質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.005質量%以下、Al:0.05質量%以下、N:0.010質量%以下、Cr:20〜23質量%、Cu:0.3〜0.6質量%、Ni:0.5質量%以下、Nb:0.25〜0.5質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有するスラブを1000℃以上1200℃以下に加熱した後、仕上げ温度を950℃以下とし巻取り温度を500℃以下として熱間圧延を行ない、得られた熱延鋼板に熱延板焼鈍を施し、さらに酸洗を施し、次いで冷間圧延を行ない、得られた冷延鋼板に冷延板焼鈍を施すことを特徴とする抵抗スポット溶接継手強さの高い高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
- 前記スラブのNb含有量とC含有量とN含有量とを用いて算出される[Nb]/([C]+[N])値が15〜35の範囲内を満足することを特徴とする請求項4に記載の抵抗スポット溶接継手強さの高い高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
- 前記スラブが、前記組成に加えてTi:0.08質量%以下を含有することを特徴とする請求項4または5に記載の抵抗スポット溶接継手強さの高い高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
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