本発明は、ラックエンド近傍の物理モデルに基づいた制御系を構成し、粘弾性モデル(バネ定数、粘性摩擦係数)を規範モデルとし、その規範モデルに制御対象の出力(ラックエンドまでの距離)が追従するようなモデルフォローイング制御を構成し、運転者に操舵違和感を与えずに端当て時の異音の発生を抑制し、衝撃力を減衰する電動パワーステアリング装置である。
モデルフォローイング制御は粘弾性モデル追従制御部で構成し、粘弾性モデル追従制御部をフィードフォワード制御部若しくはフィードバック制御部或いはその両者で構成し、ラックエンド手前の所定の範囲外では通常のアシスト制御を行い、ラックエンド手前の所定の範囲内でモデルフォローイング制御を行い、ラックエンドに当たることを抑制する。
また、本発明は、操舵角(ハンドル角度、コラム軸角度)等のように操舵位置を示す情報(操舵位置情報)、操舵速度及び操舵状態(切増し、切戻し)等に基づいてモデルフォローイング制御での制御量を調整する機能(以下、「制御量調整機能」とする)を有する。
モデルフォローイング制御では、仮想ラックエンドがあるように、即ち、運転者がハンドルを切り込もうとしてもラックエンドであるかのようにハンドルが進まないようにするために、運転者の手入力とタイヤ側からの反力との和に釣り合うようにアシスト力を出力する(タイヤと路面の摩擦が極低い場合は、運転者の手入力分だけとなる)。しかし、この場合、運転者の操舵方向と逆方向にアシストすることになる。本発明の1つでは、安全性を考慮して、アシスト力の最大値を制限する。運転者の操舵方向と同じ方向へのアシストにおいても、同様に、アシスト力の最大値を制限する。更に、仮想ラックエンドが実際のラックエンドと離れた位置に形成されることにより、車両の旋回半径が大きくなり、取り回しが悪化する可能性を小さくするために、アシスト力の最大値の制限において、ラックエンドに近接した領域でのラック変位の位置、操舵速度及び操舵状態に基づいた制限値を設定する。なお、ラック変位の代わりに、操舵位置情報である操舵角や後述の判定用ラック位置を使用しても良い。
ラックエンド手前の所定角度内においては、操舵角θの大きさ(絶対値)|θ|が大きくなるに従い、図3に示すように、タイヤ側からの反力(セルフアライニングトルク(SAT))も大きくなり、ある大きさθdからは反力が急激に大きくなる。本発明の別の1つでは、急激に大きくなる領域で運転者が容易に操舵できるように、反力の上昇分を考慮した処理を行う。具体的には、θdの近傍に閾値θzを設定し、操舵角の大きさ|θ|が閾値θzを超えた領域において、操舵速度及び操舵状態を判定材料として、反力の上昇分を補償するようなアシスト力(以下、「補償アシスト力」とする)を付加する。なお、操舵角の代わりに、操舵位置情報であるラック変位や後述の判定用ラック位置を使用しても良い。
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
本発明は、特許文献1で提案されている電動パワーステアリング装置に対して、制御量調整機能を追加したものである。そこで、先ず、制御量調整機能を追加していない実施形態(以下、「基盤形態」とする)について説明し、その後、基盤形態を基にした本発明の実施形態について説明する。
図4は基盤形態の一例を図2に対応させて示しており、電流指令値Iref1は変換部101でラック軸力fに変換され、ラック軸力fは粘弾性モデル追従制御部120に入力される。ラック軸力fはコラム軸トルクと等価であるが、以下の説明では便宜的にラック軸力として説明する。なお、ラック軸力及びコラム軸トルクの総称が軸力である。また、ラックエンド接近を算出するために用いるラック位置、或いはラック変位はコラム軸角度(ハンドル角度)と等価であるが、以下の説明ではラック位置、或いはラック変位として説明する。コラム軸角度(ハンドル角度)によりラックエンドへの接近を判定するようにしても良い。なお、図2に示される構成と同一構成には同一符号を付して説明は省略する。
電流指令値Iref1からラック軸力fへの変換は、下記数1に従って行われる。
ここで、Ktをトルク定数[Nm/A]、Grを減速比、Cfを比ストローク[m/rev.]として、G1=Kt×Gr×(2π/Cf)である。
回転角センサ21からの回転角θrはラック位置変換部100に入力され、判定用ラック位置Rxに変換される。判定用ラック位置Rxはラックエンド接近判定部110に入力される。ラックエンド接近判定部110は図5に示すように、判定用ラック位置Rxがラックエンド手前の所定位置x0以内(ラックエンド近接領域)にあると判定したときに端当て抑制制御機能を働かせ、ラック変位xを出力すると共に切替信号SWSを出力する。図5においては、原点に対し右側のラックエンド近接領域のみを示しているが、左側のラックエンド近接領域は原点対称に設定される。また、右側のラックエンド近接領域内では、ラック変位xは正の値として出力され、左側のラックエンド近接領域内では、ラック変位xは負の値として出力され、ラックエンド近接領域外のときはゼロである。切替信号SWSは、ラックエンド近接領域内のときにONであり、領域外のときにOFFである。切替信号SWS及びラック変位xは、ラック軸力fと共に粘弾性モデル追従制御部120へ入力される。粘弾性モデル追従制御部120で制御演算されたラック軸力ffは変換部102で電流指令値Iref2に変換され、電流指令値Iref2は加算部103で電流指令値Iref1と加算されて電流指令値Iref3となる。電流指令値Iref3に基づいて、上述したアシスト制御が行われる。
なお、図5に示すラックエンド近接領域を設定する所定位置x0は、適宜な位置に設定可能であり、左右で異なる値としても良い。また、回転角θrをモータに連結された回転角センサ21から得ているが、舵角センサから取得するようにしても良い。
変換部102でのラック軸力ffから電流指令値Iref2への変換は、下記数2に従って行われる。
粘弾性モデル追従制御部120の詳細を、図6又は図7に示す。
図6の基盤形態1では、ラック軸力fはフィードフォワード制御部130及びフィードバック制御部140に入力され、ラック変位xはフィードバック制御部140に入力される。フィードフォワード制御部130からのラック軸力FFは切替部121に入力され、フィードバック制御部140からのラック軸力FBは切替部122に入力される。切替部121及び122は切替信号SWSによってON/OFFされ、切替信号SWSによってOFFされているときは、各出力u1及びu2はゼロである。切替信号SWSによって切替部121及び122がONされたとき、切替部121から、ラック軸力FFがラック軸力u1として出力され、切替部122から、ラック軸力FBがラック軸力u2として出力される。切替部121及び122からのラック軸力u1及びu2が加算部123で加算され、加算値のラック軸力ffが粘弾性モデル追従制御部120から出力される。ラック軸力ffは、変換部102で電流指令値Iref2に変換される。
また、図7の基盤形態2では、ラック変位xはフィードフォワード制御部130及びフィードバック制御部140に入力され、ラック軸力fはフィードバック制御部140に入力される。以下は図6の基盤形態1と同様に、フィードフォワード制御部130からのラック軸力FFは切替部121に入力され、フィードバック制御部140からのラック軸力FBは切替部122入力される。切替部121及び122は切替信号SWSによってON/OFFされ、切替信号SWSによってOFFされているときは、各出力u1及びu2はゼロである。切替信号SWSによって切替部121及び122がONされたとき、切替部121から、ラック軸力FFがラック軸力u1として出力され、切替部122から、ラック軸力FBがラック軸力u2として出力される。切替部121及び122からのラック軸力u1及びu2が加算部123で加算され、加算値のラック軸力ffが粘弾性モデル追従制御部120から出力される。ラック軸力ffは変換部102で電流指令値Iref2に変換される。
このような構成において、先ず基盤形態の動作例全体を図8のフローチャートを参照して、次いで粘弾性モデル追従制御(基盤形態1及び2)の動作例を図9のフローチャートを参照して説明する。
スタート段階においては、切替部121及び122は切替信号SWSによってOFFされている。そして、動作がスタートすると先ず、トルク制御部31は操舵トルクTh及び車速Velに基づいて電流指令値Iref1を演算する(ステップS10)。ラック位置変換部100は回転角センサ21からの回転角θrを判定用ラック位置Rxに変換する(ステップS11)。ラックエンド接近判定部110は判定用ラック位置Rxに基づいてラックエンド接近か否かを判定する(ステップS12)。ラックエンド接近でない場合には、粘弾性モデル追従制御部120からラック軸力ffは出力されず、電流指令値Iref1に基づく通常の操舵制御が実行され(ステップS13)、終了となるまで継続される(ステップS14)。
