明 細 書
ウィルス不活化ヘモグロビンおよびその製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、赤血球からウィルス不活ィ匕されたヘモグロビンを効率よく製造しうる方法 であって、好ましくはエンベロープの有 Z無に拘らず、いずれのウィルスも不活化が 保証されたウィルス高不活ィ匕かつ無菌性ヘモグロビンを効率的に得ることができるゥ ィルス不活ィ匕ヘモグロビンの製造方法に関する。
背景技術
[0002] ヘモグロビンは、血液中、赤血球膜:ストローマ(storoma)に覆われて存在する。こ のため血液中のヘモグロビンを血液製剤などにカ卩ェして使用する際には、採取した 血液中からストローマを除去したヘモグロビン(SFH : storoma free hemogrobin)を得 る必要がある。 SFHは、溶血すなわちストローマを破壊した後、分離、精製すれば得 られる力 溶血処理はヘモグロビンを変質させない条件に制限される。従来実施され ている溶血処理は、浸透圧法によるものである。浸透圧法による溶血工程は、代表的 には、 1)採取した天然血液全血から血小板、白血球、血漿成分を除去して赤血球の みを分離'洗浄し、 2)蒸留水または低張緩衝液 (たとえばリン酸緩衝液)を多量に添 カロしてストローマを破壊し、 3)ストローマおよび血液型物質などの赤血球細胞基質を 除去することにより、高純度ヘモグロビン (SFH)溶液を得た後、 4)該溶液の電解質 濃度を正常な生体レベルに調整する工程を順次に含む (特許文献 1参照)。
[0003] また上記のように血液から取出されたヘモグロビンを血液製剤などに加工し、治療 目的のためにヒトに投与するにあたっては、製剤の無菌性およびウィルス不活ィ匕を保 証する必要がある。特に血液製剤によるエイズ禍から静脈内投与によってヒトに投与 する調製物のウィルス不活ィ匕の重要性が強く認識されている。
ウィルスの不活化には種々の方法があり、主に、エネルギーによるウィルス不活化、 物理的処理、化学的処理に大別される。エネルギーによるウィルス不活化は、加熱 処理 (特許文献 2参照)、マイクロウエーブ照射による超短時間熱処理 (特許文献 3参 照)、紫外線照射処理 (特許文献 4参照)ジメチルメチレンブルー (DMMB)などの光
増感物質を利用する光増感作用(特許文献 5参照)などが知られている。たとえばァ ルブミン製剤のウィルス不活ィ匕は、 60°Cで 10時間加熱処理される。しかしながらエネ ルギ一によるウィルス不活化は、ヘモグロビン変質のおそれから、ヘモグロビン含有 製剤の処理には、適用が制限される。つまり、ヘモグロビンの不活化に際しては、ウイ ルスは不活ィ匕する力 ヘモグロビンたんぱく質を実質上変性させな 、方法が求めら れる。
[0004] 物理的処理は、典型的にはサイズ排除であり、ウィルスを除去しうる極めて微細な 孔径を有するフィルター(ウィルス除去膜と称される)によりウィルスをろ過除去する" ナノろ過(NF: nano-filtration) "である(特許文献 6参照)。
化学的処理は、低 pH処理、核酸 Intercalatorなどを用いる化学的処理なども知られ て ヽるが、典型的には生物学的適合性の溶媒 (solvent)および界面活性剤 (deterge nt)を用いるウィルス不活ィ匕方法であり、ソルベントデタージヱント法(以下、 SD処理 法とも表記する)とも称される(特許文献 7および非特許文献 1参照)。 SD処理による ウィルス不活ィ匕の原理は、界面活性剤によりエンベロープウィルスの鞘を壊し、溶剤 中に溶解することによる (非特許文献 1参照)。 SD処理法では、溶媒および界面活性 剤の併用により、両者のウィルスの脂質エンベロープに対する効果は相乗的に促進 される。 SD処理法は、脂質エンベロープを有するウィルスの不活ィヒに有効であり、血 液凝固第 vm因子製剤のウィルス不活ィ匕処理に適用されている。
[0005] 上記 SD処理法では、 SD処理に次 、で、通常、使用した溶媒および界面活性剤が 被処理液より除去される。被 SD処理物中の溶媒および界面活性剤を、ヒトまたは何 らかの生物学的系により許容されるレベルまで除去する方法がいくつかあり、油抽出 法、透析法、さらには吸着法が一般に利用されている。油抽出には、植物油または 動物油または同等の合成油が使用される(特許文献 8参照)。透析法は、通常ホロ一 ファイバー透析法である。吸着法としては、官能基をもたない合成吸着剤を用いる方 法 (特許文献 9参照)または細孔容積が 3次元架橋された疎水性アクリル酸ポリマー で充填されて 、るシリカビーズを用いたクロマトグラフィーが知られて 、る(特許文献 1 0参照)。
[0006] 上記物理的処理および化学的処理に基づくウィルス不活化方法は、ヘモグロビン
またはこれを含む製剤に適用可能であるが、いずれも一長一短があり、単一の方法 では、各種ウィルスの完全除去または完全不活は難しい。たとえば上記 SD法は、製 剤を加熱しなくても、 HIV、 HBV、 HCVなどの脂質エンベロープを有するウィルスを 簡便かつ効率的に不活ィ匕しうる有用な方法として知られているが、エンベロープをも たな 、ウィルスの不活ィ匕には無効であり、 SD法単独ではヘモグロビン製剤のウィル ス不活化を保証するとは 、えな 、。
特許文献 1:特開平 2-178233号公報
特許文献 2:特開 2002- 112765号公報
特許文献 3:特許第 2668446号公報
特許文献 4:特開平 1卜 286453号公報
特許文献 5:特表 2001-514617号公報
特許文献 6:特開 2002-114799号公報
特許文献 7:特開昭 60-51116号公報
特許文献 8 :特許第 2544619号公報
