JPWO2017056202A1 - アルミニウム合金−炭化珪素質複合体の製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金−炭化珪素質複合体の製造方法 Download PDF

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Abstract

高温領域でも放熱特性が良好なアルミニウム合金−炭化珪素質複合体のより工業生産に適した製造方法を提供する。平均粒子径が10〜100μmの炭化珪素粉末、当該炭化珪素粉末100質量部に対して固形分濃度で0.5〜10質量部を含有するシリカゾル、更にはゲル化剤及び水を混合してスラリーを調製し、当該スラリーを湿式成形することでウェットプリフォームを得る工程と、当該ウェットプリフォームを焼成することで炭化珪素質成分が50〜75体積%であるプリフォームを得る工程と、アルミニウム板の厚さ(A)と当該プリフォームの合計厚さ(B)の比(A):(B)=1:9〜6:4の範囲となる条件で、当該プリフォームを当該アルミニウム板の主表面の両側に配置した状態で、高圧鍛造法によりプリフォーム内にアルミニウム合金を含浸させ、アルミニウム合金−炭化珪素質複合体のブロックを得る工程とを含むアルミニウム合金−炭化珪素質複合体の製造方法。

Description

本発明は、回路基板のベース板として好適なアルミニウム合金−炭化珪素質複合体の製造方法に関する。
高絶縁性、高熱伝導性を有する窒化アルミニウム基板や窒化珪素基板等のセラミックス基板の表面に、銅製又はアルミニウム製の金属回路を、また裏面には銅製又はアルミニウム製の金属放熱板が接合されてなる回路基板は、パワーモジュール用基板として使用されている。今日、半導体素子の高集積化、小型化に伴い、発熱量は増加の一途をたどっており、いかに効率よく放熱するかが課題となっている。
従来の回路基板の放熱構造は、回路基板裏面の金属放熱板にヒートシンクがはんだ付けされており、ヒートシンク材としては銅、アルミニウムが一般的であった。しかしながら、この構造においては、半導体装置に熱負荷がかかった際に、ヒートシンクと回路基板の熱膨張係数差に起因するクラックが上記はんだに発生し、放熱が不十分となって、半導体を誤作動させたり、破損させたりする場合があった。
そこで、熱膨張係数を回路基板に近づけたヒートシンクとして、アルミニウム合金−炭化珪素質複合体が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、半導体素子の高集積化、小型化が進んだ結果、半導体装置の温度が100℃以上になることもあり、この温度域では、アルミニウム合金−炭化珪素質複合体をヒートシンクとして用いても炭化珪素質の格子振動が大きくなって熱伝導が低下するなど、放熱材として用いるには充分ではなくなってきた。そのため、このような高温の温度域でも十分に使用に耐えうる、より放熱特性に優れた材料が求められるようになってきた。このような背景の下、アルミニウム板を炭化珪素多孔質体で挟んだ複合体に、アルミニウム合金を含浸して得られるアルミニウム合金−炭化珪素質複合体が提案されている(特許文献2)。
特表平05−507030号公報 特開2006−40992号公報
特許文献2に記載のアルミニウム合金−炭化珪素質複合体は100℃以上のような高温領域においても、熱伝導率の低下が小さく、放熱特性に優れているが、より工業生産に適した製造方法が提供されることが有利であろう。本発明の目的は、上記課題に鑑み、高温領域でも放熱特性が良好なアルミニウム合金−炭化珪素質複合体のより工業生産に適した製造方法を提供することである。
