WO2017154794A1

WO2017154794A1 - 動力伝達装置

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Publication number: WO2017154794A1
Application number: PCT/JP2017/008594
Authority: WO
Inventors: 中尾　吾朗
Original assignee: Ntn株式会社
Priority date: 2016-03-07
Filing date: 2017-03-03
Publication date: 2017-09-14

Abstract

プーリ（１０）と自動車補機（２０）の回転軸（２１）との間に設けられたトルクリミッタ機構（３０）を、プーリ（１０）の外側面に連結された環状のカバー（３１）と、カバー（３１）の内周に保持された複数のボール（４２）と、回転軸の軸端部に取り付けられたハブ（４３）とで形成する。カバー（３１）にハブ（４３）を覆う円筒部（３３ｃ）を設け、円筒部（３３ｃ）にボール（４２）を弾性保持するポケット筒部（３４）を設け、ハブ（４３）の外径面にＶ溝（４９）を設け、そのＶ溝（４９）にボール（４２）を係合し、その係合部によりプーリ（１０）の回転を回転軸（２１）に伝達する。自動車補機（２０）が故障して回転軸（２１）の回転負荷が大きくなった際には、Ｖ溝（４９）の内側面からボール（４２）に押圧力を負荷し、そのＶ溝（４９）の内側面に沿ってボール（４２）を移動させてＶ溝（４９）に対するボール（４２）の係合を解除し、プーリ（１０）から回転軸（２１）への回転伝達を遮断する。

Description

動力伝達装置

　この発明は、エンジンからの動力を自動車補機に伝達する動力伝達装置に関する。

　一般に、エアコンディショナ用コンプレッサ等の自動車補機の駆動に際しては、エンジンのクランクシャフトの回転をベルト伝動装置によって自動車補機の回転軸に伝達している。このとき、自動車補機の回転軸の回転負荷が大きくなると、ベルトの張力が大きくなって回転軸に取り付けられたプーリとベルトの接触部で滑りが生じ、ベルトが損傷する可能性がある。

　そのような不都合を解消するため、下記特許文献１においては、トルクリミッタ機構を有する動力伝達装置を提案している。同文献１に記載された動力伝達装置においては、エンジンの動力がベルトを介して伝達されるプーリと、コンプレッサの回転軸に取り付けられたハブと、そのハブとプーリ間に設けられたトルクリミッタ機構とを有している。

　トルクリミッタ機構は、プーリに円弧状の連結部材の一端部を連結し、その連結部材の他端部に、連結部材の端縁で開口する幅広部を有するスリットを設け、一方、ハブには、そのハブのフランジを貫通するリベットと、そのリベットが貫通するカラーとによって形成される柱状体を設け、その柱状体を上記スリットの広幅部に挿入し、上記ハブと連結部材間に皿ばねを組み込んで、連結部材の他端部とリベットの頭部を弾性接触し、その弾性接触部において、プーリの回転をハブに伝えるようにしている。また、回転軸の回転負荷が大きくなると、弾性接触部で滑りを生じさせ、スリットからの柱状体の抜け出しによりトルク伝達を遮断して、プーリをフリー回転させるようにしている。

国際公開２０１４／１４８４１４号

　ところで、上記特許文献１に記載された動力伝達装置においては、連結部材がプーリとハブとを連結する状態で変形状態にあるため、長期間にわたって連結状態に保持されていると塑性変形し、柱状体がスリットの広幅部から抜け出すトルクリミッタ機構の動作状態で、プーリと共に回転する連結部材がリベットの頭部と干渉して異音を発生し続け、不快感を与える可能性がある。

