JP2000226572A - フォトクロミック膜、及びフォトクロミック膜の作成方法 - Google Patents

フォトクロミック膜、及びフォトクロミック膜の作成方法

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JP2000226572A
JP2000226572A JP11028561A JP2856199A JP2000226572A JP 2000226572 A JP2000226572 A JP 2000226572A JP 11028561 A JP11028561 A JP 11028561A JP 2856199 A JP2856199 A JP 2856199A JP 2000226572 A JP2000226572 A JP 2000226572A
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surfactant
photochromic
thin film
film
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Kazuyuki Kuroda
一幸 黒田
Hirokatsu Miyata
浩克 宮田
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 従来のフォトクロミック材料の無機物担持体
では、担持体の細孔が不均一なため、フォトクロミック
材料の吸着状態が不均一である問題が起こる。更に、従
来のフォトクロミック材料の無機物担持体では、透明な
均一の膜を形成するのが困難でフォトクロミック材料の
光異性化反応に伴う色の変化に対して、悪影響を及ぼす
問題が起こる。 【解決手段】 その問題を解決するために、本発明で
は、基板上に配置されたメソポーラスシリカ膜の孔にフ
ォトクロミック材料を保持する構成をとる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、触媒や吸着剤など
に用いられる無機酸化物多孔体の光学材料への応用に関
与し、より詳しくは、基板上に形成された細孔構造の制
御されたメソ多孔体を用いた光学材料薄膜の形成に関す
るものである。
【0002】
【従来の技術】多孔質材料は、吸着、分離など様々な分
野で利用されている。IUPACによれば、多孔体は、
細孔径が2nm以下のマイクロポーラス、2〜50nm
のメソポーラス、50nm以上のマクロポーラスに分類
される。マイクロポーラスな多孔体には天然のアルミノ
ケイ酸塩、合成アルミノケイ酸塩等のゼオライト、金属
リン酸塩等が知られている。これらは、細孔のサイズを
利用した選択的吸着、形状選択的触媒反応、分子サイズ
の反応容器としての利用されている。
【0003】報告されているマイクロポーラスクリスタ
ルにおいては、細孔径は最大で1.5nm程度であり、
さらに径の大きな固体の合成はマイクロポアには吸着で
きないような嵩高い化合物の吸着、反応を行うために重
要な課題である。この様な大きなポアを有する物質とし
てシリカゲル、ピラー化粘土等が知られていたが、これ
らにおいては細孔径の分布が広く、細孔径の制御が問題
であった。
【0004】この様な背景の中、径の揃ったメソポアが
蜂の巣状に配列した構造を有するメソポーラスシリカの
合成が、ほぼ同時に異なる二つの方法で開発された。一
方は、Nature第359巻710ページに記載されているような
界面活性剤の存在下においてケイ素のアルコキシドを加
水分解させて合成されるMCM−41と呼ばれる物質で
あり、他方は、Journalof Chemical Society Chemical
Communicationsの1993巻680ページに記載されて
いるような、層状ケイ酸の一種であるカネマイトの層間
にアルキルアンモニウムをインターカレートさせて合成
されるFSM−16と呼ばれる物質である。この両者と
もに、界面活性剤の集合体が鋳型となってシリカの構造
制御が行われていると考えられている。これらの物質
は、ゼオライトのポアに入らないような嵩高い分子に対
する触媒として非常に有用な材料であるだけでなく、光
学材料や電子材料等の機能性材料への応用も考えられて
いる。
【0005】このような規則的な細孔構造を有するメソ
ポーラス多孔体を、触媒以外の機能性材料分野に応用す
る場合、これらの材料を基板上に均一に保持する技術が
重要である。基板上に均一なメソポーラス薄膜を作成す
る方法としては、例えばChemical Communicationsの199
6巻1149ページに記載されているようなスピンコートに
よる方法、Nature第389巻364ページに記載されているよ
