以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
〔タンパク質組成物の製造方法〕
本実施形態に係るタンパク質組成物の製造方法は、エステル化されたタンパク質(エステル基を有するタンパク質)を含む原料組成物を、酸性又は塩基性(アルカリ性)の媒体に接触させて、エステル基を加水分解する工程を備える。
本実施形態において、原料組成物は、繊維(原料繊維)、フィルム(原料フィルム)、モールド成形体(原料モールド成形体)、ゲル(原料ゲル)、多孔質体(原料多孔質体)、及びパーティクル(原料パーティクル)からなる群から選択される少なくとも一種であってよい。
本実施形態において、原料組成物は、エステル化されたタンパク質を含む。本明細書において、「エステル化されたタンパク質」とは、タンパク質の水酸基と、カルボン酸とがエステル結合して形成されたエステル基を含むタンパク質を意味する。エステル化されたタンパク質は、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル等を含んでいてよく、ギ酸エステルを含んでいることが好ましい。
(タンパク質)
本実施形態に係るタンパク質(以下、「目的とするタンパク質」ということもある。)としては、天然のタンパク質と組換えタンパク質(人造タンパク質)を挙げることができる。また、組換えタンパク質としては、工業規模での製造が可能な任意のタンパク質を挙げることができ、例えば、工業用に利用できるタンパク質、医療用に利用できるタンパク質、構造タンパク質等を挙げることができる。工業用又は医療用に利用できるタンパク質の具体例としては、酵素、制御タンパク質、受容体、ペプチドホルモン、サイトカイン、膜又は輸送タンパク質、予防接種に使用する抗原、ワクチン、抗原結合タンパク質、免疫刺激タンパク質、アレルゲン、完全長抗体又は抗体フラグメント若しくは誘導体を挙げることができる。構造タンパク質とは、生体内で構造、形態等を形成又は保持するタンパク質を意味する。構造タンパク質は、フィブロインであってよい。構造タンパク質の具体例としては、クモ糸フィブロイン、シルクフィブロイン、ケラチン、コラーゲン、エラスチン及びレシリン、並びにこれら由来のタンパク質等を挙げることができる。構造タンパク質は、例えば、後述する改変フィブロインであってよく、保温性、吸湿発熱性及び/又は難燃性に優れ得るという観点から、改変クモ糸フィブロインが好ましい。
改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
本明細書において「改変フィブロイン」とは、人為的に製造されたフィブロイン(人造フィブロイン)を意味する。改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列と同一であるフィブロインであってもよい。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」もまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
「改変フィブロイン」は、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列をそのまま利用したものであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2〜27である。(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、2〜20、4〜27、4〜20、8〜20、10〜20、4〜16、8〜16、又は10〜16の整数であってよい。また、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよく、10〜40、10〜60、10〜80、10〜100、10〜120、10〜140、10〜160、又は10〜180アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2〜300の整数を示し、8〜300、10〜300、20〜300、40〜300、60〜300、80〜300、10〜200、20〜200、20〜180、20〜160、20〜140又は20〜120の整数であってもよい。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、及びスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、及びAAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin−3(adf−3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin−4(adf−4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin−like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
本実施形態に係る改変フィブロインは、改変絹(シルク)フィブロイン(カイコが産生する絹タンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、改変クモ糸フィブロイン(クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、セリシン除去絹(シルク)フィブロイン(いわゆる再生シルクフィブロイン)であってもよい。セリシン除去絹(シルク)フィブロインは、絹フィブロインを覆うセリシン、及びその他の脂肪分などを除去して精製したものである。改変フィブロインとしては、改変クモ糸フィブロインが好ましい。
改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)nモチーフの含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、並びにグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
第1の改変フィブロインとしては、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインにおいて、(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、3〜20の整数が好ましく、4〜20の整数がより好ましく、8〜20の整数が更に好ましく、10〜20の整数が更により好ましく、4〜16の整数が更によりまた好ましく、8〜16の整数が特に好ましく、10〜16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10〜200残基であることが好ましく、10〜150残基であることがより好ましく、20〜100残基であることが更に好ましく、20〜75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列又は配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるポリペプチドであってもよい。
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1−i)配列番号4(recombinant spider silk protein ADF3KaiLargeNRSH1)で示されるアミノ酸配列、又は(1−ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1〜13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
(1−i)の改変フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)nモチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
ここで、天然由来のフィブロインにおけるz/wについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、フィブロイン中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が6%以下である天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、z/wを算出した。その結果、天然由来のフィブロインにおけるz/wは、いずれも50.9%未満である(最も高いもので、50.86%)。
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、フェニルアラニン(F)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2−i)配列番号6(Met−PRT380)、配列番号7(Met−PRT410)、配列番号8(Met−PRT525)若しくは配列番号9(Met−PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2−ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(2−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met−PRT313)で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端に所定のヒンジ配列とHisタグ配列が付加されたものである。
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8〜11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.8%である。
(2−i)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(2−iii)配列番号12(PRT380)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2−iv)配列番号12、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号16(PRT313)、配列番号12、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(2−iii)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
第2の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
第3の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)nモチーフを10〜40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1〜3つの(A)nモチーフ毎に1つの(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)nモチーフの欠失、及び1つの(A)nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
