以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態におけるベーンポンプ100の正面図であり、ポンプカバー80を外して駆動軸20方向から見た図である。図2は、サイドプレート70の正面図であり、図1と同じ方向から見た図である。図3は、ポンプカバー80の正面図であり、図1のベーンポンプ100から取り外したポンプカバー80を紙面の上下方向を軸として裏返した状態を示す図である。
ベーンポンプ100は、可変容量型ベーンポンプであり、車両に搭載される流体圧機器、例えば、パワーステアリング装置や無段変速機等の流体圧供給源として用いられる。作動流体は、オイルやその他の水溶性代替液等である。なお、本実施形態では可変容量型ベーンポンプを例示するが、固定容量型のベーンポンプであってもよい。
ベーンポンプ100は、例えばエンジン(図示せず)等によって駆動され、駆動軸20に連結されたロータ30が、図1の矢印で示すように時計回りに回転することで流体圧を発生させる。
ベーンポンプ100は、ポンプボディ10と、ポンプボディ10に回転自在に支持される駆動軸20と、駆動軸20に連結されて回転駆動されるロータ30と、ロータ30に対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーン40と、ロータ30及びベーン40を収容するカムリング50と、カムリング50を取り囲む環状のアダプタリング60と、を備える。
ロータ30には、外周面に開口部を有するスリット31が所定間隔をおいて放射状に複数形成される。ベーン40は、各スリット31に摺動自在に挿入される。スリット31の基端側には、ベーン40がスリット31から突出する方向とは反対側の端部であるベーン40の基端部41によって区画され作動流体が導かれる背圧室32が形成される。ベーン40は、背圧室32の圧力によってスリット31から突出する方向に押圧される。
ポンプボディ10には、アダプタリング60を収容するポンプ収容凹部11が形成される。ポンプ収容凹部11の底面には、ロータ30、カムリング50及びアダプタリング60の軸方向一方側(図1の奥側)に当接するサイドプレート70(図2)が配置される。ポンプ収容凹部11の開口部は、ロータ30、カムリング50及びアダプタリング60の他方側(図1の手前側)に当接するポンプカバー80(図3)によって封止される。ポンプカバー80とサイドプレート70とは、ロータ30、カムリング50及びアダプタリング60の両側面を挟んだ状態で配置される。ロータ30とカムリング50との間には、各ベーン40によって仕切られたポンプ室33が画成される。
図2に示すように、サイドプレート70には、作動流体をポンプ室33内に導く吸込ポート71と、ポンプ室33内の作動流体を取り出して流体圧機器に導く吐出ポート72と、が形成される。吸込ポート71及び吐出ポート72は、それぞれ駆動軸20の中心Oを中心とした円弧状に形成される。
図3に示すように、ポンプカバー80には、サイドプレート70と対称な位置に吸込ポート81及び吐出ポート82が形成される。すなわち、ポンプカバー80の吸込ポート81は、ポンプ室33を介してサイドプレート70の吸込ポート71に連通し、ポンプカバー80の吐出ポート82は、ポンプ室33を介してサイドプレート70の吐出ポート72に連通している。
図1に戻って、カムリング50は、環状の部材であり、ベーン40がスリット31から突出する方向の端部であるベーン40の先端部42が摺接する内周カム面51を有する。内周カム面51には、ロータ30の回転に伴って吸込ポート71、81を介して作動流体が吸い込まれる吸込区間と、吐出ポート72、82を介して作動流体が吐出される吐出区間と、が形成される。
吸込ポート71、81は、サイドプレート70を貫通し、ポンプボディ10及びポンプカバー80に形成された吸込通路12を通じてタンク(不図示)に連通され、タンクの作動流体が吸込通路12を通じてサイドプレート70及びポンプカバー80の吸込ポート71、81からポンプ室33へと供給される。
吐出ポート72は、サイドプレート70を貫通し、ポンプボディ10に形成された高圧室(不図示)に連通される。高圧室は、吐出通路(図示せず)を通じてベーンポンプ100外部の流体圧機器(図示せず)に連通される。すなわち、ポンプ室33から吐出される作動流体は、吐出ポート72、82、高圧室、吐出通路を通じて流体圧機器へと供給される。
アダプタリング60は、ポンプボディ10のポンプ収容凹部11内に収容される。アダプタリング60とカムリング50との間には、支持ピン61が介装される。支持ピン61にはカムリング50が支持され、カムリング50はアダプタリング60の内側で支持ピン61を支点に揺動し、駆動軸20の中心Oに対して偏心する。
アダプタリング60の溝62には、カムリング50の揺動時にカムリング50の外周面が摺接するシール材63が介装される。カムリング50の外周面とアダプタリング60の内周面との間には、支持ピン61とシール材63とによって、第一流体圧室64と第二流体圧室65とが区画される。
