本発明の実施形態によるセルロース系樹脂は、セルロースのヒドロキシ基の水素原子が、炭素数14以上の直鎖状脂肪族アシル基である長鎖成分と、炭素数2のアシル基及び炭素数3のアシル基の少なくとも一方である短鎖成分で置換されたセルロース誘導体である。
前記セルロース系樹脂中の窒素含有量が、300ppm以上2000ppm以下であることが好ましい。このセルロース系樹脂中の窒素成分は、セルロース系樹脂中の塩基性窒素含有基に由来するものであることが好ましく、この塩基性窒素含有基がピリジン環含有基であることがより好ましい。
このような本実施形態によれば、優れた機械特性および耐熱分解性を有するセルロース系樹脂を得ることができる。優れた機械特性(特に衝撃強度、曲げ強度)を得る観点から、セルロース系樹脂中の窒素含有量は300ppm以上が好ましく、400ppm以上がより好ましく、優れた耐熱分解性を得る点からは、窒素含有量が2000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、800ppm以下がさらに好ましい。
本実施形態によるセルロース系樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したGPCクロマトグラム(溶出曲線)において(標準試料:ポリスチレン)、分子量900万以上の領域にサブピークもしくはリーディングを有し、当該領域に相当する高分子量成分の含有比率(エリア面積比)が2〜10%の範囲にあることが好ましい。このような高分子量成分を適度に含有することにより、優れた機械特性と耐熱分解性を有することができる。
ここで、前記サブピークは、前記高分子量成分より低分子量側にある最も高いピーク高さをもつピーク(メインピーク)に対して低いピーク高さをもつピークを意味する。前記リーディングは、前記メインピークが高分子量側でブロードになることを意味する。
このメインピークのピークトップ分子量は、3万〜100万の範囲にあることが好ましく、5万〜50万の範囲にあることがより好ましい。
前記高分子量成分のエリア面積比は、前記GPCクロマトグラム(溶出曲線)のエリア面積(100%)中の前記サブピークもしくはリーディングの領域の面積の比率(%)である。このサブピークもしくはリーディングの領域は、前記GPCクロマトグラム(溶出曲線)の分子量900万の位置で垂直分割した高分子量側の領域とする。
GPC測定の条件は後述の実施例におけるGPC測定の条件に設定することができる。
また、本実施形態によるセルロース系樹脂は、前記長鎖成分による置換度(DSLo)が0.2〜0.6の範囲にあることが好ましく、0.3〜0.5の範囲にあることがより好ましい。また前記短鎖成分による置換度(DSSh)が1.7〜2.8の範囲にあることが好ましく、1.7〜2.3の範囲にあることがより好ましい。DSLoとDSShの合計が2.1以上が好ましい。
長鎖成分の導入量を増やすことにより、セルロース系樹脂の熱可塑性や耐水性を高めることができる。また、セルロース系樹脂が長鎖成分と短鎖成分とを特定の比率で有することにより、曲げ強度や、弾性率、耐衝撃性等の機械特性を高めることができる。このような観点から、長鎖成分である直鎖状脂肪族アシル基の炭素数は、14以上が好ましく、14〜22の範囲にあることがより好ましく、特に16〜20の範囲にあることが好ましい。また、このような直鎖状脂肪族アシル基としては直射状飽和脂肪族アシル基がより好ましい。具体的には、前記長鎖成分が、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸から選ばれる少なくとも一種の直鎖状飽和脂肪酸のアシル基部分であることが好ましい。
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂においては、流動性、耐水性、耐衝撃性等の観点から、グルコース単位あたりのヒドロキシ基の平均個数(水酸基残存度、DSOH)が0.9以下であることが好ましい。
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂は、その成形体のアイゾット衝撃強度が5.0kJ/m2以上であることが好ましく、また、熱分解温度(窒素雰囲気下における1%質量減少温度)が280℃以上であることが好ましい。このアイゾット衝撃強度は、JIS K7110に準拠して測定したノッチ付きアイゾット衝撃強度である。
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂の製造方法においては、塩基性窒素含有有機化合物の存在下、100℃以下の加温下で、有機溶媒中に分散されたパルプと、炭素数2〜3のアシル基を導入する短鎖アシル化剤と、炭素数14以上のアシル基を導入する長鎖アシル化剤とを反応させて、該パルプを構成するセルロースのヒドロキシ基をアシル化する。その後、得られたセルロース系誘導体を、少なくとも有機溶媒を含む溶液から分離する。
前記有機溶媒が、セルロースに対する保液率が90体積%以上の溶媒であることが好ましい。このような有機溶媒(S)としてN−メチルピロリドンを用いることが好ましい。また、前記塩基性窒素含有有機化合物(R)が、セルロースに対する保液率が90体積%以上の有機溶媒であることが好ましい。この塩基性窒素含有有機化合物(R)としてピリジンを用いることが好ましい。また、前記アシル化工程の反応温度は50〜100℃が好ましく、70〜100℃がより好ましく、75〜100℃がさらに好ましい。また、前記有機溶媒(S)と前記塩基性窒素含有有機化合物(R)の合計量は、前記パルプの乾燥質量に対して10〜50倍量であることが好ましい。前記塩基性窒素含有有機化合物(R)と前記有機溶媒(S)の混合比率(質量比R/S)が5/95〜30/70の範囲にあることが好ましい。前記パルプは、重合度が100〜3000の範囲にあるものが好ましく、300〜700の範囲にあるものがより好ましい。
(セルロース)
セルロースは、下記式(1)で示されるβ−D−グルコース分子(β−D−グルコピラノース)がβ(1→4)グリコシド結合により重合した直鎖状の高分子である。セルロースを構成する各グルコース単位は三つのヒドロキシ基を有している(式中のnは自然数を示す)。本発明の実施形態では、このようなセルロースに、これらのヒドロキシ基を利用して、短鎖有機基および長鎖有機基を導入することができる。
セルロースは、草木類の主成分であり、草木類からリグニン等の他の成分を分離処理することによって得られる。このように得られたものの他、セルロース含有量の高い綿(例えばコットンリンター)やパルプ(例えば木材パルプ)を精製してあるいはそのまま用いることができる。原料に用いるセルロース又はその誘導体の形状やサイズ、形態は、反応性や固液分離、取り扱い性の点から、適度な粒子サイズ、粒子形状を持つ粉末形態のものを用いることが好ましい。例えば、直径1〜100μm(好ましくは10〜50μm)、長さ10μm〜100mm(好ましくは100μm〜10mm)の繊維状物あるいは粉末状物を用いることができる。
セルロースの重合度は、重合度(DP)が100〜3000の範囲にあることが好ましく、300〜700がより好ましく、400〜600がさらに好ましい。このセルロース(長鎖成分と短鎖成分の導入前)の重合度(DP)は、JIS P8215に準拠して極限粘度数[η]を測定し、下記式に従って算出した値である。
[η]=1.67×DP0.71
重合度(DP)が低すぎると、製造した樹脂の耐衝撃性が十分でない場合がある。逆に、重合度(DP)が高すぎると、製造した樹脂の流動性が低くなりすぎて成形に支障をきたす場合がある。
セルロースには、類似の構造物、例えばキチンやキトサン、ヘミセルロース、キシラン、グルコマンナン、カードラン、パラミロン等が混合されていてもよく、混合されている場合は、混合物全体に対して30質量%以下が好ましく、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
上記説明はセルロースを対象としているが、この類縁体として、通常の非食用の多糖類、すなわち、キチン、キトサン、ヘミセルロース、キシラン、グルコマンナン、カードラン、パラミロンなどにも、本発明は適用可能である。
(長鎖成分)
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂は、セルロースのヒドロキシ基を利用して、前記短鎖成分に加えて前記長鎖成分が導入されたものである。
このような長鎖成分は、セルロース中のヒドロキシ基と長鎖反応剤とを反応させることで導入することができる。この長鎖成分は、セルロースのヒドロキシ基の水素原子に代えて導入されたアシル基に相当する。また長鎖成分の長鎖有機基とセルロースのピラノース環は、エステル結合を介して結合することができる。この導入されたアシル基は炭素数14以上の直鎖状脂肪族アシル基であり、炭素数14〜30の直鎖状脂肪族アシル基が挙げられ、炭素数14〜22の直鎖状脂肪族アシル基が好ましく、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸のカルボキシル基からOHを除いた基(テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イコサノイル基、ドコサノイル基)がより好ましい。