本発明は一側面において、平均粒子径が10〜100μmの炭化珪素粉末、当該炭化珪素粉末100質量部に対して固形分濃度で0.5〜10質量部を含有するシリカゾル、更にはゲル化剤及び水を混合してスラリーを調製し、当該スラリーを湿式成形することでウェットプリフォームを得る工程と、当該ウェットプリフォームを焼成することで炭化珪素質成分が50〜75体積%であるプリフォームを得る工程と、アルミニウム板の厚さ(A)と当該プリフォームの合計厚さ(B)の比(A):(B)=1:9〜6:4の範囲となる条件で、当該プリフォームを当該アルミニウム板の主表面の両側に配置した状態で、高圧鍛造法によりプリフォーム内にアルミニウム合金を含浸させ、アルミニウム合金−炭化珪素質複合体のブロックを得る工程とを含むアルミニウム合金−炭化珪素質複合体の製造方法である。
本発明に係る製造方法の一実施形態においては、ゲル化剤が、スチレン−無水マレイン酸共重合体を含むポリアルキレングリコール又はその誘導体を含む。
本発明に係る製造方法の別の一実施形態においては、ゲル化剤が更にポリカルボン酸系のゲル化剤を含む。
本発明に係る製造方法の更に別の一実施形態においては、ゲル化剤は、シリカゾルの固形分量100質量部に対して5質量部以上添加される。
本発明に係る製造方法の更に別の一実施形態においては、湿式成形により前記ウェットプリフォームを得る工程は、成形型の内面に湿潤紙を配置して実施される。
本発明に係る製造方法の更に別の一実施形態においては、前記湿潤紙を前記ウェットプリフォームのキャリヤーとして使用して前記ウェットプリフォームを運搬することを含む。
本発明に係る製造方法の更に別の一実施形態においては、アルミニウム板が、純度99.0質量%以上の高純度アルミニウムからなる。
本発明に係る製造方法の更に別の一実施形態においては、アルミニウム板の主表面の両側に配置する二枚のプリフォームの厚さがそれぞれ異なる。
本発明により、例えば100℃以上のような高温領域においても、熱伝導率の低下が小さく、放熱特性に優れたアルミニウム合金−炭化珪素質複合体のより工業生産に適した製造方法が提供される。該アルミニウム合金−炭化珪素質複合体は、一主面が回路基板に接合され、他の主面が放熱面として用いられる電力制御部品として使用可能である。
本発明の一実施形態によれば、アルミニウム板を炭化珪素多孔質体(以下、「プリフォーム」ともいう。)で挟んだ複合体のアルミニウム板の厚さとプリフォームの厚さの比率を制御することにより、例えば100℃以上の高温領域においても優れた放熱特性を有するアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を提供することができる。
本発明の一実施形態に係るプリフォームは、プリフォーム中の炭化珪素質成分が50〜75体積%であることが好ましく、55〜70体積%であることがより好ましい。プリフォーム中の炭化珪素質成分が75体積%を超えると、30MPa以上の高圧をかけてもアルミニウム合金がプリフォーム中に含浸せず、気孔が残り熱伝導の妨げとなるので、良好な熱伝導性を得ることが困難になる。更には、流動性が確保できずプリフォームの成形が困難となる場合もある。また、プリフォーム中の炭化珪素質成分が50体積%より低い場合は熱膨張係数を1.5×10-5/K以下とすることが困難である。
炭化珪素粉末の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、平均粒子径が10〜100μmのものが好ましい。平均粒子径が100μmよりも大きいと強度発現性に乏しく、一方、平均粒子径が10μm未満であると、アルミニウム合金−炭化珪素質複合体の熱伝導率が良好でない場合がある。炭化珪素粉末の平均粒子径が10〜100μmの範囲において、粗い粒子の割合が多くなるように調整すると、熱伝導率が高くなる傾向がある。そのため、炭化珪素粉末の平均粒子径は好ましくは15〜80μmであり、より好ましくは20〜50μmである。
本発明において、炭化珪素粉末の平均粒子径は、レーザー回折散乱法(実施例では、ベックマン・コールター社製商品名「モデルLS−230」によって測定した。)によって得られる粒度分布から求められる体積基準によるメジアン径(d50)を指す。
