以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
以下の説明において、「変速比」とは、変速機構の入力回転速度N1を当該変速機構の出力回転速度N2で割って得られる値(=N1/N2)であり、変速比が大きい場合を変速比が「Low側にある」といい、小さい場合を変速比が「High側にある」という。また、変速比が現在よりもLow側に変更される変速をダウンシフトといい、High側に変更される変速をアップシフトという。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両の概略構成図である。この車両は、駆動源として内燃エンジン(以下、単に「エンジン」という)1を備え、エンジン1の回転動力は、その出力軸を介してロックアップクラッチ2cを備えたトルクコンバータ2のポンプインペラ2aに入力され、タービンランナ2bから第1ギヤ列3、変速機構4、第2ギヤ列5および差動装置6を介して駆動輪7へと伝達される。
変速機構4には、エンジン1の回転動力、即ちトルクが入力され、エンジン1の動力の一部を利用して駆動される機械オイルポンプ10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ10eとが設けられている。また、変速機構4には、機械オイルポンプ10mまたは電動オイルポンプ10eから吐出される油の圧力を調整して必要な作動油圧を生成し、変速機構4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。
変速機構4は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ」という)20と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。ここで、「直列に設けられる」とは、バリエータ20と副変速機構30とが、エンジン1から駆動輪7に至るまでの同じ動力伝達経路上に配置されていることをいう。副変速機構30は、本実施形態のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、各プーリ21および22の間に掛け回されたVベルト23とを備える。バリエータ20は、プライマリプーリ油室21aに供給される油圧(以下「プライマリプーリ圧」という)Ppriおよびセカンダリプーリ油室22aに供給される油圧(以下「セカンダリプーリ圧」という)Psecに応じてV溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比Ivaが無段階に変化する。
副変速機構30は、前進2段および後進1段を有する変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32~34に供給される油圧を調整し、各摩擦締結要素32~34の締結および解放状態を変更することで、副変速機構30の変速比Isが変更することができる。ここで、Lowブレーキ32は、本実施形態に係る「第1摩擦締結要素」に、Revブレーキ34は、「第2摩擦締結要素に、夫々対応する。
具体的には、Lowブレーキ32が締結され、Highクラッチ33およびRevブレーキ34が解放されると、副変速機構30の変速段は、1速段となる。Highクラッチ33が締結され、Lowブレーキ32およびRevブレーキ34が解放されると、副変速機構30の変速段は、1速段よりも変速比が小さい2速段となる。また、Revブレーキ34が締結され、Lowブレーキ32およびHighクラッチ33が解放されると、副変速機構30の変速段は、後進段となる。
バリエータ20の変速比Ivaと、副変速機構30の変速比Isとを変更することで、変速機構4全体の変速比Iが変更される。
コントローラ12は、エンジン1および変速機構4の動作を統合的に制御するコントローラ12であり、図2に示すように、CPU121と、RAMおよびROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。コントローラ12は、本実施形態に係る「制御装置」を構成する。
入力インターフェース123には、エンジン1および自動変速比の実際の運転状態を示す信号として、運転者によるアクセルペダル51の操作量であるアクセルペダル開度APOを検出するアクセルペダル開度センサ41の出力信号、プライマリプーリ21の回転速度であるプライマリプーリ回転速度Npriを検出するプライマリ回転速度センサ42の出力信号、セカンダリプーリ22の回転速度であるセカンダリプーリ回転速度Nsecを検出するセカンダリ回転速度センサ43の出力信号、車速VSPを検出する車速センサ44の出力信号、シフトレバー50の位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号等が入力される。その他、コントローラ12には、入力インターフェース124を介して、エンジン1の出力軸の回転速度であるエンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサの出力信号、トルクコンバータ2の出力軸の回転速度であるタービン回転速度Ntを検出するタービン回転速度センサの出力信号、ブレーキペダルの操作量に対応したブレーキ液圧BRPを検出するブレーキ液圧センサからの出力信号等が入力される。
