明 細 書
再生セルロース繊維およびその製造法
技術分野
本発明は、 N—メチルモルホリン一 N—ォキシド (以下、 NMMOと略記する) を含む溶媒にセルロースを溶解した紡糸原液を用いて得られる再生セルロース繊 維、 およびその製造法に関し、 特に染色性や光沢や風合いに優れると共に、 耐フ ィプリル性の高められた中空断面や異形断面の再生セルロース繊維を得る技術に 関するものである。
背景技術
NMMOを含む溶剤を用いた再生セルロース繊維の製法は、 例えば特公昭 5 7 一 1 1 5 6 6号や同 6 0— 2 8 8 4 8号などにも記載されている如く古くから知 られている。 ところが上記溶媒を用いた従来の製法では、 得られる再生セル口一 ス繊維がフィブリル化を起こし易いという大きな欠点を有しており、 汎用化の障 害となっていた。 ところがこの方法は、 環境に与える悪影響が少なく且つ経済的 にも無駄のない方法であり、 また得られる再生繊維の物性もある程度良好である ところから、 最近再び注目を集めている。
—方、 上記フィブリル化の問題についても改良研究が進められ、 例えば特表平 8— 5 0 1 3 5 6号、 同 7— 5 0 8 3 2 0号、 特開平 8— 4 9 1 6 7号に見られ る如く幾つかの特許出願もなされているが、 現実には実用規模で満足のいく効果 を得るまでには至っていない。
また、 上記溶剤を用いて得られる再生セルロース繊維を衣料分野等に適用する 場合、 繊維そのもの或は織 ·編物としたときの光沢や風合いを高める上で、 横断 面を中空や異形断面にすることが有効と考えられるが、 NMMO含有溶剤を用い た中空断面や異形断面の再生セルロース繊維については現在のところ全く検討さ れていない。
さらに、 地球環境の保全に貢献する目的でセルロース原料が検討されたことは なく、 大量のへミセルロースゃリグニンを含有するセルロースの利用に関する検
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討もなされていない。
本発明は、 上記の様な状況に着目してなされたものであって、 その目的は、 前 述した NMMO含有溶剤を用いた再生セルロース繊維の欠点として指摘されるフ イブリル化の問題を解消するとともに、 特に、 衣料用として物性、 風合い、 染色 性などに優れた再生セルロース繊維を提供すると共に、 安定して製造することの できる製法を確立しょうとするものである。
発明の開示
上記課題を解決することのできた本発明の再生セルロース繊維とは、 以下のと おりである。
( 1) N—メチルモルホリン一 N—ォキシドを含む溶剤にセルロースを溶解した 紡糸原液を用いて製造された再生セルロース繊維であって、 該繊維中に含まれる セルロースの平均重合度が 4 0 0以下であり、 且つ該セルロースのうち 5〜3〇 重量%が重合度 5 0 0以上である。 本発明の再生セルロース繊維は、 優れた物性 と風合い等の外観特性を示すばかりでなく耐フイブリル化においても非常に優れ たものであり、 衣料用等に広く利用することができる。
また本発明の再生セルロース繊維の製造法は、 (2) NMMOを含む溶剤にセル ロースを溶解した紡糸原液を用いて再生セルロース繊維を製造する方法において、 紡糸原液中のセルロースの平均重合度を 4 0 0以下に抑えると共に、 該セルロー スのうち 5〜3 0重量%を重合度 5 0 0以上に調整し、 乾湿式紡糸法により紡糸 するところにあり、 得られる繊維の耐フイブリル性を高めることができる。
本発明の実施態様としては以下の例がある。
再生セルロース繊維中にリグリンを全セルロース重量に対して 1〜 1 0重量% 含有する前記(1)記載の再生セルロース繊維。
再生セルロース繊維中のへミセルロースの含有率が再生セルロース繊維重量に に対して 3〜 1 5重量%でいる前記(1)再生セルロース繊維。
繊維の横断面が中空である前記(1)記載の再生セルロース繊維。
繊維の横断面の異形度が 1 . 2以上である前記(1)記載の再生セルロース繊維。
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紡糸原液中のセルロース濃度が 1 0〜2 5重量%である前記 (2)記載の再生セ ルロース繊維の製造法。
紡糸口金から吐出された紡出フィラメントが凝固浴に浸入するまでの間に、 該 紡出フィラメントを冷却気体によって冷却する前記 (2)記載の製造法。
紡糸口金が異形断面または C形断面である前記 (2)記載の製造法。
