WO2009119809A1 - 乳癌判定用のマーカー、検査方法および検査用キット - Google Patents

乳癌判定用のマーカー、検査方法および検査用キット Download PDF

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Abstract

[課題]本発明は、触診やマンモグラフィー検査では検出できない乳癌の発症、または初期段階(臨床病期0期)の乳癌であっても検出することができる、簡単かつ高い信頼性を有するマーカー、検査方法および検査用キットを提供することを課題とする。 [解決手段]本発明の乳癌関連マーカーは、血清中または血漿中に見出されるマイクロRNAであることを特徴とするものである。より具体的には、その血清中または血漿中に存在するレベルとして、乳癌の発症前、または乳癌の初期段階前(臨床病期0期前)に対して、乳癌の発症以後、または乳癌の初期段階以後(臨床病期0期以後)の方が有意に低下しているマイクロRNAを少なくとも用いるマーカーである。

Description

乳癌判定用のマーカー、検査方法および検査用キット
 本発明は、乳癌判定用のマーカー、乳癌の検査方法および乳癌の検査用キットに関する。さらに詳細には、本発明は、乳癌の発症、または乳癌の初期段階(臨床病期0期)を検出するための、血清中または血漿中に見出されるマイクロRNAからなるマーカー、乳癌の検査方法および乳癌の検査用キットに関する。
 乳癌は、多くの文明諸国において、女性に最も多くみられる悪性腫瘍であり、浸潤性乳癌に進展するリスクは、依然として女性の生涯を通じて10%を超える(非特許文献1)。これは、癌組織がある程度の大きさにまで進展しないと、触診やマンモグラフィー検査によって検出することができないことにも起因している。
 乳癌を含む癌の発生および進展は、従来、癌遺伝子や癌抑制遺伝子などの多段階変異の蓄積が原因であるとされていた。近年、DNAメチル化やヒストン脱アセチル化など、遺伝子の一次構造の変異を伴わない、いわゆるエピジェネティックな変異も、癌の発生および進展に関与していることがわかった。
 DNAメチル化やヒストンの修飾の異常は、マイクロRNAと呼ばれる低分子RNAにより制御されることが明らかになりつつある。なお、マイクロRNA(以下「miRNA」ともいう。)とは、タンパク質のアミノ酸配列として翻訳されない19~25ヌクレオチドの小さな非コードRNAである。miRNAは、ヒトを含む生物に多数存在することが確認されており、系統的に高度に保存されている(非特許文献2~4)。これまで、特にヒトにおいては、約800種類のmiRNAが発見されている(非特許文献5~10)。
 癌とmiRNAとの関連について、Calinらは、リンパ性白血病において、miRNAであるmiR-15およびmiR-16が頻繁にダウンレギュレーションしていることを報告している(非特許文献11)。また、最近では、Michaelらが、ヒト大腸癌においてmiRNAであるmiR-143およびmiR-145の発現が低下していることを報告している(非特許文献12)。
 しかしながら、これらの報告においてmiRNAの発現低下が癌の臨床病理学的特性に影響を及ぼすか否かについては示されておらず、癌におけるマイクロRNAの発現制御機構や発現異常、マイクロRNAの標的遺伝子に関しては、未知の点が多い。
Krupnick JG, Benovic JL: The role of receptor kinases and arrestins in G protein-coupled receptor regulation, Annu Rev Pharmacol Toxicol 1998年, 38巻, p.289-319 Ambros V, MicroRNA pathways in flies and worms: growth, death, fat, stress, and timing, Cell, 2003年, 113巻, p.673-6 Grosshans H, Slack FJ, Micro-RNAs: small is plentiful, J Cell Biol, 2002年, 156巻, p.17-21 Nelson P, Kiriakidou M, Sharma A, Maniataki E, Mourelatos Z, The microRNA world: small is mighty, Trends Biochem Sci, 2003年, 28巻, p.534-40 Lagos-Quintana M, Rauhut R, Lendeckel W, Tuschl T, Identification of novel genes coding for small expressed RNAs, Science, 2001年, 294巻, p.853-8 Lau NC, Lim LP, Weinstein EG, Bartel DP, An abundant class of tiny RNAs with probable regulatory roles in Caenorhabditis elegans, Science, 2001年, 294巻, p.858-62 Lee RC, Ambros V, An extensive class of small RNAs in Caenorhabditis elegans, Science, 2001年, 294巻, p.862-4 Mourelatos Z, Dostie J, Paushkin Sら, miRNP:miRNPs: a novel class of ribonucleoproteins containing numerous microRNAs, Genes Dev, 2002年, 16巻, p.720-8 Lim LP, Glasner ME, Yekta S, Burge CB, Bartel