WO2024075449A1 - 可動シンカーを備える横編機および可動シンカー - Google Patents

Abstract

歯口に進退する方向に移動する軌跡での移動ストロークが制限されても、編目や編地に作用する部分が制限を受けないようにすることが可能な、可動シンカーを備える横編機および可動シンカーを提供する。　実線で示す可動シンカー１は、受動腕２ａへのシンカーカム１９による押圧で、作用領域４が歯口１１から退出している状態となっている。シンカーカム１９による受動腕２ａへの押圧を減少させると、線ばね１ａによる付勢で、可動シンカー１の作用領域４は、破線で示す位置に移動する。この移動の過程で、押圧ワイヤ１６ａが可動シンカー１の受圧部７を押圧し、作用部６，受圧部７、ばね部８および規制部９を破線で示す位置および形状となるように変化させるので、移動腕５の軌跡が制限されても、編目や編地に作用する作用部６の軌跡は制限を受けないようにすることが可能となる。

Description

可動シンカーを備える横編機および可動シンカー

　本発明は、編針とともに歯口に進退し、編地編成に関連する作用を行う可動シンカーを備える横編機および可動シンカーに関する。

　従来から、横編機による編地編成は、編針の先端のフックを歯口に進退させて行われている。歯口に進入したフックには編糸が給糸され、フックを針床に退出させると、フックでニードルループを、編針間に配置されるシンカーでシンカーループを、それぞれ形成する。可動シンカーは、シンカーループを形成する部分の下方となる先端部分に、編目を歯口下方に押さえる部分を設け、その部分を歯口に進入させて編目を押える。新たな編目を形成する際には、可動シンカーは、編目を押える部分を編目から浮かせて、編目を押さえる作用は停止する（たとえば、特許文献１参照）。可動シンカーを、シンカーループ形成用の固定シンカーとともに使用することもある（たとえば、特許文献２参照）。このような固定シンカーと併用する可動シンカーは、歯口に進退する先端に爪が設けられ、歯口を挟む両側の針床の一方から爪を編地に掛けて押し下げる機能を持たせることができる。編地を押し下げる機能は、固定シンカーと併用しない可動シンカーにも持たせることができる。

　特許文献１や特許文献２のような可動シンカーは、揺動で歯口に進退する方向に移動する先端部分が、揺動支点からの径に応じた円弧状の軌跡に従って移動する。揺動する可動シンカーは、揺動支点が歯口から間隔を空けた位置に設定され、揺動のための駆動部と揺動支点との距離よりも、揺動支点から先端部分への揺動半径が大きくなるほど、先端部分の移動ストロークを大きくすることができる。可動シンカーとしては、揺動ではなく、直動で歯口に進退するものも用いられている。直動の可動シンカーは、シンカー床に設けられて底が平坦なシンカー溝に収容され、シンカー溝内を摺動する。

特公平５－８３６５７号公報 特開２０１７－８９０３３号公報

　可動シンカーが歯口に進入して編地を押し下げる場合などは、可動シンカーが編地に掛かって押し下げる区間の移動ストロークが大きいことが望ましい。移動ストロークを大きくするためには、可動シンカーのサイズを大きくしたり、大きな移動ストロークを許容する取付け位置を設定したりする必要がある。しかしながら、可動シンカーのサイズと取付け位置とに基づく軌跡は、他部品との干渉を避けるために制限される。たとえば、編地を押さえるステッチプレッサーを使用する場合、円弧状に揺動する可動シンカーでは、干渉を避けるために、先端部分の揺動半径を小さくする必要がある。可動シンカーのサイズや取付け位置が制限を受けると、移動ストロークが制限を受け、先端部分の爪などが編地を押し下げる位置などにも影響する。

　本発明の目的は、歯口に進退する方向に移動する可動シンカーの軌跡が制限を受けても、編目や編地に作用する部分の移動ストロークの大きさは制限を受けないようにすることが可能な、可動シンカーを備える横編機および可動シンカーを提供することである。

