WO2012049893A1 - 高温半導体素子用平角状銀（Ａｇ）クラッド銅リボン - Google Patents

Abstract

【課題】高温半導体素子用銀クラッド銅リボンにおけるパッド電極界面との接合信頼性の向上、クラッド界面のクラッド層剥がれの抑制。 【解決手段】高純度の銀クラッド層と高純度の銅芯材テープからなる銀クラッド銅リボンにおいて、クラッド加工後に４５０～７５０℃で熱処理してクラッド層の加工組織を解消しておくことにより、ボンディング時にパッド界面に形成されるクラッド層の高歪の微細な結晶組織からなる加工組織の発達を抑制して、クラッド層の他の領域との硬さの差を小さくしてクラック発生を防止すると共に高温使用環境下で微細な粒状結晶組織を形成して、パッド層からのＡｌなどの拡散を抑制し、パッド界面及びクラッド界面の金属間化合物 の生成を抑制し、接合強度と信頼性向上する。

Description

高温半導体素子用平角状銀（Ａｇ）クラッド銅リボン

　　本発明は、電子部品および半導体パッケージ内において半導体素子と基板側リードフレーム部とを多数箇所の超音波接合によって接合し、ループ状に接続するための平角状銀クラッド銅リボン、特に高温パワー半導体素子と基板側リードフレーム部とを接続するための平角状銀クラッド銅リボンに関する。

　シリコン（Ｓｉ）、シリコンカーバイド（ＳｉＣ）、ダイヤモンド（Ｃ）、窒化ガリウム（ＧａＮ）、サファイアなどの半導体素子に搭載されたボンディングパッドとして、これまで主にアルミニウム（Al）、あるいは、ニッケル（Ｎｉ）、銅（Cu）、パラジウム（Ｐｄ）、金（Au）やそれらの合金からなるパッドが使用されている。また、基板側リードフレームには、アルミニウム（Ａｌ）合金や鉄（Fe）合金や銅（Cu）合金または金（Au）や銀（Ag）等の貴金属めっきや銅（Cu）、ニッケル（Ni）めっきやアルミニウム（Al）の真空蒸着がされた銅（Cu）合金、鉄（Fe）合金からなるリードフレーム、あるいは、これらの金属または合金からなるリードを搭載したセラミックスのリードフレームが主に使用されている。このパッド電極とリードフレーム等を超音波接合によって接続するのに、これまで主に平角状アルミニウムリボンが使用されてきた。平角状アルミニウムリボンの超音波ボンディング方法は、アルミニウムリボンの上に超硬ツールを押しつけ、その押圧荷重および超音波振動のエネルギーにより接合するものである。超音波印加の効果は、アルミニウムリボンの変形を助長するための接合面積の拡大と、アルミニウムリボンに自然に形成された１ナノメートル（ｎｍ）程度の酸化膜を破壊・除去することにより、アルミニウム（Ａｌ）等の金属原子を下面に露出させ、対抗するアルミニウム（Ａｌ）やニッケル（Ｎｉ）等のボンディングパッド電極とアルミニウムリボンとのパッド界面に塑性流動を発生させ、このパッド界面で互いに密着する新生面を漸増させながら、パッド電極とアルミニウムリボンとの両者を原子間結合させることにある。

　このような半導体素子のパッド電極と平角状アルミニウムリボンを介して接続する基板側のリードフレームとは、上記したようにそれぞれ材質が異なる。このため冶金的な溶融過程を伴わない超音波接合によってもこれらの接合界面ではこれら異種の金属間化合物が生成したりして、必ずしも強固な、信頼性の高い接合は達成できなかった。これらの解決策として、アルミニウム（Ａｌ）の片面にコバールなどの銅（Ｃｕ）合金を被着したクラッドリボンが提案されている（特公昭６０－２２８２７号公報、後述の特許文献１）。これは接合する一方の半導体素子側の電極がアルミパッドであり、他方がリードフレームなどの異種金属であるため、ボンディングワイヤをこれらの異種の金属に適した超音波接合特性を備える金属を貼り合せたクラッド積層材として、アルミパッドとコバールリードに対してワイヤのそれぞれの対応する金属面を接合しようとするものである。
　しかし、このクラッドリボンは、アルミクラッド側のアルミニウム（Ａｌ）層でパッド電極に超音波接合（第一ボンド）した後、リードフレーム側に超音波接合（第二ボンド）するにはコバールなどのより硬い金属材料からなるリード先端に合わせてクラッドリボンのコバール側を対応させるため、第一ボンド後クラッドリボンをループを描いて捻って回転させ、あるいは方向を反転させて第二ボンドする必要があった。
　また、クラッドリボンを構成する材料として、銅（Cu）合金が硬くアルミニウム（Al）が柔らかいため、ループ形成時にクラッドリボンが曲げ、あるいは捻られると銅（Cu）合金とアルミニウム（Al）との硬さの違いから、クラッドリボンのクラッド界面からはがれが発生した。このクラッド界面を強化するため熱処理することも考えられたが、熱処理すると銅（Cu）とアルミニウム（Al）の境界面に銅（Cu）とアルミニウム（Al）の脆弱な金属間化合物層が生成し、クラッド界面の密着強度を低下させ、その結果、かえってクラッド界面ではがれやすくさせてしまう。

