本発明の実施形態による製造方法では、酸性度の異なる第1のカルボン酸(例えば短鎖カルボン酸)と第2のカルボン酸(例えば長鎖カルボン酸)からなる混合酸無水物と、セルロースを、塩基触媒存在下、特定の条件を満たす有機溶媒中で反応させて、セルロースのヒドロキシ基に対して、前記混合酸無水物に由来の第1のアシル基(例えば短鎖アシル基)と第2のアシル基(例えば長鎖アシル基)が導入されたセルロース誘導体を得ることができる。この方法によれば、セルロースに所望のアシル基(例えば長鎖アシル基)を高効率で直接導入でき、特性(熱可塑性、機械的特性、耐水性等)が改善されたセルロース誘導体を効率的に製造することができる。
以下、本発明の実施形態についてさらに説明する。
[セルロース]
出発原料のセルロースは、下記式(1)で示されるように、β−D−グルコース分子(β−D−グルコピラノース)がβ(1→4)グリコシド結合により重合した直鎖状の高分子である。セルロースを構成する各グルコース単位は三つのヒドロキシ基(−OH)を有している。式(1)中のnは、自然数であり、繰り返し数を示す。
セルロースを構成する、グルコース単位には、2位、3位、6位に3つのヒドロキシ基(−OH)が存在し、セルロース分子は、ヒドロキシ基が分子間(鎖間)で水素結合を形成する結果、結晶性セルロースは、シート状の二次元構造を形成している。このシート状の二次元構造中では、例えば、下記に示すように、分子間(鎖間)の水素結合の形成には、6位のヒドロキシ基と3位のヒドロキシ基が関与している。一方、2位のヒドロキシ基は、6位のヒドロキシ基との分子内(鎖内)の水素結合の形成に関与している。また、ピラノース環内のエーテル結合(−O−)を形成している酸素原子と、3位のヒドロキシ基の間でも、分子内(鎖内)の水素結合が形成されている。
本発明の実施形態による製造方法では、出発原料のセルロースに、これらのヒドロキシ基に対して、アシル化反応を利用して、短鎖アシル基等の第1のアシル基および長鎖アシル基等の第2のアシル基を導入してなるセルロース誘導体を製造する。
セルロースは、草木類、特に植物細胞の細胞壁や植物繊維の主成分であり、リグニン等の他成分と結合して存在している。そのため、セルロースは、草木類からリグニン等の他の成分を分離処理することによって得られる。例えば、化学的な分離処理を行ってセルロースの含有比率が高いクラフトパルプなどの木材パルプが調製される。また、セルロースの含有比率の高い綿(例えばコットンリンター)やパルプ(例えば木材パルプ)を精製して、あるいはそのまま出発原料として用いることができる。
出発原料に用いるセルロースの形状やサイズ、形態は、アシル化反応時の反応性や、反応溶媒中への分散性、固液分離時の取り扱い性の点から、適度な粒子サイズ、粒子形状を持つものを用いることが好ましい。例えば、直径1μm〜100μm(好ましくは10μm〜50μm)、長さ10μm〜100mm(好ましくは100μm〜10mm)の繊維状物あるいは粉末状物を用いることができる。
出発原料として用いるセルロースの重合度は、グルコース重合度(平均重合度)として、50〜5000の範囲が好ましく、100〜3000の範囲がより好ましく、200〜3000の範囲がさらに好ましい。重合度が低すぎると、得られるセルロース誘導体を用いたセルロース系樹脂の強度、耐熱性などが十分でない場合がある。逆に、重合度が高すぎると、得られるセルロース誘導体を用いたセルロース系樹脂の溶融粘度が高くなりすぎて成形に支障をきたす場合がある。
出発原料として用いるセルロースには、類似の構造のキチンやキトサンが混合されていてもよい。その場合は、混合物全体に対するキチンとキトサンの含有比率は30質量%以下が好ましく、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
[混合酸無水物とアシル基の導入]
本発明の実施形態によるセルロース誘導体の製造方法においては、セルロースのヒドロキシ基に対して、アシル化反応を利用して、第1のアシル基(−CORSH、例えば短鎖アシル基)と第2のアシル基(−CORLO、例えば長鎖アシル基)を導入する。
そのアシル化反応を行う際、下記式(A)で示される混合酸無水物を、主に第2のアシル基(−CORLO)の供給源として利用することができる。この混合酸無水物は、酸性度(酸解離定数:pKa)が異なる第1のカルボン酸(短鎖カルボン酸)と第2のカルボン酸(例えば長鎖カルボン酸)からなる酸無水物を用いることができる。
(R
SHは炭素数1〜3の有機基を示し、R
LOは電子吸引性を有する有機基を示す。)
また、そのアシル化反応を行う際、第2のカルボン酸(RLOCOOH)の酸無水物((RLOCO)2O)も、第2のアシル基(−CORLO)の供給源として利用することができる。
一方、第1のアシル基(−CORSH:短鎖アシル基)の供給源としては、式(A)で示される混合酸無水物に加えて、第1のカルボン酸(RSHCOOH:短鎖カルボン酸)の酸無水物((RSHCO)2O)も利用することができる。
第1のアシル基(−CORSH)の炭素数は、2〜4の範囲にあることが好ましく、炭素数が2又は3であること(アセチル基、プロピオニル基)がより好ましく、炭素数が2であること(アセチル基)がさらに好ましい。すなわち、第1のアシル基を構成する炭化水素基RSH(式中のRSH)は、炭素数1〜3の鎖式飽和炭化水素基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基)が好ましく、炭素数1又は2の炭化水素基(メチル基、エチル基)がより好ましく、炭素数1の炭化水素基(メチル基)がさらに好ましい。これに応じて、第1のアシル基に対応するカルボン酸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸が好ましく、酢酸、プロピオン酸がより好ましく、酢酸がさらに好ましい。
本発明の実施形態による製造方法により製造されるセルロース誘導体において、グルコース単位(三つのヒドロキシ基)あたりの第1のアシル基(−CORSH:短鎖アシル基)の個数(第1のアシル基による置換度:DSSH)(平均値)、すなわちグルコース単位あたりの第1のアシル基で置換されたヒドロキシ基の個数(水酸基置換度)(平均値)は、十分な導入効果を得る点から0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、1.0以上がさらに好ましい。所望量の第2のアシル基を導入する点、製造効率の点等から、DSSHは2.9以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。第1のアシル基による置換度(DSSH)は、セルロースのグルコース単位当たりの、セルロースに対するセルロースに結合した第1のアシル基の個数の比率に相当する。
第1のアシル基(短鎖アシル基)をセルロースのヒドロキシ基に対して導入することにより、セルロースの分子間力(分子間結合)を低減することができる。例えば、3位のヒドロキシ基と6位のヒドロキシ基との分子間(鎖間)の水素結合の形成を阻害することができる。
上記の式(A)で示される混合酸無水物の有機基RLOは、電子吸引性を有し、炭化水素基RSHより電子吸引性が高いことが好ましい。これにより、セルロースのヒドロキシ基に対して導入される第2のアシル基(−CORLO)の反応性を高めることができ、第1のアシル基(短鎖アシル基)より比較的導入が困難な第2のアシル基の導入を容易にすることができる。
このような混合酸無水物は、下記の分極構造が生じる。
従って、アシル化反応は、求核置換反応であるため、下記の反応が進行し、ヒドロキシ基(−OH)に対して、第2のアシル基(−CORLO)が優先的に導入される。下記式中の「R’−O−H」はセルロースを示す。
RLOは、エーテル基(−O−)、エステル基(−O−CO−)、アミド基(−NH−CO−)、ウレタン基(−NH−CO−O−)、及びカーボネート基(−O−CO−O−)からなる群から選択される少なくとも一つの二価の基と、式(A)の混合酸無水物のカルボニル炭素に結合する第1の有機基と、前記二価の基を介して第1の有機基と連結された第2の有機基を含む基であることが好ましい。この二価の基は、式(A)の混合酸無水物のカルボニル炭素に結合している炭素(第1の有機基の炭素)に結合していることが好ましい。この炭素(カルボニル基に結合している炭素)に、二価の基の末端の酸素原子または窒素原子が結合していることが好ましい(酸素原子が末端にある場合は酸素原子が結合していることが好ましい)。第1の有機基と第2の有機基を構成する炭素の合計数は2〜48の範囲にあることが好ましく、2〜25の範囲にあることがより好ましい。第1の有機基は炭素数1〜3の鎖式飽和炭化水素基であることが好ましく、メチレン基であることがより好ましい。第2の有機基は、炭素数1〜24の炭化水素基であることが好ましい。前記二価の基はエーテル基(−O−)であることが好ましい。RLOは、メトキシメチル基、エトキシメチル基、フェノキシメチル基、カルダノキシメチル基、水添カルダノキシメチル基が挙げられる。すなわち、第2のアシル基に対応するカルボン酸は、メトキシ酢酸、エトキシ酢酸、フェノキシ酢酸、カルダノキシ酢酸、水添カルダノキシ酢酸等が挙げられる。
水添カルダノキシメチル基としては、芳香環の二重結合は水素化されていない、3−ペンタデシルフェノキシメチル基(−CH2−O−C6H4−(CH2)14CH3)と、長鎖部分および芳香環の二重結合が水素化された、3−ペンタデシルシクロヘキシルオキシメチル基(−CH2−O−C6H10−(CH2)14CH3)が挙げられる。
また、RLOは、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基が挙げられる。すなわち、第2のアシル基に対応するカルボン酸は、安息香酸、o−メチル安息香酸、m−メチル安息香酸。p−メチル安息香酸等のメチル置換安息香酸、フェニル酢酸、p−メチルフェニル酢酸、3−フェニルプロピオン酸、p−メチルフェニルプロピオン酸、桂皮酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。
環境調和性の観点からは、本発明の実施形態による製造方法により製造されるセルロース誘導体を構成する、セルロース、第1のアシル基(−CORSH:短鎖アシル基)に対応する第1のカルボン酸(RSHCOOH:短鎖カルボン酸)、及び第2のアシル基(−CORLO)に対応する第2のカルボン酸(RLOCOOH)は、植物等の天然物由来のもの、あるいは植物等の天然物由来の有機化合物を原料として調製されるものであることが好ましい。
