明 細 書
植物の抽だい誘導抑制及び Z又は花芽分化抑制剤
技術分野
[0001] 本発明は、セォプロキシド又はその類縁体を有効成分とする植物の抽だい誘導抑 制及び Z又は花芽分化抑制剤、及び、該植物の抽だい誘導抑制及び Z又は花芽 分化抑制剤を用いた植物の抽だい誘導抑制及び Z又は花芽分化抑制方法に関す る。
背景技術
[0002] 植物では、ある程度生育が進むと、花芽分化ゃ抽だい(トウダチ)誘導が起こる。花 芽分化とは、植物がある程度生育した時点で始まり、温度や日長時間などの環境条 件によって誘起され、それまでの茎葉の栄養生長をやめ、小さな花芽を形成する現 象をいう。花芽分化は、植物がそれまでの栄養生長の段階から、生殖の段階に入つ たことを意味する。また、抽だいとは、「トウダチ」と呼ばれることもあり、葉の中から花 芽を持った茎が出てくることをいう。抽だいは、長日植物や低温要求性植物の花成時 期、すなわち、花芽原基の分化時期で、栄養生長から生殖生長への転換時期に起 こる。
これらの植物の抽だいの誘導や花芽分化は、栄養生長を目的とする野菜類のような 植物の栽培においては、かえってその品質の低下につながることとなり、望ましくない 現象で、その抑制策を講じなければならない場合が生じてくる。
[0003] 植物の花芽分化ゃ抽だい誘導、及びそれらの関連については、多くの報告があり 、その生化学的なメカニズムについても報告されている。
ホウレンソゥ(Spinacia oleraceaし)のような長日植物は、短日条件で生長するときは 無性的に生長し、茎 (抽だい)が伸長することもない。しかし、長日条件に移行したと きは、茎の伸長及び花成の誘導が起こる。ホウレンソゥにおいて、茎の伸長はジべレ リン(gibberellin:GA)調節プロセスに依存することが報告されている(Proc. Natl. Aca d. Sci. USA 90:7概- 7405, 1993)。長日条件において、 GA生合成がロゼット(rosette )植物を増大させるということが重要な証拠として挙げられている(Plant Physiol. 92: 1
094-1100, 1990;Planta 185:487-493, 1991) 0長日植物であるムシトリナデシコ(Silene armeria)の茎(抽だレ、)の伸長は、長日条件又は GAの適用によって誘導され、主とし て横の細胞分裂によって順番に茎の長さを増大させることが報告されている(Planta 185:487-493, 1991)。
[0004] GAに関係するその他の実験データの 1つとして、ジャガイモの塊茎の形成につい て報告されている。ジャガイモの誘導は、 GAによって阻害される(Plant Sci.73:87_95 , 1991)。他方、 GA生合成の阻害剤(inhibitors)であるシミドール(cymidol) (Plant Sci. 73:87-95, 1991)及びテトシクラシス 6 01&(^) (J. Plant Growth Regul. 14:257-265, 1994)は、 in vitroにおいてジャガイモの塊茎化を誘導する。そして、外から与えたジ ヤスモン酸(jasmonic acidJA) (図 1)、及びそのメチルエステル(methyl jasmonate:M eJA)は、 in vitroにおいてジャガイモの塊茎化を誘導することが良く知られている(Ph ytochemistry 30: 1435-1438, 1991 ;Plant Physiol. 97: 1253-1255)。これらの結果から みると、 JA、 MeJA、 TA (ッベロン酸: tuberonic acid)及び TAG (tuberonic acid gluco side)のようなジャスモン酸類の生物活性は、 GAの生物活性と比較すると、反対のも のとなる。
[0005] 同様の仮説が、ジャガイモにおける塊茎と花芽の形成において提案されている(Pla nt Cell Physiol.37:586-590, 1996)。他の結果から、 JA及びその類縁化合物力 GA の作用に関連して、細胞の代謝作用を強く阻害することを示唆していることを報告し ている(Physiol. Plant. 54:249-252, 1982)。 JA類が、皮質の塊茎を方向づける細胞の 分裂と拡張の調節に、重要な影響を持つらしいことが報告されている(Physiol. Plant. 100:639-646, 1997)。 JA及び MeJAが、細胞の生長に種々の影響を持つことが知ら れている。例えば、 JA及び MeJAは細胞分裂を(Physiol. Plant. 54:249-252, 1982) , 及び、細胞の伸長を(Plant Cell Physiol. 35: 1065-1070, 1994)、更に、細胞の拡張の 促進を(Plant Sci. 100:3-8, 1994)阻害する。
