次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本開示のダンパ装置10を含む発進装置1を示す概略構成図である。同図に示す発進装置1は、原動機としてのエンジン(本実施形態では、内燃機関)EGを有する車両に搭載されるものであり、ダンパ装置10に加えて、エンジンEGのクランクシャフトに連結されるフロントカバー3や、フロントカバー3に固定されるポンプインペラ(入力側流体伝動要素)4、ポンプインペラ4と同軸に回転可能なタービンランナ(出力側流体伝動要素)5、ダンパ装置10に連結されると共に自動変速機(AT)、無段変速機(CVT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)、ハイブリッドトランスミッション、あるいは減速機である変速機(動力伝達装置)TMの入力軸ISに固定される動力出力部材としてのダンパハブ7、ロックアップクラッチ8等を含む。
なお、以下の説明において、「軸方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10の中心軸CA(軸心、図2参照)の延在方向を示す。また、「径方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10、当該ダンパ装置10等の回転要素の径方向、すなわち発進装置1やダンパ装置10の中心軸CAから当該中心軸CAと直交する方向(半径方向)に延びる直線の延在方向を示す。更に、「周方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10、当該ダンパ装置10等の回転要素の周方向、すなわち当該回転要素の回転方向に沿った方向を示す。
ポンプインペラ4は、フロントカバー3に密に固定される図示しないポンプシェルと、ポンプシェルの内面に配設された複数のポンプブレード(図示省略)とを有する。タービンランナ5は、図示しないタービンシェルと、タービンシェルの内面に配設された複数のタービンブレード(図示省略)とを有する。タービンシェルの内周部は、複数のリベットを介してダンパハブ7に固定される。
ポンプインペラ4とタービンランナ5とは、互いに対向し合い、両者の間には、タービンランナ5からポンプインペラ4への作動油(作動流体)の流れを整流するステータ6が同軸に配置される。ステータ6は、図示しない複数のステータブレードを有し、ステータ6の回転方向は、ワンウェイクラッチ61により一方向のみに設定される。これらのポンプインペラ4、タービンランナ5およびステータ6は、作動油を循環させるトーラス(環状流路)を形成し、トルク増幅機能をもったトルクコンバータ(流体伝動装置)として機能する。ただし、発進装置1において、ステータ6やワンウェイクラッチ61を省略し、ポンプインペラ4およびタービンランナ5を流体継手として機能させてもよい。
ロックアップクラッチ8は、ダンパ装置10を介してフロントカバー3とダンパハブ7とを連結するロックアップを実行すると共に当該ロックアップを解除するものである。ロックアップクラッチ8は、単板油圧式クラッチであってもよく、少なくとも1枚の摩擦係合プレート(複数の摩擦材)を含む多板油圧式クラッチであってもよい。
ダンパ装置10は、エンジンEGと変速機TMとの間で振動を減衰するものであり、図1に示すように、同軸に相対回転する回転要素(回転部材すなわち回転質量体)として、ドライブ部材(入力要素)11、第1中間部材(第1中間要素)12、第2中間部材(第2中間要素)14およびドリブン部材(出力要素)16を含む。更に、ダンパ装置10は、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材11と第1中間部材12との間に配置されて回転トルク(回転方向のトルク)を伝達する複数(本実施形態では、例えば4個)の第1外側スプリング(第1弾性体)SP11、第1中間部材12とドリブン部材16との間に配置されて回転トルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば4個)の第2外側スプリング(第2弾性体)SP12、ドライブ部材11と第2中間部材14との間に配置されて回転トルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば4個)の第1内側スプリング(第3弾性体)SP21、第2中間部材14とドリブン部材16との間に配置されて回転トルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば4個)の第2内側スプリング(第4弾性体)SP22、および第1中間部材12と第2中間部材14との間に配置されて回転トルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば4個)の中間スプリング(第5弾性体)SPmを含む。
