WO2015147309A1 - 電極用触媒の製造方法、電極用触媒、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極、膜・電極接合体(mea)及び燃料電池スタック - Google Patents
電極用触媒の製造方法、電極用触媒、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極、膜・電極接合体(mea)及び燃料電池スタック Download PDFInfo
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Abstract
Description
従来、PEFC用の電極用触媒について、当該電極用触媒に含まれる塩素含有量が100ppm以上であると、電極用触媒として望ましくないことが開示されている(例えば、特許文献3)。その理由について、電極用触媒に含まれる塩素含有量が100ppm以上であると、燃料電池用の電極用触媒として十分な触媒活性を得ることができないこと、触媒層の腐食が発生し、燃料電池の寿命が短縮してしまうことが開示されている。
このため、特許文献2に記載されたPd/Pt粒子の製造方法は、Pd及びPtを作製する際に使用するイオン交換液として、ハロゲンを含まない化合物をイオン交換液に採用している。特許文献2には、ハロゲンイオンは、電池性能を低下させるため、使用を避けるべきであることが開示されている。また、特許文献2には、脱ハロゲンイオン処理方法として、温水洗浄が例示されている。
上記白金(Pt)又は白金(Pt)合金の粉末の製造方法としては以下の方法が開示されている。すなわち、出発物質として、塩素を含まない白金化合物と塩素を含まない合金化元素の溶融物を形成した後、この溶融物の酸化物を与えるまで加熱し、当該酸化物を冷却後、水に溶解して形成される酸化物を還元するプロセスを経る調製方法が開示されている。
そのため、電極用触媒の開発についても同様の観点からの検討が重要となっており、いわゆるコア・シェル構造を有する電極用触媒(コア・シェル触媒)の検討も行われている(例えば、特許文献4、特許文献5)。このコア・シェル触媒の製造工程においては、原料として金属の塩化物塩が使用される場合が多い。
例えば、特許文献4及び特許文献5にはコア部の構成元素としてパラジウム、シェル部の構成元素として白金を採用した構成のコア・シェル触媒が開示されているが、シェル部の原料として、塩化白金カリウムが例示されている。
このように、コア部の構成元素としてパラジウム、シェル部の構成元素として白金を採用した構成のコア・シェル触媒は、白金(Pt)の塩化物塩、パラジウム(Pd)の塩化物塩などの塩素(Cl)種を含む材料が原料として使用される場合が多い。その理由は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)の塩化物塩が入手容易であり、製造条件の中で取扱容易であり、原料コストが比較的低いからであると考えられる。そのため、コア・シェル触媒の場合、十分な触媒活性を発揮させるために、積極的にハロゲン元素(特に塩素)を含まない化合物を出発原料として採択することで対応することは困難である。
しかしながら、比較的簡便な手法により塩素(Cl)種の含有量を確実かつ十分に低減することができるコア・シェル構造を有する電極用触媒の製造方法は、これまで十分に検討されておらず、未だ改善の余地があった。
さらに、特許文献2には、電極用触媒の原料としてハロゲン化合物を用い、特に脱ハロゲン処理(洗浄)をしていない場合や電極用触媒の原料としてハロゲン化合物を用いていないで、酸、水洗浄をしたこと場合が開示されているに過ぎない。また、100ppm未満の塩素を含有する白金(Pt)等の粉末を含んだ電極用触媒を製造するためには、特許文献3等に開示された塩素を除去する複雑なプロセスを含んだ電極用触媒の製造方法を採用しなければならないという不都合があった。
また、本発明は、上記電極用触媒の製造方法によって得られた電極用触媒と、この電極用触媒を含む、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極、膜・電極接合体(MEA)、及び、燃料電池スタックを提供することを目的とする。
すなわち、本件発明者等は、超純水と蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が比較的高濃度(例えば、6000ppm以上の濃度)の電極用触媒前駆体とを含む液を一定条件下においてろ過洗浄処理することにより、得られる電極用触媒の塩素(Cl)種の含有量を確実かつ十分に低減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
より具体的には、本発明は、以下の技術的事項から構成される。
(1) 担体と、前記担体上に形成されるコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成されるシェル部と、を含むコア・シェル構造を有する電極用触媒の製造方法であって、
工程(1);塩素(Cl)種を含む材料を使用して製造されており、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が予め設定された第1の塩素(Cl)種の濃度以上の電極用触媒前駆体(I)を、超純水に添加して、前記電極用触媒前駆体(I)を超純水に分散させた第1の液を調製する第1の工程と、
工程(2);超純水を用いて、前記第1の液に含まれる前記電極用触媒前駆体(I)をろ過洗浄して、洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体(II)を超純水に分散させて第2の液を調製する第2の工程と、を含む、電極用触媒の製造方法を提供する。
すなわち、本発明の製造方法においては、超純水に電極用触媒前駆体を分散させて得られる液について、予め設定された電気伝導率の設定値以下となるよう洗浄を繰り返すこと、洗浄処理を経て得られるろ物を一旦乾燥させた後に再び超純水に再分散させること、これらの洗浄処理や再分散処理を実施する際の液温を必要に応じて変化させるといった比較的に簡便な操作を組み合わせることにより、生成物である電極用触媒の塩素(Cl)種の含有量を確実かつ十分に低減することができる。
また、本発明によれば、塩素(Cl)種の含有量を確実かつ十分に低減できるので、得られる電極用触媒について、当該塩素(Cl)種の影響により発生する触媒活性の低下を十分に防止することが容易にできる。
さらに、本発明の製造方法は、塩素を除去するための試薬を使用しない条件や、酸などを使用する場合であっても比較的低濃度でかつ超純水で容易に洗浄除去できる条件といった比較的クリーンな条件で電極用触媒の製造を実施することも可能である。そのため、この観点から、本発明の製造方法は、電極用触媒の量産化に適しており、製造コストの低減にも適している。
なお、塩素(Cl)種の濃度は、電極用触媒に含まれる塩素元素に換算された塩素原子の濃度となっている。
(2) 前記第1の塩素(Cl)種の濃度が6000ppmである、(1)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。この第1の塩素(Cl)種の濃度の数値は、後述する比較例の結果により支持されている。