　本発明は、針床の長手方向に並設される編針の先端が歯口に進退して、歯口上方から給糸される編糸で編地を編成し、編成した編地を歯口下方に垂下させる横編機であって、
　編地編成に関連する駆動を受けることが可能な受動領域と、受動領域への駆動で、歯口に進退する方向に移動する作用領域とを有する可動シンカーを備える横編機において、
　可動シンカーの作用領域は、
　　移動腕と受圧部と作用部と弾性片とを少なくとも含み、
　受圧部は、押圧を受けることが可能であり、
　作用部は、歯口に進退して、編地編成に関連する作用の少なくとも一部を行うことが可能であり、
　弾性片は、受圧部および作用部と移動腕とを接続して、受圧部への押圧で弾性変形し、
　横編機は、
　　可動シンカーの移動腕を、歯口に進退する方向の移動が可能なように支持する支持機構と、
　　可動シンカーの受動領域を駆動して、移動腕を第一軌跡で移動させる駆動機構と、
　　第一軌跡の少なくとも途中に設置され、可動シンカーの受圧部を押圧し、作用部を第一軌跡から第一軌跡とは異なる第二軌跡に移行させる押圧手段と、
をさらに含むことを特徴とする可動シンカーを備える横編機である。

　また本発明で、前記押圧手段は、前記可動シンカーの前記受圧部が前記第一軌跡で通過する区域を、前記長手方向に貫通するワイヤである、
ことを特徴とする。

　また本発明で、前記可動シンカーの前記作用部は、編目または編地に掛かる爪であり、
　前記第二軌跡は、前記第一軌跡よりも歯口側の位置を通る、
ことを特徴とする。

　また本発明で、前記可動シンカーの前記爪は、
　　前記押圧手段による前記受圧部への押圧で前記第一軌跡から移行する前記第二軌跡で前記歯口下方に垂下する編地を捉え、
　　押圧手段による受圧部への押圧の解除で、第二軌跡から第一軌跡側に戻る際に編地を歯口下方に押し下げる、
ことを特徴とする。

　また本発明で、前記可動シンカーは、揺動して前記第一軌跡は円弧状となり、
　前記ワイヤは、前記針床の前記歯口側の先端に設ける歯口ワイヤであり、
　前記爪は、円弧状の第一軌跡で歯口ワイヤの上方を通過する、
ことを特徴とする。

　また本発明で、前記可動シンカーの前記作用部を、前記第一軌跡を含む範囲と前記第二軌跡を含む範囲とを合わせた範囲に留め、歯口を挟んで対向する針床側に出ないように規制する規制手段をさらに含む、
ことを特徴とする。

　さらに本発明は、横編機に備えられ、編地編成に関連する駆動を受ける受動領域と、受動領域への駆動で、歯口に進退する方向に移動する作用領域とを有する可動シンカーにおいて、
　作用領域は、
　　移動腕と受圧部と作用部と弾性片とを少なくとも含み
　受圧部は、押圧を受けることが可能であり、
　作用部は、横編機の歯口に進退して、編地編成に関連する作用の少なくとも一部を行うことが可能であり、
　弾性片は、受圧部および作用部と移動腕とを接続して、受圧部への押圧で弾性変形する、
ことを特徴とする可動シンカーである。

　本発明によれば、横編機に備える可動シンカーで編目や編地に作用する部分である作用部が歯口に進退する方向に第一軌跡に従って移動することが、他の部材との干渉などで制限されても、作用部を第一軌跡とは異なる第二軌跡に移行させることができる。この移行は、横編機の押圧手段が作用領域に含まれる受圧部を押圧することで行われる。したがって、歯口に進退する方向に移動する可動シンカーの軌跡が制限を受けても、編目や編地に作用する部分の移動ストロークの大きさは制限を受けないようにすることが可能となる。

　また本発明によれば、可動シンカーの受圧部が第一軌跡で通過する区域では、長手方向にワイヤが貫通する。可動シンカーは、針床の長手方向に並設されるので、各可動シンカーの作用部を第二軌跡に移行させる押圧手段として、ワイヤを利用することで、構成を簡単にすることができる。

　また本発明によれば、第一軌跡では歯口側への作用部となる爪の進入が制限されていても、第二軌跡で爪を歯口側に進入させることができる。爪を歯口側に進入させる必要がない区間では、第一軌跡で他の部材などとの干渉を避けることができる。

　また本発明によれば、爪は、歯口側に進入する第二軌跡で編地を捉え、第一軌跡に戻る際に捉えた編地を歯口下方に押し下げることができる。

　また本発明によれば、歯口ワイヤを押圧手段として用い、円弧状の第一軌跡から移行する第二軌跡で、爪を歯口側の編糸や編地に作用させることができる。

　また本発明によれば、可動シンカーの作用部に歯口側で作用する編目や編地が、作用部に対向する針床に向かうような張力を及ぼしても、規制手段によって作用部が対向する針床側に出ないように規制することができる。

