SARS-コロナウィルスタンパク質をコードする DNAを保有する組換えワクチ ニァウィルス DIs株、およびその利用
技術分野
[0001] 本発明は、 SARS-コロナウィルス構造タンパク質の全部もしくは一部のタンパク質を コードする DNAをゲノム DNA上に保有し、該タンパク質を発現し得る組換えヮクチ- ァウィルス DIs株に関する。
背景技術
[0002] 2002年 11月に、中国で発熱と呼吸器症状を主訴とする原因不明の重症急性呼吸 器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome, SARS)が出現し、近年の飛行機を 利用した旅行を介して世界各国に広まった。この世界的な SARSアウトブレイクに対し 、 WHOを中心とする全世界的な協力体制が敷かれ、原因ウィルスが新種のコロナゥ ィルス(SARS- coronavirus, SARS- CoV)であることが明らかにされた(非特許文献 1お よび 2参照)。さら〖こ、 SARS-CoVの完全な遺伝子配列が決定された結果、 SARS-Co Vは既知のコロナウィルスとは全く異なるグループに分類され (非特許文献 3および 4 参照)、おそらく動物のコロナウィルス力もヒトに感染して病原性を獲得したと推測され ている (非特許文献 5参照)。
[0003] WHOの報告によると、これまでに 8098人の感染者と 774人の死者が確認されている 。現在流行は収束している力 SARS-CoVの自然宿主は未だ明らかではなぐ今後 再流行する可能性は高い。ウィルス感染後の潜伏期間は平均 4〜6日、ウィルスは感 染者の咳や唾液、尿糞便中に特に病極期に大量に排泄され、このような重篤な感染 者に濃厚に接触する病院関係者に飛沫を介して高率に感染伝搬すると考えられて いる。 SARS感染患者に対しては、一般の肺炎と同じ抗生物質投与ゃ抗ウィルス剤の 投与が行われているが、現在までに有効な治療法はまだ確立されておらず、感染予 防や感染後の発症抑制、ウィルス排除のための特異的なワクチン開発が強く望まれ ている。
[0004] 特千文献 1 : Ksiazek, G.T.ら着、「A novel coronavirus associated with severe acut
e respiratory syndrome.」、 N. Eng. J. Med., 2003年、 Vol.348, p.1953 特許文献 2 : Drosten, C.ら著、「Identification of a novel coronavirus in patients wit h severe acute respiratory syndrome.」、 N. Eng. J. Med.、 2003年、 Vol.348、 p.1967 非特許文献 3 : Rota, A.P.ら著、「Characterization of a novel coronavirus associated with severe acute respiratory syndrome -」、 ¾cience、 2003牛、 Vol.300、 p.1394 非特許文献 4 : Marra, A.M.り着、「The genome sequence of the SARS- associated cor onavirus.」、 Scienceゝ 2003年、 Vol.300, p.1399
非特許文献 5 : Holme, V.K.および Enjuanes, L.著、「The SARS Coronavirus: A post genetic era. J , Scienceゝ 2003年、 Vol.300, p.1377
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] 本発明は上記状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、 SARSに対して感染 予防もしくはウィルス排除のための効果的なワクチンの提供を課題とする。より具体的 には、 SARS-CoVタンパク質の全部もしくは一部のタンパク質をコードする DNAをゲノ ム DNA上に保有し、該タンパク質を発現し得る組換えワクチ-ァウィルス DIs株の提 供を課題とする。
課題を解決するための手段
[0006] 本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。まず、本発明者らは、 DIs 株の遺伝子構造の解析を行い、 DIs株のゲノム DNAの左端に 1箇所の大きな欠損が あることを見出した。そして、該欠損部位を挟む領域の中央に挿入されるトランスファ 一ベクターを構築し、相同組換えによって目的とする外来遺伝子と大腸菌由来の薬 剤耐性遺伝子 XGPRTが挿入されるようなウィルスベクターを設計した。
[0007] このようにして設計された DIs株のウィルスベクターとしての有用性を確認するため、 外来遺伝子として T7 polymeraseを組み込んだウィルスを細胞に感染させ、 T7 promo terの下流にルシフェラーゼ遺伝子をつないだプラスミドをトランスフエタトしたところ、 強いルシフェラーゼ活性が観察された。またいずれの細胞でも CPE (cytopathic effec ts)は観察されず、さらに感染細胞で増殖せず、細胞傷害性も殆ど見られないことか ら、ウィルスベクターとして極めて有用であることが示唆された。
[0008] また DIs株に外来遺伝子として SARSコロナウィルス (SARS-CoV)タンパク質の全部も しくは一部のタンパク質をコードする DNAを挿入したところ、 CTLが誘導されることが 分かった。この糸且換えウィルスを投与することによって、 SARS-CoVがコードする蛋白 に対する強い CTL応答を誘導することができると考えられる。
[0009] また DIs株に外来遺伝子として SARS-CoVタンパク質の全部もしくは一部のタンパク 質をコードする DNAを挿入し、この組換え DIsをマウスに感染させたところ、マウス血 中に SARS-CoVの細胞への結合を阻止する抗体が誘導されることが分かった。従つ て本発明の組換えウィルスは、 SARSに対する効果的な生ワクチンとなる可能性が考 えられる。
[0010] また本発明者らは、上記組換え DIs株をマウスへ投与することにより、呼吸器官にお ける粘膜免疫を誘導し得る効果を見出した。 SARSの感染ルートを勘案すると、呼吸 器表面における免疫誘導が可能なワクチンは、感染防御に対して非常に有用であり
、実効性の高いものと期待される。
[0011] さらに本発明者らは、両末端の一部の配列を除く DIsの全塩基配列を決定すること に成功した。これにより、より効率的な糸且換え DIsの作製が可能となった。
また本発明者らは、マウスへ本発明の組換え DIs株を皮下または経鼻投与すること により、該マウス力 ARS-CoVの感染力も完全に防御されることを実証した。
[0012] 即ち本発明は、 SARS-CoVタンパク質の全部もしくは一部のタンパク質をコードする
DNAをゲノム DNA上に保有し、該タンパク質を発現し得る組換えワクチ-ァウィルス D
Is株に関し、より詳しくは、
〔1〕 SARS-コロナウィルスタンパク質の全部もしくは一部のタンパク質をコードする D NAをゲノム DNA上に保有し、該タンパク質を発現し得る組換えワクチ-ァウィルス DIs 株、
〔2〕 前記 SARS-コロナウィルスタンパク質が構造タンパク質である、〔1〕に記載の組 換えワクチ-ァウィルス DIs株、
〔3〕 前記構造タンパク質が、 E、 M、 N、および Sタンパク質力もなる群より選択され る 1もしくは複数のタンパク質である、〔2〕に記載の組換えワクチ-ァウィルス DIs株、 〔4〕 発現可能な状態で前記タンパク質をコードする DNAがゲノム DNAの非必須領