紡糸口金におけるノズル先端部への導入部のテーパー角度が 1 0〜4 5度であ る前記 (2)記載の製造法。
以下、 本発明について詳述する。
本発明者らは前述の様な従来技術の欠点、 特に NMM〇を含む溶媒を用いた再 生セルロース繊維に指摘されるフイブリル化を防止すべく、 様々の角度から改良 研究を進めてきた。 その結果、 上記溶媒を用いて再生セルロース繊維を製造する 際に、 紡糸工程で疑似液晶化現象を起こす様な紡糸原液を使用すると、 得られる 再生セルロース繊維はフィブリル化の極めて少ないものになるという、 これまで 何人も認識していなかった新たな事実を見出した。
そして更に研究を進めたところ、 紡糸工程で上記の様な疑似液晶化を生じさせ るには、 紡糸原液中に溶解しているセルロースの重合度が極めて重要であり、 該 セルロースの平均重合度を特定すると共に、 高重合度のセルロースと低重合度の セルロースを特定の比率で含有するものを使用すればよく、 その様な混合セル口 ース溶液を紡糸原液として用いて紡糸を行なうと、 フィブリル化が極めて少なく、 しかも中空断面を有する良質の再生セルロース繊維が確実かつ容易に得られるこ とをつきとめた。 ここで 「疑似液晶化現象」 とは、 紡糸時の流動場や伸長場にお いてセルロースが液晶状の転移を生じる現象を言う。
従って本発明では、 NMMOを含む溶媒を用い、 これにセルロースを溶解した 紡糸原液を用いて紡糸を行なって再生セルロース繊維を製造するに際し、 紡糸原 液中に溶解しているセルロースの平均重合度と規定すると共に高重合度セル口一 スの含有比率を特定し、 紡糸工程で疑似液晶化現象を生じさせるところに特徴を 有している。
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具体的には、 紡糸原液に溶解しているセルロースの平均重合度を 4 0 0以下と すると共に、 該セルロース中に占める重合度 5 0 0以上の高重合度セルロースの 含有比率を 5〜3 0重量%の範囲に納めることが必要である。 そして、 この様に 重合度の異なるセルロース混合物を使用すると、 紡糸工程で高重合度のセル口一 ス成分が相分離により伸び切り鎖を主体とする構造を形成し、 その隙間を低重合 度のセルロースが埋め、 得られる再生セルロース繊維はあたかもコンポジッ ト状 の構造を形成することになり、 フィブリル化が抑えられるものと思われる。
つまり、 高重合度セル口一スが疑似液晶化現象を起こす主体となって長手方向 に収斂して力学的特性を担い、 一方、 低重合度セルロースはその隙間を埋めて風 合いなど衣料としての要求特性を高める作用を担い、 それらの相加的乃至相乗的 作用効果によって、 優れた強度特性や風合いが与えられ、 コンポジッ ト状に複合 された繊維構造によりフイブリル化を可及的に抑えることが可能となるのである。 こうしたコンポジッ ト状構造を確保すると共に、 紡糸作業を円滑に行なうには、 紡糸原液中に溶解しているセルロースの平均重合度を 4 0 0以下に抑えるのがよ く、 また紡糸工程で疑似液晶化現象を確実に生じさせ、 得られる再生セルロース 繊維として十分な長手方向の力学的特性を確保するには、 上記セルロース中に占 める重合度 5 0 0以上の高重合度セルロースの含有比率を 5重量%以上にするこ とが極めて有効となる。 即ち、 高重合度セルロースの含有率が 5重量%未満では、 紡糸工程で上記の様な疑似液晶化現象が起こり難くなり、 相分離によるフイブリ ル化防止効果が不十分になるばかりでなく、 長手方向の力学的特性も乏しくなり、 一方、 重合度 5 0 0以上の高重合度セルロースの含有比率が 3 0重量%を越える と、 紡糸工程で疑似液晶化現象は発生しても相分離が起こらず、 フィブリル化防 止効果も得られ難くなる。 上記の観点から、 重合度 5 0 0以上の高重合度セル口 ースのより好ましい含有比率は 5〜2 5重量%、 更に好ましくは 5〜2 0重量% の範囲である。
本発明で使用する高重合度セルロースは、 紡糸原液としたときの重合度が 5〇 〇以上を示すものであればその種類は特に制限されないが、 最も一般的なのは木
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材パルプを原料とする重合度 7 5 0以上のセルロースである。 しカゝし、 上記重合 度の要件を満たすものであれば、 リン夕ゃ木綿繊維等であっても勿論構わない。 一方低重合度のセルロースとしては、 紡糸ドープに調整した時の重合度が 4〇0 以下であれば特に制限はないがレーヨン繊維の回収物等が好ましく用いられるが、 このほか古紙や回収された古木綿等の回収品から得られるセルロース等を使用す ることができる。 これらの原料セルロースは、 工業用メタノールやエタノール等 を用いて湿潤させてから高速粉砕もしくは裁断し、 乾燥して用いられる。
