WO2010053058A1 - 電気化学素子 - Google Patents
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Abstract
本発明は、正極、負極、非水電解液およびセパレータを備える電気化学素子であって、セパレータは、熱可塑性樹脂を主体とする微多孔膜からなる多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む多孔質層(II)とを有し、多孔質層(II)が少なくとも正極に面しており、負極は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度比であるR値(I1360/I1580)が0.1~0.5であり、002面の面間隔(d002)が0.338nm以下である黒鉛を負極活物質として含有し、負極活物質中での前記黒鉛の割合が30質量%以上である。
Description
本発明は、過充電時における安全性と、低温での充電特性に優れた電気化学素子に関するものである。
リチウム二次電池などの電気化学素子は、エネルギー密度が高いという特徴から、携帯電話やノート型パーソナルコンピューターなどの携帯機器の電源として広く用いられている。例えば、リチウム二次電池では、携帯機器の高性能化に伴って高容量化が更に進む傾向にあり、安全性の確保が重要となっている。
現行のリチウム二次電池では、正極と負極の間に介在させるセパレータとして、例えば厚みが20~30μm程度のポリオレフィン系の微多孔膜が使用されている。また、セパレータの素材としては、電池の熱暴走温度以下でセパレータの構成樹脂を溶融させて空孔を閉塞させ、これにより電池の内部抵抗を上昇させて短絡の際などに電池の安全性を向上させる所謂シャットダウン効果を確保するため、融点の低いポリエチレンが適用されることがある。
ところで、こうしたセパレータとしては、例えば、多孔化と強度向上のために一軸延伸あるいは二軸延伸したフィルムが用いられている。このようなセパレータは、単独で存在する膜として供給されるため、作業性などの点で一定の強度が要求され、これを上記延伸によって確保している。しかし、このような延伸フィルムでは結晶化度が増大しており、シャットダウン温度も、電池の熱暴走温度に近い温度にまで高まっているため、電池の安全性確保のためのマージンが十分とは言い難い。
また、上記延伸によってフィルムにはひずみが生じており、これが高温に曝されると、残留応力によって収縮が起こるという問題がある。収縮温度は、融点、すなわちシャットダウン温度と非常に近いところに存在する。このため、ポリオレフィン系の微多孔膜セパレータを使用するときには、充電異常時などに電池の温度がシャットダウン温度に達すると、電流を直ちに減少させて電池の温度上昇を防止しなければならない。空孔が十分に閉塞せず電流を直ちに減少できなかった場合には、電池の温度は容易にセパレータの収縮温度にまで上昇するため、内部短絡の危険性があるからである。
このようなセパレータの熱収縮による短絡を防止し、電池の信頼性を高める技術として、例えば、シャットダウン機能を確保するための樹脂を主体として含む第1セパレータ層と、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む第2セパレータ層とを有する多孔質のセパレータを用いて電気化学素子を構成することが提案されている(特許文献1)。
特許文献1の技術によれば、異常過熱した際にも熱暴走が生じ難い安全性に優れたリチウム二次電池などの電気化学素子を提供することができる。
また、リチウム二次電池などの電気化学素子には、上記のような安全性以外の特性向上も種々検討されている。例えば、特許文献2、3には、表面が結晶性の低い炭素材で被覆されている負極活物質を使用することで、容量を大きくでき、また、初期充放電サイクル時の不可逆容量を小さくして、充放電サイクルの容量維持率を高め、更に急速充放電特性を大きく改良できることが開示されている。
ところで、最近のリチウム二次電池などの電気化学素子では、適用する機器の高性能化に伴って、例えば高容量化が図られる傾向にあるが、それと同時に、過充電に対する安全性もより高いレベルで確保できることが要求される。特許文献1に開示の電気化学素子は過充電に対する安全性も良好であるものの、将来、これを更に上回る技術が要求されるようになることも予想される。
また、電気化学素子が様々な温度環境下で使用されることを考慮すると、電気化学素子の反応性が低下する低温環境下においても、実用に支障のない充電特性を備えることも求められる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、過充電時における安全性と、低温での充電特性に優れた電気化学素子を提供する。
本発明の電気化学素子は、正極、負極、非水電解液およびセパレータを含む電気化学素子であって、上記セパレータは、熱可塑性樹脂を主体とする微多孔膜からなる多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む多孔質層(II)とを有し、上記多孔質層(II)が少なくとも正極に面しており、上記負極は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度比であるR値が0.1~0.5であり、002面の面間隔d002が0.338nm以下である黒鉛を負極活物質として含有しており、上記負極活物質中での上記黒鉛の割合が30質量%以上であることを特徴とするものである。
本発明によれば、過充電時における安全性と、低温(特に0℃以下の低温)での充電特性に優れた電気化学素子を提供することができる。
本発明の電気化学素子は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度比であるR値が0.1~0.5であり、002面の面間隔d002が0.338nm以下である黒鉛を負極活物質として含有し、上記負極活物質中での上記黒鉛の割合が30質量%以上である負極を用いるものである。上記負極活物質を含有する負極を使用することで、電気化学素子の反応性が低下する低温(例えば、0℃以下の低温)での優れた充電特性を維持することができる。
ところで、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、上記負極活物質を含有する負極に、厚みが薄く、孔径が広いセパレータを組み合わせることによって、上記負極活物質を含有する負極を用いたことによる効果をより活かすことができることを見出した。ただし、単にセパレータの厚みを薄くするだけでは、セパレータの強度を確保できないため、本発明では、熱可塑性樹脂を主体とする微多孔膜からなる多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む多孔質の多孔質層(II)とを有するセパレータを用いることにした。これにより、セパレータの形状安定性と、過充電時における安定性を確保しつつ、上記負極を使用することによる効果を高めることができる。
さらに、本発明では、多孔質層(II)を少なくとも正極に面するようにセパレータを配置することとした。これにより、過充電時におけるセパレータの酸化劣化を抑制できる。
本発明の電気化学素子では、上記の各作用によって、過充電時の安全性を確保しつつ低温(特に0℃以下の低温)での特性向上を図っている。
なお、後記の多孔質基体を除き、本明細書でいう「耐熱温度が150℃以上」とは、少なくとも150℃において軟化などの変形が見られないことを意味している。
また、本明細書でいう多孔質層(I)における「熱可塑性樹脂を主体とする」とは、多孔質層(I)内の固形分比率で、熱可塑性樹脂である樹脂(A)が50体積%以上であることを意味している。更に、本明細書でいう多孔質層(II)における「耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む」とは、層内の固形分比率(ただし、後記の多孔質基体を有する場合においては、多孔質基体を除いた固形分比率)で、耐熱温度が150℃以上のフィラーが50体積%以上であることを意味している。
本発明の電気化学素子は、特に限定されるものではなく、非水電解液を用いるリチウム二次電池の他、リチウム一次電池やスーパーキャパシタなどが含まれ、特に過充電時や高温での安全性が要求される用途に好ましく適用できる。
以下に、本発明の電気化学素子の各構成要素について説明する。まず、ここでは、本発明の電気化学素子で用いるセパレータについて詳細に説明する。
セパレータに係る多孔質層(I)は、主にシャットダウン機能を確保するためのものである。本発明の電気化学素子の温度が多孔質層(I)の主体となる成分である熱可塑性樹脂[以下、樹脂(A)と称する]の融点以上に達したときには、多孔質層(I)に係る樹脂(A)が溶融してセパレータの空孔を塞ぎ、電気化学反応の進行を抑制するシャットダウンを生じる。
また、セパレータに係る多孔質層(II)は、電気化学素子の内部温度が上昇した際にも正極と負極との直接の接触による短絡を防止する機能を備えたものであり、耐熱温度が150℃以上のフィラーによって、その機能を確保している。すなわち、電気化学素子が高温となった場合には、喩え多孔質層(I)が収縮しても、収縮し難い多孔質層(II)によって、セパレータが熱収縮した場合に発生し得る正負極の直接の接触による短絡を防止することができる。また、後述するように多孔質層(I)と多孔質層(II)が一体化した構成の場合には、この耐熱性の多孔質層(II)が、セパレータの骨格として作用し、多孔質層(I)の熱収縮、すなわちセパレータ全体の熱収縮を抑制する。
多孔質層(I)に係る樹脂(A)は、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に後で詳述する電気化学素子の有する非水電解液や、セパレータ製造の際に使用する溶媒(詳しくは後述する)に安定な熱可塑性樹脂であれば特に制限は無いが、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体などのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレートや共重合ポリエステルなどのポリエステル;などが好ましい。
なお、本発明のセパレータは、80℃以上150℃以下(より好ましくは100℃以上)において、その孔が閉塞する性質(すなわちシャットダウン機能)を有していることが好ましい。そのため、多孔質膜(I)は、融点、すなわち、日本工業規格(JIS) K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度が、80℃以上150℃以下(更に好ましくは100℃以上)の熱可塑性樹脂を、その構成成分とするものがより好ましく、PEを主成分とする単層の微多孔膜であるか、PEとPPとを2~5層積層した積層微多孔膜などであることが好ましい。
PEのように融点が80℃以上150℃以下の熱可塑性樹脂と、PPなどのように、融点が150℃を超える熱可塑性樹脂とを併用して多孔質層(I)を構成する場合、例えば、PEと、PPなどのPEよりも高融点の樹脂とを混合して構成された微多孔膜を多孔質層(I)としたり、PE層と、PP層などのPEよりも高融点の樹脂で構成された層とを積層して構成された積層微多孔膜を多孔質層(I)としたりする場合には、多孔質層(I)を構成する樹脂(A)中、融点が80℃以上150℃以下の樹脂(例えばPE)が、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
上記のような微多孔膜としては、例えば、従来公知のリチウム二次電池などで使用されている上記例示の熱可塑性樹脂で構成された微多孔膜、すなわち、溶剤抽出法、乾式または湿式延伸法などにより作製されたイオン透過性の微多孔膜を用いることができる。
また、多孔質層(I)には、セパレータにシャットダウン機能を付与する作用を損なわない範囲で、その強度などを向上させるためにフィラーなどを含有させることもできる。多孔質層(I)に使用可能なフィラーとしては、例えば、後述する多孔質層(II)に使用可能なフィラー(耐熱温度が150℃以上のフィラー)と同じものが挙げられる。
フィラーの粒径は、平均粒径で、例えば、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm以下である。なお、本明細書でいう平均粒径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、HORIBA社製「LA-920」)を用い、フィラーを溶解しない媒体に、これら微粒子を分散させて測定した数平均粒子径として規定することができる。後述する多孔質層(II)に係るフィラーについても同じである。
上記のような構成の多孔質層(I)を備えることで、セパレータにシャットダウン機能を付与することが容易となり、電気化学素子の内部温度上昇時における安全性確保を容易に達成することが可能となる。
