特許文献1の鞍乗型車両のように、触媒をエンジン本体の燃焼室の近くに配置することで、排ガスが高温のまま触媒に到達する。このため、触媒による排ガスの浄化性能を向上することができる。しかしながら、本願発明者らは、様々な運転条件で、触媒をエンジン本体の燃焼室の近くに配置した鞍乗型車両の試験を行った。その結果、運転時間の経過とともに、排ガスの浄化性能が著しく低下する鞍乗型車両と、排ガスの浄化性能がそれほど低下しない鞍乗型車両が存在することが分かった。
本発明は、排ガスの浄化性能のばらつきを抑制することができる鞍乗型車両を提供することを目的とする。
本願発明者らは、様々な運転条件で、触媒をエンジン本体の燃焼室の近くに配置した鞍乗型車両の試験を行った。その結果、運転時間の経過とともに、排ガスの浄化性能が著しく低下する鞍乗型車両と、排ガスの浄化性能が低下しにくい鞍乗型車両が存在することが分かった。そこで、本願発明者らは、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきの原因を詳細に検討した。そして、本願発明者らは、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきの原因は、鞍乗型車両の特有の構成や使用状態によるものであることがわかった。
鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきの原因となる鞍乗型車両の特有の構成の1つは、鞍乗型車両で使用されるオイルの規格である。鞍乗型車両で使用されるオイルは、自動車(四輪車)で使用されるオイルと規格が異なる。オイルには、添加物が含まれる。オイルの添加物は、例えば、耐摩耗性の添加物であり、亜鉛、リン、硫黄、カルシウム等の化合物である。そして、鞍乗型車両で使用されるオイルは、自動車で使用されるオイルに比べて、リン化合物(例えば、ZnDTP、ZnDDP等)の含有量が多い。鞍乗型車両において、クランクケース部は共通のオイルで潤滑される。クランク軸を駆動させるピストンや、動弁機構により駆動される吸気弁及び排気弁等から、燃焼室内にオイルが入る。そして、鞍乗型車両では、オイルに含まれるリン化合物が燃焼室で熱により分解されて、多くのリンが含まれる排ガスが触媒に流入する。鞍乗型車両では、排ガスに含まれるリンが触媒に化学的または/および物理的に付着する。そして、リンがガラス状の化合物を生成して触媒層の表面を覆い、触媒層の内部への排ガスの拡散を阻害する。さらに、触媒を燃焼室の近くに配置したレイアウトでは、触媒に流入する排ガスの温度が高くなり、触媒に付着するリンがガラス状の化合物を生成しやすい。そして、触媒層に含まれる貴金属に排ガスが到達しにくくなり、触媒の機能が低下する。よって、鞍乗型車両は、排ガスの浄化性能が低下する。
また、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきの原因となる鞍乗型車両の特有の構成の1つは、鞍乗型車両の排気量あたりのオイルの使用量である。鞍乗型車両は、自動車に比べて、排気量あたりのオイルの使用量が多い。そのため、鞍乗型車両は、自動車に比べて、排気量あたりの排ガスに含まれるリンが多い。そして、鞍乗型車両は、自動車に比べて、触媒の排ガスの流れ方向のより下流の位置までリンが付着する。
鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきの原因となる鞍乗型車両の特有の使用状態の1つは、スロットルバルブの開度がほぼ全開の状態で走行する時間である。鞍乗型車両は、自動車に比べて、スロットルバルブの開度がほぼ全開の状態で走行する時間が長い。スロットルバルブの開度がほぼ全開の状態で鞍乗型車両が走行する時間が長いときは、エンジン本体部の壁面の温度が比較的高くなり、燃焼室で分解されるオイルの量が比較的多くなる。そして、スロットルバルブの開度がほぼ全開の状態で鞍乗型車両が走行する時間が長いと、排ガスに含まれるリンが多くなる。よって、スロットルバルブの開度がほぼ全開の状態で鞍乗型車両が走行する時間が長いと、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能が著しく低下する。一方、スロットルバルブの開度がほぼ全開の状態で鞍乗型車両が走行している時間が短いときは、エンジン本体部の壁面の温度が比較的低く、燃焼室で分解されるオイルの量が比較的少なくなる。そして、スロットルバルブの開度がほぼ全開の状態で鞍乗型車両が走行している時間が短いときは、排ガスに含まれるリンが少なくなる。よって、スロットルバルブの開度がほぼ全開の状態で鞍乗型車両が走行している時間が短いと、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能が低下しにくい。つまり、スロットルバルブの開度を大きく開けた状態で鞍乗型車両が走行する時間が長いか短いかで、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきが生じることがわかった。そして、本願発明者らは、スロットルバルブの開度をほぼ全開の使用状態で鞍乗型車両が長時間走行した場合に、排ガス中に多く含まれるリンが触媒層に付着することを抑えることで、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができることがわかった。
そこで、本願発明者らは、スロットルバルブの開度をほぼ全開の使用状態で長時間走行した鞍乗型車両の排ガスの浄化性能の低下を抑えるために、上流触媒を有するエンジンユニットに、触媒層へのリンの付着を低減させるリン付着低減部を設ければよいことに気付いた。上流触媒とは、鞍乗型車両の排気通路部に配置される1つまたは複数の触媒のうちの、排ガスの流れ方向の最も上流に配置される触媒のことである。リン付着低減部は、リン捕捉層またはリン捕捉構造体の少なくともいずれか一方を含む。
リン捕捉層は、排気通路部の燃焼室と上流触媒の触媒層の間に配置される。リン捕捉層は、排気通路部の内面に塗布される。リン捕捉層は、リンと化学反応してリンを捕捉する機能、または、表面が粗面で形成されてリンを捕捉する機能を有する。触媒層は、排ガスを浄化する貴金属を有する。つまり、上流触媒は、排ガスの流れ方向の最も上流で排ガスを浄化する。また、排気通路部には、燃焼室から上流触媒の間に曲り部がある。排ガスは流速が早いため、排気通路部の曲り部にリンが衝突しやすい。そして、排気通路部の曲り部にリンが付着しやすい。そして、リン捕捉層を、排気通路部の燃焼室と触媒層との間に配置させる。リン捕捉層は、排ガスに含まれるリンと化学反応する。または、リン捕捉層は、排ガスに含まれるリンが粗面で形成された表面に付着する。そのため、リン捕捉層は、リンを捕捉して、上流触媒の触媒層の表面にリンが付着することを抑制できる。
リン捕捉構造体は、排気通路部の上流触媒より燃焼室に近い位置にされる。リン捕捉構造体は、排ガスの流速を低減させて、リンを捕捉する機能を有する。触媒層は、排ガスを浄化する貴金属を有する。つまり、上流触媒は、排ガスの流れ方向の最も上流で排ガスを浄化する。また、排ガスは流速が早いため、排気通路部の流速を低減する構造体にリンが付着しやすい。そして、リン捕捉構造体を排気通路部の上流触媒より燃焼室に近い位置に配置させる。リン捕捉構造体は、排ガスの流量を低減させて、排ガスに含まれるリンを付着させる。そのため、リン捕捉層は、リンを捕捉して、上流触媒の触媒層の表面にリンが付着することを抑制できる。
つまり、上記2つのいずれかの技術思想を適用すれば、スロットルバルブの開度を大きく開けた使用状態で長時間走行した鞍乗型車両でも、排ガス中に多く含まれるリンが上流触媒に付着することを抑えることができる。そして、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
本発明のひとつの観点の構成によると、鞍乗型車両は、エンジンユニットが搭載された鞍乗型車両であって、前記エンジンユニットは、燃焼室を有するシリンダ部を備えるエンジン本体と、大気に排ガスを放出する放出口を有し、前記燃焼室から前記放出口まで排ガスを流す排気通路部と、前記排気通路部において前記排ガスの流れ方向の最も上流の触媒であって、前記排ガスを浄化する貴金属を含んだ触媒層を有する上流触媒と、前記排気通路部の前記燃焼室と前記上流触媒の間に配置され、前記排ガスの酸素濃度を検出する上流酸素検出部材と、(A)前記排気通路部の前記燃焼室と前記上流触媒の間に配置され、リンと化学反応するリン反応物質で構成されてリンを捕捉する機能を持つか、または、表面が粗面で形成されてリンを捕捉する機能を持つ、前記排気通路部の内面に塗布されたリン捕捉層、または、(B)前記排気通路部の前記燃焼室と前記上流触媒の間に配置され、排ガスの流速を低減させてリンを捕捉する機能を持つリン捕捉構造体であって、前記燃焼室から前記リン捕捉構造体までの経路長が前記リン捕捉構造体から前記上流触媒までの経路長よりも短くなる位置に配置される前記リン捕捉構造体の少なくともいずれか一方を含み、前記触媒層へのリンの付着を低減させるリン付着低減部と、を備えることを特徴とする。
この構成によると、鞍乗型車両は、エンジンユニットが搭載される。エンジンユニットは、エンジン本体と、排気通路部と、上流触媒と、酸素センサと、リン付着低減部と、を備える。エンジン本体は、燃焼室を有するシリンダ部を備える。排気通路部は、大気に排ガスを放出する放出口を有する。排気通路部は、燃焼室から放出口まで排ガスを流す。
上流触媒は、排気通路部に配置される。上流触媒は、排気通路部において排ガスの流れ方向の最も上流にある触媒である。上流触媒は、触媒層を有する。触媒層は、排ガスを浄化する貴金属を含む。
上流酸素検出部材は、排気通路部の燃焼室と上流触媒の間に配置される。上流酸素検出部材は、排ガスの酸素濃度を検出する。
リン付着低減部は、触媒層へのリンの付着を低減させる。リン付着低減部は、(A)リン捕捉層、または、(B)リン捕捉構造体の少なくともいずれか一方を含む。
(A)リン捕捉層は、排気通路部の燃焼室と上流触媒の間に配置される。つまり、リン捕捉層は、排ガスの流れ方向の上流触媒の上流に配置される。また、リン捕捉層は、排気通路部の内面に塗布される。そして、リン捕捉層は、リンと化学反応するリン反応物質で構成されてリンを捕捉する機能を持つ。または、リン捕捉層は、表面が粗面で形成されてリンを捕捉する機能を持つ。また、排気通路部には、燃焼室から上流触媒の間に曲り部がある。排ガスは流速が早いため、排気通路部の曲り部に排ガスが衝突しやすい。そして、排気通路部の曲り部は、リンが付着しやすい。そして、リン捕捉層は、排気通路部の燃焼室と上流触媒との間に配置される。リン捕捉層は、排ガスに含まれるリンと化学反応するリン反応物質を含む。リン捕捉層を通過する排ガスに含まれるリンは、リン反応物質と化学反応する。リン反応物質は、例えば、リンを吸着する物質である。この場合、排ガス中のリンがリン反応物質と化学反応することにより排ガスに含まれるリンが吸着される。リン反応物質は、リン捕捉層を通過する排ガスに含まれるリンと化学反応することにより、リンを捕捉することができる。または、リン捕捉層の表面は、排ガスに含まれるリンを付着させる粗面で形成されている。そのため、リン捕捉層は、リンを捕捉して、上流触媒の触媒層にリンが付着することを抑制できる。
(B)リン捕捉構造体は、排気通路部の燃焼室と上流触媒の間に配置される。つまり、リン捕捉構造体は、排ガスの流れ方向の上流触媒の上流に配置される。リン捕捉構造体は、排ガスの流速を低減させてリンを捕捉する機能を持つ。また、排ガスは流速が速いので、排気通路部に構造体を配置すると、排ガスの流速を低下することができる。排ガスの流速を低下させる構造体には、リンが付着しやすい。燃焼室からリン捕捉構造体までの経路長は、リン捕捉構造体から上流触媒までの経路長よりも短い。つまり、リン捕捉構造体は、燃焼室に近い位置に配置される。リン捕捉構造体は、排ガスの流速を低減させて、排ガスに含まれるリンを付着させる。そのため、リン捕捉構造体は、リンを捕捉して、上流触媒の触媒層にリンが付着することを抑制できる。
これにより、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記リン捕捉層は、少なくとも一部が、前記排気通路部の曲り部に配置されることを特徴とする。
この構成によると、リン捕捉層は、少なくとも一部が、排気通路部の曲り部に配置される。排気通路部の曲り部は、リンが付着しやすい。そして、リン捕捉層は、排気通路部の曲り部に配置される。そのため、リン捕捉層は、排ガスに含まれるより多くのリンと化学反応することができる。または、リン捕捉層は、排ガスに含まれるより多くのリンを粗面で形成された表面に付着させることができる。そのため、リン捕捉層は、より多くのリンを捕捉して、上流触媒の触媒層の表面にリンが付着することを更に抑制できる。これにより、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきを更に抑えることができる。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記リン捕捉構造体は、少なくとも表面にリンと化学反応するリン反応物質が設けられてリンを捕捉する機能を持つか、または、表面が粗面で形成されリンを捕捉する機能を持つリン捕捉構造体層を有することを特徴とする。
この構成によると、リン捕捉構造体は、リン捕捉構造体層を有する。リン捕捉構造体層は、少なくとも表面にリンと化学反応するリン反応物質が設けられてリンを捕捉する機能を持つ。または、リン捕捉構造体層は、表面が粗面で形成されてリンを捕捉する機能を持つ。リン捕捉構造体層は、排ガスに含まれるリンと化学反応させる。または、リン捕捉構造体層は、排ガスに含まれるリンを粗面で形成された表面に付着させる。ここで、リン捕捉構造体は、排ガスの流量を低減させて、排ガスに含まれるリンを付着させる。さらに、リン捕捉構造体層は、リンと化学反応することにより、排ガスに含まれるリンを付着させる。そのため、リン捕捉構造体層は、より多くのリンを捕捉して、上流触媒の触媒層の表面にリンが付着することを更に抑制できる。これにより、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきを更に抑えることができる。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記リン反応物質は、U、Mn、Sn、Ti、Fe、Zr、Ce、Al、Y、Zn、La、Mgから選ばれる少なくとも一つを有する金属酸化物であることを特徴とする。
この構成によると、リン反応物質は、U、Mn、Sn、Ti、Fe、Zr、Ce、Al、Y、Zn、La、Mgから選ばれる少なくとも一つを有する金属酸化物である。これらのリン反応物質は、等電点が3より大きい金属酸化物である。排ガス中のリン化合物は、等電点が1付近のリン酸として存在していると考えられている。等電点が3より大きい金属酸化物は、リン化合物と金属酸化物との等電点の差が大きいため、リン化合物は金属酸化物に吸着されやすくなる。これらのリン反応物質は、金属酸化物の等電価の作用により、リンを吸着させることができる。つまり、これらのリン反応物質は、排ガス中に多く含まれるリンが触媒層に付着することを抑えることができる。これにより、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記リン反応物質は、Ba、Sr、Ca、La、Pr、Na、Zrから選ばれる少なくとも一つを有する金属酸化物であることを特徴とする。
この構成によると、リン反応物質は、Ba、Sr、Ca、La、Pr、Na、Zrから選ばれる少なくとも一つを有する金属酸化物である。これらのリン反応物質は、リン反応物質は、リンとの反応性が高い物質である。よって、リン反応物質は、上流触媒を通過する排ガスに含まれるリンをより捕捉することができる。つまり、これらのリン反応物質は、排ガス中に多く含まれるリンが触媒層に付着することを抑えることができる。これにより、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記リン捕捉構造体は、排ガス流れ方向に貫通する多数の孔を有する多孔構造で構成されることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の鞍乗型車両。