特許文献 9:特開 2002-34556号公報
特許文献 10:特開 2001-99835号公報
非特許文献 l : Transfosion. 1985 Nov- Dec;25(6):516- 22
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
上記のように血液からウィルス不活化したヘモグロビンを得るための従来の方法は 、血液から分離した赤血球の溶血および精製、ウィルス不活ィ匕の各工程の順に、 つ独立的に実施され、全工程数が多くかつ長い。これらを一連の効率的なプロセスと して実施できるウィルス不活ィ匕ヘモグロビンの製造方法、特に、ウィルス不活化工程 を考慮した上での溶血および精製工程を実施する方法はなんら提案されて 、な 、。 また従来のウィルス不活ィ匕工程は、通常、単一の処理方法に基づいて実施されてお り、各種ウィルスの完全除去または完全不活を保証するための改善が望まれる。しか しながら従来、無菌的かつ各種ウィルス不活ィ匕ヘモグロビンの保証を意図して、異な る機構のウィルス不活ィ匕処理を組合わせての実施はされて ヽな ヽ。特に SD処理法
による化学的ウィルス不活化処理と、他の方法たとえばナノろ過による物理的ウィルス 除去処理とを組合わせ、かっこれにより、ヘモグロビンを物理的'ィ匕学的に変性させ ることなく無菌的かつウィルス不活ィ匕ヘモグロビンを効率よく得るためのプロセスは提 案されていない。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明者らは、赤血球力 ウィルス不活ィ匕が保証されたヘモグロビンを効率よく製 造する方法について検討し、特に少なくとも SD処理工程を含むウィルス不活ィ匕へモ グロビンの製造方法を確立すべく鋭意検討を進める過程で、ウィルス不活ィヒのため の SD処理を、ストローマを含む赤血球に直接施すことを着想した。溶媒および界面 活性剤の混合液を使用すればリン脂質細胞膜であるストローマの溶解は可能である と考えられる。しかしながら生物学的許容濃度の溶媒および界面活性剤を使用する SD処理において、ストローマの除去されたヘモグロビン(SFH)に対してはェンベロ ープを有するウィルスの不活ィ匕効果が保証されて ヽたとしても、ウィルスに対し圧倒 的多量のストローマが存在する赤血球に直接 SD処理を施してもウィルス不活化効果 は期待できないと推測していた。ところが予想に反し、血液を直接 SD処理したところ 、ウィルス不活ィ匕は有効であることが確認された。また同時にこの SD処理による溶血 処理の実効性も確認できた。つまり、赤血球を直接 SD処理することにより、溶血と同 時にウィルス不活ィ匕を達成できることを見出した。またこの SD処理によりヘモグロビン は実質的に変質しないこと、さらにメトヘモグロビン還元酵素系が実質的に変質しな いことも確認した。
[0009] この知見に基づき、さらに SD処理物に物理的ウィルス不活化処理を加え、ウィルス 不活化の保証されたヘモグロビンを得ること、および SD処理物の精製工程を含めて 全工程を効率的に行うことができるプロセスについて鋭意検討し、 SD処理後の精製 工程として、種々の精製工程のうちでも、吸着剤による吸着および限外ろ過という 2つ の工程をこの順序で行うことにより、その後のナノろ過を効率よく行うことができるとい う知見を得た。これにより、以下のような本発明を完成した。
[0010] 本発明は、赤血球と、溶媒および界面活性剤の混合液とを接触させ、赤血球の溶 血処理とウィルス不活化処理とを同時に行う SD処理工程、および上記で得られた被
SD処理液中のウィルス不活ィ匕されたヘモグロビンを回収する精製工程を含む、ウイ ルス不活ィ匕ヘモグロビンの製造方法を提供する。
上記赤血球は、通常、全血の遠心分離により得られる。したがってその被 SD処理 液は、ヘモグロビンとともに、溶媒、界面活性剤、ストローマおよび血液型物質などの 血液由来の不要物質を含む。
上記で使用される溶媒がトリ- (n-プチル)ホスフェートであり、界面活性剤が非イオン 性の界面活性剤である態様は好ま ヽ。
[0011] 本発明では、好ましくは上記精製工程として、吸着剤による吸着処理および限外ろ 過をこの順序で行う。上記吸着剤は好ましくは合成吸着剤である。
好ましい実施態様において、合成吸着剤は、具体的にスチレンおよび Zまたはァク リルと、ジビュルベンゼンとの共重合体からなる。
上記限外ろ過は、約 100,000の分画分子量を有する孔径の限外ろ過膜を用いて 行うことが好ましい。この限外ろ過膜の材質は、通常、再生セルロースおよび Zまた はポリエーテルスルホンからなる。
[0012] 本発明にお ヽて、精製工程が、上記 2つの処理の組合わせと順序に決定された背 景は、後に詳述するが、この精製工程は、本発明の方法が通常最終工程として行わ れるろ過滅菌を効率的に実施するために、特にろ過滅菌の前工程としてナノろ過を 含む態様において、本発明を特に効率的に実施し、高収率を確保するために重要と なる特定の精製工程である。すなわち本発明では、 SD被処理液の精製は、溶媒、 界面活性剤とともにストローマおよび血液型物質などの血液由来の不要物質をへモ グロビンと分離する必要を生じている点において、従来の SFHの SD被処理液の精 製が、主に溶媒および界面活性剤を除去すればよいのに対して製造上の大きな相 違がある。この点において、特に後工程のナノろ過を含め、プロセス全体を効率的に 実施するための精製工程が重要となる。本発明の精製工程において、初めに、溶媒 、界面活性剤および血液由来の不要物質を吸着剤、特に合成吸着剤により吸着除 去することにより、孔径の制限される限外ろ過を効率よく行うことができ、かつこれら除 去成分、特に溶媒および界面活性剤を、生体試料が使用されるヒトまたは何らかの 生物学的系により許容されるレベルにまで除去することが可能となる。
