JP4571693B2 - 自己分解性を有する粉体−液体及び粉体−粉体の2反応剤型の医療用接着剤 - Google Patents

自己分解性を有する粉体−液体及び粉体−粉体の2反応剤型の医療用接着剤 Download PDF

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Description

本発明は、外科手術時その他における生体組織の接着、充填、及び癒着防止、及び止血などに用いられる医療用接着剤に関する。特には、第1反応成分を含有する粉末(粉末状反応剤)と、第2反応成分を含有する液(液状反応剤)または粉末(粉末状反応剤)とからなり、水の存在下で第1反応成分と第2反応成分とを互いに反応させてゲル状に硬化させた後、一定期間経過後に、分解・流動化し排泄するものに関する。
医療用、特には外科手術用の接着剤として、(1)シアノアクリレート系接着剤、及び(2)フィブリン糊(フィブリン・グルー)が主に使用されてきた。しかし、シアノアクリレート系接着剤は、固化物が柔軟性に乏しく硬いために創傷治癒を妨げる場合があり、また、生体内で分解しにくいために被包化されて異物となりやすい等の問題があった。一方、フィブリン糊は接着力がかなり低いため、生成したフィブリン塊が組織から剥がれる場合がある。さらに、血液製剤であるためウイルス感染が懸念されるという問題があった。
一方、近年、(3)アルデヒド化デキストラン−高分子量キトサン(特許文献1)、(4)ミセル形成性の末端アルデヒドポリマー−高分子量のポリアリルアミン(特許文献2)、(5)アルデヒド化デンプン−コラーゲン(特許文献3)、(6)ゼラチン−スクシンイミド化ポリ-L-グルタミン酸(特許文献4)、(7)ゼラチン−ジカルボン酸無水物、(8)ウレタンプレポリマー等が検討されているが、それぞれ、問題点を含む(特許文献7の背景技術の欄を参照)。
そこで、本件発明者らは、鋭意検討した末に、医療用接着剤に求められる一般的な性質を充分に満たしつつ、設計崩壊時間を経過した後に速やかに崩壊するとともに、該設計期間を比較的自由に調整・制御できる医療用接着剤及び医療用の含水ゲル状樹脂を開発した(特許文献7)。
他方、「硬化剤」としての粉末を「主剤」としての液に添加するタイプの接着剤が、木材用の尿素樹脂接着剤や、ノボラック樹脂接着剤などで知られている。ここでの「硬化剤」は、パラホルムアルデヒド粉末、または、pH調製剤としての酸や塩などである。
また、酒石酸等にN−ヒドロキシスクシンイミドを反応させて得た粉末を「硬化成分」として、アルブミン水溶液に加えて硬化させる「粘着性医用材料」も提案されている(特許文献8)。フィブリン接着剤を顆粒状の粉末状にして用いることも提案されている(特許文献9)。さらに、デキストランをカルボキシメチル化した後にN−ヒドロキシスクシンイミドを反応させて得た「活性エステル化CMデキストラン」の粉体を、ポリエーテルエステルスポンジのシートに押し付けて支持した「医療用処置材」も提案されている(特許文献10)。
国際公開WO 2003/035122 (AESCULAP AG & CO KG (DE), US2005/0002893 A-1 及びEP1438079 B1に対応) 日本特開2005-21454「高分子ミセルを有効成分とする組織接着剤」西田 博、横山 昌幸 国際公開WO98/15299(「マクロモレキュラ−ポリアルデヒドベ−スの接着剤組成物及びコラ−ゲンの架橋方法」、日本特許323871に対応) 日本特開平9(1997)-103479「医用材料及びその製造法」 日本特開平11(1999)-239610「生体組織接着性医用材料及びその製造法」 日本特開2004-261590「医療用接着剤」 国際公開WO/2006/080523「自己分解性を有する医療用2反応剤型接着剤、及び医療用樹脂」 特開2006-346049「固−液混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料」 特表2002-533164(WO00/38752)「フィブリン接着剤顆粒およびその製造方法」 特開2005-253830「医療用処置材およびその製造方法」
本件発明者らが先に開発した医療用2反応剤型接着剤は、(1)生体という水分を含んだ被着体に対する高い接着性、(2)生体組織表面における常温常圧下での比較的速やかな固化反応性、及び、(3)創部が治癒するまでの間、皮膚、血管又は臓器などの被着体に密着しつつ、被着体の物理的な運動を阻害しない程度の柔軟性、などを全て満たす優れた性能を有している。
本発明は、上記医療用2反応剤型接着剤を基本コンセプトとしつつ、斬新な形態の医療用接着剤を創出するものであり、血液その他の生体液が多量に染み出す部位に対しても充分な接着を行うことができ、特には、そのような部位が鉛直面である場合にも問題なく接着操作を行うことができる自己分解性の医療用接着剤を提供するものである。
本発明の医療用2反応剤型接着剤は、重量平均分子量が1000〜20万であるアルデヒド化α−グルカンの粉末からなる第1反応剤と、アミノ基含有ユニットの連鎖よりなるアミノ基含有ポリマーの水溶液または粉末からなる第2反応剤とよりなり、前記アミノ基含有ポリマーの重量平均分子量が1000〜2万であって、前記の第1反応剤及び第2反応剤を混合した際には、水溶液のpHが5.0〜8.0となることを特徴とする。
ここで、アミノ基含有ポリマーは、特には、微生物または酵素を用いて生産されたepsilon-ポリ-L-リジンである。
好ましくは、アルデヒド基/アミノ基の反応モル比が0.2〜4.0であり、含水状態で保存されたならば、1日〜1カ月の間で任意に設定可能なゲル状態保持期間を経た後には、自己分解によってゾル状態に変化する。
第1反応剤の粉末は、接着等を行う生体部位に、予めスプレー等により塗布しておき、この後に、第2反応剤としての液を塗布することができる。または、第1反応剤の粉末と、第2反応剤としての液を混合した直後に、生体部位に塗布することもできる。第1及び第2反応剤が粉末である場合、これらを予め混合して混合接着剤粉末としてビン中に保存することができ、濡れた状態の生体部位に塗布することができる。
血液その他の生体液が多量に染み出す部位に対しても充分な接着を行うことができ、特には、そのような部位が鉛直面である場合にも問題なく接着操作を行うことができる自己分解性の医療用接着剤が得られる。しかも、アルデヒド化α−グルカン(第1反応剤)が粉末であることから、保存安定性が良く、常温でプラスチック容器中に入れた場合にも36カ月の間、ほぼ分子量の低下なしに保存できると考えられる。また、粉末のまま、または粉末が完全に溶解する前に塗布することにより、優れた針穴塞栓性が得られる。
第1反応剤をなすアルデヒド化α−グルカンは、α−グルカンを酸化してアルデヒド基を導入したものであって、重量平均分子量が1000〜20万の範囲内にあるものである。α−グルカンとは、グルコース同士が脱水縮合してα結合により結合した形の糖鎖であり、グルカンにおける糖残基(無水グルコース・ユニット)の分子量は162.14である。本発明で用いるα−グルカンには、デキストラン、デキストリン、及びプルランが含まれ、これらを混合して用いることもできる。でんぷんやアミロースも適度に分解すれば使用可能である。また、高分子量のプルラン製品も適度に分解して用いることができる。なお、アルデヒド基の導入は、一般的な過ヨウ素酸酸化法により行うことができ、無水グルコース・ユニットあたり、適当な自己分解性の付与等のためには、好ましくは0.1〜1.0個のアルデヒド基、より好ましくは0.2〜0.9個、さらに好ましくは0.2〜0.6個のアルデヒド基が導入される。第1反応剤の保存安定性を高めるためには、アルデヒド化の程度が比較的低いのが良く、例えば、無水グルコース・ユニットあたり0.2〜0.4個のアルデヒド基が導入される。粉末の形態の第1反応剤、または後述の混合接着剤粉末を用いることで、アルデヒド基の導入量が無水グルコース・ユニットあたり0.2〜0.4個であっても、充分に短時間での硬化を実現できる。
アルデヒド化α−グルカンの中でもアルデヒド化デキストラン及びアルデヒド化デキストリンが、接着剤性能の安定性などの理由で特に好ましい。アルデヒド化デキストランを得るのに用いるデキストランは、重量平均分子量が、好ましくは2000〜20万であり、より好ましくは2000〜10万である。例えば、Pharmacosmos A/Sにより市販されている、医療用グレードのDextran 40、Dextran 60、Dextran 70の他、T-DextranシリーズのDextran T10〜Dextran T2000を使用することができる。一方、アルデヒド化デキストリンを得るのに用いるデキストリンとしては、和光純薬により市販されているデキストリン等を用いることができる。デキストリンの重量平均分子量は、例えば1000〜1万である。なお、アルデヒド化α−グルカンの最適分子量は、具体的な用途によって異なり、特定の分子量ないし分子量分布のものを選択することにより、自己分解により液化するまでの期間を、調整することができる。アルデヒド化α−グルカンの分子量が過度に大きい場合、自己分解による液化が過度に遅延してしまう。また、アルデヒド化α−グルカンの分子量が過度に小さい場合、ゲル化状態を維持する時間が短くなりすぎる。