一方、ラックエンド接近判定部110でラックエンド接近が判定された場合には、粘弾性モデル追従制御部120による粘弾性モデル追従制御が実行される(ステップS20)。即ち、図9に示すように、ラックエンド接近判定部110から切替信号SWSが出力されると共に(ステップS201)、ラック変位xが出力される(ステップS202)。また、変換部101は、前記数1に従って電流指令値Iref1をラック軸力fに変換する(ステップS203)。図6の基盤形態1では、フィードフォワード制御部130はラック軸力fに基づいてフィードフォワード制御を行い(ステップS204)、フィードバック制御部140はラック変位x及びラック軸力fに基づいてフィードバック制御を行う(ステップS205)。また、図7の基盤形態2では、フィードフォワード制御部130はラック変位xに基づいてフィードフォワード制御を行い(ステップS204)、フィードバック制御部140はラック変位x及びラック軸力fに基づいてフィードバック制御を行う(ステップS205)。なお、いずれの場合も、フィードフォワード制御及びフィードバック制御の順番は、逆であっても良い。
ラックエンド接近判定部110からの切替信号SWSは切替部121及び122に入力され、切替部121及び122がONされる(ステップS206)。切替部121及び122がONされると、フィードフォワード制御部130からのラック軸力FFがラック軸力u1として出力され、フィードバック制御部140からのラック軸力FBがラック軸力u2として出力される。ラック軸力u1及びu2は加算部123で加算され(ステップS207)、加算結果としてのラック軸力ffが変換部102で、前記数2に従って電流指令値Iref2に変換される(ステップS208)。なお、本基盤形態では、2つの切替部121及び切替部122でラック軸力FF及びラック軸力FBをそれぞれ切り替え、加算部123で加算する構成となっているが、ラック軸力FFとラック軸力FBを加算した後に、1つの切替部で出力を切り替えても良い。
ここで、粘弾性モデル追従制御部120は、ラックエンド近辺の物理モデルに基づいた制御系となっており、ラックエンド手前の所定角度以内で粘弾性モデル(バネ定数k0[N/m]、粘性摩擦係数μ[N/(m/s)])を規範モデル(入力:力、出力:変位で記述された物理モデル)としたモデルフォローイング制御を構成し、ラックエンドに当たることを抑制している。
図10はラックエンド近傍の模式図を示しており、質量mと力F0,F1の関係は数3である。粘弾性モデルの方程式の算出は、例えば関西大学理工学会誌「理工学と技術」Vol.17(2010)の「弾性膜と粘弾性の力学の基礎」(大場謙吉)に示されている。
そして、ラック変位x
1、x
2に対して、k
0、k
1をバネ定数とすると、数4〜数6が成立する。
従って、上記数3に上記数4〜数6を代入して数7となる。
上記数7を微分すると、下記数8となり、μ
1/k
1を両辺に乗算すると数9となる。
数10に上記数4及び数6を代入すると、下記数11となる。
ここで、μ
1/k
1=τ
e,k
0=E
r,μ
1(1/k
0+1/k
1)=τ
δとすると、上記数11は数12となり、ラプラス変換すると数13が成立する。
上記数13をX(s)/F(s)で整理すると、下記数14となる。
数14は入力力fから出力変位xまでの特性を示す3次の物理モデル(伝達関数)となり、バネ定数k
1=∞のバネとするとτ
e→0であり、τ
δ=μ
1・1/k
0であるので、2次関数の下記数15が導かれる。
本基盤形態では、数15で表される2次関数を規範モデルGmとして説明する。即ち、数16を規範モデルGmとしている。ここで、μ
1=μとしている。
次に、電動パワーステアリング装置の実プラント146を下記数17で表わされるPとし、本基盤形態の規範モデル追従型制御を2自由度制御系で設計すると、Pn及びPdを実際のモデルとして図11の構成となる。ブロック143(Cd)は制御要素部を示している。(例えば朝倉書店発行の前田肇、杉江俊治著「アドバンスト制御のためのシステム制御理論」参照)
実プラントPを安定な有理関数の比で表わすために、N及びDを下記数18で表わす。Nの分子はPの分子、Dの分子はPの分母となる。ただし、αは(s+α)=0の極が任意に選択できる。
図11の構成を規範モデルGmに適用すると、x/f=Gmとなるためには、1/Fを下記数19のように設定する必要がある。なお、数19は、数16及び数18より導かれる。
フィードバック制御部のブロックN/Fは下記数20である。
フィードフォワード制御部のブロックD/Fは下記数21である。
2自由度制御系の一例を示す図11において、実プラントPへの入力(ラック軸力若しくはコラム軸トルクに対応する電流指令値)uは、下記数22で表される。
また、実プラントPの出力(ラック変位)xは下記数23である。
数23を整理し、出力xの項を左辺に、fの項を右辺に揃えると、数24が導かれる。
数24を入力fに対する出力xの伝達関数として表わすと、数25となる。ここで、3項目以降ではP=Pn/Pdとして表現している。
実プラントPを正確に表現できたとすれば、Pn=N、Pd=Dとすることができ、入力fに対する出力xの特性は、Pn/F(=N/F)として表わされるので、数26が成立する。
入力fに対して出力xの特性(規範モデル(伝達関数))を、下記数27のようにすると考えるとき、
図11において、フィードフォワード制御系をフィードフォワード要素144→実プラントPの経路で考えると、図12となる。ここで、P=N/Dとすると、図12(A)は図12(B)となり、数20より図12(C)が得られる。図12(C)より、f=(m・s
2+μ・s+k0)xとなるので、これを逆ラプラス変換すると、下記数29が得られる。
一方、図13に示すようなフィードフォワード制御系の伝達関数ブロックを考えると、下記数30が入力f及び出力xにおいて成立する。
数30を整理すると下記31となり、数31を入力fについて整理すると、数32が得られる。
数32を逆ラプラス変換すると上記数29となり、結果的に図14に示すように2つのフィードフォワード制御部A及びBは等価である。
上記前提を踏まえ、以下に基盤形態の具体的な構成例を図15及び図16に示して説明する。図15の基盤形態3は図6の基盤形態1に対応し、ラック軸力fがフィードフォワード制御部130内のフィードフォワード要素144(数21で示されるD/F)及びフィードバック制御部140に入力され、ラック変位xがフィードバック制御部140に入力される。また、図16の基盤形態4は図7の基盤形態2に対応し、ラック変位xがフィードフォワード制御部130内のバネ定数項131及び粘性摩擦係数項132に入力され、ラック軸力fがフィードバック制御部140に入力される。
図15の基盤形態3ではフィードフォワード要素144からのラック軸力FFは切替部121のb1接点に入力される。また、図16の基盤形態4では、フィードフォワード制御部130内のバネ定数項131及び粘性摩擦係数項132の出力を減算部133で減算し、減算部133の減算結果であるラック軸力FFが切替部121のb1接点に入力される。切替部121のa1接点には、固定部125から固定値「0」が入力されている。
図15の基盤形態3及び図16の基盤形態4のいずれにおいても、フィードバック制御部140はフィードバック要素(N/F)141、減算部142、制御要素部143で構成され、フィードバック制御部140からのラック軸力FB、つまり制御要素部143の出力は切替部122のb2接点に入力される。切替部122のa2接点には、固定部126から固定値「0」が入力されている。
図15の基盤形態3では、ラック軸力fはフィードフォワード制御部130内のフィードフォワード要素144に入力されると共に、フィードバック制御部140のフィードバック要素(N/F)141に入力される。ラック変位xはフィードバック制御部140の減算部142に減算入力されると共に、パラメータ設定部124に入力される。パラメータ設定部124はラック変位xに対して、例えば図17に示すような特性のバネ定数k0及び粘性摩擦係数μを出力し、バネ定数k0及び粘性摩擦係数μは、フィードフォワード制御部130内のフィードフォワード要素144及びフィードバック制御部140内のフィードバック要素(N/F)141に入力される。なお、バネ定数k0及び粘性摩擦係数μの特性を、ラック変位ではなく、他の操舵位置情報である操舵角や判定用ラック位置に対する特性としても良い。
図16の基盤形態4では、ラック変位xはフィードフォワード制御部130内のバネ定数項131及び粘性摩擦係数項132に入力されると共に、フィードバック制御部140の減算部142に入力され、更にパラメータ設定部124に入力される。ラック軸力fはフィードバック制御部140のフィードバック要素(N/F)141に入力される。パラメータ設定部124はラック変位xに対して、上述と同様なバネ定数k0及び粘性摩擦係数μを出力し、バネ定数k0はバネ定数項131及びフィードバック要素(N/F)141に入力され、粘性摩擦係数μは粘性摩擦係数項132及びフィードバック要素(N/F)141に入力される。
また、切替信号SWSは、基盤形態3及び4においていずれも切替部121及び122に入力され、切替部121及び122の接点は通常時(切替信号SWS=OFF)はそれぞれ接点a1及びa2に接続されており、切替信号SWSがONになったときにそれぞれ接点b1及びb2に切替えられるようになっている。
このような構成において、図16の基盤形態4の動作例を図18のフローチャートを参照して説明する。
