JP3605630B2 - 低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は促進腐食試験方法に関するもので、更に詳しくは,メッキや塗装などの表面処理が施されていない低合金鋼の、自然環境との相関性の優れた試験結果を短時間で得ることができる、新しい促進腐食試験方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
一般に、鉄元素以外に他の元素、たとえば炭素、銅、ニッケル、クロム、リン等を含んだ低合金鋼、特に耐候性鋼は、雨や結露などの湿潤雰囲気と乾燥雰囲気が繰り返されることによってその耐候性能が発現され、表面に生成した錆層で新たに発生する錆が抑制されることが知られている。
【0003】
このような知見から、従来JIS K 5621、JASO(自動車規格) M 610など複合サイクル腐食試験方法が規格化され、乾燥と湿潤の繰り返し工程が設定されるとともに促進因子として塩水噴霧工程が設定されてもいる。
図3は、従来の複合サイクル腐食試験による炭素鋼と耐候性鋼の腐食量の経時変化を示し、湿潤−乾燥の繰り返しサイクルにおける腐食量が試験時間の経過によってどのように変化するか、炭素鋼、耐候性鋼についてプロットしたものである。
【0004】
しかしながら、図3からわかるように、従来からの促進腐食試験では、低合金鋼である耐候性鋼は、その腐食量の経時的変化が炭素鋼の腐食量の経時変化と殆ど同じになり、腐食量と試験時間の関係が略同一直線上となるため、自然環境における耐候性鋼の特徴を示さず、殆ど区別できないことが問題であった。
このため、耐候性鋼の耐食性を従来の促進腐食試験によって評価することは非常に困難であり、殆ど不可能であった。
【0005】
このように、従来の促進腐食試験の方法では耐候性鋼の耐食性の評価が難しいという問題は、前提としている条件の設定に問題があることを教えていた。つまり、耐候性鋼の耐食性能の発現と自然環境の相関性に基く試験条件の設定を見出すことが必要とされていたのである。
たとえば実際にも、海洋環境における構造用鋼の耐久性向上に関する研究の中で、耐候性鋼の大型構造物、建築物や橋梁などを詳細に観察すると、雨水の降り掛かる一方の部分では緻密で安定な錆層が生成し、腐食量は年とともに減少しているが、雨水の掛からない他方の部分、たとえば軒裏や地面に面した部分では、層状の錆や粗雑な錆が生成し、腐食量も多くなっていることが判明しているのである。
【0006】
この出願の発明は、以上のとおりの従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、耐候性鋼と炭素鋼の腐食量の差を明確にできると共に自然環境における腐食との相関性が優れ、腐食試験結果を短時間で得ることのできる新しい腐食試験方法を提供することを課題としている。
【0008】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法において、塩水噴霧工程,乾燥工程、湿潤工程、及び錆層に蓄積して安定錆の生成を阻害する塩分を除去する脱イオンからなる洗浄水を用いたシャワリング工程を含むと共に、試験条件として各工程処理時間の範囲を、塩水噴霧工程0.1〜6時間、乾燥工程1時間以上、湿潤工程0.1〜24時間の範囲とし、シャワリング工程時間を0.1〜6時間として組み合わせたことを特徴とする低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法、また、低合金鋼の腐食量y(単位g/m2)と試験時間xの関係における回帰曲線y=aXbの定数bを0.9以下となるようにすることを特徴とする低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法を提供する。
【0009】