本実施形態では、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22として、荷重が加えられてないときに真っ直ぐに延びる軸心を有するように螺旋状に巻かれた金属材からなる直線型コイルスプリングが採用される。これにより、アークコイルスプリングを用いた場合に比べて、スプリングSP11,SP12,SP21およびSP22を軸心に沿ってより適正に伸縮させて、トルクを伝達するスプリングと回転要素との間で発生する摩擦力に起因したヒステリシス、すなわちドライブ部材11への入力トルクが増加していく際の出力トルクと、ドライブ部材11への入力トルクが減少していく際の出力トルクとの間の差を低減化することができる。ヒステリシスは、ドライブ部材11への入力トルクが増加する状態でダンパ装置10の捩れ角が所定角度になったときにドリブン部材16から出力されるトルクと、ドライブ部材11への入力トルクが減少する状態でダンパ装置10の捩れ角が上記所定角度になったときにドリブン部材16から出力されるトルクとの差分により定量化され得るものである。なお、スプリングSP11,SP12,SP21およびSP22の少なくとも何れか1つは、アークコイルスプリングであってもよい。更に、本実施形態では、中間スプリングSPmとして、荷重が加えられてないときに真っ直ぐに延びる軸心を有するように螺旋状に巻かれた金属材からなる直線型コイルスプリングが採用される。
また、本実施形態において、第1外側スプリングSP11および第2外側スプリングSP12は、ダンパ装置10(第1中間部材12)の周方向に沿って交互に並んで1個ずつ対をなす(直列に作用する)ように流体伝動室9内の外周側領域に配設される。また、第1および第2内側スプリングSP21,SP22は、ダンパ装置10(第2中間部材14)の周方向に沿って交互に並んで1個ずつ対をなす(直列に作用する)ように第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに中間スプリングSPmの径方向内側に配設され、第1および第2外側スプリングSP11,SP12により包囲される。
これにより、ダンパ装置10では、第1および第2外側スプリングSP11,SP12の平均取付半径roが、第1および第2内側スプリングSP21,SP22の平均取付半径riよりも大きくなる。第1および第2外側スプリングSP11,SP12の平均取付半径roは、図2に示すように、ダンパ装置10の中心軸CAから第1外側スプリング(第1弾性体)SP11の軸心までの距離である当該第1外側スプリングSP11の取付半径rSP11と、中心軸CAから第2外側スプリング(第2弾性体)SP12の軸心までの距離である当該第2外側スプリングSP12の取付半径rSP12との平均値(=(rSP11+rSP12)/2)である。第1および第2内側スプリングSP21,SP22の平均取付半径riは、図2に示すように、中心軸CAから第1内側スプリング(第3弾性体)SP21の軸心までの距離である当該第1内側スプリングSP21の取付半径rSP21と、中心軸CAから第2内側スプリング(第4弾性体)SP22の軸心までの距離である当該第2内側スプリングSP22の取付半径rSP22との平均値(=(rSP21+rSP22)/2)である。なお、取付半径rSP11,rSP12,rSP21またはrSP22は、中心軸CAと、各スプリングSP11,SP12,SP21,SP22の軸心上の予め定められた点(例えば、軸方向における中央や端部)との距離であってもよい。
また、本実施形態において、第1および第2外側スプリングSP11,SP12は、取付半径rSP11と取付半径rSP12とが等しくなるように同一円周上に配列され、第1外側スプリングSP11の軸心と、第2外側スプリングSP12の軸心とは、中心軸CAに直交する一平面に含まれる。更に、本実施形態において、第1および第2内側スプリングSP21,SP22は、取付半径rSP21と取付半径rSP22とが等しくなるように同一円周上に配列され、第1内側スプリングSP21の軸心と、第2内側スプリングSP22の軸心とは、中心軸CAに直交する一平面に含まれる。加えて、ダンパ装置10では、第1および第2内側スプリングSP21,SP22が径方向からみて第1および第2外側スプリングSP11,SP12と軸方向に重なり合うように当該第1および第2外側スプリングSP11,SP12の径方向内側に配置される。これにより、ダンパ装置10を径方向にコンパクト化すると共に、当該ダンパ装置10の軸長をより短縮化することが可能となる。
ただし、図2に示すように、中心軸CAから第1外側スプリングSP11の軸心までの取付半径rSP11と、当該中心軸CAから第2外側スプリングSP12の軸心までの取付半径rSP12とは、異なっていてもよい。また、中心軸CAから第1内側スプリングSP21の軸心までの取付半径rSP21と、当該中心軸CAから第2内側スプリングSP22の軸心までの取付半径rSP22とは、異なっていてもよい。すなわち、第1および第2外側スプリングSP11,SP12の少なくとも何れか一方の取付半径rSP11,rSP12は、第1および第2内側スプリングSP21,SP22の少なくとも何れか一方の取付半径rSP21,rSP22よりも大きくてもよい。更に、第1外側スプリングSP11の軸心と、第2外側スプリングSP12の軸心とは、中心軸CAに直交する一平面に含まれていなくてもよい。また、第1内側スプリングSP21の軸心と、第2内側スプリングSP22の軸心とは、中心軸CAに直交する一平面に含まれていなくてもよい。また、スプリングSP11,SP12,SP21およびSP22の軸心が中心軸CAに直交する一平面に含まれてもよく、スプリングSP11,SP12,SP21およびSP22の少なくとも何れか1つの軸心が当該一平面に含まれていなくてもよい。
