JP2008070298A - 鋼材の耐食性試験方法及び評価方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】試験体の表層に均一に塩化物を付着することができ、しかも、その後の試験工程において付着させた塩化物を洗い流すことなく、実設備での腐食を精度よく短時間で再現することである。
【解決手段】
試験体であるCrあるいはNiを含む鋼材の表層に塩化物の所定の溶液を超音波振動子によりミスト化させて付着させる塩化物付着工程と、この塩化物付着工程で塩化物が付着された試験体を所定の条件で乾燥する乾燥工程と試験体を所定の条件で湿潤する湿潤工程とを有した乾湿サイクル工程とを1回または複数回繰り返して耐食性を評価する。
【選択図】なし
【解決手段】
試験体であるCrあるいはNiを含む鋼材の表層に塩化物の所定の溶液を超音波振動子によりミスト化させて付着させる塩化物付着工程と、この塩化物付着工程で塩化物が付着された試験体を所定の条件で乾燥する乾燥工程と試験体を所定の条件で湿潤する湿潤工程とを有した乾湿サイクル工程とを1回または複数回繰り返して耐食性を評価する。
【選択図】なし
Description
本発明は、塩害地域を想定した屋外鋼構造物用のCrあるいはNiを含む鋼材の耐食性試験方法および評価方法に関するものである。
海塩粒子が飛来する海岸沿いに設置される電力設備においては、塩化物による腐食に曝されるため塩害対策が施されている。例えば、海岸沿いに設置される電力設備の屋外鋼構造物は、防食目的から鋼材にクロムCrやニッケルNiを添加した耐食性材料が用いられる。
屋外塩害環境に対する耐食性鋼材の材料選定法として、塩水噴霧試験や複合サイクル試験が促進腐食試験として一般に適用されている。その主流を占める複合サイクル試験は、基本的に湿潤、乾燥、塩化物の付着工程を組み合わせて行われる。従来の食塩や海塩の腐食試験片への付着方法は、食塩水や海水として腐食試験片に噴霧あるいは浸漬する方法が開示され実施されてきた。噴霧により大気中の金属腐食に関して最も大きな影響を与える飛来海塩粒子の付着形態を模擬し、再現可能にしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
特開2004−340907号公報
しかし、塩水噴霧試験や複合サイクル試験を用いた従来の促進腐食試験では、実設備で問題とされるステンレス綱などに見られる孔食が発生しない場合があり、孔食が発生しても実設備と異なり深さ方向に進展しない場合がある。また、従来の促進腐食試験では、実設備で低Cr鋼やNi含有鋼にみられる緻密な錆びが生成しない場合があり、腐食試験の試験体間のばらつきが大きい。
そこで、発明者は、実設備での耐食性を評価するためにCrやNiを添加した耐食性材料について、実設備でCrやNiを添加した耐食性材料の塩害地域での腐食損傷を詳細に調査するともに、従来の塩水噴霧試験や複合サイクル試験を用いて促進腐食試験を行った。
そこで、発明者は、実設備での耐食性を評価するためにCrやNiを添加した耐食性材料について、実設備でCrやNiを添加した耐食性材料の塩害地域での腐食損傷を詳細に調査するともに、従来の塩水噴霧試験や複合サイクル試験を用いて促進腐食試験を行った。
その結果、腐食損傷の多くは雨の掛からない部位で発生しており、さらに、腐食発生部位では、その表層には海塩が10000 mg/m2程度の高い濃度で積層している場合があることが確認された。一方、実験室での促進腐食試験を詳細に調査した結果、従来の試験方法では食塩や海塩の試験体への付着に際して、食塩水や海水を試験体に定期的に噴霧あるいは浸漬するため、表層に堆積した塩化物が洗い流されることが観察された。
すなわち、Cr含有率が高く表層に不働態を形成するステンレス鋼では、従来の試験方法では塩水付着後の乾燥工程で濃縮した塩化物により不働態が破壊され局部腐食が発生した後に、再度、塩水付着工程で塩化物が低濃度となり再不働態化し、局部腐食の進展が阻害されてしまうことが判明した。また、低Cr鋼やNi含有鋼では、従来の促進試験の塩水噴霧や浸漬工程において雨の掛からない大気環境とは異なる水溶液中での腐食機構で錆を生じることが判明した。
