JP2000257636A - 転がり軸受 - Google Patents

転がり軸受

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JP2000257636A
JP2000257636A JP6184899A JP6184899A JP2000257636A JP 2000257636 A JP2000257636 A JP 2000257636A JP 6184899 A JP6184899 A JP 6184899A JP 6184899 A JP6184899 A JP 6184899A JP 2000257636 A JP2000257636 A JP 2000257636A
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Japan
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life
bearing
rolling
concentration
carbon concentration
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JP6184899A
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English (en)
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Yoichi Matsumoto
洋一 松本
Makoto Goino
良 五位野
Yasuo Murakami
保夫 村上
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NSK Ltd
Original Assignee
NSK Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】圧延機用軸受のように、潤滑剤中に水や固体異
物が混入する環境で、安価で長寿命の軸受を提供する。 【解決手段】内輪及び外輪及び転動体のうちの少なくと
も一つの転がり面の炭素濃度を0.30%以上0.80
%以下とすることにより、必要最小限の硬さを保持し且
つ転がり面の旧オーステナイト粒界にフィルム状炭化物
が析出するのを減少する。また、そのフィルム状炭化物
の析出を促進するP、Sb、Asの量を規定する。ま
た、炭化物を微細に分散させる効果があるAl、N、M
o、B、Nb、Vの量を規定する。また、腐食疲労寿命
に有害な13μm以上の酸化物系介在物の存在頻度を規
定し、その元素であるOやSの量を規定する。また、固
体異物の侵入抑制のために密封シールを装着し、転動体
には20mm以上のころを使用する。また、転がり面の
表面硬さを維持するために、残留オーステナイト量を規
定する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば圧延機ワー
クロール用転がり軸受のように、潤滑剤に水が混入する
環境下で使用される鋼製の転がり軸受に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】転がり軸受は、一般に、潤滑剤中に水分
が混入すると、その耐久性が大きく低下することが知ら
れており、例えば潤滑剤中に6%の水分が混入した場合
は、水分混入がない場合に比べて、軸受の転がり疲れ寿
命が数分の1から20分の1程度まで低下することが報
告されている(古村恭三郎、城田伸一、平川清:「表面
起点及び内部起点の転がり疲れについて」、NSK Bearin
g Journal, No.636, pp.1-10, 1977 ;以下「文献1」と
いう)。
【0003】水分の潤滑剤への混入は転がり軸受の寿命
特性(耐久性)に多大な影響を及ぼすことが前記文献1
からも明らかであり、従来より水分の潤滑剤への混入を
防止する技術が、前記転がり軸受の用途に応じて種々検
討され、開発されている。潤滑剤に水分が浸入すること
を想定して使用される転がり軸受としては、例えば鉄鋼
材料の圧延機のワークロール用軸受がある。このワーク
ロール用軸受は、従前においては軸受を内有したチョッ
ク(軸受箱)に接触ゴムシールを装着し、多量の圧延水
がチョック内に浸入するのを防止することにより、軸受
内部に封入されている潤滑剤に水分が混入するのを防い
でいた。しかし、この手法では、前記接触ゴムシールの
劣化や損傷が生じた場合は、チョック内に水が浸入し、
その結果、軸受内部の潤滑剤にも水分が混入し得る。こ
のため、最近では軸受内部にも接触ゴムシール(以下、
このゴムシールを密封シールとも記す)を装着すること
により、潤滑剤に水分が混入するのを回避しようとする
技術が提案されている(K.YAMAMOTO, M.YAMAZAKI, M.AK
IYAMA, K.FURUMURA : 「Introduction of Sealed Beari
ng for Work Roll Necks in Rolling Mills 」, Procee
ding of the JSLE international Tribology Conferenc
e, pp.609-614, July8-10, 1985, Tokyo, Japan ; 以下
「第1の従来技術」とも記す)。
【0004】この第1の従来技術によれば、軸受外部の
チョックに装着された接触シールと軸受内部に装着され
た密封シールとを併用することにより、前記チョックに
装着された接触ゴムシールのみで水分浸入を防いでいた
場合に比べて、潤滑剤中の水分濃度を40%から10%
未満に低減することができ、更には毎年数回あった軸受
の破損事故も皆無になったことが報告されている。ま
た、軌道面の圧痕も極めて少なく、その大きさも小さく
なったことが報告されている。
【0005】また、前述したワークロール用軸受におい
て、潤滑剤への水分混入を防止する他の従来技術として
圧搾空気をキャリアガスとして潤滑剤をチョックに供給
する技術も提案されている(NSK Technical Journal N
o.654, pp.54-56, 1992 ;以下「第2の従来技術」とも
記す)。この第2の従来技術においては、圧搾空気を利
用してチョック内の空気圧力を高く設定することによ
り、潤滑剤への水分混入を抑制することが可能となる。
【0006】また、材料面からは、軸受に使用される軸
受材料としてマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS4
40C)を使用することにより、軸受への水分付着によ
る錆の発生を防止し、耐久性が低下するのを回避せんと
している(転がり軸受工学編集委員会編:転がり軸受工
学, pp.71-72, 養賢堂(1986年);以下「第3の従来技
術」とも記す)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところで、前記第1の
従来技術は、前述のように潤滑剤中の水分濃度を40%
から10%未満に減少させることが可能であり、また潤
滑剤の消費量を低減することができ、その後のワークロ
ール用軸受の使用実績を調査した結果、焼付き事故は激
減していることが判明したが、剥離発生までの使用時
間、即ち軸受寿命Lは余り向上していないことが分かっ
た。これは、前記焼付き事故の減少が軸受に内蔵された
密封シールにより潤滑剤の外部への流出が減少したため
であり、前記軸受寿命Lが向上していないのは、潤滑剤
への水分の混入により、軸受の転がり疲れ強さが大幅に
低下するためと考えられる。
【0008】即ち、100ppm程度の微量の水分が潤
滑剤に混入した場合であっても、軸受材料の転がり疲れ
強さは32〜48%も低下することが報告されており
(P.Schatzberg, I.M.Felsen :「Effects of water and
oxygen during rolling contact lubrication, wear,
12, pp.331-342, 1968 ;以下「文献2」とも記す)、軸
受外のチョックに装着された接触ゴムシールと軸受に内
蔵された密封シールとを併用した場合、潤滑在中の水分
濃度を10%未満まで抑制することはできるものの、潤
滑剤への水分混入を完全には防止することができず、文
献2も指摘しているように軸受材料の転がり疲れ強さが
低下するのを避けることができない。つまり、前記第1
の従来技術では、潤滑剤への水分の混入を完全には防止
できないため、軸受材料の転がり疲れ強さが低下し、所
望の耐久性を有する軸受寿命Lを得ることができないと
いう問題点がある。
【0009】また、前記第2の従来技術は、チョック内
の空気圧を高くすることにより、水分の浸入を防止して
いるため、第1の従来技術のようにゴムシールの防水能
力には依存しないものの、やはり潤滑剤中の水分濃度を
100ppm以下にするような略完璧に近い水分浸入防
止を図るのは困難であるという問題点がある。また、前
記第3の従来技術については、ステンレス鋼の熱伝導度
が低合金鋼の熱伝導度に比べて低いために焼付き破損が