x/yの算出方法を図1を参照しながら更に詳細に説明する。図1には、改変フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)nモチーフ−第1のREP(50アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第2のREP(100アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第3のREP(10アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第4のREP(20アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第5のREP(30アミノ酸残基)−(A)nモチーフという配列を有する。
隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)nモチーフ−REP]ユニットが存在してもよい。図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる[(A)nモチーフ−REP]ユニットの組を実線で示した。本明細書中、この比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)nモチーフ−REP]ユニットの組は破線で示した。
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9〜11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8〜3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
ここで、天然由来のフィブロインにおけるx/yについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列で構成される天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、x/yを算出した。その結果、天然由来のフィブロインにおけるx/yは、いずれも64.2%未満である(最も高いもので、64.14%)。
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3−i)配列番号17(Met−PRT399)、配列番号7(Met−PRT410)、配列番号8(Met−PRT525)若しくは配列番号9(Met−PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3−ii)配列番号17、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(3−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号17で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met−PRT313)で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列は、第2の改変フィブロインで説明したとおりである。
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8〜11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号17で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.8%である。配列番号10、配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
(3−i)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3(ギザ比率が1:1.8〜11.3)となる隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(3−iii)配列番号18(PRT399)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3−iv)配列番号18、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号18、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(3−iii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
第3の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
第4の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変フィブロインは、上述した第2の改変フィブロインと、第3の改変フィブロインの特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4−i)配列番号7(Met−PRT410)、配列番号8(Met−PRT525)、配列番号9(Met−PRT799)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(4−ii)配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
第5の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2〜4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
第5の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105−132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1〜4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4−1=7。「−1」は重複分の控除である。)。例えば、図2に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、図2に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)nモチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。図2の場合28/170=16.47%となる。
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5−i)配列番号19(Met−PRT720)、配列番号20(Met−PRT665)若しくは配列番号21(Met−PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5−ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(5−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号7(Met−PRT410)で示されるアミノ酸配列に対し、C末端側の端末のドメイン配列を除いて、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号8(Met−PRT525)で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
(5−i)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(5−ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(5−ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(5−iii)配列番号22(PRT720)、配列番号23(PRT665)若しくは配列番号24(PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5−iv)配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号22、配列番号23及び配列番号24で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(5−iii)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(5−iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(5−iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
第5の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
第6の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
第6の改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
第6の改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
図3は、改変フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。図3を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、図3に示した改変フィブロインのドメイン配列(「[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、図3の改変フィブロインの場合21/150=14.0%となる。
第6の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
第6の改変フィブロインは、REPの疎水性度が、−0.8以上であることが好ましく、−0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
第6の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6−i)配列番号25(Met−PRT888)、配列番号26(Met−PRT965)、配列番号27(Met−PRT889)、配列番号28(Met−PRT916)、配列番号29(Met−PRT918)、配列番号30(Met−PRT699)、配列番号31(Met−PRT698)、配列番号32(Met−PRT966)、配列番号41(Met−PRT917)若しくは配列番号42(Met−PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6−ii)配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41若しくは配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