記憶装置122には、エンジン1の制御プログラム、変速機構4の変速制御プログラム、これらのプログラムで用いられる各種マップおよびテーブルが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されているプログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、燃料噴射量信号、点火時期信号、スロットル開度信号および変速制御信号を生成し、生成した信号を出力インターフェース124を介してエンジン1および油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値およびその演算結果は、記憶装置122に適宜格納される。
油圧制御回路11は、複数の流路および複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともに、機械オイルポンプ10mまたは電動オイルポンプ10eから吐出された油の圧力から必要な作動油圧を調製し、この作動油圧を変速機構4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比Ivaおよび副変速機構30の変速比Isが変化し、変速機構4の変速が行われる。
本実施形態では、停車中にバリエータ20の変速比を最Low変速比に向けて変更するとともに、下に述べるプライマリプーリ21の油圧制御を実行する。ここで、本実施形態に係る油圧制御について詳しく説明する。
例えば、シフトレバー50がDレンジにある状態で減速し、バリエータ20の変速比Ivaが最Low変速比に到達する前に停車した場合を想定する。この場合には、Lowブレーキ32が締結状態であり、回転していない駆動輪7とバリエータ20とがLowブレーキ32を介して連結された状態にあるため、バリエータ20の各プーリ21、22が回転しておらず、バリエータ20の変速比Ivaを最Low変速比に変更することができない。この状態で、シフトレバー50がDレンジからNレンジを経てRレンジに変更されると、Nレンジへのシフト操作に応じて副変速機構30のLowブレーキ32が解放され、さらに、Rレンジへのシフト操作に応じてRevブレーキ34が締結される。ここで、Lowブレーキ32が解放されてからRevブレーキ34が締結されるまでの間は、副変速機構30の全ての摩擦締結要素32~34が解放された状態にあり、バリエータ20と駆動輪7との連結が解除されるため、バリエータ20の各プーリ21、22は、エンジン1から伝達されるトルクにより回転することが可能となる。これに対し、バリエータ20では、停車中に変速比Ivaを最Low変速比に変更する制御(以下「Low戻し制御」という)が実行される。
このLow戻し制御は、停車後の発進時に車両の駆動力が不足することで運転者に与える違和感を抑制するための制御である。Low戻し制御は、基本的には、セカンダリプーリ圧を維持しつつ、プライマリプーリ油室21aから油圧を排出し、プライマリプーリ圧を低下させることで実行される。プライマリプーリ圧の低下に併せてセカンダリプーリ圧を増大させることで、Low戻し制御を素早く行うこともできるが、電動オイルポンプ10eの電力消費量が増大してしまう。本実施形態でも、Low戻し制御は、基本的には、セカンダリプーリ圧を増大させず、プライマリプーリ圧のみを低下させることで実行する。
プライマリプーリ圧には通常、アクセルペダル51の踏み込みなどによるエンジントルクTeの増大に対し、プライマリプーリ21でベルト滑りが生じないように最低油圧Ppri_lowが設定される。従って、Low戻し制御を実行している場合でも、プライマリプーリ圧は、最低油圧Ppri_lowを下回らないように制御される。
しかし、Low戻し制御の実行中に、解放状態(実質的なトルク容量を生じさせないスリップ状態を含む)にあるRevブレーキ34を締結させることで、バリエータ20に副変速機構30側からイナーシャトルクが入力されると、プライマリプーリ圧が最低油圧Ppri_low以上に保たれている場合であっても、入力トルクに対してプライマリプーリ21におけるベルトの挟持力が不足し、プライマリプーリ21上でベルト滑りが発生する場合がある。