生じ易く、潤滑剤中に水分が混入する前述のような潤滑
条件の悪い転がり軸受への適用は困難であるという問題
点がある。また、前記ステンレス鋼の耐食性は表面に生
成される不働態被膜により維持されるものであるが、転
がり軸受においては、軌道輪の軌道面と転動体の転動面
とが接触すると、この不働態被膜が破られ、その結果、
選択的に腐食が進行して孔(ピット)が生成されるた
め、この孔を起点とした剥離破損が生じ易いという問題
点もある。また、軸受を製造するに際しても、ステンレ
ス鋼の場合は焼入温度が1010〜1070℃と高く、
加熱炉としては塩浴炉を使用する必要があるため、生産
設備の高騰化を招く恐れがある。また、前述のようにス
テンレス鋼は熱伝導度が低いため、研削速度が低下して
研削コストが高価なものとなり、更には高合金鋼である
ことから素材コストの高騰化を招来するという問題もあ
る。
【0010】本発明は前記諸問題を解決すべく開発され
たものであり、外部から潤滑剤に水分が混入したり、或
いは潤滑剤中の水分濃度の影響を受けたりする使用環境
下であっても、十分な軸受寿命を安価にして得ることが
できる転がり軸受を提供することを目的とするものであ
る。
【0011】
【課題を解決するための手段】而して、本発明に係る転
がり軸受は、内輪及び外輪及び転動体から構成される鋼
製の転がり軸受において、前記内輪及び外輪及び転動体
のうちの少なくとも一つの転がり面の炭素濃度が0.3
0%以上0.80%以下であることを特徴とするもので
ある。
【0012】また、前記内輪及び外輪及び転動体のうち
の少なくとも一つのP、Sb、Asの加重加算濃度[%
P]+10[%Sb]+10[%As]が0.100%
以下であることが望ましく、更に望ましくは0.075
%以下、更々に望ましくは0.060%以下とすること
により、水混入潤滑下で軸受寿命を安定して向上するこ
とができる。
【0013】また、前記内輪及び外輪及び転動体のうち
の少なくとも一つのAl、Nの濃度の積[%Al]×
[%N]が0.0001%以上0.01%以下であるこ
とが望ましい。ここで、前記積の単位は%の2乗である
が、表記上の簡便さのために%と記す。また、前記内輪
及び外輪及び転動体のうちの少なくとも一つのMo濃度
[%Mo]が0.10%以上1.5%以下であることが
望ましい。
【0014】また、前記内輪及び外輪及び転動体のうち
の少なくとも一つのO濃度[%O]、S濃度[%S]の
加重加算濃度10[%O]+[%S]が0.025%以
下であることが望ましい。また、前記内輪及び外輪及び
転動体のうちの少なくとも一つの平均径13μmを越え
る酸化物系介在物の存在頻度が3000mm2 当たり1
0個以下であることが望ましい。
【0015】また、前記内輪及び外輪及び転動体のうち
の少なくとも一つのB濃度[%B]が0.001%以上
0.005%以下で、N濃度[%N]が0.005%以
下で、Ti濃度[%Ti]、Nb濃度[%Nb]が夫々
0.01%以上0.1%以下であることが望ましい。ま
た、前記内輪及び外輪及び転動体のうちの少なくとも一
つのNb濃度[%Nb]が0.03%以上0.3%以下
であることが望ましい。
【0016】また、前記内輪及び外輪及び転動体のうち
の少なくとも一つのV濃度[%V]が0.05%以上
0.5%以下であることが望ましい。また、密封シール
を装着していることが望ましい。また、転動体にころを
使用し、その直径がφ20mm以上であることが望まし
い。
【0017】また、転がり面の残留オーステナイト濃度
が10%以上40%以下であることが望ましい。また、
転動体の転がり面の表面硬さが、少なくとも何れかの軌
道輪の転がり面の表面硬さより低いことが望ましい。本
発明の臨界的意義は以下の通りである。
【0018】潤滑剤の中に水分が混入すると、転がり軸
受の寿命は大きく低下する。破損メカニズムは、表面起
点型の腐食疲労である。即ち、(1)水が転動体と軌道
輪との間に存在すると油膜が形成されにくくなり、転動
体と軌道輪とが金属接触し、(2)転動体と軌道輪との
間に発生する滑りが転がり面に接線力、即ち引張応力を
負荷し、(3)両者の結果、水素脆化した転がり面が旧
オーステナイト粒界の炭化物或いは転がり面の非金属介
在物(これは必ずしも旧オーステナイト粒界に存在する
とは限らない)を起点として薄く表面が剥がれるという
メカニズムである。
【0019】回転する軸受の中で単位時間当たりの平均
接触面圧の高い転がり面ほど腐食疲労し易く、そこから
剥離する頻度も高い。ここで、単位時間当たりの平均接
触面圧とは、勿論転がり面の任意の点(点接触の場合)
又は線(線接触の場合)について算出したものである。
一般的なラジアル軸受においては、非回転側軌道輪の最
大応力負荷位置の軌道面が、単位時間当たりの平均接触
面圧が最も高い面で、剥離は、そこから起こり易い。従
って、非回転側軌道輪の寿命の延長を図ることが軸受寿
命の延長に最も効果的である。但し、寿命延長の必要性
が更に高ければ、更に回転側軌道輪や転動体の寿命延長
も軸受寿命の延長に効果的である。
【0020】ここで、回転側軌道輪と転動体の何れの腐
食疲労が大きいかは、その軸受で、どちらの単位時間当
たりの平均接触面圧が高いかによって異なる。例えば、
アキシャル荷重がなく、ラジアル荷重のみが負荷される
内輪回転の円筒ころ軸受においては、内輪(回転側軌道
輪)の方がころ(転動体)よりも単位時間当たりの平均
接触面圧が高い。一般的な内輪回転のラジアル軸受にお
いては、外輪の最大応力負荷位置の軌道面が単位時間当
たりの平均接触面圧の最も高い面で、転動体の転がり面
が単位時間当たりの平均接触面圧の最も低い面である。
【0021】一方、軌道輪内に最大応力負荷位置のない
アキシャル軸受においては、非回転側軌道輪が必ずしも
単位時間当たりの平均接触面圧の最も高い面を含むとは
限らない。例えば、アキシャル荷重のみを受ける内輪回
転の円錐ころ軸受においては、内輪、即ち回転側軌道輪
の転がり面の単位時間当たりの平均接触面圧が最も高
い。このように、本願発明の「内輪及び外輪及び転動体
のうちの少なくとも一つ」の意図するところは、「内輪
及び外輪及び転動体のうち少なくとも最も剥離し易い部
位」ということである。これは、原則として単位時間当
たりの平均接触面圧の最も高い面を含む部位ということ
である。一般的なラジアル軸受では、非回転側軌道輪が
その部位に当たる。
【0022】但し、幾つかの例外がある。例えば一般的
な内輪回転のラジアル軸受においても、軸と内輪との嵌
め合いが締まり嵌めで、その程度が大きいと、内輪の軌
道面に引張応力が作用し、前述した破損メカニズムの
(2)における引張応力を増大し、内輪が最も短寿命の
部位となる場合がある。この場合は、内輪(回転側軌道
輪)の長寿命化が最も効果的であるから、本願発明の
「内輪及び外輪及び転動体のうちの少なくとも一つ」は
内輪になる。また、前述のように一般的な内輪回転のラ
ジアル軸受においては、転動体の転がり面が単位時間当
たりの平均接触面圧の最も低い面で、最も剥離しにくい
が、転動体が剥離し、割損すると、その転動体が回転し
なくなるために、その前を走る転動体との間の保持器が
過大な引張応力により切れてしまい、軸受は全く回転し
なくなり、軸受を使用する機器が完全に停止してしまう
ことがある。従って、このような重大事故を防止したい
場合は、本願発明の「内輪及び外輪及び転動体のうちの
少なくとも一つ」の意図するところは、剥離頻度は最も
小さいが、剥離すると重大事故につながる可能性のある
転動体である。
【0023】前記腐食疲労寿命(腐食疲労による剥離が
発生するまでの時間や累積回転数)を延長するために
は、剥離起点となる転がり面の旧オーステナイト粒界の
フィルム状炭化物の低減、及び転がり面の非金属介在物
の低減が有効である。転がり面の旧オーステナイト粒界
にフィルム状炭化物が析出するのを減少するには、まず
炭化物総量の低減、即ち転がり面の炭素濃度の低減が有
効である。これを行うと、その鋼の純粋な転がり疲れ強
さ、即ち水や鉄粉などの固体異物の混入しない純粋な潤
滑在中で潤滑され、油膜形成が十分になされたときの転
がり疲れ強さ、及び固体異物混入下の転がり疲れ強さが
共に低下してしまうが、水混入潤滑下での転がり疲れ強
さは向上する。従って、前記転がり面の炭素濃度の低減
は、水混入潤滑下で使用される転がり軸受に有効であ
る。
【0024】転がり面の適正な炭素濃度は、0.3%以
上0.8%以下である。0.3%未満となると硬さがH
RC50未満となるので、純粋な転がり疲れ強さが著し
く低下し、腐食疲労による表面起点型の剥離が発生する
前に、純粋な転がり疲れによる内部起点型剥離が発生し
てしまう。従って、転がり面の適正な炭素濃度の下限値
は0.3%である。一方、炭素濃度が0.8%を超える
と、旧オーステナイト粒界に炭化物を著しく析出し、前
記腐食疲労寿命を著しく低下させるので、転がり面の適
正な炭素濃度の上限値は0.8%である。但し、転がり
面の炭素濃度を0.8%から下げていくと、0.7%ま
では更に前記腐食疲労寿命を改善でき、0.5%以下で
飽和するので、更に望ましい転がり面の炭素濃度の範囲
は、順次0.3%以上0.7%以下、0.3%以上0.
