JPWO2018225738A1 - パラジウム抽出剤、パラジウムの抽出方法、パラジウムの回収方法、パラジウム抽出剤の再生方法、および、パラジウムの反復回収方法 - Google Patents
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Abstract
下記一般式(I)で示されるアルキルスルフィド基含有2置換芳香族化合物を有効成分とするパラジウム抽出剤により、白金及びロジウム、ベースメタル等が混在する溶液から選択的にパラジウムのみを抽出することが可能であり、酸性溶液と長時間接触しても酸化されず、短時間でパラジウムを抽出することが可能である。(式中、Rは分岐していてもよい炭素数1〜12の炭化水素基、炭素数5〜7の脂環式炭化水素基、または、炭素数7〜8の芳香族炭化水素基を表す。)
Description
本発明は、パラジウム抽出剤、パラジウムの抽出方法、パラジウムの回収方法、パラジウム抽出剤の再生方法、および、パラジウムの反復回収方法に関する。
パラジウム、白金、ロジウムの3種白金族金属の多くは自動車排ガス触媒に使用されている。排ガス規制並びに規制強化が世界的に広がり、これらの金属の需要が高まったため、これらの金属資源の安定確保は難しくなっている。また、その需要の高まりに伴って使用済み自動車排ガス触媒も増加の一途を辿っている。これらの金属は高価であり、資源として貴重な金属であることから、使用後には回収してリユースすることが行われている。
白金族金属を一定量供給するためには、使用済み製品から白金族金属を高効率で分離することが重要となる。
白金族金属を一定量供給するためには、使用済み製品から白金族金属を高効率で分離することが重要となる。
市販の抽出剤は白金族元素が複数種類存在する際に、これらのうち一種類の白金族元素に選択性を発現することは難しい。特に、パラジウムと白金とは化学的性質が類似していることから分離に難がある。さらに、強酸性下での抽出条件となるため抽出剤の不安定性も重大な解決問題となっており、新規抽出剤の開発が求められている。
白金族金属の分離工程おける精製には、電解析出法、イオン交換法、沈殿法が提案されているが、選択性、経済性及び操作性の点から、溶媒抽出法が広く採用されている。この用途に使用する様々な抽出剤が開発され利用されている。
現在、公知のパラジウム抽出剤として用いられているのがジアルキルスルフィド(DAS)であり(例えば、特許文献1、2)、アンモニア水溶液により容易に逆抽出できることが特徴である。
白金族金属を含む自動車排ガス触媒は、酸処理により水溶液化させて酸性水溶液とし、これに対して、溶媒抽出法を施す。この条件下で、DASを使用した場合には、パラジウム、白金、ロジウム、ベースメタルを含む酸性水溶液からパラジウムを選択的に抽出するものの、DASと酸性水溶液とが長時間接触するため、DASのスルフィド部位が酸化を受け、パラジウムの抽出能力が低下してしまい、再利用性に乏しい。さらに、DASはパラジウムの抽出速度が遅いという問題もある。
以上、本発明は、(1)白金及びロジウム、ベースメタル等が混在する溶液から選択的にパラジウムのみを抽出することが可能であり、(2)酸性溶液と長時間接触しても酸化されず、(3)短時間でパラジウムを抽出することが可能である、パラジウム抽出剤を提供することを課題とする。
本発明者は、鋭意検討の結果、抽出剤の構造を特定のピンサー型構造とすることにより、上記課題を解決可能であることを見出した。
本発明の第1の形態は、下記一般式(I)で示されるアルキルスルフィド基含有2置換芳香族化合物を有効成分とするパラジウム抽出剤である。
本発明の第2の形態は、第1の形態のパラジウム抽出剤を含有する有機相を準備する工程、パラジウムを含む酸性水溶液と前記有機相とを接触させることにより、パラジウムを前記有機相に抽出する工程を備えた、パラジウムの抽出方法である。
第2の形態において、前記パラジウムを含む酸性水溶液は、少なくともパラジウムを含む多種の金属が混在する廃棄物を酸処理により水溶液化した酸浸出液であることが好ましい。
第2の形態において、前記少なくともパラジウムを含む多種の金属は、パラジウム以外に、白金、ロジウム、ランタン、レアアース、ジルコニウム、および、ベースメタルから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
本発明の第3の形態は、第2の形態のパラジウムの抽出方法により得られたパラジウムを抽出した有機相と、チオ尿素を含む塩酸水溶液とを接触させて、パラジウムを水相に逆抽出する工程を備えたパラジウムの回収方法である。
本発明の第4の形態は、第2の形態のパラジウムの抽出方法により得られたパラジウムを抽出した有機相と、チオ尿素を含む塩酸水溶液とを接触させて、パラジウムを水相に逆抽出すると共に、有機相中の第1の形態のパラジウム抽出剤を再生させる工程を備えた、パラジウム抽出剤の再生方法である。
本発明の第5の形態は、第1の形態のパラジウム抽出剤を含有する有機相を準備する第1工程、パラジウムを含む酸性水溶液と前記有機相とを接触させることにより、パラジウムを前記有機相に抽出する第2工程、および、パラジウムを抽出した有機相と、チオ尿素を含む塩酸水溶液とを接触させて、パラジウムを水相に逆抽出する第3工程を備え、前記第2工程および前記第3工程を繰り返し行うことにより、パラジウム抽出剤を再生しつつ、パラジウムを繰り返して回収可能なパラジウムの反復回収方法である。
第5の形態において、前記第3工程の後に、再生したパラジウム抽出剤を含有する有機相を蒸留水により洗浄する第4工程をさらに備え、前記第2工程、第3工程、および、第4工程を繰り返し行うことが好ましい。
第1の形態のパラジウム抽出剤は、(1)白金及びロジウム、ベースメタル等が混在する溶液から選択的にパラジウムのみを抽出することが可能であり、(2)酸性溶液と長時間接触しても酸化されず、(3)短時間でパラジウムを抽出することが可能である。
<パラジウム抽出剤>
本発明の第一の形態であるパラジウム抽出剤は、下記一般式(I)で示されるアルキルスルフィド基含有2置換芳香族化合物を有効成分とするパラジウム抽出剤である。