ラックエンド接近判定部110から切替信号SWSが出力されると共に(ステップS21)、ラック変位xが出力される(ステップS22)。ラック変位xはバネ定数項131、粘性摩擦係数項132、パラメータ設定部124及び減算部142に入力される。パラメータ設定部124は、ラック変位xに応じて図17の特性に従って求められたバネ定数k0及び粘性摩擦係数μを、バネ定数項131、粘性摩擦係数項132及びフィードバック要素(N/F)141に設定する(ステップS23)。また、変換部101は電流指令値Iref1をラック軸力fに変換し(ステップS23A)、ラック軸力fはフィードバック要素(N/F)141に入力され、N/F演算される(ステップS24)。N/F演算値は減算部142に加算入力され、ラック変位xが減算され(ステップS24A)、その減算値が制御要素部143でCd演算される(ステップS24B)。制御要素部143から、演算されたラック軸力FBが出力されて切替部122の接点b2に入力される。
フィードフォワード制御部130内の粘性摩擦係数項132は、粘性摩擦係数μに基づいて“(μ−η)・s・x”の演算を行う(ステップS25)。バネ定数項131はバネ定数k0を設定する(ステップS25A)。減算部で“k0・x”及び“(μ−η)・s・x”の減算を行い(ステップS25B)、演算結果としてラック軸力FFを出力する。ラック軸力FFは切替部121の接点b1に入力される。なお、“s・x”はxの時間微分として演算する。また、フィードフォワード制御部130及びフィードバック制御部140の演算の順番は、逆であっても良い。
ラックエンド接近判定部110からの切替信号SWSは切替部121及び122に入力され、切替部121及び122の各接点がa1からb1へ、a2からb2へ切替えられる。切替部121及び122からのラック軸力u1及びu2が加算部123で加算され(ステップS26)、加算結果としてのラック軸力ffが変換部102で電流指令値Iref2に変換される(ステップS26A)。電流指令値Iref2は加算部103に入力され、電流指令値Iref1に加算され(ステップS27)、操舵制御が実行され、ステップS14へとつながる。
なお、制御要素部143(Cd)は任意のPID(比例積分微分)制御、PI制御、PD制御の構成のいずれでも良い。また、図15の基盤形態3の動作も、ラック軸力f及びラック変位xが入力する部分(要素)が異なるだけで、同様である。さらに、図15の基盤形態3及び図16の基盤形態4では、フィードフォワード制御部130及びフィードバック制御部140の両方の制御演算を実行しているが、フィードフォワード制御部130のみの構成でも良く、フィードバック制御部140のみの構成でも良い。電流指令値Iref1は変換部101でラック軸力fに変換され、ラック軸力ffは変換部102で電流指令値Iref2に変換されているが、変換部101での変換係数であるG1及び変換部102での変換係数である1/G1を、フィードフォワード制御部130及びフィードバック制御部140のパラメータに乗算することにより、変換部101及び102の機能を粘弾性モデル追従制御部120に盛り込み、変換部101及び102をなくすようにしても良い。また、制御要素部143(Cd)の制御パラメータ(制御ゲイン:比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン)を操舵位置情報に基づいて変更しても良い。例えば、所定位置x0の近辺では、制御ゲインを小さくし、ラックエンド付近では、制御ゲインを大きくする。これにより、所定位置x0の近辺では制御量の急変が起きず、ラックエンド付近では衝撃抑制を大きくすることができる。
次に、基盤形態を基にした本発明の実施形態について説明する。なお、本実施形態において、ラック軸力(及びコラム軸トルク)は、ハンドルが右に切られている状態(以下、「右切操舵」とする)のときは正の値に、ハンドルが左に切られている状態(以下、「左切操舵」とする)のときは負の値になるように設定されているとする。また、車両の前進方向に向かって右側のラックエンドに対するラック変位を正の値、左側のラックエンドに対するラック変位を負の値とし、右側のラックエンド方向への操舵のときの操舵速度を正の値、左側のラックエンド方向への操舵のときの操舵速度を負の値とする。
先ず、アシスト力の最大値を制限する実施形態(第1〜第4実施形態)について説明する。
図19は第1実施形態の構成例を図4に対応させて示しており、図4に示される構成例に対して、操舵速度演算部150、操舵情報抽出部160及び制御量調整部170が追加されており、これらにより制御量調整機能が実現されている。
第1実施形態では、粘弾性モデル追従制御部120から出力されるラック軸力ff(制御量)の最大値及び最小値を制限する。制限するために制限値として上限値及び下限値を設定し、更に、右切操舵の場合の制限値(この場合の上限値を「右切上限値」、下限値を「右切下限値」とする)と左切操舵の場合の制限値(この場合の上限値を「左切上限値」、下限値を「左切下限値」とする)をそれぞれ設定する。そして、電流指令値Iref1から変換されるラック軸力fに基づいて制限値を設定する。即ち、右切上限値RUは下記数33のようにラック軸力fの符号を反転した値に調整値Vfを加算した値とし、右切下限値RLは下記数34のようにラック軸力fの符号を反転した値に調整値Vaを加算した値とする。右切上限値RUが予め定められた境界値VFを超えた場合、右切上限値RUは境界値VFとし、右切下限値RLがゼロを超えた場合、右切下限値RLはゼロとする。
左切上限値LU及び左切下限値LLは、右切上限値RU及び右切下限値RLを入れ替えた、下記数35及び数36のような値とするが、左切下限値LLが境界値VFの符号を反転した値(−VF)未満の場合、左切下限値LLは−VFとし、左切上限値LUがゼロ未満の場合、左切上限値LUはゼロにする。
更に、調整値Vfは所定の値(例えば2Nm)とするが、調整値Vaは、操舵速度、ラック変位及び操舵状態(切増し、切戻し)に基づいて設定される値とする。その設定方法について説明する。
先ず、例えば、図5に示されるラックエンド近接領域内に所定の位置(以下、「閾値位置」とする)xa(このときのラック変位xをxfとする)を設定する。図20に示されるように、操舵状態が切増しのとき、即ちラック変位xがラックエンドの方向に移動しているとき、所定位置x0(ラック変位x=0)から閾値位置xa(ラック変位x=xf)までの領域を「切増し領域1」、閾値位置xaからラックエンドまでの領域を「切増し領域2」とし、操舵状態が切戻しのとき、即ちラック変位xが所定位置x0の方向に移動しているときのラックエンド近接領域全体を「切戻し領域」とする。なお、図20では、原点に対し右側のみを示しているが、左側に対しても同様に設定される。
調整値Vaは操舵速度ωの大きさ(絶対値)|ω|に対して可変とし、操舵速度ωの大きさが小さいときは制御量が弱くなるように調整値Vaを大きくし、操舵速度ωの大きさが大きくなるにつれ、制御量が強くなるように調整値Vaを小さくする。本実施形態では、図21(A)に示されるように、調整値Vaの最大値(以下、「最大調整値」とする)をVah、最小値(以下、「最小調整値」とする)をValにし、操舵速度ωの大きさがゼロの時に最大調整値Vahにし、操舵速度ωの大きさが大きくなると最小調整値Valとなるようにする。更に上記3つの領域に応じて調整値Vaの変化量を変えるようにする。即ち、切増し領域1では、図21(B)に示されるように、操舵速度ωが遅くなっても調整値Vaが最大調整値Vahの方向に変化するのを強く抑制し、操舵速度ωが速いときには調整値Vaが最小調整値Valの方向に変化するのが十分に速いようにする。切戻し領域では、切増し領域1と同様に調整値Vaを変化させる。切増し領域2では、切増し領域1の場合とは反対に、図21(C)に示されるように、最大調整値Vahへの変化はある程度速く追従するようにし、最小調整値Valへの変化は強く抑制されるようにする。調整値Vaをこのように変化させることにより、切増し領域1では、調整値Vaが最小調整値Valに近い値となり、ラックエンドに向かう方向において仮想ラックエンドになるように強く制御することができる。一方、切増し領域2では、調整値Vaが最大調整値Vahに徐々に近付き、ラックエンドに向かう方向のアシスト力が徐々に回復するので、運転者はラックエンドに切り込むことができるようになる。切戻し領域では、調整値Vaが最小調整値Valの方向に速く変化するので、再度切増しとなったとき、速やかに仮想ラックエンドが形成できるように強く制御することができる。
調整値Vaの変化量の変更は、具体的には変化量を制限するレートリミット処理により行う。例えば、前回の調整値との差分の絶対値を調整値Vaの変化量ΔVaとし、変化量ΔVaに対して上限値ΔVamaxを設定し、変化量ΔVaが上限値ΔVamaxを超えた場合、変化量ΔVaが上限値ΔVamaxになるように調整値Vaを加減算する。そして、切増し領域1及び切戻し領域では、最大調整値Vahの方向に変化する(以下、この変化を「調整値アップ」とする)ときは、変化量ΔVaが小さくなるように、上限値ΔVamaxを小さくし、最小調整値Valの方向に変化する(以下、この変化を「調整値ダウン」とする)ときは、変化量ΔVaが大きくなるように、上限値ΔVamaxを大きくする、或いは上限値を設定しない。切増し領域2では、逆に、調整値アップのときは、変化量ΔVaが大きくなるように、上限値ΔVamaxを大きくする、或いは上限値を設定せず、調整値ダウンのときは、変化量ΔVaが小さくなるように、上限値ΔVamaxを小さくする。
