明 細 書
骨髄細胞誘導剤の製造方法及び製造装置
技術分野
[0001] 本発明は、幹細胞などの骨髄細胞の誘導剤の製造方法並びに製造装置に関する
。さらに詳しくは、本発明は、体内の血液力 白血球を除去することが可能な手段を 有する装置に血液を流通させ、流出口から白血球が除去された血液を回収すること を含む、幹細胞などの骨髄細胞の誘導剤の製造方法および製造装置に関する。 背景技術
[0002] 骨髄由来の幹細胞は、白血病や再生不良性貧血の移植治療に用いられる他、様 々な治療に効果を示し、その有用性が唱えられ始めている。その幹細胞は直接骨髄 力 回収する方法の他、安全性を考慮して末梢血中に少量存在している幹細胞を回 収する方法が試みられている。その際、少量しか存在しない幹細胞を増やすために 抗癌剤やコロニー刺激因子等の薬剤を使用する方法があるが、ドナーに対する安全 性に疑問が残っている。
[0003] 一方、白血球除去療法は、血中に存在する糸且織障害の予備群と考えられている白 血球を血中から除去する方法であり、不織布あるいはセルロースビーズ等の白血球 を吸着除去する担体を使用する方法、あるいは遠心分離法を使用する方法等がある 。体外循環を用いて健常人の血液より白血球成分を吸着除去することにより、一時的 に白血球の数は減少する力 終了後から数時間に渡って白血球の増加が見られ、 一日後には元の数まで戻ることが明らかになつている。この増加の時期に、骨髄由来 の未分ィ匕な細胞が末梢血中に検出されることも明らかになつている(特許文献 1)。
[0004] 特許文献 1 :テラピューテック ァフェレシス 6卷、 6号、 402〜412頁、 2002年
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] 本発明は、安全かつ簡便に幹細胞などの骨髄細胞を誘導することができる骨髄細 胞誘導剤、並びにその製造方法および製造装置を提供することを解決すべき課題と した。
課題を解決するための手段
[0006] 本発明者は、上記の課題を解決することを目的として、体外循環型白血球除去器 を用いた際の末梢血白血球の動態を鋭意研究した結果、炎症性疾患等の患者の血 液を、白血球を除去することが可能な手段を有する装置に流入ロカ 流通させた後 、該流出口から回収した血液力 骨髄細胞あるいは幹細胞を誘導する能力を有して いることを見出し、該血液を当該患者に投与することにより、患者の血液中に骨髄細 胞が誘導されることを確認した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したもので ある。
[0007] すなわち本発明によれば、血液力 白血球を除去することを含む、骨髄細胞誘導 剤の製造方法が提供される。
好ましくは、流入口及び流出口を有し、血液から白血球を除去することが可能な手 段を有する装置に血液を該流入口から流通させ、該流出口から流出する白血球を除 去した血液を回収する。好ましくは、血液は末梢血である。好ましくは、骨髄細胞誘 導剤は幹細胞誘導剤である。
[0008] 本発明の別の側面によれば、血液の流入口及び流出口を有し、血液から白血球を 除去することが可能な手段を有する、骨髄細胞誘導剤の製造装置が提供される。
[0009] 好ましくは、血液から白血球を除去することが可能な手段は白血球除去材である。
好ましくは、白血球除去材が不織布を含むものである。
好ましくは、白血球除去材がセルロースビーズを含むものである。
好ましくは、血液から白血球を除去することが可能な手段は遠心分離装置である。 好ましくは、骨髄細胞誘導剤が幹細胞誘導剤である。
[0010] 本発明のさらに別の側面によれば、(1)採血手段、(2)血液流通手段、(3)血液の 流入口及び流出口を有し、血液から白血球を除去することが可能な手段を有する骨 髄細胞誘導剤の製造装置、及び (4)返血手段、を含む骨髄細胞誘導システムが提 供される。
[0011] 本発明のさらに別の側面によれば、白血球を除去した血液を含む、骨髄細胞誘導 剤が提供される。上記骨髄細胞誘導剤は、好ましくは、幹細胞誘導剤である。上記し た白血球を除去した血液は、好ましくは、上記した本発明の方法により製造されたも
のである。
発明を実施するための最良の形態