　この発明の課題は、トルクリミッタ機構の動作時に異音を発生させることが少ない動力伝達装置を提供することである。

　上記の課題を解決するため、この発明においては、自動車補機の回転軸と同軸上に設けられたプーリ支持軸を中心にして回転自在に支持されたプーリと、そのプーリと前記回転軸との間に設けられてプーリの回転を前記回転軸に伝達し、その回転軸の回転負荷が設定値を超えた際にプーリから回転軸への回転伝達を遮断するトルクリミッタ機構とを有してなる動力伝達装置において、前記トルクリミッタ機構が、前記プーリの外側面に連結された環状のカバーと、そのカバーの内周に保持された複数のボールと、前記回転軸の軸端部に取り付けられたハブとを備え、前記カバーが前記ハブを覆う円筒部を内周に有し、その円筒部にボールの一部が内径側に露出する状態でボールを弾性保持する複数のポケット筒部が周方向に間隔をおいて設けられ、前記ハブの外径面には前記ボールの一部が嵌合するＶ溝を設けられ、前記ハブの隣接するＶ溝間にはポケット筒部内から径方向外方に向けてボールに押出し力を負荷する押圧部が設けられた構成としている。

　上記の構成からなる動力伝達装置において、プーリが回転すると、そのプーリと共にカバーが回転し、その回転がカバーに保持されたボールとハブの外周に形成されたＶ溝の係合部からハブに伝達されて回転軸が回転し、自動車補機が作動する。

　自動車補機の負荷変動やエンジンからプーリに負荷される回転トルクの変動が生じると、Ｖ溝の傾斜状の内側面からボールに負荷される押圧力によりボールがポケット筒部内でずれ動き、その移動によりポケット筒部が弾性変形してトルクの変動を吸収する。

　ここで、ポケット筒部に軸方向に延びる複数のスリットを周方向に間隔をおいて形成し、隣接するスリット間に形成された弾性片でボールを弾性保持することにより、ポケット筒部が弾性変形し易くなって良好なダンパ効果を得ることができる。

　自動車補機の作動状態において、トラブルの発生等で回転軸の回転負荷が大きくなると、Ｖ溝の内側面からボールに大きな押圧力が作用し、ボールは径方向外方に向けて移動してＶ溝に対する係合が解除し、プーリから回転軸への回転伝達が遮断され、プーリおよびカバーがフリー回転する。そのプーリのフリー回転により、プーリに掛かるベルトが過張力になるのが防止される。

　また、ボールは、Ｖ溝の内側面における外側のエッジを乗り越えると、Ｖ溝間に設けられた押圧部に乗り移り、その押圧部からボールに負荷される押込み力により、ボールがポケット筒部から抜け出し、プーリから回転軸への回転伝達の遮断状態が確実に保持される。

　ボール保持用のポケット筒部が形成されたカバーは、プーリの外側面に連結される環状板部と、その環状板部の内周から外側方に向く大径円筒部と、その大径円筒部の端部から内径方向に向く外側フランジ部と、その外側フランジ部の内周部から内側方に向く小径円筒部と、その小径円筒部の端部から外径方向に向き、その外径縁が前記プーリに形成されたボス部の内径面と間隙をおいて対向する内側フランジ部とを有してなり、前記小径円筒部に前記ポケット筒部が形成されたものとするのがよい。

　上記の構成からなるカバーの採用においては、大径円筒部、外側フランジ部、小径円筒部および内側フランジ部で環状空間が形成され、ポケット筒部から押し出されたボールはその環状空間で保持されることになる。その結果、ボールの外部への脱落によって周辺機器が損傷し、あるいは、トラブルが発生するのを未然に防止することができる。

　上記カバーの採用において、隣り合うポケット筒部間に、小径円筒部、その小径円筒部の軸方向両端に連設された外側フランジ部の内周部および内側フランジ部のそれぞれを周方向に分割するスリットを形成しておくと、隣接するスリット間の分割片に弾性を付与することができるため、Ｖ溝の内側面に対するボールのずれ動きを円滑に行わせることができる。

　また、ハブの素材を焼結材とし、あるいは、樹脂とするのがよい。ハブを焼結材とし、あるいは、樹脂とすることにより、ハブを成形によって簡単に形成することができ、コストの安いハブを得ることができる。

　この発明においては、上記のように、自動車補機の負荷変動やエンジンからの回転トルクの変動が生じると、ボールはポケット筒部内をずれ動き、そのずれ動きによるポケット筒部の弾性変形により自動車補機の負荷変動やエンジンからのトルク変動を吸収することができ、自動車補機を円滑に回転駆動することができる。