また、 地球環境に対する適合性、 昨今の森林問題を考えると、 非木質系のセル ロースの利用が望ましく、 この観点から好適なものとしてケナフパルプが挙げら れ、 特にケナフの靭皮部と芯部とを分離することなく、 ケナフの全茎を用いるの が好ましい。 一般にケナフの靭皮部分は平均重合度 7 0 0以上の高重合度セル口 —スであり、 芯部のセルロースは重合度 3 0 0前後の低重合度セルロースとなつ ており、 本発明に好適に使用できる。
ケナフの靱皮はリグニンやへミセルロースを含有するが、 NMMOを溶剤とし て使用すると NMMOは極めて溶解性が高く、 高濃度のリグニンを含有しても力 学特性に優れた再生セルロース繊維が製造可能であることを見出し、 かつ染色性 や風合が改善されることを見出した。
染色性や風合を改善するための好ましいリグニンの含有率は全セルロース重量 に対して 1重量%以上であり、 リグニンを溶解させることができる範囲まで含有 させることが可能である力 リグニンが未溶解のまま存在する場合、 紡糸性が阻 害される傾向があるので、 リグニンの含有率は 1〜1 0重量%が好ましい。 リグ ニン含有率が 1重量%未満では染色性の改善効果が小さい。
染色性や風合を改善するための好ましいへミセルロースの含有率は、 再生セル 口一ス繊維重量に対して、 3〜1 5重量%でぁり、 好ましくは 3〜 1 2重量%、 より好ましくは 4〜 1 0重量%である。 へミセルロース含有率が 3重量%未満で は染色性の改善効果が認められず、 1 5重量%を超えると紡糸性が低下するとと もに糸物性が著しく低下する。
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上記の組成の再生セルロース繊維とするための原料セルロースとして好適なも のはケナフパルプで、 特に靭皮部と芯部を分離することなく用いるのが好適であ るが、 その他いかなる一般的セルロースを用いてもよい。 へミセルロース成分を 比較的多く含有する原料、 例えばクラフトパルプなど混合し、 リグニン含有率や へミセルロース含有率を調整することができる。
そして紡糸原液を調製するに当たっては、 該原液中のセルロースの平均重合度 が 4 5 0以下で且つ重合度 5 0 0以上の高重合度セルロースの含有比率が 5〜3 0重量%、 より好ましくは 5〜2 5重量%、 更に好ましくは 5〜2 0重量%の範 囲となる様に、 上記高重合度セルロースと低重合度セルロースの配合比率を調整 すればよい。
紡糸原液の調製に用いられる溶媒としては NMM〇を含む溶媒が使用されるが、 好ましいのは NMMOと水の混合溶媒であり、 中でも特に好ましいのは NMMO 水の混合比率が 9 0 Z 1 0〜4 0 9 0 (重量比) の混合物である。
そしてこれらの溶媒に、 前記セルロースの濃度が好ましくは 1 5〜 2 5重量% となる様に添加し、 通常 8 0〜1 3 5 °C程度の温度でシァーミキサ一等で溶解す ることにより紡糸原液の調製が行なわれる。 紡糸原液のセルロース濃度が低過ぎ ると疑似液晶紡糸にならず、 逆に高過ぎると粘度が高くなり過ぎて紡糸が困難に なるので、 紡糸原液のセルロース濃度は、 上記の様に 1 5〜2 5重量%、 より好 ましくは 1 5〜2 0重量%の範囲となる様に調整するのが望ましい。
原料セルロースは、 該溶解工程で若干の重合度低下を起こすので、 本発明で規 定するセルロースの前記重合度は、 該溶解工程を経た後の状態で測定し、 その平 均重合度と高重合度物の含有比率が前述の要件を満たす様に、 溶解原料として用 いる高重合度セルロースと低重合度セルロースの配合量を調整すればよい。 この とき、 溶解時におけるセルロースの重合度低下や NMM〇の分解を抑える為、 例 えば過酸化水素、 修酸またはその塩、 没食子酸、 メチルジ没食子酸、 グリコシド 等の安定剤を添加することは好ましい態様として推奨される。
セルロース原料を NMMOと水の混合溶媒に溶解した溶液は、 比較的低粘度で