この構成によると、リン捕捉構造体は、多孔構造で構成される。多孔構造は、排ガス流れ方向に貫通する多数の孔を有する。多孔構造は、例えばハニカム構造である。排気通路部を通過する排ガスは、多数の孔を形成する壁部に衝突する。つまり、リン捕捉構造体は、排ガスの流速を低減させて、排ガスに含まれるリンを付着させる。そのため、リン捕捉構造体は、リンを捕捉して、上流触媒の触媒層の表面にリンが付着することを抑制できる。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記エンジンユニットは、リン化合物の含有量が0.08mass%より大きいオイルの使用が指定されるエンジンユニットであることを特徴とする。
この構成によると、鞍乗型車両のエンジンユニットは、自動車のエンジンユニットに比べて、リン化合物の含有量が多いオイルの使用が指定される。つまり、鞍乗型車両は、自動車に比べて、リンが多く含まれる排ガスを排出する。リン付着低減部は、触媒層へのリンの付着を低減させる。つまり、リン付着低減部であるリン捕捉層とリン捕捉構造体は、リンを捕捉して、上流触媒の触媒層にリンが付着することを抑制する。これにより、自動車に比べて、リンが多く含まれる排ガスを排出する鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記エンジンユニットは、トランスミッション部を更に備え、前記エンジン本体部を潤滑するオイル及び前記トランスミッション部を潤滑するオイルが、共通のオイルであることを特徴とする。
この構成によると、エンジンユニットは、トランスミッション部を更に備える。鞍乗型車両は、エンジン本体部を潤滑するオイル及びトランスミッション部を潤滑するオイルが、共通のオイルである。一方、自動車は、エンジン本体部を潤滑するオイル及びトランスミッション部を潤滑するオイルが、共通のオイルではない場合が多い。つまり、鞍乗型車両は、自動車と比較して、排気量当たりのオイルの使用量が多い。そして、鞍乗型車両は、自動車と比較して、排気量当たりの排ガスに含まれるリンの含有量が多くなる。ここで、リン付着低減部は、触媒層へのリンの付着を低減させる。つまり、リン付着低減部であるリン捕捉層とリン捕捉構造体は、リンを捕捉して、上流触媒の触媒層にリンが付着することを抑制する。そのため、自動車と比較して、排気量当たりの排ガスに含まれるリンの含有量が多い鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記エンジンユニットは、クラッチ部を更に備え、前記エンジン本体部を潤滑するオイル及び前記クラッチ部を潤滑するオイルが、共通のオイルであることを特徴とする。
この構成によると、鞍乗型車両は、自動車と異なり、エンジン停止時にも移動ができるように、クラッチ部を有する。また、鞍乗型車両は、エンジン本体部を潤滑するオイル及びクラッチ部を潤滑するオイルが、共通のオイルである場合が多い。鞍乗型車両は、自動車と異なり、クラッチ部が滑りやすいオイルは使用されない。リン化合物の含有量が少ないオイルは、クラッチ部が滑りやすいオイルである。自動車で使用されるリン化合物の含有量が少ないオイルは、鞍乗型車両では使用されない。つまり、鞍乗型車両のエンジンユニットは、自動車のエンジンユニットに比べて、リン化合物の含有量が多いオイルが使用される。つまり、鞍乗型車両は、自動車に比べて、リンが多く含まれる排ガスを排出する。リン付着低減部は、触媒層へのリンの付着を低減させる。つまり、リン付着低減部であるリン捕捉層とリン捕捉構造体は、リンを捕捉して、上流触媒の触媒層にリンが付着することを抑制する。これにより、自動車に比べて、リンが多く含まれる排ガスを排出する鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記エンジンユニットは、自然空冷式のエンジンユニットであることを特徴とする。
この構成によると、自然空冷式のエンジンユニットは、燃焼室の温度が高い。つまり、自然空冷式のエンジンユニットは、強制空冷式のエンジンユニットや水冷式のエンジンユニットと比べて、オイルに含まれるリン化合物が燃焼室で多く分解される。そして、自然空冷式のエンジンユニットは、強制空冷式のエンジンユニットや水冷式のエンジンユニットと比べて、多くのリンが含まれる排ガスが排出される。リン付着低減部は、触媒層へのリンの付着を低減させる。つまり、リン付着低減部であるリン捕捉層とリン捕捉構造体は、リンを捕捉して、上流触媒の触媒層にリンが付着することを抑制する。これにより、自然空冷式のエンジンユニットを有する鞍乗型車両であっても、排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記オイルは、前記エンジン本体部の壁面温度よりも蒸発温度が高いオイルであることを特徴とする。
この構成によると、オイルに含まれるリン化合物が燃焼室で分解する量を抑えることができる。そして、排ガスに含まれるリンの量を抑制することができる。これにより、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記上流酸素検出部材の検出素子は、貴金属を含み、前記排ガスを浄化する上流酸素検出部材用触媒層を有し、前記上流酸素検出部材は、前記排気通路部の前記リン付着低減部と前記上流触媒の間に配置されることを特徴とする。
この構成によると、上流酸素検出部材は、検出素子を有する。そして、上流酸素検出部材の検出素子は、上流酸素検出部材用触媒層を有する。上流酸素検出部材用触媒層は、排ガスを浄化する。上流酸素検出部材用触媒層は、排ガス中の水素を燃焼させる能力の高いPt-Rh等の貴金属を含む。つまり、上流酸素検出部材用触媒層は、排ガス中の水素を浄化する。上流酸素検出部材用触媒層は、水素による影響を抑制するため、上流酸素検出部材の検出素子に設けられる。水素による影響とは、以下の事象である。水素は分子量が小さく、拡散速度が非常に速いため、上流酸素検出部材の検出素子に到達しやすい。検出素子の電極で水素の平衡化反応が発生し、出力がシフトしてしまう。そして、上流酸素検出部材用触媒層も、触媒層と同様に、リンが付着する。そして、リンのガラス化が生じることにより、上流酸素検出部材の検出精度が低下する。上流酸素検出部材は、排気通路部のリン付着低減部と上流触媒の間に配置される。リン付着低減部は、排ガスに含まれるリンを捕捉する。そのため、上流酸素検出部材の上流酸素検出部材用触媒層に到達するリンの量を低減することができる。よって、上流酸素検出部材の検出精度が向上する。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記エンジンユニットは、前記排気通路部の前記上流触媒と前記放出口との間の位置に設けられて、前記排ガスの酸素濃度を検出する下流酸素検出部材を備えることを特徴とする。
この構成によると、エンジンユニットは、下流酸素検出部材を備える。下流酸素検出部材は、排気通路部の上流触媒と放出口の間の位置に設けられる。下流酸素検出部材は、排ガスの酸素濃度を検出する。下流酸素検出部材で検出した排ガスの酸素濃度に基づいて、エンジンユニットを制御することができる。また、下流酸素検出部材で検出した排ガスの酸素濃度に基づいて、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能の劣化を検出することができる。そして、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記上流酸素検出部材は、前記燃焼室から前記上流酸素検出部材までの経路長が前記上流酸素検出部材から前記上流触媒までの経路長よりも長くなる位置に配置されることを特徴とする。
この構成によると、上流酸素検出部材は、燃焼室から上流酸素検出部材までの経路長が上流酸素検出部材から上流触媒までの経路長よりも長くなる位置に配置される。ここで、上流酸素検出部材は、排気通路部の燃焼室と上流触媒の間に配置される。また、上流酸素検出部材は、排気通路部の上流触媒よりも排ガスの流れ方向の上流に配置される。そして、上流酸素検出部材は、燃焼室より上流触媒に近い位置に配置される。上流酸素検出部材より上流に配置されたリン付着低減部は、上流酸素検出部材を通過する前の排ガスに含まれるリンを捕捉する。上流酸素検出部材が燃焼室より上流触媒に近い位置に配置されると、上流酸素検出部材が上流触媒より燃焼室に近い位置に配置される場合と比較して、上流酸素検出部材より上流に配置されるリン付着低減部の表面積が多くなる。そして、上流酸素検出部材より上流に配置されたリン付着低減部は、上流酸素検出部材に到達するリンの量を低減することができる。よって、上流酸素検出部材に付着するリンを低減できる。そして、上流酸素検出部材の検出精度が向上する。
本発明の他の観点の構成によると、前記鞍乗型車両において、前記排気通路部は、前記シリンダ部内に形成され、前記燃焼室と接続されたシリンダ排気通路部と、前記放出口を有する消音器と、前記シリンダ排気通路部および前記消音器と接続された排気管と、を有し、前記上流酸素検出部材は、前記排気管の上流端から前記上流酸素検出部材までの経路長が前記上流酸素検出部材から前記上流触媒までの経路長よりも長くなる位置に配置されることを特徴とする。
この構成によると、排気通路部は、シリンダ排気通路部と、消音器と、排気管を有する。シリンダ排気通路部は、燃焼室を有するシリンダ内に形成される。シリンダ排気通路部は、燃焼室と接続される。消音器は、放出口を有する。排気管は、シリンダ排気通路部および消音器と接続される。上流酸素検出部材は、排気管の上流端から上流酸素検出部材までの経路長が上流酸素検出部材から上流触媒までの経路長よりも長くなる位置に配置される。ここで、上流酸素検出部材は、排気通路部の燃焼室と上流触媒の間に配置される。また、上流酸素検出部材は、排気通路部の上流触媒よりも排ガスの流れ方向の上流に配置される。そして、上流酸素検出部材は、排気管の上流端より上流触媒に近い位置に配置される。上流酸素検出部材より上流に配置されたリン付着低減部は、上流酸素検出部材を通過する前の排ガスに含まれるリンを捕捉する。上流酸素検出部材が排気管の上流端より上流触媒に近い位置に配置されると、上流酸素検出部材が上流触媒より排気管の上流端に近い位置に配置される場合と比較して、上流酸素検出部材より上流に配置されるリン付着低減部の表面積が多くなる。そして、上流酸素検出部材より上流に配置されたリン付着低減部は、上流酸素検出部材に到達するリンの量を低減することができる。よって、上流酸素検出部材に付着するリンを低減できる。そして、上流酸素検出部材の検出精度が向上する。
本発明の他の観点によると、前記エンジン本体は、車両の左右方向に沿った中心軸線を有するクランク軸を含み、車両を左右方向に見て、前記触媒層の少なくとも一部は、前記クランク軸の前記中心軸線を通り且つ上下方向に平行な直線の前方に配置される。
車両を左右方向に見て、クランク軸の中心軸線を通り且つ上下方向に平行な直線を、直線L1とする。一般的に、排気管はエンジン本体の前面に接続される。車両を左右方向に見て、触媒層の少なくとも一部は、この直線L1の前方に配置される。そのため、触媒層全体が直線L1の後方に配置される場合に比べて、触媒層は、燃焼室に近い位置に配置される。よって、触媒層の熱劣化を防止しつつ、触媒層の活性化に要する時間を短縮できる。
本発明の他の観点によると、前記エンジン本体は、車両の左右方向に沿った中心軸線を有するクランク軸を含み、前記シリンダ部は、前記燃焼室の一部を形成するシリンダ孔を有し、車両を左右方向に見て、前記触媒層の少なくとも一部は、前記シリンダ孔の中心軸線に直交し且つ前記クランク軸の前記中心軸線を通る直線の車両の前後方向の前方に配置される。
車両を左右方向に見て、シリンダ孔の中心軸線に直交し且つクランク軸の中心軸線を通る直線を、直線L2とする。一般的に、排気管はエンジン本体の前面に接続される。車両を左右方向に見て、触媒層の少なくとも一部は、この直線L2の前方に配置される。そのため、触媒層全体が直線L2の後方に配置される場合に比べて、触媒層は、燃焼室に近い位置に配置される。そのため、触媒層を、燃焼室に近い位置に配置できる。よって、触媒層の熱劣化を防止しつつ、触媒層の活性化に要する時間を短縮できる。
本発明の鞍乗型車両は、自動二輪車に限定されるものではない。なお、本発明の鞍乗型車両とは、ライダーが鞍にまたがるような状態で乗車する車両全般を指している。本発明の鞍乗型車両は、自動二輪車、三輪車、四輪バギー(ATV:All Terrain Vehicle(全地形型車両))、水上バイク、スノーモービル等を含む。鞍乗型車両に含まれる自動二輪車は、スクータ、原動機付き自転車、モペット等を含む。
本発明において、「エンジンユニットのエンジン本体が、燃焼室を有するシリンダ部を備える」とは、エンジンユニットが単気筒エンジンであることを限定するものではない。本発明のエンジンユニットは、単気筒エンジンであっても、多気筒エンジンであってもよい。請求項1で規定された燃焼室を、第1の燃焼室とする。本発明のエンジンユニットは、第1の燃焼室に加えて、1つまたは複数の第2の燃焼室を有していてもよい。この場合、本発明のエンジンユニットは、多気筒エンジンである。燃焼室の数は特に限定されない。第2の燃焼室は、本発明の燃焼室に置き換えることが可能であってもよく、可能でなくてもよい。第2の燃焼室が複数の場合、一部の第2の燃焼室だけが、本発明の燃焼室に置き換えることが可能であってもよい。第2の燃焼室が複数の場合、全ての第2の燃焼室が、本発明の燃焼室に置き換えることが可能であってもよい。
本発明において、エンジンユニットの冷却方式は、自然空冷式であってもよい。エンジンユニットの冷却方式は、強制空冷式であってもよい。エンジンユニットの冷却方式は、水冷式であってもよい。
本発明において、酸素検出部材は、例えば酸素センサである。酸酸素濃度が所定の値より上か下かだけを検出するものであってもよく、酸素濃度の値をリニアに検出するものであってもよい。
本発明において、通路部とは、経路を囲んで経路を形成する壁体等を意味する。また、経路とは対象が通過する空間を意味する。吸気通路部とは、吸気経路を囲んで吸気経路を形成する壁体等を意味する。吸気経路とは、空気が通過する空間を意味する。排気通路部とは、排気経路を囲んで排気経路を形成する壁体等を意味する。排気経路とは、排ガスが通過する空間を意味する。
本発明において、ある部品の上流端は、ある部品の排ガスの流れ方向の最も上流に位置する端のことである。また、ある部品の下流端は、ある部品の排ガスの流れ方向の最も下流に位置する端のことである。
本明細書において、リン化学反応部の上流端は、リン化学反応部全体の排ガスの流れ方向の最も上流に位置する端のことである。触媒層の上流端は、触媒層全体の排ガスの流れ方向の最も上流に位置する端のことである。また、リン化学反応部の下流端は、リン化学反応部全体の排ガスの流れ方向の最も下流に位置する端のことである。また、触媒層の下流端は、触媒層全体の排ガスの流れ方向の最も下流に位置する端のことである。
本明細書において、ある部品の端部とは、部品の端とその近傍部とを合わせた部分を意味する。
本明細書において、Aの説明においてBの径方向を用いる場合、Bの径方向とは、Aを通るBの径方向のことである。Aの説明においてBの径方向を用いる場合とは、例えば、「AがBの径方向に沿っている」や「AがBの径方向に押圧される」等である。
本明細書において、特に限定しない限り、直線Aの直線Bに対する傾斜角度とは、直線Aと直線Bのなす角度のうち、小さい方の角度を意味する。この定義は、「直線」に限らず「方向」にも適用される。
本明細書において、A方向に沿った方向とは、A方向と平行な方向に限らない。A方向に沿った方向とは、A方向に対して±45°の範囲で傾斜している方向を含む。本発明において、A方向に沿った直線とは、A方向と平行な直線に限らない。A方向に沿った直線とは、A方向に対して±45°の範囲で傾斜している直線を含む。なお、A方向は、特定の方向を指すものではない。A方向を、水平方向や前後方向に置き換えることができる。