さらには、食塩水や海水を試験体に定期的に噴霧あるいは浸漬する従来の試験方法では、試験体の単位面積当たりに付与された塩化物濃度が不明確で、表層に多量に付着した水滴が乾燥時に凝集する際にムラを発生し、あるいは、試験槽内での塩水噴霧量にばらつきがあり、従って、試験評価結果にばらつきがあるものと予想される。
本発明の目的は、試験体の表層に均一に塩化物を付着することができ、しかも、その後の試験工程において付着させた塩化物を洗い流すことなく、実設備での腐食を精度よく短時間で再現できる鋼材の耐食性試験方法及び評価方法を提供することである。
請求項1の発明に係わる鋼材の耐食性試験方法は、試験体であるCrあるいはNiを含む鋼材の表層に塩化物を付着させる下記の塩化物付着工程と、この塩化物付着工程で塩化物が付着された試験体を乾燥する乾燥工程と試験体を湿潤する湿潤工程とを有した下記の乾湿サイクル工程とを1回または複数回繰り返して耐食性を評価するものであり、塩化物付着工程では、少なくともNaCl、MgCl2、CaCl2の1種以上を含み、かつpHがpH3.0以上pH8.0以下、かつ塩化物の総濃度が0.1重量%以上15.0重量%以下である溶液を用意し、この溶液を超音波振動子によりミスト化させて当該ミストに試験体を一定時間暴露させ、その後に試験体を乾燥させて既に表層に付着している塩化物を流出させることなく当該塩化物を10mg/m2以上10000mg/m2以下の濃度で試験体表層に均一に付着させ、乾湿サイクル工程では、相対湿度10%以上50%以下で2時間以上12時間以下で前記塩化物付着工程により塩化物が付着された試験体を乾燥する乾燥工程と、相対湿度70%以上98%以下で2時間以上8時間以下で前記塩化物付着工程により塩化物が付着された試験体を湿潤する湿潤工程とを有し、湿潤工程及び乾燥工程の温度範囲は10℃以上60℃以下とし、湿潤工程から乾燥工程への移行時間を10分以上60分以下に設定して乾燥工程と湿潤工程とを1サイクルとし、このサイクルを1回ないし複数回行うことを特徴とする。
請求項2の発明に係わる鋼材の耐食性試験方法は、請求項1の発明において、前記塩化物付着工程において、当該塩化物を10mg/m2以上300mg/m2以下の付着濃度で試験体表層に均一に付着させ、その後に乾燥を行う作業を、複数回繰り返して、当該塩化物を試験体表層に均一に付着させることを特徴とする。
請求項3の発明に係わる鋼材の耐食性試験方法は、請求項1または2の発明において、前記塩化物付着工程及び前記乾湿サイクル工程を各1回行うにあたり、前記塩化物付着工程において、当該塩化物を300mg/m2以上10000 mg/m2以下の付着濃度で試験体である鋼材表層に均一に付着させ、その後に、前記乾湿サイクル工程において、乾燥工程と湿潤工程とを1サイクルとし、このサイクルを5回以上行うことを特徴とする。
請求項4の発明に係わる鋼材の耐食性試験方法は、請求項1から3のいずれか1項に記載の発明において、鋼材の耐食性試験を一時中断する際に、前記乾湿サイクル工程の中で試験体を相対湿度50%以下に保持することを特徴とする。
請求項5の発明に係わる鋼材の耐食性評価方法は、試験体である鋼材中のCr含有量が8重量%以上である鋼材に対して、請求項1から4のいずれか1項に記載の耐食性試験を行った後に、前記鋼材の腐食生成物を除去し、その腐食生成物の除去後の局部腐食箇所の最大深さを用いて、鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行うことを特徴とする。
請求項6の発明に係わる鋼材の耐食性評価方法は、試験体である鋼材中のCr含有量が12重量%以上である鋼材に対して、請求項1から4のいずれか1項に記載の耐食性試験を行うにあたり、前記耐食性試験での乾湿サイクル工程における乾燥工程と湿潤工程とを前記試験体に発錆が生じるまで繰り返し行い、発錆が生じた乾燥工程と湿潤工程とのサイクル数を用いて、鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行うことを特徴とする。
請求項7の発明に係わる鋼材の耐食性評価方法は、試験体である鋼材中のCr含有量が8重量%以下あるいはNi含有量が5重量%以下の鋼材に対して、請求項1から4のいずれか1項に記載の耐食性試験を行った後に、腐食生成物を除去した後の重量減少を用いて、鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行うことを特徴とする。