(3) 前記第1の設定値が100μS/cm以下の範囲から選択される値である(1)又は(2)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
(4) 前記第1の工程に供される電極用触媒前駆体(I)が、
工程(P1);塩素(Cl)種を含む材料を使用して製造されており、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が予め設定された第2の塩素(Cl)種の濃度以上の電極用触媒前駆体(PI)を、超純水に添加して、前記電極用触媒前駆体(PI)を超純水に分散させた第P1の液を調製する第P1の工程と、
工程(P2);超純水を用いて、前記第P1の液に含まれる前記電極用触媒前駆体(PI)を洗浄して、洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された第P1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体(PII)を超純水に分散させて第P2の液を調製する第P2の工程と、
工程(P3);前記第P2の液を乾燥する第P3の工程と、を含む前処理を施されているものである、
(1)~(3)いずれか1に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
このように、第P2の工程の後に得られた分散液を第P3の工程において一旦乾燥させ、その後に第1の工程において再び超純水に分散させること(いわゆるリスラリー化すること)により、より確実に電極用触媒前駆体に含まれる塩素(Cl)種を低減できることを本発明者らは見出した。
本発明者らは、第1の工程(更にこれに続く第2の工程)において、電極用触媒前駆体の粉体には、超純水中に分散されて保持されている状態(又はその後に超純水でろ過洗浄されている状態)にあるにもかかわらず、十分に洗浄されていない部分(例えば、粉体の細孔表面のうち、超純水が接触できていない部分)が存在していると考えている。
そして、本発明者らは、第P3の工程において、第P2の工程の後に得られた分散液を一旦乾燥させた上で、得られる電極用触媒前駆体の粉体を第1の工程において超純水を使用してリスラリーすることにより、前の工程で超純水が接触できなかった部分のうちの少なくとも一部が新たに超純水に接触し洗浄されることになると考えている。
(5) 前記第2の塩素(Cl)種の濃度が6000ppmである、(4)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
(6) 予め設定された第P1の設定値が100μS/cm以下の範囲から選択される値である(4)又は(5)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
(7) 工程(3);前記第2の工程の後に得られた前記第2の液を乾燥する第3の工程をさらに含む、(1)~(6)いずれか1に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
(8) 工程(4);前記第3の工程の後に得られた電極用触媒前駆体(III)を超純水に添加し、前記電極用触媒前駆体(III)を超純水に分散させた第3の液を調製する第4の工程をさらに含む、(7)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
このように、第2の工程の後に得られた分散液を第3工程において一旦乾燥させ、その後に第4の工程において再び超純水に分散させること(いわゆるリスラリー化すること)により、より確実に電極用触媒前駆体に含まれる塩素(Cl)種を低減できることを本発明者らは見出した。
すなわち、第P3の工程を経て第1の工程を実施する場合の説明で述べたリスラリー化により得られる効果と同じ効果が得られる。
(9) 工程(5);前記第4の工程の後に、60℃以上かつ沸点以下の超純水を用いて、前記第3の液に含まれる電極用触媒前駆体(III)をろ過洗浄して、洗浄した後に得られるろ液の前記電気伝導率ρが予め設定された第2の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体(IV)を超純水に分散させた第4の液を調製する第5の工程と、
工程(6);前記第4の液を乾燥する第6の工程を含む、(8)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
(10) 前記第2の設定値が100μS/cm以下の範囲から選択される値である(9)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
(11) 工程(7);前記工程(5)と前記工程(6)の乾燥工程との間に、
前記第4の液を60℃以上かつ沸点以下の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度でかつ予め設定された保持時間で保持する第7の工程をさらに含む、(9)又は(10)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
(12) 工程(1’);前記第1の工程前に電極用触媒前駆体(I0)を、超純水に硫酸及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸を添加した水溶液に分散させて、10~95℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度でかつ予め設定された保持時間で保持する工程をさらに含む、(1)~(11)いずれか1に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
(13) 前記シェル部には、白金(Pt)及び白金(Pt)合金のうちの少なくとも1種の金属が含有されており、
前記コア部には、パラジウム(Pd)、パラジウム(Pd)合金、白金(Pt)合金、金(Au)、ニッケル(Ni)、及びニッケル(Ni)合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属が含まれている、(1)~(12)いずれか1に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
(14) 前記シェル部を構成する金属の原料として、白金(Pt)塩化物が使用されている、(13)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
(15) 前記シェル部が、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成される第1シェル部と、当該第1シェル部の表面の少なくとも一部を覆うように形成される第2シェル部と、を有している、(1)~(14)のいずれか1に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
(16) 前記第2シェル部を構成する金属の原料として、白金(Pt)塩化物が使用されている(15)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