長鎖反応剤は、セルロース中のヒドロキシ基と反応できる官能基を少なくとも一つ持つ化合物であり、例えばカルボキシル基、カルボン酸ハライド基、又はカルボン酸無水物基を有する化合物を用いることができる。
長鎖反応剤には、例えば、その炭素数が14以上の長鎖カルボン酸、およびその長鎖カルボン酸の酸ハライド又は酸無水物を用いることができる。これらのカルボン酸又はカルボン酸誘導体の飽和度ができるだけ高いことが望ましく、直鎖状脂肪酸、その酸ハライド又は無水物がより好ましく、直鎖状飽和脂肪酸、その酸ハライド又は無水物がより好ましい。長鎖カルボン酸の具体例としては、例えば、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等の直鎖状飽和脂肪酸が挙げられ、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸が好ましい。さらに長鎖カルボン酸としては、環境調和性の観点からは、天然物から得られるカルボン酸であることが好ましい。
この長鎖成分は、炭素数14以上のもの好ましく、16以上のものが特に好ましい。長鎖成分導入時の反応効率の点から、炭素数が48以下のものが好ましく、36以下のものがより好ましく、24以下のものが特に好ましい。この長鎖成分は一種単独であってもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
また、この長鎖成分は、一部不飽和結合を含んでいてもよい。その際のヨウ素価としては90以下が好ましく、50以下がより好ましく、20以下がさらに好ましい。ヨウ素価が高すぎると、得られるセルロース系樹脂の耐熱分解性が低下する場合がある。
セルロースのグルコース単位あたりの導入された長鎖成分の平均個数(DSLo)(長鎖成分導入比率)、すなわちグルコース単位あたりの長鎖成分(炭素数14以上の直鎖状脂肪族アシル基)で置換されたヒドロキシ基の平均個数(水酸基置換度)は、短鎖成分の構造および導入量、長鎖成分の構造、目的の生成物に要求される物性、製造時の効率に応じて、例えば0.2〜0.6の範囲に設定することができる。より十分な長鎖成分の導入効果を得る点からDSLoは、0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、製造時の効率や耐久性(強度、耐熱性など)の観点からは、0.6以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
上述の長鎖成分をセルロース又はその誘導体に導入することにより、その特性を改質することができ、例えば耐水性や熱可塑性、機械特性を向上することができる。
(短鎖成分)
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂は、セルロースのヒドロキシ基を利用して、前記長鎖成分に加えて、前記短鎖成分が導入されたものである。短鎖成分として、アセチル基もしくはプロピオニル基が好ましい。またはアセチル基とプロピオニル基の両方が導入されてもよい。
このような短鎖成分は、セルロース中のヒドロキシ基と短鎖反応剤とが反応することで導入することができる。この短鎖成分は、セルロースのヒドロキシ基の水素原子に代えて導入されたアシル基部分に相当する。また短鎖成分の短鎖有機基(メチル基またはエチル基)とセルロースのピラノース環は、エステル結合を介して結合することができる。
この短鎖反応剤は、セルロース中のヒドロキシ基と反応できる官能基を少なくとも一つ持つ化合物であり、例えばカルボキシル基、カルボン酸ハライド基、カルボン酸無水物基を有する化合物が挙げられる。具体的には、脂肪族モノカルボン酸、その酸ハロゲン化物、その酸無水物が挙げられる。
この短鎖成分は、その炭素数が2又は3であることがより好ましく、セルロースのヒドロキシ基の水素原子が炭素数2又は3のアシル基(アセチル基またはプロピオニル基)で置き換えられていることが好ましい。
セルロースのグルコース単位あたりの導入された短鎖成分の平均個数(DSSh)(短鎖成分導入比率)、すなわちグルコース単位あたりの短鎖成分(アセチル基または/及びプロピオニル基)で置換されたヒドロキシ基の平均個数(水酸基置換度)は、3≧DSLo+DSShの関係式を満たし、DSShは、1.7〜2.8の範囲に設定することができる。短鎖成分の導入効果を十分に得る点から、DSShは1.7以上が好ましく、特に、耐水性、流動性などの観点からは、DSShは1.9以上が好ましい。短鎖成分の導入効果を得ながら、長鎖成分の効果を十分に得る点から、DSShは2.6以下が好ましく、2.3以下がより好ましい。
上述の短鎖成分をセルロース又はその誘導体に導入することにより、セルロースの分子間力(分子間結合)を低減することができ、弾性率等の機械特性や、耐薬品性、表面硬度の物性を高めることができる。
長鎖成分の比率と短鎖成分の比率の比(DSSh/DSLo)は4以上12以下であることが好ましい。この比が4未満の場合は、材料が柔軟になりすぎて、強度・耐熱性が低下する傾向があり、逆に12を上回ると熱可塑性が不足して成形用途に不適となる。これらの点から、DSSh/DSLoは4.5以上がより好ましく、10以下がより好ましく、7.5以下がさらに好ましい。
長鎖成分の比率と短鎖成分の比率の合計(DSLo+DSSh)は、長鎖成分と短鎖成分の十分な導入効果を得る点から、2.1以上が好ましく、2.2以上がより好ましく、2.25以上がさらに好ましく、また、機械特性等の観点から、2.6以下が好ましく、2.55以下がより好ましい。
(セルロース系樹脂のヒドロキシ基の残存量)
ヒドロキシ基の残存量が多いほど、セルロース系樹脂の最大強度や耐熱性が大きくなる傾向がある一方で、吸水性が高くなる傾向がある。一方、ヒドロキシ基の変換率(置換度)が高いほど、吸水性が低下し、可塑性や破断歪みが増加する傾向がある一方で、最大強度や耐熱性が低下する傾向がある。これらの傾向等を考慮して、ヒドロキシ基の変換率を適宜設定することができる。
最終生成セルロース系樹脂のグルコース単位あたりの残存するヒドロキシ基の平均個数(水酸基残存度、DSOH)は、0〜0.9の範囲に設定することができる(なお、DSLo+DSSh+DSOH=3である)。ヒドロキシ基は、最大強度等の機械特性や耐熱性等の耐久性の観点から、残存していてもよく、例えば、水酸基残存度は0.01以上に設定でき、さらに0.1以上に設定できる。特に、流動性の観点からは、最終生成セルロース系樹脂の水酸基残存度は0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、流動性に加えて耐水性などの観点から0.9以下が好ましく、さらに耐衝撃性などの観点から0.6以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
(セルロース系樹脂の窒素含有量)
前記セルロース系樹脂には、分子構造上、窒素は存在しない。しかし実際には、セルロースや長鎖成分などの原料自体、もしくは後述するセルロースの活性化や長鎖・短鎖成分の導入時に使用する有機溶媒に由来する窒素が微量存在する。発明者らはこの中で特に、長鎖・短鎖成分の導入時に使用する有機溶媒(特にピリジンなどの含窒素有機溶媒)に由来する窒素含有量がセルロース系樹脂の機械特性及び耐熱分解性に影響を及ぼすことを見出した。
すなわち、含窒素有機溶媒分子がセルロース系樹脂の残存水酸基やセルロース還元末端アルデヒド基の一部にわずかに配位して疑似架橋点となると考えられ、それによって複数のセルロース系樹脂分子が凝集体を形成し、一部の分子量が上昇して耐衝撃性等の機械特性が向上すると考えられる。具体的には、セルロースの主に還元末端と例えばピリジンが作用することでピリジン環含有基が生成し、このピリジン環含有基を介して主にセルロース間の架橋が形成されることで、高分子量成分が形成されると考えられる。一方でこの架橋点は、セルロース系樹脂の耐熱分解性に影響するため、セルロース系樹脂の耐熱分解性を高めるためにはこの架橋点を一定以下のレベルに抑制する必要がある。
最終生成セルロース系樹脂の窒素含有量は、機械特性(特に耐衝撃性)の観点から、300ppm以上が好ましい。一方で、耐熱分解性の観点から、2000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。窒素含有量が低すぎると、セルロース系樹脂分子による凝集体が形成されずに耐衝撃性が低下する。逆に、窒素含有量が高すぎると、熱分解しやすい架橋部分が増加してセルロース系樹脂の耐熱分解性が低下する。