　また、自動車補機の作動状態において、回転軸の回転負荷が大きくなると、Ｖ溝に対するボールの係合が解除し、プーリから回転軸への回転伝達が遮断されて、プーリがフリー回転するため、ベルトが過張力になって損傷するのを防止することができる。

　さらに、ボールはＶ溝の内側面に対するずれ動きによって係合が解除するため、係合解除時に異音が発生することはなく、あったとしても小さなものであり、ドライバに不快感を与えることは殆どない。また係合解除後は、プーリが回転開始時にトルクリミッタ機構内のボールが動く異音により、回転軸の回転負荷が大きくなっている異常状態を知らせることができ、その後のプーリ回転時にはボールは遠心力によりトルクリミッタ機構内で動かないため音を出さない。そのため、走行時のドライバへの不快感を低減する。

この発明に係る動力伝達装置の実施の形態を示す縦断面図図１の右側面図トルクリミッタ機構部を拡大して示す側面図図１のIV－IV線に沿った断面図トルクリミッタ機構の回転伝達状態を示す断面図図５AのV－V線に沿った断面図ボールのずれ動き状態を示す断面図図６AのVI－VI線に沿った断面図ボールがポケット筒部から抜け出す直前の状態を示す断面図図７AのVII－VII線に沿った断面図Ｖ溝の他の例を示す断面図この発明に関連する実施形態のリミッタ付きプーリを示す断面図図９のリミッタ付きプーリを右側面から見た図図９のXI－XI線に沿った断面図図１１のXII－XII線に沿った断面図図９に示すリミッタ付きプーリの第２の円環板を取り出して示す斜視図図１１のＶ溝の近傍の拡大図図１４AのXIV－XIV線に沿った断面図図１４Aに示すボールがばね片を径方向外方にたわませながらＶ溝に沿って径方向外方に移動した状態を示す図図１５AのXV－XV線に沿った断面図図１５Aに示すボールがばね片の穴部と切り離し部とを押し広げて径方向外方に通過した状態を示す図図１６AのXVI－XVI線に沿った断面図

　以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図１および図２に示すように、動力伝達装置は、図示省略されたエンジンからの動力が伝達されるプーリ１０と、自動車補機２０の回転軸２１と、上記プーリ１０と回転軸２１の相互間に設けられてプーリ１０の回転を回転軸２１に伝達し、回転軸２１の回転負荷が大きくなった場合にプーリ１０から回転軸２１への回転伝達を遮断するトルクリミッタ機構３０からなる。

　プーリ１０は、ベルト案内輪１１と、そのベルト案内輪１１の内周に設けられた環状板１２と、その環状板１２の内周に設けられた円筒状のボス部１３を有し、上記ベルト案内輪１１の外周両側に一対のフランジ１４が設けられ、その一対のフランジ１４間にＶベルトが巻き掛けられる複数条のＶ溝１５が設けられている。

　ボス部１３の内側には軸受ハウジング１６が組み込まれている。軸受ハウジング１６はボス部１３の一端部内周に設けられた環状突出部１３ａによって抜止めされている。また、軸受ハウジング１６は一端部の外周とボス部１３の一端部内周に形成されたセレーション１７によって回り止めされ、その軸受ハウジング１６内に転がり軸受１８が組み込まれている。

　転がり軸受１８として、ここでは、複列玉軸受が採用されている。転がり軸受１８は、自動車補機２０のハウジング２２に設けられた筒状のプーリ支持軸２３に圧入され、そのプーリ支持軸２３の端部外周に取り付けた止め輪２４によって抜止めされている。

　自動車補機２０として、ここでは、エアコンディショナ用のコンプレッサが採用されている。その自動車補機２０のハウジング２２に設けられた上述のプーリ支持軸２３は回転軸２１と同軸上に設けられ、上記プーリ支持軸２３を中心にしてプーリ１０が回転自在に支持されている。

　トルクリミッタ機構３０は、プーリ１０の外側面に設けられた環状のカバー３１と、そのカバー３１の内周に保持された複数のボール４２と、回転軸２１の軸端部に取付けられたハブ４３とからなる。