ダンパ装置10のドライブ部材11は、ロックアップクラッチ8のロックアップピストンあるいはクラッチドラムまたはクラッチハブに固定され、当該ロックアップピストン等と一体に回転可能である。従って、ロックアップクラッチ8の係合によりフロントカバー3(エンジン)とダンパ装置10のドライブ部材11とが連結されることになる。ドライブ部材11は、ダンパ装置10の軸方向に並ぶように配設されると共に一体に回転するように連結される複数のプレート部材を含んでもよい。
また、ドライブ部材11は、周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成された複数(本実施形態では、例えば4個)の内側スプリング当接部(弾性体当接部)と、当該複数の内側スプリング当接部よりも径方向外側に位置するように周方向に間隔をおいて形成された複数(本実施形態では、例えば4個)の外側スプリング当接部(弾性体当接部)とを有する(何れも図示省略)。
第1中間部材12は、図3に示すような環状部材であり、それぞれ当該第1中間部材12の軸方向に突出するように周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成された複数(本実施形態では、例えば4個)のスプリング当接部12cを有する。また、第2中間部材14は、図3に示すように、第1中間部材12よりも小径の環状部材であり、それぞれ当該第2中間部材14の軸方向に突出するように周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成された複数(本実施形態では、例えば4個)のスプリング当接部14cを有する。
ドリブン部材16は、リベットを介して若しくは溶接によりダンパハブ7に固定される。また、ドリブン部材16は、その内周縁に近接するように周方向に間隔をおいて形成された複数(本実施形態では、例えば4個)の内側スプリング当接部(弾性体当接部)と、当該複数の内側スプリング当接部よりも径方向外側に位置するように周方向に間隔をおいて形成された複数(本実施形態では、例えば4個)の外側スプリング当接部(弾性体当接部)とを有する(何れも図示省略)。
ダンパ装置10の取付状態(組み立て完了後であってダンパ装置10が作動していない静止状態)において、ドライブ部材11の各外側スプリング当接部は、対をなさない(直列に作用しない)第1および第2外側スプリングSP11,SP12の間で両者の端部と当接する。同様に、ドリブン部材16の各外側スプリング当接部も、ダンパ装置10の取付状態において、対をなさない(直列に作用しない)第1および第2外側スプリングSP11,SP12の間で両者の端部と当接する。また、ドライブ部材11の各内側スプリング当接部は、ダンパ装置10の取付状態において、対をなさない(直列に作用しない)第1および第2内側スプリングSP21,SP22の間で両者の端部と当接する。同様に、ドリブン部材16の各内側スプリング当接部は、ダンパ装置10の取付状態において、対をなさない(直列に作用しない)第1および第2内側スプリングSP21,SP22の間で両者の端部と当接する。
第1中間部材12は、本実施形態において、ドライブ部材11およびドリブン部材16よりもタービンランナ5に近接するように配置される。また、第1中間部材12の各スプリング当接部12cは、互いに対をなす第1および第2外側スプリングSP11,SP12の間で両者の端部と当接する。更に、第2中間部材14は、本実施形態において、ドライブ部材11およびドリブン部材16よりもタービンランナ5に近接するように第1中間部材12の径方向内側に配置される。そして、第2中間部材14の各スプリング当接部14cは、互いに対をなす第1および第2内側スプリングSP21,SP22の間で両者の端部と当接する。
これにより、ダンパ装置10の取付状態において、各第1外側スプリングSP11の一端は、ドライブ部材11の対応する外側スプリング当接部およびドリブン部材16の対応する外側スプリング当接部と当接し、各第1外側スプリングSP11の他端は、第1中間部材12の対応するスプリング当接部12cと当接する。また、ダンパ装置10の取付状態において、各第2外側スプリングSP12の一端は、第1中間部材12の対応するスプリング当接部12cと当接し、各第2外側スプリングSP12の他端は、ドライブ部材11の対応する外側スプリング当接部およびドリブン部材16の対応する外側スプリング当接部と当接する。