例えば、カシューナッツの殻から抽出されるカルダノール又はカルダノール誘導体を原料として調製されるモノカルボン酸は、第2のアシル基(−CORLO)に対応する第2のカルボン酸(RLOCOOH)として好適に利用できる。例えば、長鎖部分の二重結合が水素化され、ベンゼン環は水素化されていない水添カルダノール(m−n−ペンタデシルフェノール(又は3−ペンタデシルフェノール):HO−C6H4−(CH2)14CH3)を原料として調製される水添カルダノキシ酢酸(3−ペンタデシルフェノキシ酢酸)は、第2のアシル基(−CORLO)に対応する第2のカルボン酸(RLOCOOH)として好適に利用できる。また、長鎖部分およびベンゼン環の二重結合が水素化された水添カルダノール(3−ペンタデシルシクロヘキサノール:HO−C6H10−(CH2)14CH3)を原料として調製される水添カルダノキシ酢酸(3−ペンタデシルシクロヘキシルオキシ酢酸)も第2のカルボン酸(RLOCOOH)として好適に利用できる。
本発明の実施形態による製造方法で製造されるセルロース誘導体は、カルダノール又はカルダノール誘導体(カルダノール由来のベンゼン環を有するもの)を原料として調製されるモノカルボン酸以外のモノカルボン酸に対応するアシル基を第2のアシル基として含むことができる。すなわち、このセルロース誘導体においては、セルロースに含まれるヒドロキシ基の少なくとも一部に対して、第1のアシル基及び第2のアシル基が導入され、第1のアシル基は、炭素数2〜4の脂肪族アシル基であり、第2のアシル基は、下記式(B):
−CO−CH2−OR (B)
(式中の−ORは、カルダノキシ基以外の炭素数1〜24の有機基を示す。)
で示されるアシル基である。このセルロース誘導体は、本発明の実施形態に係る製造方法により効率的に製造でき、また、第1及び第2のアシル基の構造及び導入量に応じた改質された特性(例えば、熱可塑性、耐衝撃性)を有することができる。また、第2のアシル基が芳香環を含まない有機基である場合、得られる樹脂の着色や色相の観点から好ましい。したがって、得られる樹脂の着色や色相の観点から、式中のRは炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、脂肪族飽和炭化水素であることがより好ましい。第1のアシル基(炭素数2〜4の脂肪族アシル基)は、前述の第1のアシル基(−CORSH)と同様に、アセチル基又はプロピオニル基が好ましく、アセチル基が特に好ましい。
上記式(B)の説明において、「カルダノキシ基」とは、カルダノール由来のベンゼン環を含むものを意味し、上記式(B)中の−ORから、下記式:
−O−C6H4−(CH2)14CH3
−O−C6H4−(CH2)7CH=CH(CH2)5CH3
−O−C6H4−(CH2)7CH=CHCH2CH=CH(CH2)2CH3
−O−C6H4−(CH2)7CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH2
で示されるカルダノキシ基(ベンゼン環に結合している炭化水素基はベンゼン環の3位に結合)が除かれる。上記式(B)中の−ORは、カルダノール由来の長鎖部分およびベンゼン環の両方の二重結合が水素化されたカルダノキシ基である、3−ペンタデシルシクロヘキシルオキシ基(−O−C6H10−(CH2)14CH3)を含むことができる。
本発明の実施形態による製造方法により製造されるセルロース誘導体において、セルロースのグルコース単位(三つのヒドロキシ基)あたりの第2のアシル基(−CORLO、例えば長鎖アシル基)の個数(第2のアシル基による置換度:DSLO)(平均値)、すなわちグルコース単位あたりの第2のアシル基で置換されたヒドロキシ基の個数(水酸基置換度)(平均値)は、十分な導入効果を得る点から0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.4以上がさらに好ましい。所望量の第1のアシル基を導入する点、製造効率等の点等から、DSLOは2.9以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。第2のアシル基による置換度(DSLO)は、セルロースのグルコース単位当たりの、セルロースに対するセルロースに結合した第2のアシル基の個数の比率に相当する。
本発明の実施形態による製造方法により製造されるセルロース誘導体において、セルロース誘導体の分子間(鎖間)でのヒドロキシ基(−OH)による水素結合の形成を有効に阻害する上では、DSSHとDSLOとの合計(DSSH+DSLO)は、(DSSH+DSLO)≧2の範囲であることが好ましい。加えて、作製されるセルロース誘導体において、その分子内(鎖内)におけるヒドロキシ基(−OH)による水素結合の形成を阻害する観点から、置換度の合計(DSSH+DSLO)は、(DSSH+DSLO)≧2.3の範囲にあることがより好ましく、(DSSH+DSLO)≧2.4の範囲にあることがさらに好ましく、DSSH+DSLO)≧2.5の範囲にあることが特に好ましい。
作製されるセルロース誘導体の性質(物性)は、置換度の合計(DSSH+DSLO)に加えて、DSSHとDSLOの比率(DSLO/DSSH)にも依存する。換言するならは、作製されるセルロース誘導体に要求される性質(物性)に応じて、置換度の合計(DSSH+DSLO)と、置換度の比率(DSLO/DSSH)を適宜選択する必要がある。その際、作製されるセルロース誘導体中、グルコース単位当たりの第2のアシル基(長鎖アシル基等)の置換数(DSLO)(平均値)が、0.1〜2.9の範囲、好ましくは0.1〜1.5の範囲内となる条件下において、置換度の合計(DSSH+DSLO)と、置換度の比率(DSLO/DSSH)を適宜選択することが望ましい。
本発明の実施形態による製造方法によって調製されるセルロース誘導体においては、第2のアシル基(−CORLO)として長鎖アシル基を導入した場合、長鎖アシル基を構成する一価の基RLOが有している長鎖の炭化水素基を利用して、流動性、熱可塑性等の物性の改質を図ることができる。従って、一価の基RLOが有している長鎖の炭化水素基は、その炭素数が第1のアシル基である短鎖アシル基(−CORSH)の一価の基RSHの炭素数より2以上多い範囲にあることが好ましく、3以上多い範囲にあることがより好ましく、5以上多い範囲にあることがさらに好ましい。
本発明の実施形態による製造方法によって調製されるセルロース誘導体において、導入される第2のアシル基(−CORLO:例えば長鎖アシル基)は、通常、一種類であるが、場合によっては、二種類以上であってもよい。導入される第2のアシル基が複数種である場合、各第2のアシル基の供給源となる混合酸無水物(RSH−CO−O−CO−RLO)の反応性と、反応溶液中の各混合酸無水物の含有濃度に応じて、各第2のアシル基の導入量の比率が決定される。従って、各第2のアシル基の供給源となる混合酸無水物(RSH−CO−O−CO−RLO)の反応性と、第1のアシル基(短鎖アシル基)の供給源となる短鎖カルボン酸(RSHCOOH)に由来する酸無水物((RSHCO)2O)の反応性を考慮して、反応溶液中の各混合酸無水物(RSH−CO−O−CO−RLO)の含有濃度と、短鎖カルボン酸(RSHCOOH)に由来する酸無水物((RSHCO)2O)の含有濃度を選択することで、各第2のアシル基(−CORLO)の導入量と、第1のアシル基(短鎖アシル基:−CORSH)の導入量を所望の比率に調節することが可能である。
本発明の実施形態による製造方法において、アシル化反応に利用する混合酸無水物(RSH−CO−O−CO−RLO)は、例えば、第2のカルボン酸(RLOCOOH:例えば長鎖カルボン酸)または第2のカルボン酸のアルカリ金属塩(RLOCOONaなど:例えば長鎖カルボン酸ナトリウムなど)と、第1のカルボン酸(RSHCOOH:短鎖カルボン酸)に由来する酸塩化物(RSHCO−Cl)を用いて、下記の反応により調製することできる。
あるいは、第2のカルボン酸(RLOCOOH)と、第1のカルボン酸(RSHCOOH)に由来する酸無水物((RSHCO)2O)を用いて、下記の反応により調製することできる。
上記反応に加えて、第2のカルボン酸(RLOCOOH)と、生成した混合酸無水物(RSH−CO−O−CO−RLO)との反応により、第2のカルボン酸(RLOCOOH)の酸無水物((RLOCO)2O)が、下記の反応により形成される。
従って、上記の二種の酸無水物の生成反応が進行する結果、得られる反応混合物は、混合酸無水物(RSH−CO−O−CO−RLO)、第2のカルボン酸の酸無水物((RLOCO)2O)、反応の副生成物である、第1のカルボン酸(RSHCOOH)、ならびに、残余している原料である、第2のカルボン酸(RLOCOOH)、第1のカルボン酸の酸無水物((RSHCO)2O)を含有している。反応混合物中のこれらの成分は平衡状態にあり、出発原料である第2のカルボン酸(RLOCOOH)の反応開始時の濃度と、出発原料である第1のカルボン酸の酸無水物((RSHCO)2O)の反応開始時の濃度に応じて、得られる反応混合物中の混合酸無水物(RSH−CO−O−CO−RLO)、第2のカルボン酸の酸無水物((RLOCO)2O)、第1のカルボン酸(RSHCOOH)、第2のカルボン酸(RLOCOOH)、第1のカルボン酸の酸無水物((RSHCO)2O)の濃度が決定される。本発明の実施形態による製造方法では、アシル化反応における、第2のアシル基(−CORLO)の供給源、第1のアシル基(−CORSH)の供給源として、上記の反応混合物を利用することができる。第1のアシル基(−CORSH)の導入量と第2のアシル基(−CORLO)の導入量の比率の制御は、混合酸無水物(RSH−CO−O−CO−RLO)の濃度と第2のカルボン酸の酸無水物((RLOCO)2O)の濃度の合計と、第1のカルボン酸の酸無水物((RSHCO)2O)の濃度の比率を調整することで行うことができる。
なお、別途、個別に調製した、混合酸無水物(RSH−CO−O−CO−RLO)、第2のカルボン酸の酸無水物((RLOCO)2O)、第1のカルボン酸の酸無水物((RSHCO)2O)を、所定の濃度比率で混合してなる混合物を、第2のアシル基(−CORLO)及び第1のアシル基(−CORSH)の供給源として利用することもできる。
アシル化反応においてセルロースへ導入される、第2のアシル基(−CORLO)の導入量と第1のアシル基(−CORSH)の導入量の比率の制御、ならびに、第2のアシル基(−CORLO)の導入量と第1のアシル基(−CORSH)の導入量との合計を制御することにより、作製されるセルロース誘導体の特性を改質することができ、例えば、耐水性や熱可塑性を向上することができる。
[溶媒]
本発明の実施形態によるセルロース誘導体の製造方法においては、電子対供与性の強い溶媒中でアシル化反応を行うことが好ましい。これにより、セルロースのヒドロキシ基に対して、効率的に第1のアシル基(−CORSH:短鎖アシル基)と第2のアシル基(−CORLO:例えば長鎖アシル基)を導入することができる。
電子対供与性が強い溶媒は、水素結合受容能が高いため、セルロース中に多数存在する水素結合をある程度活性化することができ、それにより反応が促進される。
この製造方法に用いる溶媒は、アシル化反応に用いられる酸無水物に対する反応性を示さず、また、アシル化反応に用いられる酸無水物を溶解可能である非プロトン性有機溶媒であることが好ましい。