α−グルカンの重量平均分子量及び分子量分布は、一般的な水系のGPC(ゲル濾過クロマトグラフィー;正式にはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC))測定により、容易に求めることができる。具体的には、水溶性ポリマー架橋体(TOSOH TSK gel G3000PW及びG5000PW、TSK guard column PWH)からなるGPC用カラムを40℃に加温し、緩衝液(10mM KHPO+10mM KHPO)を溶離液とする測定により求めることができる。
アルデヒド化α−グルカンの粉末(第1反応剤)としては、過ヨウ素酸酸化によるアルデヒド基の導入の後、凍結乾燥を経て機械的に粉砕して得られるものをそのまま用いることができる。場合によっては、減圧下、または窒素等の不活性ガスを吹き込みつつ、比較的低温でスプレードライを行うことにより粉末とすることもできる。
第2反応剤をなすアミノ基含有ポリマーは、アミノ基含有ユニットの連鎖よりなるもので、重量平均分子量が1000〜2万、好ましくは1000〜1万、より好ましくは1500〜8000である。また、好ましくは分子量3万以上の高分子量分画を実質上含まないものである。
特に好ましいアミノ基含有ポリマーは、SDSゲル電気泳動により分子量を測定した場合に、実質上、1000以上かつ3万未満の分子量分画のみから、より好ましくは1000〜2.5万の分子量分画のみから、さらに好ましくは1000〜2万の分子量分画のみからなる。ここで、「実質上」とは、重量分率が全体の5%以下である分子量分画ないし染色ドットパターンを無視するという意味とする。
ポリリジンその他のアミノ含有ポリマーの分子量分布(重合度分布)及び平均分子量は、下記のいずれかの方法により、容易かつ高精度に求めることができる。
(1)SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)
アトー(株)製の電気泳動装置及びデンシトグラフ(AE-6920V型)を用いて容易に測定することができる。このとき、標準タンパクマーカーを用いる。
(2)イオン会合クロマトグラフィー:高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)のイオン会合クロマトグラフィー法によって逆相カラム(TSKgel ODS-80Ts)を用いて測定する。このとき、非水溶媒としてアセトニトリルを用いてグラジエントをかけながら測定する。
(3)水系GPC:GPCグレードの蒸留水にリン酸緩衝液及びアセトニトリルを添加した溶離液(5% Ammonium Biphosphate/ 3% Acetonitrile (pH = 4.0))を用い、例えば上記水系GPCカラムを40℃に加温して測定を行うことができる。このとき、絶対分子量の測定のためには、低角度レーザー光散乱法との組み合わせ(GPC-LALLS)を用いることができる。
第2反応剤に用いるアミノ基含有ポリマーとしては、微生物または酵素を用いて生産された、分子量が1000〜2万、特には1000〜6000のepsilon-ポリ-L-リジンを、好ましいものとして挙げることであっても良い。しかし、α-ポリ-L-リジンであっても良い。また、適当な分子量及び分子量分布を有するならばキトサンオリゴマーないしは分解キトサンでも良い。場合によっては、ポリグリセリンまたはポリビニルアルコールに多数のアミノ基側鎖を導入したもの等であっても良い。
epsilon-ポリ-L-リジンは、具体的には、例えば、次のようにして得られらるものを用いることができる。日本特許第3525190号または日本特許第3653766号に記載の菌株であるストレプトマイセス・アルブラス・サブスピーシーズ・リジノポリメラスを用いる。そして、グルコース5重量%、酵母エキス0.5重量%、硫酸アンモニウム1重量%、リン酸水素二カリウム0.08重量%、リン酸二水素カリウム0.136重量%、硫酸マグネシウム・7水和物0.05重量%、硫酸亜鉛・7水和物0.004重量%、硫酸鉄・7水和物0.03重量%、pH6.8に調整した培地にて培養し、得られた培養物からepsilon−ポリリジンを分離・採取する。
ポリリジンその他のアミノ基含有ポリマーの分子量が大きすぎるか、または、分子量の大きすぎる区画を過度に含むならば、自己分解により液化するまでの期間が過度に長くなる。
所定の分子量範囲のアミノ基含有ポリマーは、部分的に、より高分子量または、より低分子量のアミノ基含有ポリマーでもって置き換えることが可能である。例えば、高分子量(例えば分子量20万)のキトサンを、1000〜2万の分子量分画のみからなるポリリジンに、等重量程度まで配合することができる。また、分子量が約500〜1000で多官能(水酸基の数が2〜8)のポリエチレングリコールに末端アミノ基を導入したアミノ化ポリエチレングリコール(PEG-NH2)を同様に配合することも可能である。この場合、ショ糖等を出発物質とした官能数の特に大きなものが、配合する上で好ましい。
第2反応剤には、pH調節剤としての酸または酸性塩等が添加される。このようにして、第1反応剤と第2反応剤とが混合された際には、pHが5.0〜8.0の範囲内の値、好ましくは5.5〜7.5の範囲内の値、より好ましくは6.5〜7.5の範囲内の値になるようにする。なお、第2反応剤のpHは、好ましくは7.0〜9.0である。
pH調節剤として、好ましくは、一価または多価のカルボン酸またはその無水物が添加される。このカルボン酸としては、天然に存在するカルボン酸である、酢酸、クエン酸、コハク酸、グルタル酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸などを好ましいものとして挙げることができる。このようなカルボン酸は、緩衝作用によりpH調節能が大きく、また、生体に無害である。しかし、pHが5.0〜8.0の適当な値となるならば、塩酸、硫酸などの無機酸または無機塩を用いることも可能であり、上記カルボン酸またはその無水物と併用することもできる。また、リン酸緩衝塩を用いることも可能である。
pH調節剤としてのカルボン酸は、モノカルボン酸、ジカルボン酸、及びトリカルボン酸のいずれを選択するかによって、硬化後のゲル体が、含水条件下にて自己分解により液化するまでの期間を調整することができる。これは、多価カルボン酸を用いる場合に、ポリリジンその他のアミノ基含有ポリマーに擬似的な架橋を生成し、自己分解による液化を遅延させるためと考えられる。
第1反応剤及び第2反応剤を混合した状態におけるアルデヒド基/アミノ基のモル比は、0.1以上5未満であり、好ましくは0.2〜4.0、より好ましくは0.9〜3.5、さらに好ましくは1.0〜3.5である。アルデヒド基/アミノ基のモル比がこれらの範囲より小さい場合には、生成ゲルの分解が早すぎ、また大きい場合には速やかなゲル化が達成されない。
第1反応剤としてのアルデヒド化α−グルカン粉末としては、分散性及び溶解性に優れた形態であればいずれも使用可能である。粉末の形態としては、平均粒径が、0.1mm以下であって、容易に噴霧する事ができれば特に制約はない。しかし、ランダムな形状(球体に程遠い形状)の多孔体であるのが好ましく、このため、水溶液を凍結乾燥した後、機械的に粉砕した粉末が好ましい。このような粉末であると、噴霧性に優れるだけでなく、リークの閉塞、特には空気漏れの閉塞にとり好ましい。反応硬化時に、適度に不均一な溶液構造をとり、ミクロなオーダーで、適度に不均一な反応を行う結果、硬化樹脂が、より強靭になるものと考えられる。粉末の平均粒径は、下記範囲の(1)から(7)へと進むにつれて順次、より好ましい範囲となる。(1) 1〜500μm、(2) 5〜350μm、(3) 10〜250μm、(4) 10〜150μm、(5) 15〜120μm、(6) 20〜100μm、(7) 20〜80μm。すなわち、10〜150μmを特に好ましい範囲と言えるが、15〜120μm等であるとさらに好ましい。ここで、平均粒径は、実体顕微鏡により得られた映像より、画像解析プログラム(例えば株式会社マウンテックの画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「マックビュー」を用いることができる)等により、各粒子の2軸平均径(長軸長と短軸長との単純平均x)を求めて長さ平均(Σx2/Σx)することで得られる。粉末の平均アスペクト比(長軸長/短軸長)は、例えば1.3〜3.0、特には、1.5〜2.0である。粉末の平均粒径が上記範囲より小さくても、また大きくても、水を吸収した際の溶解が過度に不均一になるおそれが大きいからである。上記範囲より小さい場合、溶解時に「ままこ」となる他、微紛の飛散による問題も生じ得る。なお、凍結乾燥後に高速回転刃式の粉砕機で粉砕した場合に、10〜150μmの平均粒径まで粉砕した場合、平均粒径の1.5倍以上の粉体は、長さ平均と同様の長さ基準で3%以下であり、平均粒径の1/2以下の粉体は、同様の基準で5%以下であった。このような程度に狭い粒径分布が好ましいと考えられた。
