WO2013021465A1 - 燃料電池用セパレータ材料、それを用いた燃料電池用セパレータ及び燃料電池スタック、並びに燃料電池用セパレータ材料の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
一方、Ti基材の酸化被膜の上に、Ti,Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W等からなる中間層を介してAu膜を形成する燃料電池用セパレータが知られている(特許文献2)。この中間層は、基材酸化膜との密着性、すなわちO(酸素原子)との結合性が良いとともに、金属または半金属のためにAu膜との密着性、結合性が良いとされている。
DMFCの構造としては、以下の2つが提案されている。まず第1の構造は、単セル(固体高分子型電解質膜を燃料極と酸素極で挟み込んだ膜電極接合体(以下、MEAという)を積層した積層型(アクティブ型)構造である。第2の構造は、単セルを平面方向に複数個配置した平面型(パッシブ型)構造である。これらの構造は、いずれも単セルを複数個直列に繋いだもの(以下、スタックという)であるが、このうち、パッシブ型構造は、燃料ガス(燃料液体)や空気などをセル内に供給するための能動的な燃料移送手段を必要としないため、更なる燃料電池の小型化が有望視されている(特許文献3)。
そして、DMFC用集電体に要求される条件は、水素ガスを用いる固体高分子型燃料電池用セパレータと比較すると多い。すなわち、通常の固体高分子型燃料電池用セパレータに要求される硫酸水溶液への耐食性に加え、燃料であるメタノール水溶液への耐食性、及び蟻酸水溶液への耐食性が必要である。蟻酸は、アノード触媒上でメタノールから水素イオンが生成する際に発生する副生成物である。
さらに、燃料であるメタノール水溶液へ塩素(例えばNaCl由来)が混入すると、燃料電池用セパレータの耐食性が大幅に劣化することから、燃料電池用セパレータには塩素を含有する水溶液中での耐食性が要求される。
固体高分子型燃料電池及びダイレクトメタノール燃流電池が共に海岸付近で使用されることを想定した場合,燃料である空気には塩素が比較的多く含有される。これら塩素が燃料電池の中に取り込まれ,セパレータ材に用いる金属によっては,塩素起因により特性が大幅に劣化する場合がある。よって塩素を含有した腐食液の耐食性試験が必要であり,重要な意味をもつ(燃料電池用セパレータには塩素を含有する水溶液中での耐食性が要求される)。
このようにDMFC作動環境下では、従来の固体高分子型燃料電池用セパレータに用いる材料をそのまま適用できるとは限らない。
又、特許文献2には、基材表面の酸化皮膜の表面に導電性薄膜を形成することが規定されているが、例えば、チタン基材表面に酸化皮膜を残したまま、Auを成膜しようとすると、均一に成膜されない。特に、湿式の金めっきではめっきの電着形状が粒状であり、チタン基材表面に酸化皮膜が残っていると、チタン基材表面の一部に非めっき部分となる部分が生じてしまう。また、特許文献2には、密着性を向上させるために、Crを含む中間層を設けることも規定されているが、本発明者らの調査の結果、Crの付着量が多すぎると塩素を含有する水溶液中での耐食性が劣化することが判明した。
特許文献3記載の技術は、銅板の両面にステンレスをクラッド加工した基材に、樹脂を被覆したものであり、耐食性が優れているとはいえない。
上記の目的を達成するために、本発明の燃料電池用セパレータ材料は、Ti基材の表面にAuとCrとを含む表面層が形成され、前記表面層と前記Ti基材との間に、Ti,O及びCrを含み,Au20原子%未満の中間層が存在し、Au濃度65原子%以上の領域の厚みが1.5nm以上存在し、かつAuの最大濃度が80原子%以上で、Auの付着量が9000~40000ng/cm2であり、(Auの付着量)/(Crの付着量)で表される比が10以上であり、Crの付着量が200ng/cm2以上であり、前記中間層において、Ti,Oがそれぞれ10原子%以上で、かつCrが20原子%以上含まれる領域が1nm以上存在する。
本発明の燃料電池用セパレータ材料は、固体高分子形燃料電池又はダイレクトメタノール型固体高分子形燃料電池に好適に用いられる。