(17) (1)~(16)のいずれか1に記載の電極用触媒の製造方法により得られた電極用触媒を提供する。
(18) (1)~(16)のいずれか1に記載の電極用触媒の製造方法により得られた電極用触媒が含有されている、ガス拡散電極形成用組成物を提供する。
(19) (1)~(16)のいずれか1に記載の電極用触媒の製造方法により得られた電極用触媒が含有されている、ガス拡散電極を提供する。
(20) (19)に記載のガス拡散電極が含まれている、膜・電極接合体(MEA)を提供する。
(21) (20)に記載の膜・電極接合体(MEA)が含まれている、燃料電池スタックを提供する。
すなわち、本発明の製造方法においては、超純水に電極用触媒前駆体を分散させて得られる液について、予め設定された電気伝導率の設定値以下となるよう洗浄を繰り返すこと、洗浄処理を経て得られるろ物を一旦乾燥させた後に再び超純水に再分散させること、これらの洗浄処理や再分散処理を実施する際の液温を必要に応じて変化させるといった比較的に簡便な操作を組み合わせることにより、生成物である電極用触媒の塩素(Cl)種の含有量を確実かつ十分に低減することができる。
また、本発明によれば、塩素(Cl)種の含有量を確実かつ十分に低減できるので、得られる電極用触媒について、当該塩素(Cl)種の影響により発生する触媒活性の低下を十分に防止することが容易にできる電極用触媒の製造方法が提供できる。
さらに、本発明によれば、塩素を除去するための試薬を使用しない条件や、酸などを使用する場合であっても比較的低濃度でかつ超純水で容易に洗浄除去できる条件といった比較的クリーンな条件で電極用触媒の製造を実施することも可能である。そのため、本発明の製造方法は、電極用触媒の量産化に適しており、製造コストの低減にも適した電極用触媒の製造方法が提供できる。
また、本発明よれば、上記電極用触媒の製造方法によって得られる塩素(Cl)種の濃度が十分に低減された電極用触媒、当該電極用触媒を含む、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極、膜・電極接合体(MEA)、及び、燃料電池スタックを提供することができる。
<電極用触媒の製造方法>
本発明の電極用触媒の製造方法は、工程(1);塩素(Cl)種を含む材料を使用して製造されており、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が予め設定された第1の塩素(Cl)種の濃度(例えば、6000ppm以上の濃度)の電極用触媒前駆体(I)を、超純水に添加して、この電極用触媒前駆体(I)を超純水に分散させた第1の液を調製する第1の工程と、工程(2);超純水を用いて、前記第1の液に含まれる前記電極用触媒前駆体(I)をろ過洗浄して、洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体(II)を超純水に分散させて第2の液を調製する第2の工程と、を含むことを特徴とする。
本発明の電極用触媒の製造方法は、第1の工程を含む。第1の工程において、超純水、所定の電極用触媒前駆体を含む、第1の液を調製する。
本発明の電極用触媒の製造方法が含む、第1の工程において使用される「超純水」は、以下の一般式(1)で表される比抵抗R(JIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率の逆数)が3.0MΩ・cm以上である水である。また、「超純水」はJISK0557「用水・排水の試験に用いる水」に規定されている「A3」のに相当する水質又はそれ以上の清浄な水質を有していることが好ましい。
上記超純水は、下記一般式(1)で表される関係を満たす電気伝導率を有している水であれば、特に限定されない。例えば、上記超純水として、超純水製造装置「Milli-Qシリーズ」(メルク株式会社製)、「Elix UVシリーズ」(日本ミリポア株式会社製)を使用して製造される超純水を挙げることができる。なお、第1の工程において、上記超純水を使用することにより、電極用触媒に塩素(Cl)種等の不純物が含まれないことになるため好ましい。
第1の工程において使用される電極用触媒前駆体(I)は、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が予め設定された第1の塩素(Cl)種の濃度(例えば、6000ppm)以上という条件を満たしている。上記電極用触媒前駆体(I)に含まれている塩素(Cl)種は、電極用触媒の原料となる触媒成分及び処理液に由来する。
従来採用されている塩素(Cl)種を含む材料を使用した電極用触媒の製造方法により得られる電極用触媒は、特に塩素(Cl)種の除去を施さない限りは、通常、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が第1の塩素(Cl)種の濃度以上の比較的高濃度(例えば、第1の塩素(Cl)種の濃度が6000ppm)となっている。本発明者らの検討によれば、従来採用されている塩素(Cl)種を含む材料を使用した電極用触媒の製造方法により得られる電極用触媒(本発明においては電極用触媒前駆体)は、上記分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が6000ppm以上となっている(後述の比較例の結果を参照)。
すなわち、第1の工程において使用される電極用触媒前駆体(I)は、従来採用されている電極用触媒の製造方法により得られる電極用触媒に相当する。
電極用触媒前駆体の製造方法は、担体2に電極用触媒1の触媒成分を担持させることができる方法であれば、特に制限されるものではない。
例えば、担体2に電極用触媒1の触媒成分を含有する溶液を接触させ、担体2に触媒成分を含浸させる含浸法、電極用触媒1の触媒成分を含有する溶液に還元剤を投入して行う液相還元法、アンダーポテンシャル析出(UPD)法等の電気化学的析出法、化学還元法、吸着水素による還元析出法、合金触媒の表面浸出法、置換めっき法、スパッタリング法、真空蒸着法等を採用した製造方法を例示することができる。
本発明の電極用触媒の製造方法は、第2の工程を含む。第2の工程において、第1の液に含まれる電極用触媒前駆体(I)を、超純水を用いて洗浄し、電極用触媒前駆体(II)を含む第2の液を調製する。第2の工程は、超純水を用いて、第1の工程で調製した第1の液に含まれる電極用触媒前駆体(I)をろ過洗浄する。第2工程において、第1の液をろ過洗浄することにより、電極用触媒前駆体(I)に含まれる塩素(Cl)種が除去される。その結果、電極用触媒前駆体(I)の塩素(Cl)種に含まれる濃度は、大きく減少する。
第1の設定値は、電極用触媒前駆体(I)に含まれる塩素(Cl)種の濃度の基準となっている。洗浄した後に得られるろ液の電気伝導率ρが第1の設定値以下であるか否かを判断することによって、電極用触媒前駆体(I)に含まれる塩素(Cl)種の濃度が低減できているか否かを判断することができる。
本発明の電極用触媒の製造方法においては、第1の工程に供される電極用触媒前駆体(I)として、以下の工程(P1)~工程(P3)を含む「前処理工程」を経由して得られた電極用触媒前駆体(I)を採用してもよい。図2は、前処理工程の好適な一実施形態の各操作を示したフローチャートである。
