明 細 書
受動 Qスィッチレーザ装置
技術分野
[0001] 本発明は、受動 Qスィッチレーザ装置に関するものある。
背景技術
[0002] 受動 Qスィッチレーザ装置(以下、単に、「レーザ装置」 t 、う)は、パルス光を生成 するレーザ装置であって、分光計測、形状計測、非線形結晶励起等に利用される。 このレーザ装置として、光共振器を構成する一対のミラー (反射手段)間にレーザ媒 質と共に可飽和吸収体が配置されたものがある。この構成では、励起されたレーザ媒 質からの放出光が可飽和吸収体に入射すると、放出光は可飽和吸収体によって吸 収される。この放出光の吸収に伴い可飽和吸収体の励起準位の電子密度が次第に 増加するが、ある時点で励起準位が満たされて励起準位の電子密度が飽和すると、 可飽和吸収体は透明化する。この時、光共振器の Q値が急激に高まりレーザ発振が 生じてパルス光が発生する。
[0003] ところで、非線形光学結晶を利用した波長変換や、直線偏光を利用した形状計測 などのために、レーザ装置からのレーザ光の偏光方向は制御されて安定していること が望まれている。このレーザ光の偏光方向を制御する方法として、偏光素子をレーザ 媒質と可飽和吸収体との間に配置する技術がある (例えば、非特許文献 1〜3参照) 非特干文献 1: A. V. Kir yanov and V. Aboites, Enhancing type- II optical second- h armonic generation by the use of a laser beam with a rotating azimuth of polarization " APPLIED PHYSICS LETTERS, 12 FEBURUARY 2001, Vol.78, No.7 pp874— 876. 非特許文献 2 : Alexander V. Kir' yanov and Vicente Aboites, "Second-harmonic gen eration by Nd3+:YAG/Cr4+:YA — laser pulses with changing state of polarization , J. Opt. Soc. Am. B, October 2000, Vol.17, No.10, ppl657- 1664
非特許文献 3 : A. V. Kir' yanov, J. J. Soto- Bernal, and V.J. Pinto- Robledo, "SHG by a Nd3+:YAG /Cr4+:YAG laser pulse with changing— in— time polarization", Advance
d Solid-State Lasers, 2002, Vol.68, pp88— 92.
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0004] し力しながら、従来のように、光共振器内に偏向素子を配置すると、光共振器長が 長くなる結果、ノルス幅が広がりピークパワーが低下したり、小型化が困難であるとい う問題点があった。
[0005] そこで、本発明は、小型化が可能であって、ピーク強度の低下を抑制しつつ偏光方 向が安定したパルス状のレーザ光を出力可能な受動 Qスィッチレーザ装置を提供す ることを目的とする。
課題を解決するための手段
[0006] 上記課題を解決するために、本発明に係る受動 Qスィッチレーザ装置は、光共振 器を構成する一対の反射手段間に配置されると共に、励起されて光を放出するレー ザ媒質と、上記一対の反射手段間であって光共振器の光軸上に配置されると共に、 レーザ媒質力 放出された放出光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収体 と、レーザ媒質を励起する波長の光を出力する励起光源部と、を備え、可飽和吸収 体は、互いに直交する第 1〜第 3の結晶軸を有する結晶体であり、レーザ媒質力 放 出される互いに直交する 2つの偏光方向の放出光に対してそれぞれ異なる透過率を 有するように光共振器内に配置されて 、ることを特徴とする。