請求項8の発明に係わる鋼材の耐食性評価方法は、試験体である鋼材中のCr含有量が12重量%以上の鋼材に対して、試験体に応力を付加した後に請求項1から4のいずれか1項に記載の耐食性試験を行い、あるいは、前記耐食性試験の塩化物付着工程で塩化物を付着させた後に前記試験体に応力を付加して前記耐食性試験を行い、その後に試験体の応力負荷部位での割れの発生の有無、前記耐食性試験での乾湿サイクル工程における乾燥工程と湿潤工程とを1サイクルとしたときの試験体の応力負荷部位での割れ発生までのサイクル数、あるいは、試験体の応力負荷部位での割れの深さや発生数を用いて鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行うことを特徴とする。
本発明によれば、塩化物付着工程により、試験体であるCrあるいはNiを含む鋼材の表層に超音波振動子によりミスト化させた塩化物を付着させるので、試験体表層に均一に塩化物を付着できる。また、乾湿サイクル工程において、塩化物付着工程で塩化物が均一に付着された試験体に対し乾燥と湿潤とを繰り返し行うので、CrやNiを添加した耐食性材料である鋼材の腐食を短時間で再現することができる。また、塩化物付着工程では試験体表層に付着した塩化物を洗い流すことがないので、実設備の雨の掛からない部位での腐食を模擬した評価が可能となる。
発明者は、試験材の表層に均一に食塩や海塩などの塩化物を実設備と同様の濃度に付着させ(塩化物付着工程)、その後の試験工程において付着させた塩化物を洗い流すことなく耐食性試験を行うこととした(乾湿サイクル工程)。これにより、実設備での腐食を精度よく短時間で再現可能とした。
本発明の鋼材の耐食性試験方法で対象とする試験体は、CrやNiを添加した耐食性のある鋼材である。まず、試験体が塗装された状態で実設備に適用される場合は、その塗装にクロスカットなどの下地露出部を設けて試験に供するものとする。
次に、試験材の表層に均一に食塩や海塩などの塩化物を実設備と同様の濃度に付着させる塩化物付着工程について説明する。まず、塩化物の付着法については、本出願人が既に出願済みの特願2006−107487号に記載の超音波で塩化物溶液をミスト化して試験体に付着させる方法を採用する。この塩化物の付着法によると、腐食状態の再現性がよく実設備に近い密着性の良い腐食生成物が生じることを確認した。
なお、従前の塩化物の付着法である乾燥した粉体を直接試験体に付着させる方法は、塩化物を均一に試験体に付着させることが難しい。また、短時間で塩化物溶液をスプレーして付着させて方法は各試験体間の付着誤差が大きい。さらに、塩化物溶液に浸漬する方法では、乾燥時に目視で判別可能な塩化物の付着ムラが生じ発錆も均一ではなく、塩化物溶液を連続的に噴霧する方法では、実設備と異なる密着性の悪い腐食性生物が生じた。そこで、超音波で塩化物溶液をミスト化して試験体に付着させる方法を採用し、実設備に近い密着性の良い腐食生成物を付着させることとした。
次に、付着対象となる塩化物について説明する。本発明の鋼材の耐食性試験方法は、塩害地域での使用材料である鋼材の評価を目的としていることから、付着対象となる塩化物は、海塩や融雪剤に含まれる少なくともNaCl、MgCl2、CaCl2の1種以上の塩化物とする。従って、ミスト化する溶液としては、人工海水や食塩水が挙げられる。
溶液中の塩化物の総濃度が0.1重量%(wt%)未満では所定量の塩化物付着を得るまでのミストへの暴露時間が長くなりミスト工程での水溶液環境での試験体の腐食が大きくなる。一方、溶液中の塩化物の総濃度が15.0wt%を超えると、付着時間が著しく短くなり付着濃度の誤差が大きくなる。そこで、塩化物の総濃度が0.1wt%以上15.0wt%以下である溶液を用意する。
溶液のpHは、実環境での降雨のpHの実績からpH3.0以上pH8.0以下とした。pHは硫酸あるいは硝酸で制御する。これらの酸を塩化物溶液に混合し所定の溶液に調製する。試験体に付着させる塩化物の付着濃度は、塩害地域での実設備の付着を模擬して、10mg/m2以上10000 mg/m2の付着濃度で試験体表層に均一に付着させる。