例えば、セルロースを酢酸で前処理(活性化処理)した場合、セルロースのヒドロキシ基には酢酸分子が水素結合により吸着している。この酢酸分子は、電子供与性の強い溶媒、例えばピリジンとの間で水素結合を形成し、酢酸・ピリジン複合体が形成され、結果、セルロースのヒドロキシ基から酢酸分子が離脱する。酢酸分子が離脱したヒドロキシ基は、酢酸分子が吸着したヒドロキシ基に比べてアシル化反応がしやすくなる。
また、アシル化反応を行う際、混合酸無水物(RSH−CO−O−CO−RLO)、短鎖カルボン酸の酸無水物((RSHCO)2O)が消費され、短鎖カルボン酸(RSH−COOH)が副生する。この副生成物の短鎖カルボン酸(RSH−COOH)を、電子対供与性の強い有機溶媒、例えば、ピリジンを利用して、短鎖カルボン酸(RSH−COOH)・ピリジン複合体を形成することにより、反応液中において、短鎖カルボン酸(RSH−COOH)の濃度の上昇を回避することができる。
また、長鎖カルボン酸等の第2のカルボン酸(RLOCOOH)と、第1のカルボン酸としての短鎖カルボン酸(RSHCOOH)に由来する酸無水物((RSHCO)2O)を用いて調製される、混合酸無水物(RSH−CO−O−CO−RLO)を含む混合物中には、残余する第2のカルボン酸(RLOCOOH)と、副生成物の短鎖カルボン酸(RSH−COOH)が含まれている。この混合物中に含まれる、第2のカルボン酸(RLOCOOH)と短鎖カルボン酸(RSH−COOH)は、電子対供与性の強い有機溶媒、例えば、ピリジンを利用することにより、予め、短鎖カルボン酸(RSH−COOH)・ピリジン複合体、第2のカルボン酸(RLOCOOH)・ピリジン複合体を形成させることができる。
電子対供与性の強い溶媒としては、電子対供与性の尺度を示すドナー数(Dn:Donor number)が10以上である有機溶媒が好ましく、13以上である有機溶媒がより好ましく、21以上である有機溶媒が特に好ましい。
Dnが21以上の有機溶媒としては、リン酸トリメチル(TMP:(CH3O)3P=O)(Dn=23.0)、リン酸トリブチル(TBP:(CH3(CH2)3O)3P=O)(Dn=23.7)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(Dn=26.6)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)(Dn=27.3)、ジメチルエチレン尿素(DMI:1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)(Dn=27.8)、テトラメチル尿素(TMU)(Dn=29.6)、ジメチルスルホキシド(DMSO)(Dn=29.8)、N,N−ジエチルホルムアミド(DEF)(Dn=30.9)、N,N−ジエチルアセトアミド(DEAc)(Dn=32.1)、ピリジン(Dn=33.1)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)(Dn=38.8)、トリエチルアミン(Dn=61)などが挙げられる。
また、Dnが13以上21未満の有機溶媒としては、アセトニトリル(Dn=14.1)、スルホラン(Dn=14.8)、ジオキサン(Dn=14.8)、炭酸プロピレン(Dn=15.1)、イソブチロニトリル(Dn=15.4)、炭酸ジエチル(Dn=16.0)、プロピオノニトリル(Dn=16.1)、炭酸エチレン(Dn=16.4)、酢酸メチル(Dn=16.5)、n−ブチロニトリル(Dn=16.6)、t−ブチルメチルケトン(Dn=17.0)、アセトン(Dn=17.0)、酢酸エチル(Dn=17.1)、メチルイソプロピルケトン(MIBK)(Dn=17.1)、メチルエチルケトン(MEK)(Dn=17.4)、ジエチルエーテル(Dn=19.2)、1,2−ジメトキシエタン(Dn=20)、テトラヒドロフラン(THF)(Dn=20.0)などが挙げられる。
また、Dnが10以上13未満の有機溶媒としては、無水酢酸(Dn=10.5)、ベンゾニトリル(Dn=11.9)などが挙げられる。
[塩基触媒]
本発明の実施形態によるセルロース誘導体の製造方法においては、塩基触媒存在下で反応を行うことで、アシル化反応(エステル化反応)を促進でき、セルロースのヒドロキシ基に効率的に第1のアシル基(−CORSH:短鎖アシル基)と第2のアシル基(−CORLO:例えば長鎖アシル基等)を導入することができる。塩基触媒がヒドロキシ基の水素原子に作用することにより、このヒドロキシ基に分極が誘起され、アシル化反応が促進される。例えば、塩基触媒として、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP)を採用すると、下記に示す反応機構を介して、アシル化反応が促進される。
上記の塩基触媒としては、第3アミン構造を有する含窒素塩基性有機化合物が好ましく、すなわち第3アミン構造を構成する窒素原子を含む塩基性有機化合物が好ましい。このような塩基触媒としては、例えば、アミン系化合物(トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、キヌクリジン、1,4−エチレンピペラジン(DABCO)、テトラメチルエチレンジアミンなど)、ピリジン系化合物(ジメチルアミノピリジン(DMAP:N,N−ジメチル−4−アミノピリジン)、4−ピロリジノピリジンなど)、イミダゾール系化合物(1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールなど)、アミジン系化合物(ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)など)が挙げられる。反応性の向上の観点からは、DABCO、DMAPおよびDBUが好ましく、特にDMAPが好ましい。
上記の塩基触媒の内には、Dnが21以上の有機溶媒に相当するものがある。Dnが21以上の有機溶媒が、上記アシル化反応の促進に利用される塩基触媒としても利用可能である場合、「Dnが21以上の有機溶媒」の使用に起因する効果に加えて、「塩基触媒」の使用に起因する効果も発揮される。
[製造されるセルロース誘導体中のヒドロキシ基の残存量]
製造されるセルロース誘導体中のヒドロキシ基の量が多いほど、セルロース誘導体の最大強度や耐熱性が大きくなる傾向がある一方で、吸水性が高くなる傾向がある。ヒドロキシ基の変換率(置換度)が高いほど、吸水性が低下し、可塑性や破断歪みが増加する傾向がある一方で、最大強度や耐熱性が低下する傾向がある。これらの傾向と、第1のアシル基(−CORSH:短鎖有機基)及び第2のアシル基(−CORLO:例えば長鎖有機基)の導入量を考慮して、ヒドロキシ基の変換率を適宜設定することができる。
製造されるセルロース誘導体のグルコース単位あたりの残存するヒドロキシ基の個数(水酸基残存度、DSOH)(平均値)は、0〜2.8に設定することができる。第1のアシル基と第2のアシル基の導入量(置換度の合計:DSSH+DSLO)を考慮すると、DSOHは0.7以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。ヒドロキシ基は残存していてもよく、例えば、DSOHは0.01以上、さらに0.1以上に設定できる。水酸基残存度(DSOH)は、セルロース誘導体のグルコース単位あたりの、セルロース誘導体に対するセルロース誘導体に残存するヒドロキシ基の個数の比率に相当する。
なお、作製されるセルロース誘導体において、水酸基残存度(DSOH)(平均値)と、第1のアシル基(−CORSH)による置換度(DSSH)(平均値)と、第2のアシル基(−CORLO)による置換度(DSLO)(平均値)の合計(DSOH+DSSH+DSLO)は、(DSLO+DSSH+DSOH)=3である。
作製されるセルロース誘導体に残存するヒドロキシ基に起因する分子間(鎖間)および分子内(鎖内)の水素結合が多く形成されていることに伴って、セルロース誘導体の最大強度や耐熱性が大きくなる傾向がある。対して、水酸基残存度(DSOH)(平均値)が少ないほど、前記セルロース誘導体分子内(鎖内)の水素結合および分子間(鎖間)の水素結合の形成が阻害され、その結果、セルロース誘導体の最大強度や耐熱性が低下する傾向がある。また、可塑性や破断歪みが増加する傾向がある。
作製されるセルロース誘導体中、水酸基残存度(DSOH)(平均値)が多いほど、残存するヒドロキシ基と水素結合して吸着する水分子の量も多くなり、吸水性が高くなる傾向がある。対して、ヒドロキシ基の変換率(置換度)、すなわち、第1のアシル基(−CORSH)による置換度(DSSH)(平均値)と第2のアシル基による置換度(DSLO)(平均値)との合計(DSSH+DSLO)が高いほど、ヒドロキシ基の残存量(水酸基残存度、DSOH)(平均値)は低くなる(DSOH=3−(DSLO+DSSH)。その結果、残存するヒドロキシ基と水素結合して吸着する水分子の量も少なくなり、吸水性が低下する傾向がある。
[製造プロセス]
以下、本発明の実施形態によるセルロース誘導体の製造方法において、出発原料のセルロースから目的とするセルロース誘導体を製造するプロセスについて説明する。
(セルロースの活性化工程)
本発明の実施形態によるセルロース誘導体の製造方法では、出発原料のセルロースとして、通常、綿(例えば、コットンリンター)やパルプ(例えば、木材パルプ)を精製して得られる短い繊維状のセルロースを使用することができる。この短い繊維状のセルロースは、通常、水分を吸着しており、アシル化反応によって第1のアシル基(−OCRSH:短鎖アシル基)と第2のアシル基(−OCRLO:例えば長鎖アシル基)を導入する反応工程に先立ち、吸着している水分を除去する前処理工程を行うことが好ましい。前処理工程において、吸着している水(H2O)を除去する結果、アシル化反応に使用する酸無水物(混合酸無水物(RSH−CO−O−CO−RLO)、第1のカルボン酸(RSHCOOH)に由来する酸無水物((RSHCO)2O)等)の加水分解反応が抑制されるため、吸着している水による酸無水物の消費に伴う反応性の低下が回避される。
また、原料のセルロースに「活性化溶媒」を接触させる活性化工程を行うことにより、セルロースのヒドロキシ基に由来するセルロースの分子内(鎖内)および分子間(鎖間)の水素結合の解離を促進することができる。これにより、セルロースの反応性を高めることができる。
例えば、活性化溶媒として、酢酸(CH3COOH)を使用すると、下記の機構を介して、6位のヒドロキシ基の酸素原子と2位のヒドロキシ基の水素原子との間で形成されている水素結合の解離、あるいは、3位のヒドロキシ基の酸素原子と、隣接するセルロース分子上の6位のヒドロキシ基の水素原子との間で形成されている水素結合の解離が促進される。
また、下記の機構を介して、ヒドロキシ基に対して吸着している水(H2O)の除去がなされる。セルロースのヒドロキシ基に水素結合を介して水が吸着している状態のセルロースに活性化溶媒を接触させると、ヒドロキシ基と吸着している水からなる水素結合複合体構造は解離し、遊離した水分子は、活性化溶媒分子に溶媒和された状態となる。一方、水分子を解離したヒドロキシ基と活性化溶媒分子は、複合体構造を形成し、水分子のヒドロキシ基への再吸着が防止される。