　このような被覆層界面や接合界面で銅（Cu）とアルミニウム（Al）の相互拡散による金属間化合物が形成されることを防止するため、銅（Cu）合金とアルミニウム（Al）とのあいだに中間層としてニッケル（Ni）、あるいはチタン（Ti）、タングステン（W）、クロム（Cr）などの拡散防止層を設けることも行われている。
　しかし、これら中間層の形成は、ループ形成時におけるクラッド界面のはがれを抑制する効果はあるが、超音波が印加されたパッド電極と平角状クラッドリボンとの接合部においては、銅（Cu）合金層、ニッケル（Ni）中間層およびアルミニウム（Al）層のそれぞれに独自の塑性流動が発生するため、パッド界面のはがれを抑制することは困難であり、かえって、パッド電極とクラッドリボンとの接合強度のばらつきが大きくなることがわかった。

　また、これまでのパワー半導体素子は使用時に１５０℃の温度に達することもあるが、このパワー半導体素子に適用されるこれらの平角状ボンディングリボンにおいても、半導体素子の微細化、高密度化および搭載部品の大容量化が進むにつれて、電流の大電流化・高密度化が求められ、一方では半導体素子上のパッド電極は、金（Ａｕ）やニッケル（Ｎｉ）やアルミニウム（Ａｌ）またはこれらの合金、例えば、Ａｌ－Ｃｕ合金やＡｌ－Ｓｉ合金であるため、これらのパッドに対する超音波ボンディングにおける高い接合信頼性が要求され、このような用途には上記のアルミニウム（Ａｌ）の片面にコバールなどの銅（Ｃｕ）合金を被着したクラッドリボンでは不十分である。
　特開２００７－３２４６０３号公報（後述の特許文献２）は、そのような要求に応えて提案されたものであって、導電性の高い銅（Ｃｕ）を芯材としてアルミニウム（Ａｌ）や銀（Ａｇ）などをクラッドして高い導電性とパッドに対する超音波接合性を両立させたものである。
　この発明によれば、ワイヤ内側の銅（Ｃｕ）層に対して、外側の銀（Ａｇ）でクラッドする可能性が示唆され（後述の特許文献２の〔０００７〕段落、〔００３２〕段落）、これによって信頼性の高い超音波ボンディングによる接合が達成できるとしている。それによれば、内側の銅（ｕ）によって大きな電流容量を達成し、それに対して小さい厚さの銀（Ａｇ）クラッド層、実用上厚さ１～２００nm、有利には約２０～２５nmの被覆層によって、パッドに対する優れた超音波接合が達成できるとしている（後述の特許文献２の〔００１７〕段落）。

　このような大容量のクラッドリボンは、１００～１５０℃の耐熱温度を必要とする比較的高温の半導体、特にエアコン、太陽光発電システム、ハイブリッド車や電気自動車などの比較的高温環境下で使用されるパワー半導体に採用され、その半導体素子の動作条件は通常の半導体素子よりも高温度となる。例えば、車載用に使用される比較的高温環境下のパワー半導体に用いられるクラッドリボンは、最大で通常１００～１５０℃の接合部温度に耐える必要がある。このような比較的高温の環境下においては、クラッドリボン材料の内部酸化も課題として挙げられ、クラッドリボン表面を安定な皮膜で覆うなどの、クラッドリボン材料の耐酸化性向上が求められる。

特公昭６０－２２８２７号公報 特開２００７－３２４６０３号公報

　前述のような比較的高温に曝されるパワー半導体素子用クラッドリボンを用いた超音波接合は、パッド電極へ第一ボンド後にクラッドリボンのループを形成してリードフレームへ第二ボンドをし、場合によっては更にそれ以上の第三、第四の複数ボンドを行い、最終ボンド後にカッターでクラッドリボンを切断していた。
　ところが、これまでの銅（Ｃｕ）芯材にアルミニウム（Ａｌ）や銀（Ａｇ）などをクラッドしたクラッドリボンでは、クラッド界面の接合強度とパッド界面の接続信頼性を同時に満足することが困難であった。例えば、直接パッド電極に接する銀（Ａｇ）クラッド層の厚さを厚くして比較的柔らかいクラッド層により接合時にパッド電極へかかる負荷を緩和して第一ボンド時のチップ割れを防ごうとすると、ループを形成して屈曲して接合する際に銅（Cu）と厚さを大きくした銀（Ａｇ）の硬さの差により変形の度合いが異なるため、ループ形成時のクラッドリボンに加わる屈曲動作により、銀（Ａｇ）クラッド層のクラッド界面はがれが発生する。

　逆に、銀（Ａｇ）クラッド層の厚さを薄くすると、バッド電極との間の銀（Ａｇ）クラッド層がいわゆるクッション層として働かないため、接合時における超硬ツールの押圧荷重と印加される超音波のエネルギーによって銅（Cu）芯材層が変形し、銅（Cu）側の界面が直接パッド電極上へ露出することになる。このためボンディング時の押圧荷重と超音波エネルギーが露出された銅（Cu）の界面を介してパッドへ直接伝達され、パッド電極側の半導体素子にチップダメージが生じることになる。しかも、比較的高温のパワー半導体素子の大容量化に伴って、太陽光発電システム、ハイブリッド車や電気自動車などで使用するパワー半導体の動作温度がますます高くなり、このような銀（Ａｇ）クラッド銅リボンを１５０℃以上の高温で使用する高温パワー半導体になると、パッド電極のアルミニウム（Ａｌ）や金（Ａｕ）やニッケル（Ｎｉ）が銀（Ａｇ）クラッド層中を拡散し、銅（Ｃｕ）芯材と銀（Ａｇ）クラッド層が接合されたクラッド界面でＡｌ・Ｃｕ系の金属間化合物やＡｕ・Ｃｕ系の脆弱な化合物やＮｉ・Ｃｕ系の金属間化合物などがクラッド界面に形成される。これらの化合物は高温で増殖・成長するためそのクラッド界面からクラックが入り、クラッドリボンのクラッド界面における接合強度は十分とはいえないものであった。特に、動作温度が３００℃までの高温に近づけば近づくほど、銀（Ａｇ）クラッド層中を拡散するパッド金属の拡散速度が速くなる結果、クラッド界面における接合強度は不十分なものとなる。
また、銀（Ａｇ）クラッド層中に存在するアルミニウム（Ａｌ）等のパッド電極から拡散した元素が増える結果、銀（Ａｇ）クラッド層中にもＡｌ・Ａｇ系の脆弱な化合物相が形成され、パッド界面における長期間の接合部信頼性に欠ける結果となっていた。