第2反応剤も粉体の形態を取る場合の粉末についても、以上に説明したような形状、製法、平均粒径等をそれぞれ取るのが好ましい。混合接着剤粉末としておくことにより噴霧が容易になるだけでなく、上記に説明したと同様の理由で、リーク圧の向上、特には空気漏れの閉塞性の向上に好ましい。また、第1及び第2反応剤の粉体を所定の反応モル比となるように混合して混合接着剤粉末とした場合、瓶中やシリンジ中などに保存して振動を加えても、分級作用によって、第1及び第2反応剤の粉体の混合比が局所的に変動することもない。混合接着剤粉末として、サンプル瓶等に入れて保存する場合、含水率は2.0%以下、好ましくは1.0%以下に保持する。第1反応剤のみの粉末を保存する場合も同様である。含水率がこれより高いと、酸化グルカンの加水分解が進行することにより、1年といった保存期間中に、分子量の劣化が生じ得る。
第1反応剤及び第2反応剤がともに粉体の形態をとる場合、第1反応剤及び第2反応剤は、第1反応剤のみが粉体である場合と同様に、圧縮空気等とともに噴出させて吹き付けによる塗布を行うことができる。反応剤をなす粉体は、体液、血液等により濡れた箇所に直接吹き付けて塗布することができる。また、吹き付けなどによる塗布操作を、繰り返し、すなわち2回以上行うのが、塗布の均一性などを実現する上で好ましく、このような繰り返し塗布の間、及び後には、生理食塩水または蒸留水等を、滴下するかまたは吹き付ける。このような滴下または吹き付けは、例えば、注射針の径の細い小型シリンジからの滴下や、化粧水用の指押し式のスプレーボトルによる噴霧等により行うことができる。なお、接着すべき箇所または患部に水分が多くない場合には、混合接着剤粉末の最初の塗布の前に、生理食塩水等を滴下または吹き付けておくのが望ましい。
第1反応剤及び第2反応剤がともに粉体の形態をとる場合、第1反応剤及び第2反応剤は、接着予定箇所または患部に、順次吹き付けて塗布を行うこともできるが、予め、アルデヒド基とアミノ基との混合比がほぼ1となるように混合しておき、この混合接着剤粉末を塗布すれば良い。このように混合接着剤粉末を用いれば、塗布作業が簡便になるほか、混合比のバラツキを抑えることができ、確実な接着を実現する上で好ましい。混合接着剤粉末は、密栓した容器、または、脱水乾燥剤を入れた容器中に、室温で長期間保存しておくことができる。また、上記の圧縮空気や圧縮ガスによる吹きつけ塗布に代えて、水中に瞬間的に分散させつつ圧縮水とともに吹き付けるのであっても良い。
第1反応剤及び第2反応剤は、放射線滅菌により容易に滅菌を行うことができ、好ましくは10〜50KGyの電子線、さらに好ましくは20〜30KGyの電子線を照射して滅菌を行う。このような滅菌処理は、硬化時間その他の接着剤の性能には、全く悪影響を及ぼさないように条件を設定して行うことができる。第1反応剤及び第2反応剤が粉体の場合、特には、これらを所定モル比で混合した混合接着剤粉末である場合に、放射線滅菌の処理を特に容易に行うことができる。
本発明の粉末−液2反応剤型の医療用接着剤を使用する際、第1反応剤と第2反応剤との混合及び塗布は種々の方法により行うことができる。例えば、第1及び第2の反応剤の一方を被着体表面に塗布し、続けてもう一方を塗布することで混合を行うことができる。また、第1反応剤と第2反応剤とが塗布装置の混合室中で混合された後に、ノズルから噴出してスプレー塗布を行うのであっても良く、また、アプリケーターのスリットから送り出されて塗布を行うのであっても良い。
第1反応剤と第2反応剤とが混合されると、アルデヒド化α−グルカンのアルデヒド基と、アミノ基含有ポリマーのアミノ基との間でシッフ結合が形成され、これが架橋点となって網目構造を有するハイドロゲルが形成される。その結果、硬化が、混合から2〜150秒、好ましくは3〜100秒、より好ましくは5〜50秒の間に生じる。混合から硬化までの好ましい時間は、用途によって多少異なり、生体組織内にまで浸透して高度の接着力を発揮するためには、硬化時間が10秒以上、特には15秒以上であるのが好ましい。
このような硬化反応により生成する含水ゲル状の硬化接着剤層、または含水ゲル状の樹脂は、設計液化期間を経たならば、自己分解によって液体状態に変化する。すなわち、生体内での酵素分解等を経ずとも、含水状態にあるならば、自然に分解を生じ液体状態(流動可能なゾル状態)に変換される。したがって、生体内にあっては、ある所定の期間を経過時に、速やかに吸収あるいは排泄されて消滅されるようにすることができる。設計分解期間は、数時間〜4カ月、通常は1日〜1カ月の範囲、特には2日〜2週間の範囲内で任意に設定される。
これに対して、生体内で酵素分解のみによって分解吸収される既存の生体分解樹脂の場合には、分解期間にばらつきが大きく、必要な接着力保持期間を経た後に速やかに分解されるようにするのは困難であったのである。
自己分解による分解期間は、アルデヒド化α−グルカン及び/またはアミノ基含有ポリマーの分子量ないしその分布の選択ないしは調整、多価カルボン酸の使用・不使用もしくは選択、及び、2液混合時のpHの調整などによって、任意に調整し、設定することができる。すなわち、分解され吸収される期間を、2液接着剤の構成の調整により、任意に設計しておくことができる。
自己分解の機構は、明らかでないが、アルデヒド化α−グルカンのアルデヒド基が、アミノ基と結合してシッフ塩基を形成した場合、シッフ塩基に隣接するα−グルコシド結合が分解を受けやすくなったものと考えている。
本発明の医療用接着剤及び医療用樹脂は、生体接着剤、組織充填剤、止血剤、血管塞栓剤、動脈瘤の封止剤また、癒着防止材やDDS用担体等として、好適に適用されうる。
<粉体-液体の2反応剤型医療用接着剤>
A1.粉末状アルデヒド化デキストラン(第1反応剤)の調製
分子量75000のデキストラン(和光純薬工業株式会社、Lot No.EWK3037)20gを100mlの蒸留水に溶解させた。次に、3gの過ヨウ素酸ナトリウム(分子量213.89)を添加し、40℃で5時間撹拌しながら反応させた。そして、反応後の溶液を蒸留水で24時間透析(分画分子量14000の透析膜使用)した後、凍結乾燥した。更に、小型粉砕器(ワンダーブレンダー、大阪ケミカル株式会社製)を用いて1分間の粉砕処理を行い、粉末状のアルデヒド化デキストランが得られた。
糖残基量(モル)あたりのアルデヒド基の導入量は、0.28であった。尚、アルデヒド基の導入量の測定は、酸化還元滴定法によって行った。具体的には、0.05mol/lのヨウ素水溶液20ml、10mg/mlのアルデヒド化デキストラン水溶液10ml及び1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液20mlを、100mlマイヤーフラスコに入れ、25℃で15分間攪拌した。そして、6v/v%硫酸水溶液15mlを添加し、0.1mol/lのチオ硫酸ナトリウム水溶液にて滴定した。終点は反応系が無色透明化した時点とし、指示薬はでんぷん水溶液とした。
粉末の粒度を、実体顕微鏡を用いて評価したところ、図1の写真に示すように平均粒径が90μmであった。さらに、電子顕微鏡観察により、表面性状を観察した結果、多孔体をなしていることが知られた。
A2.epsilon-ポリリジン水溶液(第2反応剤)の調製
25重量%のepsilon-ポリリジン水溶液(分子量4000、チッソ株式会社、Lot No.2050506、フリーアミン)に、無水酢酸及び蒸留水を添加して、無水酢酸の濃度が2重量%となるようにしつつ、10重量%の中性ポリリジン水溶液を調製した。
A3.アルデヒド化デキストランの保存安定性
上記A1で得られた粉末状アルデヒド化デキストランを、ポリエチレン容器に入れ−20℃及び+50℃にそれぞれ放置した。40日経過後にGPCによる分子量測定に供したところ、ピークトップの分子量は各温度でそれぞれ、19,223及び18,659であり高温下で保存することによる分子量低下は認められなかった。同じ試料を粉末状態ではなく20重量%の水溶液に調製し、同様に+50℃での分子量変化を調べたところ、表1に示すように、14日で元の84%に、28日で71%にまで低下した。