うなディップコートによる方法、Nature第379巻703ペー
ジに記載されているような固体表面に膜を析出させる方
法等がある。
【0006】一方、フォトクロミズムは、サングラスの
レンズ、調光材料用に材料の探索が始まり、光メモリー
材料としての期待が高まるに連れて研究が盛んになって
きている。現在の光メモリー材料はいずれも、光エネル
ギーをいったん記録媒体上において熱エネルギーに変換
して、加熱効果により記録している。加熱効果を利用す
る限りは記録密度は光の回折限界に依存するためにある
程度以上の高密度化は望めない。光反応を直接利用する
フォトクロミズムを用いれば波長多重、位相多重、偏光
多重記録の可能性が生まれ、超高密度記録の実現が期待
される。
【0007】現在までに数多くのフォトクロミック化合
物が合成され、それらの光特性が研究されているが、そ
れらの約半数はスピロピラン系フォトクロミック材料に
関するものである。
【0008】スピロピラン類は紫外光の吸収により、開
環を伴う光異性化反応を起こしてメロシアニン型の構造
に変化して着色する。メロシアニン型は可視光の照射、
もしくは熱的に元の状態に戻るフォトクロミックな物質
である。光異性化反応の例を図6に示す。スピロピラン
類のフォトクロミズムに関しては、例えば、日本化学会
編、学会出版センター、季刊化学総説第28巻、「有機
フォトクロミズムの化学」などに紹介されている。
【0009】有機フォトクロミック材料は、例えば銀の
コロイドを含むガラスの様な無機フォトクロミック材料
に比較して、明瞭な吸収波長の変化を示す、光着色が速
い等の利点を有している。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】スピロピラン類に代表
される有機フォトクロミック材料は多様であり、無機フ
ォトクロミック材料に比較して数多くの優れた特性を有
しているものの、これらの材料は単独では使用し難く、
何らかのマトリクス中に担持させる必要があるという欠
点を有していた。さらに従来マトリクスとして多く用い
られていたものは有機高分子系の材料が多く、これらは
機械的強度等において問題があった。
【0011】また、従来の無機材料のマトリクスとして
シリカゲルや粘土鉱物の一種であるスメクタイトを用い
る様な場合には、細孔が不均一なため、吸着状態が均一
でないことや、透明な膜のような実用的な形状に成形し
難いこと等の欠点を有していた。
【0012】このため、フォトクロミックな物質の担体
として用いることのできる、透明薄膜のような実用的な
形態を有する機械的強度の高い無機化合物のマトリクス
が求められていた。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明は上記問題点に鑑
みなされたもので、透明で均一な細孔を有する無機多孔
質膜中に有機フォトクロミック物質であるスピロピラン
化合物を担持させて作成した機械的強度に優れたフォト
クロミック薄膜に関するものであり、またその作成方法
を提供するものである。
【0014】すなわち本発明は、基板上に作成したメソ
ポーラスシリカ薄膜のメソポア内にスピロピラン化合物
を担持したことを特徴とするフォトクロミック薄膜、も
しくは、基板上に作成したメソポーラスシリカ薄膜のメ
ソポア内にスピロピラン化合物と界面活性剤を担持した
ことを特徴とするフォトクロミック薄膜である。
【0015】また本発明は、基板上に作成したメソ構造
体薄膜から界面活性剤を除去した後にスピロピラン化合
物を含む溶液と接触させることで細孔内にスピロピラン
化合物を担持させるフォトクロミック薄膜の作成方法、
もしくは基板上に作成したメソ構造体薄膜をスピロピラ
ン化合物を含む溶液と接触させることで細孔内にスピロ
ピラン化合物と界面活性剤を担持させるフォトクロミッ
ク薄膜の作成方法である。ここで、基板上のメソ構造体
薄膜は、ケイ素アルコキシドを含む界面活性剤の酸性溶
液中に基板を保持することによって、もしくはケイ素ア
ルコキシドを含む界面活性剤の酸性溶液を基板上に塗布
することによって作成することができ、作成したメソ構
造体薄膜から界面活性剤を除去する方法としては、例え
ば、作成したメソ構造体薄膜を焼成する方法、溶媒、及
び超臨界状態の流体等により抽出する方法等が適用可能
である。
【0016】以下、実施態様を用いて本発明を説明す
る。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明のフォトクロミック薄膜の
模式図を図1に示す。本発明において、スピロピラン化
合物を担持する無機マトリクスは、シリカメソ複合体、
もしくはメソポーラスシリカの薄膜11である。この図