　さらに本発明によれば、可動シンカーは、横編機に備えると、作用領域から作用部、受圧部および弾性片を少なくとも除く移動腕を第一軌跡で移動させ、作用部は第一軌跡と異なる第二軌跡に移行させることができる。作用部が編目や編地に作用する移動ストロークが必要な部分で、作用部を第二軌跡に移行させれば、他の部材との干渉などの理由で第一軌跡が制限されても、作用部の軌跡は制限を受けず、移動ストロークを大きくすることも可能となる。

図１は、本発明の実施例１である可動シンカー１の形状を示す可動シンカーとしての正面図である。 図２は、図１の可動シンカー１を備える横編機１０の構成を示す右側面断面図である。 図３は、図２の横編機１０の歯口１１付近の構成を示す右側面断面図である。 図４は、図２の横編機１０の動作を示す右側面断面図である。 図５は、図２の横編機１０の図４に続く動作を示す右側面断面図である。 図６は、図２の横編機１０の図５に続く動作を示す右側面断面図である。 図７は、本発明の実施例２である可動シンカー３１の形状を示す可動シンカーとしての正面図である。 図８は、図７の可動シンカー３１を備える横編機３０の構成を示す簡略化した右側面断面図である。 図９は、図８の横編機３０の構成と動作とを示す右側面断面図である。 図１０は、図８の横編機３０の図９に続く動作を示す右側面断面図である。 図１１は、図８の横編機３０の図１０に続く動作を示す右側面断面図である。 図１２は、図８の横編機３０の図１１に続く動作を示す右側面断面図である。 図１３は、本発明の実施例３である可動シンカー４１の形状を示す可動シンカーとしての正面図である。 図１４は、図１３の可動シンカー４１を備える横編機４０の構成と動作とを示す簡略化した右側面断面図である。 図１５は、図１３の可動シンカー４１を備える横編機４０の動作を示す簡略化した右側面断面図である。 図１６は、図１３の可動シンカー４１を備える横編機４０の図１５に続く動作を示す簡略化した右側面断面図である。 図１７は、図１３の可動シンカー４１を備える横編機４０の図１６に続く動作を示す簡略化した右側面断面図である。

　以下、図１から図６は、本発明の実施例１である可動シンカー１と、可動シンカー１を備える横編機１０の構成と動作とを示す。図７から図１２は、本発明の実施例２である可動シンカー３１と、可動シンカー３１を備える横編機３０の構成と動作とを示す。図１３から図１７は、本発明の実施例３である可動シンカー４１と、可動シンカー４１を備える横編機４０の構成と動作とを示す。各図で対応する部分は，同一の参照符を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。また説明の便宜上、説明対象の図には記載されていない部分について、他の図に記載される参照符を付して言及する場合がある。

　図１は、本発明の実施例１である可動シンカー１の形状を示す。可動シンカー１は、金属板を素材として形成され、受動領域２と、支承領域３と、作用領域４とを有する。受動領域２は、受動腕２ａと線ばね受け２ｂとを含み、横編機１０に備えられると、編地編成に関連する駆動を受ける。支承領域３は、駆動を受けた可動シンカー１が揺動支点３ａを中心として揺動するように、円弧状の支承部３ｂで支承する。作用領域４は、受動領域２への駆動による揺動で編地編成に関連する作用を行うことが可能な移動腕５および作用部６を含む。本実施例１の移動腕５は、図１で、支承領域３よりも右方の部分となり、背景技術で先端部分と記載している部分も含む。作用領域４は、さらに受圧部７とばね部８と規制部９とを含む。受圧部７は、押圧を受けることが可能である。作用部６は、編地編成に関連する作用の少なくとも一部を行うことが可能である。ばね部８は、作用部６、受圧部７および規制部９と移動腕５とを接続し、受圧部７への押圧で弾性変形する。移動腕５は、編糸受け部５ａおよび突起部５ｂを有する。可動シンカー１の線ばね受け２ｂは、線ばね１ａの一端を受ける。線ばね１ａは、可動シンカー１と別体であるけれども、一体的に形成することもできる。また、可動シンカーは、歯口１１に進入する方向への駆動を、ばねによる付勢でなく、カムやシンカージャックなどを介して行うようにしてもよい。また、本実施例１と同様に歯口１１に進入する方向への駆動をばね付勢で行い、歯口１１から退出する方向の駆動をシンカージャックで行うようにしてもよい。