域上に配置された構造のゲノムを有する、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の組換えワク チ-ァウィルス DIs株、
[5] 非必須領域が対 DI株欠損領域もしくは該領域の近傍領域である、〔4〕に記載 の組換えワクチ-ァウィルス DIs株、
〔6〕 〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の組換えワクチ-ァウィルス DIs株のゲノム DNA、 〔7〕 〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の組換えワクチ-ァウィルス DIs株を有効成分とし て含む、 SARS-コロナウィルスワクチン、
〔8〕 〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の組換えワクチ-ァウィルス DIs株を有効成分とし て含む、ウィルス特異的細胞傷害性 T細胞応答誘導剤、
〔9〕 〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の組換えワクチ-ァウィルス DIs株を有効成分とし て含む、 SARS-コロナウィルス中和抗体誘導剤、
〔10〕 〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の組換えワクチ-ァウィルス DIs株を有効成分と して含む、呼吸器表面における SARS-コロナウィルスに対する粘膜免疫誘導剤、 を提供するものである。
さらに本発明は、以下の〔11〕〜〔20〕を提供するものである。
〔11〕 前記組換えワクチ-ァウィルス DIs株の、 SARS-コロナウィルスワクチンの製造 における使用、
〔12〕 前記組換えワクチ-ァウィルス DIs株の、ウィルス特異的細胞傷害性 T細胞応 答誘導剤の製造における使用、
〔13〕 前記組換えワクチ-ァウィルス DIs株の、 SARS-コロナウィルス中和抗体誘導 剤の製造における使用、
〔14〕 前記組換えワクチ-ァウィルス DIs株の、呼吸器表面における SARS-コロナゥ ィルスに対する粘膜免疫誘導剤の製造における使用、
[15] 前記組換えワクチ-ァウィルス DIs株を個体 (対象者、被検者、患者等)へ投 与する工程を含む、ウィルス特異的細胞傷害性 T細胞応答を誘導する方法、 〔16〕 前記組換えワクチ-ァウィルス DIs株を個体 (対象者、被検者、患者等)へ投 与する工程を含む、 SARS-コロナウィルス中和抗体を誘導する方法、
〔17〕 前記組換えワクチ-ァウィルス DIs株を個体 (対象者、被検者、患者等)へ投
与する工程を含む、呼吸器表面における SARS-コロナウィルスに対する粘膜免疫を 誘導する方法、
〔18〕 前記組換えワクチ-ァウィルス DIs株を個体 (対象者、被検者、患者等)へ投 与する工程を含む、 SARSウィルスの感染を防御、または SARSウィルスを排除する方 法、
〔19〕前記組換えワクチニァウィルス DIs株を個体 (対象者、被検者、患者等)へ投与 する工程を含む、 SARS (重症急性呼吸器症候群)を予防もしくは治療する方法、 〔20〕 前記組換えワクチ-ァウィルス DIs株、および薬学的に許容された担体を含ん でなる組成物。
図面の簡単な説明
[図 1]図 1は、ヮクチ-ァウィルス DIs株のゲノムの解析と同定された欠損部位を模式 的に示す図である。ゲノムの左端に近い部位 15.4kbpが欠損していた。欠損部分を挟 む 1.9kbpのフラグメントを増幅し、トランスファーベクターの相同組換え領域として使 用した。
[図 2]図 2は、 DIsトランスファーベクター pDIsmH5の構造を示す図である。 mH5プロモ 一ターの下流のマルチクローユングサイト (MCS)に目的の外来遺伝子を挿入する。
[図 3]図 3は、相同組換えによる組換え DIs作成の一例を模式的に示す図である。 DIs を CEFに感染させた後トランスファーベクターを感染細胞内にトランスフエクシヨンする と、低 、確率ではあるがウィルス複製の過程でウィルスの DNAポリメラーゼがベクター 側に組み込まれた DIsの領域を複製するため、目的遺伝子が組み込まれた DIsが生 成する。この際に薬剤耐性遺伝子 XGPRTも同時に組み込まれるため、 MPA存在下 でプラークアツセィを行うと目的とする DIsのみが増幅する。
[図 4]図 4は、構築したトランスファーベクターの構造を示す図である。図中の mH5は、 ヮクチ-ァ H5Rタンパク質の改変プロモーター(modified promoter of vaccinia H5R pr otein)を示す。
[図 5]図 5は、構築したトランスファーベクターの構造を示す図である。
[図 6]図 6は、 CEF細胞における SARS-CoV Nタンパク質の発現確認について示す 写真である。左側は、蛍光抗体法による確認結果を示す写真である。右側は、ウェス
タンプロット法による確認結果を示す写真である。図中、ポジティブコントロール (P.C. )は、 SARS-CoV感染細胞上清、ネガティブコントロール (N.C.)は非感染細胞上清を 示す。
[図 7]図 7は、 CEF細胞における SARS-CoV Sタンパク質の発現確認について示す写 真である。左側は、蛍光抗体法による確認結果を示す写真である。右側は、ウェスタ ンブロット法による確認結果を示す写真である。図中、ポジティブコントロール (P.C.) は SARS-CoV感染細胞上清、ネガティブコントロール (N.C.)は非感染細胞上清を示 す。
[図 8]図 8は、 CEF細胞における SARS-CoV Mタンパク質の発現を、蛍光抗体法によ り確認した結果を示す写真である。
[図 9]図 9は、組換え DIsを投与したマウスの鼻腔洗浄液力も検出された IgA抗体に関 するグラフである。横軸の数字は以下のことを示す。 l : Sd: Sを発現する DIs 106 pfoを 皮下に 3回投与、 2 : Sn: Sを発現する DIs 106 pfoを経鼻で 3回投与、 3 :Nd: Nを発現す る DIs 106 pluを皮下に 3回投与、 4:Nn: Nを発現する DIs 106 pfoを経鼻で 3回投与、 5 :正常マウス、 6:陽性対照(positive control)。
[図 10]図 10は、 ELISPOT assayの結果を示すグラフおよび図である。左側が Sタンパ ク質 (1255アミノ酸)を発現する組換え DIsを皮下投与および経鼻投与した結果を示 すグラフおよび Sタンパク質の構造を示す図であり、右側が Nタンパク質 (422アミノ酸) を発現する組換え DIsを皮下投与および経鼻投与した結果を示すグラフおよび Nタン パク質の構造を示す図である。
[図 11]図 11は、組換え DIsを皮下または経鼻で投与したマウスにおける感染防御効 果の結果を示すグラフである。縦軸は SARS-CoVのウィルス価の対数を示す。
発明を実施するための最良の形態
[0014] 本発明は、 SARS-コロナウィルス(本明細書においては、「SARS-CoV」または単に「
SARSウィルス」と記載する場合あり)タンパク質の全部もしくは一部のタンパク質をコ ードする DNAをゲノム DNA上に保有し、該タンパク質を発現し得る組換えワクチ-ァ ウィルス DIs株を提供する。
[0015] 本発明の組換えウィルス株は、その特徴として、ヮクチ-ァウィルス DIs株ゲノム上
へ SARS-CoVタンパク質をコードする DNAが挿入された (組み込まれた)ゲノム構造を 有するヮクチ-ァウィルス DIs株である。
