WO2024143266A1 - 硫化物固体電解質の原材料に用いられる複合体粉末及びその製造方法、並びに、硫化物固体電解質の製造方法 - Google Patents

硫化物固体電解質の原材料に用いられる複合体粉末及びその製造方法、並びに、硫化物固体電解質の製造方法 Download PDF

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本発明は、硫化物固体電解質の原材料に用いられる複合体粉末の製造方法であって、単体硫黄の存在状態の下で、ハロゲン化リチウム水溶液を沸点以上の温度で加熱し、溶媒を除去することを含む、ハロゲン化リチウム及び単体硫黄を含む複合体粉末の製造方法に関する。

Description

硫化物固体電解質の原材料に用いられる複合体粉末及びその製造方法、並びに、硫化物固体電解質の製造方法
 本発明は、硫化物固体電解質の原材料に用いられる複合体粉末及びその製造方法に関する。また、本発明は上記で得られた複合体粉末を用いた硫化物固体電解質の製造方法にも関する。
 リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の携帯型電子機器に広く用いられている。
 従来、リチウムイオン二次電池においては液体の電解質が使用されてきた。一方で、安全性の向上や高速充放電、ケースの小型化等が期待できる点から、近年、固体電解質をリチウムイオン二次電池の電解質として用いる全固体型リチウムイオン二次電池が注目されている。
 全固体型リチウムイオン二次電池に用いられる固体電解質の一例として硫化物固体電解質が挙げられる。硫化物固体電解質の原材料として、ハロゲン化リチウムと単体硫黄が挙げられる。
 上記原材料のうちハロゲン化リチウムは、一般的に炭酸リチウムとハロゲン化水素酸との反応により合成できることが知られている。ハロゲン化リチウムはその強い潮解性から、水分を含みやすい一方で、硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性の低下を抑制する観点からは、水分を含まないことが望まれる。
 潮解性の強いハロゲン化リチウムを乾燥させ、水分を含まない粉体を得るためには、乾燥に過剰な温度と時間をかける必要がある。
 そこで、特許文献1では、ハロゲン化リチウムであるヨウ化リチウムについて、固体状のヨウ化リチウム水和物を有機溶媒に混合し、共沸、乾燥させることで、水分が除去されたヨウ化リチウム無水物を製造できることが開示されている。
 また、特許文献2、3では、ハロゲン化リチウムであるヨウ化リチウムについて、ヨウ化リチウム水溶液を攪拌しながら、減圧下で加温することにより水分を除去できることが開示されている。
 上記原材料のうち単体硫黄も、硫化物固体電解質の原料として、一般的な原料である。例えば、特許文献4では、単体硫黄を粉体原料として使用される方法が開示されている。
日本国特開2013-256416号公報 日本国特開2014-065637号公報 日本国特開2014-065638号公報 日本国特開2020-027715号公報
 しかしながら、ハロゲン化リチウム水溶液から水分を除去して乾燥するために、ハロゲン化リチウム水溶液の沸点以上の温度を与えて加熱すると、突沸を起こしやすい。突沸により吹き上がった液体は過加熱状態となっているが、これが製造装置における配管や装置壁面等に接触して冷却されると、一気に過冷却状態となり、ハロゲン化リチウムの急激な結晶化が発生する。その結果、配管の閉塞や、装置内部への結晶付着に伴う計器の精度低下、原料投入/排出口の開閉阻害等が生じる。そのため、装置の連続運転は困難であり、定期的な装置内部の清掃が必要となる。
 一方で、突沸を防ぐべく、ハロゲン化リチウム水溶液の乾燥に際し、昇温速度を下げたり、低い温度で水分を除去する方法が考えられるが、水分を十分に除去するまでに要する時間が非常に長くなり、生産性が低下する。
 そこで本発明は、突沸を防ぎ、かつ、生産性にも優れた、硫化物固体電解質の原材料に用いられるハロゲン化リチウムを含む複合体粉末の製造方法を提供することを目的とする。また、硫化物固体電解質の原材料に用いられる新たな複合体粉末の提供、及び、当該複合体粉末を用いた硫化物固体電解質の新たな製造方法の提供も目的とする。
 本発明者は、ハロゲン化リチウム水溶液を単体硫黄の存在状態の下で加熱することにより、高温で加熱しても突沸せず、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
 すなわち、本発明は以下の[1]~[11]に関する。
[1] 硫化物固体電解質の原材料に用いられる複合体粉末の製造方法であって、
 単体硫黄の存在状態の下で、ハロゲン化リチウム水溶液を沸点以上の温度で加熱し、溶媒を除去することを含む、
 ハロゲン化リチウム及び単体硫黄を含む複合体粉末の製造方法。
[2] 単体硫黄の粉末を前記ハロゲン化リチウム水溶液へ添加することにより、前記単体硫黄の存在状態とする、前記[1]に記載の複合体粉末の製造方法。
[3] 前記ハロゲン化リチウム水溶液はSO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液であり、
 アルカリ金属硫化物を前記ハロゲン化リチウム水溶液へ添加することにより、前記単体硫黄の存在状態とする、前記[1]に記載の複合体粉末の製造方法。
[4] 前記ハロゲン化リチウム水溶液はSO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液であり、
 硫化水素を前記ハロゲン化リチウム水溶液へ導入することにより、前記単体硫黄の存在状態とする、前記[1]に記載の複合体粉末の製造方法。
[5] 炭酸リチウム及び水酸化リチウムの少なくとも一方から前記SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液を得ることを含み、
 前記炭酸リチウム及び水酸化リチウムの少なくとも一方はSO 2-を含む、前記[3]又は[4]に記載の複合体粉末の製造方法。
[6] 前記ハロゲン化リチウム水溶液は臭化リチウムの水溶液を含む、前記[1]~[4]のいずれか1に記載の複合体粉末の製造方法。
[7] Li元素を含む原材料、P元素を含む原材料、及びS元素を含む原材料を混合して原材料混合物を得ること、
 前記原材料混合物を加熱して溶融物を得ること、及び、
 前記溶融物を冷却して結晶を析出すること、を含み、
 少なくとも前記Li元素を含む原材料として、前記[1]~[6]のいずれか1に記載の製造方法により得られた前記複合体粉末を用いる、硫化物固体電解質の製造方法。
[8] Li元素を含む原材料、P元素を含む原材料、及びS元素を含む原材料を混合して原材料混合物を得ること、及び、
 前記原材料混合物を加熱して焼結体を得ること、を含み、
 少なくとも前記Li元素を含む原材料として、前記[1]~[6]のいずれか1に記載の製造方法により得られた前記複合体粉末を用いる、硫化物固体電解質の製造方法。
[9] ハロゲン化リチウム及び単体硫黄を含み、硫化物固体電解質の原材料に用いられる複合体粉末。
[10] 前記複合体粉末に対する前記単体硫黄のばらつきは15%以下である、前記[9]に記載の複合体粉末。
[11] 前記ハロゲン化リチウムは臭化リチウムを含む、前記[9]又は[10]に記載の複合体粉末。
 本発明に係る製造方法によれば、沸点以上の高温で加熱した場合でも、ハロゲン化リチウム水溶液の突沸を防げる。そのため、ハロゲン化リチウムを高温で乾燥しながらも、製造装置内部の汚染が防がれ、生産性にも優れる。また、本発明に係る複合体粉末は、ハロゲン化リチウム及び単体硫黄を含むため、硫化物固体電解質の原材料としても非常に有用である。
 また、上記に加え、原材料である単体硫黄についても、粉体として取り扱う場合、課題がある原料である。
 具体的には、単体硫黄は、可燃性の粉体であり、投入する際、粉塵爆発の危険を伴う。そのため、単体硫黄を投入する際には、投入量を絞る、または、硫黄の粒度を粗いものを使用する等により、粉塵雲が発生しないようにする対策が取られる。特に、硫化物固体電解質原料を用いる環境は、ドライルーム等、ドライな環境が一般的であり、静電気の発生による着火の可能性高いことから、より細心の注意を払う必要がある。
 しかしながら、投入量を絞った場合は、投入に時間がかかり、生産性が落ちる。また、粒度を粗いものを用いた場合は、その後の均質性が悪化する。
 これに対し、本発明に係る製造方法により得られるハロゲン化リチウム及び単体硫黄を含む複合体粉末を原材料として採用することで、粉塵爆発を防止できることが分かった。そのため、投入量を絞ったり、粒度の粗いものを用いるといった対策を取る必要がなくなり、生産性や均質性の観点からも、非常に有用である。