本明細書において、AとBがX方向に並ぶとは、以下の状態を示す。X方向に垂直ないずれの方向からAとBを見た場合であっても、AとBの両方がX方向を示す任意の直線上にある状態である。
また、本明細書において、Y方向から見てAとBがX方向に並ぶとは、以下の状態を示す。Y方向からAとBを見たときに、AとBの両方がX方向を示す任意の直線上にある状態である。Y方向とは異なるW方向からAとBを見たとき、AとBがX方向に並んでいなくてもよい。
なお、上述の2つの定義において、AとBは、接触していてもよい。また、AとBは、離れていてもよい。AとBの間に、Cが存在していてもよい。
本明細書において、AがBより前方にあるとは、以下の状態を指す。Aが、Bの最前端を通り前後方向に直交する平面の前方にある状態である。AとBは、前後方向に並んでいてもよく、並んでいなくてもよい。なお、AがBより後方にある、AがBより上方または下方にある、AがBより右方または左方にあるという表現にも、同様の定義が適用される。
本明細書において、AがBの前にあるとは、以下の状態を指す。AがBより前方にあり、且つ、AとBが前後方向に並んでいる状態である。なお、AがBの後ろにある、AがBの上または下にある、AがBの右または左にあるという表現にも、同様の定義が適用される。
本明細書において、前後方向と異なる方向であるX方向に見て、AがBの前にあるとは、以下の状態を指す。AがBより前方にあり、且つ、X方向に見て、AとBが前後方向に並んでいる状態である。X方向とは異なるY方向からAとBを見たとき、AとBがX方向に並んでいなくてもよい。なお、X方向に見て、AがBの後ろにある、AがBの上または下にある、AがBの右または左にあるという表現にも、同様の定義が適用される。
本発明において、含む(including)、有する(comprising)、備える(having)およびこれらの派生語は、列挙されたアイテム及びその等価物に加えて追加的アイテムをも包含することが意図されて用いられている。
本発明において、取り付けられた(mounted)、接続された(connected)、結合された(coupled)、支持された(supported)という用語は、広義に用いられている。具体的には、直接的な取付、接続、結合、支持だけでなく、間接的な取付、接続、結合および支持も含む。さらに、接続された(connected)および結合された(coupled)は、物理的又は機械的な接続/結合に限られない。それらは、直接的なまたは間接的な電気的接続/結合も含む。
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術および本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されることはない。
本明細書において、「好ましい」という用語は非排他的なものである。「好ましい」は、「好ましいがこれに限定されるものではない」ということを意味する。本明細書において、「好ましい」と記載された構成は、少なくとも、本発明のひとつの観点による構成により得られる上記効果を奏する。また、本明細書において、「してもよい」という用語は非排他的なものである。「してもよい」は、「してもよいがこれに限定されるものではない」という意味である。本明細書において、「してもよい」と記載された構成は、少なくとも、本発明のひとつの観点による構成により得られる上記効果を奏する。
本発明では、上述した本発明の他の観点による構成を互いに組み合わせることを制限しない。本発明の実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、以下の説明に記載されたまたは図面に図示された構成要素の構成および配置の詳細に制限されないことが理解されるべきである。本発明は、後述する実施形態以外の実施形態でも可能である。本発明は、後述する実施形態に様々な変更を加えた実施形態でも可能である。また、本発明は、後述する変形例を適宜組み合わせて実施することができる。
本発明によれば、排ガスの浄化性能のばらつきを抑制することができる鞍乗型車両を提供することができる。
まず、本発明の実施形態について、図15に基づいて説明する。
鞍乗型車両1は、エンジンユニット11が搭載される。エンジンユニット11は、エンジン本体20と、排気通路部43と、上流触媒46と、上流酸素センサ92fと、リン付着低減部44と、を備える。エンジン本体20は、燃焼室36を有する。
排気通路部43は、大気に排ガスを放出する放出口42eを有する。排気通路部43は、燃焼室36から放出口42eまで排ガスを流す。排気通路部43は、燃焼室36から上流触媒46の間に第1曲り部43aおよび第2曲り部43bを有する。
上流触媒46は、排気通路部43において排ガスの流れ方向の最も上流の触媒である。上流触媒46は、触媒層49を有する。触媒層49は、排ガスを浄化する貴金属を含む。
上流酸素センサ92fは、排気通路部43の燃焼室36と上流触媒46の間に配置される。上流酸素センサ92fは、排ガスの酸素濃度を検出する。
リン付着低減部44は、リン捕捉層44aまたはリン捕捉構造体44bの少なくともいずれか一方を含む。
リン捕捉層44aは、排気通路部43の燃焼室36と上流触媒46の間に配置される。リン捕捉層44aは、リンと化学反応するリン反応物質で構成されて、リンを捕捉する機能を持つ。または、リン捕捉層44aは、表面がリンを捕捉する機能を持つ粗面で形成されている。リン捕捉層44aは、排気通路部43の内面に塗布される。
リン捕捉構造体44bは、排気通路部43の燃焼室36と上流触媒46の間に配置される。リン捕捉構造体44bは、排ガスの流速を低減させてリンを捕捉する機能を持つ。リン捕捉構造体44bは、燃焼室36からリン捕捉構造体44bまでの経路長が、リン捕捉構造体44bから上流触媒46までの経路長よりも短くなるような位置に配置される。
本実施形態の鞍乗型車両1は、以下の特徴を有する。
上流触媒46は、燃焼室36に最も近い位置に配置される。そして、上流触媒46の活性化に要する時間を短縮できる。従って、鞍乗型車両1の排ガスの浄化性能を向上させることができる。
リン付着低減部44は、触媒層49へのリンの付着を低減させる。リン付着低減部44は、(A)リン捕捉層44a、または、(B)リン捕捉構造体44bの少なくともいずれか一方を含む。
(A)リン捕捉層44aは、排気通路部43の燃焼室36と上流触媒46の間に配置される。つまり、リン捕捉層44aは、排ガスの流れ方向の上流触媒46の上流に配置される。また、リン捕捉層44aは、排気通路部43の内面に塗布される。そして、リン捕捉層44aは、リンと化学反応するリン反応物質で構成されてリンを捕捉する機能を持つ。または、リン捕捉層44aは、表面がリンを捕捉する機能を持つ粗面で形成されてリンを捕捉する機能を持つ。また、排気通路部43には、燃焼室36から上流触媒46の間に第1曲り部43aおよび第2曲り部43bがある。排ガスは流速が早いため、排気通路部43の第1曲り部43aおよび第2曲り部43bに排ガスが衝突しやすい。そして、排気通路部43の第1曲り部43aおよび第2曲り部43bは、リンが付着しやすい。そして、リン捕捉層44aは、排気通路部43の燃焼室36と上流触媒46との間に配置される。リン捕捉層44aは、排ガスに含まれるリンと化学反応するリン反応物質を含む。リン捕捉層44aを通過する排ガスに含まれるリンは、リン反応物質と化学反応する。リン反応物質は、例えば、リンを吸着する物質である。この場合、排ガス中のリンがリン反応物質と化学反応することにより排ガスに含まれるリンが吸着される。リン反応物質は、リン捕捉層44aを通過する排ガスに含まれるリンと化学反応することにより、リンを捕捉することができる。または、リン捕捉層44aの表面は、排ガスに含まれるリンを付着させる粗面で形成されている。そのため、リン捕捉層44aは、リンを捕捉して、上流触媒46の触媒層49にリンが付着することを抑制できる。
(B)リン捕捉構造体44bは、排気通路部43の燃焼室36と上流触媒46の間に配置される。つまり、リン捕捉構造体44bは、排ガスの流れ方向の上流触媒46の上流に配置される。リン捕捉構造体44bは、排ガスの流速を低減させてリンを捕捉する機能を持つ。また、排ガスは流速が速いので、排気通路部43に構造体を配置すると、排ガスの流速を低下することができる。排ガスの流速を低下させる構造体には、リンが付着しやすい。燃焼室36からリン捕捉構造体44bまでの経路長は、リン捕捉構造体44bから上流触媒46までの経路長よりも短い。つまり、リン捕捉構造体44bは、燃焼室36に近い位置に配置される。リン捕捉構造体44bは、排ガスの流速を低減させて、排ガスに含まれるリンを付着させる。そのため、リン捕捉構造体44bは、リンを捕捉して、上流触媒46の触媒層49にリンが付着することを抑制できる。
これにより、鞍乗型車両1の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
(本発明の実施形態の具体例)
次に、上述した本発明の実施形態の具体例について、説明する。ここでは、本発明の実施形態の鞍乗型車両1が、自動二輪車である場合を例に挙げて説明する。なお、以下の説明では、上述した本発明の実施形態と同じ部位についての説明は省略する。基本的に、本発明の実施形態の具体例は、上述した本発明の実施形態を全て包含している。以下の説明において、前後方向とは、自動二輪車1の後述するシート9に着座したライダーから見た車両前後方向のことであり、左右方向とは、シート9に着座したライダーから見たときの車両左右方向のことである。車両左右方向は、車幅方向と同じである。なお、本実施形態の図中の矢印F、矢印B、矢印U、矢印D、矢印L、矢印Rは、それぞれ、前方、後方、上方、下方、左方、右方を表している。
(第1実施形態)
[自動二輪車の全体構成]
本発明の実施形態の第1の具体例である第1実施形態について、図1~図7および図15を参照しつつ、説明する。まず、本発明の第1実施形態に係る自動二輪車の全体構成について、説明する。図1は、第1実施形態の自動二輪車の側面図である。図2は、図1の自動二輪車のエンジンユニットの平面図であって、一部を断面で表示した図である。図3は、図1の自動二輪車のエンジンユニットを示す模式図である。
第1実施形態の自動二輪車1は、いわゆるスポーツタイプの自動二輪車である。なお、本実施形態のエンジンユニットは、オンロード型のモーターサイクルに適用してもよく、オフロード型のモーターサイクルに適用してもよい。図1に示すように、自動二輪車1は、前輪2と、後輪3と、車体フレーム4を備えている。車体フレーム4は、ヘッドパイプ4aを有する。車体フレーム4は、前後方向に沿って配置される。図1では、前輪2は1つであるが、2つ以上でもよい。図1では、後輪3は1つであるが、2つ以上でもよい。
ヘッドパイプ4aは、車体フレーム4の前部に配置される。ヘッドパイプ4aには、ステアリングシャフト(図示せず)が回転自在に挿入されている。ステアリングシャフトの上部にはハンドルユニット5が設けられている。ハンドルユニット5は、ハンドルバー12を有する。1本のハンドルバー12の両端には、グリップ13が設けられている。ハンドルユニット5の近傍には、表示装置14が配置されている。表示装置14には、車速、エンジン回転速度、各種の警告などが表示される。
ステアリングシャフトの下部には、左右一対のフロントフォーク6が支持されている。フロントフォーク6の下端部は、前輪2が回転自在に支持されている。フロントフォーク6は、上下方向の衝撃を吸収するように構成される。車体フレーム4には、一対のスイングアーム7が揺動可能に支持されている。スイングアーム7の後端部は、後輪3を支持している。各スイングアーム7には、リアサスペンション8が取り付けられている。リアサスペンション8の一端部は、スイングアーム7の揺動中心より後方の位置に取り付けられる。リアサスペンション8は、上下方向の衝撃を吸収するように構成される。
車体フレーム4は、シート9及び燃料タンク10を支持する。燃料タンク10は、シート9の前方に配置されている。車体フレーム4は、エンジンユニット11を支持する。エンジンユニット11は、車体フレーム4に直接連結されていても、間接的に連結されていてもよい。エンジンユニット11は、燃料タンク10の下方に配置されている。左右方向に見て、エンジンユニット11は、前輪2の後方で、且つ、後輪3の前方に配置される。車体フレーム4は、バッテリ(図示せず)を支持する。バッテリは、エンジンユニット11を制御するECU(Electronic Control Unit)90(図4参照)や各種センサなどの電子機器に電力を供給する。
[エンジンユニットの構成]
エンジンユニット11は、自然空冷式のエンジンユニットである。エンジンユニット11は、単気筒エンジンである。エンジンユニット11は、4ストローク式のエンジンである。4ストローク式のエンジンとは、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程(膨張行程)、及び排気行程を繰り返すエンジンである。エンジンユニット11は、エンジン本体20と、排気装置40と、動力伝達部60(図2参照)と、を有する。排気装置40は、排気通路部43と、リン付着低減部44(図3参照)と、触媒(上流触媒)46と、を有する。また、エンジンユニット11は、上流酸素センサ(上流酸素検出部材)92fを有する。また、エンジンユニット11は、吸気装置50(図3参照)を有する。上流触媒46は、排気通路部43において排ガスの流れ方向の最も上流の触媒である。
[エンジン本体の構成]
エンジン本体20は、クランクケース部21と、シリンダ部28と、発電機29と、スタータモータ(図示せず)と、を有する。シリンダ部28は、 シリンダボディ22と、シリンダヘッド23と、ヘッドカバー24とを有する。図2に示すように、クランクケース部21は、クランクケース21aと、クランク軸34と、オイルパン(図示せず)を有する。クランクケース21aとオイルパンは一体成型されてよい。クランクケース21aには、動力伝達部60と、発電機29と、スタータモータが収容される。また、クランクケース21aには、クランク軸34が収容される。クランク軸34は、クランクケース部21に回転可能に支持されている。クランク軸34の中心線Crを、クランク軸線Crという。クランク軸線Crは、左右方向に沿っている。より詳細には、クランク軸線Crは、左右方向と平行である。クランク軸34の左端部には、発電機29が取り付けられる。
クランクケース21aには、動力伝達部60が収容されている。動力伝達部60は、クランク軸34の右端部に連結されている。なお、図2では、動力伝達部60の一部の構成部品のみを破線で表示している。動力伝達部60は、トランスミッション部61と、クラッチ部62とを有する。トランスミッション部61は、メイン軸63及びドライブ軸64により構成される有段変速機である。クランク軸34とメイン軸63は、クラッチ部62を介して接続されている。クラッチ部62は、クランク軸34からメイン軸63に動力を伝達可能に接続する状態と、切断する状態とを切り換える。
メイン軸63は、複数の変速ギヤ63aを有する。ドライブ軸64は、複数の変速ギヤ64aを有する。変速ギヤ63aおよび変速ギヤ64aは、所定の変速比になるように、一対のギヤが選択される。選択された一対のギヤは、メイン軸63からドライブ軸64へ動力を伝達可能に噛み合わされる。選択された一対のギヤ以外は、いずれか一方がメイン軸63またはドライブ軸64に対して空転状態である。つまり、選択された一対の変速ギヤのみにより、メイン軸63からドライブ軸64へ動力が伝達される。変速ギヤ63aおよび変速ギヤ64aは、動力伝達機構である。
ドライブ軸64の左端部は、クランクケース21aから外部に突出している。ドライブ軸64の左端部には、スプロケット67が設けられている。ドライブ軸64のスプロケット67と後輪3のスプロケット(図示せず)に、チェーン68が巻き掛けられている。チェーン68により、ドライブ軸64から後輪3に動力が伝達される。