DP, Vertebrate microRNA genes, Science, 2003年, 299巻, p.1540 "Genome Summary  List of Genome Currently Available"、[online]、miRBase、[平成21年3月27日検索]、インターネット〈URL: http://microrna.sanger.ac.uk/cgi-bin/targets/v5/genome.pl?order#by=genome#name〉 Calin GA, Dumitru CD, Shimizu Mら, Frequent deletions and down-regulation of micro- RNA genes miR15 and miR16 at 13q14 in chronic lymphocytic leukemia, Proc Natl Acad Sci U S A, 2002年, 99巻, p.15524-9 Michael MZ, SM OC, van Holst Pellekaan NG, Young GP, James RJ, Reduced accumulation of specific microRNAs in colorectal neoplasia Mol Cancer Res, 2003年, 1巻, p.882-91
 本発明は、触診やマンモグラフィー検査では検出できず、従来の病理細胞診において見落とす可能性の高い乳癌の発症、または初期段階(臨床病期0期)の乳癌であっても、乳癌細胞の存在を検出することができる、簡単かつ高い信頼性を有し、血清中または血漿中に存在するマイクロRNAからなるマーカー、検査方法および検査用キットを提供することを課題とする。
 本発明者らは、上記の問題、または従来の乳癌を検出する診断マーカーでは鋭敏度(感度)・特異度の観点において精度が低く、正確に診断することができないという問題を解決すべく鋭意検討した結果、乳癌を発症した後、被験者の血清中または血漿中に存在するマイクロRNA(α)のレベルが有意に低下すること、およびマイクロRNA(β)は血清中または血漿中に存在するレベルは乳癌の罹患にかかわらず一定であること、およびそれらの動態から乳癌の発症、または乳癌の初期段階(臨床病期0期)を診断できるマーカーとして使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
 本発明のマーカーは、乳癌関連マーカーであって、より具体的には(A)「乳癌の発症、または乳癌の初期段階(臨床病期0期)を検出するためのマーカー」、あるいは乳癌の予後因子としてのマーカーであり、(B)「血清中または血漿中に見出されるマイクロRNA」であることを特徴とする。換言すれば、本発明は、該(A)を該(B)として使用する方法を提供するものである。
 上記マイクロRNAは、その血清中または血漿中に存在するレベルとして、乳癌の発症前、または乳癌の初期段階前(臨床病期0期前)に対して、乳癌の発症以後、または乳癌の初期段階以後(臨床病期0期以後)の方が有意に低下しているマイクロRNA(α)であることが好ましく、hsa-miR-92a1、hsa-miR-92a2、hsa-miR-22、hsa-miR-370、hsa-miR-601、hsa-miR-658およびhsa-miR-494からなる群より選ばれる少なくとも1種のマイクロRNA(α)であることがより好ましい。
 また、上記マイクロRNAは、その血清中または血漿中に存在するレベルとして、乳癌の発症前後、または乳癌の初期段階前後(臨床病期0期前後)を通して一定であるマイクロRNA(β)と、上記マイクロRNA(α)との組み合わせであることが好ましく、該マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルを、該マイクロRNA(β)の血清中または血漿中に存在するレベルによって除した数値として、乳癌の発症前、または乳癌の初期段階前(臨床病期0期)に対して、乳癌の発症以後、または乳癌の初期段階以後(臨床病期0期)の方が統計学的に有意に低下している該マイクロRNA(α)と該マイクロRNA(β)との組み合わせであることがより好ましい。
 上記マイクロRNA(β)は、hsa-miR-638、hsa-miR-630およびhsa-miR-572からなる群より選ばれる少なくとも1種のマイクロRNAであることが好ましい。
 本発明の乳癌の検査方法は、被験者由来の血清中または血漿中に存在するマイクロRNAレベルの動態を検出することを特徴とするものであって、(i)上記マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルとして、被験者に由来するサンプルから得られた数値が、1以上の健常者または1以上の乳癌患者に由来するサンプルから得られた数値と比較し、統計学的に有意差があるか否かを検定する工程、または(ii)上記マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルを、上記マイクロRNA(β)の血清中または血漿中に存在するレベルで除することによって求められる、標準化された該マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルとして、被験者に由来するサンプルから得られた数値が、1以上の健常者または1以上の乳癌患者に由来するサンプルから得られた数値と比較し、統計学的に有意差があるか否かを検定する工程を含むことが好ましい。特に、工程(i)および(ii)において、比較対照とするサンプルとして、1以上の乳癌患者に由来するものがより好ましい。
 さらに、本発明の乳癌の検査用キットは、本発明のマーカーとなるマイクロRNA測定用の試薬を少なくとも含むことを特徴とする。
