JP2000277133A - 低温型燃料電池用セパレータ - Google Patents

低温型燃料電池用セパレータ

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Abstract

(57)【要約】 【目的】 耐酸性の良好なフェライト系ステンレス鋼基
材にカーボン粉末を分散付着させることにより、導電性
を改善した低温型燃料電池用セパレータを得る。 【構成】 このセパレータは、フェライト系ステンレス
鋼を基材13とし、カーボンブラック,黒鉛粉末等のカ
ーボン粒子を基材表面に島状に分散付着させている。カ
ーボン粒子は、拡散層を介して基材表面に接合されてい
ることが好ましい。 【効果】 接触抵抗が低いセパレータであるため、多数
のセルを積層した場合にも熱損失となるジュール熱の発
生が抑えられる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、固体高分子型燃料電池
を始めとする低温で稼動する燃料電池のセパレータに関
する。
【0002】
【従来の技術】燃料電池のなかでも、固体高分子型の燃
料電池は、100℃以下の温度で動作可能であり、短時
間で起動する長所を備えている。また、各部材が固体か
らなるため、構造が簡単でメンテナンスが容易であり、
振動や衝撃に曝される用途にも適用できる。更に、出力
密度が高いため小型化に適し、燃料効率が高く、騒音が
小さい等の長所を備えている。これらの長所から、電気
自動車搭載用としての用途が検討されている。ガソリン
自動車と同等の走行距離を出せる燃料電池を自動車に搭
載できると、NOx ,SOx の発生がほとんどなく、C
2 の発生が半減する等のように環境に対して非常にク
リーンなものになる。固体高分子型燃料電池は、分子中
にプロトン交換基をもつ固体高分子樹脂膜がプロトン伝
導性電解質として機能することを利用したものであり、
他の形式の燃料電池と同様に固体高分子膜の一側に水素
等の燃料ガスを流し、他側に空気等の酸化性ガスを流す
構造になっている。
【0003】具体的には、固体高分子膜1は、図1に示
すように両側に空気電極2及び水素電極3が接合され、
それぞれガスケット4を介してセパレータ5を対向させ
ている。空気電極2側のセパレータ5には空気供給口
6,空気排出口7が形成され、水素電極3側のセパレー
タ5には水素供給口8,水素排出口9が形成されてい
る。セパレータ5には、水素g及び酸素又は空気oの導
通及び均一分配のため、水素g及び酸素又は空気oの流
動方向に延びる複数の溝10が形成されている。また、
発電時に発熱があるため、給水口11から送り込んだ冷
却水wをセパレータ5の内部に循環させた後、排水口1
2から排出させる水冷機構をセパレータ5に内蔵させて
いる。水素供給口8から水素電極3とセパレータ5との
間隙に送り込まれた水素gは、電子を放出したプロトン
となって固体高分子膜1を透過し、空気電極2側で電子
を受け、空気電極2とセパレータ5との間隙を通過する
酸素又は空気oによって燃焼する。そこで、空気電極2
及び水素電極3とに接触する各セパレータ5,5から電
流を取り出し、負荷を接続するとき、電力を取り出すこ
とができる。
【0004】燃料電池は、1セル当りの発電量が極く僅
かである。そこで、図1(b)に示すようにセパレータ
5,5で挟まれた固体高分子膜を1単位とし、複数のセ
ルを積層することによって取出し可能な電力量を大きく
している。多数のセルを積層した構造では、空気電極2
及び水素電極3と各セパレータ5,5との接触抵抗が発
電効率に大きな影響を及ぼす。発電効率を向上させるた
めには、導電性が良好で、空気電極2及び水素電極3と
の接触抵抗の低いセパレータが要求され、リン酸塩型燃
料電池と同様に黒鉛質のセパレータが使用されている。
黒鉛質のセパレータは、黒鉛ブロックを所定形状に切り
出し、切削加工によって各種の孔や溝を形成している。
そのため、材料費や加工費が高く、全体として燃料電池
の価格を高騰させると共に、生産性を低下させる原因に
なっている。しかも、材質的に脆い黒鉛でできたセパレ
ータでは、振動や衝撃が加えられると破損する虞れが大
きい。そこで、プレス加工やパンチング加工等によって
