JPWO2015151647A1 - 質量流量の測定方法、当該方法を使用する熱式質量流量計、及び当該熱式質量流量計を使用する熱式質量流量制御装置 - Google Patents

質量流量の測定方法、当該方法を使用する熱式質量流量計、及び当該熱式質量流量計を使用する熱式質量流量制御装置 Download PDF

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Abstract

流体の温度及び圧力を検出するセンサと、前記温度及び圧力に基づいて質量流量を補正する補正手段と、を備えるキャピラリ加熱型熱式質量流量計において、当該流体の質量流量の温度及び圧力に対する変化率を予め求めておき、前記温度及び圧力とこれらの変化率とに基づいて質量流量を補正する。これにより、質量流量を測定しようとする流体の温度及び/又は圧力が変化しても質量流量を正確且つ簡便に測定することができる。

Description

本発明は、熱式質量流量計における質量流量の測定方法、当該方法を使用する熱式質量流量計、及び当該熱式質量流量計を使用する熱式質量流量制御装置に関する。
質量流量計(マスフローメータ)は、例えば半導体の製造プロセスにおいてチャンバ内に供給されるプロセスガスの質量流量を測定することを目的として広く使用されている。加えて、質量流量計は、上記のように単独で使用されるのみならず、流量制御弁及び制御回路等の他の部材と共に質量流量制御装置(マスフローコントローラ)を構成する部品としても使用される。当該技術分野には様々な形式の質量流量計があるが、比較的単純な構成によって流体(例えば、ガス及び液体)の質量流量を正確に測定することができるため、熱式質量流量計が広く使用されている。熱式質量流量計の中では、キャピラリ加熱型熱式質量流量計が特に広く使用されている。
一般的には、キャピラリ加熱型熱式質量流量計は、流体が流れる流路と、流路の途中に設けられたバイパス(「フローエレメント」、「層流素子」と呼称される場合がある)と、バイパスの上流側において流路から分岐してバイパスの下流側において流路に再び合流するセンサチューブ(「キャピラリ」、「毛細管」と呼称される場合がある)と、センサチューブに巻き付けられた一対のセンサワイヤと、センサワイヤ及び他の抵抗素子を含むブリッジ回路を備えるセンサ回路と、によって構成される(例えば、特許文献1を参照)。バイパスは流体に対して流体抵抗を有し、流路に流れる流体のうち一定の割合の流体がセンサチューブに分岐するように構成される。
上記構成において、所定の電圧を印加する(又は所定の電流を流す)ことにより一対のセンサワイヤを発熱させると、センサワイヤから発生した熱がセンサチューブを流れる流体によって奪われる。その結果、センサチューブを流れる流体が加熱される。この際、上流側のセンサワイヤは未だ加熱されていない流体によって熱を奪われる。一方、下流側のセンサワイヤは上流側のセンサワイヤによって既に加熱された流体によって熱を奪われる。このため、上流側のセンサワイヤから奪われる熱は、下流側のセンサワイヤから奪われる熱よりも大きい。その結果、上流側のセンサワイヤの温度が、下流側のセンサワイヤの温度よりも低くなる。このため、上流側のセンサワイヤの電気抵抗値が、下流側のセンサワイヤの電気抵抗値よりも低くなる。このようにして生ずる上流側のセンサワイヤと下流側のセンサワイヤとの温度差に起因する電気抵抗値の差は、センサチューブを流れる流体の質量流量が大きいほど大きくなる。
上記のような上流側のセンサワイヤ及び下流側のセンサワイヤの電気抵抗値の差の流体の質量流量に応じた変化は、例えば、ブリッジ回路等を使用して電位差の変化として検出することができる。更に、この電位差は、例えばオペアンプ等を介して電圧値又は電流値として出力される出力信号として検出することができる。このようにして検出される出力信号に基づいて、センサチューブに流れる流体の質量流量を求めることができ、センサチューブに流れる流体の質量流量に基づいて、流路に流れる流体の質量流量を求めることができる(詳しくは後述する)。
例えば、上記のような構成を有する熱式質量流量計において、ある特定の流体(例えば、窒素ガス(N))を、ある基準となる質量流量(例えば、当該熱式質量流量計の最大流量(フルスケール))で流し、このときの上記出力信号の強度(電圧値又は電流値)である基準信号強度を予め測定しておく。そして、当該熱式質量流量計によって上記特定の流体の質量流量を実測するときには、この実測時における上記出力信号の強度である実測信号強度を測定し、この実測信号強度の上記基準信号強度に対する比率に基づき、上記特定の流体の質量流量を算出する。
しかしながら、現実には、上記特定の流体とは異なる熱的物性(例えば、比熱等)を有する流体の質量流量を測定する場合には、上記のように実測信号強度の基準信号強度に対する比率に基づいて質量流量を正確に算出することが困難となる。そこで、当該技術分野においては、例えば、コンバージョンファクタ(CF:Conversion Factor)と呼称される換算係数によって質量流量を補正することにより、上記特定の流体とは異なる熱的物性を有する流体の質量流量を正確に算出することが知られている。
ところが、現実には、基準信号強度を測定した条件とは異なる温度及び/又は圧力において流体の質量流量を測定する場合がある。理想気体の場合は、基準信号強度を測定した条件とは異なる温度及び/又は圧力においても、その熱的物性が一定である。また、例えば希ガス(Ar等)及び窒素ガス(N)等、理想気体に近い挙動を示す流体についても、その熱的物性が略一定であるので、上記のように実測信号強度の基準信号強度に対する比率に基づいて質量流量を正確に算出することが実質的に可能である。
しかしながら、多くの流体は理想気体とは異なる挙動を示す。具体的には、多くの流体の熱的物性は温度及び/又は圧力によって変化する。従って、このような流体の質量流量を正確に測定するためには、その熱的物性のみならず、その熱的物性の温度及び/又は圧力に対する依存性をも考慮して、質量流量を算出する必要がある。そこで、当該技術分野においては、質量流量を測定しようとする流体の種類、温度、及び圧力を考慮することにより、理想気体とは異なる挙動を示す流体の質量流量を正確に測定しようとする種々の試みが提案されている。
例えば、質量流量を測定しようとするガスの既知の物性値(比熱)をガスの温度に応じて補正した値を用いて正確な質量流量を算出する技術が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。また、質量流量を測定しようとするガスの種類及び設定流量毎に予め定められたガス係数をガスの圧力に応じて補正した値を用いて正確な質量流量を算出する技術が提案されている(例えば、特許文献3及び4を参照)。更に、質量流量を測定しようとするガスの種類、温度、及び圧力毎に予め定められた補正係数を用いて正確な質量流量を算出する技術が提案されている(例えば、特許文献5を参照)。
これらの技術によれば、質量流量を測定しようとするガスの種類のみならず、質量流量を測定するときのガスの温度及び/又は圧力をも考慮して、様々なガスの質量流量をより正確に測定することができる。
特開2009−192220号公報 特開平03−204705号公報 特開2010−091320号公報 特開2010−169657号公報 特開2009−087126号公報
前述したように、当該技術分野においては、質量流量を測定しようとするガスの種類のみならず、質量流量を測定するときのガスの温度及び/又は圧力をも考慮して、様々なガスの質量流量をより正確に測定することができる、種々の技術が提案されている。
しかしながら、これらの従来技術には更に改善されるべき点が残されている。先ず、特許文献2に記載の発明については、質量流量の測定に使用される質量流量計そのものについて求められる補正係数ではなく質量流量を測定しようとするガスの既知の物性値を利用する。そのため、当該質量流量計によって測定される質量流量を十分に高い精度にて補正することが困難な場合がある。また、上記物性値を温度に応じてのみ補正するため、圧力による影響を補正することができない。
特許文献3及び4に記載の発明については、質量流量を測定しようとするガスの種類及び設定流量毎にガス係数を予め定めておく必要があり、膨大な数のガス係数を格納するデータ記憶容量が必要となる。また、上記ガス係数を圧力に応じてのみ補正するため、温度による影響を補正することができない。特許文献5に記載の発明については、質量流量を測定しようとするガスの種類、温度、及び圧力の組み合わせ毎に補正係数を予め定めておく必要があり、やはり膨大な数の補正係数を格納するデータ記憶容量が必要となる。
上記のように、当該技術分野においては、質量流量を測定しようとする流体の温度及び/又は圧力が変化しても質量流量を正確且つ簡便に測定することができる流体の質量流量の測定方法が求められている。従って、本発明は、質量流量を測定しようとする流体の温度及び/又は圧力が変化しても質量流量を正確且つ簡便に測定することができる流体の質量流量の測定方法を提供することを1つの目的とする。