図1は、本実施形態に係る複合体粉末の製造方法を示すフロー図である。 図2は、本実施形態に係る複合体粉末の製造方法の一態様を示すフロー図である。 図3は、本実施形態に係る複合体粉末の製造方法の一態様を示すフロー図である。 図4は、本実施形態に係る複合体粉末の製造方法の一態様を示すフロー図である。 図5は、本実施形態に係る複合体粉末における原料の製造方法の一態様を示すフロー図である。 図6は、本実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法の一態様を示すフロー図である。 図7は、本実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法の一態様を示すフロー図である。
 以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
〔複合体粉末及びその製造方法〕
 本実施形態に係る複合体粉末の製造方法は、図1に示すように、ステップS1として、単体硫黄の存在状態の下で、ハロゲン化リチウム水溶液を沸点以上の温度で加熱し、溶媒を除去する工程を含む。
 これにより、ハロゲン化リチウム及び単体硫黄を含む複合体粉末が得られる。
 ハロゲン化リチウム及び単体硫黄を含む複合体粉末とは、ハロゲン化リチウムの単独粉末と単体硫黄の単独粉末との単なる混合物とは異なり、それら粉末が均質に分散した状態を示す粉末である。より具体的には、ハロゲン化リチウムの中に単体硫黄がドメインとして包含されている粉末である。
 複合体粉末であることは、複合体粉末を0.1gずつ、5点採取し、高周波炉燃焼-赤外線吸収法でS元素を測定し、複合体粉末に対する硫黄の定量を行う。そして、5点における上記定量された値のばらつきが15%以下であれば、複合体粉末であると言え、これにより単なる混合物とは明確に区別できる。
 ハロゲン化リチウム水溶液から水分を除去して乾燥するために、ハロゲン化リチウム水溶液の沸点以上の温度を与えて加熱すると、本来は突沸を起こしやすい。しかしながら、本実施形態に係る製造方法では、単体硫黄の存在状態の下で上記加熱を行うことにより、単体硫黄の粉末が存在する状態でハロゲン化リチウム水溶液が沸騰し、水分が除去される。この単体硫黄の粉末の存在が泡形成の核となることで、ハロゲン化リチウム水溶液の突沸が防がれる。
 上記に加え、本実施形態に係る製造方法で得られる複合体粉末を硫化物固体電解質の原材料として用いると、単体硫黄の粉塵爆発を防止できることから、生産性や均質性を低下させることなく、硫化物固体電解質を製造できる。
 ステップS1における単体硫黄の存在状態を実現する方法として、例えば、図2に示すように、ステップS1aとして、単体硫黄の粉末をハロゲン化リチウム水溶液に添加する方法が挙げられる。また、図3に示すように、ステップS1bとして、亜硫酸イオン(SO 2-)を含むハロゲン化リチウム水溶液に対して、アルカリ金属硫化物を添加する方法が挙げられる。さらに、図4に示すように、ステップS1cとして、亜硫酸イオンを含むハロゲン化リチウム水溶液に対して、硫化水素を導入する方法が挙げられる。
 ステップS1aはハロゲン化リチウム水溶液へ単体硫黄の粉末を添加し、好ましくは上記水溶液内に単体硫黄を分散させたのち、ハロゲン化リチウム水溶液の沸点以上の温度で加熱することで、溶媒を除去する。この場合は、単体硫黄の粉末そのものを添加するため、添加した単体硫黄の粉末により、ハロゲン化リチウム水溶液の突沸発生が抑制される。
 単体硫黄の粉末は、ハロゲン化リチウム水溶液の溶媒を除去するための加熱前に添加してもよく、加熱途中に添加してもよい。単体硫黄を添加した後にさらに分散処理をする場合は、作業性の観点から、ハロゲン化リチウム水溶液を加熱する前の添加が好ましい。
 分散性のよい単体硫黄としては、コロイド硫黄、沈降硫黄などが使用できる。
また、単体硫黄を添加した後に超音波ホモジナイザーで分散させる、分散剤を投入する、または、湿式ジェットミルにて粉砕する等により、ハロゲン化リチウム水溶液内に硫黄を分散させてもよい。
 単体硫黄の粉末の添加量は、ハロゲン化リチウム水溶液中に含まれるハロゲン化リチウム100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.05~3質量部がより好ましく、0.1~1質量部がさらに好ましい。ここで、単体硫黄の添加による効果を発揮する観点から、上記単体硫黄の粉末の添加量は0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましい。一方、分散性が低下して凝集が発生するのを防ぐ観点から、上記単体硫黄の粉末の添加量は5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましい。
 単体硫黄の粉末の平均粒子径は特に限定されないが、例えば0.1~10μmが好ましく、0.5~6μmがより好ましく、1~3μmがさらに好ましい。ここで、入手のしやすさから単体硫黄の平均粒子径は0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。一方、分散性を保つ観点から、単体硫黄の平均粒子径は10μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。
 なお、本明細書における平均粒子径とは、レーザー回折法を用いた粒度分布計を用いて粒度分布を測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートから求められる、粒子の50体積%がその値以下の粒子径を意味するメジアン径(D50)をいう。
 添加された単体硫黄の粉末は、ハロゲン化リチウム水溶液内に、好ましくは分散した状態で存在する。単体硫黄の粉末を含むハロゲン化リチウム水溶液を加熱し、その溶媒を除去する過程で、単体硫黄はハロゲン化リチウム形成の核形成に使われ、ハロゲン化リチウムの中に単体硫黄がドメインとして包含された形態となり、均質に分散された複合体粉末が得られるものと考えている。
 ステップS1bでは、SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液に対して、アルカリ金属硫化物を添加することで、単体硫黄の存在状態下とする。
 SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液にアルカリ金属硫化物を添加すると、ハロゲン化リチウム水溶液が白濁する。上記反応は、SO 2-としてHSOがハロゲン化リチウム水溶液に含まれている場合を例に取ると、HSO+2RS+HO→3S(単体硫黄)+4ROHと表され、白濁は単体硫黄が析出したことを示す。ここでRとはアルカリ金属元素を意味し、RSはアルカリ金属硫化物を意味する。これにより単体硫黄の存在状態となる。
 アルカリ金属硫化物は、SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液の溶媒を除去するための加熱前に添加してもよく、加熱途中に添加してもよい。SO 2-が、SOガスとして揮散し、その含有量が低減するのを防止する観点からは、アルカリ金属硫化物の添加は、SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液を加熱する前が好ましい。
 単体硫黄が析出した状態でハロゲン化リチウム水溶液の溶媒を除去すべく加熱を続けると、ハロゲン化リチウム粉末の中に単体硫黄の粉末がドメインとして包含された複合体粉末が得られる。
 アルカリ金属硫化物はアルカリ金属元素の硫化物であれば特に限定されない。例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等が挙げられ、1種を用いても2種以上を併用してもよい。中でも、入手のしやすさや、導入される元素による電解質へ影響が少ない観点から、硫化リチウム、硫化ナトリウムが好ましく、硫化リチウムがより好ましい。
 アルカリ金属硫化物の添加量は、ハロゲン化リチウム水溶液に含まれる亜硫酸イオン(SO 2-)1モルに対して、0.5~10モルが好ましく、1~5モルがより好ましく、2~3モルがさらに好ましい。ここで、含まれる亜硫酸イオンの多くを反応させ有効に活用する観点から、アルカリ金属硫化物の添加量は0.5モル以上が好ましく、1モル以上がより好ましく、2モル以上がさらに好ましい。一方、反応に使用されない過剰な量を添加しない観点から、アルカリ金属硫化物の添加量は10モル以下が好ましく、5モル以下がより好ましく、3モル以下がさらに好ましい。
 また、ハロゲン化リチウム水溶液中に含まれるSO 2-濃度は、ハロゲン化リチウム水溶液中に含まれるハロゲン化リチウム1モルに対して、0.0001~0.05モルが好ましく、0.0002~0.02モルがより好ましく、0.0005~0.01モルがさらに好ましい。ここで、本実施形態の効果を発現するために好適な単体硫黄の存在量を生成する観点から、上記SO 2-濃度は0.0001モル以上が好ましく、0.0002モル以上がより好ましく、0.0005モル以上がさらに好ましい。一方、過剰なSO 2-が乾燥時にSOガスとなるのを防ぐ観点から、上記SO 2-濃度は0.05モル以下が好ましく、0.02モル以下がより好ましく、0.01モル以下がさらに好ましい。
