タンパク質の分離方法
技術分野
[0001] 本発明は、タンパク質の等電点を利用した分離方法及びその応用に関する。
背景技術
[0002] 従来、タンパク質、糖タンパク質を分離精製する方法としては、塩析、ゲルろ過 (分 子ふるい)、精製する物質の物理化学的特性を利用した各種クロマトグラフィーを組 み合わせる手法が一般的であり、特に糖タンパク質精製にはレクチンを用いたァフィ 二ティー ·クロマトグラフィーが有効とされてきた。
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0003] しかし、分離精製方法によっては、抽出した!/、物質の回収率の低下や抽出物の変 質を引き起こし、また操作方法が煩雑であるなどの問題がある。
さらに、糖タンパク質の精製に有効とされるレクチン'ァフィユティー 'クロマトグラフィ 一法は、当該糖タンパク質の糖鎖の類型ごとにレクチンを選択する必要があり、 目的 糖タンパク質の糖鎖の類型判別が事前に必要となる。また、一般に分離精製にかか るコストが高 、ことが欠点である。
本発明は、以上の課題の少なくとも一つを解決することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0004] 以上の目的の下、本発明者らは、タンパク質の分離精製法として用いられている等 電点クロマトグラフィーに注目した。等電点クロマトグラフィーはタンパク質の等電点を 利用して分離する手法であり、支持体へ目的タンパク質を吸着させるステップ及び支 持体から目的タンパク質を溶出するステップを含む。従来の等電点クロマトグラフィー 法では、支持体への吸着操作を低イオン強度下で実施し、イオン強度を高くすること によって溶出するのが通常である。ところが、一般にイオン強度が低いほど目的物質 を吸着させる可能性は高いが、 目的物質以外の吸着可能性も高くなると考えられる。 本発明者らは力かる点に着目して、糖タンパク質を分離する際の条件について検討
を重ねた。その結果、吸着操作を高イオン強度下で実施し、そして溶出操作を低ィォ ン強度下で実施するという、従来の常識とは相反する条件とすることによって、試料 中の糖タンパク質を特異的に分離 ·回収することが可能であるとの知見を得た。さら に検討を進めたところ、支持体に対する吸着性の弱い糖タンパク質に関しては、吸着 時のイオン強度を低く設定することによって分離 '回収が可能であることが確認された 。また、上記特徴を有する分離方法は、糖タンパク質の分離 ·回収において特に優位 であると言えるが、吸着条件や使用する支持体の如何によつては、糖タンパクのみな らず一般的なタンパク質をも簡便かつ効率的に分離'回収することにも適用できると 考えられた。
本発明は以上の成果に基づ!、て完成されたものであって、次の構成を提供する。
[ 1 ]以下のステップを含んでなる、タンパク質の分離方法:
a)高イオン強度、且つ pHが目的タンパク質の等電点付近にない第 1条件下で、目 的タンパク質を含む試料をイオン交換体に接触させる吸着ステップ;及び
b)前記イオン交換体に吸着された成分を、イオン強度が前記第 1条件よりも低ぐ且 つ pHが前記第 1条件よりも前記等電点側にある第 2条件下で溶出する溶出ステップ
[2]前記第 1条件が、 0.05M以上の緩衝液を使用することを含む、 [1]に記載のタン パク質の分離方法。
[3]前記第 1条件が、弱酸及び弱塩基の組み合わせからなる高濃度の緩衝液を使 用することを含む、 [1]又は [2]に記載のタンパク質の分離方法。
[4]以下のステップを含んでなる、タンパク質の分離方法:
a)第 1のイオン強度、且つ pHが目的タンパク質の等電点付近にない第 1条件下で、 目的タンパク質を含む試料をイオン交換体に接触させる吸着ステップ。
b)前記イオン交換体に吸着された成分を、イオン強度が前記第 1条件と同等又は 低ぐ且つ pHが前記第 1条件よりも前記等電点側にある第 2条件下で溶出する溶出 ステップ。
[5]ステップ aとステップ bとの間に以下のステップを実施する、 [1]一 [4]のいずれか に記載のタンパク質の分離方法:
c)前記イオン交換体に吸着された目的タンパク質が溶出されな 、条件下で前記ィ オン交換体を洗浄するステップ。
[6]前記ステップ cが、前記第 1条件と実質的に同一の条件下で実施される、 [5]に 記載のタンパク質の分離方法。
[7]前記第 1条件の pHが目的タンパク質の等電点よりも低ぐ
前記イオン交換体が陽イオン交換体であり、
前記第 2条件の pHが目的タンパク質の等電点付近又は等電点よりも高い、 [1]一 [ 6]の 、ずれかに記載のタンパク質の分離方法。
[8]前記第 1条件の pHが目的タンパク質の等電点よりも高ぐ
前記イオン交換体が陰イオン交換体であり、
前記第 2条件の pHが目的タンパク質の等電点付近又は等電点よりも低い、 [1]一 [ 6]の 、ずれかに記載のタンパク質の分離方法。
[9]前記第 1条件が、トリス 'コハク酸緩衝液を使用することを含む、 [1]一 [8]のいず れかに記載のタンパク質の分離方法。
[10]前記第 2条件が、前記第 1条件で使用する緩衝液と同一の酸及び同一の塩基 の組合せカゝらなる緩衝液を使用することを含む、 [ 1 ]一 [9]の ヽずれかに記載のタン パク質の分離方法。
[11]前記第 2条件が、 pHが目的タンパク質の等電点付近にある緩衝液を使用する ことを含む、 [ 1]一 [ 10]の ヽずれかに記載のタンパク質の分離方法。
[12]前記試料が複数種類の目的タンパク質を含み、
ステップ bが、各目的タンパク質の等電点に対応した溶液条件で連続的に溶出する ステップ力もなる、 [1]一 [11]の 、ずれかに記載のタンパク質の分離方法。
[ 13]前記タンパク質が糖タンパク質である、 [ 1 ]一 [ 12]の 、ずれかに記載のタンパ ク質の分離方法。
発明の効果
本発明の方法では、イオン強度が高!ヽ条件で吸着操作 (及び洗浄操作)を行うため 、支持体 (イオン交換体)への不要物質の吸着を効率的に阻害できる。また、溶出時 にイオン強度を下げるという設定は、イオン強度上昇による不要物質の溶出を防除
するため、 目的タンパク質を特異的に溶出するために有効な溶出条件である。このよ うな条件を採用した本発明によれば、短時間で、かつ簡便な操作で目的のタンパク 質を分離精製することができる。
図面の簡単な説明
[図 1]図 1は、エンドゥのジアミンォキシダーゼを本発明の方法で精製した場合の結果 (クロマトグラフィーのグラフ)である。
[図 2]図 2は、ジァミンォキシダーゼを本発明の方法で精製した場合の収量等を示す 表 る。 F段に ίま従来の方法 (Purincation and Characterization of Amine Oxidase from Pea Seedlings, F. Vianello, A. Malek— Mirzayans, M. Luisa Di Paolo, R.