　カバー３１は、環状板部３２の内周に環状筒部３３を設けた金属板のプレス成形品からなる。環状筒部３３は、断面鉤状をなし、環状板部３２の内周から外側方に向く大径円筒部３３ａと、その大径円筒部３３ａの端部から内径方向に向く外側フランジ部３３ｂと、その外側フランジ部３３ｂの内周部から内側方に向く円筒部である小径円筒部３３ｃと、その小径円筒部３３ｃの端部から外径方向に向く内側フランジ部３３ｄとを有している。

　図３乃至図５Bに示すように、小径円筒部３３ｃには内方に突出する複数のポケット筒部３４が周方向に等間隔に形成され、各ポケット筒部３４内にボール４２が組み込まれている。ボール４２はポケット筒部３４の両端から外周の一部が露出する組み込みとされている。

　ポケット筒部３４には複数の軸方向のスリット３５が周方向に間隔をおいて設けられ、隣接するスリット３５間に形成された弾性片３６によってボール４２が弾性保持されている。

　また、環状筒部３３には、隣り合うポケット筒部３４間にスリット３７が形成され、そのスリット３７によって、小径円筒部３３ｃ、その小径円筒部３３ｃの軸方向両端に連設された外側フランジ部３３ｂの内周部および内側フランジ部３３ｄのそれぞれが周方向に分割されて、内側フランジ部３３ｄ側に弾性変形可能な断面コの字状の分割片部３８が設けられている。

　図１に示すように、カバー３１は、環状板部３２がプーリ１０における環状板１２の外側面に衝合する取り付けとされる。

　カバー３１の取り付けに際し、ここでは、プーリ１０の環状板１２にナット嵌合孔３９を設け、そのナット嵌合孔３９にナット４０を嵌着し、そのナット４０にねじ込まれるビス４１の締め付けによりカバー３１を取り付けているが、プーリ１０の環状板１２にねじ孔を直接形成し、そのねじ孔にビス４１をねじ込むようにしてもよい。

　ハブ４３は、円板部４３ａの一側面に小径軸部４３ｂを設けた構成とされ、上記小径軸部４３ｂの端面で開口する軸孔４４が形成されている。ハブ４３は、軸孔４４内に回転軸２１の軸端部に形成された小径軸部２１ａが嵌合されるようにして小径軸部２１ａ上にセットされ、上記ハブ４３の軸心上に形成された挿入孔４５から小径軸部２１ａに設けられたねじ孔４６にねじ込まれるボルト４７の締め付けによって回転軸２１に取り付けられる。このとき、軸孔４４と小径軸部２１ａの嵌合はセレーション４８による嵌合とされて回転軸２１にハブ４３が回り止めされている。

　回転軸２１に対するハブ４３の取り付けによって円板部４３ａがカバー３１の小径側円筒部３３ｃ内に収容され、その円板部４３ａの外径面に複数のＶ溝４９が等ピッチで形成されている。Ｖ溝４９として、図５Aでは周方向で対向する内側面４９ａ、４９ｂの傾斜角度が相違するものを示したが、図８に示すように、内側面４９ａ、４９ｂの傾斜角度が等しくされたものであってもよい。

　また、ハブ４３の円板部４３ａには、図５A、図５Bに示すように、隣り合うＶ溝間にはボール４２をポケット筒部３４から径方向外方に押出し可能な押圧部５０が設けられている。押圧部５０として、ここでは、円弧状の突出部からなるものを示したが、隣り合うＶ溝４９間の円板部４３ａの外径面を押圧部５０としてもよい。

　ハブ４３は部品コストの低減を図るため、焼結材による成形品としているが、樹脂による成形品としてもよい。

　実施の形態で示す動力伝達装置は上記の構造からなり、エンジンからの回転が伝達されてプーリ１０が図２の矢印で示す順方向に回転すると、そのプーリ１０と共にカバー３１が回転し、その回転が図５A、図５Bに示すボール４２とＶ溝４９の内側面４９ａの係合部からハブ４３に伝達されて、図１に示す回転軸２１が回転し、自動車補機２０が作動する。