停車中にシフトレバー50がNレンジに操作され、副変速機構30のLowブレーキ32が解放されると、Revブレーキ34の駆動輪7側の軸の回転速度はゼロのままであるが、Revブレーキ34のバリエータ20側の軸は、セカンダリプーリ22とともに回転する。これにより、Revブレーキ34では、入出力軸の間で、Revブレーキ34におけるギヤ比に応じた回転速度差が発生する。このような状態からRevブレーキ34が締結されると、駆動輪7側から大きなイナーシャトルクがRevブレーキ34の入力軸(バリエータ20側の軸)に入力され、さらに、このイナーシャトルクは、バリエータ20にも入力される。
このようにして、バリエータ20に対し、エンジン1側から入力されるトルクに加えて副変速機構30側からもイナーシャトルクが入力されると、プライマリプーリ21におけるベルトの挟持力が不足し、ベルト滑りが発生するのである。
このようなベルト滑りは、急減速によりバリエータ20の変速比Ivaが最Low変速比に到達する前に停車し、さらに、停車後、シフトレバー50がDレンジからNレンジを経てRレンジに操作されたり、RレンジからNレンジを経てDレンジに操作されたりした場合に生じる。
しかし、ベルト滑りは、停車中に限らず、車両が急減速して停車直前の極低車速となり、バリエータ20の変速比IvaがLow側に設定された目標変速比Ivtに到達する前に、シフトレバー50がDレンジからNレンジを経てRレンジに変更され、または、RレンジからNレンジを経てDレンジに変更された場合にも生じ得る。つまり、ベルト滑りは、停車の前後を問わず、バリエータ20の変速比Ivaが減速または停車後もなお目標変速比IvtよりもHigh側である場合に問題となり、シフトレバー50が走行レンジから非走行レンジを経て走行レンジに変更された場合に生じ得る。ベルト滑りが問題となる際の目標変速比Ivtは、最Low変速比であっても、最Low変速比よりも小さな変速比であってもよい。
さらに、ベルト滑りは、シフトレバー50がDレンジからNレンジを経てDレンジに、または、RレンジからNレンジを経てRレンジに変更された場合にも生じ得る。つまり、ベルト滑りは、異なる走行レンジ間で操作された場合に限らず、同一の走行レンジ間で非走行レンジを経て変更された場合にも生じ得る。しかし、例えば、シフトレバー50がDレンジからNレンジに操作されたものの、短時間のうちにDレンジに戻された場合には、Lowブレーキ32が残圧により解放されないため、Lowブレーキ32の入出力軸間で回転速度差が生じない。つまり、走行レンジから非走行レンジへの変更後、解放側の摩擦締結要素の残圧が低下して回転速度差が実際に生じ始めた後、バリエータ20の変速比IvaがLow側に設定された目標変速比Ivtに到達する前に、シフトレバー50が非走行レンジから同一の走行レンジに戻された場合に、ベルト滑りが生じ得るのである。
本実施形態に係る油圧制御について、停車後、Dレンジにあるシフトレバー50がNレンジを経てRレンジに操作される場合を例に、図3に示すフローチャートを参照して以下に説明する。
ステップS100において、コントローラ12は、バリエータ20の変速比Ivaが目標変速比Ivtとなっているかどうか判定する。本実施形態では、目標変速比Ivtは、最Low変速比に設定される。コントローラ12は、プライマリ回転速度センサ42およびセカンダリ回転速度センサ43からの信号に基づいてバリエータ20の実際の変速比Ivaを算出し、算出した実変速比Ivaが目標変速比Ivtとなっているかどうか判定する。バリエータ20の変速比Ivaが目標変速比Ivtとなっている場合には、今回の処理を終了し、目標変速比Ivtとなっていない場合には、処理はステップS101に進む。
ステップS101において、コントローラ12は、シフトレバー50がNレンジからDレンジまたはRレンジに操作されたかどうか判定する。シフトレバー50がNレンジからDレンジまたはRレンジに変更された場合には、処理はステップS102に進み、シフトレバー50がNレンジ、DレンジまたはRレンジなどに保持されている場合には、ステップS105に進む。コントローラ12は、インヒビタスイッチ45からの信号に基づいてシフトレバー50の位置を検出し、前回の検出結果と比較することにより、DレンジまたはRレンジに操作されたかどうか判定する。従って、シフトレバー50がDレンジからNレンジを経てRレンジに操作される場合には、NレンジからRレンジへの操作により、処理はステップS102に進む。そして、シフトレバー50が操作されていない場合および操作後のレンジに保持されている場合には、処理はステップS105に進む。