Stevanata, and A Rigo, Protein Express and Purification 15, 196—201(1999))におけ る収量等が示されている。
[図 3]図 3は、卵白を本発明の方法で精製した場合の結果 (クロマトグラフィーのグラフ )である。
[図 4]図 4は、卵白を本発明の方法で精製して得られた最終精製物を電気泳動した 結果を示す。
[図 5]図 5は、卵白を本発明の方法で精製した場合の結果 (クロマトグラフィーのグラフ )である。
[図 6]図 6は、卵白を本発明の方法で精製して得られた最終精製物を電気泳動した 結果を示す。
[図 7]図 7は、イオン交換体として CMセフアデックスを使用して、卵白アルブミン、トラ ンスフヱリン、及びストレプトアビジンを本発明の方法で分離した結果 (クロマトグラフィ 一のグラフ)を示す。
[図 8]図 8は、イオン交換体として CMセファロースを使用して、卵白アルブミン、トラン スフエリン、及びストレプトアビジンを本発明の方法で分離した結果 (クロマトグラフィ 一のグラフ)を示す。
[図 9]図 9は、イオン交換体として SPセフアデックスを使用して、卵白アルブミン、トラン スフエリン、及びストレプトアビジンを本発明の方法で分離した結果 (クロマトグラフィ 一のグラフ)を示す。
[図 10]図 10は、イオン交換体として SPセファロースを使用して、卵白アルブミン、トラ ンスフヱリン、及びストレプトアビジンを本発明の方法で分離した結果 (クロマトグラフィ 一のグラフ)を示す。
[図 11]図 11は、より高イオン強度の条件 (0.2Mトリス ·コハク酸緩衝液)で吸着を行つ た場合のクロマトグラフィーの結果である。
[図 12]図 12は、高濃度緩衝液で洗浄を行った場合のクロマトグラフィーの結果である
[図 13]図 13は、カーボニックアンヒドラーゼとパーォキシダーゼを本発明の方法で分 離した結果 (クロマトグラフィーのグラフ)を示す。
[図 14]図 14は、トリス ·酢酸緩衝液を用いてカラムに負荷した全タンパク質を分離した 結果 (クロマトグラフィーのグラフ)を示す。
[図 15]図 15は、トリス'クェン酸緩衝液を用いてカラムに負荷した全タンパク質を分離 した結果 (クロマトグラフィーのグラフ)を示す。
発明を実施するための最良の形態
本発明はタンパク質の分離方法に関し、第 1の局面では、以下のステップ a及び bを 含むことを特徴とする。
a)高イオン強度、且つ pHが目的タンパク質の等電点付近にない第 1条件下で、 目 的タンパク質を含む試料をイオン交換体に接触させる吸着ステップ。
b)前記イオン交換体に吸着された成分を、イオン強度が前記第 1条件よりも低ぐ且 つ pHが前記第 1条件よりも前記等電点側にある第 2条件下で溶出する溶出ステップ 本発明において、分離対象となるタンパク質 (本明細書において「目的タンパク質」 ともいう)の種類は特に限定されない。好ましくは、糖鎖を有するタンパク質、即ち糖タ ンパク質が分離対象となる。本明細書において用語「タンパク質」は、それが糖タンパ ク質との対比において記載されていることが明らかな場合を除いて、糖タンパク質を 含む概念を表す。
本発明における分離対象のタンパク質として、卵白アルブミン、ジアミンォキシダー ゼ、トランスフェリン等を具体例として挙げることができる。後述の実施例に示すように
本発明の方法によれば、その分離を試みた卵白アルブミン、ジアミンォキシダーゼ、 及びトランスフェリンの全てについて分離に成功した。このように、本発明は多種多様 な糖タンパク質の分離に利用できる方法である。
[0008] 本発明において「分離方法」とは、試料中から目的のタンパク質を分離することをい うが、ここでの分離は、精製の概念を含む用語として使用する。
例えば、複数種類のタンパク質 (その中の一部が糖タンパク質である場合を含む) が共存する試料中から、 目的タンパク質のみを分離することに本発明を利用すること ができる。複数種類のタンパク質を一回の分離操作によって分離してもよい。この場 合には、複数種類のタンパク質が目的タンパク質となる。本発明は特に、タンパク質と 糖タンパク質とが混在する試料中から、特定のタンパク質又は糖タンパク質を分離す ることに好適である。具体的にはたとえば、タンパク質とそれに糖鎖が付加されてなる 糖タンパク質とが試料中に共存する場合にぉ ヽて、 Vヽずれかを分離することに本発 明を利用することができる。
[0009] ステップ aは、高イオン強度且つ pHが目的タンパク質の等電点付近にな 、条件 (第 1条件)で実施される。このステップにおける試料とイオン交換体との接触は、典型的 には、カラムに詰めたイオン交換体に試料を添加することによって実施される。通常、 事前に適当な緩衝液で平衡ィ匕したカラムに試料を添加する。このようなカラムクロマト グラフィ一の形態を採用すれば、吸着操作から溶出操作までを連続的に実施するこ とが容易となる。一方、カラム等の特別の容器に充填していないイオン交換体に対し て試料を直接添加し、 目的タンパク質とイオン交換体との接触を実施してもよい。この ようなバッチ式の処理方法は、一度に大量の試料を処理することが容易になると 、う 利点を有する。
[0010] ステップ aは高イオン強度下で実施される。本発明者らの検討によって、高イオン強 度下で吸着操作を実施すれば、夾雑物の吸着を阻害できること、即ち試料中の目的 タンパク質を特異的に吸着できることが判明した。従来の等電点クロマトグラフィーで は、例えば 20mMの緩衝液が使用されるなど、低イオン強度下で吸着操作が実施さ れる。本発明では、このような低イオン強度下ではなぐ例えば 0.1Mという高濃度のト リス'コハク酸緩衝液を使用する条件など、従来の条件に比較して非常に高いイオン