6%以下、0.3%以上0.5%以下である。転がり面
の炭素濃度の低減は、硬さを低下させるが、軸受に負荷
される荷重(厳密な表現としては動等価荷重)Pが、静
定格荷重C0 の8割以内であれば何ら問題を生じない。
荷重Pが静定格荷重C0 の8割を越えると、転がり面の
炭素濃度を低減しても、水混入潤滑寿命は余り改善され
なくなる。
【0025】前記腐食疲労寿命を延長するためには、熱
処理方法として、浸炭焼入処理(浸炭窒化焼入処理も含
む)が、ずぶ焼入処理よりも望ましい。その処理により
発生する転がり面の圧縮残留応力が前記破損メカニズム
の(2)における引張応力を減少させるからである。な
お、ベイナイト焼入処理は、Ms点(マルテンサイト変
態開始温度)以下に焼入れするずぶ焼入処理に比べて、
旧オーステナイト粒界にフィルム状の炭化物を析出させ
にくく、更に転がり面の残留応力もずぶ焼入処理よりも
圧縮側となるので、浸炭焼入処理と同等の効果が得られ
る。前述のように、ベイナイト焼入処理は、ずぶ焼入処
理に比べて、旧オーステナイト粒界にフィルム状の炭化
物を析出させにくいので、適正な炭素濃度の上限値は
1.1%である。但し、ベイナイト焼入処理は、ずぶ焼
入処理よりも硬さが低く、硬さHRC50を得るための
炭素濃度値は0.4%を必要とするので、この場合の適
正な炭素濃度の下限値は0.4%である。一方、高周波
焼入処理は、処理後の組織が不均一で、その結果、局部
的な引張応力を内在するので前記腐食疲労寿命を延長で
きない。
【0026】P、Sb、Asは、旧オーステナイト粒界
に存在する不純物元素であるが、これらは、炭化物をフ
ィルム状に析出するのを助長するので、それらの低減が
望ましい。SbとAsはPの約10倍有害であるので、
これら不純物の濃度の和は、加重加算して[%P]+1
0×[%Sb]+10×[%As]で与える。この加重
加算値が0.060%を超えると、前記腐食疲労寿命は
僅かに低下し始め、0.100%を超えると、前記腐食
疲労寿命は低下し、0.050%を超えると著しく低下
するので、その上限値は0.100%、望ましくは0.
075%、更に望ましくは0.060%である。なお、
転がり面の炭素濃度が、0.8%を超える範囲で、前記
加重加算値[%P]+10×[%Sb]+10×[%A
s]を0.100%以下或いは0.075%以下或いは
0.060%以下にしても、炭化物量が多すぎてフィル
ム状炭化物に成長してしまい、単にこの加重加算値[%
P]+10×[%Sb]+10×[%As]を0.10
0%以下或いは0.075%以下或いは0.060%以
下にしても、前記腐食疲労寿命は向上しない。
【0027】窒化アルミニウムは、旧オーステナイト粒
界に微細な粒子として存在し、炭化物析出の核となり、
炭化物を微細に分散させる効果があるので、旧オーステ
ナイト粒界のフィルム状炭化物の析出の抑制に有効であ
る。窒化アルミニウムの析出のためには、鋼のN濃度
[%N]とAl濃度[%Al]の積[%N]×[%A
l]を0.0001%以上0.01%以下、望ましくは
0.0003%以上0.01%以下にする必要がある。
前記積[%N]×[%Al]が0.0001%未満で
は、窒化アルミニウムが少なすぎて旧オーステナイト粒
界で析出する炭化物がフィルム状になり、0.0001
%以上で炭化物の微細、分散効果が現れ、0.0003
%以上で炭化物の微細、分散効果が十分に現れる。一
方、0.01%を超えると窒化アルミニウムが多過ぎて
窒化アルミニウム自身が凝集するようになり、有害な非
金属介在物として作用するため、逆に腐食疲労寿命を低
下させる。なお、Alは脱酸剤として鋼に添加する必要
があり、脱酸効果を上げるためには、その濃度を0.0
1%以上とすることが望ましい。また、Alを過剰に添
加すると溶鋼表面での再酸化により大型非金属介在物を
形成し易くなるので、Al濃度の上限値は0.1%とす
ることが望ましい。また、N濃度は、窒化アルミニウム
の形成を容易にするために0.005%以上であること
が望ましく、旧オーステナイト粒界において、鉄との粗
大な化合物として析出するのを抑制するために、0.3
%以下であることが望ましい。なお、転がり面の炭素濃
度が0.8%を超える範囲で、N濃度[%N]とAl濃
度[%Al]の積[%N]×[%Al]を0.0001
%以上0.01%以下にしても、炭化物量が多過ぎてフ
ィルム状炭化物が析出してしまうので、単にN濃度[%
N]とAl濃度[%Al]の積[%N]×[%Al]を
0.0001%以上0.01%以下にしても、前記腐食
疲労寿命は向上しない。
【0028】Bは、旧オーステナイト粒界にあっては、
炭化物を微細に分散させる効果があり、前記腐食疲労寿
命を向上させる。但し、ボロンナイトライドの生成を抑
制するために、N濃度[%N]を0.005%以下、T
i濃度[%Ti]、Nb濃度[%Nb]を夫々、0.0
1%以上0.10%以下添加することが望ましい。Bを
0.001%以上0.005%以下添加すると、旧オー
ステナイト粒界における炭化物の微細化効果を促進する
ことができ、前記腐食疲労寿命を更に向上することがで
きる。Bが0.001%未満では効果がなく、0.00
5%を越えて添加すると、前記腐食疲労寿命は低下す
る。この場合も、転がり面の炭素濃度が0.3%以上
0.8%以下というのが前提条件である。
【0029】Nbは、旧オーステナイト粒界にあって
は、炭化物を微細に分散させる効果があり、前記腐食疲
労寿命を向上させる。Nbの適正範囲は0.03%以上
0.3%以下である。0.03%未満では、炭化物微細
分散効果が不足し、0.3%を超えると逆に炭化物の粗
粒化が起こるので、上限値は0.3%である。この場合
も、転がり面の炭素濃度が0.3%以上0.8%以下と
いうのが前提条件である。
【0030】Vは、旧オーステナイト粒界にあっては、
炭化物を微細に分散させる効果があり、前記腐食疲労寿
命を向上させる。Vの適正範囲は0.05%以上0.5
%以下である。0.05%未満では、炭化物微細分散効
果が不足し、0.5%を超えると逆に炭化物の粗粒化が
起こるので、上限値は0.5%である。この場合も、転
がり面の炭素濃度が0.3%以上0.8%以下というの
が前提条件である。
【0031】Moは、旧オーステナイト粒界にあって
は、炭化物を微細に分散させる効果があり、前記腐食疲
労寿命を向上させる。Moの適正範囲は0.10%以上
1.5%以下、望ましくは0.5%以上1.5%以下で
ある。0.10%未満では、炭化物微細分散効果が不足
し、1.5%を超えると逆に炭化物の粗粒化が起こるの
で、上限値は1.5%である。この場合も、転がり面の
炭素濃度が0.3%以上0.8%以下というのが前提条
件である。
【0032】Crは、炭化物を形成し易い元素で、その
添加は炭化物の微細、分散には寄与しないが、2%を超
えて添加すると炭化物の粗粒化を起こすので、上限値は
2%である。前述したように、転がり面の非金属介在物
を低減するには、素材(鋼)の非金属介在物を低減する
ことが必要である。軸受用鋼の非金属介在物の中で有害
なのは、酸化物系介在物と硫化物系介在物であるが、特
に酸化物系介在物が前記腐食疲労寿命に有害である。夫
々の介在物量はO濃度、S濃度に比例する。O濃度の影
響度はS濃度の約10倍であるので、有害な非金属介在
物量のインデックスとして、O濃度[%O]及びS濃度
[%S]の加重加算濃度10×[%O]+[%S]を用
いる。その加重加算濃度が0.025%を超えると著し
く腐食疲労寿命を低下させるので、その上限値を0.0
25%とした。この場合も、転がり面の炭素濃度が0.