成形方法は、特に限定されるものではなく、プレス成形、押し出し成形、鋳込み成形等の公知の方法が使用できるが、従来主流として使用されていた乾式成形法では高価な装置を用いなければならない、或いは金型の摩耗が著しいなどの問題があり、湿式成形法を用いることが好ましい。湿式成形法の具体例としては湿潤注型法や湿式プレス法があげられる。
本発明では、湿式成形法で炭化珪素の高い充填率を有する炭化珪素多孔質体を得るために、原料炭化珪素粉末にシリカゾルと前記シリカゾルのゲル化剤を添加するのが好適である。シリカゾルとしては、市販されている固形分濃度20質量%程度のもので構わない。シリカゾルの配合量としては、炭化珪素100質量部に対して、固形分濃度で0.5〜10質量部程度で十分であるが、好ましくは1〜3質量部である。0.5質量部未満では、プリフォームの成形が困難となる場合があるほか、得られる成形体の強度が、焼成したときにさえ十分でないことがあるし、10質量部を超える場合には、得られるプリフォーム中の炭化珪素の充填率が高くならず、本発明の目的を達成できないことがあるからである。
本発明では、前記シリカゾルにゲル化剤を添加することが好ましい。シリカゾルを湿式成形、後に続く乾燥、焼成工程を通じて、ゲル化することにより、成形時には原料の流動性を支配する水分量を多く保ちながらも、その後の乾燥工程以降ではプリフォームの強度を強くすることができるので、作業性に富むと同時に、乾燥速度や焼成時の昇温速度を早くすることができ、多量生産に適するという実用上の効果が得られる。前記シリカゾルのゲル化剤としては、スチレン−無水マレイン酸共重合体を含むポリアルキレングリコール並びにその誘導体が知られており、本発明においても使用することができる。また、シリカゾルのゲル化剤の量としては、一般的に、シリカゾルの固形分量100質量部に対して、5質量部以上であれば十分であるが、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましい。また、当然ではあるが、前記ゲル化剤として、いわゆる減水剤を用いることも出来る。減水剤としては、限定的ではないが、ポリカルボン酸系、ナフタリン系、及びアミノスルホン酸系が挙げられる。特に、スチレン−無水マレイン酸共重合体を含むポリアルキレングリコール又はその誘導体とポリカルボン酸系のゲル化剤とを併用することが好ましい。
本発明では、前記原料に、更に水溶性高分子物質を含有させることが好ましい。
前記水溶性高分子物質を更に含有させることにより、湿式成形時に存在させる多量の水分の中で、炭化珪素粒子の沈降が起こり、粒度の相違に原因した局所的な炭化珪素の充填率の差異が発生することを防止するためである。前記水溶性高分子物質としては、メチルセルロース、ポリビニルアルコール或いは高分子量不飽和ポリカルボン酸、高分子量不飽和ポリカルボン酸の長鎖アミン塩等が挙げられるが、本発明者らの実験的検討によれば、高分子量不飽和ポリカルボン酸、高分子量不飽和ポリカルボン酸の長鎖アミン塩が、プリフォーム中の炭化珪素充填率を低下することがなく、好ましい。また、水溶性高分子物質の添加量については、炭化珪素粉100質量部に対して0.05〜2.0質量部であれば良く、0.1〜1.0質量部が好ましい範囲である。
更に、本発明では、前記水溶性高分子物質に相溶性のシリコーン樹脂を添加することが好ましい。前記シリコーン樹脂は、湿式成形後の乾燥、焼成を経て、シリカゾルと同様な焼結バインダーとして機能するので、実質的に、水溶性高分子物質等の有機物質が乾燥、焼成工程で揮発し、得られるプリフォームの炭化珪素充填率が低下することを防止するのに役立つ。シリコーン樹脂の添加量は、水溶性高分子物質の100質量部に対して1〜10質量部が一般的である。
上記の添加剤を配合した炭化珪素粉末は、水を炭化珪素100質量部に対して15〜80質量部を含有する実質的にスラリーと呼ばれる粘性を示す状態を呈している。前記スラリーを用いて、湿式成形するに際しては、一定サイズの炭化珪素多孔質体を量産するためには、型を用いる湿式プレス又は湿潤注型法が選択されることが好ましい。前記スラリーは、どちらの場合にも適用できるものの、成形直後のもの(湿潤状態の炭化珪素多孔質体;以下、「ウェットプリフォーム」ともいう。)の型離れが悪いことがあり、量産上の問題となることがある。