本発明の第一の形態であるパラジウム抽出剤は、下記一般式(I)で示されるアルキルスルフィド基含有2置換芳香族化合物を有効成分とするパラジウム抽出剤である。
本発明者は、本発明のパラジウム抽出剤は、ピンサー型配位子の特性である「ピンサー配位子の金属をカニばさみする特性」及び「ピンサー配位子にカニばさみされる金属の還元を伴った特異的な捕捉(Pd(II)をPd(I)として捕捉)」を利用したことにより、パラジウム抽出剤として優れた認識性・選択性・効率性・迅速性を発揮できたと予測している。
一般式(I)において、一分子中のRは同一であっても異なっていてもよいが、合成のしやすさの点から、同一であることが好ましい。Rは分岐していてもよい炭素数1〜12の炭化水素基、炭素数5〜7の脂環式炭化水素基、または、炭素数7〜8の芳香族炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基であり、より好ましくは炭素数6〜10の直鎖または分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数7〜9の直鎖または分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは、炭素数7〜9の直鎖のアルキル基である。
(アルキルスルフィド基含有2置換芳香族化合物の合成方法)
一般式(I)のアルキルスルフィド基含有2置換芳香族化合物は、公知の方法で合成できる。例えば、α,α´−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピルベンゼンを出発物質とし、これと所定のチオールとを反応させることにより合成することができる。反応は、所定の溶媒中で、所定の触媒の存在化において行うことができる。チオールとしては、例えば、1−オクタンチオール、1−ヘプタンチオール、1−ノナンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-エチルヘキサンチオール等のアルキルチオール、シクロヘキサンチオールやシクロへキシルチオール等の脂環式チオール、ベンジルメルカプトンやフェニルエチルメルカプトン等の芳香族チオールが挙げられる。
溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタンを使用することができる。触媒としては、例えば、ヨウ化亜鉛を使用することができる。
反応は、例えば、窒素雰囲気等の不活性雰囲気において行うことが好ましい。反応時間、反応温度は特に限定されないが、例えば、1時間以上、好ましくは2時間以上であり、室温付近において反応させることが好ましい。反応後は、所定の精製工程を経て、式(I)の化合物を得ることができる。
一般式(I)のアルキルスルフィド基含有2置換芳香族化合物は、公知の方法で合成できる。例えば、α,α´−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピルベンゼンを出発物質とし、これと所定のチオールとを反応させることにより合成することができる。反応は、所定の溶媒中で、所定の触媒の存在化において行うことができる。チオールとしては、例えば、1−オクタンチオール、1−ヘプタンチオール、1−ノナンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-エチルヘキサンチオール等のアルキルチオール、シクロヘキサンチオールやシクロへキシルチオール等の脂環式チオール、ベンジルメルカプトンやフェニルエチルメルカプトン等の芳香族チオールが挙げられる。
溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタンを使用することができる。触媒としては、例えば、ヨウ化亜鉛を使用することができる。
反応は、例えば、窒素雰囲気等の不活性雰囲気において行うことが好ましい。反応時間、反応温度は特に限定されないが、例えば、1時間以上、好ましくは2時間以上であり、室温付近において反応させることが好ましい。反応後は、所定の精製工程を経て、式(I)の化合物を得ることができる。
<パラジウムの抽出方法>
本発明の第二の形態である、パラジウムの抽出方法は、上記した第一の形態のパラジウム抽出剤を含有する有機相を準備する工程、パラジウムを含む酸性水溶液と前記有機相とを接触させることにより、パラジウムを前記有機相に抽出する工程、を備えている。本発明のパラジウムの抽出方法を実施する場合において、通常、一般式(I)で表されるアルキルスルフィド基含有2置換芳香族化合物は溶媒に溶解され有機相とされる。該有機相に、パラジウムが溶解した酸性水溶液を接触させることにより、パラジウムが有機相に移行し、パラジウムが抽出される。
本発明の第二の形態である、パラジウムの抽出方法は、上記した第一の形態のパラジウム抽出剤を含有する有機相を準備する工程、パラジウムを含む酸性水溶液と前記有機相とを接触させることにより、パラジウムを前記有機相に抽出する工程、を備えている。本発明のパラジウムの抽出方法を実施する場合において、通常、一般式(I)で表されるアルキルスルフィド基含有2置換芳香族化合物は溶媒に溶解され有機相とされる。該有機相に、パラジウムが溶解した酸性水溶液を接触させることにより、パラジウムが有機相に移行し、パラジウムが抽出される。
(パラジウム抽出剤を含有する有機相)
パラジウム抽出剤を含有する有機相に使用する溶媒は、非水溶性の溶媒であり、2種以上の溶媒を組み合わせて使用してもよい。非水溶性の溶媒としては、一般式(I)で表されるアルキルスルフィド基含有2置換芳香族化合物を溶解することができれば特に制限はなく、石油、ケロシン等の鉱油;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化溶媒等が挙げられる。
パラジウム抽出剤を含有する有機相に使用する溶媒は、非水溶性の溶媒であり、2種以上の溶媒を組み合わせて使用してもよい。非水溶性の溶媒としては、一般式(I)で表されるアルキルスルフィド基含有2置換芳香族化合物を溶解することができれば特に制限はなく、石油、ケロシン等の鉱油;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化溶媒等が挙げられる。