に示すように、ヘキサゴナルパッキングしたロッド状の
ポア12が基板13と平行に配列した構造を有してい
る。
【0018】ここでいう、シリカメソ複合体とは、細孔
内部に界面活性剤を保持したままの構造のものを示し、
これから界面活性剤を除去してメソポーラスシリカにな
る。
【0019】スピロピラン化合物は、このメソポア内に
担持されている。細孔内部でのスピロピラン化合物の配
置に関しては、完全に解明されいないが、界面活性剤を
完全に除去したものについては図2(a)に示したよう
に、メソポアの壁に吸着されていると考えられ、一方、
界面活性剤が共存する場合には図2(b)のように界面
活性剤の疎水部分に存在しているものと考えられてい
る。
【0020】本発明のフォトクロミック薄膜の作成方法
は、最初にスピロピラン化合物を含まないシリカメソ構
造体薄膜、及びメソポーラスシリカ薄膜を作成しておい
て、後からスピロピラン化合物の溶液と接触させること
で細孔内部にスピロピラン化合物を導入する方法であ
り、非常に密着性の高い薄膜を作成することができる、
均一な膜厚の薄膜を作成できる等の利点を有している。
【0021】はじめにメソポーラスシリカ薄膜の作成方
法について説明する。メソポーラスシリカ薄膜の作成方
法には、ケイ素アルコキシドと界面活性剤を含む反応溶
液中に基板を保持することで基板表面にメソポーラスシ
リカを析出させ薄膜を形成する方法と、ケイ素アルコキ
シドと界面活性剤を含む溶液を基板上に塗布する方法の
2つが一般的に用いられるが、本発明のフォトクロミッ
ク薄膜に用いられるシリカメソ構造体、及びメソポーラ
スシリカ薄膜の作成方法はこの2つに限定されるわけで
はなく、同様な構造の膜が形成できる方法であればどの
ような方法を用いても良い。
【0022】ケイ素アルコキシドと界面活性剤を含む反
応溶液中に基板を保持することで基板表面にメソポーラ
スシリカを析出させ薄膜を形成する方法では、例えば図
3の様な構成の反応容器が用いられる。反応容器の材質
は、薬品、特に酸に対する耐性を有するものであれば特
に限定はなく、ポリプロピレンやテフロンのようなもの
を用いることができる。反応容器内には、耐酸性の材質
の基板ホルダーが例えば図3の様に置かれており、基板
はこれを用いて保持される。図3は基板を水平に保持す
る例を示してあるが、基板の保持は水平に限定されるも
のではない。また、基板は、図4(A)の様に溶液中に
保持するのが一般的だが、図4(B)の様に基板の表面
を反応溶液表面に接するように保持した場合にも同様の
膜を形成することができる。反応容器は、反応中に圧力
がかかっても破壊されないように、さらにステンレスの
ような剛性の高い材質の密閉容器に入れることもある。
【0023】この図において、反応溶液は界面活性剤水
溶液に塩酸等の酸を混合し、SiO2の等電点であるp
H=2以下に調整したものに、テトラエトキシシランの
様なケイ素のアルコキシドを混合したものである。界面
活性剤は、3級アルキルアンモニウムのようなカチオン
性界面活性剤、アルキルアミンやポリエチレンオキシド
のような非イオン性界面活性剤等の中から適宜選択され
る。使用する界面活性剤分子の長さは、目的のメソ構造
の細孔径に応じて決められる。界面活性剤の濃度は界面
活性剤の種類によって適宜最適濃度が決定される。
【0024】酸性側、特に等電点の近くではSiO2の
沈殿の発生速度は小さく、塩基性条件の下での反応の場
合のようにアルコキシドの添加後瞬間的に沈殿が発生す
ることはない。
【0025】基板には、石英ガラス、シリコン等を用い
ることができるが、酸性の水溶液中で安定な基板であれ
ば、特に制限はない。
【0026】この様な条件で基板上にシリカのメソ構造
体を析出させることができる。析出させる際の温度は6
0〜100℃程度の温度領域において選択される。反応
温度が低い場合には、形成されるメソポアの構造が乱れ
る傾向がある。反応時間は数時間〜数ヶ月程度で、時間
が短いほど薄い膜が形成される。この様にして基板上に
形成された膜は、純水で洗浄した後に空気中で自然乾燥
させ、シリカメソ構造体薄膜が得られる。
【0027】ケイ素アルコキシドと界面活性剤を含む溶
液を基板上に塗布する方法は、このような反応容器を用
いることなく、スピンコート等によって基板上に直接塗
布することによってシリカメソ構造体薄膜を得る方法で
ある。例えば、スピンコートの場合には、得られるシリ
カメソ構造体の膜厚は、スピンコートの際の回転数や溶
液濃度等によって調整することが可能である。コーティ
ングした膜は乾燥時にシリカが重合して安定な膜とな
る。この方法で、秩序性の高いメソ構造体薄膜を作成す
るためには界面活性剤の種類によって、その濃度、溶媒