以上のとおりのこの出願の発明は、発明者による検討の結果から得られた、海洋環境における構造用鋼、耐候性鋼の大型構造物、建築物や橋梁などを詳細に観察すると、雨水の降り掛かる一方の部分では緻密で安定な錆層が生成し、腐食量は年とともに減少しているが、雨水の掛からない他方の部分、たとえば軒裏や地面に面した部分では、層状の錆や粗雑な錆が生成し、腐食量も多くなっていることの原因は、海から飛来した塩分が錆層中に蓄積し、雨水は錆層に蓄積した塩分を洗い流す作用を有し安定錆生成の役割を果たしていること、そしてこの事実から、腐食を促進させるためには塩分が必要であるけれども、雨水の降り掛かりを模擬した手法を使い、錆層中に含まれる塩分を洗い流すことが耐候性鋼の緻密で安定した錆生成に欠かせないとの知見に基いて完成されている。
【0010】
この知見に基く、この出願の発明によって、錆層中の塩分洗い流しより、自然環境における耐候性鋼の腐食と相関性の優れた試験結果を得ることが可能になった。
またこれによって海浜部で裸使用可能な低合金鋼開発の目標として、実環境を模擬した評価実験が可能となった。
【0011】
この出願の発明では、従来と同様の塩水噴霧、乾燥及び湿潤の各工程を含む低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法において、さらに錆層の洗浄工程を加えている。この場合、この洗浄工程、即ち錆層に蓄積して安定錆の生成を阻害する塩分を除去する脱イオン洗浄水を用いたシャワリング工程を新設すると共に、さらに、試験条件として各工程処理時間の範囲を、塩水噴霧工程0.1〜6時間、乾燥工程1時間以上、湿潤工程0.1〜24時間の範囲とし、シャワリング工程時間を0.1〜6時間として組み合わせることによって、耐候性鋼表面に安定錆を生成させる。そして、その結果として、耐候性鋼と炭素鋼の腐食量の差異が明確に現れるようにすることができ、試験における腐食量の経時変化を、自然環境における腐食との間で優れた相関性を持つように設定することが可能となり、また、これによって腐食試験結果を短時間で得ることができる。
【0012】
換言すれば、(1)乾燥と湿潤の繰り返しがあること、(2)腐食促進物質を供給すること、(3)腐食を進行させた後、腐食促進物質を錆層から除去すること、(4)試験条件として、塩水噴霧工程0.1〜6時間、乾燥工程1時間以上、湿潤工程0.1〜24時間の範囲とし、脱イオン洗浄水を用いたシャワリング工程を0.1〜6時間として組み合わせた4つの条件を満たす腐食試験方法により、低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法として、自然環境における腐食の関係で優れた相関関係が得られる試験方法を提供することがこの発明の本質的特徴である。この出願の発明では、脱イオン水を用いた洗浄水でシャワリングするために、試験結果に影響を及ぼす腐食性イオンの影響を除去することができる。
【0013】
塩水噴霧工程を0.1〜6時間としたのは、0.1時間より短い場合、試験槽内の噴霧分布が不均一になるとともに、試験片表面へ供給する食塩水が少なく、腐食促進率が小さくなるからであり、また6時間より長い場合、流れ錆が発生し、自然環境で生成した錆形態と相違するからである。
【0014】
また乾燥工程を1時間以上としたのは、1時間より短い場合、錆層の凝集が充分でなく、耐候性鋼表面に安定錆が生成しないからである。
更に湿潤工程を 0.1〜24時間としたのは、 0.1より短い場合、腐食促進率が小さくなり、24時間より長い場合、錆層の緻密さが失われ、耐候性鋼表面に安定錆が生成しないからである。
【0015】
そしてシャワリング工程を 0.1〜6 時間としたのは、 0.1時間より短い場合、錆層中の塩分の洗い流しが不十分であり、6 時間以上の場合、錆層中の塩分は既に充分洗い流され、錆層の凝集が破壊するからである。
そしてまた塩水噴霧工程、乾燥工程、湿潤工程の各工程を含むこの発明の低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法においては、低合金鋼の腐食量 y( 単位g/m2) と試験時間 xの関係における回帰曲線 y= axb の定数b を0.9 以下となるようにすることがさらなる特徴である。
【0016】
この回帰曲線の定数b は、塩水噴霧、乾燥、湿潤、そしてシャワリングの各工程の条件選択により定まることになる。定数b が0.9 を超えて大きな場合には耐候性鋼としての耐食性能の評価信頼性が問題となる。b >0.9 では腐食速度は時間とともに低下しないことになり、耐候性鋼の自然環境における腐食との相関性が劣ることになる。