工程(P2);超純水を用いて、前記第P1の液に含まれる前記電極用触媒前駆体(PI)を洗浄して、洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された第P1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体(PII)を超純水に分散させて第P2の液を調製する第P2の工程と、
工程(P3);前記第P2の液を乾燥する工程を含む。
このように本発明の電極用触媒の製造方法において、第1の塩素(Cl)種の濃度及び第2の塩素(Cl)種の濃度は、電極用触媒前駆体に含まれている塩素(Cl)種の濃度、製造プロセスに応じて予め設定される。
ただし、先に述べたリスラリーの効果により、前処理工程よりも第1工程(及び第2工程)において、洗浄により除去される塩素(Cl)種の量が増え、塩素(Cl)種の濃度が大きくなる場合には、第1の設定値が第P1の設定値よりも高く設定される場合もある。
また、先に述べたように、第P2の工程の後に得られた分散液を第P3の工程において一旦乾燥させ、その後に第1の工程において再び超純水に分散させること(いわゆるリスラリー化すること)により、より確実に電極用触媒前駆体に含まれる塩素(Cl)種を低減できる。
本発明の電極用触媒の製造方法は、第3の工程を含む。第3の工程は、第2の工程の後に得られた第2の液を乾燥する工程である。第2の液を乾燥する条件は、第2の液に含まれている電極用触媒を得ることができる乾燥温度及び乾燥時間を備えていれば特に制限されない。例えば、乾燥温度は、20~90℃であり、乾燥時間は、0.5~48.0時間である。
図3は、第4の工程~第6の工程を含んだ電極用触媒の製造方法の好適な一実施形態を示したフローチャートである。図3に示されたように、本発明の電極用触媒の製造方法は、第4の工程を含む。第4の工程においては、第3の工程の後に得られた電極用触媒を電極用触媒前駆体(II)とみなす。そして、第4の工程においては、電極用触媒前駆体(II)を超純水に添加することにより、第3の液を調製する。上記電極用触媒前駆体(II)に含まれている塩素(Cl)種は、超純水と接触することにより除去される。電極用触媒前駆体(II)の塩素(Cl)種の濃度は、さらに低下する。第4の工程により得られた電極用触媒前駆体を電極用触媒前駆体(III)とする。
また、先に述べたように、第2の工程の後に得られた分散液を第3の工程において一旦乾燥させ、その後に第4の工程において再び超純水に分散させること(いわゆるリスラリー化すること)により、より確実に電極用触媒前駆体に含まれる塩素(Cl)種を低減できる。
本発明の電極用触媒の製造方法は、第5の工程を含む。第5の工程では、第4の工程の後に、60℃以上かつ沸点以下の超純水を用いて、第3の液に含まれる電極用触媒(III)がろ過洗浄される。上記電極用触媒(III)に含まれている塩素(Cl)種は、60℃以上かつ沸点以下の超純水と接触することにより、除去される。第5の工程においては、超純水として60℃以上かつ沸点以下の超純水を用いているため、上記電極用触媒(III)に含まれている塩素(Cl)種をより効果的に除去することができる。
本発明の電極用触媒の製造方法は、第6の工程を含む。第6の工程は、第4の液を乾燥することによって、電極用触媒前駆体(IV)を得る工程である。得られた電極用触媒前駆体(IV)は、電極用触媒として使用される。
図4は、第4の工程~第7の工程を含んだ電極用触媒の製造方法の好適な一実施形態を示したフローチャートである。図4に示されたように、本発明の電極用触媒の製造方法は、第7の工程を含む。第7の工程は、第5の工程と第6の工程との間に、第4の液を所定温度、所定時間にて保持する工程を含む。第4の液は、60℃以上かつ沸点以下(好ましくは80~95℃)の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度により、保持される。第4の液を60℃以上かつ沸点以下(好ましくは80~95℃)の範囲にて保持することにより電極用触媒前駆体(IV)に含まれる上記塩素(Cl)種が効果的に除去される。上記設定温度は、多段階に設定されていてもよい。設定温度を多段階にすることにより、電極用触媒前駆体(IV)に含まれる上記塩素(Cl)種の除去量を制御することができる。
本発明の電極用触媒の製造方法は、酸処理工程である第1’の工程を含む。第1’の工程は、第1の工程前に行われる。第1’の工程においては、電極用触媒前駆体(I)に換えて、電極用触媒前駆体(I0)を用いる。この電極用触媒前駆体(I0)を超純水に硫酸及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸を添加した水溶液に分散させて第1’の液を調製する。さらに、この第1’の液を10~95℃(好ましくは20~90℃)の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度でかつ予め設定された保持時間で保持する。
図6は、本発明の電極用触媒の製造方法によって得られた電極用触媒1(コア・シェル触媒)の好適な一形態を示す模式断面図である。
図6に示されるように電極用触媒の製造方法によって得られた電極用触媒1は、担体2と担体2上に担持された、いわゆる「コア・シェル構造」を有する触媒粒子3を含んでいる。触媒粒子3は、コア部4と、コア部4の表面の少なくとも一部を被覆するように形成されたシェル部5とを備えている。触媒粒子3はコア部4とコア部4上に形成されるシェル部5とを含むいわゆる「コア・シェル構造」を有する。
すなわち、電極用触媒1は、担体2に担持された触媒粒子3を有しており、この触媒粒子3は、コア部4を核(コア)とし、シェル部5がシェルとなってコア部4の表面を被覆している構造を備えている。
また、コア部4の構成元素(化学組成)と、シェル部5の構成元素(化学組成)は異なる構成となっている。
例えば、本発明の効果をより確実に得る観点からは、図6に示すように、電極用触媒1は、シェル部5によってコア部4の表面の略全域が被覆された状態であることが好ましい。
また、本発明の効果を得られる範囲において、電極用触媒1は、シェル部5によってコア部4の表面の一部が被覆され、コア部4の表面が部分的に露出した状態であってもよい。
すなわち、本発明において、電極用触媒は、コア部の表面の少なくとも一部にシェル部が形成されていればよい。
図7に示されるように、本発明の電極用触媒1Aは、コア部4と、コア部4の表面の一部を被覆するシェル部5a及びコア部4の他の表面の一部を被覆するシェル部5bから構成されている触媒粒子3aを有している。
図7に示された電極用触媒1Aが含んでいる触媒粒子3aにおいて、シェル部5aによっても、シェル部5bによっても被覆されていないコア部4が存在する。このようなコア部4が、コア部露出面4sとなる。
すなわち、図7に示されるように、本発明の効果を得ることができる範囲において、電極用触媒1Aが含んでいる触媒粒子3aは、コア部4の表面が部分的に露出した状態(例えば、図7に示されたコア部4の表面の一部である4sが露出した状態)であってもよい。
別の表現をすれば、図7に示された電極用触媒1Aのように、コア部4の表面の一部にシェル部5a、他の表面の一部にシェル部5bがそれぞれ部分的に形成されていてもよい。