強度下で吸着操作を実施することを特徴の一つとする。本発明における「高イオン強 度」とは、一般に目的タンパク質の種類やそれを含む試料の種類、或いは使用する 緩衝液の種類などによって異なるが、弱酸と弱塩基の組合せからなる緩衝液を使用 するとして例えば約 0.05M以上、好ましくは約 0.075M以上、より好ましくは約 0.1M以 上、更に好ましくは 0.2M以上である。上限値は特に限定されず、例えばその濃度が 約 0.05M—約 1.5M、約 0.075M—約 1.0M、又は約 0.1M—約 0.5Mの範囲にある緩衝 液を採用することができる。
[0011] 分離目的のタンパク質(目的タンパク質)の等電点などを考慮してイオン交換体が 選択される。陽イオン交換体を使用する場合には、イオン交換体への目的タンパク質 の吸着を確保するために、目的タンパク質が正に荷電する条件、即ち目的タンパク 質の等電点よりも低 ヽ pH条件 (低 pH条件)で吸着操作を実施する。ここでの低 pH条 件は目的タンパク質の等電点によって異なり、目的タンパク質の等電点が pH4.5の場 合を例に採れば、例えば 4.0— 4.3に設定することができる。また、試料中に複数の目 的タンパク質が混在し、これらを連続的に分離ないし回収する場合には、全ての目的 タンパク質が正に荷電するように pH条件を設定する。例えば等電点がそれぞれ pH4.2、 4.5、 6.2の目的タンパク質が混在する場合においては、例えば pH4.0— 4.1の 条件下で吸着操作を実施することができる。
一方、陰イオン交換体を使用する場合には上記同様に、目的タンパク質が負に荷 電する条件、即ち目的タンパク質の等電点よりも高い pH条件 (低 pH条件)で吸着操 作を実施する。
以上のように、 pHが目的タンパク質の等電点付近にない条件とすることによって、ィ オン交換体に目的タンパク質を吸着させる。
[0012] 吸着時の pHを設定するにあたっては、目的タンパク質の pH安定性を考慮すること が好ましい。即ち、活性を保持した状態で目的タンパク質を分離する必要がある場合 には、失活な 、し活性の低下がな 、範囲内の pH条件とすることが好ま 、。
[0013] イオン交換体の種類は特に限定されない。例えば、スチレン系、アクリル系、メタァ クリル系、フエノール系、脂肪族系、ピリジン系、デキストラン系、又はセルロース系の 基材に、陽イオン、陰イオン又は両性イオン交換基が導入されたイオン交換体 (榭脂
)を使用することができる。陽イオン交換基として例えばカルボキシル基 (CM)や硫酸 基(SM、 MonoSなど)、陰イオン交換基としては例えばアミノ基(DEAE、 QAE、 M onoQなど)が使用される。多種多様なイオン交換体が市販されており(例えば生化 学工業株式会社、アマシャム ノィォサイエンス株式会社などが販売している)、本 発明では適当な特性を備える市販のイオン交換体を利用することができる。
[0014] 試料の吸着時に使用する緩衝液として、弱酸及び弱塩基の組合せ力もなるもの(ト リス.コハク酸緩衝液、トリス'クェン酸緩衝液、トリス '酢酸緩衝液など)を使用すること が好ましい。カゝかる特性の緩衝液を使用すれば、それを構成する酸又は塩基の濃度 を低下させることによって、後述の溶出条件 (第 2条件)で使用される、低イオン強度 かつ pHが第 1条件よりも目的タンパク質の等電点側にある緩衝液を調製できる。従つ て、酸及び塩基の組合せの異なる複数種類の緩衝液を用意する必要がなくなる。ま た、緩衝液の酸又は塩基の比率の変更のみによって吸着操作 (及び洗浄操作)から 溶出操作への移行が可能となることから全体の操作が一層簡便となり、また、一連の 操作を連続的に実施することが可能となる。
尚、吸着操作に先立ってイオン交換体を平衡ィ匕する場合には通常、吸着操作と同 一の緩衝液を使用する。
[0015] ステップ aの後、溶出ステップ (ステップ b)を実施する。この溶出ステップは、イオン 強度が第 1条件よりも低ぐ且つ pHが第 1条件よりも目的タンパク質の等電点側にあ る第 2条件下で実施される。この第 2条件ではまず、イオン強度が第 1条件のそれより も低く設定される。本発明の方法はこのように吸着操作を高イオン強度下で行い、溶 出操作を低イオン強度で行うことを特徴とするものであり、当該特徴によって目的タン パク質 (特に糖タンパク質)を特異的に分離できるという作用 ·効果が得られる。即ち、 溶出時のイオン強度を低くすることによれば、イオン交換体に吸着された不要成分の 溶出を防除できる。即ち、目的タンパク質を特異的かつ効率的に溶出することが可能 となる。
第 2条件におけるイオン強度は、第 1条件におけるイオン強度よりも低いことを必要 条件として、その他の諸条件(目的タンパク質の種類やそれを含む試料の種類、或 いは使用する緩衝液の種類など)を考慮して設定することができる。例えば、弱酸と
弱塩基の組合せ力もなる緩衝液を使用するとしてその濃度力 約 0.05M—約 1.5Mの 範囲内、好ましくは約 0.075M—約 1.0Mの範囲内、更に好ましくは約 0.1M—約 0.75M の範囲内において第 1条件の場合よりも低くなるように第 2条件を設定する。
[0016] 次に、第 2条件では、 pHが第 1条件よりも目的タンパク質の等電点側に設定される。
具体的には、イオン交換体として陽イオン交換体を使用して吸着ステップを実施する 場合には、第 2条件における pHを目的タンパク質の等電点付近又は等電点よりも高 く設定する。他方、イオン交換体として陰イオン交換体を使用して吸着ステップを実 施する場合には、第 2条件における pHを目的タンパク質の等電点付近又は等電点よ りも低く設定する。
[0017] 溶出ステップでは、以上の第 2条件を満たす溶出液を用意し、それを吸着ステップ 後のイオン交換体に接触させる。吸着ステップに供した試料が複数種類の目的タン パク質を含む場合には、各目的タンパク質の等電点に対応した溶液条件で連続的 に溶出することによって、連続的にこれら複数の目的タンパク質を溶出することができ る。
