以下、実施の形態に係る転舵装置等を、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明される実施の形態は、包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ(工程)、並びにステップの順序等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。さらに、各図において、実質的に同一の構成要素に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化される場合がある。
[実施の形態1]
まず、本発明の実施の形態1に係る転舵装置100の全体的な構成を説明する。図1には、実施の形態1に係る転舵装置100の全体的な構成の一例が模式的に示されている。転舵装置100は、車両1に搭載され、左右独立転舵システムが採用されたステア・バイ・ワイヤシステムの構成を備えている。転舵装置100は、運転者が操向のために操作する操舵部材としてのステアリングホイール2と、車両1の前方側に配置された左転舵輪3L及び右転舵輪3Rとを備える。さらに、転舵装置100は、左転舵輪3Lを個別に転舵するための左転舵機構4Lと、左転舵機構4Lと機械的に接続されておらず且つ右転舵輪3Rを個別に転舵するための右転舵機構4Rとを備える。左転舵機構4Lは、ステアリングホイール2の回転操作に応じて左転舵輪3Lを転舵する。右転舵機構4Rは、ステアリングホイール2の回転操作に応じて右転舵輪3Rを転舵する。
左転舵機構4L及び右転舵機構4Rはそれぞれ、ステアリングホイール2の回転操作に応じて駆動される左転舵アクチュエータ5L及び右転舵アクチュエータ5Rを備える。左転舵アクチュエータ5L及び右転舵アクチュエータ5Rの例は、電動モータである。また、左転舵機構4Lは、左転舵アクチュエータ5Lから受ける回転駆動力により左転舵輪3Lを転舵させる。右転舵機構4Rは、右転舵アクチュエータ5Rから受ける回転駆動力により右転舵輪3Rを転舵させる。ステアリングホイール2と、左転舵機構4L及び右転舵機構4Rとの間には、ステアリングホイール2に加えられた操舵トルクを機械的に伝達する機械的結合はない。左転舵アクチュエータ5Lは、左転舵輪3Lのみを転舵し、右転舵アクチュエータ5Rは、右転舵輪3Rのみを転舵する。
左転舵機構4L及び右転舵機構4Rはそれぞれ、左転舵輪3L及び右転舵輪3Rを転舵させるための回転軸である左転舵軸6L及び右転舵軸6Rを有している。左転舵軸6L及び右転舵軸6Rは、車両1のフロントサスペンションによって支持されている。左転舵軸6L及び右転舵軸6Rを支持するフロントサスペンションは、ストラット式、ダブルウィッシュボーン式及びマルチリンク式等のいかなる形式のサスペンションであってもよい。
さらに、転舵装置100は、ステアリングホイール2の操舵角を検出する操舵角センサ10を備える。本実施の形態では、操舵角センサ10は、ステアリングホイール2の回転シャフトの回転角及び角速度を検出する。また、転舵装置100は、左転舵輪3Lの転舵角を検出する左転舵角センサ11Lと、右転舵輪3Rの転舵角を検出する右転舵角センサ11Rとを備える。
また、車両1には、車両1の速度を検出する車速センサ12、及び慣性計測装置(以下、「IMU(Inertial Measurement Unit)」とも呼ぶ)13が設けられている。IMU13は、ジャイロセンサ、加速度センサ及び地磁気センサ等で構成され得る。例えば、IMU13は、車両1の3軸方向の加速度及び角速度等を検出する。角速度の3軸方向の例は、ヨーイング、ピッチング及びローリング方向である。IMU13は、例えばヨーイング方向の角速度(「ヨーレート」とも呼ぶ)を検出する。さらに、IMU13は、ピッチング及びローリング方向の角速度を検出してもよい。
また、転舵装置100は、上位ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)20及び記憶部21を備える。記憶部21は、上位ECU20と別に配置され、上位ECU20と接続されていてもよく、上位ECU20に含まれていてもよい。左転舵機構4Lは、下位ECUの1つである左転舵ECU30Lを備え、右転舵機構4Rは、下位ECUの1つである右転舵ECU30Rを備える。上位ECU20は、左転舵ECU30L、右転舵ECU30R、操舵角センサ10、車速センサ12及びIMU13と接続されている。左転舵ECU30Lは、上位ECU20、左転舵角センサ11L、左転舵アクチュエータ5L及び右転舵ECU30Rと接続されている。右転舵ECU30Rは、上位ECU20、右転舵角センサ11R、右転舵アクチュエータ5R及び左転舵ECU30Lと接続されている。上位ECU20、左転舵ECU30L、右転舵ECU30R、左転舵アクチュエータ5L、右転舵アクチュエータ5R及び各センサ間の通信は、CAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを介した通信であってもよい。ここで、上位ECU20、左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rは、車両1の制御装置50を構成する。
上位ECU20は、操舵角センサ10、車速センサ12、IMU13、左転舵ECU30L、右転舵ECU30R及び記憶部21から取得する情報に基づき、左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの転舵角(「目標転舵角」とも呼ぶ)を決定し、左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rに出力する。
左転舵ECU30Lは、左転舵角センサ11Lが検出する転舵角(「検出転舵角」又は「実転舵角」とも呼ぶ)を上位ECU20に出力し、上位ECU20から受け取る目標転舵角に基づき、左転舵アクチュエータ5Lを動作させる。右転舵ECU30Rは、右転舵角センサ11Rが検出する実転舵角を上位ECU20に出力し、上位ECU20から受け取る目標転舵角に基づき、右転舵アクチュエータ5Rを動作させる。左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rは、転舵指令部の一例である。なお、転舵指令部は、信号出力部ということも可能である。
記憶部21は、種々の情報の格納及び取り出しを可能にする。記憶部21は、例えば、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの半導体メモリ、ハードディスクドライブ、又はSSD等の記憶装置によって実現される。記憶部21は、操舵角センサ10から入力される操舵角と、当該操舵角に対応する左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの目標転舵角との関係を示す操舵−転舵情報を、制御マップ又は数式等の形式で格納する。記憶部21は、左転舵機構4L及び右転舵機構4Rが正常であるときの操舵−転舵情報と、左転舵機構4L又は右転舵機構4Rが異常であるときの操舵−転舵情報とを格納する。操舵−転舵情報の詳細は後述する。
上位ECU20、左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rは、CPU(Central Processing Unit)又はDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサ及びメモリを備えるマイクロコンピュータにより構成されてもよい。メモリは、RAM等の揮発性メモリ、及び、ROM等の不揮発性メモリであってもよく、記憶部21であってもよい。上位ECU20、左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rの一部又は全部の機能は、CPUがRAMを作業用のメモリとして用いてROMに記録されたプログラムを実行することによって達成されてもよい。
次いで、上位ECU20、左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rの詳細を説明する。図2は、図1の上位ECU20の機能的な構成の一例を示すブロック図である。図3は、図1の左転舵ECU30Lの機能的な構成の一例を示すブロック図である。図4は、図1の右転舵ECU30Rの機能的な構成の一例を示すブロック図である。図2に示すように、上位ECU20は、取得部20aと、転舵角決定部20bとを含む。取得部20aは、操舵角センサ10によって検出された操舵角、車速センサ12によって検出された車両1の速度、IMU13によって検出された車両1のヨーレートを取得する。取得部20aは、操舵角センサ10から操舵角を取得することによって、ステアリングホイール2の回転シャフトの回転角を取得する。つまり、取得部20aは、運転者の操舵に対応した操舵角を取得するとも言える。また、取得部20aは、左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rから左転舵機構4L及び右転舵機構4Rが失陥しているか否かの情報を取得する。取得部20aは、左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rから左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの実転舵角を取得する。転舵角決定部20bは、取得部20aによって取得された操舵角等に応じた目標転舵角を、左転舵輪3L及び右転舵輪3Rそれぞれに対して決定する。転舵角決定部20bの詳細は、後述する。
図3に示すように、左転舵ECU30Lは、左転舵制御部31Lと、駆動回路32Lと、電流検出部33Lとを含む。左転舵制御部31Lは、駆動回路32Lを介して、左転舵アクチュエータ5Lの動作を制御する。駆動回路32Lは、左転舵制御部31Lによって制御され、左転舵アクチュエータ5Lに電力を供給する。駆動回路32Lは、インバータ回路で構成される。電流検出部33Lは、左転舵アクチュエータ5Lを流れる電流の大きさを検出する。電流検出部33Lは、電流を計測する回路等で構成される。
左転舵制御部31Lは、左転舵角センサ11Lによって検出される左実転舵角δLRが、上位ECU20から与えられる左目標転舵角δLTに等しくなるように、駆動回路32Lを制御する。左転舵制御部31Lは、複数の処理機能部として機能し、転舵角偏差演算部41Lと、転舵角PI(Proportional Integral)制御部42Lと、角速度演算部43Lと、角速度偏差演算部44Lと、角速度PI制御部45Lと、電流偏差演算部46Lと、電流PI制御部47Lと、PWM(Pulse Width Modulation)制御部48Lと、左失陥検出部49Lとを含む。
転舵角偏差演算部41Lは、上位ECU20から与えられる左目標転舵角δLTと、左転舵角センサ11Lによって検出される左実転舵角δLRとの偏差ΔδLを演算する。なお、偏差ΔδL=δLT−δLRである。転舵角PI制御部42Lは、転舵角偏差演算部41Lによって算出される偏差ΔδLに対するPI演算を行うことによって、左転舵角速度の目標値である左目標転舵角速度ωLTを演算する。角速度演算部43Lは、左転舵角センサ11Lによって検出される左実転舵角δLRを時間微分することによって、左実転舵角δLRの角速度である左実転舵角速度ωLRを演算する。
角速度偏差演算部44Lは、転舵角PI制御部42Lによって算出される左目標転舵角速度ωLTと、角速度演算部43Lによって算出される左実転舵角速度ωLRとの偏差ΔωLを演算する。なお、偏差ΔωL=ωLT−ωLRである。角速度PI制御部45Lは、角速度偏差演算部44Lによって算出される偏差ΔωLに対するPI演算を行うことによって、左転舵アクチュエータ5Lに流すべき電流の目標値である左目標電流値ILTを演算する。電流偏差演算部46Lは、角速度PI制御部45Lによって算出される左目標電流値ILTと、電流検出部33Lによって検出される左転舵アクチュエータ5Lの実電流値ILRとの偏差ΔILを演算する。なお、偏差ΔIL=ILT−ILRである。
電流PI制御部47Lは、電流偏差演算部46Lによって算出された偏差ΔILに対するPI演算を行うことによって、左転舵アクチュエータ5Lに流れる実電流値ILRを、左目標電流値ILTに導くための左転舵アクチュエータ5Lの駆動指令値を生成する。PWM制御部48Lは、駆動指令値に対応するデューティ比の左PWM制御信号を生成し、駆動回路32Lに出力する。これにより、駆動回路32Lは、駆動指令値に対応した電力を、左転舵アクチュエータ5Lに供給する。
左失陥検出部49Lは、左転舵機構4Lが失陥したか否かを判定し、その判定結果を示す第一失陥情報を上位ECU20に送信する。左転舵機構4Lが失陥するとは、左転舵輪3Lに対する転舵角制御が正常に行えないことを意味する。左失陥検出部49Lは、例えば、転舵角偏差ΔδLが第一閾値以上である状態が第一所定時間以上継続した場合、電流偏差ΔILが第二閾値以上である状態が第二所定時間以上継続した場合等に、左転舵機構4Lが失陥したと判定してもよい。前者のケースは、左転舵軸6Lを回転させるための物理的な構造に固着等の異常が発生するケースに該当し得る。後者のケースは、左転舵アクチュエータ5L又は左転舵アクチュエータ5Lを駆動する電気的な構造に断線等の異常が発生するケースに該当し得る。なお、上位ECU20は、左転舵ECU30Lとの間で通信できない状態が第三所定時間以上継続した場合等に、左転舵機構4Lが失陥したと判定してもよい。
上述の左転舵制御部31Lの各構成要素及び上位ECU20の各構成要素は、CPU又はDSP等のプロセッサ、並びに、RAM及びROM等のメモリなどからなるコンピュータシステム(図示せず)により構成されてもよい。各構成要素の一部又は全部の機能は、CPU又はDSPがRAMを作業用のメモリとして用いてROMに記録されたプログラムを実行することによって達成されてもよい。また、各構成要素の一部又は全部の機能は、電子回路又は集積回路等の専用のハードウェア回路によって達成されてもよい。各構成要素の一部又は全部の機能は、上記のソフトウェア機能とハードウェア回路との組み合わせによって構成されてもよい。