多孔質層(I)における樹脂(A)の含有量は、シャットダウンの効果をより得やすくするために、例えば、下記のようであることが好ましい。多孔質層(I)の全構成成分中において主体となる樹脂(A)の体積は、50体積%以上であり、70体積%以上であることがより好ましく、100体積%であってもよい。更に、後記の方法により求められる多孔質層(II)の空孔率が20~60%であり、かつ樹脂(A)の体積が、多孔質層(II)の空孔体積の50%以上であることが好ましい。
多孔質層(II)に係るフィラーは、耐熱温度が150℃以上で、電気化学素子の有する電解液に対して安定であり、更に電気化学素子の作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定なものであれば、有機粒子でも無機粒子でもよいが、分散などの点から微粒子であることが好ましく、安定性(特に耐酸化性)などの点から無機微粒子がより好ましく用いられる。
無機粒子の構成材料の具体例としては、例えば、酸化鉄、Al2O3(アルミナ)、SiO2(シリカ)、TiO2、BaTiO3、ZrO2などの無機酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの無機窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結合性化合物;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性化合物;モンモリロナイトなどの粘土;などが挙げられる。ここで、上記無機酸化物は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物などであってもよい。また、金属、SnO2、スズ-インジウム酸化物(ITO)などの導電性酸化物、カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質材料などで例示される導電性材料の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、上記の無機酸化物など)で被覆することにより電気絶縁性を持たせた粒子であってもよい。無機粒子としては、多孔質層(II)の耐酸化性をより高める観点から、上記の無機酸化物の粒子(微粒子)が好ましく、中でも、アルミナ、シリカおよびベーマイトなどの板状粒子がより好ましい。
また、有機粒子(有機粉末)としては、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド縮合物などの各種架橋高分子粒子や、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子粒子などが例示できる。また、これらの有機粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、上記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(上記の耐熱性高分子の場合)であってもよい。
耐熱温度が150℃以上のフィラーの形態としては、例えば、球状に近い形状を有していてもよく、板状の形状を有していてもよいが、多孔質層(II)に含まれる上記フィラーの少なくとも一部が板状粒子であることが好ましい。上記フィラーの全てが板状粒子でもよい。多孔質層(II)が板状粒子を含有することで、多孔質層(II)が多孔質層(I)と一体化した場合においても、板状粒子同士の衝突によって多孔質膜(I)が収縮する力を抑制することが可能となる。また、板状粒子を用いることでセパレータにおける正極負極間の経路、すなわち所謂曲路率が大きくなる。そのため、デンドライトが生成した場合でも、該デンドライトが負極から正極に到達し難くなり、デンドライトショートに対する信頼性を高めることができる。
板状の上記フィラーとしては、各種市販品が挙げられ、例えば、旭硝子エスアイテック社製「サンラブリー(商品名)」(SiO2)、石原産業社製「NST-B1(商品名)」の粉砕品(TiO2)、堺化学工業社製の板状硫酸バリウム「Hシリーズ(商品名)」、「HLシリーズ(商品名)」、林化成社製「ミクロンホワイト(商品名)」(タルク)、林化成社製「ベンゲル(商品名)」(ベントナイト)、河合石灰社製「BMM(商品名)」や「BMT(商品名)」(ベーマイト)、河合石灰社製「セラシュールBMT-B(商品名)」[アルミナ(Al2O3)]、キンセイマテック社製「セラフ(商品名)」(アルミナ)、斐川鉱業社製「斐川マイカ Z-20(商品名)」(セリサイト)などが入手可能である。この他、SiO2、Al2O3、ZrO、CeO2については、特開2003-206475号公報に開示の方法により作製することができる。
上記フィラーが板状粒子の場合の形態としては、アスペクト比(板状粒子中の最大長さと板状粒子の厚みとの比)が、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であって、好ましくは100以下、より好ましくは50以下である。板状粒子におけるアスペクト比は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した画像を画像解析することにより求めることができる。
また、板状の上記フィラーは、厚みが小さいと衝撃によって割れやすいという問題があることから、その平均厚みが、0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましい。ただし、板状の上記フィラーの厚みが大きすぎると、セパレータの厚みが厚くなって、放電容量が低下したり、電気化学素子の作製時に多孔質層(II)が割れやすくなることから、その平均厚みは、0.7μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
また、多孔質層(II)に含まれる上記フィラーの少なくとも一部が、一次粒子が凝集した二次粒子構造を有する微粒子であることが好ましい。上記フィラーの全部が、上記二次粒子構造を有する微粒子であってもよい。多孔質層(II)が上記二次粒子構造のフィラーを含有することで、前述した板状粒子を用いた場合と同様の熱収縮抑制効果や、デンドライトショートの抑制効果を得ることができる。上記二次粒子構造のフィラーの例としては、大明化学社製「ベーマイト C06(商品名)」、「ベーマイト C20(商品名)」(ベーマイト)、米庄石灰工業社製「ED-1(商品名)」(CaCO3)、J.M.Huber社製「Zeolex 94HP(商品名)」(クレイ)などが挙げられる。
多孔質層(II)に係る上記フィラーの平均粒径(二次粒子構造のフィラーについても、上記の測定法により求められる平均粒径)は、例えば、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは15μm以下、より好ましくは5μm以下である。
多孔質層(II)における耐熱温度が150℃以上のフィラーの量は、多孔質層(II)の構成成分の全体積中[ただし、後記の多孔質基体を使用する場合には、多孔質基体を除く構成成分の全体積中。多孔質層(II)の各構成成分の含有量について、以下同じ。]、50体積%以上であり、70体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることが更に好ましい。多孔質層(II)中のフィラーを上記のように高含有量とすることで、電気化学素子が高温となった際の正極と負極との直接の接触による短絡の発生をより良好に抑制することができ、また、特に多孔質層(I)と多孔質層(II)とを一体化した構成のセパレータの場合には、セパレータ全体の熱収縮を良好に抑制することができる。
また、多孔質層(II)には、耐熱温度が150℃以上のフィラー同士を結着したり、必要に応じて多孔質層(I)と多孔質層(II)とを結着したりするために有機バインダを含有させることが好ましく、このような観点から、多孔質層(II)における耐熱温度が150℃以上のフィラー量の好適上限値は、例えば、多孔質層(II)の構成成分の全体積中、99.5体積%である。なお、多孔質層(II)における耐熱温度が150℃以上のフィラーの量を70体積%未満とすると、例えば、多孔質層(II)中の有機バインダ量を多くする必要が生じるが、その場合には多孔質層(II)の空孔が有機バインダによって埋められやすく、セパレータとしての機能が低下する虞があり、また、開孔剤などを用いて多孔質化した場合には、上記フィラー同士の間隔が大きくなりすぎて、熱収縮を抑制する効果が低下する虞がある。
耐熱温度が150℃以上のフィラーとして板状粒子を用いる場合、多孔質層(II)中での板状粒子の存在形態は、平板面がセパレータの面に対して略平行であることが好ましく、より具体的には、セパレータの表面近傍における板状粒子について、その平板面とセパレータ面との平均角度が30°以下であることが好ましい。最も好ましくは、当該平均角度が0°、すなわち、セパレータの表面近傍における板状の平板面が、セパレータの面に対して平行である。ここでいう「表面近傍」とは、セパレータの表面から全体厚みに対しておよそ10%の範囲を指す。板状粒子の存在形態が上記のような状態となるように板状粒子の配向性を高めることで、上記の多孔質層(II)の熱収縮抑制作用をより強く発揮させることが可能になり、また、電極表面に析出するリチウムデンドライトや電極表面の活物質の突起により生じ得る内部短絡をより効果的に防ぐことができる。なお、多孔質層(II)中における板状粒子の存在形態は、セパレータの断面をSEMにより観察することにより把握することができる。
また、耐熱温度が150℃以上のフィラーとして板状粒子を用いる場合、多孔質層(II)中において、それらの板状面で積層(平板を形成する広い面で厚み方向に積層されていれば、上下のフィラーの水平位置が互いにずれていてもよい)しており、かつ、フィラーの積層数が5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。セパレータに係る多孔質層(II)において、板状の上記フィラーがこのように存在していることで、セパレータの強度(例えば、後述する測定方法により測定される貫通強度)を高めることができる。ただし、板状の上記フィラーの多孔質層(II)中における積層数が多すぎると、多孔質層(II)の厚み、ひいてはセパレータの厚みの増大を引き起こし、電気化学素子のエネルギー密度低下を引き起こす虞がある。そのため、多孔質層(II)における板状の上記フィラーの積層数は、50以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。なお、多孔質層(II)中における板状の上記フィラーの積層数は、後記の実施例で採用した方法により測定できる。
多孔質層(II)には、セパレータの形状安定性の確保や、多孔質層(II)と多孔質層(I)との一体化などのために、有機バインダを含有させることが好ましい。有機バインダとしては、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20~35モル%のもの)、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられるが、特に、150℃以上の耐熱温度を有する耐熱性のバインダが好ましく用いられる。有機バインダは、上記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記例示の有機バインダの中でも、EVA、エチレン-アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、SBRなどの柔軟性の高いバインダが好ましい。このような柔軟性の高い有機バインダの具体例としては、三井デュポンポリケミカル社の「エバフレックスシリーズ(EVA)」、日本ユニカー社のEVA、三井デュポンポリケミカル社の「エバフレックス-EEAシリーズ(エチレン-アクリル酸共重合体)」、日本ユニカー社のEEA、ダイキン工業社の「ダイエルラテックスシリーズ(フッ素ゴム)」、JSR社の「TRD-2001(SBR)」、日本ゼオン社の「EM-400B(SBR)」などがある。
なお、上記の有機バインダを多孔質層(II)に使用する場合には、後述する多孔質層(II)形成用の組成物の溶媒に溶解させるか、または分散させたエマルジョンの形態で用いればよい。
また、セパレータの形状安定性や柔軟性を確保するために、多孔質層(II)において、繊維状物などを上記フィラーと混在させてもよい。繊維状物としては、耐熱温度が150℃以上であって、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に下記に詳述する電解液や、セパレータ製造の際に使用する溶媒に安定であれば、特に材質に制限はない。なお、本明細書でいう「繊維状物」とは、アスペクト比[長尺方向の長さ/長尺方向に直交する方向の幅(直径)]が4以上のものを意味しており、アスペクト比は10以上であることが好ましい。