本発明の好ましい実施形態では、前記問題解決のために、湿潤紙を型の内面に設けること、更に型から抜き出して得られるウェットプリフォームは湿潤紙で挟まれた状態になるので、湿潤紙はウェットプリフォームのキャリヤーとして用いることができる。これにより、安定して離型することができ、しかも得られた強度の弱いウェットプリフォームに変形や破損することなく、次の乾燥工程へ運搬することができる。当該紙は焼成時に自然と消失させることができるので、プリフォームから剥がす必要はない。
前記湿式プレス法での主要な条件は、公知の条件で十分であり、例えば、圧力2〜5kg/cm2で加圧し、30秒程度脱水する。また、湿潤注型法での条件も、公知の条件に基づけば良く、例えば3〜5分の脱水条件で十分である。
上記操作で得られたウェットプリフォームを、乾燥し、更に焼成して、炭化珪素多孔質体とする。典型的には当該成形体は平板状である。乾燥条件としては、成形体中の遊離の水分を除去できればよいが、急激に揮発が生じるとウェットプリフォーム内に気泡が発生し、特性バラツキの要因となってしまう為、80℃以上100℃未満の温度で1時間以上乾燥することが好ましい。温度が低すぎたり時間が短過ぎたりすると十分に水分を除去できず、温度が高すぎると気泡が発生してしまう。時間については長すぎることによる不具合はない。焼成については、シリカゾルを焼結バインダーとしていることから、800℃〜1100℃の温度範囲で焼成することが好ましく、時間は2時間以上15時間以内が好ましい。温度が低すぎたり、時間が短すぎると、十分な強度を発現できないことがあるし、温度が高すぎたり、長すぎたりすると、焼成時の雰囲気の影響を受けて、炭化珪素の酸化が生じたり、シリカが飛散することがあるからである。焼成時の雰囲気は、前記温度範囲ならばどのようなものであっても構わず、大気、酸素、窒素、水素、アルゴン等のガス雰囲気の他、真空であっても良い。
上記操作で得られた炭化珪素多孔質体は、炭化珪素充填率が50〜75体積%であるのが好ましく、55〜70体積%であるのがより好ましい。原料の炭化珪素粉末については、それを構成する粒子が高熱伝導性であることが望まれ、炭化珪素成分が99質量%以上の高純度の、一般的に「緑色」を呈する炭化珪素粉末を用いることが好ましい。成形体の炭化珪素の充填率、従って炭化珪素質複合体中の炭化珪素含有量を高めるためには、炭化珪素粉末は適当な粒度分布を有するものが良く、この目的から2種以上の粉末を適宜配合してもよい。
本発明に係るアルミニウム板の純度は99.0質量%以上の高純度のものが好ましい。純度が99.0質量%未満では、不純物により自由電子の移動による熱伝導が抑制されるため、高温での熱伝導率が低下する傾向がある。
本発明のアルミニウム合金−炭化珪素質複合体の熱膨張係数は、アルミニウム板の厚さ(A)と炭化珪素多孔質体の合計厚さ(B)との比を(A):(B)=1:9〜6:4、好ましくは(A):(B)=2:8〜5:5、より好ましくは1:2〜5:6の範囲に制御することにより低減でき、熱膨張係数を目標値の1.5×10-5/K以下とすることが可能である。
アルミニウム板の厚さと炭化珪素多孔質体の合計厚さとの比が1:9より小さく高純度アルミニウム板が薄くなると、熱膨張係数を低減することが可能で、例えば1.5×10-5/K以下とすることができるが、アルミニウム部分での熱の拡散が不十分となるため、特に高温での熱伝導性が不良となる場合がある。
一方、アルミニウム板の厚さと炭化珪素多孔質体の合計厚さとの比が6:4よりも大きくアルミニウム板が厚くなると、熱膨張係数の値が大きくなり、例えば熱膨張係数を1.5×10-5/K以下にすることが困難となる場合がある。
