明 細 書
眼内レンズおよびその製造方法、ならびに、後発白内障の抑制方法 技術分野
[0001] 本発明は、後発白内障を抑制するための眼内レンズおよびその製造方法 ならび に、後発白内障の抑制方法に関する。
背景技術
[0002] 白内障は、水晶体が混濁する疾病であり、混濁の程度、範囲、部位に応じて視力 低下を引き起こし、最悪の場合には失明の原因ともなる。
近年、白内障の治療方法として、混濁した水晶体を摘出して、人工水晶体(眼内レ ンズ)を挿入する方法が提案され、一般的に行われるようになってきている。
[0003] 眼内レンズ挿入方法としては、様々な方法が提案されているが、中でも、前嚢のー 部を切開して水晶体皮質および核を吸引除去し、その切開部から眼内レンズを挿入 する方法が、最も確実性の高い方法として推奨されている。
しかし、この方法は、残存した水晶体上皮細胞が水晶体後嚢部に移動、増殖したこ とで生じた後嚢部の濁りが眼内レンズにも広がることで、後発白内障 (後嚢混濁とも呼 ばれる)が発症する危険性がある。
[0004] このような眼内レンズ使用時の後発白内障の治療方法としては、現在、 Nd :YAG レーザーを照射する方法が用いられている。し力し、この方法は、 Nd : YAGレーザ 一が高価であること、また、眼底検查、光凝固や硝子体手術の妨げとなる等の欠点を 有する(西起史、西佳代、阪西弘太郎、山田義治、「眼内レンズの後発白内障抑制 効果」、第 15回ヨーロッパ眼内レンズ学会抄録、 1997年(以下、「文献 1」という)。
[0005] 一方、薬剤による後発白内障の治療/予防方法も提案されている。例えば、特開 平 9-291040号公報(以下、「文献 2」という)には、細胞接着阻害活性を有する徐放 製剤を、後発白内障の治療予防薬として使用することが提案されている。
また、眼内レンズのエッジ形状をシャープにすることで、後発白内障を抑制する方 法も提案されている(文献 1)。
[0006] 文献 1および 2に記載の方法は、いずれも後発白内障の抑制に一定の効果を示す
ものではある。しかし、文献 2に記載の方法は、薬剤を適用するといぅ更なる工程を要 し、文献 1に記載の方法は、レンズエッジ部分の加工を行う必要があり、両方法とも、 簡便さの点では問題があった。そのため、簡便な方法で、後発白内障を効果的に抑 制できる方法が求められていた。
[0007] また、眼内レンズは、眼内に直接挿入されるものであるため、組織内適合性に優れ ていることが求められる。また、眼内で生体組織と直接接するものであるため、生体適 合性に優れていることが求められる。そのため、眼内レンズ表面の親水性や生体適 合性を向上させるために、眼内レンズ表面に、コーティングを設けることが提案されて いる(特開昭 58-146346号公報参照)。また、眼内レンズ使用時の後嚢混濁 (後発 白内障)の危険性を防止するために、眼内レンズにコーティングを設けることも提案さ れている(特表 2002—511315号公報参照)。
[0008] 従来、眼内レンズにコーティングを設ける方法としては、浸漬コート法またはスピンコ ート法が用いられていた。浸漬コート法とは、コーティング用溶液に眼内レンズを浸漬 した後に自然乾燥等で眼内レンズ表面を乾燥させてコーティングを設ける方法であ る。一方、スピンコート法とは、眼内レンズ表面にコーティング用溶液を滴下または噴 霧した後、スピンコーターによってレンズを回転させる力、回転しているレンズ表面へ コーティング用溶液を滴下または噴霧して、遠心力によって、コーティング用溶液をレ ンズ表面上に広げるとともに乾燥させてコーティングを設ける方法である。
[0009] しかし、一般に、眼内レンズ表面にコーティングを設けるためのコーティング溶液の 粘性は高い。このような高粘度のコーティング溶液を用いて、浸漬コート法によって眼 内レンズ表面にコーティングを設けようとすると、溶液濃度が薄い場合には、コーティ ングがむらになり、形成されたコーティングが均一性に劣るものとなる場合があり、ま た、所望の厚さのコーティングを得ることが困難になる場合もある。一方、溶液粘度を 高くした場合にも、コーティングがむらになり、形成されたコーティングは、均一性に 劣るものとなる場合がある。また、スピンコート法では、コーティング溶液の粘度が高 いため、レンズ表面に滴下または噴霧されたコーティング溶液力 スピンコーターによ る遠心力によってもレンズ表面に十分に広がらず、形成されたコーティングが均一性 に劣るものとなる場合がある。そこで、高粘度のコーティング溶液を用いる場合にも、
眼内レンズ表面に、所望の厚さを有する均一性の高いコーティングを設けることがで きる方法が求められていた。
[0010] そこで、本発明の第一の目的は、眼内レンズ使用時の後発白内障を抑制すること ができる眼内レンズおよび後発白内障の抑制方法を提供することである。
更に、本発明の第二の目的は、所望の厚さの均一なコーティングを有する眼内レン ズを製造する方法を提供することである。
発明の開示
[0011] 本発明者らは、上記第一の目的を達成するために鋭意検討を行った。その結果、 驚くべきことに、特定の構造を有する共重合体からなるコーティングを眼内レンズの 光学部に設けることにより、眼内レンズ使用時の後発白内障を顕著に抑制できること を見出し、本発明の第一の態様を完成するに至った。
[0012] 本発明の第一の態様は、以下の通りである。
[1]式 (I) :
[0013] [化 1]
〔式中、 aiま 0. 03— 0. 70、 biま 0. 3— 0. 97、 ηίま 2以上の整数、 Riま ti、 OR' (R'【ま 水素、脂肪族炭化水素基もしくは芳香族炭化水素基)、 -Si (OR") 3 (R"はメチル基
、ェチル基、プロピル基、ブチル基、もしくはトリメチルシリル基)、または
[0014] [化 2]
-^SiR"'2-0^ ^ SiR'"3
、 ' m