図8に示されるように、本発明の電極用触媒1Bは、コア部4と、コア部4の表面の略全域を被覆するシェル部5から構成されている触媒粒子3を有している。
シェル部5は、第1シェル部6と第2シェル部7とを備えた二層構造であってもよい。すなわち、触媒粒子3は、コア部4とコア部4上に形成されるシェル部5(第1シェル部6及び第2シェル部7)とを含む、いわゆる「コア・シェル構造」を有する。
電極用触媒1Bは、担体2に担持された触媒粒子3を有し、触媒粒子3がコア部4を核(コア)とし、第1シェル部6及び第2シェル部7がシェル部5となってコア部4の表面の略全域が被覆されている構造を有している。
なお、コア部4の構成元素(化学組成)と、第1シェル部6の構成元素(化学組成)と、第2シェル部7の構成元素(化学組成)とは、それぞれ異なる構成となっている。
また、本発明の電極用触媒1Bが備えているシェル部5は、第1シェル部6、第2シェル部7に加えて、さらに別のシェル部を備えているものであってもよい。
本発明の効果をより確実に得る観点からは、図8に示すように、電極用触媒1Bは、シェル部5によってコア部4の表面の略全域が被覆された状態であることが好ましい。
図9に示されるように、本発明の電極用触媒1Cは、コア部4と、コア部4の表面の一部を被覆するシェル部5a、及びコア部4の他の表面の一部を被覆するシェル部5bから構成されている触媒粒子3aを有している。
シェル部5aは、第1シェル部6aと第2シェル部7aとを備えた二層構造であってもよい。
また、シェル部5bは、第1シェル部6bと第2シェル部7bとを備えた二層構造であってもよい。
すなわち、触媒粒子3aは、コア部4と、コア部4上に形成されるシェル部5a(第1シェル部6a及び第2シェル部7a)と、コア部4上に形成されるシェル部5b(第1シェル部6b及び第2シェル部7b)と、を含む、いわゆる「コア・シェル構造」を有する。
図9に示された触媒粒子3aを構成するシェル部5bにおいて、第2シェル部7bよって被覆されていない第1シェル部6bが存在する。第2シェル部7bよって被覆されていない第1シェル部6bが第1シェル部露出面6sとなる。
図9に示されるように触媒粒子3aを構成するシェル部5aにおいて、第1シェル部6aの略全域が第2シェル部7aによって被覆された状態であることが好ましい。
また、図9に示されるように本発明の効果を得られる範囲において、触媒粒子3aを構成するシェル部5bにおいて、第1シェル部6bの表面の一部が被覆され、第1シェル部6bの表面が部分的に露出した状態(例えば、図9に示された第1シェル部6bの表面の一部6sが露出した状態)であってもよい。
具体的には、本発明の電極用触媒は、本発明の効果を得られる範囲において、図6及び7に示した電極用触媒1、1Aと、図8及び9に示した電極用触媒1B、1Cとが混在した状態であってもよい。
更に、本発明の電極用触媒は、本発明の効果を得られる範囲において、図9に示されるように同一のコア部4に対し、シェル部5aとシェル部5bとか混在した状態であってもよい。
更に、本発明の電極用触媒は、本発明の効果を得られる範囲において、同一のコア部4に対し、シェル部5aのみが存在する状態であってもよく、同一のコア部4に対し、シェル部5bのみが存在する状態であってもよい(いずれの状態も図示せず)。
また、本発明の効果を得られる範囲において、本発明の電極用触媒には、担体2上に、上記電極用触媒1、1A、1B、1Cの少なくとも1種に加えて、「コア部4がシェル部5によって被覆されていないコア部のみからなる粒子」が担持された状態が含まれていてもよい(図示せず)。
更に、本発明の効果を得られる範囲において、本発明の電極用触媒には、上記電極用触媒1、1A、1B、1Cの少なくとも1種に加えて「シェル部5の構成元素のみからなる粒子」がコア部4に接触しない状態で担体2に担持された状態が含まれていてもよい(図示せず)。
また、本発明の効果を得られる範囲において、本発明の電極用触媒には、上記電極用触媒1、1A、1B、1Cの少なくとも1種に加えて「シェル部5に被覆されていないコア部4のみの粒子」と、「シェル部5の構成元素のみからなる粒子」とが、それぞれ独立に担体2に担持された状態が含まれていてもよい。
シェル部5の厚さ(コア部4との接触面から当該シェル部5の外表面までの厚さ)については、電極用触媒の設計思想によって好ましい範囲が適宜設定される。
例えば、シェル部5を構成する金属元素(例えば白金など)の使用量を最小限にすることを意図している場合には、シェル部5の厚さは、当該シェル部5を構成する金属元素が1種類の場合には、この金属元素の1原子の直径(球形近似した場合)の2倍に相当する厚さであることが好ましい。また、当該シェル部5を構成する金属元素が2種類以上の場合には、1原子で構成される層(2種類以上の原子がコア部4の表面に並置されて形成される1原子層)に相当する厚さであることが好ましい。
また、例えば、シェル部5の厚さをより大きくすることにより耐久性の向上を図る場合には、1~10nmが好ましく、2~5nmがより好ましい。
例えば、第2シェル部7に含まれる金属元素である白金(Pt)等の貴金属の使用量を最小限にすることを意図している場合には、第2シェル部7は、1原子で構成される層(1原子層)であることが好ましい。この場合には、第2シェル部7の厚さは、当該第2シェル部7を構成する金属元素が1種類の場合には、当該金属元素の1原子の直径(1原子を球形とみなした場合)の約2倍に相当する厚さであることが好ましい。
また、第2シェル部7に含まれる金属元素が2種類以上である場合には、当該第2シェル部7は、1種類以上の原子で構成される層(2種類以上の原子がコア部4の表面方向に並置されて形成される1原子層)に相当する厚さであることが好ましい。例えば、第2シェル部7の厚さをより大きくすることにより、電極用触媒の耐久性を向上させることを図る場合には、当該第2シェル部7の厚さを1.0~5.0nmとすることが好ましい。電極用触媒の耐久性をさらに向上させることを図る場合には、当該第2シェル部7の厚さを2.0~10.0nmとすることが好ましい。
なお、本発明において「平均粒子径」とは、電子顕微鏡写真観察による、任意の数粒子群からなる粒子の直径の平均値のことをいう。
図6、7に示された電極用触媒1、1Aのように、シェル部5が上記二層構造ではなく、一層構造を採用する場合には、コア部4に貴金属を採用することもできる。上記電極用触媒1、1Aが有している触媒粒子3、3aを構成するコア部4には、パラジウム(Pd)、パラジウム(Pd)合金、白金(Pt)合金、金(Au)、ニッケル(Ni)、及びニッケル(Ni)合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属が含まれている。
具体的には、コア部4には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)以外の金属元素を含む金属、金属化合物、及び金属と金属化合物との混合物であることが好ましく、貴金属以外の金属元素を含む金属、金属化合物、及び金属と金属化合物との混合物であることがより好ましい。
電極用触媒1B、1Cの触媒活性をより高く、容易に得る観点からは、第1シェル部6は、パラジウム(Pd)単体を主成分(50wt%以上)として構成されていることがより好ましく、パラジウム(Pd)単体のみから構成されていることがより好ましい。