[0012] 以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では、血液から白血球を除去することによって骨髄細胞誘導剤を製造する。 血液とは体内を循環している血液のことで、例えば末梢血のことをいう。 本発明において、血液から白血球を除去する方法は特に限定されないが、例えば 、流入口及び流出口を有し、血液から白血球を除去することが可能な手段を有する 装置を使用して、血液を該流入口から流通させ、該流出口から流出する白血球を除 去した血液を回収することによって、血液から白血球を除去することができる。そして 、流出ロカ 流出する白血球を除去した血液を体内に戻すことにより血液中の白血 球を一時的に低濃度の状態に低下させることができる。この時点で、血液中の骨髄 由来の未分化細胞を検出すると、通常よりも大幅に増加していることが確認できる。 上記のように、血液から白血球を除去して得られる液体が骨髄細胞誘導剤である。 すなわち骨髄細胞誘導剤とは、人体力 採取した血液力 白血球を除去して得られ る血液からなるものであり、好ましくは白血球除去手段で処置した血液からなるもので ある。本発明の骨髄細胞誘導剤は、体内に戻すことにより末梢血中に骨髄由来の未 分ィ匕細胞を増やすことのできる能力を有する。
[0013] 白血球を除去した末梢血を体内に投与すると、末梢血中の白血球が一時的に低 濃度の状態になる。そして一時的に白血球が低濃度になったことを体内が感じると、 生体内のホメォスタシスが働いて、臓器、血管壁、造血器官等の体内プールから白 血球の増員が起こってくる。その際に骨髄等の造血器官等から幹細胞が流入するも のと考えられる。
[0014] 本発明で用いることができる白血球を除去することが可能な手段とは、吸着、ろ過、 遠心分離等によって血液から白血球を除去することが可能な白血球除去材ゃ遠心 分離器のことを言う。白血球除去手段として白血球除去材を用いる際の、白血球除 去材と血液との接触の仕方は、静置法、振とう法、拡散による吸着法、ろ過法などの いずれでもよい。さらに、吸着及びろ過法では落差やポンプ等により血液を流す方法 が有用である。
[0015] 本発明で用いることができる白血球除去材としては、白血球を吸着して除去できる ものであれば特に限定はなく各種のものを用いることができ、多孔質体、平膜、不織 布、織布、粒子等が例示できる。白血球除去の観点より好ましい形状は、多孔質体、 不織布、織布、粒子が挙げられ、最も好ましくは不織布が良好に用いられる。白血球 除去材の形状が不織布の場合、フィラメントは、モノフィラメントでもマルチフィラメント でも構わな 、し、多孔質フィラメントでも異型フィラメントでも構わな 、。
[0016] また不織布では、平均繊維直径が 0. 8 μ m以上 50 μ m未満の不織布が好ま ヽ。
繊維径が大きくなると基材の表面積確保が困難となり、白血球の吸着面積が減少し、 白血球の除去性能が低下する傾向にあるため好ましくない。一方、繊維径が小さくな ると除去材の目詰まりが発生しやすくなり好ましくない。以上の観点より、更に好まし い平均繊維直径は 1. 0 m以上 30 m未満であり、最も好ましくは 1. 5 m以上 25 μ m未満である。
[0017] 更に、不織布の場合、白血球の除去率を上げる上でその嵩密度が 0. lOg/cm3 以上 0. 45gZcm3未満であることが好ましい。嵩密度が 0. lOgZcm3未満の場合、 白血球の除去性能が低下する傾向にあるため好ましくない。一方嵩密度が 0. 45g Zcm3以上の場合、目詰まりしやすくなる傾向にあるため好ましくない。更に、上記の 観点より好ましくは 0. 12g/cm3以上 0. 45g/cm3未満、最も好ましくは 0. 13g/c m3以上 0. 40g/cm3未満である。
[0018] 白血球除去材の形状が粒状の場合、球状、多角球状等いかなる形状であっても有 用に用いられる。また表面は平滑であっても、凹凸があっても白血球を除去できる表 面であれば有用に用いられる。また、粒径は、 50 m以上 10mm以下が好ましい。 粒径は 50 m未満であると粒子の流出防止が困難になる傾向にあるので好ましくな V、。粒径が 10mmより大き 、場合十分な表面積が得られなくなる傾向にあるので好ま しくない。粒径は、好ましくは、 80 μ m以上 8mm未満、最も好ましくは 100 μ m以上 6 mm未満で
[0019] 本発明で用いることができる白血球除去材の材質としては、血球にダメージを与え にくいものであれば特に限定はなぐ各種のものを用いることができ、有機高分子、無 機高分子、金属等が例示できる。その中でも有機高分子は切断などの加工性に優