　自動車補機２０の負荷変動やエンジンからプーリ１０に負荷される回転トルクの変動が生じると、図５Aに示すＶ溝４９の内側面４９ａからボール４２に作用する押圧力により、図５Bに示す分割片部３８が内側方に弾性変形し、ボール４２がＶ溝４９の内側面４９ａに沿ってずれ動き、上記分割片部３８の弾性変形によるダンパ作用によって自動車補機の負荷変動やエンジンからのトルク変動が吸収される。このため、回転変動が生じたとしても、回転軸２１は円滑に回転する。

　自動車補機の作動状態において、自動車補機２０が故障し、回転軸２１の回転負荷が大きくなると、図５Aに示すＶ溝４９の内側面４９ａからボール４２に作用する押圧力により、図５Bに示す分割片部３８が内側方に弾性変形して、図６A、図６Bに示すように、内側フランジ部３３ｄの外径縁がボス部１３の環状突出部１３ａの内径面に当接する。その当接状態からプーリ１０がさらに同方向に回転することにより、Ｖ溝４９の内側面４９ａからボール４２に押圧力が作用し、ボール４２は径方向外方に向けて移動して内側面４９ａの外周エッジを乗り上げ、Ｖ溝４９に対するボール４２の係合が解除し、プーリ１０から回転軸２１への回転伝達が遮断され、プーリ１０およびカバー３１がフリー回転する。そのプーリ１０のフリー回転により、プーリ１０に掛かるベルトが過張力になるのが防止される。

　また、Ｖ溝４９に対するボール４２の係合解除後、図７A、図７Bに示すように、ボール４２は押圧部５０に乗り上げ、その押圧部５０からの押し込み力の負荷によりボール４２は同図の鎖線で示すようにポケット筒部３４から抜け出し、プーリ１０から回転軸２１への回転伝達の遮断状態が保持される。

　ここで、ポケット筒部３４から抜け出したボール４２は図１に示される環状筒部３３内に収容される。このため、ボール４２の外部への脱落によって周辺機器が損傷し、あるいは、トラブルが発生するという不都合の発生は皆無である。

　図９、図１０に、本発明に関連する実施形態のリミッタ付きプーリを示す。このリミッタ付きプーリは、プーリ５１と、プーリ５１の中心に配置されたハブ５２と、プーリ５１からハブ５２に回転トルクを伝達するトルクリミッタ５３とを有する。

　プーリ５１の外周には、駆動ベルト５４が巻き掛けられる。駆動ベルト５４は、図示しないエンジンのクランクシャフトに連結されており、エンジンが作動してクランクシャフトが回転すると、そのクランクシャフトの回転が駆動ベルト５４を介してプーリ５１に伝達するようになっている。

　プーリ５１は、駆動ベルト５４に係合する周溝５５を外周にもつ筒状のリム部５６と、リム部５６の内側に配置された筒状のボス部５７と、リム部５６とボス部５７の間を連結する連結部５８とを有する。リム部５６とボス部５７と連結部５８は、樹脂で一体に形成されている。ボス部５７の内周には、プーリ５１を回転可能に支持する転がり軸受５９が取り付けられている。転がり軸受５９の内側には、自動車補機６０（例えば、カーエアコン用のコンプレッサ）に固定される筒状の支持軸６１が設けられている。連結部５８には、トルクリミッタ５３を固定するための金属製のナット６２が埋め込まれている。

　ハブ５２は、プーリ５１の回転中心に位置する被駆動軸６３の軸端部にボルト６４で固定されている。被駆動軸６３は、プーリ５１の外周に巻き掛けられた駆動ベルト５４で回転駆動される軸であり、この被駆動軸６３の回転力を動力として自動車補機６０が駆動される。ハブ５２は、被駆動軸６３の軸端部の外周に形成されたスプラインに嵌合するスプライン筒部６５と、スプライン筒部６５の外周に一体に形成されたフランジ部６６とを有する。