なお、セルロースにおいて、二つのヒドロキシ基(−OH)間で形成されている水素結合複合体構造の解離は促進されるが、全ての水素結合複合体構造の解離は困難であるため、活性化溶媒中にセルロースが溶解することはない。すなわち、短繊維状のセルロースの凝集体(粉末)を活性化溶媒中に浸漬すると、活性化溶媒によって凝集体(粉末)の膨潤は進行するが、部分的に水素結合複合体構造は保持されるため、凝集体(粉末)の形態が維持される。
活性化溶媒を利用した、セルロース中の水(H2O)の除去、ならびに、凝集体(粉末)の膨潤を目的とする活性化処理工程は、粉末状のセルロースを活性化溶媒中に浸漬する方法(浸漬法)、あるいは粉末状のセルロースに対して活性化溶媒を噴霧する方法などの手法を採用して、セルロースと活性化溶媒を接触させる湿式法により実施することができる。
上記のような活性化処理工程を施すと、その後、アシル化反応を実施する際に利用される、溶媒、塩基触媒、酸無水物などの反応溶液中に含まれる種々の化合物が、膨潤された凝集体(粉末)内部のセルロース分子鎖間に浸入し易くなる。結果、セルロースのアシル化反応の効率が向上する。
上記の活性化処理工程には、無水酢酸((CH3CO)2O)を利用してセルロースのアセチル化を行う際、原料のセルロースに施される通常の活性化処理工程の処理条件を適用することができる。
上記のような活性化処理工程で使用する活性化溶媒としては、セルロースを構成するグルコース単位に存在するヒドロキシ基に対して、高い親和性を有するとともに、水の溶解性に優れる親水性有機溶媒を用いることが好ましい。また、活性化溶媒として、水と親水性有機溶媒を用いて活性化処理を行うこともできる。
このような親水性有機溶媒としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸などの水と混和可能なモノカルボン酸;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどの水と混和可能なアルコール;ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、エタノールアミンなどの水と混和可能な含窒素有機化合物;ジメチルスルホキシド等の水と混和可能なスルホキシド化合物が挙げられる。これらの2種以上を組み合わせて使用することもできる。
好ましくは、水と酢酸を用いた活性化処理、酢酸を用いた活性化処理、ジメチルスルホキシドを用いた活性化処理であり、水と酢酸を用いた活性化処理がより好ましい。具体的には、粉末状のセルロースを水中に分散させ、水分によって膨潤した状態とし、余剰の水分を分離した後、酢酸中に分散させ、セルロースに含まれる水分子(H2O)を酢酸分子(CH3COOH)で置換し、またセルロースの水素結合複合体構造の一部を解離することができる。ジメチルスルホキシドを用いた場合は、セルロースを水分によって膨潤させた状態にすることなく、ジメチルスルホキシドへ分散させ、セルロースに含まれる水分子(H2O)をジメチルスルホキシド分子((CH3)2SO)で置換し、またセルロースの水素結合複合体構造の一部を解離することができる。ジメチルスルホキシドを活性化溶媒として用いた活性化処理は、長鎖アシル基の導入量を向上する傾向がある。一方、酢酸を活性化溶媒として用いた活性化処理は、活性化溶媒として用いた酢酸が、アシル化反応の副生物(酸無水物に由来の酢酸)と同じ成分である場合は、反応系中の成分数が増えないため、目的物の精製や原料の回収の観点から有利である。
活性化溶媒の使用量は、セルロース100質量部に対して例えば10質量部以上、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上に設定できる。セルロースを活性化溶媒に浸漬する際の活性化溶媒の使用量は、セルロースに対する質量比(活性化溶媒量/セルロース量)で例えば1以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上に設定することができる。活性化処理後の活性化溶媒の除去の負担や材料コスト低減等の点から、活性化溶媒の使用量は、セルロースに対して質量比(活性化溶媒量/セルロース量)で300以下が好ましく、100以下がより好ましく、50以下がさらに好ましい。
活性化処理の温度は、例えば0〜100℃の範囲で適宜設定できる。活性化の効率や温度維持に要するエネルギーコスト低減の観点から、好ましくは10〜40℃の範囲、より好ましくは15〜35℃の範囲に設定する。
活性化処理の時間は、例えば0.1時間〜72時間の範囲で適宜設定できる。十分な活性化の効果が得られ、且つ処理時間を抑える観点から、好ましくは0.1時間〜24時間の範囲、より好ましくは0.5時間〜3時間の範囲に設定する。
活性化処理後、過剰な活性化溶媒は吸引濾過などの固液分離方法により除去することができる。
活性化処理後のセルロースに活性化溶媒が残留している場合、その活性化溶媒が後に行うアシル化反応に使用する酸無水物等の成分と反応してアシル化反応が阻害されるときは、セルロースに残留している活性化溶媒を、後に行うアシル化反応時に用いる溶媒に置換することが好ましい。例えば、活性化処理後のセルロースを、後に行うアシル化反応時に用いる溶媒に浸漬し、上記の活性化処理の浸漬法に従って、活性化溶媒と反応溶媒の置換処理を行うことができる。例えば、活性化処理後のセルロースを、アシル化反応に使用する反応溶媒中に浸漬すると、セルロース中に浸入する反応溶媒により、セルロース中に残留していた活性化溶媒は遊離され、反応溶媒中に抽出される。その結果、セルロースは、反応溶媒により膨潤され、活性化溶媒を含有していない状態となる。この置換処理後、活性化溶媒を抽出した反応溶媒は吸引濾過などの固液分離方法により除去することができる。
(第1のアシル基および第2のアシル基の導入工程)
出発原料のセルロースに、好ましくは上記の活性化処理を行った後、前述の混合酸無水物、溶媒、塩基触媒を含む反応溶液を使用してアシル化反応を行って、第1のアシル基(−OCRSH:短鎖アシル基)および第2のアシル基(−OCRLO:例えば長鎖アシル基)を導入する。その際、必要に応じて加熱や撹拌を行うことができる。
溶媒は、混合酸無水物等の酸無水物(アシル化剤)および塩基触媒を均一に溶解し、セルロースに反応溶液を浸入させることができ、また、アシル化反応後の副生物(第1のカルボン酸:短鎖カルボン酸)及び塩基触媒をセルロースから溶出させることができるものが好ましい。
反応溶液に使用する溶媒の量は、十分に反応を進行させる観点から、セルロースに対して質量比(溶媒量/セルロース量)で例えば1以上が好ましく、5以上が好ましく、10以上がより好ましく、アシル化反応後の反応溶液除去の負担や材料コスト低減等の観点から、300以下が好ましく、100以下がより好ましく、50倍以下がさらに好ましい。
反応溶液中に含有される塩基触媒の量は、十分なアシル化反応促進効果を得る観点から、セルロースの量を基準として、好ましくは0.1質量%以上100質量%以下の範囲、より好ましくは1質量%以上80質量%以下の範囲、さらに好ましくは3質量%以上50質量%以下の範囲にあることが望ましい。
アシル化反応の際の反応溶液の温度(反応温度)は、反応効率等の観点から、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましく、分解反応の抑制やエネルギーコスト低減等の観点から、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。
反応時間は、反応温度を考慮して適宜選択することができるが、十分に反応を進行させる観点から0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、製造プロセスの効率化等の観点から24時間以下が好ましく、15時間以下がより好ましい。
(生成物の回収工程)
セルロースのアシル化反応後、生成したセルロース誘導体の一部が固相を構成し、他の部分が反応溶液に溶解した状態にある場合、次のようにしてセルロース誘導体を回収することができる。
セルロースのアシル化反応後、反応溶液に貧溶媒を添加して、反応溶液に溶解していたセルロース誘導体を沈殿させ(再沈殿を行い)、次いで通常の固液分離を行い、貧溶媒が添加された反応溶液を分離・除去する。もしくは、アシル化反応後、反応溶液中の溶媒や副生物(酢酸など)の低沸点成分を減圧除去して得られた、セルロース誘導体を含む粗生成物に貧溶媒を添加して、粗生成物を洗浄する。これにより、固相を構成していたセルロース誘導体と反応溶液に溶解していたセルロース誘導体の両方を一度に回収することができる。粗生成物を貧溶媒で洗浄する後者の方法では、回収に必要な貧溶媒の使用量を低減することができる。
他の方法として、セルロースのアシル化反応後、生成したセルロース誘導体の固相を構成する部分は、通常の固液分離法を行って、反応溶液を分離・除去することにより回収することができる。また、分離された反応溶液中に溶解するセルロース誘導体は、この反応溶液に貧溶媒を添加して沈殿させ(再沈殿を行い)、次いで通常の固液分離を行って、貧溶媒が添加された反応溶液を分離・除去することにより回収することができる。セルロースのアシル化反応後、固相を構成していたセルロース誘導体と、反応溶液から再沈殿されたセルロース誘導体は、回収後に混合して用いることができる。
[生成物(セルロース誘導体)の物性]
本発明の実施形態による製造方法によって得られたセルロース誘導体は、第1のアシル基(−CORSH:短鎖アシル基)および第2のアシル基(−CORLO:例えば長鎖アシル基等)がセルロースのヒドロキシ基を利用して導入されている。そのため、セルロース誘導体は、セルロースに比べて、分子間(鎖間)の水素結合(架橋部位)が低減されている。加えて、第2のアシル基として長鎖アシル基を導入した場合、この長鎖アシル基が内部可塑剤として働くため、セルロース誘導体は、良好な熱可塑性を示すことができる。また、第2のアシル基として疎水性の高いものを導入すれば、耐水性をさらに向上することができる。
また本発明の実施形態による製造方法によって得られたセルロース誘導体は、残存するヒドロキシ基を一般的なセルロース誘導体に比べて多くするができ、分子内及び分子間での水素結合を残して、一部セルロース結晶を残存した状態で得ることができる。この場合、水素結合部分が補強機能を有することにより、セルロース結晶が残存していない一般的なセルロース誘導体に比べて、強度や剛性が向上したものとなる。
[成形用樹脂組成物および添加剤]
本発明の実施形態による製造方法によって得られたセルロース誘導体は、所望の特性に応じて添加剤を加え、成形用材料に好適なセルロース系樹脂組成物を得ることができる。
本実施形態に係るセルロース系樹脂組成物には、通常の熱可塑性樹脂に使用する各種の添加剤を適用できる。例えば、可塑剤を添加することで、セルロース系樹脂組成物の熱可塑性や、成形体の破断時の伸びを一層向上できる。