れるため好ましい素材である。有機高分子等の材質は、セルロース、セルロースモノ アセテート、セノレロースジアセテート、セノレローストリアセテート等のセノレロース及び z またはその誘導体等の天然高分子、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフ タレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフイン、ポリフッ 化ビ-リデン、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル等 の高分子材料を例示できる。また、これらに親水性を付与する目的で表面をコーティ ング、放射線グラフト等の方法により親水性高分子材料で修飾した材料も有用に用 いられる。
[0020] これらの材料が表面修飾なしで白血球に対して親和性を有する場合は、そのまま 用いることも可能である。また表面修飾なしでそれら機能を発揮できない場合は、機 能発揮を目的としてコーティング等の表面改質をして用いることが好ましい。特に、白 血球を除去させる目的で、表面にコーティング等の処理によって改質されているもの が好ましく用いられる。
[0021] 白血球除去材の好ましい実例を例示すると、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチ レンテレフタレート等のポリエステル不織布、セルロース、セルロースモノアセテート、 セノレロースジアセテート、セノレローストリアセテート等のセノレロース系ビーズあるいは これら表面をコーティング、放射線グラフト等の方法で表面修飾した材料が好ましく 用いられる力 これに限定されるものではない。
[0022] 本発明では、例えば、血液流入口及び血液流出口を有するカラムに、上記したよう な白血球吸着材が充填された装置に血液を上記流入ロカ 流通させることによって 、血液力 白血球を除去することができる。また、上記した吸着カラムを血液浄ィ匕療 法等に用いられる体外循環システムに接続することによって、本発明の方法を実施 することができる。
[0023] 上記したような体外循環による本発明の処置は、対象者、及び対象者の疾患の状 態等によっても異なる力 一般に 1回当たり流速 30mlZ分の条件で 30分〜 90時間 血液循環することにより行うことができる。流速及び時間は、例えば採用する担体の 量や吸着特性等をふまえて適宜設定することができる。例えば、後記する臨床例に おいては、流速 50mlZ分、 1回当たり 1時間の血液循環にて、 1〜2回 Z週を 1クー
ルとして行っている。その際の白血球除去量は 1回当たり 0. 1〜: LO X 101Q個、好まし くは、 0. 5〜2 X 1010個程度である。
[0024] また本発明によれば、バッチ式にて接触処理した処理血液を得、そのー且プール した血液を骨髄細胞誘導剤として静脈内投与することも可能である。この場合も、実 質的に上記体外循環による処置の場合に準じて行うことができる。尚、採血量及び 処理された血液の投与量は、一般に、 1日当たり 150〜450ml程度である。
[0025] 血液を処理するときは、血液の抗凝固目的で抗凝固剤を血液中にカ卩えることができ る。抗凝固剤を例示すると、抗凝固活性を有する化合物であれば、特に限定されな いが、へパリン、低分子へパリン、メシル酸ナファモスタツト、メシル酸ガべキセート、ァ ルガトロバン、クェン酸ナトリウム等が好適例として挙げられ、好ましくはへパリンある いはメシル酸ナファモスタツトが良好に用いられる。
[0026] 以上の通り、本発明によれば、安全かつ簡便に幹細胞などの骨髄細胞を誘導する ことができる骨髄細胞誘導剤の製造方法および製造装置を提供することが可能とな る。また、本発明によれば、白血球を除去した血液を含む骨髄細胞誘導剤、さらに具 体的には上記した本発明の方法により製造された白血球を除去した血液を含む骨髄 細胞誘導剤が提供される。
[0027] 本明細書で言う骨髄細胞とは、多分化能を有する骨髄に存在する細胞のことを言 い、例えば、幹細胞などが挙げられる。骨髄細胞は、細胞表面マーカーである CD34 、あるいはコロニーアツセィ、 DNA結合色素等を用いて検出することができる。
[0028] さらに本発明によれば、流入口及び流出口を有し、血液から白血球を除去すること が可能な手段を有する装置に人体力 採取した血液を該流入ロカ 流通させ、該流 出口から回収した白血球を除去した血液を該人体に投与することによって、該人体 の血液中に骨髄細胞を誘導する方法が提供される。
[0029] また本発明によれば、上記方法により人体の血液中に誘導された骨髄細胞を該血 液中から回収することもできる。骨髄細胞を該血液中から回収する方法としては、幹 細胞などの骨髄細胞の濃度が高くなつた血液を遠心分離機にかけて回収する方法 を用いることも可能であり、さらに純度を上げるために抗 CD34抗体を担体に固定ィ匕 した器材を用いて回収してもよい。即ち、本発明によれば、人体から採取した血液を