3%以上0.8%以下というのが前提条件である。
【0033】転がり面に存在する酸化物系介在物の大き
さが大きければ大きいほど、前記腐食疲労寿命は低下す
る。転がり面に存在する酸化物系介在物の最大値は、素
材(鋼)中の平均径13μmを越える酸化物系介在物の
3000mm2 当たりの存在頻度に相関する。前述した
加重加算濃度10×[%O]+[%S]が0.025%
以下であるという前提のもとで平均径13μmを越える
酸化物系介在物の存在頻度が、3000mm2 当たり1
0個以下とすると、転がり面に存在する酸化物系介在物
の最大値はほぼ飽和し、前記腐食疲労寿命が向上する。
【0034】前記酸化物系介在物の組成は、純アルミナ
Al2 3 に近いことが望ましい。軸受用鋼の酸化物系
介在物の主成分はアルミナAl2 3 であるが、カルシ
アCaOやマグネシアMgOを含む場合がある。酸化物
系介在物中にカルシアやマグネシアを多く含むと、その
酸化物系介在物の融点が下がり、精錬時において凝集し
易くなり、大型介在物が形成され易くなる。従って、酸
化物系介在物のアルミナ比率が低いということは、例え
3000mm2 の被検面積中に検出される酸化物系介在
物の最大値が小さくとも、鋼内にはより大型の酸化物系
介在物が存在することを示している。一方、鋼内の酸化
物系介在物の最大径は、平均径13μmを越える酸化物
系介在物の3000mm2 当たりの存在頻度にも比例す
るので、酸化物系介在物のアルミナ比率を算出する酸化
物系介在物の大きさは13μmを越えるものでなければ
ならない。酸化物系介在物中のアルミナの濃度は直接に
測定することが困難なので、アルミナの濃度は、酸化物
系介在物中のAl濃度値で代替する。但し,Al濃度値
の測定も簡単ではないので、介在物中のAl濃度値と
(Al濃度値+Ca濃度値+Mg濃度値)の比、即ちA
l濃度値/(Al濃度値+Ca濃度値+Mg濃度値)を
Al濃度値に代替する。その値を酸化物系介在物中のア
ルミナ比率と呼ぶが、アルミナ比率は、酸化物系介在物
をエネルギー分散型X線マイクロプローブ或いは波長分
散型X線マイクロプローブで測定したときに検出される
Al、Ca、Mgの特性X線(Kα線)強度、IAl、I
Ca、IMgから算出される式IAl/(IAl+ICa+IMg
で求める。酸化物系介在物のアルミナ比率は0.4以上
であることが望ましく、0.55以上であることが更に
望ましい。酸化物系介在物のアルミナ比率が高い方が鋼
内の酸化物系介在物の最大径は小さくなるが、前記アル
ミナ比率が0.4以上になると、最大径はほぼ飽和し、
0.55以上になると飽和する。
【0035】転がり面の炭素濃度の低減は、一般的には
表面残留オーステナイト濃度の低減を招くので、鉄粉な
どの固体異物が潤滑剤内に混入すると、寿命の低下が著
しい。なぜならば、残留オーステナイトは、圧痕が転が
り面に生成しても、その縁を丸くし、圧痕縁での応力集
中を関する働きがあるからである。従って、固体異物も
混入する水混入潤滑下での転がり疲れ強さ、即ち異物混
入潤滑寿命を改善するには、固体異物の混入を抑制する
密封シールを軸受に装着することが効果的である。前述
のように、密封シールは水の混入抑制においては効果は
薄いが、固体異物、特に大型の個体異物の混入抑制にお
いては大きな効果があるので、転がり面の炭素濃度の低
減と同時に密封シールの装着は、異物混入潤滑寿命の改
善に大きな効果がある。軸受に密封シールを装着する
と、平均径0.2mm以上の固体異物の侵入は抑制され
る。
【0036】更に、異物混入潤滑寿命の改善を行うため
には、転がり面の炭素濃度の低減、軸受シールの装着及
び転動体にころを使用し、その平均直径をφ20mm以
上とすることを組み合わせて実施することが極めて効果
的である。これは、軸受シールを装着すると、平均径
0.2mm以上の大きな固体異物の侵入が抑制され、且
つ平均径0.2mm未満の小さな固体異物に対しては、
転動体にころを使用し、その平均直径をφ20mm以上
とすることが有効なためである。即ち、0.2mm以下
の固体異物が形成する圧痕は、軌道輪とφ20mm以上
のころが作る応力分布に殆ど影響を与えないからであ
る。
【0037】更に異物混入潤滑寿命を改善するために
は、転がり面の炭素濃度の低減、軸受シールの装着、平
均直径がφ20mm以上のころを転動体に使用するこ
と、及び転がり面の残留オーステナイト濃度を10%以
上とすることを組み合わせて実施すると極めて効果的で
ある。前述のように、転がり面の炭素濃度の低減は、一
般的には、表面残留オーステナイト濃度の低減を招くの
で、鉄粉などの固体異物が潤滑剤内に混入すると、寿命
の低下が著しくなる。従って、固体異物も混入する水混
入潤滑下での鋼の転がり疲れ強さ、即ち異物混入潤滑寿
命を改善するためには、転がり面の炭素濃度を低く保ち
つつ、残留オーステナイト濃度を増やすことが有効であ
る。残留オーステナイトは、小さな圧痕が転がり面に生
成しても、その縁を丸くし、圧痕縁での応力集中を緩和
する働きがあるからである。転がり面の残留オーステナ
イト濃度(体積%)を10%以上とすると、異物混入潤
滑寿命の改善効果がある。この残留オーステナイト濃度
10%以上の範囲については、10%から20%までは
更に僅かながらも異物混入寿命を改善でき、20%以上
で飽和する。但し、残留オーステナイト濃度が40%以
上になると硬さをHRC50以上に保持し得ないので、
避けなければならない。
【0038】炭素濃度を低く保ちつつ、残留オーステナ
イト濃度(体積%)を10%以上とするためには、S
i、Mn、Niの添加により、Ms点(マルテンサイト
変態開始温度)を下げることが有効である。但し、夫々
の元素の添加については、Siについては2%、Mnに
ついては2%、Niについては5%を上限値とすること
が望ましい。Siは2%を越えて添加すると旧オーステ
ナイト粒界の炭化物の粗大化を促進し、Mnは2%を越
えて添加するとP、Sb、Asの旧オーステナイト粒界
への偏析を助長し、Niは5%を越えて添加すると旧オ
ーステナイト粒界の炭化物の粗大化を促進し、腐食疲労
寿命を低下させるからである。なお、Niは、他の2元
素に比べて高価であるので、Si、MnによるMs点の
低下が望ましい。この転がり面の残留オーステナイト濃
度の増加についても、転がり面の炭素濃度が0.3%以
上0.8%以下というのが前提条件である。
【0039】転動体の任意の点又は線における単位時間
当たりの平均接触面圧が、軌道輪の何れかよりも低いと
き、或いは軌道輪の両方より低いときには、転動体の転
がり面の表面硬さを、軌道輪に何れかよりも低くする
か、或いは軌道輪の両方より低くすることが、水混入潤
滑寿命を延ばすために望ましい。これは、以下の理由に
よる。即ち、前述の破損メカニズムのように、水が転動
体と軌道輪との間に存在すると油膜が形成されにくくな
り、転動体と軌道輪とが金属接触する。この金属接触に
おいて、より表面硬さの低い側の転がり面が摩耗する
が、結果として、より表面硬さの低い側の表面が活性に
なり、水素脆化し易くなるので、より表面硬さの低い側
の転がり面の腐食疲労が進行する。従って、転動体の平
均接触面圧が軌道輪の何れかよりも低いとき、或いは軌
道輪の両方より低いときには、転動体の転がり面の表面
硬さを軌道輪の何れかよりも低くするか、或いは軌道輪
の両方より低くすると、転動体より腐食し易い側の軌道
輪の腐食疲労寿命を改善することができる。また、表面
接触面圧の最も高い側の軌道輪の転がり面の表面硬さを
R1とし、転動体の転がり面の表面硬さをHE とすると
き、HR1からHE を引いた差HR1−HE が0.5以上で
水混入潤滑寿命の改善ができるが、その差HR1−HE
1以上とすることでより顕著な水混入潤滑寿命の改善が
できる。但し、両者の差HR1−HE が8を越えると転動
体の腐食疲労強度が著しく低下するので、結果として転
動体が最弱部位となり、軸受の水混入潤滑寿命を低下さ
せてしまうので好ましくない。また、転動体の転がり面
の表面硬さの下限はHRC50であることが望ましい。
それを下回ると純粋な転がり疲れによる内部起点型剥離
が発生してしまうからである。