本発明者は、鋭意研究の結果、流体の温度及び圧力を検出するセンサと、前記温度及び圧力に基づいて質量流量を補正する補正手段と、を備えるキャピラリ加熱型熱式質量流量計において、当該流体の温度及び圧力に対する質量流量の変化率を予め求めておき、前記温度及び圧力とこれらの変化率とに基づいて質量流量を補正することにより、当該流体の質量流量を正確且つ簡便に測定することができることを見出した。
即ち、本発明に係る流体の質量流量の測定方法は、
流体の質量流量に対応する出力信号を出力する流量センサを備えるキャピラリ加熱型熱式質量流量計において前記出力信号の強度である実測信号強度Sに基づいて前記流体の実測質量流量Fを算出する質量流量の測定方法であって、
前記質量流量計が、
前記流体の温度Tを検出する温度センサと、
前記流体の圧力Pを検出する圧力センサと、
前記温度T及び前記圧力Pに基づいて前記実測質量流量Fを補正して補正質量流量Fを算出する補正手段と、
を備え、
前記補正手段が備えるデータ記憶装置が、
前記流体の前記実測質量流量Fの温度に対する偏微分係数である温度係数αと、
前記流体の前記実測質量流量Fの圧力に対する偏微分係数である圧力係数βと、
を予め格納しており、
前記補正手段が、
当該質量流量計の校正時の温度Tと前記温度Tとの偏差である温度偏差ΔT、当該質量流量計の校正時の圧力Pと前記圧力Pとの偏差である圧力偏差ΔP、前記温度係数α、及び前記圧力係数βに基づいて、以下の式(4)によって前記実測質量流量Fを補正することにより前記補正質量流量Fを算出する、
質量流量の測定方法である。
Figure 2015151647
本発明に係る質量流量の測定方法によれば、質量流量を測定しようとする流体の温度及び/又は圧力が変化しても質量流量を正確且つ簡便に測定することができる。
本発明の1つの実施態様に係る質量流量の測定方法が適用される熱式質量流量計を含む熱式質量流量制御装置の構成の一例を示す模式図である。 本発明の1つの実施態様に係る質量流量の測定方法が適用される熱式質量流量計が備えるセンサ回路の構成の一例を示す模式図である。 実施例において種々の流体の実測質量流量の温度及び圧力に対する変化率を調べる実験に用いられた実験装置の構成を示す模式図である。
前述したように、質量流量を測定しようとする流体の温度及び/又は圧力が変化しても質量流量を正確且つ簡便に測定することができる流体の質量流量の測定方法が求められている。そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、流体の温度及び圧力を検出するセンサと、前記温度及び圧力に基づいて質量流量を補正する補正手段と、を備えるキャピラリ加熱型熱式質量流量計において、当該流体の温度及び圧力に対する質量流量の変化率を予め求めておき、前記温度及び圧力とこれらの変化率とに基づいて質量流量を補正することにより、当該流体の質量流量をより正確に測定することができることを見出し、本発明を想到するに至ったのである。
具体的には、従来技術に係る質量流量の測定方法においては、質量流量を測定しようとする流体の温度又は圧力の何れか一方による影響しか考慮しなかったり、流体の種類、温度、及び圧力の膨大な数の組み合わせ毎に補正係数を予め定めておいたりする。これに対し、本発明に係る質量流量の測定方法においては、質量流量を測定しようとする流体の温度及び圧力に対する質量流量の変化率(温度係数及び圧力係数)を予め求めておき、測定時及び校正時における温度及び圧力の偏差と温度係数及び圧力係数とを使用する計算式によって質量流量を算出する。
即ち、本発明の第1の実施態様は、
流体の質量流量に対応する出力信号を出力する流量センサを備えるキャピラリ加熱型熱式質量流量計において前記出力信号の強度である実測信号強度Sに基づいて前記流体の実測質量流量Fを算出する質量流量の測定方法であって、
前記質量流量計が、
前記流体の温度Tを検出する温度センサと、
前記流体の圧力Pを検出する圧力センサと、
前記温度T及び前記圧力Pに基づいて前記実測質量流量Fを補正して補正質量流量Fを算出する補正手段と、
を備え、
前記補正手段が備えるデータ記憶装置が、
前記流体の前記実測質量流量Fの温度に対する偏微分係数である温度係数αと、
前記流体の前記実測質量流量Fの圧力に対する偏微分係数である圧力係数βと、
を予め格納しており、
前記補正手段が、
当該質量流量計の校正時の温度Tと前記温度Tとの偏差である温度偏差ΔT、当該質量流量計の校正時の圧力Pと前記圧力Pとの偏差である圧力偏差ΔP、前記温度係数α、及び前記圧力係数βに基づいて、以下の式(4)によって前記実測質量流量Fを補正することにより前記補正質量流量Fを算出する、
質量流量の測定方法である。
Figure 2015151647
上記のように、本実施態様に係る質量流量の測定方法が適用される質量流量計は、当該技術分野において周知の構成を有する一般的なキャピラリ加熱型熱式質量流量計である。具体的には、本実施態様に係る質量流量の測定方法は、以下のような構成を有する熱式質量流量計に適用することができる。
流体が流れる流路と、
前記流路の途中に設けられたバイパスと、
前記バイパスの上流側において前記流路から分岐して前記バイパスの下流側において前記流路に再び合流するセンサチューブ及び前記センサチューブに流れる流体に対して熱伝導可能に配設された一対のセンサワイヤを含む流量センサと、
前記センサワイヤから発熱させるための入力信号を前記センサワイヤに供給する電源と、
前記センサワイヤを含むブリッジ回路を備えるセンサ回路と、
を備えるキャピラリ加熱型熱式質量流量計。
ここで、本実施態様に係る質量流量の測定方法が適用される熱式質量流量計の構成の一例につき、添付図面を参照しながら、以下に詳しく説明する。図1は、前述したように、本発明の1つの実施態様に係る質量流量の測定方法が適用される熱式質量流量計を含む熱式質量流量制御装置の構成の一例を示す模式図である。更に、図2は、前述したように、本発明の1つの実施態様に係る質量流量の測定方法が適用される熱式質量流量計が備えるセンサ回路の構成の一例を示す模式図である。
図1に示されているように、熱式質量流量制御装置100は、熱式質量流量計110と、流量調節手段120と、制御手段130(後述する「補正手段」及び「制御手段」に相当する)と、を含む。熱式質量流量計110は、流体が流れる流路114と、流路114の途中に設けられたバイパス115と、バイパス115の上流側において流路114から分岐してバイパス115の下流側において流路114に再び合流するセンサチューブ116と、センサチューブ116に巻き付けられた一対のセンサワイヤ117及び118と、図2に示されているようにセンサワイヤ117及び118並びに他の抵抗素子117′及び118′を含むブリッジ回路を備えるセンサ回路111と、によって構成される。バイパス115は流体に対して流体抵抗を有し、流路114を流れる流体のうち一定の割合の流体がセンサチューブ116に分岐するように構成される。尚、図1に示されている構成においては、一対のセンサワイヤ117及び118がセンサチューブ116に巻き付けられている。しかしながら、センサワイヤから発生した熱がセンサチューブに流れる流体に伝導することが可能である限り、センサワイヤの具体的な配置は特に限定されない。
上記構成において、電源113からセンサワイヤ117及び118に所定の入力信号(電気信号)を供給(入力)するとジュール熱が発生し、この熱はセンサチューブ116を流れる流体によって奪われる。この際、上流側のセンサワイヤ117は未だ加熱されていない流体によって熱を奪われ、下流側のセンサワイヤ118は上流側のセンサワイヤ117によって既に加熱された流体によって熱を奪われる。このため、上流側のセンサワイヤ117の温度よりも下流側のセンサワイヤ118の温度の方が高くなる。その結果、上流側のセンサワイヤ117の電気抵抗よりも下流側のセンサワイヤ118の電気抵抗の方が高くなる。尚、発熱を目的としてセンサワイヤに供給(入力)される入力信号(電気信号)は、電圧及び電流の何れに基づいて制御されてもよい。
このようにして生ずる上流側のセンサワイヤ117と下流側のセンサワイヤ118との温度差に起因する電気抵抗値の差(比)は、センサチューブ116を流れる流体の質量流量に応じて変化する。その結果、センサ回路111の点Sと点Cとの間の電位差もまたセンサチューブ116を流れる流体の質量流量に応じて変化する。このような電位差の変化を、例えばオペアンプ119を介して検出することにより、センサチューブ116に流れる流体の質量流量を測定することができる。更に、このようにして測定されるセンサチューブ116に流れる流体の質量流量に基づいて、流路114に流れる流体の質量流量を求めることができる。
図2に示されているセンサ回路においては、それぞれ300Ωの抵抗値を有するセンサワイヤ117及び118が点Sにおいて直列に接続され、それぞれ20kΩの抵抗値を有する他の抵抗素子117′及び118′が点Cにおいて直列に接続されている。更に、上記のようにそれぞれ直列に接続されたセンサワイヤ117及び118の両端と他の抵抗素子117′及び118′の両端とが、それぞれ点P及び点Nにおいて接続されている。即ち、センサワイヤ117及び118と抵抗素子117′及び118′とは所謂「ホイートストンブリッジ」を構成している。