[0016] 本発明にお 、て用いられる、 SARS-CoVタンパク質とは、 SARS-CoVゲノム上に存 在する遺伝子によってコードされるタンパク質 (本明細書にぉ 、て「SARS-CoVタンパ ク質」と記載する場合あり)、もしくは該タンパク質の部分ペプチドを指す。本発明の DI s株に保有される SARS-CoVタンパク質の数は特に制限されず、少なくとも 1以上のタ ンパク質もしくは該タンパク質の部分ペプチドを保有していればよい。また、本発明の 上記タンパク質には、例えば、構造タンパク質、調節タンパク質、およびアクセサリー タンパク質等が含まれる。
[0017] 本発明において、 DIs株ゲノム DNA上に保有される SARS-CoVタンパク質をコードす る DNAとしては、 CTL活性を有する SARS-CoV由来のタンパク質をコードする DNAで あることが好ましい。上記 DNAとしては、例えば、キヤプシドタンパク質 Nを発現する領 域、構造タンパク質全体(キヤプシドタンパク質 Nおよび 3つのエンベロープタンパク 質 E、 M、 S)を発現する領域、プロテアーゼゃポリメラーゼタンパク質 (非構造タンパク 質)を発現する領域に含まれる DNAを挙げることができる。上記 Eタンパク質のァミノ 酸配列を配列番号: 1に、該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号: 2に、 Mタンパク質のアミノ酸配列を配列番号: 3に、該タンパク質をコードする遺伝子 の塩基配列を配列番号: 4に、 Sタンパク質のアミノ酸配列を配列番号: 5に、該タンパ ク質をコードする塩基配列を配列番号: 6に、 Nタンパク質のアミノ酸配列を配列番号 : 7に、該アミノ酸配列によってコードされる塩基配列を配列番号: 8にそれぞれ示す。
[0018] 本発明の好ましい態様においては、これらの DNAもしくは該 DNAの断片をゲノム DN A上に保有し、該タンパク質を発現し得る組換えワクチ-ァウィルス DIs株である。即 ち、本発明の DIs株において保有される SARS-CoVタンパク質としては、好ましくは構 造タンパク質を例示することができる。より具体的には、本発明における SARS-CoVタ ンパク質として、好ましくは E、 M、 N、もしくは Sタンパク質、または、 E、 M、 N、および S タンパク質力もなる群より選択される 1もしくは複数のタンパク質である。本発明におけ る SARS-CoVタンパク質としては、例えば、 3種の膜タンパク質 (EMS)が好ましぐさら に 4種のタンパク質 (EMNS)であればより好ましい。
[0019] 本発明の構造タンパク質、および非構造タンパク質に分類される各タンパク質のァ ミノ酸配列および該アミノ酸配列をコードする塩基配列に関する情報は、当業者にお いては、それぞれのタンパク質の名称を基に、公知の文献あるいは公共のデータべ ースから容易に取得することができる。これら情報を基に上記タンパク質もしくは該タ ンパク質の部分ペプチドをコードする DNAについて、適宜クローユングし、本発明の DIs株の作製に用いることは可能である。
[0020] DIsウィルス株ゲノム DNAにおける、 SARS- CoVタンパク質をコードする DNAを挿入 する領域としては、特に制限されないが、例えば、 DIs株と親株のヮクチ-ァウィルス 株とのゲノムを比較した際に、 DIs株において欠損しているゲノム領域を好適に挙げ ることができる (該領域を「対 DI株欠損領域」と記載する場合あり)。本発明における「 対 DI株欠損領域」は、例えば、 DIs株のゲノム DNAの制限酵素切断パターンを親株の DI株と比較することにより、ゲノム上のどの領域が上記領域であるかを調べることがで きる。該領域は通常、 DIs株の複製には不必要である。なお、 DIsウィルス株ゲノム DN Aとしては、より具体的には、配列番号: 9に記載された塩基配列を好適に示すことが できる。ヮクチ-ァウィルスのコペンハーゲン株のゲノム DNA (GenBankァクセッション 番号: M35027)における該「欠損領域」は判明している。該「欠損領域」は、具体的に は、コペンハーゲン株のゲノム DNAにおいて、 5,側から数えて 17145-32562位に相当 する領域 (配列番号: 14)である。当業者においては、本明細書において開示された 情報を基に、上記「欠損領域」が親株 (大連株)のゲノム DNA上のどの領域に相当す るかについて、適宜知ることが可能である。
[0021] 本発明の好まし 、態様にぉ 、ては、 SARS-CoV DNAが、上記の対 DI株欠損領域も しくは該領域の近傍領域上に保存された (挿入された)組換えワクチ-ァウィルス DIs 株を提供する。
[0022] 本発明における「欠損」領域の一例としては、例えば、図 1において黒線で示された 15.4 kbpの領域を挙げることができる。この「欠損」領域には、ウィルス増殖に必須と 考えられている遺伝子は存在せず、宿主域遺伝子 (host range genes)と呼ばれるもの のうち 2つ (K1Lと C7L)が存在している。例えば、 K1Lを欠損させると、この欠損ウィル スは例えば RK13等の細胞における増殖能を失う。
[0023] また、上記「欠損」領域は、図 1で示される 15.4kbpの領域に、厳格に制限されるもの ではない。例えば、この「欠損」領域を含むさらに広い領域の「欠損」、あるいは、上記 15.4kbp未満の「欠損」であっても、本発明の上記「欠損」に含まれる。なお、この 15.4 kbpに及ぶ欠損領域は、通常のヮクチ-ァウィルスには存在する力 配列番号: 9に 記載された DIs株のゲノム DNAには存在しない領域である。
[0024] 本発明において上記「欠損」領域への DNAの「挿入」とは、上記「欠損」領域に対応 する DNA力 本発明の SARS-CoV DNAによって置換された状態であってもよぐまた 、「欠損」領域に対応する DNA上へ SARS-CoV DNAが挿入 (付加)された状態であつ てもよい。
[0025] 本発明における「組換えワクチ-ァウィルス」とは、通常、組換え弱毒化ヮクチ-ァゥ ィルスを指す。組換え弱毒化ウィルスとは、例えば、遺伝子の改変がなされる(特定 の遺伝子を欠失する)ことによって、もしくは、長期に継代することによって、野生型よ り毒性が弱められたウィルスを指す。本発明においては、ヮクチ-ァウィルス大連株( DI株)を高度に弱毒化した DIs株が好適に用いられる。
[0026] また、 DIs株以外にも、弱毒株として例えば、 MVA弱毒株が知られている。 DIs株は、 該 MVA弱毒株と比較して、例えば、以下の点で優れているものと考えられる。
(1) MVAは一部の哺乳類細胞で増殖する力 DIsは殆ど増殖しない。
(2) MVAには複数の領域の欠損および重複があるため、野生株には存在しない新た なタンパク質が複数生成しており、これらの因子が何らかの未知の影響を宿主に与え る可能性が否定できないが、 DIsでは欠損は 1箇所のみであり、このような影響を考慮 する必要がない。
[0027] また本発明にお!/、て、 SARS-CoVタンパク質の全部もしくは一部のタンパク質をコー ドする DNA(「SARS- CoV DNA」と記載する場合あり)を、 DIs株ゲノム上へ挿入する( 組み込む)際の該ゲノム上の部位は、特に制限されないが、該ゲノム上の「非保存領 域」であることが好ましい。即ち、本発明の好ましい態様においては、 SARS-CoV DN A力 ゲノム DNAの非保存領域上に保存された (挿入された)組換えワクチ-ァウィル ス DIs株(発現可能な状態で SARS-CoV DNAがゲノム DNAの非必須領域上に配置さ れた構造のゲノムを有する、組換えワクチ-ァウィルス DIs株)を提供する。