[0006] 一方、ジャガイモ塊茎の形成や花芽の誘導活性に関連して、セォプロキシド (Theo broxide) (図 1)が知られている。セォプロキシドは、病原性糸状菌ラシオディプロディ ァ.セォブ口マエ(Lasiodiplodia theobromae)の培養濾液から分離される物質で、ジャ ガイモの茎の単一節切片の培養により、強力なジャガイモ塊茎形成活性を示すこと
が報告されている(Phytochemistry 35:835-839, 1994)。また、ジャガイモの葉片、或 レ、は、アサガオ(morning glory)の葉に、セォプロキシドの溶液を散布すると、非—誘 導条件下において、強力なジャガイモ塊茎形成、或いは花芽誘導活性をそれぞれ 示すことが報告されている(J. Plant Growth Regul. 19:457-461,2000)。更に、セォブ 口キシドは、アサガオ (morning glory)において、茎の伸長に関して阻害的影響を示 すことも知られている(Plant Sci. 165:993-999,2003)。
[0007] 上記するように、植物の花芽分化ゃ抽だい誘導、及びそれらの関連については多 くの報告があり、その生化学的なメカニズムについても報告されているが、従来、野菜 等の栽培において、抽だい(トウダチ)誘導抑制或いは花芽分化の抑制技術としては 、唯一、 日長の制御による技術が開示されている(特開平 11— 239417号公報、特 開 2000— 50731号公報、特開 2001— 45866号公報)。セォプロキシドやその類 縁体は、むしろ、花芽形成性植物の花芽の形成を効率的に誘導する技術として開示 されている(特開平 10— 109910号公報)。
[0008] したがって、今日までに、野菜等の栽培において、抽だい(トウダチ)誘導の抑制や 花芽分化を抑制するために植物化学調節剤等を用いる効果的な技術は開発されて おらず、抽だい(トウダチ)誘導や花芽分化を抑制するには、 日長の制御による技術 に頼らずを得ないのが現状である。しかし、 日長の制御による技術は、そのための設 備ゃ作業が必要となり、その設備費や維持費も膨大なものとなる。したがって、野菜 等の栽培において、品質の良い野菜等を製造するために、抽だい(トウダチ)誘導の 抑制や花芽分化の抑制を、効果的かつ経済的に行える簡便な技術を開発すること は、何よりも要望されているところである。
特許文献 1 :特開平 10— 109910号公報。
特許文献 2:特開平 11 - 239417号公報。
特許文献 3 :特開 2000— 50731号公報
特許文献 4:特開 2001—45866号公報
非特許文献 l : Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:7401-7405, 1993。
非特許文献 2 : Plant Physiol. 92: 1094-1100, 1990。
非特許文献 3 : Planta 185:487-493, 1991。
非特許文献 4: Plant Sci.73:87_95,1991。
非特許文献 5: J. Plant Growth Regul. 14:257-265,1994。
非特許文献 6:Phytochemistry 30:1435-1438,1991。
非特許文献 7: Plant Physiol.97:1253-1255。
非特許文献 8: Plant Cell Physiol.37:586_590,1996。
非特許文献 9: Physiol. Plant.54:249-252,1982。
非特許文献 10: Physiol. Plant. 100:639-646,1997。
非特許文献 11: Plant Cell Physiol.35:1065-1070,1994。
非特許文献 12: Plant Sci. 100:3-8,1994。
非特許文献 13:Phytochemistry 35:835-839,1994。
非特許文献 14: J. Plant Growth Regul. 19:457-461,2000。