ステップS102では、コントローラ12は、プライマリプーリ圧の下限規制値Ppri_limの初期値Ppri_liminを演算する。下限規制値Ppri_limの初期値Ppri_liminは、プライマリプーリ圧を所定勾配ΔPで増加させた場合に、Revブレーキ34に対する締結指示が出され、Revブレーキ34で実際にトルク伝達が開始する(換言すれば、トルク容量が発生する)時点か、それよりも前に、プライマリプーリ圧が所定圧(所定油圧)P1に到達するように設定される。所定勾配ΔPは、予め設定された値であり、プライマリプーリ圧の増大が急であると、バリエータ20の変速比Ivaが急変して運転者に違和感を与えるおそれがあることから、運転者に違和感を与えない範囲で適度な値に設定される。所定圧P1は、車両の運転状態(例えば、車速VSP)、シフトレバー50の操作に応じて締結予定のRevブレーキ34のギヤ比およびエンジントルクTeなどに基づいて演算される圧であり、Revブレーキ34でトルク伝達が開始し、副変速機構30側からバリエータ20にイナーシャトルクが入力された場合に、プライマリプーリ21でベルト滑りを生じさせないように設定される。
Revブレーキ34の締結制御は、シフトレバー50の操作からの時間により管理されており、シフトレバー50が操作されると、Revブレーキ34でトルク伝達が開始するまでの時間が決まる。従って、下限規制値Ppri_limの初期値Ppri_liminは、所定圧P1、所定勾配ΔPおよびトルク伝達が開始するまでの時間に基づいて演算することができる。
ここで、プライマリプーリ圧が所定圧P1に到達するタイミングは、Revブレーキ34でトルク伝達が開始するタイミングと一致するのが望ましく、初期値Ppri_liminは、両タイミングが一致するように演算されるのが望ましい。また、初期値Ppri_limin初期値を定めたうえで、両タイミングが一致するか、Revブレーキ34でトルク伝達が開始する前にプライマリプーリ圧が所定圧P1に到達するように、所定勾配ΔPを設定するようにしてもよい。つまり、遅くともトルク伝達が開始するまでにプライマリプーリ圧が所定圧P1に到達するように、初期値Ppri_liminまたは所定勾配ΔPを設定すればよい。
ステップS103では、コントローラ12は、エンジントルクTeの上限値Te_limを演算する。エンジントルクTeの上限値Te_limは、Revブレーキ34でトルク伝達が開始するタイミングが設定上のタイミングよりも早くなった場合を考慮して設定される。エンジントルクTeの上限値Te_limは、予め設定されたトルクダウン量またはRevブレーキ34がトルク容量を生じることでバリエータ20に入力されるイナーシャトルクに相当するトルクダウン量を、現在のエンジントルクTeから減じて得られる値である。現在のエンジントルクTeは、停車している場合などアクセルペダル51が踏み込まれていない場合には、アイドル状態でのエンジントルクである。
ステップS104では、コントローラ12は、エンジントルクTeがエンジントルクTeの上限値Te_limとなるようにエンジン1を制御する。
ステップS105では、コントローラ12は、Revブレーキ34が締結中であるかどうか判定する。コントローラ12は、シフトレバー50がRレンジに操作されてからの時間が予め設定された締結完了時間になると、Revブレーキ34の締結が完了したと判定する。「Revブレーキ34の締結が完了する」とは、Revブレーキ34に供給される油圧が所定の締結圧まで上昇し、Revブレーキ34が所定のトルク容量を生じるに至ることをいう。Revブレーキ34の締結が完了しておらず、締結中である場合には、処理はステップS106に進み、Revブレーキ34の締結が完了した場合には、ステップS113に進む。
ステップS106では、コントローラ12は、Revブレーキ34でトルク伝達が開始したかどうか判定する。つまり、コントローラ12は、Revブレーキ34がスリップ状態となったかどうか判定する。コントローラ12は、シフトレバー50の操作からの時間が予め設定されたスリップ開始時間になると、Revブレーキ34でトルク伝達が開始したと判定する。Revブレーキ34がスリップ状態となっておらず、Revブレーキ34でトルク伝達が開始していない場合には、処理はステップS107に進み、Revブレーキ34がスリップ状態となり、Revブレーキ34でトルク伝達が開始した場合には、ステップS108に進む。
本実施形態では、Revブレーキ34でトルク伝達が開始する時点か、それよりも前に、下限規制値Ppri_limが所定圧P1となるように初期値Ppri_liminが演算されているので、Revブレーキ34がスリップ状態となった場合には、下限規制値Ppri_limは、所定圧P1となっている。従って、処理がステップS108に進む場合には、下限規制値Ppri_limは、所定圧P1となっている。
ステップS107では、コントローラ12は、エンジントルクTeの上限値Te_limを維持する。