有機相における、一般式(I)で表されるアルキルスルフィド基含有2置換芳香族化合物の濃度は該アルキルスルフィド基含有2置換芳香族化合物の溶解度によって上限が限定される以外は特に制限はないが、あまりに濃度が低いとパラジウム抽出効果が得られないため、通常1×10−3〜1Mの範囲で使用される。
(パラジウムを含む酸性水溶液)
パラジウムを含む酸性水溶液における、酸の濃度、例えば、塩酸濃度、硝酸濃度、または、塩酸−硝酸混合溶液の濃度は、好ましくは、0.1から8.0Mであり、幅広い範囲の酸濃度に対応することができる。
パラジウムを含む酸性水溶液における、酸の濃度、例えば、塩酸濃度、硝酸濃度、または、塩酸−硝酸混合溶液の濃度は、好ましくは、0.1から8.0Mであり、幅広い範囲の酸濃度に対応することができる。
酸性水溶液に含まれる酸としては、水溶性であれば特に制限はなく、無機酸を使用することができる。無機酸としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、過酸化水素等が挙げられる。また、2種類以上の酸が含まれていても良い。金属の溶解性の観点から、塩酸、硝酸、または、これらの混合物が好ましい。
パラジウムを含む酸性水溶液中におけるパラジウムの濃度は特に制限はなく、通常は100〜1000ppm程度である。
本発明の抽出方法において、前記パラジウムを含む酸性水溶液は、少なくともパラジウムを含む多種の金属が混在する廃棄物を酸処理により水溶液化した酸浸出液であることが好ましく、このような酸浸出液を対象とすることにより、本発明のパラジウム抽出剤の優れた認識性、選択制、効率性、迅速性をより発揮させることが可能となる。少なくともパラジウムを含む多種の金属が混在する廃棄物としては、例えば、自動車排ガス触媒を挙げることができる。
酸浸出液に含まれるパラジウム以外の金属としては、特に限定されず、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、3B金属等が含まれていても良く、中でも本発明のパラジウムの抽出剤の選択性を発揮する点から、白金、ロジウム、ランタン、レアアース、ジルコニウム、および、ベースメタルから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、希少性が高く有用なパラジウムをリサイクル利用することができる。また、パラジウムを分離した後の酸浸出液に含まれるパラジウムの量を大きく低減させることができるため、パラジウムを除去する操作としても利用できる。よって、本発明は、廃棄物を酸処理により水溶液化した酸浸出液からパラジウム以外の有用金属を単離する際の、前処理としても利用できる。
(抽出条件)
抽出温度は使用する溶媒の沸点以下であれば特に制限はなく、通常、室温付近で行われる。抽出操作はパラジウム抽出剤を含有する有機相とパラジウムを含む酸性水溶液とを振とう、撹拌などにより互いに接触させることにより行われる。振とうは通常毎分100〜500回程度行えばよい。
また、本発明のパラジウム抽出剤は短時間でパラジウムを抽出することが可能であり、振とう時間は、30分程度でほぼ全量の抽出が可能となる。また、抽出剤や酸性水溶液の条件によって、適宜、振とう時間を調整することができる。振とう時間としては、下限が好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましは30分以上であり、上限は好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下である。
抽出温度は使用する溶媒の沸点以下であれば特に制限はなく、通常、室温付近で行われる。抽出操作はパラジウム抽出剤を含有する有機相とパラジウムを含む酸性水溶液とを振とう、撹拌などにより互いに接触させることにより行われる。振とうは通常毎分100〜500回程度行えばよい。
また、本発明のパラジウム抽出剤は短時間でパラジウムを抽出することが可能であり、振とう時間は、30分程度でほぼ全量の抽出が可能となる。また、抽出剤や酸性水溶液の条件によって、適宜、振とう時間を調整することができる。振とう時間としては、下限が好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましは30分以上であり、上限は好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下である。
<パラジウムの回収方法>
本発明の第三の形態であるパラジウムの回収方法は、上記したパラジウムの抽出方法により得られたパラジウムを抽出した有機相と、チオ尿素を含む塩酸水溶液とを接触させて、パラジウムを水相に逆抽出する工程を備えている。
本発明の第三の形態であるパラジウムの回収方法は、上記したパラジウムの抽出方法により得られたパラジウムを抽出した有機相と、チオ尿素を含む塩酸水溶液とを接触させて、パラジウムを水相に逆抽出する工程を備えている。
(チオ尿素を含む塩酸水溶液)
チオ尿素を含む塩酸水溶液における、チオ尿素の濃度は、下限が好ましくは0.01M以上、より好ましくは0.05M以上であり、上限が好ましくは1M以下、より好ましくは0.5M以下である。
チオ尿素を含む塩酸水溶液における、チオ尿素の濃度は、下限が好ましくは0.01M以上、より好ましくは0.05M以上であり、上限が好ましくは1M以下、より好ましくは0.5M以下である。
また、チオ尿素を含む塩酸水溶液における、塩酸濃度は、下限が好ましくは0.1M以上、より好ましくは0.5M以上であり、上限が好ましくは10M以下、より好ましくは5M以下である。
(逆抽出条件)