一方、これらのデキストラン水溶液を用いて、上記A2で得られたポリリジン水溶液と混合し、ゲル化時間を測定することでアルデヒド化デキストランの劣化の程度を評価した。ここで、ゲル化時間の測定は、次のように行った。まず、2液反応型接着剤の第1液(上記A1の粉末アルデヒド化デキストランの20%水溶液)0.5mlを直径16mmのガラス製試験管に採取し、直径4mm、長さ10mmの磁気攪拌子を入れて37℃に加温し100rpmの速度で攪拌した。そして、予め37℃に加温した第2液(上記A2)0.5mlをマイクロピペットにて添加し、接着剤の硬化により攪拌子が停止するまでの時間をストップウォッチにて計測した。表1中には、+50℃で2週間及び4週間保存した場合のゲル化時間の変化を示し、図1Aには、+25℃で1年間まで保存した場合のゲル化時間の変化を、+4℃での測定結果とともに示す。但し、図1Aの実験の際には、無水酢酸に代えて無水こはく酸をポリリジン水溶液に2%添加した。
表1及び図1Aのゲル化時間変化の結果から、+50℃で14及び28日の経過は、25℃ではそれぞれ約1年及び3年の経過に相当することが示された。このことから、アルデヒド化デキストランを水溶液にせず、粉末のままで保存するならば、25℃でも3年以上にわたり分子量変化がないであろうことが示唆された。なお、図1Aに示されるように、水溶液中のアルデヒド化デキストランは、4℃で保存するならば、1年後にもゲル化時間に有意な変化が見られず、長期保存が可能なことが知られた。
A4.シーリング効果の確認
上記A1で得られた粉末状アルデヒド化デキストランと上記2で得られた中性ポリリジン水溶液を用いて、これらの反応で生成したゲル(含水ゲル)によるシーリング性を調べた。具体的には、以下のように行った。
まず、スポイトキャップを用いて、図2−1の写真及び図2−2の模式図に示すような、手製の粉末スプレー用デバイス10を作成した。すなわち、外径5mm、内径3mmのパイレックスガラス細管11を加熱によりほぼ直角に折り曲げ、片端に外径6mm、内径4mmのシリコンチューブ2を取り付けた。上記ガラス細管11には外径10mm、内径8mmのガラス外管12を融着した。10ml容のシリコンスポイトキャップ3に粉末のアルデヒド化デキストラン4約3gを入れ、上記のように作製したガラス管部材1のガラス外管12に固定した。
試薬ボトルの蓋(ポリエチレン製、直径37mm、高さ20mm)に直径10mmの穴を開け、蓋の内側面が上方に露出するように、実験台上に置いた。そこに第1反応剤粉末0.5gを、上記手製粉末スプレー用デバイスを用いてほぼ均一に薄くスプレーした。その後、第2反応剤液0.1gをほぼ均一に滴下した。更にその上から、第1反応剤粉末0.5gを手製粉末スプレー用デバイスを用いてスプレーした。得られたゲル化物は餅状であり、柔軟性に富むものであった。2分後、試薬ボトルの蓋をボトル本体(ポリエチレン製、約500ml容、高さ約175mm)にネジ合わせて元通りに戻し、予め底を切り取った胴体を逆さまに向け徐々に水を加えた。その結果、500gの水を加えてもゲルが破れて水が漏れることはなく、高いシーリング効果を有することが確認された。
A5.接着性及び柔軟性の確認
上記A1で得られた粉末状アルデヒド化デキストランと上記2で得られた中性ポリリジン水溶液を用いて組織との接着性及び柔軟性を調べた。具体的には、まず、麻酔状態のビーグル犬に挿管し、人工呼吸器を用いて維持させ肺を露出させた。そして、肺表面に第1反応剤粉末1gを、上記4で用いた手製の粉末スプレー用デバイスを用いてほぼ均一に薄くスプレーした。その後、第2反応剤液0.5gをほぼ均一に滴下した。更にその上から、第1反応剤粉末1gを手製粉末スプレー用デバイスを用いて同様にスプレーした。
2分後、気道内に酸素を送り込み圧力を掛け、反応により生成したゲルが肺表面から剥がれるかどうかを確認した。その結果、40cmHO以上でも肺表面からゲルは剥がれることもなく接着していた。また、繰り返し肺を拡張、収縮させてもゲルが裂けることもなく、高い柔軟性を有していることも確認できた。
A6.肝臓での止血効果の確認
上記A1で得られた粉末状アルデヒド化デキストランと上記2で得られた中性ポリリジン水溶液を用いて部分肝切除部位からの染み出し状出血の止血(oozing止め)を行った。具体的にはビーグル犬の肝動脈を結紮後、鉗子を用いて肝臓を切除しながら直径1mm以下の血管は電気メスを用いて切除し、それ以上の血管は結紮後電気メスで切除して部分肝切除を行い、切離面を露出させた。ほぼ鉛直方向に沿った切離面5(図3の写真の中央に見える上弦半月状ないし三日月状の部分)に第1反応剤粉末2gを、上記4で用いた手製の粉末スプレー用デバイスを用いてほぼ均一に薄くスプレーした。その後、第2反応剤液1gを市販フィブリン糊用スプレーデバイス(ボルヒールスプレーキット)を用いてほぼ均一にスプレーした。更にその上から、第1反応剤粉末2gを手製デバイスを用いてスプレーした。
2分後、予め重量を測定しておいたガーゼを止血処置部位に当て、肝動脈の結紮を外し、染み出てくる血液をガーゼに染み込ませて重量を測定することにより出血量を求めた。この結果、肝動脈の結紮を外した直後2分間は1g以下の出血量しか認められなかったのに対し、未処置では10g以上の出血量が認められ、図3の写真の様に高い止血効果が認められた。
A7.癒着防止
上記A1で得られた粉末状アルデヒド化デキストランと上記2で得られた中性ポリリジン水溶液を用いて癒着防止実験を行った。体重約300gのSDラットを正中切開後、左側の腹膜と筋層の一部を約2.5cm四方、深さ約1mm程度切除し、患部全体を電気メスで処置した。その後、第1反応剤粉末1gを上記4で用いた手製のデバイスを用いてほぼ均一に薄くスプレーし、その後、第2反応剤液0.3mlを滴下してほぼ均一に塗布した。更にその上から、第1反応剤粉末1gを手製デバイスを用いてスプレーし、2分経過した後に閉腹した。
評価は2週間後に開腹して癒着の程度を3段階のスコアーで表すことにより数値化した(0:癒着無し、1:剥離可能な軽微な癒着、2:剥離できない強固な癒着)。また、市販の癒着防止膜(セプラフィルム(Sepra film 登録商標)、ジェンザイム(Genzyme)ジャパン株式会社)を患部に貼り付けた群を比較対象として設けた。癒着の程度は、未処置群、セプラフィルム群、及び2反応剤型接着剤群の順に2.0±0.0、1.1±0.7、0.4±0.5であった(P=0.02及び0.0001)。各群のサンプル数nは未処置群が6、セプラフィルム群が9、2反応剤型接着剤群が10である。
図4〜6の写真の様に、セプラフィルム群(図5)、2反応剤型接着剤群(図4)ともに未処置群(図6)と比べて癒着防止の効果が認められたが、2反応剤型接着剤群(図4)はセプラフィルム群(図5)と比べても有意に高い効果が見られた(P=0.03)。図4の例に示すように、2反応剤型接着剤群の場合、腹膜への大網(たいもう;greater omentum)の癒着は、あったとしても、軽微である。これに対し、図5の例に示すセプラフィルム群の場合、広い面積での癒着が見られる。
<粉体-粉体の2反応剤型医療用接着剤>
B1.粉末状アルデヒド化デキストラン(第1反応剤)及びepsilon-ポリリジン粉末(第2反応剤)
分子量70,000のデキストラン(名糖産業株式会社Meito Sangyo Co., Ltd.、「デキストラン70」Dextran 70 powder J.P.; Pharmaceutical grade (for injections))を用いた他は、上記セクションA1と全く同様にして粉末状のアルデヒド化デキストランを得た。そして、以下の実験において第1反応剤として用いた。上記セクションA1の方法により測定した糖残基量(モル)あたりのアルデヒド基の導入量は、セクションA1と同じ、0.28であった。また、粉末の粒度を、セクションA1と同様に実体顕微鏡を用いて評価したところ、平均粒径が90μmであり、全く同様の多孔体をなしていた。また、平均アスペクト比(短軸に対する長軸の比)は、約1.6であった。
一方、第2反応剤としては、10重量%の中性ポリリジン水溶液から、上記アルデヒド化デキストランの場合と全く同様に、凍結乾燥後に機械粉砕して得られた粉末を用いた。この中性ポリリジン水溶液は、25重量%のepsilon-ポリリジン水溶液(分子量4000、チッソ株式会社、Lot No.2050506、フリーアミン)10mlに無水こはく酸0.5g及び蒸留水14.5mlを添加することにより調製したものである。得られたポリリジン粉体は、上記のアルデヒド化デキストランの場合と同様に実体顕微鏡を用いて評価したところ、図1とほぼ同様のランダムな形状の多孔体であった。また、平均粒径が80μmで、平均アスペクト比は、約1.7であった。セクションB1の粉末状アルデヒド化デキストランと、epsilon-ポリリジン粉末製品とを4/1の重量比率で混合した場合にアルデヒド基とアミノ基とのモル比がほぼ1となる。