[0018] 吸着ステップで使用した緩衝液と全く異なる組成の緩衝液を溶出液として用いるこ ともできるが、吸着ステップで使用した緩衝液にぉ ヽて酸及び塩基の ヽずれかの濃 度を低下させる(他方の濃度はそのままに維持することが好まし 、)ことで得られる緩 衝液を使用することが好ましい。このような態様では、吸着ステップで使用する緩衝 液と同一の酸及び同一の塩基の組合せ力もなる緩衝液を使用して溶出ステップを実 施することとなる。この態様によれば第 2条件の一つ、即ち低イオン強度であることを 満たすのと同時にもう一つの条件、即ち pHが第 1条件よりも目的タンパク質の等電点 側にあることを満たすことができる。即ち、例えば吸着操作で使用した緩衝液の pHが 目的タンパク質の等電点よりも低い場合には、緩衝液を構成する酸の濃度を低下さ せることによって、イオン強度が低下し、併せて pHが目的タンパク質の等電点側へと シフト (高 pHへのシフト)し、第 2条件を満たす環境が得られる。同様に、吸着操作で 使用した緩衝液の pHが目的タンパク質の等電点よりも高い場合には、緩衝液を構成 する塩基の濃度を低下させることによって、イオン強度が低下し、併せて pHが目的タ ンパク質の等電点側へとシフト (低 pHへのシフト)し、第 2条件を満たす環境が得られ
る。以上の態様 (使用する緩衝液中の酸又は塩基の濃度を変化させる態様)によれ ば、イオン強度の低下及び pHの調整を同時にそして簡便な操作で達成することがで きる。し力も、連続的なイオン強度の低下及び PHの調整も簡便な操作によって可能と なることから、特に、試料中に等電点の異なる複数のタンパク質又は糖タンパク質が 混在しており、それらをそれぞれ分離ないし分取する場合において特に有効な態様 となる。
[0019] 吸着ステップ (ステップ a)と溶出ステップ (ステップ b)の間に洗浄ステップ (ステップ c )を実施することが好ましい。この洗浄ステップは、吸着ステップの結果としてイオン交 換体に吸着した不要成分 (試料中の目的タンパク質以外の成分)を洗浄、除去する 目的で行う。従って、不要成分を効果的に除去でき、且つイオン交換体に吸着され た目的タンパク質が溶出されない条件を満たす洗浄液を使用することが好ましい。例 えば、当該ステップとして、吸着操作に使用した緩衝液と同一組成の緩衝液 (即ち実 施的に同一条件)でイオン交換体を洗浄する。勿論、洗浄効果を高めることを目的と して、緩衝液の組成を適宜変更したものを洗浄液として用いてもよい。また、適当な 塩を少量付加した緩衝液を洗浄液としてもょヽ。良好な洗浄効果が得られるように、 十分な量の洗浄液で洗浄することが好ましい。例えば、カラムに充填したイオン交換 体を使用する場合、イオン交換体の 2倍量 (体積基準)一 30倍量、好ましくは 3倍量 一 20倍量の洗浄液を使用して当該ステップを実施する。
[0020] 本発明の方法を実施する際の温度条件は特に限定されないが、一般に室温又は 低温 (例えば 4°C一 10°C)で一連の操作を行う。
[0021] 次に、本発明の他の局面について説明する。尚、試料とイオン交換体との接触方 法、イオン交換体の種類及びそれに対応した吸着条件、吸着時の pHの設定、溶出 時の pHの設定、溶出方法、洗浄ステップの併用が好ましいことなど、以下で特に言 及しない事項、及びその詳細な説明を省略する事項については、上記局面において 対応する記載が援用される。
この局面の分離方法は、以下のステップ a及び bを含むことを特徴とする。 a)第 1のイオン強度、且つ pHが目的タンパク質の等電点付近にない第 1条件下で、 目的タンパク質を含む試料をイオン交換体に接触させる吸着ステップ。
b)前記イオン交換体に吸着された成分を、イオン強度が前記第 1条件と同等又は 低ぐ且つ pHが前記第 1条件よりも前記等電点側にある第 2条件下で溶出する溶出 ステップ。
[0022] ここでのステップ aは、第 1イオン強度且つ pHが目的タンパク質の等電点付近にな い条件 (第 1条件)で実施される。第 1イオン強度としては、比較的低いイオン強度が 採用される。これによつて、支持体に対する吸着性の弱いタンパク質 (又は糖タンパク 質)を吸着させるのに好適な条件となる。従って、この局面の分離方法は通常、支持 体に対する吸着性の弱いタンパク質 (又は糖タンパク質)を分離,回収することに利用 される。
[0023] 本発明における「第 1イオン強度」は、一般に、目的タンパク質の種類やそれを含む 試料の種類、或いは使用する緩衝液の種類などによって異なるが、弱酸と弱塩基の 組合せ力 なる緩衝液を使用するとして例えば約 0.08M以下、好ましくは約 0.05M以 下、より好ましくは約 0.03M以下、更に好ましくは 0.02M以下である。下限値は特に限 定されず、例えばその濃度が約 0.001M—約 0.08M、約 0.01M—約 0.05M、又は約 0.02M—約 0.03Mの範囲にある緩衝液を採用することができる。
[0024] ステップ aの後、溶出ステップ (ステップ b)を実施する。この溶出ステップは、イオン 強度が第 1条件と同等又は低ぐ且つ pHが第 1条件よりも目的タンパク質の等電点側 にある第 2条件下で実施される。この第 2条件ではイオン強度が第 1条件のそれと同 等又はそれよりも低く設定される。本発明の方法は、イオン強度を高めて溶出操作を 行うのではないことを特徴とするものであり、当該特徴によって目的タンパク質 (特に 目的糖タンパク質)を特異的に分離できるという作用 ·効果が得られる。即ち、溶出時 のイオン強度が低く設定されることによって、イオン交換体に吸着された不要成分の 溶出を防除できる。即ち、目的タンパク質を特異的かつ効率的に溶出することが可能 となる。