【0040】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態につい
て説明する。まず、表1に示す成分、清浄度の鋼を用い
て、内径φ85mm、外径φ130mm、組立幅29m
m、基本動定格荷重C=143kN、基本静定格荷重C
0 =231kN、ころの直径(平均径)φ10.6mm
の円錐ころ軸受を作製し、その内外輪の表面炭素濃度を
種々に変えて、図1の寿命試験機で寿命試験を行った。
試験軸受数は、夫々10個とした。
【0041】
【表1】
【0042】ここでは、外輪2をハウジング4に組込む
と共に、内輪3を回転軸5に嵌め合わせ、アキシャル荷
重Fa及びラジアル荷重Frを軸受に負荷し、回転軸5
を回転させながら断続的に注水し、耐久寿命試験を行っ
た。従って、本試験では、外輪が非回転側軌道輪で、内
輪が回転側軌道輪になる。なお、転動体は、軸受鋼第2
種SUJ2(表面硬さHRC62)で作製した。また、
表1において、平均径13μmを越える酸化物系介在物
の存在頻度とは、3000mm2 を検鏡して検出した平
均径13μmを越える酸化物系介在物の個数であり、酸
化物系介在物のアルミナ比率とは、平均径13μmを越
える酸化物系介在物のアルミナ比率の最大値である。但
し、平均径13μmを越える酸化物系介在物が検鏡面積
3000mm2 中に存在しないときのアルミナ比率は1
とした。
【0043】試験条件は、ラジアル荷重Fr=71.5
kN、アキシャル荷重Fa=15.6kN、内輪回転数
2500rpm、潤滑剤にはLi石鹸を増ちょう剤とし
た粘度VG64基油使用のグリース60gで、3時間に
1回20ccの水を注入した。水分濃度の減少を防止す
るために、試験機の主軸とハウジングとの間にはゴムシ
ールを装着してある。試験温度は約60℃である。定格
疲れ寿命(10%破損寿命の計算値)は67時間であ
る。この試験条件を条件1とする。
【0044】試験軸受の外内輪は、浸炭後焼入焼戻処理
により有効硬化深さ(ビッカース硬さHv550以上の
表面層厚さ)を1.5mmとしてある。表面炭素濃度
は、浸炭時の露点調節により行い、0.20〜1.20
%の範囲で種々のレベルを設定した。表面硬さは、炭素
濃度0.2%のときHRC45、炭素濃度0.3%のと
きHRC50、炭素濃度0.8%のときHRC62、炭
素濃度1.2%のときHRC64である。
【0045】この寿命試験で得た水混入潤滑時と純グリ
ース潤滑時のL10寿命と軌道面の表面炭素濃度との関係
を図2に示す。なお、剥離部位は全て外輪であった。前
述した水混入潤滑状態で、転がり面の炭素濃度を1.2
0%から小さくしてゆくと、0.80%で大きく寿命が
改善し、0.70%(表面硬さHRC61.5)までは
更に寿命を改善でき、また、0.60%(表面硬さHR
C61)までは更に若干の改善ができ、また、0.50
%(表面硬さHRC60)までは更に僅かながらも改善
でき、0.50%以下で飽和する。但し、0.30%未
満になると転がり疲れ強度が著しく低下し、腐食疲労に
よる表面起点型の剥離が発生する前に、純粋な転がり疲
れによる内部起点型剥離が発生し、短寿命化してしま
う。従って、転がり面の適正炭素濃度の下限値は0.3
0%である。以上より、転がり面の適正な炭素濃度は
0.3%以上0.8%以下、好ましくは0.3%以上
0.7%以下、更に好ましくは0.3%以上0.6%以
下、より一層好ましくは0.3%以上0.5%以下とな
る。
【0046】一方、前記試験条件から水の注入条件を外
した、純グリース潤滑中における寿命試験(これを条件
2とする)を各表面炭素濃度の軸受に対して行った結果
が、前記図2の純グリース潤滑におけるL10寿命であ
る。この条件2における寿命試験では、表面炭素濃度が
増加するにつれて寿命値は長くなり、表面炭素濃度が
1.00%で最長となった。この最長寿命の50%以上
の寿命値となる表面炭素濃度は0.85%以上1.10
%以下の範囲であった。剥離部位は、外輪又は内輪で、
後者の比率が高かった。
【0047】以上より、水混入潤滑中で使用される軸受
については、外内輪の表面炭素濃度を0.3%以上0.
8%以下、好ましくは0.3%以上0.7%以下、更に
好ましくは0.3%以上0.6%以下、より一層好まし
くは0.3%以上0.5%以下とすることで長寿命化を
図ることができる。一方、水が混入しない潤滑中で使用
される軸受については、外内輪の表面炭素濃度を0.8
5%以上1.10%以下、好ましくは0.90%以上
1.10%以上とすることにより長寿命化を図ることが
できる。このように、潤滑剤に水が混入するか否かによ
って適切な表面炭素濃度が異なり、水混入潤滑中で使用
される軸受では低炭素化が特段の効果を示す。
【0048】次に、前記円錐ころ軸受のうち、表面炭素
濃度が0.50%の軸受(即ち外内輪の表面炭素濃度が
0.50%)の内輪をSUJ2鋼製のもの(表面硬さH
RC62)に変え、外輪のみの表面炭素濃度が0.50
%(表面硬さHRC60)で、内輪及びころはSUJ2
鋼製の軸受を前記条件1で寿命試験に供した。その結
果、内輪剥離により、寿命値は約5割低下した。つま
り、非回転側軌道輪の低炭素化は寿命を大きく延長する
が、更なる長寿命を得るためには回転側軌道輪の低炭素
化も必要である。なお、本実施形態では、転動体が最も
剥離しにくいが、試験数を増やすと転動体にも剥離する
ものがでてくるので、最長寿命を得るためには転動体の
低炭素化も必要である。
【0049】前記図2に示す軸受の外内輪は浸炭又は浸
炭窒化処理したものに焼入焼戻しを施したものである
が、ずぶ焼入焼戻(完全硬化処理)した外内輪を用いた
前記寸法の円錐ころ軸受を、前記条件1で寿命試験を行
い、図3に示す寿命値を得た。なお、焼入油の温度は6
0℃に設定した。また、ずぶ焼入処理した鋼の炭素及び
窒素濃度以外の成分及び清浄度は表1に等しい。また、
窒素濃度は0.005%である。寿命値は、浸炭焼入処
理の場合よりも若干劣るが、ずぶ焼入処理しても表面炭
素濃度が0.3〜0.8%のときに長寿命であることが
分かる。また、このときの表面硬さはHRC50(炭素
濃度0.3%のとき)〜HRC62(炭素濃度0.8%
のとき)であった。ずぶ焼入処理したものに対しても、
転がり面の炭素濃度を1.20%(表面硬さHRC6
2)から小さくしてゆくと、0.80%(表面硬さHR
C62)で大きく寿命が改善し、0.70%(表面硬さ
HRC61.5)までは更に寿命を改善でき、また、
0.60%(表面硬さHRC61)までは更に若干の改
善ができ、また、0.50%(表面硬さHRC60)ま
では更に僅かながらも改善でき、0.50%以下で飽和
する。但し、0.30%未満になると転がり疲れ強度が
著しく低下する。
【0050】次に、ベイナイト焼入れした外内輪を用い
た前記寸法の円錐ころ軸受を、前記条件1で寿命試験し
て図4に示す寿命値を得た。なお、ベイナイト焼入れの
ソルトバスは250℃に設定した。また、ベイナイト焼
入処理した鋼の成分及び清浄度は、前記ずぶ焼入処理の
ものに等しい。ベイナイト焼入処理の鋼においては、表
面炭素濃度が0.4〜1.1%のときに長寿命となるこ
とが分かる。ベイナイト焼入処理したものに対して、転
がり面の炭素濃度を1.20%(表面硬さHRC60)
から小さくしてゆくと、1.10%(表面硬さHRC6
0)で大きく寿命が改善し、1.00%(表面硬さHR
C60)までは更に寿命を改善でき、また、0.90%
(表面硬さHRC60)までは更に若干の改善ができ、
また、0.80%(表面硬さHRC60)までは更に僅
かながらも改善でき、0.80%以下で飽和する。但
し、0.40%(表面硬さHRC50)未満になると転
がり疲れ強度が著しく低下する。
【0051】なお、高周波焼入れした表面は、表面残留
応力が不均一で、腐食疲労強度が安定しないので、それ
を転がり面に適用することは好ましくない。次に、前記
浸炭処理円錐ころ軸受のうち、表面炭素濃度が0.50
%(即ち外内輪の表面炭素濃度が0.50%)の軸受
を、前記水混入潤滑下で、ラジアル荷重Frを種々に変
えて寿命試験に供した。試験条件のうち、試験機、アキ
シャル荷重Fa、内輪回転数、潤滑剤、注水量は、前記
条件1と同じである。また、試験温度は120℃以下で