質量流量の測定時には、電源113から上記点Pと点Nとの間に所定の入力信号(電気信号)が供給(入力)され、センサワイヤ117及び118からジュール熱が発生する。更に、点S及び点Cはそれぞれオペアンプ119の非反転入力(+)及び反転入力(−)に接続され、点Sと点Cとの間の電位差に応じた信号がオペアンプ119からの出力信号として得られる。このようにして得られるオペアンプ119からの出力信号に基づいて、センサチューブ116に流れる流体の質量流量を測定(算出)することができる。但し、他の抵抗素子117′及び118′の電気抵抗がセンサワイヤ117及び118からの発熱の影響を受けると、センサチューブ116に流れる流体の質量流量を正確に測定することができない。従って、他の抵抗素子117′及び118′は、センサワイヤ117及び118からの発熱の影響を実質的に受けない位置及び/又は状態に配置される。
上記のようなセンサワイヤ117及び118への入力信号の供給及びセンサ回路111からの出力信号の検出に関する制御は、例えば、熱式質量流量計110が備える制御手段130によって実行することができる。このような制御手段130は、例えば、マイクロコンピュータ等の電子制御装置として実装することができる。このような電子制御装置の詳細については当業者に周知であるので、本明細書における説明は割愛する。
尚、上述したように、図1は、本発明の1つの実施態様に係る質量流量の測定方法が適用される熱式質量流量計を含む熱式質量流量制御装置の構成の一例を示す模式図である。従って、図1には、上述したように、熱式質量流量計110の他に、流量調節手段120、温度センサ131、及び圧力センサ132等も描かれている。これらについては、本発明に係る熱式質量流量計及び熱式質量流量制御装置としての実施態様についての説明において後に詳しく説明するので、ここでは説明しない。
センサチューブの材料としては優れた耐食性及び機械的強度を有する材料が望ましく、一般的にはステンレス鋼等の金属(即ち、導体)が使用される。一方、センサワイヤの材料としては当然のことながら導体が使用される。具体的には、センサチューブの材料としては、例えば日本工業規格(JIS)によって定められるSUS316を始めとするステンレス鋼材等、優れた耐食性及び機械的強度を有する材料が使用される。一方、センサワイヤの材料としては、例えばエナメル線等、所望の電気抵抗値を有する導体(例えば、銅等の金属)が使用される。即ち、一般的には、センサチューブ及びセンサワイヤの材料は何れも導体である。
従って、流量センサにおいては、センサチューブとセンサワイヤとの導通及びセンサワイヤ同士の導通の防止、並びにセンサチューブへのセンサワイヤの固定等を目的として、センサチューブのセンサワイヤが巻き付けられた部分及びセンサワイヤの周囲に例えば樹脂等の絶縁材料によって形成される被覆層が配設されるのが一般的である。加えて、流量センサによる質量流量測定のためには、上述したように、通電によってセンサワイヤから発生する熱がセンサチューブ及びセンサチューブに流れる流体によって奪われる必要がある。従って、少なくともセンサワイヤとセンサチューブとの間に介在する被覆層は、良好な熱伝導性を備えることが望ましい。
以上のように、被覆層を構成する材料には、電気絶縁体としての機能、接着剤としての機能、及び熱伝導体としての機能が必要とされる。更に、センサチューブ及びセンサワイヤの表面に薄く形成することができ、表面に被覆層が形成されたセンサワイヤをセンサチューブに巻き付けても亀裂が生じないような十分な可撓性を有する材料が好ましい。このような観点から、従来技術に係る流量センサの被覆層の材料としては、ポリアミドイミド又はポリイミドが好適に用いられる。特に、ポリイミドは極めて高い耐熱性を有するので、より好ましい。
尚、以上説明してきた熱式質量流量計の構成はあくまでも一例に過ぎず、本実施態様に係る質量流量の測定方法が適用される熱式質量流量計の構成は上記において説明された構成に限定されない。
本実施態様に係る質量流量の測定方法は、上述したように、流体の質量流量に対応する出力信号Sを出力する流量センサを備えるキャピラリ加熱型熱式質量流量計において前記出力信号Sに基づいて前記流体の実測質量流量Fを算出する質量流量の測定方法である。ここで、本発明についての理解を容易にすることを目的として、熱式質量流量計における従来技術に係る質量流量の測定方法について、以下に詳しく説明する。
一般的に、熱式質量流量計は、所定の校正時の温度(T)及び校正時の圧力(P)において基準流量(F)にて基準流体(例えば窒素ガス(N)等の校正ガス等)を当該熱式質量流量計に流し、そのときの出力信号の強度(例えば、電圧値及び電流値等)を、例えば、熱式質量流量計が備えるデータ記憶装置(例えば不揮発性メモリ等)等に基準信号強度(S)として格納しておく。このとき、例えばオペアンプ等のゲインを調整して、所定の校正時の温度T及び校正時の圧力Pにおいて所定の基準流量Fに対応する基準出力信号を所望の強度Sにて得られるように構成してもよい。例えば、校正時の温度T及び校正時の圧力Pをそれぞれ22℃及び100kPaに設定した状態において、1slm(standard litter per minut)の基準流量Fにて基準流体としての窒素ガス(N)を当該熱式質量流量計に流したときの基準信号強度Sが5.000Vの電圧として得られるようにオペアンプのゲインを調整することができる。
出力信号の強度が流体の質量流量に比例する場合、校正時の温度T及び校正時の圧力Pにおいて任意の流量にて基準流体(窒素ガス)を当該熱式質量流量計に流したときに実測される出力信号の強度(実測信号強度)がSであるとすると、このときの流体(基準流体である窒素ガス)の実測質量流量Fは以下の式(1)によって表される。
Figure 2015151647
ここで、上記測定時における実測信号強度Sの基準信号強度Sに対する比率(例えば、実測信号電圧Sの基準信号電圧S(5.000V)に対する比率)(S/S)をf(%)と規定すると、上記式(1)は以下の式(2)によって表される。このように、実測信号強度Sの代わりに、基準信号強度Sによって規格化された値f(%)を使用してデータの処理を行うことにより、基準流量F及び基準信号強度Sの絶対値の大きさに左右されない一般化された議論が可能となるので、便利である。
Figure 2015151647
上記のように、校正時の温度T及び校正時の圧力Pにおいて基準流体を当該熱式質量流量計に流したときの当該基準流体の質量流量は、当該測定時における実測信号強度Sから算出することができる。尚、質量流量計の校正に使用する基準流体の種類は窒素ガス(N)に限られず、想定される温度及び圧力の範囲において安定な熱的物性を有する流体であれば如何なる流体を使用してもよい。また、基準流体の基準流量(F)及びこれに対応する基準信号強度(S)もまた、上記例示に限定されず、想定される質量流量の範囲及び出力信号の処理を行う補正手段の仕様等に応じた任意の値に適宜設定することができる。
ところで、前述したように、熱式質量流量計の実際の用途においては、基準流体とは異なる種類の流体の質量流量を測定する場合がある。基準流体とは異なる熱的物性(例えば、比熱等)を有する流体の質量流量を熱的質量流量計によって正確に算出するためには、実測される質量流量を当該流体の熱的物性に応じて補正することが必要となる。そこで、当該技術分野においては、前述したように、流体の種類毎に予め求められた固有の補正係数であるコンバージョンファクタ(CF)によって質量流量を補正することにより、基準流体とは異なる熱的物性を有する流体の質量流量を正確に算出することが知られている。このようにCFによって質量流量を補正する技術を上述した式(1)及び(2)に適用すると、以下の式(3)が得られる。
Figure 2015151647
ところが、現実には、基準信号強度を測定した条件とは異なる温度及び/又は圧力において流体の質量流量を測定する場合がある。理想気体の場合は、基準信号強度を測定した条件とは異なる温度及び/又は圧力においても、その熱的物性が一定である。また、例えば希ガス(Ar等)及び窒素ガス(N)等、理想気体に近い挙動を示す流体についても、その熱的物性が略一定であるので、上記のように実測信号強度の基準信号強度に対する比率に基づいて質量流量を正確に算出することが実質的に可能である。
しかしながら、多くの流体は理想気体とは異なる挙動を示す。具体的には、多くの流体の熱的物性(例えば比熱等)は温度及び/又は圧力によって変化する。従って、質量流量を測定しようとする流体が基準流体と同じ種類であっても(即ち、両者が同じ熱的物性を有していても)、当該流体の温度及び/又は圧力が、当該基準流体によって熱式質量流量計を校正したときの温度及び/又は圧力(即ち、校正時の温度T及び/又は校正時の圧力P)と異なる場合、当該流体は校正時とは異なる熱的物性を有する。
上記のような熱的物性の変化は質量流量の測定精度に影響する。例えば、上記のような流体の温度変化による実測質量流量Fの測定誤差は10℃当たり最大で2%程度、圧力変化による実測質量流量Fの測定誤差は100kPa当たり最大で1%程度にも及ぶ場合がある。これらの変動因子(流体の温度及び圧力)は質量流量に対して互いに独立して作用するため、この場合における質量流量の実測時の誤差は最大で3%程度にも及ぶ可能性がある。このような熱的物性の変動し易さ(温度及び/又は圧力への依存性)は流体の種類によって異なる。