[0013] 本発明に係るウィルス不活ィ匕ヘモグロビンの製造方法の好ましい態様では、上記 精製工程に引き続き、ナノろ過およびろ過滅菌をこの順序で行うろ過工程を、さらに 含む。
このナノろ過によりウィルスが除去され、このナノろ過と上記 SD処理とにより、ウィル スの高不活化が達成される。具体的に、ナノろ過は、孔径約 15〜70nmの、再生セ ルロースおよび Zまたは PVDF力もなる膜を用いて実施することができる。
ろ過滅菌では滅菌用フィルター (滅菌膜)が使用される。具体的に、ろ過滅菌は、 再生セルロース、ポリエーテルスルホンおよび PVDFから選ばれる少なくとも 1種の材 質からなり、孔径 0.2 mの滅菌膜を用いて実施することができる。
[0014] 上記ろ過工程において、ろ過滅菌の前に、濃縮工程としてナノろ過液の限外ろ過 を必要に応じて行うこともできる。この濃縮は、約 10,000〜30,000の分画分子量を 有する孔径の限外ろ過を行うことが好ましぐこれによりヘモグロビン濃度を 45w/w% 以上に濃縮することが可能である。ヘモグロビン濃度は、実際の取扱い易さから 45w /w%程度で充分である。この濃縮液について、ろ過滅菌が可能となる。
[0015] 本発明では、上記ナノろ過を含む製造方法で得られ、ウィルス高不活化され、かつ 無菌化されたウィルス高不活ィ匕ヘモグロビンも提供される。またそのヘモグロビン濃 度 45w/w%以上の濃縮液も提供される。
なお、ウィルス高不活化とは、エンベロープの有無に拘らず、ウィルスが不活化もし くは除去されて 、ることを意味する。
発明の効果
[0016] 本発明では、赤血球を直接 SD処理することにより、ヘモグロビンの物理'ィ匕学的特 性に影響することなぐウィルスの不活ィ匕処理と溶血処理とを同時に行うことができ、 かつ従来の浸透圧法による溶血処理に比べ、少量の溶血剤(SD混合液)で赤血球 の溶血が可能となる。さらにこれにより、従来独立に実施されていた溶血、不活化を 一連の関連工程として実施することができ、具体的に溶血の後処理としての精製ェ 程と、ウィルスの不活ィ匕の後処理としての精製工程を 1つの工程で行うことができる。 さらにこの精製工程を、吸着剤、特に合成吸着剤の利用および限外ろ過操作の順 序で組み合わせて実施すれば、この精製工程を効率的に実施できるだけでなぐ本
発明の好ましい態様として、この後に付加されるナノろ過処理の効率の向上、すなわ ち処理時間の減少、収率の向上も可能となる。またこの好ましい態様では、ェンベロ 一プの有 Z無に拘らず、 、ずれのウィルスも不活化が保証されたウィルス高不活化 かつ無菌性のヘモグロビンを得ることができる。
図面の簡単な説明
[0017] [図 1]本発明のウィルス不活化ヘモグロビンの製造方法のプロセスフローを、好ましい 態様例で模式的に示す図である。
発明を実施するための最良の形態
[0018] 以下、図 1に示すプロセスフローを参照しながら本発明をより具体的に説明する。図 1は、本発明の特に好ましい態様を例にしてプロセスフローを模式的に示す図であり 、本発明の範囲はこの図に限定されるものではない。しかしながら本発明は、少なくと も図中、 SD処理と精製工程とを含む。図中、好ましい工程またはフローを鎖線で示 す。
このような本発明では、ストローマを有する赤血球から、ウィルス不活化された SFH ヘモグロビンを製造するに際し、該赤血球に、まず工程(1)の SD処理を施す。
[0019] (1) SD処理は、赤血球を、溶媒および界面活性剤の混合液 (以下、 SD混合液とも 表記する)と接触させる工程である。この赤血球は、通常、全血の遠心分離により得ら れる。赤血球は、具体的にヒトまたは動物力 採取した血液から、血小板、白血球、 血漿成分を分離除去したものであり、その濃縮赤血球製剤として入手できる。
この SD処理液との接触により、ヘモグロビンの変質を生じさせずに、溶血処理とゥ ィルス不活ィ匕処理とを同時に行うことができる。なお、次工程の合成吸着剤処理およ び限外ろ過操作により除去可能なものであれば、この工程で使用される SD混合液、 接触条件は特に制限されない。
[0020] SD混合液は、上記条件を満たす範囲であれば、一般にエンベロープを有するウイ ルスを化学的に不活化しうるソルベントデタージェントの技術分野において既知のい 力なる溶媒—界面活性剤の組み合わせであってもよい。
具体的に例示すると、溶媒としては、有機溶媒、特に炭素数 1〜10のアルキル基を 有するジアルキルまたはトリアルキルホスフェートが挙げられ、なかでも炭素数 2〜 10
のアルキル基を有するトリアルキルホスフェートが好ましく挙げられる。具体的には、ト リ -(n-ブチル)ホスフェート(以下、 TNBPと表記することもある)、トリ- (t-ブチル)ホス フェート、トリ- (n-へキシル)ホスフェート、トリ- (2-ェチルへキシル)ホスフェート、トリ- (n -デシル)ホスフェート、ェチル -ジ(n-ブチル)ホスフェートなどが挙げられる。とりわけ、 トリアルキルホスフェート例えばトリ- (n-ブチル)ホスフェート(以下、 TNBPと表記する こともある)が好ましく使用される。