(6−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号25で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met−PRT410)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号26で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。配列番号27で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。配列番号28で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。配列番号29で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号30で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列(Met−PRT525)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号31で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号32で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met−PRT410)中に存在する20個のドメイン配列の領域を2回繰り返した配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号41で示されるアミノ酸配列(Met−PRT917)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てLIに置換し、かつ残りのQをVに置換したものである。配列番号42で示されるアミノ酸配列(Met−PRT1028)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てIFに置換し、かつ残りのQをTに置換したものである。
配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表2)。
(6−i)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(6−ii)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(6−ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6−ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
第6の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(6−iii)配列番号33(PRT888)、配列番号34(PRT965)、配列番号35(PRT889)、配列番号36(PRT916)、配列番号37(PRT918)、配列番号38(PRT699)、配列番号39(PRT698)、配列番号40(PRT966)、配列番号43(PRT917)若しくは配列番号44(PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6−iv)配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
(6−iii)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(6−iv)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(6−iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6−iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
第6の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
改変フィブロインは、第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、第5の改変フィブロイン、及び第6の改変フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変フィブロインであってもよい。
改変フィブロインは、親水性改変フィブロインであってもよく、疎水性改変フィブロインであってもよい。疎水性改変フィブロインとは、改変フィブロインを構成する全てのアミノ酸残基の疎水性指標(HI)の総和を求め、次にその総和を全アミノ酸残基数で除した値(平均HI)が0以上である改変フィブロインである。疎水性指標は表1に示したとおりである。また、親水性改変フィブロインとは、上記の平均HIが0未満である改変フィブロインである。
疎水性改変フィブロインとしては、例えば、上述した第6の改変フィブロインを挙げることができる。疎水性改変フィブロインのより具体的な例としては、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
親水性改変フィブロインとしては、例えば、上述した第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、及び第5の改変フィブロインを挙げることができる。親水性改変フィブロインのより具体的な例としては、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
(タンパク質の製造方法)
タンパク質は、例えば、当該タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
タンパク質をコードする遺伝子の製造方法は特に制限されない。例えば、天然の構造タンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングする方法、又は、化学的な合成によって、遺伝子を製造することができる。遺伝子の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手した構造タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、タンパク質の精製や確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるタンパク質、をコードする遺伝子を合成してもよい。
調節配列は、宿主におけるタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、タンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いても良い。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、タンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
原核生物の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
原核生物を宿主とする場合、組換えタンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002−238569号公報)等を挙げることができる。
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
真核生物を宿主とする場合、タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110 (1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
タンパク質は、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中にタンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15〜40℃である。培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0〜9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
また、培養中必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
発現させたタンパク質の単離、精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
また、タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてタンパク質の不溶体を回収する。回収したタンパク質の不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法によりタンパク質の精製標品を得ることができる。当該タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
(原料組成物の製造方法)
本実施形態において、原料組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、以下の各工程を含む方法であってよい。
[溶解工程]
溶解工程は、タンパク質を溶媒(例えば、ギ酸等のカルボン酸)に溶解してタンパク質溶液を得る工程である。
溶解工程では、溶解させるタンパク質(以下、「以下、目的タンパク質」ともいう。)として、精製されたタンパク質を用いてもよく、タンパク質(組換えタンパク質)を発現した宿主細胞中のタンパク質を用いてもよい。精製されたタンパク質は、タンパク質を発現した宿主細胞から精製されたタンパク質であってよい。宿主細胞中のタンパク質を目的タンパク質として溶解させる場合、宿主細胞と溶媒とを接触させて、当該宿主細胞中のタンパク質を溶媒に溶解させる。宿主細胞は、目的タンパク質を発現したものであればよく、例えば、無傷の細胞であってもよく、破壊処理等の処理を行った後の細胞であってもよい。また、既に簡単な精製処理を行った細胞であってもよい。
タンパク質を発現した宿主細胞からタンパク質を精製する方法としては、特に限定されないが、例えば、特許第6077570号公報及び特許第6077569号公報に記載されている方法等を用いることができる。
溶解工程において、溶媒としてギ酸等のカルボン酸を使用した場合、タンパク質中の水酸基と、カルボン酸とが脱水縮合反応することにより、エステル化されたタンパク質が生成される。カルボン酸として、例えば、蟻酸、酢酸、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、イソ酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、安息香酸等のモノカルボン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸及びセロプラスチン酸等の飽和脂肪族カルボン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、プロピオール酸及びステアロール酸等の不飽和脂肪族カルボン酸、並びにシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカニン酸、ブラシリン酸、マレイン酸、フマール酸及びグルタコン酸等のジカルボン酸が使用されうる。カルボン酸は、酸無水物又は酸塩化物の形態をとっていてもよい。
溶解工程は室温で実施してもよいし、種々の加熱温度に保持して、タンパク質を溶媒に溶解させてもよい。加熱温度の保持時間は、特に限定されないが、10分以上であってよく、工業的生産を考慮すると、10〜120分が好ましく、10〜60分がより好ましく、10〜30分がさらに好ましい。加熱温度の保持時間は、タンパク質が十分に溶解し、かつ夾雑物(目的とするタンパク質以外のもの)の溶解が少ない条件で、適宜設定してよい。
タンパク質を溶解するために添加する溶媒の添加量は、タンパク質を溶解できる量であれば特に限定されない。
精製されたタンパク質を溶解する場合、溶媒の添加量は、タンパク質(タンパク質を含む乾燥粉末)の重量(g)に対する溶媒の体積(mL)の比(体積(mL)/重量(g))として、1〜100倍であってよく、1〜50倍であってよく、1〜25倍であってよく、1〜10倍であってよく、1〜5倍であってよい。
