JP3904690B2 - 低温型燃料電池用セパレータ - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、固体高分子型燃料電池を始めとする低温で稼動する燃料電池のセパレータに関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池のなかでも、固体高分子型の燃料電池は、100℃以下の温度で動作可能であり、短時間で起動する長所を備えている。また、各部材が固体からなるため、構造が簡単でメンテナンスが容易である、振動や衝撃に曝される用途にも適用できる。更に、出力密度が高いため小型化に適し、燃料効率が高く、騒音が小さい等の長所を備えている。これらの長所から、電気自動車搭載用としての用途が検討されている。ガソリン自動車と同等の走行距離を出せる燃料電池を自動車に搭載できると、NOx ,SOx の発生がほとんどなく、CO2 の発生が半減する等のように環境に対して非常にクリーンなものになる。
固体高分子型燃料電池は、分子中にプロトン交換基をもつ固体高分子樹脂膜がプロトン導電性電解質として機能することを利用したものであり、他の形式の燃料電池と同様に固体高分子膜の一側に水素等の燃料ガスを流し、他側に空気等の酸化性ガスを流す構造になっている。
【0003】
具体的には、固体高分子膜1は、図1に示すように両側に空気電極2及び水素電極3が接合され、それぞれガスケット4を介してセパレータ5を対向させている。空気電極2側のセパレータ5には空気供給口6,空気排出口7が形成され、水素電極3側のセパレータ5には水素供給口8,水素排出口9が形成されている。
セパレータ5には、水素g及び酸素又は空気oの導通及び均一分配のため、水素g及び酸素又は空気oの流動方向に延びる複数の溝10が形成されている。また、発電時に発熱があるため、給水口11から送り込んだ冷却水wをセパレータ5の内部に循環させた後、排水口12から排出させる水冷機構をセパレータ5に内蔵させている。
水素供給口8から水素電極3とセパレータ5との間隙に送り込まれた水素gは、電子を放出したプロトンとなって固体高分子膜1を透過し、空気電極2側で電子を受け、空気電極2とセパレータ5との間隙を通過する酸素又は空気oによって燃焼する。そこで、空気電極2と水素電極3との間に負荷をかけるとき、電力を取り出すことができる。
【0004】
燃料電池は、1セル当りの発電量が極く僅かである。そこで、図1(b)に示すようにセパレータ5,5で挟まれた固体高分子膜を1単位とし、複数のセルを積層することによって取出し可能な電力量を大きくしている。多数のセルを積層した構造では、セパレータ5の抵抗が発電効率に大きな影響を及ぼす。発電効率を向上させるためには、導電性が良好で接触抵抗の低いセパレータが要求され、リン酸塩型燃料電池と同様に黒鉛質のセパレータが使用されている。
黒鉛質のセパレータは、黒鉛ブロックを所定形状に切り出し、切削加工によって各種の孔や溝を形成している。そのため、材料費や加工費が高く、全体として燃料電池の価格を高騰させると共に、生産性を低下させる原因になっている。しかも、材質的に脆い黒鉛でできたセパレータでは、振動や衝撃が加えられると破損する虞れが大きい。そこで、プレス加工やパンチング加工等によって金属板からセパレータを作ることが特開平8−180883号公報で提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、酸素又は空気oが通過する空気電極2側は、酸性度がpH2〜3の酸性雰囲気にある。このような強酸性雰囲気に耐え、しかもセパレータに要求される特性を満足する金属材料は、これまでのところ実用化されていない。
たとえば、強酸に耐える金属材料としてステンレス鋼等の耐酸性材料が考えられる。これらの材料は、表面に形成した強固な不動態皮膜によって耐酸性を呈するものであるが、不動態皮膜によって表面抵抗や接触抵抗が高くなる。接触抵抗が高くなると、接触部分で多量のジュール熱が発生し、大きな熱損失となり、燃料電池の発電効率を低下させる。他の金属板でも、接触抵抗を高くする酸化膜が常に存在するものがほとんどである。