このように制限値を設定すると、例えば、ラック軸力fが操舵角に対して図22の一点鎖線で示されるように変化する場合、右切上限値RU及び左切下限値LLは実線で示されるように変化し、右切下限値RLの最大値及び最小値並びに左切上限値LUの最大値及び最小値は破線で示されるように変化する。
なお、レートリミット処理において、差分の絶対値ではなく、差分そのものに対して上限値及び下限値を設定して制限をかけるようにしても良い。また、調整値Vaの変化量ではなく、調整値Vaの変化率(前回の調整値から増加又は減少した量の割合)に対して上限値(及び下限値)を設定して制限をかけるようにしても良い。
図19に示される構成例の説明に戻ると、操舵速度演算部150は、ラックエンド接近判定部110から出力されるラック変位xを入力し、その変化量から操舵速度ωを算出する。操舵速度ωは操舵情報抽出部160及び制御量調整部170に入力される。なお、操舵速度ωは操舵角θ等から算出しても良い。
操舵情報抽出部160は、ラック変位x及び操舵速度ωを用いて、操舵状態(切増し、切戻し)及び操舵方向(右切、左切)を判定する。即ち、図23に示されるように、ラック変位xと操舵速度ωの符号が一致しているときは「切増し」、一致していないときは「切戻し」と判定し、ラック変位xが正の値のときは「右切」、負の値のときは「左切」と判定する。操舵状態の判定結果は操舵状態信号Scとして出力され、操舵方向の判定結果は操舵方向信号Sdとして出力される。なお、ラック変位xの代わりに、操舵角θ等を用いても良い。
制御量調整部170は、ラック軸力f、ラック変位x、操舵速度ω、操舵状態信号Sc及び操舵方向信号Sdに基づいて制限値を設定し、設定された制限値を用いてラック軸力ffに制限をかける。制御量調整部170の構成例を図24に示す。制御量調整部170は調整値設定部171及び制御量制限部172を備える。調整値設定部171は、ラック変位x、操舵速度ω及び操舵状態信号Scに基づいて調整値Vaを決定する。即ち、ラック変位xがxf以下で且つ操舵状態信号Scが「切増し」の場合は、切増し領域1で操舵していると判断し、図21(A)及び(B)に示される特性に従って、操舵速度ωの大きさ|ω|及びレートリミット処理により調整値Vaを決定する。ラック変位xがxfを超え且つ操舵状態信号Scが「切増し」の場合は、切増し領域2で操舵していると判断し、図21(A)及び(C)に示される特性に従って、操舵速度ωの大きさ|ω|及びレートリミット処理により調整値Vaを決定する。操舵状態信号Scが「切戻し」の場合は、切戻し領域で操舵していると判断し、図21(A)及び(B)に示される特性に従って、操舵速度ωの大きさ|ω|及びレートリミット処理により調整値Vaを決定する。制御量制限部172は、調整値Vaと共に、ラック軸力f及びff並びに操舵方向信号Sdを入力する。そして、操舵方向信号Sdが「右切」の場合、数33及び34を用いて、ラック軸力f、調整値Va及び予め設定されている調整値Vfより右切上限値RU及び右切下限値RLを算出し、それらを用いてラック軸力ffに制限をかける。操舵方向信号Sdが「左切」の場合は、数35及び36を用いて、ラック軸力f、調整値Va及びVfより左切上限値LU及び左切下限値LLを算出し、それらを用いてラック軸力ffに制限をかける。制限されたラック軸力ffは、ラック軸力ffmとして変換部102に出力される。
このような構成において、第1実施形態の動作例を、図25〜図27のフローチャートを参照して説明する。
図25に全体の動作例をフローチャートで示しており、図8のフローチャートと比べると、粘弾性モデル追従制御に制御量調整機能による処理が加わるので、ステップS20がステップS20Aに変更されている。
粘弾性モデル追従制御(ステップS20A)での動作例を図26のフローチャートで示す。図9のフローチャートと比べると、ステップS207Aが追加され、ステップS208がステップS208Aに変更されている。ステップS207Aでは、操舵速度演算部150、操舵情報抽出部160及び制御量調整部170により制御量調整機能を実行し、粘弾性モデル追従制御部120から出力されたラック軸力ffに制限がかけられる。図27にステップS207Aの詳細な動作例を示す。操舵速度演算部150は、ラックエンド接近判定部110から出力されたラック変位xから操舵速度ωを算出する(ステップS207B)。操舵情報抽出部160は、ラック変位x及び操舵速度ωを入力し、図23に示されるような条件判定により、操舵状態が「切増し」か「切戻し」かを判定し(ステップS207C)、判定結果を操舵状態信号Scとして出力する。同時に、操舵方向が「右切」か「左切」かを判定し(ステップS207D)、判定結果を操舵方向信号Sdとして出力する。操舵状態信号Sc及び操舵方向信号Sdは制御量調整部170に入力される。制御量調整部170は、調整値設定部171において、操舵状態信号Scの値を確認し(ステップS207E)、操舵状態信号Scが「切増し」の場合、ラック変位xがxf以下ならば(ステップS207F)、図21(A)及び(B)に示される特性に従って、操舵速度ωの大きさ|ω|及びレートリミット処理により調整値Vaを決定する(ステップS207G)。ラック変位xがxfを超えているならば(ステップS207F)、図21(A)及び(C)に示される特性に従って、操舵速度ωの大きさ|ω|及びレートリミット処理により調整値Vaを決定する(ステップS207H)。操舵状態信号Scが「切戻し」の場合、図21(A)及び(B)に示される特性に従って、操舵速度ωの大きさ|ω|及びレートリミット処理により調整値Vaを決定する(ステップS207G)。調整値Vaは制御量制限部172に入力される。制御量制限部172は、操舵方向信号Sdの値を確認し(ステップS207I)、操舵方向信号Sdが「右切」の場合、数33及び34を用いて、ラック軸力f、調整値Va及び調整値Vfより右切上限値RU及び右切下限値RLを算出する(ステップS207J)。ラック軸力ffが右切上限値RU以上ならば(ステップS207K)、ラック軸力ffの値を右切上限値RUとし(ステップS207L)、ラック軸力ffが右切下限値RL以下ならば(ステップS207M)、ラック軸力ffの値を右切下限値RLとし(ステップS207N)、それ以外ならばラック軸力ffの値は変更しない。操舵方向信号Sdが「左切」の場合(ステップS207I)、数35及び36を用いて、ラック軸力f、調整値Va及び調整値Vfより左切上限値LU及び左切下限値LLを算出する(ステップS207O)。ラック軸力ffが左切上限値LU以上ならば(ステップS207P)、ラック軸力ffの値を左切上限値LUとし(ステップS207Q)、ラック軸力ffが左切下限値LL以下ならば(ステップS207R)、ラック軸力ffの値を左切下限値LLとし(ステップS207S)、それ以外ならばラック軸力ffの値は変更しない。制限されたラック軸力ffはラック軸力ffmとして出力される(ステップS207T)。ラック軸力ffmは変換部102で電流指令値Iref2に変換され(ステップS208A)、加算部103で電流指令値Iref1に加算される。
ここで、ラックエンドに接近して操舵した場合の各データ(信号)の変化例について説明する。
図28は右側のラックエンド方向に操舵した場合の変化の様子を示しており、図28(A)は電流指令値Iref1、Iref2及びIref3並びに操舵トルクThの変化の様子を、図28(B)は判定用ラック位置Rx及び操舵速度ωの変化を示している。図28(A)において、横軸は時間t、縦軸は電流指令値及び操舵トルクである。図28(B)において、横軸は時間t、縦軸は判定用ラック位置及び操舵速度であるが、目盛としては判定用ラック位置のみを記載しており、対応するラック変位を括弧書きで示している。また、図28において、最大調整値Vahは電流指令値Iref1の最大値に対応する値にしているとする。
右側のラックエンド方向に操舵していき、時点t1で判定用ラック位置Rxが所定位置x0を越えると、電流指令値Ierf2が出力されるので、操舵トルクThが大きくなり、操舵速度ωは小さくなっていく。更にラックエンド方向に操舵し、時点t2で判定用ラック位置Rxが閾値位置xaを越えて(ラック変位xがxfを超えて)切増し領域2に入り、操舵速度ωの大きさがゼロに近くなってくると、調整値Vaは最大調整値Vahに向かって徐々に変化していく。切増し領域2において操舵速度ωが変動しても、切増し領域2では最大調整値Vahへの変化(調整値アップ)は最小調整値Valへの変化(調整値ダウン)より大きくなるように設定されているので、調整値Vaは略一方向に徐々に変化する。その結果、電流指令値Iref2も略一方向で略一定の割合で徐々に変化する。そして、電流指令値Iref1とIref2の加算結果であり、最終的なアシスト力を指示する電流指令値Iref3は徐々に大きくなるので、ラックエンド方向に操舵可能となる。また、電流指令値Iref2が略一方向で略一定の割合で徐々に変化するので、急激なアシスト力の変化がなく、運転者は違和感なくラックエンド方向に操舵できる。