　そこで、これらに対処するため、第一ボンドからループを描いて第二ボンドした銀クラッド銅リボンにおいて、１５０℃～３００℃の高温動作環境下でも、第一ボンドからループを描いて第二ボンドする超音波ボンディング時において、これまで通りに銀（Ａｇ）クラッド層の剥離を防止しながら、銅（Ｃｕ）芯材と銀（Ａｇ）クラッド層とのクラッド界面の接合強度を向上し、かつ、パッド電極のアルミニウム（Ａｌ）や金（Ａｕ）やニッケル（Ｎｉ）層とリボン側の銀（Ａｇ）クラッド層とを第一ボンドしたパッド界面における接合信頼性を確保することを本発明の課題とする。

　上記課題を解決するための手段として、本発明者らは１５０℃～３００℃の高温動作環境に第一ボンドからループを描いて第二ボンドした銀クラッド銅リボンを放置した場合、パッド界面においてボンディングに伴って形成された銀（Ａｇ）クラッド層の微細な結晶組織が粒状の比較的粒度の小さな再結晶組織に変化させることに着目した。
銀クラッド銅リボンをパッド電極に第一ボンドで超音波接合する際の状態を詳しく観察すると、銀クラッド銅リボンのパッド接合界面には超音波の振動とともに超音波ツールにより変形した銅（Ｃｕ）の機械的な圧縮力が銀（Ａｇ）クラッド層を介してパッド電極に加わり、銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面には転移網の密集した微細な結晶組織が形成される。本発明者らはあらかじめ銀クラッド銅リボンを熱処理して銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面における加工組織の高い歪を解消した組織に変えておくことにより、１５０℃～３００℃の高温動作環境下でも、銀クラッド銅リボンをクラッド加工したときの影響を受けない安定した粒状の結晶組織を銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面上に形成することに成功した。

　すなわち、銀クラッド加工後の銀クラッド銅リボンは、クラッド加工に伴ってクラッド層は塑性変形するため歪を伴う加工組織が形成されている。従来は、その加工度はさほど大きくないためそのままボンディングに使用されていたが、そのようなボンディングリボンでボンディングを行うとクラッド層のパッドとの接合界面近傍では上記したように超音波ツールにより塑性変形するため、クラッド加工に伴う加工組織は更に加工度を向上させて上記したような転移網の密集した微細な結晶組織が形成される。
　この結晶組織領域は、硬さがその周辺の結晶組織よりも高くなっており、また、その後の高温度の使用環境下に長時間置かれることにより、急速にかつ高度な再結晶化が進行してしまう。このため、銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面近傍に上記のパッドへの接合時に形成されたこのような微細な結晶組織が存在すると、この高歪み領域とクラッド界面近傍の再結晶組織の領域とはこのような内部組織の変化に起因した大きな硬度差があるため、銀（Ａｇ）クラッド層中のこの内部組織の変化が著しい箇所でクラックが生じ、銀クラッド銅リボンのパッド界面における接合信頼性が低下する。本発明者らは、クラッド加工後にボンディングリボンをアニールしておくことにより、パッドへの接合時に形成される高歪み領域の加工度を緩和して硬さを抑えると共に高温使用環境下での再結晶化を抑制して粒状の再結晶組織に変化させ、さらに、銀（Ａｇ）クラッド層中のパッド接合界面の高歪み領域が粒状の再結晶組織に変化すると、内部組織の変化に起因した硬度差が小さくなりこの界面でのクラックの発生を防ぐことができることを見出した。この粒状の再結晶組織は、比較的粒度が小さいが使用環境下で高温になればなるほど速く、大きく形成されて、その直上にある銀（Ａｇ）クラッド層中のアニール時のままの比較的大きな結晶粒とクラックが生じる前に両組織の硬度差が小さくなる。また、加工組織である微細な結晶組織から粒状の再結晶組織に変化することにより、銀（Ａｇ）クラッド層中に拡散進入するパッド電極のアルミニウム（Ａｌ）や金（Ａｕ）やニッケル（Ｎｉ）の拡散速度が遅くなり、クラッド界面のＡｌ・Ｃｕ系の金属間化合物などの形成が妨げられる。さらに、パッド接合界面近傍以外の銀（Ａｇ）クラッド層中の比較的大きな銀（Ａｇ）の結晶粒も、１５０℃～３００℃の高温動作環境下で第一ボンドによって形成された高ひずみを有する結晶粒からひずみが除かれ、芯材の銅（Ｃｕ）と銀（Ａｇ）との相互拡散が増し、銀クラッド銅リボンのクラッド界面の接合強度が高くなる。ただし、銀（Ａｇ）の純度が９９．９９９質量％を超えると、銀（Ａｇ）クラッド層中の再結晶組織の領域が二次再結晶を起こして粗大化するとともに、パッド界面近傍の銀（Ａｇ）クラッド層中の高歪み領域の結晶粒も粗大成長をし、二次再結晶組織よりも更に大きくなる。このような粗大結晶粒は強度が小さく、パッド界面の近傍付近に付与される熱応力でクラックが生じやすく、高温動作時にパッド界面の接合信頼性が低下するので好ましくない。