更に、各第1内側スプリングSP21の一端は、ドライブ部材11の対応する内側スプリング当接部およびドリブン部材16の対応する内側スプリング当接部と当接し、各第1内側スプリングSP21の他端は、第2中間部材14の対応するスプリング当接部14cと当接する。また、ダンパ装置10の取付状態において、各第2内側スプリングSP22の一端は、第2中間部材14の対応するスプリング当接部14cと当接し、各第2内側スプリングSP22の他端は、ドライブ部材11の対応する内側スプリング当接部およびドリブン部材16の対応する内側スプリング当接部と当接する。
この結果、ドリブン部材16は、複数の第1外側スプリングSP11、第1中間部材12および複数の第2外側スプリングSP12を介してドライブ部材11に連結されると共に、複数の第1内側スプリングSP21、第2中間部材14および複数の第2内側スプリングSP22を介してドライブ部材11に連結される。また、ダンパ装置10の取付状態において、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22は、何れも自然長または自然長よりも僅かに圧縮された状態に保たれる。これにより、各スプリングSP11,SP12,SP21およびSP22の反力は、それぞれの両側に位置する2つの回転要素の相対捩れ角が大きくなるにつれて大きくなる。すなわち、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22は、何れも正の剛性を有する。
図3に示すように、複数の中間スプリングSPmは、それぞれ第1中間部材12の周方向に隣り合うスプリング当接部12cの間と、第2中間部材14の周方向に隣り合うスプリング当接部14cの間とに連結され、第1および第2中間部材12,14に対して放射状に配設される。図示するように、各中間スプリングSPmの一端は、第1連結部材120に固定され、各中間スプリングSPmの他端は、第2連結部材140に固定される。第1連結部材120は、第1中間部材12(ダンパ装置10)の軸方向に延びる第1連結ピン125を介して当該第1中間部材12の周方向に隣り合うスプリング当接部12cの間に定められた連結部に回転自在に連結される。複数の第1連結ピン125は、図3に示すように、第1中間部材12に対して等間隔(本実施形態では、90°間隔)に配設される。また、第2連結部材140は、第2中間部材14(ダンパ装置10)の軸方向に延びる第2連結ピン145を介して当該第2中間部材14の周方向に隣り合うスプリング当接部14cの間に定められた連結部に回転自在に連結される。複数の第2連結ピン145は、図3に示すように、第2中間部材14に対して等間隔(本実施形態では、90°間隔)に配設される。
そして、複数の中間スプリングSPmは、ダンパ装置10の取付状態において、それぞれ自然長よりも充分に圧縮された状態でダンパ装置10の径方向に延在するように第1および第2中間部材12,14に連結される。これにより、各中間スプリングSPmは、第1および第2中間部材12,14の相対回転に応じて伸長可能となり、各中間スプリングSPmの反力は、両側に位置する第1および第2中間部材12,14の相対捩れ角が大きくなるにつれて小さくなる。すなわち、中間スプリングSPmは、負の剛性を有する。
また、ダンパ装置10は、図1に示すように、第1外側スプリングSP11の撓みを規制する第1ストッパ21と、第2外側スプリングSP12の撓みを規制する第2ストッパ22と、第1内側スプリングSP21の撓みを規制する第3ストッパ23と、第2内側スプリングSP22の撓みを規制する第4ストッパ24と、中間スプリングSPmの撓みを規制する第5ストッパ25とを含む。第1から第5ストッパ21~25は、エンジンからドライブ部材11に伝達される入力トルクがダンパ装置10の最大捩れ角θmaxに対応したトルクT2(第2の閾値)よりも小さい予め定められたトルク(第1の閾値)T1に達した以降に対応するスプリングの撓みを規制するように構成される。これら第1から第5ストッパ21~25の作動タイミングを適宜設定することで、ダンパ装置10に複数段階(2ステージ以上)の減衰特性をもたせることができる。
本実施形態において、第1ストッパ21は、ドライブ部材11と第1中間部材12との相対回転を規制するように構成され、第2ストッパ22は、第1中間部材12とドリブン部材16との相対回転を規制するように構成される。また、第3ストッパ23は、ドライブ部材11と第2中間部材14との相対回転を規制するように構成され、第4ストッパ24は、第2中間部材14とドリブン部材16との相対回転を規制するように構成され、第5ストッパ25は、第1中間部材12と第2中間部材14との相対回転を規制するように構成される。なお、図1において二点鎖線で示すように、ドライブ部材11とドリブン部材16との相対回転を規制するストッパ26を設けると共に、第1から第5ストッパ21~25の何れか2つまたは3つを省略してもよい。すなわち、スプリングSP11~SPmの撓みが適正なタイミングで規制されるのであれば、スプリングSP11~SPmのそれぞれに対応するように5つのストッパを必ずしも設ける必要はない。