また、図4に示すように、右転舵ECU30Rは、左右の違いを除き、左転舵ECU30Lと同様の構成を有する。つまり、右転舵ECU30Rも、右転舵制御部31Rと、駆動回路32Rと、電流検出部33Rとを備えている。右転舵制御部31Rは、複数の処理機能部として機能し、転舵角偏差演算部41Rと、転舵角PI制御部42Rと、角速度演算部43Rと、角速度偏差演算部44Rと、角速度PI制御部45Rと、電流偏差演算部46Rと、電流PI制御部47Rと、PWM制御部48Rと、右失陥検出部49Rとを含む。このような右転舵ECU30R及びその右転舵制御部31Rの構成要素の構成は、左転舵ECU30L及びその左転舵制御部31Lと同様であるため、その詳細な説明を省略する。
また、駆動回路32Rは、右転舵制御部31Rによって制御され、右転舵アクチュエータ5Rに電力を供給する。電流検出部33Rは、右転舵アクチュエータ5Rを流れる電流の大きさを検出する。右転舵制御部31Rは、右転舵角センサ11Rによって検出される左実転舵角δRRが、上位ECU20から与えられる右目標転舵角δRTに等しくなるように、駆動回路32Rを制御する。
転舵角偏差演算部41Rは、右目標転舵角δRTと右実転舵角δRRとの偏差ΔδR(ΔδR=δRT−δRR)を演算する。転舵角PI制御部42Rは、右目標転舵角速度ωRTを演算する。角速度演算部43Rは、右実転舵角δRRの角速度である右実転舵角速度ωRRを演算する。角速度偏差演算部44Rは、右目標転舵角速度ωRTと右実転舵角速度ωRRとの偏差ΔωR(ΔωR=ωRT−ωRR)を演算する。角速度PI制御部45Rは、右転舵アクチュエータ5Rに流すべき電流の目標値である右目標電流値IRTを演算する。電流偏差演算部46Rは、右目標電流値IRTと右転舵アクチュエータ5Rの実電流値IRRとの偏差ΔIR(IR=IRT−IRR)を演算する。電流PI制御部47Rは、右転舵アクチュエータ5Rに流れる実電流値IRRを、右目標電流値IRTに導くための右転舵アクチュエータ5Rの駆動指令値を生成する。PWM制御部48Rは、駆動指令値に対応する右PWM制御信号を生成し、駆動回路32Rに出力し、駆動回路32Rは、駆動指令値に対応した電力を右転舵アクチュエータ5Rに供給する。
右失陥検出部49Rは、右転舵機構4Rが失陥したか否かを判定し、その判定結果を示す第二失陥情報を上位ECU20に送信する。右転舵機構4Rが失陥するとは、右転舵輪3Rに対する転舵角制御が正常に行えないことを意味する。右失陥検出部49Rは、例えば、転舵角偏差ΔδRが第一閾値以上である状態が第一所定時間以上継続した場合、電流偏差ΔIRが第二閾値以上である状態が第二所定時間以上継続した場合等に、右転舵機構4Rが失陥したと判定してもよい。なお、上位ECU20は、右転舵ECU30Rとの間で通信できない状態が第三所定時間以上継続した場合等に、右転舵機構4Rが失陥したと判定してもよい。
次いで、上位ECU20の転舵角決定部20bによる目標転舵角の決定処理の詳細を説明する。転舵角決定部20bは、左転舵機構4L及び右転舵機構4Rが失陥していない正常状態と、左転舵機構4L及び右転舵機構4Rの少なくとも一方が失陥している異常状態との間で、異なる目標転舵角を決定する。つまり、上位ECU20は、左転舵機構4Lが失陥した場合、反対側の正常な右転舵機構4Rの転舵角を制御することによって、車両1を走行させる。上位ECU20は、右転舵機構4Rが失陥した場合、正常な左転舵機構4Lの転舵角を制御することによって、車両1を走行させる。また、上位ECU20は、左転舵機構4L及び右転舵機構4Rの両方が失陥した場合、車両1を停止させ、又は、運転者に車両1の停止を促す。
転舵角決定部20bは、左転舵機構4L及び右転舵機構4Rの一方が失陥している異常状態では、正常状態の目標転舵角に補正を加えた目標転舵角である補正目標転舵角を決定する。具体的には、転舵角決定部20bは、操舵角センサ10によって検出される操舵角に対する目標転舵角の比率を、正常状態と異常状態との間で異ならせることによって、補正を加える。上記比率は、目標転舵角/操舵角で示される。転舵角/操舵角の比率は、ステアリングのオーバーオールレシオ、オーバーオールギアレシオ等と呼ばれる。
転舵角決定部20bは、正常状態では、操舵角センサ10によって検出される操舵角、車速センサ12によって検出される車両1の速度、IMU13によって検出される車両1のヨーレート等を用いて、左転舵機構4L及び右転舵機構4Rそれぞれの左目標転舵角δLT及び右目標転舵角δRTを算出する。転舵角決定部20bは、算出された左目標転舵角δLT及び右目標転舵角δRTをそれぞれ、左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rに出力し、左実転舵角δLR及び右実転舵角δRRがそれぞれ、左目標転舵角δLT及び左目標転舵角δRTと等しくなるように、左転舵アクチュエータ5L及び右転舵アクチュエータ5Rを駆動させる。
正常状態における左目標転舵角/操舵角の比率を「第一左比率ORLC」と表現し、正常状態における右目標転舵角/操舵角の比率を「第一右比率ORRC」と表現する。このような第一左比率ORLC及び第一右比率ORRCは、左方向及び右方向の各操舵角に対して、算出することができる。
第一左比率ORLC及び第一右比率ORRCは、操舵方向及び操舵角に関わらず一定であってもよく、操舵方向及び操舵角に応じて変わってもよい。さらに、第一左比率ORLC及び第一右比率ORRCは、車速センサ12によって検出される車両1の速度、及び/又は、IMU13によって検出される車両1のヨーレートに関わらず一定であってもよく、これらに応じて変わってもよい。また、同じ方向の同じ操舵角に対応する第一左比率ORLT及び第一右比率ORLRは、同じであってもよいが、車両1の旋回時における旋回方向外側の転舵輪と旋回方向内側の転舵輪との間で旋回半径が異なるため、異なっていてもよい。
また、異常状態における左目標転舵角/操舵角の比率を「第二左比率ORLF」と表現し、異常状態における右目標転舵角/操舵角の比率を「第二右比率ORRF」と表現する。第二左比率ORLFは、右転舵機構4Rの失陥時に適用され、右転舵機構4Rの失陥状態に左転舵機構4Lのみで車両1を旋回走行させるために用いられる。第二右比率ORRFは、左転舵機構4Lの失陥時に適用され、左転舵機構4Lの失陥状態に右転舵機構4Rのみで車両1を旋回走行させるために用いられる。
左方向及び右方向の各操舵角について、第二左比率ORLFは、第一左比率ORLCに対応付けられ、第二右比率ORRFは、第一右比率ORRCに対応付けられる。また、第一左比率ORLC及び第一右比率ORRCが車両1の速度及び/又はヨーレートに応じて変化する場合、車両1の速度毎及びヨーレート毎に、第二左比率ORLFは、第一左比率ORLCに対応付けられ、第二右比率ORRFは、第一右比率ORRCに対応付けられる。
具体的には、右転舵機構4Rの失陥状態に左転舵機構4Lのみで車両1を旋回走行させる場合、車両1の旋回方向において左転舵輪3Lが内側に位置する左操舵では、第二左比率ORLFは第一左比率ORLCよりも大きく設定され、車両1の旋回方向において左転舵輪3Lが外側に位置する右操舵では、第二左比率ORLFは第一左比率ORLC以下に設定される。このような関係が、図5に示されている。なお、図5は、実施の形態1に係る左転舵機構4Lにおける操舵角と目標転舵角との関係の一例を示す図である。
図5では、正常状態の操舵角及び目標転舵角の関係が、実線の曲線Lcで示され、右転舵機構4Rの失陥状態の操舵角及び目標転舵角の関係が、破線の曲線Lfで示されている。図5では、操舵角及び転舵角は、絶対値で示されている。なお、本明細書では、上述した操舵角及び転舵角、並びに、以降の操舵角及び転舵角も、絶対値で表現されている。図5に示すように、本実施の形態では、曲線Lcは、右操舵において、操舵角の絶対値が大きくなるほど目標転舵角が一次関数的に大きくなり、左操舵において、操舵角の絶対値が大きくなるほど目標転舵角が二次関数的に大きくなる。このように、曲線Lcは、公知のアッカーマン・ジャントー理論に基づいて、曲線Lcが設定されているが、これに限定されない。
右操舵では、曲線Lc及び曲線Lfが一致し、左操舵では、曲線Lfは、曲線Lcと比較して、より左転舵の目標転舵角が大きい曲線を描く。よって、右操舵では、第二左比率ORLFは第一左比率ORLCと同じであり、左操舵では、第二左比率ORLFは第一左比率ORLCよりも大きい。さらに、本実施の形態における左操舵では、同じ操舵角における第二左比率ORLFと第一左比率ORLCとの比率である第二左比率ORLF/第一左比率ORLCが、操舵角にかかわらず一定の値LAとされているが、これに限定されない。
右転舵機構4Rが失陥状態のとき、車両1は、車両1の旋回方向において左転舵輪3Lが外側に位置する右転舵では、旋回能力の低下を抑えることができるが、車両1の旋回方向において左転舵輪3Lが内側に位置する左転舵では、旋回能力を大きく低下させる。このため、左目標転舵角/操舵角からなる比率を、正常状態よりも大きくし、左目標転舵角を大きくすることによって、車両1の旋回能力の低下が抑えられる。
同様に、左転舵機構4Lの失陥状態に右転舵機構4Rのみで車両1を旋回走行させる場合、車両1の旋回方向において右転舵輪3Rが内側に位置する右操舵では、第二右比率ORRFは第一右比率ORRCよりも大きく設定され、車両1の旋回方向において右転舵輪3Rが外側に位置する左操舵では、第二右比率ORRFは第一右比率ORRC以下に設定される。このような関係が、図6に示されている。なお、図6は、実施の形態1に係る右転舵機構4Rにおける操舵角と目標転舵角との関係の一例を示す図である。
図6では、正常状態の操舵角及び目標転舵角の関係が、実線の曲線Rcで示され、左転舵機構4Lの失陥状態の操舵角及び目標転舵角の関係が、破線の曲線Rfで示されている。図6では、操舵角及び転舵角は、絶対値で示されている。図6に示すように、左操舵では、曲線Rc及び曲線Rfが一致し、右操舵では、曲線Rfは、曲線Rcと比較して、より右転舵の目標転舵角が大きい曲線を描く。よって、左操舵では、第二右比率ORRFは第一右比率ORRCと同じであり、右操舵では、第二右比率ORRFは第一右比率ORRCよりも大きい。さらに、本実施の形態における右操舵では、同じ操舵角における第二右比率ORRFと第一右比率ORRCとの比率である第二右比率ORRF/第一右比率ORRCが、操舵角にかかわらず一定の値RAとされているが、これに限定されない。
左転舵機構4Lが失陥状態のとき、車両1は、車両1の旋回方向において右転舵輪3Rが外側に位置する左転舵では、旋回能力の低下を抑えることができるが、車両1の旋回方向において右転舵輪3Rが内側に位置する右転舵では、旋回能力を大きく低下させる。このため、右目標転舵角/操舵角からなる比率を、正常状態よりも大きくし、右目標転舵角を大きくすることによって、車両1の旋回能力の低下が抑えられる。
上述のように、右転舵機構4Rの失陥状態の左転舵機構4Lの目標転舵角は、入力される操舵角と、第二左比率ORLFと第一左比率ORLCとの関係に基づく当該操舵角に対応する第二左比率ORLFから、決定することが可能である。同様に、左転舵機構4Lの失陥状態の右転舵機構4Rの目標転舵角は、入力される操舵角と、第二右比率ORRFと第一右比率ORRCとの関係に基づく当該操舵角に対応する第二右比率ORRFから、決定することが可能である。例えば、第一左比率ORLC及び第一右比率ORRCが車両1の速度及び/又はヨーレートに応じて変化する場合、右転舵機構4Rの失陥状態の左転舵機構4Lの目標転舵角は、入力される操舵角と、車両1の速度及びヨーレートに対応する第二左比率ORLFとから、決定することが可能である。
記憶部21には、図5及び図6に示すような正常状態及び左又は右の転舵機構の失陥状態の目標転舵角及び操舵角の関係を示すマップが予め格納されていてもよい。例えば、第一左比率ORLC及び第一右比率ORRCが車両1の速度及び/又はヨーレートに応じて変化する場合、車両1の各速度及び各ヨーレートに対応する上記マップが、記憶部21に格納されていてもよい。そして、転舵角決定部20bは、左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rから取得する左転舵機構4L及び右転舵機構4Rの失陥の有無を示す失陥情報と、車両1の速度及び/又はヨーレートとに応じて、記憶部21内の左転舵機構4L及び右転舵機構4Rに対応するマップを参照し、操舵角センサ10の入力操舵角に対応する目標転舵角を決定してもよい。
又は、記憶部21には、図5及び図6の各曲線に対応する関数が予め格納されていてもよい。例えば、第一左比率ORLC及び第一右比率ORRCが車両1の速度及び/又はヨーレートに応じて変化する場合、車両1の各速度及び各ヨーレートに対応する上記関数が、記憶部21に格納されていてもよい。そして、転舵角決定部20bは、車両1の速度及び/又はヨーレートと失陥情報とに応じた関数を記憶部21から取得し、当関数を用いて、操舵角センサ10の入力操舵角に対応する目標転舵角を決定してもよい。
又は、第二左比率ORLFと第一左比率ORLCとの比率である左比率比と、第二右比率ORRFと第一右比率ORRCとの比率である右比率比とが、左操舵及び右操舵の各操舵角に対して予め算出され、記憶部21に格納されていてもよい。例えば、第一左比率ORLC及び第一右比率ORRCが車両1の速度及び/又はヨーレートに応じて変化する場合、車両1の各速度及び各ヨーレートに対応する左比率比及び右比率比が、記憶部21に格納されていてもよい。そして、転舵角決定部20bは、操舵角センサ10の操舵角等から、正常状態の目標転舵角を算出し、正常状態の目標転舵角と記憶部21内の左比率及び右比率比とから、失陥情報に応じた目標転舵角を算出してもよい。例えば、右転舵機構4Rの失陥時、操舵角センサ10の操舵角等から、当該操舵角に対応する第二左比率ORLFと第一左比率ORLCとの左比率比RLが記憶部21内から決定される。そして、正常状態の目標転舵角と操舵角との比率である第一左比率ORLCと左比率比RLとから第二左比率ORLFが算出され、それにより、右転舵機構4Rの失陥状態での左目標転舵角が算出される。