　トルクリミッタ５３は、第１の円環板７１と、第１の円環板７１に軸方向に対向して設けられた第２の円環板７２と、ハブ５２のフランジ部６６の外周に形成されたＶ溝７３と、Ｖ溝７３に収容されたボール７４とを有する。第１の円環板７１と第２の円環板７２は、いずれも金属板で形成され、プーリ５１の側面にボルト７５で固定されている。Ｖ溝７３は、周方向に間隔をおいて複数設けられ、これに対応してボール７４も複数設けられている。

　第１の円環板７１は、全体が軸方向に直交する平板状とされている。第２の円環板７２は、第１の円環板７１の外径側部分に重ねて固定される外側平板部７６と、第１の円環板７１の内径側部分と軸方向に間隔をおいて平行に配置された内側平板部７７と、外側平板部７６の径方向内端と内側平板部７７の径方向外端を連結する外側円筒部７８と、内側平板部７７の径方向内端から第１の円環板７１に向かって軸方向に延びる内側円筒部７９とを有する（図１３参照）。

　図１１に示すように、Ｖ溝７３は、軸方向に直交する断面形状がＶ字状の溝であり、径方向深さが周方向中央から周方向両側に向かって次第に浅くなるように形成されている。Ｖ溝７３は、例えば、軸方向に直交する断面形状が、３０°～５０°の範囲の角度で交差する２直線となるような溝を採用することができる。ボール７４は、Ｖ溝７３の最も深い位置に収容された状態でＶ溝７３から外径側にはみ出すような大きさの外径を有する。ボール７４は、鋼材で形成されている。

　図１０に示すように、第２の円環板７２には、ボール７４の個数に対応して複数対のスリット８０が形成されている。各対のスリット８０は、周方向に間隔をおいて位置する２本のスリットで構成されている。

　図１３に示すように、各対のスリット８０は、内側円筒部７９を軸方向に横切り、さらに内側円筒部７９と内側平板部７７の境界から内側平板部７７の内部を径方向外方に延びるように形成されている。内側円筒部７９の隣り合うスリット８０の間の部分には、軸方向に延びるばね片８１が形成されている。ばね片８１は、ボール７４（図１１参照）が径方向外方に移動したときに径方向外方にたわんでボール７４に径方向内方への付勢力を付与する部分である。各スリット８０の幅は、ボール７４の外径よりも狭い大きさに設定されている。

　図１２に示すように、ばね片８１は、ボール７４に嵌合する穴部８２と、その穴部８２の円周を分割する切り離し部８３とを有する。穴部８２は、ボール７４の外径よりも小径の円形縁を有する。切り離し部８３は、穴部８２の内周から軸方向に延びてばね片８１の先端に開放する切り込みである。

　図１４A、図１４Bに示すように、第１の円環板７１は、ばね片８１の径方向外方に隙間をおいて位置するストッパ部８４（図では第１の円環板７１の径方向内端の周縁部）を有する。ばね片８１とストッパ部８４の間の隙間の大きさは、ボール７４の外径よりも狭い。ストッパ部８４は、図１５A、図１５Bに示すように、ばね片８１が径方向外方にたわんだときにばね片８１を受け止めてばね片８１のたわみ量を規制する部分である。

　図９に示すように、第１の円環板７１と第２の円環板７２の対向面間（この参考形態では、第１の円環板７１の内径側部分と、第２の円環板７２の外側円筒部７８と内側平板部７７と内側円筒部７９とで囲まれた空間）に、ボール収容部８５が形成されている。ボール収容部８５は、ボール７４がばね片８１を通過して径方向外方に移動したときにそのボール７４を受け入れる空間である。

　このリミッタ付きプーリの使用例を説明する。エンジンのクランクシャフトの回転が駆動ベルト５４を介してプーリ５１に伝達し、プーリ５１が回転すると、そのプーリ５１の回転がトルクリミッタ５３を介してハブ５２に伝達することで、被駆動軸６３が回転駆動される。ここで、被駆動軸６３の回転負荷が通常範囲のとき（すなわち、自動車補機６０が破損せずに作動しているとき）、トルクリミッタ５３はプーリ５１からハブ５２に回転トルクを伝達する。