アルミニウム板の主表面両側に配置される炭化珪素多孔質体の厚みはそれぞれ異なっていてもよい。炭化珪素多孔質体の厚さが異なることにより、冷熱時の反りが制御可能になるという利点が得られる。但し、炭化珪素多孔質体の厚みが極端に変わると、アルミニウム板の片側のみに炭化珪素多孔質体が配置される場合と実質的に同一となり、反りが大きくなり回路基板等が実装できないという不具合が生じ得る。そこで、炭化珪素多孔質体の厚みが異なる場合、厚い方の炭化珪素多孔質体 の厚みをT1、薄い方の炭化珪素多孔質体の厚みをT2とすると、T2/T1=1/5〜5であるのが好ましく、1/2〜2であるのがより好ましく、更により好ましい。
本発明に係るアルミニウム合金−炭化珪素質複合体は、相対密度95%以上が好ましい。相対密度が95%未満の場合、気孔により熱伝導が阻害される場合がある。
本発明のアルミニウム合金−炭化珪素質複合体の製造方法について説明する。
一般に金属-セラミックス質複合体の製造方法には、粉末冶金法、高圧鍛造法等があるが、本発明のアルミニウム合金−炭化珪素質複合体の製造方法としては、高圧下で含浸を行う高圧鍛造法が最も好適な方法である。高圧鍛造法とは、高圧容器内にセラミックス多孔体を配置し、これに金属の溶湯を高圧で含浸させて金属-セラミックス質複合体を得る方法であり、溶湯鍛造法とダイキャスト法がある。
金属製の簡易治具に、プリフォーム/アルミニウム板/プリフォームの順に配置(積層)し、両端に離型板を置いて一つのブロックとする。離型板は、予備加熱やアルミニウム合金含浸時に、プリフォームやアルミニウム合金と反応しない材質であれば特に限定されず、鉄、ステンレス、チタン等の金属板が好適に用いられる。離型性を高めるため、カーボンや窒化ホウ素等を離型板にコーティングしておくことは好ましい。
前記ブロックを500〜700℃で予備加熱後、高圧容器内に1個または2個以上配置し、ブロックの温度低下を防ぐためできるだけ速やかにアルミニウム合金の溶湯を30MPa以上の圧力で加圧し、アルミニウム合金をプリフォームの空隙中に含浸させることで、アルミニウム合金−炭化珪素質複合体のブロックが得られる。当該ブロックは、アルミニウム合金−炭化珪素質複合体/アルミニウム板/アルミニウム合金−炭化珪素質複合体の積層構造を有する。
本発明においては、高圧鍛造法によるアルミニウム合金の含浸を行った後でも、積層して挟まれたアルミニウム板の厚さは変化しないので、積層したアルミニウム板の厚さがそのままアルミニウム合金−炭化珪素質複合体のブロック中のアルミニウム層の厚みとなる。
本発明のアルミニウム合金−炭化珪素質複合体に用いるアルミニウム合金は、含浸時にプリフォームの空隙内に十分に浸透するために融点がなるべく低いことが好ましく、例えば540〜750℃であることが好ましく、540〜650℃であることがより好ましい。このようなアルミニウム合金として、例えばシリコンを7〜25質量%含有したアルミニウム合金があげられる。更にマグネシウムを含有させることは、炭化珪素質粒子と金属部分との結合がより強固になり好ましい。典型的な実施形態においては、当該アルミニウム合金は、シリコンを7〜25質量%、マグネシウムを0.1〜3.0質量%含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物の組成を有する。アルミニウム合金中のアルミニウム、シリコン、マグネシウム以外の金属成分に関しては、極端に特性が変化しない範囲であれば特に制限はなく、例えば、銅等が含まれていてもよい。
次にアルミニウム合金−炭化珪素質複合体のブロックを湿式バンドソーにて切断し、両端に挟んだ離型板を剥がしてアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を取り出す。含浸時のひずみ除去の為に、含浸に用いたアルミニウム合金の溶融温度未満の温度でアニール処理を行うことが好ましい。アニール処理は、350〜550℃の温度で10分以上行うのが一般的である。
