JPWO2018122935A1 - めっきされたアルミニウム又はアルミニウム合金製のスライドファスナー又はボタンの部材 - Google Patents
めっきされたアルミニウム又はアルミニウム合金製のスライドファスナー又はボタンの部材 Download PDFInfo
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Abstract
Description
スライドファスナー又はボタンの部材の形状に加工されたアルミニウム又はアルミニウム合金製の母材を準備する工程と、
該母材表面の少なくとも一部に対してジンケート処理、ピロリン酸銅めっき、及び硫酸銅めっきを順に実施する工程と、
を含むスライドファスナー又はボタンの部材の製造方法である。
本発明に係るスライドファスナー又はボタンの部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金を母材(101)としている。アルミニウム合金としては、限定的ではないが、Al−Cu系合金、Al−Mn系合金、Al−Si系合金、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金、Al−Zn−Mg系合金、Al−Zn−Mg−Cu系合金などが挙げられる。これらの中でも、強度、加工性の理由により、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金及びAl−Mg−Si系合金が好ましく、Al−Mg系合金がより好ましい。
本発明に係るスライドファスナー又はボタンの部材においては、母材表面内側に亜鉛が拡散した亜鉛拡散層(102)を有する。亜鉛拡散層を設けることでめっきの密着性を向上させることが可能となる。亜鉛拡散層はめっき密着性を高めるという観点から50nm以上の平均厚みを有することが好ましく、100nm以上の平均厚みを有することがより好ましく、200nm以上の平均厚みを有することが更により好ましく、250nm以上の平均厚みを有することが更により好ましい。また、亜鉛拡散層費用対効果の観点から500nm以下の平均厚みを有することが好ましく、400nm以下の平均厚みを有することがより好ましく、350nm以下の平均厚みを有することが更により好ましい。
亜鉛拡散層(102)の上にはピロリン酸銅めっき層(103)が形成される。ピロリン酸銅めっき層はひび割れの抑制効果が高い点で優れている。例えば、ファスナーエレメントは、アルミニウム合金製の平角線材を打ち抜くことにより形成された個々のファスナーエレメントの表面にめっき層を形成した後、ファスナーエレメントの一対の脚部の間にファスナーテープを配置し、一対の脚部を内側に向けて加締めることによってファスナーテープに取り付けられる。図6には、ファスナーエレメント108を加締める前(a)及びファスナーエレメント108をファスナーテープ109に加締めた後(b)の様子が例示してある。加締め前には一対の脚部の開き角度θは30〜50°であるのが典型的であり、加締め後に一対の脚部は平行になるのが典型的である。そのため、ファスナーエレメントを加締める際に、表面に形成されためっき層が延ばされひび割れが生じやすい。母材に近く内側にあるために変形量の少ないピロリン酸銅めっき層(103)を厚く形成することで、後述する、ピロリン酸銅めっき層(103)の外側に形成される硫酸銅めっき層(104)や硬質な仕上げめっき層(105)を薄く形成することができ、ひび割れを抑制することができる。また、ピロリン酸銅めっき液は弱アルカリ性であり、ジンケート処理後のめっきの付き回りが良いという点でも優れている。ピロリン酸銅めっき層というのはピロリン酸銅を含有するめっき液を使用することにより得られためっき層であり、めっき層中にCu及びPが含まれる。
ピロリン酸銅めっき層(103)の上には硫酸銅めっき層(104)が形成される。硫酸銅めっき層は高い光沢が得られる点で優れている。このため、ピロリン酸銅めっき層(103)と硫酸銅めっき層(104)をこの順に積層することは、めっき密着性及び光沢性を両立を図る上で重要である。硫酸銅めっき層は硫酸銅を含有するめっき液を使用することにより得られためっき層であり、めっき層中にCu及びSが含まれる。