繊維状物の具体的な構成材料としては、例えば、セルロースおよびその変成体[カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)など]、ポリオレフィン[ポリプロピレン(PP)、プロピレンの共重合体など]、ポリエステル[ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)など]、ポリアクリロニトリル(PAN)、アラミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの樹脂;ガラス、アルミナ、ジルコニア、シリカなどの無機酸化物;などを挙げることができ、これらの構成材料を2種以上併用して繊維状物を構成してもよい。また、繊維状物は、必要に応じて、公知の各種添加剤(例えば、樹脂である場合には酸化防止剤など)を含有していても構わない。
また、本発明の電気化学素子に用いるセパレータは、特に多孔質層(I)と多孔質層(II)を一体化せずに多孔質層(II)を独立膜として用いた場合において、その取り扱い性を高めるなどのために、多孔質層(II)に多孔質基体を用いることができる。多孔質基体は、上記の繊維状物が織布、不織布(紙を含む)などのシート状物を形成してなる耐熱温度が150℃以上のものであり、市販の不織布などを基体として用いることができる。この態様のセパレータでは、多孔質基体の空隙内に耐熱温度が150℃以上の上記フィラーを含有させることが好ましいが、多孔質基体と上記フィラーとを結着させるために、上記の有機バインダを用いることもできる。
なお、多孔質基体の「耐熱性」は、軟化などによる実質的な寸法変化が生じないことを意味し、対象物の長さの変化、すなわち、多孔質基体においては、室温での長さに対する収縮の割合(収縮率)が5%以下を維持することのできる上限温度(耐熱温度)が、セパレータのシャットダウン温度よりも十分に高いか否かで耐熱性を評価する。シャットダウン後の電気化学素子の安全性を高めるために、多孔質基体は、シャットダウン温度よりも20℃以上高い耐熱温度を有することが望ましく、より具体的には、多孔質基体の耐熱温度は、150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。
多孔質基体を用いて多孔質層(II)を構成する場合には、耐熱温度が150℃以上のフィラーの全部または一部が、多孔質基体の空隙内に存在する形態とすることが好ましい。このような形態とすることで、上記フィラーの作用をより有効に発揮させることができる。
繊維状物(多孔質基体を構成する繊維状物、その他の繊維状物を含む)の直径は、多孔質層(II)の厚み以下であればよいが、例えば、0.01~5μmであることが好ましい。繊維状物の径が大きすぎると、繊維状物同士の絡み合いが不足するため、例えばシート状物を形成して多孔質基体を構成する場合に、その強度が小さくなって取り扱いが困難となることがある。また、繊維状物の径が小さすぎると、セパレータの空孔が小さくなりすぎてイオン透過性が低下する傾向にあり、電気化学素子の負荷特性を低下させてしまうことがある。
多孔質層(II)に繊維状物を使用する場合(多孔質基体として繊維状物を使用する場合を含む)には、その含有量は、例えば、多孔質層(II)の全構成成分中、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上であって、好ましくは90体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。多孔質層(II)中での繊維状物の存在状態は、例えば、長軸(長尺方向の軸)の、セパレータ面に対する角度が平均で30°以下であることが好ましく、20°以下であることがより好ましい。
本発明の電気化学素子に係るセパレータは、電気特性を良好にする観点から、その細孔径が、0.025μm以上であることが好ましく、0.03μm以上であることがより好ましい。また、セパレータの細孔径が大きすぎると、セパレータの強度が低下する虞があることから、その細孔径は、0.07μm以下であり、0.04μm以下であることが好ましい。なお、本明細書でいうセパレータの細孔径は、JIS K 3832に規定される方法により、例えば、PMI社製「CFE-1500AEXパームポロシメータ」を用いて測定されるバブルポイント値P(Pa)を用い、下記式によって算出される細孔径(最大孔径)である。
d=(K4γcosθ)/P
ここで、上記式中、d:バブルポイント細孔径(μm)、γ:表面張力(mN/m)、θ:接触角(°)、K:キャピラリー定数、である。
ここで、上記式中、d:バブルポイント細孔径(μm)、γ:表面張力(mN/m)、θ:接触角(°)、K:キャピラリー定数、である。
なお、本発明に係るセパレータにおいて、その細孔径を上記のように調整するには、セパレータをその素材の融点に近い温度で、温度とセパレータの保持力との調整を行いながら、熱処理する方法が採用でき、これにより、セパレータの細孔径を適正な値に調整することができる。
本発明に係るセパレータの厚みは、正極と負極とをより確実に隔離する観点から、6μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。他方、セパレータの厚みが大きすぎると、電気化学素子のエネルギー密度が低下してしまうことがあるため、その厚みは、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
また、セパレータを構成する多孔質層(I)の厚みをM(μm)、多孔質層(II)の厚みをN(μm)としたとき、MとNとの比率M/Nは、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、また、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。本発明に係るセパレータでは、多孔質層(I)の厚み比率を大きくし多孔質層(II)を薄くしても、良好なシャットダウン機能を確保しつつ、セパレータの熱収縮による短絡の発生を高度に抑制することができる。なお、セパレータにおいて、多孔質層(I)が複数存在する場合には、厚みMはその総厚みであり、多孔質層(II)が複数存在する場合には、厚みNはその総厚みである。
なお、具体的な値で表現すると、多孔質層(I)の厚みM[セパレータが多孔質層(I)を複数有する場合には、その総厚み]は、5μm以上であることが好ましく、また、30μm以下であることが好ましい。そして、多孔質層(II)の厚みN[セパレータが多孔質層(II)を複数有する場合には、その総厚み]は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることが更に好ましく、また、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることがより好ましい。多孔質層(I)が薄すぎると、シャットダウン機能が弱くなる虞があり、厚すぎると、電気化学素子のエネルギー密度の低下を引き起こす虞があることに加えて、熱収縮しようとする力が大きくなり、例えば、多孔質層(I)と多孔質層(II)が一体化した構成では、セパレータ全体の熱収縮を抑える作用が小さくなる虞がある。また、多孔質層(II)が薄すぎると、セパレータの熱収縮に起因する短絡の発生を抑制する効果が小さくなる虞があり、厚すぎると、セパレータ全体の厚みの増大を引き起こしてしまう。
セパレータ全体の空孔率としては、電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にするために、乾燥した状態で、30%以上であることが好ましい。一方、セパレータ強度の確保と内部短絡の防止の観点から、セパレータの空孔率は、乾燥した状態で、70%以下であることが好ましい。なお、セパレータの空孔率:P(%)は、セパレータの厚み、面積あたりの質量、構成成分の密度から、下記(1)式を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる。
P = 100-(Σai/ρi)×(m/t) (1)
ここで、上記式中、ai:質量%で表した成分iの比率、ρi:成分iの密度(g/cm3)、m:セパレータの単位面積あたりの質量(g/cm2)、t:セパレータの厚み(cm)である。
ここで、上記式中、ai:質量%で表した成分iの比率、ρi:成分iの密度(g/cm3)、m:セパレータの単位面積あたりの質量(g/cm2)、t:セパレータの厚み(cm)である。
また、上記(1)式において、mを多孔質層(I)の単位面積あたりの質量(g/cm2)とし、tを多孔質層(I)の厚み(cm)とすることで、上記(1)式を用いて多孔質層(I)の空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められる多孔質層(I)の空孔率は、30~70%であることが好ましい。
更に、上記(1)式において、mを多孔質層(II)の単位面積あたりの質量(g/cm2)とし、tを多孔質層(II)の厚み(cm)とすることで、上記(1)式を用いて多孔質層(II)の空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められる多孔質層(II)の空孔率は、20~60%であることが好ましい。
また、本発明に係るセパレータは、JIS P 8117に準拠した方法で測定され、0.879g/mm2の圧力下で100mlの空気が膜を透過する秒数で示されるガーレー値(透気度)が、10~300secであることが望ましい。透気度が大きすぎると、イオン透過性が小さくなり、他方、小さすぎると、セパレータの強度が小さくなることがある。さらに、セパレータの強度としては、直径1mmのニードルを用いた突き刺し強度で50g以上であることが望ましい。かかる突き刺し強度が小さすぎると、リチウムのデンドライト結晶が発生した場合に、セパレータの突き破れによる短絡が発生する場合がある。上記の構成を採用することにより、上記の透気度や突き刺し強度を有するセパレータとすることができる。
上記の構成を有するセパレータを備える本発明の電気化学素子のシャットダウン特性は、例えば、電気化学素子の内部抵抗の温度変化により求めることができる。具体的には、電気化学素子を恒温槽中に設置し、温度を室温から毎分1℃の割合で上昇させ、電気化学素子の内部抵抗が上昇する温度を求めることで測定することが可能である。この場合、150℃における電気化学素子の内部抵抗は、室温の5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがより好ましく、上記構成のセパレータを使用することで、このような特性を確保することができる。
また、本発明の電気化学素子に係るセパレータは、150℃での熱収縮率を5%以下とすることが好ましい。このような特性のセパレータであれば、電気化学素子内部が150℃程度になっても、セパレータの収縮が殆ど生じないため、正負極の接触による短絡をより確実に防止することができ、高温での電気化学素子の安全性をより高めることができる。上記の構成を採用することで、上記のような熱収縮率を有するセパレータとすることができる。
ここでいう熱収縮率は、多孔質層(I)と多孔質層(II)が一体化している場合は、その一体化したセパレータ全体の収縮率を指し、多孔質層(I)と多孔質層(II)が独立している場合には、それぞれの収縮率の小さい方の値を指す。また、後述するように、多孔質層(I)および/または多孔質層(II)は、電極と一体化する構成とすることもできるが、その場合は、電極と一体化した状態で測定した熱収縮率を指す。
なお、上記の「150℃の熱収縮率」とは、セパレータまたは多孔質層(I)および多孔質層(II)(電極と一体化した場合には電極と一体化した状態で)を恒温槽に入れ、温度を150℃まで上昇させて3時間放置した後に取り出して、恒温槽に入れる前のセパレータまたは多孔質層(I)および多孔質層(II)の寸法と比較することで求められる寸法の減少割合を百分率で表したものである。
本発明の電気化学素子に係るセパレータの製造方法としては、例えば、下記の(a)または(b)の方法を採用できる。製造方法(a)は、多孔質基体に、耐熱温度が150℃以上のフィラーを含有する多孔質層(II)形成用組成物(スラリーなどの液状組成物など)を塗布した後、所定の温度で乾燥して多孔質層(II)を形成し、これを、上記の方法で作製された多孔質層(I)を構成するための微多孔膜と重ね合わせて、1つのセパレータとする方法である。この場合、多孔質層(I)と多孔質層(II)とは一体化されていてもよいし、それぞれ独立した膜であって、電気化学素子の組み立てにより、素子内で重ね合わされた状態で一体のセパレータとして機能するものであってもよい。
多孔質層(I)と多孔質層(II)を一体化するには、例えば、多孔質層(I)と多孔質層(II)とを重ね合わせ、ロールプレスなどにより両者を貼り合わせる方法などが採用できる。
上記の場合の多孔質基体としては、具体的には、上記例示の各材料を構成成分に含む繊維状物の少なくとも1種で構成される織布や、これら繊維状物同士が絡み合った構造を有する不織布などの多孔質シートなどが挙げられる。より具体的には、紙、PP不織布、ポリエステル不織布(PET不織布、PEN不織布、PBT不織布など)、PAN不織布などの不織布が例示できる。