(R',,は、メチノレ基、フエニル基もしくはトリメチルシロキシ基を示し、 mは、 1— 100 の間のいずれかの整数である)を示し、 Aは水素または炭素数 1一 4のアルキル基を 示し、 Bは直鎖状または分枝したアルキルスぺーサ一基を示す〕
で示される繰り返し単位を有し、かつ分子量は 5000以上である、 2-メタクリロイルォ キシェチルホスホリルコリンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体からなるコーティ ングを光学部の少なくとも一部に有する眼内レンズ。
[2]前記眼内レンズは、後発白内障を抑制するためのものである、 [1]に記載の眼内 レンズ。
[3]式(I)中の nが 2 5の間のいずれかの整数である、 [1]または [2]に記載の眼内レ ンズ。
[4]式(I)における aと bとの比は、 a : b = l : 9 6 : 4の範囲である、 [1]一 [3]のいずれ かに記載の眼内レンズ。
[5]式(I)中の Aが CHであり、 Bが CHであり、 nが 4であり、 Rが Hである、 [1]
3 2 一 [4]の いずれかに記載の眼内レンズ。
[6]眼内レンズ使用時の後発白内障の抑制方法であって、前記眼内レンズの光学部 の少なくとも一部に、式 (I):
[0015] [化 3]
〔式中、 afま 0. 03-0. 70、 bfま 0. 3-0. 97、 nfま 2以上の整数、 R¾H, OR' (R' ¾ 水素、脂肪族炭化水素基もしくは芳香族炭化水素基)、 -Si (OR") (R"はメチル基
3
、ェチル基、プロピル基、ブチル基、もしくはトリメチルシリル基)、または
[0016] [化 4]
SiR"'2— ^ SiR'"3
、 I m
(R' ' 'は、メチル基、フエニル基もしくはトリメチルシロキシ基を示し、 mは、 1一 100の 間のいずれかの整数である)を示し、 Aは水素または炭素数 1一 4のアルキル基を示 し、 Bは直鎖状または分枝したアルキルスぺーサ一基を示す〕
で示される繰り返し単位を有し、かつ分子量は 5000以上である、 2-メタクリロイルォ キシェチルホスホリルコリンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体からなるコーティ ングを設けることを特徴とする、前記方法。
[7]式(I)中の nが 2 5の間のいずれかの整数である、 [6]に記載の方法。
[8]式(I)における aと bとの比は、 a : b = 1 : 9 6 : 4の範囲である、 [6]または [7]に記載 の方法。
[9]式(I)中の Aが CHであり、 Bが CHであり、 nが 4であり、 Rが Hである、 [6] [8]の
3 2
いずれかに記載の方法。
[0017] 上記第二の目的を達成する手段は、以下の通りである。
[10]重合体を含むコーティングを有する眼内レンズの製造方法であって、前記重合 体を含む溶液に、眼内レンズを浸漬し、次いで、前記眼内レンズをスピンコーターに おいて回転させることにより、前記眼内レンズに前記コーティングを設けることを特徴 とする、前記方法。
[11]前記溶液の粘度は、 2— 5mPa' sの範囲内である、 [10]に記載の方法。
[12]前記スピンコーターにおける回転数力 2000— 8000rpmの範囲内である、 [10 ほたは [11]に記載の方法。
[13]前記重合体は、式 (I) :
[0018] [化 5]
〔式中、 aiま 0. 03— 0. 70、 biま 0. 3— 0. 97、 ηίま 2以上の整数、 Riま ti、 OR' (R'【ま 水素、脂肪族炭化水素基もしくは芳香族炭化水素基)、 -Si (OR") (R"はメチル基
3
、ェチル基、プロピル基、ブチル基、もしくはトリメチルシリル基)、または
[0019] [化 6]
SiR"'2— ^ SiR'"3
、 I m
(R' ' 'は、メチル基、フエニル基もしくはトリメチルシロキシ基を示し、 mは、 1一 100の 間のいずれかの整数である)を示し、 Aは水素または炭素数 1一 4のアルキル基を示 し、 Bは直鎖状または分枝したアルキルスぺーサ一基を示す〕
で示される繰り返し単位を有し、かつ分子量は 5000以上である、 2-メタクリロイルォ キシェチルホスホリルコリンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体である、 [10] [1 2]のいずれかに記載の方法。
[14]式(I)中の nが 2 5の間のいずれかの整数である、 [13]に記載の方法。
[15]式(I)における aと bとの比は、 a : b = l : 9— 6 : 4の範囲である、 [13]または [14]に 記載の方法。
[16]式(I)中の Aが CHであり、 Bが CHであり、 nが 4であり、 Rが Hである、 [13] [1
3 2
5]のいずれかに記載の方法。
[0020] 本発明の第一の態様によれば、眼内レンズ使用時の後発白内障を効果的に抑制 すること力 Sできる。
本発明の第二の態様によれば、所望の厚さの均一なコーティングを有する眼内レン ズを製造することができる。
発明を実施するための最良の形態
[0021] [第一の態様]
(眼内レンズ)
本発明の眼内レンズは、式 (I):
[0022] [化 7]
〔式中、 aiま 0. 03— 0. 70、 biま 0. 3— 0. 97、 ηίま 2以上の整数、 Riま ti、 OR' (R'【ま 水素、脂肪族炭化水素基もしくは芳香族炭化水素基)、 -Si (OR") (R"はメチル基
3
、ェチル基、プロピル基、ブチル基、もしくはトリメチルシリル基)、または
(R' ' 'は、メチル基、フエニル基もしくはトリメチルシロキシ基を示し、 mは、 1一 100の 間のいずれかの整数である)を示し、 Aは水素または炭素数 1一 4のアルキル基を示 し、 Bは直鎖状または分枝したアルキルスぺーサ一基を示す〕