次に、ダンパ装置10の動作について説明する。
発進装置1において、ロックアップクラッチ8によるロックアップが解除されている際には、例えば、エンジンEGからフロントカバー3に伝達された回転トルク(動力)が、ポンプインペラ4、タービンランナ5、ドリブン部材16、ダンパハブ7という経路を介して変速機TMの入力軸ISへと伝達される。これに対して、発進装置1のロックアップクラッチ8によりロックアップが実行されると、エンジンEGからフロントカバー3およびロックアップクラッチ8を介してドライブ部材11に伝達された回転トルク(入力トルク)は、ドライブ部材11への入力トルクが上記トルクT1に達するまで、つまり、第1および第2外側スプリングSP11,SP12、第1および第2内側スプリングSP21,SP22並びに中間スプリングSPmのすべての撓みが許容されている間、スプリングSP11~SPmのすべてを介してドリブン部材16およびダンパハブ7に伝達される。
すなわち、ロックアップの実行中に入力トルクがトルクT1に達するまでの間、第1外側スプリング(第1弾性体)SP11は、ドライブ部材11から第1中間部材12に回転トルクを伝達し、第2外側スプリング(第2弾性体)SP12は、第1中間部材12からドリブン部材16に回転トルクを伝達する。また、第1内側スプリング(第3弾性体)SP21は、ドライブ部材11から第2中間部材14に回転トルクを伝達し、第2内側スプリング(第4弾性体)SP22は、第2中間部材14からドリブン部材16に回転トルクを伝達する。従って、ダンパ装置10は、ドライブ部材11とドリブン部材16との間のトルク伝達経路として、図4に示すように、第1外側スプリングSP11、第1中間部材12および第2外側スプリングSP12を含む第1トルク伝達経路P1と、第1内側スプリングSP21、第2中間部材14および第2内側スプリングSP22を含む第2トルク伝達経路P2とを有することになる。
また、上述のように、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22は、正の剛性を有する一方、中間スプリングSPmは、負の剛性を有する。これにより、エンジンEGからのトルクの伝達によるドライブ部材11の回転開始に伴って第1および第2中間部材12,14が相対回転すると、静止状態で自然長よりも圧縮されていた各中間スプリングSPmは、両者の相対回転の開始と同時に伸長し、図4からわかるように、第1中間部材と第2中間部材とを互いに逆方向に回転させる(相対捩れ角を大小させる)。従って、ダンパ装置10では、エンジンEGからドライブ部材11に伝達されたトルクがドリブン部材16へと伝達される際に、第2外側スプリング(第2弾性体)SP12からドリブン部材16に伝達される振動の位相と、第2内側スプリング(第4弾性体)SP22からドリブン部材16に伝達される振動の位相とをずらすことができる。この結果、ダンパ装置10では、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動および第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の一方により、他方の少なくとも一部を打ち消すことが可能となる。
また、ロックアップの実行中に入力トルクがトルクT1に達するまでの間にドライブ部材11にトルクが伝達されると、図4に示すように、第1および第2中間部材12,14のうちの一方(図4の例では、第2中間部材14)が他方(図4の例では、第1中間部材12)に対して回転方向(車両が前進する際の回転方向)における進行方向側(下流側)に(若干)捩れる。これにより、各中間スプリングSPmは、ロックアップの実行中に入力トルクがトルクT1に達するまでの間、ドライブ部材11から第1内側スプリングSP21を介して第2中間部材14に伝達されたトルクの一部(平均トルクの一部)を第1中間部材12に伝達するか、あるいはドライブ部材11から第1外側スプリングSP11を介して第1中間部材12に伝達されたトルクの一部(平均トルクの一部)を第2中間部材14に伝達する。従って、ダンパ装置10は、第1内側スプリングSP21、第2中間部材14、中間スプリングSPm、第1中間部材12および第2外側スプリングSP12を含むか、あるいは、第1外側スプリングSP11、第2中間部材14、中間スプリングSPm、第2中間部材14および第2内側スプリングSP22を含む第3のトルク伝達経路を有することになる。
更に、ドライブ部材11への入力トルクが上記トルクT1に達すると、スプリングSP11,SP12,SP21,SP22およびSPmのうちの予め定められたものの撓みが規制される。従って、ドライブ部材11への入力トルクが上記トルクT1以上になると、スプリングSP11,SP12,SP21,SP22およびSPmのすべての撓みが規制されるまで、撓みが規制されていないスプリングによってドライブ部材11に伝達されるトルクの変動が減衰(吸収)されることになる。