次に、実施の形態1に係る転舵装置100の動作を説明する。図7には、実施の形態1に係る転舵装置100の動作の流れの一例を示すフローチャートが示されている。図7に示すように、ステップS001において、車両1が走行を行っている時、上位ECU20の取得部20aは、左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rから、左転舵機構4L及び右転舵機構4Rが失陥しているか否かの情報、並びに、左転舵角センサ11L及び右転舵角センサ11Rによって検出された左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの実転舵角を取得する。さらに、取得部20aは、操舵角センサ10によって検出された操舵角、車速センサ12によって検出された車両1の速度、及びIMU13によって検出された車両1のヨーレートを取得する。
次いで、ステップS002において、上位ECU20の転舵角決定部20bは、左転舵機構4Lが失陥しているか否かを、左転舵ECU30Lから取得する情報に基づき、判定する。また、転舵角決定部20bは、左転舵ECU30Lと第三所定時間以上、通信できない場合も、左転舵機構4Lが失陥していると判定する。転舵角決定部20bは、左転舵機構4Lが失陥していない場合(ステップS002でNo)、ステップS003に進み、左転舵機構4Lが失陥している場合(ステップS002でYes)、ステップS004に進む。
ステップS003において、転舵角決定部20bは、右転舵機構4Rが失陥しているか否かを、右転舵ECU30Rから取得する情報に基づき、判定する。また、転舵角決定部20bは、右転舵ECU30Rと第三所定時間以上、通信できない場合も、右転舵機構4Rが失陥していると判定する。転舵角決定部20bは、右転舵機構4Rが失陥していない場合(ステップS003でNo)、ステップS005に進み、右転舵機構4Rが失陥している場合(ステップS003でYes)、ステップS006に進む。
ステップS004において、転舵角決定部20bは、ステップS003と同様に、右転舵機構4Rが失陥しているか否かを判定する。転舵角決定部20bは、右転舵機構4Rが失陥していない場合(ステップS004でNo)、ステップS007に進み、右転舵機構4Rが失陥している場合(ステップS004でYes)、ステップS008に進む。
ステップS005において、転舵角決定部20bは、正常状態の左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの目標転舵角を決定する。さらに、転舵角決定部20bは、左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの目標転舵角を左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rに出力し、ステップS009に進む。転舵角決定部20bは、操舵角、車両1の速度及び車両1のヨーレートに基づき、左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの目標転舵角を算出してもよく、車両1の速度及び車両1のヨーレートに対応する図5及び図6に示すようなマップを記憶部21から取得し、当該マップにおける曲線Lc及びRcの関係に基づき、操舵角に対応する目標転舵角を算出してもよい。以降において、転舵角決定部20bは、マップを用いて目標転舵角を算出するとして説明する。
ステップS006において、転舵角決定部20bは、右転舵機構4Rのみが失陥している状態の左転舵輪3Lの目標転舵角を決定する。さらに、転舵角決定部20bは、左転舵輪3Lの目標転舵角を左転舵ECU30Lに出力し、ステップS009に進む。転舵角決定部20bは、車両1の速度及び車両1のヨーレートに対応する図5に示すようなマップを記憶部21から取得し、当該マップにおける曲線Lfの関係に基づき、操舵角に対応する左転舵輪3Lの目標転舵角を算出する。
ステップS007において、転舵角決定部20bは、左転舵機構4Lのみが失陥している状態の右転舵輪3Rの目標転舵角を決定する。さらに、転舵角決定部20bは、右転舵輪3Rの目標転舵角を右転舵ECU30Rに出力し、ステップS009に進む。転舵角決定部20bは、車両1の速度及び車両1のヨーレートに対応する図6に示すようなマップを記憶部21から取得し、当該マップにおける曲線Rfの関係に基づき、操舵角に対応する右転舵輪3Rの目標転舵角を算出する。
ステップS008において、上位ECU20は、車両1の停車を運転者に促す、又は、ブレーキ等を作動させ車両1を停車させる。
ステップS009において、左転舵ECU30L及び/又は右転舵ECU30Rは、左転舵角センサ11L及び右転舵角センサ11Rによって検出される左実転舵角及び右実転舵角が、転舵角決定部20bから取得する左転舵輪3L及び/又は右転舵輪3Rの目標転舵角に等しくなるように、左転舵アクチュエータ5L及び/又は右転舵アクチュエータ5Rを駆動する。左転舵ECU30L及び/又は右転舵ECU30Rは、転舵動作する。
上述のように実施の形態1に係る転舵装置100の上位ECU20、左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rを含む制御装置50は、互いに機械的に接続されていない左右の転舵機構4L及び4Rを備え且つ左右の転舵機構4L及び4Rそれぞれに備えられる各転舵アクチュエータ5L及び5Rの駆動力によって左右の転舵輪3L及び3Rを個別に転舵する車両用の転舵装置100の制御装置である。制御装置50は、ステアリングホイール2の回転シャフトの回転角に対応する操舵角を取得する取得部20aと、取得された操舵角に応じた目標転舵角を、操舵角に対する転舵角の比率に基づき、左右の転舵機構4L及び4Rそれぞれに対して決定する転舵角決定部20bと、決定された目標転舵角に応じた駆動信号を、各転舵アクチュエータ5L及び5Rに出力する転舵指令部としての左転舵ECU30L及び右転舵ECU30Rとを備える。転舵角決定部20bは、左右の転舵機構4L及び4Rのうちの一方に異常が発生した場合、正常時の上記比率である第一比率を変化させた第二比率に基づき、他方の転舵機構の目標転舵角を決定する。
つまり、転舵角決定部20bは、左右の転舵機構4L及び4Rのうちの一方に異常が発生した場合には、正常な転舵機構(左右の転舵機構4L及び4Rのうちの他方)に対する目標転舵角を、左右の転舵機構4L及び4Rの両者が正常の場合の目標転舵角とは異なるようにしている。
上記構成によると、制御装置50は、異常が発生していない転舵機構4L又は4Rを制御して、車両1を走行させる。一方の転舵機構4R又は4Lに異常が発生した場合、異常の発生前後において異常が発生していない転舵機構4L又は4Rの実転舵角が同じであっても、旋回半径が大きくなる等、車両1の旋回性能が低下する。操舵角に対する目標転舵角の比率を変更することによって、車両1の旋回半径の増加を抑制し、旋回性能の低下を抑制することが可能になる。例えば、第一比率よりも第二比率を大きくすることによって、入力される操舵角が同じであっても、異常が発生していない転舵機構4L又は4Rの目標転舵角を大きくすることができ、それにより、車両1の旋回半径の増加を効果的に抑制することができる。
また、実施の形態1に係る転舵装置100の制御装置50において、左右の転舵機構4L及び4Rのうちの一方に異常が発生した場合、転舵角決定部20bは、他方の転舵機構4R又は4Lの転舵輪3R又は3Lが車両1の旋回方向において一方の転舵機構4L又は4Rの転舵輪3L又は3Rの内側に位置する車両1の旋回の目標転舵角を決定する場合、第一比率よりも大きい第二比率を使用する。また、転舵角決定部20bは、他方の転舵機構4R又は4Lの転舵輪3R又は3Lが車両1の旋回方向において一方の転舵機構4L及び4Rの転舵輪3L又は3Rの外側に位置する車両1の旋回の目標転舵角を決定する場合、第一比率以下の第二比率を使用する。
上記構成において、異常が発生していない他方の転舵機構4R又は4Lの転舵輪3R又は3Lが旋回の内側に位置する第一の旋回の場合の車両1の旋回能力は、異常が発生していない他方の転舵機構4R又は4Lの転舵輪3R又は3Lが旋回の外側に位置する第二の旋回の場合の車両1の旋回能力よりも低い。このため、第一の旋回において、同じ操舵角の絶対値に対して、第二比率を用いて算出された目標転舵角は、第一比率を用いて算出された目標転舵角よりも大きくなるため、車両1の旋回能力の低下を効果的に抑えることができる。また、第二の旋回において、同じ操舵角の絶対値に対して、第二比率を用いて算出された目標転舵角は、第一比率を用いて算出された目標転舵角の同等以下である。これにより、第一の旋回及び第二の旋回の間で目標転舵角、具体的には目標転舵角の絶対値が差異付けられる。よって、例えば、第一の旋回が左旋回であり且つ第二の旋回が右旋回である場合、及び、第一の旋回が右旋回であり且つ第二の旋回が左旋回である場合において、車両1の左右の旋回能力の差を低減することができる。
また、実施の形態1に係る転舵装置100は、上記制御装置50と、操舵角を検出する操舵角センサ10と、左の転舵機構4L及び右の転舵機構4Rとを備え、左の転舵機構4Lは、左の転舵輪3Lを個別に転舵するための駆動力を発生する左の転舵アクチュエータ5Lを有し、右の転舵機構4Rは、右の転舵輪3Rを個別に転舵するための駆動力を発生する右の転舵アクチュエータ5Rを有する。上述のような転舵装置100は、制御装置50と同様の効果を奏することができる。
[実施の形態2]
実施の形態2に係る転舵装置を説明する。実施の形態2に係る転舵装置において、上位ECU20の転舵角決定部20bが用いる操舵角−目標転舵角のマップが、実施の形態1と異なる。以下において、実施の形態1と異なる点を中心に説明する。
図8には、実施の形態2に係る左転舵機構4Lにおける操舵角と目標転舵角との関係の一例が示されている。図9には、実施の形態2に係る右転舵機構4Rにおける操舵角と目標転舵角との関係の一例が示されている。図8に示すように、右転舵機構4Rの失陥状態に左転舵機構4Lのみで車両1を旋回走行させる場合、左転舵輪3Lが内側に位置する左操舵では、第二左比率ORLFが第三左比率として適用され、左転舵輪3Lが外側に位置する右操舵では、第四左比率が適用される。第四左比率は、第一左比率ORLCよりも大きく第三左比率よりも小さい。ここで、第三左比率及び第四左比率はそれぞれ、第三比率及び第四比率の一例である。
右転舵機構4Rが失陥状態の場合、車両1の旋回能力の低下は、左転舵輪3Lが内側に位置する左操舵において、左転舵輪3Lが外側に位置する右操舵よりも大きく抑えられる。しかしながら、左転舵輪3Lが外側に位置する右操舵においても、車両1の旋回能力は低下するため、第四左比率を用いて目標転舵角を決定することによって、車両1の旋回能力の低下を抑制することができる。これにより、左転舵輪3Lが内側に位置する左操舵、及び、左転舵輪3Lが外側に位置する右操舵のいずれにおいても、車両1の旋回能力の低下が抑制され、且つ、左操舵及び右操舵の間での車両1の旋回能力の差の低減が可能になる。
同様に、図9に示すように、左転舵機構4Lの失陥状態に右転舵機構4Rのみで車両1を旋回走行させる場合、右転舵輪3Rが内側に位置する右操舵では、第二右比率ORRFが第三右比率として適用され、右転舵輪3Rが外側に位置する左操舵では、第四右比率が適用される。第四右比率は、第一右比率ORRCよりも大きく第三右比率よりも小さい。この場合も、右転舵輪3Rが内側に位置する右操舵、及び、右転舵輪3Rが外側に位置する左操舵のいずれにおいても、車両1の旋回能力の低下が抑制され、且つ、左操舵及び右操舵の間での車両1の旋回能力の差の低減が可能になる。ここで、第三右比率及び第四右比率はそれぞれ、第三比率及び第四比率の一例である。
本実施の形態では、転舵角決定部20bは、記憶部21に格納された図8及び図9に示すようなマップを用いて、目標転舵角を算出するが、実施の形態1で説明したように、図8及び図9の各曲線に対応する関数を用いて、目標転舵角を算出してもよい。又は、転舵角決定部20bは、第三左比率及び第四左比率と第一左比率ORLCとの左比率比と、第三右比率及び第四右比率と第一右比率ORRCとの右比率比とを用いて、目標転舵角を算出してもよい。
上述のような実施の形態2に係る転舵装置によれば、実施の形態1と同様の効果が得られる。さらに、実施の形態2に係る転舵装置では、左右の転舵機構4L及び4Rのうちの一方に異常が発生した場合、転舵角決定部20bは、他方の転舵機構4R又は4Lの転舵輪3R又は3Lが車両1の旋回方向において一方の転舵機構4L又は4Rの転舵輪3L又は3Rの内側に位置する車両1の旋回の目標転舵角を決定する場合、第二比率として、第一比率よりも大きい第三比率を使用する。さらに、転舵角決定部20bは、他方の転舵機構4R又は4Lの転舵輪3R又は3Lが車両1の旋回方向において一方の転舵機構4L又は4Rの転舵輪3L又は3Rの外側に位置する車両1の旋回の目標転舵角を決定する場合、第二比率として、第一比率よりも大きい第四比率を使用する。そして、第三比率は、第四比率よりも大きい。
