JPWO2018235145A1 - 回転電機の回転子 - Google Patents

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Abstract

本発明の一態様に係る回転電機の回転子は、外周方向に開くV字型に配置された一対の第1永久磁石と、V字型の開いた部分に配置された第2永久磁石とで構成される一磁極が周方向に複数配置された回転電機の回転子であって、第1永久磁石が挿入される磁石挿入孔において、一磁極が構成するd軸と電気的に直交するq軸側の端部に当該磁石挿入孔と連続して設けられた第1空隙と、第2永久磁石が挿入される磁石挿入孔の両端部に当該磁石挿入孔と連続して設けられた第2空隙と、回転子の外周に、回転子の軸方向に沿って形成された溝とを備える。そして、回転子の回転中心と第1空隙のd軸側端部とを通って外周まで引いた直線を直線Aとし、回転中心と第2空隙のq軸側端部とを通って外周まで引いた直線を直線Bとした場合に、溝のq軸側端部は直線A上に位置し、溝のd軸側端部は直線Bよりもq軸側に位置する。

Description

本発明は、回転電機の回転子に関する。
電気自動車やハイブリッド車両等といった電動車両の駆動用電動機として、ロータコアに永久磁石が埋め込まれた埋め込み磁石型永久磁石式電動機(Interior Permanent Magnet モータ(以下、適宜IPMモータと称する))が知られている。
IPMモータには、永久磁石の磁束によって生じる鉄損によって高回転域での効率が低下するという問題がある。また、電動機の振動や騒音を抑えるために、トルクリプルを低下させることも求められる。
さらに、インバータ部品の耐久性確保の観点からは、誘起電圧のピーク値がインバータシステムの耐電圧を超えないようにする必要もある。誘起電圧はトルクに寄与する主成分と、トルクに寄与しない高調波成分との合成でなるところ、単に誘起電圧をインバータシステムの耐電圧を超えないように低くすると、主成分が小さくなってトルクが低下するおそれがある。そこで、トルクの低下を防止するためには、高調波成分のみを低減することで誘起電圧のピーク値を低下させる必要がある。
これらの要求を満たすために、JP5516739Bでは、外周方向に開くV字型に配置された一対の永久磁石、及び、V字型の開いた部分に配置された永久磁石の計3枚の永久磁石により一磁極が構成され、且つ、外周に溝が形成された回転子構造が提案されている。ここで提案された回転子構造によれば、該溝が形成されることにより、鉄損を低減しつつ、コギングトルクと誘起電圧とを低下させたモータを提供することができる。
しかしながら、JP5516739Bに開示された溝は、回転子の外周における中心位置が規定されているにすぎないため、最外周に配置された永久磁石の周方向幅によっては鉄損低減効果を十分に得ることができず、モータ効率を向上させることができない課題があることが本発明者らによって見出された。
そこで、本発明では、最外周に配置された永久磁石との位置関係を考慮しながら、回転子の外周に形成される溝の周方向幅を規定することにより、鉄損低減効果を十分に得ることができる回転子を提供することを目的とする。
本発明の一態様における回転電機の回転子は、外周方向に開くV字型に配置された一対の第1永久磁石と、V字型の開いた部分に配置された第2永久磁石とで構成される一磁極が周方向に複数配置された回転電機の回転子であって、第1永久磁石が挿入される磁石挿入孔において、一磁極が構成するd軸と電気的に直交するq軸側の端部に当該磁石挿入孔と連続して設けられた第1空隙と、第2永久磁石が挿入される磁石挿入孔の両端部に当該磁石挿入孔と連続して設けられた第2空隙と、回転子の外周に、回転子の軸方向に沿って形成された溝とを備える。そして、回転子の回転中心と第1空隙のd軸側端部とを通って外周まで引いた直線を直線Aとし、回転中心と第2空隙のq軸側端部とを通って外周まで引いた直線を直線Bとした場合に、溝のq軸側端部は直線A上に位置し、溝のd軸側端部は直線Bよりもq軸側に位置する。
本発明の実施形態については、添付された図面とともに以下に詳細に説明する。