第2シェル部7は、白金(Pt)及び白金(Pt)合金のうちの少なくとも1種の金属が含まれていることが好ましく、白金(Pt)単体が含まれていることがより好ましい。
電極用触媒1B、1Cの触媒活性をより高く、容易に得る観点からは、第2シェル部7は、白金(Pt)単体を主成分(50wt%以上)として構成されていることが好ましく、白金(Pt)単体のみから構成されていることがより好ましい。
本発明の電極用触媒の製造方法によって得られた電極用触媒は、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が6000ppm以上である電極用触媒前駆体を用いた場合であっても、電極用触媒の製造方法の少なくとも工程(1)及び工程(2)を経由することにより、上記塩素(Cl)種の濃度が低減される点に技術的特徴を有する。
さらに、本発明の電極用触媒の製造方法は、前処理工程を経れば、電極用触媒の原料として、塩素(Cl)種の濃度がより低減された電極用触媒前駆体を使用することができる。
ここで、本発明の電極用触媒の製造方法は、電極用触媒の原料として、塩素(Cl)種の濃度が6000ppm未満の電極用触媒前駆体であっても使用することができる。塩素(Cl)種の濃度がより低い電極用触媒前駆体を使用すれば、塩素(Cl)種を除去するための作業や使用する超純水の使用量が削減できるため好ましい。
蛍光X線(XRF)分析法は、例えば以下のように実行される。
(1)測定装置
・波長分散型全自動蛍光X線分析装置Axios(アクシオス)(スペクトリス株式会社製)
(2)測定条件
・解析ソフト:「UniQuant5」(FP(four peak method)法を用いた半定量ソフト)
・XRF測定室雰囲気:ヘリウム(常圧)
(3)測定手順
(i)試料を入れた試料容器をXRF試料室に入れる。
(ii)XRF試料室内をヘリウムガスで置換する。
(iii)ヘリウムガス雰囲気(常圧)下、測定条件を、解析ソフト「UniQuant5」を使用するための条件である、「UQ5アプリケーション」に設定し、サンプルの主成分が「カーボン(担体の構成元素)」、サンプルの分析結果の表示形式が「元素」となるよう計算するモードに設定する。
図10は本発明の電極用触媒を含むガス拡散電極形成用組成物、このガス拡散電極形成用組成物を用いて製造されたガス拡散電極、このガス拡散電極を備えた膜・電極接合体(MEA)、及びこの膜・電極接合体(MEA)を備えた燃料電池スタックの好適な一実施形態を示す模式図である。
図10に示された燃料電池スタックSは、膜・電極接合体(MEA)400を一単位セルとし、この一単位セルを複数積み重ねた構成を有している。
また、燃料電池スタックSは、この膜・電極接合体(MEA)がセパレータ100a及びセパレータ100bにより挟持された構成を有している。
上記電極用触媒1をいわゆる触媒インク成分として用い、本発明のガス拡散電極形成用組成物とすることができる。本発明のガス拡散電極形成用組成物は、上記電極用触媒が含有されていることを特徴とする。ガス拡散電極形成用組成物は上記電極用触媒とイオノマー溶液を主要成分とする。イオノマー溶液は、水とアルコールと水素イオン伝導性を有する高分子電解質とを含有する。
本発明のガス拡散電極(200a、200b)は、ガス拡散層220とガス拡散層220の少なくとも一面に積層された電極用触媒層240とを備えている。ガス拡散電極(200a、200b)が備えている電極用触媒層240には、上記電極用触媒1が含まれている。なお、本発明のガス拡散電極200は、アノードとして用いることができ、カソードとしても用いることができる。
なお、図10においては、便宜上、上側のガス拡散電極200をアノード200aとし、下側のガス拡散電極200をカソード200bとする。
電極用触媒層240は、アノード200aにおいて、ガス拡散層220から送られた水素ガスが電極用触媒層240に含まれている電極用触媒1の作用により水素イオンに解離する化学反応が行われる層である。また、電極用触媒層240は、カソード200bにおいて、ガス拡散層220から送られた空気(酸素ガス)とアノードから電解質膜中を移動してきた水素イオンが電極用触媒層240に含まれている電極用触媒1の作用により結合する化学反応が行われる層である。
ガス拡散電極200が備えているガス拡散層220は、燃料電池スタックSの外部より、セパレータ100aとガス拡散層220aとの間に形成されているガス流路に導入される水素ガス、セパレータ100bとガス拡散層220bとの間に形成されているガス流路に導入される空気(酸素ガス)をそれぞれの電極用触媒層240に拡散するために設けられている層である。また、ガス拡散層220は、電極用触媒層240をガス拡散電極200に支持して、ガス拡散電極200表面に固定化する役割を有している。ガス拡散層220は、電極用触媒層240に含まれる電極用触媒1と水素ガス、空気(酸素ガス)との接触を高める役割を有している。
ガス拡散電極の製造方法について説明する。
ガス拡散電極の製造方法は、触媒成分が担体に担持されてなる電極用触媒1と水素イオン伝導性を有する高分子電解質と、水とアルコールとのイオノマー溶液を含有するガス拡散電極形成用組成物をガス拡散層220に塗布する工程と、このガス拡散電極形成用組成物が塗布されたガス拡散層220を乾燥させ、電極用触媒層240を形成させる工程とを備える。
本発明の膜・電極接合体400(Membrane Electrode Assembly:以下、MEAと略する。)は、上記電極用触媒1を用いたガス拡散電極200であるアノード200aとカソード200bとこれらの電極を仕切る電解質300を備えている。膜・電極接合体(MEA)400は、アノード200a、電解質300及びカソード200bをこの順序により積層した後、圧着することにより製造することができる。
本発明の燃料電池スタックSは、得られた膜・電極接合体(MEA)400のアノード200aの外側にセパレータ100a(アノード側)を取り付け、カソード200bの外側にそれぞれセパレータ100b(カソード側)を取り付け、一単位セル(単電池)とする。そして、この一単位セル(単電池)を集積させて燃料電池スタックSとする。なお、燃料電池スタックSに周辺機器を取り付け、組み立てることにより、燃料電池システムが完成する。
なお、本発明者らは、実施例及び比較例に示す触媒について、蛍光X線(XRF)分析法ではヨウ素(I)種が検出されないことを確認した。
また、以下の製造方法の各工程の説明において特にことわりない場合には、その工程は室温、空気中で実施した。
(製造例1)
本発明の電極用触媒の製造方法により、電極用触媒を以下のプロセスにより製造した。なお、製造例において、使用した電極用触媒の原料は、以下の通りである。
・カーボンブラック粉末:商品名「Ketjen Black EC300」(ケッチェンブラックインターナショナル社製)
・テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム
・硝酸パラジウム
・塩化白金酸カリウム