上述のように、ダンパ装置10では、第1および第2中間部材12,14の少なくとも何れか一方の共振の有無に拘わらず、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動および第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の一方により、他方の少なくとも一部を打ち消すことができる。従って、図5に示すように、エンジンEGからドライブ部材11に伝達される入力トルクが比較的小さく、ドライブ部材11すなわちエンジンEGの回転数Neが少なくとも第1および第2中間部材12,14の固有振動数のうちの小さい方に対応した回転数よりも低いうちから振動減衰性能を良好に向上させることが可能となる。また、ダンパ装置10によれば、図5に示すように、ロックアップクラッチ8によってロックアップが実行されるロックアップ回転数Nlupを、同図において破線で示すような振動減衰特性を有する一般的なダンパ装置では設定し得ない低回転域に設定することができる。このように、ロックアップ回転数Nlupをより低下させて早期にエンジンEGからのトルクを変速機TMに機械的に伝達することで、エンジンEGと変速機TMとの間の動力伝達効率を向上させ、それによりエンジンEGの燃費をより一層向上させることが可能となる。
更に、ダンパ装置10では、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動の位相と、第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の位相とが180°ずれるようにスプリングSP11,SP12,SP21,SP22のばね定数や第1および第2中間部材12,14の慣性モーメント(イナーシャ)を調整することで、振動減衰性能をより一層向上させることができる。ただし、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動の位相と、第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の位相とは、必ずしも180°ずれている必要はない。
また、ダンパ装置10では、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22が何れも正の剛性を有し、中間スプリングSPmが負の剛性を有する。これにより、ダンパ装置10全体の設計を容易にしつつ、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動の位相と、第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の位相とをずらすことが可能となる。
更に、ダンパ装置10の中間スプリングSPmは、ダンパ装置10の取付状態で径方向に延在するように第1および第2中間部材12,14に連結され、第1および第2中間部材12,14の相対捩れ角がゼロになったときに自然長よりも圧縮された状態となる。そして、中間スプリングSPmは、第1および第2中間部材12,14の相対回転に応じて伸長する。これにより、エンジンEGからのトルクの伝達によるドライブ部材11の回転開始に伴って第1および第2中間部材12,14が相対回転した時点、すなわちドライブ部材11(エンジンEG)の回転数が極低いうちから第1中間部材12と第2中間部材14とを互いに逆方向に回転させ、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動の位相と、第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の位相とをずらすことが可能となる。
なお、ダンパ装置10において、負の剛性を有する弾性体は、中間スプリングSPmに限られるものではなく、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22の何れか1つが負の剛性を有していてもよい。また、ダンパ装置10において、第1および第2外側スプリングSP11,SP12、第1および第2内側スプリングSP21,SP22、並びに中間スプリングSPmのうちの複数が負の剛性を有していてもよい。例えば、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22の何れか1つと、中間スプリングSPmとが負の剛性を有していてもよい。更に、図6に示す発進装置1Aのダンパ装置10Aのように、第2外側スプリングSP12(第2弾性体)および第1内側スプリングSP21(第3弾性体)が負の剛性を有していてもよい。また、第1外側スプリングSP11(第1弾性体)および第2内側スプリングSP22(第4弾性体)が負の剛性を有していてもよい。更に、第2外側スプリングSP12、第1内側スプリングSP21および中間スプリングSPmが負の剛性を有していてもよい。また、第1外側スプリングSP11、第2内側スプリングSP22および中間スプリングSPmが負の剛性を有していてもよい。