図1は、一実施形態の回転子構造を説明するための図である。 図2は、溝の開始点の位置による鉄損低減率を解析した解析結果を示す図である。 図3は、溝の開始点の位置によるブリッジ部の応力の変化を解析した解析結果を示す図である。 図4は、ロータの外周形状によるステータにおける磁束密度を解析した解析結果を説明するための図である。 図5は、従来例と一実施形態のモータ損失の割合を解析した解析結果を示す図である。 図6は、トルク性能を向上させる観点から規定される溝の開始点を説明するための図である。 図7は、溝の開始点の位置による誘起電圧の1次成分の変化を解析した解析結果を示す図である。 図8は、コギングトルク低減に寄与する溝の開始点の位置を説明するための図である。 図9は、溝の開始点の位置によるコギングトルクの変化を解析した解析結果を示す図である。 図10は、溝の開始点の位置によるコギングトルク及び誘起電圧の1次成分の変化を解析した解析結果を示す図である。 図11は、溝の深さdを説明するための図である。 図12は、溝の深さdによる鉄損低減率を解析した解析結果を示す図である。 図13は、変形例1の溝を説明するための図である。 図14は、変形例2の溝を説明するための図である。 図15は、変形例3の溝を説明するための図である。 図16は、変形例4の溝を説明するための図である。 図17は、その他の変形例を説明するための図である。 図18は、参考例に対する従来例の損失の割合を解析した解析結果を示す図である。
−実施形態−
図1は、本発明が適用される一実施形態の回転子を説明するための図である。同図に表されるのは、電動機或いは発電機を構成する回転電機が備える回転子(ロータ)6を軸方向に垂直な断面から見た構成図であって、構成全体の一部(一極分)である。本実施形態の回転電機は、ロータ6の内部に永久磁石が埋設されたいわゆるIPM(Interior Permanent Magnet)型の回転電機であり、一対の永久磁石2と、永久磁石3の計3枚の永久磁石からなる永久磁石グループ30により構成された一磁極を複数有する回転子を備える。
なお、ここでは8極構造のロータを例に挙げるが、極数についてはこれに限定されるものではない。ただし、以下に説明する種々の解析データは、8極構造のロータ6と、スロット数が48であって、且つ、固定子巻線が分布巻きによって巻き回されたステータ(不図示)とで構成された回転電機に本発明を適用して解析されたことを前提とする。
回転子コア(ロータコア)1は、厚さ数百μmの電磁鋼板を円環状に打ち抜き加工したものを軸方向に積層して形成された、いわゆる積層電磁鋼板構造によって円筒形に構成されている。また、ロータコア1には、永久磁石2を埋設するための磁石挿入孔40(以下、単に磁石孔40ともいう)と、永久磁石3を埋設するための磁石挿入孔50(以下単に磁石孔50ともいう)が形成されるとともに、磁石孔40の周方向両端部には空隙4(第1空隙)が、磁石孔50の周方向両端部には空隙5(第2空隙)がそれぞれの磁石孔と連続して形成されている。
磁石孔40、50は、二つの永久磁石2と、一つの永久磁石3とをそれぞれ埋設するための空間が形成された電磁鋼板単板が軸方向に積層されることで形成される孔部である。
磁石孔40は、周方向における中央部分であって最も回転中心側に位置する部分がd軸上に位置し、周方向両端部分はd軸から離れてq軸に近づくとともにロータ外周に近づく、いわゆるV字型に形成される。
磁石孔50は、V字型の磁石孔40の開いた部分に、ロータコア1の周方向に沿って直線的に形成される。
永久磁石グループ30は、磁石孔40及び磁石孔50に埋め込まれており、一つの磁石孔40には1対の永久磁石2が、一つの磁石孔50には、一つの永久磁石3がそれぞれ埋め込まれている。
図示するとおり、磁石孔40はd軸に対して線対称な形状なので、一対の永久磁石2もd軸に対して線対称な、外周方向に開くV字型の配置となる。そして、磁石孔40に配置された1対の永久磁石2と、V字型の開いた部分に周方向に配置された永久磁石3とで略三角形状を形成する。ロータ6には、このような略三角形に配置された永久磁石グループ30により構成される一磁極が一定の機械角毎に形成される。本実施形態のロータ6は8極構造である為、略三角形状に配置された永久磁石グループ30が、機械角45度毎に形成される。図1が示すのはその一極分である。
永久磁石グループ30は、ロータコア1の磁石孔40、50のそれぞれの対応する箇所に挿入された状態で固定される。また、永久磁石グループ30が構成する一磁極は、ロータ6の周方向に沿って、永久磁石グループ30が構成する磁極が互いに等間隔で、且つ、隣接する磁極の極性が互いに異極性となるように配置される。この永久磁石グループ30がつくる磁束の方向がd軸(磁極中心)であり、d軸に対して電気的磁気的に直交する方向がq軸である。