以下の実験は、このように反応モル比がほぼ1となるように混合しておいた混合接着剤粉末を用いて行った。なお、この混合接着剤粉末は、アルミキャップ付きのガラス製バイアル瓶に保存することにより、含水率を1.0%以下に保持した。
B2.呼吸器外科領域での使用例(肺の空気漏れ閉塞)−1
肺の空気漏れ閉塞の効果を確認するため、ビーグル犬を用いて以下の実験を行った。常法に従って麻酔、気管内挿管を経て開胸し、右肺に電気メスを用いて直径15mmの円形の胸膜欠損部位(図7の中央から少し左の濃い色の部分)を作製した。患部に生理食塩水をかけて人工呼吸器の圧力を上げることにより空気漏れを確認した。その後、2反応剤型接着剤を塗布し、2分後に胸腔内を生理食塩水で満たしてリークテストを行った。比較対象としてフィブリン糊(ボルヒール、化学及血清療法研究所)を用い、フィブリノーゲン溶液を患部に滴下して指塗りし、スプレーキットを用いてその上から塗布した("Rub & Spray method")。フィブリン糊の場合は上記文献に従って塗布から5分後にリークテストを行った。
また、2反応剤型接着剤の塗布は、以下のようにして行った。まず、胸膜欠損部位を含むその近傍箇所に、1ml容のシリンジを用いて約0.5mlの生理食塩水をまんべんなく滴下した。次いで、同箇所に、混合接着剤粉末0.2gを、セクションA4で用いた手製の粉末スプレー用デバイス(図2−1〜2−2)を用いてほぼ均一に薄くスプレーした。この上に、再度、シリンジを用いて生理食塩水を約0.1gだけ滴下した。図7の写真には、このような操作により胸膜欠損部位を閉塞した際の様子を示す。図7の写真から、含水ゲルにより閉塞が実現されていることが知られる。
2分後、人工呼吸器により気道内に酸素を送り込む圧力を、5cmHOから徐々に上昇させたところ、約30cmHOの圧力でエアリークが認められた。従って、このような簡単な実験によっても、フィブリン糊とある程度同等の空気漏れ閉塞効果を有することが確認された。
B3.人工血管の針穴塞栓
人工血管(W. L. Gore & Associates社のGORE-TEX(登録商標)vascular graft、直径8mm)に18G(外径1.3mmφ)の針穴を1箇所だけ開け、粉体-粉体の2反応剤型医療用接着剤を噴霧により塗布した。詳しくは、針穴の近傍(面積1cm)に対して、上記シリンジによる蒸留水の滴下と、手製の粉末スプレー用デバイス(図2−1〜2−2)による上記B1の混合接着剤粉末(第1反応剤及び第2反応剤の粉末の混合物、アルデヒド基とアミノ基のモル比=1)の塗布とを、以下の順で行った。(1)蒸留水の滴下、(2)混合接着剤粉末の噴霧、(3)蒸留水の滴下、(4)混合接着剤粉末の噴霧、及び、(5)蒸留水の滴下。この際、混合接着剤粉末の塗布量は2度の合計で、約0.2g/cmであった。なお、接着剤層の視認のため、生理食塩水には、50ppmとなるように「青色1号」(Brilliant Blue FCF;和光純薬株式会社、Lot No.KLN3789)を添加しておいた。
2分後、人工血管の片端から水圧を掛け、針穴からの水漏れを防ぐことが出来るかどうかを確認した。詳しくは、図8のようなシリンジポンプ装置6(テルモ社のTERUFUSION Syringe Pump STC−523)を用い、生理食塩水を20mL/hのスピードで、人工血管8へと押し出すようにして、水圧を徐々に上昇させた。図に示すように、シリンジポンプ装置6には、30mL容のプラスチックシリンジ7がセットされる。この際、シリンジポンプ装置6の固定アーム61及び可動アーム62とが、シリンジ7における指載せ部71の前方面及びピストン棒後端面72にそれぞれ突き当てられている。可動アーム62の前方への移動によりシリンジ7から押し出された生理食塩水が、内径8mmのシリコンチューブ73と、この途中及び先端に配置されたフッ素樹脂製の活栓付きチューブ接続管74とを通って、人工血管8の端部へと押し込まれる。先端の活栓付きチューブ接続管74は、測定終了後の圧力解除が可能なように3方コックとなっており、一方の枝管が人工血管8の端部に挿入されいる。この枝管の箇所で、人工血管8の外側からナイロン紐(ひも)が強く巻き付けられて接続部からの漏れを防止している。
人工血管8の針穴塞栓箇所81から、着色した生理食塩水の漏れが最初に観察された時点の圧力を、圧力モニター65の表示部から読みとり、リーク圧とした。
なお、比較のため、フィブリン糊(「ベリプラストP コンビセット」、CSL ベーリング(Behring) 株式会社)を所定の用法にしたがい、10cmあたりA液及びB液が各々1mL適用されるように塗布した。この際、A液をすり込み後、A液とB液とを市販フィブリン糊用スプレーデバイス(ボルヒールスプレーキット)を用いて混合しつつスプレーした("Rub & Spray method"; Naoki Minato et al "New Application Method of Fibrin Glue for More Effective Hemostasis in Cardiovascular Surgery" Jpn. J. Thorac. Caridiovasc. Surg. 2004; 52: 361-366)。
実施例の混合粉末接着剤、及びフィブリン糊について、それぞれ4回試行を行い、その結果を表3及び図9に示す。フィブリン糊を用いた場合のリーク圧が167〜262mmHgであったのに対し、実施例の混合粉末接着剤(セクションB1)を用いた場合、4回の試行のうち、3回は320mmHgを超え、1回のみ277mmHgとなった。ここで、「320mmHgを超えた」とは、針穴以外の箇所でのリークが見られるなどの理由から、測定限界を超えたことを意味する。このように、実施例の混合粉末接着剤を用いると、フィブリン糊に比べて顕著に優れた針穴塞栓性能を発揮した(有意差検定によるとp=0.007)。
なお、フィブリン糊を用いた場合にばらつきが大きかったのは、スプレーデバイスの性質上、毎回同じように塗布することが困難であるためと考えられた。言い換えるならば、実施例の混合粉末接着剤を用いるならば、熟練を要せず、かつ、毎回信頼性の高い塞栓を実現することができる。
B4.腹腔内での分解性
ラットを麻酔後、腹部を正中切開し、ラットにとっての右側の腹膜と筋層の一部を約2.5×2.5cm剥離した。そして、このような腹膜欠損部位に対して、スプレーボトルによる生理食塩水の吹き付けと、手製の粉末スプレー用デバイス(図2−1〜2−2)による上記B1の混合接着剤粉末(第1反応剤及び第2反応剤の粉末の混合物、アルデヒド基とアミノ基のモル比=1)の塗布とを、以下の順で行った。(1)生理食塩水の滴下、(2)混合接着剤粉末の噴霧、(3)生理食塩水の滴下。この際、混合接着剤粉末の塗布量は、約0.1g/cmであった。また、生理食塩水の吹き付けの量は、いずれも約0.1ml/cmであった。
1週間後、開腹して含水ゲル状接着剤樹脂層の残存を目視にて確認したところ、ほぼ、分解・消失していることが知られた(図10)。一方、特許文献7(WO/2006/080523)のセクション7に記載した実施例1の2液反応型接着剤を用いた場合、1週間で90%程度は分解していた。したがって、上記混合接着剤粉末を用いて、約0.1g/cmの適当な厚みに塗布を行う場合、本件発明者らの2液反応型接着剤と全く同様の生体内分解性が見られた。
一方、上記と同様の混合接着剤粉末の塗布を2回重ねて行い、合計の塗布量を約0.2g/cmとした場合、同様に一週間後、開腹して含水ゲル状接着剤樹脂層の残存を目視にて確認したところ、50%程度はまだ残存していた(図11)。図11の写真において、中央より上方にずれた円形状の露出箇所が、含水ゲル状接着剤樹脂層に覆われた部分である。すなわち、塗布量を上記の2倍以上とした場合には、粉体-粉体の2反応型接着剤の方が、ラット腹腔内における分解速度が遅かった。従って、ポリカルボン酸添加(特許文献7のセクション8)や高分子量のアミノ基含有ポリマーの添加(特許文献7のセクション6)等を行わずとも、厚塗りを行うだけで、肝止血のように1〜2週間またはそれ以上の保持期間を要する場合に対応することができる場合があると考えている。
止血能力は、特許文献7(特には、実施例1または2)の2液反応型接着剤を用いた場合に比べて組織の水分を吸収する能力が高いため優っており、フィブリン糊同様滲出oozing程度なら十分に止血出来ることが確認出来た。
B5.ビーグル犬の肺の空気漏れ閉塞後の生体内分解性