最終生成セルロース系樹脂の窒素含有量は、上記の配位によるもの以外に、樹脂の洗浄が不十分で遊離の有機溶媒が残存している場合にも影響を受ける。しかしこのような残存溶媒は、成形(加熱溶融)時に揮発して上記の効果を得ることはできない。さらに、残存溶媒による物性低下などが起きる可能性がある。従って残存溶媒の影響で窒素含有量が300ppm以上2000ppm以下の範囲に該当したとしても、十分な機械特性や耐熱分解性を得ることはできない。
(セルロースの活性化)
セルロースに長鎖成分と短鎖成分を導入するための反応工程の前に、セルロースの反応性を上げるために、活性化処理(前処理工程)を行うことができる。この活性化処理は、セルロースのアセチル化の前に通常行われる活性化処理を適用できる。
活性化処理は、例えば、セルロースに親和する活性化溶媒をセルロースに対して噴霧する方法、あるいはセルロースを活性化溶媒に浸漬する方法(浸漬法)などの湿式法で、セルロースと当該溶媒とを接触させ、セルロースを膨潤させる。これにより、セルロース分子鎖間に反応剤が浸入しやすくなるため(溶媒や触媒を用いている場合はこれらとともに浸入しやすくなるため)、セルロースの反応性が向上する。ここで、活性化溶媒は、例えば、水;酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ステアリン酸などのカルボン酸;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール;ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、エタノールアミン、ピリジンなどの含窒素化合物;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド化合物が挙げられ、これらの2種以上を組み合わせて使用できる。特に好ましくは、水、酢酸、ピリジン、ジメチルスルホキシドを使用できる。
長鎖脂肪酸中にセルロースを投入し、活性化を行うこともできる。長鎖脂肪酸の融点が室温以上である場合、当該融点以上に加熱することもできる。
活性化溶媒の使用量は、セルロース100質量部に対して例えば10質量部以上、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上に設定できる。セルロースを活性化溶媒に浸漬する場合は、セルロースに対して質量で例えば1倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上に設定することができる。前処理後の活性化溶媒の除去の負担や材料コスト低減等の点から300倍以下が好ましく、100倍以下がより好ましく、50倍以下がさらに好ましい。
活性化処理の温度は、例えば0〜100℃の範囲で適宜設定できる。活性化の効率やエネルギーコスト低減の観点から10〜40℃が好ましく、15〜35℃がより好ましい。
長鎖脂肪酸を溶融させた中にセルロースを投入する場合、当該長鎖脂肪酸の融点以上に加熱することもできる。
活性化処理の時間は、例えば0.1時間〜72時間の範囲で適宜設定できる。十分な活性化を行い且つ処理時間を抑える観点から、0.1時間〜24時間が好ましく、0.5時間〜3時間がより好ましい。
活性化処理後、過剰な活性化溶媒は吸引濾過、フィルタープレス、圧搾などの固液分離方法により除去することができる。
活性化処理後、セルロースに含まれる活性化溶媒を反応時に用いる溶媒に置換することができる。例えば、活性化溶媒を反応時に用いる溶媒に代えて上記の活性化処理の浸漬法に従って置換処理を行うことができる。
(長鎖成分よび短鎖成分の導入方法)
本発明の実施形態によるセルロース誘導体(セルロース系樹脂)は、以下に示す方法によって製造することができる。
本発明の実施形態によるセルロース誘導体の製造方法は、有機溶媒中、酸捕捉成分の存在下、加温下で、この有機溶媒中に分散されたパルプと短鎖反応剤(短鎖アシル化剤)および長鎖反応剤(長鎖アシル化剤)とを反応させて、このパルプを構成するセルロースのヒドロキシ基をアシル化する工程を有する。短鎖反応剤(短鎖アシル化剤)と長鎖反応剤(長鎖アシル化剤)は溶媒に溶解していることが好ましい。酸捕捉成分を溶媒として用いることもできる。
セルロースに長鎖成分を導入するための長鎖反応剤としては、前記の直鎖状脂肪酸の酸塩化物が好ましく、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。セルロースに短鎖成分を導入するための短鎖反応剤としては、塩化アセチル、無水酢酸、塩化プロピオニルから選ばれるものが好ましく、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
長鎖反応剤および短鎖反応剤の添加量は、目的のセルロース誘導体の長鎖成分による置換度(DSLo)及び短鎖成分による置換度(DSSh)に応じて設定することができる。短鎖反応剤が多すぎると、長鎖成分の結合量が低下し、長鎖成分による置換度(DSLo)が低下する傾向がある。
有機溶媒としては、セルロースに対する保液率が90体積%以上の溶媒を用いることが好ましい。
「保液率」は以下の方法で測定することができる。
綿繊維製のろ紙(5B、40mmφ、含水率約2%)を各溶媒に室温下1hr浸漬する。浸漬前後の重量を測定し、下式に当てはめて保液率(vol%)を求める。浸漬後の試料から溶媒のしたたりがとまった時点で重量を測定した。
保液率(vol%)=
(浸漬後重量−浸漬前重量)/浸漬前重量/溶媒比重×100
上記の手法で保液率90vol%以上となる溶媒としては、水(保液率145vol%)、酢酸(保液率109vol%)、ジオキサン(保液率93vol%)、ピリジン(保液率109vol%)、N−メチルピロリドン(保液率104vol%)、N,N−ジメチルアセトアミド(保液率112vol%)、N,N−ジメチルホルムアミド(保液率129vol%)、ジメチルスルホキシド(保液率180vol%)が挙げられる。中でも特に、前述の窒素による架橋点形成の観点から、含窒素溶媒(ピリジン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド)が好ましい。
酸捕捉成分としては、副生する酸(塩酸、酢酸、プロピオン酸など)を中和する塩基であれば特に限定されるものではなく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどの金属アルコキシド;ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、トリエチルアミン、ピリジンなどの含窒素求核性化合物が挙げられ、中でも溶媒としても使用できる点でトリエチルアミンやピリジンが好ましく、ピリジンが特に好ましい。酸捕捉成分を溶媒とは別に添加する場合、反応開始時から酸捕捉成分が反応系に存在することが好ましい。酸捕捉成分が反応開始時に反応系に存在していれば、アシル化剤を添加する前に添加しても後に添加しても構わない。
酸捕捉成分の添加量は、長鎖反応剤(長鎖アシル化剤)と短鎖反応剤(短鎖アシル化剤)の合計仕込み量に対して0.1〜10当量が好ましく、0.5〜5当量がより好ましい。ただし、含窒素求核性化合物を溶媒として用いる場合はこの範囲に限定されない。酸捕捉剤の添加量が少ないとアシル化反応の効率が低下する。また、酸捕捉剤の添加量が多いとセルロースが分解して分子量が低下することがある。
このアシル化工程における反応温度は、50〜100℃が好ましく、70〜100℃がより好ましく、75〜100℃がさらに好ましい。反応時間は、2時間から5時間に設定でき、3時間から4時間に設定することが好ましい。反応温度が十分に高いと反応速度が高くできるため、比較的短い時間でアシル化反応を完了させることができ、反応効率を高めることができる。また、反応温度が上記範囲にあれば、加熱による分子量の低下を抑えることができる。
有機溶媒の量は、原料のパルプの乾燥質量に対して10〜50倍量に設定することができ、10〜40倍量(質量比)に設定することが好ましい。
(熟成工程)
上記のアシル化の工程の後、アルカリ性水溶液を加えて、加温しながら保持(熟成)することが好ましい。この熟成時の温度は25〜75℃が好ましく、40〜70℃が好ましく、熟成の時間は1〜5時間の範囲に設定でき、1〜3時間の範囲が好ましい。
アルカリ性水溶液の添加量は、使用する溶媒に対して3〜30質量%相当量に設定することができ、5〜20質量%相当量が好ましい。
アルカリ性水溶液としては、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの水溶液が挙げられ、水酸化ナトリウムの水溶液が好ましい。アルカリ性水溶液の濃度は1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
このような熟成によって一旦結合した長鎖成分と短鎖成分が部分的に加水分解し、均質な水酸基を復活させることができ、強度や耐衝撃性などの機械特性を高めることができ、また、その後の析出工程で良好な性状(微粒状)の生成物を得ることができる。