逆抽出温度は使用する溶媒の沸点以下であれば特に制限はなく、通常室温付近で行われる。逆抽出操作はパラジウムを抽出した有機相とチオ尿素を含む塩酸水溶液とを振とう、撹拌などにより互いに接触させることにより行われる。振とうは通常毎分100〜500回程度行えばよい。振とう時間としては、下限が好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、さらに好ましは30分以上であり、上限は好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下である。
逆抽出温度は使用する溶媒の沸点以下であれば特に制限はなく、通常室温付近で行われる。逆抽出操作はパラジウムを抽出した有機相とチオ尿素を含む塩酸水溶液とを振とう、撹拌などにより互いに接触させることにより行われる。振とうは通常毎分100〜500回程度行えばよい。振とう時間としては、下限が好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、さらに好ましは30分以上であり、上限は好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下である。
以上の逆抽出により、ほぼ全量のパラジウムを有機相から水相に回収することができる。
<パラジウム抽出剤の再生方法>
本発明の第四の形態であるパラジウム抽出剤の再生方法は、上記したパラジウムの抽出方法により得られたパラジウムを抽出した有機相と、チオ尿素を含む塩酸水溶液とを接触させて、パラジウムを水相に逆抽出すると共に、有機相中の本発明のパラジウム抽出剤を再生させる工程を備えている。
本発明の第四の形態であるパラジウム抽出剤の再生方法は、上記したパラジウムの抽出方法により得られたパラジウムを抽出した有機相と、チオ尿素を含む塩酸水溶液とを接触させて、パラジウムを水相に逆抽出すると共に、有機相中の本発明のパラジウム抽出剤を再生させる工程を備えている。
本発明の第三の形態であるパラジウムの回収方法は、別の観点から見ると、第四の形態のパラジウム抽出剤の再生方法となる。つまり、パラジウムの回収方法において、パラジウムを水相に逆抽出した後は、有機相には本発明の抽出剤が再生された形で残存していることになる。
再生したパラジウム抽出剤を含有する有機相は必要に応じて、蒸留水により洗浄することが好ましく、該洗浄の際の温度、振とう条件は上記逆抽出の際における条件と同様である。
<パラジウムの反復回収方法>
本発明の第5の形態であるパラジウムの反復回収方法は、第1の形態のパラジウム抽出剤を含有する有機相を準備する第1工程、パラジウムを含む酸性水溶液と前記有機相とを接触させることにより、パラジウムを前記有機相に抽出する第2工程、および、パラジウムを抽出した有機相と、チオ尿素を含む塩酸水溶液とを接触させて、パラジウムを水相に逆抽出する第3工程を備え、前記第2工程および前記第3工程を繰り返し行うことにより、パラジウム抽出剤を再生しつつ、パラジウムを繰り返して回収可能なパラジウムの反復回収方法である。
本発明の第5の形態であるパラジウムの反復回収方法は、第1の形態のパラジウム抽出剤を含有する有機相を準備する第1工程、パラジウムを含む酸性水溶液と前記有機相とを接触させることにより、パラジウムを前記有機相に抽出する第2工程、および、パラジウムを抽出した有機相と、チオ尿素を含む塩酸水溶液とを接触させて、パラジウムを水相に逆抽出する第3工程を備え、前記第2工程および前記第3工程を繰り返し行うことにより、パラジウム抽出剤を再生しつつ、パラジウムを繰り返して回収可能なパラジウムの反復回収方法である。
上記逆抽出では、ほぼ全量のパラジウムを水相に回収することができる。これは、つまり、有機相においてほぼ全量のパラジウム抽出剤がもとの状態(パラジウムに吸着する前の状態)に再生されていることを意味する。また、本発明のパラジウム抽出剤は、酸性溶液対する耐性を有しているため、たとえ酸性溶液と複数回接触したとしても酸化されることはない。
よって、本発明のパラジウム抽出剤を含有する有機相をパラジウムを含む酸性水溶液と接触させてパラジウムを抽出し、その後、チオ尿素を含む塩酸水溶液と接触させてパラジウムを逆抽出するという操作を、複数回繰り返すことにより、同じパラジウム抽出剤を使用しつつ複数の酸浸出液からパラジウムをくり返し抽出することが可能であり、工業的観点から効率がよい抽出方法である。
上記した第5の形態のパラジウムの反復回収方法においては、前記第3工程の後に、再生したパラジウム抽出剤を含有する有機相を蒸留水により洗浄する第4工程をさらに備え、前記第2工程、第3工程、および、第4工程を繰り返し行うことが好ましい。この洗浄操作により、有機相中に不純物が含まれている場合にその不純物を、次の抽出工程の前に除去し、次の抽出工程における、抽出効率を上げることができる。
<ピンサー型のパラジウム抽出剤(E1)の合成>
200mL容の二口フラスコにα,α’−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピルベンゼン(1.55g,7.98mmol)とヨウ化亜鉛(2.56g,8.02mmol)、1−オクタンチオール(2.45g,16.78mmol)をジクロロメタン(50mL)に加えて、窒素雰囲気下、室温で2時間攪拌した。反応溶液にジクロロメタンをさらに加えて希釈し、300mL容の分液ロートに移して水で洗浄した。有機層を1M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄後、無水の硫酸ナトリウムで脱水した。 脱水後の有機層から溶媒を留去することで無色油状物の目的物(収量3.45g、収率96%)を得た。
得られた目的物の分析結果は以下のとおりであった。
FT-IR (ATR) ν/cm−1: 2922 (C-H), 703 (C−S). 1H NMR (300 MHz, CDCl3, TMS) δ 7.76 (s, 1H, ArH), 7.33 (dd, 2H, ArH), 7.26 (t, 1H, ArH), 2.18 (t, 4H, -SCH 2-), 1.70 (s, 12H, -ArC(CH 3)2-), 1.34 (m, 4H, -SCH2CH 2-), 1.30-1.10 (m, 20H, -SCH2CH2(CH 2)5-), 0.85 (t, 6H, -SCH2CH2(CH2)5CH 3).