電極用触媒の担体として、カーボンブラック粉末を用い、水に分散させて、5.0g/Lの分散液を調製した。この分散液に、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム水溶液(濃度20質量%)5mLを滴下して混合した。得られた分散液に、ぎ酸ナトリウム水溶液(100g/L)100mLを滴下した後、不溶成分を濾別し、濾別された不溶成分を純水で洗浄し、乾燥することにより、カーボンブラック上にパラジウムが担持されたパラジウム(コア)担持カーボンを得た。
50mMの硫酸銅水溶液を、三電極系電解セルに入れた。この三電極系電解セルに上記で調製したパラジウム担持カーボンを適量加え、攪拌後静置した。静止状態で450mV(対 可逆水素電極)を作用電極に印加し、パラジウム担持カーボンのパラジウム上に銅(Cu)を一様に被覆した。これを銅-パラジウム担持カーボンとする。
銅がパラジウム上に被覆された銅-パラジウム担持カーボンを含む液に、被覆された銅に対して、物質量比で2倍相当の白金(Pt)を含む塩化白金酸カリウム水溶液を滴下することにより、上記銅-パラジウム担持カーボンの銅(Cu)を白金(Pt)に置換した。
工程(P1):上述のようにして得られた銅-パラジウム担持カーボンの銅(Cu)が白金(Pt)に置換された白金パラジウム担持カーボンの粒子の粉体を乾燥させずに超純水に分散させた第P1の液を調製した。
工程(P2):次に、第P1の液をろ過装置を使用し、超純水でろ過洗浄した。洗浄後に得られるろ液の電気伝導率が10μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体を超純水に分散させて、電極用触媒前駆体-超純水分散液(I)を得た。
工程(P3):次に、該分散液(I)をろ過し、得られたろ物を70℃、空気中で約24時間乾燥させた。これにより、製造例1で得られた電極用触媒前駆体1を得た。
電極用触媒に含まれる白金(Pt)及びパラジウム(Pd)の担持量が表2の実施例5、比較例2、比較例3及び比較例4に記載された濃度(質量%濃度)となった以外は、製造例1と同様にして、それぞれ製造例2~5の電極用触媒前駆体2~5を得た。
なお、後述するように、電極用触媒前駆体1~5について、XRF分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度は、表2に記載するように6000ppm以上であることが確認された。
これにより以下の実施例においては、原料の電極用触媒前駆体の第1の塩素(Cl)種の濃度は6000ppmとなる。
(実施例1)
[第1の工程]
得られた前処理済の電極用触媒前駆体1を5.0g量りとり、容器に入れた。次に、当該容器に超純水1000mLを加え、前処理済の電極用触媒前駆体1をリスラリーし、得られた水性分散液を室温(25℃)に保ち、撹拌しながら約240分間保持した。
[第2~3の工程]
超純水を用いて、前記分散液に含まれる不溶成分を濾別し、そして洗浄した。洗浄後に得られるろ液の電気伝導率が10μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体を超純水に分散させて、電極用触媒前駆体-超純水分散液(ii)を得た。
該分散液(ii)をろ過し、得られたろ物を温度70℃、空気中、約24時間の条件下で乾燥し、電極用触媒を得た。実施例1で得られた電極用触媒を触媒1とした。
得られた触媒1について、白金と、パラジウムの担持量(質量%)を以下の方法で測定した。
触媒1を王水に浸し、金属を溶解させた。次に、王水から不溶成分のカーボンを除去した。次に、カーボンを除いた王水をICP分析した。
ICP分析の結果は、白金担持量が20.9質量%、パラジウム担持量が22.5質量%であった。
[第4の工程]
製造例1で得られた触媒1を5.0g量りとり、容器に入れた。次に、当該容器に超純水1000(mL)を加え、触媒1をリスラリーして得られた水性分散液を室温(25℃)に保ち、撹拌しながら240分間保持した。
[第5~6の工程]
第2の工程における洗浄に用いる超純水の温度を80℃とした以外は実施例1の第2~3の工程と同様にして、電極用触媒を得た。実施例2で得られた電極用触媒を触媒2とした。
触媒2について、実施例1と同様のICP分析を行い、表2に示す白金担持量、パラジウム担持量を測定した。
実施例2において、第5の工程と第6の工程との間に、第5の工程で得られた電極用触媒-超純水分散液(iv)を90℃で約240分間保持する第7の工程を行った以外は実施例2と同様にして、電極用触媒を得た。実施例3で得られた電極用触媒を触媒3とした。
触媒3について、実施例1と同様のICP分析を行い、表2に示す白金担持量、パラジウム担持量を測定した。
実施例1において、第1の工程の前に電極用触媒前駆体1を0.05Mの硫酸水溶液中で室温(25℃)に保ち、撹拌しながら約60分間保持した。
上記の処理後に得られるろ液の電気伝導率が10μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返し、得られたろ物を超純水に分散させた。
次に、該分散液をろ過し、得られたろ物を70℃、空気中で約24時間乾燥させた。
上記の工程以外は実施例1と同様にして、電極用触媒を得た。実施例4で得られた電極用触媒を触媒4とした。
触媒4について、実施例1と同様のICP分析を行い、表2に示す白金担持量、パラジウム担持量を測定した。
実施例5においては、電極用触媒前駆体1の代わりに電極用触媒前駆体2を使用し、以下の手順で電極用触媒を調製した。すなわち、実施例1において、第1の工程の前に電極用触媒前駆体2を1.0Mの硫酸水溶液中で室温(25℃)に保ち、撹拌しながら約60分間保持した。
上記の処理後に得られるろ液の電気伝導率が10μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返し、得られたろ物を超純水に分散させた。
次に、該分散液をろ過し、得られたろ物を70℃、空気中で約24時間乾燥させた。
その後90℃のシュウ酸水溶液(0.3M)で処理した。
上記の処理後に得られるろ液の電気伝導率が10μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返し、得られたろ物を超純水に分散させた。
次に、該分散液をろ過し、得られたろ物を70℃、空気中で約24時間乾燥させた。
上記工程以外は実施例1と同様にして、電極用触媒を得た。実施例5で得られた電極用触媒を触媒5とした。
触媒5について、実施例1と同様のICP分析を行い、表2に示す白金担持量、パラジウム担持量を測定した。
製造例1、3、4、5で製造された各電極用触媒前駆体1、3、4、5をそれぞれ比較例1~4の電極用触媒とした。
(塩素(Cl)種の濃度)
実施例1~5、及び比較例1~4で得られた電極用触媒の塩素(Cl)種の濃度を蛍光X線(XRF)分析法により測定した。電極用触媒中の塩素種濃度の測定は、波長分散型蛍光X線測定装置Axios(スペクトリス株式会社製)により測定した。具体的には、以下の手順により行った。
なお、表2に示すように、電極用触媒前駆体2については塩素(Cl)種の含有量は未測定であるが、他の電極用触媒前駆体1、3、4とPt担持量及びPd担持量以外の条件は全て同様する手法で調製されているので、電極用触媒前駆体1、3、4(比較例1、2、3)と同等の水準の数値を有していると容易に推察される。
これらの結果は、本発明の電極用触媒の製造方法が量産化に適しており、製造コストの低減に適した製造方法であることを示している。