(回収工程)
長鎖成分および短鎖成が導入されたセルロース誘導体(生成物)は、通常の回収方法に従って反応溶液から回収することができ、その方法は限定されるものではないが、生成物が反応溶液に溶解していない場合は、反応溶液と生成物とを固液分離する回収方法が製造エネルギーの観点から好ましい。生成物が反応溶液に溶解ないし親和して固液分離が困難な場合は、反応溶液を留去し生成物を残留分として回収することができる。あるいは、反応溶液に、生成物に対する貧溶媒を添加することにより、析出した生成物を固液分離して回収してもよい。
反応溶液を留去する場合、短鎖反応剤や反応溶媒、触媒は沸点が低いものが好ましいが、触媒を留去せずに、洗浄溶媒等により生成物から除去することもできる。また、反応溶液から溶媒等の生成物以外の成分を留去する際に、生成物が析出した時点で留去を止め、その後、残る反応溶液と析出した生成物とを固液分離して生成物を回収することもできる。
固液分離方法としては、濾過(自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過、およびこれらの熱時ろ過)、自然沈降・浮上、分液、遠心分離、圧搾等が挙げられ、これらを適宜組み合わせて行ってもよい。
固液分離後の濾液に溶解した生成物(セルロース誘導体)は、生成物に対する貧溶媒を添加することにより析出させ、さらに固液分離して回収することができる。
反応溶液から回収した固形分(セルロース誘導体)は、必要に応じて洗浄し、通常の方法で乾燥することができる。
本方法で製造されたセルロース誘導体は、熱可塑性のマトリックスの中にセルロース主鎖結晶による補強結晶構造を有することができる。これは、セルロース原料をアシル化した際の未反応部分に由来する。このようなセルロース主鎖結晶は、例えば、X線回折法により評価できる。この評価時には、例えば、セルロース誘導体をプレスして密度を上げることで、信号を確認しやすくすることもできる。
(その他のセルロース誘導体の製造方法)
アシル化剤として長鎖成分と短鎖成分を有する混合酸無水物を用い、固液不均一系でセルロースをアシル化することで、セルロース系樹脂を得ることができる。セルロースは活性化処理することが好ましい。活性化処理は通常の方法で行うことができる。
反応終了後は、水/メタノール混合溶媒等の貧溶媒を加えて液相に溶解している生成物を十分に析出させ、固液分離を行って生成物を回収することができる。その後、洗浄、乾燥を行うことができる。
また、アシル化は、セルロース及びアシル化剤が溶媒に溶解した均一溶解系で行ってもよい。セルロースは活性化処理することが好ましい。活性化処理は通常の方法で行うことができる。
アシル化の際の溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド等のセルロースを溶解できる溶媒を用いる。
アシル化剤としては、アシル化に用いる溶媒と同じ溶媒中で、長鎖成分と短鎖成分を有する混合酸無水物を形成し、これを用いることができる。
反応終了後は、メタノール等の貧溶媒を加えて生成物を析出させ、固液分離を行って生成物を回収することができる。その後、洗浄、乾燥を行うことができる。
(成形用樹脂組成物および添加剤)
本発明の実施形態によるセルロース誘導体は、所望の特性に応じて添加剤を加え、成形用材料に好適な樹脂組成物を得ることができる。このセルロース誘導体は、通常のセルロース誘導体と相溶する添加剤と相溶させることができる。
本発明の実施形態によるセルロース誘導体には、通常の熱可塑性樹脂に使用する各種の添加剤を適用できる。例えば、可塑剤を添加することで、熱可塑性や破断時の伸びを一層向上できる。このような可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ−2−メトキシエチル、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート等のフタル酸エステル;酒石酸ジブチル等の酒石酸エステル;アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル等のアジピン酸エステル;トリアセチン、ジアセチルグリセリン、トリプロピオニトリルグリセリン、グリセリンモノステアレートなどの多価アルコールエステル;リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレシルなどのリン酸エステル;ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレート、ジオクチルセバケート等の二塩基性脂肪酸エステル;クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油;ヒマシ油およびその誘導体;O−ベンゾイル安息香酸エチル等の安息香酸エステル;セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル等の脂肪族ジカルボン酸エステル;マレイン酸エステル等の不飽和ジカルボン酸エステル;その他、N−エチルトルエンスルホンアミド、トリアセチン、p−トルエンスルホン酸O−クレジル、トリプロピオニンなどが挙げられる。中でも特に、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ベンジル−2ブトキシエトキシエチル、リン酸トリクレジル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸ジフェニルオクチルなどの可塑剤を添加すると、熱可塑性や破断時の伸びだけでなく、耐衝撃性も効果的に向上させることができる。
その他の可塑剤として、シクロヘキサンジカルボン酸ジヘキシル、シクロヘキサンジカルボン酸ジオクチル、シクロヘキサンジカルボン酸ジ−2−メチルオクチル等のシクロヘキサンジカルボン酸エステル;トリメリット酸ジヘキシル、トリメリット酸ジエチルヘキシル、トリメリット酸ジオクチル等のトリメリット酸エステル;ピロメリット酸ジヘキシル、ピロメリット酸ジエチルヘキシル、ピロメリット酸ジオクチル等のピロメリット酸エステルが挙げられる。
本発明の実施形態によるセルロース誘導体には、必要に応じて、無機系もしくは有機系の粒状または繊維状の充填剤を添加できる。充填剤を添加することによって、強度や剛性を一層向上できる。充填剤としては、例えば、鉱物質粒子(タルク、マイカ、焼成珪成土、カオリン、セリサイト、ベントナイト、スメクタイト、クレイ、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ワラストナイト(またはウォラストナイト)など)、ホウ素含有化合物(窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウ化チタンなど)、金属炭酸塩(炭酸マグネシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムなど)、金属珪酸塩(珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、アルミノ珪酸マグネシウムなど)、金属酸化物(酸化マグネシウムなど)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど)、金属硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、金属炭化物(炭化ケイ素、炭化アルミニウム、炭化チタンなど)、金属窒化物(窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタンなど)、ホワイトカーボン、各種金属箔が挙げられる。繊維状の充填剤としては、有機繊維(天然繊維、紙類など)、無機繊維(ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ウォラストナイト、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維など)、金属繊維などが挙げられる。これらの充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
本発明の実施形態によるセルロース誘導体には、必要に応じて、難燃剤を添加できる。難燃剤を添加することによって、難燃性を付与できる。難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイトのような金属水和物、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、タルク、クレイ、ゼオライト、臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、リン酸系難燃剤(芳香族リン酸エステル類、芳香族縮合リン酸エステル類など)、リンと窒素を含む化合物(フォスファゼン化合物)などが挙げられる。これらの難燃剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