得られた目的物の分析結果は以下のとおりであった。
FT-IR (ATR) ν/cm−1: 2922 (C-H), 703 (C−S). 1H NMR (300 MHz, CDCl3, TMS) δ 7.76 (s, 1H, ArH), 7.33 (dd, 2H, ArH), 7.26 (t, 1H, ArH), 2.18 (t, 4H, -SCH 2-), 1.70 (s, 12H, -ArC(CH 3)2-), 1.34 (m, 4H, -SCH2CH 2-), 1.30-1.10 (m, 20H, -SCH2CH2(CH 2)5-), 0.85 (t, 6H, -SCH2CH2(CH2)5CH 3).
<塩酸濃度の異なる溶液からのパラジウム抽出実験>
本例では、ピンサー型のパラジウム抽出剤(E1)をパラジウム抽出剤とした、パラジウム単独酸性溶液からの抽出実験を行った(実施例)。また、公知のパラジウム抽出剤であるDASの一種のジ−n−オクチルスルフィド(DOS)を用いて同様の実験を行った(比較例)。E1はケロシン溶媒に希釈して10mMとし、DOSも同様の溶媒にて希釈して20mMとした。これら有機相10mLに、0.1M〜8.0M塩酸を用いて100ppmの濃度に調製したパラジウム単独溶液を等体積加え、1時間、激しく振とう(300rpm)することで、有機相へパラジウムの抽出を行った。
その後、水相中のパラジウム濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を下記の式(1)と式(2)にて算出した。
E%=[M]org/[M]aq,init×100 式(1)
[M]org=([M]aq,init−[M]aq) 式(2)
ただし、[M]org:抽出後の有機相中のパラジウム濃度(ppm)、[M]aq,init:抽出前の水相中のパラジウム濃度(ppm)、[M]aq:抽出後の水相中のパラジウム濃度、
塩酸濃度を変えた際の抽出率の変化を図1に示す。
本例では、ピンサー型のパラジウム抽出剤(E1)をパラジウム抽出剤とした、パラジウム単独酸性溶液からの抽出実験を行った(実施例)。また、公知のパラジウム抽出剤であるDASの一種のジ−n−オクチルスルフィド(DOS)を用いて同様の実験を行った(比較例)。E1はケロシン溶媒に希釈して10mMとし、DOSも同様の溶媒にて希釈して20mMとした。これら有機相10mLに、0.1M〜8.0M塩酸を用いて100ppmの濃度に調製したパラジウム単独溶液を等体積加え、1時間、激しく振とう(300rpm)することで、有機相へパラジウムの抽出を行った。
その後、水相中のパラジウム濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を下記の式(1)と式(2)にて算出した。
E%=[M]org/[M]aq,init×100 式(1)
[M]org=([M]aq,init−[M]aq) 式(2)
ただし、[M]org:抽出後の有機相中のパラジウム濃度(ppm)、[M]aq,init:抽出前の水相中のパラジウム濃度(ppm)、[M]aq:抽出後の水相中のパラジウム濃度、
塩酸濃度を変えた際の抽出率の変化を図1に示す。
図1に示すとおり、塩酸濃度が上昇するとともに、抽出剤としてDOS(●)を用いた場合は、パラジウムの抽出率が約90%まで減少したが、E1(■)を用いた場合では、どの塩酸濃度であっても、抽出率に影響がないことがわかった。このことから、塩酸濃度の変化におけるパラジウムの抽出能力に関しては、DOSよりも、E1の方が影響を受けず、安定してパラジウムを抽出できると結論付けることができる。酸溶解させる対象物によって、適用される酸濃度は様々であり、酸濃度の調整工程を不要とする観点から、幅広い酸濃度にて使用できる本願発明の抽出剤は好ましい。
<硝酸濃度の異なる溶液からのパラジウム抽出実験>
本例では、抽出剤としてE1(実施例)およびDOS(比較例)を用いた。E1はケロシン溶媒に希釈して10mMとし、DOSも同様の溶媒にて希釈して20mMとした。これら有機相10mLに、0.1M〜8.0M硝酸を用いて100ppmの濃度に調製したパラジウム単独溶液を等体積加え、1時間、激しく振とう(300rpm)することで、有機相へパラジウムの抽出を行った。
その後、水相中のパラジウム濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を上記の式(1)と式(2)にて求めた。硝酸濃度を変えた際の抽出率の変化を図2に示す。
本例では、抽出剤としてE1(実施例)およびDOS(比較例)を用いた。E1はケロシン溶媒に希釈して10mMとし、DOSも同様の溶媒にて希釈して20mMとした。これら有機相10mLに、0.1M〜8.0M硝酸を用いて100ppmの濃度に調製したパラジウム単独溶液を等体積加え、1時間、激しく振とう(300rpm)することで、有機相へパラジウムの抽出を行った。
その後、水相中のパラジウム濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を上記の式(1)と式(2)にて求めた。硝酸濃度を変えた際の抽出率の変化を図2に示す。
図2からわかるように、硝酸濃度が上昇するとともに、抽出剤としてDOS(●)を用いた場合は、パラジウムの抽出率が約70%まで減少したのに対し、E1(■)を用いた場合では、どの硝酸濃度であっても、抽出率に影響がないことがわかった。このことから、硝酸濃度の変化におけるパラジウムの抽出能力に関しては、DOSよりも、E1の方が影響を受けず、安定してパラジウムを抽出できると結論付けることができる。酸溶解させる対象物によって、適用される酸濃度は様々であり、酸濃度の調整工程を不要とする観点から、幅広い酸濃度にて使用できる本願発明の抽出剤は好ましい。
