JPWO2021033397A1 - 金属材料の遅れ破壊評価方法 - Google Patents

金属材料の遅れ破壊評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】低温・高湿度環境かつ高塩化物な環境下における遅れ破壊特性を精度よく評価する。【解決手段】下記工程(A)と工程(B)からなる工程を1回または複数回行うことにより、加工された金属材料の遅れ破壊特性を評価する金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。工程(A):前記金属材料の表面に塩化物イオンを含む水溶液を接触させることで、塩化物量1000〜100000mg/m2の塩化物を付着させる工程工程(B):温度−50〜10℃及び前記塩化物の潮解湿度以上である相対湿度の大気雰囲気中に、工程(A)で前記塩化物を付着させた前記金属材料を静置する工程

Description

本発明は、低温、高湿度環境かつ高塩化物な融雪塩が付着する環境で使用される加工された金属材料の遅れ破壊評価方法に関する。
自動車における軽量化と衝突安全性の向上の両立を目的として、自動車部品の高強度化が進められている。しかし、材料が高強度化されると、材料中に水素が侵入した場合に伸びなどの機械的性質が劣化する「水素脆化」と呼ばれる現象が発生する。水素脆化現象は、遅れ破壊とも呼ばれ、高強度材部品が静的な負荷応力を受けた状態で時間が経過したとき、外見上はほとんど塑性変形を伴うことなく、突然脆性的に破壊する現象である。
材料中への水素侵入量の増大は遅れ破壊の発生を誘発し、遅れ破壊感受性は材料の強度が高いほど高まる。たとえば、引張強度1000MPa以上の超高強度鋼では、水素侵入量が少ない大気腐食環境中でも脆化が生じる可能性がある。そのため、高強度材を実使用するためには、材料の遅れ破壊評価を正確に把握する必要がある。
この大気腐食環境下での材料中への水素侵入挙動は昼夜で変動し、乾燥状態(昼)と湿潤状態(夜)を含む2状態への遷移域で最も水素侵入量が増大することが知られている。そこで、昼夜で温湿度変化のある大気環境を模擬し、乾燥状態と湿潤状態を含む2状態を繰り返す腐食サイクル環境下での遅れ破壊評価試験を行うことにより腐食環境下での水素侵入による遅れ破壊を評価する手法が知られている(例えば特許文献1〜3参照)。
特開2011−174859号公報 特開2016−180658号公報 特開2010−139450号公報
ところで、自動車は、種々の環境で使用されるものであって、高湿度環境かつ高塩化物な融雪塩が付着するような融雪塩散布地域で使用される場合もある。そこで、融雪塩散布地域における遅れ破壊特性の評価を行う必要がある。しかしながら、融雪塩散布地域での実環境下における遅れ破壊特性の試験結果は、特許文献1〜3に記載された手法を用いた遅れ破壊特性の試験結果とは異なるものになり、特許文献1〜3の手法では、低温・高湿度環境かつ高塩化物な環境下における遅れ破壊特性を精度よく評価することができない。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、低温・高湿度環境かつ高塩化物な環境下における遅れ破壊特性を精度よく評価することができる金属材料の遅れ破壊特性評価方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべくなされたものであり、その要旨は次の通りである。
[1] 下記工程(A)と工程(B)からなる工程を1回または複数回行うことにより、加工された金属材料の遅れ破壊特性を評価することを特徴とする金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
工程(A):前記金属材料の表面に塩化物イオンを含む水溶液を接触させることで、塩化物量1000〜100000mg/mの塩化物を付着させる工程
工程(B):温度−50〜10℃及び前記塩化物の潮解湿度以上である相対湿度の大気雰囲気中に、工程(A)で前記塩化物を付着させた前記金属材料を静置する工程