このような可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ−2−メトキシエチル、エチルフタリル・エチルグリコレート、メチルフタリル・エチルグリコレート等のフタル酸エステル;酒石酸ジブチル等の酒石酸エステル;アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル等のアジピン酸エステル;トリアセチン、ジアセチルグリセリン、トリプロピオニトリルグリセリン、グリセリンモノステアレートなどの多価アルコールエステル;リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレシルなどのリン酸エステル;ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレート、ジオクチルセバケート等の脂肪族ジカルボン酸ジアルキルエステル;クエン酸トリエチル、クエン酸アセチル・トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油;ヒマシ油およびその誘導体;O−ベンゾイル安息香酸エチル等の安息香酸エステル;セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル等の脂肪族ジカルボン酸エステル;マレイン酸エステル等の不飽和ジカルボン酸エステル;その他、N−エチルトルエンスルホンアミド、p−トルエンスルホン酸O−クレジル、トリプロピオニンなどが挙げられる。これらの中でも特に、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ベンジル−2ブトキシエトキシエチル、リン酸トリクレジル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸ジフェニルオクチルなどを可塑剤として添加すると、セルロース系樹脂組成物の熱可塑性や、成形体の破断時の伸びだけでなく、成形体の耐衝撃性も効果的に向上させることができる。
その他の可塑剤として、シクロヘキサンジカルボン酸ジヘキシル、シクロヘキサンジカルボン酸ジオクチル、シクロヘキサンジカルボン酸ジ−2−メチルオクチル等のシクロヘキサンジカルボン酸エステル;トリメリット酸ジヘキシル、トリメリット酸ジエチルヘキシル、トリメリット酸ジオクチル等のトリメリット酸エステル;ピロメリット酸ジヘキシル、ピロメリット酸ジエチルヘキシル、ピロメリット酸ジオクチル等のピロメリット酸エステルが挙げられる。
本発明の実施形態に係るセルロース系樹脂組成物には、必要に応じて、無機系もしくは有機系の粒状または繊維状の充填剤を添加できる。充填剤を添加することによって、強度や剛性を一層向上できる。
このような充填剤としては、例えば、鉱物質粒子(タルク、マイカ、焼成珪成土、カオリン、セリサイト、ベントナイト、スメクタイト、クレイ、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ワラストナイト(またはウォラストナイト)など)、ホウ素含有化合物(窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウ化チタンなど)、金属炭酸塩(炭酸マグネシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムなど)、金属珪酸塩(珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、アルミノ珪酸マグネシウムなど)、金属酸化物(酸化マグネシウムなど)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど)、金属硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、金属炭化物(炭化ケイ素、炭化アルミニウム、炭化チタンなど)、金属窒化物(窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタンなど)、ホワイトカーボン、各種金属箔が挙げられる。
繊維状の充填剤としては、有機繊維(天然繊維、紙類など)、無機繊維(ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ウォラストナイト、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維など)、金属繊維などが挙げられる。
これらの充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
本発明の実施形態に係るセルロース系樹脂組成物には、必要に応じて、難燃剤を添加できる。難燃剤を添加することによって、難燃性を付与できる。
難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイトのような金属水和物、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、タルク、クレイ、ゼオライト、臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、リン酸系難燃剤(芳香族リン酸エステル類、芳香族縮合リン酸エステル類など)、リンと窒素を含む化合物(フォスファゼン化合物)などが挙げられる。これらの難燃剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
本発明の実施形態に係るセルロース系樹脂組成物には、必要に応じて、耐衝撃性改良剤を添加できる。耐衝撃性改良剤を添加することによって、成形体の耐衝撃性を向上できる。
耐衝撃性改良剤としては、ゴム成分やシリコーン化合物を挙げられる。ゴム成分としては、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、合成ゴムなどが挙げられる。また、シリコーン化合物としては、アルキルシロキサン、アルキルフェニルシロキサンなどの重合によって形成された有機ポリシロキサン、もしくは、前記有機ポリシロキサンの側鎖または末端をポリエーテル、メチルスチリル、アルキル、高級脂肪酸エステル基、アルコキシ基、フッ素、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基などで変性した変性シリコーン化合物などが挙げられる。これらの耐衝撃性改良剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
このシリコーン化合物としては、変性シリコーン化合物(変性ポリシロキサン化合物)が好ましい。この変性シリコーン化合物としては、ジメチルシロキサンの繰り返し単位から構成される主鎖を持ち、その側鎖または末端のメチル基の一部が、アミノ基、エポキシ基、カルビノール基、フェノール基、メルカプト基、カルボキシル基、メタクリル基、長鎖アルキル基、アラルキル基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェノキシ基、長鎖脂肪酸エステル基、長鎖脂肪酸アミド基、ポリエーテル基から選ばれる少なくとも1種類の基を含む有機置換基で置換された構造を有する変性ポリジメチルシロキサンが好ましい。
変性シリコーン化合物は、このような有機置換基を有することによって、前述のセルロース誘導体に対する親和性が改善され、セルロース系樹脂組成物中の分散性が向上し、セルロース系樹脂組成物を用いて耐衝撃性に優れる成形体を得ることができる。
このような変性シリコーン化合物は、通常の方法に従って製造されるものを用いることができる。
この変性シリコーン化合物に含まれる上記の有機置換基としては、下記式(3)〜(21)で表されるものを挙げることができる。
上記の式中、a、bはそれぞれ1から50の整数を表す。
上記の式中、R1〜R10、R12〜R15、R19、R21は、それぞれ2価の有機基を表す。2価の有機基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基、フェニレン基、トリレン基等のアルキルアリーレン基、−(CH2−CH2−O)c−(cは1から50の整数を表す)、−〔CH2−CH(CH3)−O〕d−(dは1から50の整数を表す)等のオキシアルキレン基やポリオキシアルキレン基、−(CH2)e−NHCO−(eは1から8の整数を表す)を挙げることができる。これらのうち、アルキレン基が好ましく、特に、エチレン基、プロピレン基が好ましい。
上記の式中、R11、R16〜R18、R20、R22は、それぞれ炭素数20以下のアルキル基を表す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基などが挙げられる。また、上記アルキル基の構造中に、1つ以上の不飽和結合を有していてもよい。
変性シリコーン化合物中の有機置換基の合計平均含有量は、セルロース誘導体組成物の製造時において、当該変性シリコーン化合物がマトリックスのセルロース誘導体中に適度な粒径(例えば0.1μm以上100μm以下)で分散可能な範囲とすることが望ましい。セルロース誘導体中において、変性シリコーン化合物が適度な粒径で分散すると、弾性率の低いシリコーン領域の周囲への応力集中が効果的に発生し、優れた耐衝撃性を有する樹脂成形体を得ることができる。かかる有機置換基の合計平均含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、また、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。変性シリコーン化合物は、有機置換基が適度に含有されていれば、セルロース系樹脂との親和性が向上し、セルロース系樹脂組成物中において適度な粒径で分散でき、さらに、成形品において当該変性シリコーン化合物の分離によるブリードアウトを抑制することができる。有機置換基の合計平均含有量が少なすぎると、セルロース系樹脂組成物中において適度な粒径での分散が困難になる。
変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基が、アミノ基、エポキシ基、カルビノール基、フェノール基、メルカプト基、カルボキシル基、メタクリル基の場合、この変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基の平均含有量は下記式(I)から求めることができる。
有機置換基平均含有量(%)=
(有機置換基の式量/有機置換基当量)×100 (I)
式(I)中、有機置換基当量は、有機置換基1モルあたりの変性シリコーン化合物の質量の平均値である。
変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基がフェノキシ基、アルキルフェノキシ基、長鎖アルキル基、アラルキル基、長鎖脂肪酸エステル基、長鎖脂肪酸アミド基の場合、この変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基の平均含有量は下記式(II)から求めることができる。
有機置換基平均含有量(%)=
x×w/[(1−x)×74+x×(59+w)]×100 (II)