多孔質層(II)形成用組成物は、耐熱温度が150℃以上のフィラーの他、必要に応じて有機バインダなどを含有し、これらを溶媒(分散媒を含む。以下同じ。)に分散させたものである。なお、有機バインダについては溶媒に溶解させることもできる。多孔質層(II)形成用組成物に用いられる溶媒は、上記フィラーなどを均一に分散でき、また、有機バインダを均一に溶解または分散できるものであればよいが、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフランなどのフラン類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類など、一般的な有機溶媒が好適に用いられる。なお、これらの溶媒に、界面張力を制御する目的で、アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、または、モノメチルアセテートなどの各種プロピレンオキサイド系グリコールエーテルなどを適宜添加してもよい。また、有機バインダが水溶性である場合、エマルジョンとして使用する場合などでは、水を溶媒としてもよく、この際にもアルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなど)を適宜加えて界面張力を制御することもできる。
多孔質層(II)形成用組成物は、耐熱温度が150℃以上のフィラー、および有機バインダを含む固形分含量を、例えば10~80質量%とすることが好ましい。
上記多孔質基体の空孔の開口径が比較的大きい場合、例えば、5μm以上の場合には、これが電気化学素子の短絡の要因となりやすい。よって、この場合には、上記の通り、耐熱温度が150℃以上のフィラーなどの全部または一部が、多孔質基体の空隙内に存在する構造とすることが好ましい。多孔質基体の空隙内に上記フィラーなどを存在させるには、例えば、これらを含有する多孔質層(II)形成用組成物を多孔質基体に塗布した後に一定のギャップを通し、余分の組成物を除去した後、乾燥するなどの工程を用いればよい。
また、多孔質層(II)において、上記のように、板状の上記フィラーの配向性を高めるには、板状の上記フィラーを含有する多孔質層(II)形成用組成物を多孔質基体に塗布し含浸させた後、上記組成物にシェアや磁場をかけるといった方法を用いればよい。例えば、上記のように、板状の上記フィラーを含有する多孔質層(II)形成用組成物を多孔質基体に塗布した後、一定のギャップを通すことで、上記組成物にシェアをかけることができる。
また、上記フィラーや多孔質層(II)を構成するその他の成分の持つ作用をより有効に発揮させるために、これらの成分を偏在させて、セパレータの面と平行または略平行に、上記成分が層状に集まった形態としてもよい。
セパレータの製造方法(b)は、多孔質層(II)形成用組成物に、更に必要に応じて繊維状物を含有させ、これをフィルムや金属箔などの基板上に塗布し、所定の温度で乾燥した後に、必要に応じて上記基板から剥離する方法である。これにより多孔質層(II)となる多孔質膜を形成することができる。
製造方法(b)でも、製造方法(a)と同様に、樹脂(A)を主体とする微多孔膜からなる多孔質層(I)と、フィラーを主体として含む多孔質層(II)とは、それぞれ独立した構成としてもよいし、一体化した構成としてもよい。多孔質層(I)と多孔質層(II)を一体化するには、個別に形成した多孔質層(II)と多孔質層(I)とをロールプレスなどにより貼り合わせる方法の他、上記の基板を使用する代わりに、多孔質層(I)の表面に多孔質層(II)形成用組成物を塗布し、乾燥して、多孔質層(I)の表面に直接多孔質層(II)を形成する方法を採用することもできる。
また、製造方法(b)によって、電気化学素子を構成する電極の表面に多孔質層(II)を形成して、セパレータと電極とが一体化した構造としてもよい。
(a)、(b)いずれの製造方法を採用する場合においても、多孔質層(I)を正極および負極の少なくとも一方の電極と一体化してもよい。多孔質層(I)を電極と一体化するには、例えば、多孔質層(I)となる微多孔膜と電極とを重ねてロールプレスする方法などが採用できる。更に、製造方法(b)により、正極の表面に多孔質層(II)を形成し、負極の表面に多孔質層(I)となる微多孔膜を貼り付けて一体化してもよいし、製造方法(a)または(b)により製造した多孔質層(I)と多孔質層(II)とを一体化したセパレータを、正極および負極のいずれか一方の表面に貼り付けて、一体化してもよい。多孔質層(I)と多孔質層(II)とが一体化したセパレータを電極の表面に貼り付けて一体化するには、例えば、セパレータと電極とを重ねてロールプレスする方法などが採用できる。
なお、多孔質層(I)と多孔質層(II)とは、それぞれ1層ずつである必要はなく、複数の層がセパレータ中にあってもよい。例えば、多孔質層(II)の両面に多孔質層(I)を配置した構成としたり、多孔質層(I)の両面に多孔質層(II)を配置した構成としてもよい。ただし、層数を増やすことで、セパレータの厚みを増やして電気化学素子の内部抵抗の増加やエネルギー密度の低下を招く虞があるので、層数を多くしすぎるのは好ましくなく、セパレータ中の多孔質層(I)と多孔質層(II)との合計層数は5層以下であることが好ましい。
また、上記の通り、多孔質層(I)と多孔質層(II)とは、一体化して独立膜としてセパレータを構成する以外に、それぞれ独立した構成要素とし、電気化学素子が組み立てられた段階で、電気化学素子内で重ね合わされた状態となり、正極と負極の間に介在するセパレータとして機能するようにすることもできる。更に、多孔質層(I)と多孔質層(II)とは接している必要はなく、それらの間に別の層、例えば、多孔質基体を構成する繊維状物の層などが介在していてもよい。
次に、本発明の電気化学素子で用いる非水電解液について詳細に説明する。
本発明の電気化学素子に係る非水電解液としては、リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液を用いることができ、ベンゼン環にアルキル基が結合した化合物を含有していることが好ましい。非水電解液がベンゼン環にアルキル基が結合した化合物を含有する場合、電気化学素子の過充電時において、非水電解液中のベンゼン環にアルキル基が結合した化合物が重合してセパレータの孔内に導電路を形成し、これによりソフトショートを生じるため、過充電による電気化学素子の急激な温度上昇を抑制できる。
通常の電気化学素子では、過充電時に、正極によってセパレータが酸化されやすく、これによりセパレータが劣化すると、上記のソフトショートを安定に起こさせることができず、過充電時の安全性を良好に確保できない虞がある。しかし、本発明の電気化学素子では、上述したように、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含み、耐酸化性がより良好な多孔質層(II)を少なくとも正極に面するようにセパレータを配置することで、過充電時におけるセパレータの酸化劣化を抑制できるため、上記のソフトショートをより安定に生じさせることを可能としている。
ベンゼン環にアルキル基が結合した化合物としては、例えば、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、オクチルベンゼンなどが挙げられる。
電気化学素子に用いる非水電解液におけるベンゼン環にアルキル基が結合した化合物の含有量(配合量)は、上記化合物の使用による効果をより有効に確保する観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。ただし、ベンゼン環にアルキル基が結合した化合物の量が多すぎると、電気特性が低下する傾向があることから、電気化学素子に用いる非水電解液における上記化合物の含有量(配合量)は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、4質量%以下であることが特に好ましい。
非水電解液に用いるリチウム塩としては、溶媒中で解離してLi+イオンを形成し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こしにくいものであれば特に制限は無い。例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6などの無機リチウム塩、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF2n+1SO3(2≦n≦5)、LiN(RfOSO2)2〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などの有機リチウム塩などを用いることができる。
非水電解液に用いる有機溶媒としては、上記のリチウム塩を溶解し、電気化学素子として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル;γ-ブチロラクトンなどの環状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類;エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類;などが挙げられ、これらは2種以上混合して用いることもできる。なお、より良好な特性の電池とするためには、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートの混合溶媒など、高い導電率を得ることができる組み合わせで用いることが望ましい。
また、これらの非水電解液には、安全性や充放電サイクル性、高温貯蔵性といった特性を向上させる目的で、ビニレンカーボネート類、1,3-プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、ビフェニル、フルオロベンゼンなどの添加剤を適宜加えることもできる。
非水電解液におけるリチウム塩の濃度としては、0.5~1.5mol/lとすることが好ましく、0.9~1.25mol/lとすることがより好ましい。
次に、本発明における負極について詳細に説明する。
本発明の電気化学素子では、上述したように、負極活物質として、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度比であるR値(I1360/I1580)が0.1以上0.5以下であり、002面の面間隔d002が0.338nm以下である黒鉛を、負極活物質全量中に30質量%以上の割合で含有する負極を使用する。このような負極活物質を含有する負極を使用することで、ベンゼン環にアルキル基が結合した化合物のように、低温での電気化学素子の反応性を低下させやすい添加剤を含む非水電解液を用いた場合にも、低温での優れた充電特性を維持することができる。
R値およびd002が上記の値を満足する黒鉛としては、例えば、表面が低結晶性の炭素材で被覆された黒鉛が挙げられる。そのような黒鉛は、d002が0.338nm以下である天然黒鉛または人造黒鉛を球状に形成したものを母材とし、その表面を有機化合物で被覆し、800~1500℃で焼成した後、解砕し、篩を通して整粒することによって得ることができる。なお、上記母材を被覆する有機化合物としては、芳香族炭化水素;芳香族炭化水素を加熱加圧下で重縮合して得られるタールまたはピッチ類;芳香族炭化水素の混合物を主成分とするタール、ピッチまたはアスファルト類;などが挙げられる。上記母材を上記有機化合物で被覆するには、上記有機化合物に上記母材を含浸・混合する方法が採用できる。また、プロパンやアセチレンなどの炭化水素ガスを熱分解により炭素化し、これをd002が0.338nm以下の黒鉛の表面に堆積させる気相法によっても、R値およびd002が上記の値を満足する黒鉛を作製することができる。
R値およびd002が上記の値を満足する黒鉛は、平均粒子径D50(セパレータに係る上記フィラーの数平均粒子径の測定の場合と同じ装置により測定できる)が、10μm以上であることが好ましく、また、30μm以下であることが好ましい。更に、上記黒鉛の比表面積は、1.0m2/g以上であることが好ましく、また、5.0m2/g以下であることが好ましい。
また、負極活物質には、R値およびd002が上記の値を満足する黒鉛のみを使用してもよいが、上記黒鉛と共に、他の負極活物質を併用することもできる。このような負極活物質としては、例えば、R値が0.1未満の黒鉛(表面の結晶性が高い黒鉛)、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの、Liイオンを吸蔵、放出可能な炭素系材料が挙げられる。なお、これらの炭素系材料を併用する場合には、上記の通り、負極に係る負極活物質全量中、R値およびd002が上記の値を満足する黒鉛の割合は、30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。
負極には、例えば、上記の負極活物質、バインダおよび必要に応じて導電助剤を含む負極合剤からなる負極合剤層が、集電体の片面または両面に形成された構造のものを用いることができる。このような負極は、例えば、上記負極合剤を溶剤に分散させたスラリー状またはペースト状の負極合剤含有組成物を、集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後、必要に応じてプレス処理を施して負極合剤層の厚みを調整する工程を経て作製できる。なお、本発明に係る負極は、上記以外の方法により作製してもよい。負極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10~100μmであることが好ましい。