更に、ダンパ装置10において、負の剛性を有する弾性体として、例えば皿ばねやゴム材といったコイルばね以外の弾性体が用いられてもよい。また、ダンパ装置10では、出力要素としてのドリブン部材16がトルクコンバータ(流体伝動装置)のタービンランナ5に一体回転するように連結されるが、これに限られるものではない。すなわち、図1において二点鎖線で示すように、ドライブ部材11または第1中間部材12がタービンランナ5に一体回転するように連結されてもよく、第2中間部材14がタービンランナ5に一体回転するように連結されてもよい。
図7は、本開示の更に他のダンパ装置10Bを含む発進装置1Bを示す概略構成図である。なお、ダンパ装置10Bの構成要素のうち、上述のダンパ装置10と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図7に示すダンパ装置10Bは、ドライブ部材11、第1および第2中間部材12,14およびドリブン部材16に加えて、第3中間部材(第3中間要素)13を回転要素として含むと共に、スプリングSP11,SP12,SP21,SP22およびSPmに加えて、第3外側スプリングSP13をトルク伝達要素として含む。ダンパ装置10Bの第3中間部材13には、第2外側スプリングSP12からトルクが伝達され、第3外側スプリングSP13は、第3中間部材13とドリブン部材16との間に配置されて両者の間で回転トルクを伝達する。すなわち、ダンパ装置10Bの第1トルク伝達経路は、第1外側スプリングSP11、第1中間部材12、第2外側スプリングSP12、第3中間部材13および第3外側スプリングSP13を含む。
かかるダンパ装置10Bにおいても、上述のダンパ装置10と同様の作用効果を得ることができる。また、第3外側スプリングSP13を含むダンパ装置10Bでは、ダンパ装置10B全体の剛性すなわち等価剛性をより低下させることが可能となるので、振動減衰性能をより一層向上させることができる。なお、図7に示すダンパ装置10Bでは、出力要素としてのドリブン部材16がトルクコンバータ(流体伝動装置)のタービンランナ5に一体回転するように連結されるが、これに限られるものではない。すなわち、図7において二点鎖線で示すように、ドライブ部材11、第1または第3中間部材12,13がタービンランナ5に一体回転するように連結されてもよく、第2中間部材14がタービンランナ5に一体回転するように連結されてもよい。
図8は、本開示の他のダンパ装置10Cを含む発進装置1Cを示す概略構成図である。なお、ダンパ装置10Cの構成要素のうち、上述のダンパ装置10,10Bと同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図8に示すダンパ装置10Cも、ドライブ部材11、第1および第2中間部材12,14およびドリブン部材16に加えて、第3中間部材(第3中間要素)13を回転要素として含むと共に、スプリングSP11,SP12,SP21,SP22およびSPmに加えて、第3外側スプリングSP13をトルク伝達要素として含む。ダンパ装置10Cの第3中間部材13には、第1外側スプリングSP11からトルクが伝達され、第3外側スプリングSP13は、第3中間部材13と第1中間部材12との間に配置されて両者の間で回転トルクを伝達する。すなわち、ダンパ装置10Cの第1トルク伝達経路は、第1外側スプリングSP11、第3中間部材、第3外側スプリングSP13、第1中間部材12および第2外側スプリングSP12を含む。
かかるダンパ装置10Cにおいても、上述のダンパ装置10Bと同様の作用効果を得ることができる。なお、図8に示すダンパ装置10Cでは、出力要素としてのドリブン部材16がトルクコンバータ(流体伝動装置)のタービンランナ5に一体回転するように連結されるが、これに限られるものではない。すなわち、図8において二点鎖線で示すように、ドライブ部材11、第1または第3中間部材12,13がタービンランナ5に一体回転するように連結されてもよく、第2中間部材14がタービンランナ5に一体回転するように連結されてもよい。
以上説明したように、本開示のダンパ装置は、エンジン(EG)からのトルクが伝達される入力要素(11)と、出力要素(16)とを有するダンパ装置(10,10B,10C)において、第1中間要素(12)と、第2中間要素(14)と、前記入力要素(11)と前記第1中間要素(12)との間に配置される第1弾性体(SP11)と、前記第1中間要素(12)と前記出力要素(16)との間に配置される第2弾性体(SP12)と、前記入力要素(11)と前記第2中間要素(14)との間に配置される第3弾性体(SP21)と、前記第2中間要素(14)と前記出力要素(16)との間に配置される第4弾性体(SP22)と、前記第1中間要素(12)と前記第2中間要素(14)との間に配置される第5弾性体(SPm)とを備え、前記第1から第5弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22,SPm)の何れか1つが負の剛性を有するものである。
