本発明者の検討によれば、特許文献1〜3に記載の方法では、樹脂フィルムを高速で製造すると、故障の発生を充分に抑制できない場合があった。具体的には、上述したように、画像表示装置に適用される樹脂フィルム(光学フィルム)としては、薄膜化、広幅化、及び高品質化がますます求められ、樹脂フィルムの製造速度を高速化もより求められる現状においては、上記の特許文献1〜3に記載の方法では、故障の発生を充分に抑制できない場合があった。より具体的には、より薄い樹脂フィルムを、高速で製造することが求められ、このような状況下では、流延リボンのわずかな振動が、高品質な樹脂フィルムを得られない原因となってしまうことがあった。
本発明者は、上記の目的を達成するためには、上述したような、同伴風により発生する故障の発生をより抑制できる樹脂フィルムの製造方法が必要であると考えた。そこで、本発明者は、流延ダイの、支持体の走行方向上流側に備えられる減圧室の内部を流通する空気の流路の位置と幅とに着目し、故障の発生を充分に抑制できる条件を鋭意検討した結果、流路の位置と幅とを規定した、以下のような本発明に想到するに到った。
以下、本発明の樹脂フィルムの製造方法に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液(ドープ)を、走行する支持体上に流延ダイから流延して流延膜(ウェブ)を形成する流延工程と、前記流延膜を前記支持体からフィルムとして剥離する剥離工程とを備えた、いわゆる溶液流延製膜法による製造方法である。また、樹脂フィルムの製造方法としては、上記各工程に加えて、剥離したフィルムを乾燥させる乾燥工程を備えていることが一般的であり、剥離したフィルムを延伸させる延伸工程等をさらに備えていてもよい。そして、樹脂フィルムの製造方法は、例えば、図1に示すような溶液流延製膜法による樹脂フィルムの製造装置によって行われる。なお、樹脂フィルムの製造装置としては、図1に示すものに限定されず、他の構成のものであってもよい。また、図1は、本発明の実施形態における、樹脂フィルムの製造装置の基本的な構成の一例を示す概略図である。
そして、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、前記流延工程において、図2〜5に示すような、流延ダイ3の、支持体6の走行方向上流側に備えられ、支持体6側が開放された減圧室4を用いる。なお、図2〜5は、それぞれ、本発明の実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法で用いる流延ダイに備えられる減圧室の構成の一例を示す概略図である。
また、前記減圧室4は、図2〜5に示すように、減圧室4の内部を吸気するための吸気管21と、減圧室4の、支持体6の走行方向上流側の壁面4aに沿って延び、減圧室4と支持体6との隙間22から流入された空気を吸気管21まで流通可能な流路23を形成するための遮風部材24とを備える。
また、上流側の壁面4aと遮風部材24との間隔L1が、0.1〜100mmである。なお、上流側の壁面4aと遮風部材24との間隔L1は、流路23の幅である。
本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、上記のような構成の減圧室4を、流延ダイ3の、支持体6の走行方向上流側に備えることによって、樹脂フィルムを高速で製造しても、故障の発生が充分に抑制された樹脂フィルムを製造することができる。このことは、以下のことによると考えられる。
まず、前記減圧室4を、流延ダイ3の、支持体6の走行方向上流側に備えられることによって、吸気管21による減圧室4の内部の吸気により、減圧室4の内部が減圧され、流延ダイ3で形成された流延リボン31と支持体6との密着性が高まると考えられる。さらに、吸気管21で減圧室4の内部を吸気する際、減圧室4と支持体6との隙間22から流入された空気が、上流側の壁面4aと遮風部材24とによって形成された流路23を好適に流通して、吸気管21で吸引されると考えられる。このことにより、減圧室4と支持体6との隙間22から流入された同伴風が、流延リボン31に直接あたることを抑制できると考えられる。以上のことから、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、樹脂フィルムを高速で製造しても、故障の発生が充分に抑制された樹脂フィルムを製造することができると考えられる。
また、上流側の壁面4aと遮風部材24との間隔L1は、上記のように、0.1〜100mmであり、1〜50mmであることが好ましく、3〜20mmであることがより好ましい。前記間隔L1が小さすぎると、上流側の壁面4aと遮風部材24とが近接しすぎて、減圧室4と支持体6との隙間22から流入された空気が、上流側の壁面4aと遮風部材24とによって形成された流路23に、流入しにくくなる傾向がある。すなわち、減圧室4と支持体6との隙間22から流入された同伴風が、遮風部材24と支持体6との隙間25を通りやすい傾向がある。また、前記間隔L1が大きすぎると、遮風部材24の存在による同伴風の発生を抑制する効果を充分に発揮できない傾向がある。よって、前記間隔L1が、上記範囲内であれば、上流側の壁面4aと遮風部材24とによって形成された流路23に、減圧室4と支持体6との隙間22から流入された空気がより好適に流入される。
また、遮風部材24と支持体6との間隔L2は、特に限定されないが、減圧室4と支持体6との隙間22から流入された空気が、遮風部材24と支持体6との隙間25より、上流側の壁面4aと遮風部材24とによって形成された流路23に流入しやすくなる間隔であることが好ましい。すなわち、同伴風の発生を抑制する観点では、間隔L2が狭ければ、狭いほど好ましい。一方で、間隔L2が狭すぎると、遮風部材24が、支持体6と接触しやすくなる傾向がある。支持体6が、遮風部材24と接触すると、損傷してしまい、好ましくない。また、間隔L2は、支持体6が不測のばたつきが発生することもあるので、そのばたついたときでも、遮風部材24と支持体6との接触が避けられる間隔であることが好ましい。具体的には、前記間隔L2は、0.05〜5mmであることが好ましく、0.1〜2mmであることがより好ましい。間隔L2が、上記範囲内であれば、遮風部材24と支持体6との接触を抑制しつつ、得られた樹脂フィルムに、故障が発生することをより抑制することができる。