タンパク質を発現した宿主細胞中のタンパク質を溶解する場合、溶媒の添加量は、宿主細胞の重量(g)に対する、溶媒(mL)の比(体積(mL)/重量(g))として、1〜100倍であってよく、1〜50倍であってよく、1〜25倍であってよく、1〜10倍であってよく、1〜5倍であってよい。
溶媒は、無機塩を含んでいてよい。溶媒に無機塩を添加することにより、タンパク質の溶解性を高めることが可能である。
溶媒に添加し得る無機塩としては、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属硝酸塩、チオシアン酸塩、過塩素酸塩等を挙げることができる。
アルカリ金属ハロゲン化物としては、例えば、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム等を挙げることができる。
アルカリ土類金属ハロゲン化物としては、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム等を挙げることができる。
アルカリ土類金属硝酸塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム等を挙げることができる。
チオシアン酸塩としては、例えばチオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、グアニジニウムチオシアナート等を挙げることができる。
過塩素酸塩としては、例えば過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸カルシウム、過塩素酸銀、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸マグネシウム等を挙げることができる。
これらの無機塩は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
好適な無機塩として、アルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物が挙げられる。好適な無機塩の具体例としては、塩化リチウム、塩化カルシウム等を挙げることができる。
無機塩の添加量(含有量)は、溶媒の全質量に対して、0.5質量%以上10質量%以下、又は0.5質量%以上5質量%以下であってよい。
タンパク質溶液は、必要により、不溶物を除去されてよい。つまり、原料組成物の製造方法は、溶解工程後に、必要に応じて、タンパク質溶液から不溶物を除去する工程を含んでいてよい。タンパク質溶液から、不溶物を除去する方法としては、遠心分離、ドラムフィルター、プレスフィルター等のフィルターろ過等、一般的な方法が挙げられる。フィルターろ過による場合、セライト、珪藻土等のろ過助剤及びプリコート剤等を併用することにより、タンパク質溶液から不溶物をより効率的に除去することができる。
タンパク質溶液は、タンパク質とこれを溶解している溶媒(溶解用溶媒)とを含んでいる。タンパク質溶液は、溶解工程において、タンパク質と共に含まれていた夾雑物を含み得る。タンパク質溶液は、原料組成物の成形用溶液であってよい。
タンパク質溶液中のタンパク質の含有量は、タンパク質溶液全量に対して、5質量%以上35質量%以下、5質量%以上50質量%以下、10質量%以上40質量%以下又は15質量%以上35質量%以下であってよい。
エステル基が付加されたタンパク質が生成される方法は、特に限定されず、上述の溶解工程において、溶媒としてギ酸等のカルボン酸を使用することにより、生成される方法であってもよく、上述の溶解工程において生成される方法以外の方法であってもよい。このような方法としては、例えば、セリン、チロシン、スレオニン等の水酸基を有するタンパク質に、カルボン酸、酸無水物、及び酸塩化物からなる群から選択される少なくとも一種を反応させる工程において生成される方法であってもよい。
[成形工程]
成形工程は、タンパク質溶液を用いて、原料組成物を成形する工程である。原料組成物の形状としては、特に限定されないが、例えば、繊維、フィルム、モールド成形体、ゲル、多孔質体、パーティクル等を挙げることができる。
タンパク質溶液は、成形する原料組成物の用途に応じてタンパク質の濃度及び粘度を調整することが好ましい。
タンパク質溶液中のタンパク質の濃度を調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、蒸留により溶媒を揮発させることにより、タンパク質濃度を高める方法、溶解工程でタンパク質濃度の高いものを使用する方法、又は溶媒の添加量をタンパク質の量に対し、少なくする方法等が挙げられる。
紡糸に適した粘度は一般に40℃で1000〜50,000cP(センチポイズ)であり、粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定できる。タンパク質溶液の粘度が、上記の範囲内にない場合には紡糸できる粘度にタンパク質溶液の粘度を調整してもよい。粘度の調整には、上述した方法等を用いることができる。溶媒は、上記例示した好適な無機塩を含んでいてもよい。
上記成形する原料組成物が原料(原料繊維)である場合、必要により、タンパク質溶液中のタンパク質含有量(濃度)を、紡糸が可能な濃度及び粘度に調整してよい。タンパク質の濃度及び粘度を調整する方法は特に限定されない。また、紡糸方法としては、湿式紡糸等が挙げられる。紡糸に適した濃度及び粘度に調整されたタンパク質溶液をドープ液として、凝固液に付与すると、タンパク質が凝固する。この際、タンパク質溶液を糸状の液体として凝固液に付与することで、タンパク質が糸状に凝固し、糸(未延伸糸)が形成できる。未延伸糸の形成は、例えば特許第5584932号公報に記載されている方法に準じて行うことができる。
以下、湿式紡糸の例を示すが、紡糸の方法は特に限定されず、乾湿式紡糸等であってよい。
湿式紡糸−延伸
(a)湿式紡糸
凝固液は、脱溶媒できる溶液であればよい。凝固液はメタノール、エタノール、2−プロパノール等の炭素数1〜5の低級アルコール又はアセトンを使用するのが好ましい。凝固液は、水を含んでいてもよい。凝固液の温度は、紡糸の安定性の観点から、5〜30℃が好ましい。
タンパク質溶液を糸状の液体として付与する方法は、特に限定されないが、例えば紡糸用の口金から脱溶媒槽の凝固液に押し出す(吐出する)方法が挙げられる。タンパク質が凝固することにより未延伸糸が得られる。タンパク質溶液を凝固液に押し出す(吐出する)場合の押出し(吐出)速度は、口金の直径及びタンパク質溶液の粘度等に応じて適宜設定できるが、例えば、直径0.1〜0.6mmのノズルを有するシリンジポンプの場合、紡糸の安定性の観点から、押し出し(吐出)速度は1ホール当たり、0.2〜6.0mL/hであってよく、1ホール当たり、1.4〜4.0mL/hであってよい。凝固液を入れる脱溶媒槽(凝固液槽)の長さは特に限定されないが、例えば長さは200〜500mmであってよい。タンパク質の凝固により形成された未延伸糸の引き取り速度は例えば1〜14m/min、滞留時間は例えば0.01〜0.15minであってよい。未延伸糸の引き取り速度は、脱溶媒の効率の観点から、1〜3m/minであってよい。タンパク質の凝固により形成された未延伸糸は、さらに凝固液において延伸(前延伸)をしてもよいが、凝固液に用いる低級アルコールの蒸発を抑える観点から、凝固液を低温に維持し、未延伸糸の状態で凝固液から引き取ってもよい。
(b)延伸
上述する方法で得られた未延伸糸を、さらに延伸する工程を含むこともできる。延伸は一段延伸でもよいし、2段以上の多段延伸でもよい。多段で延伸すると、分子を多段で配向させ、トータル延伸倍率も高くすることができるため、タフネスの高い繊維の製造に適している。
原料組成物がフィルム(原料フィルム)である場合は、必要により、タンパク質溶液をフィルム化が可能な濃度及び粘度に調整してよい。原料組成物をフィルム化する方法としては、特に限定されないが、タンパク質溶液を溶媒に耐性のある平板に所定の厚さに塗布して、塗膜を形成させ、塗膜から溶媒を除去することで、所定の厚さのフィルムを得る方法等が挙げられる。
所定の厚さのフィルムを形成する方法としては、例えばキャスト法が挙げられる。キャスト法によりフィルムを形成する場合には、平板に、タンパク質溶液をドクターコート、ナイフコーター等の冶具を用いて数ミクロン以上の厚さにキャストしてキャスト膜を形成し、その後減圧乾燥又は脱溶媒槽への浸漬により溶媒を脱離することにより原料フィルム(ポリペプチドフィルム)を得ることができる。原料フィルムの形成は、特許第5678283号公報に記載されている方法に準じて行うことができる。
原料組成物がモールド成形体(原料モールド成形体)である場合、原料モールド成形体を形成する方法は、特に限定されない。例えば、乾燥タンパク質粉末を加圧成形機導入した後、ハンドプレス機等を用いて加圧及び加熱を行うことで、乾燥タンパク質粉末が必要な温度に達し、原料モールド成形体を得ることができる。また、原料モールド成形体の形成は、特許文献(特願2017-539869、PCT/JP2016/076500)に記載されている方法に準じて行うことができる。
原料組成物がゲル(原料ゲル)である場合、原料ゲルを形成する方法は、特に限定されない。例えば、乾燥タンパク質を溶解用溶媒に溶解させてポリペプチドの溶液を得る溶液生成工程と当該溶液生成工程で生成した溶液とを水溶性溶媒に置換する工程により、原料ゲルを得ることができる。このとき、溶液生成工程と溶解用溶媒を水溶性溶媒に置換する工程の間に、型枠に流し込み所定の形状に成形する工程を入れるか、あるいは、当該溶解用溶媒を水溶性溶媒に置換する工程の後にカットすることにより所定の形状とすることができる。また、原料ゲルの形成は、特許第05782580号に記載されている方法に準じて行うことができる。
原料組成物が多孔質体(原料多孔質体)である場合、必要により、多孔質化が可能な濃度及び粘度に調整してよい。原料多孔質体を形成する方法は、特に限定されない。例えば、多孔質化に好適な濃度及び粘度に調整されたタンパク質溶液に発泡剤を適量添加し、溶媒を除去することで原料多孔質体を得る方法、又は特許第5796147号に記載されている方法に準じて行うこと等が挙げられる。
原料組成物がパーティクル(原料パーティクル)である場合、パーティクルを形成する方法は、特に限定されない。原料パーティクルは、例えば、上述したドープ液を用い、ドープ液中の溶媒を水溶性溶媒に置換することによりタンパク質の水溶液を得る工程と、タンパク質の水溶液を乾燥する工程とを含む方法によって得られる。水溶性溶媒は、水を含む溶媒をいい、例えば、水、水溶性緩衝液、生理食塩水等が挙げられる。水溶性溶媒に置換する工程は、ドープ液を透析膜内に入れ、水溶性溶媒中に浸漬し、水溶性溶媒を1回以上入れ替える方法により行われることが好ましい。具体的には、ドープ液を透析膜に入れ、ドープ液の100倍以上の量の水溶性溶媒(1回分)の中に3時間静置し、この水溶性溶媒入れ替えを計3回以上繰り返すことがより好ましい。透析膜は、タンパク質が透過させないものであればよく、例えばセルロース透析膜等であってよい。水溶性溶媒の置換を繰り返すことにより、ドープ液中に存在していた溶媒の量をゼロに近づけることができる。水溶性溶媒に置換する工程の後半では、透析膜は使用しなくてもよい。タンパク質の水溶液を乾燥する工程は、真空凍結乾燥を用いることが好ましい。真空凍結乾燥時の真空度は、好ましくは200パスカル(Pa)以下、より好ましくは150パスカル以下、更に好ましくは100パスカル以下である。凍結乾燥後のパーティクルにおける水分率は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下である。
原料組成物が繊維(原料繊維)である場合、原料繊維はカセ状又は生地状であってよい。