　１５０～３００℃の環境下で用いられるパワー半導体に使用する本発明の銀クラッド銅リボンの特徴は以下の通りである。すなわち、本発明は、半導体素子のパッドと基板との間を多数箇所の超音波接合によってループ状に接続するための銀（Ａｇ）クラッド層および銅（Cu）芯材テープからなる平角状銀クラッド銅リボンにおいて、前記銀クラッド銅リボンは、クラッド後に４５０℃～７５０℃で熱処理されたものであり、前記熱処理された銀（Ａｇ）クラッド層は、３０～８０Ｈｖのビッカース硬さをもつ純度９９質量％～純度９９．９９９質量％の銀（Ａｇ）からなり、前記熱処理された銅（Cu）芯材テープは５０～８０Ｈｖのビッカース硬さをもつ純度９９．９質量％～純度９９．９９９９質量％の銅（Cu）からなることを特徴とする。

　なお、銀（Ａｇ）クラッド層の厚さは、超音波ボンディング時の超音波ツールの加圧力や超音波エネルギー（特定周波数の振幅×時間）やパッド電極の加熱温度によって適宜定まるが、粒状の結晶組織を形成するのに５μｍ～２００μｍの範囲が好ましい。前記の特許文献２で好適範囲とされているような厚さでは、粒状の結晶組織を形成することができず、高温半導体においてパッド電極からクラッド界面へアルミニウム（Ａｌ）等の金属が拡散するのを防ぐことができない。また、銀（Ａｇ）クラッド層の厚さが５μｍ未満では、１５０～３００℃の高温動作環境下で銀（Ａｇ）クラッド層の全ての銀（Ａｇ）が脆弱なＡｇ－Ａｌ化合物に変わってしまい、また、銀（Ａｇ）クラッド層中に拡散した銅（Cu）もＡｌ・Ｃｕ系の金属間化合物などを形成し、銀（Ａｇ）クラッド層と銅（Cu）芯材とのクラッド界面でクラックが発生する。
　他方、銅（Cu）芯材の厚さに対する銀（Ａｇ）クラッド層の厚さは、１／１０～２／３の範囲が好ましい。

　ここで、「クラッド」とは、銅（Cu）芯材テープの全面に銀（Ａｇ）薄テープ層を、圧力と熱を加えて圧延してオーバーレイ接合する周知の技術である。得られた銀クラッド銅リボンは圧延されているので、加工ひずみが残っていると考えられる。これをクラッド後の熱処理で取り除いておくのである。このため銀（Ａｇ）クラッド層は、純度ができるだけ高いほうが好ましく、純度９９質量％の銀（Ａｇ）よりも純度９９．９質量％の銀（Ａｇ）のほうが好ましい。しかし、純度が高くなりすぎると、上述したとおり、結晶組織が粗大化しやすくなるため純度９９．９９９質量％の銀（Ａｇ）よりも純度９９．９９質量％の銀（Ａｇ）のほうが好ましい。同様に、純度９９．９９質量％～純度９９．９９９質量％の銅（Cu）が好ましい。
　ただし、銀（Ａｇ）および銅（Cu）の純度や微量添加物の種類は、使用する高温半導体の目的に応じて適宜選択することができるが、銀クラッド銅リボンでは超音波接合時の加工硬化の程度をできるだけ低くすることが重要なので、銀（Ａｇ）クラッド層の硬さを３０～８０Hvのビッカース硬さとし、銅（Cu）芯材テープの硬さを５０～８０Hvのビッカース硬さとした。なお、純度９９．９９％以上の銅（Cu）、更には純度９９．９９５％以上の銅（Cu）のように、より高純度の銅（Cu）を使用することは、ループ形成時や接合時における加工硬化を低減させるうえから好ましい。このような高純度化により、ループ形成時において急峻なループを描いても、銅（Cu）芯材テープと銀（Ａｇ）クラッド層とのクラッド界面からはく離しにくくなる。また、第一ボンド時においては、超硬ツールの機械的圧縮による銀クラッド銅リボンの加工硬化が起こりにくくなり、パッド電極のチップダメージを防ぐ効果がある。

　高温環境下では、銀クラッド銅リボン内の銀（Ａｇ）と銅（Cu）とのクラッド界面で相互拡散が生じて接合強度が強化されるが、パッド電極の金属が銀（Ａｇ）クラッド層中に拡散してＡｌ・Ｃｕ系の金属間化合物などが形成され、クラッド界面でクラックが入りやすくなる。そのため銀（Ａｇ）と銅（Cu）とのクラッド界面間に拡散防止層を形成することは有効であって、拡散防止層は既知のニッケル（Ni）、亜鉛（Ｚｎ）あるいはチタン（Ti）、タングステン（W）、クロム（Cr）に加え、Cuと全率固溶である金、パラジウム、白金およびその他白金族金属などを湿式めっきやクラッドや真空析出させることができる。この拡散防止層は、銀（Ａｇ）クラッド層および銅（Cu）芯材テープの合計膜厚に対してきわめて薄く、最大でも数％オーダーの膜厚に過ぎないので、超音波ボンディング時に拡散防止層の硬さの影響は無視することができる。