本発明の実施形態によるセルロース誘導体には、必要に応じて、耐衝撃性改良剤を添加できる。耐衝撃性改良剤を添加することによって、耐衝撃性を向上できる。耐衝撃性改良剤としては、ゴム成分やシリコーン化合物を挙げられる。ゴム成分としては、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、合成ゴムなどが挙げられる。また、シリコーン化合物としては、アルキルシロキサン、アルキルフェニルシロキサンなどの重合によって形成された有機ポリシロキサン、もしくは、前記有機ポリシロキサンの側鎖または末端をポリエーテル、メチルスチリル、アルキル、高級脂肪酸エステル、アルコキシ、フッ素、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基などで変性した変性シリコーン化合物などが挙げられる。これらの耐衝撃性改良剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
このシリコーン化合物としては、変性シリコーン化合物(変性ポリシロキサン化合物)が好ましい。この変性シリコーン化合物としては、ジメチルシロキサンの繰り返し単位から構成される主鎖を持ち、その側鎖または末端のメチル基の一部が、アミノ基、エポキシ基、カルビノール基、フェノール基、メルカプト基、カルボキシル基、メタクリル基、長鎖アルキル基、アラルキル基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェノキシ基、長鎖脂肪酸エステル基、長鎖脂肪酸アミド基、ポリエーテル基から選ばれる少なくとも1種類の基を含む有機置換基で置換された構造を有するもの変性ポリジメチルシロキサンが好ましい。変性シリコーン化合物は、このような有機置換基を有することによって、前述のセルロース誘導体に対する親和性が改善され、セルロース誘導体中の分散性が向上し、耐衝撃性に優れる樹脂組成物を得ることができる。
このような変性シリコーン化合物は、通常の方法に従って製造されるものを用いることができる。
この変性シリコーン化合物に含まれる上記の有機置換基としては、下記式(2)〜(20)で表されるものを挙げることができる。
上記の式中、a、bはそれぞれ1から50の整数を表す。
上記の式中、R1〜R10、R12〜R15、R19、R21は、それぞれ2価の有機基を表す。2価の有機基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基、フェニレン基、トリレン基等のアルキルアリーレン基、−(CH2−CH2−O)c−(cは1から50の整数を表す)、−〔CH2−CH(CH3)−O〕d−(dは1から50の整数を表す)等のオキシアルキレン基やポリオキシアルキレン基、−(CH2)e−NHCO−(eは1から8の整数を表す)を挙げることができる。これらのうち、アルキレン基が好ましく、特に、エチレン基、プロピレン基が好ましい。
上記の式中、R11、R16〜R18、R20、R22は、それぞれ炭素数20以下のアルキル基を表す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基などが挙げられる。また、上記アルキル基の構造中に、1つ以上の不飽和結合を有していてもよい。
変性シリコーン化合物中の有機置換基の合計平均含有量は、セルロース誘導体組成物の製造時において、当該変性シリコーン化合物がマトリックスのセルロース誘導体中に適度な粒径(例えば0.1μm以上100μm以下)で分散可能な範囲とすることが望ましい。セルロース誘導体中において、変性シリコーン化合物が適度な粒径で分散すると、弾性率の低いシリコーン領域の周囲への応力集中が効果的に発生し、優れた耐衝撃性を有する樹脂成形体を得ることができる。かかる有機置換基の合計平均含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、また、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。変性シリコーン化合物は、有機置換基が適度に含有されていれば、セルロース系樹脂との親和性が向上し、セルロース誘導体中において適度な粒径で分散でき、さらに、成形品において当該変性シリコーン化合物の分離によるブリードアウトを抑制することができる。有機置換基の合計平均含有量が少なすぎると、カルダノール付加セルロース系樹脂中において適度な粒径での分散が困難になる。
変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基がアミノ基、エポキシ基、カルビノール基、フェノール基、メルカプト基、カルボキシル基、メタクリル基の場合、この変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基の平均含有量は下記式(I)から求めることができる。
有機置換基平均含有量(%)=
(有機置換基の式量/有機置換基当量)×100 (I)
式(I)中、有機置換基当量は、有機置換基1モルあたりの変性シリコーン化合物の質量の平均値である。
変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基がフェノキシ基、アルキルフェノキシ基、長鎖アルキル基、アラルキル基、長鎖脂肪酸エステル基、長鎖脂肪酸アミド基の場合、この変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基の平均含有量は下記式(II)から求めることができる。
有機置換基平均含有量(%)=
x×w/[(1−x)×74+x×(59+w)]×100 (II)
式(II)中、xは変性ポリジメチルシロキサン化合物中の全シロキサン繰り返し単位に対する有機置換基含有シロキサン繰り返し単位のモル分率の平均値であり、wは有機置換基の式量である。
変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基がフェニル基の場合、この変性ポリジメチルシロキサン化合物中のフェニル基の平均含有量は下記式(III)から求めることができる。
フェニル基平均含有量(%)=
154×x/[74×(1−x)+198×x]×100 (III)
式(III)中、xは変性ポリジメチルシロキサン化合物(A)中の全シロキサン繰り返し単位に対するフェニル基含有シロキサン繰り返し単位のモル分率の平均値である。
変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基がポリエーテル基の場合、この変性ポリジメチルシロキサン化合物中のポリエーテル基の平均含有量は下記式(IV)から求めることができる。
ポリエーテル基平均含有量(%)=HLB値/20×100 (IV)
式(IV)中、HLB値は界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値であり、グリフィン法に基づいて下記の式(V)により定義される。
HLB値=20×(親水部の式量の総和/分子量) (V)
本実施形態のセルロース誘導体へは、当該誘導体に対する親和性が異なる2種類以上の変性シリコーン化合物を添加してもよい。この場合、比較的親和性の低い変性シリコーン化合物(A1)の分散性が、比較的親和性の高い変性シリコーン化合物(A2)によって改善され、より一層優れた耐衝撃性を有するセルロース系樹脂組成物を得ることができる。比較的親和性の低い変性シリコーン化合物(A1)の有機置換基の合計平均含有量としては、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、また15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。比較的親和性の高い変性シリコーン化合物(A2)の有機置換基の合計平均含有量は、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、また90質量%以下が好ましい。
変性シリコーン化合物(A1)と変性シリコーン化合物(A2)との配合比(質量比)は、10/90〜90/10の範囲で設定できる。
変性シリコーン化合物においては、ジメチルシロキサン繰返し単位および有機置換基含有シロキサン繰り返し単位が、同種のものが連続して接続されても、交互に接続されても、また、ランダムに接続されていてもよい。変性シリコーン化合物は、分岐構造を有していてもよい。
変性シリコーン化合物の数平均分子量は、900以上が好ましく、1000以上がより好ましく、また1000000以下が好ましく、300000以下がより好ましく、100000以下がさらに好ましい。変性シリコーン化合物の分子量が十分に大きいと、セルロース誘導体組成物の製造時において、溶融した当該セルロース誘導体と混練時に揮発による喪失を抑制することができる。また、変性シリコーン化合物の分子量が大きすぎることなく適度な大きさであると、分散性がよく均一な成形品を得ることができる。