　可動シンカー１は、横編機１０に備えて受圧部７に押圧を受けると、破線で示すように、ばね部８が弾性変形して、作用部６および受圧部７が移動する。この変形や移動は、作用領域４内で作用部６、受圧部７およびばね部８で相対的に行われ、移動腕５では行われない。移動腕５の編糸受け部５ａおよび突起部５ｂは、特許文献２の符号５Ｂおよび符号５Ｃで示す同名の部分にそれぞれ対応するけれども、本実施例１の移動腕５は、突出部５ｃを有する。ただし、規制部９と突出部５ｃとは、設ける方が好ましいけれども、設けないようにしてもよい。なお、ばね部８の形状は、図示のようなものでなくてもよい。また、ばね部８は、可動シンカー１とは別体の線ばねや板ばねなど、受圧部７が押圧を受ければ弾性変形するものであればよい

　図２は、図１の可動シンカー１を備える横編機１０の構成を示す。横編機１０は、歯口１１を挟んで、図の左方となる前と、右方となる後とで対向する一対の針床１２を有する。各針床１２は、大略的に矩形の形状を有し、紙面に垂直な長手方向が長辺となる基板１３と、基板１３の長手方向に一定間隔で並ぶように配置されるニードルプレート１４とを含む。ニードルプレート１４間は、針溝となり、編針１５を収容する。編針１５は、針溝内を摺動し、先端のフック１５ａを歯口１１に進退させて、歯口１１の上方から給糸される編糸で図４、図５および図６に示す編目２０を形成し、編成された編地２１を歯口１１の下方に垂下させる。編針１５は、べら針であり、フック１５ａをべら１５ｂで開閉する。編針１５間に位置するニードルプレート１４の歯口１１側の先端には、固定シンカー１６が取付けられる。固定シンカー１６は、編目２０の形成時にシンカーループが掛かる縁部を歯口１１側に有するとともに、歯口１１側の先端に設ける歯口ワイヤ１７を貫通させて支持する貫通孔も有する。歯口ワイヤ１７は、給糸を受けたフック１５ａが歯口１１から退出して新たな編目２０を形成する際に、フック１５ａに係止されていた旧編目をノックオーバーさせやすくする機能を有する。編糸受け部５ａと作用部６とは、円弧状の軌跡で、歯口ワイヤ１７の上方と下方とをそれぞれ通る、上爪と下爪となる。上爪となる編糸受け部５ａは、フック１５ａに給糸を受けるために編針１５が歯口１１に進入する際に、フック１５ａからクリアされる旧編目が、編針１５に連れ上がりしないように、旧編目を押さえる。下爪となる作用部６は、図４～図６に示すように、垂れ下がった編地２１を押し下げる。

　各針床１２の上方には、針床１２の表面に間隔を開けて対向するカム面を備えるキャリッジ１８が、長手方向に往復走行する。カム面には、編針１５を駆動する編成カムとともに、可動シンカー１を駆動するシンカーカム１９も設けられる。なお、シンカーカム１９は、可動シンカー１の受動腕２ａを押圧して、作用領域４を歯口１１から退出させるように駆動する。作用領域４を歯口１１に進入させるための駆動は、線ばね１ａによる付勢で行われる。キャリッジ１８には、編針１５のべら１５ｂを開く刷毛や、歯口１１で編地２１を押さえるステッチプレッサーなども搭載されるけれども、図示は省略する。可動シンカー１は、固定シンカー１６と編針１５との間の片側に設けられ、ニードルプレート１４に設ける薄肉部に支承部３ｂが支承される状態で収容される。前後の針床１２での各部の配置は、歯口中心面１１ａに関して、基本的に面対称となる。ただし、固定シンカー１６の片側に設けられる可動シンカー１は、前側の針床１２ではニードルプレート１４および固定シンカー１６の手前側、後側の針床１２ではニードルプレート１４および固定シンカー１６の向こう側となる。