上記構成によると、異常が発生していない他方の転舵輪3R又は3Lが旋回の内側及び外側それぞれに位置する第一の旋回及び第二の旋回において、同じ操舵角の絶対値に対して、第三比率及び第四比率を用いて算出された目標転舵角は、第一比率を用いて算出された目標転舵角よりも大きくなる。よって、左操舵及び右操舵のいずれにおいても、車両1の旋回能力の低下を抑えることができる。第三比率が第四比率よりも大きいため、より旋回能力が低下する第一の旋回に対して、旋回能力の低下の効果的な抑制が可能である。第三比率及び第四比率はいずれも第一比率よりも大きいため、第三比率及び第四比率の差異が低減され得る。よって、左操舵及び右操舵の間での車両1の旋回能力の差異の低減、つまり旋回能力の均等化が可能になる。
[実施の形態3]
実施の形態3に係る転舵装置を説明する。実施の形態3に係る転舵装置において、上位ECU20の転舵角決定部20bが用いる操舵角−目標転舵角のマップが、実施の形態1と異なる。以下において、実施の形態1と異なる点を中心に説明する。
図10には、実施の形態3に係る左転舵機構4Lにおける操舵角と目標転舵角との関係の一例が示されている。図11には、実施の形態3に係る右転舵機構4Rにおける操舵角と目標転舵角との関係の一例が示されている。図10では、右転舵機構4Rの失陥状態について、実施の形態1での操舵角及び目標転舵角の関係は、曲線Lf1で示され、本実施の形態での操舵角及び目標転舵角の関係は、曲線Lf2で示されている。図10に示すように、右転舵機構4Rの失陥状態に左転舵機構4Lのみで車両1を旋回走行させる場合、左転舵輪3Lが内側に位置する左操舵では、第二左比率ORLFよりも大きい第五左比率が適用され、左転舵輪3Lが外側に位置する右操舵では、第二左比率ORLFが第六左比率として適用される。第五左比率は、左方向への操舵角、つまり、操舵角の絶対値が大きくなるほど大きくなる。ここで、第五左比率及び第六左比率は、第五比率及び第六比率の一例である。
右転舵機構4Rが失陥状態の場合、左転舵輪3Lが内側に位置する左操舵において、左方向への操舵角の絶対値が大きくなるほど、目標転舵角が大きくなる。車両1の旋回能力は、実転舵角が大きくなる程大きく低下するが、この低下が効果的に抑制される。
同様に、図11では、左転舵機構4Lの失陥状態について、実施の形態1での操舵角及び目標転舵角の関係は、曲線Rf1で示され、本実施の形態での操舵角及び目標転舵角の関係は、曲線Rf2で示されている。図11に示すように、左転舵機構4Lの失陥状態に右転舵機構4Rのみで車両1を旋回走行させる場合、右転舵輪3Rが内側に位置する右操舵では、第二右比率ORRFよりも大きい第五右比率が適用され、右転舵輪3Rが外側に位置する左操舵では、第二右比率ORRFが第六右比率として適用される。第五右比率は、右方向への操舵角、つまり、操舵角の絶対値が大きくなるほど大きくなる。ここで、第五右比率及び第六右比率は、第五比率及び第六比率の一例である。
左転舵機構4Lが失陥状態の場合、右転舵輪3Rが内側に位置する右操舵において、右方向への操舵角の絶対値が大きくなるほど、目標転舵角が大きくなる。車両1の旋回能力は、実転舵角が大きくなる程大きく低下するが、この低下が効果的に抑制される。
本実施の形態では、転舵角決定部20bは、記憶部21に格納された図10及び図11に示すようなマップを用いて、目標転舵角を算出するが、実施の形態1で説明したように、図10及び図11の各曲線に対応する関数を用いて、目標転舵角を算出してもよい。又は、転舵角決定部20bは、第五左比率及び第六左比率と第一左比率ORLCとの左比率比と、第五右比率及び第六右比率と第一右比率ORRCとの右比率比とを用いて、目標転舵角を算出してもよい。
上述のような実施の形態3に係る転舵装置によれば、実施の形態1と同様の効果が得られる。さらに、実施の形態3に係る転舵装置では、転舵角決定部20bは、左及び右の転舵機構4L及び4Rの一方に異常が発生すると、操舵角が大きくなるほど大きい第二比率としての第五左比率及び第五右比率に基づき、他方の転舵機構4R又は4Lの目標転舵角を決定する。
上記構成によると、異常が発生していない他方の転舵輪3R又は3Lが旋回の内側に位置する第一の旋回において、操舵角が大きくなる程大きくなる第五比率又は第六比率を用いて、目標転舵角が算出される。このような目標転舵角を用いた転舵制御は、他方の転舵輪3R又は3Lの実転舵角が大きくなる程大きく低下する車両1の旋回能力の低下を、効果的に抑制することができる。
また、操舵角が大きくなる程大きくなる第五比率のような比率を、異常が発生していない他方の転舵輪3R又は3Lが旋回の外側に位置する第二の旋回に対しても適用してもよい。例えば、実施の形態2における第四左比率及び第四右比率を、操舵角が大きくなる程大きくなるようにしてもよい。
[実施の形態4]
まず、本発明の実施の形態4に係る車両用の転舵装置200の全体的な構成を説明する。図12は、実施の形態4に係る転舵装置200の全体的な構成の一例を示すブロック図である。転舵装置200は、車両201に搭載され、左右独立転舵システムが採用されたステア・バイ・ワイヤシステムの構成を備えている。転舵装置200は、運転者が操向のために操作する操舵部材としてのステアリングホイール202と、車両201の前方側に配置された左転舵輪203L及び右転舵輪203Rとを備える。さらに、転舵装置200は、左転舵輪203Lを個別に転舵するための左転舵機構204Lと、左転舵機構204Lと機械的に接続されておらず且つ右転舵輪203Rを個別に転舵するための右転舵機構204Rとを備える。左転舵機構204Lは、ステアリングホイール202の回転操作に応じて左転舵輪203Lを転舵する。右転舵機構204Rは、ステアリングホイール202の回転操作に応じて右転舵輪203Rを転舵する。
左転舵機構204L及び右転舵機構204Rはそれぞれ、ステアリングホイール202の回転操作に応じて駆動される左転舵アクチュエータ205L及び右転舵アクチュエータ205Rを備える。左転舵アクチュエータ205L及び右転舵アクチュエータ205Rの例は、電動モータである。また、左転舵機構204Lは、左転舵アクチュエータ205Lから受ける回転駆動力により左転舵輪203Lを転舵させる。右転舵機構204Rは、右転舵アクチュエータ205Rから受ける回転駆動力により右転舵輪203Rを転舵させる。ステアリングホイール202と、左転舵機構204L及び右転舵機構204Rとの間には、ステアリングホイール202に加えられた操舵トルクを機械的に伝達する機械的結合はない。左転舵アクチュエータ205Lは、左転舵輪203Lのみを転舵し、右転舵アクチュエータ205Rは、右転舵輪203Rのみを転舵する。
左転舵機構204L及び右転舵機構204Rはそれぞれ、左転舵輪203L及び右転舵輪203Rを転舵させるための回転軸である左転舵軸206L及び右転舵軸206Rを有している。左転舵軸206L及び右転舵軸206Rは、車両201のフロントサスペンションによって支持されている。左転舵軸206L及び右転舵軸206Rを支持するフロントサスペンションは、ストラット式、ダブルウィッシュボーン式及びマルチリンク式等のいかなる形式のサスペンションであってもよい。
さらに、転舵装置200は、車両201の目標ヨーレートとして、ステアリングホイール202の操舵角を検出する操舵角センサ210を備える。ここでは、操舵角センサ210は、ステアリングホイール202の回転シャフトの回転角及び角速度を検出する。また、転舵装置200は、左転舵輪203Lの転舵角を検出する左転舵角センサ211Lと、右転舵輪203Rの転舵角を検出する右転舵角センサ211Rとを備える。
また、車両201には、車両201の速度Vを検出する車速センサ212、及び慣性計測装置(以下、「IMU(Inertial Measurement Unit)」とも呼ぶ)213が設けられている。IMU213は、ジャイロセンサ、加速度センサ及び地磁気センサ等で構成され得る。例えば、IMU213は、車両201の3軸方向の加速度及び角速度等を検出する。角速度の3軸方向の例は、ヨーイング、ピッチング及びローリング方向である。IMU213は、例えばヨーイング方向の角速度(「ヨーレート」とも呼ぶ)を検出する。さらに、IMU213は、ピッチング及びローリング方向の角速度を検出してもよい。
また、転舵装置200は、上位ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)220及び記憶部221を備える。記憶部221は、上位ECU220と別に配置され、上位ECU220と電気的に接続されていてもよく、上位ECU220に含まれていてもよい。左転舵機構204Lは、下位ECUの1つである左転舵ECU230Lを備え、右転舵機構204Rは、下位ECUの1つである右転舵ECU230Rを備える。上位ECU220は、左転舵ECU230L、右転舵ECU230R、操舵角センサ210、車速センサ212及びIMU213と電気的に接続されている。左転舵ECU230Lは、上位ECU220、左転舵角センサ211L、左転舵アクチュエータ205L及び右転舵ECU230Rと電気的に接続されている。右転舵ECU230Rは、上位ECU220、右転舵角センサ211R、右転舵アクチュエータ205R及び左転舵ECU230Lと電気的に接続されている。上位ECU220、左転舵ECU230L、右転舵ECU230R、左転舵アクチュエータ205L、右転舵アクチュエータ205R及び各センサ間の通信は、CAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを介した通信であってもよい。ここで、上位ECU220、左転舵ECU230L及び右転舵ECU230Rは、車両201の制御装置250を構成する。
上位ECU220は、操舵角センサ210、車速センサ212、IMU213、左転舵ECU230L、右転舵ECU230R及び記憶部221から取得する情報に基づき、目標ヨーレートを決定し、当該目標ヨーレートに基づく駆動信号を左転舵ECU230L及び右転舵ECU230Rに出力する。
記憶部221は、種々の情報の格納及び取り出しを可能にする。記憶部221は、例えば、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの半導体メモリ、ハードディスクドライブ、又はSSD等の記憶装置によって実現される。
上位ECU220、左転舵ECU230L及び右転舵ECU230Rは、CPU(Central Processing Unit)又はDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサ及びメモリを備えるマイクロコンピュータにより構成されてもよい。メモリは、RAM等の揮発性メモリ、及び、ROM等の不揮発性メモリであってもよく、記憶部221であってもよい。上位ECU220、左転舵ECU230L及び右転舵ECU230Rの一部又は全部の機能は、CPUがRAMを作業用のメモリとして用いてROMに記録されたプログラムを実行することによって達成されてもよい。
次いで、上位ECU220、左転舵ECU230L及び右転舵ECU230Rの詳細を説明する。図13は、図12の上位ECU220の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図13に示すように、上位ECU220は、取得部220aと、目標ヨーレート決定部220bと、失陥検出部220cとを含む。取得部220aは、操舵角センサ210によって検出された操舵角、車速センサ212によって検出された車両201の速度、IMU213によって検出された車両201のヨーレート(実ヨーレートとも称す)を取得する。つまり、取得部220aは、実ヨーレート取得部の一例である。取得部220aは、操舵角センサ210から操舵角を取得することによって、ステアリングホイール202の回転シャフトの回転角を取得する。なお、取得部220aは、左転舵ECU230L及び右転舵ECU230Rから左転舵輪203L及び右転舵輪203Rの実転舵角を取得するとともに、車速センサ212によって検出された車両201の速度を取得し、当該実転舵角及び車両201の速度に基づいて車両201の実ヨーレートを算出し、取得してもよい。
目標ヨーレート決定部220bは、左転舵機構204L及び右転舵機構204Rそれぞれに対応した目標ヨーレートを決定する。具体的には、目標ヨーレート決定部220bは、取得部220aによって取得された転舵角、車速センサ212によって検出された車両201の速度、IMU213によって検出された実ヨーレート等を用いて、目標ヨーレートを算出する。
失陥検出部220cは、左転舵機構204L及び右転舵機構204Rの少なくとも一方が失陥したか否かを判定し、その判定結果を示す失陥情報を左転舵ECU230L及び右転舵ECU230Rに送信する。失陥情報は、駆動信号に含まれる。ここで、転舵機構の失陥とは、転舵輪に対する転舵角制御が正常に行えないことを意味する。転舵機構の失陥には、例えばアクチュエータのトルクが喪失した状態、転舵輪のタイヤ性能が低下した状態などが含まれる。
失陥検出部220cは、左転舵機構204Lの失陥の有無を判断する際には、当該左転舵機構204Lの目標転舵角と、左転舵角センサ211Lによって検出される左実転舵角との偏差(転舵角偏差)が所定の閾値以上である状態が所定時間継続された場合に、失陥が有りと判断する。一方、失陥検出部220cは、右転舵機構204Rの失陥の有無を判断する際には、当該右転舵機構204Rの目標転舵角と、右転舵角センサ211Rによって検出される右実転舵角との偏差(転舵角偏差)が所定の閾値以上である状態が所定時間継続された場合に、失陥が有りと判断する。失陥の判断に転舵角偏差を用いることで、転舵軸を回転させるための物理的な構造の異常を起因とした失陥の有無を判断することができる。
なお、失陥の有無の判断には、周知のその他の手法を採用することが可能である。例えば、転舵機構のアクチュエータに対する目標電流値と実電流値との偏差(電流偏差)を基にして失陥の有無を判断することも可能である。この場合には、アクチュエータを駆動する電気的な構造の異常を起因とした失陥の有無を判断することができる。
また、失陥検出部220cは、上位ECU220と、左転舵ECU230Lまたは右転舵ECU230Rとの間で通信できない状態が一定時間継続した場合などにも失陥が有りと判断してもよい。