 本発明は、触診やマンモグラフィー検査では検出できず、従来の病理細胞診において見落とす可能性の高い乳癌の発症、または初期段階(臨床病期0期)の乳癌であっても、被験者の採血から簡単に検査することができ、かつ従来の乳癌マーカーと比較しても陰性/陽性の差が顕著に鋭敏であることから高い信頼性を有するマーカー、検査方法および検査用キットを提供することができる。さらに、乳癌の検査の際、採血のみで陰性/陽性の判定ができることから、被験者にとっても負担が少ないため好ましい。
図1は、実施例3の表5をグラフで表したものである。 図2は、hsa-miR-*92aの保存安定性をRT-PCRにより評価したグラフを示す。 図3は、hsa-miR-638の保存安定性をRT-PCRにより評価したグラフを示す。
 次に、本発明のマーカー、乳癌の検査方法および乳癌の検査用キットについて詳細に説明する。
 <マーカー>
 本発明のマーカーは、乳癌関連マーカーであって、血清中または血漿中に見出されるマイクロRNAであることを特徴とするものである。
 後述するように、さらに本発明のマーカーは、マイクロRNA(α)単独であっても、マイクロRNA(α)とマイクロRNA(β)との組み合わせであってもよい。
 〔マイクロRNA〕
 マイクロRNA(miRNA)は、タンパク質をコードしない小さなRNA分子であり、発生、分化、増殖など様々な生命現象に関わっていると考えられている。この小さなRNAをコードするmiRNA遺伝子は、ゲノム上に少なくとも数百存在している。それらの遺伝子からは、まず、数百から数千ヌクレオチドの長さの初期miRNAが転写され、次に、マイクロプロセッサーと呼ばれるタンパク質複合体によって消化され、約60~70ヌクレオチドのヘアピン型前駆体miRNAとなる。その後、エクスポーチン5を介して核から細胞質内に移り、Dicerと呼ばれるリボヌクレアーゼIIIによってさらに消化され、19~25ヌクレオチドの成熟したmiRNA二量体となる。そして、成熟したmiRNA二量体は、RNA干渉(RNAi)と関連のあるArgonauteタンパク質とともに複合体を形成し、機能すると考えられている。その作用機序は、miRNAと一部(部分的に)相補的なメッセンジャーRNAとの部分的(不完全な)ハイブリダイゼーションと、それに伴う未知の翻訳抑制作用であると考えられている。そのため、1種類のmiRNAが、タンパク質をコードする複数のメッセンジャーRNAの翻訳を制御するという極めてユニークな発現調節機構に携わっていると考えられている。
 最近、発明者らは、細胞質内に存在するはずである成熟したmiRNA二量体を、血清中または血漿中から検出した。miRNAが血液中に移動するメカニズムおよびその理由については不明な点もあるが、ある特定のmiRNA(マイクロRNA(β))は、そのレベルが恒常的(一定)であるのに対し、ある特定のmiRNA(マイクロRNA(α))は、そのレベルが変動的であることもわかった。
 なお、本発明において「レベル」は、例えば、リアルタイムRT-PCR(またはRT-qPCR)検出法で測定された数値(Copies/μL)、マイクロアレイ解析法やノーザンブロット分析法で検出されたシグナル強度など、いずれかを指標として用いることができる。
 (マイクロRNA(β))
 血清中または血漿中に存在する成熟したmiRNA二量体のうち、マイクロRNA(β)は、hsa-miR-638、hsa-miR-630およびhsa-miR-572からなる群より選ばれる少なくとも1種のマイクロRNAであることが好ましく、これらはいずれも乳癌の発症前後、または乳癌の初期段階前後(臨床病期0期前後)を通してそのレベルが恒常的(一定)である。
 したがって、乳癌の罹患または乳癌の病期の進展に伴って生じるマイクロRNA(α)の、変動的なレベルの動態を検出する場合、マイクロRNA(β)の血清中または血漿中に存在するレベルを基準として、異なるサンプル同士を標準化することができる、すなわち、マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルを、マイクロRNA(β)の血清中または血漿中に存在するレベルによって除すことによって、得られた数値は、乳癌の発症前、または乳癌の初期段階前(臨床病期0期)に対して、乳癌の発症以後、または乳癌の初期段階以後(臨床病期0期以後)の方が有意に低下するため、マイクロRNA(α)と(β)との組み合わせは、本発明のマーカーとして好適である。
 このようなマイクロRNA(β)それぞれの配列を以下に示す。
 (hsa-miR-638)agggaucgcgggcggguggcggccu
 (hsa-miR-630)aguauucuguaccagggaaggu
 (hsa-miR-572)guccgcucggcgguggccca
 (マイクロRNA(α))
 また、マイクロRNA(α)として、例えば、hsa-miR-92a1、hsa-miR-92a2、hsa-miR-22、hsa-miR-370、hsa-miR-601、hsa-miR-658、hsa-miR-494などのマイクロRNAが挙げられる。これらマイクロRNAは、乳房、乳管および乳腺からなる組織に由来する細胞の癌化に伴い特異的にそのレベルが減少する(すなわち、これらマイクロRNAは、その血清中または血漿中に存在するレベルとして、乳癌の発症前、または乳癌の初期段階前(臨床病期0期)に対して、乳癌の発症以後、または乳癌の初期段階以後(臨床病期0期)の方が統計学的に有意に低下している。)ため、乳癌の発症、および初期段階(臨床病期0期)を検出するためのマーカーとして好適である。
 このようなマイクロRNA(α)は、1種単独でも2種以上併用することもできる。
 なお、hsa-miR-92a1およびhsa-miR-92a2は、異なるゲノム領域から転写されたものでありながら、成熟型の配列は同一である。以下、hsa-miR-92a1およびhsa-miR-92a2を合わせて「hsa-miR-*92a」ともいう。