【0006】
表面に酸化皮膜や不動態皮膜を形成しない金属材料としては、Auが知られている。Auは、酸性雰囲気にも耐えるが、非常に高価な材料であるため燃料電池のセパレータ材としては実用的でない。Ptは、酸化皮膜や不動態皮膜が形成されにくい金属材料であり、酸性雰囲気にも耐えるが、Auと同様に非常に高価な材料であるため実用的でない。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、カーボン粒子をステンレス鋼表面に島状に分布させることにより、耐酸性を確保しながら良好な導電性及び低い接触抵抗を示すセパレータを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の低温型燃料電池用セパレータは、その目的を達成するため、オーステナイト系ステンレス鋼、又はオーステナイト・フェライト二相系ステンレス鋼を基材とし、基材表面にカーボン粒子が島状に分散していることを特徴とする。
カーボン粒子は、圧下率0.1〜50%でオーステナイト系ステンレス鋼、又はオーステナイト・フェライト二相系ステンレス鋼基材を圧延することにより、ステンレス鋼基材に圧着され、密着性,耐剥離性が向上する。更に、カーボン粒子を圧着した後のステンレス鋼基材を加熱処理すると、カーボン粒子は、ステンレス鋼基材との間に形成された拡散層を介して基材表面に接合されるため、密着性が一層向上する。カーボン粒子としては、カーボンブラック又は黒鉛粉末が使用される。
【0008】
【作用】
本発明の低温型燃料電池用セパレータは、カーボンブラック,黒鉛粉末等のカーボン粒子をステンレス鋼基材の表面に島状に分布させている。なかでも、カーボンブラック及び黒鉛粉末は、純度が高く、不純物に起因する酸化膜や他の皮膜を生成させる等の問題がない。また、高純度であることから、耐酸性にも優れ、燃料電池の固体高分子膜を汚染することもない。この点、石油,石炭等の未燃焼生成物である煤やタールでは、多量に含まれている不純物に起因して酸化膜や他の皮膜が生成し易い。更に、不純物によって固体高分子膜が汚染され、燃料電池自体の性能を低下させる虞れもある。
カーボン粒子は、表面に酸化膜を生成することがなく、低い接触抵抗及び優れた耐酸性を示す。また、セパレータと接触する空気電極や水素電極等が主としてカーボン系の材料でできていることから、カーボン粒子を付着させたステンレス鋼基材は電極に対する馴染みが良く、接触抵抗を一層低下させる。そのため、多数のセルを積層した構造の燃料電池であっても、ジュール熱が少なく、発電効率が向上する。
【0009】
【実施の形態】
黒鉛粒子は、カーボンブラックに比較して粒径が大きく、図2(a)に示すようにステンレス鋼基材13の表面に個々の黒鉛粒子14を分散付着させることができる。たとえば、黒鉛粉末を付着させたフェルト状の布又はフェルト状の布を巻き付けたロールをステンレス鋼基材13に擦り付けることによって、黒鉛粒子14が分散付着する。次いで、通常のロール対を用いて圧下率0.1〜50%で圧延すると、黒鉛粒子14がステンレス鋼基材13に圧着される。カーボンブラックの場合も、同様な方法によってステンレス鋼基材13に圧着される。
黒鉛粒子14が圧着したステンレス鋼基材13を加熱し、ステンレス鋼基材13と黒鉛粒子14との間に拡散層15を形成すると(図2b)、ステンレス鋼基材13に対する黒鉛粒子14の密着性が改善される。密着性が向上した黒鉛粒子14は、基材表面がダイスで擦られるプレス加工,コルゲート加工等によっても基材表面から脱落することがない。また、拡散層15を介してステンレス鋼基材13と確実に導通が取れるため、接触抵抗も一層低下する。
【0010】
カーボンブラックは、通常、粒径が1μm以下の微粒子であり、凝集し易い。この場合には、図2(c)に示すようにカーボンブラックの凝集物16としてステンレス鋼基材13の表面に付着させる。凝集物16は、黒鉛粒子14と同様に分散圧着させた後で加熱拡散することにより、ステンレス鋼基材13との間に拡散層15を形成させ、ステンレス鋼基材13に対する密着性を向上させることができる。