数平均分子量は、試料のクロロホルム0.1%溶液のGPCによる測定値(ポリスチレン標準試料で較正)を採用することができる。
このような変性シリコーン化合物の添加量は、十分な添加効果を得る点から、セルロース誘導体組成物全体に対して1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。セルロース系樹脂の強度等の特性を十分に確保し、またブリードアウトを抑制する点から20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
このような変性シリコーン化合物をセルロース誘導体に添加することにより、樹脂中に変性シリコーン化合物を適度な粒径(例えば0.1〜100μm)で分散させることができ、樹脂組成物の耐衝撃性を向上できる。
本実施形態のセルロース誘導体には、必要に応じて、着色剤、酸化防止剤、熱安定剤など、通常の樹脂組成物に適用される添加剤を添加してもよい。
本実施形態のセルロース誘導体には、必要に応じて、一般的な熱可塑性樹脂を添加してもよい。
熱可塑性樹脂として、ポリエステルを添加することができ、直鎖状脂肪族ポリエステルを好適に用いることができる。この直鎖状脂肪族ポリエステル(Y)としては、下記(Y1)及び(Y2)の直鎖状脂肪族ポリエステルが好ましく、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリカプロラクトン等が挙げられる。
(Y1)下記式(21)及び式(22)の少なくとも一方の繰り返し単位を含む直鎖状脂肪族ポリエステル
−(CO−R23−COO−R24−O−)− (21)
−(CO−R25−O−)− (22)
前記式(21)中、R23は、二価脂肪族基を表し、その炭素数は、1〜12であり、好ましくは2〜8であり、より好ましくは2〜4である。またR24は、二価脂肪族基を表し、その炭素数は、2〜12であり、好ましくは2〜8であり、より好ましくは2〜4である。
前記式(22)中、R25は、二価脂肪族基を表し、その炭素数は、2〜10であり、好ましくは2〜8であり、より好ましくは2〜4である。
(Y2)環状エステルの開環重合物からなる直鎖状脂肪族ポリエステル。
前記直鎖状脂肪族ポリエステル(Y1)は、例えば、脂肪族ジカルボン酸、その酸無水物及びそのジエステル体からなる群から選択された少なくとも一種と、脂肪族ジオールとの縮合反応により得られる。
前記脂肪族ジカルボン酸は、例えば、炭素数3〜12であり、好ましくは炭素数3〜9であり、より好ましくは炭素数3〜5である。この脂肪族カルボン酸は、例えば、アルカンジカルボン酸であり、具体例として、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸等があげられる。前記脂肪族ジカルボン酸は、例えば、いずれか一種類を使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
前記脂肪族ジオールは、例えば、炭素数2〜12であり、好ましくは炭素数2〜8であり、より好ましくは炭素数2〜6である。この脂肪族ジオールは、例えば、アルキレングリコールであり、具体例として、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール及び1,12−ドデカンジオール等があげられる。中でも、炭素数2〜6の直鎖型脂肪族ジオールが好ましく、特に、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールが好ましい。前記脂肪族ジオールは、例えば、いずれか一種類を使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
前記直鎖状脂肪族ポリエステル(Y2)は、環状エステルが開環重合した直鎖状脂肪族ポリエステルである。この環状エステルは、例えば、炭素数2〜12のラクトンがあげられ、具体例として、例えば、α−アセトラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン及びδ−バレロラクトン等があげられる。前記環状エステルは、例えば、いずれか一種類を使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
前記直鎖状脂肪族ポリエステル(Y)の数平均分子量は、特に制限されず、下限は、例えば、10000以上が好ましく、より好ましくは20000以上であり、また、上限は、例えば、200000以下が好ましく、より好ましくは100000以下である。前記脂肪族ポリエステルは、その分子量を前記範囲に設定することで、例えば、より分散性に優れ、より均一な成形体を得ることができる。
前記数平均分子量は、例えば、試料のクロロホルム0.1%溶液に関する、GPCによる測定値(ポリスチレン標準試料で較正)を採用できる。
本発明の実施形態によるセルロース誘導体には、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)などの柔軟性に優れる熱可塑性樹脂を添加することにより、耐衝撃性を向上できる。このような熱可塑性樹脂(特にTPU)の添加量は、十分な添加効果を得る点から、本実施形態のセルロース誘導体を含む組成物全体に対して1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。
耐衝撃性向上に好適な熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)は、ポリオール、ジイソシアネート、および鎖延長剤を用いて調製されるものを用いることができる。
このポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオールが挙げられる。
上記のポリエステルポリオールとしては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等)、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等)、脂環族ジカルボン酸(ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等)等の多価カルボン酸又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等の多価アルコール又はこれらの混合物との脱水縮合反応で得られるポリエステルポリオール;ε−カプロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合で得られるポリラクトンジオール等が挙げられる。
上記のポリエステルエーテルポリオールとしては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等)、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等)、脂環族ジカルボン酸(ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等)等の多価カルボン酸又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、ジエチレングリコールもしくはアルキレンオキサイド付加物(プロピレンオキサイド付加物等)等のグリコール等又はこれらの混合物との脱水縮合反応で得られる化合物が挙げられる。
上記のポリカーボネートポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール等の多価アルコールの1種または2種以上と、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等とを反応させて得られるポリカーボネートポリオールが挙げられる。また、ポリカプロラクトンポリオール(PCL)とポリヘキサメチレンカーボネート(PHL)との共重合体であってもよい。
上記のポリエーテルポリオールとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルをそれぞれ重合させて得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等、及び、これらのコポリエーテルが挙げられる。
TPUの形成に用いられるジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添XDI、トリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネートメチルオクタン、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI;HMDI)等が挙げられる。これらの中でも、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及び1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を好適なものとして用いることができる。