二枚の永久磁石2は、磁石孔40よりも小さく形成されており、磁石孔40に一対の永久磁石2が埋め込まれた場合、磁石孔40におけるq軸側かつロータ外周側、換言すると、永久磁石2よりもより外周側の部分には、磁石孔40と連続する空間部分としての空隙4が形成される。
同様に、永久磁石3は、長手方向(周方向)の幅が磁石孔50よりも小さく形成されており、磁石孔50の周方向両端部分、換言すると、永久磁石3よりもq軸側の部分には、磁石孔50と連続する空間部分としての空隙5が形成される。これら空間部分は、電磁鋼板よりも透磁率が低く、すなわち磁気抵抗が大きい。したがって、空隙4、5は、永久磁石グループ30がロータ6に構成する磁気回路において、磁束(フラックス)が通りにくい磁気的障壁(フラックスバリア)として作用する。
そして、本実施形態のロータコア1の外周には、ロータコア1の回転中心側に向かって、かつ、ロータコア1の軸方向に沿って溝10が形成される。また、溝10は、ロータコア1の外周において、空隙4のd軸側の端部から空隙5のq軸側の端部までの領域に形成される。
図1を参照すれば、ロータコア1の回転中心から空隙4のd軸側の先端を通ってロータコア1の外周まで引いた接線を接線Aとし、ロータコア1の回転中心から空隙5のq軸側の先端を通ってロータコア1の外周まで引いた接線を接線Bとした場合に、溝10は、周方向幅におけるd軸側の端部(開始点)とq軸側の端部(終了点)とが、接線Aと接線Bとの間の領域に納まるように形成される。溝10に係る開始点、終了点の規定の詳細については後述する。
ブリッジ部7は、ロータコア1における空隙5と外周との間の領域であって、ロータコア1の面方向における最薄部分である。
ここで、溝10の詳細を説明する前に、従来の回転子構造と、その構造による特性および問題点について説明する。
JP5516739B(従来例)では、計3枚の永久磁石を略三角形状に配置することにより一磁極を構成し、且つ、ロータコアの外周に溝が形成された回転子構造が提案されている。該溝は、その溝中心位置を設定することで、鉄損低減効果を奏することができることが上記文献に開示されている。より具体的には、該溝は、その溝中心位置が、トルクリプルの高調波成分1周期分の電気角度間隔で刻んだ複数の刻み点のうち、最外周側の永久磁石とq軸との間の領域にある刻み点を基準としてd軸方向に1/4周期、q軸方向に1/8周期の範囲内に形成される。このような回転子構造によれば、鉄損を低減しつつ、コギングトルクと誘起電圧とを低下させたモータを提供することができる。
しかしながら、本願発明の発明者らは、略三角形状を形成する3枚の永久磁石のうちの最外周側の永久磁石の周方向幅によっては、上記特徴に基づく溝中心位置では鉄損低減効果を十分に得られることができず、モータ効率を向上させることができない課題があることを見出した。
図18は、溝が形成されていない点以外は従来例と同様の回転子構造を有する参考例を基準とした場合の従来例の損失の割合[%]を解析した解析結果を示す図である。図18(a)は、モータの低負荷低速領域における損失の割合を示す図である。図18(b)は、モータの高負荷高速領域における損失の割合を示す図である。同図は、従来例の損失が、特に、車両駆動用モータおいて定常的に利用される低負荷低速領域においては溝がない参考例と同等であり、溝を形成してもモータ効率を向上させることができていないことを示している。
本願発明者らは、このような課題を、溝の形状を周方向に拡張させるとともに、ロータ外周における該溝の開始点と終了点とを、磁極を構成する永久磁石との位置関係を考慮した上で規定することにより解決できることを見出した。以下、詳細を説明する。
図1に戻って本実施形態の溝10の形状の規定について説明する。なお、以下の説明において規定される電気角度は、d軸と隣接する一方のq軸との間の領域内において規定されるものとする。
溝10の開始点、及び、終了点が接線Aから接線Bまでの範囲内に位置することは上で述べた。以下の説明では、溝10の開始点の位置を、開始点からd軸までの電気角度であるθ1により規定し、終了点の位置を、終了点からd軸までの電気角度であるθ2により規定する。
本実施形態の溝10の終了点は、接線Aと略一致する位置に形成される。すなわち、溝10の終了点は、θ2が接線Aからd軸までの電気角度と略一致する位置に形成される。開始点の位置は図2を用いて説明する。