、流入口及び流出口を有し、血液から白血球を除去することが可能な手段を有する 装置に流入口から流通させ、流出口から回収した白血球を除去した血液を該人体に 投与'返血することを施した後、一定量の血液を該人体から採取することを特徴とす る血液製剤を調製する方法及び当該方法により得られる血液製剤が提供される。
[0030] さらに本発明によれば、(1)採血手段、(2)血液流通手段、(3)血液の流入口及び 流出口を有し、血液から白血球を除去することが可能な手段を有する骨髄細胞誘導 剤の製造装置、及び (4)返血手段、を含む骨髄細胞誘導システムが提供される。
[0031] 採血手段とは、血液を取り出す部分のことをいい、例示するとスパイク針、ビン針、 採血針、カテーテル等が挙げられる。返血手段とは、血液を返血する部分のことをい い、採血手段と同じ物が例示できる。血液流通手段とは、例えば、血液が流れる導管 などが挙げられる。導管の形状は、中空であれば、何れの形状であってもよい。また 導管は、血液に大きな害を及ぼさない材質であれば何れもよぐ例えば、ポリ塩化ビ -ル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の材質を含む材料が挙げられる。
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって 限定されるものではない。
実施例
[0032] 実施例 1
白血球除去療法を関節リウマチの患者に施行し、経時的に末梢血を採血し、血球 成分を解析した。
体外循環装置に、白血球を除去することが可能な手段を有する装置 (旭化成メディ カル社製「セルノーノ (登録商標) CS— 100」(血液の出入口を有し、内部にポリエス テル不織布を充填した吸着型血液浄化器。血液中の白血球が本品によって吸着除 去され、白血球を除去した後の血液が患者に戻される)を接続した。体外循環 (流速 = 50mlZ分)により末梢血を採血し、セルソーバ(登録商標) CS— 100の流入口より から血液を流通させ、該流出口から白血球を除去した血液を回収し (総容量 =約 3リ ットル)、当該患者に戻した。戻した直後から経時的に採血し、中に含まれる血球成 分を分析した。骨髄細胞は以下の方法により同定した。
[0033] すなわち、患者力も採血した血液中に抗凝固剤としてへノ^ンを添加し、さらに生
理食塩水にて 2倍量に希釈した。遠心管にフイコール液を添加しその上に希釈した 血液を重層し、室温中で 3, OOOrpmで 20分間遠心し、血液を各成分に分離した。 遠心後、フイコール層と血液層の境界の部分を回収し、生理食塩水で 2回洗浄し、こ れを骨髄由来の幹細胞を含む細胞溶液とした。この細胞溶液の一部を分取して、 FI TC蛍光標識した抗 CD34抗体をカ卩えて、室温で 30分間放置した後、生理食塩水で 洗浄、さらに希釈して評価用サンプルとした。ヒトの細胞と反応しないコントロール用 の FITC蛍光標識した抗体を用いて、同様な操作を行い、コントロール用サンプルと した。コントロール用サンプルおよび評価用サンプルをフローサイトメーターを用いて 解析した。コントロール用サンプルよりも蛍光強度の強 、領域のピークの割合を分析 し、全体に対する割合から、 CD34陽性細胞数を算出した。
[0034] 患者からは以下の時点で採血を行 、、 CD34陽性細胞の分析を行った。すなわち 、白血球除去療法を施す前、開始後 30分、 1時間後、終了後 15分、 30分後、 45分 後、 60分後である。
[0035] それぞれの時点での総白血球数と CD34陽性細胞との比率をグラフ(図 1)に示し た。図 1から明らかなとおり、白血球除去療法を行い、白血球を除去した血液が投与 された時にのみ総白血球数に対する CD34陽性細胞の割合が高くなつている。 産業上の利用可能性
[0036] 本発明によれば、安全かつ簡便に幹細胞などの骨髄細胞を誘導することができる 骨髄細胞誘導剤の製造方法および製造装置が提供される。さらに本発明によれば、 上記の骨髄細胞誘導剤を用いて得られた幹細胞などの骨髄細胞は、例えばそれら の細胞を回収することによって、様々な治療に応用することが可能となる。
図面の簡単な説明
[0037] [図 1]図 1は、白血球除去療法を行った場合における総白血球数と CD34陽性細胞と の比率の時間経過による変化を示すグラフである。