[0007] この場合、励起光源部力 出力された光によってレーザ媒質が励起されると、レー ザ媒質は光を放出し、可飽和吸収体はレーザ媒質力 の放出光を吸収して励起され る。この可飽和吸収体は、放出光の吸収に伴い励起準位の電子密度が増加すること で透過率が増加していき、励起準位が満たされたときにほぼ透明化する。その結果、 放出光は、光共振器で共振してレーザ発振を生じるので、パルス状のレーザ光が出 力される。
[0008] そして、上記構成では、第 1〜第 3の結晶軸を有する結晶体としての可飽和吸収体 は、互いに直交する偏光方向の放出光に対して透過率がそれぞれ異なるように光共 振器内に配置されていることから、透過率のより大きい偏光方向の放出光に対してレ 一ザ発振が生じる。すなわち、可飽和吸収体によって偏光方向が制御される結果、
偏光方向の安定したレーザ光が生成される。この場合、偏光方向制御用の他の部品 (例えば、偏光素子)などを光共振器内に配置しなくてもよいので、光共振器長を短く することが可能である。その結果、光共振器長が長くなることよるパルスのピーク強度 の低下を抑制でき、かつ、小型化も可能である。
[0009] また、本発明に係る受動 Qスィッチレーザ装置においては、可飽和吸収体の第 1の 結晶軸と光共振器の光軸とのなす第 1の角度を Θとし、第 2の結晶軸と第 3の結晶軸 を含む平面への光軸の投射影と第 2の結晶軸とのなす第 2の角度を φとしたとき、第 1の角度 Θ及び第 2の角度 φ力 それぞれ下記式(1)及び式(2)を満たしていること が好ましい。
ただし、 m=0, 1, 2, 3であり、 ζは下記式を満たす。
[数 3]
0 < ξ < - ' ( 3 )
4
[0010] この場合、第 1の角度 Θ及び第 2の角度 φが式(1)及び式 (2)を満たすことで、互 いに直交する 2つの偏光方向の放出光に対して可飽和吸収体が有する透過率の差 がより大きくなる傾向にある。その結果、偏光方向の制御が更に確実になり、偏光方 向がより安定したレーザ光を出力することができる。
[0011] また、本発明に係る受動 Qスィッチレーザ装置においては、第 1の角度 0が π Ζ2 であって、第 2の角度 φが π Ζ4であることが好ましい。この場合、第 1の結晶軸のみ が光軸に略直交する平面内に含まれる。結晶軸に平行な偏光方向の放出光に対し て透過率は大きくなる傾向にあるので、この場合、第 1の結晶軸に略平行な偏光方 向のレーザ光を安定して生成することができる。
[0012] 更に、本発明に係る受動 Qスィッチレーザ装置の可飽和吸収体が、 Cr4+: YAG結 晶であって、第 1の結晶軸は < 001 >軸であり、第 2の結晶軸は < 100>軸であり、 第 3の結晶軸はく 010>軸であることが好ましい。
[0013] Cr4+ :YAG結晶は異方性を有しており、第 1〜第 3の結晶軸をそれぞれく 001 > 軸、く 100>軸、く 010>軸とすることで、互いに直交する偏光方向の放出光に対 して透過率の差を有する。その結果、偏光方向の安定したレーザ光を出力可能であ る。特に、 φが π Ζ4であって、 Θが π Ζ2であるときには、放出光の可飽和吸収体 への入射方向はく 110 >方位になる。この場合、互いに直交する偏光方向の放出 光に対する透過率の差が最大になる傾向にあり、受動 Qスィッチレーザ装置から出 力されるレーザ光の偏光方向を確実に安定化できる。
[0014] 更にまた、本発明に係る受動 Qスィッチレーザ装置の可飽和吸収体が、 V3+: YAG 結晶であって、第 1の結晶軸はく 001 >軸であり、第 2の結晶軸はく 100>軸であり 、第 3の結晶軸はく 010>軸であることが好ましい。
[0015] V3+ :YAG結晶は異方性を有しており、第 1〜第 3の結晶軸をそれぞれく 001 >軸 、く 100>軸、く 010>軸とすることで、互いに直交する偏光方向の放出光に対して 透過率の差を有する。その結果、偏光方向の安定したレーザ光を出力可能である。 特に、 φが π Ζ4であって、 0が π Ζ2であるときには、放出光の可飽和吸収体への 入射方向はく 110>方位になる。この場合、互いに直交する偏光方向の放出光に 対する透過率の差が最大になる傾向にあり、受動 Qスィッチレーザ装置から出力され るレーザ光の偏光方向を確実に安定化できる。
[0016] また、本発明に係る受動 Qスィッチレーザ装置の可飽和吸収体としては、 GaAsも 考えらえる。