式(II)中、xは変性ポリジメチルシロキサン化合物中の全シロキサン繰り返し単位に対する有機置換基含有シロキサン繰り返し単位のモル分率の平均値であり、wは有機置換基の式量である。
変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基がフェニル基の場合、この変性ポリジメチルシロキサン化合物中のフェニル基の平均含有量は下記式(III)から求めることができる。
フェニル基平均含有量(%)=
154×x/[74×(1−x)+198×x]×100 (III)
式(III)中、xは変性ポリジメチルシロキサン化合物(A)中の全シロキサン繰り返し単位に対するフェニル基含有シロキサン繰り返し単位のモル分率の平均値である。
変性ポリジメチルシロキサン化合物中の有機置換基がポリエーテル基の場合、この変性ポリジメチルシロキサン化合物中のポリエーテル基の平均含有量は下記式(IV)から求めることができる。
ポリエーテル基平均含有量(%)=HLB値/20×100 (IV)
式(IV)中、HLB値は界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値であり、グリフィン法に基づいて下記の式(V)により定義される。
HLB値=20×(親水部の式量の総和/分子量) (V)
本発明の実施形態に係るセルロース系樹脂組成物へは、主成分のセルロース誘導体に対する親和性が異なる2種類以上の変性シリコーン化合物を添加してもよい。この場合、比較的親和性の低い変性シリコーン化合物(A1)の分散性が、比較的親和性の高い変性シリコーン化合物(A2)によって改善され、より一層優れた耐衝撃性を有するセルロース系樹脂組成物を得ることができる。比較的親和性の低い変性シリコーン化合物(A1)の有機置換基の合計平均含有量としては、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、また15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。比較的親和性の高い変性シリコーン化合物(A2)の有機置換基の合計平均含有量は、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、また90質量%以下が好ましい。
変性シリコーン化合物(A1)と変性シリコーン化合物(A2)との配合比(質量比)は、10/90〜90/10の範囲で設定できる。
変性シリコーン化合物においては、ジメチルシロキサン繰返し単位および有機置換基含有シロキサン繰り返し単位が、同種のものが連続して接続されても、交互に接続されても、また、ランダムに接続されていてもよい。変性シリコーン化合物は、分岐構造を有していてもよい。
変性シリコーン化合物の数平均分子量は、900以上が好ましく、1000以上がより好ましく、また1000000以下が好ましく、300000以下がより好ましく、100000以下がさらに好ましい。変性シリコーン化合物の数平均分子量が十分に大きいと、セルロース系樹脂組成物の製造時において、溶融したセルロース誘導体と変性シリコーン化合物の混練時に、揮発による変性シリコーン化合物の喪失を抑制することができる。また、変性シリコーン化合物の分子量が大きすぎることなく適度な大きさであると、セルロース系樹脂組成物中における変性シリコーン化合物の分散性がよく、組成が均一な成形品を得ることができる。
変性シリコーン化合物の数平均分子量は、試料(変性シリコーン化合物)のクロロホルム0.1%溶液のGPCによる測定値(ポリスチレン標準試料で較正)を採用することができる。
このような変性シリコーン化合物の含有量は、十分な添加効果を得る点から、セルロース系樹脂組成物全体に対して1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。成形体の強度等の特性を十分に確保し、またブリードアウトを抑制する点から、変性シリコーン化合物の含有量は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
このような変性シリコーン化合物をセルロース系樹脂組成物に添加することにより、樹脂組成物中に変性シリコーン化合物を適度な粒径(例えば0.1〜100μm)で分散させることができ、成形体の耐衝撃性を向上できる。
本発明の実施形態に係るセルロース系樹脂組成物には、必要に応じて、着色剤、酸化防止剤、熱安定剤など、通常、セルロース系樹脂組成物に適用される添加剤を添加してもよい。
本発明の実施形態に係るセルロース系樹脂組成物には、必要に応じて、一般的な熱可塑性樹脂を添加してもよい。
特に、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)などの柔軟性に優れる熱可塑性樹脂を添加することにより、成形体の耐衝撃性を向上できる。このような熱可塑性樹脂(特にTPU)の含有量は、十分な添加効果を得る点から、セルロース系樹脂組成物全体に対して1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。セルロース系樹脂の強度等の特性を確保し、またブリードアウトを抑える点から、この熱可塑性樹脂(特にTPU)の含有量は20質量%以下が好ましく、15質量%以上がより好ましい。
耐衝撃性向上に好適な熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)は、ポリオール、ジイソシアネート、および鎖延長剤を用いて調製されるものを用いることができる。
このポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオールが挙げられる。
上記のポリエステルポリオールとしては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等)、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等)、脂環族ジカルボン酸(ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等)等の多価カルボン酸又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール(HO−CH2CH2CH2−OH)、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等の多価アルコール又はこれらの混合物との脱水縮合反応で得られるポリエステルポリオール;ε−カプロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合で得られるポリラクトンジオール等が挙げられる。
上記のポリエステルエーテルポリオールとしては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等)、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等)、脂環族ジカルボン酸(ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等)等の多価カルボン酸又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、ジエチレングリコールもしくはアルキレンオキサイド付加物(プロピレンオキサイド付加物等)等のグリコール等又はこれらの混合物との脱水縮合反応で得られる化合物が挙げられる。
上記のポリカーボネートポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール(HO−CH2CH2CH2−OH)、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール等の多価アルコールの1種または2種以上と、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等とを反応させて得られるポリカーボネートポリオールが挙げられる。また、ポリカプロラクトンポリオール(PCL)とポリヘキサメチレンカーボネート(PHL)との共重合体であってもよい。
上記のポリエーテルポリオールとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルをそれぞれ重合させて得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等、及び、これらのコポリエーテルが挙げられる。
TPUの形成に用いられるジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添XDI、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、1,8−ジイソシアネートメチルオクタン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI;HMDI)等が挙げられる。これらの中でも、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及び1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を好適なものとして用いることができる。
TPUの形成に用いられる鎖延長剤としては、低分子量ポリオールが使用できる。この低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール(HO−CH2CH2CH2−OH)、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン等の脂肪族ポリオール;1,4−ジメチロールベンゼン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物等の芳香族グリコールが挙げられる。
以上に例示する熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)に、シリコーン化合物が共重合されていると、この共重合体を添加したセルロース系樹脂組成物から調製される成形体は、さらに優れた耐衝撃性を得ることができる。
これらの熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)は、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
本発明の実施形態に係るセルロース誘導体に、各種添加剤や熱可塑性樹脂を添加し、セルロース系樹脂組成物を調製する方法については、特に限定はなく、例えば各種添加剤とセルロース誘導体をハンドミキシングや、公知の混合機、例えばタンブラーミキサー、リボンブレンダー、単軸や多軸混合押出機、混練ニーダー、混練ロール等のコンパウンディング装置で溶融混合し、必要に応じて、適当な形状に造粒等を行うことにより調製することができる。また、別の好適な調製方法として、有機溶媒等の溶剤に分散させた各種添加剤とセルロース誘導体を混合し、さらに必要に応じて、凝固用溶剤を添加して、各種添加剤とセルロース誘導体の混合組成物を得て、その後、溶剤を蒸発させ、セルロース系樹脂組成物とする方法がある。