本発明のアルミニウム合金−炭化珪素質複合体の用途の一つであるベース板は、放熱フィンと接合して用いることが多いので、その接合部分の形状や反りもまた重要な特性として挙げられる。予めベース板に凸型の反りを付けたものを用いることが多いが、この反りは、通常、所定の形状を有する治具を用い、加熱下、ベース板に圧力をかけることで得られる。しかしこの方法は、反りのばらつきが大きいという課題があった。
本発明者は、アルミニウム板を挟み込む炭化珪素多孔質体の厚さを制御することにより、加熱時に所望の量の反りを導入でき、ばらつきも小さくなることを見出した。
本発明により、25℃から100℃までの熱伝導率の低下比率が15%以下、熱膨張係数が1.5×10-5/K以下、並びに、相対密度が95%以上のアルミニウム合金−炭化珪素質複合体が得られる。また、これを用いた放熱部品、さらにその放熱部品を用いたモジュールは、例えば100℃以上のような高温領域でも放熱特性に優れ、温度変化を受けても変形し難く、その結果、高信頼性が得られるという効果を奏する。
炭化珪素粉末A(太平洋ランダム社製:NG−220、平均粒径(レーザー回折法による体積基準のメジアン径D50を指す。以下同様。):100μm)680g、炭化珪素粉末B(屋久島電工社製:GC−1000F、平均粒径:10μm)320g、及びシリカゾル水溶液(日産化学工業(株)社製スノーテックス;固形分濃度20質量%)200gを投入して5分間混合後、ポリカルボン酸系のシリカゾルゲル化剤(グレースケミカルズ株式会社製;SUPER−200)を60gと水25gを投入して5分間混合した。更に、スチレン−無水マレイン酸共重合体を含むポリアルキレングリコールもしくはその誘導体、水溶性高分子物質及びシリコーン樹脂を含有する有機系添加剤(ビックケミー・ジャパン(株)製;BYK−P104S;有効成分50%)を1.5g投入して5分間混合し、スラリーを得た。湿式プレス用の型に、水中で吸水させた紙を貼り、1秒間吸引後に前記スラリーを投入し、2kg/cm2の圧力でプレスして30秒間吸引脱水した。次いで、加圧を開放後、型に圧搾空気を瞬間的に導入して、成形されたウェットプリフォームを回収した。前記ウェットプリフォームを紙ごと運搬して、平坦な板上にて95℃で3時間乾燥した。前記乾燥後の成形体を、大気雰囲気中にて1030℃で4時間焼成し、プリフォームを得た。なお、運搬に使用した紙は焼成時に消失した。当該プリフォーム中の炭化珪素質成分の体積割合をアルキメデス法で相対密度を測定することにより求めたところ、67体積%であった。また、プリフォームの厚みは1.9mmであった。
得られたプリフォームを溶湯が流入できる湯口がついた185mm×135mm×5mmの鉄製枠にプリフォーム(184mm×134mm×1.9mm)/高純度アルミニウム板(純度99.5質量%、185mm×135mm×0.9mm)/プリフォーム(184mm×134mm×1.9mm)の順に入れ、両面をカーボンコートしたSUS製の離型板(200mm×150mm×1mm)で鉄製枠を挟んで一体としたものを20個積層してブロック体とし、電気炉で600℃に予備加熱した。次に、ブロック体を予め加熱しておいた内径300mmのプレス型内に収め、シリコンを12質量%、マグネシウムを0.5質量%含有し、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金(融点580℃)の溶湯を注ぎ、80MPaの圧力で20分間加圧してプリフォームにアルミニウム合金を含浸させた。アルミニウム合金−炭化珪素質複合体ブロックを室温まで冷却した後、湿式バンドソーにて枠等を切断し、両面に挟んだ離型板を剥がした後に、含浸時のひずみ除去の為に530℃で3時間アニール処理を行い、20個のアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を得た。得られたアルミニウム合金−炭化珪素質複合体の最終的な厚みは5.0mmであった。