 このようなマイクロRNA(α)それぞれの配列を以下に示す。
 (has-miR-*92a)uauugcacuugucccggccugu
 (hsa-miR-22)aagcugccaguugaagaacugu
 (hsa-miR-370)gccugcugggguggaaccuggu
 (hsa-miR-601)uggucuaggauuguuggaggag
 (hsa-miR-658)ggcggagggaaguagguccguuggu
 (has-miR-494)ugaaacauacacgggaaaccuc
 〔乳癌〕
 本明細書において「乳癌」は、終末乳管から発生する乳管癌および小葉から発生する小葉癌の両方を含む。なお、「癌」は、悪性腫瘍をいうが、単に「腫瘍」と言及することもある。「悪性転換」と「癌化」とは、同義のように使用することもある。
 本明細書において「発症」とは、疾患特異的臨床症状、検査データ等をもとに総合的判断により特定疾患と診断された時点をもって発症とよぶ。
 本明細書において「予後因子」とは、疾患が、術後どのような経過をたどるのかを予測し、見通しを立て、適切な治療方法を選択するための判断材料のことを言う。なお、予後因子には、本発明のマーカー以外に、一般に以下のものが知られている。しこりの大きさ、リンパ節への転移状況、遠隔転移の有無、ホルモンレセプター(エストロゲンレセプター(ER)、プロゲステロンレセプター(PgR))の有無、閉経状況、核異型度など。
 乳癌の臨床病期(ステージ)は一般に、非浸潤癌(上皮内癌)、局所浸潤癌、領域浸潤癌および遠隔転移癌(転移癌)という名称として、または腫瘍のサイズ、リンパ節への浸潤の有無、癌細胞の遠隔転移により決定され、具体的にステージ0~IV(臨床病期0~IV期)として表現される。
  非浸潤癌(上皮内癌):局所に留まっている癌という意味であり、最も初期の癌に相当する。乳房内で著しく大きくなっていることもあるが、周囲の組織への浸潤や体内の他の部位への転移は起こしていない。通常はマンモグラフィー検査で発見される。
  局所浸潤癌:周囲の組織に浸潤しているものの、乳房内に留まっている癌をいう。
  領域浸潤癌:胸壁やリンパ節など乳房周囲の組織にも浸潤している癌をいう。
  遠隔転移癌(転移癌):乳房から体内の別の部位に転移した癌をいう。
  ステージ0:腫瘍が、乳管または乳腺に限局し、周囲の乳腺組織への浸潤がない(非浸潤癌(上皮内癌))。乳癌の初期段階ともいう。
  ステージI:腫瘍の直径が2cm未満で、乳房外への転移がない。
  ステージII:腫瘍の直径が2~5cmで、腫瘍と同じ側の腋(片側または両側)のリンパ節に転移がみられる。
  ステージIII:腫瘍の直径が5cmを超え、リンパ節への転移があり、周囲の組織への癒着やリンパ節内の癒着がみられる。または、腫瘍の大きさに拘わらず、皮膚、胸壁、乳房より下流の胸部リンパ節への転移がみられる。
  ステージIV:腫瘍の大きさに拘わらず、乳房から離れた肺や骨などの臓器および組織、または乳房から離れた部位のリンパ節への転移がみられる。
 また、乳癌は、癌細胞が最初に発生した組織の種類と、病巣の広がりの範囲によっても分類される。乳管で発生した癌を乳管癌といい、乳癌のおよそ90%は乳管癌である。乳腺で発生した癌は小葉癌という。脂肪組織や結合組織から発生したものは肉腫というが、乳房の癌では稀である。
 非浸潤性乳管癌は、乳管内に限局した癌である。この癌は乳房周囲の組織には浸潤していないが、乳管に沿って広がり、乳房内でかなり大きくなることもある。この癌は乳癌の20~30%を占める。
 非浸潤性小葉癌は、乳腺の内部で増殖する。両側の乳房の複数の部位に生じることも多い。非浸潤性小葉癌は乳癌の1~2%を占める。
 浸潤性乳管癌は、乳管内で発生するが、管壁を越えて周囲の乳腺組織に浸潤した癌である。乳房以外の部位にも転移することがあり、乳癌の65~80%を占めている。
 浸潤性小葉癌は、乳腺内で発生して周囲の乳腺組織に浸潤し、さらに乳房以外の部位にも転移する癌である。この癌は乳癌の10~15%を占めている。
 他に、乳癌全体のおよそ1%を占める炎症性乳癌、および乳頭のパジェット病が知られ、さらに発生頻度が低い乳管由来の浸潤性癌として、髄様癌、管状癌、粘液癌(膠様癌)などがある。
 本願に係る乳癌は、乳房、乳管および乳腺からなる組織を原発とするこれらのガン(癌)、および触診やマンモグラフィー検査によって検出することができない臨床病期0期の非浸潤癌(上皮内癌)もすべて含むものとする。
 <乳癌の検査方法>
 本発明の乳癌の検査方法は、被験者由来の血清中または血漿中に存在するマイクロRNAレベルの動態を検出することを特徴とするものであって、以下の工程(i)または(ii)を含むことが好ましい。
 工程(i):上記マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルとして、被験者に由来するサンプルから得られた数値が、1以上の健常者または1以上の乳癌患者に由来するサンプルから得られた数値と比較し、統計学的に有意差があるか否かを検定する工程。
 工程(ii):上記マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルを、上記マイクロRNA(β)の血清中または血漿中に存在するレベルで除することによって求められる、標準化された該マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルとして、被験者に由来するサンプルから得られた数値が、1以上の健常者または1以上の乳癌患者に由来するサンプルから得られた数値と比較し、統計学的に有意差があるか否かを検定する工程。
 本発明の乳癌の検査方法として、具体的には、まず、検体から全RNAを抽出する。なお、本明細書において「検体」とは、乳癌患者(病理細胞診により乳癌と診断されたヒトまたはヒト以外の哺乳動物をいう。)、健常者(特定の慢性疾患を抱えておらず、日常生活行動に支障がないヒトまたはヒト以外の哺乳動物をいい、より具体的には、年1回以上実施される定期検診(癌検診を含む。)によって、癌ではないと診断されたヒトまたはヒト以外の哺乳動物をいう。)、被験者(乳癌発症が疑われるヒトまたはヒト以外の哺乳類動物をいう。)などから分離された血液である。
 すなわち、ヒト等の被験者から採血をし、その血液から得られた上澄みを遠心し、血球を除いたものを血清または血漿とする。得られた血清または血漿から全RNAを抽出する。全RNAの抽出方法としては、例えば、グアニジン-塩化セシウム超遠心法、AGPC(Acid Guanidinium-Phenol-Chloroform)法などが挙げられる。
 次いで、抽出された全RNA中の本発明に係るmiRNAを検出する。検出方法は、本発明に係るmiRNAの発現量を測定できる方法である限り特に限定されないが、例えば、マイクロアレイ解析法、ノーザンブロット分析法、リアルタイムRT-PCR検出法などが挙げられる。
 マイクロアレイ解析法としては、例えば、実施例1に記載されている方法などが挙げられる。
 ノーザンブロット分析法では、電気泳動により、全RNAを鎖長に応じて分離し、ニトロセルロースメンブレンやナイロンメンブレンに転写する。このメンブランを、本発明に係るmiRNAと相補的な配列を有し、かつ放射性物質(例えば、32P等)などにより標識されたプローブとバッファー中でインキュベートする。その結果、プローブに付した標識に基づいて、プローブとハイブリダイズした本発明に係るmiRNAを検出することができる。なお、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションおよび洗浄ステップは、ストリンジェントな条件で行う。ここで、ストリンジェンな条件とは、例えば、32P標識したDNAをプローブとして用いる場合には、0.25Mリン酸ナトリウム(pH7.2)、7%SDSおよび0.5%ピロリン酸ナトリウムからなるハイブリダイゼーションバッファー中で温度37℃である。また、洗浄ステップにおいては、2×SSCおよび1%SDSからなる洗浄バッファー中で温度37℃、さらに0.1×SSCからなる洗浄バッファー中で温度が室温である。その他の場合には、その検出法の標準的な条件であってよい。放射性標識したプローブにより検出する場合には、オートラジオグラフィーを用いて、バンド密度に基づき、プローブとハイブリダイズした本発明に係るmiRNAを定量することができる。
 また、リアルタイムRT-PCR(またはRT-qPCR)検出法によれば、全RNAに対応するランダムプライミングcDNAおよび本発明に係るmiRNAに相補的なプライマーを用いたPCRにより、例えば、SYBR Green等の二本鎖DNAに特異的に結合する蛍光色素を介して、本発明に係るmiRNAを定量的に検出することができる。リアルタイムRT-PCR検出法は、公知の方法または検出機器や試薬の製造業者のマニュアル(例えば、ABI Prism 7900 Sequence Detection System(Perkin-Elmer Applied Biosystems)、SYBR Green PCRマスターミックス(Perkin-Elmer Applied Biosystems)など)に従って実施することができる。
 抽出された全RNA中の本発明に係るmiRNAを検出した後に、工程(i)または工程(ii)を実施することが好ましい。
 (工程(i))
 工程(i)とは、上記マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルとして、被験者に由来するサンプルから得られた数値が、1以上の健常者または1以上の乳癌患者に由来するサンプルから得られた数値と比較し、統計学的に有意差があるか否かを検定する工程である。
 すなわち、工程(i)とは、hsa-miR-*92a、hsa-miR-22、hsa-miR-370、hsa-miR-601、hsa-miR-658およびhsa-miR-494からなる群より選ばれる少なくとも1種のマイクロRNA(α)、好ましくはhsa-miR-494、hsa-miR-370、hsa-miR-*92a、特に好ましくはhsa-miR-494であるマイクロRNA(α)の発現量の絶対値が、
(i-1)1以上の健常者に由来するサンプルから得られたマイクロRNA(α)の発現量の絶対値と比較し、統計学的に有意に低い(有意水準は、好ましくは5%、より好ましくは1%である。)か否かを検定する、または
(i-2)1以上の乳癌患者に由来するサンプルから得られたマイクロRNA(α)の発現量の絶対値と比較し、統計学的に有意に高いか否かを検定する工程である。
 より具体的には、(i-1)において、比較した結果、統計学的に有意に低ければ、そのサンプルを提供した被験者を乳癌患者であると診断する、逆に言えば、統計学的に有意差がなければ健常者であると診断する有用な情報となり、(i-2)において、比較した結果、統計学的に有意に高ければ、そのサンプルを提供した被験者を健常者であると診断する、逆に言えば、統計学的に有意差がなければ乳癌患者であると診断する有用な情報となる。
 なお、被験者が1個体である場合、乳癌の発症前、または乳癌の初期段階前(臨床病期0期前)にあらかじめ検体を分離しておき、該検体に由来するサンプルから得られたマイクロRNA(α)の発現量を比較対象とすることが好ましい。
 (工程(ii))
 工程(ii)とは、上記マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルを、上記マイクロRNA(β)の血清中または血漿中に存在するレベルで除することによって求められる、標準化された該マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルとして、被験者に由来するサンプルから得られた数値が、1以上の健常者または1以上の乳癌患者に由来するサンプルから得られた数値と比較し、統計学的に有意差があるか否かを検定する工程である。
 すなわち、工程(ii)とは、hsa-miR-*92a、hsa-miR-22、hsa-miR-370、hsa-miR-601、hsa-miR-658およびhsa-miR-494からなる群より選ばれる少なくとも1種のマイクロRNA(α)、好ましくはhsa-miR-370またはhsa-miR-*92aであるマイクロRNA(α)の発現量を、hsa-miR-638、hsa-miR-630およびhsa-miR-572からなる群より選ばれる少なくとも1種のマイクロRNA(β)、好ましくはhsa-miR-638の発現量により除する(割る)ことによって、マイクロRNA(α)の発現量を標準化し、得られたマイクロRNA(α)の発現量の相対値が、
(ii-1)1以上の健常者に由来するサンプルから得られたマイクロRNA(α)の発現量の相対値と比較し、統計学的に有意に低い(有意水準は、好ましくは5%、より好ましくは1%である。)か否かを検定する、または
(ii-2)1以上の乳癌患者に由来するサンプルから得られたマイクロRNA(α)の発現量の相対値と比較し、統計学的に有意に高いか否かを検定する工程である。
 より具体的には、(ii-1)において、比較した結果、統計学的に有意に低ければ、そのサンプルを提供した被験者を乳癌患者であると診断する、逆に言えば、統計学的に有意差がなければ健常者であると診断する有用な情報となり、(ii-2)において、比較した結果、統計学的に有意に高ければ、そのサンプルを提供した被験者を健常者であると診断する、逆に言えば、統計学的に有意差がなければ乳癌患者であると診断する有用な情報となる。
 なお、工程(i)と同様に、被験者が1個体である場合、乳癌の発症前、または乳癌の初期段階前(臨床病期0期)にあらかじめ検体を分離しておき、該検体に由来するサンプルから得られたマイクロRNA(α)の発現量を比較対象とすることが好ましい。
 工程(ii)は、標準化することによって、使用するマイクロRNA(α)の種類、被験者(個体)、乳癌の発症前、または乳癌の初期段階前(臨床病期0期)の採血の有無に依存しないことから、工程(i)より好ましい。
 工程(ii)およびそれに続く乳癌判定の具体的な手順の一態様を以下に例示する。
 あらかじめマイクロアレイ解析法によって得られたシグナル強度で内部標準によって補正したhsa-miR-638、hsa-miR-630またはhsa-miR-572の発現量により、それぞれhsa-miR-*92a、hsa-miR-22、hsa-miR-370、hsa-miR-601、hsa-miR-658、hsa-miR-494の発現量を、除することによって標準化する。すなわち、上記マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルを、上記マイクロRNA(β)の血清中または血漿中に存在するレベルで割ることによって、標準化する。
 標準化されたhsa-miR-*92a、hsa-miR-22、hsa-miR-370、hsa-miR-601、hsa-miR-658またはhsa-miR-494の発現量が、それぞれ健常者由来の標準化したhsa-miR-*92a、hsa-miR-22、hsa-miR-370、hsa-miR-601、hsa-miR-658、hsa-miR-494の発現量よりも有意に低下している場合、被験者は乳癌であると判定することができる。例えば、乳癌患者由来の標準化したhsa-miR-*92a、hsa-miR-22、hsa-miR-370、hsa-miR-601、hsa-miR-658またはhsa-miR-494の発現量は、健常者由来の補正したhsa-miR-*92a、hsa-miR-22、hsa-miR-370、hsa-miR-601、hsa-miR-658またはhsa-miR-494の発現量よりも、統計学的に有意に低下している。
 工程(i)または(ii)における有意差があるか否かを検定するための統計学的手法は、サンプル数などに応じて適切なものを選択すればよく、例えば、Ttest(T検定)、F検定、カイ二乗検定などが挙げられる。
 このような検査方法により、乳癌の臨床病期0期であって、乳癌を発症していない被験者であっても、高い信頼性をもって乳癌であると判定することができることから、投薬や手術を含む治療方針の決定に対して重要な情報を提供することができる。
 <乳癌の検査用キット>
 本発明の乳癌の検査用キットは、本発明のマーカーとなるマイクロRNA測定用の試薬を少なくとも含むことを特徴とするものであって、本発明の乳癌の検査方法を実施するために必要とされる各種器材、資材、試薬および/または遺伝子増幅するためのプライマー類ならびに遺伝子増幅に係る試薬等を含むとするものである。
 このようなマイクロRNA測定用の試薬としては、例えば、各種酵素類、緩衝液、洗浄液、溶解液等も含まれる。具体的には、検体を希釈するための溶解液を少なくとも含み、さらにマイクロRNAを検出するための、PCR用プライマーを含む。キット要素として、さらに多数検体の同時処理が可能なマイクロタイタープレート、DNA増幅用具等の必要な器材一式などを含んでもよい。
 本発明による乳癌の検査方法のハイスループットな態様は、上記検査用キットの中に、マイクロリアクタ形態のもの、具体的にはチップ形状の器材を含んでもよい。このような構成の向上した態様は、チップから得られる信号についての数値化されたものを取り込み、コンピュータ処理を通じてファイルを作成し、コンピュータ上の所定のディレクトリに保存する形態を採用するシステムが好ましい。さらに数値データを統計的に処理し、コントロール(実験対照)に対する有意差を表示する能力まで含めることができる。データ処理は、必要な補正、正規化を経て、統計的解析を可能とする好適なソフトウェアを使用して行われる。このようなデータ処理のためのシステム構築は、当業者であれば既存の技術、方式、手順を利用して行うことができる。
 次に、本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
 [実施例1]
 表1に記載の健常者(年1回以上実施される癌検診を含む定期検診によって乳癌であると診断されなかったヒト)および乳癌患者(病理細胞診により乳癌と診断されたヒト)からそれぞれ採血し血清を分離した。血清から「(商品名)Isogen-LS」((株)ニッポンジーン製)を用いて全RNAを抽出し、全RNA濃度を100ng/μLとなるように調整した。
 次に、全RNAを仔牛小腸由来アルカリホスファターゼである「(商品名)Alkaline Phosphatase(Calf intestine)(CIAP)」(タカラバイオ(株)製)を用いて脱リン酸化反応を行った。その後、「(商品名)T4 RNA Ligase(Cloned)」(アンビオン(株)製)を用いて、色素であるシアニンによりラベル化した。以上の操作は、「(商品名)miRNA Labeling Reagent and Hybridization Kit(カタログナンバー:5190-0408)」(アジレント・テクノロジー(株)製)を用い添付のプロトコールに従った。
 さらに、「(商品名)Human miRNA Microarray kit 8×15K V2(カタログナンバー:G4470B)」(アジレント・テクノロジー(株)製)のマイクロアレイスライドを用いて、シアニンによりラベル化した全RNAのハイブリダイゼーションを行い、シグナルを得た。
 続いて、マイクロアレイスライドを「(商品名)DNA Microarray Scanner」(アジレント・テクノロジー(株)製)を用いてスキャニングを行った。シグナルの検出には、上記スキャナーに付属の「Feature Extraction 9.5.3 Software」および「Agilent Scan Control Software(ver.7.0)」を用いた。
 得られた結果を表1に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
 [実施例2]
 実施例1で得られた解析データに基づき、健常者と乳癌患者との平均値のT検定(有意差検定)を行った。具体的には、被験者(サンプルNo.4~10)および乳癌患者(サンプルNo.13~21)から得られたhsa-miR-92a、hsa-miR-22、hsa-miR-370、hsa-miR-601およびhsa-miR-658の数値を用いてそのままT検定を行い、得られたp値を表2に示す。さらに表1に記載の健常者(サンプルNo.4~10)および乳癌患者(サンプルNo.13~21)で得られたhsa-miR-92a、hsa-miR-22、hsa-miR-370、hsa-miR-601およびhsa-miR-658の数値を、同じく健常者(サンプルNo.4~10)および乳癌患者(サンプルNo.13~21)で得られたhsa-miR-638でそれぞれ除し、T検定を行った。得られたp値を表2に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000002
 表2から、健常者および乳癌患者の平均値の有意差検定を行った結果、hsa-miR-638で標準化したp値はいずれのマーカーもp<0.05となり有意差が認められた。したがって、表2から、has-miR-370、has-miR-601、has-miR-92、has-miR-22およびhas-miR-658のマーカーはhsa-miR-638で標準化することにより、より正確に乳癌を判定することができることがわかった。
 [比較例1]
 表3に記載のサンプルNo.i~ivは、いずれも検体としてサンプルNo.13~21のうち4人の乳癌患者由来の血液(血清または血漿)を用い、さらにマーカーとして従来使用されているCA15-3、CEA、NCC-ST-439およびBCA225を用い、それぞれ所定のイムノアッセイ法により定量した。得られた結果を表3に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000003
 表3から、サンプルNo.iのCA15-3およびNCC-ST-439以外、得られた結果はすべて、従来の乳癌マーカーの基準値の指標を満たすものであった。すなわち、従来の乳癌マーカーを用いて乳癌を判定すると、すべてホールスネガティブとなり、乳癌が判別できない結果となった。
 [実施例3]
 健常者および乳癌患者からそれぞれ採血し血清を分離した。血清から「(商品名)Isogen-LS」((株)ニッポンジーン製)を用いて全RNAを抽出した。それぞれのサンプルから抽出した全RNAを用いてhsa-miR-*92aおよびhsa-miR-638をRT-PCRにより定量した。RT-PCRは「(商品名)TaqMan MicroRNA Assay Kit」(アプライドバイオシステムズジャパン(株)製)を使用し、添付のプロトコールに従い測定した。それらの結果を表4~7および図1に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000004
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000005
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000006
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000007
 表6は、28人の健常者および17人の乳癌患者からそれぞれ血清を分離して得られたhsa-miR-*92aの値を用いて検査した結果である。健常者サンプルで得られた値の25%を閾値に設定すると、鋭敏度70.6%、特異度75%となった。一般に使用されている乳癌マーカーは鋭敏度が20~40%、特異度が30~50%程度であるのに対し、hsa-miR-*92aは鋭敏度、特異度ともに優れたマーカーであるといえる。
 また、表7は、同様にhsa-miR-*92aをhsa-miR-638で除して検査した結果を示す。これも同様に健常者サンプルで得られた値の25%を閾値に設定すると鋭敏度は100%となり、hsa-miR-*92aのみで検査するよりもさらに精度良く乳癌を識別できることができた。
 [参考例1]
 健常者の血液から血清を分離して得られたhsa-miR-*92aおよびhsa-miR-638の保存安定性を評価した。
 具体的な手順として、まず血清を室温(25℃)で7日間放置し、次にそれぞれのマイクロRNA量の経時変化を、実施例3と同様にRT-PCRにより定量した。
 hsa-miR-*92aについて得られた結果を図2に、hsa-miR-638について得られた結果を図3に示す。
 図2,3から、いずれも7日間までのCt値はほぼ変化が見られず、血清中のマイクロRNAは極めて安定であることがわかる。この結果から、臨床診断において、血清中のマイクロRNAは乳癌を判定するために用いるマーカーとして充分に使用できることが示された。
産業上の利用の可能性
 本願発明であるマーカーは、触診やマンモグラフィー検査では検出できず、従来の病理細胞診において見落とす可能性の高い乳癌の発症、または初期段階(臨床病期0期)の乳癌を、簡単かつ高い信頼性によって検出可能であることから、マイクロRNA測定用の試薬を少なくとも含む乳癌の検査用キットとして好適である。

Claims (11)

  1.  乳癌関連マーカーであって、
     血清中または血漿中に見出されるマイクロRNAであることを特徴とするマーカー。
  2.  上記マイクロRNAが、その血清中または血漿中に存在するレベルとして、
     乳癌の発症前、または乳癌の初期段階前(臨床病期0期前)に対して、
     乳癌の発症以後、または乳癌の初期段階以後(臨床病期0期以後)の方が有意に低下しているマイクロRNA(α)である請求項1に記載のマーカー。
  3.  上記マイクロRNAが、hsa-miR-92a1、hsa-miR-92a2、hsa-miR-22、hsa-miR-370、hsa-miR-601、hsa-miR-658およびhsa-miR-494からなる群より選ばれる少なくとも1種のマイクロRNA(α)である請求項1または2に記載のマーカー。
  4.  上記マイクロRNAが、その血清中または血漿中に存在するレベルとして、
     乳癌の発症前後、または乳癌の初期段階前後(臨床病期0前後)を通して一定であるマイクロRNA(β)と、上記マイクロRNA(α)との組み合わせである請求項1~3のいずれかに記載のマーカー。
  5.  上記マイクロRNAが、
     上記マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルを、上記マイクロRNA(β)の血清中または血漿中に存在するレベルによって除した数値として、
     乳癌の発症前、または乳癌の初期段階前(臨床病期0期前)に対して、
     乳癌の発症以後、または乳癌の初期段階以後(臨床病期0期以後)の方が統計学的に有意に低下している該マイクロRNA(α)と該マイクロRNA(β)との組み合わせである請求項1~4のいずれかに記載のマーカー。
  6.  上記マイクロRNA(β)が、hsa-miR-638、hsa-miR-630およびhsa-miR-572からなる群より選ばれる少なくとも1種のマイクロRNAである請求項4または5に記載のマーカー。
  7.  被験者由来の血清中または血漿中に存在するマイクロRNAレベルの動態を検出することを特徴とする乳癌の検査方法。
  8.  上記マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルとして、被験者に由来するサンプルから得られた数値が、1以上の健常者または1以上の乳癌患者に由来するサンプルから得られた数値と比較し、統計学的に有意差があるか否かを検定する工程を含む請求項7に記載の乳癌の検査方法。
  9.  上記マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルを、上記マイクロRNA(β)の血清中または血漿中に存在するレベルで除することによって求められる、標準化された該マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルとして、被験者に由来するサンプルから得られた数値が、1以上の健常者または1以上の乳癌患者に由来するサンプルから得られた数値と比較し、統計学的に有意差があるか否かを検定する工程を含む請求項7に記載の乳癌の検査方法。
  10.  上記マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルとして、または
     上記マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルを、上記マイクロRNA(β)の血清中または血漿中に存在するレベルで除することによって求められる、標準化された該マイクロRNA(α)の血清中または血漿中に存在するレベルとして、
     被験者に由来するサンプルから得られた数値が、1以上の乳癌患者に由来するサンプルから得られた数値と比較し、統計学的に有意差があるか否かを検定する工程を含む請求項7に記載の乳癌の検査方法。
  11.  請求項1~6のいずれかに記載のマーカーとなるマイクロRNA測定用の試薬を少なくとも含むことを特徴とする乳癌の検査用キット。
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