TPUの形成に用いられる鎖延長剤としては、低分子量ポリオールが使用できる。この低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン等の脂肪族ポリオール;1,4−ジメチロールベンゼン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物等の芳香族グリコールが挙げられる。
これらの材料から得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)に、シリコーン化合物が共重合されていると、さらに優れた耐衝撃性を得ることができる。
これらの熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)は、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
本発明の実施形態によるセルロース誘導体に各種添加剤や熱可塑性樹脂を添加した樹脂組成物の製造方法については、特に限定はなく、例えば各種添加剤とセルロース系樹脂をハンドミキシングや、公知の混合機、例えばタンブラーミキサー、リボンブレンダー、単軸や多軸混合押出機、混練ニーダー、混練ロール等のコンパウンディング装置で溶融混合し、必要に応じ適当な形状に造粒等を行うことにより製造できる。また別の好適な製造方法として、有機溶媒等の溶剤に分散させた、各種添加剤と樹脂を混合し、さらに必要に応じて、凝固用溶剤を添加して各種添加剤と樹脂の混合組成物を得て、その後、溶剤を蒸発させる製造方法がある。
以上に説明した実施形態によるセルロース系樹脂は、成形用材料(樹脂組成物)のベース樹脂として用いることができる。当該セルロース系樹脂をベース樹脂として用いた成形用材料は、電子機器用外装などの筺体などの成形体に好適である。
ここでベース樹脂とは、成形用材料中の主成分を意味し、この主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容することを意味し、特にこの主成分の含有割合を特定するものではないが、この主成分が組成物中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上を占めることを包含するものである。
以下、具体例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
[パルプの重合度の測定]
セルロース系樹脂の作製に用いるパルプについて、JIS P8215に準拠して極限粘度数[η]を測定し、式(VI)に従ってパルプの重合度(DP)を算出した。
[η]=1.67×DP0.71 (VI)
(実施例1)
セルロース(パルプ)の活性化処理を行った後、固液不均一系でアシル化することで、セルロース系樹脂を得た。具体的には、下記に従ってセルロース系樹脂(セルロースプロピオネートステアレート)を作製した。
セルロース(溶解パルプ粉末、含水率:6.4%、DP:560)6.0g(乾燥質量換算、37mmol/グルコース単位)を反応器に投入し、窒素雰囲気下で12mlのピリジンと78mlのN−メチルピロリドンの混合溶液に分散させ、室温で一晩撹拌して活性化を行った。
その後、セルロースの分散液を約−4℃に冷却し、ステアロイルクロリド7.28g(24mmol)と塩化プロピオニル10.27g(111mmol)を予め混合して、内温を3℃以下に維持しながら反応器に滴下した。
続いて昇温し、100℃で4時間加熱しながら撹拌した。その後、65℃まで冷却し、メタノール90mlを投入して30分程度撹拌した。
さらに水を20ml加えて、反応溶液に溶解していた生成物を析出させた。この析出物と反応後の未溶解物を含む固形分を吸引ろ過で回収した。得られた固形分を100mlのメタノールでろ液の色が消えるまで(4回)洗浄した。
洗浄した固形分を105℃で5時間真空乾燥し、粉末状のセルロース系樹脂(セルロースプロピオネートステアレート)13.9g(収率94%)を得た。
得られた試料(セルロースプロピオネートステアレート)を1H−NMR(Bruker社製、AV−400、400MHz、溶媒:CDCl3)によって測定したところ、DSLoは0.44、DSShは2.16であった。
また、この試料について、下記に従って評価を行った。結果を表1に示す。
[窒素含有量の測定]
得られた試料について、JIS K2609:1998 4.化学発光法に記載の条件で試料中の窒素含有量を測定した。
[評価用の射出成形体の作製]
射出成形(Thermo Electron Corporation製、HAAKE MiniJet II)を使用して、下記条件に設定し、上記で得た試料から、下記形状の成形体を作製した。
成形体サイズ:厚み2.4mm、幅12.4mm、長さ80mm
成形条件:成形機のシリンダー温度を220℃、金型温度を60℃、射出圧力1200bar(120MPa)で5秒間、保圧600bar(60MPa)で20秒間に設定した。
[アイゾット衝撃強度の測定]
上記の成形体について、JIS K7110に記載の条件でノッチ付きアイゾット衝撃強度を測定した。
得られたデータは下記の基準で評価した。
アイゾット衝撃強度の評価基準
○:5.0kJ/m2以上
×:5.0kJ/m2未満
[曲げ強度の測定]
上記の成形体について、Instron社製INSTRON5567万能試験機を用いて、下記の条件で3点曲げ試験を実施して曲げ強度を測定した。
曲げ試験条件:支点間距離32mm、試験速度1mm/分
得られたデータは下記の基準で評価した。
曲げ強度の評価基準
○:40MPa以上
×:40MPa未満
[耐熱分解性の測定]
熱重量分析装置(日立ハイテクノロジー株式会社製、製品名:TGA−6200)を用い、窒素雰囲気下(0.2L/min)、開始温度20℃、終了温度800℃、昇温速度10℃/minの条件で熱重量分析を実施した。得られた1%重量減少温度(Td1%)を耐熱分解性の指標とし、下記の基準で評価した。
耐熱分解性の評価基準
○:Td1% 280℃以上
×:Td1% 280℃未満
[GPC測定]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、製品名LC−20AD)を用い、下記の装置条件で分子量分析を実施した。
カラム:GPC−80Mを2本およびGPC−8025を1本 直列接続
移動相:クロロホルム(1.0ml/min)
検出器:示差屈折検出器(RID−10A)
標準サンプル:ポリスチレン(分子量:8650000(東ソー製)、1810000(東ソー製)、460000(昭和電工製)、156000(昭和電工製)、66000(昭和電工製)、11600(昭和電工製)、3250(昭和電工製)、1680(昭和電工製))
その結果、図1に示すクロマトグラムが得られた(図中の縦軸はRI検出強度を示し、横軸は溶出時間(分)を示す)。分子量900万に相当する溶出時間は17.15分であり(図中に点線で表示)、これより早い溶出時間の成分(図中の点線で垂直分割した左側の領域)を高分子量成分とした。図1から、高分子量成分が形成されていることが分かる。なお、図1(a)は、得られたGPCクロマトグラムの全体を示し、図1(b)は、GPCクロマトグラムの高分子量成分側の領域を拡大した図である。
また、得られたクロマトグラムから、高分子量成分の含有比率(エリア面積比)を求めた。この含有比率(エリア面積比)は、得られた溶出曲線の全体(メインピークとサブピークもしくはリーディングを含む)とその溶出曲線のベースラインで囲まれる領域の面積中、前記高分子量成分に相当する領域(図1(b)においては斜線部に相当)の面積の比率(%)とした。なお、低分子量側のピーク(溶出時間31分付近のピーク)の面積も全体の領域の面積に含めて計算した。
[熱分解GC/MS]
ガスクロマトグラフ質量分析(日本電子株式会社製、製品名JMS−Q1050GC)を用い、加熱炉温度210℃、加熱時間0.5分、分離カラムSPB−20の条件で熱分解GC/MS分析を実施した。その結果、ピリジン環を含む分解ガスを確認することができた。
(実施例2)
加熱撹拌時の温度を90℃に変更した以外は実施例1と同様の分量と方法に従って、セルロース系樹脂(セルロースプロピオネートステアレート)を作製した(収量13.5g、収率94%)。
得られた試料(セルロースプロピオネートステアレート)を実施例1と同様に1H−NMRによって測定したところ、DSLoは0.41、DSShは2.12であった。