なお、本実施形態では、調整値Vaに対してレートリミット処理を行っているが、右切下限値RLや左切上限値LUに対してレートリミット処理を行っても良い。この場合、レートリミット処理は制御量制限部172で行うことになる。調整値Vfは所定の値としているが、調整値Vaと同様に、操舵速度、ラック変位及び操舵状態に基づいて設定される値としても良い。左切上限値及び左切下限値は右切上限値及び右切下限値を入れ替えた値としているが、入れ替えた値にしなくても良く、右切操舵の場合と左切操舵の場合で同じ制限値を使用しても良く、その場合は、操舵方向信号Sdは不要となるので、操舵情報抽出部160での操舵方向の判定及び制御量制限部172での操舵方向信号Sdによる動作の切替えも不要となる。
また、ラックエンド近接領域を、操舵状態が切増しのときに2つの領域に分けているが、複数の閾値位置を設定する等で3つ以上の領域に分けて、各領域において調整値の変化量を変えるようにしても良い。また、操舵状態が切戻しのときも複数の領域に分けて、調整値の変化量を変えるようにしても良い。例えば、図29に示されるように、閾値位置xaの他に閾値位置xb(このときのラック変位xをxffとする)を設定し、ラックエンド近接領域を3つの領域に分け、操舵状態が切戻しのときも3つの領域で区別するようにし、「切増し領域1」、「切増し領域2」及び「切増し領域3」、並びに「切戻し領域1」、「切戻し領域2」及び「切戻し領域3」の合計6つの領域を設定する。そして、レートリミット処理で使用する調整値Vaの変化量ΔVaに対する上限値を、下記表1に示されるように、6つの領域毎で、更に調整値アップのときと調整値ダウンのときとで異なる値を設定する。
表1の上限値に対して、例えば、切増し領域1、切戻し領域1及び切戻し領域3では調整値ダウンのときより調整値アップのときの方が変化量ΔVaが小さくなるように(制限が強くなるように)する。切増し領域3では調整値ダウンのときより調整値アップのときの方が変化量ΔVaが大きくなるように(制限が弱くなるように)する。切増し領域2及び切戻し領域2ではそれぞれ切増し領域1と切増し領域3の中間及び切戻し領域1と切戻し領域3の中間の変化(制限)となるように、下記数37を満たすようにする。
切増し領域1、切増し領域2及び全ての切戻し領域では調整値ダウンのときより調整値アップのときの方が変化量ΔVaが小さくなるように(制限が強くなるように)する。切増し領域3では調整値ダウンのときより調整値アップのときの方が変化量ΔVaが大きくなるように(制限が弱くなるように)する場合は、上限値が下記数38を満たすようにする。
切増し領域1及び全ての切戻し領域では調整値ダウンのときより調整値アップのときの方が変化量ΔVaが小さくなるように(制限が強くなるように)する。切増し領域2及び切増し領域3では調整値ダウンのときより調整値アップのときの方が変化量ΔVaが大きくなるように(制限が弱くなるように)する場合は、上限値が下記数39を満たすようにする。
なお、図29では、切増しのときと切戻しのときで領域が重なっているが、重ならないように設定しても良い。また、切増しのときと切戻しのときで設定する領域の数を変えても良く、例えば切増しのときは3つの領域、切戻しのときは1つ又は2つの領域としても良い。
本発明の第2実施形態について説明する。
第2実施形態では、切増し領域2の設定条件に、操舵トルクThに対する条件を追加し、第1実施形態での切増し領域2の設定条件である、操舵状態が切増しで、閾値位置xaからラックエンドまでの領域であることに加え、操舵トルクThが所定の閾値(トルク閾値)Thf(例えば10Nm)より大きい場合、第1実施形態における切増し領域2と同様の処理により調整値Vaを決定する。操舵トルクThが所定の閾値Thf以下の場合は、第1実施形態における切増し領域1及び切戻し領域と同様の処理により調整値Vaを決定する。これにより、操舵トルクが大きいときだけ、ラックエンドに切り込むことができるようになる。
第2実施形態の構成例では、図19及び図24に示される第1実施形態の構成例と比べると、制御量調整部の調整値設定部に操舵トルクThが入力されることになる。第2実施形態での制御量調整部の構成例を図30に示す。制御量調整部270では、制御量制限部172は第1実施形態と同じであるが、調整値設定部271は、ラック変位x、操舵速度ω及び操舵状態信号Scに加え、操舵トルクThに基づいて調整値Vaを決定する。
第2実施形態の動作は、調整値設定部271の動作が第1実施形態の動作例と異なるだけで、他は同じである。調整値設定部271の動作例を図31のフローチャートを参照して説明する。
図27に示される操舵速度演算部150及び操舵情報抽出部160での動作(ステップS207B〜S207D)が実行された後、調整値設定部271は、操舵状態信号Scの値を確認し(ステップS207E)、操舵状態信号Scが「切増し」の場合、ラック変位xの値を確認する(ステップS207F)。ラック変位xがxfを超えている場合、操舵トルクThが閾値Thf以下ならば(ステップS207F1)、図21(A)及び(B)に示される特性に従って、操舵速度ωの大きさ|ω|及びレートリミット処理により調整値Vaを決定する(ステップS207G)。操舵トルクThが閾値Thfより大きいならば(ステップS207F1)、図21(A)及び(C)に示される特性に従って、操舵速度ωの大きさ|ω|及びレートリミット処理により調整値Vaを決定する(ステップS207H)。ラック変位xがxf以下の場合は、図21(A)及び(B)に示される特性に従って、操舵速度ωの大きさ|ω|及びレートリミット処理により調整値Vaを決定する(ステップS207G)。操舵状態信号Scが「切戻し」の場合も、同様の処理により調整値Vaを決定する(ステップS207G)。調整値Vaは制御量制限部172に入力され、制御量制限部172は、第1実施形態と同様の動作(ステップS207I〜S207T)により、ラック軸力ffmを出力する。
本発明の第3実施形態について説明する。
第1実施形態では、切増し領域1、切増し領域2及び切戻し領域において、調整値Vaを図21に示されるような特性で変化させているが、第3実施形態では、この変化を簡素化する。具体的には、切増し領域1及び切戻し領域においては、図32(A)に示すように、調整値アップでの変化量をゼロとし、調整値ダウンでの変化量をゼロではない所定の小さな値A1とする。切増し領域2においては、図32(B)に示すように、調整値ダウンでの変化量をゼロとし、調整値アップでの変化量をゼロではない所定の小さな値A2とする。なお、A1及びA2は同じ値でも違う値でも良い。このように簡素化することにより、調整値Vaを決定するための演算量やデータ量を削減することができる。
第3実施形態の構成例は、図19及び図24に示される第1実施形態の構成例と基本的に同じであるが、制御量調整部の調整値設定部での動作が異なる。即ち、調整値設定部は、切増し領域1及び切戻し領域では、調整値アップのときの変化量はゼロとし、調整値ダウンのときの変化量はA1とし、切増し領域2では、調整アップのときの変化量はA2とし、調整値ダウンのときの変化量はゼロとする。変化量がゼロの場合、調整値Vaは、操舵速度ωの大きさが小さいときは最大調整値Vahに近い値で一定となり、操舵速度ωの大きさが大きいときは最小調整値Valに近い値で一定となる。
第3実施形態の動作は、上述のように調整値設定部での動作が第1実施形態の動作例と異なるだけで、他は同じである。
なお、第3実施形態における調整値Vaの変化の簡素化を、第2実施形態に適用しても良い。つまり、切増し領域1及び切戻し領域に加え、切増し領域2において操舵トルクThが閾値Thf以下の場合も、調整値アップでの変化量をゼロとし、調整値ダウンでの変化量をA1とする。切増し領域2において操舵トルクThが閾値Thfより大きい場合のみ、調整値ダウンでの変化量をゼロとし、調整値アップでの変化量をA2とする。
本発明の第4実施形態について説明する。
第1〜第3実施形態に搭載の制御量調整機能によりラックエンドまで操舵できるようになるので、第4実施形態では、実際にラックエンドまで操舵したとき(正確には、ラックエンドまで操舵したと判定したとき)の舵角(ラック変位)を検知し、検知した舵角(ラック変位)を使用して仮想ラックエンドが実際のラックエンドに対して適切な範囲になるように、ラックエンド近接領域を補正する。
第4実施形態の構成例は、他の実施形態の構成例と基本的に同じであるが、ラックエンド接近判定部での動作が異なる。即ち、ラックエンド接近判定部は、ラックエンド近接領域の開始位置(設定値)である所定位置x0を原点としたラック変位xに基づいてラックエンドまで操舵したか否かを判定し、ラックエンドまで操舵したと判定した場合は、その地点でのラック変位xを用いて、所定位置x0を更新する。ラックエンドまで操舵したか否かの判定は、ラック変位xに対して閾値(仮想エンド閾値)を設定することにより行う。例えば、図33に示すように、ラックエンド近辺に仮想エンド閾値として閾値xtを設定し、ラック変位xが閾値xtを越えたら、ラックエンドまで操舵したと判定する。なお、図33では、原点に対し右側のみを示しているが、左側の仮想エンド閾値も同様に設定される。所定位置x0の更新は、ラック変位xが閾値xtを越えた長さ(以下、「超過長」とする)Ex(=x−xt)を算出し、所定位置x0に超過長Exを加えることにより行う。また、所定位置x0の更新は、ラックエンドまで操舵したと判定した後、判定用ラック位置Rxが所定位置x0以下、即ちラックエンド近接領域外と判定したときに行う。ラックエンド近接領域外と判定されるまでに、ラックエンドまで操舵したと複数回判定した場合は、各回で算出した超過長Exの中の最大値(以下、「最大超過長」とする)Exmを使用して所定位置x0を更新する。なお、最大値ではなく、平均値等を使用しても良い。