[0021] 界面活性剤としては、通常、 O.OlgZmL濃度の溶液中に、常温下で、脂肪 0.1重 量%分散しうるものが使用される。具体的には、脂肪酸のポリオキシエチレン誘導体 、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ォキシェチル化アルキルフエノール 、ポリオキシエチレンアルコール、ポリオキシエチレン油、ポリオキシエチレンォキシプ ロピレン脂肪酸などが挙げられる。より具体的には、たとえば商品名 Tween80、 Twee n20などの脂肪酸のポリオキシエチレン誘導体、商品名ポリソルベート 80などのソル ビトール無水物の部分エステル、ポリオキシエチレンォクチルフエ-ルエーテル(商 品名 Triton X- 100)などのォキシェチル化アルキルフエノール、ナトリウムコーレート、 デォキシコール酸ナトリウム、 N-ドデシル- Ν,Ν-ジメチル- 2-アンモ-ォ -1-エタンス ルホネートなどのスルホベタイン類、ォクチル - j8 ,D -ダルコビラノシドなどの非イオン 性洗剤である。
とりわけ、 Tween80、 Triton X-100、ナトリウムコーレートなどの非イオン性オイル可 溶性水性洗剤が好ましく使用される。
[0022] この SD混合液中、溶媒および Zまたは界面活性剤を、それぞれ独立に 2種以上含 んでいてもよい。また SD混合液は、その効果を助長するための他の添加成分、たと えば還元剤などを必要に応じて含んで 、てもよ 、。
SD混合液は、上記のような溶媒 (S)および界面活性剤 (D)を、 S/D (w/w比)が 1 〜20となる量で含有することが好まし 、。
赤血球の SD処理により、全ての赤血球が溶血したことは、 目視でも充分に識別可 能である力 赤血球の被 SD処理液を遠心分離し、上清のヘモグロビン濃度を分析 すること〖こよって確認することができる。また本発明者らは、この SD処理により、へモ グロビンの物理'ィ匕学的特性に影響することはなぐヘモグロビンたんぱく質は実質
的に変性しないことおよび還元酵素系たんぱく質が高度に維持されていることを確認 している。
[0023] このような SD混合液を用いる赤血球の SD処理は、溶媒 界面活性剤共存の相乗 効果によりウィルスの脂質エンベロープを溶解し、ウィルスを不活ィ匕することができる 。したがつてこの SD工程は、 HIV、 HBV、 HCVなどの脂質エンベロープを有するゥ ィルス不活ィ匕に有効である。同時に、上記 SD処理は、赤血球に対する溶血効果が あり、ストローマの破壊にも有効である。さらに、上記 SD混合液の赤血球に対する使 用量は、従来の浸透圧法による溶血処理に比べ少量であり、少ない溶血剤(SD混 合液)量で、赤血球の溶血が可能となる。
本発明では、この溶血効果およびウィルス不活ィ匕を確実にするため、 SD混合液の 使用量 (重量単位)は、接触系中の赤血球量 100に対し、溶媒が 0.3〜1、界面活性 剤が 0.05〜 1となる量であることが望まし 、。
SD処理は、 0〜40°C、好ましくは 4〜25°C、さらに好ましくは 7〜12°Cの温度下で 、赤血球溶液と、 SD処理液とを接触させることにより行われる。この接触は、通常数 分の接触で効果があらわれ、好ましくは 10分以上 2時間以内、典型的に 30〜60分 程度である。なお、 2時間より長い時間処理しても効果の上昇は期待できないため、 2 時間以内にすることが好ましい。
SD処理による溶血およびウィルス不活ィ匕の効率は、温度の影響をほとんど受けな いので、ヘモグロビンの安定性、特にメトイ匕を抑制する観点力 上述の温度に設定さ れる。
[0024] 上記 SD処理では、溶血によりストローマが破壊される。このような被 SD処理液中に は、 SD処理によるウィルス不活化がなされ、かつストローマから分離されたへモグロ ビン (SFH)とともに、使用した溶媒および界面活性剤、およびストローマ、血液型物 質などの溶血液由来の不要物質が存在する。このため、この被 SD処理液を精製し て、ウィルス不活化 SFHを分離回収する必要がある。
精製工程は、被 SD処理液から、 SFHヘモグロビンを分離'回収する工程である。 実施例として後述する具体的な検討から、本発明では、この精製工程として、合成吸 着剤による吸着処理 (2)および限外ろ過(3)を、この順序で行うことが好ましい。
工程(2)の好ましい実施態様において、上記合成吸着剤は、官能基のない合成ポ リマー、たとえばスチレンおよび Zまたはアクリルと、ジビュルベンゼンとの共重合体 力もなる粒子が挙げられる。このような合成吸着剤は、ダイアイオン HPシリーズ、ダイ アイオン SP200シリーズ、ダイアイオン HPM1Gおよび HP2MG (以上、三菱化学社 )、アンバーライト XAD (登録商標)シリーズ (Rohm & Haas社)の製品名の市販品を 利用することができる。これらのうちでも、スチレンまたはアクリルとジビュルベンゼン の共重合体であるアンバーライト XADシリーズ (XAD- 16HP、 XAD- 1180、 XAD- 2000)力好まし!/ヽ。
[0025] 合成吸着剤の使用量ならびに処理時間は、除去効果と経済性とを考慮して自体所 望の濃度、時間を選択することができる。
また合成吸着剤はアルカリおよび熱に対する耐性が強く、使用前におけるアルカリ 水溶液浸漬による 121°C条件での滅菌操作が可能であり、調製物のパイロジェンフリ 一および無菌性を保証することが可能となる。また、アルカリ水溶液としては水酸ィ匕 ナトリウムが好んで用いられる。
この合成吸着剤による吸着処理(2)によって、被 SD処理液中に含まれる除去対象 物のうちでも、添加した溶媒、界面活性剤の大部分が除去される。さら〖こは、血液由 来のストローマおよび血液型物質の除去も可能となる。
[0026] 次いで行われる工程(3)の限外ろ過は、クロスフローろ過、タンジェンシャルフロー ろ過 (TFF)とも呼ばれ、ろ過滅菌等で行う方法であるデッドエンドろ過と異なり、ろ過 膜面に平行に液を流し、汚れを取り除きながらろ過を行う方法である。すなわち、クロ スフローろ過に用いるろ過膜カセットは平膜状に積層された構造をしており、処理液 が平膜と平膜との間を並行に連続して流れ、平膜と並行に流れる処理液の流れによ り平膜面に堆積する粒子を洗い流し、粒子の堆積によるゲル層の発生を防ぎ安定し たろ過が行える方法である。