図2は、上述した参考例(溝なし)を基準(100%)とした場合において、溝10の開始点の位置による鉄損低減率を解析した解析結果を示す図である。溝10の開始点の位置は、開始点からd軸までの電気角度であるθ1により規定される(図1参照)。縦軸は鉄損低減率[%]を示し、横軸はθ1[°]を示している。なお、θ1=0°はd軸と一致する。θ1≒32°の近傍にひかれた点線は、永久磁石3のq軸側の最外周部分からd軸までの電気角度であるθ0を示している。なお、θ0は、回転中心から永久磁石3の最外周部を通ってロータ6の外周まで引いた直線を直線Dとした場合に、直線Dからd軸までの電気角と定義される(図1参照)。
図2から、永久磁石3の周方向幅によらず、永久磁石3のq軸側の端部よりもよりq軸側の領域に開始点を形成しても、θ1<約65°の領域においては鉄損が低減されることが分かる。さらに、同図は、θ1がより小さいほど、すなわち、開始点がよりd軸側に近づくほど、鉄損がより低減されることを示している。従って、θ1≒65°を上限として、溝10の開始点をd軸側に近づけるほど、モータ損失が低下し、モータの効率を向上させることができることが分かる。次に、開始点の下限について図3を用いて説明する。
図3は、上述した参考例を基準(基準値=1)とした場合において、溝10の開始点の位置によるブリッジ部7の応力の変化を解析した解析結果を示す図である。θ1≒44°は、回転中心から空隙5のq軸側端部を通ってロータ6の外周まで引かれた接線B(図1参照)からd軸までの電気角度と一致する。同図から、溝10の開始点がθ1<約44°の位置に形成された場合は、θ1がより小さいほど、すなわち、開始点がブリッジ部7のよりd軸側に向かうほど、ブリッジ部7の応力が大きくなっていることが分かる。従って、溝10の開始点は、ブリッジ部7よりもq軸側に形成されるように設定される。
ブリッジ部7は、ロータ6の面方向における最薄部であり、ロータ6の駆動時に永久磁石3が遠心力により外周に飛びださないよう保持する際に最も応力がかかる部分である。従って、ブリッジ部7は、応力がその材料疲労強度を超えないように設計される必要がある。これを考慮して、図3で示す解析結果に基づき、溝10の開始点の下限を空隙5のq軸側端部よりもq軸側に設定することで、ブリッジ部7の強度を確保しつつ、鉄損を低減させることができる。
次に、上述のように形成された溝10により鉄損が低減される理由について図4を用いて説明する。なお、本明細書における鉄損は、ステータ鉄損とロータ鉄損とを含むものとする。
図4は、ロータ6の外周形状によるステータにおける磁束密度の変化を解析した解析結果を説明するための図である。同図は、ロータ6の外周形状に対応したステータにおける磁束密度の波形を示す。実線が本実施形態、一点鎖線が従来例、二点鎖線が参考例、点線が理想波形(正弦波)を示している。また、点線L1はd軸、L2は本実施形態における溝10の開始点、L3は従来例における溝の開始点、L4は、本実施形態の溝10及び従来例の溝の終了点を示している。
前提として、3枚の永久磁石を略三角形状に配置することにより構成された一磁極を有するロータの磁束波形は、V字型に配置された一対の永久磁石2からの磁石磁束と永久磁石3からの磁石磁束の合成であるため、高調波成分を多く含んでいる。そのようなロータの外周に溝を設けると、溝部分の磁気抵抗が大きくなるので、溝部分からステータ側へ鎖交する磁石磁束が低下する。すなわち、溝の周方向幅を設定することでロータ6からの磁石磁束(ロータ磁束)を制御することにより、磁束波形を理想的な波形形状である正弦波に近づけることが可能である。ロータ磁束を正弦波に近づけることで、結果的にステータにおける磁束密度の高調波成分が低減される。
図4で示すように、本実施形態の溝10の周方向幅が従来例の溝に比べて大幅に広く形成されることで、磁束波形が従来例に比べてより理想的な正弦波に近づいていることが分かる。また、溝10の開始点の位置を従来例の開始点位置であるL3よりもd軸側に設定することにより、本実施形態の磁束波形を少なくとも従来例よりも理想的な正弦波に近づけることができる。