1A 電極用触媒
1B 電極用触媒
1C 電極用触媒
2 担体
3 触媒粒子
3a 触媒粒子
4 コア部
4s コア部露出面
5 シェル部
6 第1シェル部
6s 第1シェル部露出面
7 第2シェル部
S 燃料電池スタック
100 セパレータ
100a セパレータ(アノード側)
100b セパレータ(カソード側)
200 ガス拡散電極
200a ガス拡散電極(アノード)
200b ガス拡散電極(カソード)
220 ガス拡散層
240 電極用触媒層
300 電解質
400 膜・電極接合体(MEA)
また、本発明の電極用触媒の製造方法は、製造プロセスの簡略化及び製造コストを低減させることができる。
従って、本発明は、燃料電池、燃料電池自動車、携帯モバイル等の電機機器産業のみならず、エネファーム、コジェネレーションシステム等に適用することができる電極用触媒の製造方法であり、エネルギー産業、環境技術関連の発達に寄与する。
Claims (21)
- 担体と、前記担体上に形成されるコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成されるシェル部と、を含むコア・シェル構造を有する電極用触媒の製造方法であって、
工程(1);塩素(Cl)種を含む材料を使用して製造されており、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が予め設定された第1の塩素(Cl)種の濃度以上の電極用触媒前駆体(I)を、超純水に添加して、前記電極用触媒前駆体(I)を超純水に分散させた第1の液を調製する第1の工程と、
工程(2);超純水を用いて、前記第1の液に含まれる前記電極用触媒前駆体(I)をろ過洗浄して、洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体(II)を超純水に分散させて第2の液を調製する第2の工程と、を含む、電極用触媒の製造方法。 - 前記第1の塩素(Cl)種の濃度が6000ppmである、請求項1に記載の電極用触媒の製造方法。
- 前記第1の設定値が100μS/cm以下の範囲から選択される値である、請求項1又は2に記載の電極用触媒の製造方法。
- 前記第1の工程に供される電極用触媒前駆体(I)が、
工程(P1);塩素(Cl)種を含む材料を使用して製造されており、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が予め設定された第2の塩素(Cl)種の濃度以上の電極用触媒前駆体(PI)を、超純水に添加して、前記電極用触媒前駆体(PI)を超純水に分散させた第P1の液を調製する第P1の工程と、
工程(P2);超純水を用いて、前記第P1の液に含まれる前記電極用触媒前駆体(PI)を洗浄して、洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された第P1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体(PII)を超純水に分散させて第P2の液を調製する第P2の工程と、
工程(P3);前記第P2の液を乾燥する第P3の工程と、を含む前処理を施されているものである、
請求項1~3のいずれか1項に記載の電極用触媒の製造方法。 - 前記第2の塩素(Cl)種の濃度が6000ppmである、請求項4に記載の電極用触媒の製造方法。
- 予め設定された第P1の設定値が100μS/cm以下の範囲から選択される値である、
請求項4又は5に記載の電極用触媒の製造方法。 - 工程(3);前記第2の工程の後に得られた前記第2の液を乾燥する第3の工程をさらに含む、
請求項1~6いずれか1項に記載の電極用触媒の製造方法。 - 工程(4);前記工程(3)の後に得られた電極用触媒前駆体(II)を超純水に添加し、前記電極用触媒前駆体(II)を超純水に分散させた第3の液を調製する第4の工程をさらに含む、
請求項7に記載の電極用触媒の製造方法。 - 工程(5);前記工程(4)の後に、60℃以上かつ沸点以下の超純水を用いて、前記第3の液に含まれる電極用触媒前駆体(III)をろ過洗浄して、洗浄した後に得られるろ液の前記電気伝導率ρが予め設定された第2の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体(IV)を超純水に分散させた第4の液を調製する第5の工程と、
工程(6);前記第4の液を乾燥する第6の工程を含む、
請求項8に記載の電極用触媒の製造方法。 - 前記第2の設定値が100μS/cm以下の範囲から選択される値である、
請求項9に記載の電極用触媒の製造方法。 - 工程(7);前記工程(5)と前記工程(6)の乾燥工程との間に、
前記第4の液を60℃以上かつ沸点以下の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度でかつ予め設定された保持時間で保持する第7の工程をさらに含む、
請求項9又は10に記載の電極用触媒の製造方法。 - 工程(1’);前記第1の工程前に電極用触媒前駆体(I0)を、超純水に硫酸及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸を添加した水溶液に分散させて、10~95℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度でかつ予め設定された保持時間で保持する工程をさらに含む、
請求項1~11いずれか1項に記載の電極用触媒の製造方法。 - 前記シェル部には、白金(Pt)及び白金(Pt)合金のうちの少なくとも1種の金属が含有されており、
前記コア部には、パラジウム(Pd)、パラジウム(Pd)合金、白金(Pt)合金、金(Au)、ニッケル(Ni)、及びニッケル(Ni)合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属が含まれている、
請求項1~12いずれか1項に記載の電極用触媒の製造方法。 - 前記シェル部を構成する金属の原料として、白金(Pt)塩化物が使用されている請求項13に記載の電極用触媒の製造方法。
- 前記シェル部が、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成される第1シェル部と、当該第1シェル部の表面の少なくとも一部を覆うように形成される第2シェル部と、を有している、
請求項1~14のいずれか1項に記載の電極用触媒の製造方法。 - 前記第2シェル部を構成する金属の原料として、白金(Pt)塩化物が使用されている請求項15に記載の電極用触媒の製造方法。
- 請求項1~16のいずれか1項に記載の電極用触媒の製造方法により得られた電極用触媒。
- 請求項1~16のいずれか1項に記載の電極用触媒の製造方法により得られた電極用触媒が含有されているガス拡散電極形成用組成物。
- 請求項1~16のいずれか1項に記載の電極用触媒の製造方法により得られた電極用触媒が含有されているガス拡散電極。
- 請求項19に記載のガス拡散電極が含まれている膜・電極接合体(MEA)。
- 請求項20に記載の膜・電極接合体(MEA)が含まれている燃料電池スタック。
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