オイルパンには、オイルが貯留される。オイルは、リン化合物の含有量が0.08mass%より大きいオイルの使用が指定される。クランクケース部21は、オイルパンに貯留されたオイルを吸い上げるオイルポンプ(図示せず)を有する。オイルポンプで吸い上げられたオイルは、クランクケース部21内を潤滑する。また、クランクケース部21は、後述するシリンダボディ22のチェーン室33b及びシリンダヘッド23のチェーン室33aと連通する。オイルは、シリンダボディ22のチェーン室33b及びシリンダヘッド23のチェーン室33a内を循環する。そして、オイルは、シリンダ部28が有するシリンダヘッド23に収容された後述する動弁機構30を潤滑する。エンジン本体20の一部と、トランスミッション部61の一部は、クランクケース部21内に収容される。エンジン本体20の一部は、オイルで潤滑される。トランスミッション部61の一部は、オイルで潤滑される。つまり、エンジン本体20を潤滑するオイルと、トランスミッション部61を潤滑するオイルは、共通のオイルである。エンジン本体20の一部と、クラッチ部62は、クランクケース部21内に収容される。エンジン本体20の一部は、オイルで潤滑される。クラッチ部62は、オイルで潤滑される。つまり、エンジン本体20を潤滑するオイルと、クラッチ部62を潤滑するオイルは、共通のオイルである。なお、エンジン本体20を潤滑するオイルは、エンジン本体20の壁面温度よりも蒸発温度が高いオイルであることが好ましい。
上述の通り、シリンダ部28は、シリンダボディ22と、シリンダヘッド23と、ヘッドカバー24とを有する。シリンダボディ22は、クランクケース部21の上端部に取り付けられる。シリンダヘッド23は、シリンダボディ22の上端部に取り付けられる。ヘッドカバー24は、シリンダヘッド23の上端部に取り付けられる。シリンダボディ22の表面には、フィン部25が形成される。フィン部25は、シリンダボディ22のほぼ全周に形成されている。シリンダヘッド23の表面には、フィン部26が形成される。フィン部26は、シリンダヘッド23のほぼ全周に形成されている。フィン部25、26は、複数のフィンで構成されている。フィン部25、26は、エンジン本体20で発生した熱を放熱させる。
シリンダボディ22には、シリンダ孔22aが形成されている。シリンダ孔22a内には、ピストン35が往復移動可能に収容されている。ピストン35はコンロッド35aを介してクランク軸34に連結されている。以下、シリンダ孔22aの中心線を、シリンダ軸線Cyと称する。図1に示すように、シリンダ軸線Cyは、上下方向に沿っている。自動二輪車1を左右方向に見て、シリンダ軸線Cyは、上下方向に対して前後方向に傾斜している。シリンダ軸線Cyは、シリンダ部28が前傾するように傾斜している。つまり、シリンダ軸線Cyは、上方に向かうほど前方に向かうように傾斜している。自動二輪車1を左右方向に見て、シリンダ軸線Cyの上下方向に対する傾斜角度を傾斜角度θcyとする。傾斜角度θcyは0度以上45度以下である。傾斜角度θcyは図1に示す角度に限定されない。
図2に示すように、シリンダ部28には、燃焼室36が形成される。各燃焼室36は、シリンダヘッド23の下面と、シリンダ孔22aと、ピストン35の上面によって形成される。なお、燃焼室36は、主燃焼室と、主燃焼室につながる副燃焼室とを有する構成であってもよい。図1に示すように、自動二輪車1を左右方向に見て、クランク軸線Crを通り、上下方向と平行な直線を、直線La1とする。自動二輪車1を左右方向に見て、燃焼室36は、直線La1の前方に配置される。つまり、自動二輪車1を左右方向に見て、燃焼室36は、クランク軸線Crよりも前方に配置される。
図3に示すように、シリンダヘッド23には、シリンダ吸気通路部37と、シリンダ排気通路部38が形成される。なお、本明細書において、通路部とは、経路を形成する構造物を意味する。経路とは、ガスなどが通過する空間を意味する。シリンダヘッド23において、燃焼室36を形成する壁部には、吸気ポート37aおよび排気ポート38aが形成される。1つの燃焼室36に対して設けられる吸気ポート37aおよび排気ポート38aの数は、1つである。1つの燃焼室36に対して設けられる吸気ポート37aの数は2つ以上であってもよい。例えば、1つの燃焼室36に対して2つの吸気ポート37aが設けられる場合、シリンダ吸気通路部37は二股状に形成される。1つの燃焼室36に対して設けられる排気ポート38aの数は2つ以上であってもよい。例えば、1つの燃焼室36に対して2つの排気ポート38aが設けられる場合、シリンダ排気通路部38は二股状に形成される。シリンダヘッド23の後ろの外面には、吸気口37bが形成される。シリンダヘッド23の前の外面には、排気口38bが形成される。シリンダ吸気通路部37は、吸気ポート37aから吸気口37bまで形成される。1つの燃焼室36に対して設けられる吸気口37b及び排気口38bの数は、1つである。1つの燃焼室36に対して設けられる吸気口37bの数は2つ以上であってもよい。1つの燃焼室36に対して設けられる排気口38bの数は2つ以上であってもよい。シリンダ排気通路部38は、排気ポート38aから排気口38bまで形成される。燃焼室36に供給される空気は、シリンダ吸気通路部37内を通過する。燃焼室36から排出される排ガスは、シリンダ排気通路部38を通過する。
シリンダ吸気通路部37には吸気弁V1が配置される。シリンダ排気通路部38には排気弁V2が配置される。吸気ポート37aは、吸気弁V1の駆動により開閉される。排気ポート38aは、排気弁V2の駆動により開閉される。シリンダ吸気通路部37の吸気口37bには後述する吸気通路部51が接続される。シリンダ排気通路部38の排気口38bには後述する排気管41が接続される。
図2に示すように、シリンダヘッド23には、動弁機構30が収容されている。動弁機構30は、吸気弁V1および排気弁V2を開閉駆動させる。動弁機構30は、カム軸31を含んでいる。カム軸31は、左右方向に沿って配置される。カム軸31は、シリンダヘッド23に回転可能に支持されている。シリンダヘッド23には、チェーン室33aが設けられる。シリンダボディ22には、チェーン室33bが設けられる。シリンダヘッド23のチェーン室33aとシリンダボディ22のチェーン室33bは連通している。カム軸31の左端部は、チェーン室33bに配置される。スプロケット32は、カム軸31の左端部に設けられる。また、図示しないが、クランク軸34の左端部にスプロケットが設けられる。スプロケット32と、クランク軸34のスプロケットには、タイミングチェーン(図示せず)が巻き掛けられる。タイミングチェーンは、シリンダヘッド23のチェーン室33aとシリンダボディ22のチェーン室33b内に配置される。タイミングチェーンは、クランク軸34の回転を動弁機構30に伝える。クランク軸34の回転に伴って、カム軸31は回転する。カム軸31が回転することで、吸気弁V1および排気弁V2は開閉駆動される。
図3に示すように、エンジン本体20は、エンジン回転速度センサ92aと、エンジン温度センサ92c(図4参照)と、を有する。エンジン回転速度センサ92aは、クランク軸34の回転速度、即ち、エンジン回転速度を検出する。エンジン温度センサ92cは、エンジン本体20の温度(シリンダボディ22の温度)を検出する。
[吸気装置の構成]
以下、第1実施形態の自動二輪車1の吸気装置50について説明する。本明細書の吸気装置50の説明において、上流とは、空気の流れ方向の上流のことである。また、下流とは、空気の流れ方向の下流のことである。
図3に示すように、吸気装置50は、吸気通路部51を有する。吸気通路部51は、大気に面する大気吸入口51aを有する。大気吸入口51aは、吸気通路部51の上流端に形成される。吸気通路部51には、空気を浄化するエアクリーナ52が設けられる。吸気通路部51の下流端は、シリンダヘッド23の後面に形成された吸気口37bに接続される。大気吸入口51aは大気から空気を吸入する。大気吸入口51aから吸気通路部51に流入した空気は、エンジン本体20に供給される。
吸気通路部51には、インジェクタ94が配置されている。インジェクタ94は、吸気通路部51内の空気に対して燃料を噴射する。インジェクタ94は、燃料ホース(図示せず)を介して燃料タンク(図示せず)に接続されている。燃料タンクの内部には、燃料ポンプ95(図4参照)が配置されている。燃料ポンプ95は、燃料タンク内の燃料を燃料ホースへ圧送する。
吸気通路部51内には、スロットルバルブ54が配置される。スロットルバルブ54の開度は、ライダーがアクセルグリップ(図示せず)を回す操作をすることで変更される。
吸気通路部51には、スロットル開度センサ(スロットルポジションセンサ)92bと、吸気圧センサ92dと、吸気温センサ92eが設けられる。スロットル開度センサ92bは、スロットルバルブ54の位置を検出することにより、スロットル開度を表す信号を出力する。スロットル開度とは、スロットルバルブ54の開度である。吸気圧センサ92dは、吸気通路部51の内部圧力を検出する。吸気温センサ92eは、吸気通路部51内の空気の温度を検出する。
[排気装置の構成]
以下、第1実施形態の自動二輪車1の排気装置40について説明する。本明細書の排気装置40の説明において、上流とは、排ガスの流れ方向の上流のことである。また、下流とは、排ガスの流れ方向の下流のことである。
図1及び図3に示すように、排気装置40は、排気通路部43と、リン付着低減部44と、触媒46と、を有する。つまり、エンジンユニット11は、排気通路部43と、リン付着低減部44と、触媒46と、を有する。排気通路部43は、前述のシリンダ排気通路部38と、排気管41と、消音器42と、ケーシング47を有する。消音器42は、大気に面する放出口42eを有する。排気通路部43は、燃焼室36から放出口42eに至るまで、排ガスを流す空間を形成する構造物である。
排気管41は、上流排気管41aと下流排気管41bを有する。上流排気管41aは、ケーシング47より上流に配置される。下流排気管41bは、ケーシング47より下流に配置される。上流排気管41aの上流端部は、シリンダ排気通路部38に接続される。なお、上流排気管41aの上流端部は、シリンダ排気通路部38の中に挿入されて配置されても良い。上流排気管41aの上流端には、排ガスが流入する。下流排気管41bの下流端部は、消音器42に挿入されて、消音器42内に配置される。なお、図3では、簡略化のために上流排気管41aと下流排気管41bを一直線状に描いているが、上流排気管41aと下流排気管41bは一直線状ではない。
排気通路部43には、燃焼室36から上流触媒46の間に第1曲り部43aおよび第2曲り部43bがある。排気通路部43の燃焼室36から上流触媒46の間には、上流酸素センサ92fが配置される。具体的には、上流排気管41aには、上流酸素センサ92fが配置される。上流酸素センサ92fは、排気通路部43の後述する上流触媒46より上流に配置される。また、図3に示すように、燃焼室36から排気管41の上流端までの経路長をL11とする。排気管41の上流端から上流酸素センサ92fまでの経路長をL12とする。排気管41の上流端から排気管41の下流端までの経路長をL13とする。排気管41の下流端から上流触媒46までの経路長をL14とする。上流酸素センサ92fは、燃焼室36から上流酸素センサ92fまでの経路長L11+L12が、上流酸素センサ92fから上流触媒46までの経路長L13+L14より長い位置に配置される。つまり、上流酸素センサ92fは、燃焼室36より上流触媒46に近い位置に配置される。また、上流酸素センサ92fは、排気管41から上流酸素センサ92fまでの経路長L12が、上流酸素センサ92fから上流触媒46までの経路長L13+L14より長い位置に配置される。つまり、上流酸素センサ92fは、上流排気管41aの上流端より上流触媒46に近い位置に配置される。更に、上流酸素センサ92fは、上流酸素センサ92fは、上流排気管41aの上流端から上流酸素センサ92fまでの経路長L12が、上流酸素センサ92fから上流排気管41aの下流端までの経路長L13より長い位置に配置される。つまり、上流酸素センサ92fは、上流排気管41aの上流端より下流端に近い位置に配置される。上流酸素センサ92fは、排気通路部43の上流排気管41aを通過する排ガスの酸素濃度を検出する。
上流酸素センサ92fの構成の一例を図6に基づいて説明する。図6(a)は、酸素センサの一部断面図である。図6(b)は検出素子の先端部を示す一部断面図である。図6(a)に示すように、上流酸素センサ92fは、検出素子81を内蔵している。検出素子81は、ハウジング80に挿通されて、固定される。検出素子81は、カバー82内に配置される。検出素子81は、カバー82によって保護される。カバー82には、排ガスを通過させる通過口(図示せず)が設けられている。図6(b)に示すように、検出素子81は、固体電解質体83と、内側電極84と、外側電極85と、酸素センサ用触媒層(酸素検出部材用触媒層)86を備える。固体電解質体83は、有底の円筒状に形成される。内側電極84及び外側電極85は、一対の電極である。一対の電極84、85は、固体電解質体83の両面に設けられる。固体電解質体83の内表面には、内側電極84が被覆される。固体電解質体83の外表面には、外側電極85が被覆される。外側電極85の外表面は、酸素センサ用触媒層86が積層される。酸素センサ用触媒層86には、水素を燃焼させる能力の高いPt-Rh等の貴金属合金が用いられる。酸素センサ用触媒層86は、水素による影響を抑制することができる。検出素子81には、大気を導入する大気室87が形成される。大気室87は、内側電極84の内側に形成される。内側電極84は、大気に曝される。大気は基準ガスである。外側電極85は、排ガスに曝される。図3及び図5に示すように、上流酸素センサ92fは、上流排気管41aの上流端より下流端に近い位置に配置される。つまり、上流酸素センサ92fから上流排気管41aの上流端までの距離は、上流酸素センサ92fから上流排気管41aの下流端までの距離より長い。
なお、上流酸素センサ92fは、リニアA/Fセンサであってもよい。リニアA/Fセンサは、排ガスの酸素濃度に応じたリニアな検出信号を出力する。言い換えると、リニアA/Fセンサは、排ガス中の酸素濃度の変化を連続的に検出する。リニアA/Fセンサも、上流酸素センサ92fと同様に、酸素センサ用触媒層を有しても良い。
消音器42には、下流排気管41bの下流端部から排出された排ガスが流入する。消音器42は、排ガスの脈動波を抑制するように構成されている。それにより、消音器42は、排ガスによって生じる音(排気音)の音量を低減できる。消音器42内には、複数の膨張室と、膨張室同士を連通する複数のパイプが設けられている。下流排気管41bの下流端は、消音器42の膨張室内に配置されている。なお、下流排気管41bの下流端は、消音器42の上流端に接続されても良い。消音器42の下流端には、放出口42eが設けられている。消音器42を通過した排ガスは、放出口42eから大気へ放出される。図2に示すように、放出口42eは、クランク軸線Crよりも後方に位置する。消音器42は、接続部材42cを介して車体フレーム4に支持される。なお、消音器42は、エンジン本体20に支持されていてもよい。
次に、エンジンユニット11のリン付着低減部44について、図3及び図5に基づいて説明する。図5(a)は、図1のエンジンユニットの排気通路部とリン付着低減部と酸素センサの部分断面図である。図5(b)は、図5(a)のX1-X1断面図である。
図3及び図5(a)に示すように、エンジンユニット11は、リン付着低減部44を有する。なお、図5(a)では、第2曲り部43bの記載は省略している。リン付着低減部44は、排気通路部43の燃焼室36と上流触媒46との間に配置される。具体的には、リン付着低減部44は、上流排気管41a内に配置されている。リン付着低減部44は、上流排気管41aの内面の全周に亘って配置される。リン付着低減部44は、リン捕捉層である。リン捕捉層44は、リン反応物質で構成されて、リンを捕捉する機能を持つ。リン反応物質は、排ガスに含まれるリンと化学反応する物質である。より詳細には、図5(b)に示すように、リン捕捉層44は、リン反応物質が上流排気管41aの内面に塗布されて形成される。つまり、リン捕捉層44は、上流排気管41aの内面に積層して設けられる。リン捕捉層44の一部は、排気通路部43の第1曲り部43aに配置される。リン捕捉層44は、表面粗さが上流排気管41aの内面よりも粗い。つまり、リン捕捉層44の表面積は、上流排気管41aの内面の表面積よりも大きい。よって、リン捕捉層44は、排ガスと接触する表面積を増大させる。そして、リン捕捉層44は、接触した排ガスに含まれるリンを捕捉することができる。