【0017】
以下実施例を示し、更に詳細にこの発明の実施の形態を説明する。
【0018】
【実施例】
下記表1に示すように、塩水噴霧、乾燥、湿潤およびシャワリングからなる一連の工程を実施した。塩水噴霧工程では、試験片表面に腐食を促進する物質である食塩を塩水噴霧等によって供給し、次の乾燥工程では、生成した錆を凝縮し、更に次の湿潤工程では緻密な錆層を作り、最後のシャワリング工程では不要な食塩を洗い流すようにした。
【0019】
【表1】
【0020】
シャワリング工程においては、脱イオン水を洗浄水として使用した。
なお、比較のための従来法では、シャワリングは行わなかった。
図1に示された腐食量の経時変化は、前記表1の実施例1に係るものであり、この実施例1における腐食試験方法においては、試験片として炭素鋼(JIS G 3114,SM490A ●印)、耐候性鋼(JIS G 3106,SMA490AW △印) 、耐候性鋼(JIS G 3125,SPA−H ■印) の3種の鋼を用いている。
【0021】
これらの試験片は、メッキや塗装の表面処理を施さず、研磨、脱脂後、有効面を片面のみとするためにエッジ、端部及び裏面を粘着テープでシールした。
塩水噴霧工程において、これらの試験片表面に腐食を促進する物質である食塩を塩水噴霧等により供給し、次の乾燥工程において、生成した錆を凝縮し、更に次の湿潤工程において緻密な錆層を作り、最後のシャワリング工程において不要な食塩を洗い流すようにしている。
【0022】
上記3種の鋼試験片に係る腐食試験は、塩水工程 0.5時間、乾燥工程 6時間、湿潤工程 1時間、シャワリング工程 0.5時間からなる一連の工程を1サイクルとし、その条件下における腐食量とサイクル数(又は試験時間)の関係をプロットしている。
図1の3本の曲線は、腐食量−試験時間の関係においてy=aX bが成り立つと仮定した回帰式を最小二乗法により求めたものであり、式は、自然環境における耐候性鋼などの低合金鋼の腐食量と、暴露年数の関係式として一般に用いられており、それぞれy=腐食量(g/m2)、a=係数、X=試験時間を表している。
【0023】
この定数 bは定性的に腐食量の多い鋼種ほど大きく、この出願の発明において、回帰式の定数 bは0.9 以下の場合に相関性の高いものが得られた。
この実施例の場合、3種類の鉄鋼材料の腐食量の経時変化は明確に判別でき、炭素鋼、SMA490AW、SPA−H の順位で腐食量が多く、自然環境における腐食量と順位が相関し、腐食量の経時変化についても自然環境の状況を模擬しているものであった。
【0024】
図2は、図1同様に腐食量の経時変化を示しており、前記表1の実施例2に係るものであり、塩水噴霧0.5 時間、乾燥 2時間、湿潤 1時間、シャワリング0.5 時間の下で腐食試験をした結果が図示されている。図2中の曲線は、前記した図1と同様の方法で求められている。
以上のように、本発明による実施例は、いずれも自然環境における腐食との相関性が優れ、迅速に試験結果を得ることが可能であった。各実施例において、塩水噴霧工程では、試験片表面に腐食を促進する物質である食塩を塩水噴霧等により供給し、乾燥工程では、生成した錆を凝縮し、湿潤工程では緻密な錆層を作り、シャワリング工程では不要な食塩を洗い流すものである。このような環境で生成した耐候性鋼の錆層は、緻密で且つ安定であり、新たに起こる腐食を抑制する働きが有るため、試験時間とともに腐食速度を減少することができた。
【0025】
もちろんこの出願の発明においては、試験条件として、上記2つの実施例に限定されず、種々変更可能であり、例えば塩水噴霧工程 0.1〜6 時間、乾燥工程1時間以上、湿潤工程 0.1〜24時間、シャワリング工程 0.1〜6 時間の各工程時間からその時間範囲の中で任意に組み合わせることが可能である。