硫酸銅めっき層(104)の上には硫酸銅めっき層(104)よりも硬質の仕上げめっき層(105)が形成される。仕上げめっき層(105)は所望の色調の外観を付与するという目的もあるが、硬質の仕上げめっき層(105)を薄く形成することで、摺動抵抗低減機能、腐食防止機能、及びひび割れ防止機能を効果的に発現可能となる。ここで、硫酸銅めっき層(104)よりも仕上げめっき層(105)が硬質であるというのは、硫酸銅めっき層(104)まで形成された部材表面のビッカース硬さよりも、その上に仕上げめっき層(105)が形成された部材表面のビッカース硬さのほうが大きいことを指す。典型的には、硫酸銅めっき層(104)まで形成された部材表面のビッカース硬さHvは100程度(荷重50g)である。
仕上げめっき層(105)の上には更に、仕上げめっき層(105)とは色調の異なるめっき層(106)(以下、「色調調整めっき層」という。)を形成してもよい。これによりカラーバリエーションを充実させることができる。色調調整めっき層としては特に制限はないが、Cu−Sn−Zn合金めっき層、Cu−Sn合金めっき層、Cu−Zn合金めっき層(真鍮めっき層)が挙げられる。また、色調調整めっき層の平均厚みは、摺動抵抗を小さくするため、10μm以下とするのが好ましく、5μm以下とするのがより好ましく、2μm以下とするのが更により好ましい。また、アレルギーを起こすおそれのあるNiの代わりに、Cu−Sn−Zn合金めっき層を色調調整めっき層に用いることもできる。色調調整めっき層はその種類に応じて公知のめっき条件を採用することにより形成可能である。
スライドファスナーの分野においては、スライダーを操作するときの摺動抵抗を抑制することが重要な課題の一つである。ピロリン酸銅めっき層から色調の異なるめっき層までの各種めっき層の合計の厚みが大きくなると、摺動抵抗が増加する傾向にあることから、低減させておくことが望ましい。そこで、ピロリン酸銅めっき層、硫酸銅めっき層、存在する場合の仕上げめっき層、及び存在する場合の色調調整めっき層のすべてのめっき層の合計厚みは好ましくは平均で50μm以下であり、より好ましくは平均で30μm以下であり、更により好ましくは平均で20μm以下である。
光沢の程度は、面粗度で比較することができる。面粗度が小さいほど表面の凹凸が少なく、光沢が出る。本発明に係るスライドファスナー又はボタンの部材は一実施形態において、最表面の算術平均粗さ(Ra)は0.3μm以下とすることができ、好ましくは0.15μm以下とすることができ、より好ましくは0.1μm以下とすることができ、更に好ましくは0.08μm以下とすることができ、例えば0.02〜0.15μmとすることができる。本発明において、算術平均粗さ(Ra)はJIS B0601:2001に準拠して非接触式表面粗さ測定装置により測定する。
このようにして、素材表面へのめっきが完了した後、得られたスライドファスナー又はボタンの部材を用いて、公知の任意の手段によってスライドファスナー又はボタンを組み立てることができる。限定的ではないが、ボタンの部材としては、リベットや、リベットにより生地に取り付けられるボタン本体が挙げられる。スライドファスナーの部材としてはスライダー(胴体及び/又は引手)、ファスナーエレメント、上止、下止が挙げられる。ファスナーエレメントはファスナーテープの一側縁に沿って複数加締め固定することによってファスナーストリンガーを作製することができ、また、一対のファスナーストリンガーをファスナーエレメントの列を介して連結させたファスナーチェーンを作製することができ、更には、ファスナーチェーンにスライダーの他、必要に応じて上止や下止を取り付けたスライドファスナーを作製することができる。スライドファスナーは衣料品、鞄類、靴類及び雑貨品といった日用品含む各種物品の開閉部に取り付けることができる。
(比較例1)
アルミニウム製の平角線材をプレスにより打ち抜いて製造された多数のスライドファスナー用エレメントを用意し、これに対して図5に記載の手順で前処理及びジンケート処理を行った。次いで、表1に記載の平均厚みを有するピロリン酸銅めっき層(ストライクめっき層→本めっき層)を電気バレルめっきにより形成した。最後に、表1に記載の平均厚みを有する仕上げめっき層(Cu−Sn−Zn合金めっき層)を電気バレルめっきにより形成した。各めっき層の平均厚みの測定法については後述する。