図5は、参考例(溝なし)を基準(100%)とした場合の、従来例と本実施形態のモータ損失の割合[%]を解析した解析結果を示す図である。図5(a)は、モータの低負荷低速領域における損失の割合を示す図である。図5(b)は、モータの高負荷高速領域における損失の割合を示す図である。同図から、本実施形態のロータ6は、参考例及び従来例に対して、モータ損失を低減できていることが分かる。ここで、鉄損は、主にヒステリシス損と渦電流損とから構成される。ヒステリシス損は磁束波形の周波数に比例し、渦電流損は該周波数の2乗に比例するため、磁束波形を正弦波に近づけ、ステータにおける磁束密度の高調波成分を抑制する事で高回転時の鉄損を大幅に低減することができる。
すなわち、本実施形態のロータ6は、溝10によりそのロータ磁束を正弦波に近づけることにより鉄損を低減できており、結果として、高付加高速領域だけでなく、図5(a)が示すように、定常領域である低負荷低速領域においてもモータ損失を低減させ、モータ効率を向上させることができる。
次に、ロータ6のトルク性能の向上に寄与する溝10の開始点の位置について説明する。ロータ6のトルク性能を向上させれば、より少ない電流で大きなトルクが出せるようになるので、結果としてモータ損失を低減することができる。
図6は、トルク性能を向上させる観点から規定される溝10の開始点を説明するための図である。上述のとおり、開始点の位置はd軸からの電気角度θ1で規定される。また、永久磁石3のq軸側の最外周部分からd軸までの電気角度はθ0で規定される。そして、回転中心から永久磁石3のq軸側の最外周部を通ってロータ6の外周まで引いた直線を直線Cとした場合に、直線Cからd軸までの電気角をθiと定義する。
以上を前提とすれば、溝10の開始点は以下式(1)を満たすように形成される。
Figure 2018235145
溝10の開始点が式(1)を満たすように形成する理由を図7を用いて説明する。
図7は、溝10の開始点の位置による誘起電圧の1次成分の変化を解析した解析結果を示す図である。横軸はθ1[°]を、参考例(溝なし)を基準(100%)とした場合の誘起電圧の1次成分の割合[%]を示している。また、θ1≒32°にひかれた点線は、永久磁石3のq軸側の最外周部分からd軸までの電気角度であるθ0を示し、θ1≒78°に引かれた点線は、永久磁石2の最外周部分からd軸までの電気角度であるθiを示している。そして、図中のθ1≒47°に引かれた点線は、本実施形態において上記式(1)を満たす電気角度を示している。なお、図示される誘起電圧の一次成分とは、高調波成分を除いた誘起電圧の基本波のことである。
ここで、IPMモータのトルクは、マグネットトルクとリラクタンストルクとが合成されたトルクである。マグネットトルクは、ロータ6からステータに流れる磁石磁束により発生する誘起電圧の1次成分の大きさに比例して大きくなる。
図7が示すとおり、θ1が上記式(1)を満たす位置に溝10の開始点を形成した場合には、溝が形成されていない参考例よりもトルク性能を向上させることができている。これは、溝10の開始点を上記(1)式を満たす位置に形成する事により、トルクに寄与する磁石磁束をよりd軸側に誘導し、誘起電圧の一次成分を大きくすることができているからである。このように、θ1を上記式(1)を満たすように設定することにより、少ない電流でより大きなトルクが出せるようになるので、モータ損失を低減することができる。
なお、θ1の上限は、所望のトルク性能を満足する電気角度を設定すればよい。例えば図7の解析結果に基づけば、参考例よりもトルク性能を向上させる範囲として、その上限をθ1≒68°程度に設定すればよい。ただし、図2を用いて上述した鉄損低減効果を考慮すればθ1≒65°程度が良い場合もあるので、目的に合わせて適宜設定すればよい。
次に、コギングトルクを有効に低減できる溝10の開始点の位置について説明する。コギングトルクは、無通電時であってもロータの回転時にステータとロータとの相対位置関係によって発生する正負のトルクであり、モータの振動や騒音の原因となるトルクである。
図8は、コギングトルク低減に寄与する溝10の開始点の位置を説明するための図である。図の上方には、図の下方に示すロータ6の外周形状に対応したトルクリプルの高調波成分がd軸を開始点として電気角度[°]に対応して示されている。
コギングトルクを有効に低減できる溝10の開始点の位置とは、例えば、溝が形成されていない参考例よりもコギングトルクを低くすることができる範囲内に設定された溝10の開始点の位置と定義される。ここで、図8上方に記載するように、ロータ6の外周において、d軸からq軸までをトルクリプルの高調波成分1周期分の電気角度間隔で刻んだ複数の刻み点を点Eとする。この場合、本実施形態の溝10の開始点は、点Eを基準としてd軸側に1/5周期ずれた位置からq軸側に1/3周期ずれた位置までの領域に形成される(図中の両矢印参照)。溝10をこのように形成した場合のコギングトルク低減効果について、図9を用いて説明する。