そこで、当該技術分野においては、前述したように、質量流量を測定しようとする流体の種類、温度、及び圧力を考慮することにより、理想気体とは異なる挙動を示す流体の質量流量を正確に測定しようとする種々の試みが提案されている。しかしながら、これらの従来技術には更に改善されるべき点が残されていることは既に述べた通りである。
一方、冒頭で述べたように、質量流量計は、例えば半導体の製造プロセスにおいてチャンバ内に供給されるプロセスガスの質量流量を測定することを目的として広く使用されている。半導体製造技術分野においては、半導体デバイスの複雑化及び微細化に伴い、プロセスガスの流量制御において要求される精度は益々高まっている。具体的には、例えば、これでの質量流量制御装置に対して要求される制御精度が±1.0%であったのに対し、昨今では±0.5%の制御精度が求められるようになっている。このような要求に対応するには、流量制御の対象となる流体の温度及び/又は圧力が変動しても、当該変動に起因する質量流量の実測値の誤差を低減し、高い精度で測定された実測値に基づいて当該流体の質量流量を目標値に近付けるように制御する技術が必要である。
そこで、本実施態様に係る質量流量の測定方法においては、上述したように、質量流量を測定しようとする流体の実測質量流量Fの温度に対する偏微分係数である温度係数αと、当該流体の実測質量流量Fの圧力に対する偏微分係数である圧力係数βとを予め特定しておく。そして、当該流体の実測質量流量Fの実測時に、当該質量流量計の校正時の温度Tと実測時の流体の温度Tとの偏差である温度偏差ΔT、当該質量流量計の校正時の圧力Pと実測時の流体の圧力Pとの偏差である圧力偏差ΔP、上記温度係数α、及び上記圧力係数βに基づいて、上述したような数式を使用して実測質量流量Fを補正して、より正確な補正質量流量Fを算出する。
従って、本実施態様に係る質量流量の測定方法が適用される質量流量計は、
前記流体の温度Tを検出する温度センサと、
前記流体の圧力Pを検出する圧力センサと、
前記温度T及び前記圧力Pに基づいて前記実測質量流量Fを補正して補正質量流量Fを算出する補正手段と、
を備える。
上記温度センサは、流路に流れる流体の温度Tを検出することが可能である限り、特に限定されない。上記温度センサの具体例としては、例えば熱電対式温度センサ及びサーミスタ式温度センサ等を挙げることができる。上記圧力センサは、流路に流れる流体の圧力Pを検出することが可能である限り、特に限定されない。上記圧力センサの具体例としては、例えば静電容量型圧力センサ及びゲージ式圧力センサ等を挙げることができる。尚、図1に示されている熱式質量流量制御装置においては、温度センサ131及び圧力センサ132は何れも流路114のセンサチューブ116が分岐する分岐点よりも上流側に配設されている。しかしながら、本実施態様に係る熱式質量流量計における温度センサ及び圧力センサが配設される位置及び様式は、流路に流れる流体の温度T及び圧力Pを検出することが可能である限り、特に限定されない。
上記補正手段は、上記温度センサによって検出される温度T及び上記圧力センサによって検出される圧力Pに基づいて実測質量流量Fを補正して補正質量流量Fを算出する。このような演算処理は、例えば、熱式質量流量計に組み込まれたマイクロコンピュータ等の電子制御装置によって実行することができる。尚、前述した図1に示されている熱式質量流量計110においては、上記補正手段が制御手段130に含まれている。
従来技術に係る質量流量の測定方法によれば、前述したように、質量流量を測定しようとする流体の温度又は圧力の何れか一方による影響しか考慮しないため、質量流量の測定精度が不十分となる虞があった。加えて、流体の種類、温度、及び圧力の膨大な数の組み合わせ毎に補正係数を予め定めておく必要があるため、これら膨大な数の補正係数に関連するデータを格納するデータ記憶装置の容量(データ記憶容量)を大きくする必要があったり、これらの補正係数を用いて質量流量の実測値を補正するときの演算負荷が高まったりする虞があった。
上記に対し、本実施態様に係る質量流量の測定方法においては、質量流量を測定しようとする流体の温度及び圧力に対する質量流量の変化率(温度係数及び圧力係数)を予め求めておき、測定時及び校正時における温度及び圧力の偏差と温度係数及び圧力係数とを使用する計算式によって質量流量を算出する。
具体的には、前記補正手段が備えるデータ記憶装置が、
前記流体の前記実測質量流量Fの温度に対する偏微分係数である温度係数αと、
前記流体の前記実測質量流量Fの圧力に対する偏微分係数である圧力係数βと、
を予め格納している。
上記温度係数αは、例えば、対象となる流体を一定の流量にて当該熱式質量流量計に流している状態において流体の圧力Pは一定に維持しつつ流体の温度Tを変化させたときの当該熱式質量流量計によって測定される実測質量流量Fの温度Tに対する変化率(∂F/∂T)を求めることによって特定することができる。或いは、異なる複数の圧力Pのそれぞれにおいて上記のようにして実測質量流量Fの温度Tに対する変化率(∂F/∂T)を求め、得られた複数の当該変化率(∂F/∂T)を平均することによって温度係数αを特定してもよい。
上記圧力係数βは、例えば、対象となる流体を一定の流量にて当該熱式質量流量計に流している状態において流体の温度Tは一定に維持しつつ流体の圧力Pを変化させたときの当該熱式質量流量計によって測定される実測質量流量Fの圧力Pに対する変化率(∂F/∂P)を求めることによって特定することができる。或いは、異なる複数の温度Tのそれぞれにおいて上記のようにして実測質量流量Fの圧力Pに対する変化率(∂F/∂P)を求め、得られた複数の当該変化率(∂F/∂P)を平均することによって圧力係数βを特定してもよい。
上記のようにして特定される温度係数α及び圧力係数βは、上記補正手段が備えるデータ記憶装置(例えば不揮発性メモリ等)等に格納される。これにより、対象となる流体の質量流量を実測するときに、当該データ記憶装置に格納された温度係数α及び圧力係数βを参照して(読み出して)、これらの係数によって補正された、より正確な質量流量の算出に利用することができる。
尚、「補正手段が備えるデータ記憶装置」とは、補正手段を構成する電子制御装置内に物理的に含まれるデータ記憶装置であってもよく、或いは補正手段を構成する電子制御装置内には物理的に含まれないデータ記憶装置であってもよい。後者の場合、「補正手段が備えるデータ記憶装置」は、補正手段を構成する電子制御装置とは異なる電子制御装置内に物理的に含まれていてもよく、或いは補正手段を構成する電子制御装置外に単独で配設されたデータ記憶装置であってもよい
また、当該熱式質量流量計によって複数種の流体の質量流量を測定することが想定される場合は、複数種の流体のそれぞれに対応する温度係数α及び圧力係数βをデータ記憶装置に格納しておき、質量流量を測定しようとする流体に対応する温度係数α及び圧力係数βをデータ記憶装置から読み出して、これらの係数によって補正された、より正しい質量流量の算出に利用することができる。
具体的には、前記補正手段が、
当該質量流量計の校正時の温度Tと前記温度Tとの偏差である温度偏差ΔT(=T−T)、当該質量流量計の校正時の圧力Pと前記圧力Pとの偏差である圧力偏差ΔP(=P−P)、前記温度係数α、及び前記圧力係数βに基づいて、以下の式(4)によって前記実測質量流量Fを補正することにより前記補正質量流量Fを算出する。
Figure 2015151647
上式中、実測質量流量Fは、例えば、前述した式(1)又は(2)の何れかによって、当該熱式質量流量計に流したときに実測される出力信号の強度(実測信号強度)S又は実測信号電圧Sの基準信号電圧Sに対する比率)(S/S)に基づいて算出することができる。また、質量流量を測定しようとする流体が基準流体とは異なる種類の流体である場合は、前述した式(3)によって実測質量流量Fを算出することができる。
このように、本実施態様に係る質量流量の測定方法においては、質量流量を測定しようとする流体毎に温度係数α及び圧力係数βを予め特定しておき、質量流量の実測時と熱式質量流量計の校正時との間での流体の温度偏差ΔT及び圧力偏差ΔPと共に、上記式(4)に代入して、実測質量流量Fを補正することにより、より正確な補正質量流量Fを簡便に算出することができる。
その結果、本実施態様に係る質量流量の測定方法によれば、従来技術に係る質量流量の測定方法のように質量流量計におけるデータ記憶容量及び/又は演算負荷の大幅な増大を伴うこと無く、流体の種類、温度、及び圧力の全てに応じて、正確な質量流量を測定することができる。
ところで、温度係数αは実測質量流量Fの温度に対する偏微分係数であり、圧力係数βは実測質量流量Fの圧力に対する偏微分係数である。これにより、本実施態様に係る質量流量の測定方法においては、熱式質量流量計の校正時の温度T及び/又は校正時の圧力Pからの温度及び/又は圧力の変化に応じて実測質量流量Fを補正して、より正確な補正質量流量Fを算出することができる。
しかしながら、多種多様な流体の中には、温度係数αが一定ではなく、流体の圧力の変化に応じて温度係数αが変化する流体が少なからず存在する。また、圧力係数βが一定ではなく、流体の温度の変化に応じて圧力係数βが変化する流体もまた少なからず存在する。このような流体については、特に温度係数αの特定時の圧力と質量流量の実測時の圧力との乖離及び/又は圧力係数βの特定時の温度と質量流量の実測時の温度との乖離が大きい場合に、上述した式(4)によって算出される補正質量流量Fの精度が低下する懸念がある。