なお、図3は、表1の従来の試験法を実施した場合の結果を示したものである。式の定数b について、0.9 < b ≦1 のとき、図3に示される3本の曲線のように、ほぼ直線となり、試験時間とともに腐食速度が小さくならないため、自然環境との相関性が劣る。また、炭素鋼と耐候性鋼との差があまりなく、炭素鋼と耐候性鋼の試験結果による区別ができないため、耐候性の評価が不可能となり、自然環境との相関性が劣る。
【0026】
定数 bが1 以上では、図3から明らかなように、腐食速度は時間とともに減少しないことになり、自然環境における腐食との相関性が劣ることがわかる。
この発明において、図1、図2に示されるように、 b< 0.9となる促進腐食条件の下では、試験時間とともに腐食速度が低下し両鋼種の区別が可能となって、実環境を模擬するものとなり、相関性の高いものであった。
【0027】
【発明の効果】
以上詳しく説明したように、この発明により、低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験において、塩水噴霧工程、乾燥工程、湿潤工程、及び錆層に蓄積して安定錆の生成を阻害する塩分を除去する脱イオン洗浄水を用いたシャワリング工程を含むと共に、各工程処理時間を所定の範囲に納めることにより、耐候性鋼と炭素鋼との関係で,自然環境における耐候性鋼の腐食との相関性に優れ、且つ試験結果を迅速に得ることができる試験方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例1に係る腐食量の経時変化を示した図である。
【図2】この発明の実施例2に係る腐食量の経時変化を示した図である。
【図3】従来の促進試験方法による腐食量の経時変化を示した図である。
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は促進腐食試験方法に関するもので、更に詳しくは,メッキや塗装などの表面処理が施されていない低合金鋼の、自然環境との相関性の優れた試験結果を短時間で得ることができる、新しい促進腐食試験方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
一般に、鉄元素以外に他の元素、たとえば炭素、銅、ニッケル、クロム、リン等を含んだ低合金鋼、特に耐候性鋼は、雨や結露などの湿潤雰囲気と乾燥雰囲気が繰り返されることによってその耐候性能が発現され、表面に生成した錆層で新たに発生する錆が抑制されることが知られている。
【0003】
このような知見から、従来JIS K 5621、JASO(自動車規格) M 610など複合サイクル腐食試験方法が規格化され、乾燥と湿潤の繰り返し工程が設定されるとともに促進因子として塩水噴霧工程が設定されてもいる。
図3は、従来の複合サイクル腐食試験による炭素鋼と耐候性鋼の腐食量の経時変化を示し、湿潤−乾燥の繰り返しサイクルにおける腐食量が試験時間の経過によってどのように変化するか、炭素鋼、耐候性鋼についてプロットしたものである。
【0004】
しかしながら、図3からわかるように、従来からの促進腐食試験では、低合金鋼である耐候性鋼は、その腐食量の経時的変化が炭素鋼の腐食量の経時変化と殆ど同じになり、腐食量と試験時間の関係が略同一直線上となるため、自然環境における耐候性鋼の特徴を示さず、殆ど区別できないことが問題であった。
このため、耐候性鋼の耐食性を従来の促進腐食試験によって評価することは非常に困難であり、殆ど不可能であった。
【0005】
このように、従来の促進腐食試験の方法では耐候性鋼の耐食性の評価が難しいという問題は、前提としている条件の設定に問題があることを教えていた。つまり、耐候性鋼の耐食性能の発現と自然環境の相関性に基く試験条件の設定を見出すことが必要とされていたのである。
たとえば実際にも、海洋環境における構造用鋼の耐久性向上に関する研究の中で、耐候性鋼の大型構造物、建築物や橋梁などを詳細に観察すると、雨水の降り掛かる一方の部分では緻密で安定な錆層が生成し、腐食量は年とともに減少しているが、雨水の掛からない他方の部分、たとえば軒裏や地面に面した部分では、層状の錆や粗雑な錆が生成し、腐食量も多くなっていることが判明しているのである。
【0006】