次に、乾湿サイクル工程について説明する。乾湿サイクル工程は塩化物が付着された試験体を乾燥する乾燥工程と、塩化物が付着された試験体を湿潤する湿潤工程とを有する。
乾燥工程での相対湿度は、試験装置の性能から相対湿度下限を10%以上とし、相対湿度上限は試験装置内の湿度バラつきを考慮し塩化物の主成分であるNaClが潮解を示さない50%以下とした。一方、湿潤工程での相対湿度は、NaClが潮解を示す70%を相対湿度下限とし、試験装置の性能から試験体表層に多量の水滴がつかない98%以下を相対湿度上限とした。
乾燥工程と湿潤工程との乾湿サイクルの各保持時間は、移行時間を含めて乾湿の効果が確認できる2時間以上を下限とし、また12時間を超えて各状態を保持しても試験結果には変化がみられないことから、試験の効率化から12時間を上限とした。
試験の温度範囲は腐食反応促進からは高温が望ましいが、下限温度は試験装置の性能から水が凍結しない10℃以上とし、上限温度は試験体の取り扱い時の安全性の観点から60℃を上限とした。
湿潤工程から乾燥工程への移行時間は、試験装置の性能と試験サイクルへの影響から10分以上60分以下に設定した。そして、乾燥工程と湿潤工程とを1サイクルとし、このサイクルを1回ないし複数回行うこととした。塩化物の試験体への付着濃度によっては、乾燥工程と湿潤工程とのサイクルが1回だけでは試験体の腐食が確認できない場合があるので必要に応じて複数回行うこととした。
試験体への塩化物の付着濃度が300mg/m2を超えるように試験体に塩化物を付着させる際に、1回の工程でこれを行うと、ミストの試験体への付着過程で試験体表層が顕著に濡れた状態となり、乾湿工程の乾燥工程後に目視で判別できる程度の塩化物の付着ムラを生じることがあった。そこで、300mg/m2を超える所定量の塩化物を試験体に付着させるにあたっては、300mg/m2以下の付着濃度で試験体表層に均一に付着させ、その後に乾燥を行う工程を複数回繰り返して、300mg/m2を超える所定量の塩化物を試験体に付着させることとした。
前述したように、試験体への塩化物の付着濃度によっては、乾湿サイクル工程の乾燥工程と湿潤工程とのサイクルが1回だけでは試験体の腐食が確認できない場合がある。さらには、乾湿サイクル工程の乾燥工程と湿潤工程とのサイクルを複数回としても試験体の腐食が確認できない場合がある。その場合には、乾湿サイクル工程から塩化物付着工程に戻り、塩化物付着工程により塩化物の試験体への付着濃度を高め、再度、乾湿サイクル工程に移行することになる。
そこで、塩化物付着工程及び乾湿サイクル工程を1回で終わらせる場合には、塩化物付着工程において、試験体への塩化物の付着濃度を予め高くしておく。例えば、塩化物付着工程で塩化物を300mg/m2以上10000mg/m2以下の付着濃度で試験体である鋼材表層に均一に付着させ、その後に、乾湿サイクル工程において、乾燥工程と湿潤工程とのサイクルを5回以上行う。これにより、塩化物付着工程及び乾湿サイクル工程を各1回行うだけで試験体の腐食が確認できるようになる。
鋼材の耐食性試験を一時中断する際には、乾湿サイクル工程の中で試験体を相対湿度10%以上50%以下に保持する。相対湿度下限を10%以上とするのは試験装置の性能からであり、相対湿度上限を50%以下とするのは、当該耐食性試験を一時中断する際に相対湿度50%を超えて保持すると、保持時間中に腐食反応が大きく進み試験誤差となる可能性があるからである。
次に、本発明の鋼材の耐食性評価方法について説明する。試験体である鋼材中のCr含有量が8重量%以上である鋼材は耐食性のある鋼材であり、試験体全体の腐食でなく局部腐食が生じる。そこで、局部腐食が生じる鋼材の耐食性試験後には、その局部腐食部分の腐食生成物を除去し、その腐食生成物を除去した後の局部腐食箇所(孔食)の最大深さを用いて、材料の相対評価あるいは耐食性の判定を行う。すなわち、前述の塩化物付着工程及び乾湿サイクル工程による耐食性試験を行った後に、鋼材の腐食生成物を除去し、その腐食生成物の除去後の局部腐食箇所の最大深さを用いて、鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行う。