[0028] 上記「非保存領域」とは、ウィルスの増殖に必須と考えられて ヽる遺伝子が存在しな い領域を指す。前述のように、ヮクチ-ァウィルスは、ゲノムの全長が約 200 kbpであり 、コードする遺伝子のかなりの部分はウィルス複製には必須ではなぐ欠損させてもゥ ィルスは増殖することができる。本発明者らは、 DIs株の全塩基配列を決定し、 DIs株 ゲノムの左端に 1ケ所大きな 15.4 kbpに及ぶ欠損(単に「DIs株欠損領域」と記載する 場合あり)があることを明らかにした。
[0029] 本発明において「非保存領域」とは、例えば、 DIs株ゲノム上の上記「欠損」領域 (例 えば、上記 15.4 kbpの欠損領域、もしくは該領域の近傍領域)を好適に示すことがで きる。尚、本発明において「該領域の近傍領域」とは、通常、該領域の近傍の染色体 上の領域を指す。本発明において「近傍」とは特に制限されるものではないが、通常 、当該領域の末端から、 5 kbp以内の領域、より好ましくは 1 kbp以内の領域を指す。
[0030] 本発明の組換えウィルスは、例えば、以下のような方法で作製することができる。本 発明の組換えウィルスの作製の際には、例えば、配列番号:9に記載の DIsのゲノム 配列に関する情報を適宜利用することができる。 DIs株ゲノムの非保存領域もしくは 該領域の近傍 DNA領域カゝらなる DNA断片へ、「プロモーターの下流に配置された SA RS-CoV DNA」が挿入された構造を含むベクター(トランスファーベクター)を作製す る。次いで、該ベクターを DIs株へ導入し、相同組換え機構を利用し、該ウィルス DNA を DIsゲノム上へ挿入させる。上記方法においては、適宜、選択マーカーを保有させ たトランスファーベクターを用いることができる。選択マーカーとしては、公知の種々 のマーカーを利用することができる。例えば、選択マーカーの一例として、 XGPRT遺 伝子、 LacZ遺伝子等が挙げられる。これらマーカー遺伝子を利用した組換えウィル ス (DNA)体の選択方法もまた公知である。また、ウィルスの相同組換え体の選択には 、 DIs株が唯一増殖可能な CEFを好適に使用することにより効率よく行うことができる。
[0031] 本発明において SARS-CoV DNAは、通常、プロモーターの下流に該 DNAが転写し 得るように配置される。プロモーターは、本発明の DNAが転写し得るものであれば、 特に制限されない。当業者においては、公知のプロモーターを適宜、使用することが できる。利用可能なプロモーターの一例としては、ヮクチ-ァウィルスプロモーター p7 .5、 mH5 (ヮクチ-ァ H5Rタンパク質の改変プロモーター (modified promoter of vaccini
a H5R protein)Z配列番号: 10)等を挙げることができる。
[0032] また、所望の遺伝子 DNAにつ 、て、プロモーターの下流に転写し得るように配置さ せることは、当業者においては、公知の遺伝子工学技術を用いて適宜実施すること が可能である。
[0033] SARS-CoV DNA (SARS-CoV遺伝子)の塩基配列および該遺伝子によってコードさ れるタンパク質のアミノ酸配列は既に公知であり、当業者においては、該配列に関す る情報について、例えば、文献データベース、または公共の遺伝子 (ゲノム)データ ベースを利用して容易に取得することができる。 SARS-CoVのゲノム DNAの塩基配列 は、 NCBIの提供するデータベースから、ァクセッション番号: AY278491 (http://www. ncbi.mm.nih.gov:80/entrez/viewer.fcgi?db=nucleotide&val=30023963)によつ飞適 ¾. 取得することができる。
[0034] また、所望のゲノム上の領域に対して、外来 DNAを挿入させる方法は、これまでに 種々の方法が知られている。当業者においては、これらの方法を利用して、組換えゥ ィルスを適宜作製することができる。本発明の組換え DIs株の作製方法の一例として 、より具体的には、後述の実施例に記載された方法を例示することができる。
[0035] 本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株のゲノム DNAの構造の好まし!/、態様の一 つとして、例えば、 DIs株ゲノム (配列番号: 9)における上記「欠損」領域へ以下の構 造の DNAが挿入した構造力もなる DNAを例示することができる。
(1)プロモーター mH5 (配列番号: 10)の下流に発現可能な状態で Eタンパク質をコー ドする DNA (配列番号: 2)が連結した構造の DNA (図 4 ;rDIsSARS-E)
(2)プロモーター mH5 (配列番号: 10)の下流に発現可能な状態で Mタンパク質をコ ードする DNA (配列番号: 4)が連結した構造の DNA (図 4; rDIsSARS-M)
(3)プロモーター mH5 (配列番号: 10)の下流に発現可能な状態で Sタンパク質をコー ドする DNA (配列番号: 6)が連結した構造の DNA (図 4; rDIsSARS-S)
(4)プロモーター mH5 (配列番号: 10)の下流に発現可能な状態で Nタンパク質をコー ドする DNA (配列番号: 8)が連結した構造の DNA (図 4 ;rDIsSARS-N)
(5)上記 (1)の DNAと上記 (2)の DNAがタンデムに連結した構造の DNA (図 5 ;rDIsSAR S-E/M)
(6)上記 (1)の DNAと上記 (2)の DNAと上記 (3)の DNAがタンデムに連結した構造の DN A (図 5; rDIsSARS- E/M/S)
(7)上記 (4)の DNAと上記 (3)の DNAがタンデムに連結した構造の DNA (図 5 ;rDIsSAR S-N/S)
[0036] また本発明によって提供される組換えワクチ-ァウィルス DIs株のゲノム DNAまたは 該ゲノム DNAの部分断片 DNAもまた、本発明に含まれる。該部分断片 DNAとは、好 ましくは、 SARS-CoV DNAが挿入された DNA領域を含む部分断片 DNAである。
[0037] さらに本発明は、本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株を有効成分として含む、 SARSワクチンを提供する。
本発明におけるワクチンは、通常、 SARS-CoVの感染防御、ウィルス排除または SA RSの治療のために使用される。ワクチンは抗原を含んでいる力、または抗原を発現 可能であり、これにより抗原に対する免疫応答を誘導することができる。 SARS-CoVの 感染防御、ウィルス排除または SARSの治療のために、本発明のワクチンは、所望の 形態で用いることができる。
[0038] 本発明のワクチンには、有効成分である本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株 以外に、例えば、担体等が含まれていてもよい。担体の種類は、通常、投与の形態 に応じて決めることができる。本発明のワクチンは、例えば、局所、経口、鼻腔内、静 脈内、腹腔内、皮下または筋肉内投与を含む、投与に適当な方法で製剤化すること ができる。皮下注射のような非経口投与については、担体として、好ましくは、水、生 理食塩水、アルコール、脂肪、ワックス又は緩衝液等を挙げることができる。経口投与 のためには、前述の担体又は固形担体、例えばマン-トール、ラタトース、デンプン、 ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スク ロース、および炭酸マグネシウム等を、適宜使用することができる。