　図３は、図２の横編機１０の歯口１１付近の構成を示す。固定シンカー１６は、長手方向に貫通するワイヤとして、歯口ワイヤ１７とともに、押圧手段として機能する押圧ワイヤ１６ａも支持する。なお、針床１２への固定シンカー１６の取付けは、基板１３の歯口側先端から底部に続くように形成する溝で行われ、固定ワイヤ１３ａと、基板１３の底部に設ける底ワイヤ１３ｂとで固定する。実線で示す可動シンカー１は、受動腕２ａへのシンカーカム１９による押圧で、移動腕５、作用部６、受圧部７、ばね部８および規制部９を含む作用領域４が歯口１１から退出している状態となっている。シンカーカム１９による受動腕２ａへの押圧を減少させると、線ばね１ａによる付勢で、可動シンカー１の作用領域４は、破線で示す位置に移動する。この移動の過程で、押圧ワイヤ１６ａが可動シンカー１の受圧部７を押圧し、作用部６，受圧部７およびばね部８を破線で示す位置および形状となるように変化させるので、移動腕５の軌跡が制限されても、作用部６の軌跡は制限を受けないようにすることが可能となる。作用部６として編目２０や編地２１に作用する移動ストロークが必要な部分では、移動ストロークを大きくすることができる。シンカーカム１９が受動腕２ａを押圧しないと、移動腕５、作用部６、受圧部７、ばね部８および規制部９を含む作用領域４は、一点鎖線で示す位置および形状となる。

　図４は、可動シンカー１の位置および状態が図３の実線で示す場合について、横編機１０の動作を示す。編針１５が歯口１１で給糸を受けた編糸をフック１５ａで針床１２側に引き込んで編目２０を形成する際、可動シンカー１の移動腕５は、編糸受け部５ａで編目２０を押さえる作用が不作用となるように歯口１１から退出する。新たな編目２０を形成する編糸の給糸を受けるために、フック１５ａが歯口１１に進入すると、旧編目はフック１５ａから針幹側に相対移動してクリアされる。新たな編目２０の形成のためのフック１５ａの引込み時に、旧編目は、フック１５ａを閉じるべら１５ｂを乗り越えて、ノックオーバーされ、歯口１１の下方に垂下する編地２１に加わる。この位置で、受圧部７は、押圧ワイヤ１６ａに当接する寸前となる。

　図５は、横編機１０の図４に続く動作を示す。この動作は、可動シンカー１の位置および状態が図１および図３の破線で示す場合に該当する。受圧部７は押圧ワイヤ１６ａからの押圧を受け、ばね部８の弾性変形で作用部６は歯口１１に進入し、編地２１を捉えることができる。図４から図５で、作用領域４のうち、作用部６、受圧部７、ばね部８および規制部９を除く部分である移動腕５は、支承領域３をニードルプレート１４の薄肉部に収容して駆動する円弧状の軌跡に従って揺動する。受圧部７が押圧されなければ、作用領域４の全体も、構成部分それぞれの揺動支点３ａまでの距離を半径とする円弧状の軌跡に従って揺動する。これらの軌跡の総体を、以下、第一軌跡と称する。本実施例１は、歯口ワイヤ１７の下方を通過して下爪となる作用部６を、押圧手段となる押圧ワイヤ１６ａによる受圧部７への押圧で、第一軌跡から第一軌跡とは異なる第二軌跡に移行させる。この第二軌跡は、第一軌跡よりも歯口１１側の位置を通るので、編地２１の押し下げを、第一軌跡を続ける場合よりも早期に開始させることができる。このような位置での押し下げの開始を、第一軌跡に従う揺動だけで実現しようとすると、揺動支点３ａからの距離が大きくなる形状にしなければならず、揺動のために大きなスペースが必要となる。本実施例１では、限られたスペースで作用部６を歯口１１に近づけることができるので、薄い編地２１に対しても作用部６が掛かるように届かせることができる。また、第二軌跡は、第一軌跡よりも揺動半径を大きくすることができるので、編地２１に掛かった後の押し下げの軌跡を鉛直に近い軌跡にすることができる。なお、受圧部７や押圧手段を変えれば、第二軌跡を、歯口１１側の位置ばかりではなく、歯口１１の上方や下方など、第一軌跡に従う場合とは異なる位置を通るように設定することもできる。

　図６は、横編機１０の図５に続く動作を示す。作用部６による編地２１の歯口１１の下方への押し下げと、編糸受け部５ａによる編目２０の押えとを同時に行う。可動シンカー１の位置および状態は、第一軌跡に従う。第二軌跡に移行した作用部６、受圧部７、ばね部８および規制部９は、受圧部７への押圧が解除されているので、ばね部８の弾性変形が解消される。作用部６は、第二軌跡から第一軌跡に戻る際、および第一軌跡に戻った後に、編地２１を歯口１１の下方に押し下げる。ただし、編地２１の押し下げは、第二軌跡から第一軌跡に戻る際だけに行うようにしてもよい。また、受圧部７の形状や押圧ワイヤ１６ａの配置などを変えて、受圧部７への押圧が解除されずに、最後まで押圧を受けたままにしてもよい。