ビーグル犬右肺にφ15mmの胸膜欠損部位を作製した。詳しくは、予めφ15mmの穴を開けたφ30mmのシリコンシートを肺に貼付け、穴の部分にシアノアクリレートを流して1分後シリコンシートを肺から外し、シアノアクリレートの部分の胸膜をメスで剥離した。そして、この胸膜欠損部位に、セクションB1の混合接着剤粉末を、セクションB4の場合と同様に塗布した。また、同様の混合接着剤粉末の塗布を2回及び3回重ねて行い、重ね塗りの影響を調べた。2回塗布の場合、(1)生理食塩水の滴下、(2)混合接着剤粉末の噴霧、(3)生理食塩水の滴下、(4)混合接着剤粉末の噴霧、及び、(5)生理食塩水の滴下の順で行った。3回塗布の場合も同様である。すなわち、2回塗布の場合に、合計の塗布量が約0.2g/cmであり、3回塗布の場合の合計塗布量は約0.3g/cmである。
1週間後及び2週間後に開胸し、分解の様子を目視により観察した。1週間後は肉眼的にまだ僅かながら硬化樹脂が残存していたが、2週間後では殆ど残っていないことが分かった。
また、2回塗布の場合、及び3回塗布の場合にも、1回塗布の場合と比べ、肉眼的に分解には大きな差が認められなかったが、組織切片を作り詳しく調べたところ、塗布回数の増加とともに残存量も多くなることが分かった。
B6.腎臓部分切除時の止血
ウサギを用いて腎臓部分切除時の切離面の止血が可能かどうかを調べた。粉体-液体の2反応剤型接着剤を用いた肝臓での止血の場合(セクションA6)と同様に、腎動脈をクランプ後に部分切除した後、2反応剤型接着剤による止血を行った。この様子を、図12−1〜12−3の写真に示す。図12−1には切断前の腎臓を、図12−2にはハサミによる切断直後の様子を示し、図12−3には、塗布の完了後の様子を示す。粉体-粉体の2反応剤型接着剤の塗布は、上記B2におけると全く同一の手順で行った。すなわち、切離面(約5cm2)に生理食塩水を1mlのシリンジで滴下した後、上記混合接着剤粉末を0.5g噴霧する操作を2回、繰り返して行い、最後に再度、生理食塩水を1ml滴下した。
2分後にクランプを外して出血してきた血液をガーゼに染み込ませて重量から出血量を測定したところ、10分間の総出血量は約0.3g、未処置群は約20gであった。このため、粉体-粉体の2反応型接着剤は腎部分切除時の止血効果も十分期待できると考えられる。
B7.癒着防止
上記混合粉末接着剤(セクションB1)について、上記A7セクションと同様の方法で、 体重300〜310g のSDラットを用いて癒着防止効果の確認を行った。但し、切除及び電気メスによる処置の後、患部をリンゲル液(NaCL 0.9%, KCL 0.3%, CaCL2 0.2%)で洗浄した。そして、(1)リンゲル液の滴下、(2)混合接着剤粉末の噴霧、及び(3)蒸留水の滴下の手順で、塗布量が約0.1g/cmとなるように患部に塗布を行い、硬化するまで2分間放置した。
評価は、上記A7セクションと同一の方法により行った。すなわち、2週間後に開腹して癒着の状態を3段階のスコアーで数値化し評価した。また、比較対照として、(1) 上記の市販の癒着防止膜(「セプラフィルム」)を患部に貼り付けた群、(2) 上記のフィブリン糊(「ベリプラストP コンビセット」)をセクションB3と同様に塗布した群、(3) 上記A1の粉末アルデヒド化デキストランの20%水溶液と上記A2のポリリジン水溶液とを等重量で混合した混合物を塗布して固形物換算の塗布量が約0.1g/cmとなるように塗布した群、及び(4) 上記A4セクションの記載と同一の粉体-液体の2反応剤接着剤及び同一の塗布方法により塗布した群を用いた。
この結果を図13にまとめて示す。図13から知られるように、本件実施例の粉体-粉体及び粉体-液体の2反応剤型接着剤を用いた場合に、同様の組成の2液反応型接着剤(特許文献7 WO/2006/080523)の場合と全く同様に、優れた癒着防止効果を発揮した。癒着防止効果は、市販の癒着防止膜等の場合に比べて有意に大きかった。図13から知られるように、粉体-粉体の2反応剤型接着剤を用いる場合に癒着防止効果が最も大きくなると思われた。市販の癒着防止膜(「セプラフィルム」)の場合との間の有意差棄却率pは、粉体-粉体接着剤で0.0003、粉体-液体の接着剤で0.0030であった。
なお、本件実施例の粉体-粉体の接着剤を用いた場合、2週間後の開腹時にも、含水ゲル層がわずかに残存していることが目視により観察された。粉体-粉体の接着剤を用いた場合に他の形態のものより癒着防止効果が若干大きく現れたのは、含水ゲル層がより長期にわわたって残存したためではないかと思われる。
B8.より粒径の小さい混合接着剤粉末、及びその塗布
上記B1セクションで調製したと全く同様の混合接着剤粉末を作製するにあたり、平均粒径が、より小さくなるように機械粉砕の条件のみ変更した。この際、B1セクションにおける機械粉砕で用いたと同じ微粉砕機(大阪ケミカル(株)の「ワンダーブレンダー)を用い、粉砕時間を10秒(B1セクションで用いた粉砕時間)から30秒に延長することにより作製した。図14には、得られた混合接着剤粉末を実体顕微鏡により撮影した写真を示す。直径が50μmを超える粉体粒子は、ほとんど含まれず、1%以下であると判断された。この混合接着剤粉末の平均粒径は、約30μmであった。(この混合接着剤粉末は、下記B9及びB10セクションでのみ用いた。)
一方、スプレーデバイスについて、スポイトキャップ式のもの(図2-1〜2-2)に代えて、接着剤粉体を貯留する耐圧ガラス容器52に、送気球55から空気を吹き込む方式のものを作製した。図15-1の写真、及び図15-2の模式図には、このような送気球式スプレーデバイス10’の試作品を示す。ここで用いた送気球55は、血圧計用の送気球(「アネロイド血圧計 プレミアム送気球」)である。この送気球には、逆流防止のためのボールバルブが付いており、一方向で送気可能となっている。図15-2に示すように、図2-1〜2-2の「スポイトキャップ取り付け用ガラス管1」のガラス外管12に枝管13を設けた形態の枝付き二重ガラス管1’を用いている。円筒形の耐圧ガラス容器52に、シリコンゴムからなる蓋51が嵌め付けられており、この蓋51の中央部を貫くように、枝付き二重ガラス管1’の二重管部が取り付けられている。
このような送気球式スプレーデバイス10’であると、接着剤の粉体を均一に塗布する上で、スポイトキャップ式のスプレーデバイス10(図2-1〜2-2)よりも有利であると考えられる。一方、平均粒径が約30μmといった、より微細な粒径の接着剤粉末を、スポイトキャップ式のスプレーデバイス10でもって塗布しようとする場合、スポイトキャップ3中で、湿気を吸った粉体粒子が部分的に凝集して固まるおそれがある。
B9.呼吸器外科領域での使用例(肺の空気漏れ閉塞)−2
上記B8セクションで得られた微細混合接着剤粉末及び送気球式スプレーデバイス10’を用い、B2セクションに記載のとおりの方法でリークテストを行った。
それぞれ8回の試行を行い、空気漏れが認められた圧力について、およその最小値から最大値までの範囲、及び、平均値を求めた。その結果、上記B8の微細混合接着剤粉末で約40〜50cmH2O、平均約46cmH2Oであり、ボルヒールの場合で30〜40cmH2O、平均約36cmH2Oであった。なお、混合接着剤粉末の形態に代えて、2液接着剤とする場合には、同様の実験において、空気漏れ閉塞の効果がボルヒールと同程度であった(特許文献7のセクション16)。上記B8の微細混合接着剤粉末を用い、胸膜欠損部位の作製に代えて、肺表面に23Gの針穴を空け同様に試験を行ったところ、80cmH2Oまで上げてもリークは認められなかった。
したがって、記B8セクションで得られた平均粒径の小さい混合接着剤粉末を用いることで、2液接着剤の形態、及び、フィブリン糊に比べて有意に高い空気漏れ閉塞効果が確認された。ところが、B2セクションで述べたとおり、B1セクションの平均粒径約90μmの混合接着剤及びスポイトキャップ式のスプレーデバイス10を用いた場合には、フィブリン糊よりも少し小さい耐リーク圧力が観察されている。これは、混合接着剤粉末の粒径の差に起因して、反応の均一性の程度に差が生じたためと考えている。
B10.組織付着性試験
上記B8セクションで得られた微細混合接着剤粉末を用い、組織付着性(接着性)を評価した。評価は、市販の微線維性コラーゲン局所止血剤であるEli Lilly社の「アビテン(Avitene)」について行われた付着性試験の報告(「新薬と臨牀」、第37巻、第2号、PP.241-245、昭和63年)に記載の方法を、ジグを改良して行った。すなわち、試験用「円形パッチ」のジグとしては、下記のようにして作製したものを用いた。外径12mm、内径10mmのステンレスパイプを長さ10mmにカットし、治具を引張るため把持部位としてM3のナットを蝋付けした。その後、組織との接着面に文献に記載の様に金属メッシュ(メッシュサイズは文献と同じく20メッシュ/インチ、材質は加工性の観点から真鍮を使用)を半田付けした。図16の写真には、このようにして得られたジグ上面、下面及び側面から見た像を示す。付着性試験のためには、ウサギから摘出した肝臓の表面にジグを置き、微細混合接着剤粉末を塗布した。微細混合接着剤粉末の塗布は、スパチュラで0.2〜0.3gをジグの円筒部を通して散布した後、直ちに生理食塩水を吹き付けることにより行った。そして、塗布の2分後、ジグのM3ナット部に、引張り試験機上部のロードセルに接続する金属具の水平ネジ棒を通して10mm/minの速度で引っ張った。