また、本発明の燃料電池用セパレータは、前記燃料電池用セパレータ材料を用い、前記Ti基材に前記表面層を形成した後、プレス加工による反応ガス流路及び/又は反応液体流路を形成して成る。
前記乾式成膜がスパッタリングであることが好ましい。
又、本発明において「燃料電池用セパレータ」とは、電気伝導性を有し、各単セルを電気的に接続し、各単セルで発生したエネルギー(電気)を集電すると共に、各単セルへ供給する燃料ガス(燃料液体)や空気(酸素)の流路が形成されたものをいう。セパレータは、インターコネクタ、バイポーラプレート、集電体とも称される。
従って、詳しくは後述するが、燃料電池用セパレータとして、板状の基材表面に凹凸状の流路を設けたセパレータの他、上記したパッシブ型DMFC用セパレータのように板状の基材表面にガスやメタノールの流路孔が開口したセパレータを含む。
燃料電池用セパレータ材料は耐食性と導電性が要求され、基材には耐食性が求められる。このため基材には耐食性が良好なチタン材を用いる。
Ti基材は無垢のチタン材であってもよいが、Tiと異なる基材表面に厚み10nm以上のTi被膜を形成したものであってもよい。Tiと異なる基材としてはステンレス鋼やアルミニウム,銅等が挙げられ、これらの表面にTiを被覆することにより、チタンと比べて耐食性の低いステンレス鋼やアルミニウム,銅等の耐食性を向上させることができる。但し、耐食性向上効果はTiを10nm以上被覆しないと得られない。
Ti基材2の材質はチタンであれば特に制限されない。又、Ti基材2の形状も特に制限されず、Cr及び金をスパッタできる形状であればよいが、セパレータ形状にプレス成形することを考えると、Ti基材の形状は板材であることが好ましく、Ti基材全体の厚みが10μm以上の板材であることが好ましい。
中間層2aに含まれるO(酸素)は、Ti基材2を空気中に放置することにより自然に形成されるが、酸化雰囲気で積極的にOを形成してもよい。
Ti基材2上に、CrとAuとを含み、Au濃度65%以上の領域の厚みが1.5nm以上存在する表面層6が形成される。この表面層は、Ti基材にAuの特性(耐食性、導電性等)や耐水素脆性を付与するためのものである。
Crは、a)酸素と結合しやすい、b)Auと合金を構成する、c)水素を吸収し難い、という性質を有しており、表面層に上記した機能を付与するとともに、中間層を形成して表面層とTi基材との密着性を向上させる。
又、Crが電位-pH図からAuより易酸化性であり、また水素を吸収しにくい特性を利用し、Crを以下の中間層の構成元素として用いる。
また、CrとAuを成膜後に熱処理をしてもよい。熱処理を行なうと、酸化と拡散が進行し、表層のAuの濃度は下がる場合もある。しかし、Au濃度65%以上の領域の厚みが1.5nm以上存在すれば、チタンが表面層に拡散しせず、表面層としての機能をはたす。
又、表面層において、Au濃度65%以上の領域の厚みが1.5nm未満である場合、燃料電池用セパレータに要求される耐食性を確保できなくなる。
又、表面層6の中間層側において、主にCrからなる組成領域(貴金属領域)を有していてもよい。
表面層(又はAu単独層)6とTi基材2との間に、Ti、O及びCrを含み、Au20%未満の中間層2aが存在する。
通常、Ti基材は表面に酸化層を有しており、酸化され難いAu(含有)層をTi表面に直接形成させるのは難しい。一方、上記金属はAuに比べて酸化され易く、Ti基材の表面でTi酸化物中のO原子と酸化物を形成し、Ti基材表面に強固に結合するものと考えられる。
又、上記金属は水素を吸収しにくい。これらの点で、Auを含んだ導電性膜(上記表面層又はAu単独層)の厚みが数10nm以下の場合には、従来、中間層として単にTi,Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W等を用いた場合に比べ、Ti、O及びCrから中間層を形成することにより、耐久性が良好なセパレータ材を提供できる。
なお中間層にはAuは含まれないほうが好ましく、Auが20%以上含まれると密着性が低下する。中間層中のAu濃度を20%未満とするためには、Ti基材上に、Cr単体のターゲット、又は低Au濃度のCr-Au合金ターゲットを用いてスパッタすることが好ましい。