図9は、溝10の開始点の位置によるコギングトルクの変化を解析した解析結果を示す図である。図の上方には、参考例(溝なし)を基準(100%)とした場合の、溝10の開始点の位置を規定するθ1に応じたコギングトルクの割合[%]が示されている。一方、図の下方には、溝10の開始点の位置を規定する際の指標となるトルクリプルの高調波成分がθ1[°]に応じて示されている。
図示する通り、溝10の開始点が点Eを基準としてd軸側に1/5周期ずれた位置からq軸側に1/3周期ずれた位置までの領域に形成された場合には、溝が形成されていない参考例に比べてコギングトルクを有効に低減できていることが分かる。これにより、参考例よりも振動や騒音が抑制されたモータを提供することが可能となる。
さらに、上記式(1)を考慮し、コギングトルクの低下とトルク向上とを両立させる場合の溝10の開始点の位置について図10を参照して説明する。
図10は、溝10の開始点の位置によるコギングトルク及び誘起電圧の1次成分の変化を解析した解析結果を示す図である。図10は、上述の図9に、図7で説明した溝10の開始点位置に応じた誘起電圧1次成分の変化を重ねて表示した図である。図示する、θ1≒47°近傍に引いた線は、上記式(1)で示した(θi−θ0)/3+θ0を満たす電気角度である。
図示する通り、溝10の開始点が点Eを基準としてd軸側に1/5周期ずれた位置からq軸側に1/3周期ずれた位置までの領域に形成された場合には、溝が形成されていない参考例に比べてコギングトルクを有効に低減できていることが分かる。そして、コギングトルクの低下とトルク向上とを両立させる場合には、上記式(1)で示した(θi−θ0)/3+θ0<θ1を考慮し、θ1≒60°の近傍にある点Eを基準として、d軸側に1/5周期ずれた位置からq軸側に1/3周期ずれた位置までの領域に溝10の開始点を形成するのがより好ましいことが分かる。溝10の開始点の位置をこのように規定することにより、コギングトルクの低下とトルク向上とを両立させ、モータ損失が小さく、高効率で、かつ振動が低減されたモータを提供することが可能となる。
次に、図10を用いて説明した溝10の開始点の位置を式で表す。式によって一般化することにより、容易に設計に用いることが可能となる。すなわち、トルクリプルの高調波成分の次数をnとし、永久磁石3のq軸側の最外周部分からd軸までの電気角度をθ0とした場合において、m×(2π/n)>θ0を満たす最小の整数をmとした場合に、溝10の開始点は、以下式(2)を満たす位置から、以下式(3)を満たす位置までの範囲内に形成される。
Figure 2018235145
Figure 2018235145
溝10の開始点の位置をこのような式に基づいて規定した場合であっても、図10を用いて上述した通り、コギングトルクの低下とトルク向上とを両立させ、モータ損失が小さく、高効率で、かつ振動が低減されたモータを提供することが可能となる。
次に、溝10の深さを規定する。
図11は、溝10の深さdを説明するための図である。溝10の深さdは、ロータ6の回転中心から溝の回転中心側に最も深い点を通ってロータ6の仮想外周まで引かれた線Fにおいて、回転中心側に最も深い点から仮想外周までの距離と定義される。
また、ロータ6は、ステータ20の内周側に所定距離の空間(ギャップ21)を介して収容される。このギャップ21の長さgは、ステータ20の内周とロータ6の外周との間を結ぶ最短距離と定義される。この場合、溝10の深さdは、d≦4×gを満たすように形成される。
図12は、参考例(溝なし)を基準(鉄損低減率:100%、コギングトルク:1)とした場合の、溝10の深さdによる鉄損低減率を解析した解析結果を示す図である。横軸で示す溝10の深さdは、ギャップ21の長さaの倍数で表されている。図示するように、溝10の深さdを例えば上記のとおり、d≦4×gに設定することで、鉄損を低減しつつ、コギングトルクが低いモータを提供することができる。なお、溝10の深さdを、d>4×gとすると、鉄損が徐々に大きくなるので好ましくない。これは、溝10の深さを深くすればするほど、図4で示した本実施形態の磁束波形が理想的な正弦波系から離れてしまうからである。