発明の効果
[0017] 本発明の受動 Qスィッチレーザ装置によれば、小型化が可能であって、ピーク強度 の低下を抑制しつつ偏光方向が安定したパルス状のレーザ光を出力することができ る。
図面の簡単な説明
[0018] [図 1]図 1は本発明の受動 Qスィッチレーザ装置の一実施形態の構成を示す概略図
である。
[図 2]図 2は Cr4+ :YAG結晶の結晶軸と光軸との配置関係を示す概略図である。
[図 3]図 3は図 1に示したレーザ装置からのレーザ光の偏光特性を測定する測定シス テムの構成を示す概略図である。
[図 4]図 4は図 1に示したレーザ装置からのレーザ光の偏光特性を示す図であり、 (a) はレーザ光の S偏光成分の強度の測定結果であり、横軸は測定開始からの時間(分 )を示し、縦軸は S偏光成分の強度 (パルスエネルギー (niJ) )を示し、 (b)はレーザ光 の P偏光成分の強度の測定結果であり、横軸は測定開始力 の時間 (分)を示し、縦 軸は P偏光成分の強度 (パルスエネルギー (mj) )を示す。
[図 5]図 5は従来の受動 Qスィッチレーザ装置力 のレーザ光の偏光特性を示す図で あり、(a)は S偏光成分の強度の測定結果であり、横軸は測定開始力 の時間 (分)を 示し、縦軸は S偏光成分の強度 (パルスエネルギー (mj) )を示し、 (b)は P偏光成分 の強度の測定結果であり、横軸は測定開始からの時間(分)を示し、縦軸は P偏光成 分の強度 (パルスエネルギー(mj) )を示す。
[図 6]図 6は Cr4+ :YAG結晶の透過率の偏光方向依存性を測定する測定システムの 構成を示す概略図である。
[図 7]図 7は Cr4+ :YAG結晶へのレーザ光の入射方向と結晶軸との配置関係を示す 概略図である。
[図 8]図 8はく 100>軸に沿ってレーザ光を入射させた場合の透過率の偏光方向依 存性を示す図である。
[図 9]図 9は Cr4+ :YAG結晶へのレーザ光の入射方向と結晶軸との配置関係を示す 概略図である。
[図 10]図 10はく 110>方位に沿ってレーザ光を入射させた場合の透過率の偏光方 向依存性を示す図である。
[図 11]図 11は Cr4+ :YAG結晶へのレーザ光の入射方向と結晶軸との配置関係を示 す概略図である。
[図 12]図 12は Θが π Ζ2での透過率の φに対する偏光方向依存性を示す図である
[図 13]図 13は φが π Ζ4での透過率の Θに対する偏光方向依存性を示す図である
[図 14]図 14は本発明の受動 Qスィッチレーザ装置の他の実施形態の構成を示す概 略図である。
[図 15]図 15は本発明に係る受動 Qスィッチレーザ装置の更に他の実施形態の構成 を示す概略図である。
符号の説明
[0019] 10 レーザ装置(受動 Qスィッチレーザ装置)
11 Nd3+ :YAG結晶(レーザ媒質)
12A, 12B ミラー(一対の反射手段)
12 光共振器
13 励起光源部
14 Cr4+ :YAG結晶
21 放出光
22 励起光 (レーザ媒質を励起する波長の光)
23 レーザ装置から出力されるレーザ光
L 光軸
L1 光軸 Lの投射影
発明を実施するための最良の形態
[0020] 以下、図面を参照して本発明の受動 Qスィッチレーザ装置の好適な実施形態につ いて説明する。
[0021] 図 1に示すように、受動 Qスィッチレーザ装置(以下、単に「レーザ装置」と称す) 10 は、レーザ媒質としての Nd:YAG結晶 11を有している。 Nd3+ :YAG結晶 11は、波 長 808nm付近の光で励起され、上準位から下準位への遷移の際に波長約 1064η mの光を放出する。各波長は特定波長に対して ± 10nmの誤差を有していてもよい。 なお、以下の説明では、 Nd3+ :YAG結晶 11から放出される光を放出光 21と称する
[0022] この Nd3+ :YAG結晶 11は、光共振器 12内に配置されており、この光共振器 12は
互いに対向する一対のミラー (反射手段) 12A, 12B力もなつている。そして、ミラー 1 2Aは波長約 808nmの光を透過すると共に波長約 1064nmを高反射率で反射し、ミ ラー 12Bは波長約 1064nmの光の一部を透過すると共に残りを反射させる。なお、ミ ラー 12Aは、 Nd3+: YAG結晶 11の端面に形成された誘電体多層膜としてもよ!、。