なお、比較例として、上記のボルヒール接着剤(フィブリン糊)、及び、ゼリア新薬工業株式会社を通じて市販されている「アビテン(Avitene)」を用いた。「Avitene」は、ウシ真皮コラーゲンを原料とした止血剤であり、直径250〜6000nm、長さ1〜12mmの微線維からなるとされ、白色・線状を成している。「Avitene」の止血機序は、出血面との接触による血小板補捉および血小板凝固因子の活性化と、線維組織間隙への凝固性生物の捕捉などであると考えられている。ボルヒール接着剤(フィブリン糊)の塗布は、前述の「ボルヒールスプレーキット」を用いて行い、前述の「アビテン(Avitene)」の塗布は、この微細繊維をジグの底の網面に敷き詰めるようにして行った。
その結果、図17のグラフに示すような結果が得られた。図17から知られるように、B8の混合接着剤粉末を用いた場合、付着力は「アビテン」を用いたよりも有意に高いことが分かった(p<0.0001)。一方、「アビテン」とフィブリン糊の付着力に有意な差は認められなかった(p=0.07)。
<アルデヒド化α-グルカンのシート>
分子量75000のデキストラン(和光純薬工業株式会社、Lot No.EWK3037)を用い、無水グルコースユニットあたりのアルデヒド導入量が0.26であるアルデヒド化デキストラン(-CHO=0.264±0.003 /糖残基)を、セクションA1に記載の方法により調製した。このように得られたアルデヒド化デキストラン15gをグリセリン3.75g及び蒸留水131.25mlと混合し、50℃に保ちつつ攪拌した。20X20X0.5cmの寸法のガラス板に貼り付けた厚み40μmのポリエチレンシートに、得られた溶液を流延し、25℃で24時間風乾することで、厚み0.5mmのアルデヒド化デキストラン・シートを得た。
以下の実験例を用いて説明するように、アルデヒド化デキストラン・シートは、上記の2反応剤型接着剤と組み合わせて用いることができる。セクションB2及びB9の場合と同様の方法により、肺の空気漏れ閉塞の効果を確認した。但し、3×3cmの面積の矩形の胸膜欠損部位を作製した。そして、患部に生理食塩水をかけて人工呼吸器の圧力を上げることにより空気漏れを確認した。その後、専用ミキシングデバイスを用いて胸膜欠損部位に約2mlの接着剤を滴下した。速やかに、アルデヒド化デキストラン・シートを胸膜欠損部位に貼り付けた。2分間放置した後、胸腔内を生理食塩水で満たしてリークテストを行った。空気漏れが認められた圧力は43.5±6.0であった(サンプル数n=6, 標準偏差6.0)。この値は、アルデヒド化デキストラン・シートを用いなかった場合の35.4±6.8に比べて、有意に高いものであった。
アルデヒド化デキストラン・シートとして、厚みが0.1〜2mmのもの、好ましくは0.3〜8mmのものを、上記に説明したいずれかの2反応剤型接着剤との組み合わせで用いることができる。アルデヒド化デキストラン・シートは、漏れ閉塞、止血、接着、癒着防止等を行う際に、2液型、粉−液型及び2粉体型のいずれの組み合わせでも用いるこができる。また、アルデヒド化デキストラン・シートに代えて、他のアルデヒド化α-グルカンのシート、例えばアルデヒド化デキストリン・シートを用いることもできる。無水グルコースユニットあたりのアルデヒド導入量は、0.1〜1.0、好ましくは0.2〜0.9、より好ましくは0.3〜0.8である。
第1反応剤粉末の顕微鏡写真である。 アルデヒド化デキストラン水溶液の長期保存安定性をゲル化時間の変化により評価した結果を示すグラフである。 スポイトキャップを用いて作成した手製デバイスを示す写真である。 手製デバイスの構成を示す模式図である。 肝臓での止血効果の確認の様子を示す写真である。 実施例の粉体−液体の2反応剤型接着剤による癒着防止効果を示す写真である。 市販セプラフィルムによる癒着防止効果を示す図4と同様の写真である。 癒着防止膜を用いない場合の様子を示す図4と同様の写真である。 人工的に作成した肺欠損部位からの空気漏れを、粉体-粉体の2反応剤型接着剤により閉塞した様子を示す写真である。 針穴塞栓性を評価するためのシリンジポンプ装置及びその使用状態を示す模式的な斜視図である。 針穴塞栓性の評価結果を、フィブリン糊の場合と比較して示すグラフである。 ラット腹腔内に含水ゲル状接着剤樹脂層を配置した後、1週間後の様子を示す写真である。 塗布量を大きくした結果、含水ゲル状接着剤樹脂層の残留が見られた場合の図10と同様の写真である。 ウサギの腎臓を部分切断し、止血する様子を示す写真(1)である。 ウサギの腎臓を部分切断し、止血する様子を示す写真(2)である。切断直後の状態を示す。 ウサギの腎臓を部分切断し、止血する様子を示す写真(3)である。止血した状態を示す。 種々の医療用接着剤または癒着防止膜による癒着防止効果を評価して比較したグラフである。 より粒径の小さい混合接着剤粉末についての、図1−1と同様の顕微鏡写真である。 送気球付きスプレーデバイスを示す、図2−1と同様の写真である。 図15−1の送気球付きスプレーデバイスの構成を示す、図2−2と同様の模式図である。 付着力試験に用いたジグの写真である。 付着力試験の結果を、市販フィブリン糊、及び市販止血剤シートとの比較で示すグラフである。

Claims (18)

  1. 重量平均分子量が1000〜20万であるアルデヒド化α−グルカンの粉末からなる第1反応剤と、重量平均分子量が1000〜2万であるポリ-L-リジン(A)の粉末(B)からなる第2反応剤とを、アルデヒド基/アミノ基のモル比が0.9〜3.5となるように混合した混合粉末よりなり、
    体液または血液により濡れているか、または、生理食塩水、蒸留水その他を吹き付けて濡らしておいた接着予定箇所に、前記混合粉末の形態のままで圧縮空気とともに噴出させて吹き付け塗布される医療用2反応剤型接着剤であって、
    前記アルデヒド化α−グルカンは、デキストランまたはデキストリンを過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩で酸化して、無水グルコース・ユニットあたり0.1〜1.0個のアルデヒド基を導入したものであり、
    前記α−グルカンの粉末及び前記ポリ-L-リジンの粉末(B)は、いずれも、ランダムな形状の多孔体であって、平均粒径が10〜150μmであり、
    前記混合粉末は、含水率が2.0%以下であり、水に溶解した際には、pHが5.0〜8.0となることを特徴とする医療用2反応剤型接着剤。
  2. 前記α−グルカンの粉末及び前記ポリ-L-リジンの粉末(B)が、水溶液からの凍結乾燥後、機械的に粉砕して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の医療用2反応剤型接着剤。
  3. 前記第2反応剤には、酢酸、クエン酸、コハク酸、グルタル酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、またはその他のカルボン酸化合物、または、これらの少なくとも一つに対応するカルボン酸無水物が、1〜10重量%添加されていることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用2反応剤型接着剤。
  4. 前記のポリ-L-リジンの粉末(B)は、このポリ-L-リジンの粉末(B)を得る前に、前記ポリ-L-リジン(A)に対して、酢酸、クエン酸、コハク酸、グルタル酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、またはその他のカルボン酸化合物のうちの、少なくとも一種に対応するカルボン酸無水物を、前記ポリ-L-リジン(A)の水溶液の状態で添加して得られたものであり、
    この添加により、前記のポリ-L-リジンの粉末(B)は、前記混合粉末を水に溶解した際のpHが5.0〜8.0となるようにするための酸無水物添加処理済みの粉末となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用2反応剤型接着剤。