原料繊維の繊維径の下限値は、例えば10μm以上であってよく、15μm以上であってよく、20μm以上であってよく、25μm超であってよく、28μm以上であってよく、30μm以上であってよく、32μm以上であってよく、34μm以上であってよく、35μm以上であってよく、36μm以上であってよく、38μm以上であってよく、40μm以上であってよい。原料繊維の繊維径の上限値は、120μm以下であることが好ましい。
原料繊維の繊維径は、10μm〜120μmであってよく、10μm〜40μmであってよく、10μm〜30μmであってよく、10μm〜20μmであってよく、10μm〜25μmであってよく、15μm〜25μmであってよく、25μm超〜120μmであってよく、30μm〜120μmであってよく、35μm〜120μmであってよく、40μm〜120μmであってよく、45μm〜120μmであってよく、48μm〜120μmであってよく、50μm〜120μmであってよく、55μm〜120μmであってよく、60μm〜120μmであってよく、65μm〜120μmであってよく、55μm〜100μmであってよく、55μm〜80μmであってよく、60μm〜80μmであってよい。繊維径を10μm以上とすることで、水分との接触による収縮をより低減することができる。繊維径を120μm以下とすることで、繊維を形成させる際の脱溶媒をより効率的に行い、エステル基の加水分解反応速度をより高めることができる。
(タンパク質組成物の製造方法)
本実施形態に係る製造方法は、エステル化されたタンパク質(エステル基を有するタンパク質)を含む原料組成物を、酸性又は塩基性の媒体に接触させて、エステル基を加水分解する工程(以下、「加水分解工程」ともいう)を備える。エステル基の加水分解工程を経ることで、同時に原料組成物の収縮処理を兼ねることができ、防縮効果が得られる。
[加水分解工程]
本実施形態において、媒体は、水分を含む媒体であってよい。水分を含む媒体は、水溶液又は水蒸気であってよい。水分を含む媒体は、酸性又は塩基性の媒体であってよい。酸性の媒体は、酸性を呈していればよく、例えば、pHが7未満の酸性水溶液又は酸性水蒸気であってよく、分子鎖の加水分解及び副反応の抑制の観点から、pHが1以上の酸性水溶液又は酸性水蒸気が好ましい。塩基性の媒体は、塩基性を呈していればよく、例えば、pHが7より大きい塩基性水溶液又は塩基性水蒸気であってよく、分子鎖の加水分解及び副反応の抑制の観点から、pHが12以下の塩基性水溶液又は塩基性水蒸気が好ましい。
本実施形態において、水分を含む媒体の温度は、40℃以上180℃以下である。水分を含む媒体の温度は、例えば、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、85℃以上、90℃以上又は95℃以上であってよい。水分を含む媒体の温度は、好ましくは沸点以下である。
本実施形態において、加水分解を実施する方法として、例えば、原料組成物(例えば、原料繊維)を、酸性又は塩基性の水溶液に接触させる方法を挙げることができる。このとき、酸性物質又は塩基性物質の量は、タンパク質溶液全量に対して0.1質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましい。
加水分解に使用できる酸性物質は、特に限定されず、無機酸又は有機酸のいずれであってもよい。無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸及びホウ酸等が挙げられる。有機酸としては、例えば、カルボン酸及びスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、イソ酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、安息香酸等のモノカルボン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸及びセロプラスチン酸等の飽和脂肪族カルボン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、プロピオール酸及びステアロール酸等の不飽和脂肪族カルボン酸、並びにシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカニン酸、ブラシリン酸、マレイン酸、フマール酸及びグルタコン酸等のジカルボン酸が挙げられる。カルボン酸は、酸無水物又は酸塩化物の形態をとっていてもよい。スルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸等が挙げられる。
加水分解に使用できる塩基性物質は、水に可溶であれば特に限定されず、無機塩基又は有機塩基のいずれであってもよい。無機塩基は、水に可溶であれば特に限定されない。無機塩基としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸ナトリウム等が挙げられる。有機塩基としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン、アミノエタノール、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール及びジエタノールアミン等の1級〜3級のアミンが挙げられる。
エステル基の加水分解は平衡反応である。エステル基が解離する際に生じる酸と同種の酸を、加水分解に必要とする酸として使用することもできるが、このような酸を使用しないことが好ましい。
本実施形態において、加水分解は、酸性条件又は塩基性条件で進行する。pHは、1〜6の酸性条件又は8〜14の塩基性条件が好ましく、使用する酸性物質又は塩基性物質によって調整することができる。
本実施形態において、塩基性水溶液を使用する場合、pHは、後述する理由から、8より大きいことが好ましく、12以下が好ましい。
塩基性水溶液を使用する場合、加水分解によりカルボン酸が解離した後、カルボン酸アニオンを形成する。このとき、求電子性を失うため、逆反応が起こりにくくなる。塩基性水溶液のpHは、加熱しなくても高い反応性を示す観点から、8〜14が好ましく、加水分解の反応速度の観点から、pHは8より大きいことがより好ましい。
エステル基の加水分解は、酸性又は塩基性の水溶液中で速やかに進行するため、反応時間に制限はないが、エステル基を充分に除去する観点から、1分超が好ましい。
本実施形態において、加水分解を実施する温度は、例えば、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、85℃以上、90℃以上又は95℃以上であってよい。加水分解を実施する温度は、例えば180℃以下であってよく、好ましくは沸点以下である。
本実施形態において、水分を含む媒体への接触時間は、例えば、5分以上、10分以上、20分以上又は30分以上であってよい。水分を含む媒体への接触時間は、90分以下、60分以下又は40分以下であってよい。
本実施形態において、加水分解に用いた水溶液から取り出したタンパク質組成物(例えば、タンパク質繊維)上に、酸性物質又は塩基性物質が残存し、当該酸性物質又は塩基性物質が分子鎖の断裂を引き起こすことがある。このような分子鎖の断裂を防止することを目的として、タンパク質組成物(例えば、タンパク質繊維)の製造方法は、残存した酸性物質又は塩基性物質を除去する工程をさらに備えてもよい。残存した酸性物質又は塩基性物質を除去する工程としては、例えば、当該タンパク質組成物(例えば、タンパク質繊維)を水で洗浄する工程、当該タンパク質組成物(例えば、タンパク質繊維)を中和する工程等が挙げられる。
本実施形態において、タンパク質組成物がタンパク質繊維である場合、加水分解工程で得られるタンパク質繊維は、下記式(1)で定義される収縮率が−5%〜+5%であってよい。下記式(1)で定義される収縮率の詳細は後述する。
式(1):収縮率={1−(湿潤状態から乾燥させた際のタンパク質繊維の長さ/湿潤状態にする前のタンパク質繊維の長さ)}×100[%]
[収縮工程]
本実施形態に係る製造方法は、上記加水分解工程の前及び/又は後に、原料組成物(例えば、原料繊維)を不可逆的に収縮させる工程(以下、「収縮工程」ともいう)を更に備えていてもよいが、加水分解工程を経ることで、同時に原料組成物(例えば、原料繊維)の収縮(防縮)処理を兼ねることができるため、上記収縮工程の一方又は両方を省略することも可能である。収縮工程では、原料組成物(例えば、原料繊維)を水分と接触させることで原料組成物を不可逆的に収縮させてもよく、又は原料組成物(例えば、原料繊維)を加熱弛緩させることで原料組成物を不可逆的に収縮させてもよい。水分と接触させることで原料組成物(例えば、原料繊維)を不可逆的に収縮させる場合は、不可逆的に収縮させた組成物を乾燥させて更に収縮させてもよい。
(水分との接触による収縮工程(接触工程))
本実施形態に係る原料繊維(タンパク質を含む繊維)は、沸点未満の水分に接触(湿潤)させることにより収縮する特性を有する。したがって、収縮工程において、原料繊維を水分と接触させることで、不可逆的に収縮された収縮履歴を有するタンパク質繊維を得ることができる。原料繊維を水分と接触させることによって不可逆的に収縮させる工程を、以下「接触工程」と称する。
接触工程での原料繊維(タンパク質を含む繊維)の不可逆的な収縮は、例えば、以下の理由により生ずると考えられる。すなわち、一つの理由は、原料繊維(タンパク質を含む繊維)の一次構造に起因すると考えられ、また別の一つの理由は、例えば、製造工程での延伸等によって残留応力を有する原料繊維(タンパク質を含む繊維)において、水が繊維間又は繊維内へ浸入することにより、残留応力が緩和されることで生ずると考えられる。
接触工程では、紡糸後、水分と接触する前の原料繊維を水分と接触させて、原料繊維を湿潤状態にする。湿潤状態とは、原料繊維の少なくとも一部が水で濡れた状態を意味する。これにより、外力によらずに原料繊維を収縮させることができる。この収縮は不可逆的なものである。
接触工程で原料繊維に接触させる水の温度は、沸点未満であってよい。これにより、取扱い性及び収縮工程の作業性等が向上する。また、収縮時間を充分に短縮するという観点からは、水の温度の下限値が、10℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましく、80℃以上であることが更に好ましく、90℃以上であることが特に好ましい。水の温度の上限値は沸点以下であることが好ましい。
接触工程において、水を原料繊維に接触させる方法は、特に限定されない。当該方法として、例えば、原料繊維を水中に浸漬する方法、原料繊維に対して水を常温で又は加温したスチーム等の状態で噴霧する方法、及び原料繊維を水蒸気が充満した高湿度環境下に暴露する方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、接触工程においては、収縮時間の短縮化が効果的に図れるとともに、加工設備の簡素化等が実現できることから、原料繊維を水中に浸漬する方法が好ましい。
接触工程において、原料繊維を弛緩させた状態で水分に接触させると、原料繊維が、単に収縮するだけでなく、波打つように縮れてしまうことがある。このような縮れの発生を防止するために、例えば、張力がかからない程度に原料繊維を繊維軸方向に引っ張りながら水分と接触させるなど、原料繊維を弛緩させない状態で接触工程を実施してもよい。
(乾燥工程)