[0023] この光共振器 12の外側には、 Nd3+ :YAG結晶 11を励起するための波長約 808η mの光 (励起光) 22を出力する励起光源部 13が設けられている。励起光源部 13は、 例えば、波長約 808nmの励起光 22を出力する半導体レーザ素子と、その励起光 2 2をミラー 12Aを介して Nd3+: YAG結晶 11に入射するためのレンズ系と力もなる。な お、励起光源部 13としては、半導体レーザ素子を有するものとしたが、必ずしも半導 体レーザ素子に限定されず、 Nd3+ :YAG結晶 11を励起可能な波長の光を出力でき れば良ぐまた、励起光源部 13からの励起光 22を Nd3+ :YAG結晶 11に入射できれ ばレンズ系はなくてもよい。
[0024] また、レーザ装置 10は、 Qスィッチを実現するために可飽和吸収体としての Cr4+: YAG結晶 14を更に有する。この Cr4+ :YAG結晶 14は、互いに直交するく 001 > 軸 (第 1の結晶軸)、 < 100>軸 (第 2の結晶軸)及び < 010>軸 (第 3の結晶軸)を有 する立方晶系の結晶体であり異方性を有する。
[0025] Cr4+ :YAG結晶 14は、 < 001 >軸が光共振器 12の光軸 Lに略直交すると共に、 く 110 >方位と光軸 Lとが略平行になるように、 Nd3+: YAG結晶 11とミラー 12Bとの 間の光軸 L上に配置されている。なお、「略」とは角度差が ± 10度以下のことを意味 するものとする。
[0026] すなわち、図 2に示すように、光軸 Lとく 001 >軸とのなす第 1の角度を 0とし、 < 1 00 >軸及び < 010 >軸を含む平面(< 100> < 010>平面)への光軸 Lの投射景 L 1とく 100 >軸とのなす第 2の角度を φとしたときに、 0が π Ζ2で φが π Ζ4となつ ている。光共振器 12内では、 Nd3+ :YAG結晶 11からの放出光 21は、光共振器 12 の光軸 Lに沿って主に伝播するため、光軸 Lの方向は、 Nd3+ :YAG結晶 11からの 放出光 21の Cr4+ :YAG結晶 14への入射方向(図中、矢印 Aの方向)に相当する。
[0027] この Cr4+ :YAG結晶 14は、 Nd3+: YAG結晶 11から出力された放出光 21が入射 されると、その放出光 21を吸収するが、その吸収に伴い透過率が増加し、励起準位
の電子密度が増大して励起準位が満たされたときに透明化する。これによつて、光共 振器 12の Q値が高まりレーザ発振が生じる。
[0028] 次に、このレーザ装置 10の動作について説明する。図 1に示すように、励起光源部 13から波長約 808nmの励起光 22が出力されると、励起光 22はミラー 12Aを通って Nd3+: YAG結晶 11に入射して Nd3+: YAG結晶 11を励起し反転分布を生じせしめ る。そして、励起された Nd3+ :YAG結晶 11での上準位から下準位への遷移によって 波長約 1064nmの放出光 21が放出されると、その放出光 21は Cr4+: YAG結晶 14 に入射して Cr4+ :YAG結晶 14によって吸収される。この吸収に伴い Cr4+: YAG結 晶 14の励起準位の電子密度が増大し飽和すると、 Cr4+ :YAG結晶 14が透明化す る結果、光共振器 12の Q値が高まりレーザ発振が生じる。そして、ミラー 12Bから波 長約 1064nmのレーザ光 23が出力される。
[0029] このレーザ装置 10では、 Cr4+ :YAG結晶 14を前述した配置関係で光共振器 12内 に配置し、放出光 21をく 110>方位に沿って入射させていることが重要である。す なわち、放出光 21を Cr4+ :YAG結晶 14のく 110>方位に沿って入射することで、 偏光方向が安定したレーザ光 23を出力できる。これにより、レーザ装置 10は、直線 偏光を利用したエアロゾルの形状計測や、非線形光学結晶励起による波長変換など に好適に利用可能となっている。
[0030] ここで、レーザ装置 10から出力されるレーザ光 23の偏光方向の安定性について、 図 3及び図 4を利用して説明する。