  5. 前記のポリ-L-リジンの粉末(B)は、このポリ-L-リジンの粉末(B)を得る前に、前記ポリ-L-リジン(A)に対して、酢酸、クエン酸、コハク酸、グルタル酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、またはその他の1価または多価のカルボン酸化合物を、前記ポリ-L-リジン(A)の水溶液の状態で添加して得られたものであり、
    この添加により、前記のポリ-L-リジンの粉末(B)は、前記混合粉末を水に溶解した際のpHが5.0〜8.0となるようにするための酸添加処理済みの粉末となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用2反応剤型接着剤。
  6. 重量平均分子量が1000〜20万であるアルデヒド化α−グルカンの粉末からなる第1反応剤と、
    重量平均分子量が1000〜2万であるポリ-L-リジン(A)にカルボン酸無水物を添加することで得られる酸無水物添加ポリ-L-リジンの粉末(B1)からなる第2反応剤とを、
    アルデヒド基/アミノ基のモル比が0.9〜3.5となるように混合した混合粉末よりなり、
    前記アルデヒド化α−グルカンは、デキストランまたはデキストリンを過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩で酸化して、無水グルコース・ユニットあたり0.1〜1.0個のアルデヒド基を導入したものであり、
    前記アルデヒド化α−グルカンの粉末及び前記酸無水物添加ポリ-L-リジンの粉末(B1)は、いずれも、ランダムな形状の多孔体であって、平均粒径が10〜150μmであることを特徴とする医療用2反応剤型接着剤。
  7. 前記カルボン酸無水物は、酢酸、クエン酸、コハク酸、グルタル酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、またはその他のカルボン酸化合物のうちの、少なくとも一種に対応する酸無水物である、請求項6に記載の医療用2反応剤型接着剤。
  8. 前記酸無水物添加ポリ-L-リジンの粉末(B1)は、前記ポリ-L-リジン(A)を溶かした水溶液に前記カルボン酸無水物を添加・混合した後に、乾燥及び粉砕したものである、請求項6またはに記載の医療用2反応剤型接着剤。
  9. 前記混合粉末は、水に溶解した際に、pHが5.0〜8.0となることを特徴とする、請求項6からのいずれか一項に記載の医療用2反応剤型接着剤。
  10. 前記アルデヒド化α−グルカンの粉末、及び、前記ポリ-L-リジンの粉末(B)、前記酸無水物添加処理済みのポリ-L-リジンの粉末、前記酸添加処理済みのポリ-L-リジンの粉末、または前記酸無水物添加ポリ-L-リジンの粉末(B1)の平均粒径が20〜80μmであることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の医療用2反応剤型接着剤。
  11. 前記アルデヒド化α−グルカンの粉末、及び、前記ポリ-L-リジンの粉末(B)、前記酸無水物添加処理済みのポリ-L-リジンの粉末、前記酸添加処理済みのポリ-L-リジンの粉末、または前記酸無水物添加ポリ-L-リジンの粉末(B1)の平均アスペクト比が1.5〜2.0であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の医療用2反応剤型接着剤。
  12. 前記混合粉末に、10〜50KGyの電子線を照射して滅菌したことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の医療用2反応剤型接着剤。
  13. 前記ポリ-L-リジン(A)が、微生物または酵素を用いて生産されたepsilon-ポリ-L-リジンであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の医療用2反応剤型接着剤。
  14. 漏れ閉塞、止血、接着、または癒着防止のために用いる医療用のキットであって、
    重量平均分子量が1000〜20万であるアルデヒド化α−グルカンの水溶液からなる第1反応剤と、
    重量平均分子量が1000〜2万であるポリ-L-リジンの水溶液からなる第2反応剤と、
    重量平均分子量が1000〜20万であるアルデヒド化α−グルカンのシートとよりなり、
    前記アルデヒド化α−グルカンは、いずれも、デキストランまたはデキストリンを過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩で酸化して、無水グルコース・ユニットあたり0.1〜1.0個のアルデヒド基を導入したものであり、
    前記の第1反応剤及び第2反応剤を混合した状態におけるアルデヒド基/アミノ基のモル比が0.9〜3.5であり、
    前記の第1反応剤及び第2反応剤を混合した際には、pHが5.0〜8.0となり、前記シートの厚みが0.1〜2mmであることを特徴とする医療用2反応剤型接着剤。
  15. 重量平均分子量が1000〜20万であるアルデヒド化α−グルカンの粉末からなる第1反応剤と、重量平均分子量が1000〜2万であるポリ-L-リジンの水溶液からなる第2反応剤とよりなり、
    体液または血液により濡れているか、または、生理食塩水、蒸留水その他を吹き付けて濡らしておいた接着予定箇所に、前記第1反応剤を粉末の形態のままで圧縮空気とともに噴出させて吹き付け塗布し、この後、前記第2反応剤の水溶液を滴下することにより塗布が行われる医療用2反応剤型接着剤であって、
    前記アルデヒド化α−グルカンは、デキストランまたはデキストリンを過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩で酸化して、無水グルコース・ユニットあたり0.1〜1.0個のアルデヒド基を導入したものであり、
    前記の第1反応剤及び第2反応剤を混合した状態におけるアルデヒド基/アミノ基のモル比が0.9〜3.5であり、
    前記α−グルカンの粉末は、含水率が2.0%以下のランダムな形状の多孔体であって、平均粒径が10〜150μmであり、
    第1反応剤及び第2反応剤を混合した際には、pHが5.0〜8.0となることを特徴とする医療用2反応剤型接着剤。
  16. 前記α−グルカンの粉末の平均粒径が20〜80μmであることを特徴とする請求項15に記載の医療用2反応剤型接着剤。
  17. 漏れ閉塞、止血、接着、または癒着防止のために用いる医療用のキットであって、
    重量平均分子量が1000〜20万であるアルデヒド化α−グルカンの粉末からなる第1反応剤と、
    重量平均分子量が1000〜2万であるポリ-L-リジン(A)の粉末(B)からなる第2反応剤と、
    重量平均分子量が1000〜20万であるアルデヒド化α−グルカンのシートとよりなり、
    体液または血液により濡れているか、または、生理食塩水、蒸留水その他を吹き付けて濡らしておいた接着予定箇所に、前記の第1反応剤及び第2反応剤が、これらを混合して得られた混合粉末(C)の形態のままで圧縮空気とともに噴出させて吹き付け塗布され、この後、アルデヒド化α−グルカンのシートを貼り付けることにより使用され、
    前記アルデヒド化α−グルカンは、いずれも、デキストランまたはデキストリンを過ヨウ素酸または過ヨウ素酸塩で酸化して、無水グルコース・ユニットあたり0.1〜1.0個のアルデヒド基を導入したものであり、
    前記の第1反応剤及び第2反応剤を混合した状態におけるアルデヒド基/アミノ基のモル比が0.9〜3.5であり、
    前記α−グルカンの粉末及び前記ポリ-L-リジンの粉末は、いずれも、ランダムな形状の多孔体であって、平均粒径が10〜150μmであり、
    前記混合粉末は、含水率が2.0%以下であり、水に溶解した際には、pHが5.0〜8.0となり、前記シートの厚みが0.1〜2mmであることを特徴とする医療用2反応剤型接着剤。
  18. 前記のポリ-L-リジンの粉末(B)は、このポリ-L-リジンの粉末(B)を得る前に、前記ポリ-L-リジン(A)に対して、酢酸、クエン酸、コハク酸、グルタル酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、またはその他のカルボン酸化合物のうちの、少なくとも一種に対応するカルボン酸無水物を、前記ポリ-L-リジン(A)の水溶液の状態で添加して得られたものであり、
    この添加により、前記のポリ-L-リジンの粉末(B)は、前記混合粉末(C)を水に溶解した際のpHが5.0〜8.0となるようにするための酸無水物添加処理済みの粉末となっていることを特徴とする請求項17に記載の医療用2反応剤型接着剤。
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