上位ECU220は、取得部220aが取得した車両201の速度V、目標ヨーレート決定部220bが決定した目標ヨーレート、失陥検出部220cが作成した失陥情報などを含んだ駆動信号を作成し、左転舵ECU230L及び右転舵ECU230Rに出力する。
図12に示すように、左転舵ECU230Lは、左転舵角センサ211Lが検出する転舵角(「検出転舵角」又は「実転舵角」とも呼ぶ)を上位ECU220に出力し、上位ECU220から受け取る駆動信号に基づき、左転舵アクチュエータ205Lを動作させる。右転舵ECU230Rは、右転舵角センサ211Rが検出する実転舵角を上位ECU220に出力し、上位ECU220から受け取る駆動信号に基づき、右転舵アクチュエータ205Rを動作させる。
以下、左転舵ECU230Lについて詳細に説明する。図14は、図12の左転舵ECU230Lの機能的な構成の一例を示すブロック図である。なお、右転舵ECU230Rについては、左転舵ECU230Lと基本的に同じ構成であるのでその説明は省略する。
図14に示すように、左転舵ECU230Lは、左転舵制御部231Lと、駆動回路232Lとを備えている。左転舵制御部231Lは、駆動回路232Lを介して、左転舵アクチュエータ205Lの動作を制御する。具体的には、左転舵制御部231Lは、取得部220aによって取得される実ヨーレートγRが、上位ECU220から与えられた駆動信号に含まれる目標ヨーレートγTに等しくなるように、駆動回路232Lを制御する。駆動回路232Lは、左転舵制御部231Lによって制御され、左転舵アクチュエータ205Lに電力を供給する。駆動回路232Lは、インバータ回路で構成される。
左転舵制御部231Lは、転舵角決定部233Lと、転舵指令部234Lとを備えている。転舵角決定部233Lは、目標ヨーレート決定部220bで決定された左転舵機構204Lの目標ヨーレートに基づく制御により、左転舵機構204Lに対する目標転舵角を決定する。転舵角決定部233Lは、複数の処理機能部として機能し、ヨーレート偏差演算部241Lと、ヨーレートPI(Proportional Integral)制御部242Lと、ゲイン決定部243Lとを含んでいる。
ヨーレート偏差演算部241Lは、上位ECU220から与えられた駆動信号内の目標ヨーレートγTと、取得部220aによって取得される実ヨーレートγRとの偏差ΔγL(ヨーレート偏差)を演算する。なお、偏差ΔγL=γT−γRである。
ヨーレートPI制御部242Lは、ヨーレート偏差演算部241Lによって算出される偏差ΔγLに対して、ゲイン決定部243Lで決定されたゲインに基づいて、PI制御を行うことによって、左転舵輪203Lの目標転舵角δLを演算する。
ゲイン決定部243Lは、ヨーレートPI制御部242LでのPI制御で用いられるゲインを決定する。具体的には、ゲイン決定部243Lは、ヨーレート偏差演算部241Lで求められた偏差ΔγLと、車両201の速度Vと、失陥情報とに基づいてゲインを決定する。例えば、ゲイン決定部243Lは、偏差ΔγLと、速度Vと、失陥情報内の失陥の有無とに基づいて、PI制御で用いられる比例ゲインと、積分ゲインとを決定する。ゲイン決定部243Lは、比例ゲインテーブルと、積分ゲインテーブルとを有しており、これらのテーブルと、偏差ΔγL、速度V及び失陥情報内の失陥の有無とに基づいて比例ゲイン及び積分ゲインを決定する。
図15は、実施の形態4に係る比例ゲインテーブル及び積分ゲインテーブルを示す説明図である。図15の(a)は比例ゲインテーブルを示し、図15の(b)は積分ゲインテーブルを示している。
図15の(a)に示すように、比例ゲインテーブルは、正常時用のテーブルT11と、低速用のテーブルT12と、中速用のテーブルT13と、高速用のテーブルT14とを含んでいる。正常時用のテーブルT11は、失陥が無しの場合に用いられる。この例では、正常時用のテーブルT11は、偏差ΔγLの変化に依存せずにKplで一定となっている。低速用のテーブルT12、中速用のテーブルT13及び高速用のテーブルT14は、失陥が有りの場合に用いられる。低速用のテーブルT12は、速度Vが低速の範囲にある場合に用いられる。中速用のテーブルT13は、速度Vが中速の範囲にある場合に用いられる。高速用のテーブルT14は、速度Vが高速の範囲にある場合に用いられる。これらのテーブルT12〜T14からもわかるように、速度Vが小さくなることに伴って比例ゲインが大きくなる。また、いずれのテーブルT12〜T14において、偏差ΔγLがγc以下である場合には比例ゲインはKplで一定となっており、偏差ΔγLがγc以上である場合には比例ゲインはKphで一定となっている。いずれのテーブルT12〜T14において、偏差ΔγLがγcよりも大きく、Kplよりも小さい範囲では、偏差ΔγLの増加に伴って比例ゲインも直線状に漸増している。この傾きは、速度Vが小さくなることに伴って大きくなる。
図15の(b)に示すように、積分ゲインテーブルは、正常時用のテーブルT21と、低速用のテーブルT22と、中速用のテーブルT23と、高速用のテーブルT24とを含んでいる。正常時用のテーブルT21は、失陥が無しの場合に用いられる。低速用のテーブルT22、中速用のテーブルT23及び高速用のテーブルT24は、失陥が有りの場合に用いられる。その他の関係性については、比例ゲインテーブルと同様である。
なお、図15の例では、速度Vを三段階に分けて各段階に対してテーブルが設定されている場合を例示した。しかしながら、速度Vを二段階或いは四段階以上に分けて各段階に対してテーブルを設定してもよい。また、ゲインの決定に速度Vを考慮しなくてもよい。速度Vを考慮しない場合のテーブルは図16に示す。
図16は、実施の形態4に係る比例ゲインテーブル及び積分ゲインテーブルのその他の例を示す説明図である。図16の(a)は比例ゲインテーブルを示し、図16の(b)は積分ゲインテーブルを示している。この場合、比例ゲインテーブルは、正常時用のテーブルT31と、失陥有り用のテーブルT32とを含んでいる。正常時用のテーブルT31は、失陥が無しの場合に用いられる。この例では、正常時用のテーブルT31は、偏差ΔγLの変化に依存せずにKplで一定となっている。失陥有り用のテーブルT32、失陥が有りの場合に用いられる。失陥有り用のテーブルT32は、偏差ΔγLがγc以下である場合には比例ゲインがKplで一定となっており、偏差ΔγLがγc以上である場合には比例ゲインがKphで一定となっている。失陥有り用のテーブルT32において、偏差ΔγLがγcよりも大きく、Kplよりも小さい範囲では、比例ゲインは直線状に漸増している。
図16の(b)に示すように、積分ゲインテーブルは、正常時用のテーブルT41と、失陥用のテーブルT42とを含んでいる。正常時用のテーブルT41は、失陥が無しの場合に用いられる。失陥用のテーブルT42は、失陥が有りの場合に用いられる。その他の関係性については、比例ゲインテーブルと同様である。
上述した比例ゲインテーブル及び積分ゲインテーブルはあくまで一例である。実際には、種々の実験、シミュレーションを行うことにより、各車両201の条件に対して適切な比例ゲインテーブル及び積分ゲインテーブルを作成しておけばよい。
また、本実施の形態では、目標転舵角がPI制御によって求められる場合を例示した。しかしながら、P制御、PD制御、PID制御などのその他の制御方法によって目標転舵角を求めることも可能である。その他の制御方法を採用する場合には、ゲイン決定部243Lは、当該制御方法に適したゲインを決定すればよい。
図14に示すように転舵指令部234Lは、電流値決定部244Lと、PWM(Pulse Width Modulation)制御部245Lとを含む。
電流値決定部244Lは、ヨーレートPI制御部242Lによって算出された目標転舵角δLに基づいて、左転舵アクチュエータ205Lに流すべき電流の電流値を演算し、当該電流値を含んだ駆動指令値を生成する。
PWM制御部245Lは、駆動指令値に対応するデューティ比の左PWM制御信号を生成し、駆動回路232Lに出力する。これにより、駆動回路232Lは、駆動指令値に対応した電力を、左転舵アクチュエータ205Lに供給する。
上述の左転舵制御部231Lの各構成要素及び上位ECU220の各構成要素は、CPU又はDSP等のプロセッサ、並びに、RAM及びROM等のメモリなどからなるコンピュータシステム(図示せず)により構成されてもよい。各構成要素の一部又は全部の機能は、CPU又はDSPがRAMを作業用のメモリとして用いてROMに記録されたプログラムを実行することによって達成されてもよい。また、各構成要素の一部又は全部の機能は、電子回路又は集積回路等の専用のハードウェア回路によって達成されてもよい。各構成要素の一部又は全部の機能は、上記のソフトウェア機能とハードウェア回路との組み合わせによって構成されてもよい。
次に、実施の形態4に係る転舵装置200の動作を説明する。図17は、実施の形態4に係る転舵装置200の動作の流れの一例を示すフローチャートである。図17に示すように、ステップS1において、車両201が走行を行っている時、上位ECU220の取得部220aは、左転舵角センサ211L及び右転舵角センサ211Rによって検出された左転舵輪203L及び右転舵輪203Rの実転舵角と、操舵角センサ210によって検出された操舵角、車速センサ212によって検出された車両201の速度、及びIMU213によって検出された車両201の実ヨーレートを取得する。
ステップS2では、上位ECU220の目標ヨーレート決定部220bは、取得部220aによって取得された実転舵角、車速センサ212によって検出された車両201の速度、IMU213によって検出された実ヨーレート等を用いて、左転舵機構204L及び右転舵機構204Rそれぞれの目標ヨーレートを算出する。
ステップS3では、上位ECU220の失陥検出部220cは、左転舵機構204L及び右転舵機構204Rの少なくとも一方が失陥したか否かを判定し、その判定結果を示す失陥情報を作成する。
ステップS4では、上位ECU220は、失陥検出部220cが作成した失陥情報に、左転舵機構204L及び右転舵機構204Rの両者の失陥が含まれているか否かを判断し、含まれている場合にはステップS5に移行し、含まれていない場合にはステップS6に移行する。
ステップS5では、上位ECU220は、車両201の停車を運転者に促す、又は、ブレーキ等を作動させ車両201を停車させる。
ステップS6では、上位ECU220は、取得部220aが取得した車両201の速度V、目標ヨーレート決定部220bが決定した目標ヨーレート、失陥検出部220cが作成した失陥情報などを含んだ駆動信号を作成し、左転舵ECU230L及び右転舵ECU230Rに出力する。
ステップS7では、左転舵ECU230Lの転舵角決定部233L及び右転舵ECU230Rの転舵角決定部(図示省略)のそれぞれは、失陥情報に右転舵機構204Rの失陥が含まれているか否かを判断し、含まれている場合にはステップS8に移行し、含まれていない場合にはステップS9に移行する。
ステップS8では、右転舵機構204Rが失陥し、右転舵輪203Rの正確な転舵ができない状態であるので、右転舵ECU230Rの転舵角決定部は右転舵輪203Rの目標転舵角を決定せずに、左転舵ECU230Lの転舵角決定部233Lのみが、左転舵輪203Lの目標転舵角を決定する。この決定時における比例ゲイン及び積分ゲインは、失陥用のテーブル(低速用のテーブルT12、T22、中速用のテーブルT13、T23、高速用のテーブルT14、T24)に基づいて決定されている。
ステップS9では、左転舵ECU230Lの転舵角決定部233L及び右転舵ECU230Rの転舵角決定部のそれぞれは、失陥情報に左転舵機構204Lの失陥が含まれているか否かを判断し、含まれている場合にはステップS10に移行し、含まれていない場合にはステップS11に移行する。
ステップS10では、左転舵機構204Lが失陥し、左転舵輪203Lの正確な転舵ができない状態であるので、左転舵ECU230Lの転舵角決定部233Lは左転舵輪203Lの目標転舵角を決定せずに、右転舵ECU230Rの転舵角決定部のみが、右転舵輪203Rの目標転舵角を決定する。この決定時における比例ゲイン及び積分ゲインは、失陥用のテーブル(低速用のテーブルT12、T22、中速用のテーブルT13、T23、高速用のテーブルT14、T24)に基づいて決定されている。
ステップS11では、左転舵ECU230Lの転舵角決定部233L及び右転舵ECU230Rの転舵角決定部のそれぞれは、左転舵機構204L及び右転舵機構204Rのいずれの失陥も含まれていない正常な状態であるので、正常状態の左転舵輪203L及び右転舵輪203Rの目標転舵角を決定する。この決定時における比例ゲイン及び積分ゲインは、正常時用のテーブルT11、T21に基づいて決定されている。
ステップS12では、左転舵ECU230Lの転舵指令部234L及び/又は右転舵ECU230Rの転舵指令部(図示省略)は、決定された目標転舵角に基づく電力を、左転舵アクチュエータ205L及び/又は右転舵アクチュエータ205Rに出力する。これにより、左転舵ECU230L及び/又は右転舵ECU230Rは、左転舵輪203L及び/又は右転舵輪203Rを転舵動作させる。転舵動作時には、左転舵ECU230L及び/又は右転舵ECU230Rは、左転舵角センサ211L及び右転舵角センサ211Rによって検出される左実転舵角及び右実転舵角が、左転舵輪203L及び/又は右転舵輪203Rの目標転舵角に等しくなるように、左転舵アクチュエータ205L及び/又は右転舵アクチュエータ205Rを駆動する。