ステップS108では、コントローラ12は、エンジントルクTeの上限値Te_limを解除する。上限値Te_limの解除後、コントローラ12は、エンジントルクTeを上限値Te_limから徐々に増大させる。
このように、シフトレバー50の操作後、スリップ開始時間が経過するまでエンジントルクTeを低下させることで、シフトレバー50の操作からRevブレーキ34でトルク伝達が開始するまでの実際の時間がスリップ開始時間よりも短く、スリップ開始時間の経過前にRevブレーキ34がトルク容量を生じた場合であっても、プライマリプーリ21におけるベルト滑りを抑制することができる。
ステップS109では、コントローラ12は、現在の下限規制値Ppri_limに所定加算値P2を加算することで、下限規制値Ppri_limを更新する。所定加算値P2は、下限規制値Ppri_limが所定勾配ΔPで増加するように予め設定された値である。下限規制値Ppri_limは、プライマリプーリ圧が所定圧P1となった後は、所定圧P1に保持される。
ステップS110では、コントローラ12は、更新した下限規制値Ppri_limと、プライマリプーリ21の必要圧Ppri_neとを比較する。必要圧Ppri_neは、バリエータ20の変速比Ivaを目標変速比Ivt(最Low変速比)に変更するために目標変速比Ivtをもとに算出される油圧と、エンジン1から伝達されるトルクに対してプライマリプーリ21でベルト滑りを生じさせない最低油圧Ppri_lowとのうち高い油圧に設定される。現在の下限規制値Ppri_limが必要圧Ppri_neよりも高い場合には、処理はステップS111に進み、現在の下限規制値Ppri_limが必要圧Ppri_ne以下の場合には、ステップS112に進む。
ステップS111では、コントローラ12は、プライマリプーリ21の指示圧(目標油圧)Ppriを下限規制値Ppri_limに設定する。これにより、プライマリプーリ圧が下限規制値Ppri_limに基づいて制御される。
ステップS112では、コントローラ12は、プライマリプーリ21の指示圧Ppriを必要圧Ppri_neに設定する。これにより、プライマリプーリ圧が必要圧Ppri_neに基づいて制御される。
このように、下限規制値Ppri_limが必要圧Ppri_neを上回ると、プライマリプーリ21の指示圧Ppriが下限規制値Ppri_limに設定され、その後の指示圧Ppriの低下が規制される。これにより、バリエータ20の変速比Ivaを最Low変速比に向けて制御するとともに、Revブレーキ34を締結する際にプライマリプーリ圧が低過ぎる状態となるのを防止し、プライマリプーリ21でベルト滑りが生じるのを抑制することができる。
なお、プライマリプーリ21の指示圧Ppriを下限規制値Ppri_limとする場合には、セカンダリプーリ22の指示圧Psecを増大させることで、バリエータ20の変速比Ivaを最Low変速比に近付けることが可能である。このようにして、バリエータ20の変速とベルト滑りの抑制との両立を図ることができる。
ステップS113では、コントローラ12は、エンジントルクTeの上限値Te_limを解除する。解除後、コントローラ12は、エンジントルクTeを上限値Te_limからステップ的に増大させる。
ステップS114では、コントローラ12は、下限規制値Ppri_limを解除する。これにより、必要圧Ppri_neがプライマリプーリ21の指示圧Ppriに設定され、プライマリプーリ圧は、必要圧Ppri_neに基づいて制御される。
次に、本実施形態に係る油圧制御について、タイムチャートを参照して説明する。図4は、本実施形態に係る油圧制御を実施せず、プライマリプーリ圧の低下を規制しない場合のタイムチャートである。図5は、本実施形態に係る油圧制御を実施した場合のタイムチャートである。
まず、本実施形態の油圧制御を実施しない場合について、図4を参照して説明する。
時間t0において、車両が急減速し、車速VSPが低下する。ここでは、Lowブレーキ32が締結される一方、ロックアップクラッチ2cが解放されており、車速VSPの低下とともにタービン回転速度Ntが低下する。車速VSPの低下に伴い、バリエータ20の目標変速比Ivtが最Low変速比に向けて変更され、バリエータ20の実際の変速比IVaの目標変速比Ivtに対する偏差に応じたダウンシフトが実行される。これにより、プライマリプーリ21の指示圧Ppriが低下し、バリエータ20の変速比IvaがLow側に変更される。
時間t1において、車両が停止し、車速VSPが0(ゼロ)となる。ここでは、目標変速比Ivtが最Low変速比に設定されているが、バリエータ20の実際の変速比Ivaは、急減速に変速が追い付かず、最Low変速比に到達していない。バリエータ20の各プーリ21、22が回転していないため、バリエータ20の変速比Ivaは、停車時の値に保持される。シフトレバー50がDレンジであることからLowブレーキ32が締結しており、タービン回転速度Ntもゼロになる。停車することでベルト滑りを防止するために必要なセカンダリプーリ圧が小さくなるので、セカンダリプーリの指示圧Psecが低下する。