[0039] また本発明のワクチンを、本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株、およびアジュ バントを含む組成物として製剤化することも可能である。アジュバントとしては、例えば 、アルミニウム塩、菌体内毒素、カルメット-ゲラン杆菌(BCG)、リボソーム、ミクロスフィ ァ(例えば、経口投与ワクチンに使用されるマイクロカプセルィ匕ポリマー等)、および フロイント完全アジュバントまたはフロイント不完全アジュバント等が挙げられる力 こ
れらに限定されない。「アジュバント」とは、抗原の免疫原性を上昇させる物質を指す
[0040] 本発明のワクチンの個体への投与は、特に制限されるものではないが、例えば、局 所、経口、鼻腔内、静脈内、腹腔内、皮下または筋肉内投与で行うことができる。投 与量は、個体 (患者)の年齢、体重、症状等を考慮して、当業者 (医師'獣医師等)に おいては、適宜、決定することができる。
[0041] 本発明のワクチンが接種可能な動物としては、免疫系を有し、かつ SARS-CoVに感 染し得るあらゆる宿主生物が挙げられ、例えば、ヒトおよび一部の霊長類 (マウス等) を挙げることができる。
[0042] また、本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株は、個体へ導入されると、ウィルス特 異的細胞傷害性 T細胞 (CTL)の応答を誘導する作用を有する。従って本発明は、本 発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株を有効成分として含む、ウィルス特異的細胞 傷害性 T細胞 (CTL)応答誘導剤を提供する。
[0043] 細胞傷害性 T細胞(CTL; cytotoxic T lymphocyte)とは、細胞溶解性(キラー) T細 胞、細胞傷害性 Tリンパ球ともいわれ、標的細胞を破壊する能力をもち、ウィルス感染 細胞や腫瘍細胞の排除に役立って 、ると考えられて 、る。
[0044] また、本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株は、個体へ導入されると、血中での S ARS-CoVに対する中和抗体を誘導する作用を有する。従って本発明は、本発明の 組換えワクチ-ァウィルス DIs株を有効成分として含む、 SARS-CoV中和抗体誘導剤 を提供する。
[0045] さらに、本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株は、個体へ導入されると、呼吸器 官 (特に呼吸器表面)での粘膜免疫を誘導する作用を有する。従って本発明は、本 発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株を有効成分として含む、呼吸器表面における SARS-CoVに対する粘膜免疫誘導剤を提供する。
[0046] 本発明の上記誘導剤も、有効成分である本発明の組換え DIs株以外に、上述の担 体等を適宜、含有させることが可能である。
また本発明は、本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株、もしくは本発明の薬剤を 個体 (例えば、患者等)へ投与する工程を含む、ウィルス特異的細胞傷害性 T細胞
応答を誘導する方法、 SARS-コロナウィルス中和抗体を誘導する方法、呼吸器表面 における SARS-コロナウィルスに対する粘膜免疫を誘導する方法、 SARSウィルスの 感染を防御、もしくは SARSウィルスを排除する方法、または、 SARS (重症急性呼吸器 症候群)を予防もしくは治療する方法に関する。
本発明の方法における個体とは、好ましくはヒトであるが、特に制限されず、免疫系 を有する非ヒト動物であってもよ 、。
個体への投与は、一般的には、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射など 当業者に公知の方法により行うことができる。投与量は、対象者 (患者等)の体重や 年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択す ることが可能である。
さらに本発明は、本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株の SARS-コロナウィルス ワクチンの製造における使用、並びに、本発明の上記薬剤の製造における使用に関 する。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に 組み入れられる。
実施例
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限 されるものではない。
〔実施例 1〕 DIs株の遺伝子構造の解析
ヮクチ-ァウィルス DIs株を用いて組換えウィルスを作成するため、 DIs株のゲノム上 に存在する変異の同定を行った。親株の DIE株および DIs株よりゲノム DNAを精製し、 Hindlllで消化してできる断片をァガロースゲル電気泳動で比較した結果、ゲノムの 5' 端付近に約 15kbpの欠損が存在することが明らかとなった。この欠損の付近を増幅す るため、 2本の PCRプライマー
Vac H- C [5' - ATAATGTAGCTCCTTCATCAATCATACATT]/配列番号: 11 Vac H- F [5,- AGGAGGTGGTGTAATAGACGAAGATTATAG]/配列番号: 12 を合成した。 DIsのゲノム DNAをテンプレートとして PCR増幅を行い、プラスミド pUC19 の EcoRI部位に挿入して増幅されたフラグメントの配列決定を行 ヽ、親株と比較して 5'
端より 17.1kbpと 32.5kbpの間の部分が欠損していることを明らかにした(Ishii K., Ueda Y., Matsuo K., Matsuura Y., Kitamura T., Kato K., Izumi Y., bomeya K., Ohsu Τ·, Honda M. and Miyamura T. (2002) Structural analysis of vaccinia virus DIs strain: A pplication as a new replication-deficient viral vector. Virology in press) (|≤31)。なお 、ここで作成したベクターを pUc/DIsと呼ぶ。
[0048] この 15.4kbpの欠損領域には、ウィルス増殖に必須と考えられている遺伝子は存在 しないが、 host range genes (宿主域遺伝子)と呼ばれるもののうち 2つ(K1Lと C7L)が 存在している。宿主域遺伝子は、その機能は未だ明らかではないが、ヮクチ-ァウイ ルスが感染、増殖できる培養細胞の範囲を規定していることが明ら力となっている (Pe rkus, M. E., uoebel, S. J., Davis, S. W., Jonnson, G. P., Limbach, K., Norton, E. K ., and Paoletti, E. (1990). Vaccinia virus host range genes. Virology 179, 276-286.) 。例えば、 KILを欠損させると、この欠損ウィルスは RK13細胞での増殖能を失う。従つ て、これらの宿主域遺伝子の欠損力 DIs株がほとんどの哺乳類細胞で増殖できない 理由であると考えられる。実際、後に述べる組換えウィルス作成の手法を用いてこれ らの宿主域遺伝子を DIs株に組み込んだところ、組換えウィルスは HeLa、 RK13、 CV- 1細胞など、調べた哺乳類細胞のいずれでも増殖能を回復していた (Ishii K., Ueda Y ., Matsuo K., Matsuura Y., Kitamura T., Kato K., Izumi Y., bomeya K., Ohsu Τ·, H onda M. and Miyamura T. (2002) Structural analysis of vaccinia virus DIs strain: Ap plication as a new replication— dencient viral vector. Virology 302 (2002) 433—444)。