 ステップS1cでは、SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液に対して、硫化水素を導入することで、単体硫黄の存在状態下とする。
 SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液に硫化水素を導入すると、ハロゲン化リチウム水溶液が白濁する。上記反応は、SO 2-としてHSOが含まれている場合を例に取ると、HSO+2HS→3S(単体硫黄)+3HOと表され、白濁は単体硫黄が析出したことを示す。これにより単体硫黄の存在状態となる。
 硫化水素の導入方法は、硫化水素を含む気体のバブリング、硫化水素を含む水溶液の添加等が挙げられる。中でも、得られた複合体粉末を含む水溶液について、乾燥により除去する溶媒量を増やさない観点から、硫化水素を含む気体のバブリングが好ましい。
 硫化水素を含む気体は、硫化水素のみからなる気体でも、硫化水素と他のガスを含む混合気体でもよい。他のガスとは、例えば窒素、アルゴン等が挙げられる。中でも、バブリングによる反応効率が高くなる観点から、硫化水素のみからなる気体が好ましい。
 硫化水素を含む気体をバブリングによりSO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液に導入する場合、バブリングの勢いが大きくなりすぎないように、気体の流量を調節することが好ましい。気体の流量は、例えば0.01~0.5SLM(Standard Litter Min)が好ましい。
 硫化水素の導入として、硫化水素を含む水溶液を添加する場合には、水溶液中の硫化水素濃度は0.04~0.10mol/Lが好ましい。ここで、単体硫黄を効率良く生成する観点から、また、得られた複合体粉末を含む水溶液について、乾燥により除去する溶媒量を増やさない観点から、水溶液中の硫化水素濃度は、高い方が好ましい。硫化水素濃度は0.04mol/L以上が好ましく、0.06mol/L以上がより好ましく、0.08mol/L以上がさらに好ましい。一方、大気圧下での導入であると、設備負荷がないため、水溶液中の硫化水素濃度は、水への硫化水素の飽和濃度である0.1mol/L以下が好ましい。
 硫化水素の導入は、SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液の溶媒を除去するための加熱前に添加してもよく、加熱途中に添加してもよい。SO 2-が、SOガスとして揮散し、その含有量が低減するのを防止する観点からは、硫化水素の導入は、SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液を加熱する前が好ましい。
 ステップS1におけるハロゲン化リチウムは、例えば、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられ、これらの1種を用いても2種以上を用いてもよい。中でも、得られた複合体粉末を原材料として用いた際に得られる硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導度を高める観点から、塩化リチウム、臭化リチウムが好ましく、臭化リチウムがより好ましい。
 ハロゲン化リチウム水溶液中のハロゲン化リチウムの濃度は特に限定されないが、例えば10~40質量%が好ましく、15~35質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。ここで、得られた複合体粉末を含む水溶液について、乾燥により除去する溶媒量を増やさない観点から、ハロゲン化リチウムの濃度は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。一方、溶け残りの発生を防ぐ観点から、ハロゲン化リチウムの濃度は40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。なお、ハロゲン化リチウムとして2種以上が用いられる場合には、それらの合計の濃度が上記範囲内であることが好ましい。
 ステップS1b及びステップS1cのようにハロゲン化リチウム水溶液がSO 2-を含む場合、本実施形態に係る製造方法は、図5に示すように、ステップS0として、炭酸リチウム及び水酸化リチウムの少なくとも一方から、SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液を得る工程をさらに含むことが好ましい。
 上記炭酸リチウム及び水酸化リチウムの少なくとも一方はSO 2-を含む。このSO 2-を含む、炭酸リチウム及び水酸化リチウムの少なくとも一方を、例えばハロゲン化水素酸と反応させることで、SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液が得られる。
 ハロゲン化水素酸は、例えばフッ酸、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素等のハロゲン化水素の水溶液である。このハロゲン化水素酸を、例えば、SO 2-を含む炭酸リチウムと反応させることにより、LiCO+2HX→2LiX+HCOの化学反応が起き、ハロゲン化リチウム水溶液が得られる。また、炭酸リチウムに含まれていたSO 2-は、得られたハロゲン化リチウム水溶液中にそのまま含まれる。ただし、pHが酸性側に偏ると、SO 2-がSOガスとして飛散しやすいので、pHを7以上にて取り扱うことが好ましい。
 SO 2-を含む炭酸リチウムに代えて、SO 2-を含む水酸化リチウムを用いた場合についても同様である。
 また、ハロゲン化リチウム水溶液になった後、水溶液中に含まれる硫黄成分の酸化還元反応により、SO 2-が生成されることで、SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液が得られてもよい。上記硫黄成分とは、例えば、S、SO 2-、HSO 、S 、SO、HS、S2-、及びそれらの金属化合物、塩等が挙げられる。
 SO 2-を含む炭酸リチウムや水酸化リチウムは、例えば、炭酸リチウムや水酸化リチウムに対して、HSO(亜硫酸)の水溶液を添加することや、SOガス(亜硫酸ガス)と反応させることにより得られる。また、炭酸リチウム、水酸化リチウムを水溶液より合成する際、水溶液中に含まれる硫黄成分の酸化還元反応により、SO 2-が生成すること等によって、SO 2-を含む炭酸リチウムや水酸化リチウムを得てもよい。上記硫黄成分とは、例えば、S、SO 2-、HSO 、S 、SO、HS、S2-、及びそれらの金属化合物、塩等が挙げられる。
 炭酸リチウムや水酸化リチウムに含まれるSO 2-濃度は、炭酸リチウムや水酸化リチウムに含まれるリチウム1モルに対して、0.0001~0.05モルが好ましく、0.0002~0.02モルがより好ましく、0.0005~0.01モルがさらに好ましい。ここで、本実施形態の効果を発現するために好適な単体硫黄の存在量を生成する観点から、上記SO 2-濃度は0.0001モル以上が好ましく、0.0002モル以上がより好ましく、0.0005モル以上がさらに好ましい。一方、過剰なSO 2-が乾燥時にSOガスとなるのを防ぐ観点から、上記SO 2-濃度は0.05モル以下が好ましく、0.02モル以下がより好ましく、0.01モル以下がさらに好ましい。
 SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液は、上記のようにSO 2-を含む炭酸リチウムや水酸化リチウムから得る他、ハロゲン化リチウム水溶液に対して、直接HSO(亜硫酸)の水溶液やLiSO、NaSO等を添加することによっても得られる。
 ステップS1における加熱は、ハロゲン化リチウム水溶液、又は、SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液の沸点以上の温度で行い、溶媒が除去されるまで行う。なお、ここでの温度とは、ハロゲン化リチウム水溶液、又は、SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液の温度ではなく、加熱乾燥に用いる装置における加熱温度、すなわち設定温度を意味する。
 ハロゲン化リチウム水溶液の沸点は、溶媒が水であることから常圧で100℃程度であり、上記加熱温度は100~240℃が好ましく、150~240℃がより好ましく、170~220℃がさらに好ましく、190~200℃が特に好ましい。ここで、ハロゲン化リチウムは潮解性が強いため、水分を含まない粉体を得るためには、乾燥に過剰な温度と時間をかけることが好ましい。上記観点から、常圧の場合の加熱温度は150℃以上がより好ましく、170℃以上がさらに好ましく、190℃以上が特に好ましい。
 本実施形態に係る製造方法によれば、ハロゲン化リチウム水溶液の突沸を抑制できるため、上記のような過剰な温度をかけて乾燥しても、装置配管の閉塞や、装置内部への結晶付着に伴う計器の精度低下、原料投入/排出口の開閉阻害等を防げる。そのため、装置の連続運転が可能となり、また、装置内部の清掃頻度も低減できる。