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あって高濃度の溶液が得られ易く、 その粘性も湿式紡糸に好適なものになること は、 例えば 「繊維学会誌」 5 1, 4 2 3 ( 1 9 9 5 ) にも記載されている通りで ある。
こうして得られる高粘度 (溶解温度での零剪断粘度が 5, 0 0 0ボイズ程度以 上) の溶液は、 薄膜エバポレー夕で脱泡した後、 濾過してから紡糸部へ供給され る。 高粘度の紡糸原液は紡糸ヘッ ドへ送られ、 ギアポンプで計量されてスピンパ ックへ供給される。 紡糸温度は 9 0〜1 3 5 °Cの範囲が好ましく、 9 0 °C未満で はドープ粘度が高過ぎるため紡糸が困難となり、 また 1 3 5 °Cを越えて過度に高 温になるとセルロースの分解により重合度が低下し、 得られる再生セルロース繊 維の物性、 殊に引張強力が乏しくなる。
紡糸口金のオリフィスは、 ド一プの安定性を高めるため LZDを長くすること が有効な場合もあるが、 そうすると紡糸背圧が高くなるという問題が生じて好ま しくない。 紡糸口金は導入角の小さいテーパ状のオリフィスを使用し、 乱流の発 生を抑制することが望ましい。
夾雑物を多く含む場合は、 フィルトレーシヨンが必要であり、 スピンパックに サンドを用いて、?戸過したり、 線弓 Iき細金属繊維からなるフィル夕一等での?戸過が 望ましく、 特に口金直前の'?戸過が有効である。
このとき、 横断面形状が中空や異形の再生セルロース繊維を得るには、 紡糸口 金は、 中空の場合は、 例えば図 1 (A) 〜 (B) に示すような C形断面口金が使 用され、 異形の場合は例えば図 2 (A) 〜 (D) に示す様な異形断面口金が便用 されるが、 この様な断面の口金を使用すると紡糸ドープの曳糸性が悪くなるため、 通常の形状の紡糸ノズルでは、 紡糸口金を出てから凝固液に侵入するまでのエア —ギャップ中で十分な紡糸延伸倍率が得られ難くなり、 前述の様に重合度を調整 したセルロースを用いた紡糸原液を使用した場合でも疑似液晶化現象が起こりに く く、 断面異形度の調整や中空率の調整ゃ耐フイブリル性の向上効果が有効に発 揮され難くなる。
そこで、 上記の様な特殊な断面の口金を用いた場合でも十分な紡糸延伸倍率を
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確保することのできる手段について検討を続けた結果、 例えば図 1や図 2に示す 如く紡糸口金におけるノズル先端部への導入部のテーパー角度ひを十分に小さく すれば、 オリフィス内で生じる乱流が抑制でき、 口金先端形状が特殊な形状であ つても十分な延伸倍率を確保することができ、 それにより疑似液晶現象が発現し て中空や異形断面化が達成されると共に耐フイブリル化も効率的に高められるこ とが確認された。 こうした効果を得るには、 前記導入部のテーパー角度 αを好ま しくは 4 5度以下、 より好ましくは 3 5度以下にすることが望ましいが、 テーパ 一角ひを余りに小さくすることは機械加工上困難であるばかりでなく、 該導入部 への入口部で乱流が生じ易くなり、 却って曳糸性を阻害する傾向が生じてくるの で、 1 〇度程度までに止めることが望ましい。 曳糸性や加工性等を総合的に考慮 してより好ましいテーパー角度は 1 5〜3 0度の範囲である。
口金から吐出されたドープは、 吐出部から吐出したドープが凝固液に侵入する までの区間 (エアーギャップ) で引き伸ばされるが、 上記の様なテーパ状オリフ イスを使用すると、 十分な紡糸ドラフトを与えることができ、 その結果として疑 似液晶化現象が確実に発現され、 所定の異形度や中空率が与えられると共に耐フ ィブリル性も高められることとなる。
そこで本発明を実施する際には、 高粘度の紡糸原液の溶液粘度を下げるため高 温で紡糸し、 且つ紡糸温度よりも低い温度で凝固させるため、 例えば特表平 8— 5 0 0 8 6 3号公報に記載されている如く、 紡糸ノズルから出た吐出ドープが凝 固浴に侵入するまでの間にエアーギャップを設けた乾湿式紡糸法を採用すること が必要となる。 即ち、 本発明を実施する際にこの様な乾湿式防止法を採用すると、 上記の様な高重合度セルロースと低重合度セルロースを含む高濃度溶液中の高重 合度セルロースが、 上記エアーギヤップ部に形成される流動場ないし伸長場で相 転移と相分離を引き起こし、 この部分で疑似液晶転移現象を生じて高重合度セル ロースが繊維骨格を形成し、 異形や中空断面の再生セルロース繊維が得られ易く なるばかりでなく、 得られる再生セルロースは、 低重合度のセルロースを多量含 むものであっても、 十分な強度を示すものとなる。 なお紡糸速度は特に制限され