[0049] 〔実施例 2〕組換え DIs株作成手法の確立
DIs株をウィルスベクターとして、ある!/ヽは組換え生ワクチンとして用いるためには、 同ウィルスへ外来遺伝子を組み込む手法を確立することが必須である。ヮクチ-ァゥ ィルスはゲノムのみでは感染性がなぐまたゲノムサイズが約 200kbpあり、外来遺伝 子をゲノム中に直接挿入することは現在の遺伝子工学技術では非常に困難である。 そのため、トランスファーベクターを使用し、感染細胞内で相同組換えをおこさせるこ とにより外来遺伝子を挿入する方法が一般に用いられる(ウィルスゲノムの一部と同じ 配列を持つプラスミドが感染細胞内に存在する場合、ゲノム複製の際に一定の頻度 で、プラスミド上の配列と、それに対応するゲノム上の配列の交換がおこる。この現象
が相同組換えである。)。従って、 DIsゲノムの一部をプラスミドにサブクローユングし、 この DIs配列内に目的の外来遺伝子を挿入することで、このプラスミドを DIsに外来遺 伝子を挿入するトランスファーベクターとして用いることができる。
[0050] DIsに外来遺伝子を挿入する場合には、挿入することにより DIsの感染、増殖に影響 の出ない場所を選択する必要がある。そのためには、先に決定した欠損部位に外来 遺伝子を挿入する方法が、 DIsに影響を及ぼさな 、部位として好適であると考えられ る。以上の理由力も上記の pUc/DIsをトランスファーベクターとして用いることとした。 p Uc/DIs中の DIs由来の配列の内部に、ヮクチ-ァウィルス由来のプロモーターとその 下流に目的の外来遺伝子を挿入することにより、この外来遺伝子を DIsに組み込むト ランスファーベクターとして使用することができる。そのため、ヮクチ-ァウィルスのプ 口モーター配列の pUc/DIsの DIs由来配列への挿入を行った。 pBluescript SK (-)ベタ ターの HindIII〜SmaI部位に、ヮクチ-ァ H5Rタンパク質の改変プロモーター配列 mH
AAGCGAGAAATAATCATAAATAZ配列番号: 10]を合成して挿入し、生成したベ クタ一を BssHIIで切断した。
[0051] 240bpのフラグメントを精製した後に末端を Hindlllに変換し、 pUC19に挿入した DIs 由来配列中に存在する Hindlll部位に挿入した。このワクチ-ァウィルスプロモーター mH5の下流に存在する Smal、 BamHI、 NotI、 Sacl、 SacIIを外来遺伝子の挿入部位(マ ルチクローニングサイト)として使用できる。
[0052] 上記のプラスミドに薬剤選択マーカーを挿入するため、 E.coli由来の酵素 XGPRT (h ypoxantine— guanine phosphoribosyl transferase)遺 子の上流にヮクチ- ヮ ノレス プロモーター p7.5を付カ卩し、 pUC19に挿入した DIsフラグメント中に存在する Mlul部位 に挿入した。挿入した配列を配列番号: 13に示す。この手法は、プリン合成の阻害剤 である MPA (mycophenolic acid)存在下では GMP合成が阻害され、ヮクチ-ァウィル スの DNA合成も阻害されるためにウィルス増殖ができな!/、が、培地中に MPA (micoph enoic acid)、 xantine、 hypoxantine それぞれ 25 μ g/ml、 250 μ g/ml、 15 μ g/ml添ノ J口 してある場合、 XGPRT遺伝子をゲノム内に持つウィルスのみが増殖するため、この 3 種の薬剤を含有する培地でウィルスを培養することにより目的の組換えウィルスを取
得することができる (小島朝人,「ワクシニアウィルスベクター」,ウィルス実験プロトコ一 ル, (1995),343-353,メジカルビユー社)。ウィルスの相同組換えおよび組換えウィルス の選択には、 DIsが唯一増殖することができる CEFを用いる点が肝心である。
[0053] 本発明者らは、ヮクチ-ァウィルスの p7.5プロモーターの下流に XGPRT遺伝子を揷 入し、更に mH5プロモーターの下流にマルチクローユングサイトをつな!/、で外来遺伝 子を容易に挿入できるようにしたユニットを作成した。このユニットを、 DIsの遺伝子が 欠損して 、る部分を挟む領域の中央に挿入したトランスファーベクターを構築し、相 同組換えをおこすと、 目的とする外来遺伝子と共に XGPRT遺伝子が挿入されるよう に設計した(図 2)。完成したトランスファーベクターを、 pDIsgptmH5と名付けた。
[0054] 目的の外来遺伝子を有する組換え DIs株は、例えば、以下のように選択することが できる。
ヮクチ-ァウィルス DIs株約 106pfo (plaque forming unit)を含む 500 μ 1のウィルス液 を、 CEF (chick embryo fibroblast)細胞約 107個が播かれた 80 mmシャーレに接種し、 15分ごとに 8回震盪することによりウィルスを細胞に感染させた。その後、 1 mlの 10% F CS (fetal calf serum)を含む DMEM (Dalbecco- modified Eagle培地)をカ卩え、 37°C、 5% CO条件下にて 2時間培養した。培地を取り除き、 PBS (phosphate- buffered serine)で
2
洗浄してから 0.05%トリプシン溶液 0.5 mlを加え、細胞を遊離させた後、細胞懸濁液を 2000 rpmで 3分遠心して細胞を回収し、 400 μ 1の PBSに懸濁した。この細胞懸濁液に トランスファーベクター 10 gを溶解し、 Gene Pulser II (Bio Rad社)を用いて 0.4 cmキ ュベット中、 250 v、 500 FDで 1回電圧をかけ電気穿孔法を行った。細胞を 10% FCS を含む DMEM 2 mlに懸濁し、 35 mmシャーレに播いて 37°C、 5% CO条件下にて 7日
2
間培養した。感染細胞を培地とともに回収し、凍結乾燥 3回、超音波処理 2分行った 後、同じ培地で 10、 100、 1000倍希釈した。 35 mmシャーレに 106個の細胞を播き、培 地(10% FCSを含む DMEM)〖こ MPA、 xantineゝ hypoxantineをそれぞれ 25 μ g/ml、 250 μ g/mU 15 g/ml添加して一晩培養した後、上記の希釈細胞液を接種した。 15分ご とに 8回震盪することによりウィルスを細胞に感染させ、希釈細胞液を除いてから、 1 %軟寒天添力卩培地(10% FCSを含む DMEM。 MPA、 xantine, hypoxantineを含む) 2 ml を加え、固化させて力 37°C、 5% CO条件下にて 7日間培養した。形成されたブラー
ク部分をパスツールピペットでピックアップし、 200 μ 1の 10% FCSを含む DMEMに懸濁 し、 2分間超音波処理を行ってウィルスを寒天より放出させた。この培養液を同じ培 地で 10、 100、 1000倍希釈し、上記と同様のプラークアツセィ操作をさらに 2回繰り返 して組換えウィルスを純ィ匕した後、 CEF細胞に感染させてスケールアップを行った。こ のウィルスには外来遺伝子も同時に組み込まれているため、 目的とする組換えウィル スを効率良く選別することができる(図 3)。