組成等を最適化する必要があるが、長い反応時間が不要
であるなどの利点を有している。
【0028】本発明で得られるメソ構造体は基板との密
着性が高く、機械的強度に優れている。
【0029】このようにして作成したメソ構造体薄膜
を、ガラス容器に移し、スピロピラン化合物の溶液中に
保持する。数分〜数時間でメソ構造体薄膜にスピロピラ
ン化合物が導入される。この場合には細孔内部に界面活
性剤とスピロピラン化合物とが共存している。
【0030】メソ構造体薄膜からテンプレートの界面活
性剤ミセルを除去することでメソポーラスシリカ薄膜を
作成した場合にも、上記スピロピラン化合物の溶液と膜
を接触させることで細孔内にスピロピラン化合物を導入
することができ、細孔内にスピロピランのみが存在する
薄膜を作成することができる。
【0031】本発明の基板表面上に形成されたシリカメ
ソ構造体薄膜又はメソポーラスシリカ薄膜は、透明度の
高い薄膜なので、細孔内にスピロピラン化合物を保持し
た形態において、光異性化反応による色の変化がより顕
著に現れる効果得られる。
【0032】界面活性剤の除去は、焼成、溶剤による抽
出、超臨界状態の流体による抽出等の中から選択され
る。例えば、空気中、550℃で10時間焼成すること
によって、メソ構造をほとんど破壊することなくメソ構
造体薄膜から完全に界面活性剤を除去することができ
る。また、溶剤抽出等の手段を用いると、100%の界
面活性剤の除去は困難ではあるものの、焼成時に起こる
基板材料の酸化やメソポーラス構造の乱れを防ぐことが
可能である。
【0033】界面活性剤を除去したメソポーラスシリカ
膜を使用した場合には、細孔内に吸着するスピロピラン
化合物の量が大きく、色変化が大きいフォトクロミック
薄膜が作成できる利点があり、一方界面活性剤が共存し
ている場合にはおり、スピロピラン化合物は界面活性剤
を除去した後にスピロピラン化合物を細孔内部に導入し
た場合と異なる環境にあるために、存在状態や光に対す
る挙動に差違が生じることがある。
【0034】スピロピラン化合物には種々の構造を有す
るものがあるが、本発明に適用できるスピロピラン類に
は特に限定はない。逆に異なる種類のスピロピラン化合
物を使用することによって種々の吸収波長を有する薄膜
を作成することが可能である。
【0035】以上述べた本発明の要旨は、細孔径及び細
孔の配列の制御されたメソポーラスシリカ薄膜の細孔内
にフォトクロミックな性質を有するスピロピラン化合物
を担持させ、その結果、機械的強度に優れ、且つスピロ
ピラン化合物の吸着状態が均一な、実用的なフォトクロ
ミック薄膜を作成し得たものである。
【0036】つまり、メソポーラスシリカ薄膜中の細孔
径が均一なので、各細孔内のスピロピラン化合物の吸着
状態が均一となる。
【0037】以下、実施例を用いてさらに詳細に本発明
を説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるも
のではなく、本発明が達成される範囲内で、界面活性剤
種、アルコキシド種、反応条件、成膜条件、及びスピロ
ピラン化合物等が異なるものも含有する。
【0038】
【実施例】(実施例1)本実施例は、ケイ素アルコキシ
ドを含む界面活性剤の酸性溶液中に基板を保持すること
によって作成したメソ構造体薄膜を焼成した後に、スピ
ロピラン化合物をその細孔内に吸着させてフォトクロミ
ックな薄膜を作成した例である。
【0039】図3を用いて説明する。
【0040】石英ガラス基板35を2cm×2cmの大
きさにカットし、十分に洗浄した後に基板が水平になる
ように基板ホルダー33に挟み、テフロン容器31中に
静置した。
【0041】セチルトリメチルアンモニウム塩化物2.
82gを89.6mlの純水に溶解した後、36%塩酸
を72.1ml添加して2時間攪拌し、界面活性剤の酸
性溶液とした。この溶液にテトラエトキシシラン(TE
OS)1.78mlを加え、2分30秒攪拌し、上記基
板を保持した基板ホルダー33の入った図3の構成のテ
フロン容器31中に入れ、基板35が溶液中に保持され
るようにした。最終的な溶液組成はモル比で、H2O 1
00:HCl 10.5:セチルトリメチルアンモニウ
ム塩化物 0.11:TEOS 0.10である。この
容器に蓋32をし、さらにステンレス製の密閉容器に入
れた後に80℃に保ったオーブン中に保持した。保持時
間は2週間とした。
【0042】所定の時間反応溶液と接触させた基板は、
容器から取り出し、純水で十分に洗浄した後に観察する
と、基板表面に透明な、干渉色を有する膜が形成されて
いた。膜厚は約0.2μmであった。
【0043】このシリカメソ構造体の薄膜が形成された
基板をX線回折分析で分析した。その結果、面間隔3.