[0031] 図 3は、レーザ装置 10から出力されるレーザ光 23の偏光方向の安定性を調べるた めの測定システム 30の概略図である。測定システム 30は、レーザ装置 10と、偏光ビ 一ムスプリッタ 31と、パワーメータ 32, 33とを有する。偏光ビームスプリッタ 31は、レ 一ザ装置 10から出力されたレーザ光 23の光路上に配置され、レーザ光 23を P偏光 成分と、 S偏光成分とに分岐する。そして、パワーメータ 32は、偏光ビームスプリッタ 3 1で分岐された P偏光成分の光を受けてその強度を測定し、パワーメータ 33は、 S偏 光成分の光を受けてその強度を測定する。なお、測定では、ァライメントをずらして放 出光 21の偏光方向が変わりやすくするために光共振器 12内の温度を 25°C〜40°C まで変化させる。
[0032] 図 4は、測定システム 30で測定されたレーザ光 23の偏光特性を示す図である。図 4 (a)は、レーザ光 23の S偏光成分の強度の測定結果であり、横軸は、測定開始から の時間(分)を示し、縦軸は S偏光成分の強度 (パルスエネルギー (mj)を示して 、る 。図 4 (b)はレーザ光 23の P偏光成分の強度の測定結果であり、横軸は測定開始か らの時間(分)を示し、縦軸は P偏光成分の強度 (パルスエネルギー (mj) )の測定結 果である。
[0033] 図 4 (a) , (b)に示すように、光共振器 12の温度変化によって放出光 21の偏光方向 が変わりやすくなつているにも拘わらず、レーザ装置 10からは、 S偏光のレーザ光 23 のみ出力されており、安定した偏光特性を実現できている。このときの P偏光成分の パルスエネルギーは、 S偏光成分のパルスエネルギーの 100分の 5以下、好適には 1 000分の 1以下である。
[0034] ここで、比較のために、従来の受動 Qスィッチレーザ装置で採用されているように、 Cr4+ :YAG結晶 14のく 100>軸に沿って放出光 21を入射した場合に出力されるレ 一ザ光の偏光特性について説明する。この場合、偏光特性を得るための測定システ ム 30は、図 3と同様である。ただし、 Cr4+ :YAG結晶 14を、そのく 100>軸と光軸 L とが平行になるように光共振器 12内に配置し、 Nd3+: YAG結晶 11からの放出光 21 の Cr4+: YAG結晶 14への入射方向がく 100 >軸と平行になるようにした。
[0035] 図 5は、この場合のレーザ光の偏光特性を示す図である。図 5 (a)は S偏光成分の 強度の測定結果であり、図 5 (b)は P偏光成分の強度の測定結果である。なお、図 5 ( a) , (b)の横軸及び縦軸は、それぞれ図 4 (a) , (b)と同様である。図 5 (a)、(b)に示 すように、この場合には、 S偏光及び P偏光のレーザ光が交互に出力されておりレー ザ光の偏光状態が安定して 、な 、。
[0036] したがって、図 4と図 5とを比較すれば明らかなように、レーザ装置 10では、 Cr4+ :Y AG結晶 14のく 110 >方位を光軸 Lと平行とし、く 110>方位に放出光 21を入射さ せることによって、前述したように偏光方向が極めて安定したレーザ光 23を生成でき ている。
[0037] 次に、く 110>方位に放出光 21を入射することでレーザ光 23の偏光方向を安定 化できる理由について説明する。レーザ光 23の偏光方向を安定ィ匕させるために、本
発明者らは、 Cr4+: YAG結晶 14の透過率の偏光方向依存性に着目した。
[0038] 図 6は、 Cr4+ :YAG結晶 14の透過率の偏光方向依存性の測定システム 40の構成 を示す概略図である。
[0039] この測定システム 40では、偏光方向の安定した連続発振の YAGレーザ光源 41を 利用している。そして、 YAGレーザ光源 41から出力されるレーザ光 24を、 1Z2波長 板 42を通して Cr4+: YAG結晶 14に入射し、 Cr4+: YAG結晶 14を透過したレーザ 光 24の強度をパワーメータ 43で測定する。 Cr4+: YAG結晶 14への入射光の偏光 方向は 1Z2波長板 42にて回転させる。そして、予め Cr4+ :YAG結晶 14のない状態 で入射光強度を測定しておき、 Cr4+: YAG結晶 14を透過したレーザ光 24をその光 強度で割って透過率を求める。なお、 Cr4+ :YAG結晶 14のく 001 >軸は、測定シス テム 40の各構成要素を配置する定盤 (不図示)に対して略垂直になるように配置して いる。