以上に説明した実施形態によるセルロース誘導体は、成形用材料(樹脂組成物)のベース樹脂として用いることができる。当該セルロース誘導体をベース樹脂として用いた成形用材料(セルロース系樹脂組成物)は、電子機器用外装などの筺体などの成形体に好適である。
ここで「ベース樹脂」とは、成形用材料(樹脂組成物)中の主成分を意味し、この主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容することを意味する。特に、この主成分(ベース樹脂)の含有割合を特定するものではないが、この主成分が組成物中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である形態を包含するものである。
従って、本発明の実施形態に係るセルロース系樹脂組成物においては、本発明の実施形態に係るセルロース誘導体の含有率を、セルロース系樹脂組成物全体に対して、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上の範囲に選択することができる。
以下、具体例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
[合成例1]長鎖カルボン酸(水添カルダノキシ酢酸)の合成
カルダノールの直鎖状炭化水素部分の不飽和結合が水素化された水添カルダノール(ACROS Organics製、m−n−ペンタデシルフェノール)を原料とし、そのフェノール性水酸基を、モノクロロ酢酸と反応させることで、カルボキシメチル基を付与し、水添カルダノキシ酢酸(CH3(CH2)14−C6H4−O−CH2−COOH)を得た。具体的には、下記の手順に従って、水添カルダノキシ酢酸を作製した。
まず、水添カルダノール80g(0.26mol)をメタノール120mLに溶解させ、これに、水酸化ナトリウム64g(1.6mol)を蒸留水40mLに溶解させた水溶液を加えた。
その後、室温で、関東化学(株)製モノクロロ酢酸66g(0.70mol)をメタノール50mLに溶解させた溶液を滴下した。滴下完了後、73℃で4時間還流させつつ攪拌を継続した。反応溶液を室温まで冷却後、この反応溶液を、希塩酸でpH=1となるまで酸性化した。その後、メタノール250mLとジエチルエーテル500mL、さらに、蒸留水200mLを加えた。分液漏斗で水層を分離、廃棄し、エーテル層を蒸留水400mLで2回洗浄した。エーテル層に無水硫酸マグネシウムを加え乾燥させた後、これを濾別した。濾液(エーテル層)をエバポレーター(90℃/3mmHg)で減圧濃縮し、固形分として黄茶色粉末状の粗生成物を得た。得られた粗生成物をn−ヘキサンから再結晶し、真空乾燥した。
以上の手順により、水添カルダノキシ酢酸(CH3(CH2)14−C6H4−O−CH2−COOH)の白色粉末46g(0.12mol)を得た。
[合成例2]混合酸無水物1(水添カルダノキシ酢酸・酢酸混合酸無水物)の合成
合成例1の水添カルダノキシ酢酸を、無水酢酸と混合し加熱することで、混合酸無水物1(水添カルダノキシ酢酸・酢酸混合酸無水物、CH3(CH2)14−C6H4−O−CH2−CO−O−CO−CH3)を得た。具体的には、下記の手順に従って、混合酸無水物1を作製した。
合成例1の水添カルダノキシ酢酸40.2g(0.11mol)と、無水酢酸21.0ml(0.22mol)を、100℃で1時間、加熱しながら攪拌した。これにより、混合酸無水物1を含む混合物1を得た。
得られた混合物1を1H−NMR(Bruker社製、製品名:AV−400、400MHz)によって分析した。その結果、混合物1に含まれる、無水酢酸、混合酸無水物1、水添カルダノキシ酢酸無水物、水添カルダノキシ酢酸、酢酸のモル比は、この順で43.0:20.8:2.0:10.0:24.2であった。
[合成例3]混合酸無水物2(ステアリン酸・酢酸混合酸無水物)の合成
ステアリン酸と無水酢酸を混合し加熱することで、混合酸無水物2(ステアリン酸・酢酸混合酸無水物、CH3(CH2)16CO−O−CO−CH3)を得た。具体的には、下記の手順に従って、混合酸無水物2を作製した。
ステアリン酸31.7g(0.11mol)と、無水酢酸21.0ml(0.22mol)を、100℃で1時間、加熱しながら攪拌した。これにより、混合酸無水物2を含む混合物2を得た。
得られた混合物2を1H−NMR(Bruker社製、製品名:AV−400、400MHz)によって分析した。その結果、混合物2に含まれる、無水酢酸、混合酸無水物2、ステアリン酸無水物、ステアリン酸、酢酸のモル比は、この順で40.0:23.5:3.0:6.6:26.9であった。
[実施例1]
セルロースの活性化処理を行った後、合成例2の混合酸無水物1を反応させることで、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を得た。具体的には、下記の手順に従って、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を作製した。
まず、以下の方法でセルロースの活性化処理を行った。
セルロース(日本製紙ケミカル製、製品名:KCフロック、銘柄:W−50GK)6.37g(吸着水分6.23%を含む重量:セルロース分6.0g(0.037mol/グルコース単位))を、90mLの純水に分散させた。この分散液を15分間攪拌し、5分間の吸引濾過によって純水を除去した。得られた固形分を90mLの酢酸に分散し、15分間攪拌し、5分間の吸引濾過によって酢酸を除去した。この酢酸への分散と酢酸の除去は2回行った。これにより、活性化処理済みセルロースを得た。
次に、以下の方法でセルロース誘導体を合成した。
上記の活性化処理済みセルロースを、脱水ピリジン150mLに分散させた。この分散液に、ジメチルアミノピリジン(DMAP)3.0gと合成例2の混合酸無水物1を含む混合物1を加え、100℃で15時間過熱しながら攪拌した。その後、反応溶液にメタノール1.5Lを加えて再沈殿し、固体を濾別した。濾別した固形分を60℃のイソプロピルアルコール150mlで2回洗浄した後、105℃で5時間真空乾燥した。これにより、長鎖短鎖結合セルロース誘導体17.5gを得た。
得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体の短鎖アシル基による置換度(DSSH)、長鎖アシル基による置換度(DSLO)をIR(日本分光(株)製、製品名:FT/IR−4100)により測定した。測定結果は、DSSHは1.97、DSLOは0.50であった。従って、IR測定に基づく結果から、グルコース単位当たりに残存するヒドロキシ基の個数(水酸基残存度、DSOH)(平均値)は、DSOH=0.53と見積もられる。
上記のIR測定によるDSLOは、ベンゼン環骨格由来の伸縮ピーク(1586cm-1)の強度を用いて算出した。IR測定によるDSSHは、エステル結合のC=O伸縮ピーク(1750cm-1)の強度を用いて決定したアシル基のトータルの導入量(トータルの置換度:DSSH+DSLO)からDSLOを差し引いた値とした。これらピーク強度は、グルコピラノース環のエーテル結合の伸縮ピーク(1050cm-1)の強度で規格化した。アセチルセルロース(2,6−ジアセチルセルロース)と水添カルダノキシ酢酸クロライドから合成される基準材料(NMRでDSSH及びDSLOの算出が可能)で置換度とピーク強度との関係を校正した。
なお、得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体は一部クロロホルムに可溶であるため、その可溶分について1H−NMR(Bruker社製、製品名:AV−400、400MHz)を用いてDSSH、DSLOを測定したところ、DSSHは2.4、DSLOは0.5であった。
得られたセルロース誘導体について、下記の手順に従って評価を行った。結果を表1に示す。
[流動性の評価]
得られたセルロース誘導体について、フローテスター(島津製作所社製、製品名:CFT−500D)を用いてメルトフローレート(MFR)を測定した。使用したダイのサイズは10×2mmφ、測定温度は200℃、予熱時間は120秒、荷重は500kgf/cm2(49MPa)とした。
[熱可塑性(プレス成形性)の評価]
プレス成形を下記条件で行って成形体を得、その際の成形性を下記基準にしたがって評価した。
(成形条件)
温度:200℃、時間:2分、圧力:100kgf/cm2(9.8MPa)、
成形体サイズ:厚み:2mm、幅:13mm、長さ:80mm。
(評価基準)
○:良好、△:不良(ボイド、ヒケ、一部未充填が発生)、×:成形不可。
[曲げ試験]
上記の成形により得られた成形体について、JIS K7171に準拠して曲げ試験を行った(曲げ強度、曲げ弾性率)。
[実施例2]
セルロースの活性化処理を行った後、合成例2の混合酸無水物1を反応させることで、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を得た。具体的には、下記の手順に従って、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を作製した。
セルロースの活性化処理は実施例1と同様の手順で行った。
セルロース誘導体の合成(アシル化)の際に用いる溶媒として脱水ピリジンに代えてN−メチルピロリジノン(NMP)を用いた以外は、実施例1と同様の手順で長鎖短鎖結合セルロース誘導体を作製した。その結果、出発原料(セルロース分6.0g(0.037mol/グルコース単位))から、長鎖短鎖結合セルロース誘導体17.6gを得た。
得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体の短鎖アシル基による置換度(DSSH)、長鎖アシル基による置換度(DSLO)を、IR(日本分光(株)製、製品名:FT/IR−4100)により、実施例1に記載の測定法に従って測定した。測定結果は、DSSHは2.02、DSLOは0.53であった。従って、IR測定に基づく結果から、グルコース単位当たりに残存するヒドロキシ基の個数(水酸基残存度、DSOH)(平均値)は、DSOH=0.45と見積もられる。
なお、得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体は一部クロロホルムに可溶であるため、その可溶分について1H−NMR(Bruker社製、製品名:AV−400、400MHz)を用いてDSSH、DSLOを測定したところ、DSSHは2.4、DSLOは0.6であった。
得られたセルロース誘導体について、実施例1に記載する手順に従って、流動性と熱可塑性(プレス成形性)の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例3]