 また、装置に必要な耐熱性が高くなると、装置コストが高くなる観点から、常圧の場合の加熱温度は240℃以下が好ましく、220℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。
 ハロゲン化リチウム水溶液の加熱は、減圧条件下で行うことが、溶媒の沸点を下げ、溶媒をより効果的に除去できることから好ましい。加熱時の圧力は50kPa以下が好ましく、40kPa以下がより好ましく、30kPa以下がさらに好ましい。圧力の下限は特に限定されないが、通常1kPa以上である。
 ハロゲン化リチウム水溶液の加熱を減圧条件下で行う場合の好ましい加熱温度は、減圧度によっても異なる。例えば20kPaで加熱を行う場合には、加熱温度は120~240℃が好ましく、140~220℃がより好ましく、160~200℃がさらに好ましい。ここで、上記加熱温度は120℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、160℃以上がさらに好ましい。また、装置に必要な耐熱性が高くなると、装置コストが高くなる観点から、加熱温度は240℃以下が好ましく、220℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。
 ハロゲン化リチウム水溶液の加熱を減圧条件下で行う場合の好ましい加熱温度は、減圧度によっても異なる。例えば2kPaで加熱を行う場合には、加熱温度は120~240℃が好ましく、140~220℃がより好ましく、160~200℃がさらに好ましい。ここで、上記加熱温度は120℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、160℃以上がさらに好ましい。また、装置に必要な耐熱性が高くなると、装置コストが高くなる観点から、加熱温度は240℃以下が好ましく、220℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。
 ハロゲン化リチウム水溶液の加熱時間は、ハロゲン化リチウムの濃度や溶媒の量によって異なり、また、溶媒が除去されればよいために特に限定されない。例えば、上記加熱時間は100~1000時間が好ましく、100~500時間がより好ましく、100~200時間がさらに好ましい。ここで、生産性の観点からは、上記加熱時間は1000時間以下が好ましく、500時間以下がより好ましく、200時間以下がさらに好ましい。また、乾燥を不足なく完了させる観点からは、加熱時間は100時間以上が好ましい。
 溶媒が除去されることで得られる複合体粉末に対し、ラマン分光分析により、ハロゲン化リチウム及び単体硫黄が含まれることを確認できる。
 また、所望により、複合体粉末に含まれる水分量は、カールフィッシャーにより測定できる。
 本実施形態に係る複合体粉末は、上述したように、ハロゲン化リチウム及び単体硫黄を含み、ハロゲン化リチウムの粉末と単体硫黄の粉末とが均質に分散した状態を示す。
 複合体粉末における単体硫黄の含有量は、0.01~5.0質量%が好ましく、0.02~3.0質量%がより好ましく、0.05~1.0質量%がさらに好ましい。ここで、ハロゲン化リチウム水溶液を乾燥して溶媒を除去する際の突沸を抑制し、生産性にも優れるといった効果を好適に発現する観点から、単体硫黄の含有量は0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましい。また、得られた複合体粉末を硫化物固体電解質の原材料として用いる際に、調合に必要な硫黄が過剰になるのを防ぐ観点から、単体硫黄の含有量は5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。
 上記単体硫黄の含有量は、単体硫黄の存在状態を実現するために添加する単体硫黄の粉末の量や、亜硫酸イオンの濃度、アルカリ金属硫化物濃度、硫化水素濃度等により調整できる。また、複合体粉末における単体硫黄の含有量は、高周波炉燃焼-赤外線吸収法でS元素を測定することにより求められる。
 上記複合体粉末における均質性は、複合体粉末に対する単体硫黄のばらつきにより評価できる。上記ばらつきは、15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。ばらつきの下限は特に限定されないが、通常5%以上となる。
 複合体粉末に対する単体硫黄のばらつきとは、複合体粉末を0.1gずつ、5点採取し、高周波炉燃焼-赤外線吸収法にてS元素を測定し、複合体粉末に対する単体硫黄の定量を行う。
 上記条件で求まる5点における複合体粉末に対する単体硫黄の含有量(質量%)をA1~A5とする。そして、下記式で表されるA1~A5の相加平均値Aave.を求める。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000001
 A1~A5及び上記式で得られたAave.を用いて、下記式よりばらつき(%)が求まる。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000002
 上記ばらつきは、ハロゲン化リチウム水溶液中における単体硫黄の分散状態を良化することにより低減できる。例えば、単体硫黄の粉末を添加する場合には、粒子径が小さい粉末を使用する方法や、ジェットミルで粉末を粉砕し、その粒子径を小さく方法等により、その分散状態を良化できる。
 本実施形態に係る複合体粉末は、硫化物固体電解質の原材料に用いられる。
 硫化物固体電解質の原材料には、Li元素を含む原材料、P元素を含む原材料、及びS元素を含む原材料に加え、任意で他の元素を含む原材料が用いられるが、本実施形態に係る複合体粉末は、上記のうち、少なくともLi元素を含む原材料として用いられる。
 硫化物固体電解質の原材料のうち、S元素を含む原材料として単体硫黄を使用したい場合には、本実施形態に係る複合体粉末を、Li元素を含む原材料及びS元素を含む原材料を兼ねる原材料として使用できる。
 また、硫化物固体電解質の原材料としてハロゲン元素を含む原材料を用いる場合には、本実施形態に係る複合体粉末は、Li元素を含む原材料に加え、ハロゲン元素を含む原材料を兼ねる原材料として使用できる。
 なお、本実施形態に係る複合体粉末をLi元素を含む原材料として使用し、S元素を含む原材料としては使用しない場合には、複合体粉末を単体硫黄の沸点以上の温度で加熱して単体硫黄を揮発させ除去する。これにより、ハロゲン化リチウム単体の粉末として使用できる。単体硫黄は、例えば、窒素雰囲気下、450~900℃において、1~10時間加熱することで揮発できる。
 上記の他、硫化物固体電解質の合成過程又は合成後に、単体硫黄の沸点以上の温度で加熱することによって、単体硫黄を揮発し、除去してもよい。
[硫化物固体電解質の製造方法]
 本実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法の一態様は、図6に示すように、下記ステップs1~s3を順に含む。
 ステップs1:Li元素を含む原材料、P元素を含む原材料、及びS元素を含む原材料を混合して原材料混合物を得る工程
 ステップs2:上記原材料混合物を加熱して溶融物を得る工程
 ステップs3:上記溶融物を冷却して結晶を析出する工程
 本実施形態に係る硫化物電解質の製造方法の別の一態様は、図7に示すように、下記ステップs’1及びs’2を順に含む。
 ステップs’1:Li元素を含む原材料、P元素を含む原材料、及びS元素を含む原材料を混合して原材料混合物を得る工程
 ステップs’2:上記原材料混合物を加熱して焼結体を得る工程
 上記ステップs1~s3を含む製造方法は溶融法であり、上記ステップs’1及びs’2を含む製造方法は固相合成法である。
 上記製造方法により得られる硫化物固体電解質の結晶構造は特に限定されない。例えば、Li11等のようなLPS系と呼ばれるLi元素、P元素、及びS元素を含む結晶構造を有する硫化物固体電解質、Li10GeP12等のようなLGPS系と呼ばれるLi元素、Ge元素、P元素、及びS元素を含む結晶構造を有する硫化物固体電解質、Li元素、P元素、S元素、及びHa元素を含むアルジロダイト型の結晶構造を有する硫化物固体電解質、Li-P-S-Ha系の結晶化ガラスからなる硫化物固体電解質、Sn元素を含む結晶構造を有する硫化物固体電解質等の粉末が挙げられる。
 硫化物固体電解質は結晶相と非晶質相とを含んでもよい。
 上記のうち、アルジロダイト型の結晶構造とは、組成式AgGeSで表される鉱物に由来する化合物群が有する結晶構造である。また、本実施形態に係る硫化物固体電解質は上記結晶構造に限らず、また、一部の元素が他の元素で置換されていてもよい。
 本実施形態に係る硫化物固体電解質がアルジロダイト型の結晶構造を有する場合、Ha元素として、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含むことがより好ましく、2種以上の元素を含むことがさらに好ましい。