リン反応物質として、排ガスに含まれるリンと化学反応することにより、リンを吸着する物質であるリン吸着物質を用いる。リン反応物質は、例えば、等電点が3より大きい金属酸化物である。より具体的には、リン反応物質は、U、Mn、Sn、Ti、Fe、Zr、Ce、Al、Y、Zn、La、Mgから選ばれる少なくとも一つを有する金属酸化物である。ここで、排ガス中のリン化合物は、等電点が1付近のリン酸として存在していると考えられている。従って、等電点が3より大きい金属酸化物は、リン化合物と金属酸化物との等電点の差が大きいため、リン化合物は金属酸化物に吸着されやすくなる。つまり、これらのリン反応物質は、金属酸化物の等電価の作用により、リンを吸着させる。また、リン反応物質は、リンとの反応性が高い物質であってもよい。具体的には、リン反応物質は、Ba、Sr、Ca、La、Pr、Na、Zrから選ばれる少なくとも一つを有する金属酸化物であっても良い。
なお、リン捕捉層44は、リン反応物質と担体で形成されても良い。担体は、リン反応物質を付着させる。担体は、シリカやアルミナ、チタニア化合物などの無機酸化物からなる多孔質体が用いられる。担体は、耐熱性、耐火性に優れている物質が用いられることが好ましい。更に、担体は、担持している物質のシンタリングを防止できるアパタイト型複合酸化物が用いられることが好ましい。例えば、リン捕捉層44は、リン反応物質を用いて形成された、モルタル、漆喰、または、耐火被覆材であって良い。モルタル、漆喰、または、耐火被覆材は、耐熱性に優れている。
次に、図3に基づいて、上流触媒46の構成について説明する。図3に示すように、ケーシング47は、排気通路部43に含まれる。ケーシング47の上流端は、上流排気管41aに接続される。ケーシング47の下流端は、下流排気管41bに接続されている。ケーシング47は、筒状に形成される。
ケーシング47は、触媒配置通路部47bと、上流通路部47aと、下流通路部47cとを有する。触媒配置通路部47b内には、触媒46が配置される。排ガスの流れ方向において、触媒配置通路部47bの上流端および下流端は、触媒46の上流端および下流端とそれぞれ同じ位置である。なお、ここでいう同じ位置とは、近傍の位置を含む意味である。触媒配置通路部47bの排ガスの流れ方向に直交する断面の面積は、排ガスの流れ方向においてほぼ一定である。上流通路部47aは、触媒配置通路部47bの上流端に接続されている。下流通路部47cは、触媒配置通路部47bの下流端に接続されている。
上流通路部47aは、少なくとも一部が、テーパー状に形成されている。このテーパー部は、下流に向かって内径が大きくなっている。下流通路部47cは、少なくとも一部が、テーパー状に形成されている。このテーパー部は、下流に向かって内径が小さくなっている。触媒配置通路部47bの排ガスの流れ方向に直交する断面の面積をS1とする。排気管41の排ガスの流れ方向に直交する断面の面積をS2とする。面積S2は、面積S1よりも小さい。
上流触媒46は、触媒配置通路部47bの内部に固定されている。つまり、上流触媒46は、排気通路部43内に配置される。排ガスは、上流触媒46を通過することで浄化される。上流触媒46の温度が所定の温度よりも低い場合、上流触媒46は不活性状態であって浄化性能を発揮しない。上流触媒46の温度が所定の活性温度以上の場合に、上流触媒46は活性状態となって浄化性能を発揮する。上流触媒46は、排ガスの流れ方向の最も上流の触媒である。上流触媒46は、自動二輪車1を左右方向に見て、前後方向に配置される排気通路部43の中で最も前方に配置される前触媒ともいえる。燃焼室36の排気ポート38aから排出された全ての排ガスは、上流触媒46を通過する。
上流触媒46は、いわゆる三元触媒である。三元触媒とは、排ガスに含まれる炭化水素、一酸化炭素、および窒素酸化物の3物質を酸化または還元することで除去する。三元触媒は、酸化還元触媒の1種である。
上流触媒46について、図7、図8および図16に基づいて、より詳細に説明する。図7(a)は上流触媒の各層の構造を示す概略図である。図7(b)は上流触媒の排ガスの流れ方向に直交する一部断面図である。図8は、上流触媒46の変形例を示す図である。図8(a)は上流触媒の各層の構造を示す概略図である。図8(b)は上流触媒の排ガスの流れ方向に直交する一部断面図である。図16は触媒層の一例を示す上流触媒の模式的な部分断面図である。
図7(a)、(b)に示すように、上流触媒46は、基材48と、触媒層49とを有する。基材48は、金属製の基材である。基材48は、耐熱性材料からなることが好ましい。基材48は、多孔構造体である。多孔構造体は、排ガスの流れ方向に貫通する多数の孔を有する。具体的には、基材48は、金属製の波板48aと金属製の平板48bを有する。例えば、波板48a及び平板48bは、耐熱合金を用いた厚み数十μmの金属箔である。基材48は、波板48aと平板48bを交互に重ねて巻回することで、円筒形に形成される。基材48は、円筒形の触媒配置通路部47bに挿入される。基材48には、波板48aと平板48bとで仕切られた多数のセル46aが形成される。セル46aは、孔である。セル46aの長手方向に直交する断面の形状は、波板48aと平板48bとが当接する3か所の部分を頂点とする略三角形の形状である。上流触媒46は、セル46aの長手方向が排ガスの流れ方向に沿うように、触媒配置通路部47b内に配置される。セル46aは、排ガスの流れ方向の上流から下流まで貫通している。上流触媒46に流入した排ガスは、セル46aを通過する。
触媒層49は、基材48の表面に積層して設けられる。つまり、触媒層49は、波板48aと平板48bで形成されるセル46aの表面に積層して設けられる。図16(a)は、触媒層49の一例を示す上流触媒46の模式的な部分断面図である。なお、触媒層49の構成は図16(a)に示す構成に限らない。触媒層49は、担体49aと貴金属49bからなる貴金属層49bを有する。担体49aは、貴金属層49bと基材48の間に設けられる。担体49aは、基材48に貴金属49bを付着させるために設けられている。担体49aは、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア化合物などの無機酸化物で形成される。担体49aは、排ガスを浄化する作用を有する物質を含んでいてもよい。担体49aは、貴金属を含まない。担体49aは、例えば、ウォッシュコートと呼ばれる塗装法によって、セル46aの表面に形成される。ウォッシュコートにより、例えば、ポーラスなγ?アルミナ層からなる担体49aが形成される。貴金属層49bは、担体49aの表面に分散して形成される。貴金属49bとしては、例えば、プラチナ、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどが挙げられる。これらの貴金属は、炭化水素、一酸化炭素、および窒素酸化物のいずれか除去する。貴金属49bは、担体49aに付着している。貴金属49bは、貴金属合金の形態で触媒層49に含まれていてもよい。貴金属49bは、担体49aに直接付着していてもよく、貴金属以外の物質を介して担体49aに付着していてもよい。貴金属49bは、担体49aと化学的に結合していてもよい。貴金属49bは、担体49aの微細孔をほとんど塞がない。触媒層49は、例えば、以下のように形成される。具体的には、例えば、基材48に担体49aを形成した後、担体49aの表面に貴金属49bを含む溶液を塗布する。または、担体49aが形成された基材48を、貴金属49bを含む溶液に浸漬する。そのようにして、担体49aの表面層に貴金属49bを浸み込ませて、触媒層49を形成してもよい。貴金属層49bの貴金属49bが、排ガスを浄化する。つまり、排ガスは、セル46aを通過する際に、貴金属層49bと接触して浄化される。より詳細には、触媒層49と排ガスとの反応は、排ガスと触媒層49との界面のみならず、触媒層49の内部においても進行する。触媒層49は、その内部で進行する上記反応を活用するため、一定の厚さ(例えば、5~30μm程度の厚さ)で形成される。つまり、触媒層49は、貴金属49bを含む。
または、図8(a)、(b)に示すように、上流触媒46は、基材48と、触媒層49とを有して良い。図16(b)は、触媒層49の一例を示す上流触媒46の模式的な部分断面図である。なお、触媒層49の構成は図16(b)に示す構成に限らない。担体49aは、基材48に貴金属を付着させるために設けられている。触媒層49は、基材48の表面に積層して設けられる。担体49aは、その内部に分散された貴金属49bを基材48に付着させるために設けられている。図16(b)の例では、触媒層49は、担体49aの内部と表面に貴金属49bが分散された構造を有する。具体的には、例えば、担体49aを構成する材料と貴金属49bとを含む溶液に、基材48を浸漬させることで、触媒層49を形成してもよい。なお、この場合、貴金属49bは担体49aの内部だけでなく、触媒層49の表面上にも存在してもよい。触媒層49内の貴金属49bが、排ガスを浄化する。なお、触媒層49は、担体49aの内部のみに貴金属49bが分散された構造を有してよい。つまり、担体49aの表面上に貴金属49bが配置されていなくてもよい。
図3に示すように、上流触媒46の排ガスの流れ方向の最大の長さをLとする。上流触媒46の排ガスの流れ方向に直交する方向の最大の長さをDとする。長さDは、上流触媒46の排ガスの流れ方向に直交する方向の最大幅である。上流触媒46の長さLは、上流触媒46の長さDより長い。上流触媒46の排ガスの流れ方向に直交する断面の形状は、例えば円形状である。なお、上流触媒46の排ガスの流れ方向に直交する断面の形状は、上下方向長さよりも左右方向長さが長い楕円形状であってもよい。これにより、エンジン本体20の下方に、上流触媒46を配置した場合であっても、地面と上流触媒46との間の距離を確保することができる。また、エンジン本体20の前方に、上流触媒46を配置した場合であっても、前輪2と上流触媒46との間の距離を確保することができる。そして、鞍乗型車両の大型化を抑制することができる。なお、上流触媒46の長さLは、上流触媒46の長さDより長くなくて良い。
図1に示すように、自動二輪車1を左右方向に見て、上流触媒46は、エンジン本体20の下方にある。自動二輪車1を左右方向に見て、上流触媒46は、直線La1を跨いで配置される。自動二輪車1を左右方向に見て、上流触媒46の一部は、クランク軸線Crよりも前方に配置される。また、自動二輪車1を左右方向から見て、上流触媒46は、シリンダ軸線Cyの前方(下方)に配置される。自動二輪車1を左右方向に見て、上流触媒46の一部は、クランク軸線Crよりも後方に配置される。上流触媒46全体が、クランク軸線Crよりも前方に配置されてもよい。つまり、自動二輪車1を左右方向に見て、上流触媒46は、エンジン本体20の前方に配置されてもよい。自動二輪車1を左右方向に見て、上流触媒46の少なくとも一部は、クランク軸線Crよりも前方に配置されることが好ましい。これにより、上流触媒46は、燃焼室36により近い位置に配置される。そして、上流触媒46の活性化に要する時間をより短縮できる。なお、自動二輪車1を左右方向に見て、上流触媒46全体は、クランク軸線Crの後方に配置されても良い。また、自動二輪車1を左右方向に見て、上流触媒46は、シリンダ軸線Cyよりも後方(上方)に配置されても良い。自動二輪車1を左右方向に見て、シリンダ軸線Cyに直交し、且つ、クランク軸線Crを通る直線を、直線La2とする。自動二輪車1を左右方向から見て、上流触媒46は、直線La2の後方(下方)に配置される。また、自動二輪車1を左右方向から見て、上流触媒46は、直線La2の前方(上方)に配置されても良い。この場合、上流触媒46は、燃焼室36に更に近い位置に配置される。そして、上流触媒46の活性化に要する時間を更に短縮できる。
[エンジンユニットの制御]
次に、第1実施形態のエンジンユニット11の制御の一例について説明する。図4は、第1実施形態の自動二輪車の制御ブロック図である。
エンジンユニット11は、図3に示すように、エンジン回転速度センサ92a、スロットル開度センサ92b(スロットルポジションセンサ)、エンジン温度センサ92c(図4参照)、吸気圧センサ92d、吸気温センサ92e、上流酸素センサ92fを有する。エンジン回転速度センサ92aは、クランク軸34の回転速度、即ち、エンジン回転速度を検出する。スロットル開度センサ92bは、スロットルバルブ54の位置を検出することにより、スロットルバルブ54の開度を検出する。以下、スロットルバルブ54の開度を、スロットル開度という。エンジン温度センサ92cは、エンジン本体20の温度を検出する。吸気圧センサ92dは、吸気通路部51内の圧力)を検出する。吸気温センサ92eは、吸気通路部51内の空気の温度を検出する。上流酸素センサ92fは、排気通路部43を通過する排ガスの酸素濃度を検出する。
エンジンユニット11は、図4に示すように、エンジン本体20の制御を行うECU90を備えている。ECU90は、エンジン回転速度センサ92a、エンジン温度センサ92c、スロットル開度センサ92b、吸気圧センサ92d、吸気温センサ92e、上流酸素センサ92f、車速センサ等の各種センサと接続されている。また、ECU90は、イグニッションコイル93、インジェクタ94、燃料ポンプ95、表示装置14(図1参照)等と接続されている。ECU90は、制御部91aと、作動指示部91bとを有する。作動指示部91bは、イグニッション駆動回路91cと、インジェクタ駆動回路91dと、ポンプ駆動回路91eとを備えている。
イグニッション駆動回路91c、インジェクタ駆動回路91d、および、ポンプ駆動回路91eは、制御部91aからの信号を受けて、イグニッションコイル93、インジェクタ94、燃料ポンプ95をそれぞれ駆動する。イグニッションコイル93が駆動されると、点火プラグで火花放電が生じて混合ガスが点火される。燃料ポンプ95は、燃料ホースを介してインジェクタ94に接続されている。燃料ポンプ95が駆動されると、燃料タンク(図示せず)内の燃料がインジェクタ94へ圧送される。
制御部91aは、例えばマイクロコンピュータである。制御部91aは、上流酸素センサ92fの信号、エンジン回転速度センサ92a等の信号に基づいて、イグニッション駆動回路91c、インジェクタ駆動回路91d、および、ポンプ駆動回路91eを制御する。制御部91aは、イグニッション駆動回路91cを制御することで、点火のタイミングを制御する。制御部91aは、インジェクタ駆動回路91dおよびポンプ駆動回路91eを制御することで、燃料噴射量を制御する。
燃焼効率と、後述する触媒46の浄化効率を高めるには、燃焼室36内の混合気の空燃比は、理論空燃比(ストイキオメトリ)であることが好ましい。制御部91aは、必要に応じて、燃料噴射量を増減させる。
以下、制御部91aによる燃料噴射量の制御(燃焼制御)の一例について説明する。
制御部91aは、まず、エンジン回転速度センサ92a、スロットル開度センサ92b、エンジン温度センサ92c、吸気圧センサ92dの信号に基づいて、基本燃料噴射量を算出する。具体的には、スロットル開度およびエンジン回転速度に対して吸入空気量を対応付けたマップと、吸気圧およびエンジン回転速度に対して吸入空気量を対応付けたマップを用いて、吸入空気量を求める。そして、マップから求められた吸入空気量に基づいて、目標空燃比を達成できる基本燃料噴射量を決定する。スロットル開度が小さい場合には、吸気圧およびエンジン回転速度に対して吸入空気量を対応付けたマップを使用する。一方、スロットル開度が大きい場合には、スロットル開度およびエンジン回転速度に対して吸入空気量を対応付けたマップを使用する。