カムリング50は、第一流体圧室64と第二流体圧室65との圧力差によって、支持ピン61を支点として揺動する。カムリング50が揺動すると、ロータ30に対するカムリング50の偏心量が変化し、ポンプ室33の吐出容量が変化する。カムリング50が図1において支持ピン61に対して反時計回りに揺動すると、ロータ30に対するカムリング50の偏心量が小さくなり、ポンプ室33の吐出容量は小さくなる。これに対して、図1に示すようにカムリング50が支持ピン61に対して時計回りに揺動すると、ロータ30に対するカムリング50の偏心量が大きくなり、ポンプ室33の吐出容量は大きくなる。
アダプタリング60の内周面には、ロータ30に対する偏心量が小さくなる方向のカムリング50の移動を規制する規制部66と、ロータ30に対する偏心量が大きくなる方向のカムリング50の移動を規制する規制部67と、がそれぞれ膨出して形成される。つまり、規制部66はロータ30に対するカムリング50の最小偏心量を規定し、規制部67はロータ30に対するカムリング50の最大偏心量を規定する。
第一流体圧室64と第二流体圧室65との圧力差は、制御バルブ(図示せず)によって制御される。制御バルブは、ロータ30の回転速度の増加に伴ってロータ30に対するカムリング50の偏心量が小さくなるように第一流体圧室64及び第二流体圧室65の作動流体圧を制御する。
次に、背圧室32に作動流体を導く背圧ポートについて説明する。
図2に示すように、サイドプレート70には、吐出区間において背圧室32に連通する吐出側背圧ポート73と、吸込区間において背圧室32に連通する吸込側背圧ポート74と、が形成される。
吐出側背圧ポート73は、吐出区間の全域にわたって駆動軸20の中心Oを中心とする円弧状に形成される。吸込側背圧ポート74は、吸込区間におけるロータ30の回転方向後方側に設けられる低圧ポート75と、吸込区間におけるロータ30の回転方向前方側に設けられる高圧ポート76と、を有する。つまり、背圧室32はロータ30の回転に応じて吐出側背圧ポート73、低圧ポート75、高圧ポート76の順に連通する。
低圧ポート75と高圧ポート76とは互いに連通することなく分割して設けられる。一方、吐出側背圧ポート73と高圧ポート76とは高圧ポート76より断面積が小さい細溝77を介して連通する。さらに、高圧ポート76は、サイドプレート70を貫通する通孔78を介して高圧室に連通される。
図3に示すように、ポンプカバー80には、サイドプレート70と対称な位置に、吐出側背圧ポート83、低圧ポート85及び高圧ポート86が形成される。吐出側背圧ポート83と高圧ポート86とは、サイドプレート70と同様に細溝87を介して連通する。さらに、低圧ポート85は、通孔88を介して吸込通路12に連通される。
以上より、ポンプ室33から吐出される作動流体圧は、吐出ポート72、82、高圧室、通孔78、高圧ポート76、86に導かれるとともに、細溝77、87を介して吐出側背圧ポート73、83に導かれる。高圧ポート76、86及び吐出側背圧ポート73、83の作動流体圧は、吸込区間の終了直前及び吐出区間において背圧室32に導かれ、背圧室32の作動流体圧によってベーン40がロータ30からカムリング50に向けて突出する方向に押圧される。
一方、吸込通路12の作動流体は、ポンプカバー80の低圧ポート85に設けられる通孔88を介して低圧ポート75、85に導かれる。低圧ポート75、85の作動流体は吸込区間において背圧室32に導かれる。
ベーンポンプ100の作動時に、ベーン40は、その基端部41を押圧する背圧室32の作動流体圧の付勢力と、ロータ30の回転に伴って働く遠心力とによって、スリット31から突出する方向に付勢され、その先端部42がカムリング50の内周カム面51に摺接する。
吸込区間では、内周カム面51に摺接するベーン40がロータ30から突出してポンプ室33が拡張し、作動流体が吸込ポート71、81からポンプ室33に吸い込まれる。吐出区間では、内周カム面51に摺接するベーン40がロータ30に押し込まれてポンプ室33が収縮し、ポンプ室33にて加圧された作動流体が吐出ポート72、82から吐出される。
ここで、比較例におけるベーンポンプ200について説明する。
図4は、比較例におけるベーンポンプ200の正面図であり、ポンプカバー180を外して駆動軸20方向から見た図である。図5は、比較例におけるサイドプレート170の正面図である。図6は、比較例におけるポンプカバー180の正面図である。
比較例におけるベーンポンプ200では、吸込側背圧ポート174、184が低圧ポートと高圧ポートとに分割されていない。つまり、吸込区間の全域にわたって駆動軸20の中心Oを中心とする円弧状に形成される。
さらに、吸込側背圧ポート174、184と吐出側背圧ポート173、183とは細溝177、187を介して連通される。吸込側背圧ポート174は、その両端に設けられてサイドプレート170を貫通する通孔178を介して高圧室に連通される。
これにより、ポンプ室33から吐出される作動流体圧は、吐出ポート172、182、高圧室、通孔178、吸込側背圧ポート174、184に導かれるとともに、細溝177、187を介して吐出側背圧ポート173、183に導かれる。したがって、吸込側背圧ポート174、184及び吐出側背圧ポート173、183は、いずれもポンプ室33から吐出された高圧の作動流体圧で満たされる。