で示される繰り返し単位を有し、かつ分子量は 5000以上である、 2-メタクリロイルォ キシェチルホスホリルコリン(以下、「MPC」ともいう)と(メタ)アクリル酸エステルとの共 重合体からなるコーティングを、光学部の少なくとも一部に有する。なお、前記共重合 体において、(メタ)アクリル酸エステル成分は、すべて同一種であることもでき、二種 以上の(メタ)アクリル酸エステル成分が含まれることもできる。
[0024] 前記式 (I)で示される繰り返し単位を有する共重合体は、下記式 (II)で示される M PCと下記式 (III)で示される(メタ)アクリル酸エステルとを、溶媒中で開始剤の存在 下、反応させることで製造することができる。
[0025] [化 9]
cccll
〔式 (III)中、 nは 2以上の整数、 Rは H、 OR' (R'は水素、脂肪族炭化水素基もしくは 芳香族炭化水素基)、 -Si (OR") (R"はメチル基、ェチル基、プロピル基、ブチル基
3
、もしくはトリメチルシリル基)、または
(R' ' 'は、メチル基、フエニル基もしくはトリメチルシロキシ基を示し、 mは、 1一 100の 間のいずれかの整数である)を示し、 Aは水素または炭素数 1一 4のアルキル基を示 し、 Bは直鎖状または分枝したアルキルスぺーサ一基を示す。〕
[0027] 前記 MPCは、例えば、 2—ブロモェチルホスホリルジクロリドと 2—ヒドロキシェチルメ タクリレートとを反応させ、 2—メタクリロイルォキシェチル 2 '—ブロモェチルリン酸(以 下、「MBP」ともいう)を得て、この MBPをトリメチルァミンのメタノール溶液中で反応さ せて得ること力 Sできる。
[0028] 式 (III)中、 Rは、 H、 OR' (R'は水素、脂肪族炭化水素基もしくは芳香族炭化水素 基)、 _Si (〇R") (R' 'はメチル基、ェチル基、プロピル基、ブチル基、もしくはトリメチ
ルシリル基)、または
[0029] [化 11]
SiR'"2-0
(R' ' 'は、メチル基、フエニル基もしくはトリメチルシロキシ基を示し、 mは、 1一 100の 間のいずれかの整数である)を示す。脂肪族炭化水素基の具体例としては、アルキ ル基等が挙げられる。より具体的には、アルキル基としては、メチル基、ェチル基、 n- プロピル基、イソプロピル基、 n-ブチル基、 sec-ブチル基、 tert-ブチル基、 n -ペンチ ル基、 n-へキシル基、シクロへキシル基、ラウリル基、パルミトイル基、ステアリル基を 挙げること力 Sできる。芳香族炭化水素基としては、フヱニル基、フヱニルメチル基、フ ヱニルェチル基、ナフチル基、アントラニル基を挙げることができ、それらの芳香環上 の水素のうち、 1つまたはそれ以上が、メチノレ基、ェチル基、プロピル基、ブチル基、 ハロゲン基等で置換されてレ、てもよレ、。
[0030] 式(III)中、 R力 -Si (OR") (R' 'はメチル基、ェチル基、プロピル基、ブチル基、も
3
しくはトリメチルシリル基)である場合、 R"は、メチル基であることが好ましい。
また、式(III)中、 Rが、
(R' ' 'は、メチル基、フエニル基もしくはトリメチルシロキシ基を示し、 mは、 1一 100の 間のいずれかの整数である)である場合、 R' ' 'は、メチル基、トリメチルシロキシ基で あることが好ましい。
[0032] 式 (III)中、 Aは水素または炭素数 1一 4のアルキル基である。炭素数 1一 4のアルキ ル基としては、メチル基、ェチル基、プロピル基、ブチル基を挙げることができる。
[0033] 式 (III)中、 Bは直鎖状または分枝したアルキルスぺーサ一基である。直鎖または分 枝したアルキルスぺーサ一基は、例えば、炭素数 1一 5のものであることができる。分 枝したアルキルスぺーサ一基としては、例えば、主鎖に 1一 4個の範囲の炭素原子を 有し、側鎖にメチル基、ェチル基、プロピル基、ブチル基のいずれか 1つ以上を有す るものを挙げること力 Sできる。
[0034] また、式(III)中、 nは 2以上の整数であり、眼内レンズのコーティング材として、極性 溶媒に溶解して使用する際の溶解性を考慮すると、好ましくは 2— 5である。特に、 A 力 SCHであり、 Bが CHであり、 nが 4であり、 Rが Hである場合に、優れた後発白内障
3 2
抑制効果を得ることができる。
[0035] 式 (III)で示される(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、 (メタ)アクリル酸メチ ノレ、(メタ)アクリル酸ェチル、 (メタ)アクリル酸プロピル、 (メタ)アクリル酸ブチル、(メ タ)アクリル酸ペンチル、 (メタ)アクリル酸へキシル、(メタ)アクリル酸へプチル、(メタ) アクリル酸ォクチル、 (メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸 2_エトキシェチル、 (メタ)アクリル酸 2_エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸 2—フエノキシェチル、(メタ)ァ クリル酸 2_ブトキシェチル、(メタ)アクリル酸 2—ヒドロキシェチル、トリス(トリメチルシ
、 3—メタクリロキシプロピルトリス(メトキシェトキシ)シラン、 3—メタクリロキシプロピルメ チルジェトキシシラン、 3—メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが挙げられる。 前記 (メタ)アクリル酸エステルとしては、 (メタ)アクリル酸ェチル、(メタ)アクリル酸プ 口ピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチルを用いることが好ましぐ中 でも、(メタ)アクリル酸ブチルを用いることが、優れた後発白内障抑制効果を得るた めに特に好ましい。なお、前記共重合体の重合において、これらの(メタ)アクリル酸 エステルのうち、 1種のみを用いれば、含まれる(メタ)アクリル酸エステル成分がすべ て同一種である共重合体を得ることができる。一方、前記共重合体の重合において、 これらの (メタ)アクリル酸エステルを 2種以上用いることも可能であり、 2種以上を用い た場合には、 2種以上の(メタ)アクリル酸エステル成分を含む共重合体を得ることが できる。