50nmに対応する、ヘキサゴナル構造の (100) 面に
帰属される強い回折ピークが確認され、この薄膜がヘキ
サゴナルな細孔構造を有することが確かめられた。広角
の領域には回折ピークが認められないことから、壁を構
成するシリカは非晶質であることがわかった。
【0044】面間隔d100は、図1のように定義される。
【0045】この、シリカメソ構造体の薄膜を作成した
基板をマッフル炉に入れ、1℃/分の昇温速度で550
℃まで昇温し、空気中で10時間焼成した。焼成後の基
板表面の形状には、焼成前と比較して大きな差異は認め
られなかった。さらに、焼成後の薄膜のX線回折分析の
結果、焼成前と比較してやや強度が低下し、半値幅が広
がるものの面間隔3.3nmに対応する強い回折ピーク
が観測され、ヘキサゴナルな細孔構造が保持されている
ことが確かめられた。焼成後にも、広角領域には回折ピ
ークは確認されておらず、壁のシリカは非晶質のままで
あることが確認された。また、赤外吸収スペクトル等の
分析により、この焼成後の試料には既に界面活性剤に起
因する有機物成分は残存していないことが確かめられ
た。
【0046】焼成後の試料薄膜を0.15Mの1,3,3-ト
リメチルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピランの
トルエン溶液中に3時間浸漬し、細孔内に1,3,3-トリメ
チルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピランを吸着
させた。1,3,3-トリメチルインドリノ-6'-ニトロベンゾ
ピリロスピランは図6に示した光異性化に基づくフォト
クロミズムを示すスピロピラン化合物である。吸着は、
薄膜が赤色に変色する事によって確められた。メソポー
ラスシリカを形成していない石英ガラス基板を同じ溶液
中に浸漬しても、基板の変色等は起こらなかった。1,3,
3-トリメチルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピラ
ンを吸着させたメソポーラスシリカ薄膜試料は、トルエ
ンで洗浄して表面に付着した過剰の1,3,3-トリメチルイ
ンドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピランを除去した後
に乾燥させ、試料として用いた。
【0047】乾燥後の試料の可視吸収スペクトルを測定
したところ、図5のaに示すように515nmに極大吸
収を有するスペクトルが得られた。スピロピラン化合物
は図6に示した様に、無色のスピロピラン型から着色状
態のメロシアニン型へのフォトクロミズムを示す。1,3,
3-トリメチルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピラ
ンの光異性化反応の反応式を図6に示す。しかし、本実
施例で作成したメソポーラスシリカ薄膜中では、シリカ
との相互作用によりメロシアニン型の方が安定化される
ために、光を照射しない状態で着色状態になるものと本
発明者は考察している。また、メロシアニン型の色が溶
液中と異なる理由については、同様にシリカとの分子レ
ベルでの相互作用によって吸収波長がブルーシフトした
ものと考察している。
【0048】この着色状態にある膜を、キセノンランプ
で紫外光をカットするフィルターを通した可視光を1分
間照射したところ、赤色はほぼ完全に消え、図5のbに
示すように、可視スペクトルにおける515nmの吸収
ピークはほぼ消失した。これは、メロシアニン型からス
ピロピラン型への光異性化が起こったためであると考え
られる。
【0049】さらに、可視光を照射して無色の状態にな
った膜に対して、同じキセノンランプで、可視光をカッ
トするフィルターを通して紫外光を照射したところ、膜
は再び赤色に着色し、図5のaと同じスペクトルが再び
観測された。
【0050】この膜は以上述べたように、メロシアニン
型からスピロピラン型への光異性化に伴う赤色から無色
への逆フォトクロミズムを示すことが示された。
【0051】本実施例で作成した、このフォトクロミッ
ク薄膜は、布等で表面をこすっても、膜が剥離したり表
面が荒れたりすることはなく、高い機械的強度が実証さ
れた。
【0052】(実施例2)本実施例は、ケイ素アルコキ
シドを含む界面活性剤の酸性溶液を基板上に塗布するこ
とによって基板上に形成されるシリカメソ複合体薄膜を
焼成した後に、スピロピラン化合物をその細孔内に吸着
させてフォトクロミックな薄膜を作成した例である。
【0053】本実施例で基板上にメソポーラスシリカの
膜を作成する方法は、例えばChemical Communications