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ないが、 通常は l O O mZ分以上、 好ましくは 1 5 0 mZ分以上で行なうことが 望ましい。
上記乾湿式紡糸において、 疑似液晶への転移には、 十分な延伸倍率が必要であ り、 紡糸延伸倍率は 3. 5〜5 0倍以下が好適である。
エアーギャップ長は、 分子緩和を抑えつつ大きな変形速度が得られる様に、 通 常紡糸口金と凝固液面との間隔を 2 0〜 5 0 O mmに設定するのが好ましい。
2〇 mm未満では十分な延伸倍率の達成がしにく く、 5 0〇mmを超えると、 分 子緩和が発生して疑似液晶紡糸が困難になる。 冷却はクェンチチヤンバーを用い て行なう事が好ましく、 冷却風の条件は、 温度が 1 0〜3 0 °Cが好ましく、 風速 は〇. 2〜1 . O mZ秒が好ましい。
凝固浴としては NMMOの水溶液を使用するのがよく、 NMMO濃度は 1 〇〜 5〇重量%の水溶液を使用することが好ましい。 NMMO濃度が 1 0重量%未満 では、 蒸発する NMMOの回収率が低くなつて不経済になるし、 逆に 5 0重量% を超えて過度に高濃度にするとフィラメントが凝固不足になる。 凝固浴のより好 ましい NMMO濃度は 1 5〜4 0重量%の範囲である。 また、 凝固浴の好ましい 温度は一 2〇〜2 0 °Cであり、 より好ましくは一 1 0〜1 5 °Cの範囲であり、 2 0 °Cを超えると凝固不足となつて繊維性能が悪くなり、 一方凝固浴を一 2〇 °Cを 下回る温度にまで過度に冷却してもそれ以上に繊維性能が高められる訳ではない ので、 それ以上に冷却することは経済的に無駄である。 凝固浴を通過した糸条 は、 引き続いて水洗 ·乾燥工程へ送られるが、 このとき、 ネッ トコンベア等の捕 集装置を用いて糸条を捕集して処理することは、 設備を簡素化する上で極めて有 効である。 さらに、 ネッ トコンベアによる捕集を一層容易にするため、 例えば特 公昭 4 7— 2 9 9 2 6号に開示されている様な公知のダブルキックバックロール やァスピレー夕等を使用することも、 好ましい方法として推奨される。 また、 得 られる再生セルロース繊維を短繊維として使用する場合、 クリンパ一を工程中に 設けて伸縮を付与することも有効である。 クリンパーとしては所謂ス夕ッフィ ン グボックス型のクリンパ一が好ましいが、 ギアークリンパ一であっても勿論構わ
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ない。 ボックス型のクリンパ一を使用する場合は、 ネッ トコンベアの捕集装置と しても用いることができる。
ネッ トコンベアを用いて水洗 '乾燥された繊維束は、 長繊維として得る場合は ワインダ一で所定繊度の糸条として巻き上げられ、 短繊維として得る場合は束ね られた長繊維を直ちに若しくは別途力ッ夕一で切断して得ればよい。 カツ夕一と しては、 口一夕リカッ夕ーやギロチン力ッ夕一等が一般的に用いられる。
図面の簡単な説明
図 1は本発明で再生セルロース繊維を中空断面とするために使用される紡糸口 金の形状及び紡糸ノズルの吐出口の形状を例示する説明図である。
図 2は本発明で再生セルロース繊維を異形断面とするために使用される紡糸口 金の先端形状を例示する説明図である。
図 3は紡糸ノズルの吐出口の形状を例示する説明図である。
以下、 実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、 本発明はもとより下 記実施例によって制限を受けるものではなく、 前 ·後記の趣旨に適合し得る範囲 で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、 それらはいずれも本発明 の技術的範囲に包含される。 なお、 下記実施例、 比較例で採用した各性能の測定 法は次の通りである。
くセルロースの重合度の測定〉
高分子学会編 「高分子材料試験法 2」 第 2 6 7頁、 共立出版 (1 9 6 5 ) に記 載の銅エチレンジァミン法により測定。
ぐフィプリル化の判定〉
3 O O m lの水に、 5 mmにカッ トした再生セルロース繊維を 5 g投入し、 市 販のミキサーを用いて 1 0分間攪拌し、 攪拌後の繊維をランダムに 2 0本採取し、 顕微鏡を用いてフィブリル化の程度を観察し、 標準サンプル法により 5段階評価 する (◎、 〇、 △、 x、 X X ) 。