　本発明における銀（Ａｇ）クラッド層は、第一ボンド時に形成されたパッド界面近傍にある高ひずみの微細な結晶組織を高温動作環境下で粒状の結晶組織に変えることにより、微細な結晶粒界を伝って拡散するアルミニウム（Ａｌ）等の進行を遅らせる効果がある。このためクラッド界面にＡｌ・Ｃｕ系の金属間化合物などが形成するのを遅らせる効果がある。他方、銀クラッド銅リボンは高純度の金属を用いているので、クラッド界面における銀（Ａｇ）と銅（Cu）の相互拡散を促進させる結果、１５０℃～３００℃の高温動作環境下でクラッド界面における接合強度が増加する効果がある。また、銀（Ａｇ）クラッド層内の結晶組織の違いに起因した硬度差は、第一ボンドによって形成された高ひずみを有する結晶粒からひずみが除かれ粒状の結晶組織が形成されることにより、銀（Ａｇ）クラッド層内の硬度差は小さくなる。このため１５０℃～３００℃の高温動作環境に放置しても、銀（Ａｇ）クラッド層内のパッド界面近傍にある結晶組織の相違する箇所からクラックが入ることが無く、パッド電極と銀（Ａｇ）クラッド層とのパッド接合界面における接合信頼性が向上する効果がある。

図１（Ａ）～（Ｃ）は、クラッド後のアニール温度と信頼性試験後のＡｇ／Ａｌ接合界面の金属組織との関係を示す断面組織写真図（１００倍）であって、（Ａ）アニールなし、（Ｂ）本発明のアニール処理を行ったもの。アニール温度４５０～７６０℃の範囲で同様な結果であった。（Ｃ）アニール温度が本発明範囲を超えて高かったもの。 図２は、１７５℃／－５０℃の熱サイクル試験（各温度で３分間、合計１０００サイクル）後のパッド接合部の断面組織を示す。（Ａ）倍率５倍、（Ｂ）倍率１０倍であって、パッド界面にクラック発生は見られない。 図３は、クラッド後のアニールしない比較例のボンディングリボンの超音波ボンディングした後、１７５℃／－５０℃の熱サイクル試験（各温度で３分間、合計１０００サイクル）後の断面組織を示す。（Ａ）倍率５倍、（Ｂ）倍率１０倍であって、パッド界面にクラック発生。 図４は、クラッド後のアニール温度と信頼性試験後のＡｇ／Ａｌ接合界面の詳細を示す組織顕微鏡図である。 図５は、従来のクラッドボンディングリボンにより、半導体素子のパッドとリードフレームを超音波接合により接続した状態を示す図である。

　本発明のボンディングリボンにおいて、銅（Cu）芯材テープの純度は９９．９％以上であることが好ましい。ループ変形時の加工硬化をできるだけ少なくし、ボンディングスピードを速め、単位時間当たりの接続個数を多くするためである。銅（Cu）芯材テープの純度や種類は使用する対象の半導体やリードフレーム等によって適宜定まるが、ボンディング時における銅（Cu）芯材テープの加工硬化および不純物の混入を避けるため、純度９９．９９質量％以上、より好ましくは純度９９．９９５質量％～純度９９．９９９質量％が望ましい。銅（Cu）芯材テープのビッカース硬さは、純度９９．９９９９質量％以上の銅（Cu）の硬さである５０Ｈｖから、超音波ボンディング時の加工硬化を避ける８０Ｈｖの範囲が好ましい。

　銀（Ａｇ）クラッド層の純度は純度９９．９９９質量％以下であることが好ましい。これは、超音波ボンディング後の１５０℃～３００℃の高温動作環境下で銀（Ａｇ）クラッド層中のパッド界面上に粒状組織を形成させ、パッド電極のアルミニウム（Al）金属等が銀（Ａｇ）クラッド層中に拡散するのを回避し、接合信頼性を確保するためである。銀（Ａｇ）クラッド層の、純度９９．９９９質量％以上の銀（Ａｇ）の硬さである３０Ｈｖから、半導体素子のチップ割れを防ぐ８０Ｈｖの範囲が好ましい。

　本発明の銅（Cu）芯材テープの硬さは、銀（Ａｇ）クラッド層の硬さの１．５倍以下であることがより好ましい。より急峻なループを描いてもCu／Ａｇ界面からはく離しにくくするためである。さらに、超音波ボンディングの接合部における銀（Ａｇ）クラッド層の過度な変形および剥離を抑制し、安定した接合信頼性の確保とチップダメージを回避するためである。

　また、銀（Ａｇ）クラッド層の厚さは、ループ形成時における銅（Cu）芯材テープとの耐はがれ性の点から、２００μｍ以下であることが好ましい。さらに、銀（Ａｇ）クラッド層の膜厚が５μｍ未満と薄すぎる場合、１５０℃～３００℃の高温動作環境下で十分な粒状の結晶組織を形成することができず、パッド電極の金属と銀（Ａｇ）が脆弱な結晶粒組織を形成するとともに、高温動作環境下でパッド電極からクラッド界面へアルミニウム（Ａｌ）等の金属が拡散するのを防ぐことができない。より好ましくは２０～８０μmの領域であり、経済的観点から２０～５０μmの領域が最も優れている。

　以下、本発明の実施例を説明する。
〔実施例１〕
〔銅（Cu）芯材テープの作製〕
直径７００μｍの純度９９．９９質量％の銅（Cu）線材を圧延加工して、幅１．９ｍｍ、厚さ０．１６ｍｍの銅（Cu）芯材テープを作製した。次いで、圧延加工したテープを７５０℃の水素混合窒素雰囲気中でフルアニールしたところ、芯材テープはビッカース硬さが７０Ｈｖから５５Ｈｖとなった。この芯材テープの特性を表１に示す。
　なお、同様にして圧延加工した純度９９．９９９９質量％の銅（Cu）テープをフル・アニールすると、ビッカース硬さは５５～５０Hvまで低下した。