の1996年、1149〜1150ページに記載されて
いるような、ゾル−ゲル法を用いた方法である。
【0054】始めにテトラメトキシシラン(TMOS)
にTMOSのモル数の2倍の純水を加え、塩酸酸性にし
た後、室温で2時間攪拌し、部分加水分解させる。これ
に対して、TMOSの1/4のモル数のセチルトリメチ
ルアンモニウム臭化物を添加し、さらに攪拌した後に7
cm×7cmの清浄なパイレックスガラス上にスピンコ
ートした。このスピンコートした基板を100℃に保っ
たオーブンに入れ、6時間乾燥させた。このようにして
約1μmの膜厚の透明な均一膜を作成できた。
【0055】このシリカメソ構造体の薄膜が形成された
基板をX線回折分析で分析した。その結果、実施例1で
作成した膜の場合と同じように面間隔3.50nmに対
応する、ヘキサゴナル構造の (100) 面に帰属される強
い回折ピークが確認され、この薄膜がヘキサゴナルな細
孔構造を有することが確かめられた。この場合も広角の
領域には回折ピークが認められないことから、壁を構成
するシリカは非晶質であることがわかった。
【0056】実施例1と同様に、この、シリカメソ構造
体の薄膜を作成した基板をマッフル炉に入れ、1℃/分
の昇温速度で550℃まで昇温し、空気中で10時間焼
成した。焼成後の基板表面の形状には、焼成前と比較し
て大きな差異は認められなかった。さらに、焼成後の薄
膜のX線回折分析の結果、焼成前と比較してやや強度が
低下し、半値幅が広がるものの面間隔3.3nmに対応
する強い回折ピークが観測され、ヘキサゴナルな細孔構
造が保持されていることが確かめられた。焼成後にも、
広角領域には回折ピークは確認されておらず、壁のシリ
カは非晶質のままであることが確認された。また、赤外
吸収スペクトル等の分析により、この焼成後の試料には
既に界面活性剤に起因する有機物成分は残存していない
ことが確かめられた。
【0057】焼成後の試料薄膜を、実施例1の場合同様
に、0.15Mの1,3,3-トリメチルインドリノ-6'-ニト
ロベンゾピリロスピランのトルエン溶液中に3時間浸漬
し、細孔内に1,3,3-トリメチルインドリノ-6'-ニトロベ
ンゾピリロスピランを吸着させた。吸着は、薄膜が赤色
に変色する事によって確められた。メソポーラスシリカ
を形成していない石英ガラス基板を同じ溶液中に浸漬し
ても、基板の変色等は起こらなかった。1,3,3-トリメチ
ルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピランを吸着さ
せたメソポーラスシリカ薄膜試料は、トルエンで洗浄し
て表面に付着した過剰の1,3,3-トリメチルインドリノ-
6'-ニトロベンゾピリロスピランを除去した後に乾燥さ
せ、試料として用いた。
【0058】本実施例で作成した膜の光照射による着色
挙動を調べたところ、実施例1で見られたのとほぼ同じ
スペクトルの変化が観測され、本実施例で作成した膜に
ついてもその逆フォトクロミズムが確認された。
【0059】本実施例で作成した、このフォトクロミッ
ク薄膜も、布等で表面をこすっても、膜が剥離したり表
面が荒れたりすることはなく、高い機械的強度が実証さ
れた。
【0060】(実施例3)本実施例は、実施例1と同じ
方法で作成したメソ構造体薄膜から界面活性剤を除去せ
ずに、スピロピラン化合物と接触させて複合体薄膜を作
成した例である。
【0061】実施例1と同じ手順で石英ガラス上にシリ
カメソ構造体薄膜を形成し、直接0.15Mの1,3,3-ト
リメチルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピランの
トルエン溶液中に3時間浸漬し、細孔内に1,3,3-トリメ
チルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピランを吸着
させた。
【0062】この場合にも、薄膜は赤色に変色し、メロ
シアニン型に異性化した1,3,3-トリメチルインドリノ-
6'-ニトロベンゾピリロスピランの吸着が確認された。
この薄膜についても可視吸収スペクトルを測定したとこ
ろ、520nmに極大吸収を示すスペクトルが観測され
た。この場合、細孔内で界面活性剤とメロシアニン型の
スピロピラン化合物が共存していると考えられるが、分
子が界面活性剤が共存しない場合と異なる環境に存在し
ているために吸収波長のシフトが観測されるものと本発
明者は考察している。
【0063】本実施例で作成した薄膜も可視光及び紫外
光の照射によって実施例1、2で述べたような逆フォト
クロミズムを示した。本実施例で作成した薄膜では、吸
着したスピロピラン化合物の量が少ないために実施例
1、2で作成した薄膜に比較してやや色が薄いが、焼成