非特許文献 15: Plant Sci. 165:993-999,2003。
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0009] 本発明の課題は、野菜等の栽培において、品質の良い野菜等を製造するために、 抽だい(トウダチ)誘導の抑制や花芽分化の抑制を、効果的かつ経済的に行える簡 便な手段を提供すること、特に、該手段として用いることができる植物の抽だい誘導 抑制及び/又は花芽分化抑制剤、及び、該植物の抽だい誘導抑制及び/又は花 芽分化抑制剤を用いた植物の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制方法を提 供することにある。
課題を解決するための手段
[0010] 本発明者は、上記課題を解決すべく天然物由来の化学成分について、植物化学 調節剤として、植物の抽だレ、誘導抑制及び/又は花芽分化抑制活性を有する物質 について鋭意探索した結果、セォプロキシドが、葉面散布のような方法で植物に施 用した場合に、植物の抽だい誘導及び Z又は花芽分化条件下で、植物の抽だい誘 導及び Z又は花芽分化抑制を顕著に抑制することを見い出し、本発明を完成するに 至った。
[0011] すなわち、植物の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制活性を有する物質に
ついて探索する中で、セォプロキシド散布によるホウレンソゥ(長日植物)の茎の伸長 及び花芽分化の抑制効果を確認するために、ホウレンソゥの茎の伸長、花芽分化に 関して、セォプロキシドをホウレンソゥの葉面に散布して、その効果を検討した。 日長 条件は長日(16時間明期、 8時間喑期)、短日(10時間明期、 14時間喑期)とした。 葉面散布するセォプロキシドの濃度を 10_3Mに設定し、予備育成(2週間、長日条 件)の後、試験を開始した。散布条件は予備育成の後、 2日毎に 5mlの溶液を 4週間 に渡り葉面散布した。結果、短日条件 (抽だい非誘導条件)ではコントロールと比べ 差異は観察されなかった。長日条件 (抽だレ、誘導及び花芽分化条件)ではコントロー ルと比べ、セォプロキシド処理の植物体では 4週間目で茎の伸長が 37%抑制された 。また、同日長条件で花芽の分化率がコントロールでは 83. 3%、セォプロキシド処 理区では 43. 3%と顕著な差が観察された。
[0012] 本発明は、上記知見より完成されたもので、本発明はセォプロキシド又はその類縁 体を有効成分とする植物の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制剤、及び、該 抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制剤を用いた植物の抽だい誘導抑制及び
/又は花芽分化抑制方法からなる。本発明の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化 抑制剤は、植物の抽だい誘導及び/又は花芽分化条件下で施用されるが、例えば 、ホウレンソゥのような長日植物においては、長日条件下で抽だい誘導及び/又は 花芽分化が行われるので、該長日条件下で本発明の抑制剤の植物体への散布が 行われる。
[0013] すなわち具体的には本発明は、(1)セォプロキシド又はその類縁体を有効成分と する植物の抽だい誘導抑制及び Z又は花芽分化抑制剤や、(2)植物の抽だい誘導 抑制及び Z又は花芽分化抑制が、長日植物の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分 化抑制であることを特徴とする上記(1)記載の植物の抽だい誘導抑制及び Z又は花 芽分化抑制剤や、(3)セォプロキシド又はその類縁体を有効成分とし、これに補助剤 を配合して、植物の葉面散布用製剤として調製されてなる上記(1)又は(2)記載の 植物の抽だレ、誘導抑制及び/又は花芽分化抑制剤や、(4)有効成分であるセォブ 口キシド又はその類縁体の散布濃度が、 ImM以上になるように調整されることを特 徴とする上記(3)記載の植物の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制剤からな
る。