Crの付着量が200ng/cm2未満であると、Crが少ないために表面層の密着性が劣化する場合がある。
Auの付着量が9000ng/cm2未満であると、燃料電池用セパレータに要求される耐食性を確保できなくなる。
一方、省金化の点からAuの付着量が40000ng/cm2未満である必要がある。又、(Auの付着量)/(Crの付着量)で表される比が10以上である。Auの付着量が40000ng/cm2未満のときに,(Auの付着量)/(Crの付着量)で表される比が10未満であると,スパッタ膜の表面にCrが露出する部分が存在し,塩素含有腐食液での耐食性試験において試験後の接触抵抗が増加し,Crの溶出も比較的多いという問題がある。
(Auの付着量)/(Crの付着量)で表される比の上限は特に限定されないが、この比があまり大きくなるとCrの割合が減ってCrによる表面層の密着性向上効果が確保できなくなるので、上記比が100以下であることが好ましい。上記比があまり多くなると必要以上にAuが付着されることになり,コストが増えるため,上記比が50以下であることが好ましい。より好ましくは上記比が30以下,更に好ましくは20以下である。
酸化層が存在すると、燃料電池の連続発電試験を行った場合にチタン基材が脆化することを防止する。Tiが50%を下回る部分は,チタン量が全量の半分以下であるので,チタン基材の部分ではないと考える。そしてチタン基材の表面には酸化膜が存在するため,Tiが50%を下回る部分から表面層のところまでは酸化層とする。Oを20%以上含まれる領域を酸化層とした理由は、酸化層のO(酸素)濃度が20%未満であると、燃料電池の連続発電試験を行った場合にチタン基材が脆化して燃料電池用セパレータ材料としての耐久性が劣化するためである。
但し、酸化層の厚みが100nm以上になると、表面層の密着性や導電性が低下する場合がある。一方、酸化層が薄いと,燃料電池の連続発電試験を行った場合にチタン基材が脆化して燃料電池用セパレータ材料としての耐久性が劣化する恐れもある。従って、酸化層の厚みが好ましくは5nm以上,より好ましくは10nm以上である。
表面層を傾斜組成とすると、表面層の下層側ではAuより易酸化性のCrの割合が多くなり、Ti基材表面との結合が強固になる一方、表面層の上層側ではAuの特性が強くなるので、耐食性と耐久性が向上する。
燃料電池用セパレータ材料の中間層の形成方法としては、Ti基材の表面Ti酸化膜を除去せずに、この基材にCrをターゲットとしてスパッタ成膜することにより、表面Ti酸化膜中のOにCrが結合し、中間層を形成することができる。又、Ti基材2の表面Ti酸化膜を除去後、Crの酸化物をターゲットとしてスパッタ成膜することや、Ti基材2の表面Ti酸化膜を除去後、Crをターゲットとし酸化雰囲気でスパッタ成膜することによっても中間層を形成することができる。
なお、スパッタの際、Ti基材の表面Ti酸化膜を適度に除去し、基材表面のクリーニングを目的として逆スパッタ(イオンエッチング)を行ってもよい。逆スパッタは、例えばRF100W程度の出力で、アルゴン圧力0.2Pa程度としてアルゴンガスを基材に照射して行うことができる。
中間層のAuは、以下の表面層を形成するためのAuスパッタにより、Au原子が中間層に入り込むことによって中間層内に含まれるようになる。又、CrとAuを含む合金ターゲットを用いてTi基材表面にスパッタ成膜してもよい。
Ti基材表面に最初にCrとAuのうちAu濃度が低い合金ターゲットを用いてスパッタ成膜し、その後、CrとAuのうちAu濃度が高い合金ターゲットを用いてスパッタ成膜してもよい。
次に、本発明の燃料電池用セパレータ材料を用いた燃料電池用セパレータの一例について説明する。燃料電池用セパレータは、上記した燃料電池用セパレータ材料を所定形状に加工してなり、燃料ガス(水素)又は燃料液体(メタノール)、空気(酸素)、冷却水等を流すための反応ガス流路又は反応液体流路(溝や開口)が形成されている。