得られたアルミニウム合金−炭化珪素質複合体の縁周部4隅に直径8mmの加工穴を設け、更に、端部に付着したアルミニウム合金を除去した。アルミニウム合金−炭化珪素質複合体の表面を、ブラスト表面研磨機を用いてアルミナ砥粒で表面研磨した後(圧力:0.4MPa、搬送速度:1.0m/min)、全面に湿式めっき処理を行った。なお、前記めっきは、下から順に無電解Ni−P(厚み5μm)、無電解Ni−B(厚み2μm)の2層とした。
アルミニウム合金−炭化珪素質複合体から、研削加工により熱膨張係数測定用試験体(20mm×5mm×5mm)、熱伝導率測定用試験体(直径10φmm×5mm)、強度測定用試験体(40mm×4mm×4mm)、相対密度測定用試験体(20mm×5mm×5mm)の試験片を作製した。それぞれの試験片を用いて、25〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃及び100℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;TC−7000)で、25℃の3点曲げ強度を抗折強度計(今田製作所製;SV-301)で測定した。相対密度は、試験体の重量を測定後、算出した密度を、プリフォームの空隙にAlが完全に含浸したときの理論密度で除して求めた。結果を表1に示す。
シリカゾル水溶液(日産化学工業(株)社製スノーテックス;固形分濃度20質量%)の投入量を500g、シリカゾルゲル化剤(グレースケミカルズ(株)社製;SUPER−200)を150g、水を60gとしてプリフォーム中の炭化珪素質成分を60体積%とした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を作製した。
炭化珪素粉末として南興セラミックス社製:#500(平均粒径:28μm)1000gを用いてプリフォーム中の炭化珪素質成分を55体積%とした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を作製した。
プリフォームの合計の厚さを2.6mm(1.3mm×2)、アルミニウム板の厚さを2.0mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を作製した。
厚さが1.4mm及び1.2mmの2種類のプリフォームを用い、更にアルミニウム板の厚さを2.0mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を作製した。
プリフォームの合計の厚さを4.5mm(2.25mm×2)、アルミニウム板の厚さを0.5mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を作製した。
プリフォームの合計の厚さを2.0mm(1.0mm×2)、アルミニウム板の厚さを3.0mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を作製した。
比較例1
プリフォームの厚さを4.6mmとし、アルミニウム板を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を作製した。
比較例2
プリフォームの合計の厚さを0.9mm(0.45mm×2)、アルミニウム板の厚さを3.6mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を作製した。
比較例3
炭化珪素粉末A(太平洋ランダム社製:F600、平均粒径:220μm)680g、炭化珪素粉末B(太平洋ランダム:#800M、平均粒径:16μm)320gを用いた以外は実施例1と同様にしてアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を作製した。
比較例4
炭化珪素粉末として南興セラミックス社製:GC−#2000(平均粒径:6.7μm)1000gを用いてプリフォーム中の炭化珪素質成分を45体積%とした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を作製した。
比較例5