この出願の発明は、以上のとおりの従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、耐候性鋼と炭素鋼の腐食量の差を明確にできると共に自然環境における腐食との相関性が優れ、腐食試験結果を短時間で得ることのできる新しい腐食試験方法を提供することを課題としている。
【0008】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法において、塩水噴霧工程,乾燥工程、湿潤工程、及び錆層に蓄積して安定錆の生成を阻害する塩分を除去する脱イオンからなる洗浄水を用いたシャワリング工程を含むと共に、試験条件として各工程処理時間の範囲を、塩水噴霧工程0.1〜6時間、乾燥工程1時間以上、湿潤工程0.1〜24時間の範囲とし、シャワリング工程時間を0.1〜6時間として組み合わせたことを特徴とする低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法、また、低合金鋼の腐食量y(単位g/m2)と試験時間xの関係における回帰曲線y=aXbの定数bを0.9以下となるようにすることを特徴とする低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法を提供する。
【0009】
以上のとおりのこの出願の発明は、発明者による検討の結果から得られた、海洋環境における構造用鋼、耐候性鋼の大型構造物、建築物や橋梁などを詳細に観察すると、雨水の降り掛かる一方の部分では緻密で安定な錆層が生成し、腐食量は年とともに減少しているが、雨水の掛からない他方の部分、たとえば軒裏や地面に面した部分では、層状の錆や粗雑な錆が生成し、腐食量も多くなっていることの原因は、海から飛来した塩分が錆層中に蓄積し、雨水は錆層に蓄積した塩分を洗い流す作用を有し安定錆生成の役割を果たしていること、そしてこの事実から、腐食を促進させるためには塩分が必要であるけれども、雨水の降り掛かりを模擬した手法を使い、錆層中に含まれる塩分を洗い流すことが耐候性鋼の緻密で安定した錆生成に欠かせないとの知見に基いて完成されている。
【0010】
この知見に基く、この出願の発明によって、錆層中の塩分洗い流しより、自然環境における耐候性鋼の腐食と相関性の優れた試験結果を得ることが可能になった。
またこれによって海浜部で裸使用可能な低合金鋼開発の目標として、実環境を模擬した評価実験が可能となった。
【0011】
この出願の発明では、従来と同様の塩水噴霧、乾燥及び湿潤の各工程を含む低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法において、さらに錆層の洗浄工程を加えている。この場合、この洗浄工程、即ち錆層に蓄積して安定錆の生成を阻害する塩分を除去する脱イオン洗浄水を用いたシャワリング工程を新設すると共に、さらに、試験条件として各工程処理時間の範囲を、塩水噴霧工程0.1〜6時間、乾燥工程1時間以上、湿潤工程0.1〜24時間の範囲とし、シャワリング工程時間を0.1〜6時間として組み合わせることによって、耐候性鋼表面に安定錆を生成させる。そして、その結果として、耐候性鋼と炭素鋼の腐食量の差異が明確に現れるようにすることができ、試験における腐食量の経時変化を、自然環境における腐食との間で優れた相関性を持つように設定することが可能となり、また、これによって腐食試験結果を短時間で得ることができる。
【0012】
換言すれば、(1)乾燥と湿潤の繰り返しがあること、(2)腐食促進物質を供給すること、(3)腐食を進行させた後、腐食促進物質を錆層から除去すること、(4)試験条件として、塩水噴霧工程0.1〜6時間、乾燥工程1時間以上、湿潤工程0.1〜24時間の範囲とし、脱イオン洗浄水を用いたシャワリング工程を0.1〜6時間として組み合わせた4つの条件を満たす腐食試験方法により、低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法として、自然環境における腐食の関係で優れた相関関係が得られる試験方法を提供することがこの発明の本質的特徴である。この出願の発明では、脱イオン水を用いた洗浄水でシャワリングするために、試験結果に影響を及ぼす腐食性イオンの影響を除去することができる。
【0013】