以上、本実施形態の回転電機の回転子(ロータ6)は、外周方向に開くV字型に配置された一対の第1永久磁石(永久磁石2)と、V字型の開いた部分に配置された第2永久磁石(永久磁石3)とで構成される一磁極が周方向に複数配置された回転電機のロータ6であって、永久磁石2が挿入される磁石挿入孔40において、一磁極が構成するd軸と電気的に直交するq軸側の端部に磁石挿入孔40と連続して設けられた第1空隙(空隙4)と、永久磁石3が挿入される磁石挿入孔50の両端部に磁石挿入孔50と連続して設けられた第2空隙(空隙5)と、ロータ6の外周に、ロータ6の軸方向に沿って形成された溝10とを備える。そして、ロータ6の回転中心と空隙4のd軸側端部とを通って外周まで引いた直線を直線Aとし、回転中心と空隙5のq軸側端部とを通って外周まで引いた直線を直線Bとした場合に、溝のq軸側端部(終了点)は直線A上に位置し、溝のd軸側端部(開始点)は直線Bよりもq軸側に位置する。
これにより、ロータ6からの磁束波形を理想的な波形形状である正弦波に近づき、ステータにおける磁束密度の高調波成分が低減されるので、鉄損を低減させて、モータ効率を向上させることができる。また、溝10の開始点が直線Bよりもq軸側に位置する様に設定され、ブリッジ部7の径方向幅を狭めないので、ブリッジ部7の応力を悪化させることも無い。
また、一実施形態の回転電機のロータ6によれば、溝10のd軸側端部からd軸までの電気角をθ1とし、回転中心から永久磁石2の最外周部を通って外周まで引いた直線を直線Cとした場合に、直線Cからd軸までの電気角をθiとし、回転中心から永久磁石2の最外周部を通って外周まで引いた直線を直線Dとした場合に、直線Dからd軸までの電気角をθ0とした場合に、溝10のd軸側端部は、(θi−θ0)/3+θ0<θ1を満たす位置に形成される。これにより、トルクに寄与する磁石磁束をよりd軸側に誘導し、誘起電圧の一次成分を大きくすることができるので、少ない電流でより大きなトルクが出せるようになり、モータ損失を低減することができる。
また、一実施形態の回転電機のロータ6によれば、ロータ6の外周においてd軸からq軸までをトルクリプルの高調波成分1周期分の電気角度間隔で刻んだ複数の刻み点を点Eとした場合に、溝のd軸側端部は、点Eを基準としてd軸側に1/5周期ずれた位置からq軸側に1/3周期ずれた位置までの領域に形成される。これにより、溝が形成されていない参考例に比べてコギングトルクを低減することができるので、振動や騒音が抑制されたモータを提供することができる。
また、一実施形態の回転電機のロータ6によれば、トルクリプルの高調波成分の次数をnとし、m×(2π/n)>θ0を満たす最小の整数をmとした場合に、溝10のd軸側端部は、m×(2π/n)−(2π/n)/5を満たす位置から、m×(2π/n)−(2π/n)/3を満たす位置までの領域に形成される。溝10の開始点の位置をこのように規定することにより、コギングトルクの低下とトルク向上とを両立させ、モータ損失が小さく、高効率で、かつ振動が低減されたモータを提供することが可能となる。また、このような効果を有する溝10の開始点の位置を式によって一般化することにより、容易に設計に用いることを可能にすることができる。
さらに、一実施形態の回転電機のロータ6によれば、内周側にロータ6が収容される固定子(ステータ)20をさらに備え、ステータ20の内周とロータ6の外周との間のギャップ21の距離をgとし、ロータ6の回転中心から溝10の回転中心側に最も深い点を通ってロータ6の仮想外周まで引かれた線において回転中心側に最も深い点から仮想外周までの距離をdとした場合に、溝10は、d≦4×gを満たすように形成される。これにより、鉄損を低減しつつ、コギングトルクが低いモータを提供することができる。
以下では、これまで説明した一実施形態のロータ6に係る特徴を備えた他の変形例、すなわち、ロータコア1の外周において、上述した規定に基づいて形成された溝10を備える他の変形例について説明する。以下で説明するような回転子構造であっても、上記特徴を備えた溝10を備える限り、一実施形態において説明したのと同様の技術的効果を得ることができる。
(変形例1)
図13は、変形例1に係る溝10の形状を説明するための図である。図示するように、溝10の形状は必ずしも三角形状に形成される必要はなく、図示するような長方形状であってもよい。
(変形例2)
図14は、変形例2に係る溝10の形状を説明するための図である。図示するように、溝10の形状は回転中心側に向かって凸な円弧形状に形成されてもよい。