金属板からセパレータを作ることが特開平8−1808
83号公報で提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、酸素又は空気
oが通過する空気電極2側は、酸性度がpH2〜3の酸
性雰囲気にある。このような強酸性雰囲気に耐え、しか
もセパレータに要求される特性を満足する金属材料は、
これまでのところ実用化されていない。たとえば、強酸
に耐える金属材料としてステンレス鋼等の耐酸性材料が
考えられる。これらの材料は、表面に形成した強固な不
動態皮膜によって耐酸性を呈するものであるが、不動態
皮膜によって表面抵抗や接触抵抗が高くなる。接触抵抗
が高くなると、接触部分で多量のジュール熱が発生し、
大きな熱損失となり、燃料電池の発電効率を低下させ
る。他の金属板でも、接触抵抗を高くする酸化膜が常に
存在するものがほとんどである。
【0006】表面に酸化皮膜や不動態皮膜を形成しない
金属材料としては、Auが知られている。Auは、酸性
雰囲気にも耐えるが、非常に高価な材料であるため燃料
電池のセパレータ材としては実用的でない。Ptは、酸
化皮膜や不動態皮膜が形成されにくい金属材料であり、
酸性雰囲気にも耐えるが、Auと同様に非常に高価な材
料であるため実用的でない。本発明は、このような問題
を解消すべく案出されたものであり、カーボン粒子をス
テンレス鋼表面に島状に分布させることにより、耐酸性
を確保しながら良好な導電性及び低い接触抵抗を示すセ
パレータを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の低温型燃料電池
用セパレータは、その目的を達成するため、基材として
耐酸性に優れたフェライト系ステンレス鋼を使用し、基
材表面にカーボン粒子を島状に分散付着させていること
を特徴とする。カーボン粒子を分散付着した後のステン
レス鋼基材を加熱処理すると、カーボン粒子と基材との
界面にある基材の酸化皮膜が部分的に破壊され、カーボ
ンの拡散によりステンレス鋼基材の表面に拡散層が形成
される。この場合、カーボンが拡散層を介して基材表面
に接合されるため、密着性及び耐剥離性が一層向上し、
粒子と基材との間の抵抗が低減される。カーボン粒子と
しては、カーボンブラック又は黒鉛粉末が使用される。
【0008】
【作用】本発明の低温型燃料電池用セパレータは、カー
ボンブラック,黒鉛粉末等のカーボン粒子をフェライト
系ステンレス鋼基材の表面に島状に分布させている。フ
ェライト系ステンレス鋼を基材としているので、カーボ
ン粒子が付着していない部分では、表面に形成される酸
化クロムの不動態膜が強固であるため、使用環境下で十
分な耐酸性をもつ。一方、カーボンブラック及び黒鉛粉
末は、純度が高く、不純物に起因する酸化膜や他の皮膜
を生成させる等の問題がない。また、高純度であること
から、耐酸性にも優れ、燃料電池の固体高分子膜を汚染
することもない。この点、石油,石炭等の未燃焼生成物
である煤やタールでは、多量に含まれている不純物に起
因して酸化膜や他の皮膜が生成し易い。更に、不純物に
よって固体高分子膜が汚染され、燃料電池自体の性能を
低下させる虞れもある。カーボン粒子自体は、表面に酸
化膜を生成することがなく、優れた耐酸性を示し、主と
してカーボン系材料でできた空気電極及び水素電極に対
する馴染みも良い。また、空気電極及び水素電極がセパ
レータと接触する際、基材表面からカーボン粒子が突出
しているため接触部分に圧力が集中すること,カーボン
は崩壊しやすいため接触部分で粒子が押しつぶされ十分
な接触面積が確保できること等により、接触抵抗を一層
低下させる。そのため、多数のセルを積層した構造の燃
料電池であっても、ジュール熱が少なく、発電効率が向
上する。
【0009】
【実施の形態】黒鉛粒子は、カーボンブラックに比較し
て粒径が大きく、図2(a)に示すようにステンレス鋼
基材13の表面に個々の黒鉛粒子14を分散付着させる
ことができる。たとえば、黒鉛粉末を付着させたフェル
ト状の布又はフェルト状の布を巻き付けたロールをステ
ンレス鋼基材13に擦り付けることによって、黒鉛粒子
14が分散付着する。カーボンブラックの場合も、同様
な方法によってステンレス鋼基材13に付着される。黒