比較例1と同様の条件で、アルミニウム製の平角線材をプレスにより打ち抜いて製造された多数のスライドファスナー用エレメントに対して前処理及びジンケート処理を行った。次いで、表1に記載の平均厚みを有する青化銅めっき層(ストライクめっき層→本めっき層)及び硫酸銅めっき層を電気バレルめっきにより順に形成した。最後に、表1に記載の平均厚みを有する仕上げめっき層(Cu−Sn−Zn合金めっき層)を電気バレルめっきにより形成した。
比較例1と同様の条件で、アルミニウム製の平角線材をプレスにより打ち抜いて製造された多数のスライドファスナー用エレメントに対して前処理及びジンケート処理を行った。次いで、表1に記載の平均厚みを有するピロリン酸銅めっき層(ストライクめっき層→本めっき層)及び硫酸銅めっき層を順に電気バレルめっきにより形成した。その後、実施例2〜4については表1に記載の平均厚みを有する仕上げめっき層(Cu−Sn−Zn合金めっき層)を電気バレルめっきにより形成した。実施例5については表1に記載の平均厚みを有するCu−Sn黒色めっき層(色調調整めっき層)を仕上げめっき層の上に電気バレルめっきにより形成した。実施例1については仕上げめっき層を形成しなかった。
(1)亜鉛拡散層
上記の条件で得られた実施例及び比較例の各めっき付きエレメントについて、CP法によって作製した断面試料から、FIB(FEI社製Scios DualBeam)を用いて電流と処理時間を調節しながら断面観察用の超薄切片サンプル(厚さ200nm以下)を作製した。次いで、得られた切片サンプルを用いて亜鉛拡散層の断面を日立製HD−2300AによりSTEM観察し、EDXにより元素分析を行って元素マッピング像を得た(加速電圧200kV)。
上記の条件で得られた実施例及び比較例の各めっき付きエレメントを樹脂に埋め込み、表面を研磨して断面観察用サンプルを作製した。各めっき層を金属顕微鏡(オリンパス社製型式GX51)で分析し、10点以上のめっき厚みを測定して平均値を算出した。結果を表1に示す。
上記の条件で得られた実施例及び比較例の各めっき付きエレメントについて、表面観察(実体顕微鏡オリンパス製SZ60)によりめっき層の密着性を確認した。結果は以下の基準により判定した。結果を表2に示す。
○:めっき層の剥離箇所が観察されなかった。
×:めっき層の剥離箇所が観察された。
上記の条件で得られた実施例及び比較例の各めっき付きエレメントを一対のファスナーテープの側縁に複数加締め固定してエレメント列を形成し、一対のエレメント列を噛合することによりファスナーチェーンを作製した。引張試験機(JIS−B−7721準拠)を用いて、ファスナーチェーンをスライダーを介して開閉し、JIS−S−3015:2007に準拠して摺動抵抗を測定した。摺動抵抗は積分平均値を採用した。結果を表2に示す。摺動抵抗が4.9N以下であれば実用上問題ないと判断される。なお、比較例2は、密着性が悪く、表面が部分的に膨れたようなめっき付きエレメントとなったため、表面に膨れの無い他の例と比較できる摺動抵抗のデータが得られなかった。
上記の条件で得られた実施例及び比較例の各めっき付きエレメントについて、最表面の算術平均粗さ(Ra)をJIS B0601:2001に準拠して非接触三次元表面形状測定装置(米国ザイゴ社製、Zygo NewView 6300)により測定した。結果を表2に示す。なお、比較例2は、密着性が悪く、表面が部分的に膨れたようなめっき品となったため、表面に膨れの無い他の例と比較できる表面粗さのデータが得られなかった。
上記の条件で得られた実施例及び比較例の各めっき付きエレメントについて、ビッカース硬度計(JIS−Z−2244:2009準拠)により、硬さを測定した。荷重は50gとした。測定は3回行い、その平均値を測定値とした。結果を表2に示す。
上記の条件で得られた実施例及び比較例の各めっき付きエレメントを、ファスナーテープの側縁に治具を用いて加締め固定した後の表面状態を実体顕微鏡(オリンパス社製SZ60)にて観察した。結果は以下の基準により判定した。結果を表2に示す。
○:めっき表面にひび割れが観察されなかった。