[0055] 〔実施例 3〕培養細胞
CEF (chick embryo fibroblast)細胞及び Vero E6細胞は、 10% FCSと抗生物質(ぺ -シリン及びストレプトマイシン)を添カ卩した DMEM培地(GIBCO社)で培養した。
[0056] 〔実施例 4〕 SARS-コロナウィルスの精製
SARS- CoV(HKU39849株)を moi=1.0にて Vero E6細胞に感染させ、 2日間培養の 後、培養上清を回収した。この培養上清を 3000 rpm、 10分間遠心し、その上清をさら に 8000 rpm、 30分間遠心して細胞及び細胞破砕物を除いた後、 8%ポリエチレンダリ コール /0.5 M塩ィ匕ナトリウムでウィルスを沈殿させた。この沈殿を生理食塩水で懸濁 した後、不連続蔗糖密度勾配遠心法 (20% I 60%)によりウィルス粒子を精製した。こ の精製ウィルス分画を紫外線照射で不活化し、不活ィ匕 SARS-CoV全粒子分画とした
[0057] 〔実施例 5〕組換え DIsの取得
SARS- CoVよりゲノム RNAを抽出し、常法により cDNAを作成し、 PCR法により構造蛋 白をコードする open reading flame (ORF)に相当する領域を増幅した。増幅した各フ ラグメントを制限酵素 BamHI (ただし Eのみ制限酵素 Bglllを使用した)で切断し、弱毒 化ヮクチ-ァウィルス DIsへのトランスファーベクターである pDIsgptmH5 (図 2)の Bam HI部位に、 Takaraの Ligation kitを用いて挿入した(それぞれを pDIsSARS- E、 pDIsSA RS- M、 pDIsSARS- N、 pDIsSARS- S、 pDIsSARS- EM、 pDIsSARS- EMSと名付けた)。上 記のプラスミドには弱毒化ヮクチ-ァウィルスの配列が挿入してあるため、本ウィルス が増殖する細胞である CEF細胞に感染させ、上記プラスミドを感染細胞内に導入す ると、一定の頻度でプラスミドとウィルスゲノムとの間で相同組換えが起こる。
[0058] また、同プラスミドには薬剤選択マーカーとして大腸菌由来の酵素 xgprt (hypoxanti
ne— guanine phosphoribosyl transferase)遺伝子を、ワクチニァウイノレスフ。ロモ ~~タ' ~~ p 7.5を上流に付カ卩した形で挿入してある。そのため培地中に MPA (micophenolic acid) 、 xantine、 hypoxantineをそれぞれ 25 μ g/ml、 250 μ g/ml、 15 μ g/ml添カロしてある場合 、 xgprt遺伝子をゲノム内に持つウィルスのみが増殖するため、この 3種の薬剤を含有 する培地でウィルスを培養することにより、相同組換えをおこした目的の組換えウィル スを取得することができる。今回トランスファーベクターを作成して取得した組換え DIs の構造を、図 4および 5に示した。
ヮクチ-ァウィルス DIs株約 10。 pfo (plaque forming unit)を含む 500 μ 1のウィルス液 を、 CEF細胞約 107個が播かれた 80 mmシャーレに接種し、 15分ごとに 8回震盪するこ とによりウィルスを細胞に感染させた。その後、 1 mlの 10% FCS (fetal calf serum)を 含む DMEM (Dalbecco- modified Eagle培地)をカ卩え、 37°C、 5% CO条件下にて 2時
2
間培養した。培地を取り除き、 PBS (phosphate-buffered serine)で洗浄してから 0.05% トリプシン溶液 0.5 mlを加え、細胞を遊離させた後、細胞懸濁液を 2,000 rpmで 3分遠 心して細胞を回収し、 400 1の1¾3に懸濁した。この細胞懸濁液に各トランスファーべ クタ一 10 μ gを溶解し、 Gene Pulser II (Bio Rad社)を用いて 0.4 cmキュベット中、 250 v 、 500 FDで 1回電圧をかけ電気穿孔法を行った。細胞を 10% FCSを含む DMEM 2 mlに懸濁し、 35 mmシャーレに播いて 37°C、 5% CO条件下にて 7日間培養した。感
2
染細胞を培地とともに回収し、凍結融解 3回、超音波処理 2分行った後、同じ培地で 1 0、 100、 1000倍希釈した。 35 mmシャーレに 106個の細胞を播き、培地(10% FCSを 含む DMEM)〖こ MPA、 xantineゝ hypoxantineをそれぞれ 25 μ g/ml、 250 μ g/ml、 15 μ g /πύ添加して一晩培養した後、上記の希釈細胞液を接種した。 15分ごとに 8回震盪す ることによりウィルスを細胞に感染させ、希釈細胞液を除いてから、 1 %軟寒天添カロ 培地(10% FCSを含む DMEM。 MPA、 xantine, hypoxantineを含む) 2 mlをカ卩え、固化 させて力 37°C、 5% CO条件下にて 7日間培養した。形成されたプラーク部分をパ
2
スツールピペットでピックアップし、 200 1の 10% FCSを含む DMEMに懸濁し、 2分間 超音波処理を行ってウィルスを寒天より放出させた。この培養液を同じ培地で 10、 10 0、 1000倍希釈し、上記と同様のプラークアツセィ操作をさらに 2回繰り返して組換え ウィルスを純化した後、 CEF細胞に感染させてスケールアップを行った。
[0060] 得られた組換えウィルスは、単一のクローンまで純化した後、 PCR法により目的の外 来遺伝子の挿入を確認した。 目的の SARS構造蛋白の発現は、組換えウィルスを感 染させた細胞を溶解し、 SARS患者血清や、 SARS構造蛋白のアミノ酸配列を基に化 学合成したペプチドに対する抗体を用いたウェスタンプロット法や免疫蛍光染色法 により確認した(図 6〜8)。
[0061] 〔実施例 6〕マウスへの糸且換え DIsの投与
5週令、メスの Balb/cマウスに、 106 pfoの組換え DIsを皮下または経鼻で投与した。 2 週後と 6週後に同量の同じ組換えウィルスを同じ経路で投与し、 7週目に採血、鼻腔 洗浄液の採取及び脾臓の摘出を行って免疫誘導能の測定に用いた。
[0062] 〔実施例 7〕ELISA
SARS- CoVを感染させた Vero E6細胞の細胞溶解液を、 0.05 M炭酸緩衝液 (pH 9. 6)で 1000倍希釈し、マイクロプレート(immulon 2, Dynatech, Chantilly, VA)に 1ゥエル あたり 100 1づっ添カ卩した。 4°Cでー晚コートした後、 1%卵白アルブミンでブロッキ ングした。試料 (血清または鼻腔洗浄液の希釈液 100 1)を各ゥエルに添加し、結合 した抗体をペルォキシダーゼ標識マウス IgG抗体または IgA抗体(Zymed, San Francis co, CA)及び。-フエ-レンジアミン基質溶液 (Zymed)により検出した。
その結果、 Nを発現する組換え DIsを投与されたマウス、 Sを発現する組換え DIsを投 与されたマウスの 、ずれも、 ELISA法により SARS-CoVに対する抗体を産生して!/、た。 投与経路は皮下、経鼻どちらも有効であった。(表 1)。
[0063] [表 1]
IgG抗体力価(U/ml)
immun 血清 No. 感染 非感染 SARS特異的 中和抗体
Sd1 22308 502 21806 x60
Sd2 13378 466 12912 x60
S-Dls (id-id) Sd3 44975 1125 43850 x300
Sd4 16768 496 16272 x60
Sd5 31327 1347 29980 x300
Sn1 1220 210 1010 n.d.
Sn2 479 137 342 n.d.