塩水噴霧工程を0.1〜6時間としたのは、0.1時間より短い場合、試験槽内の噴霧分布が不均一になるとともに、試験片表面へ供給する食塩水が少なく、腐食促進率が小さくなるからであり、また6時間より長い場合、流れ錆が発生し、自然環境で生成した錆形態と相違するからである。
【0014】
また乾燥工程を1時間以上としたのは、1時間より短い場合、錆層の凝集が充分でなく、耐候性鋼表面に安定錆が生成しないからである。
更に湿潤工程を 0.1〜24時間としたのは、 0.1より短い場合、腐食促進率が小さくなり、24時間より長い場合、錆層の緻密さが失われ、耐候性鋼表面に安定錆が生成しないからである。
【0015】
そしてシャワリング工程を 0.1〜6 時間としたのは、 0.1時間より短い場合、錆層中の塩分の洗い流しが不十分であり、6 時間以上の場合、錆層中の塩分は既に充分洗い流され、錆層の凝集が破壊するからである。
そしてまた塩水噴霧工程、乾燥工程、湿潤工程の各工程を含むこの発明の低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法においては、低合金鋼の腐食量 y( 単位g/m2) と試験時間 xの関係における回帰曲線 y= axb の定数b を0.9 以下となるようにすることがさらなる特徴である。
【0016】
この回帰曲線の定数b は、塩水噴霧、乾燥、湿潤、そしてシャワリングの各工程の条件選択により定まることになる。定数b が0.9 を超えて大きな場合には耐候性鋼としての耐食性能の評価信頼性が問題となる。b >0.9 では腐食速度は時間とともに低下しないことになり、耐候性鋼の自然環境における腐食との相関性が劣ることになる。
【0017】
以下実施例を示し、更に詳細にこの発明の実施の形態を説明する。
【0018】
【実施例】
下記表1に示すように、塩水噴霧、乾燥、湿潤およびシャワリングからなる一連の工程を実施した。塩水噴霧工程では、試験片表面に腐食を促進する物質である食塩を塩水噴霧等によって供給し、次の乾燥工程では、生成した錆を凝縮し、更に次の湿潤工程では緻密な錆層を作り、最後のシャワリング工程では不要な食塩を洗い流すようにした。
【0019】
【表1】
【0020】
シャワリング工程においては、脱イオン水を洗浄水として使用した。
なお、比較のための従来法では、シャワリングは行わなかった。
図1に示された腐食量の経時変化は、前記表1の実施例1に係るものであり、この実施例1における腐食試験方法においては、試験片として炭素鋼(JIS G 3114,SM490A ●印)、耐候性鋼(JIS G 3106,SMA490AW △印) 、耐候性鋼(JIS G 3125,SPA−H ■印) の3種の鋼を用いている。
【0021】
これらの試験片は、メッキや塗装の表面処理を施さず、研磨、脱脂後、有効面を片面のみとするためにエッジ、端部及び裏面を粘着テープでシールした。
塩水噴霧工程において、これらの試験片表面に腐食を促進する物質である食塩を塩水噴霧等により供給し、次の乾燥工程において、生成した錆を凝縮し、更に次の湿潤工程において緻密な錆層を作り、最後のシャワリング工程において不要な食塩を洗い流すようにしている。
【0022】
上記3種の鋼試験片に係る腐食試験は、塩水工程 0.5時間、乾燥工程 6時間、湿潤工程 1時間、シャワリング工程 0.5時間からなる一連の工程を1サイクルとし、その条件下における腐食量とサイクル数(又は試験時間)の関係をプロットしている。
図1の3本の曲線は、腐食量−試験時間の関係においてy=aX bが成り立つと仮定した回帰式を最小二乗法により求めたものであり、式は、自然環境における耐候性鋼などの低合金鋼の腐食量と、暴露年数の関係式として一般に用いられており、それぞれy=腐食量(g/m2)、a=係数、X=試験時間を表している。
【0023】
この定数 bは定性的に腐食量の多い鋼種ほど大きく、この出願の発明において、回帰式の定数 bは0.9 以下の場合に相関性の高いものが得られた。
この実施例の場合、3種類の鉄鋼材料の腐食量の経時変化は明確に判別でき、炭素鋼、SMA490AW、SPA−H の順位で腐食量が多く、自然環境における腐食量と順位が相関し、腐食量の経時変化についても自然環境の状況を模擬しているものであった。