　このとき、図１５A、図１５Bに示すように、プーリ５１（図９参照）とハブ５２の間に作用する回転トルクに応じて、ボール７４がばね片８１を径方向外方にたわませながらＶ溝７３に沿って径方向外方に移動し、プーリ５１（図９参照）とハブ５２が周方向に相対変位する。そのため、図９に示す被駆動軸６３の回転負荷の変動や、駆動ベルト５４からプーリ５１に伝わる回転トルクの変動を、プーリ５１とハブ５２の間で吸収することができ、ダンパ作用を得ることができる。

　また、図９に示す自動車補機６０が万一破損して被駆動軸６３の回転負荷が過大となったときは、図１６A、図１６Bに示すように、ボール７４がばね片８１の穴部８２と切り離し部８３とを押し広げて径方向外方に通過し、ボール７４がボール収容部８５に受け入れられた状態となる。この状態では、Ｖ溝７３にボール７４が無いため、プーリ５１（図９参照）とハブ５２の間での回転トルクの伝達が遮断される。このように、図９に示すトルクリミッタ５３は、被駆動軸６３の回転負荷が過大となったときに、プーリ５１からハブ５２への回転トルクの伝達を遮断することでプーリ５１を空転させ、駆動ベルト５４を保護することで、修理工場までの自動車の走行を可能とする。

　このリミッタ付きプーリは、自動車補機６０が破損して被駆動軸６３の回転負荷が過大となったときに、プーリ５１とハブ５２の間での回転トルクの伝達を遮断し、駆動ベルト５４を保護する。またこの状態でプーリ５１が回転しても、プーリ５１の回転に伴って繰り返し衝突する部分が無いため、異音が発生しにくい。

　また、このリミッタ付きプーリは、ばね片８１が径方向外方にたわんだときにばね片８１を受け止めてばね片８１のたわみ量を規制するストッパ部８４を有するので、ボール７４がＶ溝７３に沿って移動することによるダンパ作用を確保しながら、トルクリミッタ５３が作動する回転トルクを比較的大きく設定することが可能となっている。

　また、このリミッタ付きプーリは、内側円筒部７９と内側平板部７７の境界から内側平板部７７の内部を径方向外方に延びるようにスリット８０が形成されているので、ばね片８１が弾性変形しやすく、効果的にダンパ作用を得ることが可能となっている。

　また、このリミッタ付きプーリは、各スリット８０の幅が、ボール７４の外径よりも狭い大きさに設定されているので、ボール収容部８５がボール７４を受け入れたときに、そのボール７４がスリット８０を通って脱落するのを防止することが可能となっている。

　上記実施形態は、以下に付記する発明を開示する。

（付記１）
　外周に駆動ベルトが巻き掛けられるプーリと、
　前記プーリの回転中心に位置する被駆動軸の軸端部に固定されるハブと、
　前記被駆動軸の回転負荷が通常範囲のときは前記プーリから前記ハブに回転トルクを伝達し、前記被駆動軸の回転負荷が過大となったときは前記プーリから前記ハブへの回転トルクの伝達を遮断するトルクリミッタと、
　を有するリミッタ付きプーリにおいて、
　前記トルクリミッタは、
　径方向深さが周方向中央から周方向両側に向かって次第に浅くなるように前記ハブの外周に設けられたＶ溝と、
　前記Ｖ溝に収容されたボールと、
　前記ボールに嵌合する穴部と、その穴部の円周を分割する切り離し部とを有し、前記ボールが径方向外方に移動したときに径方向外方にたわんで前記ボールに径方向内方への付勢力を付与するばね片と、
　前記ボールが前記穴部と前記切り離し部とを押し広げて径方向外方に通過したときにそのボールを受け入れるボール収容部と、
を有することを特徴とするリミッタ付きプーリ。

（付記２）
　前記トルクリミッタは、
　前記ばね片の径方向外方に隙間をおいて位置し、前記ばね片が径方向外方にたわんだときに前記ばね片を受け止めて前記ばね片のたわみ量を規制するストッパ部を更に有する付記１に記載のリミッタ付きプーリ。