[2] 工程(A)において、浸漬、噴霧、シャワー、スプレー、水滴滴下のいずれか1つ以上の手法を用いて、10分以内に前記金属材料に前記塩化物を付着させることを特徴とする[1]に記載の金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
本発明によれば、低温高湿度の大気中に高塩化物な融雪塩が付着する環境における加工された金属材料の加工条件により遅れ破壊特性について精度よく評価を行うことができる。
本発明の金属材料の遅れ破壊評価方法の好ましい実施形態を示す工程図である。 遅れ破壊評価方法に用いられる試験片の一例を示す模式図である。
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の金属材料の遅れ破壊評価方法の好ましい実施形態を示す工程図である。図1の金属材料の遅れ破壊評価方法は、例えば融雪塩散布地域のように、低温高湿度で融雪剤等の高塩化物が付着する環境下で使用される金属材料について、腐食に伴う遅れ破壊特性を評価するものである。この金属材料の遅れ破壊評価方法は、工程(A):塩分付着工程と、工程(B):大気雰囲気下での静置工程とを1回または複数回行うことにより行われる。
はじめに、融雪塩散布地域における塩化物量が金属材料の遅れ破壊に及ぼす影響を詳細に調査するために、融雪塩散布地域に曲げ試験片を取り付け、割れ試験を実施した。その結果、金属材料の遅れ破壊特性について、適切な評価を行うためには工程(A)での塩化物を含む付着量のみならず、工程(B)において適切な温度と相対湿度を設定する必要があり、制御された一定範囲内の温湿度条件で遅れ破壊特性を評価する必要があることがわかった。
これは、凍結防止のために路上に散布された融雪剤中に含まれる塩化物が自動車走行時に巻き上げられることで、車体材料に塩化物が付着し、腐食を生じやすくなるためと考えられる。さらに、融雪塩散布環境の場合、低温度で雪下のぬれ状態が継続するため、鋼板表面のぬれ状態が試験環境とは異なり、遅れ破壊特性に影響を与えることが考えられる。なお、融雪剤は、主として岩塩、食塩などNaClやCaClを主成分とするものであり、中でも塩化物を含む融雪剤を融雪塩と呼び、例えば有機系の融雪剤等の塩化物を含まない融雪剤は融雪塩には含まない。以下、工程(A)と工程(B)の詳細を説明する。
<工程(A):塩分付着工程>
工程(A)は、金属材料に塩化物成分を付着させる付着工程である。塩化物成分は、塩化物イオンを主体とする成分を含む水溶液からなる。塩化物成分は試験温度において水溶液として保たれることが好ましく、試験温度で固体である場合は試験に適さない。
塩化物イオンを主体とする成分とは、例えばNaCl、MgCl、CaClなどのClイオンを含む塩の中のClイオンを指す。実環境を考慮すると、金属材料に付着させるのはNaClを主体とする成分であることが好ましい。主体とする成分とは、水分を除く重量%が50%以上を占める場合を意味する。塩化物イオンを主体とする成分が塩化物(NaCl、MgCl、CaClなどの1種以上)のみからなっていてもよいし、塩化物以外の成分が含まれていても良い。この塩化物以外の成分としては、環境中に含まれる硫化物や硝酸化合物、融雪剤に混合され散布される尿素などが挙げられるが、これらに限定されない。
金属材料に付着させる塩化物量(水などの溶媒を含まない固形分付着量)は1000〜100000mg/mとする。この塩化物量は、実環境で想定される塩化物量に対応したものである。塩化物量が1000mg/m未満では、塩化物成分を積極的に供給する融雪塩散布地域の実環境では考えにくく、実際の環境とかけ離れ、水素侵入の主影響である腐食状態が緩慢な状態となるために遅れ破壊評価に適さない。また、100000mg/mより大きな環境は、大気からの吸湿でより厚い水膜が形成されるため、浸漬試験に非常に近くなり実環境を再現できない。よって、融雪塩環境における加工された条件による遅れ破壊評価を行うためには、塩化物量が1000〜100000mg/m程度とすることが必要で、中でも3000mg/m以上であることが好ましく、8000mg/m以上30000mg/m以下であることがより好ましい。