[0014] また本発明は、(5)上記(1)〜(4)のいずれか記載の植物の抽だい誘導抑制及び Z又は花芽分化抑制剤を、植物体に散布することを特徴とする植物の抽だい誘導抑 制及び Z又は花芽分化抑制方法や、(6)植物の抽だい誘導抑制及び Z又は花芽 分化抑制剤の植物体への散布が、植物の抽だい誘導及び Z又は花芽分化時期に 行われることを特徴とする上記(5)記載の植物の抽だレ、誘導抑制及び/又は花芽分 化抑制方法や、(7)植物の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制剤の長日植 物の植物体への散布が、長日条件下に行われることを特徴とする上記(6)記載の植 物の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制方法からなる。
発明の効果
[0015] 本発明の植物の抽だい誘導抑制及び Z又は花芽分化抑制剤は、植物の抽だい( トウダチ)の誘導及び/又は花芽分化が行われる時期に、植物体に散布することによ り、植物の抽だい誘導及び/又は花芽分化を効果的に抑制することができる。
したがって、野菜等の栽培において、本剤の適用によって、抽だい(トウダチ)誘導や 花芽分化を抑制して、品質の良い野菜等を栽培することが可能となる。本発明の抽 だい誘導抑制及び z又は花芽分化抑制剤は、葉面散布剤としての適用が可能であ ること力ら、露地栽培や人工照明下での野菜栽培等、いずれの野菜の栽培形態にお レ、ても簡便に適用することができる。したがって、従来、抽だい誘導抑制及び Z又は 花芽分化抑制のために行われていた、 日長の制御による方法に比較して、そのため の設備や作業、更には、その設備費や維持費の大幅な削減が可能となり、簡便かつ 経済的で、すぐれた野菜等の栽培技術を提供することを可能とする。更に、本発明の 抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制剤は、本来天然物由来の成分であり、そ の類縁体を含めて、ヒトゃ環境に対して安全性の高い植物化学調節剤として用いる ことが可能である。
[0016] [図の説明]
図 1.セォプロキシド、ッベロン酸ダルコシド、ッベロン酸、及びジャスモン酸の構造を 示す。
[0017] 図 2.セォプロキシドの化学的合成法による製造を、概略的に示した図である。
[0018] 図 3.セォプロキシド使用時及び不使用時の、長日条件下におけるホウレンソゥの 茎伸長抑制試験の結果について示す写真である。 (A)セォプロキシド処理後、長日 条件下で 6週間育成したホウレンソゥ。左の 2つの植物体はセォプロキシド使用、右 の 2つの植物体はセォプロキシド不使用。 (B)セォプロキシド処理後、長日条件下で 6週間育成したホウレンソゥ。左の植物体はセォプロキシド使用、右の植物体はセォ プロキシド不使用。スケールバー = 5cm
図 4.セォプロキシド使用時及び不使用時の、長日条件下におけるホウレンソゥの 茎伸長抑制試験の結果について示す図である。短日条件下で植物体を 5週間育成 し、その後、長日条件下に移し、セォプロキシド処理を開始した。セォプロキシド処理 の 2週間後に、茎長を測定した。標準分裂値(standard division value) (図示せず)は 、0. 12cm以下であった(n= 3)。
図面の簡単な説明
[0019] [図 1]本発明の有効成分であるセォプロキシド、及びッベロン酸ダルコシド、ッベロン 酸、及びジャスモン酸の構造を示す図である。
[図 2]本発明の有効成分であるセォプロキシドの化学的合成法による製造を、概略的 に示した図である。
[図 3]本発明の有効成分であるセォプロキシドの茎伸長抑制試験において、セォブ口 キシド使用時及び不使用時の、長日条件下におけるホウレンソゥの茎伸長抑制試験 の結果にっレ、て示す写真である。
[図 4]本発明の有効成分であるセォプロキシドの茎伸長抑制試験において、セォブ口 キシド使用時及び不使用時の、長日条件下におけるホウレンソゥの茎伸長抑制試験 の結果にっレ、て示す図である。
発明を実施するための最良の形態
[0020] 本発明は、セォプロキシド又はその類縁体を有効成分とする植物の抽だい誘導抑 制及び Z又は花芽分化抑制剤からなる。セォプロキシドは、糸状菌ラシオディプロデ ィァ'セォブ口マエ(Lasiodiplodia theobromae)の培養濾液から分離される物質で、該 化合物は、ラシオディプロディア'セォブ口マエの微生物を培養し、培養物から該化 合物を精製分離することにより製造することができる(Phytochemistry 35, 4, 835-839,