[0040] 先ず、従来のレーザ装置に対応させるように、 Cr4+ :YAG結晶 14のく 100>軸に 沿ってレーザ光 24を入射させた場合について説明する。図 7は、 Cr4+ :YAG結晶へ の YAGレーザ光源 41からのレーザ光 24の入射方向(図中、矢印 B)及びレーザ光 2 4の偏光方向(図中、矢印 C)と、結晶軸との関係を示す概略図である。図 7において 、入射光であるレーザ光 24の偏光成分を含む面(以下、偏光面という) 50を円で示し ており、偏光面 50は入射方向 Bに直交している。また、く 001 >軸と偏光方向じとの なす第 3の角度を |8としている。この測定において、 1Z2波長板 42 (図 6参照)を回 転させることは、偏光面 50内で偏光方向 Cを回転させる( βを 0〜2 πまで変化させる )ことに相当する。
[0041] 図 8は、 Cr4+ :YAG結晶 14のく 100>軸に沿ってレーザ光 24を入射させた場合 の透過率の測定結果である。横軸は第 3の角度 |8 (ラジアン)を示しており、縦軸は透 過率(%)を示している。なお、 j8 =0、 π Ζ2は、偏光方向 Cがそれぞれく 001 >軸 、く 010>軸に平行な場合に相当する。図 8に示すように、 |8が π Ζ2ずれる毎に、 すなわち、偏光方向 Cがく 001 >軸及びく 010>軸にほぼ平行になるときにほぼ同 じ透過率のピークが生じて 、る。
[0042] したがって、従来のレーザ装置で採用されているように、 Cr4+ :YAG結晶 14をく 1
00 >軸と光共振器 12の光軸 Lとを平行に配置してく 100 >軸に沿って放出光 21を 入射させた場合、放出光 21の偏光方向がく 001 >軸およびく 010 >軸に平行であ るときにレーザ発振が生じやすい。そして、両軸にそれぞれ平行な偏光方向の放出 光 21に対する透過率がほぼ等 、ことから、どちらの偏光方向 Cの放出光 21に対し ても同じようにレーザ発振が生じる。その結果、ァライメントのずれなどによって生じる 放出光 21の偏光方向 Cの変動に応じて、出力されるレーザ光の偏光方向も変動し、 図 5に示した結果となる。
[0043] これに対して、レーザ装置 10で採用しているように、 Cr4+ : YAG結晶 14のく 110
>方位にレーザ光 24を入射させる場合について説明する。図 9は、 Cr4+ : YAG結晶 14への YAGレーザ光源 41からのレーザ光 24の入射方向 B及び偏光方向 Cと、結 晶軸との関係を示す概略図である。なお、第 3の角度 j8は、図 7の場合と同様に偏光 方向 Cとく 001 >軸との間の角度である。図 10は、この場合の透過率の測定結果で ある。
[0044] 図 10に示すように、第 3の角度 |8が π Ζ2ずれる毎に透過率のピークがある力 図 9に示すように、偏光面 50には 1つの結晶軸(すなわち、 < 001 >軸)しかないため、 偏光方向 Cが < 001 >軸に平行な場合( = 0の場合)の透過率と、偏光方向じが < 001 >軸に平行なときから π Ζ2回転した場合 ( β = π Ζ2の場合)の透過率とに Δ Τだけ差が生じている。そのため、この差 Δ Τが生じるように Cr4+ : YAG結晶 14を レーザ装置 10に組み込むことで、より大きな透過率を有する偏光方向 Cの光に対し てレーザ発振を生じせしめるようにレーザ発振を制御することが可能である。
[0045] そして、前述したように、レーザ装置 10では、 Cr4+ : YAG結晶 14のく 110 >方位 に放出光 21 (図 1参照)を入射させているので、互いに直交する偏光方向の放出光 2 1に対する Cr4+ : YAG結晶 14の透過率に図 10に示す差 Δ Τが生じる。なお、ここで は、 Δ Τは約 10%である。この差 Δ Τが生じることによって、レーザ装置 10では、放 出光 21の偏光方向 Cが変動した場合でもより透過率の高い偏光方向 Cの場合に対 してのみレーザ発振が起こる。そのため、図 4に示したような偏光方向の安定したレ 一ザ光 23を得ることができて!/、る。