S-Dls (in-in) Sn3 576 117 459 x60
Sn4 3402 149 3253 n.d.
Sn5 7019 136 6883 x60
Nd1 23733 1437 22296 n.d.
Nd2 844 606 238 n.d.
N-Dls (id-id) Nd3 6635 1488 5147 n.d.
Nd4 1783 610 1173 n.d.
Nd5 9010 612 8398 n.d.
Nd6 14010 1075 12935 n.d.
Nn1 401 128 273 n.d.
Nn2 203 161 42 n.d.
N-Dls (in-in) Nn3 426 118 308 n.d.
Nn4 122 119 3 n.d.
Nn5 148 125 23 n.d. 〔実施例 8〕中和活性の測定
96ゥエルプレート(住友ベークライト)にコンフルェントになるように Vero E6細胞をま いておき、培地を 5% FCS I DMEM 50 μ 1に交換した。 lxl05 pfo/mlの SARS- CoV 80 1と、 PBSで 20倍より段階希釈したマウス血清 80 1を混合し、 37°Cで 1時間反応させ た後、 100 1を上記の細胞プレートに添カ卩し、 37°Cで 48時間培養した。 10%ホルマリ ン溶液で細胞を固定した後、クリスタルバイオレットで細胞を染色し、細胞傷害効果を 観察した。細胞傷害を中和し得た最高希釈度の逆数を中和抗体価とした。
その結果、 Sを発現する組換え DIsを皮下投与した群では、いずれのマウスの血清も SARS-CoVを中和する活性を持っていた。この組換え DIsを経鼻投与した群でも、一 部は同様に中和活性を持っていた。 Nを発現する組換え DIsを投与した群は、皮下、
経鼻 、ずれの投与法でも中和活性は誘導されな力つた (表 1)。
[0065] また、 Sを発現する組換え DIsを経鼻投与した群では、鼻腔洗浄液中力も SARS-CoV に対する IgA抗体が検出され、粘膜免疫が誘導されていることが明らかとなった。 Nを 発現する組換え DIsを投与した群、組換え DIsを皮下投与した群では、鼻腔洗浄液中 の IgA抗体の有意な上昇は見られな力つた(図 9)。
[0066] 〔実施例 9〕ELISPOT assayによる細胞性免疫の測定
ELISPOT assayiま、 Diaclone社の γ—Interferon恢出 ELI—spot^rット (Besancon, Fran ce)を用いて行った。 96ゥエルプレート(MaxiSorp, Nunc, Rochester, NY)に ELI- spot キットの capture antibodyをカ卩え、 37°Cで 1時間結合させた後、洗浄後に 2%卵白アル ブミンを加え、 4°Cでー晚ブロッキングした。組換え DIsを投与されたマウスの脾臓及 び後頸部リンパ節を摘出して T細胞を調製した。 T細胞を 5xl05個、抗原提示細胞と して 3000 rad γ線照射した A20.2J細胞を lxlO4個ゥエルに加え、抗原は SARS-CoV の Sまたは Nの部分ペプチド(20mer)を合成して 5 μ Μ力!]えた。 37°Cで 16時間培養した 後プレートを洗浄し、 ELI- spotキットの biotinylated detection ant¾odyを加え、 37°Cで 1時間インキュベートした。洗浄後に Alkaline phosphatase- streptavidinをカ卩え、 37°C で 1時間インキュベートした。洗浄後に BCIP/NBTを添カ卩した軟寒天をカ卩えて固化さ せ、 37°Cで 3時間インキュベートした。 γ -Interferonを分泌する特異的 cytotoxic T ly mphocyte (CTL)の数を、 KS ELISPOT compact system (し arl Zeiss, Jena, uermany) を用いて測定した。
[0067] その結果、 Sを発現する組換え DIsを皮下投与及び経鼻投与した群では、合成ぺプ チドの中で、 ACE2 (SARS-CoVの細胞側のレセプター分子)に結合するドメインの一 部をェピトープとする特異的 T細胞が誘導されていた。また、 Nを発現する糸且換え DIs を皮下投与及び経鼻投与した群では、 N端 100アミノ酸部分をェピトープとする特異 的 T細胞が誘導されて 、た(図 10)。
[0068] 〔実施例 10〕組換え DIsの投与による SARS-CoV感染力 の防御
5週令、メスの Balb/cマウスに、 106pfoの組換え DIsを皮下または経鼻で投与した。 2 週後と 6週後に同量の同じ組換えウィルスを同じ経路で投与し、 7週目に 104pfo/mlの SARS-CoVを鼻から吸入させることにより感染させ、 3日後に肺洗浄液を採取して SAR
S-CoVのウィルス価を測定した。その結果、 4種の構造タンパク質 (EMNS)すべてを発 現する組換え DIsを投与された群は、経鼻、皮下いずれのルートでも SARS-CoVの感 染カゝら完全に防御された。 3種の膜タンパク質 (EMS)を発現する組換え DIsを投与され た群では、皮下投与の場合は SARS-CoVの感染から完全に防御され、経鼻投与の 場合もウィルス価はコントロール群 (DIs投与群)と比べ著名に減少した。キヤプシドタ ンパク質 (N)のみを投与された群では、コントロール群との差は見られな力つたことか ら、本発明において Nタンパク質を利用する場合には、該タンパク質にカ卩えて、 3種の タンパク質 EMSと併せて用いることが好まし 、ことが示唆された(図 11)。
産業上の利用可能性
[0069] ワクチニァウィルスには、強い免疫誘導能という利点と、神経病原性という欠点が共 存して 、たが、 DIs株の病原性は親株のヮクチ-ァウィルス (DI株)と比べ非常に低 ヽ 。また、 DIs株が弱毒化されている理由は、 15kbp以上にも及ぶ大きなゲノムの欠損で あるため、培養細胞におけるウィルス増殖あるいはワクチンとして接種後に欠損を回 復し毒性が復帰した株が出現する可能性はまず考えられない。
[0070] また本発明の組換えワクチ-ァウィルス DIs株は、マウスにおいて SARS-CoVタンパ ク質に対する抗体を誘導し、その血清は培養細胞へのウィルスの侵入を阻止するこ とから、組換えワクチンとして非常に有用である。
[0071] SARSは 21世紀最初に出現した新興ウィルス感染症であり、致死率は 10%を超える とも考えられており、 日本でも SARSを、最も危険性が高く緊急かつ徹底した対応を必 要とする一類感染症に加えて ヽる。しかしながら SARSに対する特異的な治療法や診 断法は開発されていない。従って効果的な SARSワクチンの必要性は高ぐ一刻も早 い開発と実用化が切に望まれて 、る。弱毒化ヮクチ-ァウィルスを用いた本ワクチン は、そうした産業上の要望にかなったものであり、人類に多大な貢献をするものと期 待される。特に本ワクチンの場合は、血中での SARS-CoVに対する中和抗体の誘導 、呼吸器表面での粘膜免疫の誘導、ウィルス蛋白に対する特異的細胞性免疫の誘 導を行うことができるため、呼吸器力 の感染の防御、体内でのウィルスの細胞への 侵入阻止、感染細胞の生体からの排除のいずれも行うことが可能であり、 SARSの感 染防御及びウィルス排除に非常に効果的であることが期待される。