　可動シンカー１の作用部６に歯口１１側で作用する編目２０や編地２１が、作用部６に対向する針床１２に向かうような張力を及ぼすことがある。本実施例１は、受圧部７に対し、歯口１１から離れる側に間隔を空けて、規制部９が設けられる。図６でこの間隔に入り込む押圧ワイヤ１６ａは、規制部９の移動を規制し、作用部６を、第一軌跡を含む範囲に留める。押圧ワイヤ１６ａおよび規制部９は、作用部６が歯口中心面１１ａを越えて、歯口１１を挟んで対向する針床１２側に出ないようにして、逸脱を防ぐ規制手段として機能する。作用部６が対向する針床１２側へと出ないようにすることで、ラッキング時の前後の針床１２の可動シンカー１の干渉防止、およびばね部８の塑性変形防止の効果がある。規制部９は、作用部６が編地２１を押し下げる作用を行う作用区間を含めて、押圧ワイヤ１６ａが規制部９と受圧部７との間にある区間で、作用部６が編目２０に引っ張られた時のストッパーの役割を持つ。移動腕５の突出部５ｃも、受圧部７への押圧ワイヤ１６ａによる押圧が急に行われて作用部６が歯口１１側に大きく変位しようとする際に、変位を規制するストッパーとなる。また突出部５ｃは、作用部６が対向する針床１２側に引っ張られたときのストッパーにもなる。したがって、突出部５ｃは、作用部６を、第二軌跡を含む範囲に留める。以上のように、規制部９および押圧ワイヤ１６ａと突出部５ｃとは、作用部６を、第一軌跡を含む範囲と、第二軌跡を含む範囲とに、それぞれ留め、作用部６が対向する針床１２側に出ないようにする規制手段として機能する。

　図７および図８は、本発明の実施例２である可動シンカー３１の形状、および可動シンカー３１を備える横編機３０の構成を示す。可動シンカー３１は、作用領域３４として、移動腕３５、作用部３６、受圧部３７、ばね部３８および規制部３９を含み、移動腕３５を除き、図１の可動シンカー１と同様の構成を有する。本実施例２の移動腕３５は、線ばね受け２ｂとばね部３８との間にのみ存在する。作用部３６、受圧部３７および規制部３９は、弾性変形可能なばね部３８で、移動腕３５に接続される。横編機３０は、可動シンカー３１を備えることを除き、図２の横編機１０と同様な構成を有する。可動シンカー３１を駆動すると、図８に示す受圧部３７は歯口ワイヤ１７による押圧を受け、実線、破線、一点鎖線および二点鎖線で示す位置および状態となる。作用部３６、受圧部３７、ばね部３８および規制部３９は、実線、破線および二点鎖線で示す状態で第一軌跡に従って移動し、一点鎖線で示す状態の前後は第二軌跡に従って移動する。また、歯口ワイヤ１７は、規制部３９にも作用する。すなわち、歯口ワイヤ１７は、押圧手段および規制手段の機能も有する。また、作用部３６は、図１の可動シンカー１の編糸受け部５ａとしての機能を有する。

　図９、図１０、図１１および図１２は、図８の実線、破線、一点鎖線および二点鎖線にそれぞれ対応する横編機３０の動作を示す。図９に示す状態では、受圧部３７は、歯口ワイヤ１７と離れており、押圧を受けないので、作用部３６、受圧部３７、ばね部３８および規制部３９は第一軌跡で移動する。次の図１０に示す状態では、受圧部３７が歯口ワイヤ１７に接触し、押圧が開始され、作用部３６、受圧部３７、ばね部３８および規制部３９は第二軌跡への移行を開始する。次の図１１に示す状態では、歯口ワイヤ１７による受圧部３７への押圧による作用部３６の押し出しが最大となる。また、図１１は、受圧部３７への歯口ワイヤ１７による押圧が急に行われて作用部３６が歯口１１側に大きく変位しようとする際に、規制部３９が変位を規制するストッパーとなる状態も示す。次の図１２に示す状態では、歯口ワイヤ１７は、受圧部３７を押圧しなくなり、作用部３６、受圧部３７、ばね部３８および規制部３９は第一軌跡に戻る。歯口ワイヤ１７は、規制部３９に作用して、編地２１の張力で作用部３６が歯口１１側に逸脱しないように規制する。作用部３６は、歯口１１の下方まで編地２１を押込む。編針１５が次の編目２０を形成する編糸の給糸を受けるためにフック１５ａを歯口１１に進入させると、図９～図１１でフック１５ａに係止していた編目２０は、フック１５ａからクリアされて針幹側に相対移動して旧編目２２となる。上爪となる作用部３６は、旧編目２２が編針１５の歯口１１への進入につれて歯口１１側に移行しようとする連れ上がりを防止することができる。