ぐ染色性の測定方法 >
J I S— L— 1 0 1 5の 7. 3 0染着率に準じて試験した。
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ぐリグニンの定量法 >
繊維試料を J I S - P - 8 1 0 1 - 1 9 9 4のリグニンに準じて処理して得ら れた値をリグニン含有率とした。
<へミセルロースの定量法 >
繊維試料を J I S— P— 5 1 0 1— 1 9 9 4の 5. 6 /3セルロースに準じて処 理し、 得られた値からへミセルロース含有率を求めた。
ぐ異形度の測定〉
繊維断面を顕微鏡撮影し、 トレーシング紙を用いて外周長 (L) を求め、 且つ 外接円の周長 (L。 ) を測定して、 L// L。 によって異形度を求めた。
ぐ中空率の測定 >
繊維束から任意に取り出した単繊維 5本の繊維切片を光学顕微鏡で観察し、 得 られた断面写真から中空部分の面積を繊維外周を囲む面積で除し、 1 0 0を乗じ て得られた値の平均値を中空率とした。
実施例 1
高重合度のセルロースとしてレーヨン用パルプを、 また低重合度のセルロース としてレーヨン繊維を使用し、 夫々の混合比を変えてそれら混合物の各 1 5重量 部を、 NMMO: 7 3重量部と水: 1 2重量部の混合液に 1 1 0°Cで減圧溶解し た。 各成分の重合度は、 高重合度セルロースおよび低 fi合度セルロースの各単独 ドープから水で沈殿凝固させて得たセルロースの重合度を測定することによって 求めた。 高重合度セルロースの重合度は 7 5 0、 低重合度セルロースの重合度は 3〇〇であった。
得られた各溶液を紡糸原液として使用し、 巻取り速度 (Vw ) を 5 0 m/分に 固定し、 各セルロース混合比において安定に紡糸できる最低単孔吐出量を求め、 その条件を元に、 表 1に示す条件で紡糸を行なった。 なお凝固液としては NMM 〇 水 - 2 0 Z 8 0 (重量比) の混合液を用いた。
得られた各再生セルロース繊維の物性およびフィプリル化の程度を表 1に示し た。
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表 1からも明らかであるように、 本発明の規定要件を充足するものでは、 フィ プリル化が見られず且つ繊維物性も良好である。 また、 紡糸原液中のセルロース の高重合度成分量が多くなるほど、 得られる再生セルロース繊維の強度は高くな るが、 高重合度成分の含有比率が 3 0重量%を超えるとフイブリル化を起こし易 くなり、 また 5重量%未満になると強度が劣悪になり、 いずれの場合も本発明の 目的にそぐわなくなることが分かる。
実施例 2
上記実施例 1と同じ原料と溶媒組成比を採用し、 高重合度セルロース成分比が 1 5重量%の場合と 1 0 0重量%の場合について、 2 0 0 m/分の速度で紡糸を 行なった。 紡糸に用いた吐出オリフィスとしては、 テーパー状の導入孔と直径 〇. 1 3 mmで LZDが 2. 0のストレートオリフィスで、 導入孔の入口側開口 度は 2 0度、 中間部分の導入孔の開口度は 1〇度のものを用いた。 この紡糸口金 からド一プを吐出させ、 1 5 O mmのエアギャップで、 2 0 °Cのクチェンチ風を 0. 4 O mZ秒の速度でドープフィラメントに直角に吹きつけて糸状の冷却を行 ない、 NMM〇/水= 2 0 / 8 0 (重量比) の凝固液に導いて凝固させてから巻 取った。
得られた繊維を乾燥し、 実施例 1と同様の試験を行ない、 表 2に示す結果を得 た。 高重合度セルロースを低重合度セルロースと併用して得た再生セルロース繊 維は、 繊維物性が良好でフィブリル化も全く見られないのに対し、 高重合度セル ロースを単独で用いて得た再生セルロース繊維はフイブリル化を非常に起こし易 く、 本発明の目的を達成できないことが分かる。
実施例 3
セルロースとしてケナフ全茎を用いたクラフトパルプを用いて、 セルロースを、 NMMOと水の混合液に 1 1 0 °Cで減圧溶解した。 得られたド一プの組成比率は セルロース 1 8重量%、 NMM0 7 3重量%と水 9重量%であった。 このドープ を用いて実施例 2と同様に紡糸を行った。 比較例としてセルロースとして高 一 木材パルプを用いた他は同じとしたリョセル繊維を用いた。 表 3に示すように、