[0036] 共重合体中の MPC成分(a)と(メタ)アクリル酸エステル成分(b)との比(a : b)は、 3
: 97— 7 : 3の範囲であることができ、好ましくは 1 : 9一 6 : 4の範囲である。 MPC成分と (メタ)アクリル酸エステル成分との比が上記範囲内であれば、優れた後発白内障抑 制効果を得ることができる。中でも、上記比が 3 : 7であれば、特に優れた後発白内障 抑制効果を得ることができる。共重合体中の MPC成分と (メタ)アクリルエステル成分 の割合は、重合時の MPCおよび (メタ)アクリル酸エステルの仕込み量を調整するこ
とによって制御することができる。
[0037] 前記共重合体の分子量は 5000以上であり、好ましくは 5万一 200万、特に好ましく は 20万一 80万の範囲である。分子量が上記範囲内であれば、前記共重合体を眼内 レンズにコートする場合に、コーティング時の成膜性がよぐかつ高強度のコーティン グを得ることができる上に、均一なコーティングが可能な粘度を有するコーティング液 を容易に作製することができる。
[0038] 前記共重合体を得るための反応は、公知の方法で行うことができる。
使用する溶媒は、モノマーを溶解できるものであればよぐ例えば、水、メタノーノレ、 エタノール、プロパノール、 t—ブタノール、ベンゼン、トルエン、ジメチルホルムアミド、 テトラヒドロフラン、クロ口ホルムおよびこれらの混合物等を用いることができる。
また、開始剤としては、通常のラジカル開始剤であればいずれも使用可能であり、 例えば、 2, 2,—ァゾビスイソブチロニトリル (AIBN)、ァゾビスバレロ二トリル等の脂肪 族ァゾ化合物や、過酸化べンゾィル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニゥム、過硫 酸カリウム等の有機過酸化物等を用いることができる。
[0039] 本発明の眼内レンズは、後発白内障抑制という観点からは、後房レンズに適用する ことが好ましい。また、本発明の眼内レンズは、細胞付着、細胞癒着の低減効果も有 するため、前房レンズ、虹彩支持レンズ等のすべてのタイプの眼内レンズに適用する ことちできる。
[0040] また、本発明の眼内レンズは、光学部と支持部が同一材料からなる眼内レンズであ ることもでき、異なる材料からなる眼内レンズであることもできる。例えば、本発明の眼 内レンズは、光学部と支持部が、軟質アクリル、シリコン、ハイド口ゲル等の一種の材 料からなる眼内レンズの少なくとも光学部後面に前記コーティングを設けた眼内レン ズであることもでき、光学部がハイド口ゲルで支持部がポリメチルメタタリレート、光学 部がポリメチルメタタリレートで支持部がポリプロピレンからなる眼内レンズの少なくと も光学部後面に前記コーティングを設けた眼内レンズであることもできる。
[0041] なお、本発明の眼内レンズは、光学部の少なくとも一部に前記コーティングを設け たものであり、光学部後面または前面に前記コーティングを設けたものであることがで き、または、光学部全面に前記コーティングを設けたものであることもできる。ここで、「
光学部後面」とは、眼内レンズ光学部の眼内側の面をいう。
[0042] また、本発明の眼内レンズは、光学部だけでなぐ支持部に前記コーティングを設 けたものであることもできる。支持部にもコーティングを設けることにより、眼内レンズ 移植後にレンズを摘出する場合に、組織との癒着が少なくレンズを容易に摘出できる という効果を得ることができる。
[0043] 前記共重合体からなるコーティングを設ける眼内レンズの光学部材料は、特に限定 されず、例えば、ポリメチルメタタリレート、シリコン、ハイド口ゲル、アタリノレ (メタクリレ ート Zアタリレート共重合体)、ポリェチルメタタリレート等を挙げることができる。中で も、光学部がアクリル系ポリマーからなるものであると、前記共重合体との相溶性が高 ぐコーティングを良好に行うことができる。
なお、従来は、アクリル系ポリマーは粘着性が高いため、アクリル系ポリマーからな る眼内レンズは、後嚢とレンズとの間にすきまができにくぐ後嚢とレンズとの間に細 胞が侵入して活性化することにより生じる後発白内障を起こしにくいと考えられていた 。一方、前記重合体は、粘着性が低いことが知られている(特開平 3-39309号公報 参照)。よって、上記のような従来の知見に基づけば、アクリル系ポリマー上に前記共 重合体力 なるコーティングを設けることは、粘着性を低下させるため、後発白内障を 引き起こしやすくなると予想される。しかるに、アクリル系ポリマー上に前記共重合体 力 なるコーティングを設けた眼内レンズは、未被覆のアクリル系ポリマーからなる眼 内レンズと比べて、後発白内障を顕著に抑制することができることが見出された。
[0044] 支持部材料としては、例えば、ポリメチルメタタリレート、ポリプロピレン、ハイド口ゲル 、アクリル (メタタリレート/アタリレート共重合体)、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド等 が挙げられる。支持部と光学部との接合方法としては、例えば、 IPN (相互貫入網目 構造)等の化学的接合、溶着、アンカ等の物理的接合等が知られているが、本発明 の眼内レンズを得るためには、いずれの方法も適用可能である。