×:めっき表面にひび割れが観察された。
上記の条件で得られた実施例及び比較例の各めっき付きエレメントに塩水噴霧24hを行い、腐食の有無を目視により調べた。結果は以下の基準により判定した。結果を表2に示す。
○:めっき表面に腐食が観察されなかった。
×:めっき表面に腐食が観察された。
上記の結果から、実施例1〜5に係るめっき付きエレメントは耐ひび割れ性及び光沢性を兼備していたことが分かる。また、仕上げめっきを行うことで、耐食性が向上することが確認された。一方、比較例1は光沢銅めっきを行わなかったために光沢が不十分であった。比較例2はピロリン酸銅めっきに代えて青化銅めっきを行ったことでめっきの密着性が悪く、外観不良となった。
102 亜鉛拡散層
103 ピロリン酸銅めっき層
103a ピロリン酸銅ストライクめっき層
103b ピロリン酸銅本めっき層
104 硫酸銅めっき層
105 仕上げめっき層
106 色調調整めっき層
108 ファスナーエレメント
109 ファスナーテープ
Claims (16)
- アルミニウム又はアルミニウム合金製の母材(101)と、該母材の表面内側に亜鉛が拡散した亜鉛拡散層(102)と、亜鉛拡散層(102)を被覆する複数のめっき層とを備え、該複数のめっき層は内側から順にピロリン酸銅めっき層(103)、及び硫酸銅めっき層(104)を有するスライドファスナー又はボタンの部材。
- ピロリン酸銅めっき層(103)の平均厚みが20μm以下である請求項1に記載のスライドファスナー又はボタンの部材。
- ピロリン酸銅めっき層(103)の平均厚みが5〜20μmである請求項1に記載のスライドファスナー又はボタンの部材。
- ピロリン酸銅めっき層(103)は平均厚み0.1〜5μmのピロリン酸銅ストライクめっき層(103a)を下地として有する請求項1〜3の何れか一項に記載のスライドファスナー又はボタンの部材。
- 硫酸銅めっき層(104)の平均厚みが7μm以下である請求項1〜4の何れか一項に記載のスライドファスナー又はボタンの部材。
- 硫酸銅めっき層(104)の平均厚みが1〜7μmである請求項1〜4の何れか一項に記載のスライドファスナー又はボタンの部材。
- ピロリン酸銅めっき層(103)の平均厚みに対する硫酸銅めっき層(104)の平均厚みの比が0.1〜0.5である請求項1〜6の何れか一項に記載のスライドファスナー又はボタンの部材。
- 前記複数のめっき層は、硫酸銅めっき層(104)の外側に硫酸銅めっき層(104)よりも硬質の仕上げめっき層(105)を更に有する請求項1〜7の何れか一項に記載のスライドファスナー又はボタンの部材。
- 仕上げめっき層(105)がCu及びSnを含有する合金めっき層である請求項8に記載のスライドファスナー又はボタンの部材。
- 仕上げめっき層(105)の平均厚みが0.5〜5μmである請求項8又は9に記載のスライドファスナー又はボタンの部材。
- 最表面の算術平均粗さ(Ra)が0.3μm以下である請求項1〜10の何れか一項に記載のスライドファスナー又はボタンの部材。
- 前記複数のめっき層は、仕上げめっき層(105)の外側に仕上げめっき層(105)とは色調の異なるめっき層(106)を更に有する請求項8〜11の何れか一項に記載のスライドファスナー又はボタンの部材。
- 母材(101)表面全体が前記複数のめっき層に被覆されている請求項1〜12の何れか一項に記載のスライドファスナー又はボタンの部材。
- 請求項1〜13の何れか一項に記載のスライドファスナー又はボタンの部材を備えた物品。
- 請求項1〜13の何れか一項に記載のスライドファスナーの部材がファスナーエレメントであり、当該ファスナーエレメントがファスナーテープの一側縁に沿って複数加締め固定されているファスナーストリンガー。
- スライドファスナー又はボタンの部材の形状に加工されたアルミニウム又はアルミニウム合金製の母材(101)を準備する工程と、
該母材(101)表面の少なくとも一部に対してジンケート処理、ピロリン酸銅めっき、及び硫酸銅めっきを順に実施する工程と、
を含むスライドファスナー又はボタンの部材の製造方法。
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