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実施例では、 リグニン含有率が多いにもかかわらず高品質の繊維が得られ、 比較 例のリョセル繊維に劣らぬ満足な糸質と比較例に比べ良好な染色性を持つ再生セ ルロース繊維が得られ、 繊維風合 、は一段と優れたものであった。
実施例 4
高重合度のセルロースとしてケナフ靱皮からのクラフト処理したパルプを低重 合度のセルロースとしてケナフ芯部からのクラフト処理したパルプを用いてそれ ぞれの混合比を 20/80にし、 全セルロースを、 NMMOと水との混合液に 1 1〇°Cで減圧溶解した。 得られた全セルロースは 18重量%、 NMMOは 73重 量%と水 9重量%であった。 吐出量を 0. 26 (g/hole/min) 、 紡速を 20 OmZ分とし、 エアーギャップを介して吐出糸状を凝固浴に導いた。 エアーギヤ ップで 10°Cのクェンチ風を 0. 5 OmZ秒の速度でドープフィラメントに直角 に吹き付け糸状の冷却を行った。 20重量%の濃度で 10°C凝固浴で凝固させた フィラメントを水洗し捲き取った。 得られた繊維を乾燥後測定した結果は、 繊度 2. l d、 強度 3. 9g/d、 伸度 7. 6%、 弾性率18〇8 、 繊維重合度 380、 リグニン含有率 2. 1重量%、 染着率 73%であり、 本発明の繊維は高 ぃ染着率と優れた繊維力学特性を示した。
実施例 5
高重合度のセルロースとしてレーヨン用パルプを、 また低重合度のセルロース としてレーョン繊維を使用し、 前者対後者を 20 Z 80の重量比で配合した混合 セルロース 15重量部を、 NMMO: 73重量部と水: 12重量部の混合液に 1 10°Cで減圧溶解した。 高重合度セルロースおよび低重合度セルロースの各単独 ドープから水で沈殿凝固させて得た各セルロースの重合度は、 高重合度セル口一 スで重合度 750、 低重合度セルロースで重合度 350であり、 平均重合度は 3 90であった。
この紡糸原液を使用し、 表に示す条件で乾湿式紡糸を行ない、 紡速 20 OmZ 分とし、 30〇mmのエアーギャップを介して吐出糸条を凝固浴に導びいた。 ェ ァーギヤップで 10°Cのクェンチ風を 0. 5 Om/秒の速度でド一プフィラメン
差替え用紙 (規則 26)
卜に直角に吹き付け糸状の冷却を行った。 2 0重量%の濃度で 1 0 °C凝固浴で凝 固させて得られたフィラメントを水洗 ·乾燥して巻き取って物性と中空率を測定 した。 結果は表 4に併記する通りであり、 繊維物性及び染色性が高い再生セル口 ース繊維が得られた。
実施例 6
高重合度のセルロースとしてレーヨン用パルプを、 また低重合度のセルロース としてレーョン繊維を使用し、 前者対後者を 2 0 / 8 0の重量比で配合した混合 セルロース 1 5重量部を、 NMMO: 7 3重量部と水: 1 2重量部の混合液に 1 1 o°cで減圧溶解した。 高重合度セルロースおよび低重合度セルロースの各単独 ドープから水で沈殿凝固させて得た各セルロースの重合度は、 高重合度セルロー スで重合度 7 5 0、 低重合度セルロースで重合度 3 0 0であり、 平均重合度は 3 6 8であった。
この紡糸原液を使用し、 吐出部が C形状 (開孔部の外径 1 5 0 0 / m、 内径 1 4 0 0〃m、 非開孔部の幅 5 0 0〃m) で導入角 α = 3 0度で、 口金形状が図 1 の Αの紡糸口金を用い紡速 5 O mZ分とし、 2 0〇mmのエア一ギヤップを介し て吐出糸条を凝固浴に導びいた。 エアーギャップで 1 0 °Cのクェンチ風を〇. 5 O mZ秒の速度でド一プフィラメントに直角に吹き付け糸状の冷却を行った。 2 0重量%の濃度で 1 0 °C凝固浴で凝固させて得られたフィラメントを水洗 ·乾燥 して巻き取って物性と中空率を測定した。 結果は表 5に併記する通りであり、 繊 維物性の高い中空断面の再生セルロース繊維が得られた。
実施例 7
実施例 6と同じ紡糸原液を使用し、 紡糸口金を図 3の Aの形状のものを使用し、 延伸倍率を 8. 5倍に変更する以外は実施例 6と同様にして、 異形断面の再生セ ルロース繊維を得た。
結果は表 6に示す通りであり、 繊維物性および断面異形度の高い再生セルロー ス繊維が得られた。 -
差替え用紙 (規則 26)
A B c D E F G H I
Η+^レロース ·重合麼 7 B Ω 750 7 50 7 0 7 ^ 0 7 Π 7 c; Π
!!セレロース :配合率 案景%) o 5 10 15 20 7 100 100