負極のバインダには、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂や、SBR、CMCなどを用いることができる。また、負極の導電助剤には、カーボンブラックなどの炭素材料などを用いることができる。
負極の集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、下限は5μmであることが望ましい。
負極側のリード部は、通常、負極作製時に、集電体の一部に負極合剤層を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、リード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体に銅製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
本発明に係る負極では、上記の負極活物質の使用によって、負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)が0.7~1.2μmと比較的粗くなるが、本発明の電気化学素子では、上記の通り、強度の大きな本発明のセパレータを使用しているため、負極表面の凸部がセパレータを貫通することによる微小短絡の発生を防止して、その生産性を高めることができる。
なお、本明細書でいう負極の負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601に規定の算術平均粗さであり、具体的には、共焦点レーザー顕微鏡(レーザテック株式会社製「リアルタイム走査型レーザ顕微鏡 1LM-21D」)を用い、1mm×1mmの視野を512×512ピクセルで測定し、各点の平均線からの絶対値を算術平均することにより求めた数値である。
以上のように、本発明の電気化学素子は、上記のセパレータ、負極および非水電解液を備えていれば、その他の構成・構造については特に制限はなく、従来公知の非水電解液を有する各種電気化学素子(リチウム二次電池、リチウム一次電池、スーパーキャパシタなど)で採用されている各種構成・構造を適用することができる。
以下、一例として、リチウム二次電池への適用を中心に説明する。リチウム二次電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
リチウム二次電池などの電気化学素子は、温度が上昇した際に電池内部のガスを外部に排出する機構を有していることが好ましい。かかる機構としては、従来公知の機構を用いることができる。すなわち、スチール缶やアルミニウム缶などの金属缶を外装缶とする電池では、一定の圧力で亀裂が生じる金属製の開裂ベント、一定の圧力で破れる樹脂製のベント、一定の圧力で蓋の開くゴム製のベントなどを用いることができるが、中でも金属製の開裂ベントを用いるのが好ましい。
一方、ソフトパッケージ電池では、封止部分が樹脂の熱融着により封止されているため、そもそも温度と内圧が上昇した場合に、こうした高温、高圧に耐えられる構造とすることが難しく、特別な機構を設けなくても温度が上昇した場合に電池内部のガスを外部に排出する構成とすることが可能である。すなわち、ソフトパッケージ電池においては、外装体の封止部(熱融着部)が、上記の電池内部のガスを外部に排出する機構として作用する。また、ソフトパッケージ電池の場合、封止部分の幅を特定の場所だけ狭くするなどの方法によっても、温度が上昇した場合に電池内部のガスを外部に排出する構成とすることができる。すなわち、上記特定の場所が、上記の電池内部のガスを外部に排出する機構として作用する。
正極としては、従来公知のリチウム二次電池に用いられている正極、すなわち、Liイオンを吸蔵放出可能な活物質を含有する正極であれば特に制限はない。例えば、活物質として、Li1+xMO2(-0.1<x<0.1、M:Co、Ni、Mn、Al、Mgなど。なお、元素MはLi以外の他の金属元素で10原子%まで置換されていてもよい。)で表される層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、LiMn2O4やその元素の一部を他元素で置換したスピネル構造のリチウムマンガン酸化物、LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Feなど)で表されるオリビン型化合物などを用いることが可能である。上記層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物の具体例としては、LiCoO2やLiNi1-xCox-yAlyO2(0.1≦x≦0.3、0.01≦y≦0.2)などのほか、少なくともCo、NiおよびMnを含む酸化物(LiMn1/3Ni1/3Co1/3O2、LiMn5/12Ni5/12Co1/6O2、LiNi3/5Mn1/5Co1/5O2など)などを例示することができる。特に、Niを40%以上含む活物質の場合には、電池が高容量となるので好ましく、また、O(酸素原子)はフッ素、イオウ原子で1原子%まで置換されていてもよい。
導電助剤としては、カーボンブラックなどの炭素材料が用いられ、バインダとしては、PVDFなどフッ素樹脂が用いられ、これらの材料と活物質とが混合された正極合剤により正極合剤層が、例えば集電体の片面または両面に形成される。
また、正極の集電体としては、アルミニウムなどの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、厚みが10~30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
正極側のリード部は、通常、正極作製時に、集電体の一部に正極合剤層を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、リード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体にアルミニウム製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
電極は、上記の正極と上記の負極とを、上記のセパレータを介して積層した積層電極体や、更にこれを巻回した巻回電極体の形態で用いることができる。なお、本発明の電気化学素子では、上記の通り、特に過充電時におけるセパレータの酸化劣化を抑制するために、セパレータに係る多孔質層(II)が少なくとも正極に面している必要があり、上記のような電極体は、セパレータの多孔質層(II)が負極に面するように形成することが求められる。
また、本発明の電気化学素子では、セパレータの多孔質層(I)を負極に面するように配置することがより好ましい。詳細な理由は不明であるが、多孔質層(I)が少なくとも負極に面するようにセパレータを配置した場合には、正極側に配置した場合よりも、シャットダウンを生じた場合に、多孔質層(I)から溶融した樹脂(A)のうち、電極合剤層に吸収される割合が少なくなり、溶融した樹脂(A)がセパレータの孔を閉塞するのに、より有効に利用されるため、シャットダウンによる効果がより良好となる。
更に、例えば電気化学素子が、温度上昇により電気化学素子の内圧が上昇した際に、電気化学素子内部のガスを外部に排出して電気化学素子の内圧を下げる機構を有する場合には、この機構が作動した際に、内部の非水電解液が揮発して、電極が直接空気に曝される状態となる虞がある。電気化学素子が充電状態にある場合に、上記のような状態となり、負極と空気(酸素や水分)が接触すると、負極に吸蔵されたLiイオンや負極表面に析出したリチウムと空気とが反応して発熱し、時には発火することもある。また、この発熱により電気化学素子の温度が上昇して正極活物質の熱暴走反応を引き起こし、その結果、電気化学素子が発火に至ることもある。
しかしながら、樹脂(A)を主体とする多孔質層(I)が負極に面するように構成した電気化学素子の場合には、高温時には多孔質層(I)の主体である樹脂(A)が溶融して負極表面を覆うことから、上記の電気化学素子内部のガスを外部に排出する機構の作動に伴う負極と空気との反応を抑制することができる。そのため、上記の電気化学素子内部のガスを外部に排出する機構が作動することによる発熱の虞をなくし、電気化学素子をより安全に保つことができる。
よって、例えば、樹脂(A)を主体とする多孔質層(I)や、多孔質層(II)を複数有するセパレータの場合、正極側が多孔質層(II)となり、かつ負極側が多孔質層(I)となるようにセパレータを構成することがより好ましい。
なお、上記のような正極合剤層を有する正極や、負極合剤層を有する負極は、例えば、正極合剤をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの溶媒に分散させてなる正極合剤層形成用組成物(スラリーなど)や、負極合剤をNMPなどの溶媒に分散させてなる負極合剤層形成用組成物(スラリーなど)を集電体上に塗布し、乾燥することにより作製される。この場合、例えば、正極合剤層形成用組成物を集電体表面に塗布し、該組成物が乾燥する前に、多孔質層(II)形成用組成物を塗布して作製した正極と多孔質層(II)との一体化物や、負極合剤層形成用組成物を集電体表面に塗布し、該組成物が乾燥する前に、多孔質層(II)形成用組成物を塗布して作製した負極と多孔質層(II)との一体化物を用いて、リチウム二次電池(電気化学素子)を構成することもできる。
本発明の電気化学素子は、従来公知のリチウム二次電池などの電気化学素子が適用されている各種用途(例えば、携帯電話やノート型パーソナルコンピューターなどの携帯電子機器の電源用途など)と同じ用途に好ましく用いることができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
(実施例1)
<負極の作製>
平均粒径D50が18μm、d002が0.338nmで、ラマンスペクトルにおけるR値が0.18であり、比表面積が3.2m2/gである黒鉛と、平均粒径D50が16μm、d002が0.336nmで、R値が0.05の黒鉛とを、質量比85:15で混合した混合物:95質量部と、バインダであるPVDF:5質量部とを、NMPを溶剤として均一になるように混合し、溶剤系の負極合剤含有ペーストを調製した。この負極合剤含有ペーストを、銅箔からなる厚さ10μmの集電体の両面に間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って全厚が142μmになるように負極合剤層の厚みを調整した。共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた上記負極の負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.75μmであった。
<負極の作製>
平均粒径D50が18μm、d002が0.338nmで、ラマンスペクトルにおけるR値が0.18であり、比表面積が3.2m2/gである黒鉛と、平均粒径D50が16μm、d002が0.336nmで、R値が0.05の黒鉛とを、質量比85:15で混合した混合物:95質量部と、バインダであるPVDF:5質量部とを、NMPを溶剤として均一になるように混合し、溶剤系の負極合剤含有ペーストを調製した。この負極合剤含有ペーストを、銅箔からなる厚さ10μmの集電体の両面に間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って全厚が142μmになるように負極合剤層の厚みを調整した。共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた上記負極の負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.75μmであった。
その後、幅45mmになるように切断して、負極を得た。更にこの負極の銅箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
<正極の作製>
正極活物質であるLiCoO2:70質量部、LiNi0.8Co0.2O2:15質量部、導電助剤であるアセチレンブラック:10質量部、およびバインダであるPVDF:5質量部を、NMPを溶剤として均一になるように混合して、正極合剤含有ペーストを調製した。このペーストを、集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に、間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って、全厚が150μmになるように正極合剤層の厚みを調整し、幅43mmになるように切断して、正極を作製した。更にこの正極のアルミニウム箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