ある。この試験結果を図5に示す。横軸は前記静定格荷
重C0 に対するラジアル荷重Frの比Fr/C0 で表
す。また縦軸は定格疲れ寿命L10Cal に対する水混入潤
滑寿命L10の比L10/L10Cal で表す。ラジアル荷重の
比Fr/C0 が0.8を越えると、水混入潤滑寿命L10
と定格疲れ寿命L10 Cal との比が低下するので、ラジア
ル荷重Fr、厳密には動等価荷重Pを静定格荷重の8割
以下となるようにすることが望ましい。
【0052】次に、前記表1の化学成分・清浄度のう
ち、Al、N濃度のみを変化させた鋼を作製し、この鋼
を用いて、表面炭素濃度が0.50%(表面硬さHRC
60)及び1.0%(表面硬さHRC63)の前記寸法
の円錐ころ軸受を作製し、前記条件1で寿命試験に供し
て、寿命値と、N濃度[%N]とAl濃度[%Al]と
の積[%N]×[%Al]との関係を調査した。試験結
果を図6に示す。同図から明らかなように、表面炭素濃
度が0.50%の場合は、N濃度とAl濃度との積[%
N]×[%Al]が0.0001%以上0.01%以下
で水混入潤滑寿命L10が長寿命化し、0.0003%以
上0.01%以下で更に長寿命化することができる。一
方、表面炭素濃度が1.0%の場合には、N濃度とAl
濃度との積[%N]×[%Al]を変化させても水混入
潤滑寿命は改善されない。
【0053】次に、前記表1の化学成分・清浄度のう
ち、P、Sb、As濃度のみを変化させた鋼を作製し、
この鋼を用いて、表面炭素濃度が0.50%(表面硬さ
HRC60)及び1.0%(表面硬さHRC63)の前
記寸法の円錐ころ軸受を作製し、前記条件1で寿命試験
に供して、寿命値と、P、Sb、As濃度の加重加算値
[%P]+10[%Sb]+10[%As]との関係を
調査した。試験結果を図7に示す。同図から明らかなよ
うに、表面炭素濃度が0.50%の場合は、P、Sb、
As濃度の加重加算値[%P]+10[%Sb]+10
[%As]を0.100%以下に低減すると水混入潤滑
寿命L10は大きく改善される。但し、P、Sb、As濃
度の加重加算値[%P]+10[%Sb]+10[%A
s]が0.076%〜0.10%の範囲でも当該積算値
を低減すると水混入潤滑寿命は改善され、0.061%
〜0.075%の範囲でも当該積算値を低減すると水混
入潤滑寿命は若干改善され、0.060%以下で飽和す
る。一方、表面炭素濃度が1.0%の場合には、P、S
b、As濃度の加重加算値[%P]+10[%Sb]+
10[%As]を低減しても水混入潤滑寿命は改善され
ない。
【0054】次に、前記表1の化学成分・清浄度のう
ち、O、S濃度のみを変化させた鋼を作製し、この鋼を
用いて、表面炭素濃度が0.50%(表面硬さHRC6
0)及び1.0%(表面硬さHRC63)の前記寸法の
円錐ころ軸受を作製し、前記条件1で寿命試験に供し
て、寿命値と、O、S濃度の加重加算値10[%O]+
[%S]との関係を調査した。試験結果を図8に示す。
同図から明らかなように、表面炭素濃度が0.50%の
場合は、O、S濃度の加重加算値10[%O]+[%
S]を低減すると水混入潤滑寿命L10は改善されるが、
0.025%以下で飽和する。一方、表面炭素濃度が
1.0%の場合には、O、S濃度の加重加算値10[%
O]+[%S]を低減しても水混入潤滑寿命は改善され
ない。
【0055】次に、前記表1の化学成分・清浄度のう
ち、酸化物系介在物の存在頻度のみを種々変化させた鋼
を作製し、この鋼を用いて、表面炭素濃度が0.50%
(表面硬さHRC60)及び1.0%(表面硬さHRC
63)の前記寸法の円錐ころ軸受を作製し、前記条件1
で寿命試験に供して、寿命値と、3000mm2 当たり
の13μmを越える酸化物系介在物の存在頻度との関係
を調査した。試験結果を図9に示す。同図から明らかな
ように、表面炭素濃度が0.50%の場合は、3000
mm2 当たりの13μmを越える酸化物系介在物の存在
頻度を10個以下にすると長寿命化できる。一方、表面
炭素濃度が1.0%の場合には、3000mm2 当たり
の13μmを越える酸化物系介在物の存在頻度を低減し
ても水混入潤滑寿命は改善されない。
【0056】次に、前記表1の化学成分・清浄度のう
ち、酸化物系介在物のアルミナ比率のみを種々変化させ
た鋼を作製し、この鋼を用いて、表面炭素濃度が0.5
0%(表面硬さHRC60)及び1.0%(表面硬さH
RC63)の前記寸法の円錐ころ軸受を作製し、前記条
件1で寿命試験に供して、寿命値と、平均径13μmを
越える酸化物系介在物のアルミナ比率との関係を調査し
た。試験結果を10に示す。同図から明らかなように、
表面炭素濃度が0.50%の場合は、平均径13μmを
越える酸化物系介在物のアルミナ比率が高いほど、長寿
命化できるが、0.4以上でほぼ飽和し、0.55以上
で飽和する。一方、表面炭素濃度が1.0%の場合に
は、平均径13μmを越える酸化物系介在物のアルミナ
比率を変化しても水混入潤滑寿命は改善されない。
【0057】次に、前記表1の化学成分・清浄度のう
ち、Mo濃度のみを種々変化させた鋼を作製し、この鋼
を用いて、表面炭素濃度が0.50%(表面硬さHRC
60)及び1.0%(表面硬さHRC63)の前記寸法
の円錐ころ軸受を作製し、前記条件1で寿命試験に供し
て、寿命値と、Mo濃度との関係を調査した。試験結果
を11に示す。同図から明らかなように、表面炭素濃度
が0.50%の場合は、Mo濃度が0.10%以上で長
寿命化に効果があり、0.5%以上1.5%以下のとき
に最長寿命である。但し、Mo濃度が1.5%を越えて
添加すると、寿命は低下する。一方、表面炭素濃度が
1.0%の場合には、Mo濃度を変化しても水混入潤滑
寿命は改善されない。
【0058】次に、前記表1の化学成分・清浄度のう
ち、Cr濃度のみを種々変化させた鋼を作製し、この鋼
を用いて、表面炭素濃度が0.50%(表面硬さHRC
60)の前記寸法の円錐ころ軸受を作製し、前記条件1
で寿命試験に供して、寿命値と、Cr濃度との関係を調
査した。試験結果を12に示す。同図から明らかなよう
に、Cr濃度が2%を越えると寿命が低下する。
【0059】次に、前記表1の化学成分・清浄度のう
ち、Nb濃度のみを種々変化させた鋼を作製し、この鋼
を用いて、表面炭素濃度が0.50%(表面硬さHRC
60)及び1.0%(表面硬さHRC63)の前記寸法
の円錐ころ軸受を作製し、前記条件1で寿命試験に供し
て、寿命値と、Nb濃度との関係を調査した。試験結果
を13に示す。同図から明らかなように、表面炭素濃度
が0.50%の場合は、Nb濃度が0.03%以上で長
寿命化に効果があり、0.3%を越えて添加すると寿命
が低下する。一方、表面炭素濃度が1.0%の場合に
は、Nb濃度を変化しても水混入潤滑寿命は改善されな
い。
【0060】次に、前記表1の化学成分・清浄度のう
ち、V濃度のみを種々変化させた鋼を作製し、この鋼を
用いて、表面炭素濃度が0.50%(表面硬さHRC6
0)及び1.0%(表面硬さHRC63)の前記寸法の
円錐ころ軸受を作製し、前記条件1で寿命試験に供し
て、寿命値と、V濃度との関係を調査した。試験結果を
14に示す。同図から明らかなように、表面炭素濃度が
0.50%の場合は、V濃度が0.05%以上で長寿命
化に効果があり、0.5%を越えて添加すると寿命が低
下する。一方、表面炭素濃度が1.0%の場合には、V
濃度を変化しても水混入潤滑寿命は改善されない。
【0061】次に、前記表1の化学成分・清浄度のう
ち、N濃度を0.003%に、Ti濃度を0.013%
に、Nb濃度を0.06%とし、B濃度のみを種々変化
させた鋼を作製し、この鋼を用いて、表面炭素濃度が
0.50%(表面硬さHRC60)及び1.0%(表面
硬さHRC63)の前記寸法の円錐ころ軸受を作製し、
前記条件1で寿命試験に供して、寿命値と、B濃度との
関係を調査した。試験結果を15に示す。同図から明ら
かなように、表面炭素濃度が0.50%の場合は、B濃
度が0.001%以上で長寿命化に効果があり、0.0
05%を越えて添加すると寿命が低下する。一方、表面
炭素濃度が1.0%の場合には、B濃度を変化しても水
混入潤滑寿命は改善されない。
【0062】次に、前記条件1のグリース中に、硬さH