[0045] 本発明の眼内レンズは、硬質眼内レンズ (折りたたまれていない状態で眼内に揷入 される)、軟質眼内レンズ (折りたたんだ状態または圧縮された状態で眼内に挿入さ れる)のいずれであることもできる。特に、アクリル系ポリマーからなる軟質眼内レンズ は、アクリル系ポリマーの粘着性が高いためにレンズ同士が張りつきやすぐ折りたた
んだ状態で眼内に挿入してからレンズが開くまでに長時間を要したり、場合によって はレンズが開かない等の問題がある力 前記共重合体からなるコーティングを設ける ことで表面粘着性が低下するため、操作性を向上することができるという利点もある。
[0046] 光学部表面上に前記コーティングを設ける方法は、特に限定されず、公知のコーテ イング方法を用いることができ、例えば、前記共重合体を適当な溶媒に溶解した溶液 (以下、「コーティング溶液」ともいう)に、眼内レンズを浸漬する方法や、コーティング 溶液を光学部上に滴下した後にスピンコーターによってコーティングする方法を用い ること力 Sできる。中でも、本発明の眼内レンズを得るためには、後述の本発明の第二 の態様の製造方法を用いることが好ましい。第二の態様の方法を用いる際には、特 に、コーティング溶液へ浸漬した後にスピンコーターによりコーティングする操作を、 2 回以上行うことが、所望の厚さを有する均一なコーティングを設けることができるため 、好ましい。また、この方法を採用することで、一体型眼内レンズ、多部品から構成さ れている眼内レンズを問わず、眼内レンズ光学部の前面、後面、支持部のすべてを 一度に均一にコーティングすることができる。
なお、前面または後面の一方の面のみをコーティングする場合には、コーティング 溶液を光学部のコーティングを設ける面上に滴下した後にスピンコーターによってコ 一ティングする方法を用いることができる。
[0047] 以上、光学部に支持部を取り付けた状態でのコーティング方法を説明したが、本発 明の眼内レンズは、光学部をコーティングした後に支持部を取り付けることで作製す ることちでさる。
[0048] 本発明の眼内レンズは、光学部の少なくとも一部に前記コーティングを設けたもの であり、後嚢部と接触する光学部後面をコートしておくことで、優れた後発白内障抑 制効果を得ることができる。また、本発明の眼内レンズは、光学部前面にもコーティン グを設けたものであることが好ましい。後発白内障の要因である上皮細胞は、当初眼 内レンズ前面側に配置しているため、前面にもコーティングを設けることで、上皮細胞 の活性化を防ぐことができる。また、前面にもコーティングを設けることで、前嚢捕獲、 虹彩捕獲、虹彩癒着を起こしにくくなり、前嚢切開縁の混濁を低減することもできる。 また、前述のように、支持部にコーティングを設けることもできる。
[0049] コーティング溶液の濃度は、所望の厚さの均一なコーティングを得られるように適宜 設定することができ、例えば、 0. 05— 1質量%、好ましくは 0. 1— 0. 3質量%の範囲 とすることができる。なお、スピンコーターを用いる場合には、スピンコーターの回転 数が早くなると、遠心力が強く働くため、コーティング厚は薄くなる。本発明の眼内レ ンズを得るためには、所望のコーティング厚や溶液濃度を考慮して、スピンコーター の回転数および時間を決定することが好ましい。コーティング溶液へ浸漬した後にス ピンコーターによりコーティングする場合、スピンコーターの回転数は、例えば、 2000 一 8000rpmとすること力 Sでき、また、スピンコーターにかける時間は、例えば、 5 30 禾少とすることができる。
[0050] コーティング溶液に用いる溶媒は、本発明で使用される共重合体を溶解し得るもの であれば特に限定されず、例えば、エタノール、メタノーノレ、プロパノール、ブタノー ルを用いることができる。中でも、揮発性、安全性の観点からは、エタノールを用いる ことが好ましい。
[0051] 本発明の眼内レンズに設けるコーティングの厚さは、 100A以上であることが好まし レ、。コーティングの厚さが 100A以上であれば、レンズ面全体を均一にコーティング すること力 Sできる。コーティングの厚さは、好ましくは、 120— 160Aの範囲である。コ 一ティングの厚さは、以下の方法で測定することができる。
[0052] 自動エリプソメータを用いてレンズ自体のコーティング厚を測定する方法では、透明 な基材および曲率を有する基材上に成膜された膜の厚さを正確に測定することは困 難である。そこで、本発明では、眼内レンズの代わりにシリコンウェハにコーティング を施し、所定条件におけるコーティング厚を測定した。具体的には、眼内レンズの代 わりに lOmm X 10mmの大きさに裁断したシリコンウェハ上にコーティングを行い、 該シリコンウェハを自動エリプソメータ上に載せ、波長 632. 8nmの He_Neレーザを 用いて、入射角 70° でコーティング厚を測定した。シリコンウェハ上の 9箇所を測定 し、その平均値をコーティング厚とした。
また、コーティングが均一に設けられていることは、 目視により判別することが可能 である。
[0053] 本発明の眼内レンズの製造時に、コーティング前処理を行うことで、眼内レンズ基
材とコーティングとの結合を強くすることもできる。例えば、基材の種類により、 UV照 射、プラズマ処理、コロナ放電等を選択することで、基材とコーティングとの結合を強 くすることもできる。また、より迅速に溶媒を除去するために、コーティング後に減圧乾 燥を行うこともできる。
[0054] 本発明の眼内レンズは、通常の眼内レンズと同様の方法で眼内へ揷入することが できる。眼内へのレンズの揷入方法としては、例えば、前嚢の一部を切開して水晶体 皮質および核を吸引除去し、その切開部から眼内レンズを揷入する方法を用いるこ とができる。
[0055] (後発白内障の抑制方法)
本発明は、眼内レンズ使用時の後発 内障の抑制方法であって、前記眼内レンズ の光学部の少なくとも一部に、式 (I):
[0056] [化 13]