[0027] ろ過膜の材質としては、一般的に酢酸セルロースなどの再生セルロースおよび Zま たはポリエーテルスルホンなどの合成高分子が好ましい。また、ろ過膜はその目的に 応じた分画分子量および孔径のものを用いるが、孔径は、最終調製物中に維持すベ き物質、および除去すべき溶媒、界面活性剤はもちろんのこと、ある程度のウィルス
および処理液中に維持する必要のない物質のサイズによって適切に決定されるべき である。とりわけ、ストローマおよび血液型物質を除去し、かつ後工程のナノろ過の処 理効率を高める目的から、約 100,000の分画分子量を有する孔径が適している。 また、クロスフローろ過システムにおいてはろ過装置に装着するろ過膜カセットの有 効ろ過面積を制御することにより処理液量に応じた膜面積での運転が可能である。 すなわち、処理液量に応じろ過装置に重ねて装着するろ過膜カセットの枚数を制御 することにより小容量カも大容量までのスケールへの対応が可能となる。
[0028] またさらに、本発明においてクロスフローろ過装置を用いた場合にはインライン滅菌 が可能となることから、合成吸着剤処理(2)と同様、処理液のパイロジェンフリーおよ び無菌性を保証することが可能となる。インライン滅菌の方法としては、高温スチーム または約 50°Cに加温したアルカリ水溶液の装置内循環が一般的に行われる。また、 アルカリ水溶液としては水酸ィ匕ナトリウムが好んで用いられる。
クロスフローろ過では、クロスフローろ過装置内を循環する必要物質の液量を制御 せずろ過を行!、、一定量となった段階で分散媒にて循環液量を規定量まで戻すと 、 う過程を繰り返すバッチ方式、および透過する液量に合わせて循環液に供給する分 散媒量を制御し循環液の液量を規定量に保つダイァろ過方式があるが、本発明で はどちらの方式を用いてもよい。分散媒については必要物質を安定的に分散、溶解 させうる溶媒であれば限定されることはない。また分散媒中、浸透圧調整剤、 pH調整 剤などの成分の有無についてはクロスフロー膜を劣化、破壊させる作用がない限り何 ら限定されるものではない。
[0029] 限外ろ過(3)は、上記吸着処理 (2)によって除去できな力つた溶媒、界面活性剤、 および溶血液由来の不要物質を、ヘモグロビンが使用されるヒトまたは何らかの生物 学的系により許容されるレベルにまで除去することができる。さらには、限外ろ過によ り、サイズ排除によるウィルスがある程度除去可能となる。
限外ろ過(3)で除去する溶媒、界面活性剤、あるいはストローマおよび血液型物質 の量は、前工程 (2)で使用する合成吸着剤量、処理時間など合成吸着剤処理条件 との兼ね合 、で決定される。
[0030] このように、 SD処理工程(1)後に、合成吸着剤による吸着処理(2)および限外ろ過
(3)を順次行うことにより、限外ろ過の効率の向上、すなわち処理時間の減少、収率 の向上が可能となり、エンベロープを有するウィルスの不活化されたヘモグロビン(S FH)が得られる。また、好ましくはこの後に付加されるろ過処理工程、特にナノろ過( 4)の効率の向上、すなわち処理時間の減少、収率の向上が可能となる。
ところで前述したように、被 SD処理液に対する精製方法は、いくつかあり、従来の S FHヘモグロビンに対する SD処理では、製造プロセスの効率面力 特に制限を受け ることはない。し力しながら、赤血球を直接 SD処理する本発明においては、本発明 者らの詳細な検討の結果、製造効率の観点から、上記工程 (2)次いで工程 (3)の順 序で組合わせて行うことが、特に好ま 、態様である。
[0031] なおたとえば、上記合成吸着剤による吸着工程(2)のみでは、実質的に、添加した 溶媒および界面活性剤の全量もしくは生体試料が使用されるヒトまたは何らかの生物 学的系により許容されるレベル、さらにはナノろ過においてナノフィルターの微細孔を 詰まらせないレベルにまで除去することは難しい。クロマトグラフィーによる吸着処理 のための大量の合成吸着剤を必要とし、さらには吸着処理物の無菌性を保証するこ とが難し!/、と 、う問題点がある。
また被 SD処理液をそのまま限外ろ過(3)することは、溶媒、界面活性剤およびスト ローマなどがフィルターの目詰まりを生じさせ、その結果、ろ過時間の増加、高価なフ ィルターの膜面積の増カロ、フィルターの高頻度の交換を必要とし、さらに収率の低下 を導くことになる。
[0032] また、他の精製方法として油抽出法がある。油抽出法は、油の添カ卩により生じた混 合物を撹拌し、沈降または遠心分離により上相と下相を分離し上相をデカントする。 しかしながら、 SD処理後にナノろ過を実施しょうとする場合には、ナノろ過に先立つ て溶媒、界面活性剤、および溶血液由来の不要物質とともに添加した油を充分に除 去する必要がある。油分の存在は、痕跡量でもナノフィルターの微細孔を塞ぎ、その 結果、ろ過の時間を増加させ、高価なフィルターの高頻度の交換を必要とし、そして 一般に生成物の収率を減少させる傾向がある。また、抽出効率によっては大量の油 の使用が必要となるが、界面活性剤については本質的に効率的に除去が困難であ る。
[0033] フォローファイバー透析法は、溶媒がフォローファイバーの小さな孔を塞ぎ、透析効 率を低下させる。また界面活性剤は高分子ミセルを形成するために透析効果が非常 に悪ぐ長時間かつ大量の透析外液が必要である。透析法は、本来、臨床検査に用 いる精度管理用物質もしくは標準物質並びにそれらの製造方法あるいは臨床検査 の改良方法として検体の調製方法に用いられる方法であり、透析によって目的とする 物質が希釈されたり大量処理には不向といえる。