第4実施形態の動作は、上述のようにラックエンド接近判定部での動作が他の実施形態の動作例と異なるだけで、他の動作は同じである。第4実施形態でのラックエンド接近判定部の動作例を、図34のフローチャートを参照して説明する。なお、動作開始時、最大超過長Exmにはゼロが設定される。
ラックエンド接近判定部は、ラック位置変換部100から出力された判定用ラック位置Rxを入力し、判定用ラック位置Rxが所定位置x0を越えているか確認する(ステップS121)。判定用ラック位置Rxが所定位置x0を越えていた場合、ラックエンド接近と判定し、切替信号SWS及びラック変位xを出力する(ステップS122)。更に、ラック変位xが閾値xtを越えていた場合(ステップS123)、超過長Exを算出し(ステップS124)、超過長Exが最大超過長Exmより大きい場合(ステップS125)、超過長Exを最大超過長Exmとする(ステップS126)。超過長Exが最大超過長Exm以下の場合は最大超過長Exmの更新は行わず、ラック変位xが閾値xtを越えていない場合は超過長Exの算出も含めて行わない。判定用ラック位置Rxが所定位置x0を越えていない場合、最大超過長Exmが更新されていたならば(ステップS127)、最大超過長Exmを用いて所定位置x0を更新し(ステップS128)、最大超過長Exmをクリアする(ステップS129)。最大超過長Exmが更新されていないならば(ステップS127)、所定位置x0の更新及び最大超過長Exmのクリアは行わない。
なお、閾値xtは固定値としているが、所定位置x0の更新の度に、例えば最大超過長Exmより小さい値を減算する等により、閾値xtを変更しても良い。また、所定位置x0の更新は左右両方の方向でのラックエンド接近判定で行われるが、設定する閾値xtの大きさは左右で変えても良い。ラックエンドまで操舵したかの判定及び所定位置x0の更新を、ラック変位xではなく、判定用ラック位置Rxに基づき、判定用ラック位置Rxに対して閾値となる位置を設定して行っても良い。ラックエンドまで操舵したかの判定を、コラム軸角度(ハンドル角度)とコラム軸角度閾値θt(閾値xtに相当する値)で行なっても良い。
第2〜第4実施形態においても、例えば図29に示されるように、ラックエンド近接領域を3つ以上の領域に分けて、各領域において調整値の変化量を変えるようにしても良く、操舵状態が切戻しのときも複数の領域に分けて、調整値の変化量を変えるようにしても良い。この場合、ラックエンドから最も遠い領域(図29では所定位置x0から閾値位置xaまでの領域)はラックエンドから遠い領域に含まれ、ラックエンドに最も近い領域(図29では閾値位置xbからラックエンドまでの領域)はラックエンドに近い領域に含まれることになる。
次に、反力の上昇分を考慮した処理を行う実施形態(第5〜第9実施形態)について説明する。
図35は第5実施形態の構成例を図4に対応させて示しており、図4に示される構成例に対して、操舵速度演算部350、操舵状態抽出部360、状態判定部370及び制御量調整部380が追加されており、これらにより制御量調整機能が実現されている。
本実施形態では、操舵角の大きさ|θ|がθd以上である領域では操舵速度ωz[deg/sec](例えば、5deg/sec)で操舵していると想定する(以下、操舵速度ωzを「仮想操舵速度」と呼ぶ)。反力(SAT)は、図3に示されるように、近似的に傾きBiで増加すると仮定する。そして、この場合の反力の増加率Ft[Nm/sec]は下記数40で求められる。
よって、反力の上昇分を補償するためには、補償アシスト力も、上記Ftの増加率で増加させていけば良い。また、補償アシスト力を増加させるのは、操舵角の大きさ|θ|が閾値θzを超え、更に、操舵速度ω’の大きさ|ω’|が仮想操舵速度ωzより小さく、操舵状態が切増しの場合(アシスト増加状態)である。操舵速度の大きさ|ω’|が仮想操舵速度ωz以上の場合は、その操舵速度で操舵できるまで全体のアシスト力が回復しているので、それ以上はアシスト力を回復する必要がないからである。また、操舵状態が切戻しの場合は、戻す方向へのアシストが必要となり、補償アシスト力を減少させる必要があるからである。
操舵速度演算部350は、操舵角θから操舵速度ω’を算出する。なお、操舵速度ω’はラック変位x等から算出しても良い。
操舵状態抽出部360は、操舵角θ及び操舵速度ω’を用いて、操舵状態(切増し、切戻し)を判定する。即ち、図36に示されるように、操舵角θと操舵速度ω’の符号が一致しているときは「切増し」、一致していないときは「切戻し」と判定する。判定結果は操舵状態信号Sc’として出力される。なお、操舵角θの代わりに、ラック変位x等を用いても良い。
状態判定部370は、操舵角θ、操舵速度ω’及び操舵状態信号Sc’を用いて、補償アシスト力の増減を決定するラックエンドへの接近状態を判定し、判定結果を判定信号Jsとして出力する。具体的には、操舵角の大きさ|θ|が閾値θz以下の場合、Js=0とする。操舵角の大きさ|θ|が閾値θzより大きい場合、操舵速度の大きさ|ω’|が仮想操舵速度ωzより小さく、且つ、操舵状態信号Sc’が「切増し」ならば、Js=1とする。操舵速度の大きさ|ω’|が仮想操舵速度ωz以上で、且つ、操舵状態信号Sc’が「切増し」ならば、Js=2とする。操舵状態信号Sc’が「切戻し」ならば、Js=3とする。また、判定信号Jsを3として出力する場合、下記数41で算出される時間(以下、「減少時間」とする)Trも出力する。
減少時間Trは、操舵角の大きさ|θ|が閾値θzを超えた後に操舵状態が「切戻し」になった場合、その後は「切戻し」となった際の操舵速度で操舵を継続するとの想定において、操舵角の大きさ|θ|が閾値θzになるまでの時間を表わす。制御量調整部380では、判定信号Jsが3の場合、この減少時間Trから算出される減少率で補償アシスト力を減少させる。
制御量調整部380は、判定信号Jsの値に基づいて、補償アシスト力の増減により、粘弾性モデル追従制御部120から出力されるラック軸力ffを調整する。判定信号Jsが0の場合は、反力の上昇分を補償する必要がない領域を操舵しているので、ラック軸力ffに補償アシスト力を付加しない。判定信号Jsが1の場合は、補償アシスト力を増加率Ftで増加させて、ラック軸力ffに付加する。判定信号Jsが2の場合は、全体のアシスト力が回復しているので、補償アシスト力は増加させず、前回の制御周期での補償アシスト力をラック軸力ffに付加する。判定信号Jsが3の場合は、切戻しの状態なので、補償アシスト力を減少させて、ラック軸力ffに付加する。
制御量調整部380の構成例を図37に示す。制御量調整部380は軸力制限部381、補償アシスト力生成部382及び加算部383を備える。
軸力制限部381は判定信号Jsに応じてラック軸力ffに制限をかける。即ち、判定信号Jsが0から1になったら、その時点のラック軸力ffをラック軸力ffxとして記憶し、判定信号Jsが0になるまで、ラック軸力ffxを制限値としてラック軸力ffに制限をかけ、制限をかけられたラック軸力をラック軸力ffcとして出力する。判定信号Jsが0の場合は、ラック軸力ffをそのままラック軸力ffcとして出力する。
補償アシスト力生成部382は判定信号Jsに応じた補償アシスト力faを生成する。判定信号Jsが0の場合は、補償アシスト力faはゼロとする。判定信号Jsが1の場合は、補償アシスト力faを増加率Ftで増加させる。即ち、補償アシスト力faの初期値をゼロとし、補償アシスト力faを増加率Ftで時間に比例して増加させる。判定信号Jsが2の場合は、補償アシスト力faは増減せず、前回の値のままとする。判定信号Jsが3の場合は、その時点の補償アシスト力faを減少時間Trで除算した減少率(=fa/Tr)[Nm/sec]で補償アシスト力faを減少させる。制御周期毎に減少率を演算し使用することにより、操舵角の大きさ|θ|が閾値θzになった時に補償アシスト力faがゼロとなる。
ラック軸力ffc及び補償アシスト力faは加算部383で加算され、ラック軸力ffm’として出力される。
このように、アシスト増加状態になった時点から軸力制限部381でラック軸力に制限をかけ、操舵角の大きさ|θ|が閾値θzを超えた領域では補償アシスト力生成部382でラック軸力に付加する補償アシスト力を調整するので、反力の上昇分を考慮した制御を行うことができる。反力上昇分を補償アシスト力が補うため、運転者はラックエンドまでの操舵が可能となり、旋回半径に悪影響を与えないようにできる。また、操舵速度が速いときは、アシスト力を上昇させないので、ラックエンドに速い速度で衝突する可能性を低くできる。