 また、本実施形態に係る硫化物固体電解質は、Ha元素として、Cl及びBrの少なくとも1種を含むことがさらに好ましく、Cl及びBrを含むこともさらに好ましい。
 アルジロダイト型の結晶構造は上記構造を取ることが好ましいが、組成式としては、LiαPSβHaγで表され、5≦α≦7、4≦β≦6かつ1.3≦γ≦2の関係を満たすことが好ましい。かかる元素比は、5.1<α<6.3、4<β<5.3かつ1.4≦γ≦1.9の関係を満たすことがより好ましく、5.2<α<6.2、4.1<β<5.2かつ1.5≦γ≦1.8の関係を満たすことがさらに好ましい。
 すなわち、αについて、5以上が好ましく、5.1超がより好ましく、5.2超がさらに好ましく、また、7以下が好ましく、6.3未満がより好ましく、6.2未満がさらに好ましい。βについて、4以上が好ましく、4超がより好ましく、4.1超がさらに好ましく、また、6以下が好ましく、5.3未満がより好ましく、5.2未満がさらに好ましい。γについて、1.3以上が好ましく、1.4以上がより好ましく、1.5以上がさらに好ましく、また、2以下が好ましく、1.9以下がより好ましく、1.8以下がさらに好ましい。
 アルジロダイト型の結晶構造において、S元素の一部やP元素の一部が他の元素に置換されていてもよい。S元素の一部は、例えば、Ha元素やO元素、さらにはSe元素、Te元素、BH、CN等に置換されていてもよい。また、P元素の一部は、例えば、Si元素、Al元素、Sn元素、In元素、Cu元素、Sb元素、Ge元素等に置換されていてもよい。
 本実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法では、溶融法におけるステップs1や固相合成法におけるステップs’1において、少なくともLi元素を含む原材料として、上記[複合体粉末及びその製造方法]に記載の複合体粉末を用いる。
 溶融法を用いた硫化物固体電解質の製造方法について説明する。
 ステップs1は、Li元素を含む原材料、P元素を含む原材料、及びS元素を含む原材料を混合して原材料混合物を得る工程である。目的とする硫化物固体電解質によっては、上記原材料混合物はさらにHa元素を含む原材料を含む。なお、本明細書において、Ha元素とは、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。
 所望する硫化物固体電解質の組成に合わせて、原材料は他の元素を含んでいてもよい。硫化物固体電解質の組成に合わせるとは、例えば、Li元素、P元素、S元素等の一部が他の元素に置換されている場合には、その置換されている他の元素を含む原材料も含んでいてもよい。
 他の元素として、例えば、Si元素、Al元素、Sn元素、In元素、Cu元素、Sb元素、Ge元素、O元素等が挙げられる。
 Li元素を含む原材料として、上記[複合体粉末及びその製造方法]に記載のハロゲン化リチウム及び単体硫黄を含む複合体粉末を用いる。
 また、複合体粉末と共に、他のLi元素を含む原材料をさらに用いてもよい。この場合の他のLi元素を含む原材料は、従来公知のものを使用できる。
 上記複合体粉末は、ハロゲン化リチウムに加え、単体硫黄も含むが、複合体粉末をS元素を含む原材料としては使用しない場合には、複合体粉末を加熱して単体硫黄を揮発させ除去した上で、Li元素を含む原材料として使用する。また、単体硫黄を含んだ状態の複合体粉末をLi元素を含む原材料として使用し、硫化物固体電解質の合成過程又は合成後に加熱することで、単体硫黄を揮発させ、除去してもよい。
 他のLi元素を含む原材料として、金属リチウムやLiを含む化合物が挙げられる。Liを含む化合物として、例えば、硫化リチウム(LiS)、炭酸リチウム(LiCO)、硫酸リチウム(LiSO)、酸化リチウム(LiO)、及び水酸化リチウム(LiOH)等のリチウム化合物等が挙げられる。また、上記複合体粉末とは別に、ハロゲン化リチウムを別途使用してもよい。
 他のLi元素を含む原材料を併用する場合、取り扱いやすさの観点や反応性の観点から硫化リチウムが好ましい。一方で、硫化リチウムは高価であるため、製造コストを抑える観点からは、硫化リチウム以外のリチウム化合物や、金属リチウム等が好ましい。具体的には、金属リチウム、炭酸リチウム(LiCO)、硫酸リチウム(LiSO)、酸化リチウム(LiO)及び水酸化リチウム(LiOH)からなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 P元素を含む原材料は、従来公知のものを使用できる。
 具体的には、P単体やPを含む化合物を使用できる。また、P元素を含む原材料及びS元素を含む原材料を兼ねる化合物として、五硫化二リン(P)等を使用してもよい。
 P元素を含む原材料のうちPを含む化合物として、例えば、三硫化二リン(P)五硫化二リン(P)等の硫化リン、リン酸ナトリウム(NaPO)やチオリン酸リチウム(LiPS4-x)等のリン化合物等が挙げられる。
 P元素を含む原材料は、目的の硫化物固体電解質を構成する元素以外の元素の含有を防止する観点から、硫化リンが好ましく、五硫化二リン(P)がより好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 また、硫化物固体電解質が酸素元素を含む場合には、P元素を含む原材料として、例えば、P、LiPO、Li等のPを含む化合物が挙げられる。中でも、製造のし易さの観点からは、Pが好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
 S元素を含む原材料は、従来公知のものを使用できる。具体的には、単体硫黄やSを含む化合物を使用できる。一方で、本実施形態に係る複合体粉末はハロゲン化リチウムに加えて単体硫黄も含むことから、上記複合体粉末を、Li元素を含む原材料とS元素を含む原材料を兼ねる原材料として用いてもよく、複合体粉末と、他のS元素を含む原材料とを併用してもよい。
 他のS元素を含む原材料のうちSを含む化合物として、例えば、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、リンを含有するその他の硫黄化合物、及び、硫黄を含む化合物等が挙げられる。硫黄を含む化合物としては、HS、CS、FeS、Fe、FeS、Fe1-xS等の硫化鉄、硫化ビスマス(Bi)、CuS、CuS、Cu1-xS等の硫化銅等が挙げられる。
 他のS元素を含む原材料は、反応性の観点や、目的の硫化物固体電解質を構成する元素以外の元素の含有を防止する観点から、硫化リンが好ましく、五硫化二リン(P)がより好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、硫化リンはSを含む物質とPを含む物質を兼ねる化合物である。
 任意成分として、Ha元素を含む原材料を含む場合、本実施形態に係る複合体粉末はハロゲン化リチウムを含むことから、上記複合体粉末を、Li元素を含む原材料とHa元素を含む原材料を兼ねる原材料として用いてもよく、複合体粉末と、他のHa元素を含む原材料とを併用してもよい。
 ここで、本実施形態に係る硫化物固体電解質がアルジロダイト型の結晶構造を有する場合には、Li元素を含む原材料とHa元素を含む原材料とを兼ねる原材料として、又は、Li元素を含む原材料とHa元素を含む原材料とS元素を含む原材料とを兼ねる原材料として、上記[複合体粉末及びその製造方法]に記載の複合体粉末は非常に有用である。
 他のHa元素を含む原材料は、従来公知のものを使用できる。具体的には、例えば、フッ化リチウム(LiF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(LiI)等のハロゲン化リチウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化ホスホリル、ハロゲン化硫黄、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化ホウ素等が挙げられる。
 他のHa元素を含む原材料は、目的の硫化物固体電解質を構成する元素以外の元素の含有を防止する観点からは、ハロゲン化リチウムが好ましく、LiCl、LiBr、LiIがより好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 硫化物固体電解質を構成する元素として、Li、S、P及びHa以外の他の元素も含まれる場合には、上記他の元素を含む原材料も混合して原材料混合物を得る。
 任意成分として、Si元素を含む原材料としては、例えば、SiO、SiSが挙げられる。中でも、リチウムイオン伝導率と耐水性の観点からは、SiOがより好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
 任意成分として、Al元素を含む原材料としては、例えば、Al、Al、AlClが挙げられる。中でも、リチウムイオン伝導率の観点からは、Al、AlClが好ましく、Alがより好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