v840の鋼粉300ppmを均一に混合し、同様の寿
命試験を行った(この条件を条件3とする)。試験に
は、前記表1の化学成分・清浄度の鋼を用いて外内輪を
作製し、浸炭により表面炭素濃度を0.50%(表面硬
さHRC60)とした。一方、ころは軸受鋼第2種SU
J2(表面硬さHRC62)で作製した。また、転動体
には玉も用意し、深溝玉軸受を作製して試験に供した。
試験では、グリースに混入する鋼粉の大きさを種々変更
し、鋼粉の大きさと寿命値との関係を調査した。なお、
この試験における寿命値は、潤滑剤の中に水及び固体異
物が混入するので、異物混入潤滑寿命とする。試験結果
を図16に示す。横軸は、潤滑剤中に混入した鋼粉の大
きさを転動体(ころ又は玉)の平均直径で割った値で表
す。また、縦軸は、試験で得られた異物混入潤滑寿命を
前記水混入潤滑寿命で割った値で表す。
【0063】同図から明らかなように、ころ軸受では、
鋼粉の対ころ径比が小さくなると、異物混入潤滑寿命は
長くなり、鋼粉の対ころ径比が0.01以下になると、
鋼粉がないときの寿命、即ち水混入潤滑寿命に漸近す
る。一方、玉軸受では、対玉径比が0.001以下にな
ると、鋼粉がないときの寿命、即ち水混入潤滑寿命に漸
近する。つまり、異物混入潤滑下では、ころ軸受のころ
の直径に対して固体異物の大きさが百分の一以下になる
と当該固体異物の影響が殆どなくなり、玉軸受の玉の直
径に対して固体異物の大きさが千分の一以下になると当
該固体異物の影響が殆どなくなることになる。逆に言え
ば、ころ軸受のころの直径を固体異物の大きさの百倍以
上にすると当該固体異物の影響を殆どなくすことがで
き、玉軸受の玉の直径を固体異物の大きさの千倍以上に
すると当該固体異物の影響を殆どなくすことができるこ
とになる。
【0064】一方の軸受の密封シールは、0.2mm以
上の大きさの固体異物の侵入を抑制できるので、密封シ
ールを装着したころ軸受では、直径がφ20mm以上の
ころを使用すれば、固体異物の影響を殆どなくすことが
でき、密封シールを装着した玉軸受では、直径がφ20
0mm以上の玉を使用すれば、固体異物の影響を殆どな
くすことができることになる。実際の玉軸受でφ200
mm以上の直径の玉を使用することは実用上困難である
が、ころ軸受にφ20mm以上の直径のころを使用する
ことは、圧延機用軸受などの大型軸受では可能である。
従って、外輪、内輪、ころのうちの少なくとも一つの転
がり面の炭素濃度を0.30%以上0.80%以下とし
た密封シール装着のころ軸受で、直径φ20mm以上の
ころを使用することは、水や固体異物が軸受周りに飛散
する環境での長寿命化達成に極めて効果的である。
【0065】次に、前記表1の成分・清浄度の鋼を用
い、外内輪の表面炭素濃度が0.50%(表面硬さHR
C60)及び0.90%(表面硬さHRC62.5)と
なるように浸炭処理を施し、図17aに示すように密封
シールを装着しないオープン形式の4列円錐ころ軸受
(以下、単にオープン軸受とも記す)と、図17bに示
すように密封シールを装着した密封形式の4列円錐ころ
軸受(以下、単に密封軸受とも記す)を作製し、寿命試
験に供した。軸受の諸元は、内径φ350mm、外径φ
450mm、組立幅250mm、基本動定格荷重C=2
500kN、ころ平均径φ15mmであり、基本静定格
荷重C0 は基本動定格荷重緒利大きい。また、前記軌道
面の炭素濃度が0.50%、0.90%のときの、夫々
の軌道面(厳密には電解研磨により表層50μmを除去
した面)の残留オーステナイト濃度は、7%と27%で
ある。また、転動体は、SAE340鋼を浸炭焼入れし
て作製し、その転動面の炭素濃度は0.70%とした。
この転動体の表面硬さはHRC61.5であり、ころの
転がり面の残留オーステナイト濃度は20%である。試
験条件は、ラジアル荷重Fr=750kN、アキシャル
荷重Fa=100kN、内輪回転数2500rpm、潤
滑剤にはLi石鹸を増ちょう剤とした粘度VG64基油
使用のグリースで、チョックには鋼粉(硬さHv84
0、大きさ0.05〜0.5mm)を0.03%含んだ
水を常時100リットル毎分で噴射した。試験温度は約
120℃である。この試験条件を条件4とする。
【0066】このときの試験軸受は、軸受1:軌道面の
炭素濃度が0.90%のオープン軸受、軸受2:軌道面
の炭素濃度が0.50%のオープン軸受、軸受3:軌道
面の炭素濃度が0.90%の密封軸受、軸受4:軌道面
の炭素濃度が0.50%の密封軸受の4種類で、試験数
は各4個である。また、前記軸受4のころをφ20mm
に設計変更して軸受5を作製し、再度寿命試験に供し
た。この軸受5の内径、外径、組立幅、基本動定格荷重
は設計変更前と同じである。また、この軸受5の基本静
定格荷重は若干変わったが、基本動定格荷重より大き
い。また、前記軸受5に対して、鋼のSi、Mn濃度及
び焼入温度を調整することで、軌道面の残留オーステナ
イト濃度が10%の軸受6及び20%の軸受7を作製
し、寿命試験に供した。これら全ての軸受の諸元並びに
異物混入潤滑寿命L10を図18に示す。同図から明らか
なように、軌道面の炭素濃度が0.90%である前記軸
受1及び軸受3では、密封シールの有無に関わらず、水
の影響を受けて短寿命になる。これに対して、オープン
軸受でも軌道面の炭素濃度が0.50%の軸受2は、前
記軸受1,軸受3に比べて5倍の長寿命となる。また、
軌道面の炭素濃度が0.50%で密封シールを装着した
密封軸受4では、更に前記軸受2の2倍の長寿命とな
る。また、ころの直径をφ20mmとした軸受5では、
前記軸受4よりも19%長寿命化している。また、軸受
5の残留オーステナイト濃度7%を10%に増加した軸
受6では更に25%長寿命化し、それを20%に増加し
た軸受7ではそれから更に20%長寿命化する。なお、
前記軸受2及び軸受4に対して軌道面の残留オーステナ
イト濃度の増量を施せば、前記軸受5に対するのと同様
の倍率で長寿命化できる。
【0067】ここで、異物混入潤滑下で軸受の長寿命化
に効果がある特性項目を下記表2に示す。但し、全ての
項目に共通するのは、当該特性項目No.1、つまり外
輪、内輪、転動体のうち少なくとも一つの転がり面の炭
素濃度が0.30%以上0.80%以下であることであ
る。また、ここまでで、異物混入潤滑下で軸受を長寿命
化するためには、特性項目No.1〜No.6の全てを
満足するのが望ましい。また、更なる長寿命を必要とす
るときは、前記特性項目No.1〜No.6に加えて、
特性項目No.10、項目No.10及びNo.11、
項目No.12、項目No.7〜No.9の何れかの項
目、の少なくとも一つを組み合わせて満足することが望
ましい。
【0068】
【表2】
【0069】次に、前記軸受1〜7を含む各種の軸受
が、これらの特性項目の何れを満足しているか(或いは
満足していないか)と、それらの軸受の軸受寿命L10
の関係を表3に示す。なお、表中の○が当該特性項目を
満足していることを意味し、各特性項目は前記表2のそ
れに一致している。なお、前述のように軸受1及び軸受
3は、比較のための軸受である。
【0070】
【表3】
【0071】表中の軸受8〜12は、前記軸受特性N
o.2〜6のうちの何れか一つの項目が満足されていな
い軸受であり、何れも比較軸受1及び3よりも長寿命で
あるが効果は小さい。これに対して、軸受2は、前記特
性項目No.1〜6を全て満足し、比較軸受1及び3の
5倍の長寿命である。また、軸受4は、前記軸受2に加
えて、前記特性項目No.10が満足されたものであ
り、比較軸受1及び3の10倍の長寿命である。また、
軸受5は、前記軸受4に加えて、前記特性項目No.1
1が満足されたものであり、比較軸受1及び3の11倍
の長寿命である。また、軸受6、7は、前記軸受5に加
えて、前記特性項目No.12が満足されたものであ
り、残留オーステナイト濃度値に若干の差はあるが、比
較軸受1及び3の14〜17倍の長寿命である。また、
軸受13〜15は、前記軸受7に加えて、前記特性項目
No.7〜9の何れかが満足されたものであり、比較軸
受1及び3の24〜27倍の長寿命である。また、軸受
16は、前記軸受2に加えて、前記特性項目No.12