等の操作が不必要であるという利点を有している。
【0064】(実施例4)本実施例は、ケイ素アルコキ
シドを含む界面活性剤の酸性溶液中に基板を保持するこ
とによって作成したメソ構造体薄膜から溶剤による抽出
によって界面活性剤を除去した後に、スピロピラン化合
物をその細孔内に吸着させてフォトクロミックな薄膜を
作成した例である。
【0065】メソ構造体薄膜をエタノール中に浸漬し、
70℃で24時間抽出を試みたところ、一度の抽出によ
って90%以上の界面活性剤が、シリカメソ構造体薄膜
から除去された。同じ抽出操作を2回繰り返し行なった
試料では、95%以上の界面活性剤を除去することがで
きた。抽出後の薄膜を乾燥させエタノールを除去するこ
とによってメソポーラスシリカを得た。
【0066】本実施例に用いた、溶剤抽出により界面活
性剤ミセルを除去する方法は、界面活性剤を完全に除去
することは困難であるものの、焼成による界面活性剤の
除去の際に起こる構造の乱れを小さくすることが可能で
ある。
【0067】抽出によって界面活性剤を除去したこの試
料薄膜を、実施例1の場合同様に、0.15Mの1,3,3-
トリメチルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピラン
のトルエン溶液中に3時間浸漬し、細孔内に1,3,3-トリ
メチルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピランを吸
着させた。これをトルエンで洗浄した後に乾燥させ、試
料として用いた。
【0068】本実施例で作成した膜の光照射による着色
挙動を調べたところ、実施例1で見られたものとほぼ同
じスペクトルの変化が観測され、本実施例で作成した膜
についてもその逆フォトクロミズムが確認された。
【0069】本実施例で作成した、このフォトクロミッ
ク薄膜は、焼成によって界面活性剤を除去した実施例1
の膜に比較して、わずかに基板との密着性に劣っていた
ものの、界面活性剤除去後の膜のX線回折ピークは、界
面活性剤除去前のピーク形状とほぼ同じであり、高い秩
序性が保たれていることが確認された。
【0070】(実施例5)本実施例は、ケイ素アルコキ
シドを含む界面活性剤の酸性溶液中に基板を保持するこ
とによって作成したメソ構造体薄膜から超臨界状態の流
体よる抽出によって界面活性剤を除去した後に、スピロ
ピラン化合物をその細孔内に吸着させてフォトクロミッ
クな薄膜を作成した例である。
【0071】このメソ構造体薄膜をエタノール中に浸漬
し、複合体中の液相を完全にエタノールに置換する。こ
の場合、実施例4で述べたように、エタノール中に界面
活性剤は溶出してくる。この後、薄膜試料を図7のよう
な構成の超臨界乾燥装置中に入れ、二酸化炭素を流体と
して用いて31℃、72.8気圧の超臨界条件で有機物
の抽出を行った。赤外吸収スペクトル等の分析により、
超臨界条件の下で乾燥させた後のメソポーラスシリカ中
には有機物はほとんど残存しておらず、ほぼ完全に界面
活性剤を除去することができたことが確認された。
【0072】抽出によって界面活性剤を除去したこの試
料薄膜を、実施例1の場合同様に、0.15Mの1,3,3-
トリメチルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピラン
のトルエン溶液中に3時間浸漬し、細孔内に1,3,3-トリ
メチルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピランを吸
着させた。これをトルエンで洗浄した後に乾燥させ、試
料として用いた。
【0073】本実施例で作成した膜の光照射による着色
挙動を調べたところ、実施例1で見られたものとほぼ同
じスペクトルの変化が観測され、本実施例で作成した膜
についてもその逆フォトクロミズムが確認された。
【0074】本実施例で作成した、このフォトクロミッ
ク薄膜も、焼成によって界面活性剤を除去した実施例1
の膜に比較して、わずかに基板との密着性に劣っていた
ものの、界面活性剤除去後の膜のX線回折ピークは、界
面活性剤除去前のピーク形状とほぼ同じであり、高い秩
序性が保たれていることが確認された。
【0075】本実施例で用いた方法は、実施例4で述べ
た方法よりも複雑な装置が必要となるが、低温におい
て、より完全に界面活性剤を除去できる方法である。
【0076】また、超臨界状態の流体を用いた乾燥で
は、乾燥時に発生する応力を0にすることができるた
め、メソ構造を全く破壊することなしにメソポーラスシ
リカ薄膜を得ることができる。
【0077】図7において、71はCO2ボンベ、72
はチラー、73はポンプ、74はプレヒーター、75は