黒鉛粒子14及びカーボンブラックの凝集物16は、図2に示すようにステンレス鋼基材13の表面に島状に分布させることが好適である。すなわち、島状に分布させることにより、曲げ,伸び等の変形を伴う加工時に生じる応力が黒鉛粒子14やカーボンブラックの凝集物16に蓄積されないため、ステンレス鋼基材13から黒鉛粒子14やカーボンブラックの凝集物16が脱落し或いは剥離することが防止される。逆に、ステンレス鋼基材13の全面に黒鉛粒子14やカーボンブラックの凝集物16をコーティングし、それぞれの粒子が結合しているような場合では、加工時に応力の逃げ場がなく界面に蓄積されるため、黒鉛粒子14やカーボンブラックの凝集物16が剥離・脱落し易くなる。
【0011】
カーボン系粒子を分散付着させる基材としては、耐酸性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼やオーステナイト・フェライト二相系ステンレス鋼が使用される。基材の要求特性としては、酸化性雰囲気の酸による腐食だけではなく、非酸化性の酸による腐食にも耐えることが必要であることから、Crに加えてNiを合金成分として添加することにより耐酸性を向上させる。
使用可能なオーステナイト系ステンレス鋼は、14〜35重量%のCr濃度及び5〜60重量%のNi濃度をもつ。たとえば、C:0.008〜0.3重量%,Si:0.05〜5.0重量%,Mn:0.5〜5.0重量%,Ni:5〜60重量%,Cr:14〜35重量%を含む組成をもつものが使用される。
使用可能なオーステナイト・フェライト二相系ステンレス鋼は、17〜35重量%のCr濃度及び2〜9重量%のNi濃度をもつ。たとえば、C:0.008〜0.3重量%,Si:0.05〜5.0重量%,Mn:0.1〜5.0重量%,Ni:2.0〜60重量%,Cr:17〜35重量%を含む組成をもつものが使用される。
【0012】
基材のCr濃度が14重量%未満では、酸化性の酸による腐食雰囲気中での耐酸性が低い。逆に、35重量%を超えるCr濃度では、ステンレス鋼の変形抵抗が大きく、プレス加工等の加工が困難になる。Ni濃度が2重量%未満では、非酸化性の酸による腐食雰囲気中での耐酸性が低い。この耐酸性は、Ni含有量60重量%で飽和し、それ以上添加しても増量に見合った効果がみられず、材料コストの上昇を招く。
基材の耐酸性を更に高めるため、Mo,Cu,N等の1種又は2種以上を添加しても良い。すなわち、単位面積当りの電流値を上げて出力密度を増加させる燃料電池では、pHが低下することから、より耐酸性に優れたステンレス鋼基材が必要になる。そこで、Mo:0.2〜7重量%,Cu:0.1〜5重量%,N:0.02〜0.5重量%の1種又は2種以上を添加することにより耐酸性を改善する。また、場合によっては、少量のTi,Nb,Zr等の添加によっても耐酸性を高めることができる。
【0013】
【実施例】
下地として、表1に示す成分・組成をもつステンレス鋼板を使用し、カーボンブラックとして平均粒径0.05μmのものを使用し、黒鉛粉末として平均粒径3μmのものを使用した。
【0014】
【0015】
カーボンブラック又は黒鉛粉末をまぶしたフェルトでステンレス鋼板の表面を摺擦し、付着量5〜10mg/m2 でカーボンブラック又は黒鉛粉末を分散付着させた。カーボンブラックは、平均粒径が小さいことから粒子の凝集物16としてステンレス鋼基材13の表面に分散付着していた。黒鉛粉末では凝集を生じることなく、個々の黒鉛粒子14としてステンレス鋼基材13の表面に分散付着していた。
次いで、カーボンブラックの凝集物16又は黒鉛粒子14のステンレス鋼基材13に対する密着性を改善するため、ロールを用いてステンレス鋼基材13を圧下率2〜3%で圧延した。これにより、カーボンブラックの凝集物16又は黒鉛粒子14がステンレス鋼基材13に圧着された。更に、一部のものについては、700℃に10秒間加熱することにより、カーボンブラックの凝集物16又は黒鉛粒子14とステンレス鋼基材13との間に拡散層15を生成させた。
【0016】