次に、試験体である鋼材中のCr含有量が12重量%以上である鋼材は、Cr含有量が8重量%以上の鋼材よりさらに耐食性のある鋼材であり、試験体には局部腐食が生じることなく発錆が生じる程度である。そこで、発錆が生じるまで乾湿サイクル工程における乾燥工程と湿潤工程とを繰り返し行い、発錆が生じた乾燥工程と湿潤工程とのサイクル数を用いて鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行う。すなわち、前述の塩化物付着工程及び乾湿サイクル工程による耐食性試験を行い、その際に試験体に発錆が生じるまで耐食性試験での乾湿サイクル工程における乾燥工程と湿潤工程とを繰り返し行い、発錆が生じた乾燥工程と湿潤工程とのサイクル数を用いて鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行う。
次に、試験体である鋼材中のCr含有量が8重量%以下あるいはNi含有量が5重量%以下の鋼材は、Cr含有量が8重量%以上である鋼材よりも耐食性が劣る鋼材であり、耐食性試験を行った後は試験体全体が腐食する。そこで、試験体の腐食生成物を除去した後の重量減少を用いて材料の相対評価あるいは耐食性の判定を行う。すなわち、前述の塩化物付着工程及び乾湿サイクル工程による耐食性試験を行った後に、腐食生成物を除去した後の重量減少を用いて、鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行う。
このように、試験体の耐食性に応じて、耐食性が大きな試験体に対しては発錆が生じる状況あるいは局部腐食箇所の最大深さを用いて材料の評価を行い、耐食性が小さい材料に対しては腐食生成物を除去した後の重量減少を用いて材料の評価を行う。
次に、試験体である鋼材中のCr含有量が12重量%以上の鋼材は、前述のように耐食性には優れているが、応力が加わった状態で塩化物が付着すると割れが発生することがある。そこで、試験体に応力を付加した後に前述の耐食性試験を行い、その後に試験体の応力負荷部位での割れの発生の有無を用いて、鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行う。
試験体に応力を付加した後に前述の耐食性試験を行うことに代えて、耐食性試験の塩化物付着工程で塩化物を付着させた後に試験体に応力を付加して耐食性試験を行うようにしてもよい。また、試験体の応力負荷部位での割れの発生の有無に代えて、耐食性試験での乾湿サイクル工程における乾燥工程と湿潤工程とを1サイクルとしたときの試験体の応力負荷部位での割れ発生までのサイクル数、あるいは、試験体の応力負荷部位での割れの深さや発生数を用いて鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行うようにしてもよい。これにより、耐食性の優れた鋼材に応力が加わった状態で塩化物が付着した場合の割れを評価できる。
試験に用いた鋼材の供試材(試験体)を表1に示す。表1に示すように、鉄−0.7wt%Ni、鉄−0.6wt%Cr、鉄−13wt%Cr、鉄−18wt%Cr−8wt%Ni、鉄−25wt%Crを用意した。
そして、表2に示す促進腐食試験の基本条件により試験体に対する耐食性試験を行った。すなわち、塩化物付着工程においては、溶液組成として人工海水3wt%、塩化物付着量として2000mg/m2、塩化物付着方法としては超音波によるミスト化で行った。また、乾湿サイクル工程の乾燥工程は、時間4時間、相対湿度30%、温度55℃とし、乾湿サイクル工程の湿潤工程は、時間4時間、相対湿度95%、温度45℃とした。そして、乾湿サイクル工程の乾燥工程と湿潤工程との繰り返し回数は20回とし、塩化物付着工程と乾湿サイクル工程との繰り返し回数は1回とした。
表3にその試験結果を示す。試験材の腐食状態の評価は、発錆の状態、孔食の発生の有無、塩化物付着のムラを目視で観察した。腐食試験後の観察結果を実設備で観察された腐食状態と比較して、試験結果の実設備との相関性を評価した。表3に示すように、いずれの試験体に対しても塩化物の付着ムラがなく、試験結果の実設備との相関性も適合している。つまり、超音波によりミストを付着させた本発明による塩化物の付着条件は、CrあるいはNiを含有する各種耐食性鋼材について、実設備と相関のある腐食を再現することがわかる。