吸込区間では、ポンプ室33の圧力が低いので、背圧室32の高圧の作動流体圧によってベーン40がカムリング50の内周カム面51に強く押し付けられる。これにより、ベーンの先端部42と内周カム面51との間の摺動抵抗が増大してロータ30の回転負荷が増大してベーンポンプ200の効率が低下する可能性がある。
また、吸込側背圧ポート174、184と吐出側背圧ポート173、183との連通を遮断して、吸込側背圧ポート174、184に吸込通路の作動流体を導入することで、上記した摺動抵抗を抑制することが考えられる。
しかし、吸込側背圧ポート174、184を上記のように低圧化すると、吸込区間ではポンプ室33と背圧室32とがほぼ同圧となるので、吸込区間においてベーン40を突出させる方向に作用する力は、主にロータ30の回転による遠心力のみとなる。したがって、ベーン40が吐出区間に移行する際にベーン40の押し付け力が足りず、ベーン40と内周カム面51との隙間を介して吐出区間のポンプ室33と吸込区間のポンプ室33とが連通してベーンポンプ200の吐出圧が低下する可能性がある。
そこで、本実施形態では、図2及び図3に示すように、吸込側背圧ポート74を低圧ポート75と高圧ポート76とに分割し、高圧ポート76には高圧室の高圧の作動流体を導き、低圧ポート75には吸込通路12の低圧の作動流体を導く構造とした。
これにより、ロータ30の回転方向に沿って吸込区間の前半領域では、背圧室32が低圧ポート75に連通してベーン40の押し付け力が低下する。したがって、ベーン40とカムリング50との摺動抵抗が低下するので、ベーンポンプ100の効率が向上する。
また、吸込区間の終了直前の領域では、背圧室32が高圧ポート76に連通するので、高圧室から高圧の作動流体が背圧室32に導入され、吐出区間に移行する前にベーン40を内周カム面51により確実に押し付けることができる。したがって、吸込区間と吐出区間との境界をベーン40によって確実に区画することができ、ベーンポンプ100の吐出圧の低下を抑制することができる。
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
吸込側背圧ポート74が低圧ポート75と高圧ポート76とに分割して形成され、高圧ポート76が低圧ポート75よりロータ30の回転方向前方に配置される。また、吸込通路12の作動流体が低圧ポート75に導かれるとともに高圧室の高圧の作動流体が高圧ポート76に導かれる。
これにより、吸込区間において背圧室32が低圧ポート75に連通する間、背圧室32が低圧となってベーン40の押し付け力が低下するので、ベーン40と内周カム面51との摺動抵抗を抑制して、ベーンポンプ100の効率を向上させることができる。
また、吸込区間においてベーン40の突き出し量が低下することで、ベーン40が吸込区間を通過する際に吸込ポート71、81からポンプ室33へと吸い込まれる作動流体の流路の妨げとなることを抑制することができる。よって、作動流体の吸込効率を向上させることができる。
さらに、吸込区間において背圧室32が高圧ポート76に連通すると、背圧室32が高圧となってベーン40の押し付け力が増大するので、吐出区間に移行する前にベーン40と内周カム面51とをより確実に摺接させることができる。よって、吸込区間と吐出区間との間を内周カム面51に摺接したベーン40によってより確実に区画することができ、ベーンポンプ100の吐出圧の低下を防止することができる。
さらに、特に作動流体の粘性が高くなる低温でのポンプ始動時であっても、スリット31に落ち込んだベーン40を迅速に突出させて内周カム面51に摺接させることができるので、ベーンポンプ100の吐出圧が直ぐに立ち上がりベーンポンプ100の始動性を向上させることができる。
さらに、吐出側背圧ポート73は高圧ポート76より断面積が小さい細溝77を介して高圧ポート76に連通するので、吐出区間においてベーン40の先端部42が内周カム面51に押されてベーン40がスリット31内に押し込まれ、背圧室32の体積の減少に伴い吐出側背圧ポート73に流れ込む作動流体は細溝77で絞られて高圧ポート76に連通する。したがって、細溝77の圧損分だけ吐出側背圧ポート73の圧力が高圧ポート76の圧力よりも高く保持されるので、吐出区間においてベーン40を突出させる力を高く保ち、ベーン40と内周カム面51との摺接をより確実に維持することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、上記実施形態では、吐出側背圧ポート73及び吸込側背圧ポート74は、サイドプレート70及びポンプカバー80にそれぞれ設けたが、いずれか一方のみに設けてもよい。吐出側背圧ポート73及び吸込側背圧ポート74がサイドプレート70のみに設けられる場合、サイドプレート70の低圧ポート75が吸込通路12に連通するように新たに通孔を設ければよい。吐出側背圧ポート73及び吸込側背圧ポート74がポンプカバー80のみに設けられる場合、ポンプカバー80の高圧ポート86が高圧室に連通するように新たに通孔を設ければよい。
本願は、2013年3月6日に日本国特許庁に出願された特願2013-044575に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。