〔式中、 afま 0. 03-0. 70、 bfま 0. 3-0. 97、 nfま 2以上の整数、 R¾H, OR' (R' ¾ 水素、脂肪族炭化水素基もしくは芳香族炭化水素基)、 -Si (OR") (R"はメチル基
3
、ェチル基、プロピル基、ブチル基、もしくはトリメチルシリル基)、または
(R' ' 'は、メチル基、フエニル基もしくはトリメチルシロキシ基を示し、 mは、 1一 100の 間のいずれかの整数である)を示し、 Aは水素または炭素数 1一 4のアルキル基を示 し、 Bは直鎖状または分枝したアルキルスぺーサ一基を示す〕
で示される繰り返し単位を有し、かつ分子量は 5000以上である、 2-メタクリロイルォ キシェチルホスホリルコリンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体からなるコーティ
ングを設けることを特徴とする、前記方法にも関する。本発明の後発白内障抑制方法 において使用されるコーティング、光学部、眼内レンズのタイプ等の詳細は、先に述 ベた通りである。
[0058] [第二の態様]
本発明の第二の態様は、重合体を含むコーティングを有する眼内レンズの製造方 法であって、重合体を含む溶液(以下、「コーティング溶液」ともいう)に、眼内レンズ を浸漬し、次いで、前記眼内レンズをスピンコーターにおいて回転させることにより、 前記眼内レンズに、前記重合体を含むコーティングを設けることを特徴とする。
[0059] 本発明の第二の態様の方法によれば、まず、眼内レンズをコーティング溶液に浸漬 することにより、レンズ表面全体にコーティング溶液が塗布され、次いで、スピンコータ 一においてレンズを回転させることにより、レンズ表面にコーティング溶液を均一に広 げながら乾燥させることができるため、高粘度のコーティング溶液を用いる場合にも、 所望の厚さの均一なコーティングを有する眼内レンズを製造することができる。
[0060] コーティングに用いる重合体は、 目的に応じて選択することができる。例えば、眼内 レンズ表面の親水性を向上させるためには、親水性の高い重合体をコーティングす ることが好ましい。また、眼内レンズ表面の生体適合性を向上させるためには、例え ば、特開平 3-39309号公報に記載の共重合体を用いることができ、後嚢混濁(後発 白内障)の防止を目的とする場合には、例えば、特表 2002-511315号公報に記載 のコーティング糸且成物を用いることができる。
[0061] 特に、本発明では、前記重合体として、式 (I) :
[0062] [化 15]
〔式中、 aiま 0. 03— 0. 70、 biま 0. 3— 0. 97、 ηίま 2以上の整数、 Riま ti、 OR' (R'【ま
水素、脂肪族炭化水素基もしくは芳香族炭化水素基)、 -Si (OR") (R"はメチル基
3
、ェチル基、プロピル基、ブチル基、もしくはトリメチルシリル基)、または
[0063] [化 15]
~^SiR"'2— O^) ^ SiR'"3
(R' ' 'は、メチル基、フエニル基もしくはトリメチルシロキシ基を示し、 mは、 1一 100 の間のいずれかの整数である)を示し、 Aは水素または炭素数 1一 4のアルキル基を 示し、 Bは直鎖状または分枝したアルキルスぺーサ一基を示す〕
で示される繰り返し単位を有し、かつ分子量は 5000以上である、 2-メタクリロイルォ キシェチルホスホリルコリン(以下、「MPC」ともいう)と(メタ)アクリル酸エステルとの共 重合体を用いることが好ましい。前記共重合体からなるコーティングを有する眼内レ ンズは、後発白内障抑制効果に優れたものであり、しかも、前嚢捕獲、虹彩捕獲、虹 彩癒着を起こしにくくなり、前嚢切開縁の混濁を低減することもできるという効果も有 する。前記共重合体の詳細は、先に第一の態様について述べた通りである。
[0064] 本発明の第二の態様の方法により製造される眼内レンズは、硬質眼内レンズ (折り たたまれていない状態で眼内に挿入される)、軟質眼内レンズ (折りたたんだ状態ま たは圧縮された状態で眼内に挿入される)のいずれであることもできる。 また、前記 眼内レンズは、光学部と支持部が同一材料からなる眼内レンズ (例えば、光学部と支 持部が、軟質アクリル、シリコン、ハイド口ゲル等の一種の材料からなる眼内レンズ)で あることもでき、異なる材料からなる眼内レンズ (例えば、光学部がハイド口ゲルで支 持部がポリメチルメタタリレート、光学部がポリメチルメタタリレートで支持部がポリプロ ピレンからなる眼内レンズ)であることもできる。本発明の方法によれば、眼内レンズの 光学部と支持部に同時にコーティングを設けることができ、支持部にもコーティングを 設けることにより、眼内レンズ移植後にレンズを摘出する場合に、組織との癒着が少 なくレンズを容易に摘出できるという効果を得ることができる。
[0065] 本発明の第二の態様において使用される眼内レンズの光学部材料は、特に限定さ れず、例えば、ポリメチルメタタリレート、シリコン、ハイド口ゲル、アタリノレ (メタタリレート /アタリレート共重合体)、ポリェチルメタタリレート等を挙げることができる。中でも、 前述の式 (I)で示される繰り返し単位を有する共重合体からなるコーティングを有す
る眼内レンズを製造する場合には、光学部がアクリル系ポリマーからなるものであると 、該共重合体との相溶性が高ぐコーティングを良好に行うことができる。
[0066] 支持部材料としては、例えば、ポリメチルメタタリレート、ポリプロピレン、ハイド口ゲル 、アクリル (メタタリレート/アタリレート共重合体)、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド等 が挙げられる。支持部と光学部との接合方法としては、例えば、 IPN (相互貫入網目 構造)等の化学的接合、溶着、アンカ等の物理的接合等が知られているが、本発明 におレ、て用いられる眼内レンズを得るためには、レ、ずれの方法も適用可能である。