　図１３は、本発明の実施例３である可動シンカー４１の形状を示す。可動シンカー４１は、作用領域４４に、移動腕４５、作用部４６、受圧部４７、ばね部４８および規制部４９を含む。移動腕４５は、図１の移動腕５に対し、突出部５ｃに相当する部分を有しないことを除き、同様の構成となる。

　図１４は、図１３の可動シンカー４１を備える横編機４０の構成と動作とを示す。図１５、図１６および図１７は、横編機４０の動作を示す。この動作は、図４、図５および図６で示す可動シンカー１の動作と、基本的に同等となる。ただし、歯口ワイヤ１７および規制部４９は、可動シンカー４１の作用部４６を、第一軌跡を含む範囲と第二軌跡を含む範囲とを合わせた範囲に留め、歯口１１を挟んで対向する針床１２側に出ないように規制する規制手段として機能する。

　本実施例３に実施例１および実施例２を含めて、横編機１０，３０，４０は、可動シンカー１，３１，４１を支持する支持機構として、ニードルプレート１４の薄肉部を有する。薄肉部は、可動シンカー１，３１，４１の作用領域４，３４，４４の移動腕５，３５，４５が第一軌跡で歯口１１に進退する方向に移動するように支持する。移動腕５，３５，４５は、作用領域４，３４，４４から少なくとも作用部６，３６，４６、受圧部７，３７，４７、弾性片（ばね部８，３８，４８）および規制部９，３９，４９を除く部分となる。横編機１０，３０，４０は、受動領域２を駆動して、移動腕５，３５，４５を第一軌跡で移動させる駆動機構として、シンカーカム１９を有する。なお、作用部６，３６，４６なども、途中までは第一軌跡で移動する。第一軌跡の少なくとも途中に設置され、可動シンカー１，３１，４１の受圧部７，３７，４７を押圧し、作用部６，３６，４６を第一軌跡から第一軌跡とは異なる第二軌跡に移行させる押圧手段として、実施例１および実施例３では押圧ワイヤ１６ａ、実施例２では歯口ワイヤ１７を有する。

　押圧手段となる押圧ワイヤ１６ａや歯口ワイヤ１７は、受圧部７，３７，４７が第一軌跡で通過する区域を貫通するように、固定シンカー１６で支持される。ただし、固定シンカー１６を用いないで、可動シンカーだけを用いる場合でも、本発明を適用することはできる。可動シンカーに、シンカーループを形成する縁部を設け、長手方向に貫通するワイヤは、支持する部材を設けて支持すればよい。支持する部材は、編針１５毎に設けなくても、部材間の間隔を開けてもよい。押圧手段としては、溝カムや固定シンカーから長手方向に突出する突起などでも、ワイヤと同様に機能させることができる。また、可動シンカーとしては、揺動ではなく、直動のものでもよい。直動の可動シンカーは、シンカー床に設ける底部が平坦なシンカー溝に収容し、シンカー溝内を摺動させればよい。このようなシンカー溝は、直動の可動シンカーに対する支持機構となる。直動の可動シンカーでは、シンカー溝で支持されて摺動する部分が支承領域となり、支承領域の歯口側で移動腕が支持され、移動腕に弾性片で作用部や受圧部や規制部に相当する部分が接続される。直動の可動シンカーでも、移動腕および他の部分が総体的な第一軌跡として直線状に移動し、受圧部が押圧を受ければ、作用部などが第二軌跡に移行する。シンカー溝の底部を平坦ではなく、滑らかな凹凸を有するカム面にすれば、可動シンカーを直動に他の方向の成分を加えて移動させることもできる。また、編針１５としては、フック１５ａをべら１５ｂで開閉するべら針ばかりではなく、フックをスライダーで開閉する複合針を使用してもよい。