[0046] このように、レーザ装置 10において、 Cr4+: YAG結晶 14は、 Qスィッチ素子として
の機能を有すると共に、偏光方向を制御する素子としての機能も有する。そのため、 例えば、偏光方向を制御するために偏光素子などを光共振器 12内に更に配置する 必要がないので、光共振器 12のミラー 12A, 12B間の距離を短くすることが可能で ある。これにより、パルス幅が短くなる結果、偏光方向の安定ィ匕を図りつつピーク強度 の大き 、パルス光を生成できる。
[0047] そして、 Cr4+: YAG結晶 14で偏光方向を制御できることから、偏光方向を制御した まま、 Nd3+: YAG結晶 11と Cr4+: YAG結晶 14とをコンポジットィ匕することも可能であ る。その結果、偏光方向の安定したレーザ光を出力できる高性能なマイクロチップレ 一ザとすることも可能である。また、前述したように、偏光方向の制御のために、偏光 素子などを別に配置する必要がないことからコストの低減も図ることもできる。
[0048] ところで、図 1に示したレーザ装置 10では、 Cr4+ : YAG結晶 14のく 110 >方位に 放出光 21を入射しているが、この場合に限定されない。前述したように、偏光方向及 びレーザ発振は差 Δ Τによって制御できるので、互いに直交する 2つの偏光方向の 放出光 21に対して透過率の差 Δ Tが生じるように、 Cr4+: YAG結晶 14が光共振器 1 2に対して配置されていればよい。この場合の Cr4+ : YAG結晶 14の光共振器 12に 対する配置としては、図 2に示した第 1の角度 Θ及び第 2の角度 φが以下の式 (4)及 び式(5)を満たして 、ることが好まし 、。
[数 4]
[m― ξ) < θ < -(ηι + ξ) ( 4 )
ただし、 m=0, 1, 2, 3であり、 ζは下記式を満たす。
[数 6]
1
0 < £ < ( 6 )
4
[0049] 二の式 (4)及び式(5)を満たすことが好ましいのは、以下の理由による。ここでも、 C
r4+ :YAG結晶 14の透過率の偏光方向依存性に基づいて説明する。透過率の偏光 方向依存性を測定するための測定システムは、図 6に示した測定システム 40と同様 である。図 11は、 Cr4+ :YAG結晶 14への入射光としてのレーザ光 24 (図 6参照)の 入射方向 B及び偏光方向 Cと、結晶軸との関係を示す概略図である。なお、図 11に おいて、第 3の角度 |8は、入射方向 B及び < 001 >軸を含む平面と、偏光方向じとの なす角度である。
[0050] 先ず、 θ = π /2、すなわち、 Cr4+ :YAG結晶 14へのレーザ光 24の入射方向 Βが く 100 >く 010 >面内にある場合を考える。ここで、レーザ光 24の偏光方向 Cが j8 =0および |8 = π Ζ2のときの透過率は、第 2の角度 φに対して図 12 (a)のように変 化する。図 12 (a)において、横軸は第 2の角度 φ (ラジアン)を示し、縦軸は透過率( %)を示している。また、直線 Iは β =0の場合を示し、曲線 IIは β = π /2の場合を 示している。この時の両者の透過率の差 Δ Τは図 12 (b)のようになる。図 12 (b)にお いて、横軸は第 2の角度 φ (ラジアン)を示し、縦軸は差 Δ Τ (%)を示している。
[0051] 図 12 (b)より、差 Δ Τが最も大きくなるのは、以下の場合である。
[0052] ただし、 m=0、 1、 2、 3であり、以下同様とする。
[0053] ここで、ァライメントによるずれをカバーする範囲を差 Δ Τの最大値 Δ Τ の半分の
MAX
値になるところとすると、偏光方向の制御に利用できる透過率の差 Δ Tを得るための 第 2の角度 φの範囲は、以下の通りである。
[0054] 次に、 φ = π Ζ4に固定、すなわち入射方向 B力 <001 >軸及び < 110 >方位 を含む面、すなわち、く 001 X 110 >面内にある場合を考える。この場合、レーザ 光 24の偏光方向じが β =0および β = π Ζ2のときの透過率は、第 1の角度 Θに対 して図 13 (a)のように変化する。図 13 (a)の横軸は、第 1の角度 0 (ラジアン)を示し、