[0034] 本発明では、通常、上記で得られたウィルス不活ィ匕ヘモグロビン (SFH)は、最終ェ 程としてろ過滅菌(6)して製品とするが、好ましくは最終のろ過滅菌(6)に先立って ナノろ過 (4)し、物理的ウィルス除去処理することが望ま 、。
(4)ナノろ過に用いるフィルタ一は、一般的に再生セルロースで形成された中空糸微 多孔膜または PVDF膜などが用いられる。
ナノろ過によるウィルス除去は、主としてマルチシーブ効果によるメカニズム、つまり ウィルス粒子の物理的な除去によりなされるため、孔径は、最終調製物中に維持す べき物質、およびサイズ排除によって除去すべきウィルスのサイズに応じて適切に決 定されるべきである。本発明の具体的例においては、 Pall社製の Ultipor VF DV20 および Millipore社製の Viresolve NFPを有効的に利用することができる。
[0035] ナノろ過のクリティカルパラメーターの一つに、最終調製物中に含まれる不純物量 が挙げられるが、本発明においては、最初に添加した溶媒および界面活性剤、なら びに溶血液由来のストローマおよび血液型物質などの不要物質を、前段の精製ェ 程である合成吸着剤の利用および限外ろ過操作の組み合わせにより除去しているた め、クリティカルパラメーターに適応する高精製された調製物をえるためのナノろ過処 理の効率の向上、すなわち処理時間の減少、収率の向上を可能とした。
[0036] 本発明では、必要に応じてろ過滅菌(6)に供する処理液、好ましくはナノろ過液を 限外ろ過(5)して濃縮することができる。
この限外ろ過(5)は、基本的に、上記精製工程における限外ろ過(3)と同様のシス テム、すなわちクロスフローろ過、タンジェンシャルフローろ過(TFF)を用いて行うこと ができる。ここで使用されるろ過膜は、濃縮に応じたサイズのものを用いる力 かつ最 終調製物中に維持すべき物質、および除去されるべき物質のサイズに応じた分画分
子量および孔径が適切に決定されるべきである。ヘモグロビンを濃縮する場合には、 約 10,000〜30,000の分画分子量を有する孔径が適している。
本発明において、この限外ろ過工程(5)により、ヘモグロビン濃度 45w/w%以上の 濃縮が可能である。
[0037] 本発明では、最終工程として、滅菌を目的とした孔径 0.2 mを有する滅菌フィルタ 一によるろ過滅菌(6)が行われる。滅菌フィルターの膜材質としては、酢酸セルロー スなどの再生セルロースおよびポリエーテルスルホン、 PVDFなどが挙げられる。 このろ過滅菌工程 (6)は、無菌性ヘモグロビン製品を得るために必要とされる通常 の工程である。本発明では、このろ過滅菌工程(6)に、ヘモグロビン濃度 45w/w%に 濃縮した高粘度の濃縮液を供しても、良好なろ過特性でのろ過が可能である。
実施例
[0038] 次に本発明を実施例により具体的に説明するが、以下の実施例は本発明を説明 するためのものであって、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、赤血球の SD処理により、全ての赤血球が溶血した ことは目視でも充分に識別可能であるが、赤血球の被 SD処理液を遠心分離 (条件: 18000G X 30分)し、上清のヘモグロビン濃度を分析することによって確認した。 また SD処理によりヘモグロビンおよびメトヘモグロビン還元酵素系が物理的にも化 学的にも変性して 、な 、ことは、生化学分析により確認した。
[0039] (実施例 1)ウィルススパイク試験
以下の実施例は、赤血球の SD処理によるウィルス不活ィ匕効果およびヘモグロビン の変性有無を調べるために行った。
< SD混合液の調製 >
ウィルススパイク試験時の 10倍濃度の SD混合液を以下のように調製した。まず、メ ィロン 84 (大塚製薬) 25mLを注射用蒸留水で各 lOOmLに希釈し、 25mM重炭酸 ナトリウム溶液を調製した。
界面活性剤;ポリオキシエチレン(10) ォクチルフエ-ルエーテル(Triton X-100 ;I CN Biomedicals In )またはデォキシコール酸ナトリウム(和光純薬)をトリ n-ブチル ホスフェート (TNBP;和光純薬)と所定量混合し、これら濃度が表 1に示す SD処理
時の 10倍濃度となる 25mM重炭酸ナトリウム溶液または注射用蒸留水溶液を調製し た。
[0040] <スパイク試験用サンプルの調製 >
以下の 2種のスノイク試験用サンプルを調製した。
ヒト天然血液全血から血小板、白血球、血漿成分を除去した濃厚赤血球製剤に、 生理食塩水を適量加え、撹拌し、遠心分離後、下相を回収して洗浄赤血球を得た。 この洗浄赤血球 65.23g (60mL)に、 20mM重炭酸ナトリウム溶液 240gをカ卩え、溶 血した後、遠心分離(10,OOOrpm X 30min)し、ストローマ含有ヘモグロビン溶液とし た。その後さらに 0.45 μ mシリンジフィルターにてろ過処理し、ストローマ不含へモグ ロビン溶液を得た。
[0041] <ウィルススパイク試験 >
上記で得られたストローマ含有または不含の各試験用サンプル 0.9mLに、ウィルス (Human herpesvirus 1)液 O.lmLを添カ卩し、充分混合した後、上記で調製した SD混 合液を O. lmL添加して、試験溶液全量を l.lmLとし、目的とする SD処理最終濃度 の試験溶液を調製した。試験溶液を調製後は、直ちに 7〜10°Cで表 1に記載の各時 間混和し、ウィルス不活ィ匕処理した。処理後、凍結保存(一 80°C)し、ウィルス感染価 の測定に供した。
[0042] <ウィルス感染価の測定方法 >
ウィルス感染価(TCID )は、 Reed- Munch (レード'ミユンヒ)法を使用した。
50