次に、試験体への塩化物の付着方法について、比較例A1として人工海水浸積による付着、比較例B1として塩水噴霧による付着を行った。人工海水浸漬による塩化物の付着は、表2中の塩化物付着工程について試験体を室温にて3%人工海水に10分浸漬した後に乾燥し試験に供した。一方、塩水噴霧による塩化物の付着は、表2中の塩化物付着工程についてJIS K 2371による塩水噴霧試験を30分実施で対応した試験法である。表4にその比較例A1、B1の試験結果を示す。
表4に示すように、比較例A1、B1ともに、鉄−13wt%Cr、鉄−18wt%Cr−8wt%Niについて、試験結果の実設備との相関性が得られなかった。
次に、表5に塩化物工程の塩化物付着条件と乾湿サイクル工程の乾湿サイクル条件が、試験結果に与える影響を示す。実設備との相関は、表1に示す、鉄−0.7wt%Ni、鉄−13wt%Cr、鉄−18wt%Cr−8wt%Niについて、腐食形態が全て一致したものを○、一部でも一致しない場合は×とした。
比較例1に示すように、塩化物の付着量が5mg/m2未満では実設備の腐食は再現しない。従って、本発明では塩化物の付着量が10mg/m2以上とする。
比較例2に示すように、2000mg/m2の塩化物を1回で付着させると、ミストに暴露する時間が長く試験体表層が水滴で覆われ、乾燥時に粗大な水滴に起因した塩化物付着のムラが生じ、全面腐食時に錆のムラが目視で観察される。そこで、所定量を超える量の塩化物を試験体に付着させるにあたっては、例えば300 mg/m2以下の付着濃度で試験体表層に均一に付着させ、その後に乾燥を行う工程を複数回繰り返して、所定量の塩化物を試験体に付着させることが望ましい。
比較例3に示すように、乾湿サイクル工程の乾燥工程と湿潤工程とのサイクルの各時間が12時間を超えて長くなっても得られる結果は同じである。乾燥工程と湿潤工程とのサイクルの各時間が長くなった分だけ試験効率の低下を招くので、本発明では12時間以下とする。
比較例4に示すように、ミスト化する溶液の塩化物濃度が12wt%を超えて高いと、塩化物の付着ムラを生じる。従って、本発明では溶液の塩化物濃度は15wt%以下とするが12wt%以下とすることが望ましい。
比較例5に示すよう、乾湿サイクル工程の乾燥工程と湿潤工程とのサイクルの各時間が1時間未満では実設備の腐食は再現しない。そこで、本発明では2時間以上とする。
比較例6に示すように、乾湿サイクル工程の湿潤工程での相対湿度が100%となる場合は、試験体表層が水滴で覆われ、塩化物の流出や乾燥サイクルでの塩化物付着ムラを生じる。そこで、本発明では湿潤工程での相対湿度を98%以下とする。
比較例7に示すように、乾湿サイクル工程を一時中断する場合に、相対湿度を70%で60時間停止した場合には試験結果のばらつきが大きくなった。これは、保持時間中に腐食反応が大きく進み試験誤差となるからである。本発明では、乾湿サイクル工程を一時中断する場合は、相対湿度を50%以下にする。
次に、表6は0.5cm×10cmの形状に加工した、鉄−13wt%Cr、鉄−18wt%Cr−8wt%Ni、鉄−25wt%Crの試験体に対し、0.2%の歪を付与して、表2に示す促進腐食試験の基本条件により、本発明による耐食性試験を実施した場合の試験結果である。
表6に示すように、Cr含有量が12重量%以上の鋼材であってもNiを含有した鋼材の場合には、応力が加わった状態で塩化物が付着すると割れが発生し、試験結果の実設備との相関性も適合している。
次に、試験体への塩化物の付着方法について、比較例A2として人工海水浸積による付着、比較例B2として塩水噴霧による付着を行った。人工海水浸漬による塩化物の付着は、表2中の塩化物付着工程について試験体を室温にて3%人工海水に10分浸漬した後に乾燥し試験に供した。一方、塩水噴霧による塩化物の付着は、表2中の塩化物付着工程についてJIS K 2371による塩水噴霧試験を30分実施で対応した試験法である。表7にその比較例A2、B2の試験結果を示す。
表7に示すように、比較例A2、B2ともに、鉄−18wt%Cr−8wt%Niについて、試験結果の実設備との相関性が得られなかった。
Claims (8)
- 試験体であるCrあるいはNiを含む鋼材の表層に塩化物を付着させる下記の塩化物付着工程と、この塩化物付着工程で塩化物が付着された試験体を乾燥する乾燥工程と試験体を湿潤する湿潤工程とを有した下記の乾湿サイクル工程とを1回または複数回繰り返して耐食性を評価することを特徴とする鋼材の耐食性試験方法。