縦軸は透過率(%)を示している。また、図 12 (a)の場合と同様に、直線 Iは、 B =0の 場合を示し、曲線 IIは、 β = π /2の場合を示している。この両者の透過率の差 Δ Τ は図 132(b)のようになる。図 13 (b)において、横軸は第 1の角度 0 (ラジアン)を示し 、縦軸は差 ΔΤ(%)を示している。
[0055] 図 13 (b)より、差 Δ Τが最も大きくなるのは、以下の式のときである。
[数 9]
Θ = - · - - ( 9 )
2
[0056] この場合も、ァライメントによるずれをカバーする範囲を、差 Δ Τの最大値 ΔΤ の
MAX
半分の値になるところとすると、偏光方向の制御に利用できる透過率の差 Δ Tを得る ための第 1の角度 Θの範囲は、以下の通りである。
[数 10]
1 1
m m Λ "― ( 1 0 )
4 4
[0057] 上記式(8)は 0を π Ζ2に固定したときの式であり、式(10)は φを π Ζ4に固定し たときの式である力 図 12及び図 13に示すように、差 ΔΤの最大値(ΔΤ )のとき
MAX
の角度とその半分の値((1Z2) ΔΤ )のときの角度との差は π Ζ8である。そこで
MAX
、式 (8)及び式(10)において、この第 1の角度 Θと第 2の角度 φとが互いに π Ζ8ま で変動することを許容できるとすると、偏光方向を制御可能な差 ΔΤの範囲は、式 (4 )及び式 (5)を共に満たすときである。
[0058] したがって、式 (4)及び式 (5)を満たす範囲で、 Cr4+ :YAG結晶 14を光共振器 12 に対して配置することで、放出光 21の偏光方向 Cが変動しても、差 ΔΤによって偏光 方向を制御できる。その結果、レーザ光 23 (図 1参照)の偏光方向が安定する。なお 、 Cr4+ :YAG結晶 14を、そのく 110 >方位が光共振器 12の光軸 Lに沿うように配置 することは、式 (4)及び式(5)において、 0が π Ζ2であり、 φが π Ζ4のときに相当 する。この場合、図 12及び図 13の結果力も差 ΔΤが最大になるため、レーザ光 23の 偏光方向を確実に制御できる。
[0059] 以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に
限定されない。例えば、可飽和吸収体として Cr4+ :YAG結晶 14を利用しているが、 同様の結晶構造を有する V3+ :YAG結晶を利用することも可能である。更に、可飽和 吸収体として、 GaAsを利用することも可能である。これらの場合も、可飽和吸収体へ の入射光の互 、に直交する偏光方向に対して透過率に差 Δ Tが生じるように可飽和 吸収体を配置することで、出力されるレーザ光の偏光方向を制御できると共に安定 化することが可能である。この場合も、式 (4)及び式(5)を満たして可飽和吸収体を 光共振器 12内に配置することが好ましぐ可飽和吸収体のく 110 >方位に入射させ ることが更に好ましい。
[0060] 更に、レーザ装置 10では、可飽和吸収体としての Cr4+ :YAG結晶 14とミラー 12B とは離して配置しているが、図 14に示すレーザ装置 60のように、 Cr4+ :YAG結晶 14 の端面上にミラー 12Bを配置してもよい。これにより、光共振器 12の光軸 L方向の長 さを更に短くでき、小型化が図れる。そして、ミラー 12Bを Cr4+YAG結晶 14の端面 に形成した誘電体多層膜とすることで更に小型化が図れる。
[0061] また、図 15に示したレーザ装置 61のように、偏光方向を制御したままレーザ媒質と しての Nd: YAG結晶 11と Cr4+: YAG結晶 14とをコンポジット化し、 Nd3+: YAG結 晶 11及び Cr4+: YAG結晶 14の端面にそれぞれ誘電体多層膜としてのミラー 12A, 12Bを形成してもよい。この場合、レーザ装置 61は、偏光方向の安定したレーザ光を 出力できる高性能なマイクロチップレーザである。
[0062] 更に、レーザ媒質は、 Nd3+: YAGに限定されず、可飽和吸収体に吸収される波長 の光を放出できるものであれば良 、。
産業上の利用可能性
[0063] 本発明は、受動 Qスィッチレーザ装置に利用することができる。