上記実施の形態4に係る転舵装置200の上位ECU220、左転舵ECU230L及び右転舵ECU230Rを含む制御装置250は、互いに機械的に接続されていない左右の転舵機構(左転舵輪203L及び右転舵輪203R)を備え且つ左右の転舵機構のそれぞれに備えられる各アクチュエータ(左転舵アクチュエータ205L及び右転舵アクチュエータ205R)の駆動力によって左右の転舵輪(左転舵輪203L及び右転舵輪203R)を個別に転舵する車両201用の転舵装置200の制御装置である。制御装置250は、左右の転舵機構それぞれに対応した目標ヨーレートに基づいて、左右の転舵機構のそれぞれに対する目標転舵角を決定する転舵角決定部(左転舵ECU230Lの転舵角決定部233L及び右転舵ECU230Rの転舵角決定部(図示省略))と、目標転舵角に対応した駆動信号を作成し、当該駆動信号を各アクチュエータに出力する転舵指令部234Lとを備えている。転舵角決定部は、左右の転舵機構のうちの一方に異常が発生した場合には、正常な転舵機構に対する目標転舵角を、左右の転舵機構の両者が正常の場合の目標転舵角とは異なるようにする。
また、上記実施の形態4に係る転舵装置200は、上記制御装置250と、左の転舵機構(左転舵機構204L)及び右の転舵機構(右転舵機構204R)とを備え、左の転舵機構は、左の転舵輪を個別に転舵するための駆動力を発生する左のアクチュエータ(左転舵アクチュエータ205L)を有し、右の転舵機構は、右の転舵輪を個別に転舵するための駆動力を発生する右のアクチュエータ(右転舵アクチュエータ205R)を有する。
ここで、一方の転舵機構に異常が発生した場合、異常の発生前後において異常が発生していない転舵機構の実転舵角が同じであっても、旋回半径が大きくなる等、車両201の旋回性能が低下する。このため、左右の転舵機構のうちの一方に異常が発生した場合には、転舵角決定部が、正常な転舵機構に対する目標転舵角を、左右の転舵機構の両者が正常の場合の目標転舵角とは異なるようにしている。これにより、異常が発生していない転舵機構の目標転舵角を、異常発生前よりも自動的に大きくすることができ、それにより、車両201の旋回半径の増加を効果的に抑制することができる。
また、制御装置250は、車両201の実際のヨーレートである実ヨーレートを取得する取得部220aを備え、転舵角決定部は、実ヨーレートと目標ヨーレートとの偏差であるヨーレート偏差(偏差ΔγL)に基づいて、目標転舵角を決定する際のフィードバック制御のゲインを変更する。
ここで、フィードバック制御のゲインを単に大きくすれば、目標ヨーレートに短時間で到達するが、過度にゲインを大きくしてしまうとオーバーシュートが発生して転舵制御が不安定となり、車両挙動も不安定となるおそれがある。一方、フィードバック制御のゲインを小さくすると、目標ヨーレートに到達するまでの時間が長くなってしまう。このため、本実施の形態では、目標転舵角を決定する際のフィードバック制御のゲインを、ヨーレート偏差に基づいて変更することで、ヨーレート偏差に対して適切なゲインを決定している。したがって、過度なゲインの増加を抑えながら、目標ヨーレートに短時間で到達させることができる。
[実施の形態5]
上記実施の形態4では、目標転舵角がフィードバック制御によって求められる場合について説明した。この実施の形態5では、目標転舵角がフィードフォワード制御によって求められる場合について説明する。なお、以下の説明において上記実施の形態4と同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略する場合がある。
図18は、実施の形態5に係る左転舵ECU230LAの機能的な構成の一例を示すブロック図である。なお、右転舵ECUについては、左転舵ECU230LAと基本的に同じ構成であるのでその説明は省略する。
図18に示すように、左転舵ECU230LAの転舵角決定部233LAは、ヨーレート制御部242LAを有している。ヨーレート制御部242LAは、目標ヨーレートγTに対してフィードフォワード制御を行うことで、目標転舵角δLを決定する。具体的には、ヨーレート制御部242LAは、上位ECU220から与えられた駆動信号内の目標ヨーレートγTと、失陥情報とに基づいてフィードフォワード制御を行って、目標転舵角δLを決定する。このフィードフォワード制御時には、ヨーレート−転舵角マップが用いられる。ヨーレート−転舵角マップは、目標ヨーレートと目標転舵角との関係を示すマップである。ヨーレート制御部242LAは、ヨーレート−転舵角マップを有している。
図19は、実施の形態5に係る左転舵機構204Lにおけるヨーレート−転舵角マップの一例を示すグラフである。図19のヨーレート−転舵角マップは、右転舵機構204Rの失陥状態に左転舵機構204Lのみで車両201を旋回走行させる場合の目標ヨーレートと目標転舵角との関係を実線L11で示し、正常時における目標ヨーレートと目標転舵角との関係を破線L12で示している。なお、本明細書では、目標転舵角及び目標ヨーレートを絶対値で表現する。以降の目標転舵角及び目標ヨーレートについても同様である。
ヨーレート制御部242LAは、失陥情報に右転舵機構204Rの失陥がない場合には、目標ヨーレートγTと破線L12に基づいて、正常時における左転舵機構204Lの目標転舵角δLを決定する。この破線L12は、目標ヨーレートγTの絶対値が大きくなるほど目標転舵角δLの絶対値が大きくなる右斜め上に傾いた直線で示されている。破線L12は、原点を基準とした点対称となっている。なお、破線L12は、指数関数的な曲線であってもよいし、直線と曲線とが組み合わされた線分であってもよい。
一方、ヨーレート制御部242LAは、失陥情報に右転舵機構204Rの失陥が含まれている場合には、目標ヨーレートγTと実線L11に基づいて、右転舵機構204Rの失陥時における左転舵機構204Lの目標転舵角δLを決定する。この実線L11は、目標ヨーレートγTの絶対値が大きくなるほど目標転舵角δLの絶対値が大きくなる、全体として右斜め上に傾いた指数関数的な曲線で示されている。
ここで、右転舵機構204Rが失陥状態のとき、車両201は、車両201の旋回方向において左転舵輪203Lが外側に位置する右転舵では、旋回能力の低下を抑えることができるが、車両201の旋回方向において左転舵輪203Lが内側に位置する左転舵では、旋回能力を大きく低下させる。この車両201の旋回能力の低下した際の左右差を抑えられるような実線L11が設定されている。具体的には、実線L11では、正常な左転舵機構204Lが内輪に対応する場合の目標転舵角δLの絶対値を、当該正常な左転舵機構204Lが外輪に対応する場合の目標転舵角δLの絶対値よりも大きくするような線分となっている。図19において二点鎖線L13は、実線L11を原点を中心に180度回転させた仮想線である。実線L11と二点鎖線L13とを比較すれば、正常な左転舵機構204Lが外輪に対応する場合の目標転舵角δLの絶対値(例えば図19における点P11)が、当該正常な左転舵機構204Lが内輪に対応する場合の目標転舵角δLの絶対値(例えば図19における点P12)よりも大きくなっていることがわかる。このような実線L11に基づいて右転舵機構204Rが失陥状態のときの左転舵機構204Lの目標転舵角δLが決定されるので、左転舵輪203Lが外輪に対応する場合と比較して内輪に対応する場合の旋回能力差を抑制することができる。
また、実線L11は、車両201の速度によって変化してもよい。図20は、実施の形態5に係る目標ヨーレート比率GγLと目標転舵角δLとの関係を速度V毎に示すグラフである。目標ヨーレート比率GγLは、内輪故障時の目標ヨーレートγrと、外輪故障時の目標ヨーレートγlとの比率の絶対値である。具体的には、GγL=|γr/γl|である。
破線L20は正常時の関係を示している。また、実線L21は速度Vが10km/hである場合の関係を示し、破線L22は速度Vが40km/hである場合の関係を示し、一点鎖線L23は速度Vが80km/hである場合の関係を示し、二点鎖線L24は速度Vが120km/hである場合の関係を示している。例えば0km/hより大きく30km/h未満を低速度域とし、30km/h以上60km/h未満を中速度域とし、60km/h以上100km/h未満を高速度域とし、例えば100km/h以上130km/h未満を超高速度域とする。許容される転舵角は速度が大きくなるほど小さくなるため、実線L21に対応する目標転舵角δLの範囲が最も広く、二点鎖線L24に対応する目標転舵角δLの範囲が最も狭い。実線L21、破線L22、一点鎖線L23及び二点鎖線L24に示すように、破線L20との交点を示す目標転舵角δLは速度Vが大きくなるほど小さくなっている。実線L21、破線L22、一点鎖線L23及び二点鎖線L24に示すように、極大値となる目標転舵角δLも速度Vが大きくなるほど小さくなっている。
この図20に示す関係が満たされるように、ヨーレート−転舵角マップの実線L11を速度V毎に設定していてもよい。具体的には、ヨーレート制御部242LAは、取得した速度Vと、図20に示すグラフとの関係を満たすように実線L11を補正してもよい。また、ヨーレート制御部242LAは、図20に示すグラフを満たす実線L11を速度毎に予め有していて、取得した速度Vに対して適切な実線L11を選択してもよい。このように、各速度に対応する実線L11は、図20に示す関係が反映されているので、いずれの速度Vにおいても、正常な左転舵機構204Lが外輪に対応する場合の目標転舵角δLの絶対値を、当該正常な左転舵機構204Lが内輪に対応する場合の目標転舵角δLの絶対値よりも大きくすることができる。
次に、右転舵機構204Rにおけるヨーレート−転舵角マップについて説明する。図21は、実施の形態5に係る右転舵機構204Rにおけるヨーレート−転舵角マップの一例を示すグラフである。図21のヨーレート−転舵角マップは、左転舵機構204Lの失陥状態に右転舵機構204Rのみで車両201を旋回走行させる場合の目標ヨーレートと目標転舵角との関係を実線L31で示し、正常時における目標ヨーレートと目標転舵角との関係を破線L32で示している。つまり、右転舵ECUのヨーレート制御部(図示省略)は、失陥情報に左転舵機構204Lの失陥がない場合には、目標ヨーレートγTと破線L32に基づいて、正常時における右転舵機構204Rの目標転舵角δRを決定する。この破線L32は、目標ヨーレートγTの絶対値が大きくなるほど目標転舵角δRの絶対値が大きくなる、右斜め上に傾いた直線で示されている。破線L32は、原点を基準とした点対称となっている。なお、破線L32は、指数関数的な曲線であってもよいし、直線と曲線とが組み合わされた線分であってもよい。
一方、右転舵ECUのヨーレート制御部(図示省略)は、失陥情報に左転舵機構204Lの失陥が含まれている場合には、目標ヨーレートγTと実線L31に基づいて、左転舵機構204Lの失陥時における右転舵機構204Rの目標転舵角δRを決定する。この実線L31は、目標ヨーレートγTの絶対値が大きくなるほど目標転舵角δRの絶対値が大きくなる、全体として右斜め上に傾いた指数関数的な曲線で示されている。
ここで、左転舵機構204Lが失陥状態のとき、車両201は、車両201の旋回方向において右転舵輪203Rが外側に位置する左転舵では、旋回能力の低下を抑えることができるが、車両201の旋回方向において右転舵輪203Rが内側に位置する右転舵では、旋回能力を大きく低下させる。この車両201の旋回能力の低下を抑えられるような実線L31が設定されている。具体的には、実線L31では、正常な右転舵機構204Rが内輪に対応する場合の目標転舵角δRの絶対値を、当該正常な右転舵機構204Rが外輪に対応する場合の目標転舵角δRの絶対値よりも大きくするような線分となっている。図21において二点鎖線L33は、原点を中心に実線L31を180度回転させた仮想線である。実線L31と二点鎖線L33とを比較すれば、正常な右転舵機構204Rが内輪に対応する場合の目標転舵角δRの絶対値(例えば図21における点P31)が、当該正常な右転舵機構204Rが外輪に対応する場合の目標転舵角δRの絶対値(例えば図21における点P32)よりも大きくなっていることがわかる。このような実線L31に基づいて左転舵機構204Lが失陥状態のときの右転舵機構204Rの目標転舵角δRが決定されるので、右転舵輪203Rが内輪に位置する場合と比較して内輪に対応する場合の旋回能力差を抑制することができる。
また、実線L31は、車両201の速度によって変化してもよい。図22は、実施の形態5に係る目標ヨーレート比率GγRと目標転舵角δRとの関係を速度V毎に示すグラフである。目標ヨーレート比率GγRは、内輪故障時の目標ヨーレートγlと、外輪故障時の目標ヨーレートγrとの比率の絶対値である。具体的には、GγR=|γl/γr|である。
破線L40は正常時の関係を示している。また、実線L41は速度Vが10km/hである場合の関係を示し、破線L42は速度Vが40km/hである場合の関係を示し、一点鎖線L43は速度Vが80km/hである場合の関係を示し、二点鎖線L44は速度Vが120km/hである場合の関係を示している。例えば0km/hより大きく30km/h未満を低速度域とし、30km/h以上60km/h未満を中速度域とし、60km/h以上100km/h未満を高速度域とし、例えば100km/h以上130km/h未満を超高速度域とする。許容される転舵角は速度が大きくなるほど小さくなるため、実線L41に対応する目標転舵角δRの範囲が最も広く、二点鎖線L44に対応する目標転舵角δRの範囲が最も狭い。実線L41、破線L42、一点鎖線L43及び二点鎖線L44に示すように、破線L40との交点を示す目標転舵角δRは速度Vが大きくなるほど小さくなっている。実線L41、破線L42、一点鎖線L43及び二点鎖線L44に示すように、極大値となる目標転舵角δRも速度Vが大きくなるほど小さくなっている。
この図22に示す関係が満たされるように、ヨーレート−転舵角マップの実線L31を速度V毎に設定していてもよい。具体的には、右転舵ECUのヨーレート制御部は、取得した速度Vと、図22に示すグラフとの関係を満たすように実線L31を補正してもよい。また、右転舵ECUのヨーレート制御部は、図22に示すグラフを満たす実線L31を速度毎に予め有していて、取得した速度Vに対して適切な実線L31を選択してもよい。このように、各速度に対応する実線L31は、図22に示す関係が反映されているので、いずれの速度Vにおいても、正常な右転舵機構204Rが内輪に対応する場合の目標転舵角δRの絶対値を、当該正常な右転舵機構204Rが外輪に対応する場合の目標転舵角δRの絶対値よりも大きくすることができる。