鉛粒子14が付着したステンレス鋼基材13を加熱し、
ステンレス鋼基材13と黒鉛粒子14との間に拡散層1
5を形成すると(図2b)、ステンレス鋼基材13に対
する黒鉛粒子14の密着性が改善される。密着性が向上
した黒鉛粒子14は、基材表面がダイスで擦られるプレ
ス加工,コルゲート加工等によっても基材表面から脱落
することがない。また、拡散層15を介してステンレス
鋼基材13と確実に導通が取れるため、接触抵抗も一層
低下する。
【0010】カーボンブラックは、通常、粒径が1μm
以下の微粒子であり、凝集し易い。この場合には、図2
(c)に示すようにカーボンブラックの凝集物16とし
てステンレス鋼基材13の表面に付着させる。凝集物1
6は、黒鉛粒子14と同様に分散付着させた後で加熱拡
散することにより、ステンレス鋼基材13との間に拡散
層15を形成させ、ステンレス鋼基材13に対する密着
性を向上させることができる。カーボン粒子の分散付着
に先立って、ステンレス鋼基材13の表面を適度の粗さ
に研磨しても密着性の向上に有効である。黒鉛粒子14
及びカーボンブラックの凝集物16は、図2に示すよう
にステンレス鋼基材13の表面に島状に分布させること
が好適である。すなわち、島状に分布させることによ
り、曲げ,伸び等の変形を伴う加工時に生じる応力が黒
鉛粒子14やカーボンブラックの凝集物16に蓄積され
ないため、ステンレス鋼基材13から黒鉛粒子14やカ
ーボンブラックの凝集物16が脱落し或いは剥離するこ
とが防止される。逆に、ステンレス鋼基材13の全面に
黒鉛粒子14やカーボンブラックの凝集物16をコーテ
ィングし、それぞれの粒子が結合しているような場合で
は、加工時に応力の逃げ場がなく界面に蓄積されるた
め、黒鉛粒子14やカーボンブラックの凝集物16が剥
離・脱落し易くなる。
【0011】カーボン系粒子を分散付着させる基材とし
ては、耐酸性に優れたフェライト系ステンレス鋼が使用
される。基材の要求特性としては、酸化性雰囲気の酸に
よる腐食に耐えることが必要である。Cr濃度20重量
%以上のフェライト系ステンレス鋼の腐食速度は、セパ
レータの使用環境下で、一旦、不動態皮膜が形成される
と急激に減少し、十分低い腐食速度をもつ。使用可能な
フェライト系ステンレス鋼は、20〜35重量%のCr
濃度をもつ。たとえば、C:0.001〜0.3重量
%,Si:0.02〜5.0重量%,Mn:0.5〜
5.0重量%,Cr:20〜35重量%を含む組成をも
つものが使用される。
【0012】基材のCr濃度が20重量%未満では、酸
化性の酸による腐食雰囲気中での耐酸性が低い。逆に、
35重量%を超えるCr濃度では、ステンレス鋼の変形
抵抗が大きく、プレス加工等の加工が困難になる。基材
の耐酸性を更に高めるため、Ni,Mo,Cu,N等の
1種又は2種以上を添加しても良い。すなわち、単位面
積当りの電流値を上げて出力密度を増加させる燃料電池
では、pHが低下することから、より耐酸性に優れたス
テンレス鋼基材が必要になる。そこで、Ni:0.1〜
4重量%,Mo:0.2〜7重量%,Cu:0.1〜5
重量%,N:0.02〜0.5重量%の1種又は2種以
上を添加することにより耐酸性を改善する。また、場合
によっては、少量のTi,Nb,Zr等の添加によって
も耐酸性を高めることができる。
【0013】
【実施例】基材として、表1に示す成分・組成をもつス
テンレス鋼板を使用し、平均粒径0.05μmのカーボ
ンブラック及び平均粒径3μmの黒鉛粉末を使用した。
【0014】
【0015】カーボンブラック又は黒鉛粉末をまぶした
フェルトでステンレス鋼板の表面を摺擦し、付着量5〜
10mg/m2 でカーボンブラック又は黒鉛粉末を分散
付着させた。カーボンブラックは、平均粒径が小さいこ
とから粒子の凝集物16としてステンレス鋼基材13の
表面に分散付着していた。黒鉛粉末では凝集を生じるこ
となく、個々の黒鉛粒子14としてステンレス鋼基材1
3の表面に分散付着していた。次いで、700℃に2秒
間加熱することにより、カーボンブラックの凝集物16
又は黒鉛粒子14とステンレス鋼基材13との間に拡散
層15を生成させた。なお、熱処理条件は、基材バルク
にまでカーボンが拡散しないように短めに設定した。