<塩酸/硝酸混合溶液からパラジウムを抽出する際の抽出率の時間依存性>
本実施例では、抽出剤としてE1(実施例)およびDOS(比較例)を用いた。E1はケロシン溶媒に希釈して10mMとし、DOSも同様の溶媒にて希釈して100mMとした。これら有機相10mLに、2.0M塩酸/1.0M硝酸を混合した溶液を用いて100ppmの濃度に調製したパラジウム単独溶液を等体積加え、激しく振とう(300rpm)し、振とう時間を最長168時間までとして、有機相へパラジウムの抽出を行った。
その後、水相中のパラジウム濃度をICP発光分析装置にて分析し、抽出率(E%)を上記の式(1)と式(2)にて求めた。塩酸/硝酸混合溶液中からの振とう時間を変えた際の抽出率の変化を図3に示す。
本実施例では、抽出剤としてE1(実施例)およびDOS(比較例)を用いた。E1はケロシン溶媒に希釈して10mMとし、DOSも同様の溶媒にて希釈して100mMとした。これら有機相10mLに、2.0M塩酸/1.0M硝酸を混合した溶液を用いて100ppmの濃度に調製したパラジウム単独溶液を等体積加え、激しく振とう(300rpm)し、振とう時間を最長168時間までとして、有機相へパラジウムの抽出を行った。
その後、水相中のパラジウム濃度をICP発光分析装置にて分析し、抽出率(E%)を上記の式(1)と式(2)にて求めた。塩酸/硝酸混合溶液中からの振とう時間を変えた際の抽出率の変化を図3に示す。
図3からわかるように、振とう時間が増加するごとに、DOS(●)を用いた場合は、パラジウムの抽出率が急激に減少し、振とう時間168時間付近では約40%まで低下したが、E1(■)を用いた場合では、抽出率の減少が見られず、一定の割合で抽出できることがわかる。このことから、塩酸/硝酸混合溶液中であっても、E1は影響を受けずに安定してパラジウムを抽出できると結論付けることができる。
<パラジウム抽出率の抽出時間依存性>
本例では、E1(実施例)とDOS(比較例)を用いて実験を行った。E1はケロシン溶媒に希釈して10mMとし、DOSも同様の溶媒にて希釈して20mMとした。これら有機相10mLに、8.0M塩酸を用いて100ppmの濃度に調製したパラジウム単独酸性溶液を等体積加え、激しく振とう(300rpm)することで、有機相へパラジウムの抽出を行った。
抽出率は振とう前後の水相のパラジウム濃度をICP発光分析装置にて求め、上記の式(1)と式(2)から算出した。振とう時間を変えた際の抽出率の変化を図4に示す。
図4に示すように、DOS(●)を用いた場合では、パラジウムをほぼ全量を抽出するのに、180分程度を要するが、E1(■)を用いた場合は、30分程度でパラジウムの全量を抽出できることがわかった。パラジウムの抽出時間に関しては、DOSよりも、E1の方が速いこと明らかであった。
本例では、E1(実施例)とDOS(比較例)を用いて実験を行った。E1はケロシン溶媒に希釈して10mMとし、DOSも同様の溶媒にて希釈して20mMとした。これら有機相10mLに、8.0M塩酸を用いて100ppmの濃度に調製したパラジウム単独酸性溶液を等体積加え、激しく振とう(300rpm)することで、有機相へパラジウムの抽出を行った。
抽出率は振とう前後の水相のパラジウム濃度をICP発光分析装置にて求め、上記の式(1)と式(2)から算出した。振とう時間を変えた際の抽出率の変化を図4に示す。
図4に示すように、DOS(●)を用いた場合では、パラジウムをほぼ全量を抽出するのに、180分程度を要するが、E1(■)を用いた場合は、30分程度でパラジウムの全量を抽出できることがわかった。パラジウムの抽出時間に関しては、DOSよりも、E1の方が速いこと明らかであった。
<パラジウム、白金、ロジウム、レアアース、ジルコニウム、及びベースメタル共存酸性溶液からパラジウムを抽出する際の選択性>
本例では、一次・二次資源からのパラジウム分離精製で用いられる酸性溶液を想定し、パラジウム、白金、ロジウム、レアアース、ジルコニウム、及びベースメタルとしてバリウム、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、ニッケルが共存する、各金属濃度が100ppmになるように調製した、3M塩酸溶液から、E1をケロシンにて希釈した10mMの溶液への各金属の抽出率を求めた(実施例)。また、DOSをケロシンにて希釈した20mMの溶液も用いて抽出実験を行った(比較例)。有機相と水相とを、1時間激しく振とう(300rpm)し、その後、水相中の各金属の濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を上記の式(1)と式(2)にて求めた。各金属の抽出率を図5に示す。
本例では、一次・二次資源からのパラジウム分離精製で用いられる酸性溶液を想定し、パラジウム、白金、ロジウム、レアアース、ジルコニウム、及びベースメタルとしてバリウム、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、ニッケルが共存する、各金属濃度が100ppmになるように調製した、3M塩酸溶液から、E1をケロシンにて希釈した10mMの溶液への各金属の抽出率を求めた(実施例)。また、DOSをケロシンにて希釈した20mMの溶液も用いて抽出実験を行った(比較例)。有機相と水相とを、1時間激しく振とう(300rpm)し、その後、水相中の各金属の濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を上記の式(1)と式(2)にて求めた。各金属の抽出率を図5に示す。