第 2条件におけるイオン強度は、第 1条件におけるイオン強度と同等又はそれよりも 低いことを必要条件として、その他の諸条件(目的タンパク質の種類やそれを含む試 料の種類、或いは使用する緩衝液の種類など)を考慮して設定することができる。 ここでの「イオン強度が同等」であるとは、比較される二つのイオン強度が同一であ
る力、又は比較される二つのイオン強度で溶出したときに両者の溶出パターンの間 に実質的な差が認められな 、程度の相違しかな 、ことを 、う。例えば溶出時のイオン 強度を、吸着時のイオン強度の約 1倍一約 5倍 (例えば吸着時の緩衝液濃度を約 0.02Mとし、溶出時を約 0.02M—約 0.1Mで行う場合が該当する)、好ましくは約 1倍一 約 3倍、さらに好ましくは約 1倍一約 1.5倍、最も好ましくは約 1倍一約 1.2倍としたときを 、上記の「イオン強度が同等」である場合の具体例として挙げることができる。
例えば、弱酸と弱塩基の組合せ力もなる緩衝液を使用するとしてその濃度が約 0.001M—約 0.08M、約 0.01M—約 0.05M、又は約 0.02M—約 0.03Mの範囲内におい て、第 1条件の場合と同等又は低くなるように第 2条件におけるイオン強度を設定す ることがでさる。
以下、本発明に関する実施例 (実験例を含む)を説明する。
実施例 1
<ジァミンォキシダーゼの簡易精製法の検討 >
エンドゥのジァミンォキシダーゼ(以下、「DAO」 t\、う)をモデルとして、等電点を利 用した糖タンパク質の簡易精製法の開発を試みた。具体的には以下の手順で DAO の分離精製を試み、その結果を評価した。
a.材料と方法
陽イオン交換体である SPセフアデックスを詰めたカラム(SPセフアデックス C- 50 (アマ シャム バイオサイエンス株式会社) 2.5x6cm)を用意し、これを 0.1Mトリス 'コハク酸 緩衝液 (PH6.5)で平衡化した。一方、エンドゥを 0.2Mトリス 'コハク酸緩衝液 (pH7.5) で破砕抽出しナイロン 'メッシュ(74 μ m)を通して大きな未破砕成分ゃ不溶成分を取 り除 ヽた後、酵素液の pHを飽和コハク酸で pH6.5とすると同時に使用した緩衝液量の 2倍になるように蒸留水を加えた。この酵素溶液を遠心分離(15,000g 20分)し、その 上澄み区分をとつた (ステップ 1 :粗酵素液)。次に、この粗酵素液をカラムに添加した 。添加後、カラムに 20倍量 (対カラムの体積)の 0.1Mトリス 'コハク酸緩衝液 (pH6.5)を 通した。次に、 0.1Mトリス 'コハク酸緩衝液 (pH8.0)で酵素を溶出した。フラクションコ レクター(モデル 2110、バイオラッド社)を用いて溶出成分を分画した(1画分あたり 5.1ml)。
b.結果
以上の手順で実施したクロマトグラフィーの結果を図 1のグラフに示す。横軸は画分 番号(時間軸)、縦軸は 280nmでの OD (左)と、 DAO活性 (右)である。画分 5付近に OD280及び DAO活性のピークが認められる。画分 3— 11をまとめて最終精製物 (ステ ップ 2 :最終精製物)とした。粗酵素液、及び最終精製物について全タンパク質量、 DAO活性量 (比活性)、精製度 (粗酵素液の比活性を 1としたときの比活性)、収量を 測定し比較した(図 2の表)。最終精製物では、比活性が H /z kat/mg 精製度が 115であって、従来の方法(図 2の表の下段)と遜色ないレベルであった。収量につい ては 88.7%であって、従来の方法に比べて格段に高い。
純度を確認するために最終精製物を SDS電気泳動に供した。その結果、銀染色レ ベルで均一なバンドが確認された (結果を図示せず)。
以上の結果から、エンドゥ破砕抽出物ろ過液は、 0.1Mトリス 'コハク酸緩衝液 (PH6.5)でカラムにのせ洗浄するとほとんどの不要物質が吸着されずに流出し、 0.1M トリス.コハク酸緩衝液 (pH8.0)で溶出すると DAOが単離できることがわ力つた。
c.評価
エンドゥのジァミンォキシダーゼ(DAO)は、 1994年 McGuirlらによって精製方法が 確立された糖タンパク質である。彼らの精製方法は、植物体力ゝらの破砕抽出、硫安 沈殿、有機溶媒沈殿、 DEAE—セルロースカラムクロマトグラフィー、ゲルろ過、ヒドロキ シアパタイト 'カラムクロマトグラフィーによる方法で、沈殿、透析を繰り返しながら不純 タンパク質を分離排除し、さらにタンパク質の電気的性質や分子量の違いを利用す る一般的な方法である。この手法によると、通常 3— 4日要するものである。
本実施例の方法、即ち、支持体として陽イオン交換体、緩衝液としてトリス 'コハク酸 緩衝液を用いた簡易精製法では、半日(12時間)以内という短時間で、銀染色レベル で均一な DAOを得ることに成功し、また従来法と同程度以上の回収率を示した。 実施例 2
<糖タンパク質の吸着特性の検討 >
(1-1)卵白アルブミンの分離精製 1 (溶出条件として等電点を選んだ場合)
DAOの精製に有効であると確認された簡易精製法の手法が、他の糖タンパク質の
精製にも適用できるカゝ否かを検証するために、 13種類のタンパク質 ·糖タンパク質の 存在が確認されて 、る卵白を試料に用いて、支持体への吸着性等にっ 、て明らか にした。
a.材料及び方法
陽イオン交換体である CMセフアデックスを詰めたカラム(CMセフアデックス C- 50 (ァ マシャム バイオサイエンス株式会社) 1.6x6cm)を用意し、これを 0.1Mトリス 'コハク 酸緩衝液 (PH4.0)で平衡ィ匕した。一方、卵白をメスシリンダーに取り、その 5倍量の蒸 留水をカ卩え、 30分間攪拌した。この溶液力も 20mLを取って、 0.2Mトリス 'コハク酸緩 衝液 (pH7.5) 50mLをカ卩えた後、飽和コハク酸をカ卩ぇ pHを 4.0にした。さらにこの溶液 全体を蒸留水で lOOmLにした (ォボムチンは卵白を 2— 3倍量の水で希釈した場合や 、 pH4で処理すると沈殿するのでこれらの操作で効率的に取り除ける)。次に遠心分 離(15,000g 20分)し、その上澄み区分 10mLをカラムに添カ卩した。続いて、カラムに 1 0倍量 (対カラムの体積)の 0.1Mトリス 'コハク酸緩衝液 (pH4.0)を通した。次に、 0.1M トリス.コハク酸緩衝液(pH4.5)を通し、 280nmの ODが 0.1以下になったところで、さら に 0.1Mトリス 'コハク酸緩衝液 (pH8.0)を通した。フラクションコレクター(モデル 2110、 ノィォラッド社)を用いて溶出成分を分画した(1画分あたり 5. lml)。