塩化物イオンを主体とする成分を金属材料表面に付着させる方法は、特に限定されないが、通常、塩化物イオンを主体とする成分を含む溶液を金属材料の表面に付着させる方法が採られる。具体例としては、溶液に試験片を漬け取り出すことで鋼板表面に塩化物イオンを主体とする成分を付着させる浸漬、塩化物イオンを主体とする成分を含む溶液(通常、塩水などの水溶液)を金属材料にスプレーもしくはシャワーにより塗布する方法、噴霧により微小滴を付着させる方法、塩水をピペットにより規定量水滴滴下する方法などが挙げられる。ここで、スプレー、シャワーは液滴が50μm以上を指し、それ以下の液滴によるものを噴霧と言う。スプレーは手動での手法を指し、シャワーは電動での手法を指す。なお、スプレーであってもシャワーであっても仕上がりに大差はない。
なお、塩化物量は、付着前の金属材料と付着後の金属材料との質量差を被試験体面積で除することにより算出することができる。また、塩化物量を変化させる場合、例えば、塩化物イオンを主体とする成分を含む溶液の濃度の変化やスプレー塗布法であれば金属材料への溶液の塩化物量の重量変化で制御することができる。
工程(A)の実施時間は10分以内とすることが好ましい。実施時間が10分を超えると、温湿度を制御していない状態で金属材料の腐食が進行することが考えられるためである。そのため、工程(A)は1分程度となるべく短いことが好ましい。
<工程(B):大気雰囲気下での静置工程>
工程(B)は、工程(A)を経た金属材料を大気雰囲気下に静置する工程である。大気雰囲気下とは、水膜厚さが10mm以下の状態を意味する。工程(B)において、たとえば、鋼板表面に対する比液量が5mL/cm以上のような浸漬環境で試験を実施すると、腐食に起因する酸素の拡散が大気中と大きく変化することにより実環境の腐食と異なるからである。そのため、試験片は温湿度を制御した大気雰囲気中に静置される。工程(B)は相対湿度を変化させず、一定の環境にして実施される。相対湿度を一定とすることにより、融雪塩を含む雪または氷、みぞれなどを含む水溶液の付着によって鋼板表面がぬれ続ける環境を模擬することができる。
この相対湿度が決定されることにより、付与塩化物量によって、塩化物の吸湿性から鋼板表面の濡れを生じることが一般的に知られており、本発明ではこれを利用した。表面の濡れ状態は付与塩化物量により変化し、付与塩化物の吸湿(潮解)が起こる湿度以上の湿度に維持する。NaClが主体の塩を用いる場合では相対湿度75%RH以上、MgClが主体の塩を用いる場合では相対湿度33%RH以上、KClが主体の塩を用いる場合では相対湿度84%RH以上で湿度一定とすることが各塩を吸湿させるうえで必須である。ただし、試験機において98%以上の湿度を安定して制御することは困難であるため、吸湿の上限は98%とする。
言い換えれば、試験片は塩化物の潮解湿度以上の大気雰囲気中に静置される。ここで、潮解現象とは、湿度の高い環境において塩が大気中の水蒸気を取り込み水溶液になる現象をいう。塩粒子が付着した固体表面では、相対湿度に応じた水分子の吸着に加えて、塩の潮解による水膜が形成される。そこで、上述のように、大気雰囲気が付与塩化物の吸湿(潮解)が起こる湿度以上の湿度に維持されるようになっている。
工程(B)の大気雰囲気の温度は、平均値が−50〜10℃であることが必要であり、前記温度の管理範囲は±5℃以下とする必要がある。大気雰囲気の温度が10℃を超える条件の場合、低温環境での遅れ破壊特性を正しく評価することができないことがわかった。これは、大気雰囲気の温度が10℃を超えた場合、鋼板の腐食速度が速くなり、鋼板表面が変化するとともに表面の応力が緩慢になる。遅れ破壊に寄与する鋼材への水素侵入量の比率が低くなるため、同じ腐食量に対する遅れ破壊特性が異なることから好ましくない。
また、−50℃を下回る条件では、塩水を含む溶液が凍結する影響により水素発生を伴う腐食反応が進行しないことが予想されるため、水素侵入に伴う遅れ破壊は生じないと考えられるため適当でない。なお、大気雰囲気の温度は所定範囲内で一定であってもよいし、変動してもよい。なお、工程(A)と(B)は1回または複数回繰り返す。