　１，３１，４１　可動シンカー
　１ａ　線ばね
　２　受動領域
　３　支承領域
　４，３４，４４　作用領域
　５，３５，４５　移動腕
　５ａ，４５ａ　編糸受け部
　５ｃ　突出部
　６，３６，４６　作用部
　７，３７，４７　受圧部
　８，３８，４８　ばね部
　９，３９，４９　規制部
　１０，３０，４０　横編機
　１１　歯口
　１１ａ　歯口中心面
　１２　針床
　１４　ニードルプレート
　１５　編針
　１５ａ　フック
　１６　固定シンカー
　１６ａ　押圧ワイヤ
　１７　歯口ワイヤ
　１９　シンカーカム

Claims (7)

1. 　針床の長手方向に並設される編針の先端が歯口に進退して、歯口上方から給糸される編糸で編地を編成し、編成した編地を歯口下方に垂下させる横編機であって、
   　編地編成に関連する駆動を受けることが可能な受動領域と、受動領域への駆動で、歯口に進退する方向に移動する作用領域とを有する可動シンカーを備える横編機において、
   　可動シンカーの作用領域は、
   　　移動腕と受圧部と作用部と弾性片とを少なくとも含み、
   　受圧部は、押圧を受けることが可能であり、
   　作用部は、歯口に進退して、編地編成に関連する作用の少なくとも一部を行うことが可能であり、
   　弾性片は、受圧部および作用部と移動腕とを接続して、受圧部への押圧で弾性変形し、
   　横編機は、
   　　可動シンカーの移動腕を、歯口に進退する方向の移動が可能なように支持する支持機構と、
   　　可動シンカーの受動領域を駆動して、移動腕を第一軌跡で移動させる駆動機構と、
   　　第一軌跡の少なくとも途中に設置され、可動シンカーの受圧部を押圧し、作用部を第一軌跡から第一軌跡とは異なる第二軌跡に移行させる押圧手段と、
   をさらに含むことを特徴とする可動シンカーを備える横編機。
2. 　前記押圧手段は、前記可動シンカーの前記受圧部が前記第一軌跡で通過する区域を、前記長手方向に貫通するワイヤである、
   ことを特徴とする請求項１記載の可動シンカーを備える横編機。
3. 　前記可動シンカーの前記作用部は、編目または編地に掛かる爪であり、
   　前記第二軌跡は、前記第一軌跡よりも歯口側の位置を通る、
   ことを特徴とする請求項１または２記載の可動シンカーを備える横編機。
4. 　前記可動シンカーの前記爪は、
   　　前記押圧手段による前記受圧部への押圧で前記第一軌跡から移行する前記第二軌跡で前記歯口下方に垂下する編地を捉え、
   　　押圧手段による受圧部の押圧の解除で、第二軌跡から第一軌跡側に戻る際に編地を歯口下方に押し下げる、
   ことを特徴とする請求項３記載の可動シンカーを備える横編機。
5. 　前記可動シンカーは、揺動して前記第一軌跡は円弧状となり、
   　前記ワイヤは、前記針床の前記歯口側の先端に設ける歯口ワイヤであり、
   　前記爪は、円弧状の第一軌跡で歯口ワイヤ（１７）の上方を通過する、
   ことを特徴とする請求項３記載の可動シンカーを備える横編機。
6. 　前記可動シンカーの前記作用部を、前記第一軌跡を含む範囲と前記第二軌跡を含む範囲とを合わせた範囲に留め、歯口を挟んで対向する針床側に出ないように規制する規制手段をさらに含む、
   ことを特徴とする請求項１記載の可動シンカーを備える横編機。
7. 　横編機に備えられ、編地編成に関連する駆動を受けることが可能な受動領域と、受動領域への駆動で、歯口に進退する方向に移動する作用領域とを有する可動シンカーにおいて、
   　作用領域は、
   　　移動腕と受圧部と作用部と弾性片とを少なくとも含み、
   　受圧部は、押圧を受けることが可能であり、
   　作用部は、横編機の歯口に進退して、編地編成に関連する作用の少なくとも一部を行うことが可能であり、
   　弾性片は、受圧部および作用部と移動腕とを接続して、受圧部への押圧で弾性変形する、
   ことを特徴とする可動シンカー。

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