b.結果
以上の手順で実施したクロマトグラフィーの結果を図 3のグラフに示す。横軸は画分 番号(時間軸)、縦軸は 280nmでの ODである。画分 22— 36付近に 280nmのピークが 認められる。画分 22— 36をまとめ最終精製物とした。 SDS電気泳動に供したところ、 銀染色レベルで均一のバンドが認められた(図 4)。他の陽イオン交換体を用いて同 様の手順で精製した場合にも、類似の傾向が認められた (結果を図示せず)。
c.評価
卵白に最も多量に含まれる卵白アルブミン (等電点 PH4.5)を一段階で効率的に回 収することができた。
(1-2)卵白アルブミンの分離精製 2 (等電点を越えた溶出条件)
溶出時の条件を変えて (1-1)と同様に卵白アルブミンの分離精製を行った。洗浄後 の溶出を次の通り行った。即ち、 0.1Mトリス 'コハク酸緩衝液 (pH4.75)を通し、 280nm
の ODが 0.1以下になったところで、さらに 0.1Mトリスを通した。フラクションコレクター( モデル 2110、バイオラッド社)を用いて溶出成分を分画した(1画分あたり 5.1ml)。 以上の手順で実施したクロマトグラフィーの結果を図 5のグラフに示す。横軸は画分 番号(時間軸)、縦軸は 280nmでの ODである。画分 14一 19付近に 280nmのピークが 認められる。画分 14一 19をまとめ最終精製物とした。図 6は、 SDS電気泳動によるタ ンパク質銀染色結果の結果である。画分 14一 19には卵白アルブミンのみのバンドが 確認された。その後、 0.1Mトリス(約 pH9.5)で洗浄したところ、画分 32— 35に OD280n mの吸収が認められた力 SDS電気泳動により卵白アルブミンのバンドは確認されな かった。
ここで、目的タンパク質を最も効率的に回収するという課題に対する解決策には、 卵白アルブミン (等電点 PH4.5)の分離精製 1及び 2の溶出条件と結果が参考となる。 分離精製 1と 2の相違点は、卵白アルブミン溶出ステップの緩衝液 pHがわずかに異 なる点である。分離精製 1では、溶出ステップの緩衝液に卵白アルブミンの等電点と 同じ PH4.5のものを用いており、分離精製 2では、吸着 ·洗浄ステップに使用した緩衝 液の pH (pH4.0)と溶出ステップに使用した緩衝液の pH (pH4.75)との間に卵白アル ブミンの等電点(pH4.5)がある。
分離精製 1の結果は、溶出緩衝液の pHが卵白アルブミンの等電点と等しくなること で卵白アルブミンが溶出することを示している(図 3)力 分離精製 2の結果は、吸着- 洗浄緩衝液 PH4.0で陽イオン交換体に吸着している卵白アルブミン力 等電点を超 える pHの緩衝液 (pH4.75)によって急激に溶出されることを示す (図 5)。等電点( PH4.5)で溶出させた場合 (分離精製 1、図 3)は、 OD280nmの吸収が 0.5程度 (ピーク トップ)、画分 22— 36 (15本)のフラクションコレクターに回収された力 等電点を超え た条件 (PH4.75)で溶出させた場合 (分離精製 2、図 5)では、 OD280nmの吸収が 1.2 程度 (ピークトップ)、画分 14一 19 (5本)のフラクションコレクターに回収され、 OD280nmの吸収は画分 20以降(pH4.75での区分)ではほとんど認められなかった。 図 6の SDS電気泳動によるタンパク質銀染色結果とともに検討した結果、分離精製 2 で示したような目的タンパク質の等電点を越える溶出緩衝液 pH条件を採用した場合 、さらに効率的な回収を可能とすることを示唆している。ただし、目的タンパク質の等
電点に近い等電点を持つ吸着物質が存在する場合や、 目的タンパク質よりも吸着力 の弱 ヽ吸着物質が存在する場合には注意を要する。
(2)単離方法として応用の可能性の検討
次に、複数の糖タンパク質が混在する試料から各糖タンパク質を単離する方法とし て、上記の簡易精製法が有効である力否かを検討した。具体的には、複数の糖タン パク質及びタンパク質が混在する試料から各糖タンパク質を分離できるか否かを検
B、Jした。
a.材料及び方法
糖タンパク質として卵白アルブミン (等電点 pH4.5、分子量 45k、シグマ ·アルドリッチ 株式会社)及びトランスフェリン (等電点 pH6.2、分子量 80k、シグマ ·アルドリッチ株式 会社)と、非糖タンパク質としてストレプトアビジン (全タンパク質としての等電点 pH6.4 、表面の等電点 pH5.0— 5.5、分子量 60k 4量体、ナカライ規格特級 GR、ナカライテス ク株式会社)とを含む溶液を試料とした。 4種類のイオン交換体 (CMセフアデックス C- 50 (アマシャム バイオサイエンス株式会社)、 CMセファロース Fast Flow (アマシャ ム バイオサイエンス株式会社)、 SPセフアデックス C-50 (アマシャム バイオサイェン ス株式会社)、 SPセファロース Fast Flow (アマシャム バイオサイエンス株式会社))を 使用し、それぞれにつ!/ヽて実施例 1と同様の手順で試料の添カ卩(0.1Mのトリス'コハク 酸緩衝液 (pH4.0) )及び洗浄 (0.1Mのトリス ·コハク酸緩衝液 (pH4.0) )を行った。溶出 時の溶液条件は、コハク酸濃度の連続的な減少による約 PH4.0—約 pH9.0のグラジ ェントとした。
b.結果