Lセルロース:重合度 300 300 300 300 300 300 300 300
セレロース平均重合度 300 323 345 368 390 525 638 750 750 セルロース濃度 (重量%) 15 15 15 15 15 15 15 15 15
NMMO濃度 (重量%) 73 73 73 73 73 73 73 73 73 水 濃度 (重 ¾%) 12 12 12 12 12 12 12 12 12 糸方糸温度 (°c) 1 10 1 10 1 15 1 15 1 15 1 15 120 120 120 吐出景 ( e- /h o 1 ft/m i n) 0. 21 0. 1 1 0. 09 0. 07 0. 07 0. 05 0. 05 0. 05 0. 07 才リフィス择 (mm) 0. 1 0. 1 0. 1 0. 1 0. 1 0. l 0 1 0 1 0 1 糸方糸速度 (mZm i n) 0. 44 0. 23 0. 19 0. 15 0. 15 0. 1 0. 1 1 0 1 1 0. 15 エアギヤップ (腿) 20 20 20 20 20 20 0 o 0 o 0 巻取り速度 (m/m i n) 50 50 50 50 50 50 5 o 50 5 o 紡糸延伸倍率 (倍) 1. 9 3. 6 4. 5 5. 6 5. 6 7. 3 7. 3 7. 3 5. 6 凝固浴濃度 (重量%) 20 20 20 20 20 20 20 20 20 凝固浴濃度 (°c) 10 10 10 10 10 10 10 10 10 再生セルロース繊度 (denier) 5. 6 2. 9 2. 4 1. 9 1. 9 1. 5 1. 5 1. 5 1. 9 強度 (gZd) 2. 1 3. 8 4. 1 4. 4 4. 7 5. 3 5. 8 6. 0 5. 7 伸度 (%) 20. 5 15. 3 13. 7 1 1. 5 10. 2 9. 8 8. 3 7. 6 8. 3 弾性率 (gZd) 95 120 128 143 161 184 192 206 188 フィプリル化 ◎ ◎ ◎ ◎ 〇 △ X X X X X
Hセルロース:高重合度セルロース、 Lセルロース:低重合度セルロース
表 2
Hセルロース:高重合度セルロース
Lセルロース:低重合度セルロース
差替え用紙 (規則 26)
1フ
表 3
差替え用紙 (規則 26)
実 施 例
Hセルロース : 重合度 550
Hセルロース : 配合率 (重量%) 20
Lセルロース : 重合度 350 セルロース平均重合度 390 セルロース濃度 (重量%) 15
NMMO濃度 (重量%) 73 水 濃 度 (重量%) 12 紡出温度 (°C) 11〇 吐 出 量 (g/hole/min) 〇. 31 エアーギャップ (龍) 300 クェンチェア一温度 (で) 10 クェンチェア一風速 (m/sec) 0. 5 巻取り速度 (m/min) 200 紡糸延伸倍率 (倍) 8. 5 凝固浴濃度 (重量%) 20 凝固浴温度 (で) 10 繊 度 (denier) 2. 1 繊 強 度 (gZd) 4. 3 維 伸 度 (%) 9. 1 特 弾 性 率 (g/d) 184 性 へミセルロース含率 (重量%) 3. 4 染 着 率 (%) 72
差替え用紙 (規則 26)
表 5
実 施 例
Hセルロース : 重合度 750
Hセルロース : 配合率 (重量%) 15
Lセルロース : 重合度 300 セルロース平均重合度 368 セルロース濃度 (重量%) 15
N M M〇濃度 (重量%) 73 水 濃 度 (重量%) 12 紡出温度 (°C) 1 15 吐 出 量 (g/hole/rain) 0. 41 エアーギヤップ 、匪) 50 クェンチェア一温度 (°C) 10 クェンチェア一風速 ^m/sec) 0. 5 巻取り速度 ^m/min) 50 紡糸延伸倍率 (倍) 26 凝固浴濃度 (重量%) 2〇 凝固浴温度 (°C) 1〇 繊 度 (denier) 1 1 繊
強 度 (g/d) 4. 9 維
伸 度 (%) 9. 5 特
弾 性 率 (g/d) 171 性
中 空 率 (%) 15
差替え用紙 (規則 26)
表 6
Hセルロース:高重合度セルロース
Lセルロース:低重合度セルロース
差替え用紙 (規則 26)
産業上の利用可能性
本発明の再生セルロース繊維は、 耐フイブリル性に優れるのみならず、 染色性、 風合に優れ、 衣料用として好適である。
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