正極活物質であるLiCoO2:70質量部、LiNi0.8Co0.2O2:15質量部、導電助剤であるアセチレンブラック:10質量部、およびバインダであるPVDF:5質量部を、NMPを溶剤として均一になるように混合して、正極合剤含有ペーストを調製した。このペーストを、集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に、間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って、全厚が150μmになるように正極合剤層の厚みを調整し、幅43mmになるように切断して、正極を作製した。更にこの正極のアルミニウム箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
<セパレータの作製>
有機バインダであるSBRのエマルジョン(固形分比率40質量%):100gと、水:6000gとを容器に入れ、均一に分散するまで室温で攪拌した。この分散液に耐熱温度が150℃以上のフィラーであるベーマイト粉末(板状、平均粒径1μm、アスペクト比10):2000gを4回に分けて加え、ディスパーにより2800rpmで5時間攪拌して均一なスラリー[多孔質層(II)形成用スラリー、固形分比率25.3質量%]を調製した。PE製微多孔膜[多孔質層(I):厚み12μm、空孔率40%、細孔径0.033μm、融点135℃]上に、上記のスラリーをマイクログラビアコーターによって塗布、乾燥し、厚みが2.6μmの多孔質層(II)を形成して、セパレータを得た。
有機バインダであるSBRのエマルジョン(固形分比率40質量%):100gと、水:6000gとを容器に入れ、均一に分散するまで室温で攪拌した。この分散液に耐熱温度が150℃以上のフィラーであるベーマイト粉末(板状、平均粒径1μm、アスペクト比10):2000gを4回に分けて加え、ディスパーにより2800rpmで5時間攪拌して均一なスラリー[多孔質層(II)形成用スラリー、固形分比率25.3質量%]を調製した。PE製微多孔膜[多孔質層(I):厚み12μm、空孔率40%、細孔径0.033μm、融点135℃]上に、上記のスラリーをマイクログラビアコーターによって塗布、乾燥し、厚みが2.6μmの多孔質層(II)を形成して、セパレータを得た。
得られたセパレータにおける多孔質層(II)は、単位面積あたりの質量が3.4g/m2であった。また、このセパレータの多孔質層(II)における突き刺し強度は3.9Nで、板状ベーマイトの体積含有率は88体積%であり、多孔質層(II)の空孔率は55%であった。更に、上記の方法により測定したセパレータの細孔径(バブルポイント細孔径)は0.033μmであった。
また、クロスセクションポリッシャー法によって、セパレータを減圧雰囲気下でアルゴンイオンレーザービームにより切断し、断面をSEMで観察することにより求めた多孔質層(II)中における板状ベーマイトの積層枚数は、6~8枚であった(後記の各実施例においても、同じ方法で板状フィラーの積層枚数を測定した)。
<電池の組み立て>
上記のようにして得た正極と負極とセパレータを多孔質層(I)が負極側に向くように介在させつつ重ね、渦巻状に巻回して巻回電極体を作製した。得られた巻回電極体を押しつぶして扁平状にし、厚み6mm、高さ50mm、幅34mmでのアルミニウム製外装缶に入れ、電解液(エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比で1:2に混合した溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/lで溶解し、ビニレンカーボネートを3質量%添加し、シクロヘキシルベンゼンを4質量%添加したもの)を注入した後に封止を行って、図1A、Bに示す構造で、図2に示す外観のリチウム二次電池を作製した。なお、この電池は、缶の上部に内圧が上昇した場合に圧力を下げるための開裂ベントを備えている。
上記のようにして得た正極と負極とセパレータを多孔質層(I)が負極側に向くように介在させつつ重ね、渦巻状に巻回して巻回電極体を作製した。得られた巻回電極体を押しつぶして扁平状にし、厚み6mm、高さ50mm、幅34mmでのアルミニウム製外装缶に入れ、電解液(エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比で1:2に混合した溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/lで溶解し、ビニレンカーボネートを3質量%添加し、シクロヘキシルベンゼンを4質量%添加したもの)を注入した後に封止を行って、図1A、Bに示す構造で、図2に示す外観のリチウム二次電池を作製した。なお、この電池は、缶の上部に内圧が上昇した場合に圧力を下げるための開裂ベントを備えている。
ここで、図1A、Bおよび図2に示す電池について説明すると、図1Aは概略平面図、図1Bは部分断面図であって、図1Bに示すように、正極1と負極2は上記のようにセパレータ3を介して渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状の巻回電極体6として、角筒形の外装缶4に電解液と共に収容されている。ただし、図1Bでは、煩雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用した集電体としての金属箔や電解液などは図示していない。また、セパレータの各層も区別して示していない。
外装缶4はアルミニウム合金製で電池の外装体を構成するものであり、この外装缶4は正極端子を兼ねている。そして、外装缶4の底部にはポリエチレンシートからなる絶縁体5が配置され、正極1、負極2およびセパレータ3からなる扁平状の巻回電極体6からは、正極1および負極2のそれぞれ一端に接続された正極リード体7と負極リード体8が引き出されている。また、外装缶4の開口部を封口するアルミニウム合金製の封口用蓋板9にはポリプロピレン製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼製の端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼製のリード板13が取り付けられている。
そして、この蓋板9は外装缶4の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、外装缶4の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。また、図1A、Bの電池では、蓋板9に非水電解液注入口14が設けられており、この非水電解液注入口14には、封止部材が挿入された状態で、例えばレーザー溶接などにより溶接封止されて、電池の密閉性が確保されている(従って、図1A、Bおよび図2の電池では、実際には、非水電解液注入口14は、非水電解液注入口と封止部材であるが、説明を容易にするために、非水電解液注入口14として示している)。更に、蓋板9には、電池の温度が上昇した際に内部のガスを外部に排出する機構として、開裂ベント15が設けられている。
この実施例1の電池では、正極リード体7を蓋板9に直接溶接することによって外装缶4と蓋板9とが正極端子として機能し、負極リード体8をリード板13に溶接し、そのリード板13を介して負極リード体8と端子11とを導通させることによって端子11が負極端子として機能するようになっているが、外装缶4の材質などによっては、その正負が逆になる場合もある。
図2は上記図1A、Bに示す電池の外観を模式的に示す斜視図であり、この図2は上記電池が角形電池であることを示すことを目的として図示されたものであって、この図2では電池を概略的に示しており、電池の構成部材のうち特定のものしか図示していない。また、図1においても、電極群の内周側の部分は断面にしていない。
(実施例2)
マイクログラビアコーターのギャップを調整し、乾燥後の多孔質層(II)の厚みが4.3μmとなるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリエチレン(PE)製微多孔膜[多孔質層(I)]上に多孔質層(II)を形成して、セパレータを作製した。
マイクログラビアコーターのギャップを調整し、乾燥後の多孔質層(II)の厚みが4.3μmとなるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリエチレン(PE)製微多孔膜[多孔質層(I)]上に多孔質層(II)を形成して、セパレータを作製した。
得られたセパレータにおける多孔質層(II)は、単位面積あたりの質量が6.0g/m2であった。また、このセパレータの多孔質層(II)における突き刺し強度は3.9Nで、板状ベーマイトの体積含有率は86体積%であり、多孔質層(II)の空孔率は55%であった。更に、上記の方法により測定したセパレータの細孔径(バブルポイント細孔径)は0.033μmであった。また、多孔質層(II)中における板状ベーマイトの積層枚数は12~16枚であった。
上記のセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例3)
マイクログラビアコーターのギャップとポンプ吐出量を調整し、乾燥後の多孔質層(II)の厚みを7.5μmとした以外は、実施例1と同様にしてポリエチレン(PE)製微多孔膜[多孔質層(I)]上に多孔質層(II)を形成して、セパレータを作製した。
マイクログラビアコーターのギャップとポンプ吐出量を調整し、乾燥後の多孔質層(II)の厚みを7.5μmとした以外は、実施例1と同様にしてポリエチレン(PE)製微多孔膜[多孔質層(I)]上に多孔質層(II)を形成して、セパレータを作製した。
得られたセパレータにおける多孔質層(II)は、単位面積あたりの質量が9.8g/m2であった。また、このセパレータの多孔質層(II)における突き刺し強度は4.0Nで、板状ベーマイトの体積含有率は88体積%であり、多孔質層(II)の空孔率は53%であった。更に、上記の方法により測定したセパレータの細孔径(バブルポイント細孔径)は0.033μmであった。また、多孔質層(II)中における板状ベーマイトの積層枚数は22~28枚であった。
上記のセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例4)
負極活物質におけるR値が0.18の上記黒鉛とR値が0.05の上記黒鉛との質量比を90:10とした以外は、実施例1と同様にして、負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.9μmであった。
負極活物質におけるR値が0.18の上記黒鉛とR値が0.05の上記黒鉛との質量比を90:10とした以外は、実施例1と同様にして、負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.9μmであった。
上記の負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例5)
実施例4で作製したものと同じ負極と、実施例2で作製したものと同じセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
実施例4で作製したものと同じ負極と、実施例2で作製したものと同じセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例6)
実施例4で作製したものと同じ負極と、実施例3で作製したものと同じセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
実施例4で作製したものと同じ負極と、実施例3で作製したものと同じセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例7)
負極活物質に、実施例1で用いたものと同じR値が0.18の上記黒鉛のみを用いた以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が145μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた上記負極の負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、1.1μmであった。
負極活物質に、実施例1で用いたものと同じR値が0.18の上記黒鉛のみを用いた以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が145μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた上記負極の負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、1.1μmであった。
上記の負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例8)
実施例7で作製したものと同じ負極と、実施例2で作製したものと同じセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