卵白アルブミン、トランスフ リン、及びストレプトアビジンを含む溶液を試料とした、 CMセフアデッタス、 CMセファロース、 SPセフアデッタス、及び SPセファロースによるク 口マトグラフィ一の結果を図 7— 10のグラフに示す。各グラフにおいて横軸は画分番 号(時間軸)、縦軸は 280應での OD (左)及び溶出液の pH (右)である。図 7のグラフ では画分 26付近に卵白アルブミンのピーク、画分 37付近にストレプトアビジンのピー ク、そして画分 39付近にトランスフェリンのピークがそれぞれ認められる。同様に、図 8 のグラフでは画分 16付近に卵白アルブミンのピーク、画分 35付近にストレプトァビジ
ンのピーク、そして画分 38付近にトランスフェリンのピークがそれぞれ認められる。同 様に、図 9のグラフでは画分 13付近に卵白アルブミンのピーク、画分 28付近にストレ プトアビジンのピーク、そして画分 37付近にトランスフェリンのピークがそれぞれ認め られる。同様に、図 10のグラフでは画分 19付近に卵白アルブミンのピーク、画分 31付 近にストレプトアビジンのピーク、そして画分 38付近にトランスフェリンのピークがそれ ぞれ認められる。
[0029] c.評価
2種類の糖タンパク質と非糖タンパク質 (ストレプトアビジン)は、高イオン強度のトリス 'コハク酸緩衝液を使用することによって、試したすべてのイオン交換体に吸着し、等 電点付近で溶出した。図 9や図 10に示されるように、複数種類の糖タンパク質が混在 する試料を用いた場合においても、個々の糖タンパク質を高精度で分離できることが 確認された。尚、この実験例の条件では、非糖タンパク質であるストレプトアビジンに ついてもイオン交換体への吸着性が認められた。但し、試験に供した N型糖タンパク 質は高い吸着性、及び良好な溶出性を示し、本発明の方法が汎用性に優れること、 即ち、様々な糖タンパク質の分離精製に本発明の方法を適用可能であることが実証 された。
[0030] (3)緩衝液濃度の影響の検討
上記 (2)の実験では、吸着用及び洗浄用緩衝液として 0.1Mトリス ·コハク酸緩衝液を 使用した。緩衝液の濃度 (イオン強度)と、イオン交換体への吸着特性及び溶出特性 との関係を調べるために、 0.2Mトリス 'コハク酸緩衝液 (pH4.0)を用いて、(2)と同様の 実験を実施した。
a.材料及び方法
吸着及び洗浄用として 0.2Mトリス ·コハク酸緩衝液 (pH4.0)を用い、溶出はコハク酸 濃度の連続的な減少による約 PH4.0—約 pH9.0のグラジェントとした。試料としては、 卵白アルブミン (等電点 pH4.5、分子量 45k、シグマ ·アルドリッチ株式会社)、トランス フェリン (等電点 PH6.2、分子量 80k、シグマ ·アルドリッチ株式会社)及びストレブトァ ビジン(全タンパク質としての等電点 pH6.4、表面の等電点 pH5.0— 5.5、分子量 60k 4 量体 非糖タンパク質、ナカライ規格特級 GR、ナカライテスタ株式会社)を混合したも
のを試料とした。イオン交換体としては CMセフアデックスを使用した。その他の実験 方法は上記 (2)と同様とした。
b.結果
クロマトグラフィーの結果を図 11に示す。図 11のグラフにお 、て横軸は画分番号( 時間軸)、縦軸は 280nmでの ODである。画分 16付近に卵白アルブミンのピーク、画分 38付近にトランスフェリンのピークが認められる。非糖タンパク質ストレプトアビジンは イオン交換体に吸着せず、素通りした。
c.考察
緩衝液として 0.2Mトリス 'コハク酸緩衝液を用いた場合、糖タンパク質はすべて吸着 したが、非糖タンパク質であるストレプトアビジンは吸着されず流出した。即ち、使用 する緩衝液の濃度を適宜調整することによって、糖タンパク質を特異的にイオン交換 体に吸着させ、そして溶出できることが示された。このように、本発明の簡易精製法は 、糖タンパク質を特異的に分離精製する方法として有効である。
一方、(2)の結果を考え合わせると、条件によっては非糖タンパク質も糖タンパク質 同様にイオン交換体への吸着性を示すが、糖タンパク質の方が、より吸着力が強い 傾向があるといえる。従って、吸着時の条件を、非糖タンパク質力 オン交換体に吸 着できない高イオン強度に設定すれば、糖タンパク質を特異的に吸着させることがで きる。即ち、非糖タンパク質が吸着されないイオン強度で吸着操作を実施することに すれば、非糖タンパク質が混在する試料からも糖タンパク質を良好に分離精製するこ とがでさる。
(4)高濃度 0.2Mトリス 'コハク酸緩衝液による洗浄操作の影響
(3)と同様の吸着条件で吸着操作した後、同濃度の緩衝液を多量 (200ml程度 (カラ ム容積の 10倍以上))用いて洗浄操作を実施し、そのあとで (3)と同様の溶出条件で 溶出させた結果を示す(図 12)。
画分番号 39付近のトランスフェリンピークは、図 11におけるグラフと比較して少し小 さくなつているが、画分番号 20付近の卵白アルブミンのピークは、図 11の場合よりも かなり小さなピークとなって 、る。
この結果から、いったん吸着した糖タンパク質等においても、高濃度緩衝液で洗浄
操作を長時間実施することにより、少しずつ流出することが確認された。すなわち、糖 タンパク質等の吸着力の違いによって、洗浄操作による影響に違いを生ずることが認 められた。この結果に (2)及び (3)の結果を考え合わせると、吸着時の条件を目的タン ノ^質力イオン交換体に吸着可能である、できるだけ高イオン強度に設定することが 望ましいが、高イオン強度下で洗浄操作を実施した場合には流出傾向が高まるため 、収量を期待する場合には特に注意が必要である。換言すれば、高イオン強度下で 吸着させた場合には、吸着時よりも低いイオン強度下で洗浄操作をすることによって 、吸着した糖タンパク質の漏出を防止でき、もって高収量での回収が可能となる。 (5)吸着性の弱 、糖タンパク質と一般的なタンパク質の分離例