図5に示すように、DOSはパラジウムの全量を抽出できておらず、抽出率82.2%であった。また、他の金属のジルコニウムや鉄もわずかはであるが抽出されており、それぞれ、3.5%、3.2%であった。一方で、E1はパラジウムを99.9%とほぼ全量を抽出でき、その他の金属を抽出しないことがわかった。この結果から、E1を10mMとしたケロシン溶液とパラジウム、白金、ロジウム、レアアース、ジルコニウム、及びベースメタルが共存する塩酸溶液とを接触させると、パラジウムは選択的かつほぼ全量抽出できると結論付けることができる。
<自動車排ガス触媒を酸浸出した溶液からパラジウムを抽出した際の選択性>
工場より排出された少なくともパラジウムを含む多種の金属が混在する廃棄物を酸処理により水溶液化した酸浸出液を蒸留水にて5倍に希釈した水溶液(Pd(II):92.8ppm,Pt(IV):54.2ppm,Rh(III):37.2ppm,La(III):86.7pm,Ce(III):608.8ppm,Y(III):3.8ppm,Zr(IV):25.6ppm,Ba(II):289.3ppm,Al(III):320.9ppm)10mL(pH0.8)を水相とし、E1をケロシン溶媒に希釈し10mMとして有機相(10mL)とし、これら有機相と水相とを、1時間激しく振とう(300rpm)し、その後、水相中の各金属の濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を上記の式(1)と式(2)にて求めた(実施例)。
また、DOSをケロシンにて希釈した20mMの溶液も用いて抽出実験を行った(比較例)。各金属の抽出率を図6に示す。
図6に示すように、DOSはパラジウムの全量を抽出できておらず、抽出率89.6%であった。また、他の金属のセリウムやジルコニウムもわずかはであるが抽出されており、それぞれ、1.1%、2.7%であった。一方で、E1はパラジウムをほぼ全量抽出することができることがわかった。この結果から、E1を10mMとしたケロシン溶液と前記酸溶液とを接触させると、パラジウムは選択的かつほぼ全量抽出できると結論付けることができる。
工場より排出された少なくともパラジウムを含む多種の金属が混在する廃棄物を酸処理により水溶液化した酸浸出液を蒸留水にて5倍に希釈した水溶液(Pd(II):92.8ppm,Pt(IV):54.2ppm,Rh(III):37.2ppm,La(III):86.7pm,Ce(III):608.8ppm,Y(III):3.8ppm,Zr(IV):25.6ppm,Ba(II):289.3ppm,Al(III):320.9ppm)10mL(pH0.8)を水相とし、E1をケロシン溶媒に希釈し10mMとして有機相(10mL)とし、これら有機相と水相とを、1時間激しく振とう(300rpm)し、その後、水相中の各金属の濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を上記の式(1)と式(2)にて求めた(実施例)。
また、DOSをケロシンにて希釈した20mMの溶液も用いて抽出実験を行った(比較例)。各金属の抽出率を図6に示す。
図6に示すように、DOSはパラジウムの全量を抽出できておらず、抽出率89.6%であった。また、他の金属のセリウムやジルコニウムもわずかはであるが抽出されており、それぞれ、1.1%、2.7%であった。一方で、E1はパラジウムをほぼ全量抽出することができることがわかった。この結果から、E1を10mMとしたケロシン溶液と前記酸溶液とを接触させると、パラジウムは選択的かつほぼ全量抽出できると結論付けることができる。
<自動車排ガス触媒を酸浸出した溶液からパラジウムを抽出した有機相から、パラジウムを逆抽出した際の逆抽出率>
前記の自動車排ガス触媒を酸浸出した溶液からパラジウムを抽出した後の有機相を分取し、水相として同体積の各1M塩酸、 1M硝酸、1M硫酸、5%アンモニア水溶液、0.1Mチオ尿素/1.0M塩酸溶液を用い、これら有機相および水相を1時間振とうさせ、パラジウムの水相への逆抽出を行った。水相中のパラジウム濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに逆抽出率(S%)を下記の式(3)にて算出した。
S%=[Pd(II)]aq/[Pd(II)]org×100 式(3)、
ただし、[Pd(II)]aq:逆抽出後の水相中のパラジウム濃度(ppm)、[Pd(II)]org:逆抽出前の有機相中のパラジウム濃度(ppm)
各逆抽出剤を用いたときの逆抽出率を表1に示す。
表1に示すように、E1によるパラジウムの捕捉力が強いがために、各1M塩酸、1M硝酸、1M硫酸、5%アンモニア水溶液の逆抽出率はそれぞれ、6.5%、15.1%、8.6%、10.4%と効率的な逆抽出はできなかった。一方で、0.1Mチオ尿素/1.0M塩酸溶液を用いた場合では、ほぼ全量のパラジウムを有機相から水相へ回収でき、逆抽出率は99.9%であった。
前記の自動車排ガス触媒を酸浸出した溶液からパラジウムを抽出した後の有機相を分取し、水相として同体積の各1M塩酸、 1M硝酸、1M硫酸、5%アンモニア水溶液、0.1Mチオ尿素/1.0M塩酸溶液を用い、これら有機相および水相を1時間振とうさせ、パラジウムの水相への逆抽出を行った。水相中のパラジウム濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに逆抽出率(S%)を下記の式(3)にて算出した。
S%=[Pd(II)]aq/[Pd(II)]org×100 式(3)、
ただし、[Pd(II)]aq:逆抽出後の水相中のパラジウム濃度(ppm)、[Pd(II)]org:逆抽出前の有機相中のパラジウム濃度(ppm)