1994、特開 2004— 33088号公報)。
また、セォプロキシドは、本発明者が構築した合成法によって製造することができる( 特願 2002— 350360号)。
[0021] すなわち、該セォプロキシドの製造方法を概略的に示す(図 2)と:図 2中、式〔1〕で 表されるメチノレヒドロキノンを、酸化して式〔2〕で示される p—トルキノンを製造し、該 p —トルキノンをエポキシ化して、式〔3〕で示される 4, 5—エポキシ一 1—メチルシクロ へキセン _ 3, 6—ジオンを製造する。更に、該 4, 5—エポキシ一 1—メチルシクロへ キセン 3, 6—ジオンを還元して、セォプロキシド(3, 6—ジヒドロキシー 4, 5—ェポ キシ— 1—メチルシクロへキセン)を製造する。更に、該製造方法においては、上記 p トルキノンをエポキシ化して、式〔3〕で示される 4, 5—エポキシ 1ーメチルシクロ へキセン 3, 6 ジオンを製造する反応で副生される、 1 , 2 エポキシ 1 メチル シクロへキサン一 3、 6—ジオンを、シクロペンタジェンを用いて Diels— Alder反応を 行レ、、反応物をクロマトグラフィーを用いて分離し、 4, 5—エポキシ一 1—メチルシク 口へキセン 3, 6—ジオンを精製することができる。
[0022] 本発明においては、本発明の植物の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制剤 の有効成分として、植物の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制活性を有する セォプロキシドの類縁体を用いることができる。該セォプロキシドの類縁体、及びその 製造方法については、本発明者によって特開平 10— 109910号公報に開示されて いる。更に、本発明の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制剤の有効成分であ る化合物は、その製剤化にあたって、適宜、製薬上許容し得る塩の形で用いることが できる。
[0023] 本発明の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制剤施用に際して、その施用形 態は特に限定されないが、植物の葉面散布用製剤の形で用いるのが特に好ましい。 本発明の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制剤の有効成分である化合物を、 そのまま施用しても良いが、通常は農薬の製剤化に際し一般に用いられる増量剤、 界面活性剤、補助剤等のその他成分と混合し、水和剤、粒剤、粉剤などの固形製剤 および乳剤、液剤、懸濁剤などの液状製剤を調製し施用するのが好ましい。これら製 剤形態中、液剤形態で植物の葉面に散布する形態のものが特に好ましい。製剤中
の活性成分含有量は、散布濃度が、 ImM以上になるように製剤中に調整されてい ることが望ましい。本発明の抽だい誘導抑制及び Z又は花芽分化抑制剤の施用量 は、対象作物、気象条件、組成物の製剤形態、施用方法、施用時期等により、適宜 設定すること力 Sできる。
[0024] 本発明の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制剤の適用対象植物としては、 特に限定されないが、野菜類の栽培における利用目的から、長日植物に該当する野 菜類を挙げることができる。例えば、ホウレンソゥ、アブラナ、ハクサイ、レタス、キヤべ ッ、ダイコン、ニンジン等を挙げることができる。
本発明の抽だい誘導抑制及び/又は花芽分化抑制剤の植物への適用時期は、植 物の抽だいの誘導時期及び/又は花芽分化の時期に行われる。したがって、長日 植物の場合には、長日条件下で抽だいの誘導時期及び/又は花芽分化の時期に、 本発明の抑制剤を、散布のような手段により、植物体へ施用する。
[0025] 以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこ れらの例示に限定されるものではない。
実施例 1
[0026] [材料と手法]
(植物材料及び生長条件)