このように、転舵角決定部233LAは、目標ヨーレートと目標転舵角との関係を示すヨーレート−転舵角マップを有しており、決定された目標ヨーレートとヨーレート−転舵角マップとに基づいて、目標転舵角を決定する。
これによれば、ヨーレート−転舵角マップに基づいて目標転舵角を決定することができるので、目標ヨーレートに対して適切な転舵角をフィードフォワード制御によって決定することができる。
また、転舵角決定部233Lは、左右の転舵機構のうちの一方に異常が発生した場合であって、正常な転舵機構が内輪に対応する場合の目標転舵角の絶対値を、当該正常な転舵機構が外輪に対応する場合の目標転舵角の絶対値よりも大きくする。
これによれば、左右の転舵機構のうちの一方に異常が発生した場合であって、正常な転舵機構が内輪に対応した場合に、両輪正常時に対する旋回能力の低下を抑制することができる。
[ヨーレート−転舵角マップの他の例]
上記実施の形態5では、失陥した転舵機構の転舵輪に対して作用する横力については、タイヤすべり角、タイヤ垂直荷重に起因する横力を考慮して決めていたが、タイヤすべり角、タイヤ垂直荷重以外の要因(横風、路面の傾きなど)で横力が発生する場合を考慮していなかった。当該横力も旋回能力を低下させる一因でもある。このため、左右の転舵ECUにおける転舵角決定部のヨーレート制御部は、各転舵輪の横力を取得し、当該横力を基にして、ヨーレート−転舵角マップを選択してもよい。この場合、ヨーレート制御部は、予め各ケースに応じた複数のヨーレート−転舵角マップを有している。また、ヨーレート制御部は、例えば車両201に備わる周知の横力センサから各転舵輪の横力を取得してもよいし、各センサの検出結果から各転舵輪の横力を推定してもよい。
以降、転舵輪に作用する横力を考慮した場合のヨーレート−転舵角マップの例(第一の例〜第三の例)について説明する。
図23は、第一の例に係るヨーレート−転舵角マップを示す説明図である。具体的には、図23の(a)は右転舵機構204Rにおけるヨーレート−転舵角マップを示すグラフであり、図23の(b)は、左転舵機構204Lにおけるヨーレート−転舵角マップを示すグラフである。
図23の(a)において、破線L52は、左右の転舵機構が正常である場合のヨーレート−転舵角マップである。二点鎖線L53は、左転舵機構204Lの失陥状態に右転舵機構204Rのみで車両201を旋回走行させる場合であって左転舵輪203Lに横力F11が発生していない場合のヨーレート−転舵角マップである。実線L51は、第一の例に係るヨーレート−転舵角マップであり、左転舵機構204Lの失陥状態に右転舵機構204Rのみで車両201を旋回走行させる場合であって左転舵輪203Lに、旋回方向とは逆方向の横力F11が発生している場合(ケース1)のヨーレート−転舵角マップである。実線L51は、二点鎖線L53と比べると、目標転舵角の絶対値が大きく設定されている。図示しない右転舵ECUのヨーレート制御部は、取得した失陥情報及び横力に基づいて、ケース1であると判断した場合には、第一の例のヨーレート−転舵角マップ(実線L51)を選択する。右転舵のヨーレート制御部は、実線L51を用いて目標転舵角を決定するため、右転舵機構204Rに対する目標転舵角の絶対値は、横力が発生していない場合の目標転舵角の絶対値よりも大きくなる。これにより、左転舵機構204Lの失陥時におけるケース1の場合の旋回能力の低下を抑制することができる。
図23の(b)において、破線L62は、左右の転舵機構が正常である場合のヨーレート−転舵角マップである。二点鎖線L63は、右転舵機構204Rの失陥状態に左転舵機構204Lのみで車両201を旋回走行させる場合であって右転舵輪203Rに横力F12が発生していない場合のヨーレート−転舵角マップである。実線L61は、第一の例に係るヨーレート−転舵角マップであり、右転舵機構204Rの失陥状態に左転舵機構204Lのみで車両201を旋回走行させる場合であって右転舵輪203Rに、旋回方向とは逆方向の横力F12が発生している場合(ケース1)のヨーレート−転舵角マップである。実線L61は、二点鎖線L63と比べると、目標転舵角の絶対値が大きく設定されている。左転舵ECU230LAのヨーレート制御部242LAは、取得した失陥情報及び横力に基づいて、ケース1であると判断した場合には、第一の例のヨーレート−転舵角マップ(実線L61)を選択する。左転舵ECU230LAのヨーレート制御部242LAは、実線L61を用いて目標転舵角を決定するため、左転舵機構204Lに対する目標転舵角の絶対値は、横力が発生していない場合の目標転舵角の絶対値よりも大きくなる。これにより、右転舵機構204Rの失陥時におけるケース1の場合の旋回能力の低下を抑制することができる。
このように、異常となった転舵機構の転舵輪に対して旋回方向とは逆方向に横力が発生している場合には、転舵角決定部は、正常な転舵機構に対する目標転舵角の絶対値を、横力が発生していない場合の目標転舵角の絶対値よりも大きくする。これにより、異常となった転舵機構の転舵輪に対して旋回方向とは逆方向に横力が発生している場合の旋回能力の低下を抑制することができる。
図24は、第二の例に係るヨーレート−転舵角マップを示す説明図である。具体的には、図24の(a)は右転舵機構204Rにおけるヨーレート−転舵角マップを示すグラフであり、図24の(b)は、左転舵機構204Lにおけるヨーレート−転舵角マップを示すグラフである。
図24の(a)において、破線L72は、左右の転舵機構が正常である場合のヨーレート−転舵角マップである。二点鎖線L73は、左転舵機構204Lの失陥状態に右転舵機構204Rのみで車両201を旋回走行させる場合であって左転舵輪203Lに横力F21が発生していない場合のヨーレート−転舵角マップである。実線L71は、第二の例に係るヨーレート−転舵角マップであり、左転舵機構204Lの失陥状態に右転舵機構204Rのみで車両201を旋回走行させる場合であって左転舵輪203Lに、旋回方向とは同じ方向の横力F21が発生している場合(ケース2)のヨーレート−転舵角マップである。実線L71は、二点鎖線L73と比べると、目標転舵角の絶対値が小さく設定されている。図示しない右転舵ECUのヨーレート制御部は、取得した失陥情報及び横力に基づいて、ケース2であると判断した場合には、第二の例のヨーレート−転舵角マップ(実線L71)を選択する。右転舵ECUのヨーレート制御部は、実線L71を用いて目標転舵角を決定するため、右転舵機構204Rに対する目標転舵角の絶対値は、横力が発生していない場合の目標転舵角の絶対値よりも小さくなる。これにより、左転舵機構204Lの失陥時におけるケース2の場合の旋回能力の低下を抑制することができる。
図24の(b)において、破線L82は、左右の転舵機構が正常である場合のヨーレート−転舵角マップである。二点鎖線L83は、右転舵機構204Rの失陥状態に左転舵機構204Lのみで車両201を旋回走行させる場合であって右転舵輪203Rに横力F22が発生していない場合のヨーレート−転舵角マップである。実線L81は、第一の例に係るヨーレート−転舵角マップであり、右転舵機構204Rの失陥状態に左転舵機構204Lのみで車両201を旋回走行させる場合であって右転舵輪203Rに、旋回方向とは同じ方向の横力F22が発生している場合(ケース2)のヨーレート−転舵角マップである。実線L81は、二点鎖線L83と比べると、目標転舵角の絶対値が小さく設定されている。左転舵ECU230LAのヨーレート制御部242LAは、取得した失陥情報及び横力に基づいて、ケース2であると判断した場合には、第二の例のヨーレート−転舵角マップ(実線L81)を選択する。左転舵ECU230LAのヨーレート制御部242LAは、実線L81を用いて目標転舵角を決定するため、左転舵機構204Lに対する目標転舵角の絶対値は、横力が発生していない場合の目標転舵角の絶対値よりも小さくなる。これにより、右転舵機構204Rの失陥時におけるケース2の場合の旋回能力の低下を抑制することができる。
このように、異常となった転舵機構の転舵輪に対して、旋回方向とは同方向に横力が発生している場合には、転舵角決定部は、正常な転舵機構に対する目標転舵角の絶対値を、横力が発生していない場合の目標転舵角の絶対値よりも小さくする。これにより、異常となった転舵機構の転舵輪に対して旋回方向とは同方向に横力が発生している場合の旋回能力の低下を抑制することができる。
図25は、第三の例に係るヨーレート−転舵角マップを示す説明図である。具体的には、図25の(a)は左転舵機構204Lにおけるヨーレート−転舵角マップを示すグラフであり、図25の(b)は、右転舵機構204Rにおけるヨーレート−転舵角マップを示すグラフである。なお、この図25では、車両201がカント路を走行している場合におけるヨーレート−転舵角マップを示している。カント路では、旋回方向によらず、異常となった転舵輪に対して同じ方向に横力が作用する。カント路に走行しているか否かの判断は、IMU213で検出された車両201の3軸方向の加速度及び角速度等に基づいて行うことができる。
図25の(a)において、破線L92は、左右の転舵機構が正常である場合のヨーレート−転舵角マップである。二点鎖線L93は、左転舵機構204Lの失陥状態に右転舵機構204Rのみで車両201を旋回走行させる場合であって左転舵輪203Lに横力F31が発生していない場合のヨーレート−転舵角マップである。実線L91は、第三の例に係るヨーレート−転舵角マップであり、左転舵機構204Lの失陥状態に右転舵機構204Rのみで車両201を旋回走行させる場合であって左転舵輪203Lに、カント路を起因とした横力F31が発生している場合(ケース3)のヨーレート−転舵角マップである。実線L91は、二点鎖線L93と比べると、原点から右上の領域では目標転舵角の絶対値よりも小さく設定され、原点から左下の領域では目標転舵角の絶対値以上に設定されている。また、実線L91、破線L92及び二点鎖線L93は、いずれも目標ヨーレートがゼロのときに目標転舵角がマイナスとなっている。これは、カント路においては、目標ヨーレートをゼロとする場合に、傾斜の高い方向側に転舵しておく必要があるためである。
図示しない右転舵ECUのヨーレート制御部は、取得した失陥情報及び横力などに基づいて、ケース3であると判断した場合には、第三の例のヨーレート−転舵角マップ(実線L91)を選択する。右転舵ECUのヨーレート制御部は、実線L91を用いて目標転舵角を決定する。このため、右転舵機構204Rに対する目標転舵角の絶対値は、当該右転舵機構204Rが内輪に対応する場合には、横力の発生していない場合の目標転舵角の絶対値よりも大きくなる。また、右転舵機構204Rに対する目標転舵角の絶対値は、当該右転舵機構204Rが外輪に対応する場合には、横力が発生していない場合の目標転舵角の絶対値以下となる。これにより、右転舵機構204Rの失陥時におけるケース3の場合の旋回能力の低下を抑制することができる。
図25の(b)において、破線L102は、左右の転舵機構が正常である場合のヨーレート−転舵角マップである。二点鎖線L103は、右転舵機構204Rの失陥状態に左転舵機構204Lのみで車両201を旋回走行させる場合であって右転舵輪203Rに横力F32が発生していない場合のヨーレート−転舵角マップである。実線L101は、第三の例に係るヨーレート−転舵角マップであり、右転舵機構204Rの失陥状態に左転舵機構204Lのみで車両201を旋回走行させる場合であって右転舵輪203Rに、カント路を起因とした横力F32が発生している場合(ケース3)のヨーレート−転舵角マップである。実線L101は、二点鎖線L103と比べると、原点から左下の領域では目標転舵角の絶対値よりも大きく設定され、原点から右上の領域では目標転舵角の絶対値以下に設定されている。また、実線101、破線L102及び二点鎖線L103は、いずれも目標ヨーレートがゼロのときに目標転舵角がマイナスとなっている。これは、カント路においては、目標ヨーレートをゼロとする場合に、傾斜の高い方向側に転舵しておく必要があるためである。
左転舵ECU230LAのヨーレート制御部242LAは、取得した失陥情報及び横力などに基づいて、ケース3であると判断した場合には、第三の例のヨーレート−転舵角マップ(実線L101)を選択する。左転舵ECU230LAのヨーレート制御部242LAは、実線L101を用いて目標転舵角を決定する。このため、左転舵機構204Lに対する目標転舵角の絶対値は、当該左転舵機構204Lが内輪に対応する場合には、横力の発生していない場合の目標転舵角の絶対値よりも大きくなる。また、左転舵機構204Lに対する目標転舵角の絶対値は、当該左転舵機構204Lが外輪に対応する場合には、横力が発生していない場合の目標転舵角の絶対値以下となる。これにより、右転舵機構204Rの失陥時におけるケース3の場合の旋回能力の低下を抑制することができる。
このように、転舵角決定部は、車両201がカント路上を旋回する場合であって、車両201の旋回方向に対して横力が発生している場合には、横力の発生していない場合の目標転舵角の絶対値よりも小さくし、旋回方向と逆方向に横力が発生している場合には、横力が発生していない場合の目標転舵角の絶対値以上とする。これにより、カント路走行時において左右の転舵機構の一方が異常となった場合であっても旋回能力の低下を抑制することができる。
[実施の形態6]
実施の形態6では、フィードフォワード制御によって求められた目標すべり角に基づいて目標転舵角が決定される場合について説明する。なお、以下の説明において上記実施の形態4と同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略する場合がある。