本実施形態に係る製造方法は、乾燥工程を更に備えるものであってもよい。乾燥工程は、接触工程を経た原料繊維(又は接触工程を経て得られたタンパク質繊維)を乾燥させる工程である。乾燥は、例えば、自然乾燥でもよく、乾燥設備を使用して強制的に乾燥させてもよい。乾燥設備としては、接触型又は非接触型の公知の乾燥設備がいずれも使用可能である。また、乾燥温度も、例えば、原料繊維に含まれるタンパク質が分解したり、原料繊維が熱的損傷を受けたりする温度よりも低い温度であれが何ら限定されるものではないが、一般には、20〜150℃の範囲内の温度であり、50〜100℃の範囲内の温度であることが好ましい。温度がこの範囲にあることにより、繊維の熱的損傷、又は繊維に含まれるタンパク質の分解が生ずることなく、繊維が、より迅速且つ効率的に乾燥される。乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜に設定され、例えば、過乾燥によるタンパク質繊維の品質及び物性等への影響が可及的に排除され得る時間等が採用される。
図5は、タンパク質繊維を製造するための製造装置の一例を概略的に示す説明図である。図5に示す製造装置40は、原料繊維を送り出すフィードローラ42と、タンパク質繊維38を巻き取るワインダー44と、接触工程を実施するウォーターバス46と、乾燥工程を実施する乾燥機48と、を有して構成されている。
より詳細には、フィードローラ42は、原料繊維36の巻回物が装着可能とされており、図示しない電動モータ等の回転によって、原料繊維36の巻回物から原料繊維36を連続的且つ自動的に送り出し得るようになっている。ワインダー44は、フィードローラ42から送り出された後、接触工程と乾燥工程を経て製造されたタンパク質繊維38を、図示しない電動モータの回転によって連続的且つ自動的に巻き取り得るようになっている。なお、ここでは、フィードローラ42による原料繊維36の送出し速度と、ワインダー44によるタンパク質繊維38の巻き取り速度とが、互いに独立して制御可能とされている。
ウォーターバス46と乾燥機48は、フィードローラ42とワインダー44との間に、原料繊維36の送り方向の上流側と下流側にそれぞれ並んで配置されている。なお、図5に示す製造装置40は、フィードローラ42からワインダー44に向かって走行する接触工程前及び後の原料繊維36を中継するリレーローラ50及び52を有している。
ウォーターバス46はヒータ54を有し、このヒータ54にて加温された水47が、ウォーターバス46内に収容されている。また、ウォーターバス46内には、テンションローラ56が、水47中に浸漬された状態で設置されている。これにより、フィードローラ42から送り出された原料繊維36が、ウォーターバス46内を、テンションローラ56に巻き掛けられた状態で水47中に浸漬されつつ、ワインダー44側に向かって走行するようになっている。なお、原料繊維36の水47中への浸漬時間は、原料繊維36の走行速度に応じて適宜にコントロールされる。
乾燥機48は、一対のホットローラ58を有している。一対のホットローラ58は、ウォーターバス46内から離脱してワインダー44側に向かって走行する原料繊維36が巻き掛け可能とされている。これにより、ウォーターバス46内で水47に浸漬された原料繊維36が、乾燥機48内で一対のホットローラ58にて加熱され、乾燥させられた後、ワインダー44に向かって更に送り出されるようになっている。
このような構造を有する製造装置40を用いて、タンパク質繊維38を製造する際には、先ず、例えば、図4に示された紡糸装置10を用いて紡糸された原料繊維36の巻回物をフィードローラ42に装着する。次に、フィードローラ42から原料繊維36を連続的に送り出して、ウォーターバス46内で水47に浸漬させる。このとき、例えば、ワインダー44の巻き取り速度をフィードローラ42の送り出し速度よりも遅くしておく。これにより、原料繊維36が、フィードローラ42とワインダー44との間で弛緩しない状態で、水47との接触により収縮するため、縮れの発生を防止することができる。水47との接触により原料繊維36は不可逆的に収縮する。
次に、水47と接触した後の原料繊維36(又は水47との接触を経て製造されたタンパク質繊維38)を、乾燥機48の一対のホットローラ58により加熱する。これにより、水47と接触した後の原料繊維36(又は水47との接触を経て製造されたタンパク質繊維38)を乾燥させ、更に収縮させることができる。このとき、タンパク質繊維38の長さが変化しないよう、フィードローラ42の送出し速度とワインダー44の巻き取り速度との比率をコントロールすることもできる。そして、得られたタンパク質繊維38をワインダー44にて巻き取って、タンパク質繊維38の巻回物を得る。
なお、一対のホットローラ58に代えて、図6(b)に示されるような乾熱板64等、単なる熱源のみからなる乾燥設備を用いて水47と接触した後の原料繊維36を乾燥させてもよい。この場合にも、フィードローラ42の送出し速度とワインダー44の巻き取り速度との互いの相対速度を、乾燥設備として一対のホットローラ58を使用する場合と同様に調節することにより、タンパク質繊維の長さを変化させないこともできる。ここでは、乾燥手段が乾熱板64にて構成されることとなる。また、乾燥機48は必須ではない。
上述のように、製造装置40を用いることによって、目的とするタンパク質繊維38を自動的且つ連続的に、しかも極めて容易に製造することができる。
図6は、タンパク質繊維を製造するための製造装置の別の例を概略的に示す説明図である。図6(a)は、当該製造装置に備わる、接触工程を実施する加工装置を示し、図6(b)は、当該製造装置に備わる、乾燥工程を実施する乾燥装置を示す。図7に示される製造装置は、原料繊維36に対する接触工程を実施する加工装置60と、接触工程後の原料繊維36(又は接触工程を経て製造されたタンパク質繊維38)を乾燥させる乾燥装置62とを有し、それらが互いに独立した構造とされている。
より具体的には、図6(a)に示す加工装置60は、フィードローラ42とウォーターバス46とワインダー44とを、原料繊維36の走行方向の上流から下流側に向かって順に並べて配置してなる構造を有している。このような加工装置60は、フィードローラ42から送り出された原料繊維36を、ウォーターバス46内の水47中に浸漬させて、収縮させるようになっている。そして、得られたタンパク質繊維38をワインダー44にて巻き取るように構成されている。このとき、例えば、ワインダー44の巻き取り速度をフィードローラ42の送り出し速度よりも遅くしておく。これにより、原料繊維36が、フィードローラ42とワインダー44との間で弛緩した状態で、水47との接触により収縮するため、繊維に張力がかかるのを防止することができる。水47との接触により原料繊維36は不可逆的に収縮する。
図6(b)に示す乾燥装置62は、フィードローラ42及びワインダー44と、乾熱板64とを有している。乾熱板64は、フィードローラ42とワインダー44との間に、乾熱面66が、タンパク質繊維38に接触し、且つその走行方向に沿って伸びるように配置されている。この乾燥装置62では、前述したように、例えば、フィードローラ42の送り出し速度とワインダー44の巻き取り速度との比率をコントロールすることで、タンパク質繊維38の長さを変化させないこともできる。
このような構造を有する製造装置を用いることによって、原料繊維36を加工装置60により収縮させてタンパク質繊維38を得た後、乾燥装置62にてタンパク質繊維38を乾燥させることができる。
なお、図6(a)に示された加工装置60からフィードローラ42とワインダー44とを省略して、ウォーターバス46のみで加工装置を構成してもよい。このような加工装置を有する製造装置を用いる場合には、例えば、タンパク質繊維が、いわゆるバッチ式で製造されることとなる。また、図6(b)に示す乾燥装置62は必須ではない。
(加熱弛緩による収縮工程)
原料繊維を不可逆的に収縮させる収縮工程を、原料繊維を加熱弛緩させることによって行ってもよい。原料繊維の加熱弛緩は、原料繊維を加熱し、加熱された状態にある原料繊維を弛緩させて収縮させることによりおこなうことができる。以下、原料繊維の加熱弛緩による収縮において、原料繊維を加熱する工程を「加熱工程」と称し、加熱された状体にある原料繊維を弛緩して収縮させる工程を「弛緩収縮工程」と称する。加熱工程及び弛緩収縮工程は、例えば、図7及び図8に示す高温加熱弛緩装置140によっておこなうことができる。
(加熱工程)
加熱工程では、原料繊維36の加熱温度が、原料繊維36に用いられるタンパク質の軟化温度以上であることが好ましい。本明細書におけるタンパク質の軟化温度とは、原料繊維36の応力緩和による収縮が開始される温度である。タンパク質の軟化温度以上での加熱弛緩収縮では、単に繊維中の水分が離脱するだけでは得られない程度まで繊維が収縮し、その結果、紡糸過程での延伸により生じた繊維中の残留応力を除去することができる。
上記の軟化温度に対応する温度として、例えば、180℃が挙げられる。180℃以上の高温度範囲で加熱弛緩収縮を実施した場合、弛緩倍率が大きい程、或いは温度が高い程、より効率的に原料繊維中の残留応力を除去することができる。したがって、原料繊維36の加熱温度は、好ましくは180℃以上であり、より好ましくは180℃〜280℃であり、更により好ましくは200℃〜240℃であり、特に好ましくは220℃〜240℃である。
加熱工程における加熱時間、すなわち高温加熱炉143内での滞在時間は、加熱処理後の繊維の伸度を損なわないという観点から、好ましくは60秒以下、より好ましくは30秒以下、更に好ましくは5秒以下である。この加熱時間の長さは、応力には大きな影響を与えないと考えられる。なお、加熱温度200℃で加熱時間が5秒以下であると、加熱処理後の繊維の伸度の低下を防ぐことができる。
(弛緩収縮工程)
弛緩収縮工程では、弛緩倍率は、好ましくは1倍超であり、より好ましくは1.4倍以上であり、更により好ましくは1.7倍以上であり、特に好ましくは2倍以上である。弛緩倍率とは、原料繊維36の巻き取り速度に対する送出し速度の比率であり、より具体的には、巻き取りローラ142による巻き取り速度に対する、送出しローラ141による送出し速度の比率である。
高温加熱弛緩装置140を用いた加熱弛緩方法では、原料繊維36が加熱された状態で弛緩可能であれば、加熱工程と弛緩収縮工程とを別個に行ってもよい。すなわち、加熱装置を、弛緩装置とは分離し独立した装置としてもよい。その場合に、加熱工程の後に弛緩収縮工程が行われるよう、加熱装置の後段(原料繊維36の走行方向における下流側)に弛緩装置が設けられる。
なお、原料繊維の製造工程とは別で、原料繊維に対する加熱弛緩工程を実施してもよい。すなわち、紡糸装置25とは別個の独立した装置として高温加熱弛緩装置140と同様の装置を設けてもよい。別個に製造された原料繊維36を送出しローラにセットし、そこから送り出す方式を採ってもよい。加熱弛緩工程は、原料繊維の1本に対して行ってもよく、或いは束ねられた複数本に対して行ってもよい。
(架橋工程)
上述のようにして得られた、不可逆的に収縮された収縮履歴を有するタンパク質繊維に対して、あるいは不可逆的に収縮する前の原料繊維に対して、繊維内のポリペプチド分子間で化学的に架橋させる架橋工程をさらにおこなってもよい。架橋させることができる官能基は、例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基及びヒドロキシ基等が挙げられる。例えば、ポリペプチドに含まれるリジン側鎖のアミノ基は、グルタミン酸又はアスパラギン酸側鎖のカルボキシル基と脱水縮合によりアミド結合で架橋できる。真空加熱下で脱水縮合反応を行なうことにより架橋してもよいし、カルボジイミド等の脱水縮合剤により架橋させてもよい。
ポリペプチド分子間の架橋は、カルボジイミド、グルタルアルデヒド等の架橋剤を用いて行ってもよく、トランスグルタミナーゼ等の酵素を用いて行ってもよい。カルボジイミドは、一般式R1N=C=NR2(但し、R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、シクロアルキル基を含む有機基を示す。)で示される化合物である。カルボジイミドの具体例として、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)等が挙げられる。これらの中でも、EDC及びDICはポリペプチド分子間のアミド結合形成能が高く、架橋反応し易いことから好ましい。