上述した工程(A)、(B)により遅れ破壊特性を具体的に評価するには、金属材料に加工を施すことが必要となる。加工方法としては、例えば曲げ加工、張り出し加工、引張加工等が挙げられる。また、遅れ破壊特性を評価するには金属材料に応力を付与する必要があり、ボルトを用いて応力付与した形状で固定する方法や、加工後に存在する残留応力を用いて評価する方法などが挙げられる。
以下に、本発明の実施例を示す。厚さ1.4mmの異なる鋼種A、B、C、Dを用いて試験片を作製し、作製した試験片を用いた遅れ破壊特性の評価を行った。鋼種A、B、C、Dの成分を下記表1に示す。
Figure 2021033397
<試験片の作製>
鋼種A、B、C、Dを幅35mm×長さ100mmにせん断し、せん断時の残留応力を除去するために幅が30mmとなるまで研削加工を施し、試験用の鋼板を作製した。図2は遅れ破壊評価用の試験片の一例を示す模式図である。上述した試験用の鋼板をトルエンに浸漬して5分間超音波洗浄した後に図2のように180°曲げ加工し、この状態でボルトBBとナットBNで拘束して試験片1を作製した。この遅れ破壊評価用の試験片1は曲げ半径Rを4〜9mmの曲げ部2を有し、締め込み幅を曲げ半径Rの倍である2Rになっている。また、曲げ部2の曲げ半径を1mmずつ6段階に変化させた複数の試験片1を用意した。なお、曲げ半径Rが小さいと負荷荷重が大きいため割れやすく、曲げ半径Rが大きいと負荷荷重が小さいので、割れにくい。
鋼種A、Bを用いた試験片1については、実際の融雪塩散布地域の実環境において割れ試験をした実環境試験と、図1の金属材料の遅れ破壊評価方法による試験との双方を行った。一方、鋼種C、Dを用いた試験片1については、図1の金属材料の遅れ破壊評価方法による試験を行った。
<実環境試験>
実環境試験では、融雪塩が散布された状態の道路を毎日走行する移動体の下部に各試験片を設置し、試験開始後60日目に回収した。移動体の下部に設置したのは融雪塩の影響を受けている部位だからである。下記表2にその結果を示す。なお、試験期間中に割れが発生した最大の曲げ半径を割れ発生の境界とし、実環境における限界曲げ半径とした。
Figure 2021033397
表2において、試験片に1mm以上のき裂がみられた試験片条件を割れあり(記号:×)、1mm未満のき裂またはき裂なしの条件を割れなし(記号:〇)とした。また、割れが発生した試験片のうち、最も大きい曲げ半径を限界曲げ半径と定義したとき、鋼Aの割れ発生曲げ半径は6mmであり、鋼Bの割れ発生曲げ半径は5mmであった。
<遅れ破壊特性試験>
図1の金属材料の遅れ破壊評価方法を用い、今回の試験期間を最大60日とし、試験期間中に割れが発生した最大の曲げ半径を割れ発生の境界とし、限界曲げ半径とした。そして、遅れ破壊特性試験で得られた限界曲げ半径と、上記実環境試験で得られた限界曲げ半径とを比較することによって、遅れ破壊特性試験が適正かを判断した。なお、大気雰囲気中の相対湿度は設定値を含む±5%までを試験範囲として認める。
遅れ破壊評価試験の試験条件及び結果を表3及び表4に示す。表3及び表4において、本発明の一実施形態の試験条件に基づいて行った場合を発明例とし、表3、4において下線を付している試験条件が外れている場合を比較例とした。なお、試験片が1つも割れなかった条件については限界曲げ半径をデータなし(記号:―)と記す。
Figure 2021033397
Figure 2021033397
比較例No.36、37、79、80は、従来のように、相対湿度を乾燥状態(相対湿度30%)と湿潤状態(相対湿度90%)とを繰り返しサイクルを行ったときの比較例である。この従来法では、限界曲げ半径が実環境試験の結果より小さくなってしまい、試験結果が一致しなかった。また、試験片の表面状態を見比べると、腐食状態が異なっていることから、低温高湿度環境かつ高塩化物な融雪塩が付着する環境の評価を行うには不適切であることが判った。
No.5、7、16、21、22、51、53、62、66は、付着塩の量は10000mg/mであるが、主体塩種をそれぞれ異ならせたものである。このうち、発明例No.5、7、16、21、51、53、62のように主体塩種が塩化物イオンを含んでいる場合、遅れ破壊発生日数に変化は認められるものの、限界曲げ半径は実環境試験の結果と一致した。一方、主体塩種が尿素であって塩化物イオンを含まない比較例No.22、66の場合、高湿度でも表面に濡れが生じず、腐食が進行しなかったため、限界曲げ半径が実環境試験の結果と一致しなかった。このように、主体塩種が塩化物イオンではない条件では実環境試験とは結果が一致しないことが判る。このことから、試験片には、塩の種類は問わないが、塩化物イオンを主体とした成分を付着させることが必要であることが判る。