[0067] 本発明の第二の態様で用いられるコーティング溶液は、先に記載したような重合体 を、適当な溶媒に溶解した溶液である。使用する溶媒は、重合体の溶解性を考慮し て選択することができ、例えば、エタノール、メタノーノレ、プロパノール、ブタノールを 用いることができる。中でも、揮発性、安全性の観点からは、エタノールを用いること が好ましい。
[0068] コーティング溶液の濃度は、所望の厚さの均一なコーティングを得られるように適宜 設定することができ、例えば、 0. 05— 1質量%、好ましくは 0. 1— 0. 3質量%の範囲 とすることができる。また、所望の厚さの均一なコーティングを得るためには、コーティ ング溶液の粘度は、 2— 5mPa' sの範囲内であることが好ましい。
[0069] 本発明の第二の態様によれば、溶液濃度やスピンコーターの操作条件等の調整に より、所望の厚さのコーティングを有する眼内レンズを得ることが可能である力 均一 なコーティングを設けるという観点からは、コーティング厚は、 100 A以上、特に、 120 一 160 Aの範囲とすることが好ましい。なお、本発明の第二の態様の方法により得ら れる眼内レンズのコーティングの厚さの測定方法は、先に第一の態様について述べ た通りである。また、コーティングが均一に設けられていることは、 目視により判別する ことが可能である。
[0070] 本発明の第二の態様の方法では、コーティング溶液に眼内レンズを浸漬した後に、 眼内レンズをスピンコーターにおいて回転させる。これにより、スピンコーターの遠心 力によって、レンズ表面にコーティング溶液を均一に広げながら乾燥させることができ るため、所望の厚さの均一なコーティングを有する眼内レンズを製造することができる
[0071] スピンコーターの回転数が早くなると、遠心力が強く働くため、コーティング厚は薄く なる。よって、第二の態様の方法では、使用する重合体の種類、溶液濃度、所望のコ 一ティング厚等を考慮して、スピンコーターの回転数および時間を決定することが好 ましい。スピンコーターの回転数は、例えば、 2000— 8000i"pmとすること力でき、ま た、スピンコーターにかける時間は、例えば、 5— 30秒とすることができる。本発明の 第二の態様では、特に、コーティング溶液へ浸漬した後にスピンコーターによりコー ティングする操作を、 2回以上行うことが好ましい。
[0072] 本発明において、眼内レンズをスピンコーターにおいて回転させる際に使用するス ピンコーターは、特に限定されず、例えば、図 4に示すようなスピンコーターを用いる こと力 Sできる。なお、図 4に示すスピンコーター 2には、眼内レンズ 1の脱落防止、位置 決め用のピン 22が 4本設けられている力 本発明で使用し得るスピンコーターは、こ の態様に限定されるものではなレ、。例えば、図 4に示すスピンコーターを用いる場合 、眼内レンズ 1をコーティング溶液に浸漬した後、該レンズ 1の支持部 11のみをスピン コーターの支持部乗せ台 21上に乗せ、光学面 12を浮かせた状態で、例えば、反時 計回りに回転させることにより、眼内レンズ 1の表面にコーティング溶液を均一に広げ ながら乾燥させ、所望の厚さの均一なコーティングを有する眼内レンズを製造するこ とができる。
[0073] 本発明の第二の態様の方法により眼内レンズを製造する際に、コーティング前処理 を行うことで、眼内レンズ基材とコーティングとの結合を強くすることもできる。例えば、 基材の種類により、 UV照射、プラズマ処理、コロナ放電等を選択することで、基材と コーティングとの結合を強くすることもできる。また、より迅速に溶媒を除去するために 、コーティング後に減圧乾燥を行うこともできる。
実施例
[0074] 以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。 1.家兎眼坦植試験(1)
眼内レンズの調製
MPCモノマーと(メタ)アクリル酸 n-ブチルとの共重合体(MPC: (メタ)アクリル酸 n
ブチル = 3 : 7、分子量約 600, 000)を 0. 2質量%含有するエタノール溶液に、軟 性アクリル眼内レンズ(HOYAヘルスケア株式会社製、 AF-1 (UV) )を浸漬し、その レンズを回転数 5000rpmのスピンコーターに 10秒かけ、更に同溶液に浸漬して同 条件でスピンコーターに力け、厚さ約 140Aのコーティングを有する眼内レンズを得 た。
[0075] ^mnm ^
家兎眼に対して超音波乳化吸引術を施行して無水晶体眼とし、片眼に試験レンズ を、他眼に対照レンズを挿入した。なお、前嚢切開は c. c c法によって行い、眼内 レンズは折り曲げて嚢内固定した。
[0076]
コーティング処理を施した眼内レンズおよび未被覆眼内レンズを、それぞれ家兎眼 坦植 1ヶ月経過後に水晶体嚢とともに摘出した。写真を図 1に示す。未被覆レンズは 後嚢混濁 (後発白内障)により顕著に白濁しているのに対し、コーティング処理を施し たレンズには、後嚢混濁がほとんど観察されなかった。この結果から、本発明の眼内 レンズは、後発白内障を顕著に抑制する効果を有することがわかる。
[0077] 2.家兎眼坦植試験(2)
眼内レンズの調製
MPCモノマーと(メタ)アクリル酸 n-ブチルとの共重合体(MPC: (メタ)アクリル酸 n ブチル = 3 : 7、分子量 500,000— 700, 000)を 0. 3質量%含有するエタノール溶 液に、軟性アクリル眼内レンズ(HOYAヘルスケア株式会社製、 Acryfold)を浸漬した 後に真空乾燥した。
[0078] ^mnm ^
家兎眼に対して超音波乳化吸引術を施行して無水晶体眼とし、片眼に試験レンズ を、他眼に対照レンズを挿入した。なお、前嚢切開は c. c c法によって行い、眼内 レンズは折り曲げて嚢内固定した。
[0079]