このような構成において、第5実施形態の動作例を、図38〜図40のフローチャートを参照して説明する。なお、補償アシスト力生成部382の補償アシスト力faには初期値としてゼロが設定してあるとする。
図38に全体の動作例をフローチャートで示しており、図8のフローチャートと比べると、粘弾性モデル追従制御に制御量調整機能による処理が加わるので、ステップS20がステップS20aに変更されている。
粘弾性モデル追従制御(ステップS20a)での動作例を図39のフローチャートで示す。図9のフローチャートと比べると、ステップS207aが追加され、ステップS208がステップS208aに変更されている。ステップS207aでは、操舵速度演算部350、操舵状態抽出部360、状態判定部370及び制御量調整部380により制御量調整機能を実行し、粘弾性モデル追従制御部120から出力されたラック軸力ffを調整する。図40にステップS207aの詳細な動作例を示す。操舵速度演算部350は、操舵角θを入力し、操舵角θから操舵速度ω’を算出する(ステップS207b)。操舵速度ω’は操舵状態抽出部360及び状態判定部370に入力される。操舵状態抽出部360は操舵速度ω’と共に操舵角θを入力し、図36に示されるような条件判定により、操舵状態が「切増し」か「切戻し」かを判定し(ステップS207c)、判定結果を操舵状態信号Sc’として状態判定部370に出力する。状態判定部370は操舵角θ、操舵速度ω’及び操舵状態信号Sc’を入力し、ラックエンドへの接近状態を判定し、判定信号Jsを出力する。具体的には、操舵角の大きさ|θ|が閾値θz以下の場合(ステップS207d)、判定信号Jsを0とする(ステップS207e)。操舵角の大きさ|θ|が閾値θzより大きい場合(ステップS207d)、操舵状態信号Sc’が「切戻し」ならば(ステップS207f)、判定信号Jsを3とし(ステップS207g)、更に、数41より減少時間Trを算出し(ステップS207h)、制御量調整部380に出力する。操舵状態信号Sc’が「切増し」ならば(ステップS207f)、操舵速度の大きさ|ω’|が仮想操舵速度ωzより小さいときは(ステップS207i)、判定信号Jsを1とする(ステップS207j)。操舵速度の大きさ|ω’|が仮想操舵速度ωz以上のときは(ステップS207i)、判定信号Jsを2とする(ステップS207k)。判定信号Jsは制御量調整部380に入力される。制御量調整部380では、軸力制限部381が判定信号Jsの値を確認し、判定信号Jsが0の場合(ステップS207l)、ラック軸力ffをそのままラック軸力ffcとして出力する(ステップS207m)。判定信号Jsが0以外の場合(ステップS207l)、判定信号Jsが0から1になった時ならば(ステップS207n)、入力したラック軸力ffをラック軸力ffxとして記憶し(ステップS207o)、ラック軸力ffxをラック軸力ffcとして出力する。そうでなければ、ラック軸力ffxを制限値としてラック軸力ffに制限をかけ(ステップS207p)、ラック軸力ffcとして出力する。ラック軸力ffcは加算部383に入力される。補償アシスト力生成部382も判定信号Jsの値を確認し(ステップS207q)、判定信号Jsが0の場合、補償アシスト力faを0にして出力する(ステップS207r)。判定信号Jsが1の場合、補償アシスト力faを増加率Ftで増加させて出力する(ステップS207s)。判定信号Jsが2の場合、補償アシスト力faを前回の値のままで出力する(ステップS207t)。判定信号Jsが3の場合、その時点の補償アシスト力faを減少時間Trで除算して減少率を算出し(ステップS207u)、算出した減少率で補償アシスト力faを減少させて出力する(ステップS207v)。補償アシスト力faは加算部383に入力され、ラック軸力ffcに加算され(ステップS207w)、加算結果がラック軸力ffm’として出力される(ステップS207x)。ラック軸力ffm’は変換部102で電流指令値Iref2に変換され(ステップS208a)、加算部103で電流指令値Iref1に加算される。なお、制御量調整部380での軸力制限部381及び補償アシスト力生成部382の動作は、順番が逆でも、並行して実行されても良い。
本発明の第6実施形態について説明する。
第5実施形態において、制御量調整部380内の軸力制限部381は、判定信号Jsが0になるまでラック軸力ffxを制限値としてラック軸力ffに制限をかけているが、判定信号Jsが0になるまでラック軸力ffxをラック軸力ffcとして出力するようにしても良い。後者の場合、制御量調整部380とは異なる構成で後者の処理を実現することも可能である。その構成例(第6実施形態)を図41に示す。第6実施形態の制御量調整部480は、軸力調整部481、補償アシスト力生成部382、切替部483、減算部484、加算部485及び486並びに固定部487を備える。
軸力調整部481は、判定信号Jsが0から1になったら、その時点のラック軸力ffをラック軸力ffxとして記憶し、判定信号Jsが0になるまで、ラック軸力ffxをラック軸力ffaとして出力する。判定信号Jsが0の場合は、ラック軸力ffをそのままラック軸力ffaとして出力する。
切替部483では、接点aには加算部485からの加算値fadが入力され、接点bには固定部487から出力される固定値「0」が入力されている。切替部483は判定信号Jsの値に応じて接点を切り替える。即ち、判定信号Jsが1、2又は3のときは接点aに接続し、判定信号Jsが0のときは接点bに接続する。
補償アシスト力生成部382は第5実施形態と同じである。
減算部484ではラック軸力ffaとラック軸力ffの差分Δf(=ffa−ff)が算出され、加算部485では差分Δfと補償アシスト力faの加算値fad(=Δf+fa)が算出され、加算部486では切替部483からの出力とラック軸力ffが加算され、ラック軸力ffm’として出力される。
このように構成することにより、判定信号Jsが1、2又は3の場合、切替部483は接点aに接続するので、ラック軸力ffm’は、下記数42からわかるように、ラック軸力ffaと補償アシスト力faを加算した値となる。
そして、判定信号Jsが1、2又は3の場合、ラック軸力ffaは記憶されたラック軸力ffxで一定であるから、補償アシスト力faの増減によりラック軸力ffm’が調整されることになる。判定信号Jsが0の場合は、切替部483は接点bに接続し、ラック軸力ffには「0」が加算されることになるので、ラック軸力ffがそのままラック軸力ffm’として出力されることになる。
第6実施形態の動作は、上述の制御量調整部480の動作が第5実施形態と異なるだけで、他の動作は第5実施形態と同じである。
なお、判定信号Jsが0の場合、ラック軸力ffa及び補償アシスト力faは使用されないので、軸力調整部481及び補償アシスト力生成部382は何も出力しないという動作でも良い。
本発明の第7実施形態について説明する。
第5実施形態では、制御量調整部380内の軸力制限部381にてラック軸力ffに制限をかけることにより、ラック軸力ffm’の調整を補償アシスト力faの増減で行えるようにしているが、第7実施形態では、粘弾性モデル追従制御部のパラメータを調整することにより、ラック軸力ffに制限をかけることと同等の効果を得るようにする。
第7実施形態の構成例を図42に示す。図35に示される第5実施形態の構成例と比べると、粘弾性モデル追従制御部及び制御量調整部が変わっており、粘弾性モデル追従制御部520には、ラック変位x、切替信号SWS及びラック軸力fの他に、操舵角θが入力されている。
第7実施形態では、粘弾性モデル追従制御部のパラメータ中のバネ定数k0を調整する。図15に示される基盤形態3の構成例及び図16に示される基盤形態4の構成例では、バネ定数k0の特性はラック変位xに対する特性としてパラメータ設定部124において定義されており、第7実施形態でもパラメータ設定部でバネ定数k0の特性を定義するが、ラック変位xではなく、操舵角θに対する特性として定義する。よって、粘弾性モデル追従制御部520に入力される操舵角θは、パラメータ設定部に入力されることになる。
バネ定数k0の特性は、例えば図43に示されるような特性とする。図43において、θ0はラックエンド手前の所定位置x0に対応する操舵角であり、ラック変位xに対応する操舵角、つまりθ0を原点とした操舵角を操舵角変位としている。バネ定数k0の特性は、操舵角θ(正確には操舵角θの大きさ|θ|であるが、混同が生じない範囲では大きさも含めて操舵角θとする)が閾値θzを超えない領域では、基盤形態3及び4の場合と同様に、操舵角θ(基盤形態3及び4ではラック変位x)が増加するにつれ、バネ定数k0も大きくなる。しかし、操舵角θが閾値θzを超えた領域では、操舵角θzでのバネ定数k0の値がk1の場合、操舵角θzでのバネ力と操舵角変位β(θz―θ0)(β>1)でのバネ力が同程度になるように、操舵角変位β(θz―θ0)でのバネ定数k0の値がk1/βとなるようにする。これにより、操舵角θが閾値θzを超えた領域においては、粘弾性モデル追従制御部520から出力されるラック軸力ffが大きくならないような制限がかかることになる。更に、上記の設定を調整することにより、操舵感を変えることができる。即ち、操舵角変位β(θz―θ0)でのバネ定数k0を上記の設定より低めにすると、操舵角変位β(θz―θ0)での抗力(バネ力)は操舵角θzでの抗力より小さくなるので、操舵がより容易になる。逆に、操舵角変位β(θz―θ0)でのバネ定数k0を上記の設定より高めにすると、操舵角変位β(θz―θ0)での抗力は操舵角θzでの抗力より大きくなるので、ラックエンドに進む抗力を感じながら操舵できることになる。