図3は、積層型(アクティブ型)燃料電池の単セルの断面図を示す。なお、図3では後述するセパレータ10の外側にそれぞれ集電板140A,140Bが配置されているが、通常、この単セルを積層してスタックを構成した場合、スタックの両端にのみ一対の集電板が配置される。
そして、セパレータ10は電気伝導性を有し、後述するMEAに接して集電作用を有し、各単セルを電気的に接続する機能を有する。又、後述するように、セパレータ10には燃料ガスや空気(酸素)の流路となる溝が形成されている。
そして、アノード電極40側の内部空間20には燃料ガス(水素等)が流れ、カソード電極60側の内部空間20に酸化性ガス(酸素、空気等)が流れることにより、電気化学反応が生じるようになっている。
シール部材31及びガスケット12は、燃料ガス又は酸化ガスがセル外に漏れるのを防止するシールを形成する。又、単セルを複数積層してスタックにした場合、セパレータ10の外面と集電板140A(又は140B)との間の空間21には空間20と異なるガス(空間20に酸化性ガスが流れる場合、空間21には水素が流れる)が流れる。従って、シール部材32もセル外にガスが漏れるのを防止する部材として使われる。
また、この実施形態では、直線状流路溝10Lの始端及び終端はセパレータ10の外縁まで到達せず、セパレータ10の外周縁には直線状流路溝10Lが形成されない平坦部が存在する。また、この実施形態では、隣接する直線状流路溝10Lはそれぞれ等間隔で位置しているが、不等間隔であってもよい。
又、セパレータ10の対向する側端縁(側辺)には、それぞれ位置決め孔10fが開口している。
流路溝の形成を容易にする点からは、互いに平行な直線が好ましい。
セパレータ10の厚みは、プレス成形性の面で10μm以上であることが好ましいが、コストの点から200μm以下とすることが好ましい。
ガスケット12は例えばテフロン(登録商標)からなるシート状であり、外縁がセパレータ10とほぼ同じ大きさの矩形枠体であって、その内縁が燃料ガス導入孔10x、排出孔10y、及び直線状流路溝10Lを囲む略矩形状に形成され、ガスケット12の内部空間において燃料ガス導入孔10x、排出孔10y、及び直線状流路溝10Lが連通するようになっている。
なお、ガスケット12の対向する側端縁(側辺)には、それぞれ位置決め孔12fが開口し、セパレータ10の位置決め孔10fと重なるようにガスケット12を積層することにより、セパレータ10とガスケット12の相対位置を規定する。
同様に、ガスケット12の下側内縁12dは直線状流路溝の下端10L2よりやや下側に位置し、直線状流路溝10Lに沿って流れるガスが折り返して180度向きを変えるための空間が形成されている。又、下側内縁12dの右端部は外側に延び、セパレータ10の燃料ガス排出孔10yがガスケット12内に表出するようになっている。
同様に、下側内縁12dのうち仕切り部材12e1に対向する位置から所定距離だけ右側の位置には、内側に向かって片状の仕切り部材12e3が延びている。又、下側内縁12dのうち仕切り部材12e2に対向する位置から所定距離だけ右側であって、燃料ガス排出孔10yに向かって延びる部分に隣接する位置には、内側に向かって片状の仕切り部材12e4が延びている。そして、仕切り部材12e3、12e4の先端は直線状流路溝の下端(始端又は終端に相当)10L2に接している。
このように、ガスケット12の対向する内縁からそれぞれ延びる仕切り部材は互いに千鳥状に配置されているので、直線状流路溝10Lに沿って流れるガス流路が仕切り部材近傍で折り返されて蛇行流路を構成するようになる。
図3に示す積層型(アクティブ型)燃料電池は、上記した水素を燃料として用いる燃料電池のほか、メタノールを燃料として用いるDMFCにも適用することができる。
図6は、平面型(パッシブ型)燃料電池の単セルの断面図を示す。なお、図3では後述するセパレータ10の外側にそれぞれ集電板140A,140Bが配置されているが、通常、この単セルを積層してスタックを構成した場合、スタックの両端にのみ一対の集電板が配置される。
なお,図6において、MEA80の構成は図5の燃料電池と同一であるので同一符号を付して説明を省略する(図6では、ガス拡散膜90A、90Bの記載を省略しているが、ガス拡散膜90A、90Bを有していてもよい)。