上記のような場合は、実測質量流量Fを補正して補正質量流量Fを算出するときに、温度係数αの圧力Pに対する変化率(∂α/∂P)及び/又は圧力係数βの温度Tに対する変化率(∂β/∂T)をも考慮に入れることにより、より正確な補正質量流量Fを算出することができる。
即ち、本発明の第2の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る質量流量の測定方法であって、
前記補正手段が備えるデータ記憶装置が、前記温度係数α及び圧力係数βに加えて、
前記温度係数αの圧力に対する偏微分係数である圧力係数α′と、
前記圧力係数βの温度に対する偏微分係数である温度係数β′と、
を予め格納しており、
前記補正手段が、
前記温度偏差ΔT、前記圧力偏差ΔP、前記温度係数α、前記圧力係数β、前記圧力係数α′、及び前記温度係数β′に基づいて、以下の式(5)によって前記実測質量流量Fを補正することにより前記補正質量流量Fを算出する、
質量流量の測定方法である。
Figure 2015151647
上記温度係数αは、以下のようにして特定することができる。例えば、異なる複数の圧力Pのそれぞれにおいて、対象となる流体を一定の流量にて当該熱式質量流量計に流している状態において、流体の圧力Pは一定に維持しつつ流体の温度Tを変化させる、このときの当該熱式質量流量計によって測定される実測質量流量Fの温度Tに対する変化率(∂F/∂T)を求める。このようにして得られた複数の当該変化率(∂F/∂T)のうち何れかを温度係数αとしてもよく、或いは得られた複数の当該変化率(∂F/∂T)を平均することによって温度係数αを特定してもよい。
更に、上記圧力係数α′は、上記のようにして得られた実測質量流量Fの温度Tに対する変化率(∂F/∂T)(即ち、温度係数α)と対応する複数の圧力Pとの対応関係から、温度係数αの圧力Pに対する変化率(∂α/∂P)を求めることによって特定することができる。
上記圧力係数βは、以下のようにして特定することができる。例えば、異なる複数の温度Tのそれぞれにおいて、対象となる流体を一定の流量にて当該熱式質量流量計に流している状態において、流体の温度Tは一定に維持しつつ流体の圧力Pを変化させる。このときの当該熱式質量流量計によって測定される実測質量流量Fの圧力Pに対する変化率(∂F/∂P)を求める。このようにして得られた複数の当該変化率(∂F/∂P)のうち何れかを圧力係数βとしてもよく、或いは得られた複数の当該変化率(∂F/∂P)を平均することによって圧力係数βを特定してもよい。
更に、上記温度係数β′は、上記のようにして得られた実測質量流量Fの圧力Pに対する変化率(∂F/∂P)(即ち、圧力係数β)と対応する複数の温度Tとの対応関係から、圧力係数βの温度Tに対する変化率(∂β/∂T)を求めることによって特定することができる。
上記のようにして特定される温度係数α、圧力係数β、圧力係数α′、及び温度係数β′は、上記補正手段が備えるデータ記憶装置(例えば不揮発性メモリ等)等に格納される。これにより、対象となる流体の質量流量を実測するときに、当該データ記憶装置に格納された温度係数α、圧力係数β、圧力係数α′、及び温度係数β′を参照して(読み出して)、これらの係数によって補正された、より正しい質量流量の算出に利用することができる。
このように、本実施態様に係る質量流量の測定方法においては、質量流量を測定しようとする流体毎に温度係数α、圧力係数β、圧力係数α′、及び温度係数β′を予め特定しておき、質量流量の実測時と熱式質量流量計の校正時との間での流体の温度偏差ΔT及び圧力偏差ΔPと共に、上記式(5)に代入して、実測質量流量Fを補正することにより、より正確な補正質量流量Fを簡便に算出することができる。
その結果、本実施態様に係る質量流量の測定方法によれば、上記のように温度係数α及び/又は圧力係数βが流体の圧力及び/又は圧力の変化に応じて変化する流体についても、従来技術に係る質量流量の測定方法のように質量流量計におけるデータ記憶容量及び/又は演算負荷の大幅な増大を伴うこと無く、流体の種類、温度、及び圧力の全てに応じて、より一層正確な質量流量を測定することができる。
ところで、冒頭で述べたように、本発明は、質量流量の測定方法のみならず、当該方法を使用する熱式質量流量計にも関する。
即ち、本発明の第3の実施態様は、
流体の質量流量に対応する出力信号を出力する流量センサを備え、前記出力信号の強度である実測信号強度Sに基づいて前記流体の実測質量流量Fを計測するキャピラリ加熱型熱式質量流量計であって、
前記質量流量計が、
前記流体の温度Tを検出する温度センサと、
前記流体の圧力Pを検出する圧力センサと、
前記温度T及び前記圧力Pに基づいて前記実測質量流量Fを補正して補正質量流量Fを算出する補正手段と、
を更に備え、
前記補正手段が備えるデータ記憶装置が、
前記流体の前記実測質量流量Fの温度に対する偏微分係数である温度係数αと、
前記流体の前記実測質量流量Fの圧力に対する偏微分係数である圧力係数βと、
を予め格納しており、
前記補正手段が、
当該質量流量計の校正時の温度Tと前記温度Tとの偏差である温度偏差ΔT、当該質量流量計の校正時の圧力Pと前記圧力Pとの偏差である圧力偏差ΔP、前記温度係数α、及び前記圧力係数βに基づいて、以下の式(4)によって前記実測質量流量Fを補正することにより前記補正質量流量Fを算出する、
熱式質量流量計である。
Figure 2015151647
上記のように、本実施態様に係る熱式質量流量計は、本発明の前記第1の実施態様に係る質量流量の測定方法が適用される熱式質量流量計である。本発明の前記第1の実施態様に係る質量流量の測定方法が適用される熱式質量流量計の構成については、図1及び図2を参照しながら、本発明の前記第1の実施態様に係る質量流量の測定方法の説明において既に述べたので、ここでは繰り返して説明しない。また、本実施態様に係る熱式質量流量計において実行される本発明の前記第1の実施態様に係る質量流量の測定方法についても既に述べたので、本発明の前記第1の実施態様に係る質量流量の測定方法の詳細について、ここで繰り返して説明はしない。
本発明の前記第1の実施態様に係る質量流量の測定方法についての、これまでの説明から明らかであるように、本実施態様に係る熱式質量流量計においては、質量流量を測定しようとする流体毎にデータ記憶装置に格納された温度係数α及び圧力係数βが、質量流量の実測時と当該熱式質量流量計の校正時との間での流体の温度偏差ΔT及び圧力偏差ΔPと共に、上記式(4)に代入され、実測質量流量Fが補正されて、より正確な補正質量流量Fが簡便に算出される。
その結果、本実施態様に係る熱式質量流量計によれば、従来技術に係る質量流量の測定方法を使用する熱式質量流量計のようにデータ記憶容量及び/又は演算負荷の大幅な増大を伴うこと無く、流体の種類、温度、及び圧力の全てに応じて、正確な質量流量を測定することができる。
しかしながら、前述したように、多種多様な流体の中には、温度係数αが一定ではなく、流体の圧力の変化に応じて温度係数αが変化する流体が少なからず存在する。また、圧力係数βが一定ではなく、流体の温度の変化に応じて圧力係数βが変化する流体もまた少なからず存在する。このような流体については、特に温度係数αの特定時の圧力と質量流量の実測時の圧力との乖離及び/又は圧力係数βの特定時の温度と質量流量の実測時の温度との乖離が大きい場合に、上述した式(4)によって算出される補正質量流量Fの精度が低下する懸念がある。
上記のような場合は、実測質量流量Fを補正して補正質量流量Fを算出するときに、温度係数αの圧力Pに対する変化率(∂α/∂P)及び/又は圧力係数βの温度Tに対する変化率(∂β/∂T)をも考慮に入れることにより、より正確な補正質量流量Fを算出することができる。即ち、本発明の第2の実施態様に係る測定方法が適用される熱式質量流量計によれば、上記のように温度係数α及び/又は圧力係数βが流体の圧力及び/又は圧力の変化に応じて変化する流体についても、より正確な質量流量を測定することができる。
従って、本発明の第4の実施態様は、
本発明の前記第3の実施態様に係る熱式質量流量計であって、
前記補正手段が備えるデータ記憶装置が、前記温度係数α及び圧力係数βに加えて、
前記温度係数αの圧力に対する偏微分係数である圧力係数α′と、
前記圧力係数βの温度に対する偏微分係数である温度係数β′と、
を予め格納しており、
前記補正手段が、
前記温度偏差ΔT、前記圧力偏差ΔP、前記温度係数α、前記圧力係数β、前記圧力係数α′、及び前記温度係数β′に基づいて、以下の式(5)によって前記実測質量流量Fを補正することにより前記補正質量流量Fを算出する、
熱式質量流量計である。
Figure 2015151647
本実施態様に係る熱式質量流量計によれば、上記のように温度係数α及び/又は圧力係数βが流体の圧力及び/又は圧力の変化に応じて変化する流体についても、従来技術に係る質量流量の測定方法のように質量流量計におけるデータ記憶容量及び/又は演算負荷の大幅な増大を伴うこと無く、流体の種類、温度、及び圧力の全てに応じて、より一層正確な質量流量を測定することができる。