少なくともNaCl、MgCl2、CaCl2の1種以上を含み、かつpHがpH3.0以上pH8.0以下、かつ塩化物の総濃度が0.1重量%以上15.0重量%以下である溶液を用意し、この溶液を超音波振動子によりミスト化させて当該ミストに試験体を一定時間暴露させ、その後に試験体を乾燥させて既に表層に付着している塩化物を流出させることなく当該塩化物を10mg/m2以上10000 mg/m2以下の濃度で試験体表層に均一に付着させる塩化物付着工程。
相対湿度10%以上50%以下で2時間以上12時間以下で前記塩化物付着工程により塩化物が付着された試験体を乾燥する乾燥工程と、相対湿度70%以上98%以下で2時間以上12時間以下で前記塩化物付着工程により塩化物が付着された試験体を湿潤する湿潤工程とを有し、湿潤工程及び乾燥工程の温度範囲は10℃以上60℃以下とし、湿潤工程から乾燥工程への移行時間を10分以上60分以下に設定して乾燥工程と湿潤工程とを1サイクルとし、このサイクルを1回ないし複数回行う乾湿サイクル工程。 - 前記塩化物付着工程において、当該塩化物を10mg/m2以上300mg/m2以下の付着濃度で試験体表層に均一に付着させ、その後に乾燥を行う作業を、複数回繰り返して、当該塩化物を試験体表層に均一に付着させることを特徴とする請求項1に記載の鋼材の耐食性試験方法。
- 前記塩化物付着工程及び前記乾湿サイクル工程を各1回行うにあたり、前記塩化物付着工程において、当該塩化物を300mg/m2以上10000mg/m2以下の付着濃度で試験体である鋼材表層に均一に付着させ、その後に、前記乾湿サイクル工程において、乾燥工程と湿潤工程とを1サイクルとし、このサイクルを5回以上行うことを特徴とする請求項1または2に記載の鋼材の耐食性試験方法。
- 鋼材の耐食性試験を一時中断する際に、前記乾湿サイクル工程の中で試験体を相対湿度10%以上50%以下に保持することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の鋼材の耐食性試験方法。
- 試験体である鋼材中のCr含有量が8重量%以上である鋼材に対して、請求項1から4のいずれか1項に記載の耐食性試験を行った後に、前記鋼材の腐食生成物を除去し、その腐食生成物の除去後の局部腐食箇所の最大深さを用いて、鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行うことを特徴とする鋼材の耐食性評価方法。
- 試験体である鋼材中のCr含有量が12重量%以上である鋼材に対して、請求項1から4のいずれか1項に記載の耐食性試験を行うにあたり、前記耐食性試験での乾湿サイクル工程における乾燥工程と湿潤工程とを前記試験体に発錆が生じるまで繰り返し行い、発錆が生じた乾燥工程と湿潤工程とのサイクル数を用いて、鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行うことを特徴とする鋼材の耐食性評価方法。
- 試験体である鋼材中のCr含有量が8重量%以下あるいはNi含有量が5重量%以下の鋼材に対して、請求項1から4のいずれか1項に記載の耐食性試験を行った後に、腐食生成物を除去した後の重量減少を用いて、鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行うことを特徴とする鋼材の耐食性評価方法。
- 試験体である鋼材中のCr含有量が12重量%以上の鋼材に対して、試験体に応力を付加した後に請求項1から4のいずれか1項に記載の耐食性試験を行い、あるいは、前記耐食性試験の塩化物付着工程で塩化物を付着させた後に前記試験体に応力を付加して前記耐食性試験を行い、その後に試験体の応力負荷部位での割れの発生の有無、前記耐食性試験での乾湿サイクル工程における乾燥工程と湿潤工程とを1サイクルとしたときの試験体の応力負荷部位での割れ発生までのサイクル数、あるいは、試験体の応力負荷部位での割れの深さや発生数を用いて鋼材の相対評価あるいは耐食性の判定を行うことを特徴とする鋼材の耐食性評価方法。
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