〔銀（Ａｇ）クラッド層の作製〕
純度９９．９質量％の銀（Ａｇ）テープ材を圧延加工して、幅１．９ｍｍ　厚さ０．０６ｍｍの銀（Ａｇ）クラッド層テープを作製した。次いで、クラッド層テープをフルアニールしたところ、クラッド層はビッカース硬さが６０Ｈｖから４５Ｈｖなった。このクラッド層の特性を表１に示す。
　　なお、同様にして、純度９９．９９９９質量％の銀（Ａｇ）テープをフルアニールすると、ビッカース硬さは３５Ｈｖまで低下した。

〔銀クラッド銅リボンの作製〕
上下２段ロール式加熱圧着装置に水素混合窒素ガスを流入し、銀（Ａｇ）クラッド層と銅（Cu）芯材テープとを接合後冷間圧延をし、幅２．０ｍｍ　厚さ０．２ｍｍの銀クラッド銅リボンとした。次いで、これらの銀クラッド銅リボンを洗浄後７００℃の水素混合窒素雰囲気中でフルアニールして銀クラッド銅リボン（１）とした。

〔銀クラッド銅リボンの観察〕
この銀クラッド銅リボン（１）を希薄な硝酸でエッチング後、５ｋV×３０分（傾角４５度、偏芯３ｍｍ）でイオンミリングした後、長手方向の断面を金属顕微鏡（オリンパス社製型式ＰＭＧ３）で５倍、１０倍、及び１００倍でそれぞれ観察した。ライン分析の結果から、銀（Ａｇ）と銅（Cu）のクラッド界面では７００℃のフルアニールによって相互拡散がまったく生じていないことがわかった。

〔超音波接合試験〕
　次いで、この銀クラッド銅リボン（１）を純度９９．９９質量％のアルミニウム（Ａｌ）板（厚さ２ｍｍ）上に超音波ボンディング（第一ボンド）した後、３μｍのNiめっきを施した純度９９．９５質量％の銅（Cu）基板（厚さ２ｍｍ）上に超音波ボンディング（第二ボンド）した。装置は、オーソダイン社（Orthodyne  Electronics Co.）製全自動リボンボンダー３６００R型にて、８０ｋＨｚの周波数で、荷重および超音波負荷条件については、潰れ幅が１．０１～１．０２倍になる条件で全サンプルについて同一条件でボンディングを実施した。また、ボンディングリボンのループ長は５０ｍｍで、ループ高さは３０ｍｍとし、通常条件よりもリボンや経路やツールから受ける摺動抵抗が大きくなるような条件に設定した。そして、各試料ともｎ＝５０個で超音波ボンディングした場合にボンディング中に発生したリボンの切断回数を調べたところ、切断したものはなかった。また、接合強度は、リボン側面よりＤＡＧＥ万能ボンドテスターＰＣ５０００型にて接合部側面からのシェア強度測定を実施し、その判定結果を表１に記載した。

〔信頼性試験前の内部組織の観察〕
　第一ボンドされた接合直後の銀クラッド銅リボン（１）の長手方向の断面をイオンミリングでエッチング後、そのクラッド界面およびパッド界面を金属顕微鏡で観察し、ライン分析した。金属顕微鏡の断面写真から、銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面には高ひずみの微細な結晶組織が形成され、クラッド界面には大きな結晶粒組織が形成されていることがわかった。また、ライン分析の結果から、銀（Ａｇ）と銅（Cu）のクラッド界面では相互拡散が依然生じていないことがわかった。

〔信頼性試験〕
　次いで、この銀クラッド銅リボン（１）の信頼性試験を１７５℃／－５０℃の熱サイクル試験（各温度で３分間、合計１０００サイクル）で行った。使用装置は、日立ヒートショック試験装置：ＥＳ－６０ＬＭＳ〔液例サイクル試験機〕。高温信頼性の試験は、第一ボンド直後のシェア強度に対する信頼性試験後のシェア強度の低下割合を測定し、表１に併記した。なお、判定は、信頼性試験後の強度比を基にし、信頼性試験後の強度比が０．９以上のものを二重丸（◎）で表記し、０．７以上０．９未満のものを一重丸（○）で表記し、０．７未満のものをバツ（×）印で表記した。表１から明らかな通り、本発明の銀クラッド銅リボン（１）の高温接合信頼性は優れており、これは銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面の高ひずみの微細な結晶組織が微細な結晶粒組織に変化していることによる（図４下段図）。

〔信頼性試験後の観察〕
　信頼性試験後の銀クラッド銅リボン（１）の長手方向の断面をイオンミリングでエッチング後、そのクラッド界面およびパッド界面を金属顕微鏡で観察し、ライン分析した。金属顕微鏡の断面写真（図１-Ｂ、図２及び図４下段図）から、銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面には高ひずみの微細な結晶組織が微細な結晶粒組織に変化し、クラッド界面にはより大きな結晶粒組織が形成されていることがわかる。また、ライン分析の結果から、銀（Ａｇ）と銅（Cu）のクラッド界面では相互拡散が生じており、銀（Ａｇ）クラッド層中のパッド界面近傍ではアルミニウム（Al）の拡散が余り進んでいないことがわかった。
　また、図４に同じクラッド後の銀クラッド銅リボンについて、熱処理を行ったもの（下段）と、熱処理を行わなかったもの（上段）について、アルミパッドに対してボンディング接合し、それぞれ熱サイクル試験後のより詳細な組織状態を示す。
　図４によれば、熱処理を行わなかった場合、Ａｇ接合界面近傍の結晶組織は粗く、粗大な結晶に成長しており、熱サイクル試験後のＡｇ層接合界面にクラック、ボイドが形成されていることがわかる（図４上段右図）。一方、本発明の熱処理を行ったものは接合後のＡｇ接合界面近傍の結晶組織が微細な粒状結晶組織に変化しており（図４下段左右図）、熱サイクル試験後のＡｇ層接合界面でも微細な粒状結晶組織が維持されている。
〔実施例２〕