架橋処理は、繊維に架橋剤を付与して真空加熱乾燥で架橋するのが好ましい。架橋剤は純品を繊維に付与してもよいし、炭素数1〜5の低級アルコール及び緩衝液等で0.005〜10質量%の濃度に希釈したものを繊維に付与してもよい。架橋処理は、温度20〜45℃で3〜42時間行うのが好ましい。架橋処理により、繊維に更に高い応力(強度)を付与することができる。
本実施形態において、タンパク質組成物の製造方法は、原料組成物が繊維であり、媒体が水溶液であり、繊維を水溶液に接触させて捲縮させる捲縮工程をさらに備えていてもよい。捲縮工程を備えていると、繊維と水分との接触により、エステル基の除去と繊維の捲縮とを同時に実施することができる。
本実施形態において、タンパク質組成物の製造方法は、原料組成物が繊維であり、媒体が水溶液であり、繊維を水溶液に接触させて防縮させる防縮工程をさらに備えていてもよい。一度水分との接触により縮んだ繊維は、水分と接触していない繊維と比べて、水分と接触する際の収縮の程度が抑えられる。すなわち、防縮工程を備えていると、繊維と水分との接触により、エステル基の除去と繊維の防縮とを同時に実施することができる。
他の一実施形態に係るタンパク質組成物の製造方法は、エステル化されたタンパク質と、酸又は塩基とを含む原料組成物を、水蒸気に接触させて、エステル基を加水分解する工程を備える。
〔タンパク質組成物〕
本実施形態に係るタンパク質組成物は、タンパク質を含み、エステル基の加水分解履歴を有する。タンパク質は、構造タンパク質であることが好ましい。タンパク質組成物は、繊維(タンパク質繊維)、フィルム(タンパク質フィルム)、モールド成形体(タンパク質モールド成形体)、ゲル(タンパク質ゲル)、多孔質体(タンパク質多孔質体)、パーティクル(タンパク質パーティクル等)であってよい。
加水分解履歴は、酸性又は塩基性の、水分を含む媒体に接触させることでエステル基を加水分解させた履歴であることが好ましい。
本実施形態において、水分を含む媒体の温度は、例えば、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、85℃以上、90℃以上又は95℃以上であってよい。水分を含む媒体の温度は、例えば180℃以下であってよく、好ましくは沸点以下である。
本実施形態において、エステル基は、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル等に含まれてよく、ギ酸エステルに含まれることが好ましい。
タンパク質組成物は、不可逆的に収縮された収縮履歴を更に有していてよい。なお、タンパク質組成物(例えば、タンパク質繊維)の「不可逆的な収縮」は、紡糸後、初めて水分と接触した際の収縮を意味し、エステル基の加水分解処理時の水分との接触による収縮(防縮)に相当する。
<収縮率>
タンパク質組成物がタンパク質繊維である場合、タンパク質繊維は、下記式(1)で定義される収縮率が−5%〜+5%であることが好ましい。
式(1):収縮率[%]={1−(湿潤状態から乾燥させた際のタンパク質繊維の長さ/湿潤状態にする前のタンパク質繊維の長さ)}×100
繊維の水分との接触による収縮性は、例えば、上記式(1)で求められる収縮率を指標として評価することができる。「湿潤状態にする前のタンパク質繊維の長さ」及び「湿潤状態から乾燥させた際のタンパク質繊維の長さ」は、例えば、以下の方法により測定することができる。
長さ約30cmの複数本のタンパク質繊維を束ね、繊度150デニールの繊維束とする。この長さを「湿潤状態にする前のタンパク質繊維の長さ」とすることができる。この繊維束を40℃の水に15分間浸漬(湿潤)し、室温で2時間おいて乾燥させる。乾燥後、繊維束の長さを測定する。乾燥時の長さを「湿潤状態から乾燥した際のタンパク質繊維の長さ」とすることができる。
タンパク質繊維において、このような収縮が少ない程好ましいが、特にタンパク質繊維からなる織物等の製品においては、この収縮が少ないことが好ましい。
式(1)で定義される収縮率は、例えば、−4.5%〜+4.5%、−4%〜+4%、−3.5%〜+3.5%、−3%〜+3%、−2%〜+2%、−1%〜+1%、0%〜+5%、0%〜+4%、0%〜+3%、0%〜+2%、又は0%〜+1%であってよい。
タンパク質繊維は、紡糸口金の形状によって、断面形状として種々の形状をとりうるが、タンパク質繊維の断面形状は円形または楕円形であってもよい。
タンパク質繊維は、マット調の外観を有してもよく、光沢調の外観を有していてもよい。紡糸工程での脱溶媒速度及び/又は凝固速度を適宜調節することで、繊維の外観の光沢度を調節することができる。なお、本明細書において「マット調の外観」とは、外観が低光沢であることをいう。
また、タンパク質繊維の繊維径の下限値は、特に限定されず、10μm以上であってよく、15μm以上であってよく、20μm以上であってよく、25μm以上であってよく、28μm以上であってよく、30μm以上であってよく、32μm以上であってよく、33μm以上であってよく、33μm超であってよく、34μm以上であってよく、35μm以上であってよく、36μm以上であってよく、38μm以上であってよく、又は40μm以上であってよい。10μm以上とすることで、生産性をより高めることができる。
タンパク質繊維の繊維径の上限値は、特に限定されず、120μm以下であってよい。タンパク質繊維の繊維径は、10μm〜120μmであってよく、12μm〜40μmであってよく、10μm〜40μmであってよく、12μm〜30μmであってよく、10μm〜30μmであってよく、10μm〜20μmであってよく、12μm〜20μmであってよく、20μm〜30μmであってよく、25μm超〜120μmであってよく、30μm〜120μmであってよく、33μm超〜120μmであってよく、34μm以上〜120μmであってよく、35μm〜120μmであってよく、40μm〜120μmであってよく、45μm〜120μmであってよく、48μm〜120μmであってよく、50μm〜120μmであってよく、55μm〜120μmであってよく、60μm〜120μmであってよく、65μm〜120μmであってよく、55μm〜100μmであってよく、55μm〜80μmであってよく、又は60μm〜80μmであってよい。繊維径を10μm以上とすることで、生産性をより高めることができる。繊維径を120μm以下とすることで、エステル基の加水分解反応速度をより高めることができる。
本実施形態に係るタンパク質繊維は、原料繊維を不可逆的に収縮させる収縮工程の前後で、繊維径の変化が少ないことが好ましい。具体的には、不可逆的に収縮される前の原料繊維の繊維径に対して、タンパク質繊維が±20%未満の繊維径を有することが好ましい。原料繊維の繊維径に対して、タンパク質繊維の繊維径が、±20%未満であることが好ましいが、±19%以下であってよく、±18%以下であってよく、±17%以下であってよく、±16%以下であってよく、±15%以下であってよく、±15%未満であってよく、±12%以下であってよく、±10%以下であってよく、±10%未満であってよく、±5%以下であってよく、±5%未満であってよく、±4%以下であってよく、±4%未満であってよく、±3%以下であってよく、±3%未満であってよく、±2%以下であってよく、±2%未満であってよく、±1%以下であってよく、±1%未満であってよく、±0.9%以下であってよく、±0.8%以下であってよく、±0.7%以下であってよく、±0.7%以下であってよく、±0.6%以下であってよく、±0.5%以下であってよく、±0.5%未満であってよく、±0.45%以下であってよい。なお、上記値は、(タンパク質繊維の繊維径−原料繊維の繊維径)/原料繊維の繊維径×100%という計算式で求めることができる。
〔エステル基除去方法〕
本実施形態に係るエステル基除去方法は、エステル化されたタンパク質(エステル基を有するタンパク質)を含む原料組成物を、酸性又は塩基性の、水分を含む媒体に接触させる工程を備える。
本実施形態において、タンパク質及び原料組成物は、上述のタンパク質組成物の製造方法で説明したものと同様の態様を適用できる。
本実施形態において、上記工程で得られるタンパク質組成物(例えば、タンパク質繊維)は、下記式(1)で定義される収縮率が−5%〜+5%であってよい。下記式(1)で定義される収縮率は、上述のタンパク質組成物で説明したものと同様の態様を適用できる。
式(1):収縮率={1−(湿潤状態から乾燥させた際のタンパク質繊維の長さ/湿潤状態にする前のタンパク質繊維の長さ)}×100[%]
本実施形態において、水分を含む媒体の温度及び性質、並びに水分を含む媒体への接触時間は、上述のタンパク質組成物の製造方法で説明したものと同様の態様を適用できる。
〔製品〕
本実施形態に係るタンパク質組成物(例えば、タンパク質繊維)は、各種製品に応用できる。製品としては、例えば、繊維、糸、布帛、編み物、組み物、不織布、紙、綿、及び衣料製品を挙げることができる。繊維としては、例えば、長繊維、短繊維、モノフィラメント、又はマルチフィラメント等を挙げることができ、糸としては、紡績糸、撚糸、仮撚糸、加工糸、混繊糸、又は混紡糸等を挙げることができる。さらに、これらの繊維や糸から、織物等の布帛、編み物、組み物、若しくは不織布等、紙及び綿等を製造することができる。これらの製品は、公知の方法により製造することができる。また、ロープ、手術用縫合糸、電気部品用の可撓性止め具、さらには移植用生理活性材料(例えば、人工靭帯及び大動脈バンド)等の高強度用途にも応用できる本実施形態に係るタンパク質組成物は、糸(紡績糸、撚糸、仮撚糸、加工糸、混繊糸、又は混紡糸等)、織物(布帛)、編み物、組み物、不織布、紙及び綿等に応用できる。また、ロープ、手術用縫合糸、電気部品用の可撓性止め具、さらには移植用生理活性材料(例えば、人工靭帯及び大動脈バンド)等の高強度用途にも応用できる。これらは、公知の方法に準じて製造することができる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
〔試験例1〕
(1)目的とするタンパク質発現株(組換え細胞)の作製
配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する改変クモ糸フィブロイン(PRT799)をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。
上記核酸をそれぞれクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET−22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。当該核酸をそれぞれ組換えたpET−22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換して、目的とするタンパク質を発現する形質転換大腸菌(組換え細胞)を得た。
(2)目的とするタンパク質の発現
上記形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD
600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD
600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
500mLの生産培地(表5)を添加したジャーファーメンターにOD