実施例7で作製したものと同じ負極と、実施例2で作製したものと同じセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例9)
実施例7で作製したものと同じ負極と、実施例3で作製したものと同じセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
実施例7で作製したものと同じ負極と、実施例3で作製したものと同じセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例10)
シクロヘキシルベンゼンに代えてt-ブチルベンゼンを用いた以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。この非水電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
シクロヘキシルベンゼンに代えてt-ブチルベンゼンを用いた以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。この非水電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例11)
正極活物質にLiCoO2のみを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
正極活物質にLiCoO2のみを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例12)
セパレータに用いるPE製微多孔膜の厚みを16μmに変更し、非水電解液にシクロヘキシルベンゼンを添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。なお、上記のセパレータの突き刺し強度は、4.9Nであった。
セパレータに用いるPE製微多孔膜の厚みを16μmに変更し、非水電解液にシクロヘキシルベンゼンを添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。なお、上記のセパレータの突き刺し強度は、4.9Nであった。
(実施例13)
平均粒径D50が18μm、d002が0.338nmで、R値が0.18であり、比表面積が3.2m2/gである黒鉛粒子と、平均粒径D50が16μm、d002が0.336nmで、R値が0.05の黒鉛とを質量比30:70で混合した混合物:98質量部と、1質量%の濃度のカルボキシメチルセルロース水溶液1.0質量部と、スチレン-ブタジエンゴム1.0質量部とを、イオン交換水を溶剤として混合し、水系の負極合剤含有ペーストを調製した。この負極合剤含有ペーストを、銅箔からなる厚さ10μmの集電体の両面に間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って全厚が142μmになるように負極合剤層の厚みを調整した。共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた上記負極の負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.3μmであった。その後、幅45mmになるように切断して、負極を得た。更にこの負極の銅箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
平均粒径D50が18μm、d002が0.338nmで、R値が0.18であり、比表面積が3.2m2/gである黒鉛粒子と、平均粒径D50が16μm、d002が0.336nmで、R値が0.05の黒鉛とを質量比30:70で混合した混合物:98質量部と、1質量%の濃度のカルボキシメチルセルロース水溶液1.0質量部と、スチレン-ブタジエンゴム1.0質量部とを、イオン交換水を溶剤として混合し、水系の負極合剤含有ペーストを調製した。この負極合剤含有ペーストを、銅箔からなる厚さ10μmの集電体の両面に間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って全厚が142μmになるように負極合剤層の厚みを調整した。共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた上記負極の負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.3μmであった。その後、幅45mmになるように切断して、負極を得た。更にこの負極の銅箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
上記の負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例14)
負極活物質におけるR値が0.18の上記黒鉛粒子とR値が0.05の上記黒鉛との質量比を50:50とした以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.4μmであった。
負極活物質におけるR値が0.18の上記黒鉛粒子とR値が0.05の上記黒鉛との質量比を50:50とした以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.4μmであった。
上記負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例15)
負極活物質におけるR値が0.18の上記黒鉛粒子とR値が0.05の上記黒鉛との質量比を70:30とした以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.6μmであった。
負極活物質におけるR値が0.18の上記黒鉛粒子とR値が0.05の上記黒鉛との質量比を70:30とした以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.6μmであった。
上記負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例16)
負極活物質におけるR値が0.18の上記黒鉛粒子とR値が0.05の上記黒鉛との質量比を85:15とした以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.7μmであった。
負極活物質におけるR値が0.18の上記黒鉛粒子とR値が0.05の上記黒鉛との質量比を85:15とした以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.7μmであった。
上記の負極を用いたこと、および非水電解液にシクロヘキシルベンゼンを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例17)
平均粒径D50が18μm、d002が0.338nmで、R値が0.48であり、比表面積が3.2m2/gである黒鉛粒子と、平均粒径D50が16μm、d002が0.336nmで、R値が0.05の黒鉛とを質量比85:15で混合した混合物を用いた以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.73μmであった。
平均粒径D50が18μm、d002が0.338nmで、R値が0.48であり、比表面積が3.2m2/gである黒鉛粒子と、平均粒径D50が16μm、d002が0.336nmで、R値が0.05の黒鉛とを質量比85:15で混合した混合物を用いた以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.73μmであった。
上記の負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(実施例18)
平均粒径D50が18μm、d002が0.337nmで、R値が0.11であり、比表面積が3.2m2/gである黒鉛粒子と、平均粒径D50が16μm、d002が0.336nmで、R値が0.05の黒鉛とを質量比85:15で混合した混合物を用いた以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.69μmであった。
平均粒径D50が18μm、d002が0.337nmで、R値が0.11であり、比表面積が3.2m2/gである黒鉛粒子と、平均粒径D50が16μm、d002が0.336nmで、R値が0.05の黒鉛とを質量比85:15で混合した混合物を用いた以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.69μmであった。
上記の負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(比較例1)
負極活物質に、実施例1で用いたものと同じR値が0.05の上記黒鉛のみを用いた以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が142μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.15μmであった。そして、上記の負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
負極活物質に、実施例1で用いたものと同じR値が0.05の上記黒鉛のみを用いた以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が142μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.15μmであった。そして、上記の負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(比較例2)
実施例1で作製したものと同じ負極を用い、また、実施例1でセパレータの作製に用いたものと同じPE製微多孔膜を、多孔質層(II)を形成することなくセパレータとして用い、更に、シクロヘキシルベンゼンを添加しない以外は実施例1と同様に調製した非水電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。なお、上記のセパレータは、突き刺し強度が3.7Nであり、上記の方法により測定した細孔径(バブルポイント細孔径)は、0.033μmであった。
実施例1で作製したものと同じ負極を用い、また、実施例1でセパレータの作製に用いたものと同じPE製微多孔膜を、多孔質層(II)を形成することなくセパレータとして用い、更に、シクロヘキシルベンゼンを添加しない以外は実施例1と同様に調製した非水電解液を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。なお、上記のセパレータは、突き刺し強度が3.7Nであり、上記の方法により測定した細孔径(バブルポイント細孔径)は、0.033μmであった。
(比較例3)
負極活物質におけるR値が0.18の上記黒鉛とR値が0.05の上記黒鉛との質量比を50:50とした以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.45μmであった。
負極活物質におけるR値が0.18の上記黒鉛とR値が0.05の上記黒鉛との質量比を50:50とした以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.45μmであった。
上記の負極を用いた以外は、比較例2と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(比較例4)
巻回電極体の作製時に、多孔質層(II)が負極側に向くようにセパレータを配置した以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
巻回電極体の作製時に、多孔質層(II)が負極側に向くようにセパレータを配置した以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(比較例5)
実施例1でセパレータの作製に用いたものと同じPE製微多孔膜を、多孔質層(II)を形成することなくセパレータとして用いた以外は、実施例7と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
実施例1でセパレータの作製に用いたものと同じPE製微多孔膜を、多孔質層(II)を形成することなくセパレータとして用いた以外は、実施例7と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(比較例6)
負極活物質におけるR値が0.18の上記黒鉛とR値が0.05の上記黒鉛との質量比を20:80とした以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.2μmであった。
負極活物質におけるR値が0.18の上記黒鉛とR値が0.05の上記黒鉛との質量比を20:80とした以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.2μmであった。