【0024】
図2は、図1同様に腐食量の経時変化を示しており、前記表1の実施例2に係るものであり、塩水噴霧0.5 時間、乾燥 2時間、湿潤 1時間、シャワリング0.5 時間の下で腐食試験をした結果が図示されている。図2中の曲線は、前記した図1と同様の方法で求められている。
以上のように、本発明による実施例は、いずれも自然環境における腐食との相関性が優れ、迅速に試験結果を得ることが可能であった。各実施例において、塩水噴霧工程では、試験片表面に腐食を促進する物質である食塩を塩水噴霧等により供給し、乾燥工程では、生成した錆を凝縮し、湿潤工程では緻密な錆層を作り、シャワリング工程では不要な食塩を洗い流すものである。このような環境で生成した耐候性鋼の錆層は、緻密で且つ安定であり、新たに起こる腐食を抑制する働きが有るため、試験時間とともに腐食速度を減少することができた。
【0025】
もちろんこの出願の発明においては、試験条件として、上記2つの実施例に限定されず、種々変更可能であり、例えば塩水噴霧工程 0.1〜6 時間、乾燥工程1時間以上、湿潤工程 0.1〜24時間、シャワリング工程 0.1〜6 時間の各工程時間からその時間範囲の中で任意に組み合わせることが可能である。
なお、図3は、表1の従来の試験法を実施した場合の結果を示したものである。式の定数b について、0.9 < b ≦1 のとき、図3に示される3本の曲線のように、ほぼ直線となり、試験時間とともに腐食速度が小さくならないため、自然環境との相関性が劣る。また、炭素鋼と耐候性鋼との差があまりなく、炭素鋼と耐候性鋼の試験結果による区別ができないため、耐候性の評価が不可能となり、自然環境との相関性が劣る。
【0026】
定数 bが1 以上では、図3から明らかなように、腐食速度は時間とともに減少しないことになり、自然環境における腐食との相関性が劣ることがわかる。
この発明において、図1、図2に示されるように、 b< 0.9となる促進腐食条件の下では、試験時間とともに腐食速度が低下し両鋼種の区別が可能となって、実環境を模擬するものとなり、相関性の高いものであった。
【0027】
【発明の効果】
以上詳しく説明したように、この発明により、低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験において、塩水噴霧工程、乾燥工程、湿潤工程、及び錆層に蓄積して安定錆の生成を阻害する塩分を除去する脱イオン洗浄水を用いたシャワリング工程を含むと共に、各工程処理時間を所定の範囲に納めることにより、耐候性鋼と炭素鋼との関係で,自然環境における耐候性鋼の腐食との相関性に優れ、且つ試験結果を迅速に得ることができる試験方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例1に係る腐食量の経時変化を示した図である。
【図2】この発明の実施例2に係る腐食量の経時変化を示した図である。
【図3】従来の促進試験方法による腐食量の経時変化を示した図である。
Claims (2)
- 低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法において、塩水噴霧工程、乾燥工程、湿潤工程、及び錆層に蓄積して安定錆の生成を阻害する塩分を除去する脱イオン水からなる洗浄水を用いたシャワリング工程を含むと共に、試験条件として各工程処理時間の範囲を、塩水噴霧工程0.1〜6時間、乾燥工程1時間以上、湿潤工程0.1〜24時間の範囲とし、シャワリング工程時間を0.1〜6時間として組み合わせたことを特徴とする低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法。
- 請求項 1 おいて、低合金鋼の腐食量y(単位g/m 2 )と試験時間xの関係における回帰曲線y=aX b の定数bを0.9以下となるようにすることを特徴とする低合金鋼の複合サイクル促進耐候性試験方法。
Priority Applications (1)
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