カーボン粉末を分散付着させたステンレス鋼基材13について、接触抵抗及び耐酸性を調査した。接触抵抗に関しては、荷重10kg/cm2 でステンレス鋼基材13にカーボン電極材を接触させ、両者の間の接触抵抗を測定した。耐酸性に関しては、ステンレス鋼基材13を浴温90℃,pH2の硫酸水溶液に浸漬し、腐食減量を測定した。比較のため、カーボン粉末を付着させないサンプル,鋼種Aのステンレス鋼基材に膜厚5μmのNiめっき,Cuめっき及びCrめっきを施したサンプルについて、同様に接触抵抗及び耐酸性を調査した。
カーボン粉末を分散圧着したステンレス鋼基材13の接触抵抗及び耐酸性を表2に、更に加熱処理により拡散層15を形成したステンレス鋼基材13の接触抵抗及び耐酸性を表3に示す。
【0017】
表2から明らかなように、カーボン粉末を分散付着させた試験番号1〜6のステンレス鋼基材は、何れも接触抵抗が低く、耐酸性に優れており、燃料電池用セパレータに要求される特性を備えていることが判る。接触抵抗は、表3の試験番号13〜18にみられるように、加熱処理で拡散層15を形成させることにより更に低下していることが判る。
これに対し、カーボン系粉末が付着していない試験番号7〜9のステンレス鋼板は、何れも接触抵抗が高く、燃料電池用セパレータとして使用できなかった。他方、Niめっき及びCrめっきを施した試験番号10,12のステンレス鋼板は、接触抵抗が低いものの、腐食減量が大きく、pHの低い強酸性雰囲気で使用される燃料電池用セパレータとしては不適当であった。Cuめっきを施した試験番号11のステンレス鋼板は、接触抵抗及び耐酸性の双方が悪いことから、燃料電池用セパレータとしては不適当であった。
【0018】
【0019】
【0020】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明のセパレータは、耐酸性の良好なステンレス鋼を基材とし、カーボン粉末を基材表面に分散圧着させることによって導電性を改善している。そのため、多数のセルを積層した構造をもつ低温型燃料電池用のセパレータとして使用するとき、強酸性雰囲気においても腐食が少ない優れた耐久性を示すと共に、多数のセルを積層したときに発生しがちな熱損失を抑制し、発電効率の高い燃料電池を形成することが可能になる。また、金属製のセパレータであることから、材料コストや製造コスト等を下げ、生産性良く製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来の固体高分子膜を電解質として使用した燃料電池の内部構造を説明する断面図(a)及び分解斜視図(b)
【図2】 黒鉛粉末を分散付着させたステンレス鋼基材(a),加熱処理で拡散層を生成させたステンレス鋼基材(b),カーボンブラックの凝集物を分散付着させたステンレス鋼基材(c)及びカーボンブラックの凝集物と基材との間に拡散層を生成されたステンレス鋼基材(d)
【符号の説明】
1:固体高分子膜 2:空気電極 3:水素電極 4:ガスケット
5:セパレータ 6:空気供給口 7:空気排出口 8:水素供給口
9:水素排出口 10:溝 11:給水口 12:排水口 13:ステンレス鋼基材 14:黒鉛粒子 15:拡散層 16:カーボンブラックの凝集物
Claims (5)
- オーステナイト系ステンレス鋼、又はオーステナイト・フェライト二相系ステンレス鋼を基材とし、基材表面にカーボン粒子が島状に分散している低温型燃料電池用セパレータ。
- 圧下率0.1〜50%でオーステナイト系ステンレス鋼、又はオーステナイト・フェライト二相系ステンレス鋼基材を圧延することによりカーボン粒子が基材表面に圧着されている請求項1記載の低温型燃料電池用セパレータ。
- カーボン粒子が拡散層を介して基材表面に接合されている請求項1又は2記載の低温型燃料電池用セパレータ。
- カーボン粒子がカーボンブラック又は黒鉛粉末である請求項1〜3の何れかに記載の低温型燃料電池用セパレータ。
- カーボン粒子又はその凝集物が粒子又は凝集物の大きさのままで島状に分散している請求項2〜4の何れかに記載の低温型燃料電池用セパレータ。
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