ところで、冒頭で述べたように、本発明は、熱式質量流量計における質量流量の測定方法及び当該方法を使用する熱式質量流量計のみならず、当該熱式質量流量計を使用する熱式質量流量制御装置にも関する。当該熱式質量流量制御装置は、本発明に係る質量流量の測定方法を使用する熱式質量流量計によって算出される流体の流量に基づいて流量調節手段を制御して、流体の流量を目標値に近付ける。
即ち、本発明の第5の実施態様は、
本発明の前記第3又は前記第4の実施態様に係る熱式質量流量計と、
前記流路に流れる流体の流量を制御する流量調節手段と、
前記流量調節手段を制御する制御手段と、
を備える熱式質量流量制御装置であって、
前記制御手段が、前記熱式質量流量計によって算出される前記流体の流量に基づいて前記流量調節手段を制御して、前記流体の流量を目標値に近付ける、
熱式質量流量制御装置である。
上記のように、本実施態様に係る熱式質量流量制御装置は、本発明の前記第3又は第4の実施態様に係る熱式質量流量計を備える熱式質量流量制御装置である。従って、熱式質量流量計の基本的な構成については、図1及び2を参照しながら、本発明の前記第1乃至前記第4の実施態様に係る質量流量の測定方法及び当該方法を使用する熱式質量流量計の説明において既に述べたので、ここでは繰り返して説明しない。
本実施態様に係る熱式質量流量制御装置は、上記のように、熱式質量流量計の他に、前記流路に流れる流体の流量を制御する流量調節手段と、前記流量調節手段を制御する制御手段と、を備える。流量調節手段は、流路に流れる流体の流量を制御することが可能である限り、特に限定されない。流量調節手段の具体例としては、例えば、アクチュエータによって開度を変更することができる流量制御弁を挙げることができる。制御手段もまた、流量調節手段を制御して、流路に流れる流体の流量を増減することが可能である限り、特に限定されない。図1に示されている例においては、熱式質量流量制御装置100は、熱式質量流量計110の他に、流路114に流れる流体の流量を制御する流量調節手段120及び流量調節手段120を制御する制御手段130を備える。
流量調節手段120は、図1に示されているように、流量制御弁121、弁口122、ダイアフラム123、アクチュエータ124、弁駆動回路125、及び図示しない電源等を含む。制御手段130は、熱式質量流量計110によって算出される流体の流量に基づいて流量調節手段120を制御して、流体の流量を目標値に近付ける。より具体的には、制御手段130は、熱式質量流量計110によって算出される流体の流量を目標値と比較し、その結果に応じた制御信号を弁駆動回路125に送信する。
例えば、流体の流量が目標値よりも少ない場合は、制御手段130はアクチュエータ124によって流量制御弁121の開度を増やして流体の流量を増やすように弁駆動回路125に制御信号を送る。逆に、流体の流量が目標値よりも多い場合は、制御手段130はアクチュエータ124によって流量制御弁121の開度を減らして流体の流量を減らすように弁駆動回路125に制御信号を送る。尚、上記説明においてはフィードバック方式による流体の流量制御について説明したが、本実施態様に係る熱式質量流量制御装置による流体の流量制御は、フィードバック方式に限定されず、例えばフィードフォワード方式等の他の制御方式によって実行してもよい。
加えて、図1に示されている実施態様に係る熱式質量流量制御装置100においては、前述したように、補正手段が制御手段130に含まれていた。しかしながら、補正手段及び制御手段は、両方がこのように1つの制御手段として実装されていてもよく、それぞれ個別の制御装置として実装されていてもよい。
上述したように、本実施態様に係る熱式質量流量制御装置が備える熱式質量流量計によれば、従来技術に係る質量流量の測定方法を使用する熱式質量流量計のようにデータ記憶容量及び/又は演算負荷の大幅な増大を伴うこと無く、流体の種類、温度、及び圧力の全てに応じて、正確な質量流量を測定することができる。その結果、本実施態様に係る熱式質量流量制御装置は、従来技術に係る熱式質量流量制御装置のようにデータ記憶容量及び/又は演算負荷の大幅な増大を伴うこと無く、流体の種類、温度、及び圧力の全てに応じて、より正確に質量流量を制御することができる。
これまで説明してきたように、本発明によれば、温度及び/又は圧力の変化に伴う熱的物性(例えば比熱等)の変化が大きい流体の温度及び/又は圧力が変化しても、当該流体の質量流量を正確に測定することができる。また、本発明によれば、熱式質量流量計が備えるデータ記憶装置に温度係数α及び圧力係数βが格納された流体であれば、当該熱式質量流量制御装置に対して流体の種類を特定する入力をするだけで、質量流量の補正を簡便に行うことができる。更に、温度係数αの圧力による変化及び/又は圧力係数βの温度による変化が質量流量の測定精度に影響を及ぼすほど大きい流体についても、温度係数αの圧力に対する変化率である圧力係数α′及び/又は圧力係数βの温度に対する変化率である温度係数β′を考慮して質量流量をより高い精度にて補正して、より正確な質量流量を測定することができる。その結果、このような流体についても、より正確な質量流量測定及び質量流量制御を行うことができる。
以下、本発明の幾つかの実施態様に係る熱式質量流量計の構成等につき、時に添付図面を参照しながら、更に詳しく説明する。但し、以下に述べる説明はあくまでも例示を目的とするものであり、本発明の範囲が以下の説明に限定されるものと解釈されるべきではない。
本実施例においては、窒素ガス(N)を基準流体(基準ガス)として使用し、種々の流体(具体的には、酸素(O)、アルゴン(Ar)、パーフルオロシクロブタン(C)、ジフルオロメタン(CH)、モノフルオロメタン(CHF)、及び亜酸化窒素(NO)の各種ガス)の質量流量を種々の温度及び圧力において測定した。これにより、これら種々の流体の質量流量の実測値の温度及び圧力に対する変化率を調べた。
(1)実験装置の構成
本実施例において種々の流体の質量流量の実測値の温度及び圧力に対する変化率を調べる実験に用いた実験装置300の構成を図3に示す。図3に示されているように、流体が流れる流路の上流側から順に、本発明に係る熱式質量流量制御装置100と、熱式質量流量制御装置100(MFC)が備える熱式質量流量計110と同一の仕様を有する熱式質量流量計(MFM)と、をそれぞれ配設した。本発明に係る熱式質量流量制御装置100及び熱式質量流量制御装置100(MFC)が備える熱式質量流量計110の構成については、例えば、図1及び図2を参照しながら上述した通りである。
MFCが備える熱式質量流量計110及びMFMの両方において、最大流量(フルスケール)は1slm、設定流量は100%(SP=100%)とした。MFCとMFMとは上記流路によって直列に接続されている。また、MFC及びMFMは、それぞれの上流側に配設された熱交換器(それぞれ311及び321)と共に、別個の恒温槽(それぞれ310及び320)の中にそれぞれ収めた。これにより、MFC及びMFMが備える流路に流れる流体の温度をそれぞれの恒温槽内の温度と一致させることができる。
本実施例においては、MFCの温度Tは種々に変化させ、MFMの温度Tは(22℃にて)一定に維持した。流体の圧力についても、MFCよりも上流側の流路における圧力Pは種々に変化させ、MFCが備える流量制御弁121よりも下流側の流路における圧力は、MFMよりも下流側に配設された真空ポンプ330によって、常に27kPaに一定に保持した。尚、当該圧力を真空ポンプ330のみによって27kPaに保持することが困難である場合は、配管内に減圧弁及び/又は他のバルブ等を更に設けることにより当該圧力の制御をより容易にすることができる。
以上のように、MFMは、種々の温度及び圧力におけるMFCによる流量制御の結果をモニタリングする。流体の温度及び/又は圧力による質量流量の実測値への影響が無ければ、MFMによる質量流量の実測値は何れの温度及び圧力においても最大流量(1slm)にて一定の筈であり、影響があれば、MFMによる質量流量の実測値は最大流量(1slm)から乖離する筈である。
尚、図3に示す模式図においては、MFCよりも上流側の流路における流体の圧力を恒温槽310よりも上流側(恒温槽310の外)で測定している。しかしながら、前述したように、圧力センサの構成及び配置は、流路に流れる流体の圧力Pを検出することが可能である限り、特に限定されない。更に、本実施例においては、熱式質量流量計110(MFC)の個体差を考慮するため、第1乃至第3の熱式質量流量計(MFC−1、MFC−2、及びMFC−3)を用意して、それぞれについて同一の実験を行った。
(2)温度変化に伴う基準流体の質量流量の実測値の変化
先ず、圧力Pを138kPaにて一定に保持した状態で、上記のような構成を有する実験装置300に窒素ガス(N)を供給した。そして、恒温槽310内の温度(T)を22℃、32℃、及び42℃の3つの温度に設定し、温度及び流量が安定したときのMFMによる実測信号電圧S′の基準信号電圧S(5.000V)に対する比率f′(%)の値(ここで、記号「′」は、MFMによってモニタリングされる実測値に基づく値であることを示す。以下同様。)を測定した。測定された3つのf′の値を温度Tに対してプロットすると直線に乗り、その傾きは+0.012(/℃)であった。