No.1〜3、5、42〜45、47〜49、51、85〜88は、主体塩種(塩化ナトリウム)、試験環境、サイクル条件をそれぞれ一致させ、塩化物量を変化させたものである。このうち、実施例No.2、3、5、42〜44、48、49、51、85〜87は限界曲げ半径は実環境試験の結果と一致していることが判る。一方、比較例No.1、47では、塩化物量が少ない影響から濡れが偏りやすく、試験片の全面で均一な腐食が進行せず、限界曲げ半径が実環境試験の結果と一致しなかった。また、比較例No.45、88では、吸湿によって水膜が厚くなりやすく、試験片上に確実に塩化物を規定量付着させることが困難な状態となり、十分な水素侵入が起こらなかったと考えられる。そのため、限界曲げ半径が実環境試験の結果と一致しなかった。以上のことから、塩化物量の影響により試験結果は変化しないが、評価と実験操作の観点から1000〜100000mg/mであることが必要であることが判った。
なお、主体塩種が塩化ナトリウムの場合のみならず、塩化カルシウム、塩化マグネシウムにして塩化物量を変化させた場合であっても、実施例No.6、7、15、16、52、53、61、62に示すように、限界曲げ半径の結果は実環境試験の結果と一致していることが判る。
No.5、46とNo.51、89は、それぞれ工程(B)における試験環境を大気雰囲気内であるか浸漬であるかを対比させたものである。比較例No.46、89のように試験環境が浸漬である場合、限界曲げ半径が実環境試験の結果と一致しなかった。これは、浸漬により、腐食表面の状況が変化していることによると考えられる。このことから、腐食環境を同じにするために大気雰囲気下で試験することが好適である。一方、実施例No.5、51のように試験環境が大気雰囲気下である場合、限界曲げ半径は実環境試験の結果と一致していることが判る。以上のことから、工程(B)は大気雰囲気下で行う必要があることが判った。
No.4、5、7、11、16、17、38〜40、50、51、53、57、81〜83は、試験温度を変化させた実施例である。このうち発明例No.5、7、16、38、39、51、53、81〜82は主体塩種に関わらず限界曲げ半径は実環境試験の結果と一致していることが判る。一方、比較例No.4、11、17、50、57は温度が高いために腐食状況が変化したため、限界曲げ半径が実環境試験の結果と一致せず、実環境より厳しい結果となった。また、比較例No.40とNo.83では割れが発生しなかった。試験片を観察してみると、温度が低すぎたため、塩水が凍結し析出した塩と氷で完全に分離している状況が確認されたため、腐食が起こっていないことが判った。腐食が起こらないので割れは発生しないから、限界曲げ半径は実環境試験の結果と一致しない。以上のことから、試験温度は−50〜10℃が好適であることが判る。
No.5、7〜10、34〜35、51、53〜56、77〜78は湿度条件が異なる場合の実施例である。この発明例及び比較例は今回用いた塩である塩化ナトリウムの吸湿性と関係しており、塩化ナトリウムの場合では相対湿度75%で吸湿が起こる(=潮解湿度)。そのため、比較例No.35、78では相対湿度が65%以上であっても吸湿(潮解)が起きない為、試験片表面に濡れが生じず腐食形態が異なることから適正に評価を行うことができなかった。また、塩化マグネシウムの場合には湿度33%以上により吸湿が起こる。このため、比較例No.10、56は湿度が30%の場合では吸湿(潮解)が起きないため腐食形態が異なった。一方、発明例No.7〜9、53〜55は湿度が35%以上であるため、潮解湿度を超え吸湿(潮解)が起こることから濡れが生じて腐食が進行し、結果が一致した。また塩種に問わず、湿度条件は高湿度で一定となることが好適である。