（付記３）
　前記トルクリミッタは、
　前記プーリの側面に固定される第１の円環板と、
　前記第１の円環板に軸方向に対向して設けられた第２の円環板とを有し、
　前記ばね片は、前記第２の円環板の径方向内端に軸方向に延びるように設けられ、
　前記ストッパ部は、前記第１の円環板の径方向内端に設けられ、
　前記ボール収容部は、前記第１の円環板と第２の円環板の対向面間に形成された空間である付記２に記載のリミッタ付きプーリ。

（付記４）
　前記第２の円環板は、前記第１の円環板と軸方向に間隔をおいて平行に配置された内側平板部と、その内側平板部の径方向内端から第１の円環板に向かって軸方向に延びる内側円筒部と、その内側円筒部を軸方向に横切って形成された少なくとも一対のスリットとを有し、その一対のスリットの間に前記ばね片が形成されている付記３に記載のリミッタ付きプーリ。

（付記５）
　前記少なくとも一対のスリットは、前記内側円筒部と前記内側平板部の境界から前記内側平板部の内部を径方向外方に延びるように形成されている付記４に記載のリミッタ付きプーリ。

（付記６）
　前記少なくとも一対のスリットの各スリットの幅は、前記ボールの外径よりも狭い大きさに設定されている付記４または５に記載のリミッタ付きプーリ。

１０　プーリ
２０　自動車補機
２１　回転軸
２３　プーリ支持軸
３０　トルクリミッタ機構
３１　カバー
３２　環状板部
３３ａ　大径円筒部
３３ｂ　外側フランジ部
３３ｃ　小径円筒部
３３ｄ　内側フランジ部
３４　ポケット筒部
３５　スリット
３６　弾性片
３７　スリット
４２　ボール
４３　ハブ
４９　Ｖ溝

Claims

　自動車補機の回転軸と同軸上に設けられたプーリ支持軸を中心にして回転自在に支持されたプーリと、そのプーリと前記回転軸との間に設けられてプーリの回転を前記回転軸に伝達し、その回転軸の回転負荷が設定値を超えた際にプーリから回転軸への回転伝達を遮断するトルクリミッタ機構とを有してなる動力伝達装置において、
　前記トルクリミッタ機構が、前記プーリの外側面に連結された環状のカバーと、そのカバーの内周に保持された複数のボールと、前記回転軸の軸端部に取り付けられたハブとを備え、前記カバーが前記ハブを覆う円筒部を内周に有し、その円筒部にボールの一部が内径側に露出する状態でボールを弾性保持する複数のポケット筒部が周方向に間隔をおいて設けられ、前記ハブの外径面には前記ボールの一部が嵌合するＶ溝を設けられ、前記ハブの隣接するＶ溝間にはポケット筒部内から径方向外方に向けてボールに押出し力を負荷する押圧部が設けられた構成とされていることを特徴とする動力伝達装置。
　前記ポケット筒部に軸方向に延びる複数のスリットが周方向に間隔をおいて形成され、隣接するスリット間に形成された弾性片で前記ボールを弾性保持した請求項１に記載の動力伝達装置。
　前記カバーが、プーリの外側面に連結される環状板部と、その環状板部の内周から外側方に向く大径円筒部と、その大径円筒部の端部から内径方向に向く外側フランジ部と、その外側フランジ部の内周部から内側方に向く小径円筒部と、その小径円筒部の端部から外径方向に向き、その外径縁が前記プーリに形成されたボス部の内径面と間隙をおいて対向する内側フランジ部とを有してなり、前記小径円筒部に前記ポケット筒部が形成された請求項１および２に記載の動力伝達装置。
　前記隣り合うポケット筒部間において、小径円筒部、その小径円筒部の軸方向両端に連設された外側フランジ部の内周部および内側フランジ部のそれぞれを周方向に分割するスリットを形成した請求項３に記載の動力伝達装置。
　前記ハブが焼結材からなる請求項１乃至４のいずれか１項に記載の動力伝達装置。
　前記ハブが樹脂からなる請求項１乃至４のいずれか１項に記載の動力伝達装置。