セパレータ100は、断面がクランク形状になるよう、長尺平板状の基材の中央付近に段部100sを形成してなり、段部100sを介して上方に位置する上側片100bと、段部100sを介して下方に位置する下側片100aとを有する。段部100sはセパレータ100の長手方向に垂直な方向に延びている。
そして、複数のセパレータ100を長手方向に並べ、隣接するセパレータ100の下側片100aと上側片100bとの間に空間を形成させ、この空間にMEA80を介装する。2つのセパレータ100でMEA80が挟まれた構造体が単セル300となる。このようにして、複数のMEA80がセパレータ100を介して直列に接続されたスタックが構成される。
このスタックにおいて、図6の上方から空気(酸素)を流すと、セパレータ100の孔100hを通ってMEA80のカソード電極60側に酸素が接触し、反応を生じるようになる。一方、図6の下方からメタノールを流すと、セパレータ100の孔100hを通ってMEA80のアノード電極40側にメタノールが接触し、反応を生じるようになる。なお、メタノールは、図6の下方のタンク(メタノールカートリッジ)200から供給される。
図6に示す平面型(パッシブ型)燃料電池は、上記したメタノールを燃料として用いるDMFCのほか、水素を燃料として用いる燃料電池にも適用することができる。又、平面型(パッシブ型)燃料電池用セパレータの開口部の形状や個数は限定されず、開口部として上記した孔の他、スリットとしてもよく、セパレータ全体が網状であってもよい。
又、本発明の燃料電池用セパレータにおいて、Ti基材表面に表面層又はAu単独層を形成した燃料電池用セパレータ材料に対し、後からプレス加工によって反応ガス流路及び/又は反応液体流路を形成してもよい。本発明の燃料電池用セパレータ材料は表面層やAu単独層がTi基材表面に強固に密着しているので、被膜形成後にプレス加工しても被膜が剥がれずに反応ガス流路(反応液体流路)を形成でき、生産性が向上する。
本発明の燃料電池用スタックは、本発明の燃料電池用セパレータ材料、又は本発明の燃料電池用セパレータを用いてなる。
燃料電池用スタックは、1対の電極で電解質を挟み込んだセルを複数個直列に接続したものであり、各セルの間に燃料電池用セパレータが介装されて燃料ガスや空気を遮断する。燃料ガス(H2)が接触する電極が燃料極(アノード)であり、空気(O2) が接触する電極が空気極(カソード)である。
燃料電池用スタックの構成例は、既に図3及び図6で説明した通りであるが、これに限定されない。
Ti基材として、厚み100μmの工業用純チタン材(JIS1種)を用い、FIB(集束イオンビーム加工)による前処理をした。FE-TEM(電解放射型透過電子顕微鏡)によるエネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)により観察したところ、Ti基材の表面には予め約10nmのチタン酸化物層が形成されていたのを確認した。
又、一部の実施例では、厚み100μm工業用純ステンレス鋼材(SUS316L)若しくは厚み100μm純銅(C1100)に対し、表1に示す所定厚みのTiを被覆したものを用いた(Ti被覆材)。Tiの被覆は、電子ビーム蒸着装置(アルバック製、MB05-1006)を用いた真空蒸着により行った。
次に、Ti基材のチタン酸化物層の表面に、スパッタ法を用いて所定の目標厚みとなるように、Crを成膜した。ターゲットには純Crを用いた。次に、スパッタ法を用いて所定の目標厚みとなるようにAuを成膜した。ターゲットには純Auを用いた。
目標厚みは以下のように定めた。まず、予めチタン基材にスパッタで対象物(Cr、Au)を成膜し、蛍光X線膜厚計(Seiko Instruments製 SEA5100、コリメータ0.1mmΦ)で実際の厚みを測定し、このスパッタ条件におけるスパッタレート(nm/min)を把握した。そして、スパッタレートに基づき、厚み1nmとなるスパッタ時間を計算し、この条件でスパッタを行った。
Cr及びAuのスパッタは、株式会社アルバック製のスパッタ装置を用い、出力DC50W アルゴン圧力0.2Paの条件で行った。