時間t2から時間t4にかけて、シフトレバー50がDレンジからNレンジを経てRレンジに操作される。時間t2では、シフトレバー50がDレンジからNレンジに操作され、時間t4では、Nレンジにあるシフトレバー50がRレンジに操作される。
時間t2でシフトレバー50がNレンジに操作されることで、副変速機構30のLowブレーキ32が解放される。Lowブレーキ32が解放されることで、Lowブレーキ32よりもエンジン1側の回転要素は、自由に回転可能となる。よって、エンジン1から伝達されるトルクによりプーリ21、22などの回転要素が回転し、時間t3において、タービン回転速度Ntが上昇を開始する。
また、Lowブレーキ32が解放され、エンジン1からトルクが伝達され、バリエータ20の各プーリ21、22が回転するので、バリエータ20の変速比Ivaが変更可能となる。そのため、セカンダリプーリ22の指示圧Psecをステップ的に増大させる。このように、セカンダリプーリ22の指示圧Psecをステップ的に増大させるとともに、急激な変速比Ivaの変化を抑制するため、プライマリプーリ21の指示圧Ppriをセカンダリプーリ圧Psecの増大に応じて増大させ、その後、プライマリプーリ21の指示圧Ppriを低下させることで、変速比IvaをLow側に変更する。
時間t4において、シフトレバー50がRレンジに操作されると、Revブレーキ34へのプリチャージが開始される。プリチャージとは、Revブレーキ34についていえば、Revブレーキ34に供給される油圧をステップ的に増大させることで、Revブレーキ34にトルク容量が生じる直前の状態に素早く遷移させる操作をいう。
時間t5において、プライマリプーリ21の指示圧Ppriが、エンジン1から伝達されるトルクに対してプライマリプーリ21でベルト滑りが生じない最低油圧Ppri_lowに到達すると、プライマリプーリ21の指示圧Ppriは、この最低油圧Ppri_lowに保持される。プライマリプーリ21の指示圧Ppriが最低油圧Ppri_lowに保持された後は、セカンダリプーリ22の指示圧Psecを上昇させることで、バリエータ20の変速比IvaをLow側に変更する。
時間t6において、Revブレーキ34のプリチャージが終了すると、Revブレーキ34にトルク容量が生じ、Revブレーキ34を介するトルク伝達が開始する。これにより、バリエータ20に対して副変速機構30側からイナーシャトルクが入力され、タービン回転速度Ntが低下する。
本実施形態に係る油圧制御を実施しない場合には、エンジン1から入力されるトルクに対してバリエータ20でベルト滑りを生じさせないように、最低油圧Ppri_lowが設定されるが、シフトレバー50がDレンジからRレンジに操作されて副変速機構30側からイナーシャトルクが入力されることまでは考慮されていない。よって、イナーシャトルクが入力されることで、ベルトの挟持力が不足し、バリエータ20でベルト滑りが発生するおそれがある。
時間t7において、Revブレーキ34の締結が進行し、バリエータ20で各プーリ21、22の回転が停止すると、バリエータ20のそれ以降の変速ができなくなるので、変速比Ivaは、回転が停止した時点の値に保持される。変速比Ivaを保持するため、プライマリプーリ21の指示圧Ppriを増大させる。
時間t8において、Revブレーキ34の締結が完了する。
次に、本実施形態に係る油圧制御を実施した場合について、図5を参照して説明する。
時間t0から時間t2までは図4と同様であり、ここでの説明は省略する。
時間t2から時間t4にかけて、シフトレバー50がDレンジからNレンジを経てRレンジに操作される。時間t2では、シフトレバー50がDレンジからNレンジに操作され、時間t4では、NレンジからRレンジに操作される。
時間t2にシフトレバー50がNレンジに操作されることで、Lowブレーキ32が解放され、時間t3において、タービン回転速度Ntが上昇する。
また、Lowブレーキ34の解放により、バリエータ20で変速比Ivaを変更することが可能となるので、タービン回転速度Ntが上昇を開始した後、バリエータ20の最Low変速比に向けたダウンシフトが再開される。