【0016】カーボン粉末を分散付着させ、加熱処理し
たステンレス鋼基材13について、接触抵抗及び耐酸性
を調査した。接触抵抗に関しては、荷重10kg/cm
2 でステンレス鋼基材13にカーボン電極材を接触さ
せ、両者の間の接触抵抗を測定した。耐酸性に関して
は、ステンレス鋼基材13を浴温90℃,pH2の硫酸
水溶液に168時間浸漬し、腐食減量を測定した。比較
のため、カーボン粉末を付着させないサンプルについ
て、同様に接触抵抗及び耐酸性を調査した。カーボン粉
末を分散付着させ、更に加熱処理により拡散層15を形
成したステンレス鋼基材13の接触抵抗及び耐酸性を表
2に示す。
【0017】表2から明らかなように、カーボン粉末を
分散付着し、さらに加熱処理により拡散層15を形成し
た試験番号1〜4の基材は何れも接触抵抗が低く,耐酸
性に優れており、燃料電池用セパレータに要求される特
性を備えていることが判る。これに対し、カーボン系粉
末が付着していない試験番号5,6のステンレス鋼板
は、何れも接触抵抗が高く、燃料電池用セパレータとし
て使用できなかった。
【0018】
【0019】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明のセパレ
ータは、耐酸性の良好なフェライト系ステンレス鋼を基
材とし、カーボン粉末を基材表面に分散付着させ、さら
に熱処理をして拡散層を形成することによって導電性を
改善している。そのため、多数のセルを積層した構造を
もつ低温型燃料電池用のセパレータとして使用すると
き、強酸性雰囲気においても腐食が少ない優れた耐久性
を示すと共に、多数のセルを積層したときに発生しがち
な熱損失を抑制し、発電効率の高い燃料電池を形成する
ことが可能になる。また、Niを主成分としていない比
較的安価なステンレス鋼製のセパレータであることか
ら、材料コストや製造コスト等を下げ、生産性良く製造
できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来の固体高分子膜を電解質として使用した
燃料電池の内部構造を説明する断面図(a)及び分解斜
視図(b)
【図2】 黒鉛粉末を分散付着させたステンレス鋼基材
(a),加熱処理で拡散層を生成させたステンレス鋼基
材(b),カーボンブラックの凝集物を分散付着させた
ステンレス鋼基材(c)及びカーボンブラックの凝集物
と基材との間に拡散層を生成されたステンレス鋼基材
(d)
【符号の説明】 1:固体高分子膜 2:空気電極 3:水素電極
4:ガスケット 5:セパレータ 6:空気供給口 7:空気排出口
8:水素供給口 9:水素排出口 10:溝 11:給水口 1
2:排水口 13:ステンレス鋼基材 14:黒鉛
粒子 15:拡散層 16:カーボンブラックの凝
集物
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 守田 芳和 大阪府堺市石津西町5番地 日新製鋼株式 会社技術研究所内 (72)発明者 斎藤 実 大阪府堺市石津西町5番地 日新製鋼株式 会社技術研究所内 (72)発明者 高橋 剛 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自動 車株式会社内 (72)発明者 八神 裕一 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自動 車株式会社内 Fターム(参考) 5H026 AA06 EE05 EE06 EE08

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 フェライト系ステンレス鋼を基材とし、
    基材表面にカーボン粒子を島状に分散付着させている低
    温型燃料電池用セパレータ。
  2. 【請求項2】 カーボン粒子が拡散層を介して基材表面
    に接合されている請求項1記載の低温型燃料電池用セパ
    レータ。
  3. 【請求項3】 カーボン粒子がカーボンブラック又は黒
    鉛粉末である請求項1又は2記載の低温型燃料電池用セ
    パレータ。
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