セルロースの活性化処理を行った後、合成例2の混合酸無水物1を反応させることで、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を得た。具体的には、下記の手順に従って、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を作製した。
セルロースの活性化処理は実施例1と同様の手順で行った。
セルロース誘導体の合成(アシル化)の際に用いる溶媒として脱水ピリジンに代えてジメチルホルムアミド(DMF)を用いた以外は、実施例1と同様の手順で長鎖短鎖結合セルロース誘導体を作製した。その結果、出発原料(セルロース分6.0g(0.037mol/グルコース単位))から、長鎖短鎖結合セルロース誘導体18.1gを得た。
得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体の短鎖アシル基による置換度(DSSH)、長鎖アシル基による置換度(DSLO)を、IR(日本分光(株)製、製品名:FT/IR−4100)により、実施例1に記載の測定法に従って測定した。測定結果は、DSSHは1.83、DSLOは0.57であった。従って、IR測定に基づく結果から、グルコース単位当たりに残存するヒドロキシ基の個数(水酸基残存度、DSOH)(平均値)は、DSOH=0.60と見積もられる。
なお、得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体は一部クロロホルムに可溶であるため、その可溶分について1H−NMR(Bruker社製、製品名:AV−400、400MHz)を用いてDSSH、DSLOを測定したところ、DSSHは2.3、DSLOは0.7であった。
得られたセルロース誘導体について、実施例1に記載する手順に従って、流動性と熱可塑性(プレス成形性)の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例4]
セルロースの活性化処理を行った後、合成例2の混合酸無水物1を反応させることで、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を得た。具体的には、下記の手順に従って、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を作製した。
セルロースの活性化処理は実施例1と同様の手順で行った。
セルロース誘導体の合成(アシル化)の際に用いる溶媒として脱水ピリジンに代えてジメチルアセトアミド(DMAc)を用いた以外は、実施例1と同様の手順で長鎖短鎖結合セルロース誘導体を作製した。その結果、出発原料(セルロース分6.0g(0.037mol/グルコース単位))から、長鎖短鎖結合セルロース誘導体17.7gを得た。
得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体の短鎖アシル基による置換度(DSSH)、長鎖アシル基による置換度(DSLO)を、IR(日本分光(株)製、製品名:FT/IR−4100)により、実施例1に記載の測定法に従って測定した。測定結果は、DSSHは1.98、DSLOは0.55であった。従って、IR測定に基づく結果から、グルコース単位当たりに残存するヒドロキシ基の個数(水酸基残存度、DSOH)(平均値)は、DSOH=0.47と見積もられる。
なお、得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体は一部クロロホルムに可溶であるため、その可溶分について1H−NMR(Bruker社製、製品名:AV−400、400MHz)を用いてDSSH、DSLOを測定したところ、DSSHは2.4、DSLOは0.6であった。
得られたセルロース誘導体について、実施例1に記載する手順に従って、流動性と熱可塑性(プレス成形性)の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例5]
セルロースの活性化処理を行った後、合成例2の混合酸無水物1を反応させることで、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を得た。具体的には、下記の手順に従って、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を作製した。
セルロースの活性化処理は実施例1と同様の手順で行った。
セルロース誘導体の合成(アシル化)の際に用いる溶媒として脱水ピリジンに代えてジオキサンを用いた以外は、実施例1と同様の手順で長鎖短鎖結合セルロース誘導体を作製した。その結果、出発原料(セルロース分6.0g(0.037mol/グルコース単位))から、長鎖短鎖結合セルロース誘導体7.3gを得た。
得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体の短鎖アシル基による置換度(DSSH)、長鎖アシル基による置換度(DSLO)をIR(日本分光(株)製、製品名:FT/IR−4100)により、実施例1に記載の測定法に従って測定した。測定結果は、DSSHは1.70、DSLOは0.32であった。従って、IR測定に基づく結果から、グルコース単位当たりに残存するヒドロキシ基の個数(水酸基残存度、DSOH)(平均値)は、DSOH=0.98と見積もられる。
なお、得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体はクロロホルムに可溶な成分が極めて少なかったため、1H−NMRによるDSSH、DSLOの測定はできなかった。
得られたセルロース誘導体について、実施例1に記載する手順に従って、流動性と熱可塑性(プレス成形性)の評価を試みた。熱可塑性が不足したため、プレス試験片による曲げ試験は実施できなかった。流動性の評価結果を表1に示す。
[実施例6]
セルロースの活性化処理を行った後、合成例2の混合酸無水物1を反応させることで、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を得た。具体的には、下記の手順に従って、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を作製した。
セルロース(日本製紙ケミカル製、製品名:KCフロック、銘柄:W−50GK)6.37g(吸着水分6.23%を含む重量:セルロース分6.0g(0.037mol/グルコース単位))を、90mLのジメチルスルホキシド(DMSO)に分散させた。この分散液を2時間攪拌し、20分間の吸引濾過によってDMSOを除去した。これにより、活性化処理済みセルロースを得た。
上記の活性化処理済みセルロースを用い、セルロース誘導体の合成(アシル化)の際に用いる溶媒として脱水ピリジンに代えてN−メチルピロリジノン(NMP)を用いた以外は、実施例1と同様の手順で長鎖短鎖結合セルロース誘導体を作製した。その結果、出発原料(セルロース分6.0g(0.037mol/グルコース単位))から、長鎖短鎖結合セルロース誘導体21.2gを得た。
得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体の短鎖アシル基による置換度(DSSH)、長鎖アシル基による置換度(DSLO)を、IR(日本分光(株)製、製品名:FT/IR−4100)により、実施例1に記載の測定法に従って測定した。測定結果は、DSSHは1.60、DSLOは0.56であった。従って、IR測定に基づく結果から、グルコース単位当たりに残存するヒドロキシ基の個数(水酸基残存度、DSOH)(平均値)は、DSOH=0.84と見積もられる。
なお、得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体は一部クロロホルムに可溶であるため、その可溶分について1H−NMR(Bruker社製、製品名:AV−400、400MHz)を用いてDSSH、DSLOを測定したところ、DSSHは2.1、DSLOは0.9であった。
得られたセルロース誘導体について、実施例1に記載する手順に従って、流動性と熱可塑性(プレス成形性)の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例1]
セルロースの活性化処理を行った後、合成例3の混合酸無水物2を反応させることで、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を得た。具体的には、下記の手順に従って、長鎖短鎖結合セルロース誘導体を作製した。
セルロース誘導体の合成(アシル化)の際に用いる混合酸無水物を含有する混合物として、合成例2の混合酸無水物1を含む混合物1に代えて、合成例3の混合酸無水物2を含む混合物2を用い、また溶媒として、脱水ピリジンに代えてNMPを用いた以外は、実施例1と同様の手順で長鎖短鎖結合セルロース誘導体を作製した。その結果、出発原料(セルロース分6.0g(0.037mol/グルコース単位))から、長鎖短鎖結合セルロース誘導体10.2gを得た。
得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体は、長鎖アシル基(ステアロイル基)にベンゼン環骨格を有していないため、短鎖アシル基による置換度(DSSH)、長鎖アシル基による置換度(DSLO)を、実施例1に記載するIRによる測定法により測定することはできない。
得られた長鎖短鎖結合セルロース誘導体は一部クロロホルムに可溶であるため、その可溶分について1H−NMR(Bruker社製、製品名:AV−400、400MHz)を用いてDSSH、DSLOを測定したところ、DSSHは2.9、DSLOは0.1であった。
また、この試料について、実施例1に記載する手順に従って、流動性と熱可塑性(プレス成形性)の評価を試みた。熱可塑性が著しく不足したため、プレス試験片による曲げ試験は実施できなかった。流動性の評価結果を表1に示す。
実施例1〜4と実施例5を対比すると明らかなように、電子対供与性(Dn)が大きい溶媒を用いることによって、長鎖アシル基による置換度(DSLO)が高くなり、熱可塑性と強度特性に優れた短鎖長鎖結合セルロース誘導体が得られることがわかる。また、実施例2と実施例6を対比すると明らかなように、セルロースの活性化溶媒としてジメチルスルホキシドを用いると、DSLOがより高いセルロース誘導体が得られることがわかる。また、実施例1〜6と比較例1を対比すると明らかなように、比較例1では、短鎖成分であるアセチル基のメチル基部分に対して、長鎖成分であるステアロイル基の長鎖有機基部分の電子吸引性が大きくないため、DSLOが十分に向上せず、熱可塑性の改善が不十分になることがわかる。
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
この出願は、2013年8月23日に出願された日本出願特願2013−173439を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。