No.5、7、12〜14、16、18〜20、23〜25、41、51、53、58〜60、62〜65、67〜68、84は塩化物の付着方法を変化させた実施例である。それぞれ溶液に試験片を1分間漬け取り出すことで鋼板表面に塩化物イオンを主体とする成分を付着させる浸漬、塩化物イオンを主体とする成分を含む溶液(通常、塩水などの水溶液)を金属材料にスプレー及びシャワーにより塗布する方法、噴霧により微小滴を付着させる方法、塩水をピペットにより規定量水滴滴下する方法で、これらの発明例の限界曲げ半径は主体塩種に関わらず、すべて実環境試験の結果と一致した。しかし、発明例No.41、84では工程(A)の浸漬の操作時間が長く、試験片を溶液中に15分浸したままにすると工程(A)の間に腐食の進行が確認された。許容範囲ではあるが、工程(A)の間の腐食進行による水素侵入から限界曲げ半径の評価結果がずれる可能性があるため、精度良く試験を行うためには、工程(A)は10分以内で行うことが好適である。また、水滴滴下を用いた付与は鋼板表面全体に均一に行うためには高度な技術を要する。そこで操作が簡単な浸漬、スプレー、シャワー、噴霧が好適である。
No.5、26〜33、51、69〜76はサイクルの回数の異なる実施例である。本発明では、洗浄工程を含まない為に、工程(A)と(B)を繰り返し行うことにより塩化物量が増えていくことを意味する。比較例No.30、73は塩化物量が多すぎたため、限界曲げ半径が実環境試験の結果と一致しなかった。サイクル繰り返しに伴う塩化物量の合計量が本試験の請求項に収まる範囲では実環境試験の結果と一致するため、合計塩化物量が1000〜100000mg/mであることが好適である。
<材料評価>
また、従来の遅れ破壊評価法である塩酸浸漬では、同条件における材質間の比較しかできなかったが、本評価を行うことで材質そのものの使用境界を定めることを特徴とする。また、本発明により鋼Cと鋼Dについて限界曲げ半径から遅れ破壊特性を評価した。鋼Cは、割れた試験片が最も厳しいR=4mmの曲げ条件だけで割れ発生日数も最大評価期間付近であった。本実施例から鋼Cは限界曲げ半径が小さいことから、遅れ破壊特性に優れていることが明らかとなった。一方、鋼Dは試験開始直後にほとんどの試験片で割れが発生し、最大割れ半径はR=9mmであった。そのため、鋼Dは本試験より限界曲げ半径が大きいことから、遅れ破壊特性が低いことが判断できた。したがって、本発明の技術を用いることで材質そのものの使用境界を評価することも可能である。
本発明の実施形態は、上記実施形態に限定されず、種々の変更を加えることができる。例えば、評価対象とする金属材料は、通常、鋼板などの鋼材であるが、これに限らずTiやAlなどの金属材料でもよい。本発明の遅れ破壊特性評価方法は、金属材料の遅れ破壊特性を正確に評価できるので、これにより評価選定された金属材料(特に鋼板などの鋼材)は優れた遅れ破壊特性を有するものである。
1 試験片
2 曲げ部
BB ボルト
BN ナット

Claims (2)

  1. 下記工程(A)と工程(B)からなる工程を1回または複数回行うことにより、加工された金属材料の遅れ破壊特性を評価することを特徴とする金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
    工程(A):前記金属材料の表面に塩化物イオンを含む水溶液を接触させることで、塩化物量1000〜100000mg/mの塩化物を付着させる工程
    工程(B):温度−50〜10℃及び前記塩化物の潮解湿度以上である相対湿度の大気雰囲気中に、工程(A)で前記塩化物を付着させた前記金属材料を静置する工程
  2. 工程(A)において、浸漬、噴霧、シャワー、スプレー、水滴滴下のいずれか1つ以上の手法を用いて、10分以内に前記金属材料に前記塩化物を付着させることを特徴とする請求項1に記載の金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
JP2020552056A 2019-08-16 2020-06-10 金属材料の遅れ破壊評価方法 Active JP7031756B2 (ja)

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