シリカゾル水溶液を15gとし、プリフォーム中の炭化珪素質成分を80体積%とすべく実施例1と同様にプリフォームの作成を試みたが、流動性が確保できずプリフォームの成形が不可能であった。
比較例6
シリカゾル水溶液を750gとしてプリフォーム中の炭化珪素質成分を57体積%とした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を作製した。
Figure 2017056202
実施例1〜7、並びに比較例1〜4及び6において得られたアルミニウム合金−炭化珪素質複合体を窒化アルミニウム回路基板裏面の銅放熱板にはんだ付けし、回路基板上の半導体素子に100Wの電力をかけて、10時間後の半導体素子の温度を測定し、はんだ及び窒化アルミニウム回路基板におけるクラック発生の有無を観察した。結果を表1に併記する。但し、実施例5では、厚さが1.2mmのプリフォーム側に回路基板を接合した。実施例1〜7では、クラックの発生がなく、半導体素子の温度上昇を抑制することが可能であった。一方、比較例1においては、アルミニウム板を使用しなかったため、高温加熱時の熱伝導率の低下が大きく、半導体素子の温度上昇が実施例に比べて大きくなった。比較例2においては、プリフォームの合計厚さに対してアルミニウム板の厚さが大きすぎたことで、熱膨張率が大きく、クラックが発生した。比較例3においては、SiCの平均粒径が大きすぎたことにより、抗折強度が不十分となった。比較例4においては、SiCの平均粒径が小さすぎたことによりパッキング性及び流動性が悪化したことで高充填ができなかった。その結果、熱伝導率が不十分となり、熱膨張係数も高くなったことで、半導体素子の温度上昇が実施例に比べて大きくなり、更に、クラックも発生した。比較例6においては、シリカゾル固形分配合量が多すぎたことから、熱伝導率が不十分となり、熱膨張係数も高くなったことで、半導体素子の温度上昇が実施例に比べて大きくなり、更に、クラックも発生した。

Claims (8)

  1. 平均粒子径が10〜100μmの炭化珪素粉末、当該炭化珪素粉末100質量部に対して固形分濃度で0.5〜10質量部を含有するシリカゾル、更にはゲル化剤及び水を混合してスラリーを調製し、当該スラリーを湿式成形することでウェットプリフォームを得る工程と、
    当該ウェットプリフォームを焼成することで炭化珪素質成分が50〜75体積%であるプリフォームを得る工程と、
    アルミニウム板の厚さ(A)と当該プリフォームの合計厚さ(B)の比(A):(B)=1:9〜6:4の範囲となる条件で、当該プリフォームを当該アルミニウム板の主表面の両側に配置した状態で、高圧鍛造法によりプリフォーム内にアルミニウム合金を含浸させ、アルミニウム合金−炭化珪素質複合体のブロックを得る工程と、
    を含むアルミニウム合金−炭化珪素質複合体の製造方法。
  2. ゲル化剤が、スチレン−無水マレイン酸共重合体を含むポリアルキレングリコール又はその誘導体を含む請求項1に記載の製造方法。
  3. ゲル化剤が更にポリカルボン酸系のゲル化剤を含む請求項2に記載の製造方法。
  4. ゲル化剤は、シリカゾルの固形分量100質量部に対して5質量部以上添加される請求項1〜3の何れか一項に記載の製造方法。
  5. 湿式成形により前記ウェットプリフォームを得る工程は、成形型の内面に湿潤紙を配置して実施される請求項1〜4の何れか一項に記載の製造方法。
  6. 前記湿潤紙を前記ウェットプリフォームのキャリヤーとして使用して前記ウェットプリフォームを運搬することを含む請求項5に記載の製造方法。
  7. アルミニウム板が、純度99.0質量%以上の高純度アルミニウムからなる請求項1〜6の何れか一項に記載の製造方法。
  8. アルミニウム板の主表面の両側に配置する二枚のプリフォームの厚さがそれぞれ異なる請求項1〜7の何れか一項に記載の製造方法。
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