上記の負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
(比較例7)
平均粒径がD50が18μm、d002が0.339nmで、R値が0.53であり、比表面積が3.2m2/gである黒鉛と、平均粒径がD50が16μm、d002が0.336nmで、R値が0.05の黒鉛とを質量比を85:15で混合した混合物を用いた以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.4μmであった。
平均粒径がD50が18μm、d002が0.339nmで、R値が0.53であり、比表面積が3.2m2/gである黒鉛と、平均粒径がD50が16μm、d002が0.336nmで、R値が0.05の黒鉛とを質量比を85:15で混合した混合物を用いた以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。得られた負極は、カレンダー処理後の全厚が144μmであり、共焦点レーザー顕微鏡を用いて求めた負極合剤層表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.4μmであった。
上記の負極を用い、多孔質層(II)が負極側に向くようにセパレータを配置した以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
実施例1~18および比較例1~7のリチウム二次電池について、下記の常温放電容量測定、-5℃・10%充電深度での充電電流測定、耐電圧実験、および電池の高温貯蔵試験を行った。これらの結果を表1および表2に示す。
<常温放電容量測定>
実施例1~18および比較例1~7のリチウム二次電池について、常温(25℃)で、240mA(0.2C)の定電流で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行い、続いて4.2Vまで240mA(0.2C)の定電流で充電後、総充電時間が8時間となるまで4.2Vで定電圧充電を行い、続いて240mA(0.2C)の定電流で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行って、放電容量を測定した。なお、表1および表2では、各電池の常温放電容量を、比較例1の電池の値を100とした場合の相対値で示す。
実施例1~18および比較例1~7のリチウム二次電池について、常温(25℃)で、240mA(0.2C)の定電流で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行い、続いて4.2Vまで240mA(0.2C)の定電流で充電後、総充電時間が8時間となるまで4.2Vで定電圧充電を行い、続いて240mA(0.2C)の定電流で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行って、放電容量を測定した。なお、表1および表2では、各電池の常温放電容量を、比較例1の電池の値を100とした場合の相対値で示す。
<-5℃・10%充電での充電電流測定>
実施例1~18および比較例1~7のリチウム二次電池を-5℃の恒温槽内に5時間静置し、その後、各電池について、4.2Vまで1200mA(1.0C)の定電流で充電を行い、4.2Vに達した後は4.2Vで定電圧充電を行い、充電深度(規格容量に対する実際に充電した容量の割合)が10%に達したときの電流値を測定した。なお、表1および表2では、各電池の上記充電電流を、比較例1の電池の値を100とした場合の相対値で示す。
実施例1~18および比較例1~7のリチウム二次電池を-5℃の恒温槽内に5時間静置し、その後、各電池について、4.2Vまで1200mA(1.0C)の定電流で充電を行い、4.2Vに達した後は4.2Vで定電圧充電を行い、充電深度(規格容量に対する実際に充電した容量の割合)が10%に達したときの電流値を測定した。なお、表1および表2では、各電池の上記充電電流を、比較例1の電池の値を100とした場合の相対値で示す。
<耐電圧実験>
非水電解液注入前の実施例1~18および比較例1~7のリチウム二次電池各20個に対して、650V(AC60Hz)の電圧を印加し、7mA以上の電流が流れた電池で短絡跡があったものを不良とし、その発生個数を調べた。
非水電解液注入前の実施例1~18および比較例1~7のリチウム二次電池各20個に対して、650V(AC60Hz)の電圧を印加し、7mA以上の電流が流れた電池で短絡跡があったものを不良とし、その発生個数を調べた。
耐電圧実験は、短絡をしていなくても電極間の距離が小さくなり、極端な場合、充放電サイクルに伴って容量低下しやすくなる充放電サイクル信頼性を、どの程度確保できるか知るための試験手段である。一定の耐電圧に対して、絶縁破壊が起こらなければ電極間距離が基準以上に保たれていることを意味する。ここでは差異を明確にするために高めの値で試験している。
耐電圧実験による信頼性向上効果は、セパレータの多孔質層(I)の厚みが20μm以下で明らかとなるが、14μm以下でさらに効果が高く、12μm以下での導入でさらに効果が高くなり好ましい。
<過充電試験>
実施例1~18および比較例1~7のリチウム二次電池について、1C(1200mA)で3.0Vまで電池を放電させた後、23℃の環境下で、上限電圧を15Vとして0.5C(600mA)の充電を行い、そのときの各電池の表面温度を測定し、その最高温度を求めた。
実施例1~18および比較例1~7のリチウム二次電池について、1C(1200mA)で3.0Vまで電池を放電させた後、23℃の環境下で、上限電圧を15Vとして0.5C(600mA)の充電を行い、そのときの各電池の表面温度を測定し、その最高温度を求めた。
<高温貯蔵試験>
実施例1~18および比較例1~7のリチウム二次電池について、1.0Cの電流値で電池電圧が4.25Vになるまで定電流充電を行い、次いで、4.25Vでの定電圧充電を行う定電流-定電圧充電を行った。充電終了までの総充電時間は2.5時間とした。上記条件で充電した各電池を恒温槽に入れ、30℃から150℃まで、毎分5℃の割合で昇温し、その後引き続き150℃で3時間放置し、電池の表面温度を測定した。表1および表2では、上記の電池表面温度が、160℃以上まで上昇したものを「F」と示し、このような温度上昇が認められなかったものを「S」と示している。
実施例1~18および比較例1~7のリチウム二次電池について、1.0Cの電流値で電池電圧が4.25Vになるまで定電流充電を行い、次いで、4.25Vでの定電圧充電を行う定電流-定電圧充電を行った。充電終了までの総充電時間は2.5時間とした。上記条件で充電した各電池を恒温槽に入れ、30℃から150℃まで、毎分5℃の割合で昇温し、その後引き続き150℃で3時間放置し、電池の表面温度を測定した。表1および表2では、上記の電池表面温度が、160℃以上まで上昇したものを「F」と示し、このような温度上昇が認められなかったものを「S」と示している。
表1および表2に示すように、R値が0.1~0.5で、d002が0.338nm以下の黒鉛の含有量が30%未満の負極活物質を用いた比較例1、6では、低温での充電特性が劣ることが分かった。
多孔質層(II)が形成されておらず、非水電解液中に添加剤を含まない比較例2、3では、放充電サイクルの信頼性が低く、また、過充電時の電池表面の最高温度は130℃以上にまで上昇し、高温貯蔵安定性も得られていないことから、過充電時における安定性が確保できていないことが分かった。
多孔質層(II)が形成されていないが、非水電解液中に添加剤が含まれる比較例5では、添加剤により過充電時の電池表面の最高温度を低く抑えることができているものの、比較例2、3と同様、過充電時における安定性が確保できていないことが分かった。
比較例4のようにセパレータの多孔質層(II)を負極側に配置すると、かえって過充電時の電池の最高温度が上昇する傾向があり、過充電時の安定性を確保できないことが分かった。
負極活物質に30質量%以上含まれる黒鉛が、R値が0.1~0.5、d002が0.338nm以下の条件を満たさず、セパレータの多孔質層(II)が負極側に配置されている比較例7では、過充電時の電池表面の最高温度を低く抑えることができず、高温貯蔵安定性も悪いことから、過充電時の安定性が確保できないことが分かった。
一方、多孔質層(II)が正極に面するように配置されたセパレータと、R値が0.1~0.5で、d002が0.338nm以下である黒鉛を、負極活物質全量中に30質量%以上の割合で含む負極を用いた実施例12、16では、低温での充電特性を向上できており、また、高温貯蔵安定性に優れていることから、過充電により電気化学素子の温度が上昇しても過充電による安全性を確保できることが分かった。
また、非水電解液中にベンゼン環にアルキル基が結合した化合物が添加されている実施例1~11、13~15、17、18では、過充電による電気化学素子の温度上昇を抑制できることが分かった。つまり、過充電における安全性を改善できていることが分かる。
また、多孔質層(II)が負極側に配置されている比較例4や、非水電解液中にシクロヘキシルベンゼンが含まれない実施例12、16より、多孔質層(II)が正極側に配置され、非水電解液中にシクロヘキシルベンゼンが含まれる実施例1の方が過充電時の電池表面の最高温度が低下していることから、セパレータの多孔質層(II)を正極側に配置することによる作用と、非水電解液に係るベンゼン環にアルキル基が結合した添加剤による作用とが、正極側で相乗的に機能していると考えられた。
なお、一般的には、14μm以下の薄いポリオレフィンのセパレータを使用して電池を構成しようとすると、生産工程での歩留まりが悪くなる傾向にあるが、本発明の電気化学素子(リチウム二次電池)では、多孔質層(II)を形成したセパレータを用いることで、その生産性も良好となる。
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、上記以外の形態としても実施が可能である。本出願に開示された実施形態は一例であって、これらに限定はされない。本発明の範囲は、上述の明細書よりも、添付されている請求の範囲の記載を優先して解釈され、請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更は、請求の範囲に含まれるものである。
本発明によれば、低温での充電特性に優れ、過充電などにより電池の温度が異常に上昇したときの安全性にも優れた電気化学素子を提供することができる。
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 外装缶
5 絶縁体
6 巻回電極体
7 正極リード体
8 負極リード体
9 封口用蓋板
10 絶縁パッキング
11 端子
12 絶縁体
13 リード板
14 非水電解液注入口
15 開裂ベント
2 負極
3 セパレータ
4 外装缶
5 絶縁体
6 巻回電極体
7 正極リード体
8 負極リード体
9 封口用蓋板
10 絶縁パッキング
11 端子
12 絶縁体
13 リード板
14 非水電解液注入口
15 開裂ベント
Claims (10)
- 正極、負極、非水電解液およびセパレータを含む電気化学素子であって、
前記セパレータは、熱可塑性樹脂を主体とする微多孔膜からなる多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む多孔質層(II)とを有し、前記多孔質層(II)が少なくとも正極に面しており、
前記負極は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度比であるR値が0.1~0.5であり、002面の面間隔d002が0.338nm以下である黒鉛を負極活物質として含有しており、
前記負極活物質中での前記黒鉛の割合が30質量%以上であることを特徴とする電気化学素子。 - 前記非水電解液は、ベンゼン環にアルキル基が結合した化合物を含有している請求項1に記載の電気化学素子。
- 前記負極が、負極活物質として、R値が0.1未満の黒鉛を更に含有している請求項1に記載の電気化学素子。
- 前記セパレータの細孔径が、0.025~0.07μmである請求項1に記載の電気化学素子。
- 前記多孔質層(II)に含まれるフィラーの少なくとも一部が、板状粒子である請求項1に記載の電気化学素子。
- 前記多孔質層(II)に含まれるフィラーの少なくとも一部が、一次粒子が凝集した二次粒子構造を有している請求項1に記載の電気化学素子。
- 前記多孔質層(II)に含まれるフィラーが、アルミナ、シリカおよびベーマイトよりなる群から選択される少なくとも1種の粒子である請求項1に記載の電気化学素子。
- 前記多孔質層(I)が、融点が80~150℃のポリオレフィンを含有している請求項1に記載の電気化学素子。
- 前記ベンゼン環にアルキル基が結合した化合物の含有量が、0.5~5質量%である請求項2に記載の電気化学素子。
- 前記ベンゼン環にアルキル基が結合した化合物が、シクロヘキシルベンゼンである請求項2に記載の電気化学素子。
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