実験の前に、グロースチャンバ一(NK Systems, Biotron NC350)内で、短日(SD) ( 明期 10時間 Z喑期 14時間)条件下にて、ピートモス:パーライト混合物(1 : 1. 5、 V /v)でホウレンソゥ(Spinacia oleraceaし)を 5週間育成した。 2日毎に試液を葉面に 散布した。水及び液状のハイポネックス(Hyponex Japan Co. Ltd.社製)をそれぞれ 2 日毎及び 1週間毎に、植物体に与えた。長日(LD)及び SD光周期は、それぞれ 16 時間明期 /8時間喑期及び 10時間明期 /14時間喑期であった。グロースチャンバ 一は、 90 /i mol_2s_ 1の光度を提供するための 20個の蛍光灯(NEC FL40SEX-N-H G)を装備しており、 25°Cで相対湿度 60%に設定されていた。実験は、各処理に 10 株の植物体を用いて、少なくとも 3回繰り返された。
[0027] (セォプロキシド溶液の植物体への散布)
実験用のセォプロキシドは、ラシオディプロディア'セォブ口マエ(Lasiodiplodia theob
romae)の培養濾液から単離した。 NMR、 IR、及び MSの日程を基準物のものと比較 して、その構造を確認した。ツイーン 20 (lOOppm)を含む蒸留水にセォプロキシドを 溶解し、濃度を 10— 3Mとした。コントロールの植物体には、 lOOppmのツイーン 20を 含む同量の蒸留水を与えた。 2種類の溶液は、プラスチックのスプレーボトルを用い て、一つの苗につき合計 5mlずつ、 2日おきに葉面に与えられた。前もって植えつけ た後、 LD処理のため、 20箱を LD条件に移した(10箱はコントロール用で、他の 10 箱はセォプロキシド処理用)。前もって植えつけた後、 SD処理のため、 20箱を SD条 件にそのまま残した(10箱はコントロール用で、他の 10箱はセォプロキシド処理用)。 茎の基部から茎の先端又は花序まで、茎高を測定した(Plant Physiol. : 821-827, 197 1)。
[0028] (結果及び評価)
本発明者らの以前の報告(Phytochemistry 35: 835-839, 1994; J Plant Growth Regul • 19: 457-461, 2000; Plant Sci. 165: 993-999, 2003)に基づき、セォプロキシドは、 光周期に影響されるいくつかの発達プロセスを制御するための植物ホルモンの擬態 物力もしれない、と本発明者らは推測した。この可能性をテストするため、ホウレンソゥ (Spinacia oleraceaし)などの長日性植物における茎伸長に対してセォプロキシドが 及ぼす作用について調べてみた。図 3に示すように、誘導条件下(LD)では、セォブ 口キシド処理によって茎伸長が抑制された。 LD条件下でのセォプロキシド処理の 2 週間後、図 4に示すように、茎長を経時的に測定した。この図から、茎は処理植物体 でも無処理植物体でも発達したが、コントロールと比較すると、セォプロキシドが茎長 を抑制していたことがわ力つた。 6週間後の時点で、抑制効果は 37%であった。セォ プロキシドは、花成も抑制しており(表 1)、コントロールとセォプロキシド処理植物体 の平均花芽分化率は、それぞれ 83. 3%と 43. 3%であった。一方、短日条件下で は、茎長と花成に関して、コントロールとセォプロキシド処理植物体との間に外見上 の差異はなかった。
[0029] [表 1]
雄分化率
¾理 平均(¾》
奠験 1 実験 2 実験 3
90% (9/10) 90% (0/10) 腿 (8/10) 88,3¾
50% (5/10) 40% (4/10) 40% (60/10) 43.3%
なお、表 1に示す実験においては、長日条件下で植物体を 6週間胥成した。セォブ 口キシド処理を開始したのは、長日条件下に移した後である。 6週間後、植物体を回 収し、花芽分化した植物体の数を計算した。
セォプロキシドの作用を説明するものとして、 2つの可能性がある。 1つは、セォブ口 キシドが、茎伸長それ自体を抑制する単独の誘因として作用するということ、もう 1つ は、セォプロキシドが、共通するいくつかの植物成長ホルモンの生合成を制御するの カ^しれないということである。ホウレンソゥの茎伸長に対しては、 GAのレベルが重 要な要素であり(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 7401-7405, 1993)、バレイショの塊 茎形成は、 GAを与えることによって抑制される。これら 2つの知見が GAのレベルに 関連しているため、セォプロキシドは GAの生合成を制御しているの力もしれないと思 われる。