600が0.05となるように当該シード培養液を添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、酵母エキス 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持し、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的のタンパク質を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS−PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とするタンパク質サイズのバンドの出現により、目的とするタンパク質が不溶体として発現されていることを確認した。
(3)タンパク質の精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris−HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8Mグアニジン塩酸塩、10mMリン酸二水素ナトリウム、20mMNaCl、1mMTris−HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥した粉末状のタンパク質を回収した。
(4)タンパク質繊維の成形
改変クモ糸フィブロインの乾燥粉末をギ酸に溶解させてドープ液を得た(ドープ液中のタンパク質濃度:25質量%)。公知の紡糸装置を使用し、ギアポンプでドープ液を、凝固液(メタノール)へ吐出させた。紡糸条件は下記に示すとおりとした。これにより、タンパク質繊維(フィブロイン繊維)を得た。
(紡糸条件)
ドープ液温度:25℃
ホットローラー温度:60℃
(5)加水分解処理
以下のi〜ivの工程で加水分解処理を行った。
i.酸性又は塩基性水溶液にタンパク質繊維を種々の時間、浸漬撹拌した。
ii.タンパク質繊維に対して過剰量の純水中に浸漬し、2分間撹拌した。
iii.純水を入れ替えて、iiの操作をさらに2回実施した。
iv.タンパク質繊維を室温で風乾した。
なお、各実施例、比較例で用いた酸性又は塩基性水溶液のpH、反応時間は表6のとおりである。
(6)FT−IRによるギ酸エステル基の減少挙動の確認
加水分解処理し、乾燥させた各繊維をFT−IR顕微透過法で測定し、ギ酸エステル基の減少挙動を確認した。各pH条件で処理したそれぞれの試料について、ピークの高さの比P1/P2を求め記録した。このとき、(P1/P2)≦0.01を除去完了の判定基準とした。結果を、表6に示す。なお、P1、P2は次の波数に相当するピーク高さであり、吸光度比P1/P2の値が小さいほど、構造上のエステル基の数が少ないことを意味する。
P1:1725cm−1(エステルのC=Oに基づくピーク)のピーク高さ
P2:1445cm−1(タンパク質のアミドIIIに基づくピーク)のピーク高さ
(7)伸度の維持率
加水分解処理し、乾燥させた各繊維をつかみ治具間距離20mmの試験紙片に接着剤で固定し、温度20℃、相対湿度65%の条件で、インストロン社製引張試験機3342を用いて、引張速度10cm/分で応力(強度)及び伸度測定を行った。ロードセルは容量10N、つかみ冶具はクリップ式とした。酸性又は塩基性水溶液で処理したタンパク質繊維の伸度、及びpH=7の水で処理したタンパク質繊維の伸度を測定し、次式から伸度の維持率を算出した。結果を表6に示す。
[伸度の維持率]=[酸性又は塩基性水溶液で処理したタンパク質繊維の伸度]÷[pH=7の水で処理したタンパク質繊維の伸度]×100
酸性又は塩基性水溶液で処理したタンパク質繊維では、ギ酸エステル吸光度比が減少した。この結果から、酸性又は塩基性水溶液で処理することで、タンパク質繊維に含まれるエステル基が加水分解され、エステル基が除去されたことが示された。また酸性又は塩基性水溶液のpHが11以下(12未満)であると、処理後のタンパク質繊維の伸度も維持されていた。
(8)捲縮性の評価
実施例1−2の条件(pH及び浸漬時間)でタンパク質繊維の加水分解処理を行い、加水分解処理前のタンパク質繊維と加水分解処理後のタンパク質繊維とで、捲縮状態を比較した。捲縮状態の比較は、各タンパク質繊維を定規で測定することにより行った。結果を図9に示す。
図9(A)及び(C)は、加水分解処理前(捲縮前)のタンパク質繊維の写真である。図9(B)及び(D)は、加水分解処理後(捲縮後)のタンパク質繊維の写真である。加水分解処理前に300mmであったタンパク質繊維は、加水分解処理後に200mmとなった(図9(C)及び(D))。また、図9(A)及び(B)も併せると、加水分解処理後のタンパク質繊維は、加水分解処理前と比べて捲縮されていることが分かる。
(9)防縮性の評価
上記加水分解処理後のタンパク質繊維(200mm)をさらに水に浸漬させても、それ以上収縮しなかった。
一方、比較例1−1として加水分解処理前のタンパク質(300nm)を水に浸漬させたところ、200mmとなった。したがって、加水分解処理後のタンパク質繊維は、加水分解処理前のタンパク質繊維と比べて防縮されていることが分かる。
(10)水蒸気による加水分解
湿度80%、60℃の条件下、タンパク質繊維を静置し、FT−IR(NICOLET社製、FT−IR iS50)を用いて、1日ごとの吸光度比P1/P2を測定した。結果を表7に示す。
図10は、表7のデータを、吸光度比P1/P2を縦軸、処理時間(単位は日)を横軸としてプロットした図である。
表7及び図10に示すとおり、タンパク質繊維を水分に接触させると、吸光度比P1/P2が減少した。この結果から、水分との接触により、残存するギ酸を触媒としてエステル加水分解反応が進み、タンパク質繊維に付加されたエステル基が減少することが示された。
〔試験例2〕
(1)発現ベクターの作製
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号40を有するクモ糸フィブロイン(以下、「PRT966」ともいう。)を設計した。なお、なお、配列番号40で示されるアミノ酸配列は、疎水度の向上を目的として、配列番号7で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域を2回繰り返した配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換した配列を有し、さらにN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されている。
次に、設計したタンパク質(クモ糸フィブロイン)をコードする核酸を合成し、試験例1と同様の方法により、目的とするタンパク質を発現する形質転換大腸菌(組換え細胞)を得た。
(2)タンパク質の発現
上記形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表8)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
当該シード培養液を500mLの生産培地(試験例1の表5)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、改変フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS−PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする組み換えタンパク質のバンドの出現により、目的とするタンパク質(クモ糸フィブロイン)の発現を確認した。
(3)タンパク質の精製
試験例1と同様の方法により、タンパク質を精製し、凍結乾燥した粉末状のタンパク質(クモ糸フィブロインの乾燥粉末)を回収した。
(4)原料繊維の製造
クモ糸フィブロインの乾燥粉末をギ酸に溶解させ、目開き1μmの金属フィルターでろ過し、ドープ液を得た(ドープ液中のタンパク質濃度:30質量%)。公知の紡糸装置を使用し、ギアポンプでドープ液を、凝固液へ吐出させた。紡糸条件は下記に示すとおりとした 。これにより、原料繊維(原料クモ糸フィブロイン繊維)を得た。
(紡糸条件)
ノズル孔径:0.1mm
凝固液:メタノール
凝固液の温度:25℃
水洗浄浴の温度:25℃
ホットローラー温度:60℃
(5)原料繊維のエステル加水分解処理(タンパク質繊維の製造)
(4)で得られた原料繊維200gを綛(カセ)状にし、公知の綛処理機を用いて、加水分解処理を以下の工程[i]〜[x]で行なった。表9に工程[iii]における処理時間と処理温度と処理媒体とを示した。工程[v]は、処理媒体に塩基性媒体を用いた場合に行う中和処理工程である。工程[vii]及び[viii]は、必要に応じて適宜行えばよい。また、表9の処理媒体中の油剤除去剤は、繊維表面に付着した油剤を除去する目的で添加したものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。
[i]綛を綛処理機にセットした。
[ii]水道水で綛を洗浄した。
[iii]表9の処理媒体中に綛を含浸攪拌した。処理時間は表9に示したとおりとした。
[iv]水道水に入れ替え、綛を洗浄した。
[v]濃度1%酢酸水溶液中で、綛を中和処理した。
[vi]水道水に入れ替え、綛を洗浄した。
[vii]柔軟剤水溶液中で、綛を含浸攪拌した。
[viii]水道水に入れ替え、綛を洗浄した。
[ix]綛を脱水した。
[x]綛を50〜60℃で2時間風乾した。
(6)FT−IRによるエステル基の除去評価
(5)で得られた各繊維を、フーリエ変換赤外分光光度計を用いたATR法(全反射法)で測定し、ギ酸エステル基の除去評価を行なった。各繊維(実施例2−1〜2−3及び比較例2−1〜2−3)について、IRスペクトルから波数1730cm−1(エステル基のC=Oに帰属されるピーク)のピーク高さを確認し、ピークの検出有無を評価した(図11)。ピークが検出されない場合、ギ酸エステル基が除去されたものと判断した。
(7)伸度の評価
(5)で得られた各繊維をつかみ治具間距離20mmの試験紙片に接着剤で固定し、温度20℃、相対湿度65%の条件で、インストロン社製引張試験機3342を用いて、引張速度10cm/分で伸度測定を行った(表9)。ロードセルは容量10N、つかみ冶具はクリップ式とした。
表9に示したとおり、原料繊維を塩基性の水分を含む媒体(塩基性水溶液)で処理した場合にのみ、ギ酸エステル基の加水分解反応を進行させ、繊維中のギ酸エステル基が除去されることが確認された(実施例2−1〜2−3)。さらに、処理温度を高温(90℃〜98℃、実施例2−2及び2−3)とすることで、より短時間でギ酸エステル基を加水分解し除去が可能であることが示された。加水分解処理を綛状で実施することにより、加水分解工程の生産性を格段に向上させることができた。また、加水分解処理により、伸度が低下しないことも確認された。
(8)水分に対する収縮性の評価
(5)で得られたエステル加水分解処理後のタンパク質繊維の水分に対する収縮性(寸法安定性)を以下の手順で評価した。水分に対する収縮性は、収縮率として下記式(1)で算出して評価した。算出後の値を表10に示した。比較用として、上記と同様にしてエステル加水分解処理を行なっていない繊維(比較例2−1)を用いて収縮性を評価した。
(5)で得られた繊維を、長さ約30cmにカットして複数本束ね、繊度150デニールの繊維束とした。この繊維束の長さを、「湿潤状態にする前のタンパク質繊維の長さ」とした。この繊維束を90℃の水に15分間浸漬(湿潤)させ、室温で2時間静置して乾燥させ、長さを測定した。この長さを「湿潤状態から乾燥させた際のタンパク質繊維の長さ」とし、下記式(1)より収縮率を算出した。測定値はサンプル数n=3の平均値とした。
式(1):収縮率={1−(湿潤状態から乾燥させた際のタンパク質繊維の長さ/湿潤状態にする前のタンパク質繊維の長さ)}×100[%]
表10に示したとおり、エステル加水分解処理を行なっていないタンパク質繊維(比較例2−1)の収縮率に比べて、エステル加水分解処理を行なったタンパク質繊維(実施例2−2)では、収縮率が減少し、水分に対する収縮性が低減されたことが確認された。エステル加水分解処理により、防縮(収縮)処理を同時に行うことができ、防縮効果が得られることが示された。