ここで、MFMによって実測されるf′の値は、温度Tが22℃で一定の状態に保持された下流側のMFMによる実測値に基づく値であるので、この測定には上流側の恒温槽310における温度Tの変化は影響しない筈である。一方、質量流量制御装置100(MFC)においては、熱式質量流量計110によって実測されるfが目標値(例えば100%)に近付くように流量制御弁121が制御される。従って、MFMによって実測されるf′の値が変化したということは、質量流量制御装置100(MFC)が備える熱式質量流量計110によって目標値にて一定に保持されている筈のfが変化していることを意味する。
上記のように、質量流量制御装置100(MFC)によって制御された流体の質量流量をMFMによって実測することにより、質量流量制御装置100(MFC)が備える質量流量計110が実測しているfの温度変化を間接的に測定することができる。従って、上述したf′の値の温度Tに対するプロットの傾きから、fの温度Tに対する偏微分係数∂f/∂Tを間接的に求めることができる。従って、上述したように圧力Pを138kPaにて一定に保持した状態で測定された3つのf′の値の温度Tに対するプロットの傾きから、この状態における∂f/∂Tが+0.012(/℃)であることが判る。尚、本明細書における温度係数α(∂F/∂T)は、∂f/∂TにF/100を乗じた値となる。
次に、恒温槽310内に配設されている第1の質量流量制御装置(MFC−1)を同じ仕様の第2の質量流量制御装置(MFC−2)と交換して同様の測定を行った結果、∂f/∂Tは−0.012(/℃)であった。更に、第3の質量流量制御装置(MFC−3)と交換して同様の測定を行った結果、∂f/∂Tは−0.006(/℃)であった。
ところで、窒素ガス(N)は質量流量計の流量の校正のための基準流体(基準ガス)として広く使用されている安定なガスであり、その熱的物性(例えば、比熱等)は温度によって殆ど変化しないことが知られている。従って、上記において観測されたfの変化は、窒素ガス(N)の熱的物性の温度変化に起因する変化ではなく、MFC−1乃至MFC−3の3種の質量流量制御装置自体の温度変化に起因する変化であると推測される。このような温度変化が生ずる原因は完全には解明されていないが、例えば、質量流量制御装置を構成する電気回路の温度特性やセンサチューブの熱膨張等が原因となっている可能性が考えられる。更に、MFC−1乃至MFC−3がそれぞれ異なる∂f/∂Tを呈したのは、質量流量制御装置自体の温度変化に個体差があるためであると考えられる。
以上の考察から、MFC−1乃至MFC−3によって実測されるfの温度変化を評価するに当たっては、それぞれのMFCに固有の上記変化を差し引いて評価することとした。具体的には、このような補正は、例えば、ブリッジ回路と並列に設けられている抵抗器の抵抗値を調整する等、ハードウェアによって行うこともでき、或いはソフトウェア上のデータの計算処理によって行うこともできる。
(3)温度変化に伴う各種流体の質量流量の実測値の変化
次に、上記窒素ガス(N)を含む各種流体(各種ガス)を実験装置300に流して、上記と同様の測定を行った。更に、圧力Pを207kPa及び278kPaに保持した状態においても、上記と同様の測定を行った。上述したように、本実施例において使用した流体(ガス)は、酸素(O)、アルゴン(Ar)、パーフルオロシクロブタン(C)、ジフルオロメタン(CH)、モノフルオロメタン(CHF)、及び亜酸化窒素(NO)の6種類のガスである。これら6種類のガス及び窒素ガス(N)について各圧力Pにおいて測定された∂f/∂Tの値を以下の表1に列挙する。
Figure 2015151647
表1に列挙されているそれぞれの値は、MFC−1乃至MFC−3において得られた結果の平均値である。但し、基準流体としての窒素ガス(N)を用いて138kPaの圧力において測定されたMFC−1乃至MFC−3の個体差に起因するf′の温度Tに対する変化率(∂f′/∂T)が差し引かれている。従って、138kPaの圧力における窒素ガス(N)の∂f/∂Tは0(ゼロ)になっている。更に、窒素ガス(N)の∂f/∂Tは圧力Pの変化によっても殆ど影響を受けないので、207kPa及び278kPaの圧力における窒素ガス(N)の∂f/∂Tもまた、それぞれ0(ゼロ)になっている。
酸素ガス(O)及びアルゴンガス(Ar)については、何れの圧力Pにおいても∂f/∂Tの絶対値が小さく且つ圧力Pの変化に伴う∂f/∂Tの変化も小さい。従って、酸素ガス(O)及びアルゴンガス(Ar)については、何れかの圧力Pにおける∂f/∂Tの値又は3つの圧力Pにおける∂f/∂Tの平均値を一定の定数としての∂f/∂Tとして採用しても、それぞれの圧力Pにおける∂f/∂Tとの乖離が小さい。その結果、このような一定の∂f/∂T(及び対応する温度係数α)を用いても、高い精度で実測質量流量Fを補正することができ、正確な補正質量流量Fを得ることができる。即ち、このような流体については、前述した本発明の第1の実施態様に係る質量流量の測定方法によって(前述した式(4)を使用して)、十分に高い精度で高い精度で実測質量流量Fを補正することができ、正確な補正質量流量Fを得ることができる。
上記に対し、比較的低い蒸気圧を有するパーフルオロシクロブタン(C)、ジフルオロメタン(CH)、モノフルオロメタン(CHF)、及び亜酸化窒素(NO)については、窒素ガス(N)、酸素ガス(O)、及びアルゴンガス(Ar)に比べて、何れの圧力Pにおいても∂f/∂Tの絶対値が大きく且つ圧力Pの変化に伴う∂f/∂Tの変化も大きい。従って、これらのガスについては、何れかの圧力Pにおける∂f/∂Tの値又は3つの圧力Pにおける∂f/∂Tの平均値を一定の定数としての∂f/∂Tとして採用した場合、それぞれの圧力Pにおける∂f/∂Tとの乖離が大きい。その結果、このような一定の∂f/∂T(及び対応する温度係数α)を用いた場合、高い精度で実測質量流量Fを補正することが困難となり、正確な補正質量流量Fを得ることが困難となる。このような流体についても、前述した本発明の第2の実施態様に係る質量流量の測定方法によれば(前述した式(5)を使用すれば)、十分に高い精度で実測質量流量Fを補正することができ、正確な補正質量流量Fを得ることができる。
そこで、それぞれの圧力P(138kPa、207kPa、及び278kPa)における∂f/∂Tの値の圧力Pに対するプロットの傾きから、∂f/∂Tの圧力Pに対する偏微分係数∂(∂f/∂T)/∂Pを求めた。それぞれの流体について求められた∂(∂f/∂T)/∂Pが、表1の右端の列に列挙されている。本明細書における圧力係数α′は、∂(∂f/∂T)/∂PにF/100を乗じた値となる。前述した式(5)のように、温度係数αと圧力係数α′とを組み合わせて使用して実測質量流量Fを補正することにより、実測質量流量Fの温度Tに対する変化率(∂F/∂T)のみならず、温度係数αの圧力Pに対する変化率(∂α/∂P)をも考慮して、より高い精度にて質量流量を補正することができる。
(4)圧力変化に伴う基準流体の質量流量の実測値の変化
次に、基準流体の質量流量の実測値の圧力変化に対する変化率についての実験結果について説明する。先ず、温度Tを22℃にて一定に保持した状態で、実験装置300に窒素ガス(N)を供給した。そして、MFCの流量調整弁よりも上流側の流体の圧力(P)を138kPa、207kPa、及び278kPaの3つの圧力に設定し、圧力及び流量が安定したときのMFMによる実測信号電圧S′の基準信号電圧S(5.000V)に対する比率f′(%)の値を測定した。測定された3つのf′の値を圧力Pに対してプロットすると直線に乗り、その傾きは−0.0018(/kPa)であった。このようにして得られるf′の値の圧力Pに対するプロットの傾きから、fの圧力Pに対する偏微分係数∂f/∂Pを間接的に求めることができる。従って、上述したように温度Tを22℃にて一定に保持した状態で測定された3つのf′の値の圧力Pに対するプロットの傾きから、この状態における∂f/∂Pが−0.018(/kPa)であることが判る。尚、本明細書における圧力係数β(∂F/∂P)は、∂f/∂PにF/100を乗じた値となる。
次に、恒温槽310内に配設されている第1の質量流量制御装置(MFC−1)を同じ仕様の第2の質量流量制御装置(MFC−2)と交換して同様の測定を行った結果、∂f/∂Pは−0.0021(/kPa)であった。更に、第3の質量流量制御装置(MFC−3)と交換して同様の測定を行った結果、∂f/∂Pは−0.0020(/kPa)であった。このようなMFC−1乃至MFC−3の間での∂f/∂Pの差異は、窒素ガス(N)の熱的物性の圧力変化に起因する変化ではなく、MFC−1乃至MFC−3の質量流量制御装置に加わるガス圧力の変化に起因する変化であると推測される。このような圧力変化が生ずる原因は完全には解明されていないが、例えば、センサチューブの体積変化等が原因となっている可能性が考えられる。更に、MFC−1乃至MFC−3がそれぞれ異なる∂f/∂Pを呈したのは、質量流量制御装置に加わる圧力の変化に個体差があるためであると考えられる。
(5)温度変化に伴う各種流体の質量流量の実測値の変化
次に、上記窒素ガス(N)を含む各種流体(各種ガス)を実験装置300に流して、上記と同様の測定を行った。更に、温度Tを32℃及び42℃に保持した状態においても、上記と同様の測定を行った。上述したように、本実施例において使用した流体(ガス)は、酸素(O)、アルゴン(Ar)、パーフルオロシクロブタン(C)、ジフルオロメタン(CH)、モノフルオロメタン(CHF)、及び亜酸化窒素(NO)の6種類のガスである。これら6種類のガス及び窒素ガス(N)について各温度Tにおいて測定された∂f/∂Pの値を以下の表2に列挙する。