 任意成分として、Sn元素を含む原材料としては、例えば、SnS、SnS、SnO、SnO、SnClが挙げられる。中でも、リチウムイオン伝導率の観点からは、SnS、SnClが好ましく、SnSがより好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
 任意成分として、In元素を含む原材料としては、例えば、In、In、InClが挙げられる。中でも、リチウムイオン伝導率の観点からは、In、InClが好ましく、Inがより好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
 任意成分として、Cu元素を含む原材料としては、例えば、CuO、CuO、CuS、CuS、CuClが挙げられる。中でも、リチウムイオン伝導率の観点からは、CuS、CuClが好ましく、CuSがより好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
 任意成分として、Sb元素を含む原材料としては、例えば、Sb、Sb、SbClが挙げられる。中でも、リチウムイオン伝導率の観点からは、Sb、SbClが好ましく、Sbがより好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
 任意成分として、Ge元素を含む原材料としては、例えば、GeO、GeS、GeS、GeClが挙げられる。中でも、リチウムイオン伝導率の観点からは、GeS、GeClが好ましく、GeSがより好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
 任意成分として、B元素を含む原材料としては、例えば、B、B、BClが挙げられる。中でも、リチウムイオン伝導率の観点からは、B、BClが好ましく、Bがより好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
 原材料の混合は、例えば、乳鉢での混合や、遊星ボールミルのようなメディアを用いた混合、ピンミルや粉体撹拌機、気流混合の様なメディアレス混合等により行える。
 ステップs2は、ステップs1で得られた原材料混合物を加熱して溶融物を得る工程である。
 ステップs2における原材料混合物の加熱溶融の具体的な方法は特に限定されず、耐熱性の容器に原材料を入れて、加熱炉で加熱する。耐熱性の容器に原材料混合物を封入してもよい。また、硫黄元素を含む雰囲気中等において溶融を行ってもよい。硫黄元素を含む雰囲気とは、硫黄ガス、硫化水素ガス、二酸化硫黄ガスなどの硫黄元素を含むガスと、不活性ガスとの混合ガス雰囲気等が挙げられる。
 耐熱性の容器は、カーボン製の耐熱性容器、石英、石英ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルミノシリケートガラス、アルミナ、ジルコニア、ムライト等の酸化物を含有した耐熱性容器、窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物を含有した耐熱性容器、炭化ケイ素などの炭化物を含有した耐熱性容器等を用いてもよい。また、これらの耐熱性容器は、上記の材質でバルクが形成されていてもよいし、カーボンコートされた石英管のようにカーボンや、酸化物、窒化物、炭化物等の層が形成された容器であってもよい。
 原材料混合物を加熱溶融する際の加熱温度は、用いる原材料や原材料混合物の組成によっても異なるが、例えば550~1000℃が好ましく、600~950℃がより好ましく、630~900℃がさらに好ましく、650~800℃が特に好ましい。ここで、加熱温度は、原材料の溶融性を高め、短時間で融液を均質化させる観点から550℃以上が好ましく、600℃以上がより好ましく、630℃以上がさらに好ましく、650℃以上が特に好ましい。また、加熱温度は、成分の加熱による劣化抑制や成分の揮散による組成ズレ抑制、さらには分解抑制の観点から、1000℃以下が好ましく、950℃以下がより好ましく、900℃以下がさらに好ましく、800℃以下が特に好ましい。
 加熱溶融の時間はスケールによっても異なるが、10分~10時間が好ましく、30分~9.5時間がより好ましく、45分~9時間がさらに好ましく、1~9時間が特に好ましい。ここで、反応を良好に進行させる観点から、加熱溶融の時間は10分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、45分以上がさらに好ましく、1時間以上が特に好ましい。また、生産性の観点から、加熱溶融の時間は10時間以下が好ましく、9.5時間以下がより好ましく、9時間以下がさらに好ましい。
 加熱溶融時の圧力は特に限定されないが、例えば常圧又は微加圧が好ましく、常圧がより好ましい。
 加熱溶融時の露点は-20℃以下が好ましく、下限は特に制限されないが、通常-80℃程度である。酸素濃度は1000体積ppm以下が好ましい。
 ステップs2において、溶融物が完全溶解していることは、高温X線回折測定において、結晶由来のピークが存在しないことにより確認できる。
 続くステップs3は、上記ステップs2で得られた溶融物を冷却して結晶を析出する工程である。析出により得られる結晶が硫化物固体電解質となる。
 冷却は公知の方法で行えばよく、その方法は特に限定されない。冷却のより具体的な方法として、例えば、溶融物をカーボン製等の板状体の上に流し出して冷却する方法;双ロール法に代表される、狭い隙間に流し込んで薄く成形する方法;ガスアトマイズ法;等が挙げられる。
 冷却速度は、0.1~10000℃/秒が好ましく、0.5~5000℃/秒がより好ましく、1~1000℃/秒がさらに好ましい。ここで、組成均質性を高め、品質のバラつきを抑える観点から、冷却速度は0.1℃/秒以上が好ましく、0.5℃/秒以上がより好ましく、1℃/秒以上がさらに好ましい。また、冷却速度の上限値は特に限定されないが、一般的に急冷速度が最も速いと言われる双ローラーの冷却速度を加味すると、上限値は1000000℃/秒以下であり、実生産の観点からは、冷却速度は10000℃/秒以下がより好ましく、5000℃/秒以下がさらに好ましく、1000℃/秒以下がよりさらに好ましい。
 冷却時の雰囲気は、ステップs2の加熱溶融時と同様に、低水分量、不活性雰囲気が好ましい。
 上記ステップs1~s3を含む硫化物固体電解質の製造方法において、所望により、粉砕する工程や加熱処理する工程をさらに含んでいてもよい。
 粉砕する工程は、湿式粉砕、乾式粉砕のいずれを用いてもよい。また、ステップs3の冷却方法として、冷却と粉末化を同時にできるアトマイズ方法を採用する場合には、ステップs3にて粉砕する工程が兼ねられる。
 粉砕する工程により、硫化物固体電解質の平均粒子径を1~100μmとすることが好ましい。ここで、平均粒子径とは、レーザー回折法を用いた粒度分布計を用いて粒度分布を測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートから求められる、粒子の50体積%がその値以下の粒子径を意味するメジアン径(D50)をいう。
 加熱処理する工程は、硫化物固体電解質として、均質性を高め、品質を安定化することを目的とする。
 得られた硫化物固体電解質を加熱処理する場合、加熱温度は硫化物固体電解質の組成によって異なるものの、例えば、200~600℃が好ましく、350~500℃がより好ましく、380~460℃がさらに好ましく、400~450℃が特に好ましい。ここで、硫化物固体電解質の均質化及び品質の安定化の観点から、加熱温度は200℃以上が好ましく、350℃以上がより好ましく、380℃以上がさらに好ましく、400℃以上が特に好ましい。また、粒子同士の焼結を防ぐ観点から、600℃以下が好ましく、500℃以下がより好ましく、460℃以下がさらに好ましく、450℃以下が特に好ましい。
 また、得られた硫化物固体電解質中に、複合体粉末由来の過剰な単体硫黄が残っていた場合には、単体硫黄の沸点よりも高い温度で上記加熱処理することにより、かかる過剰な単体硫黄の除去もできる。なお、この加熱処理で除去されるのは単体硫黄であり、硫化物固体電解質の結晶構造を構成するS元素までもが除去されるものではない。
 硫化物固体電解質を加熱処理する場合、加熱時間は硫化物固体電解質の組成によって異なるものの、例えば、10分~10時間が好ましく、30分~9.5時間がより好ましく、45分~9時間がさらに好ましく、1~9時間が特に好ましい。ここで、硫化物固体電解質の均質化及び品質の安定化の観点から、加熱処理の時間は10分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、45分以上がさらに好ましく、1時間以上が特に好ましい。また、製造コストの観点から、加熱処理の時間は10時間以下が好ましく、9.5時間以下がより好ましく、9時間以下がさらに好ましい。
 硫化物固体電解質を加熱処理する場合、加熱処理時のSO濃度以外の雰囲気は、不活性雰囲気が好ましい。不活性雰囲気とは、例えば、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気等が挙げられる。