各逆抽出剤を用いたときの逆抽出率を表1に示す。
表1に示すように、E1によるパラジウムの捕捉力が強いがために、各1M塩酸、1M硝酸、1M硫酸、5%アンモニア水溶液の逆抽出率はそれぞれ、6.5%、15.1%、8.6%、10.4%と効率的な逆抽出はできなかった。一方で、0.1Mチオ尿素/1.0M塩酸溶液を用いた場合では、ほぼ全量のパラジウムを有機相から水相へ回収でき、逆抽出率は99.9%であった。
すなわち、以上の結果に基づけば、工場より排出された少なくともパラジウムを含む多種の金属が混在する廃棄物を酸処理により水溶液化した酸浸出液に、E1を含む有機相を接触させることによりパラジウムを完全に分離できること、また、パラジウムが抽出された有機相に、チオ尿素を含む塩酸溶液を接触させることによりパラジウムを回収できることが明らかである。
<逆抽出後のE1を含む有機相を用いて、二次資源の自動車排ガス触媒を酸浸出した溶液からパラジウムを繰り返し抽出>
前記のパラジウムが逆抽出された後の有機相を分取し、等体積の蒸留水と、接触させた後、有機相を分取した。この有機相を、前記酸浸出液と、1時間激しく振とう(300rpm)した(Ext.2)。また、前記のように逆抽出を行い(Str.2)、有機相を蒸留水で洗浄し、前記酸浸出液からパラジウムの抽出実験を行った。このように抽出および逆抽出の操作を全体で5回実施し(Ext./Str.1〜Ext./Str.5)、各回のその後、水相中の各金属の濃度をICP発光分析装置にて分析した結果から、上記の式(1)、式(2)および式(3)を用いてE%とS%を求めた。再利用した抽出剤のE%とS%を図7に示す。
図7に示すように、抽出剤としてE1は、5回の抽出操作と逆抽出操作を含めた工程であっても、抽出効率及び逆抽出効率の低下は見られず、パラジウムをほぼ全量を分離し、回収することができると結論付けることができる。
すなわち、E1は前記逆抽出剤と逆抽出後の蒸留水での洗浄を組み合わせることで、抽出率及び逆抽出率の低下なく、繰り返し利用が可能であることが明らかとなった。
前記のパラジウムが逆抽出された後の有機相を分取し、等体積の蒸留水と、接触させた後、有機相を分取した。この有機相を、前記酸浸出液と、1時間激しく振とう(300rpm)した(Ext.2)。また、前記のように逆抽出を行い(Str.2)、有機相を蒸留水で洗浄し、前記酸浸出液からパラジウムの抽出実験を行った。このように抽出および逆抽出の操作を全体で5回実施し(Ext./Str.1〜Ext./Str.5)、各回のその後、水相中の各金属の濃度をICP発光分析装置にて分析した結果から、上記の式(1)、式(2)および式(3)を用いてE%とS%を求めた。再利用した抽出剤のE%とS%を図7に示す。
図7に示すように、抽出剤としてE1は、5回の抽出操作と逆抽出操作を含めた工程であっても、抽出効率及び逆抽出効率の低下は見られず、パラジウムをほぼ全量を分離し、回収することができると結論付けることができる。
すなわち、E1は前記逆抽出剤と逆抽出後の蒸留水での洗浄を組み合わせることで、抽出率及び逆抽出率の低下なく、繰り返し利用が可能であることが明らかとなった。
このように本発明のピンサー型のパラジウム抽出剤は、パラジウムの選択性が高く、抽出速度も速く、チオ尿素/塩酸溶液を用いることで効率良く逆抽出でき、再利用も可能である。これらのことから、連続的な抽出にも適応することができ、工業的な観点からも有用である。また、式(I)の化合物は、合成が容易であり、精製操作も必要ないこと、取り扱いが容易であるという利点もある。
Claims (8)
- 請求項1に記載のパラジウム抽出剤を含有する有機相を準備する工程、パラジウムを含む酸性水溶液と前記有機相とを接触させることにより、パラジウムを前記有機相に抽出する工程を備えた、パラジウムの抽出方法。
- 前記パラジウムを含む酸性水溶液が、少なくともパラジウムを含む多種の金属が混在する廃棄物を酸処理により水溶液化した酸浸出液である、請求項2に記載のパラジウムの抽出方法。
- 前記少なくともパラジウムを含む多種の金属が、パラジウム以外に、白金、ロジウム、ランタン、レアアース、ジルコニウム、および、ベースメタルから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項3に記載のパラジウムの抽出方法。
- 請求項2に記載のパラジウムの抽出方法により得られたパラジウムを抽出した有機相と、チオ尿素を含む塩酸水溶液とを接触させて、パラジウムを水相に逆抽出する工程を備えたパラジウムの回収方法。
- 請求項2に記載のパラジウムの抽出方法により得られたパラジウムを抽出した有機相と、チオ尿素を含む塩酸水溶液とを接触させて、パラジウムを水相に逆抽出すると共に、有機相中の請求項1に記載のパラジウム抽出剤を再生させる工程を備えた、パラジウム抽出剤の再生方法。
- 請求項1に記載のパラジウム抽出剤を含有する有機相を準備する第1工程、パラジウムを含む酸性水溶液と前記有機相とを接触させることにより、パラジウムを前記有機相に抽出する第2工程、および、パラジウムを抽出した有機相と、チオ尿素を含む塩酸水溶液とを接触させて、パラジウムを水相に逆抽出する第3工程を備え、前記第2工程および前記第3工程を繰り返し行うことにより、パラジウム抽出剤を再生しつつ、パラジウムを繰り返して回収可能なパラジウムの反復回収方法。
- 前記第3工程の後に、再生したパラジウム抽出剤を含有する有機相を蒸留水により洗浄する第4工程をさらに備え、前記第2工程、第3工程、および、第4工程を繰り返し行う、請求項7に記載のパラジウムの反復回収方法。
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