上記 (2)の実験で用いた 0.1Mトリス 'コハク酸緩衝液では吸着できない多くのタンパ ク質ゃ例外的に吸着できな力つた糖タンパク質につ 、て、イオン交換体への吸着特 性及び溶出特性との関係を調べるために、 20mMトリス 'コハク酸緩衝液 (pH4.5)を用 いて (2)と同様の実験を実施した。具体的には以下の手順で実験した。
陽イオン交換体として CMセフアデックスを使用し、 20mMトリス 'コハク酸緩衝液 (pH 4.5)を用いてカーボニックアンヒドラーゼ(シグマ c7025)とパーォキシダーゼ(和 光純薬 309-50993)を吸着させた。洗浄後、 20mMトリスをカ卩えていくことによる直線 勾配 (約 PH4.5—約 pH8.5)で溶出させた。クロマトグラフィーの結果を図 13に示す。 画分 29— 35がカーボニックアンヒドラ一ゼの溶出ピーク、画分 39— 47がパーォキシ ダーゼの溶出ピークを表して 、る。
カーボニックアンヒドラーゼとパーォキシダーゼは共に、 0.1Mトリス 'コハク酸緩衝 液 (pH 4.5)という条件では CMセフアデッタスに吸着しないが(結果を示さず)、吸着 時に 20mM緩衝液を用いれば、カーボニックアンヒドラーゼは pH5.0、パーォキシダー ゼは PH6.5程度でピークを示す分離を可能とした。
尚、カーボニックアンヒドラーゼとトランスフェリン混液を、上記実験と同様な条件、 20mMトリス 'コハク酸緩衝液 (pH 4.5)を用いて吸着'洗浄した後、 20mMトリスを加 えて 、くことによる直線勾配 (約 pH4.5—約 pH8.5)で溶出しようとすると、カーボニック アンヒドラーゼのピーク出現は遅滞し、トランスフェリンのピークと重なってしまう(結果 を図示せず)。
以上の結果から、高イオン強度下において吸着困難である例外的な糖タンパク質 及び一般的なタンパク質にお 、ては、吸着条件の範囲としてイオン強度を低く設定 することで本法を利用した分離精製が可能となる。即ち、緩衝液濃度等を調整するこ とにより、高イオン強度の吸着条件 (緩衝液濃度が高 、条件下)ではカラムに吸着で きないタンパク質の分離精製にも本法を利用できることが示された。
実施例 3
<緩衝液の組成と吸着性の関係の検討 >
緩衝液の種類によって、糖タンパク質のイオン交換体への吸着性がどのように変動 するかを検討した。トリス'酢酸緩衝液、トリス'クェン酸緩衝液を試験対象とした。 a.材料及び方法
吸着及び洗浄用として 0.1Mトリス ·酢酸緩衝液 (pH4.0)を用い、溶出を酢酸濃度の 連続的な減少による約 PH4.0—約 pH9.0のグラジェントとした場合 (条件 1)と、吸着及 び洗浄用としてトリス ·クェン酸緩衝液 (pH4.0)を用い、溶出をクェン酸濃度の連続的 な減少による約 PH4.0—約 pH9.0のグラジェントとした場合 (条件 2)を比較した。試料 としては、卵白アルブミン、トランスフェリン及びストレプトアビジンを用いた。イオン交 換体としては CMセフアデックスを使用した。
b.結果
条件 1のクロマトグラフィーの結果を図 14に、条件 2のクロマトグラフィーの結果を図 15にそれぞれ示す。図 14及び図 15のグラフにおいて横軸は画分番号(時間軸)、 縦軸は 280nmでの OD (左)及び溶出液の pH (右)である。図 14のグラフでは、画分 32 付近にカラムに負荷した全タンパク質のピークが認められる。同様に図 15のグラフで は、画分番号 27付近にカラムに負荷した全タンパク質のピークが認められる。
c.考察
トリス ·酢酸緩衝液を用いた場合、トリス ·クェン酸緩衝液を用いた場合の 、ずれに おいても、糖タンパク質のイオン交換体への良好な吸着及び溶出が認められた。この ように、本発明の方法において様々な緩衝液を使用することが可能であることが示さ れた。従って、 目的糖タンパク質の等電点、共存する他の糖タンパク質や非糖タンパ ク質の等電点、或いはそれらの含有量、抽出後の目的タンパク質の使用目的等を考
慮して、適切な緩衝液を選択することができる。
[0034] 以上の実施例で示されるように、本発明の方法は、多種類のタンパク質 ·糖タンパク 質が混在する雑駁なサンプルから、非常に短時間で、簡便に、 目的タンパク質、糖タ ンパク質を効率的に回収できる手法である。また、試験に供した糖タンパク質はすべ て回収できたこと、あわせて糖タンパク質においてはきわめて高イオン強度条件で可 逆的な吸着性を示したことから、本発明の方法は、糖タンパク質の分離精製法として 普遍性が高いといえる。
産業上の利用可能性
[0035] 本発明は、タンパク質を分離'精製する方法として広範な目的に利用できる。例え ば、生体試料 (例えば血清)力もの有用タンパク質 (例えば疾病関連糖タンパク質)の 分離'回収や、特定のタンパク質の検出(例えば、健常人と患者との間で特定の糖タ ンパク質量を比較し、その結果を診断材料とする)に本発明を利用できる。また、ァレ ルギーフリーのワクチンの作製など、タンパク質又は糖タンパク質を排除する必要が ある場合の分離法として本発明を利用することもできる。また、各種タンパク質の等電 点を検出ないし認知することにも本発明を利用できる。さらに本発明は、糖鎖の有無 のみが異なるタンパク質が夾雑する試料から目的の糖タンパク質を分離'精製するこ とにも有効である。
本発明は、糖タンパク質の分離精製において特に優位であるといえるが、緩衝液と カラムを組み合わせることにより、多種多様な糖タンパク質のみならず一般的なタン パク質をも簡便に効率的に分離精製することにも利用され得る。
[0036] この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものでは ない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々 の変形態様もこの発明に含まれる。