〔銅（Cu）芯材テープの作製〕
実施例１と同様にして、直径５００μｍの純度９９．９９９質量％の銅（Cu）線材に純度９９．９質量％のニッケル（Ni）をマグネトロンスパッタにより０．１μｍ成膜したものを冷間加工して、幅１．７ｍｍ、厚さ０．４６ｍｍの銅（Cu）芯材テープを作製した。次いで、実施例１と同様にしてフルアニールしたところ、芯材テープはビッカース硬さが７０Ｈｖから５５Ｈｖとなった。

〔銀（Ａｇ）クラッド層の作製〕
実施例１と同様にして、直径６００μｍの純度９９．９９９質量％の銀（Ａｇ）線材を圧延加工して、幅２．０ｍｍ、厚さ１３０μｍの銀（Ａｇ）クラッド層を作製し７００℃の水素混合窒素雰囲気中でフルアニールしたところ、銀（Ａｇ）クラッド層はビッカース硬さが４０Ｈｖから３５Ｈｖとなった。この芯材テープおよびクラッド層の構成を表１に示す。

〔銀クラッド銅リボンの作製〕
実施例１と同様にして、銀クラッド銅リボンを得、７４０℃でフルアニールして銀クラッド銅リボン（２）とした。

〔銀クラッド銅リボンの観察〕
この銀クラッド銅リボン（２）を実施例１と同様にして、長手方向の断面を金属顕微鏡で観察し、クラッド界面をライン分析した。金属顕微鏡の断面写真から、銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面には高ひずみの微細な結晶組織が形成され、クラッド界面には大きな結晶粒組織が形成されていることが確認された。また、ライン分析の結果から、銀（Ａｇ）と銅（Cu）のクラッド界面では相互拡散が依然生じていないことがわかった。

〔超音波接合試験〕
　次いで、この銀クラッド銅リボン（２）を実施例１と同様に試験をし、その判定結果を表１に記載した。なお、ｎ＝５０のボンディング中にリボンが切断したものはなかった。

〔信頼性試験前の内部組織の観察〕
　実施例１と同様にして、金属顕微鏡で観察し、ライン分析した。金属顕微鏡の断面写真から実施例１と同様に、銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面には高ひずみの微細な結晶組織が形成され、クラッド界面には大きな結晶粒組織が形成されていることが確認された。

〔信頼性試験〕
　次いで、実施例１と同様にして、この銀クラッド銅リボン（２）を１７５℃／－５０℃の熱サイクル試験（各温度で３分間、合計１０００サイクル）を行い、表１に併記した。使用装置は、日立ヒートショック試験装置：ＥＳ－６０ＬＭＳ〔液冷サイクル試験機〕。表１から明らかな通り、本発明の銀クラッド銅リボン（１）の高温接合信頼性は、実施例１と同様に優れており、これは銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面には高ひずみの微細な結晶組織が微細な結晶粒組織に変化していることによる。

〔信頼性試験後の観察〕
　信頼性試験後の銀クラッド銅リボン（２）の長手方向の断面をイオンミリングでエッチング後、そのクラッド界面およびパッド界面を金属顕微鏡で観察し、ライン分析した。金属顕微鏡の断面写真による観察から、銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面には高ひずみの微細な結晶組織が微細な結晶粒組織に変化しているものの、クラッド界面では実施例１の銀クラッド銅リボン（１）のより大きな結晶粒組織ほど結晶組織が成長していないことが観察された。また、ライン分析の結果から、銀（Ａｇ）と銅（Cu）のクラッド界面では、実施例１と異なり、相互拡散がある程度生じており、銀（Ａｇ）クラッド層中のパッド界面近傍では、実施例１と同様に、アルミニウム（Al）の拡散が余り進んでいないことがわかった。

〔捻回試験〕
　次いで、この銀クラッド銅リボン（１）、（２）について、約１ｍの試料の一端を固定し、他端を毎分１回転で右回転１５回した後、逆に左回転１５回して銀（Ａｇ）および銅（Cu）ないしニッケル（Ni）とのクラッド界面のはがれを観察した。
　銀クラッド銅リボン（１）、（２）のいずれにも境界面のはがれは生じていなかった。このことから、本発明に銀（Ａｇ）クラッド層のはがれ抑制特性は優れていることがわかる。
　さらに熱処理条件について、実施例１の銀クラッド銅リボンを通電式電気炉において加熱してアニールした実施例３及びアニール温度を４００℃とした実施例４の結果を表１に示す。アニール温度が４００℃の場合、芯材及びクラッド層の硬さが高く、信頼性試験結果も若干劣ることがわかる。

比較例

〔銅（Cu）芯材テープの作製〕
実施例１と同様にしてビッカース硬さが５０Hvの芯材テープを作成した。

〔銀（Ａｇ）クラッド層の作製〕
実施例１と同様にしてビッカース硬さが６０Hvの銀（Ａｇ）クラッド層を作成した。

〔銀クラッド銅リボンの作製〕
実施例１と同様にして銀（Ａｇ）クラッド層と銅（Cu）芯材テープとを接合し、４５０℃～７５０℃の水素混合窒素雰囲気中のフルアニール工程を除いた以外は実施例１と同様にして、銀クラッド銅リボン：比較例１とした。