時間t4において、シフトレバー50がRレンジに操作されると、Revブレーキ34へのプリチャージが開始される。また、Rレンジへの操作に応答して、下限規制値Ppri_limの初期値Ppri_liminが演算される。時間t4の時点では、プライマリプーリ21の必要圧Ppri_neが下限規制値Ppri_limよりも高いので、プライマリプーリ21の必要圧Ppri_neがプライマリプーリ21の指示圧Ppriに設定される。図5では、時間t4以降のプライマリプーリ21の必要圧Ppri_neを点線で示し、下限規制値Ppri_limを二点鎖線で示す。さらに、エンジントルクTeの上限値Te_limが演算され、エンジントルクTeが上限値Te_limに設定されることで、エンジントルクTeが低下する。
時間t5において、下限規制値Ppri_limが必要圧Ppri_neよりも高くなると、下限規制値Ppri_limがプライマリプーリ21の指示圧Ppriに設定され、プライマリプーリ21の指示圧Ppriが、必要圧Ppri_neが設定される場合よりも高くなる。本実施形態において、Rレンジへの操作がない場合には、必要圧Ppri_neが時間t5以降も引き続きプライマリプーリ21の指示圧Ppriに設定される。下限規制値Ppri_limの選択によりプライマリプーリ圧が高くなることから、セカンダリプーリ22の指示圧Psecも高くしており、これらの指示圧Ppri、Psecに基づいて各プーリ21、22の実圧が変化するので、時間t5以降も最Low変速比に向けた変速比Ivaの変更が継続される。
時間t6において、Revブレーキ34のプリチャージが終了し、Revブレーキ34がトルク伝達を開始する。既に述べたように、初期値Ppri_liminの設定などにより、時間t6では、下限規制値Ppri_limが所定圧P1に達している。この時点で、バリエータ20には、副変速機構30側からイナーシャトルクが入力されるが、本実施形態に係る油圧制御を実施した場合には、プライマリプーリ21の指示圧Ppriが下限規制値Ppri_lim(=P1)に設定されることで高くなっているため、イナーシャトルクが入力された場合でも、ベルトの挟持力が不足することはなく、プライマリプーリ21上でベルト滑りは発生しない。また、エンジントルクTeの上限値Te_limが解除され、エンジントルクTeが徐々に増大される。なお、時間t6以降、プライマリプーリ21の指示圧Ppriは、所定圧P1に保持される。
時間t7において、Revブレーキ34の締結が進行し、タービン回転速度Ntがゼロになると、変速比Ivaがその時点での値に保持される。本実施形態では、変速比Ivaを保持するために必要圧Ppri_neを増大させる。必要圧Ppri_neが下限規制値Ppri_limよりも高くなることで、必要圧Ppri_neがプライマリプーリ21の指示圧Ppriに設定される。
時間t8において、Revブレーキ34の締結が完了すると、下限規制値Ppri_limが解除される。また、エンジントルクTeの上限値Te_limが解除される。
本実施形態では、下限規制値Ppri_limを初期値Ppri_liminから所定勾配ΔPで増加させたが、シフトレバー50がNレンジからRレンジに操作されると同時に初期値Ppri_liminを所定圧P1に設定してもよい。
下限規制値Ppri_limと必要圧Ppri_neとを比較し、高い方をプライマリプーリ21の指示圧Ppriに設定しているため、プライマリプーリ21の指示圧Ppriが必要圧Ppri_neから下限規制値Ppri_limに切り換わる際に、プライマリプーリ21の実圧の変化が低下から増加へと切り換わることにより、実圧にアンダーシュートが生じる場合がある。
これに対し、変形例として、プライマリプーリ21の下限規制値Ppri_limをRレンジへの操作と同時に所定圧P1に設定することで、Rレンジへの操作と同時に下限規制値Ppri_limを必要圧Ppri_neよりも高くすることが可能となる。よって、プライマリプーリ21の指示圧Ppriが必要圧Ppri_neから下限規制値Ppri_limに切り換わる際に問題となる、上記アンダーシュートを抑制することができる。
上記変形例の制御は、下限規制値Ppri_limの初期値Ppri_liminを所定圧P1に設定することで、簡易に実現可能である。そして、アンダーシュートが抑制されることで、Revブレーキ34でトルク伝達が開始する際に、ベルトの挟持力が不足するのをより確実に回避することができる。
なお、上記変形例の油圧制御を行う場合であっても、所定圧P1が、シフトレバー50がRレンジになった時点でのプライマリプーリ21の指示圧Ppri(図5の時間t4での指示圧Ppri)よりも高い場合には、下限規制値Ppri_limをその時点での指示圧Ppriよりも大きな初期値Ppri_liminから所定勾配ΔPで増加させてもよい。これにより、プライマリプーリ21の指示圧Ppriが過度に高くなり、バリエータ20がHigh側に変速するのを防止することができる。