得られた試料について、XPS(X線光電子分光)分析による深さ(Depth)プロファイルを測定し、Au,Ti,O,Crの濃度分析を行ってスパッタ層の層構造を決定した。XPS装置としては、アルバック・ファイ株式会社製5600MCを用い、到達真空度:6.5×10-8Pa、励起源:単色化AlK、出力:300W、検出面積:800μmΦ、入射角:45度、取り出し角:45度、中和銃なしとし、以下のスパッタ条件で、測定した。
イオン種:Ar+
加速電圧:3kV
掃引領域:3mm×3mm
レート:2nm/min.(SiO2換算)
なお、XPSによる濃度検出は、指定元素の合計を100%として、各元素の濃度(at%)を分析した。又、XPS分析で厚み方向に1nmの距離とは、XPS分析によるチャートの横軸の距離(SiO2換算での距離)である。
Ti基材2の表面に、CrとAuからなる表面層6が形成されている。さらにTi基材2と表面層6との間に、Ti、O、Crがそれぞれ含まれると共に、Auが20%未満である中間層2aが1nm以上存在することがわかる。
さらに、表面層6よりTi基材2側に、Tiが50%未満で、Oが20%以上含まれる酸化層が100nm未満の厚みで形成されていることがわかる。
なお、本発明においては、中間層を定義するためTi、O等の濃度を規定している。従って、中間層の境界は便宜上Ti、O濃度によって決められるため、中間層とその上下の層(例えばTi基材2)との間に、中間層ともTi基材とも異なる層が介在する場合もある。
初期の表面Ti酸化層の厚みがそれぞれ異なるチタン基材(純Ti、Ti被覆材)に対し、スパッタ時のCr膜及びAu膜の目標厚みを種々変更して実施例1~11の試料を作製した。
比較例9として、Au膜のスパッタ厚みを4nmに低減して試料を作製した。
比較例10、14、15として、Auの付着量/Crの付着量を10未満にして試料を作製した。
比較例11として、Cr膜のスパッタ厚みを0.25nmに低減して試料を作製した。
比較例12として、スパッタ後に大気加熱処理(120℃×12時間)を施して試料を作製した。
比較例13として、スパッタ時に基板を加熱(300℃)して試料を作製した。
各試料について以下の評価を行った。
A.被膜の密着性
各試料の最表面(表面層)に1mm間隔で碁盤の目を罫書いた後、粘着性テープをはり付け、さらに各試験片を180°曲げて元の状態に戻し、曲げ部のテープを急速にかつ強く引き剥がす剥離試験を行った。
剥離が全くない場合を○とし、一部でも剥離があると目視で認められた場合を×とした。
接触抵抗の測定は、試料全面に荷重を加える方法で行った。まず、40×50mmの板状の試料の表裏にそれぞれカーボンペーパーを積層し、さらに表裏のカーボンペーパーの外側にそれぞれCu/Ni/Au板を積層した。Cu/Ni/Au板は厚み10mmの銅板に1.0μm厚のNi下地めっきをし、Ni層の上に0.5μmのAuめっきした材料であり、Cu/Ni/Au板のAuめっき面がカーボンペーパーに接するように配置した。
さらに、Cu/Ni/Au板の外側にそれぞれテフロン(登録商標)板を配置し、各テフロン(登録商標)板の外側からロードセルで圧縮方向に10kg/cm2の荷重を加えた。この状態で、2枚のCu/Ni/Au板の間に電流密度100mA/cm2の定電流を流した時、Cu/Ni/Au板間の電気抵抗を4端子法で測定した。
条件1:硫酸水溶液への試料の浸漬試験(浴温90℃、硫酸濃度0.5g/L、浸漬時間240時間、液量1000cc)
条件2(塩素含有水溶液):硫酸(0.5g/L)+塩化ナトリウム(Cl:10ppm)水溶液への試料の浸漬試験(浴温90℃、浸漬時間240時間、液量1000cc)
金属溶出量は上記条件1~2で試験後の試験液中の全ての金属濃度(mg/L)をICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析することで評価した。
又、燃料電池用セパレータに求められる代表的な特性は、低接触抵抗(10mΩ・cm2以下)、使用環境での耐食性(耐食試験後も低接触抵抗で、有害なイオンの溶出がない)の2つである。