が満足されたものであり、比較軸受1及び3の8倍の長
寿命である。また、軸受17は、前記軸受16に加え
て、前記特性項目No.10が満足されたものであり、
比較軸受1及び3の14倍の長寿命である。また、軸受
18は、前記軸受2に加えて、前記特性項目No.8が
満足されたものであり、比較軸受1及び3の8倍の長寿
命である。また、軸受19は、前記軸受18に加えて、
前記特性項目No.10が満足されたものであり、比較
軸受1及び3の15倍の長寿命である。また、軸受20
は、前記軸受19に加えて、前記特性項目No.12が
満足されたものであり、比較軸受1及び3の22倍の長
寿命である。このように、異物混入潤滑下では、少なく
とも前記軸受特性項目No.1〜6を同時に満足するこ
とが望ましく、更なる長寿命が必要なときは、前記特性
項目No.10、項目No.10及びNo.11、項目
No.12、項目No.7〜9の何れかの項目、のうち
の少なくとも一つを組み合わせて満足させることが望ま
しい。
【0072】次に、前記密封軸受5のころの転がり面の
表面硬さHRC61.5を、焼戻温度を上げることによ
り、表面硬さHRC45〜61まで低下し、前記条件4
で再度寿命試験に供した。なお、ころ以外は、軸受5と
同じである。この試験軸受で、単位時間当たりの平均接
触面圧が最も高いのは、外輪の最大応力負荷位置の転が
り面であり、次いで内輪の転がり面、ころの転がり面の
順に低くなる。ここで、外内輪の転がり面の表面硬さを
R とし、転動体の転がり面の表面硬さをHEとし、前
者から後者を引いた表面硬さの差HR −HE と軸受寿命
10との関係を図19に示す。同図から明らかなよう
に、前記表面硬さの差HR −HE が0.5以上で長寿命
化が可能となるが、好ましくは1以上8以下とすること
で顕著な寿命の改善が可能となる。但し、表面硬さの差
R −HE が9を越えると、転動体(ころ)の腐食疲労
強度が著しく低下するので、結果として転動体が最弱部
位となり、軸受の水混入潤滑寿命を低下させてしまう。
【0073】この試験では、軸受5及びころの転がり面
の表面硬さを変えた試験軸受の外内輪の転がり面の表面
炭素濃度が0.5%であるので、前記表面硬さの差HR
−H E を0.5以上とすることで寿命が改善され、それ
を1以上とすることで顕著な寿命の改善が可能となる
が、外内輪の転がり面の表面炭素濃度が0.3〜0.8
%を外れる範囲で、表面硬さの差HR −HE を変えても
寿命延長効果がない。例えばこれは、前記図6〜11、
或いは図13、図14において表面炭素濃度が1.0%
である軸受の外内輪の転がり面の表面硬さはHRC63
であり、転動体(ころ)の転がり面の表面硬さはHRC
62であるので、両者の表面硬さの差HR−HE は1で
あるが、それらの寿命は著しく短いことからも明らかで
ある。
【0074】なお、前期試験軸受では外輪と内輪の転が
り面の表面硬さが同じであったが、両者が異なるときに
は、単位時間当たりの平均接触面圧が最も高い外輪の転
がり面の表面硬さを前記HR とする。また、転動体の単
位時間当たりの平均接触面圧が最も低い場合は、転動体
の転がり面の表面硬さを、外輪及び内輪の両方の表面硬
さより低くすることが望ましい。即ち、単位時間当たり
の平均接触面圧が低い部位ほど、より柔らかくすること
が望ましいのである。また、転がり面の表面硬さの測定
は、ロックウエル硬さ計(Cスケール)或いはビッカー
ス硬さ計(HRCに換算)で転がり面を計ってもよい
し、転がり面の垂直断面の0.1mm以内の深さの部分
をビッカース硬さ計(HRCに換算)で計ってもよい
が、硬さ測定方法自体は、外内輪及び転動体で同一の方
法を採らなければならない。
【0075】また、前述のように外内輪及び転動体の転
がり面の表面硬さの差HR −HE を0.5以上とするこ
とで寿命が改善され、それを1以上とすることで顕著に
寿命が改善されるが、更に長寿命が必要なときは、前記
表2の軸受の特性項目No.12、或いは項目No.7
〜9の何れか、或いは項目No.12及び項目No.7
〜9の何れかを更に組み合わせて実施することが効果的
であり、その場合には、前記表3の軸受5に対する寿命
倍率で長寿命化することができる。
【0076】また、前記実施例では、硬さの調節を焼戻
温度の調節で行ったが、化学成分の調節やベイナイト焼
入れの採用などの熱処理の変更で行ってもよい。また、
前記寿命試験では軸受5を基準として寿命比較を行った
が、軸受2,4,6〜20に採用しても同じ倍率で長寿
命化できる。
【0077】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の転がり軸
受によれば、内輪及び外輪及び転動体のうちの少なくと
も一つの転がり面の炭素濃度を0.30%以上0.80
%以下とすることにより、水混入潤滑寿命や異物混入潤
滑寿命を大幅に長寿命化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】水混入潤滑試験の説明図である。
【図2】潤滑状態の違いによる軌道面の表面炭素濃度と
寿命との関係を示す説明図である。
【図3】焼入状態の違いによる軌道面の表面炭素濃度と
寿命との関係を示す説明図である。
【図4】焼入状態の違いによる軌道面の表面炭素濃度と
寿命との関係を示す説明図である。
【図5】ラジアル荷重と水混入潤滑寿命との関係を示す
説明図である。
【図6】表面炭素濃度の違いによる濃度積値と水混入潤
滑寿命との関係を示す説明図である。
【図7】表面炭素濃度の違いによる濃度加重加算値と水
混入潤滑寿命との関係を示す説明図である。
【図8】表面炭素濃度の違いによる濃度加重加算値と水
混入潤滑寿命との関係を示す説明図である。
【図9】表面炭素濃度の違いによる酸化物系介在物の存
在頻度と水混入潤滑寿命との関係を示す説明図である。
【図10】表面炭素濃度の違いによる酸化物系介在物の
アルミナ比率と水混入潤滑寿命との関係を示す説明図で
ある。
【図11】表面炭素濃度の違いによるMo濃度と水混入
潤滑寿命との関係を示す説明図である。
【図12】Cr濃度と水混入潤滑寿命との関係を示す説
明図である。
【図13】表面炭素濃度の違いによるNb濃度と水混入
潤滑寿命との関係を示す説明図である。
【図14】表面炭素濃度の違いによるV濃度と水混入潤
滑寿命との関係を示す説明図である。
【図15】表面炭素濃度の違いによるB濃度と水混入潤
滑寿命との関係を示す説明図である。
【図16】軸受形態の違いによる潤滑在中の鋼粉の大き
さと異物混入潤滑寿命との関係を示す説明図である。
【図17】異なる軸受形態の説明図であり、(a)は密
封シールのない円錐ころ軸受の縦断面図、(b)は密封
シールを装着した円錐ころ軸受の縦断面図である。
【図18】各種の試験軸受の諸元と異物混入潤滑寿命と
の関係を示す説明図である。
【図19】外内輪及び転動体の転がり面の表面硬さの差
と軸受寿命との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
1は転動体 2は外輪 3は内輪
フロントページの続き (72)発明者 村上 保夫 神奈川県藤沢市鵠沼神明一丁目5番50号 日本精工株式会社内 Fターム(参考) 3J101 AA16 AA42 AA54 AA62 BA70 DA03 EA03 FA08 FA31 GA36

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 内輪及び外輪及び転動体から構成される
    鋼製の転がり軸受において、前記内輪及び外輪及び転動
    体のうちの少なくとも一つの転がり面の炭素濃度が0.
    30%以上0.80%以下であることを特徴とする転が
    り軸受。
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Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2012031457A (ja) * 2010-07-29 2012-02-16 Nsk Ltd 転がり軸受

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