また、別の変形例として、シフトレバー50がRレンジに操作された時点でのプライマリプーリ圧を保持し、操作後のプライマリプーリ圧の低下を禁止してもよい。このような制御は、Rレンジへの操作後、下限規制値Ppri_limを初期値Ppri_liminから増大させる一方、プライマリプーリ21の必要圧Ppri_neを保持することで実現可能である。必要圧Ppri_neが所定圧P1以上であれば、プライマリプーリ21の指示圧Ppriには、常に必要圧Ppri_neが設定される。また、必要圧Ppri_neが所定圧P1よりも低い場合には、下限規制値Ppri_limが増大して必要圧Ppri_neよりも高くなると、プライマリプーリ21の指示圧Ppriに下限規制値Ppri_limが設定される。このような制御によっても、プライマリプーリ21の指示圧Ppriが必要圧Ppri_neから下限規制値Ppri_limに切り換わる際に、プライマリプーリ21の実圧が一定の状態から増加するだけであるため、低下している状態から増加する場合に比べてアンダーシュートを抑制することが可能であり、Revブレーキ34でトルク伝達が開始する際に、ベルトの挟持力が不足するのを抑制することができる。
別の変形例の油圧制御を行う場合であっても、セカンダリプーリ22の指示圧Psecを高くすることで、バリエータ20の変速比Ivaを目標変速比Ivtに向けて制御することができる。
本実施形態により得られる効果について、以下に説明する。
バリエータ20と駆動輪7との間に副変速機構30が設けられた車両において、バリエータ20の変速比Ivaが目標変速比Ivt(最Low変速比)に到達しておらず、依然High側にある状態で、シフトレバー50がDレンジからRレンジに操作された場合に、Rレンジへの切換後のプライマリプーリ21の指示圧Ppriの低下を規制する。これにより、バリエータ20でベルトの挟持力に不足が生じるのを抑制し、Revブレーキ34でトルク伝達が開始し、バリエータ20にイナーシャトルクが入力された場合でも、プライマリプーリ21上でベルト滑りが生じるのを抑制することができる。
Revブレーキ34でトルク伝達が開始し、バリエータ20にイナーシャトルクが入力される場合に、プライマリプーリ21の指示圧Ppriを、必要圧Ppri_neよりも高い下限規制値Ppri_limに設定することで、プライマリプーリ21によるベルトの挟持力を確保し、プライマリプーリ21上でベルト滑りが生じるのを抑制することができる。
副変速機構30側からのイナーシャトルクの入力に対してプライマリプーリ21でベルト滑りが生じない所定圧Pを設定し、非走行レンジから走行レンジ(例えば、Rレンジ)への切換後、下限規制値Ppri_limをこの所定圧P1まで増大させることで、Revブレーキ34でトルク伝達が開始し、バリエータ20にイナーシャトルクが入力された場合でも、プライマリプーリ21上でベルト滑りが生じるのを抑制することができる。
遅くともRevブレーキ34にトルク容量が生じ、Revブレーキ34でトルク伝達が開始するまでにプライマリプーリ圧が所定圧P1に達するように、下限規制値Ppri_limを設定し、プライマリプーリ圧を増加させることで、プライマリプーリ21上でベルト滑りが生じるのをより確実に抑制することができる。
さらに、停車中に限らず、シフトレバー50が走行レンジの間(例えば、RレンジおよびDレンジ)で操作された場合でも、同様にプライマリプーリ21上でのベルト滑りを抑制することができる。シフトレバー50の操作は、同一の走行レンジ間での操作に限らず、異なる走行レンジ間での操作であってよい。例えば、シフトレバー50がDレンジからNレンジを経てDレンジに操作され、Lowブレーキ32の油圧低下によりLowブレーキ32の入出力軸間で回転速度差が発生してから、シフトレバー50がDレンジに戻された場合であってもよく、同様にプライマリプーリ21上でのベルト滑りを抑制することができる。このように、シフトレバー50が走行レンジから非走行レンジを経て走行レンジに操作され、非走行レンジへの操作に連係してバリエータ20の変速比IvaをLow側に変更する場合全般において、プライマリプーリ21上でのベルト滑りを抑制することが可能である。
以上の説明では、車両の駆動源としてエンジン1を用いたが、エンジン1に代えて電動モータを用いてもよく、内燃エンジンと電動モータとを組み合わせて用いてもよい。電動モータは、発動機としての機能のみを有するものであっても、発動機と発電機との機能を兼ねるモータジェネレータであってもよい。
また、本発明が適用される車両は、副変速機構30に代えて前後進切替機構を備える車両であってもよい。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
本願は、2015年9月10日付けで日本国特許庁に出願した特願2015-178428号に基づく優先権を主張し、その出願の全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる。