明 細 書
自己分解性を有する粉体一液体及び粉体-粉体の 2反応剤型の医療用 接着剤
技術分野
[0001] 本発明は、外科手術時その他における生体組織の接着、充填、及び癒着防止、及 び止血などに用いられる医療用接着剤に関する。特には、第 1反応成分を含有する 粉末 (粉末状反応剤)と、第 2反応成分を含有する液 (液状反応剤)または粉末 (粉末 状反応剤)とからなり、水の存在下で第 1反応成分と第 2反応成分とを互いに反応さ せてゲル状に硬化させた後、一定期間経過後に、分解 ·流動化し排泄するものに関 する。
背景技術
[0002] 医療用、特には外科手術用の接着剤として、(1)シァノアクリレート系接着剤、及び
(2)フイブリン糊(フイブリン 'グルー)が主に使用されてきた。しかし、シァノアクリレー ト系接着剤は、固化物が柔軟性に乏しく硬いために創傷治癒を妨げる場合があり、ま た、生体内で分解しにくいために被包化されて異物となりやすい等の問題があった。 一方、フイブリン糊は接着力がかなり低いため、生成したフイブリン塊が組織から剥が れる場合がある。さらに、血液製剤であるためウィルス感染が懸念されるという問題が あった。
[0003] 一方、近年、(3)アルデヒド化デキストラン一高分子量キトサン (特許文献 1)、(4)ミ セル形成性の末端アルデヒドポリマ一一高分子量のポリアリルァミン (特許文献 2)、 ( 5)アルデヒド化デンプンーコラーゲン (特許文献 3)、(6)ゼラチンースクシンイミド化 ポリ- L-グルタミン酸(特許文献 4)、(7)ゼラチンージカルボン酸無水物、(8)ウレタン プレボリマー等が検討されているが、それぞれ、問題点を含む(特許文献 7の背景技 術の欄を参照)。
[0004] そこで、本件発明者らは、鋭意検討した末に、医療用接着剤に求められる一般的 な性質を充分に満たしつつ、設計崩壊時間を経過した後に速やかに崩壊するととも に、該設計期間を比較的自由に調整 '制御できる医療用接着剤及び医療用の含水
ゲル状樹脂を開発した (特許文献 7)。
[0005] 他方、「硬化剤」としての粉末を「主剤」としての液に添加するタイプの接着剤力 木 材用の尿素樹脂接着剤や、ノポラック樹脂接着剤などで知られている。ここでの「硬 化剤」は、パラホルムアルデヒド粉末、または、 pH調製剤としての酸や塩などである。
[0006] また、酒石酸等に N ヒドロキシスクシンイミドを反応させて得た粉末を「硬化成分」 として、アルブミン水溶液に加えて硬化させる「粘着性医用材料」も提案されている( 特許文献 8)。フイブリン接着剤を顆粒状の粉末状にして用いることも提案されてレ、る (特許文献 9)。さらに、デキストランをカルボキシメチル化した後に N ヒドロキシスク シンイミドを反応させて得た「活性エステル化 CMデキストラン」の粉体を、ポリエーテ ルエステルスポンジのシートに押し付けて支持した「医療用処置材」も提案されている
(特許文献 10)。
特許文献 1:国際公開 WO 2003/035122 (AESCULAP AG & CO KG (DE), US2005/ 0002893 A-l及び EP1438079 Blに対応)
特許文献 2:日本特開 2005-21454「高分子ミセルを有効成分とする組織接着剤」西田 博、横山昌幸
特許文献 3:国際公開 W098/15299 (「マクロモレキュラーポリアルデヒドベースの接着 剤組成物及びコラーゲンの架橋方法」、 日本特許 323871に対応)
特許文献 4 :日本特開平 9(1997)_103479「医用材料及びその製造法」
特許文献 5:日本特開平 11(1999)_239610「生体組織接着性医用材料及びその製造 法」
特許文献 6:日本特開 2004-261590「医療用接着剤」
特許文献 7:国際公開 WO/2006/080523「自己分解性を有する医療用 2反応剤型接 着剤、及び医療用樹脂」
特許文献 8:特開 2006-346049「固 液混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性 医用材料」
特許文献 9 :特表 2002-533164 (WO00/38752)「フイブリン接着剤顆粒およびその製 造方法」
特許文献 10 :特開 2005-253830「医療用処置材およびその製造方法」
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0007] 本件発明者らが先に開発した医療用 2反応剤型接着剤は、(1)生体という水分を含 んだ被着体に対する高レ、接着性、(2)生体組織表面における常温常圧下での比較的 速やかな固化反応性、及び、(3)創部が治癒するまでの間、皮膚、血管又は臓器など の被着体に密着しつつ、被着体の物理的な運動を阻害しない程度の柔軟性、などを 全て満たす優れた性能を有して!/、る。
[0008] 本発明は、上記医療用 2反応剤型接着剤を基本コンセプトとしつつ、斬新な形態の 医療用接着剤を創出するものであり、血液その他の生体液が多量に染み出す部位 に対しても充分な接着を行うことができ、特には、そのような部位が鉛直面である場合 にも問題なく接着操作を行うことができる自己分解性の医療用接着剤を提供するもの である。
課題を解決するための手段
[0009] 本発明の医療用 2反応剤型接着剤は、重量平均分子量が 1000〜20万であるァ ルデヒド化 α—グルカンの粉末からなる第 1反応剤と、アミノ基含有ユニットの連鎖よ りなるアミノ基含有ポリマーの水溶液または粉末からなる第 2反応剤とよりなり、前記ァ ミノ基含有ポリマーの重量平均分子量が 1000〜2万であって、前記の第 1反応剤及 び第 2反応剤を混合した際には、水溶液の ρΗが 5. 0〜8. 0となることを特徴とする。
[0010] ここで、アミノ基含有ポリマーは、特には、微生物または酵素を用いて生産された印 silon-ポリ -L-リジンである。
[0011] 好ましくは、アルデヒド基/アミノ基の反応モル比が 0. 2〜4. 0であり、含水状態で 保存されたならば、 1日〜1力月の間で任意に設定可能なゲル状態保持期間を経た 後には、自己分解によってゾル状態に変化する。
[0012] 第 1反応剤の粉末は、接着等を行う生体部位に、予めスプレー等により塗布してお き、この後に、第 2反応剤としての液を塗布することができる。または、第 1反応剤の粉 末と、第 2反応剤としての液を混合した直後に、生体部位に塗布することもできる。第 1及び第 2反応剤が粉末である場合、これらを予め混合して混合接着剤粉末としてビ ン中に保存することができ、濡れた状態の生体部位に塗布することができる。
発明の効果
[0013] 血液その他の生体液が多量に染み出す部位に対しても充分な接着を行うことがで き、特には、そのような部位が鉛直面である場合にも問題なく接着操作を行うことがで きる自己分解性の医療用接着剤が得られる。しかも、アルデヒド化 α—ダルカン (第 1 反応剤)が粉末であることから、保存安定性が良ぐ常温でプラスチック容器中に入 れた場合にも 36力月の間、ほぼ分子量の低下なしに保存できると考えられる。また、 粉末のまま、または粉末が完全に溶解する前に塗布することにより、優れた針穴塞栓 性が得られる。
発明を実施するための最良の形態
[0014] 第 1反応剤をなすアルデヒド化 α—グルカンは、 aーグルカンを酸化してアルデヒド 基を導入したものであって、重量平均分子量が 1000〜20万の範囲内にあるもので ある。 aーグルカンとは、グルコース同士が脱水縮合して α結合により結合した形の 糖鎖であり、グルカンにおける糖残基(無水グルコース 'ユニット)の分子量は 162.14 である。本発明で用いる α—グルカンには、デキストラン、デキストリン、及びプルラン が含まれ、これらを混合して用いることもできる。でんぷんやアミロースも適度に分解 すれば使用可能である。また、高分子量のプルラン製品も適度に分解して用いること 力できる。なお、アルデヒド基の導入は、一般的な過ヨウ素酸酸化法により行うことが でき、無水グルコース 'ユニットあたり、適当な自己分解性の付与等のためには、好ま しくは 0. 1 - 1. 0固のァノレデヒド基、より好ましくは 0. 2-0. 9固、さらに好ましくは 0 . 2〜0. 6個のアルデヒド基が導入される。第 1反応剤の保存安定性を高めるために は、アルデヒド化の程度が比較的低いのが良ぐ例えば、無水グルコース ·ユニットあ たり 0. 2〜0. 4個のアルデヒド基が導入される。粉末の形態の第 1反応剤、または後 述の混合接着剤粉末を用いることで、アルデヒド基の導入量が無水グルコース'ュニ ットあたり 0. 2〜0. 4個であっても、充分に短時間での硬化を実現できる。
[0015] アルデヒド化 α—グルカンの中でもアルデヒド化デキストラン及びアルデヒド化デキ ストリンが、接着剤性能の安定性などの理由で特に好ましい。アルデヒド化デキストラ ンを得るのに用いるデキストランは、重量平均分子量が、好ましくは 2000〜20万で あり、より好ましくは 2000〜; 10万である。例えば、 Pharmacosmos A/Sにより市販され
ている、医療用グレードの Dextran 40、 Dextran 60、 Dextran 70の他、 T- Dextranシリ ーズの Dextran T10〜Dextran T2000を使用することができる。一方、アルデヒド化デ キストリンを得るのに用いるデキストリンとしては、和光純薬により市販されているデキ ストリン等を用いることができる。デキストリンの重量平均分子量は、例えば 1000〜1 万である。なお、アルデヒド化 α—グルカンの最適分子量は、具体的な用途によって 異なり、特定の分子量ないし分子量分布のものを選択することにより、 自己分解により 液化するまでの期間を、調整すること力 Sできる。アルデヒド化 α—グルカンの分子量 が過度に大きい場合、自己分解による液化が過度に遅延してしまう。また、アルデヒド 化 α —ダルカンの分子量が過度に小さい場合、ゲル化状態を維持する時間が短くな りすぎる。
[0016] aーグルカンの重量平均分子量及び分子量分布は、一般的な水系の GPC (ゲル 濾過クロマトグラフィー;正式にはサイズ排除クロマトグラフィー (SEC))測定により、容 易に求めることができる。具体的には、水溶性ポリマー架橋体 (TOSOH TSK gel G3000PW及び G5000PW、 TSK guard column PWH)からなる GPC用カラム を 40°Cに加温し、緩衝液(10mM KH PO + 10mM K ΗΡΟ )を溶離液とする測
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定により求めることができる。
[0017] アルデヒド化 α —グルカンの粉末(第 1反応剤)としては、過ヨウ素酸酸化によるァ ルデヒド基の導入の後、凍結乾燥を経て機械的に粉砕して得られるものをそのまま用 いること力 Sできる。場合によっては、減圧下、または窒素等の不活性ガスを吹き込み つつ、比較的低温でスプレードライを行うことにより粉末とすることもできる。
[0018] 第 2反応剤をなすァミノ基含有ポリマーは、アミノ基含有ユニットの連鎖よりなるもの で、重量平均分子量が 1000〜2万、好ましくは 1000〜;!万、より好ましくは 1500〜 8000である。また、好ましくは分子量 3万以上の高分子量分画を実質上含まないも のである。
[0019] 特に好ましいアミノ基含有ポリマーは、 SDSゲル電気泳動により分子量を測定した 場合に、実質上、 1000以上かつ 3万未満の分子量分画のみから、より好ましくは 10 00— 2. 5万の分子量分画のみから、さらに好ましくは 1000〜2万の分子量分画の みからなる。ここで、「実質上」とは、重量分率が全体の 5%以下である分子量分画な
V、し染色ドットパターンを無視するとレ、う意味とする。
[0020] ポリリジンその他のァミノ含有ポリマーの分子量分布(重合度分布)及び平均分子 量は、下記のいずれかの方法により、容易かつ高精度に求めることができる。
[0021] (1) SDS-PAGE (ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)
アト一 (株)製の電気泳動装置及びデンシトグラフ(AE-6920V型)を用いて容易に測 定すること力 Sできる。このとき、標準タンパクマーカーを用いる。
[0022] (2)イオン会合クロマトグラフィー:高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)のイオン会 合クロマトグラフィー法によって逆相カラム(TSKgel ODS-80Ts)を用いて測定する。こ のとき、非水溶媒としてァセトニトリルを用いてグラジェントをかけながら測定する。
[0023] (3)水系 GPC : GPCグレードの蒸留水にリン酸緩衝液及びァセトニトリルを添加し た溶離液(5% Ammonium Biphosphate/ 3% Acetonitrile ( H = 4.0))を用い、例えば 上記水系 GPCカラムを 40°Cに加温して測定を行うことができる。このとき、絶対分子 量の測定のためには、低角度レーザー光散乱法との組み合わせ(GPC-LALLS)を 用いること力 Sでさる。
[0024] 第 2反応剤に用いるアミノ基含有ポリマーとしては、微生物または酵素を用いて生 産された、分子量が 1000〜2万、特には 1000〜6000の印 silon-ポリ- L-リジンを、 好ましいものとして挙げることであっても良い。しかし、 α _ポリ- L-リジンであっても良 い。また、適当な分子量及び分子量分布を有するならばキトサンオリゴマーないしは 分解キトサンでも良い。場合によっては、ポリグリセリンまたはポリビュルアルコールに 多数のアミノ基側鎖を導入したもの等であっても良い。
[0025] 印 silon-ポリ- L-リジンは、具体的には、例えば、次のようにして得られらるものを用 いること力 Sできる。 日本特許第 3525190号または日本特許第 3653766号に記載の菌株 であるストレプトマイセス ·アルブラス ·サブスピーシーズ'リジノポリメラスを用いる。そ して、グルコース 5重量%、酵母エキス 0. 5重量%、硫酸アンモニゥム 1重量%、リン 酸水素二カリウム 0. 08重量%、リン酸二水素カリウム 0. 136重量%、硫酸マグネシ ゥム · 7水和物 0. 05重量%、硫酸亜鉛 · 7水和物 0. 004重量%、硫酸鉄 · 7水和物 0 . 03重量%、 ^16. 8に調整した培地にて培養し、得られた培養物から印 silon—ポリ リジンを分離'採取する。
[0026] ポリリジンその他のアミノ基含有ポリマーの分子量が大きすぎる力、、または、分子量 の大きすぎる区画を過度に含むならば、 自己分解により液化するまでの期間が過度 に長くなる。
[0027] 所定の分子量範囲のアミノ基含有ポリマーは、部分的に、より高分子量または、より 低分子量のアミノ基含有ポリマーでもって置き換えることが可能である。例えば、高分 子量(例えば分子量 20万)のキトサンを、 1000〜2万の分子量分画のみからなるポリ リジンに、等重量程度まで配合することができる。また、分子量が約 500〜; 1000で多 官能(水酸基の数が 2〜8)のポリエチレングリコールに末端アミノ基を導入したァミノ 化ポリエチレングリコール (PEG-NH )を同様に配合することも可能である。この場合、 ショ糖等を出発物質とした官能数の特に大きなもの力、配合する上で好ましい。
[0028] 第 2反応剤には、 pH調節剤としての酸または酸性塩等が添加される。このようにし て、第 1反応剤と第 2反応剤とが混合された際には、 pHが 5. 0〜8. 0の範囲内のィ直、 好ましくは 5. 5〜7. 5の範囲内のィ直、より好ましくは 6. 5〜7. 5の範囲内のィ直になる ようにする。なお、第 2反応剤の pHは、好ましくは 7. 0〜9. 0である。
[0029] pH調節剤として、好ましくは、一価または多価のカルボン酸またはその無水物が添 カロされる。このカルボン酸としては、天然に存在するカルボン酸である、酢酸、クェン 酸、コハク酸、ダルタル酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸などを好ましいものとして 挙げること力 Sできる。このようなカルボン酸は、緩衝作用により pH調節能が大きぐま た、生体に無害である。しかし、 pHが 5. 0〜8. 0の適当な値となるならば、塩酸、硫 酸などの無機酸または無機塩を用いることも可能であり、上記カルボン酸またはその 無水物と併用することもできる。また、リン酸緩衝塩を用いることも可能である。
[0030] pH調節剤としてのカルボン酸は、モノカルボン酸、ジカルボン酸、及びトリカルボン 酸のいずれを選択するかによって、硬化後のゲル体が、含水条件下にて自己分解に より液化するまでの期間を調整することができる。これは、多価カルボン酸を用いる場 合に、ポリリジンその他のアミノ基含有ポリマーに擬似的な架橋を生成し、自己分解 による液化を遅延させるためと考えられる。
[0031] 第 1反応剤及び第 2反応剤を混合した状態におけるアルデヒド基/アミノ基のモル 匕は、 0. 1以上 5未満であり、好ましくは 0. 2〜4. 0、より好ましくは 0. 9〜3. 5、さら
に好ましくは 1 · 0〜3· 5である。アルデヒド基/アミノ基のモル比がこれらの範囲より 小さい場合には、生成ゲルの分解が早すぎ、また大きい場合には速やかなゲル化が 達成されない。
[0032] 第 1反応剤としてのアルデヒド化 α—グルカン粉末としては、分散性及び溶解性に 優れた形態であればいずれも使用可能である。粉末の形態としては、平均粒径が、 0 . 1mm以下であって、容易に噴霧する事ができれば特に制約はない。しかし、ランダ ムな形状(球体に程遠い形状)の多孔体であるのが好ましぐこのため、水溶液を凍 結乾燥した後、機械的に粉砕した粉末が好ましい。このような粉末であると、噴霧性 に優れるだけでなぐリークの閉塞、特には空気漏れの閉塞にとり好ましい。反応硬 化時に、適度に不均一な溶液構造をとり、ミクロなオーダーで、適度に不均一な反応 を行う結果、硬化樹脂が、より強靭になるものと考えられる。粉末の平均粒径は、下記 範囲の (1)から (7)へと進むにつれて順次、より好ましい範囲となる。 (1) Ι -δΟΟ , ΐη, ( 2) 5〜350 n m、(3) 10〜250 μ m、(4) 10〜; 150 μ m、(5) 15〜120 μ m、(6) 20〜1 00 111、 (7) 20〜80 111。すなわち、 10〜150 mを特に好ましい範囲と言える力 1 5〜120 111等であるとさらに好ましい。ここで、平均粒径は、実体顕微鏡により得られ た映像より、画像解析プログラム(例えば株式会社マウンテックの画像解析式粒度分 布測定ソフトウェア「マックビュー」を用いることができる)等により、各粒子の 2軸平均 径 (長軸長と短軸長との単純平均 X)を求めて長さ平均 (∑ X2/∑ X)することで得られる 。粉末の平均アスペクト比(長軸長/短軸長)は、例えば 1. 3〜3. 0、特には、 1. 5 〜2. 0である。粉末の平均粒径が上記範囲より小さくても、また大きくても、水を吸収 した際の溶解が過度に不均一になるおそれが大きいからである。上記範囲より小さい 場合、溶解時に「ままこ」となる他、微紛の飛散による問題も生じ得る。なお、凍結乾 燥後に高速回転刃式の粉砕機で粉砕した場合に、 10〜150 mの平均粒径まで粉 砕した場合、平均粒径の 1. 5倍以上の粉体は、長さ平均と同様の長さ基準で 3%以 下であり、平均粒径の 1/2以下の粉体は、同様の基準で 5%以下であった。このよう な程度に狭レ、粒径分布が好まし!/、と考えられた。
[0033] 第 2反応剤も粉体の形態を取る場合の粉末についても、以上に説明したような形状 、製法、平均粒径等をそれぞれ取るのが好ましい。混合接着剤粉末としておくことに
より噴霧が容易になるだけでなぐ上記に説明したと同様の理由で、リーク圧の向上、 特には空気漏れの閉塞性の向上に好ましい。また、第 1及び第 2反応剤の粉体を所 定の反応モル比となるように混合して混合接着剤粉末とした場合、瓶中やシリンジ中 などに保存して振動を加えても、分級作用によって、第 1及び第 2反応剤の粉体の混 合比が局所的に変動することもない。混合接着剤粉末として、サンプル瓶等に入れ て保存する場合、含水率は 2. 0%以下、好ましくは 1. 0%以下に保持する。第 1反 応剤のみの粉末を保存する場合も同様である。含水率がこれより高いと、酸化グルカ ンの加水分解が進行することにより、 1年といった保存期間中に、分子量の劣化が生 じ得る。
[0034] 第 1反応剤及び第 2反応剤がともに粉体の形態をとる場合、第 1反応剤及び第 2反 応剤は、第 1反応剤のみが粉体である場合と同様に、圧縮空気等とともに噴出させて 吹き付けによる塗布を行うことができる。反応剤をなす粉体は、体液、血液等により濡 れた箇所に直接吹き付けて塗布することができる。また、吹き付けなどによる塗布操 作を、繰り返し、すなわち 2回以上行うの力 塗布の均一性などを実現する上で好ま しぐこのような繰り返し塗布の間、及び後には、生理食塩水または蒸留水等を、滴下 する力、または吹き付ける。このような滴下または吹き付けは、例えば、注射針の径の 細い小型シリンジからの滴下や、化粧水用の指押し式のスプレーボトルによる噴霧等 により行うこと力 Sできる。なお、接着すべき箇所または患部に水分が多くない場合には 、混合接着剤粉末の最初の塗布の前に、生理食塩水等を滴下または吹き付けておく のが望ましい。
[0035] 第 1反応剤及び第 2反応剤がともに粉体の形態をとる場合、第 1反応剤及び第 2反 応剤は、接着予定箇所または患部に、順次吹き付けて塗布を行うこともできるが、予 め、アルデヒド基とアミノ基との混合比がほぼ 1となるように混合しておき、この混合接 着剤粉末を塗布すれば良い。このように混合接着剤粉末を用いれば、塗布作業が簡 便になるほか、混合比のバラツキを抑えることができ、確実な接着を実現する上で好 ましい。混合接着剤粉末は、密栓した容器、または、脱水乾燥剤を入れた容器中に、 室温で長期間保存しておくことができる。また、上記の圧縮空気や圧縮ガスによる吹 きつけ塗布に代えて、水中に瞬間的に分散させつつ圧縮水とともに吹き付けるので
あっても良い。
[0036] 第 1反応剤及び第 2反応剤は、放射線滅菌により容易に滅菌を行うことができ、好ま しくは 10〜50KGyの電子線、さらに好ましくは 20〜30KGyの電子線を照射して滅 菌を行う。このような滅菌処理は、硬化時間その他の接着剤の性能には、全く悪影響 を及ぼさないように条件を設定して行うことができる。第 1反応剤及び第 2反応剤が粉 体の場合、特には、これらを所定モル比で混合した混合接着剤粉末である場合に、 放射線滅菌の処理を特に容易に行うことができる。
[0037] 本発明の粉末 液 2反応剤型の医療用接着剤を使用する際、第 1反応剤と第 2反 応剤との混合及び塗布は種々の方法により行うことができる。例えば、第 1及び第 2の 反応剤の一方を被着体表面に塗布し、続けてもう一方を塗布することで混合を行うこ とができる。また、第 1反応剤と第 2反応剤とが塗布装置の混合室中で混合された後 に、ノズルから噴出してスプレー塗布を行うのであっても良ぐまた、アプリケーターの スリットから送り出されて塗布を行うのであっても良い。
[0038] 第 1反応剤と第 2反応剤とが混合されると、アルデヒド化 α—グルカンのアルデヒド 基と、アミノ基含有ポリマーのァミノ基との間でシッフ結合が形成され、これが架橋点 となって網目構造を有するハイド口ゲルが形成される。その結果、硬化が、混合から 2 〜150秒、好ましくは 3〜100秒、より好ましくは 5〜50秒の間に生じる。混合から硬化ま での好ましい時間は、用途によって多少異なり、生体組織内にまで浸透して高度の 接着力を発揮するためには、硬化時間が 10秒以上、特には 15秒以上であるのが好ま しい。
[0039] このような硬化反応により生成する含水ゲル状の硬化接着剤層、または含水ゲル 状の樹脂は、設計液化期間を経たならば、自己分解によって液体状態に変化する。 すなわち、生体内での酵素分解等を経ずとも、含水状態にあるならば、 自然に分解 を生じ液体状態(流動可能なゾル状態)に変換される。したがって、生体内にあって は、ある所定の期間を経過時に、速やかに吸収あるいは排泄されて消滅されるように すること力 Sできる。設計分解期間は、数時間〜 4力月、通常は 1日〜1力月の範囲、特 には 2日〜2週間の範囲内で任意に設定される。
[0040] これに対して、生体内で酵素分解のみによって分解吸収される既存の生体分解樹
脂の場合には、分解期間にばらつきが大きぐ必要な接着力保持期間を経た後に速 やかに分解されるようにするのは困難であつたのである。
[0041] 自己分解による分解期間は、アルデヒド化 α—グルカン及び/またはアミノ基含有 ポリマーの分子量ないしその分布の選択ないしは調整、多価カルボン酸の使用.不 使用もしくは選択、及び、 2液混合時の ρΗの調整などによって、任意に調整し、設定 すること力 Sできる。すなわち、分解され吸収される期間を、 2液接着剤の構成の調整に より、任意に設計しておくことができる。
[0042] 自己分解の機構は、明らかでないが、アルデヒド化 α—グルカンのアルデヒド基が
、ァミノ基と結合してシッフ塩基を形成した場合、シッフ塩基に隣接する α —ダルコシ ド結合が分解を受けやすくなつたものと考えている。
[0043] 本発明の医療用接着剤及び医療用樹脂は、生体接着剤、組織充填剤、止血剤、 血管塞栓剤、動脈瘤の封止剤また、癒着防止材ゃ DDS用担体等として、好適に適用 されうる。
実施例
[0044] <粉体-液体の 2反応剤型医療用接着剤〉
A1.粉末状アルデヒド化デキストラン (第 1反応剤)の調製
分子量 75000のデキストラン (和光純薬工業株式会社、 Lot No.EWK3037)20gを 100 mlの蒸留水に溶解させた。次に、 3gの過ヨウ素酸ナトリウム (分子量 213. 89)を添カロ し、 40°Cで 5時間撹拌しながら反応させた。そして、反応後の溶液を蒸留水で 24時 間透析 (分画分子量 14000の透析膜使用)した後、凍結乾燥した。更に、小型粉砕 器 (ワンダープレンダー、大阪ケミカル株式会社製)を用いて 1分間の粉砕処理を行 い、粉末状のアルデヒド化デキストランが得られた。
[0045] 糖残基量(モル)あたりのアルデヒド基の導入量は、 0. 28であった。尚、アルデヒド 基の導入量の測定は、酸化還元滴定法によって行った。具体的には、 0. 05mol/l のヨウ素水溶夜 20ml、 10mg/mlのァノレデヒド化デキストラン水溶 ί夜 10ml及び lmo 1/1の水酸化ナトリウム水溶液 20mlを、 100mlマイヤーフラスコに入れ、 25°Cで 15 分間攪拌した。そして、 6v/v%硫酸水溶液 15mlを添加し、 0. lmol/1のチォ硫酸 ナトリウム水溶液にて滴定した。終点は反応系が無色透明化した時点とし、指示薬は
でんぷん水溶液とした。
[0046] 粉末の粒度を、実体顕微鏡を用いて評価したところ、図 1の写真に示すように平均 粒径が 90 であった。さらに、電子顕微鏡観察により、表面性状を観察した結果、 多孔体をなしていることが知られた。
[0047] A2.印 silon-ポリリジン水溶液(第 2反応剤)の調製
25重量%の印 silon-ポリリジン水溶液 (分子量 4000、チッソ株式会社、 Lot No.20505 06、フリーアミン)に、無水酢酸及び蒸留水を添加して、無水酢酸の濃度が 2重量%と なるようにしつつ、 10重量%の中性ポリリジン水溶液を調製した。
[0048] A3.アルデヒド化デキストランの保存安定性
上記 A1で得られた粉末状アルデヒド化デキストランを、ポリエチレン容器に入れ 2 0°C及び + 50°Cにそれぞれ放置した。 40日経過後に GPCによる分子量測定に供し たところ、ピークトップの分子量は各温度でそれぞれ、 19,223及び 18,659であり高 温下で保存することによる分子量低下は認められな力 た。同じ試料を粉末状態で はなく 20重量%の水溶液に調製し、同様に + 50°Cでの分子量変化を調べたところ、 表 1に示すように、 14日で元の 840/0に、 28日で 71。 にまで低下した。
[0049] 一方、これらのデキストラン水溶液を用いて、上記 A2で得られたポリリジン水溶液と 混合し、ゲル化時間を測定することでアルデヒド化デキストランの劣化の程度を評価 した。ここで、ゲル化時間の測定は、次のように行った。まず、 2液反応型接着剤の第 1液(上記 A1の粉末アルデヒド化デキストランの 20%水溶液) 0· 5mlを直径 16mmの ガラス製試験管に採取し、直径 4mm、長さ 10mmの磁気攪拌子を入れて 37°Cに加 温し lOOrpmの速度で攪拌した。そして、予め 37°Cに加温した第 2液(上記 A2) 0. 5m 1をマイクロピペットにて添加し、接着剤の硬化により攪拌子が停止するまでの時間を ストップウォッチにて計測した。表 1中には、 + 50°Cで 2週間及び 4週間保存した場合 のゲル化時間の変化を示し、図 1Aには、 + 25°Cで 1年間まで保存した場合のゲル 化時間の変化を、 +4°Cでの測定結果とともに示す。但し、図 1Aの実験の際には、無 水酢酸に代えて無水こはく酸をポリリジン水溶液に 2 %添加した。
[表 1]
水溶液状態の 50°Cにおけるアルデヒド化デキストランの物性変化 (加速試験)1)
1)ald-dextran, 75K, -CHO=0.43/sugar unit, 20 w/w%
2)wit 10%poly(L-lysine)(containing 2% acetic anhydride), data = mean±s.d.(n^3))
[0050] 表 1及び図 1Aのゲル化時間変化の結果から、 + 50°Cで 14及び 28日の経過は、 2 5°Cではそれぞれ約 1年及び 3年の経過に相当することが示された。このこと力、ら、ァ ルデヒド化デキストランを水溶液にせず、粉末のままで保存するならば、 25°Cでも 3年 以上にわたり分子量変化がないであろうことが示唆された。なお、図 1Aに示されるよ うに、水溶液中のアルデヒド化デキストランは、 4°Cで保存するならば、 1年後にもゲル 化時間に有意な変化が見られず、長期保存が可能なことが知られた。
[0051] A4.シーリング効果の確認
上記 A1で得られた粉末状アルデヒド化デキストランと上記 2で得られた中性ポリリジ ン水溶液を用いて、これらの反応で生成したゲル (含水ゲル)によるシーリング性を調 ベた。具体的には、以下のように行った。
[0052] まず、スポイトキャップを用いて、図 2— 1の写真及び図 2— 2の模式図に示すような 、手製の粉末スプレー用デバイス 10を作成した。すなわち、外径 5mm、内径 3mmの パイレックスガラス細管 11を加熱によりほぼ直角に折り曲げ、片端に外径 6mm、内径 4mmのシリコンチューブ 2を取り付けた。上記ガラス細管 11には外径 10mm、内径 8m mのガラス外管 12を融着した。 10ml容のシリコンスポイトキャップ 3に粉末のアルデヒド 化デキストラン 4約 3gを入れ、上記のように作製したガラス管部材 1のガラス外管 12に 固定した。
[0053] 試薬ボトルの蓋(ポリエチレン製、直径 37mm、高さ 20mm)に直径 10mmの穴を 開け、蓋の内側面が上方に露出するように、実験台上に置いた。そこに第 1反応剤粉 末 0. 5gを、上記手製粉末スプレー用デバイスを用いてほぼ均一に薄くスプレーした 。その後、第 2反応剤液 0. lgをほぼ均一に滴下した。更にその上から、第 1反応剤 粉末 0. 5gを手製粉末スプレー用デバイスを用いてスプレーした。得られたゲル化物
は餅状であり、柔軟性に富むものであった。 2分後、試薬ボトルの蓋をボトル本体 (ポ リエチレン製、約 500ml容、高さ約 175mm)にネジ合わせて元通りに戻し、予め底を 切り取った胴体を逆さまに向け徐々に水を加えた。その結果、 500gの水を加えても ゲルが破れて水が漏れることはなぐ高いシーリング効果を有することが確認された。
[0054] A5.接着性及び柔軟性の確認
上記 A1で得られた粉末状アルデヒド化デキストランと上記 2で得られた中性ポリリジ ン水溶液を用いて組織との接着性及び柔軟性を調べた。具体的には、まず、麻酔状 態のビーグル犬に揷管し、人工呼吸器を用いて維持させ肺を露出させた。そして、肺 表面に第 1反応剤粉末 lgを、上記 4で用いた手製の粉末スプレー用デバイスを用い てほぼ均一に薄くスプレーした。その後、第 2反応剤液 0. 5gをほぼ均一に滴下した 。更にその上から、第 1反応剤粉末 lgを手製粉末スプレー用デバイスを用いて同様 にスプレーした。
[0055] 2分後、気道内に酸素を送り込み圧力を掛け、反応により生成したゲルが肺表面か ら剥がれるかどうかを確認した。その結果、 40cmH O以上でも肺表面からゲルは剥
2
がれることもなく接着していた。また、繰り返し肺を拡張、収縮させてもゲルが裂けるこ ともなぐ高レ、柔軟性を有してレ、ることも確認できた。
[0056] A6.肝臓での止血効果の確認
上記 A1で得られた粉末状アルデヒド化デキストランと上記 2で得られた中性ポリリジ ン水溶液を用いて部分肝切除部位からの染み出し状出血の止血(oozing止め)を行 つた。具体的にはビーグル犬の肝動脈を結紮後、鉗子を用いて肝臓を切除しながら 直径 lmm以下の血管は電気メスを用いて切除し、それ以上の血管は結紮後電気メス で切除して部分肝切除を行い、切離面を露出させた。ほぼ鉛直方向に沿った切離面 5 (図 3の写真の中央に見える上弦半月状な!/、し三日月状の部分)に第 1反応剤粉末 2gを、上記 4で用いた手製の粉末スプレー用デバイスを用いてほぼ均一に薄くスプ レーした。その後、第 2反応剤液 lgを巿販フイブリン糊用スプレーデバイス(ボルヒー ノレスプレーキット)を用いてほぼ均一にスプレーした。更にその上から、第 1反応剤粉 末 2gを手製デバイスを用いてスプレーした。
[0057] 2分後、予め重量を測定しておいたガーゼを止血処置部位に当て、肝動脈の結紮
を外し、染み出てくる血液をガーゼに染み込ませて重量を測定することにより出血量 を求めた。この結果、肝動脈の結紮を外した直後 2分間は lg以下の出血量しか認め られなかったのに対し、未処置では 10g以上の出血量が認められ、図 3の写真の様 に高い止血効果が認められた。
[0058] A7.癒着防止
上記 A1で得られた粉末状アルデヒド化デキストランと上記 2で得られた中性ポリリジ ン水溶液を用レ、て癒着防止実験を行った。体重約 300gの SDラットを正中切開後、 左側の腹膜と筋層の一部を約 2. 5cm四方、深さ約 lmm程度切除し、患部全体を電 気メスで処置した。その後、第 1反応剤粉末 lgを上記 4で用いた手製のデバイスを用 いてほぼ均一に薄くスプレーし、その後、第 2反応剤液 0. 3mlを滴下してほぼ均一に 塗布した。更にその上から、第 1反応剤粉末 lgを手製デバイスを用いてスプレーし、 2分経過した後に閉腹した。
[0059] 評価は 2週間後に開腹して癒着の程度を 3段階のスコア一で表すことにより数値化 した(0 :癒着無し、 1 :剥離可能な軽微な癒着、 2 :剥離できない強固な癒着)。また、 市販の癒着防止膜 (セプラフイルム (S印 ra film登録商標)、ジェンザィム (Genzyme)ジ ャパン株式会社)を患部に貼り付けた群を比較対象として設けた。癒着の程度は、未 処置群、セプラフイルム群、及び 2反応剤型接着剤群の順に 2. 0 ± 0. 0、 1. 1 ± 0. 7、 0. 4 ± 0· 5であった(Ρ = 0· 02及び 0. 0001)。各群のサンプル数 ηは未処置群 が 6、セプラフイルム群が 9、 2反応剤型接着剤群が 10である。
[0060] 図 4〜6の写真の様に、セプラフイルム群(図 5)、 2反応剤型接着剤群(図 4)ともに 未処置群(図 6)と比べて癒着防止の効果が認められたが、 2反応剤型接着剤群(図 4)はセプラフイルム群(図 5)と比べても有意に高い効果が見られた(Ρ = 0. 03)。図 4の例に示すように、 2反応剤型接着剤群の場合、腹膜への大網(たいもう; greater o mentum)の癒着は、あつたとしても、軽微である。これに対し、図 5の例に示すセプラ フィルム群の場合、広い面積での癒着が見られる。
[表 2]
癒着の程度 (0〜2·0 未処置群に対す セプラフイルム群に の間の官能評価) る有意差棄却率 対する有意差棄却率 未処置群 2. 0 ± 0. 0
セプラフイルム群 1 . 1 ±〇. 了 Ρ =〇. 0 2
2反応剤型接着剤 〇. 4 ±〇. 5 Ρ = 0. 0 0 0 1 Ρ = 0. 0 3
[0061] <粉体-粉体の 2反応剤型医療用接着剤〉
B1.粉末状アルデヒド化デキストラン (第 1反応剤)及び印 silon-ポリリジン粉末(第 2 反応剤)
分子量 70,000のデキストラン (名糖産業株式会社 Meito Sangyo Co. , Ltd. ,「デキスト フン 70」Dextran 70 powder J. P.; Pharmaceutical grade (for injections))を用レヽた他は 、上記セクション Alと全く同様にして粉末状のアルデヒド化デキストランを得た。そし て、以下の実験において第 1反応剤として用いた。上記セクション A1の方法により測 定した糖残基量 (モル)あたりのアルデヒド基の導入量は、セクション A1と同じ、 0. 28 であった。また、粉末の粒度を、セクション A1と同様に実体顕微鏡を用いて評価した ところ、平均粒径が 90 mであり、全く同様の多孔体をなしていた。また、平均ァスぺ タト比(短軸に対する長軸の比)は、約 1. 6であった。
[0062] 一方、第 2反応剤としては、 10重量%の中性ポリリジン水溶液から、上記アルデヒド 化デキストランの場合と全く同様に、凍結乾燥後に機械粉砕して得られた粉末を用い た。この中性ポリリジン水溶液は、 25重量%の印 silon-ポリリジン水溶液 (分子量 4000 、チッソ株式会社、 Lot No.2050506,フリーアミン) 10mlに無水こはく酸 0.5g及び蒸留 水 14.5mlを添加することにより調製したものである。得られたポリリジン粉体は、上記 のアルデヒド化デキストランの場合と同様に実体顕微鏡を用いて評価したところ、図 1 とほぼ同様のランダムな形状の多孔体であった。また、平均粒径が 80 mで、平均 アスペクト比は、約 1 · 7であった。セクション B1の粉末状アルデヒド化デキストランと、 印 silon-ポリリジン粉末製品とを 4/1の重量比率で混合した場合にアルデヒド基とァ ミノ基とのモル比がほぼ 1となる。
[0063] 以下の実験は、このように反応モル比がほぼ 1となるように混合しておいた混合接 着剤粉末を用いて行った。なお、この混合接着剤粉末は、アルミキャップ付きのガラ ス製バイアル瓶に保存することにより、含水率を 1. 0%以下に保持した。
[0064] B2.呼吸器外科領域での使用例 (肺の空気漏れ閉塞) 1
肺の空気漏れ閉塞の効果を確認するため、ビーグル犬を用いて以下の実験を行つ た。常法に従って麻酔、気管内揷管を経て開胸し、右肺に電気メスを用いて直径 15 mmの円形の胸膜欠損部位(図 7の中央から少し左の濃い色の部分)を作製した。患 部に生理食塩水をかけて人工呼吸器の圧力を上げることにより空気漏れを確認した 。その後、 2反応剤型接着剤を塗布し、 2分後に胸腔内を生理食塩水で満たしてリー クテストを行った。比較対象としてフイブリン糊 (ボルヒール、化学及血清療法研究所) を用い、フイブリノ一ゲン溶液を患部に滴下して指塗りし、スプレーキットを用いてそ の上から塗布した ("Rub & Spray method")。フイブリン糊の場合は上記文献に従って 塗布から 5分後にリークテストを行った。
[0065] また、 2反応剤型接着剤の塗布は、以下のようにして行った。まず、胸膜欠損部位 を含むその近傍箇所に、 1ml容のシリンジを用いて約 0. 5mlの生理食塩水をまんベ んなく滴下した。次いで、同箇所に、混合接着剤粉末 0. 2gを、セクション A4で用い た手製の粉末スプレー用デバイス(図 2— ;!〜 2— 2)を用いてほぼ均一に薄くスプレ 一した。この上に、再度、シリンジを用いて生理食塩水を約 0. lgだけ滴下した。図 7 の写真には、このような操作により胸膜欠損部位を閉塞した際の様子を示す。図 7の 写真から、含水ゲルにより閉塞が実現されていることが知られる。
[0066] 2分後、人工呼吸器により気道内に酸素を送り込む圧力を、 5cmH Oから徐々に
2
上昇させたところ、約 30cmH Oの圧力でエアリークが認められた。従って、このよう
2
な簡単な実験によっても、フイブリン糊とある程度同等の空気漏れ閉塞効果を有する ことが確認された。
[0067] B3.人工血管の針穴塞栓
人工血管(W.し Gore & Associates社の GORE-TEX (登録商標) vascular graft,直 径 8mm)に 18G (外径 1.3mm φ )の針穴を 1箇所だけ開け、粉体-粉体の 2反応剤型医 療用接着剤を噴霧により塗布した。詳しくは、針穴の近傍(面積 lcm2)に対して、上 記シリンジによる蒸留水の滴下と、手製の粉末スプレー用デバイス(図 2— ;!〜 2— 2) による上記 B1の混合接着剤粉末 (第 1反応剤及び第 2反応剤の粉末の混合物、アル デヒド基とアミノ基のモル比 = 1)の塗布とを、以下の順で行った。(1)蒸留水の滴下、(
2)混合接着剤粉末の噴霧、(3)蒸留水の滴下、(4)混合接着剤粉末の噴霧、及び、 (5) 蒸留水の滴下。この際、混合接着剤粉末の塗布量は 2度の合計で、約 0. 2g/cm2 であった。なお、接着剤層の視認のため、生理食塩水には、 50ppmとなるように「青色 1号」(Brilliant Blue FCF ;和光純薬株式会社、 Lot No.KLN3789)を添加しておいた
[0068] 2分後、人工血管の片端から水圧を掛け、針穴からの水漏れを防ぐことが出来るか どうかを確認した。詳しくは、図 8のようなシリンジポンプ装置 6 (テルモ社の TERUFUS ION Syringe Pump STC— 523)を用い、生理食塩水を 20mL/hのスピードで、人工 血管 8へと押し出すようにして、水圧を徐々に上昇させた。図に示すように、シリンジ ポンプ装置 6には、 30mL容のプラスチックシリンジ 7がセットされる。この際、シリンジ ポンプ装置 6の固定アーム 61及び可動アーム 62と力 シリンジ 7における指載せ部 7 1の前方面及びピストン棒後端面 72にそれぞれ突き当てられている。可動アーム 62 の前方への移動によりシリンジ 7から押し出された生理食塩水力 S、内径 8mmのシリコン チューブ 73と、この途中及び先端に配置されたフッ素樹脂製の活栓付きチューブ接 続管 74とを通って、人工血管 8の端部へと押し込まれる。先端の活栓付きチューブ 接続管 74は、測定終了後の圧力解除が可能なように 3方コックとなっており、一方の 枝管が人工血管 8の端部に挿入されいる。この枝管の箇所で、人工血管 8の外側か らナイロン紐(ひも)が強く巻き付けられて接続部からの漏れを防止している。
[0069] 人工血管 8の針穴塞栓箇所 81から、着色した生理食塩水の漏れが最初に観察さ れた時点の圧力を、圧力モニター 65の表示部から読みとり、リーク圧とした。
[0070] なお、比較のため、フイブリン糊(「ベリプラスト P コンビセット」、 CSLベーリング (Beh ring)株式会社)を所定の用法にした力 Sい、 10cm2あたり A液及び B液が各々 lmL適用 されるように塗布した。この際、 A液をすり込み後、 A液と B液とを巿販フイブリン糊用ス プレーデバイス(ボルヒールスプレーキット)を用いて混合しつつスプレーした("Rub & Spray method; NaoKi Minato et al New Application Metnod of Pibnn lue ror Mor e Effective Hemostasis in Cardiovascular Surgery jpn. J. Thorac. Caridiovasc. Surg • 2004; 52: 361-366)。
[0071] 実施例の混合粉末接着剤、及びフイブリン糊につ!/、て、それぞれ 4回試行を行い、
その結果を表 3及び図 9に示す。フイブリン糊を用いた場合のリーク圧力 Sl67〜262mm Hgであったのに対し、実施例の混合粉末接着剤(セクション B1)を用いた場合、 4回 の試行のうち、 3回は 320mmHgを超え、 1回のみ 277mmHgとなった。ここで、「320mmH gを超えた」とは、針穴以外の箇所でのリークが見られるなどの理由から、測定限界を 超えたことを意味する。このように、実施例の混合粉末接着剤を用いると、フイブリン 糊に比べて顕著に優れた針穴塞栓性能を発揮した(有意差検定によると p=0.007)。
[0072] なお、フイブリン糊を用いた場合にばらつきが大きかったのは、スプレーデバイスの 性質上、毎回同じように塗布することが困難であるためと考えられた。言い換えるなら ば、実施例の混合粉末接着剤を用いるならば、熟練を要せず、かつ、毎回信頼性の 高!/ヽ塞栓を実現することができる。
[表 3]
[0073] B4.腹腔内での分解性
ラットを麻酔後、腹部を正中切開し、ラットにとつての右側の腹膜と筋層の一部を約 2.5 X 2.5cm剥離した。そして、このような腹膜欠損部位に対して、スプレーボトルによ る生理食塩水の吹き付けと、手製の粉末スプレー用デバイス(図 2— ;!〜 2— 2)による 上記 B1の混合接着剤粉末 (第 1反応剤及び第 2反応剤の粉末の混合物、アルデヒド 基とアミノ基のモル比 = 1)の塗布とを、以下の順で行った。(1)生理食塩水の滴下、(2 )混合接着剤粉末の噴霧、(3)生理食塩水の滴下。この際、混合接着剤粉末の塗布量 は、約 0. lg/cm2であった。また、生理食塩水の吹き付けの量は、いずれも約 0. 1 ml/ cm (、めった。
[0074] 1週間後、開腹して含水ゲル状接着剤樹脂層の残存を目視にて確認したところ、ほ ぼ、分解 '消失していることが知られた(図 10)。一方、特許文献 7 (WO/2006/080523 )のセクション 7に記載した実施例 1の 2液反応型接着剤を用いた場合、 1週間で 90% 程度は分解していた。したがって、上記混合接着剤粉末を用いて、約 0. lg/cm2の 適当な厚みに塗布を行う場合、本件発明者らの 2液反応型接着剤と全く同様の生体
内分解性が見られた。
[0075] 一方、上記と同様の混合接着剤粉末の塗布を 2回重ねて行い、合計の塗布量を約 0. 2g/cm2とした場合、同様に一週間後、開腹して含水ゲル状接着剤樹脂層の残 存を目視にて確認したところ、 50%程度はまだ残存していた(図 11)。図 11の写真に おいて、中央より上方にずれた円形状の露出箇所が、含水ゲル状接着剤樹脂層に 覆われた部分である。すなわち、塗布量を上記の 2倍以上とした場合には、粉体-粉 体の 2反応型接着剤の方が、ラット腹腔内における分解速度が遅力、つた。従って、ポ リカルボン酸添加(特許文献 7のセクション 8)や高分子量のアミノ基含有ポリマーの 添加(特許文献 7のセクション 6)等を行わずとも、厚塗りを行うだけで、肝止血のよう に;!〜 2週間またはそれ以上の保持期間を要する場合に対応することができる場合 があると考えている。
[0076] 止血能力は、特許文献 7 (特には、実施例 1または 2)の 2液反応型接着剤を用いた 場合に比べて組織の水分を吸収する能力が高いため優っており、フイブリン糊同様 滲出 oozing程度なら十分に止血出来ることが確認出来た。
[0077] B5.ビーグル犬の肺の空気漏れ閉塞後の生体内分解性
ビーグル犬右肺に φ 15mmの胸膜欠損部位を作製した。詳しくは、予め φ 15mmの 穴を開けた φ 30mmのシリコンシートを肺に貼付け、穴の部分にシァノアクリレートを 流して 1分後シリコンシートを肺から外し、シァノアクリレートの部分の胸膜をメスで剥 離した。そして、この胸膜欠損部位に、セクション B1の混合接着剤粉末を、セクション B4の場合と同様に塗布した。また、同様の混合接着剤粉末の塗布を 2回及び 3回重 ねて行い、重ね塗りの影響を調べた。 2回塗布の場合、(1)生理食塩水の滴下、(2)混 合接着剤粉末の噴霧、(3)生理食塩水の滴下、(4)混合接着剤粉末の噴霧、及び、(5) 生理食塩水の滴下の順で行った。 3回塗布の場合も同様である。すなわち、 2回塗布 の場合に、合計の塗布量が約 0. 2g/cm2であり、 3回塗布の場合の合計塗布量は 約 0. 3g/cm2である。
[0078] 1週間後及び 2週間後に開胸し、分解の様子を目視により観察した。 1週間後は肉 眼的にまだ僅かながら硬化樹脂が残存して!/、たが、 2週間後では殆ど残って!/、なレ、こ とが分力、つた。
[0079] また、 2回塗布の場合、及び 3回塗布の場合にも、 1回塗布の場合と比べ、肉眼的に 分解には大きな差が認められな力、つたが、組織切片を作り詳しく調べたところ、塗布 回数の増加とともに残存量も多くなることが分力、つた。
[0080] B6.腎臓部分切除時の止血
ゥサギを用いて腎臓部分切除時の切離面の止血が可能かどうかを調べた。粉体- 液体の 2反応剤型接着剤を用いた肝臓での止血の場合 (セクション A6)と同様に、腎 動脈をクランプ後に部分切除した後、 2反応剤型接着剤による止血を行った。この様 子を、図 12—;!〜 12— 3の写真に示す。図 12— 1には切断前の腎臓を、図 12— 2に はハサミによる切断直後の様子を示し、図 12— 3には、塗布の完了後の様子を示す 。粉体-粉体の 2反応剤型接着剤の塗布は、上記 B2におけると全く同一の手順で行 つた。すなわち、切離面(約 5cm2)に生理食塩水を lmlのシリンジで滴下した後、上記 混合接着剤粉末を 0. 5g噴霧する操作を 2回、繰り返して行い、最後に再度、生理食 塩水を lml滴下した。
[0081] 2分後にクランプを外して出血してきた血液をガーゼに染み込ませて重量から出血 量を測定したところ、 10分間の総出血量は約 0.3g、未処置群は約 20gであった。この ため、粉体-粉体の 2反応型接着剤は腎部分切除時の止血効果も十分期待できると 考えられる。
[0082] B7.癒着防止
上記混合粉末接着剤(セクション B1)について、上記 A7セクションと同様の方法で、 体重 300〜310gの SDラットを用いて癒着防止効果の確認を行った。但し、切除及 び電気メスによる処置の後、患部をリンゲル液(NaCL 0.9%, CL 0.3%, CaCL 0.2%) で洗浄した。そして、(1)リンゲル液の滴下、(2)混合接着剤粉末の噴霧、及び (3)蒸留 水の滴下の手順で、塗布量が約 0. lg/cm2となるように患部に塗布を行い、硬化す るまで 2分間放置した。
[0083] 評価は、上記 A7セクションと同一の方法により行った。すなわち、 2週間後に開腹し て癒着の状態を 3段階のスコア一で数値化し評価した。また、比較対照として、 (1)上 記の市販の癒着防止膜(「セブラフイルム」)を患部に貼り付けた群、(2)上記のフイブ リン糊(「ベリプラスト P コンビセット」)をセクション B3と同様に塗布した群、(3)上記 A1
の粉末アルデヒド化デキストランの 20%水溶液と上記 A2のポリリジン水溶液とを等重量 で混合した混合物を塗布して固形物換算の塗布量が約 0. lg/cm2となるように塗 布した群、及び (4)上記 A4セクションの記載と同一の粉体-液体の 2反応剤接着剤及 び同一の塗布方法により塗布した群を用いた。
[0084] この結果を図 13にまとめて示す。図 13から知られるように、本件実施例の粉体-粉 体及び粉体-液体の 2反応剤型接着剤を用いた場合に、同様の組成の 2液反応型接 着剤(特許文献 7 WO/2006/080523)の場合と全く同様に、優れた癒着防止効果を 発揮した。癒着防止効果は、市販の癒着防止膜等の場合に比べて有意に大きかつ た。図 13から知られるように、粉体-粉体の 2反応剤型接着剤を用いる場合に癒着防 止効果が最も大きくなると思われた。市販の癒着防止膜(「セプラフイルム」 )の場合と の間の有意差棄却率 Pは、粉体-粉体接着剤で 0.0003、粉体-液体の接着剤で 0.003 0であった。
[0085] なお、本件実施例の粉体-粉体の接着剤を用いた場合、 2週間後の開腹時にも、含 水ゲル層がわずかに残存していることが目視により観察された。粉体-粉体の接着剤 を用いた場合に他の形態のものより癒着防止効果が若干大きく現れたのは、含水ゲ ル層がより長期にわわたって残存したためではないかと思われる。
[0086] B8.より粒径の小さい混合接着剤粉末、及びその塗布
上記 B1セクションで調製したと全く同様の混合接着剤粉末を作製するにあたり、平 均粒径が、より小さくなるように機械粉砕の条件のみ変更した。この際、 B1セクション における機械粉砕で用いたと同じ微粉砕機(大阪ケミカル (株)の「ワンダープレンダ 一)を用い、粉砕時間を 10秒 (B1セクションで用いた粉砕時間)から 30秒に延長する ことにより作製した。図 14には、得られた混合接着剤粉末を実体顕微鏡により撮影し た写真を示す。直径が 50 mを超える粉体粒子は、ほとんど含まれず、 1 %以下であ ると判断された。この混合接着剤粉末の平均粒径は、約 30 mであった。 (この混合 接着剤粉末は、下記 B9及び B10セクションでのみ用いた。 )
一方、スプレーデバイスについて、スポイトキャップ式のもの(図 2-1〜2-2)に代えて 、接着剤粉体を貯留する耐圧ガラス容器 52に、送気球 55から空気を吹き込む方式 のものを作製した。図 15-1の写真、及び図 15-2の模式図には、このような送気球式ス
プレーデバイス 10'の試作品を示す。ここで用いた送気球 55は、血圧計用の送気球 (「ァネロイド血圧計プレミアム送気球」)である。この送気球には、逆流防止のための ボールバルブが付いており、一方向で送気可能となっている。図 15-2に示すように、 図 2-1〜2-2の「スポイトキャップ取り付け用ガラス管 1」のガラス外管 12に枝管 13を設 けた形態の枝付き二重ガラス管 1 'を用いている。円筒形の耐圧ガラス容器 52に、シ リコンゴムからなる蓋 51が嵌め付けられており、この蓋 51の中央部を貫くように、枝付 き二重ガラス管 1 'の二重管部が取り付けられている。
[0087] このような送気球式スプレーデバイス 10 'であると、接着剤の粉体を均一に塗布す る上で、スポイトキャップ式のスプレーデバイス 10 (図 2-1〜2-2)よりも有利であると考 えられる。一方、平均粒径が約 30 mといった、より微細な粒径の接着剤粉末を、ス ポイトキャップ式のスプレーデバイス 10でもって塗布しょうとする場合、スポイトキヤッ プ 3中で、湿気を吸った粉体粒子が部分的に凝集して固まるおそれがある。
[0088] B9.呼吸器外科領域での使用例 (肺の空気漏れ閉塞) 2
上記 B8セクションで得られた微細混合接着剤粉末及び送気球式スプレーデバイス 10 'を用い、 B2セクションに記載のとおりの方法でリークテストを行った。
[0089] それぞれ 8回の試行を行い、空気漏れが認められた圧力について、およその最小 値から最大値までの範囲、及び、平均値を求めた。その結果、上記 B8の微細混合接 着剤粉末で約 40〜50cmH 0、平均約 46cmH 0であり、ボルヒールの場合で 30〜4 OcmH 0、平均約 36cmH 0であった。なお、混合接着剤粉末の形態に代えて、 2液 接着剤とする場合には、同様の実験において、空気漏れ閉塞の効果がボルヒールと 同程度であった(特許文献 7のセクション 16)。上記 B8の微細混合接着剤粉末を用 い、胸膜欠損部位の作製に代えて、肺表面に 23Gの針穴を空け同様に試験を行つ たところ、 80cmH 0まで上げてもリークは認められなかった。
[0090] したがって、記 B8セクションで得られた平均粒径の小さ!/、混合接着剤粉末を用いる ことで、 2液接着剤の形態、及び、フイブリン糊に比べて有意に高い空気漏れ閉塞効 果が確認された。ところカ、 B2セクションで述べたとおり、 B1セクションの平均粒径約 90 mの混合接着剤及びスポイトキャップ式のスプレーデバイス 10を用いた場合に は、フイブリン糊よりも少し小さい耐リーク圧力が観察されている。これは、混合接着剤
粉末の粒径の差に起因して、反応の均一性の程度に差が生じたためと考えている。
[0091] B10.組織付着性試験
上記 B8セクションで得られた微細混合接着剤粉末を用い、組織付着性 (接着性)を 評価した。評価は、市販の微線維性コラーゲン局所止血剤である Eli Lilly社の「アビ テン (Avitene)」について行われた付着性試験の報告(「新薬と臨牀」、第 37巻、第 2 号、 PP.241-245、昭和 63年)に記載の方法を、ジグを改良して行った。すなわち、試 験用「円形パッチ」のジグとしては、下記のようにして作製したものを用いた。外径 12m m、内径 10mmのステンレスパイプを長さ 10mmにカットし、治具を引張るため把持部位 として M3のナットを蠟付けした。その後、組織との接着面に文献に記載の様に金属メ ッシュ (メッシュサイズは文献と同じく 20メッシュ/インチ、材質は加工性の観点から真 鍮を使用)を半田付けした。図 16の写真には、このようにして得られたジグ上面、下面 及び側面から見た像を示す。付着性試験のためには、ゥサギから摘出した肝臓の表 面にジグを置き、微細混合接着剤粉末を塗布した。微細混合接着剤粉末の塗布は、 スパチュラで 0.2〜0.3gをジグの円筒部を通して散布した後、直ちに生理食塩水を吹 き付けることにより行った。そして、塗布の 2分後、ジグの M3ナット部に、引張り試験機 上部のロードセルに接続する金属具の水平ネジ棒を通して 10mm/minの速度で引つ 張った。
[0092] なお、比較例として、上記のボルヒール接着剤(フイブリン糊)、及び、ゼリア新薬ェ 業株式会社を通じて市販されている「アビテン (八 6^)」を用いた。「Avitene」は、ゥ シ真皮コラーゲンを原料とした止血剤であり、直径 250〜6000nm、長さ l〜12mmの微 線維からなるとされ、白色 ·線状を成している。「Avitene」の止血機序は、出血面との 接触による血小板補捉および血小板凝固因子の活性化と、線維組織間隙への凝固 性生物の捕捉などであると考えられて!/、る。ボルヒール接着剤(フイブリン糊)の塗布 は、前述の「ボルヒールスプレーキット」を用いて行い、前述の「アビテン(Avitene)」の 塗布は、この微細繊維をジグの底の網面に敷き詰めるようにして行った。
[0093] その結果、図 17のグラフに示すような結果が得られた。図 17から知られるように、 B 8の混合接着剤粉末を用いた場合、付着力は「アビテン」を用いたよりも有意に高い ことが分力、つた (pく 0.0001)。一方、「アビテン」とフイブリン糊の付着力に有意な差は認
められなかった (ρ=0·07)。
[0094] <アルデヒド化 α _グルカンのシート〉
分子量 75000のデキストラン (和光純薬工業株式会社、 Lot No.EWK3037)を用い、 無水グルコースユニットあたりのアルデヒド導入量が 0· 26であるアルデヒド化デキスト ラン(_CHO=0.264 ± 0.003 /糖残基)を、セクション A1に記載の方法により調製した 。このように得られたアルデヒド化デキストラン 15gをグリセリン 3.75g及び蒸留水 131.2 5mlと混合し、 50°Cに保ちつつ攪拌した。 20X20X0.5cmの寸法のガラス板に貼り付け た厚み 40 mのポリエチレンシートに、得られた溶液を流延し、 25°Cで 24時間風乾す
[0095] 以下の実験例を用いて説明するように、アルデヒド化デキストラン 'シートは、上記の
2反応剤型接着剤と組み合わせて用いることができる。セクション B2及び B9の場合と 同様の方法により、肺の空気漏れ閉塞の効果を確認した。但し、 3 X 3cmの面積の矩 形の胸膜欠損部位を作製した。そして、患部に生理食塩水をかけて人工呼吸器の圧 力を上げることにより空気漏れを確認した。その後、専用ミキシングデバイスを用いて 胸膜欠損部位に約 2mlの接着剤を滴下した。速やかに、アルデヒド化デキストラン'シ ートを胸膜欠損部位に貼り付けた。 2分間放置した後、胸腔内を生理食塩水で満たし てリークテストを行った。空気漏れが認められた圧力は 43.5 ± 6.0であった(サンプル 数 n=6,標準偏差 6.0)。この値は、アルデヒド化デキストラン 'シートを用いなかった場 合の 35.4 ± 6.8に比べて、有意に高いものであった。
[0096] アルデヒド化デキストラン.シートとして、厚みが 0·;!〜 2mmのもの、好ましくは 0· 3 〜8mmのものを、上記に説明したいずれかの 2反応剤型接着剤との組み合わせで 用いること力 Sできる。アルデヒド化デキストラン 'シートは、漏れ閉塞、止血、接着、癒 着防止等を行う際に、 2液型、粉 液型及び 2粉体型のいずれの組み合わせでも用 いるこができる。また、アルデヒド化デキストラン ·シートに代えて、他のアルデヒド化 α -グルカンのシート、例えばアルデヒド化デキストリン ·シートを用いることもできる。無 水グルコースユニットあたりのアルデヒド導入量は、 0. 1〜; ! · 0、好ましくは 0. 2〜0· 9、より好ましくは 0. 3〜0. 8である。
図面の簡単な説明
[図 1-1]第 1反応剤粉末の顕微鏡写真である。
[図 1-2]アルデヒド化デキストラン水溶液の長期保存安定性をゲル化時間の変化によ
園 2-1]スポイトキャップを用いて作成した手製デバイスを示す写真である。
[図 2-2]手製デバイスの構成を示す模式図である。
園 3]肝臓での止血効果の確認の様子を示す写真である。
園 4]実施例の粉体 液体の 2反応剤型接着剤による癒着防止効果を示す写真であ 園 5]市販セプラフイルムによる癒着防止効果を示す図 4と同様の写真である。
園 6]癒着防止膜を用いない場合の様子を示す図 4と同様の写真である。
園 7]人工的に作成した肺欠損部位力もの空気漏れを、粉体-粉体の 2反応剤型接 着剤により閉塞した様子を示す写真である。
園 8]針穴塞栓性を評価するためのシリンジポンプ装置及びその使用状態を示す模 式的な斜視図である。
園 9]針穴塞栓性の評価結果を、フイブリン糊の場合と比較して示すグラフである。 園 10]ラット腹腔内に含水ゲル状接着剤樹脂層を配置した後、 1週間後の様子を示 す写真である。
園 11]塗布量を大きくした結果、含水ゲル状接着剤樹脂層の残留が見られた場合の 図 10と同様の写真である。
園 12-1]ゥサギの腎臓を部分切断し、止血する様子を示す写真(1)である。
[図 12-2]ゥサギの腎臓を部分切断し、止血する様子を示す写真(2)である。切断直 後の状態を示す。
[図 12-3]ゥサギの腎臓を部分切断し、止血する様子を示す写真(3)である。止血した 状態を示す。
園 13]種々の医療用接着剤または癒着防止膜による癒着防止効果を評価して比較 したグラフである。
園 14]より粒径の小さい混合接着剤粉末についての、図 1—1と同様の顕微鏡写真 である。
[図 15-1]送気球付きスプレーデバイスを示す、図 2— 1と同様の写真である。
[図 15-2]図 15— 1の送気球付きスプレーデバイスの構成を示す、図 2— 2と同様の模 式図である。
園 16]付着力試験に用いたジグの写真である。
園 17]付着力試験の結果を、巿販フイブリン糊、及び市販止血剤シートとの比較で示 すグラフである。