第7実施形態での制御量調整部580の構成例を図44に示す。図37に示される制御量調整部380の構成例と比べると、軸力制限部が変わっている。第5実施形態での軸力制限部381は判定信号Jsに応じてラック軸力ffに制限をかけているが、第7実施形態での軸力制限部581は、異常発生等によりラック軸力ffが極端に大きくなるのを防止することを目的として使用され、予め定められた固定値の制限値によりラック軸力ffに制限をかける。よって、軸力制限部581では判定信号Jsは使用しないので、入力されていない。なお、ラック軸力ffが極端に大きくなることがないような場合等では、軸力制限部581はなくても良い。
第7実施形態の動作は、第5実施形態と比べると、粘弾性モデル追従制御部520でのバネ定数k0の設定と制御量調整部580での軸力制限部581の動作が異なるのみで、他の動作は第5実施形態と同じである。
粘弾性モデル追従制御部520では、図39に示されるフローチャート中でのラック変位xが出力されるステップS202と電流指令値Iref1がラック軸力fに変換されるステップS203の間に実行されるパラメータ設定部でのパラメータ設定(図18に示されるフローチャートでのステップS23に相当)において、バネ定数k0は操舵角θに応じて図43に示される特性に従って求められる。
制御量調整部580の動作例を、図45に示されるフローチャートを参照して説明すると、ラック軸力ffを入力した軸力制限部581は、ラック軸力ffが予め定められた制限値(固定値)以下の場合(ステップS207l1)、ラック軸力ffをそのままラック軸力ffcとして出力する(ステップS207m)。ラック軸力ffが制限値より大きい場合(ステップS207l1)、制限値をラック軸力ffcとして出力する(ステップS207p1)。それ以降は第5実施形態の制御量調整部380と同じ動作である(ステップS207q〜)。
なお、第7実施形態ではバネ定数k0のみを調整しているが、操舵角θに応じて粘性摩擦係数μも調整してラック軸力ffに制限をかけるようにしても良い。この場合、粘性摩擦係数μの特性を、操舵角θが閾値θzを超えた領域では操舵角θzでの粘性摩擦係数μの値を保持するような特性とするのが望ましい。また、パラメータの特性を、操舵角θに対する特性ではなく、基盤形態3及び4の場合と同様に、ラック変位xに対する特性として定義しても良く、判定用ラック位置Rxに対する特性として定義しても良い。
本発明の第8実施形態について説明する。
第7実施形態では、粘弾性モデル追従制御部のパラメータを調整することにより、ラック軸力ffに制限をかけることと同等の効果を得るようにしているが、第8実施形態では、ラック変位xに制限をかけることにより、ラック軸力ffに制限をかけることと同等の効果を得るようにする。
第8実施形態の構成例を図46に示す。図35に示される第5実施形態の構成例と比べると、ラックエンド接近判定部110と粘弾性モデル追従制御部120との間にラック変位制限部690が挿入され、制御量調整部として第7実施形態での制御量調整部580が使用されている。
ラック変位制限部690はラック変位x及び判定信号Jsを入力し、判定信号Jsに応じてラック変位xに制限をかける。即ち、判定信号Jsが0から1になったら、その時点のラック変位xをラック変位xfとして記憶し、判定信号Jsが0になるまで、ラック変位xfを制限値としてラック変位xに制限をかけ、制限をかけられたラック変位をラック変位xmとして出力する。判定信号Jsが0の場合は、ラック変位xをそのままラック変位xmとして出力する。このような制限をかけられたラック変位xmを粘弾性モデル追従制御部120に入力することにより、結果的に粘弾性モデル追従制御部120から出力されるラック軸力ffに制限がかかることになる。また、ラック変位制限部690で制限をかけるので、制御量調整部として、第7実施形態と同じ制御量調整部580を使用する。
第8実施形態の動作は、第5実施形態と比べると、ラック変位制限部690の動作が加わり、制御量調整部の動作が第7実施形態の制御量調整部580の動作となる。
ラック変位制限部690の動作は、図39に示されるフローチャート中でのラック変位xが出力されるステップS202の後に加わる。即ち、ラック変位制限部690の動作例を、図47のフローチャートを参照して説明すると、ラック変位xは、判定信号Jsと共にラック変位制限部690に入力される。ラック変位制限部690は、判定信号Jsの値を確認し、判定信号Jsが0の場合(ステップS202A)、ラック変位xをそのままラック変位xmとして出力する(ステップS202B)。判定信号Jsが0以外の場合(ステップS202A)、判定信号Jsが0から1になった時ならば(ステップS202C)、入力したラック変位xをラック変位xfとして記憶し(ステップS202D)、ラック変位xfをラック変位xmとして出力し、そうでなければ、ラック変位xfを制限値としてラック変位xに制限をかけ(ステップS202E)、ラック変位xmとして出力する。ラック変位xmは粘弾性モデル追従制御部120に入力される。その後は、ステップS203へと続く。
なお、ラック変位制限部690は、判定信号Jsが0になるまでラック変位xfを制限値としてラック変位xに制限をかけるのではなく、判定信号Jsが0になるまでラック変位xfをラック変位xmとして出力しても良い。また、ラック変位xではなく、判定用ラック位置Rxに制限をかけるようにしても良い。
第5〜第8実施形態を採用することにより、反力が大きくなる舵角範囲でアシスト力が上昇する。これにより、運転者は実際のラックエンドまで操舵が可能となる。よって、これらの実施形態に対して、第4実施形態にて搭載された機能を搭載しても良い。即ち、実際にラックエンドまで操舵したとき(正確には、ラックエンドまで操舵したと判定したとき)の舵角(ラック変位)を検知し、検知した舵角(ラック変位)を使用して仮想ラックエンドが実際のラックエンドに対して適切な範囲になるように、ラックエンド近接領域を補正する。この場合の構成例(第9実施形態)は第5〜第8実施形態の構成例と基本的に同じであるが、ラックエンド接近判定部の動作が第4実施形態でのラックエンド接近判定部の動作となる。
第5〜第9実施形態において、アシスト増加状態ではラック軸力ffm’の増加が継続し、例えば操舵速度ω’がゼロの保舵状態においてもラック軸力ffm’が増加し続けることになるので、増加に歯止めをかけても良い。例えば、制御量調整部の後段にリミッタを設け、ゼロを制限値として、ラック軸力ffm’に制限をかける。或いは、制御量調整部内の補償アシスト力生成部の後段にリミッタを設け、補償アシスト力faに制限をかける。補償アシスト力faに制限をかける場合の制限値としては、例えば、軸力制限部又は軸力調整部からの出力(ラック軸力ffc又はffa)の絶対値から所定値Mxを減算した値を使用する。Mx=0とした場合、ゼロを制限値としてラック軸力ffm’を制限した場合と同じになる。
また、補償アシスト力生成部は、一定の増加率Ftで時間に比例して補償アシスト力faを増加させているが、比例ではなく、曲線的に増加させるようにしても良い。更に、操舵速度の大きさ|ω’|に応じて増加率Ftを変えるようにしても良い。例えば、図48に示されるように、操舵速度の大きさ|ω’|が仮想操舵速度ωzまでは増加率Ftは所定の値Fzで一定で、仮想操舵速度ωzを超えてからは操舵速度の大きさ|ω’|が大きくなるにつれ増加率Ftは小さくなり、ωz+Lw(Lwは固定値)において増加率Ftがゼロとなるようにしても良い。補償アシスト力faを減少させるときも曲線的に減少させても良く、減少率を固定値や他の計算式で算出した値としても良い。
状態判定部では、操舵角θ及び操舵速度ω’の大きさ(絶対値)で判定を行っているが、正負の閾値及び仮想操舵速度を設定し、操舵角θ及び操舵速度ω’をそのまま使用して判定を行っても良い。この場合、正の場合と負の場合で閾値及び仮想操舵速度の大きさを変えても良い。
更に、操舵角の大きさ|θ|が閾値θzより大きい場合、操舵速度の大きさ|ω’|が仮想操舵速度ωzより小さく、且つ、操舵状態信号Sc’が「切増し」ならば、判定信号Js=1としているが、これに操舵トルクの条件をつけることもできる。運転者がラックエンドまで操舵しようと操舵しているときには、操舵トルクは大きな値(例えば10Nm)となっていると考えられる。よって、操舵トルクThに閾値Thf(例えば10Nm)を設定し、操舵角の大きさ|θ|が閾値θzより大きい場合、操舵速度の大きさ|ω’|が仮想操舵速度ωzより小さく、操舵トルクThが閾値Thfよりも大きく、且つ、操舵状態信号Sc’が「切増し」ならば、判定信号Js=1とする。図40に示される制御量調整の動作例では、ステップS207iでの判定が、「操舵速度の大きさ|ω’|が仮想操舵速度ωzより小さく、且つ、操舵トルクの大きさ|Th|がThfより大きい」となる。このようにすることで、切増しの条件をより良く判定することができるようになる。