また、制御部91aは、上流酸素センサ92fの信号に基づいて、基本燃料噴射量を補正するためのフィードバック補正値を算出する。具体的には、まず、上流酸素センサ92fの信号に基づいて、混合気がリーンであるかリッチであるかを判定する。なお、リッチとは、理論空燃比に対して燃料が過剰な状態をいう。リーンとは、理論空燃比に対して空気が過剰な状態をいう。制御部91aは、混合気がリーンであると判定すると、次回の燃料噴射量が増えるようにフィードバック補正値を算出する。一方、制御部91aは、混合気がリッチであると判定すると、次回の燃料噴射量が減るようにフィードバック補正値を求める。
また、制御部91aは、エンジン温度、外気温度、外気圧等に基づいて、基本燃料噴射量を補正するための補正値を算出する。さらに、制御部91aは、加速時及び減速時の過渡特性に応じた補正値を算出する。
制御部91aは、基本燃料噴射量と、フィードバック補正値などの補正値に基づいて、燃料噴射量を算出する。こうして求められた燃料噴射量に基づいて、燃料ポンプ95およびインジェクタ94が駆動される。このように、ECU90は、上流酸素センサ92fの信号を処理する。また、ECU90は、上流酸素センサ92fの信号に基づいて、燃焼制御を行う。
以上、第1実施形態の自動二輪車1の構成について説明した。第1実施形態の自動二輪車1は以下の特徴を有する。
自動二輪車1は、エンジンユニット11が搭載される。エンジンユニット11は、エンジン本体20、排気通路部43、上流触媒46、上流酸素センサ92f、及び、リン付着低減部44を有する。エンジン本体20は、燃焼室36を有するシリンダ部28を備える。排気通路部43は、大気に排ガスを放出する放出口42eを有する。排気通路部43は、燃焼室36から放出口42eまで排ガスを流す。上流触媒46は、排気通路部43において排ガスの流れ方向の最も上流にある触媒である。上流触媒46は、触媒層49を有する。触媒層49は、排ガスを浄化する貴金属を含む。つまり、上流触媒46は、燃焼室36に近い位置に配置される。従って、上流触媒46の活性化に要する時間を短縮できる。
上流酸素センサ92fは、排気通路部43の燃焼室36と上流触媒46の間に配置される。上流酸素センサ92fは、排ガスの酸素濃度を検出する。リン付着低減部44は、触媒層49へのリンの付着を低減させる。リン付着低減部44は、リン捕捉層44を含む。リン捕捉層44は、排気通路部43の燃焼室36と触媒層49の間の上流排気管41aに配置される。つまり、リン捕捉層44は、排ガスの流れ方向の上流触媒46の上流に配置される。なお、リン付着低減部44は、上流酸素センサ92fではない。また、リン捕捉層44aは、排気通路部43の内面に塗布される。そして、リン捕捉層44は、リンと化学反応するリン反応物質で構成されてリンを捕捉する機能を持つ。また、排気通路部43には、燃焼室36から上流触媒46の間に第1曲り部43aおよび第2曲り部43bがある。排ガスは流速が早いため、排気通路部43の第1曲り部43aおよび第2曲り部43bに排ガスが衝突しやすい。そして、排気通路部43の第1曲り部43aおよび第2曲り部43bは、リンが付着しやすい。そして、リン捕捉層44は、排気通路部43の燃焼室36と上流触媒46との間に配置される。リン捕捉層44は、排ガスに含まれるリンと化学反応するリン反応物質を含む。リン捕捉層44を通過する排ガスに含まれるリンは、リン反応物質と化学反応する。リン反応物質は、例えば、リンを吸着する物質である。この場合、排ガス中のリンがリン反応物質と化学反応することにより排ガスに含まれるリンが吸着される。リン反応物質は、リン捕捉層44を通過する排ガスに含まれるリンと化学反応することにより、リンを捕捉することができる。そのため、リン捕捉層44は、リンを捕捉して、上流触媒46の触媒層49にリンが付着することを抑制できる。
リン捕捉層44は、一部が、排気通路部43の第1曲り部43aおよび第2曲り部43bに配置される。排気通路部43の第1曲り部43aおよび第2曲り部43bは、リンが付着しやすい。そして、リン捕捉層44は、排気通路部43の第1曲り部43aおよび第2曲り部43bに配置される。そのため、リン捕捉層44は、排ガスに含まれるより多くのリンと化学反応することができる。そのため、リン捕捉層44は、より多くのリンを捕捉して、上流触媒46の触媒層49の表面にリンが付着することを更に抑制できる。これにより、自動二輪車1の排ガスの浄化性能のばらつきを更に抑えることができる。
リン反応物質は、U、Mn、Sn、Ti、Fe、Zr、Ce、Al、Y、Zn、La、Mgから選ばれる少なくとも一つを有する金属酸化物である。これらのリン反応物質は、等電点が3より大きい金属酸化物である。排ガス中のリン化合物は、等電点が1付近のリン酸として存在していると考えられている。等電点が3より大きい金属酸化物は、リン化合物と金属酸化物との等電点の差が大きいため、リン化合物は金属酸化物に吸着されやすくなる。これらのリン反応物質は、金属酸化物の等電価の作用により、リンを吸着させることができる。つまり、これらのリン反応物質は、排ガス中に多く含まれるリンが触媒層49に付着することを抑えることができる。これにより、自動二輪車1の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
また、リン反応物質は、Ba、Sr、Ca、La、Pr、Na、Zrから選ばれる少なくとも一つを有する金属酸化物である。これらのリン反応物質は、リンとの反応性が高い物質である。よって、リン反応物質は、上流触媒46を通過する排ガスに含まれるリンをより捕捉することができる。つまり、これらのリン反応物質は、排ガス中に多く含まれるリンが触媒層49に付着することを抑えることができる。これにより、自動二輪車1の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
エンジンユニット11は、リン化合物の含有量が0.08mass%より大きいオイルの使用が指定されるエンジンユニットである。鞍乗型車両のエンジンユニットは、四輪車のエンジンユニットに比べて、リン化合物の含有量が多いオイルの使用が指定される。つまり、鞍乗型車両である自動二輪車1のエンジンユニット11は、四輪に比べて、リンが多く含まれる排ガスを排出する。リン付着低減部44は、触媒層49へのリンの付着を低減させる。つまり、リン付着低減部44であるリン捕捉層は、リンを捕捉して、上流触媒46の触媒層49にリンが付着することを抑制する。これにより、四輪車に比べて、リンが多く含まれる排ガスを排出する自動二輪車1の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
エンジンユニット11は、トランスミッション部61を更に備える。また、エンジン本体20を潤滑するオイル及びトランスミッション部61を潤滑するオイルが、共通のオイルである。鞍乗型車両は、エンジン本体を潤滑するオイル及びトランスミッション部を潤滑するオイルが、共通のオイルである場合が多い。一方、自動車は、エンジン本体を潤滑するオイル及びトランスミッション部を潤滑するオイルが、共通のオイルではない場合が多い。つまり、鞍乗型車両である自動二輪車1は、自動車と比較して、排気量当たりのオイルの使用量が多い。そして、鞍乗型車両である自動二輪車1は、自動車と比較して、排気量当たりの排ガスに含まれるリンの含有量が多くなる。更に、トランスミッション部61は、動力伝達機構である変速ギヤ63a、64aを用いて動力を伝達する。変速ギヤ63a、64aの磨耗を防ぐために、トランスミッション部61を潤滑するオイルには、添加剤として、リン化合物が多く必要となる。つまり、エンジン本体20を潤滑するオイルにも、リン化合物が多く含まれる。従って、エンジンユニット11は、リンが多く含まれる排ガスを排出する。そのため、自動車と比較して、排気量当たりの排ガスに含まれるリンの含有量が多い自動二輪車1の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
エンジンユニット11は、クラッチ部62を更に備える。そして、エンジン本体20を潤滑するオイル及びクラッチ部62を潤滑するオイルが、共通のオイルである。鞍乗型車両である自動二輪車1は、自動車と異なり、エンジン停止時にも移動ができるように、クラッチ部62を有する。また、鞍乗型車両は、エンジン本体を潤滑するオイル及びクラッチ部を潤滑するオイルが、共通のオイルである場合が多い。鞍乗型車両である自動二輪車1は、自動車と異なり、クラッチ部62が滑りやすいオイルは使用されない。リン化合物の含有量が少ないオイルは、クラッチ部が滑りやすいオイルである場合が多い。自動車で使用されるリン化合物の含有量が少ないオイルは、鞍乗型車両である自動二輪車1では使用されない。つまり、鞍乗型車両である自動二輪車1のエンジンユニット11は、自動車のエンジンユニットに比べて、リン化合物の含有量が多いオイルが使用される。つまり、鞍乗型車両である自動二輪車1は、自動車に比べて、リンが多く含まれる排ガスを排出する。リン付着低減部44は、触媒層49へのリンの付着を低減させる。つまり、リン付着低減部44であるリン捕捉層44は、リンを捕捉して、上流触媒46の触媒層49にリンが付着することを抑制する。これにより、自動車に比べて、リンが多く含まれる排ガスを排出する自動二輪車1の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
エンジンユニット11は、自然空冷式のエンジンユニットである。自然空冷式のエンジンユニット11は、燃焼室36の温度が高い。つまり、自然空冷式のエンジンユニット11は、強制空冷式のエンジンユニットや水冷式のエンジンユニットと比べて、オイルに含まれるリン化合物が燃焼室36で多く分解される。そして、自然空冷式のエンジンユニットは、強制空冷式のエンジンユニットや水冷式のエンジンユニットと比べて、多くのリンが含まれる排ガスが排出される。リン付着低減部44は、触媒層49へのリンの付着を低減させる。つまり、リン付着低減部44であるリン捕捉層は、リンを捕捉して、上流触媒46の触媒層49にリンが付着することを抑制する。これにより、自然空冷式のエンジンユニット11を有する自動二輪車1であっても、排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
エンジン本体20を潤滑するオイルは、エンジン本体20の壁面温度よりも蒸発温度が高いオイルである。エンジン本体20を潤滑するオイルに含まれるリン化合物が燃焼室36で分解する量を抑えることができる。そして、排ガスに含まれるリンの量を抑制することができる。これにより、自動二輪車1の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
上流酸素センサ92fは、検出素子81を有する。そして、上流酸素センサ92fの検出素子は、酸素センサ用触媒層86を有する。酸素センサ用触媒層86は、排ガスを浄化する。酸素センサ用触媒層86は、排ガス中の水素を燃焼させる能力の高いPt-Rh等の貴金属を含む。つまり、酸素センサ用触媒層86は、排ガス中の水素を浄化する。酸素センサ用触媒層86は、水素による影響を抑制するため、上流酸素センサ92fの検出素子81に設けられる。水素による影響とは、以下の事象である。水素は分子量が小さく、拡散速度が非常に速いため、上流酸素センサ92fの検出素子81に到達しやすい。検出素子81の電極で水素の平衡化反応が発生し、出力がシフトしてしまう。そして、酸素センサ用触媒層86も、触媒層49と同様に、リンが付着する。そして、リンのガラス化が生じることにより、上流酸素センサ92fの検出精度が低下する。上流酸素センサ92fは、排気通路部43のリン付着低減部44と上流触媒46の間に配置される。リン付着低減部44は、排ガスに含まれるリンを捕捉する。そのため、上流酸素センサ92fの酸素センサ用触媒層86に到達するリンの量を低減することができる。よって、上流酸素センサ92fの検出精度が向上する。
上流酸素センサ92fは、燃焼室36から上流酸素センサ92fまでの経路長が、上流酸素センサ92fから上流触媒46までの経路長より長い位置に配置される。つまり、上流酸素センサ92fは、燃焼室36より上流触媒46に近い位置に配置される。また、上流酸素センサ92fは、上流酸素センサ92fは、排気管41から上流酸素センサ92fまでの経路長が、上流酸素センサ92fから上流触媒46までの経路長より長い位置に配置される。つまり、上流酸素センサ92fは、上流排気管41aの上流端より上流触媒46に近い位置に配置される。更に、上流酸素センサ92fは、上流酸素センサ92fは、上流排気管41aの上流端から上流酸素センサ92fまでの経路長が、上流酸素センサ92fから上流排気管41aの下流端までの経路長より長い位置に配置される。上流酸素センサ92fは、上流排気管41aの上流端より下流端に近い位置に配置される。上流酸素センサ92fより上流に配置されたリン付着低減部44は、上流酸素センサ92fを通過する前の排ガスに含まれるリンを捕捉する。上流酸素センサ92fが燃焼室36より上流触媒46に近い位置に配置されると、上流酸素センサ92fが燃焼室36より上流触媒46に近い位置に配置される場合と比較して、上流酸素センサ92fの上流に配置されるリン付着低減部44の表面積が多くなる。また、上流酸素センサ92fが排気管41の上流端より上流触媒46に近い位置に配置されると、上流酸素センサ92fが上流触媒46より排気管41の上流端に近い位置に配置される場合と比較して、上流酸素センサ92fの上流に配置されるリン付着低減部44の表面積がより多くなる。上流酸素センサ92fが上流排気管41aの上流端より下流端に近い位置に配置されると、上流酸素センサ92fが上流排気管41aの下流端より上流端に近い位置に配置される場合と比較して、上流酸素センサ92fの上流に配置されるリン付着低減部44の表面積がより多くなる。そして、上流酸素センサ92fより上流に配置されたリン付着低減部44は、上流酸素センサ92fに到達するリンの量を低減することができる。よって、上流酸素センサ92fに付着するリンを低減できる。そして、上流酸素センサ92fの検出精度が向上する。
(第2実施形態)
次に、本発明の実施形態の第2の具体例である第2実施形態に係る自動二輪車について、図9および図10に基づいて、説明する。但し、上記第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いてその説明を省略する。図9(a)は、第2実施形態の自動二輪車のエンジンユニットの排気通路部とリン付着低減部と酸素センサを示す部分断面図である。図9(b)は図9(a)のX2-X2断面図である。図10は、第2実施形態のエンジンユニットの排気通路部とリン付着低減部と酸素センサと上流触媒を示す模式図である。第2実施形態に係る自動二輪車のエンジンユニットは、第1実施形態に係る自動二輪車のエンジンユニット11と、リン付着低減部の構成が異なる。リン付着低減部以外の構成は、第1実施形態に係る自動二輪車のエンジンユニット11と同じである。
図9に示すように、本実施形態のエンジンユニットは、5つのリン付着低減部144を有する。なお、図9(a)では、第2曲り部43bの記載を省略している。5つのリン付着低減部144は、上流排気管41a内に配置されている。つまり、5つのリン付着低減部144は、排気通路部43の燃焼室36と上流触媒46の間に配置されている。図10に示すように、燃焼室36から排気管41の上流端までの経路長をL21とする。排気管41の上流端から排ガスの流れ方向の最も下流のリン捕捉構造体144までの経路長をL22とする。排ガスの流れ方向の最も下流のリン捕捉構造体144から上流触媒46までの経路長をL23とする。排ガスの流れ方向の最も下流のリン捕捉構造体144は、燃焼室36から排ガスの流れ方向の最も下流のリン捕捉構造体144までの経路長L21+L22が、排ガスの流れ方向の最も下流のリン捕捉構造体144から上流触媒46までの経路長L23よりも短い位置に配置される。つまり、5つのリン捕捉構造体144は、燃焼室36からリン捕捉構造体144までの経路長が、リン捕捉構造体144から上流触媒46までの経路長よりも短い位置に配置される。図9に示すリン付着低減部144は、リン捕捉構造体である。リン捕捉構造体144は、排ガスの流速を低減させてリンを捕捉する機能を持つ。リン捕捉構造体144は、排気通路部43の表面積を増大させる表面積増大部でもある。また、リン捕捉構造体144は、排気通路部43を通過する排ガスに対して抵抗を与える抵抗部でもある。より詳細には、リン捕捉構造体144は、上流排気管41aの内側に溶接などで接着されて配置された複数の半円形の板状部材である。リン捕捉構造体144は、上流排気管41aの下流端より上流端に近い位置に配置される。また、リン捕捉構造体144は、排気通路部43の排ガスの流れ方向に交差する方向に沿って配置される。図9に示す例では、リン捕捉構造体144は、排気通路部43の排ガスの流れ方向に垂直となる方向に沿って配置される。排気通路部43を通過する排ガスは、リン捕捉構造体144に衝突する。また、リン捕捉構造体144は、リン捕捉構造体144が配置される上流排気管41aの表面積を大きい。つまり、リン捕捉構造体144が配置された上流排気管41aは、リン捕捉構造体144が配置されない上流排気管41aと比較して、排ガスと接触する表面積が大きい。よって、リン捕捉構造体144は、排ガスと接触する表面積を増大させる。そして、排ガスは流速が速いので、排気通路部43にリン捕捉構造体144を配置すると、排ガスの流速を低下することができる。排ガスの流速を低下させるリン捕捉構造体144には、リンが付着しやすい。リン捕捉構造体144は、接触した排ガスに含まれるリンを捕捉することができる。