(変形例3)
図15は、変形例3に係る溝10の形状を説明するための図である。図示するように、溝10の形状は回転中心側に向かって凸な台形形状に形成されてもよい。
(変形例4)
図16は、変形例4に係る溝10の形状を説明するための図である。図示するように、溝10は、その一部にさらに深い溝11を一つ以上含むように形成されてもよい。この場合、上で定義した溝の深さdは、溝10において最も深い溝(溝11)の深さとする。
以上、本発明の実施形態、及びその変形例について説明したが、上記実施形態及び変形例は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。例えば、上述の説明においては、空隙4、5は空間部分であると説明したが、必ずしも空間である必要な無く、例えば樹脂材料のような非磁性材料で充填されていてもよい。
また、上述のロータ6が備える空隙4、5の形状は図1等に記載した形状に限定されず適宜変更されて良い。例えば、図1等に開示された空隙4は永久磁石2のq軸側の端部において、q軸と略平行に形成された帯状であるが、図17で示すような湾曲部を有する形状であってもよい。なお、この場合であっても、図示するとおり、回転子の回転中心と空隙4のd軸側端部とを通って外周まで引かれた線が直線Aと定義される。

Claims (5)

  1. 外周方向に開くV字型に配置された一対の第1永久磁石と、前記V字型の開いた部分に配置された第2永久磁石とで構成される一磁極が周方向に複数配置された回転電機の回転子であって、
    前記第1永久磁石が挿入される磁石挿入孔において、前記一磁極が構成するd軸と電気的に直交するq軸側の端部に当該磁石挿入孔と連続して設けられた第1空隙と、
    前記第2永久磁石が挿入される磁石挿入孔の両端部に当該磁石挿入孔と連続して設けられた第2空隙と、
    前記回転子の外周に、前記回転子の軸方向に沿って形成された溝と、を備え、
    前記回転子の回転中心と前記第1空隙のd軸側端部とを通って前記外周まで引いた直線を直線Aとし、前記回転中心と前記第2空隙のq軸側端部とを通って前記外周まで引いた直線を直線Bとした場合に、前記溝のq軸側端部は前記直線A上に位置し、前記溝のd軸側端部は前記直線Bよりもq軸側に位置する、
    回転電機の回転子。
  2. 請求項1に記載の回転電機の回転子において、
    前記溝のd軸側端部から前記d軸までの電気角をθ1とし、
    前記回転中心から前記第1永久磁石の最外周部を通って前記外周まで引いた直線を直線Cとした場合に、前記直線Cから前記d軸までの電気角をθiとし、
    前記回転中心から前記第2永久磁石の最外周部を通って前記外周まで引いた直線を直線Dとした場合に、前記直線Dから前記d軸までの電気角をθ0とした場合に、
    前記溝のd軸側端部は、(θi−θ0)/3+θ0<θ1を満たす位置に形成される、
    回転電機の回転子。
  3. 請求項1又は2に記載の回転電機の回転子において、
    前記回転子の外周において前記d軸から前記q軸までをトルクリプルの高調波成分1周期分の電気角度間隔で刻んだ複数の刻み点を点Eとした場合に、
    前記溝のd軸側端部は、前記点Eを基準として前記d軸側に1/5周期ずれた位置から前記q軸側に1/3周期ずれた位置までの領域に形成される、
    回転電機の回転子。
  4. 請求項2に記載の回転電機の回転子において、
    前記トルクリプルの高調波成分の次数をnとし、
    m×(2π/n)>θ0を満たす最小の整数をmとした場合に、
    前記溝のd軸側端部は、m×(2π/n)−(2π/n)/5を満たす位置から、m×(2π/n)−(2π/n)/3を満たす位置までの領域に形成される、
    回転電機の回転子。
  5. 請求項1から4のいずれか一項に記載の回転電機の回転子において、
    内周側に前記回転子が収容される固定子をさらに備え、
    前記固定子の内周と前記回転子の外周との間のギャップ距離をgとし、
    前記回転子の回転中心から前記溝の前記回転中心側に最も深い点を通って前記ロータコアの仮想外周まで引かれた線において、前記回転中心側に最も深い点から前記仮想外周までの距離をdとした場合に、
    前記溝は、d≦4×gを満たすように形成される、
    回転電機の回転子。
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