 上記加熱処理時の露点は-20℃以下が好ましく、下限は特に制限されないが、通常-80℃程度である。酸素濃度は1000体積ppm以下が好ましい。
 固相合成法を用いた硫化物固体電解質の製造方法について説明する。
 ステップs’1は、Li元素を含む原材料、P元素を含む原材料、及びS元素を含む原材料を混合して原材料混合物を得る工程である。
 ステップs’1における各原材料は、上述した溶融法におけるステップs1の各原材料と、好ましい態様も含め同様である。
 ステップs’1における混合は、従来公知の方法を採用できるが、メカニカルミリングによる混合が好ましい。ボールミルを用いたメカニカルミリング法を用いる場合、容器に自転運動を与える回転ボールミル、振動運動を与える振動ボールミル、公転と自転運動を与える遊星ボールミル、ビーズミル、アトライタ(登録商標)等が挙げられる。中でも、より混合力や粉砕力の高い遊星ボールミルやビーズミルが好ましい。
 ボールミルは乾式混合でも、分散媒を用いた湿式混合でもよいが、エネルギーを効率良く伝える観点から、乾式混合が好ましい。
 上記混合により原材料が混合され、原材料混合物となる。この原材料混合物は、硫化物固体電解質の前駆体となる。上記前駆体は、従来よりも非常に厳しい混合条件を採用することにより非晶質化された、均質なアモルファスな中間体化合物でもよい。アモルファスな中間体化合物は、原材料に由来するXRDピークが観測されないことを意味する。
 ステップs’2は、上記原材料混合物を加熱して焼結体を得る工程である。加熱による結晶化で得られた焼結体が、硫化物固体電解質となる。
 原材料混合物の加熱温度は、目的とする硫化物固体電解質の組成によって異なるものの、350~600℃が好ましく、400~575℃がより好ましく、450~550℃がさらに好ましい。ここで、結晶化を促進する観点から、加熱温度は350℃以上が好ましく、400℃がより好ましく、450℃がさらに好ましい。また、熱分解を抑制する観点から、加熱温度は600℃以下が好ましく、575℃以下がより好ましく、550℃以下がさらに好ましい。
 なお、固相合成法は通常開放系ではなく、密閉系で行うことが多い。密閉系であれば、本実施形態に係る複合体粉末中に含まれる単体硫黄を、硫化物固体電解質を構成するためのS元素を含む原材料として使用したい場合にも、上記温度範囲を採用できる。これは、上記加熱により単体硫黄が気化しても、気化した単体硫黄が系内に留まるため、硫化物固体電解質の結晶構造を構成するS元素になり得るためである。
 また、複合体粉末中に含まれる単体硫黄を、硫化物固体電解質を構成するためのS元素を含む原材料として使用しない場合には、硫化物固体電解質を得た後に、単体硫黄の沸点以上の温度で硫化物固体電解質を加熱処理することにより、単体硫黄を除去できる。
 原材料混合物を加熱処理し、結晶化させて硫化物固体電解質を得る場合の加熱処理の時間は、目的とする硫化物固体電解質の組成によって異なるものの、例えば、1~100時間が好ましく、2~50時間がより好ましく、4~24時間がさらに好ましい。ここで、結晶化を促進する観点から、加熱処理の時間は1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、4時間以上がさらに好ましい。また、製造コストの観点から、加熱処理の時間は100時間以下が好ましく、50時間以下がより好ましく、24時間以下がさらに好ましい。
 原材料混合物を加熱処理し、結晶化させて硫化物固体電解質を得る場合の、加熱処理時の雰囲気は、不活性雰囲気が好ましい。不活性雰囲気とは、例えば、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気等が挙げられる。
 上記加熱処理時の露点は-20℃以下が好ましく、下限は特に制限されないが、通常-80℃程度である。酸素濃度は1000体積ppm以下が好ましい。
 上記ステップs’1及びs’2を含む硫化物固体電解質の製造方法において、所望により、粉砕する工程や加熱処理する工程をさらに含んでいてもよい。
 この場合の粉砕する工程、加熱処理する工程の各々は、上記ステップs1~s3を含む硫化物固体電解質の製造方法において含んでいてもよい粉砕する工程及び加熱処理する工程と同様であり、好ましい態様も同様である。
 以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
 例1-1~例1-4及び例2-1~例2-4は実施例であり、例1-5は比較例である。
[例1-1]
 水300.0gに炭酸リチウム75.0gを添加し、48質量%臭化水素酸342.2gと反応させることで、26.2質量%の臭化リチウム水溶液を調製した。
 得られた26.2質量%臭化リチウム水溶液672.5gに、単体硫黄(コロイド硫黄)を1.0g添加することで、単体硫黄の存在状態とした。単体硫黄の添加後、超音波ホモジナイザーを1分かけることで、単体硫黄の分散性を高めた。
 かかる状態の下、26.2質量%臭化リチウム水溶液672.5gを振動乾燥装置に入れ、圧力:2kPa、容器周囲を覆うジャケット温度:160℃として溶媒の除去を行った。上記ジャケット温度について、室温から160℃まで100時間かけて昇温し、160℃で24時間保持した後、温度を室温まで下げた。上記により、溶媒が除去され、乾燥した粉末を得た。
 得られた粉末は、ラマン分光分析により、臭化リチウムの他、単体硫黄が含まれることを確認した。また、得られた粉末について0.1gずつ、5点採取し、高周波炉燃焼-赤外線吸収法にて、複合体粉末に対する単体硫黄の含有量A1~A5を求めた。そして、下記式で表されるA1~A5の相加平均値Aave.を求めた。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000003
 A1~A5及び上記式で得られたAave.を用いて、下記式よりばらつき(%)を求めた。得られたAave.の値を「単体硫黄含有量」、ばらつきを「均質性、ばらつき」として、それぞれ表1に示すが、得られた粉末が均質性の高い複合体粉末であることを確認した。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000004
[例1-2]
 水300.0gに炭酸リチウム75.0gを添加し、48質量%臭化水素酸342.2gと反応させることで、26.2質量%の臭化リチウム水溶液を調製した。
 得られた26.2質量%臭化リチウム水溶液672.5gに、5質量%亜硫酸水溶液を15g添加することで、亜硫酸イオンを含む26.2質量%臭化リチウム水溶液を得た。
 得られた亜硫酸イオンを含む26.2質量%臭化リチウム水溶液672.5gに、硫化リチウムを1.1g添加したところ、溶液は白濁し、単体硫黄の存在状態となった。これは、SO 2-がLiSにて還元され、Sが生成したものと考えらえる。次に、超音波ホモジナイザーを1分かけることで、単体硫黄の分散性を高めた。
 かかる状態の下、26.2質量%臭化リチウム水溶液672.5gを振動乾燥装置に入れ、例1-1と同様にすることで、溶媒が除去された乾燥した粉末を得た。
 得られた粉末は、ラマン分光分析により、臭化リチウムの他、単体硫黄が含まれることを確認した。また、例1-1と同様に、高周波炉燃焼-赤外線吸収法にて、複合体粉末に対する単体硫黄の定量を行い、ばらつきを確認した。結果を表1に示すが、得られた粉末は均質性の高い複合体粉末であることを確認した。
[例1-3]
 水300.0gに炭酸リチウム75.0gを添加し、48質量%臭化水素酸342.2gと反応させることで、26.2質量%の臭化リチウム水溶液を調製した。
 得られた26.2質量%臭化リチウム水溶液672.5gに、5質量%亜硫酸水溶液を15g添加することで、亜硫酸イオンを含む26.2質量%臭化リチウム水溶液を得た。
 得られた亜硫酸イオンを含む26.2質量%臭化リチウム水溶液672.5gに、硫化水素ガスを、流量0.1SLMにて10分間バブリングしたところ、溶液は白濁し、単体硫黄の存在状態となった。これは、SO 2-がHSにて還元され、Sが生成したものと考えらえる。次に、超音波ホモジナイザーを1分かけることで、単体硫黄の分散性を高めた。
 かかる状態の下、26.2質量%臭化リチウム水溶液672.5gを振動乾燥装置に入れ、例1-1と同様にすることで、溶媒が除去された乾燥した粉末を得た。
 得られた粉末は、ラマン分光分析により、臭化リチウムの他、単体硫黄が含まれることを確認した。また、例1-1と同様に、高周波炉燃焼-赤外線吸収法にて、複合体粉末に対する単体硫黄の定量を行い、ばらつきを確認した。結果を表1に示すが、得られた粉末は均質性の高い複合体粉末であることを確認した。
[例1-4]
 水300.0gに亜硫酸成分を含む炭酸リチウム75.0gを添加し、48質量%臭化水素酸342.2gと反応させることで、亜硫酸イオンを含む26.2質量%の臭化リチウム水溶液を調製した。上記亜硫酸成分を含む炭酸リチウムは、炭酸リチウム75.0gに5質量%亜硫酸水溶液を15g添加することで得た。