得られた結果を表1、表2に示す。なお、中間層、酸化層の存在は、試料断面の実際のXPS像から各成分の割合を求めて確認した。
付着量は,酸分解/ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析することで評価した。具体的には、50mm×50mmの試料1枚をフッ硝酸溶液に全量溶解して,AuとCrの付着量を分析した。なお、1条件当たりの試料数を5個とし、5回の測定結果の平均値をそれぞれ表1に記載した。
(Auの付着量)/(Crの付着量)で表される比が10未満である比較例10、14、15の場合、塩素含有水溶液を用いた条件2の耐食性試験において試験後の接触抵抗が増加し,条件2でのCrの溶出量も多く、被膜の耐食性が劣った。
Cr付着量が200ng/cm2未満である比較例11の場合,スパッタ膜の密着性が劣化し、耐食性の評価を行うことができなかった。
Au濃度65%以上の領域の厚みが1.5nm未満である比較例13の場合、条件2の耐食性試験において試験後の接触抵抗が増加し,条件2でのCrの溶出量も多く、被膜の耐食性が劣った。
2a 中間層
6 表面層
10、100 セパレータ
10L、10LB (ガス)流路
10L1、10LB1 流路溝の始端
10L2、10LB2 流路溝の終端
12、12B ガスケット
12c、12d ガスケットの内縁
12e1~12e4 仕切り部材
12eb1~12eb4 ガスケット流路
20 固体高分子電解質膜
40 アノード電極
60 カソード電極
80 膜電極接合体(MEA)
100h (セパレータの)孔
Claims (9)
- Ti基材の表面にAuとCrとを含む表面層が形成され、
前記表面層と前記Ti基材との間に、Ti,O及びCrを含み,Au20原子%未満の中間層が存在し、
Au濃度65原子%以上の領域の厚みが1.5nm以上存在し、かつAuの最大濃度が80原子%以上であり、
Auの付着量が9000~40000ng/cm2であり、
(Auの付着量)/(Crの付着量)で表される比が10以上であり、
Crの付着量が200ng/cm2以上であり、
前記中間層において、Ti,Oがそれぞれ10原子%以上で、かつCrが20原子%以上含まれる領域が1nm以上存在する燃料電池用セパレータ材料。 - 前記Ti基材は、Tiと異なる基材表面に厚み10nm以上のTi被膜を形成してなる請求項1に記載の燃料電池用セパレータ材料。
- 固体高分子形燃料電池に用いられる請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレータ材料。
- ダイレクトメタノール型固体高分子形燃料電池に用いられる請求項1~3のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料。
- 請求項1~4のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料を用いた燃料電池用セパレータであって、前記Ti基材に予めプレス加工による反応ガス流路及び/又は反応液体流路を形成した後、前記表面層を形成して成る燃料電池用セパレータ。
- 請求項1~4のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料を用いた燃料電池用セパレータであって、前記Ti基材に前記表面層を形成した後、プレス加工による反応ガス流路及び/又は反応液体流路を形成して成る燃料電池用セパレータ。
- 請求項1~4のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料、又は請求項5若しくは6記載の燃料電池用セパレータを用いた燃料電池スタック。
- 請求項1~4のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料の製造方法であって、
前記Ti基材の表面に、前記Crを乾式成膜した後、Auを乾式成膜する燃料電池用セパレータ材料の製造方法。 - 前記乾式成膜がスパッタリングである請求項8記載の燃料電池用セパレータ材料の製造方法。
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