RF (Virus reduction factor:ウィルスクリアランス指数)は、未処理試料の感染価の 常用対数から溶媒 Z界面活性剤 (S/D)処理試料の感染価の常用対数を減じるこ とにより求めた値である。
なお使用したウィルス Human herpesvirus 1は、物理'ィ匕学的抵抗性が中程度である 結果を表 1に示す。
[0043] [表 1]
表 1
*ス トローマ不含ヘモグロビン溶液
[0044] [表 2]
表 1 (つづき)
[0045] <評価 >
上記試験において、 SD処理時、ストローマの存在の有無はウィルス不活ィ匕効果に 影響を及ぼすことはなかった。 Human herpesvirus 1を使用したスパイク試験では、測 定系の陽性対照のウィルス感染価が 8.0の時、その時の SD処理条件(Triton Χ-100 : 0.2%ΖΤΝΒΡ : 0.3%混合液、 8.5°CZ12時間)で、ストローマ存在の有無にかか わらず、ウィルス感染価≤3.0(log TCID ZlmL試験液)、ウィルスクリアランス指数
10 50
(リダクションファクター)≥ 5.0が示された。
また使用する界面活性剤は、いずれも RFが 5.0以上であった。使用した界面活性 剤は、 SD処理時の濃度が Triton Χ-100では 0.2%、デォキシコール酸ナトリウムでは 0.05%と低濃度側でも良好な結果が得られた。
[0046] (実施例 2)
以下の実施例 2は、本発明における好まし 、精製工程を確立するために行った。 <赤血球の SD処理 >
ヒト天然血液全血から血小板、白血球、血漿成分を除去した濃厚赤血球製剤に、 生理食塩水を適量加え、撹拌し、遠心分離後、下相を回収し、洗浄赤血球を得た。 サンプル 1:得られた洗浄赤血球 200gに、予め調製した SD混合液 (0.6%TNBP- 2.0%Triton X-100および適量の重炭酸ナトリウムを含む水溶液)を 200g添カ卩し、処 理液全量中の溶媒および界面活性剤濃度が 0.3%TNBP-1.0%Triton X-100の条 件下で、 SD処理 (4〜10°Cで 2時間以上撹拌)し、 400gのウィルス不活化溶血サン プル 1を得た。
サンプル 2:処理液全量中の溶媒および界面活性剤濃度が 0.3%TNBP-0.2%Tr iton X-100に変えた以外は、サンプル 1と同様にしてウィルス不活化溶血サンプル 2 を得た。
[0047] <精製 >
合成吸着剤処理:上記で得た各ウィルス不活ィ匕溶血サンプルのうち 200gを、アン バーライト(登録商標) XAD-16HP (Rohm & Haas社) 40mLを充填したカラム内を 流速 3.2LZminで 2時間循環させた。
油抽出処理:上記とは別に、上記ウィルス不活ィ匕溶血サンプル 50gおよび 70gに対 し、大豆油 50gおよび 30gを各々添カ卩して、大豆油 50%、 30%の混合液を調製した
後、遠心分離 (2.63kG, 12min,4°C)し、下相を回収した。
上記で処理した各サンプルにつ 、て、溶媒 (TNBP)および界面活性剤 (Triton X- 100N)の残存量を、 TNBPはガスクロマトグラフィーにより、 Triton X-100Nは高速液 体クロマトグラフィーによりそれぞれ定量分析した。結果を表 2に示す。
[表 3] 表 2
表中、 TNBP :トリ(n-ブチル)ホスフェート
[0049] 表 2に示されるように、合成吸着剤による吸着処理は、油抽出処理に比べ、溶媒お よび界面活性剤の除去効果が高いことが明らかとなった。特に、界面活性剤につい て、合成吸着剤処理による吸着処理は、油抽出処理に比べ、非常に高い除去効果 を示した。
[0050] (実施例 3)
実施例 2の結果に基づき、精製工程として、合成吸着剤による吸着処理後に限外 ろ過を行い、溶媒、界面活性剤およびストローマの除去効果を調べた。
(1)赤血球の SD処理
実施例 2のサンプル 2と同様に SD処理したウィルス不活化溶血サンプル(0.3%T NBP-0.2%Triton X- 100) 2.0kgを得た。
<精製>
(2)合成吸着剤処理:上記サンプル全量 2.0kgを、合成吸着剤アンバーライト XAD-
16HPを 500mL充填したカラム内を、流速 3.2LZminの速度で 2時間循環させた。 (3)限外ろ過:次いで、ろ過膜 (材質:ポリエーテルスルホン、孔径:分画分子量 100, 000、有効ろ過面積: 0.3m2、ザルトリウス製)を装着したクロスフローろ過装置 (ザル トコンスライスろ過装置、ザルトリウス製)を用い、循環液入口側圧力 0.1MPa、循環 液出口側圧力 0.025MPa、透過液側圧力 OMPaの条件で、限外ろ過を行い、透過 液 1.6kgを得た。
得られた透過液について、 TNBPおよび Triton Χ-100の残存量を実施例 2と同様 にして定量分析した。さら〖こ、ストローマ分析としてホスファチジルセリン、ホスファチ ジルコリン、スフインゴミエリンの残存量を、高速液体クロマトグラフィーにより定量分析 した。分析結果を表 3に示す。
[0051] [表 4]
表 3
N.D. :検出限界以下
[0052] 表 3に示すように、溶媒 TNBPについては、合成吸着剤処理(2)により 3.79 gZg まで、限外ろ過(3)により 0.19 gZgまで除去された。また界面活性剤 Triton X-100 については、合成吸着剤処理(2)により 6.0 /z gZgまで、限外ろ過(3)により検出限 界以下 (N.D.)まで除去された。
またストローマ分析としてのホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、スフインゴミ エリンについて、合成吸着剤処理 (2)および限外ろ過(3)を行うことにより検出限界 以下 (N.D.)に除去された。