 得られた亜硫酸イオンを含む26.2質量%臭化リチウム水溶液672.5gに、硫化水素ガスを、流量0.1SLMにて10分間バブリングしたところ、溶液は白濁し、単体硫黄の存在状態となった。これは、SO 2-がHSにて還元され、Sが生成したものと考えらえる。次に、超音波ホモジナイザーを1分かけることで、単体硫黄の分散性を高めた。
 かかる状態の下、26.2質量%臭化リチウム水溶液672.5gを振動乾燥装置に入れ、例1-1と同様にすることで、溶媒が除去された乾燥した粉末を得た。
 得られた粉末は、ラマン分光分析により、臭化リチウムの他、単体硫黄が含まれることを確認した。また、例1-1と同様に、高周波炉燃焼-赤外線吸収法にて、複合体粉末に対する単体硫黄の定量を行い、ばらつきを確認した。結果を表1に示すが、得られた粉末は均質性の高い複合体粉末であることを確認した。
[例1-5]
 水300.0gに炭酸リチウム75.0gを添加し、48質量%臭化水素酸342.2gと反応させることで、26.2質量%の臭化リチウム水溶液を調製した。
 得られた26.2質量%臭化リチウム水溶液672.5gを振動乾燥装置に入れ、例1-1と同様にすることで、溶媒が除去された乾燥した粉末を得た。
 得られた粉末は、ラマン分光分析により、単体硫黄を含まない臭化リチウムの粉末であることを確認した。得られた粉末に単体硫黄が含まれていないため、均質性に関するばらつきの評価は行わなかった。
[評価:突沸抑制]
 例1-1~例1-5のそれぞれについて、得られた粉末を振動乾燥装置から回収し、装置内部の汚染状況を確認した。具体的には、装置内部における、ハロゲン化リチウム水溶液の突沸による飛散に伴う、ハロゲン化リチウムを含む固体による汚染状況を、以下の3箇所について確認した。(1)減圧のための排気口フィルター(2)温度測定のための熱電対(3)得られた粉末を排出するための排出口可動部
 結果を表1の「フィルター」、「熱電対」、「排出口」にそれぞれ示すが、それらの評価基準は下記のとおりである。
(1)フィルター
 ○:排気口フィルターへの付着がないか、軽微であり、装置内部を減圧可能
 ×:排気口フィルターが付着により閉塞しており、装置内部の減圧が困難
(2)熱電対
 ○:熱電対への付着がないか、軽微であり、正確な温度測定が可能
 ×:熱電対への付着が多く、正確な温度測定が不可能
(3)排出口
 ○:排出口可動部への付着がないか、軽微であり、排出口の開閉が可能
 ×:排出口可動部への付着が多く、排出口の開閉が阻害される
 また、総合評価として、上記(1)~(3)のすべてが○である場合を良好:○とし、上記(1)~(3)のうちひとつでも×である場合には、装置内部の清掃が必要な状態であり、複合体粉末を連続生産できない状態であるとして、不良:×とした。
[評価:着火性評価]
 例1-1~例1-4で得られたLiBrとSを含む複合体粉末に、火を近づけ、着火性を評価した。その結果、いずれも着火しないことが確認された。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000005
[例2-1~例2-4]
 上記で得られた例1-1~例1-4の各複合体粉末をメノウ乳鉢によりさらに粉砕し、平均粒子径が200μm以下の粉末状とした。そして、Li5.3PS4.2Cl0.8Br0.8の組成比となるように、上記各複合体粉末と、硫化リチウム粉末(Sigma社製)、五硫化二リン粉末(Sigma社製)、塩化リチウム粉末(Sigma社製)及び、臭化リチウム粉末(Sigma社製)と、を所定の量にて乳鉢混合し、原材料混合物を得た。
 原材料混合物を700℃で1時間加熱することで溶融物を得た後、1000℃/分で冷却することで、例2-1~例2-4の硫化物固体電解質を得た。
 得られた硫化物固体電解質に対して粉末X線回折測定を行い、リートベルト解析の結果、いずれもLi5.3PS4.2Cl0.8Br0.8の組成を有するアルジロダイト型結晶構造を有することを確認した。
 上記結果より、ハロゲン化リチウム水溶液を単体硫黄の存在状態の下で加熱することにより、突沸を抑制できることが分かった。そのため、ハロゲン化リチウム水溶液の溶媒除去に、沸点以上の過剰な温度を採用できることが示され、その結果ハロゲン化リチウム粉末を短時間で生産性高く得られるようになる。
 また、突沸が抑制されることにより、装置内部の汚染が防がれ、同じ装置を用いたハロゲン化リチウムの連続生産が可能となる点でも、生産性が高いと言える。
 また、本実施形態に係る製造方法で得られる複合体粉末は、火を近づけても着火せず、好適に硫黄単体である場合と異なり、粉塵爆発を防止できることが分かった。
 さらに、本実施形態に係る製造方法で得られる複合体粉末は、例2-1~例2-4で示すように、これを原料として硫化物固体電解質が得られる。例2-1~例2-4では、単体硫黄の沸点よりも高い700℃で溶融物を得ているため、複合体粉末はLi元素を含む原材料とハロゲン元素を含む原材料を兼ねる原材料として用いられる。
 一方、溶融物を単体硫黄の沸点以下で得ることにより、S元素を含む原材料をさらに兼ねる材料として、複合体粉末を使用してもよい。また、本実施形態に係る製造方法で得られる複合体粉末を原材料として用い、密閉系の固相合成法により硫化物固体電解質を得ることで、上記複合体粉末をS元素を含む原材料を兼ねる材料として使用してもよい。
 本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2022年12月28日出願の日本特許出願(特願2022-212574)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。

Claims (11)

  1.  硫化物固体電解質の原材料に用いられる複合体粉末の製造方法であって、
     単体硫黄の存在状態の下で、ハロゲン化リチウム水溶液を沸点以上の温度で加熱し、溶媒を除去することを含む、
     ハロゲン化リチウム及び単体硫黄を含む複合体粉末の製造方法。
  2.  単体硫黄の粉末を前記ハロゲン化リチウム水溶液へ添加することにより、前記単体硫黄の存在状態とする、請求項1に記載の複合体粉末の製造方法。
  3.  前記ハロゲン化リチウム水溶液はSO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液であり、
     アルカリ金属硫化物を前記ハロゲン化リチウム水溶液へ添加することにより、前記単体硫黄の存在状態とする、請求項1に記載の複合体粉末の製造方法。
  4.  前記ハロゲン化リチウム水溶液はSO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液であり、
     硫化水素を前記ハロゲン化リチウム水溶液へ導入することにより、前記単体硫黄の存在状態とする、請求項1に記載の複合体粉末の製造方法。
  5.  炭酸リチウム及び水酸化リチウムの少なくとも一方から前記SO 2-を含むハロゲン化リチウム水溶液を得ることを含み、
     前記炭酸リチウム及び水酸化リチウムの少なくとも一方はSO 2-を含む、請求項3又は4に記載の複合体粉末の製造方法。
  6.  前記ハロゲン化リチウム水溶液は臭化リチウムの水溶液を含む、請求項2~4のいずれか1項に記載の複合体粉末の製造方法。
  7.  Li元素を含む原材料、P元素を含む原材料、及びS元素を含む原材料を混合して原材料混合物を得ること、
     前記原材料混合物を加熱して溶融物を得ること、及び、
     前記溶融物を冷却して結晶を析出すること、を含み、
     少なくとも前記Li元素を含む原材料として、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法により得られた前記複合体粉末を用いる、硫化物固体電解質の製造方法。
  8.  Li元素を含む原材料、P元素を含む原材料、及びS元素を含む原材料を混合して原材料混合物を得ること、及び、
     前記原材料混合物を加熱して焼結体を得ること、を含み、
     少なくとも前記Li元素を含む原材料として、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法により得られた前記複合体粉末を用いる、硫化物固体電解質の製造方法。
  9.  ハロゲン化リチウム及び単体硫黄を含み、硫化物固体電解質の原材料に用いられる複合体粉末。
  10.  前記複合体粉末に対する前記単体硫黄のばらつきは15%以下である、請求項9に記載の複合体粉末。
  11.  前記ハロゲン化リチウムは臭化リチウムを含む、請求項9又は10に記載の複合体粉末。
PCT/JP2023/046403 2022-12-28 2023-12-25 硫化物固体電解質の原材料に用いられる複合体粉末及びその製造方法、並びに、硫化物固体電解質の製造方法 WO2024143266A1 (ja)

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