本開示のダンパ装置において、第1弾性体は、入力要素から第1中間要素にトルクを伝達し、第2弾性体は、第1中間要素から出力要素にトルクを伝達する。また、第3弾性体は、入力要素から第2中間要素にトルクを伝達し、第4弾性体は、第2中間要素から出力要素にトルクを伝達する。更に、第5弾性体は、第1中間要素と第2中間要素との間でトルクを伝達し、第1から第5弾性体の何れか1つは、負の剛性を有する。これにより、エンジンから入力要素に伝達されたトルクが出力要素へとトルクが伝達される際に、第1中間要素と第2中間要素とを互いに逆方向に回転させ、第2弾性体から出力要素に伝達される振動の位相と、第4弾性体から出力要素に伝達される振動の位相とをずらすことが可能となる。従って、本開示のダンパ装置では、第1および第2中間要素の少なくとも何れか一方の共振の有無に拘わらず、第2弾性体から出力要素に伝達される振動および第4弾性体から出力要素に伝達される振動の一方により、他方の少なくとも一部を打ち消すことができる。この結果、入力要素の回転数が少なくとも第1および第2中間要素の固有振動数のうちの小さい方に対応した回転数よりも低いうちから振動減衰性能を良好に向上させることが可能となる。
上述のように、前記第1から第5弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22,SPm)のすべての撓みが許容されている際に、前記第2弾性体(SP12)から前記出力要素(16)に伝達される振動および前記第4弾性体(SP22)から前記出力要素(16)に伝達される振動の一方が他方の少なくとも一部を打ち消すとよい。
また、前記第1から第4弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22)は、正の剛性を有してもよく、前記第5弾性体(SPm)は、負の剛性を有してもよい。これにより、ダンパ装置全体の設計を容易にしつつ、第2弾性体から出力要素に伝達される振動の位相と、第4弾性体から出力要素に伝達される振動の位相とをずらすことが可能となる。なお、“正の剛性”は、弾性体の両側に位置する2つの回転要素の相対捩れ角が大きくなるにつれて当該弾性体の反力が増加すること意味し、“負の剛性”は、弾性体の両側に位置する2つの回転要素の相対捩れ角が大きくなるにつれて当該弾性体の反力が減少することを意味する。
更に、前記第5弾性体(SPm)は、前記第1および第2中間要素(12,14)の相対捩れ角がゼロになったときに自然長よりも圧縮された状態となり、前記第1および第2中間要素(12,14)の相対回転に応じて伸長するものであってもよい。これにより、入力要素の回転開始(トルク伝達の開始)に伴って第1および第2中間要素が相対回転した時点から第1中間要素と第2中間要素とを互いに逆方向に回転させて、第2弾性体から出力要素に伝達される振動の位相と、第4弾性体から出力要素に伝達される振動の位相とをずらすことが可能となる。
また、前記第5弾性体(SPm)は、前記ダンパ装置(10,10B,10C)の取付状態で該ダンパ装置(10,10B,10C)の径方向に延在するように前記第1および第2中間要素(12,14)に連結されてもよい。
更に、前記ダンパ装置(10,10B,10C)は、前記入力要素に伝達される入力トルクが予め定められた閾値(T1)以上になるまで、前記第1から第5弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22,SPm)の撓みが規制されないように構成されてもよい。これにより、入力要素に伝達される入力トルクが比較的小さく、当該入力要素の回転数が低いときのダンパ装置の振動減衰性能を良好に向上させることが可能となる。
また、前記第1、第2、第3および第4弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22)は、コイルスプリングであってもよく、当該コイルスプリングは、直線型コイルスプリングであってもよく、アークコイルスプリングであってもよい。ただし、第1、第2、第3および第4弾性体の何れかが負の剛性を有する弾性体である場合、当該何れかの弾性体は、例えば皿ばねやゴム材といったコイルばね以外の弾性体であってもよい。
更に、前記第5弾性体(SPm)は、コイルスプリングであってもよく、当該コイルスプリングは、直線型コイルスプリングであってもよい。ただし、第5弾性体が負の剛性を有する弾性体である場合、当該第5弾性体は、例えば皿ばねやゴム材といったコイルばね以外の弾性体であってもよい。
また、前記出力要素(16)は、変速機(TM)の入力軸(IS)に作用的(直接的または間接的)に連結されてもよく、前記入力要素(11)は、内燃機関(EG)の出力軸に作用的(直接的または間接的)に連結されてもよい。
更に、前記入力要素(11)、前記出力要素(16)、前記第1および第2中間要素(12,14)の何れか1つは、ポンプインペラ(4)と共に流体伝動装置のタービンランナ(5)に一体回転するように連結されてもよい。
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。