上記のように限外ろ過(3)の前に合成吸着剤処理 (2)を行うことにより、限外ろ過(3 )に要する時間および収率の観点で安定な処理が可能であった。
[0053] (比較例 1)
浸透圧法により溶血した赤血球を、 SD処理してウィルス不活化する従来の方法を 実施し、限外ろ過による溶媒除去効果を調べた。
<溶血 >
実施例 2と同様の操作により調製した洗浄赤血球 10kgを、 20mM重炭酸ナトリウム 溶液 50L中に加え、赤血球を溶血した。溶血後、ろ過膜 (材質:ハイドロザルト、孔径 : 0.45 m、有効ろ過面積: 1.2m2、ザルトリウス製)を装着したクロスフローろ過装置 (ザルトコン 2プラス、ザルトリウス製)を用い、限外ろ過 (循環液入口側圧力 O.lMPa 、循環液出口側圧力 0.02MPa、透過液側圧力 O.OlMPa)を行い、さらに回収率を 上げるために 20mM重炭酸ナトリウム溶液による加水ろ過を繰り返し、透過液 90Lを 得た。
< SD処理 >
上記で得られた透過液に、予め調製した SD混合液(3.0%TNBP-2.0%デォキシ コール酸ナトリウムおよび適量の重炭酸ナトリウムを含む水溶液)を、処理液全量中 の溶媒および界面活性剤濃度が 0.3%TNBP-0.2%デォキシコール酸ナトリウムと なるように添加した。その後、先と同じ限外ろ過を再び行った後、得られた透過液に ついて、ろ過膜 (材質:ポリエーテルスルホン、孔径:分画分子量 100,000、有効ろ 過面積: 1.4m2、ザルトリウス製)を装着したクロスフローろ過装置 (ザルトコン 2プラス 、ザルトリウス製)を用いて、限外ろ過 (循環液入口側圧力 0.1MPa、循環液出口側 圧力 0.04MPa、透過液側圧力 O.OlMPa)を行い、さらに回収率を上げるために 20 mM重炭酸ナトリウム溶液による加水ろ過を繰り返し、透過液 118Lを得た。
得られた透析液について、溶媒 TNBPの残存量を定量分析した。結果を表 4に示 す。
[表 5]
表 4
[0055] 表 4に示すように、 TNBPの残存率は孔径 0.45 μ mでの限外ろ過後約 17.3%、孔 径分画分子量 100 , 000での限外ろ過後約 10.8%であつた。
ウィルス不活化処理後における孔径 0.45 μ mでの限外ろ過でのヘモグロビン回収 率は約 85%であるのに対し、孔径分画分子量 100,000での限外ろ過でのへモグロ ビン回収率は約 45%となり、回収率の著しい低下を示した。
[0056] (実施例 4)赤血球からのヘモグロビン精製
(1)赤血球の SD処理
実施例 2のサンプル 2と同様に SD処理したウィルス不活化溶血サンプル(0.3%T NBP-0.2%Triton X- 100) 50kgを得た。
<精製>
(2)合成吸着剤処理:上記サンプル全量 50kgを含むタンク内に、合成吸着剤アンバ 一ライト XAD- 16HPを 12L添加し、クレアミックス撹拌機(ェムテクニック社)を用いて 、回転数 300Hz、約 7〜10°Cの条件で 24時間撹拌した。
(3)限外ろ過:次いで、ろ過膜 (材質:ポリエーテルスルホン、孔径:分画分子量 100, 000、有効ろ過面積: 4.2m2、ザルトリウス製)を装着したクロスフローろ過装置 (ザル トコン 2プラス、ザルトリウス製)を用い、限外ろ過 (循環液入口側圧力 0.09MPa、循 環液出口側圧力 0.04MPa、透過液側圧力 0.02MPa)し、さらに回収率を上げるた めに 20mM重炭酸ナトリウム溶液による加水ろ過を繰り返し、透過液 147Lを得た。
[0057] (4)ナノろ過
得られた透過液を、ウィルス除去フィルター Viresolve NFP Opticap Capsule (Millip ore製)を用いて、 0.15MPa条件でナノろ過した。
(5)濃縮
ナノろ過液全量を、ろ過膜 (材質:ポリエーテルスルホン、孔径:分画分子量 30,00 0、有効ろ過面積: 1.2m2、ザルトリウス製)を装着したクロスフローろ過装置 (ザルトコ ン 2プラス、ザルトリウス製)にて限外ろ過し、ヘモグロビン濃度 45w/w%の濃縮液約 7 • 5kgを得た。
(6)ろ過滅菌
上記濃縮液を、滅菌を目的とした孔径 0.2 mの滅菌フィルター sartopore2 (材質: ポリエーテルスルホン、有効ろ過面積 0.45m2)によりろ過滅菌し、ウィルス不活化とと もに無菌性を保証したヘモグロビンを得た。
TNBPおよび Triton X-100の残存量を実施例 2と同様にして定量分析した。さらに
、ストローマ分析としてホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、スフインゴミエリン の残存量を、高速液体クロマトグラフィーにより定量分析した。
[0058] 工程(1)〜(4)後の溶媒 (TNBP)、界面活性剤 (Triton Χ-100)の残存量およびェ 程(2)〜 (4)後のストローマ分析としてホスファチジルセリンを定量分析した。結果を 表 5に示す。
[0059] [表 6]
表 5
N.D. :検出限界以下
[0060] 表 5に示すように、溶媒 TNBPは、合成吸着剤処理(2)により約 0.26%まで、限外 ろ過(3)により約 0.07%まで除去された。また、界面活性剤 Triton Χ-100は、合成吸
着剤処理 (2)により約 0.28%まで、限外ろ過(3)により検出限界まで除去された。ま た、ストローマ分析としてのホスファチジルセリンは、合成吸着剤処理(2)および限外 ろ過(3)を行うことにより、 0.14 μ gZgまで除去された。
また、上記のように合成吸着剤処理 (2)、限外ろ過(3)、ナノろ過 (4)の順で操作す ることにより、限外ろ過(3)およびナノろ過 (4)に要する時間および収率の観点で安 定な処理が可能であった。