リン捕捉構造体144は、その表面にリン反応物質が形成されたリン捕捉構造体層144aを有することが好ましい。リン捕捉構造体層144aは、リン反応物質と担体で形成されることが好ましい。リン反応物質は、上述の通り、リンと化学反応する物質である。リン捕捉構造体144は、リンを捕捉する機能を有する。これにより、リン捕捉構造体144は、排ガスからリンをより多く捕捉することができる。
なお、リン捕捉構造体144は、図9の例では、5つの板状部材で構成されるが、それに限らない。リン捕捉構造体144は、1つの板状部材であっても良いし、5つより少ない板状部材であっても良いし、5つより多い板状部材であっても良い。また、リン捕捉構造体144は、上流排気管41aの下流端より上流端に近い位置に配置されているが、それに限らない。リン捕捉構造体144は、燃焼室36からリン捕捉構造体144までの経路長が、リン捕捉構造体144から上流触媒46までの経路長よりも短い位置であれば、上流排気管41aのいずれの位置にも配置することができる。また、リン捕捉構造体144は、図9の例では、半円形の板状部材であるが、それに限らない。リン捕捉構造体144は、リング形状、螺旋形状、その他の様々な形状の板状部材であっても良い。また、リン捕捉構造体144は、上流排気管41a内に配置された円筒状の部材であってもよい。
上流酸素センサ92fは、上流排気管41aに配置される。つまり、上流酸素センサ92fは、排気通路部43に配置される。上流酸素センサ92fは、排気通路部43の触媒46より上流に配置される。上流酸素センサ92fは、排気通路部43のリン捕捉構造体144より下流に配置される。つまり、上流酸素センサ92fは、排気通路部43のリン捕捉構造体144と上流触媒46の間に配置される。
以上、第2実施形態の自動二輪車は、第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態で述べた効果と同様の効果を奏する。さらに、第2実施形態の自動二輪車は、以下の特徴を有する。
リン捕捉構造体144は、排気通路部43の燃焼室36と上流触媒46の間に配置される。つまり、リン捕捉構造体144は、排ガスの流れ方向の上流触媒46の上流に配置される。リン捕捉構造体144は、排ガスの流速を低減させてリンを捕捉する機能を持つ。また、排ガスは流速が速いので、排気通路部43に構造体を配置すると、排ガスの流速を低下することができる。排ガスの流速を低下させる構造体には、リンが付着しやすい。燃焼室36からリン捕捉構造体144までの経路長は、リン捕捉構造体144から上流触媒46までの経路長よりも短い。つまり、リン捕捉構造体144は、燃焼室36に近い位置に配置される。リン捕捉構造体144は、排ガスの流速を低減させて、排ガスに含まれるリンを付着させる。そのため、リン捕捉構造体144は、リンを捕捉して、上流触媒46の触媒層49にリンが付着することを抑制できる。これにより、自動二輪車1の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
また、リン捕捉構造体144は、リン捕捉構造体層144aを有する。リン捕捉構造体層144aは、少なくとも表面にリンと化学反応するリン反応物質が形成されてリンを捕捉する機能を持つ。リン捕捉構造体層144aは、排ガスに含まれるリンと化学反応させる。ここで、リン捕捉構造体144は、排ガスの流量を低減させて、排ガスに含まれるリンを付着させる。さらに、リン捕捉構造体層144aは、リンと化学反応することにより、排ガスに含まれるリンを付着させる。そのため、リン捕捉構造体層144aは、より多くのリンを捕捉して、上流触媒46の触媒層49の表面にリンが付着することを更に抑制できる。これにより、自動二輪車1の排ガスの浄化性能のばらつきを更に抑えることができる。
(第3実施形態)
次に、本発明の実施形態の第3の具体例である第3実施形態に係る自動二輪車について、図11に基づいて、説明する。但し、上記第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いてその説明を省略する。図11(a)は、第3実施形態の自動二輪車のエンジンユニットの排気通路部とリン付着低減部と酸素センサを示す部分断面図である。図11(b)は図11(a)のX3-X3断面図である。なお、図11(a)では、第2曲り部43bの記載を省略している。第3実施形態に係る自動二輪車のエンジンユニットは、第1実施形態に係る自動二輪車のエンジンユニット11と、リン捕捉層の構成が異なる。リン捕捉層以外の構成は、第1実施形態に係る自動二輪車のエンジンユニット11と同じである。
上記第1実施形態において、リン捕捉層44は、上流排気管41aの内面の全周に亘って配置されている。しかし、リン捕捉層は、上流排気管41aの内面の周方向の一部分に配置されてもよい。第3実施形態では、図11(a)及び図11(b)に示すように、リン捕捉層444は、上流排気管41aの内面の半周に亘って配置される。リン捕捉層444は、排気通路部43の燃焼室と上流触媒46の間に配置される。リン捕捉層444の一部は、排気通路部43の第1曲り部43aおよび第2曲り部43bに配置される。そして、リン捕捉層444は、リンと化学反応するリン反応物質で構成されてリンを捕捉する機能を持つ。リン反応物質は、例えば、リンを吸着する物質である。この場合、排ガス中のリンがリン反応物質と化学反応することにより排ガスに含まれるリンが吸着される。
以上、第3実施形態の自動二輪車は、第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態で述べた効果と同様の効果を奏する。さらに、第3実施形態の自動二輪車は、以下の特徴を有する。
排ガスは流速が早いため、排気通路部43の第1曲り部43aおよび第2曲り部43bに排ガスが衝突しやすい。そして、排気通路部43の第1曲り部43aおよび第2曲り部43bは、リンが付着しやすい。そして、リン捕捉層444の一部は、排気通路部43の第1曲り部43aおよび第2曲り部43bに配置される。リン捕捉層44は、排ガスに含まれるリンと化学反応するリン反応物質を含む。リン捕捉層444を通過する排ガスに含まれるリンは、リン反応物質と化学反応する。リン反応物質は、リン捕捉層444を通過する排ガスに含まれるリンと化学反応することにより、リンを捕捉することができる。そのため、リン捕捉層444は、リンを捕捉して、上流触媒46の触媒層49にリンが付着することを抑制できる。
(第4実施形態)
次に、本発明の実施形態の第4の具体例である第4実施形態に係る自動二輪車について、図12及び図13に基づいて、説明する。但し、上記第2実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いてその説明を省略する。図12(a)は、第4実施形態の自動二輪車のエンジンユニットの排気通路部とリン付着低減部と酸素センサを示す部分断面図である。図12(b)は図12(a)のX4-X4断面図である。なお、図12(a)では、第2曲り部43bの記載を省略している。図13は、第4実施形態のエンジンユニットの排気通路部とリン付着低減部と酸素センサと上流触媒を示す模式図である。第4実施形態に係る自動二輪車のエンジンユニットは、第1実施形態に係る自動二輪車のエンジンユニット11と、リン捕捉構造体の構成が異なる。リン捕捉構造体以外の構成は、第2実施形態に係る自動二輪車のエンジンユニット11と同じである。
上記第2実施形態において、リン捕捉構造体144は、上流排気管41a内に配置された半円状の複数の板材から形成されている。しかし、図12(a)及び図12(b)に示すように、リン捕捉構造体544は、多孔構造体である。排ガスの流れ方向に直交する方向において、リン捕捉構造体544の外径は、排気通路部43の内径とほぼ同じである。リン捕捉構造体544は、排気通路部43の燃焼室36と上流触媒46の間に配置される。リン捕捉構造体544は、多孔構造体である。リン捕捉構造体544は、排ガスの流れ方向に直交する方向の断面に複数のセルが形成される。リン捕捉構造体544の複数のセルは、排ガスの流れ方向の上流から下流まで貫通している。リン捕捉構造体544のセルの排ガスの流れ方向に直交する方向の断面の最大幅は、排ガスの流れ方向の長さより十分に小さい。リン捕捉構造体544は、上流排気管41a内周面に溶接などで接着されて配置される。図13に示すように、燃焼室36から排気管41の上流端までの経路長をL51とする。リン捕捉構造体544から上流触媒46までの経路長をL52とする。排気管41の上流端からリン捕捉構造体544までの経路長は0である。リン捕捉構造体544は、燃焼室36からリン捕捉構造体544までの経路長L51が、リン捕捉構造体544から上流触媒46までの経路長L52よりも短い位置に配置される。リン捕捉構造体544は、排気通路部43を通過する排ガスに対して抵抗を与える抵抗部でもある。リン捕捉構造体544は、上流排気管41aの排ガスの流れ方向の上流に配置される。排気通路部43を通過する排ガスは、リン捕捉構造体544の複数のセルを通過する。また、リン捕捉構造体544の表面積は、複数のセルの表面積の合計となる。従って、リン捕捉構造体544が配置された上流排気管41aは、リン捕捉構造体544が配置されない上流排気管41aと比較して、排ガスと接触する表面積が大きい。よって、リン捕捉構造体544は、排ガスと接触する表面積を増大させる。そして、排ガスは流速が速いので、排気通路部43にリン捕捉構造体544を配置すると、排ガスの流速を低下することができる。排ガスの流速を低下させるリン捕捉構造体544には、リンが付着しやすい。リン捕捉構造体544は、接触した排ガスに含まれるリンを捕捉することができる。
リン捕捉構造体544は、その表面にリン反応物質が形成されたリン捕捉構造体層544aを有することが好ましい。リン捕捉構造体層544aは、リン反応物質と担体で形成されることが好ましい。リン反応物質は、上述の通り、リンと化学反応する物質である。リン捕捉構造体544は、リンを捕捉する機能を有する。これにより、リン捕捉構造体544は、排ガスからリンをより多く捕捉することができる。
上流酸素センサ92fは、上流排気管41aのリン捕捉構造体544より下流に配置される。つまり、上流酸素センサ92fは、リン捕捉構造体544と上流触媒46の間に配置される。つまり、リン捕捉構造体544は、上流酸素センサを通過する前の排ガスに含まれるリンを捕捉する。そのため、上流酸素センサ92fに到達するリンの量を低減することができる。よって、上流酸素センサ92fに付着するリンを低減できる。そして、上流酸素センサ92fの検出精度を向上できる。
以上、第2実施形態の自動二輪車は、第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態で述べた効果と同様の効果を奏する。さらに、第2実施形態の自動二輪車は、以下の特徴を有する。
リン捕捉構造体544は、排気通路部43の燃焼室36と上流触媒46の間に配置される。つまり、リン捕捉構造体544は、排ガスの流れ方向の上流触媒46の上流に配置される。リン捕捉構造体544は、排ガスの流速を低減させてリンを捕捉する機能を持つ。また、排ガスは流速が速いので、排気通路部43に構造体を配置すると、排ガスの流速を低下することができる。排ガスの流速を低下させる構造体には、リンが付着しやすい。燃焼室36からリン捕捉構造体544までの経路長L51は、リン捕捉構造体544から上流触媒46までの経路長L52よりも短い。つまり、リン捕捉構造体544は、燃焼室36に近い位置に配置される。リン捕捉構造体544は、排ガスの流速を低減させて、排ガスに含まれるリンを付着させる。そのため、リン捕捉構造体544は、リンを捕捉して、上流触媒46の触媒層49にリンが付着することを抑制できる。これにより、自動二輪車1の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。
また、リン捕捉構造体544は、リン捕捉構造体層544aを有する。リン捕捉構造体層144aは、少なくとも表面にリンと化学反応するリン反応物質が形成されてリンを捕捉する機能を持つ。リン捕捉構造体層544aは、排ガスに含まれるリンと化学反応させる。ここで、リン捕捉構造体544は、排ガスの流量を低減させて、排ガスに含まれるリンを付着させる。さらに、リン捕捉構造体層544aは、リンと化学反応することにより、排ガスに含まれるリンを付着させる。そのため、リン捕捉構造体層544aは、より多くのリンを捕捉して、上流触媒46の触媒層49の表面にリンが付着することを更に抑制できる。これにより、自動二輪車1の排ガスの浄化性能のばらつきを更に抑えることができる。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。また、後述する変更例は適宜組み合わせて実施することができる。
上記実施形態において、エンジンユニットが有する触媒は、1つの上流触媒のみである。しかし、エンジンユニットは、複数の触媒を有して良い。複数の触媒は、排気通路部内に配置される。排気通路部内に、複数の触媒を配置することにより、以下の効果が得られる。排ガスは、複数の触媒で浄化される。したがって、触媒による排ガスの浄化性能をより向上させることができる。図14に基づいて、触媒を複数有するエンジンユニットの変形例について説明する。図14(a)及び(b)は、エンジンユニットの排気通路部とリン付着低減部と酸素センサと触媒の変形例を示す模式図である。なお、第1実施形態と同じ部材については、同じ符号を付して、その説明を省略する。
図14(a)では、エンジンユニットは、2つの触媒を有する。2つの触媒は、触媒646と触媒46である。触媒646及び触媒46は、排気通路部43内に配置されている。触媒646は、上流排気管41a内に配置される。触媒646は、排ガスの流れ方向の最も上流の触媒である。従って、触媒646が、本発明における上流触媒である。以下、この変形例において、触媒646を、上流触媒646と記載する。上流触媒646は、円筒状に形成されて、上流排気管41aの内面に配置される。なお、上流触媒646は、いわゆる三元触媒である。上流触媒646は、上流排気管41aの内面側に配置された円筒状の基材と、この基材の表面に積層された円筒状の触媒層とを有する。
上流排気管41a内には、リン付着低減部であるリン捕捉層644が配置されている。リン捕捉層644は、上流排気管41aの上流端から上流触媒646の上流端までの間の、上流排気管41aの内面の全周に亘って配置される。リン捕捉層644は、排ガスに含まれるリンと化学反応するリン反応物質が設けられる化学反応部である。リン捕捉層644は、リン反応物質が上流排気管41aの内周面に塗布されて、層状に形成される。リン捕捉層644は、排ガスに含まれるリンと化学反応するリン反応物質を含む。リン捕捉層644を通過する排ガスに含まれるリンは、リン反応物質と化学反応する。リン反応物質は、リン捕捉層644を通過する排ガスに含まれるリンと化学反応することにより、リンを捕捉することができる。そのため、リン捕捉層644は、リンを捕捉して、上流触媒646の触媒層にリンが付着することを抑制できる。