図26は、実施の形態6に係る左転舵ECU230LBの機能的な構成の一例を示すブロック図である。なお、右転舵ECUについては、左転舵ECU230LBと基本的に同じ構成であるのでその説明は省略する。
図26に示すように、左転舵ECU230LBの転舵角決定部233LBは、すべり角制御部242LBと、変換部246LBとを有している。すべり角制御部242LBは、目標ヨーレートγTに対してフィードフォワード制御を行うことで、目標すべり角βLを決定する。具体的には、すべり角制御部242LBは、上位ECU220から与えられた駆動信号内の目標ヨーレートγTと、失陥情報とに基づいてフィードフォワード制御を行って、目標すべり角βLを決定する。このフィードフォワード制御時には、ヨーレート−すべり角マップが用いられる。ヨーレート−すべり角マップは、目標ヨーレートと目標すべり角との関係を示すマップである。すべり角制御部242LBは、ヨーレート−すべり角マップを有している。
図27は、実施の形態6に係る左転舵機構204Lにおけるヨーレート−すべり角マップの一例を示すグラフである。図27のヨーレート−すべり角マップは、右転舵機構204Rの失陥状態に左転舵機構204Lのみで車両201を旋回走行させる場合の目標ヨーレートと目標すべり角との関係を実線L111で示し、正常時における目標ヨーレートと目標すべり角との関係を破線L112で示している。なお、ここでは目標すべり角及び目標ヨーレートを絶対値で表現する。
すべり角制御部242LBは、失陥情報に右転舵機構204Rの失陥がない場合には、目標ヨーレートγTと破線L112に基づいて、正常時における左転舵機構204Lの目標すべり角βLを決定する。この破線L112は、目標ヨーレートγTの絶対値が大きくなるほど目標すべり角βLの絶対値が大きくなる、全体として左斜め上に傾いた指数関数的な曲線で示されている。破線L112は、原点を基準とした点対称となる曲線である。なお、破線L112は、直線であってもよいし、直線と曲線とが組み合わされた線分であってもよい。
一方、すべり角制御部242LBは、失陥情報に右転舵機構204Rの失陥が含まれている場合には、目標ヨーレートγTと実線L111に基づいて、右転舵機構204Rの失陥時における左転舵機構204Lの目標すべり角βLを決定する。この実線L111は、目標ヨーレートγTの絶対値が大きくなるほど目標転舵角δLの絶対値が大きくなる、全体として左斜め上に傾いた指数関数的な曲線で示されている。
また、実線L111は、車両201の速度によって変化してもよい。図28は、実施の形態6に係る目標ヨーレート比率GγLと目標すべり角βLとの関係を速度V毎に示すグラフである。目標ヨーレート比率GγLは、内輪故障時の目標ヨーレートγrと、外輪故障時の目標ヨーレートγlとの比率の絶対値である。具体的には、GγL=|γr/γl|である。
破線L120は正常時の関係を示している。また、実線L121は速度Vが10km/hである場合の関係を示し、破線L122は速度Vが40km/hである場合の関係を示し、一点鎖線L123は速度Vが80km/hである場合の関係を示し、二点鎖線L124は速度Vが120km/hである場合の関係を示している。例えば0km/hより大きく30km/h未満を低速度域とし、30km/h以上60km/h未満を中速度域とし、60km/h以上100km/h未満を高速度域とし、例えば100km/h以上130km/h未満を超高速度域とする。実線L121、破線L122、一点鎖線L123及び二点鎖線L124に示すように、極大値となる目標すべり角βLは速度Vが大きくなるほど大きくなっている。
この図28に示す関係が満たされるように、ヨーレート−すべり角マップの実線L111を速度V毎に設定していてもよい。具体的には、すべり角制御部242LBは、取得した速度Vと、図28に示すグラフとの関係を満たすように実線L111を補正してもよい。また、すべり角制御部242LBは、図28に示すグラフを満たす実線L111を速度毎に予め有していて、取得した速度Vに対して適切な実線L111を選択してもよい。このように、各速度に対応する実線L111は、図28に示す関係が反映されているので、いずれの速度Vにおいても、適切な目標すべり角βLを決定することができる。
変換部246LBは、すべり角制御部242LBが決定した目標すべり角βLを目標転舵角δLに変換する。変換部246LBは、周知の変換方法により目標すべり角βLを目標転舵角δLに変換する。例えば、変換部246LBは下記の式(1)に基づいて目標すべり角βLを目標転舵角δLに変換する。
ここで、βLは目標すべり角であり、βcarは車体横すべり角であり、Vは車両の速度であり、γは実ヨーレートであり、lfは車体重心から前輪中心までの距離であり、dfはフロントトレッドである。
なお、目標すべり角βRを目標転舵角δRに変換する際には以下の式(2)が用いられる。
次に、右転舵機構204Rにおけるヨーレート−すべり角マップについて説明する。図29は、実施の形態6に係る右転舵機構204Rにおけるヨーレート−すべり角マップの一例を示すグラフである。図29のヨーレート−すべり角マップは、左転舵機構204Lの失陥状態に右転舵機構204Rのみで車両201を旋回走行させる場合の目標ヨーレートと目標すべり角との関係を実線L131で示し、正常時における目標ヨーレートと目標すべり角との関係を破線L132で示している。つまり、右転舵ECUのすべり角制御部(図示省略)は、失陥情報に左転舵機構204Lの失陥がない場合には、目標ヨーレートγTと破線L132に基づいて、正常時における右転舵機構204Rの目標すべり角βRを決定する。この破線L132は、目標ヨーレートγTの絶対値が大きくなるほど目標転舵角δRの絶対値が大きくなる、左斜め上に傾いた指数関数的な曲線で示されている。破線L132は、原点を基準とした点対称となる曲線である。なお、破線L132は、直線であってもよいし、直線と曲線とが組み合わされた線分であってもよい。
一方、右転舵ECUのすべり角制御部(図示省略)は、失陥情報に左転舵機構204Lの失陥が含まれている場合には、目標ヨーレートγTと実線L131に基づいて、左転舵機構204Lの失陥時における右転舵機構204Rの目標すべり角βRを決定する。この実線L131は、目標ヨーレートγTの絶対値が大きくなるほど目標すべり角βRの絶対値が大きくなる、全体として左斜め上に傾いた指数関数的な曲線で示されている。
また、実線L131は、車両201の速度によって変化してもよい。図30は、実施の形態6に係る目標ヨーレート比率GγRと目標すべり角βRとの関係を速度V毎に示すグラフである。目標ヨーレート比率GγRは、内輪故障時の目標ヨーレートγlと、外輪故障時の目標ヨーレートγrとの比率の絶対値である。具体的には、GγR=|γl/γr|である。
破線L140は正常時の関係を示している。また、実線L141は速度Vが10km/hである場合の関係を示し、破線L142は速度Vが40km/hである場合の関係を示し、一点鎖線L143は速度Vが80km/hである場合の関係を示し、二点鎖線L144は速度Vが120km/hである場合の関係を示している。例えば0km/hより大きく30km/h未満を低速度域とし、30km/h以上60km/h未満を中速度域とし、60km/h以上100km/h未満を高速度域とし、例えば100km/h以上130km/h未満を超高速度域とする。実線L141、破線L142、一点鎖線L143及び二点鎖線L144に示すように、極大値となる目標すべり角βRも速度Vが大きくなるほど大きくなっている。
この図30に示す関係が満たされるように、ヨーレート−すべり角マップの実線L131を速度V毎に設定していてもよい。具体的には、右転舵ECUのすべり角制御部は、取得した速度Vと、図30に示すグラフとの関係を満たすように実線L131を補正してもよい。また、右転舵ECUのすべり角制御部は、図30に示すグラフを満たす実線L131を速度毎に予め有していて、取得した速度Vに対して適切な実線L131を選択してもよい。このように、各速度に対応する実線L131は、図30に示す関係が反映されているので、いずれの速度Vにおいても、適切な目標すべり角βRを決定することができる。
右転舵ECUの変換部(図示省略)は、当該右転舵ECUのすべり角制御部が決定した目標すべり角βRを目標転舵角δRに変換する。変換部は、周知の変換方法により目標すべり角βRを目標転舵角δRに変換する。例えば、変換部は上記の式(1)に基づいて目標すべり角βRを目標転舵角δRに変換する。
このように、転舵角決定部233LBは、目標ヨーレートと目標すべり角との関係を示すヨーレート−すべり角マップを有しており、決定された目標ヨーレートと、ヨーレート−すべり角マップとに基づいて目標すべり角を求め、当該目標すべり角に基づいて目標転舵角を決定する。
これによれば、ヨーレート−すべり角マップに基づいて目標転舵角を決定することができるので、目標ヨーレートに対して適切な転舵角をフィードフォワード制御によって決定することができる。
[その他]
以上、本発明の1つ以上の態様に係る転舵装置等について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の1つ以上の態様の範囲内に含まれてもよい。
例えば、上記実施の形態では、取得部220aが操舵角センサ210の検出結果に基づいて目標ヨーレートを算出することで当該目標ヨーレートを取得する場合を例示した。しかし、取得部としては、目標ヨーレートを取得できるのであれば、如何なる態様であってもよい。例えば、車両201が自動運転車である場合には、走行中に作成される走行経路に基づいて目標ヨーレートを算出して取得する取得部であってもよい。つまり、この場合には、取得部は、目標ヨーレート取得部の一例となる。このように、制御装置は、自動走行中に作成される走行経路に基づいて、目標ヨーレートを算出して取得する目標ヨーレート取得部を備え、転舵角決定部は、目標ヨーレート取得部が取得した目標ヨーレートに基づいて左右の転舵機構のそれぞれに対する目標転舵角を決定してもよい。したがって、自動走行時においても、互いに連結されていない左右の転舵機構の一方に異常が発生した場合に、車両の旋回能力の低下を抑えることが可能となる。
また、取得部とは別の算出部が算出した目標ヨーレートを、取得部が取得してもよい。なお、目標ヨーレートは、目標旋回半径を含んでもよい。つまり、上記実施の形態の目標ヨーレートに変えて、目標旋回半径を使用してもよく、この場合、実ヨーレートは実旋回半径となる。
また、上記実施の形態では、転舵角決定部が左転舵ECU230L及び右転舵ECU230Rのそれぞれに設けられている場合を例示した。しかし、転舵角決定部は上位ECUに設けられていてもよい。
また、上記実施の形態5で述べたケース1、ケース2、ケース3での目標転舵角の決定条件は、実施の形態4または実施の形態6に対しても適用することができる。具体的には、実施の形態4または実施の形態5に係る転舵角決定部は、ケース1では、正常な転舵機構に対する目標転舵角の絶対値を、横力が発生していない場合の目標転舵角の絶対値よりも大きくしてもよい。また、実施の形態4または実施の形態5に係る転舵角決定部は、ケース2では、正常な転舵機構に対する目標転舵角の絶対値を、横力が発生していない場合の目標転舵角の絶対値よりも小さくしてもよい。また、実施の形態4または実施の形態5に係る転舵角決定部は、ケース3では、車両がカント路上を旋回する場合であって、車両201の旋回方向に対して横力が発生している場合には、横力の発生していない場合の目標転舵角の絶対値よりも小さくし、旋回方向と逆方向に横力が発生している場合には、横力が発生していない場合の目標転舵角の絶対値以上としてもよい。
また、上述したように、本発明の技術は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読取可能な記録ディスク等の記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、例えばCD−ROM等の不揮発性の記録媒体を含む。
例えば、上記実施の形態に含まれる各処理部は典型的には集積回路であるLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)として実現される。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全てを含むように1チップ化されてもよい。
また、集積回路化はLSIに限るものではなく、専用回路又は汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後にプログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、又はLSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。
なお、上記実施の形態において、各構成要素は、専用のハードウェアで構成されるか、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPUなどのプロセッサ等のプログラム実行部が、ハードディスク又は半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
また、上記構成要素の一部又は全部は、脱着可能なIC(Integrated Circuit)カード又は単体のモジュールから構成されてもよい。ICカード又はモジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAM等から構成されるコンピュータシステムである。ICカード又はモジュールは、上記のLSI又はシステムLSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、ICカード又はモジュールは、その機能を達成する。これらICカード及びモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。