Figure 2015151647
表2に列挙されているそれぞれの値は、MFC−1乃至MFC−3において得られた結果の平均値である。酸素ガス(O)及びアルゴンガス(Ar)については、何れの温度Tにおいても∂f/∂Pの絶対値が小さく且つ温度Tの変化に伴う∂f/∂Pの変化も小さい。従って、酸素ガス(O)及びアルゴンガス(Ar)については、何れかの温度Tにおける∂f/∂Pの値又は3つの温度Tにおける∂f/∂Pの平均値を一定の定数としての∂f/∂Pとして採用しても、それぞれの温度Tにおける∂f/∂Pとの乖離が小さい。その結果、このような一定の∂f/∂P(及び対応する圧力係数β)を用いても、高い精度で実測質量流量Fを補正することができ、正確な補正質量流量Fを得ることができる。即ち、このような流体については、前述した本発明の第1の実施態様に係る質量流量の測定方法によって(前述した式(4)を使用して)、十分に高い精度で実測質量流量Fを補正することができ、正確な補正質量流量Fを得ることができる。
上記に対し、比較的低い蒸気圧を有するパーフルオロシクロブタン(C)、ジフルオロメタン(CH)、モノフルオロメタン(CHF)、及び亜酸化窒素(NO)については、窒素ガス(N)、酸素ガス(O)、及びアルゴンガス(Ar)に比べて、何れの温度Tにおいても∂f/∂Pの絶対値が大きいか又は温度Tの変化に伴う∂f/∂Pの変化も大きい。従って、これらのガスについては、何れかの温度Tにおける∂f/∂Pの値又は3つの温度Tにおける∂f/∂Pの平均値を一定の定数としての∂f/∂Pとして採用した場合、それぞれの温度Tにおける∂f/∂Pとの乖離が大きい。その結果、このような一定の∂f/∂P(及び対応する圧力係数β)を用いた場合、高い精度で実測質量流量Fを補正することが困難となり、正確な補正質量流量Fを得ることが困難となる。このような流体についても、前述した本発明の第2の実施態様に係る質量流量の測定方法によれば(前述した式(5)を使用すれば)、十分に高い精度で実測質量流量Fを補正することができ、正確な補正質量流量Fを得ることができる。
そこで、それぞれの温度T(22℃、32℃、及び42℃)における∂f/∂Pの値の温度Tに対するプロットの傾きから、∂f/∂Pの温度Tに対する偏微分係数∂(∂f/∂P)/∂Tを求めた。それぞれの流体について求められた∂(∂f/∂P)/∂Tが、表2の右端の列に列挙されている。本明細書における温度係数β′は、∂(∂f/∂P)/∂TにF/100を乗じた値となる。前述した式(5)のように、圧力係数βと温度係数β′とを組み合わせて使用して実測質量流量Fを補正することにより、実測質量流量Fの圧力Pに対する変化率(∂F/∂P)のみならず、圧力係数βの温度Tに対する変化率(∂β/∂T)をも考慮して、より高い精度にて質量流量を補正することができる。
尚、温度係数α、圧力係数β、圧力係数α′(即ち、圧力Pに対するαの変化率(∂α/∂P))、及び温度係数β′(即ち、温度Tに対するβの変化率(∂β/∂T))を求める際の流体の温度及び圧力の範囲として本実施例において示した具体的な値はあくまでも例示に過ぎない。例えば、質量流量を測定しようとする流体の性状及び当該流体が使用される用途における環境条件(例えば温度及び圧力等)等に応じて、本実施例において例示した具体的な温度範囲及び圧力範囲以外の温度範囲及び圧力範囲における質量流量の実測値を用いて、これらの係数を求めてもよいことは言うまでも無い。
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施態様について説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることができる。
100…熱式質量流量制御装置、110…熱式質量流量計、111…センサ回路、113…電源、114…流路、115…バイパス、116…センサチューブ、117及び118…センサワイヤ、117′及び118′…抵抗素子、119…オペアンプ、120…流量調節手段、121…流量制御弁、122…弁口、123…ダイアフラム、124…アクチュエータ、125…弁駆動回路、130…制御手段、131…温度センサ、及び132…圧力センサ、310及び320…恒温槽、311及び312…熱交換器、並びに330…真空ポンプ。

Claims (5)

  1. 流体の質量流量に対応する出力信号を出力する流量センサを備えるキャピラリ加熱型熱式質量流量計において前記出力信号の強度である実測信号強度Sに基づいて前記流体の実測質量流量Fを算出する質量流量の測定方法であって、
    前記質量流量計が、
    前記流体の温度Tを検出する温度センサと、
    前記流体の圧力Pを検出する圧力センサと、
    前記温度T及び前記圧力Pに基づいて前記実測質量流量Fを補正して補正質量流量Fを算出する補正手段と、
    を備え、
    前記補正手段が備えるデータ記憶装置が、
    前記流体の前記実測質量流量Fの温度に対する偏微分係数である温度係数αと、
    前記流体の前記実測質量流量Fの圧力に対する偏微分係数である圧力係数βと、
    を予め格納しており、
    前記補正手段が、
    当該質量流量計の校正時の温度Tと前記温度Tとの偏差である温度偏差ΔT、当該質量流量計の校正時の圧力Pと前記圧力Pとの偏差である圧力偏差ΔP、前記温度係数α、及び前記圧力係数βに基づいて、以下の式(4)によって前記実測質量流量Fを補正することにより前記補正質量流量Fを算出する、
    質量流量の測定方法。
    Figure 2015151647
  2. 請求項1に記載の質量流量の測定方法であって、
    前記補正手段が備えるデータ記憶装置が、前記温度係数α及び圧力係数βに加えて、
    前記温度係数αの圧力に対する偏微分係数である圧力係数α′と、
    前記圧力係数βの温度に対する偏微分係数である温度係数β′と、
    を予め格納しており、
    前記補正手段が、
    前記温度偏差ΔT、前記圧力偏差ΔP、前記温度係数α、前記圧力係数β、前記圧力係数α′、及び前記温度係数β′に基づいて、以下の式(5)によって前記実測質量流量Fを補正することにより前記補正質量流量Fを算出する、
    質量流量の測定方法。
    Figure 2015151647
  3. 流体の質量流量に対応する出力信号を出力する流量センサを備え、前記出力信号の強度である実測信号強度Sに基づいて前記流体の実測質量流量Fを計測するキャピラリ加熱型熱式質量流量計であって、
    前記質量流量計が、
    前記流体の温度Tを検出する温度センサと、
    前記流体の圧力Pを検出する圧力センサと、
    前記温度T及び前記圧力Pに基づいて前記実測質量流量Fを補正して補正質量流量Fを算出する補正手段と、
    を更に備え、
    前記補正手段が備えるデータ記憶装置が、
    前記流体の前記実測質量流量Fの温度に対する偏微分係数である温度係数αと、
    前記流体の前記実測質量流量Fの圧力に対する偏微分係数である圧力係数βと、
    を予め格納しており、
    前記補正手段が、
    当該質量流量計の校正時の温度Tと前記温度Tとの偏差である温度偏差ΔT、当該質量流量計の校正時の圧力Pと前記圧力Pとの偏差である圧力偏差ΔP、前記温度係数α、及び前記圧力係数βに基づいて、以下の式(4)によって前記実測質量流量Fを補正することにより前記補正質量流量Fを算出する、
    熱式質量流量計。
    Figure 2015151647
  4. 請求項3に記載の熱式質量流量計であって、
    前記補正手段が備えるデータ記憶装置が、前記温度係数α及び圧力係数βに加えて、
    前記温度係数αの圧力に対する偏微分係数である圧力係数α′と、
    前記圧力係数βの温度に対する偏微分係数である温度係数β′と、
    を予め格納しており、
    前記補正手段が、
    前記温度偏差ΔT、前記圧力偏差ΔP、前記温度係数α、前記圧力係数β、前記圧力係数α′、及び前記温度係数β′に基づいて、以下の式(5)によって前記実測質量流量Fを補正することにより前記補正質量流量Fを算出する、
    熱式質量流量計。
    Figure 2015151647
  5. 請求項3又は4に記載の熱式質量流量計と、
    前記流路に流れる流体の流量を制御する流量調節手段と、
    前記流量調節手段を制御する制御手段と、
    を備える熱式質量流量制御装置であって、
    前記制御手段が、前記熱式質量流量計によって算出される前記流体の流量に基づいて前記流量調節手段を制御して、前記流体の流量を目標値に近付ける、
    熱式質量流量制御装置。
JP2016511446A 2014-03-31 2015-02-23 質量流量の測定方法、当該方法を使用する熱式質量流量計、及び当該熱式質量流量計を使用する熱式質量流量制御装置 Active JP6551398B2 (ja)

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