コーティング処理を施した眼内レンズおよび未被覆眼内レンズを、それぞれ家兎眼 坦植 1ヶ月経過後に水晶体嚢とともに摘出した。写真を図 2に示す。未被覆レンズは
後嚢混濁 (後発白内障)により顕著に白濁しているのに対し、コーティング処理を施し たレンズには、後嚢混濁がほとんど観察されなかった。この結果から、本発明の眼内 レンズは、後発白内障を顕著に抑制する効果を有することがわかる。
また、眼内レンズ揷入一ヶ月後の前眼部所見を図 3に示す。図 3から明らかなように 、本発明のコーティングを光学部に有する眼内レンズは、未被覆眼内レンズと比べて 、後発白内障の発症が抑制されただけでなぐその他の合併症の発症頻度も顕著に 低減された。
[0080] 3.眼内レンズの製造
MPCモノマーと(メタ)アクリル酸 n—ブチルとの共重合体(MPC: (メタ)アクリル酸 n —ブチル = 3 : 7、分子量 600000)を、 0. 1質量%、 0. 2質量%、または 0. 3質量% 含有するエタノール溶液に、軟性アクリル眼内レンズ (HOYAヘルスケア株式会社 製 AF— 1 (UV) )を浸漬し、そのレンズを、回転数 3000i"pm、 5000rpm、または 700 Orpmで、図 4に示すスピンコーターに 10秒、 20秒、または 30秒かける操作を 1一 5 回繰り返し、コーティングを有する眼内レンズを得た。各条件で得られたレンズのコー ティング厚の比較を図 5に、コーティングの均一性の評価結果を図 6および図 7示す。
[0081] (1)溶液濃度および操作回数のコーティング厚への影響
図 5から、コーティング溶液の濃度が高くなると、溶液粘度が上昇するため、コーテ イング厚が厚くなり、また、スピンコーターの回転数が高くなると、遠心力が強く働くた め、余分な溶液が除去され、コーティング厚が薄くなることがわかる。また、操作回数 力 回の場合に比べて、 2回以上であれば、コーティング厚が厚くなり、特に、 1回と 2 回の場合には、コーティング厚の顕著な増加が見られた。
[0082] (2)溶液濃度および操作回数のコーティングの均一性への影響
図 6から、スピンコーターの回転数が高くなると、遠心力が強く働くため、余分な溶 液が素早く除去され、レンズ表面が早く乾燥するため、コートムラがなくなる傾向があ ること力 Sわ力る。また、 2回以上操作を行うことが、均一なコーティングを設けるために は有効であることがわかる。
[0083] (3)スピンコーターの回転時間のコーティングの均一性への影響
図 7に示すように、同一条件下でスピンコーターの回転時間を変更すると、いずれ
の場合においても、 2回以上操作を行うことにより、均一なコーティングを設けることが できた。この結果から、スピンコーターの回転時間は、作業性を考慮して、所望の厚 さの均一なコーティングを設けることができる範囲で設定すべきであることがわかる。
[0084] 4.コーティング方法による比較
(1)浸漬コート法によるコーティング眼内レンズの製造
(i)軟性アクリル眼内レンズ(H〇YAヘルスケア株式会社製 AF—1 (UV) )を、レンズ を立てた状態で、 MPCモノマーと(メタ)アクリル酸 n—ブチルとの共重合体(MPC : ( メタ)アクリル酸 n_ブチル = 3 : 7、分子量 600000)を、 0. 2質量%含有するエタノー ル溶液に浸漬した後、レンズを溶液から垂直に引き上げ、そのままの状態で乾燥を 行った。得られたレンズの概略図を、図 8 (a)に示す。レンズを溶液から引き上げた後 、レンズの下部にポリマーが蓄積した状態でレンズを乾燥させたため、蓄積部周辺に コートむらが生じ、均一なコーティングを設けることはできな力、つた。
[0085] (ii)上記 (i)と同様の眼内レンズおよび溶液を用いて、レンズを溶液に浸漬した後、レ ンズを引き上げ、レンズを寝かせた状態で乾燥を行った。得られたレンズの概略図を 図 8 (b)に示す。ポリマーが乾かない状態でレンズを寝かせて乾燥させたため、ポリマ 一がレンズの中心部に蓄積したまま乾燥されたので、蓄積されたポリマー周辺部にコ ートむらが生じ、均一なコーティングを設けることはできなかった。
[0086] (2)スピンコート法によるコーティング眼内レンズの製造
上記(1)と同様の眼内レンズおよび溶液を用いて、スピンコーターの回転軸にレン ズをセットした後に、溶液をレンズ表面に滴下して回転させ(5000rpm)、 コーティン グを行った。得られたレンズの概略図を図 8 (c)に示す。ポリマーがレンズ表面全体に 広がらないため、レンズ周辺部にコートされない部分が生じ、均一なコーティングを設 けることはできなかった。
産業上の利用可能性
[0087] 本発明の第一の態様の眼内レンズは、レンズ表面にコーティングを設けるという簡 便な操作のみで、後発白内障を顕著に抑制することができ、後発白内障の抑制のた めに特に有効である。
本発明の第二の態様の方法により得られた眼内レンズは、所望の厚さの均一なコ
一ティングを有するものである。本発明の第二の態様において、眼内レンズにコーテ イングする重合体の種類を選択することにより、親水性や生体適合性等の所望の物 性を、眼内レンズに付与することができる。
図面の簡単な説明
[図 1]家兎眼坦植試験(1)における、本発明の眼内レンズと未被覆眼内レンズとの比 較を示す写真である。
[図 2]家兎眼坦植試験(2)における、本発明の眼内レンズと未被覆眼内レンズとの比 較を示す写真である。
[図 3]家兎眼坦植試験(2)における、本発明の眼内レンズを使用した場合と未被覆眼 内レンズを使用した場合との術後 1ヶ月後の前眼部所見の比較を示すグラフである。
[図 4]本発明で使用し得るスピンコーターの一例を示す。
[図 5]各条件で得られたレンズのコーティング厚の比較を示す。
[図 6]コーティングの均一性の評価結果を示す。
[図 7]コーティングの均一性の評価結果を示す。
[図 8]浸漬コート法またはスピンコート法でコーティングを行ったレンズの概略図であ る。