抽出器、76はヒーター、77はセパレータ、78はガ
スメータ、79はバルブを示す。
【0078】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
基板上に作成したシリカメソ構造体、もしくはメソポー
ラスシリカ薄膜の細孔内にフォトクロミック材料(特
に、スピロピラン化合物)を担持させることで、機械的
強度に優れた実用的なフォトクロミック薄膜を作成する
ことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の配向フォトクロミック薄膜の模式図で
ある。
【図2】本発明のフォトクロミック薄膜の細孔内におけ
るスピロピラン化合物の存在状態を説明するめの模式図
である。
【図3】本発明に用いられるシリカメソ複合体薄膜を、
基板を溶液中に保持する方法で形成するための反応容器
の図である。
【図4】本発明に用いられるシリカメソ複合体薄膜を、
基板を溶液中に保持する方法で作成する際の、反応溶液
中における基板の保持方法を説明するための図である。
【図5】本発明の実施例1で作成したフォトクロミック
薄膜の光照射に伴う可視スペクトルの変化を説明するた
めの図である。
【図6】本発明の実施例で用いたスピロピラン化合物の
光異性化反応を説明するための化学反応式を示した図で
ある。
【図7】本発明の実施例6で用いた超臨界乾燥装置の構
成を示す概略図である。
【符号の説明】
11 シリカメソ構造体、及びメソポーラスシリカ薄膜 12 スピロピラン化合物が担持されたメソポア 13 基板 21 シリカ 22 スピロピラン化合物 23 界面活性剤分子 31 テフロン容器 32 テフロン蓋 33 テフロン製基板ホルダー 34 シール(Oリング) 35 基板 41 反応溶液 42 基板 71 CO2ボンベ 72 チラー 73 ポンプ 74 プレヒーター 75 抽出器 76 ヒーター 77 セパレータ 78 ガスメータ 79 バルブ

Claims (12)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 基板上に配置されたメソポーラスシリカ
    膜の孔にフォトクロミック材料を保持することを特徴と
    するフォトクロミック膜。
  2. 【請求項2】 基板上に配置されたメソポーラスシリカ
    膜の孔にフォトクロミック材料と界面活性剤を保持する
    ことを特徴とするフォトクロミック膜。
  3. 【請求項3】 前記フォトクロミック材料がスピロピラ
    ン化合物である請求項1又は請求項2に記載のフォトク
    ロミック膜。
  4. 【請求項4】 基板上に形成したシリカメソ構造体膜か
    ら界面活性剤を除去した後にフォトクロミック材料を含
    む溶液と接触させることで孔内にフォトクロミック材料
    を保持させることを特徴とするフォトクロミック膜の作
    成方法。
  5. 【請求項5】 前記界面活性剤を除去する方法が焼成で
    ある請求項4に記載のフォトクロミック膜の作成方法。
  6. 【請求項6】 前記界面活性剤を除去する方法が溶剤に
    よる抽出である請求項4に記載のフォトクロミック膜の
    作成方法。
  7. 【請求項7】 前記界面活性剤を除去する方法が超臨界
    状態の流体による抽出である請求項4に記載のフォトク
    ロミック膜の作成方法。
  8. 【請求項8】 前記フォトクロミック材料がスピロピラ
    ン化合物である請求項4〜7に記載のフォトクロミック
    膜の作成方法。
  9. 【請求項9】 基板上に形成したシリカメソ構造体膜を
    フォトクロミック材料を含む溶液と接触させることで孔
    内にフォトクロミック材料と界面活性剤を保持させるこ
    とを特徴とするフォトクロミック膜の作成方法。
  10. 【請求項10】 前記フォトクロミック材料がスピロピ
    ラン化合物である請求項9に記載のフォトクロミック膜
    の作成方法。
  11. 【請求項11】 前記シリカメソ構造体は、ケイ素アル
    コキシドを含む界面活性剤の酸性溶液中に前記基板を保
    持することによって該基板上に形成される請求項4〜1
    0に記載のフォトクロミック膜の作成方法。
  12. 【請求項12】 前記シリカメソ構造体は、ケイ素アル
    コキシドを含む界面活性剤の酸性溶液を前記基板上に塗
    布することによって該基板上に形成される請求項4〜1
    0に記載のフォトクロミック膜の作成方法。
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