〔銀クラッド銅リボンの観察〕
この比較例１の銀クラッド銅リボンをイオンミリングでエッチング後、長手方向の断面を金属顕微鏡で観察し、銀（Ａｇ）と銅（Cu）のライン分析をした。
ライン分析の結果から、銀（Ａｇ）と銅（Cu）のクラッド界面では実施例１と同様に相互拡散がまったく生じていないことがわかった。

〔超音波接合試験〕
　次いで、この比較例１の銀クラッド銅リボンを実施例１と同様にして第一ボンドおよび第二ボンドした。そして、各試料ともｎ＝５０個で超音波ボンディングした場合にボンディング中に発生したリボンの切断回数を調べたところ、切断したものはなかった。また、接合強度は、リボン側面よりＤＡＧＥ万能ボンドテスターＰＣ５０００型にて接合部側面からのシェア強度測定を実施し、その判定結果を表１に記載した。

〔信頼性試験前の内部組織の観察〕
　第一ボンドされた接合直後の比較例１の銀クラッド銅リボンについて、実施例１と同様に金属顕微鏡で観察し、ライン分析した。金属顕微鏡の断面写真から、実施例１と同様に、銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面には高ひずみの微細な結晶組織が形成され、クラッド界面には大きな結晶粒組織が形成されていることがわかった。また、ライン分析の結果から、銀（Ａｇ）と銅（Cu）のクラッド界面では相互拡散が依然生じていないことがわかった。

〔信頼性試験〕
　次いで、この比較例１の銀クラッド銅リボンを実施例１と同様にして信頼性試験を行った。高温信頼性の試験は、第一ボンド直後のシェア強度に対する信頼性後のシェア強度の低下割合を測定し、表１に併記した。　なお、判定は、信頼性試験後の強度比を基にし、信頼性試験後の強度比が０．９以上のものを二重丸（◎）で表記し、０．７以上０．９未満のものを一重丸（○）で表記し、０．７未満のものをバツ（×）印で表記した。表１から明らかな通り、比較例１の銀クラッド銅リボンの高温接合信頼性は劣っており、これは後述のとおり、銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面には高ひずみの微細な結晶組織が銀（Ａｇ）とアルミニウム（Al）の化合物からなる脆弱な結晶粒組織に変化していることによる。

〔信頼性試験後の観察〕
　信頼性試験後の比較例１の銀クラッド銅リボンの長手方向の断面をイオンミリングでエッチング後、そのクラッド界面およびパッド界面を金属顕微鏡で観察し、ライン分析した。金属顕微鏡の断面写真（図１－Ａ、図３及び図４上段図）から、銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面には高ひずみの微細な結晶組織が脆弱な結晶粒組織に変化し、クラッド界面にはより大きな結晶粒組織が形成されていることがわかる。また、ライン分析の結果から、銀（Ａｇ）と銅（Cu）のクラッド界面ではアルミニウム（Al）の拡散が生じてアルミニウム（Al）と銅（Cu）の金属間化合物が形成されており、銀（Ａｇ）クラッド層中のパッド界面近傍ではアルミニウム（Al）の拡散によって銀（Ａｇ）とアルミニウム（Al）の化合物が形成されていることがわかった。
　さらに、比較例２として、実施例１の銀クラッド銅リボンのアニール温度を本発明範囲を超えて、７７０℃としたものについて、芯材及びクラッド層の硬さ、信頼試験結果を表１に示す。その金属顕微鏡の断面写真から、銀（Ａｇ）クラッド層のパッド界面近傍が粗大な結晶組織となり、接合界面にクラックが発生していることがわかる（図１－Ｃ）。
　アニール温度が本発明範囲を超えると、芯材及びクラッド層の硬さが低下するが、信頼性試験結果は不良となる。これは、アニール温度の上昇に伴って再結晶化が著しく進行して粗大な結晶組織となるためであって、本発明のアニール温度範囲を外れると銀クラッド銅リボンとして使用できないことを示している。

　１　　ボンディングリボン
　２　　銀（Ａｇ）クラッド層
　３　　銅芯材
　４　　アルミパッド
　５　　リードフレーム

Claims (5)

1. 　半導体素子のパッドと基板との間を多数箇所の超音波接合によってループ状に接続するための銀（Ａｇ）クラッド層および銅（Cu）芯材テープからなる平角状銀クラッド銅リボンにおいて、前記銀クラッド銅リボンは、クラッド後に４５０℃～７５０℃で熱処理されたものであり、前記熱処理された銀（Ａｇ）クラッド層は、３０～８０Ｈｖのビッカース硬さをもつ純度９９質量％～純度９９．９９９質量％の銀（Ａｇ）からなり、前記熱処理された銅（Cu）芯材テープは５０～８０Hvのビッカース硬さをもつ純度９９．９質量％～純度９９．９９９９質量％の銅（Cu）からなることを特徴とする高温半導体素子用平角状銀（Ａｇ）クラッド銅リボン。
2. 　前記銀（Ａｇ）クラッド層の厚さが、５μm以上２００μm以下である請求項１に記載の高温半導体素子用平角状銀クラッド銅リボン。
3. 　前記銅（Cu）芯材テープの純度が純度９９．９９質量％～純度９９．９９９質量％である請求項１に記載の高温半導体素子用平角状銀クラッド銅リボン。
4. 　前記銀（Ａｇ）クラッド層の純度が純度９９．９質量％～純度９９．９９質量％である請求項１に記載の高温半導体素子用平角状銀クラッド銅リボン。
5. 　前記高温半導体素子が１５０℃～３００℃の動作環境で使用される請求項１に記載の高温半導体素子用平角状銀クラッド銅リボン。

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