上流酸素センサ92fは、上流排気管41aに配置される。上流酸素センサ92fは、排気通路部43の上流触媒646よりも上流に配置される。上流酸素センサ92fは、上流酸素センサ92fから排気管41の上流端までの経路長が、上流酸素センサ92fから上流触媒646までの経路長より長い位置に配置されることが好ましい。つまり、上流酸素センサ92fは、上流排気管41aの上流端より上流触媒646に近い位置に配置されることが好ましい。上流酸素センサ92fより上流に配置されたリン捕捉層644は、上流酸素センサ92fを通過する前の排ガスに含まれるリンを捕捉する。上流酸素センサ92fが上流排気管41aの上流端より上流触媒646に近い位置に配置されると、上流酸素センサ92fが上流触媒646より上流排気管41aの上流端に近い位置に配置される場合と比較して、上流酸素センサ92fより上流に配置されるリン捕捉層644の表面積が多くなる。そして、上流酸素センサ92fより上流に配置されたリン捕捉層644は、上流酸素センサ92fに到達するリンの量を低減することができる。よって、上流酸素センサ92fに付着するリンを低減できる。従って、上流酸素センサ92fの検出精度が向上する。なお、上流酸素センサ92fは、上流酸素センサ92fから上流排気管41aの上流端までの経路長が、上流酸素センサ92fから上流排気管41aの下流端までの経路長より長い位置に配置されてもよい。また、上流酸素センサ92fは、上流酸素センサ92fから燃焼室36までの経路長が、上流酸素センサ92fから上流触媒46までの経路長より長い位置に配置されてもよい。
図14(b)では、エンジンユニットは、2つの触媒を有する。2つの触媒は、触媒46と触媒746である。触媒46及び触媒746は、排気通路部743に配置されている。排気通路部743は、シリンダ排気通路部38と、第1排気管741aと、第2排気管741bと、第3排気管741cと、第1ケーシング47と、第2ケーシング747と、を備える。排気管741は、第1排気管741aと、第2排気管741bと、第3排気管741cを含む。第1排気管741aの上流端部は、シリンダ排気通路部38に接続される。第1ケーシング47の上流端は、第1排気管741aに接続される。第1ケーシング47の下流端は、第2排気管741bに接続される。第2ケーシング747の上流端は、第2排気管741bに接続される。第2ケーシング747の下流端は、第3排気管741cに接続される。第3排気管741cの下流端部は、消音器42内に挿入される。触媒46は、第1ケーシング47内に配置される。触媒746は、第2ケーシング747内に配置される。触媒46は、排ガスの流れ方向の最も上流で排ガスを浄化する触媒層49(図7参照)を有する。従って、触媒46が、本発明における上流触媒である。以下、この変形例において、触媒46を上流触媒46と記載する。第1ケーシング47及び第2ケーシング747の構成は、第1実施形態の第1ケーシング47の構成と同様であり、その説明を省略する。上流触媒46及び触媒746の構成は、第1実施形態の触媒46の構成と同様であり、その説明を省略する。
第1排気管741aの燃焼室36と上流触媒46との間には、リン捕捉層744が配置されている。リン捕捉層744は、第1排気管741aの内面の全周に亘って配置される。リン捕捉層744は、排ガスに含まれるリンと化学反応するリン反応物質が設けられる化学反応部である。リン捕捉層744は、リン反応物質が第1排気管741aの内周面に塗布されて、層状に形成される。リン捕捉層744は、排ガスに含まれるリンと化学反応するリン反応物質を含む。リン捕捉層744を通過する排ガスに含まれるリンは、リン反応物質と化学反応する。リン反応物質は、リン捕捉層744を通過する排ガスに含まれるリンと化学反応することにより、リンを捕捉することができる。そのため、リン捕捉層744は、リンを捕捉して、上流触媒646の触媒層にリンが付着することを抑制できる。
上流酸素センサ92fは、排気通路部743の第1排気管741aに配置される。上流酸素センサ92fは、排気通路部743の上流触媒46よりも上流に配置される。また、上流酸素センサ92fは、第1排気管741aの上流端より下流端に近い位置に配置されることが好ましい。つまり、上流酸素センサ92fから第1排気管741aの上流端までの距離は、上流酸素センサ92fから第1排気管741aの下流端までの距離より長いことが好ましい。上流酸素センサ92fより上流に配置されたリン捕捉層744は、上流酸素センサ92fを通過する前の排ガスに含まれるリンを捕捉する。上流酸素センサ92fが第1排気管741aの上流端より第1排気管741aの下流端に近い位置に配置されると、上流酸素センサ92fが第1排気管741aの下流端より第1排気管741aの上流端に近い位置に配置される場合と比較して、上流酸素センサ92fより上流に配置されるリン捕捉層744の表面積が多くなる。そして、上流酸素センサ92fより上流に配置されたリン捕捉層744は、上流酸素センサ92fの酸素センサ用触媒層86に到達するリンの量を低減することができる。よって、上流酸素センサ92fに付着するリンを低減できる。従って、上流酸素センサ92fの検出精度が向上する。なお、上流酸素センサ92fは、上流酸素センサ92fから第1排気管741aの上流端までの経路長が、上流酸素センサ92fから上流触媒46までの経路長より長い位置に配置されてもよい。また、上流酸素センサ92fは、上流酸素センサ92fから燃焼室36までの経路長が、上流酸素センサ92fから上流触媒46までの経路長より長い位置に配置されてもよい。
本発明において、触媒は、複数の触媒ピースが近接して配置された構成としてもよい。各触媒ピースは、基材と触媒層を有する。ここで、近接とは、各触媒ピースの排ガスの流れ方向の長さよりも、触媒ピース同士の離間距離が短い状態のことである。複数の触媒ピースの基材の組成は、一種類でも、複数種類でもよい。複数の触媒ピースの触媒層に用いられる貴金属は、一種類でも、複数種類でもよい。触媒層に用いられる担体の組成は、一種類でも、複数種類でもよい。
上記実施形態において、リン付着低減部は、上流排気管41a内に配置されている。しかし、本発明において、リン付着低減部は、シリンダ排気通路部内及び上流排気管内の少なくともいずれか一方に配置されて良い。つまり、リン付着低減部は、排気通路部の燃焼室から上流触媒までの間に配置されていれば良い。
上記実施形態において、ケーシングと、排気管とは、別々に形成された後に接合されている。しかし、ケーシングと、排気管とは、一体成形されていてもよい。
上記実施形態において、リン捕捉層は、リンと化学反応するリン反応物質で構成されてリンを捕捉する機能を持つ。しかしながら、本発明において、リン捕捉層は、表面がリンを捕捉する機能を持つ粗面で形成されてリンを捕捉する機能を持っても良い。この場合、リン捕捉層は、例えば、リン反応物質以外の物質を、排気通路部の内面に塗布することにより、表面を粗面に形成する。そして、リン捕捉層は、排ガスに含まれるより多くのリンを、粗面で形成された表面に付着させることができる。
上記実施形態において、リン捕捉構造体層は、少なくとも表面にリンと化学反応するリン反応物質が形成されてリンを捕捉する機能を持つ。しかしながら、本発明において、リン捕捉構造体層は、表面が粗面で形成されてリンを捕捉する機能を持っても良い。この場合、リン捕捉構造体層は、例えば、リン反応物質以外の物質を、排気通路部の内面に塗布することにより、表面を粗面に形成する。そして、リン捕捉構造体層は、排ガスに含まれるリンを粗面で形成された表面に付着させることができる。
本発明において、リン付着低減部は、リン捕捉層とリン付着低減部の両方を含んでよい。
本発明において、排気管の形状は、図示した形状に限定されない。また、消音器の内部構造は、図示した構造に限定されない。
上記実施形態において、上流触媒及び消音器は、鞍乗型車両の左右方向中央より右方に配置されている。しかし、本発明において、上流触媒は、鞍乗型車両の左右方向中央または左右方向中央より左方に配置されていてもよい。また、消音器は、鞍乗型車両の左右方向中央より左方に配置されていてもよい。なお、鞍乗型車両の左右方向中央とは、上下方向から見て、前輪の左右方向中央と後輪の左右方向中央を通る直線の位置である。
上記実施形態において、排気通路部は、その一部が、クランク軸線Crの下方に位置している。しかし、本発明において、排気通路部は、その一部が、クランク軸線Crの上方に位置していてもよい。
上記実施形態において、触媒は、三元触媒である。しかし、本発明において、触媒は、三元触媒でなくてもよい。本発明において、触媒は、炭化水素、一酸化炭素、および窒素酸化物のいずれか1つまたは2つを除去する触媒であってもよい。また、本発明において、上流触媒は、酸化還元触媒でなくてもよい。本発明において、上流触媒は、酸化または還元のいずれか一方だけで有害物質を除去する酸化触媒または還元触媒であってもよい。還元触媒の一例として、窒素酸化物を還元反応によって除去する触媒がある。
本発明において、触媒層が積層される基材は、セラミック製の基材であってもよい。
本発明において、触媒層が積層される基材は、多孔構造体である。多孔構造体が有する孔は、三角形、四角形、または、六角形であってよい。例えば、多孔構造体は、ハニカム構造体であってもよい。
本発明において、触媒の配置位置は、図示された位置に限定されない。例えば、上記第1実施形態において、上流触媒46は、全体が、クランク軸線Crよりも前方に配置されている。また、上流触媒46は、自動二輪車1を左右方向に見て、エンジン本体20の下方に配置されている。しかし、本発明において、上流触媒は、少なくとも一部が、クランク軸線Crよりも前方に配置されてもよい。また、本発明において、上流触媒は、鞍乗型車両を左右方向に見て、エンジン本体の前方に配置されてもよい。更に、本発明において、上流触媒の少なくとも一部は、クランク軸線Crよりも後方に配置されてもよい。また、上流触媒46は、自動二輪車1を左右方向に見て、エンジン本体20の後方に配置されていてもよい。これにより、クランク軸線Crよりも前方に配置すると、上流触媒に流入する排ガスの温度が高すぎる場合に、上流触媒がシンタリングを起こしてしまうことを防止することができる。
上記実施形態において、上流酸素検出部材の配置位置は、各図に示された位置に限定されない。例えば、本発明において、上流酸素検出部材は、排気通路部の上流触媒より排ガスの流れ方向の上流のいずれの位置に配置されてもよい。また、本発明において、エンジンユニットは、下流酸素検出部材を更に備えてよい。下流酸素検出部材は、排気通路部の触媒層と放出口との間の位置に設けられる。言い換えると、下流酸素検出部材は、排気通路部の上流触媒より排ガスの流れ方向の下流のいずれかの位置に配置される。下流酸素検出部材は、排ガスの酸素濃度を検出する。下流酸素検出部材で検出した排ガスの酸素濃度に基づいて、エンジンユニットを制御することができる。また、下流酸素検出部材で検出した排ガスの酸素濃度に基づいて、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能の劣化を検出することができる。そして、鞍乗型車両の排ガスの浄化性能のばらつきを抑えることができる。つまり、本発明において、上流酸素検出部材および下流酸素検出部材は、排気通路部において、上流触媒の上流と下流にそれぞれ1つずつ配置されても良い。
本発明において、上流酸素センサ検出部材および下流酸素検出部材は、ヒータを内蔵していてもよい。上流酸素センサ検出部材および下流酸素検出部材の検出素子は、高温に加熱されて活性化状態となったときに、酸素濃度を検知できる。そのため、上流酸素検出部材および下流酸素検出部材がヒータを内蔵していると、エンジン駆動時にヒータにより検出素子を加熱することで、酸素濃度の検出の開始を早めることができる。
上記実施形態において、エンジン駆動時に排気通路部を流れるガスは、燃焼室から排出された排ガスだけである。しかし、本発明において、排気通路部に空気を供給する二次空気供給機構を備えていてもよい。二次空気供給機構の具体的な構成は、公知の構成が採用される。二次空気供給機構は、エアポンプによって強制的に排気通路部に空気を供給する構成であってもよい。また、二次空気供給機構は、排気通路部内の負圧によって空気を排気通路部に引き込む構成であってもよい。この場合、二次空気供給機構は、排ガスによる圧力脈動に応じて開閉するリード弁を備える。二次空気供給機構を設ける場合、上流酸素検出部材の配置位置は、排気通路部内の空気が流入する位置よりも上流に設けても下流に設けてもよい。
上記実施形態において、燃焼室に燃料を供給するために、インジェクタが用いられている。本発明において、燃焼室に燃料を供給する燃料供給装置は、インジェクタに限らない。例えば、負圧により燃焼室に燃料を供給する燃料供給装置を設けてもよい。
上記実施形態において、1つの燃焼室に対して、排気ポートは1つだけ設けられている。しかし、本発明において、1つの燃焼室に対して複数の排気ポートが設けられていてもよい。例えば、可変バルブ機構を備える場合がこの変形例に該当する。複数の排気ポートに接続される排気経路は、消音器よりも上流で集合する。複数の排気ポートに接続される排気経路は、シリンダ部において集合することが好ましい。ここでの排気経路とは、燃焼室から、大気に面する放出口に至る経路である。
本発明において、燃焼室は、主燃焼室と、主燃焼室につながる副燃焼室とを有する構成であってもよい。この場合、主燃焼室と副燃焼室とによって、1つの燃焼室が形成される。
上記実施形態において、クランクケース部と、シリンダ部とは、別体である。しかし、本発明において、クランクケース部とシリンダ部とは、一体成形されていてもよい。また、上記実施形態において、シリンダボディと、シリンダヘッドと、ヘッドカバーとは、別体である。しかし、本発明において、シリンダボディと、シリンダヘッドと、ヘッドカバーのいずれか2つまたは3つが一体成形されていてもよい。
上記実施形態において、エンジン本体は、自然空冷式のエンジンである。しかし、本発明において、エンジン本体は、強制空冷式のエンジンであって良い。なお、自然空冷式のエンジンは、強制水冷式のエンジンと比較して、リンがより多く含まれる排ガスを排出する。また、本発明において、エンジン本体は、水冷式のエンジンであって良い。なお、空冷式のエンジンは、水冷式のエンジンと比較して、リンがより多く含まれる排ガスを排出する。
上記実施形態において、エンジンユニットは、単気筒エンジンである。しかし、本発明において、エンジンユニットは、複数気筒のエンジンであってもよい。また、エンジンユニットは、4ストロークエンジンである。しかし、エンジンユニットは、2ストロークのエンジンユニットであってもよい。
上記実施形態では、鞍乗型車両として、スポーツタイプの自動二輪車を例示した。つまり、トランスミッション部は、有段変速機である。しかしながら、本発明において、鞍乗型車両は、スクータタイプの自動二輪車であってもよい。つまり、トランスミッション部は、無段変速機であってもよい。この場合、トランスミッション部はクランクケース内に収容されない。エンジン本体はクランクケース内に収容される。エンジン本体を潤滑するオイルと、トランスミッション部を潤滑するオイルとは、共通のオイルであってもよい。エンジン本体を潤滑するオイルと、トランスミッション部を潤滑するオイルとは、共通のオイルでなくてよい。
上記実施形態では、鞍乗型車両として、自動二輪車を例示した。しかし、本発明の鞍乗型車両は、自動二輪車に限らない。本発明は、自動二輪車以外のリーン車両に適用してもよい。リーン車両とは、右旋回時に車両の右方に傾斜し、左旋回時に車両の左方に傾斜する車体フレームを有する車両である。また、本発明は、自動二輪車以外の鞍乗型車両に適用してもよい。なお、鞍乗型車両とは、乗員が鞍にまたがるような状態で乗車する車両全般を指す。本発明が適用される鞍乗型車両には、自動二輪車、三輪車、四輪バギー(ATV:All Terrain Vehicle(全地形型車両))、水上バイク、スノーモービル等が含まれる。