また、この試料について、実施例1と同様の方法に従って窒素含有量、衝撃強度、曲げ強度および耐熱分解性の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。また、この試料について、実施例と同様にしてGPC測定及び熱分解GC/MSによる分析を行った。図1に得られたクロマトグラムを示す。図1から、高分子量成分が形成されていることが分かる。高分子量成分の含有比率を表1に示す。熱分解GC/MSによる分析の結果、ピリジン環を確認することができた。
(実施例3)
加熱撹拌時の温度を80℃に変更した以外は実施例1と同様の分量と方法に従って、セルロース系樹脂(セルロースプロピオネートステアレート)を作製した(収量13.0g、収率92%)。
得られた試料(セルロースプロピオネートステアレート)を実施例1と同様に1H−NMRによって測定したところ、DSLoは0.39、DSShは2.07であった。
また、この試料について、実施例1と同様の方法に従って窒素含有量、衝撃強度、曲げ強度および耐熱分解性の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。また、この試料について、実施例と同様にしてGPC測定及び熱分解GC/MSによる分析を行った。図1に得られたクロマトグラムを示す。図1から、高分子量成分が形成されていることが分かる。高分子量成分の含有比率を表1に示す。熱分解GC/MSによる分析の結果、ピリジン環を確認することができた。
(比較例1)
セルロース(溶解パルプ粉末、含水率6.4%、DP:560)6.0g(乾燥質量換算、37mmol/グルコース単位)を反応器に投入し、窒素雰囲気下で90mlのピリジンに分散させ、室温で一晩撹拌して活性化を行った。
その後、セルロースの分散液を約10℃に冷却し、ステアロイルクロリド7.28g(24mmol)と塩化プロピオニル10.28g(111mmol)を予め混合して反応器に投入した。
続いて昇温し、100℃で4時間加熱しながら撹拌した。その後、65℃まで冷却し、メタノール125mlを滴下して30分程度撹拌した。
さらに水を40ml加えて、反応溶液に溶解していた生成物を析出させた。この析出物と反応後の未溶解物を含む固形分を吸引ろ過で回収した。得られた固形分を100mlのメタノールでろ液の色が消えるまで(4回)洗浄した。
洗浄した固形分を105℃で5時間真空乾燥し、粉末状のセルロース系樹脂(セルロースプロピオネートステアレート)14.0g(収率98%)を得た。
得られた試料(セルロースプロピオネートステアレート)を1H−NMR(Bruker社製、AV−400、400MHz、溶媒:CDCl3(部分溶解))によって測定したところ、DSLoは0.39、DSShは2.15であった。
また、この試料について、実施例1と同様の方法に従って窒素含有量、衝撃強度、曲げ強度および耐熱分解性の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。また、この試料について、実施例と同様にしてGPC測定を行った。図1に得られたクロマトグラムを示す。図1から、高分子量成分が多量に形成されていることが分かる。高分子量成分の含有比率を表1に示す。
(比較例2)
加熱撹拌時の温度を110℃に変更した以外は実施例1と同様の分量と方法に従って、セルロース系樹脂(セルロースプロピオネートステアレート)を作製した(収量13.9g、収率90%)。
得られた試料(セルロースプロピオネートステアレート)を実施例1と同様に1H−NMRによって測定したところ、DSLoは0.49、DSShは2.25であった。
また、この試料について、実施例1と同様の方法に従って窒素含有量、衝撃強度、曲げ強度および耐熱分解性の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。また、この試料について、実施例と同様にしてGPC測定を行った。図1に得られたクロマトグラムを示す。図1から、高分子量成分がほとんど形成されていないことが分かる。高分子量成分の含有比率を表1に示す。
以上の実施例1〜3及び比較例1及び2について、表1に、製造したセルロース系樹脂(セルロースプロピオネートステアレート)の長鎖成分(オクタデカノイル基(ステアリン酸に含まれるアシル基部分に相当))の置換度(DSLo)及び短鎖成分(プロピオニル基)の置換度(DSSh)、並びに衝撃強度、曲げ強度及び耐熱分解性の評価結果、GPCの測定結果をまとめた。
表1が示すように、本発明の実施形態による実施例のセルロース系樹脂は、窒素含有量が300〜2000ppmの範囲にあり、いずれも機械特性(衝撃強度、曲げ強度)および耐熱分解性に優れることが分かる。また、実施例1〜3のセルロース系樹脂の高分子量成分の含有比率は2〜10%の範囲にあることが分かる。
また、窒素含有量が2000ppmより大きいセルロース系樹脂(比較例1)は、耐熱分解性が劣ることが分かる。また、このセルロース系樹脂(比較例1)は、高分子量成分の含有比率が比較的大きいことが分かる。一方、窒素含有量が300ppmより小さいセルロース系樹脂(比較例2)は、機械特性(衝撃強度、曲げ強度)が劣ることが分かる。また、このセルロース系樹脂(比較例1)は、高分子量成分の含有比率が比較的小さいことが分かる。
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
上記の実施形態及び実施例の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
(付記1)
セルロースのヒドロキシ基の水素原子が、炭素数14以上の直鎖状脂肪族アシル基である長鎖成分と、炭素数2のアシル基及び炭素数3のアシル基の少なくとも一方である短鎖成分で置換されたセルロース系樹脂であって、
該セルロース系樹脂中の窒素含有量が300ppm以上2000ppm以下である、セルロース系樹脂。
(付記2)
前記セルロース系樹脂が塩基性窒素含有基を有する、付記1に記載のセルロース系樹脂。
(付記3)
前記塩基性窒素含有基はピリジン環含有基である、付記2に記載のセルロース系樹脂。
(付記4)
前記セルロース系樹脂が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したGPCクロマトグラム(溶出曲線)において、分子量900万以上の領域にサブピークもしくはリーディングを有し、当該領域に相当する高分子量成分の含有比率(エリア面積比)が2〜10%の範囲にある、付記1から3のいずれかに記載のセルロース系樹脂。
(付記5)
前記長鎖成分による置換度DSLoが0.2〜0.6の範囲にあり、前記短鎖成分による置換度DSShが1.7〜2.8の範囲にある、付記1から4のいずれかに記載のセルロース系樹脂。
(付記6)
前記置換度DSLoと前記置換度DSShの合計が2.1以上である、付記5に記載のセルロース系樹脂。
(付記7)
前記長鎖成分が、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸から選ばれる少なくとも一種の脂肪酸のアシル基部分である、付記1から6のいずれかに記載のセルロース系樹脂。
(付記8)
付記1から7のいずれかに記載のセルロース系樹脂を含む成形用材料。
(付記9)
付記8に記載の成形用材料を用いて形成された成形体。
(付記10)
付記1から7のいずれかに記載のセルロース系樹脂を製造する方法であって、
塩基性窒素含有有機化合物の存在下、100℃以下の加温下で
有機溶媒中に分散されたパルプと、
炭素数2〜3のアシル基を導入する短鎖アシル化剤と、
炭素数14以上のアシル基を導入する長鎖アシル化剤とを反応させて、該パルプを構成するセルロースのヒドロキシ基をアシル化する工程と、
前記アシル化により得られたアシル化セルロースを前記有機溶媒から分離する工程を含む、セルロース系樹脂の製造方法。
(付記11)
前記塩基性窒素含有有機化合物がピリジンである、付記10に記載のセルロース系樹脂の製造方法。
(付記12)
前記有機溶媒がN−メチルピロリドンである、付記10又は11に記載のセルロース系樹脂の製造方法。
(付記13)
前記塩基性窒素含有有機化合物(R)と前記有機溶媒(S)の混合比率(質量比R/S)が5/95〜30/70の範囲にある、付記10から12のいずれかに記載のセルロース系樹脂の製造方法。
(付記14)
前記のアシル化工程の反応温度が70〜100℃の範囲にある、付記10から13のいずれかに記載のセルロース系樹脂の製造方法。
(付記15)
前記有機溶媒と前記塩基性窒素含有有機化合物の合計量が、前記パルプの乾燥質量に対して10〜50倍量である、付記10から14のいずれかに記載のセルロース系樹脂の製造方法。
(付記16)
前記短鎖反応剤が、塩化アセチル、無水酢酸、無水プロピオン酸及び塩化プロピオニルから選ばれる少なくとも一種であり、
前記長鎖反応剤が、炭素数14以上の直鎖状脂肪酸の酸塩化物である、付記10から15のいずれかに記載のセルロース系樹脂の製造方法。
この出願は、2018年3月1日に出願された日本出願特願2018−36423を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。