また、吸気管21は、減圧室4の内部を吸気し、減圧室4内を減圧することができれば、特に限定されない。吸気管21は、減圧室4内を好適に減圧するために、減圧室4の、支持体6から遠い位置、具体的には、減圧室4の上部面に接続されていることが好ましい。また、吸気管21は、遮風部材24より流延ダイ3に近い側に設けられていてもよいし、遮風部材24より流延ダイ3から遠い側に設けられていてもよい。
吸気管21が遮風部材24より流延ダイ3から遠い側に設けられる場合、図2に示すように、吸気管21は、前記流路23の、減圧室4と支持体6との隙間22とは反対側の端部、具体的には、流路23の直上に設けられていることが好ましい。そうすることによって、減圧室4と支持体6との隙間22から流入された空気が、流路23を流通しやすくなり、得られた樹脂フィルムに、同伴風による故障が発生することが抑制される。
また、遮風部材24は、減圧室4の、支持体6の走行方向上流側の壁面4aとの間に、減圧室4と支持体6との隙間22から流入された空気を吸気管21まで流通可能な流路23を形成することができる部材であれば、特に限定されない。具体的には、以下のような遮風部材が挙げられる。
まず、吸気管21が遮風部材24より流延ダイ3から遠い側に設けられる場合は、図2に示すように、遮風部材24は、吸気管21の接続位置より流延ダイ3に近い側の、減圧室4の上部面と、支持体6から間隔L2あけた位置とを覆うように形成されていることが好ましい。また、遮風部材24は、減圧室4の幅方向全面に形成されていることが好ましい。また、遮風部材24は、上記流路23が形成できれば、穴が形成されていてもよいし、減圧室4の壁と間に間隙が形成されていてもよい。
また、吸気管21が遮風部材24より流延ダイ3に近い側に設けられる場合は、図3に示すように、遮風部材24は、減圧室4の上部面と、支持体6から間隔L2あけた位置とを覆うように形成され、さらに、減圧室4と支持体6との隙間22から流入された空気を吸気管21に流通させるための間隙26を設けていることが好ましい。間隙26は、減圧室4と支持体6との隙間22から流入された空気を吸気管21に流通させることによって、流路23が形成できれば、特に限定されない。具体的には、間隙26は、遮風部材24の、支持体6より吸気管21に近い位置に形成されていることが好ましく、図3に示すように、遮風部材24の最上部に形成されていることが、流路23を好適に形成する点から好ましい。また、間隙26は、減圧室4の幅方向全面に形成されていなくてもよく、幅方向に断続的に形成されていてもよい。このように、吸気管21が遮風部材24より流延ダイ3に近い側に設けられる減圧室4である場合、樹脂フィルムの製造において、故障の発生をより抑制することができる。このことは、以下のことによると考えられる。まず、吸気管21で減圧室4の内部を吸気する際、減圧室4と支持体6との隙間から流入された空気が、流路23を好適に流通して、吸気管21で吸引することができると考えられる。さらに、減圧室4内部の、流路23以外の領域を、吸気管21で好適に吸気できるので、減圧室4内部を好適に減圧できると考えられる。これらのことから、同伴風の発生を抑制しつつ、流延リボン31と支持体6との密着性をより高めることができると考えられる。よって、樹脂フィルムの製造において、故障の発生をより抑制することができると考えられる。
また、吸気管21が遮風部材24より流延ダイ3に近い側に設けられる場合、吸気管21は、遮風部材24と流延ダイ3との間に設けられていればよいが、遮風部材24の近くに形成することが好ましい。具体的には、吸気管21の、支持体6の走行方向上流側が、遮風部材24の直上となるように、吸気管21が、減圧室4の上部面に接続されていることが好ましい。そうすることによって、減圧室4と支持体6との隙間22から流入された空気が、流路23を流通しやすくなり、得られた樹脂フィルムに、同伴風による故障が発生することが抑制される。
また、減圧室4と支持体6との間隔L3は、特に限定されない。減圧室4と支持体6との間隔L3とは、減圧室4の支持体6に最も近い位置と支持体6との間隔であり、例えば、減圧室4の、支持体6の走行方向上流側の壁面4aの下端と支持体6との間隔、すなわち、減圧室4と支持体6との隙間22の幅等が挙げられる。この間隔L3は、具体的には、0.05〜5mmであることが好ましく、0.1〜2mmであることがより好ましい。間隔L3が、上記範囲内であれば、減圧室4と支持体6との接触を抑制しつつ、減圧室4と支持体6との隙間22からの空気の流入を抑制し、同伴風による影響を抑えることができる。
また、減圧室4は、図4に示すように、吸気管21より流延ダイ3に近い側に、減圧室4の内部を仕切るための仕切り板27をさらに備えることが好ましい。仕切り板27は、図4に示すように、吸気管21の接続位置より流延ダイ3に近い側の、減圧室4の上部面と、支持体6から所定の間隔の隙間28をあけた位置とを覆うように形成されていることが好ましい。また、仕切り板27は、減圧室4の幅方向全面に形成されていることが好ましい。また、仕切り板27は、穴が形成されていてもよいし、減圧室4の壁と間に間隙が形成されていてもよい。このように仕切り板27をさらに備えることによって、樹脂フィルムの製造において、故障の発生をより抑制することができる。このことは、以下のことによると考えられる。吸気管21で減圧室4の内部を吸気する際、その吸気によって発生する空気の流れが、流延リボン31に与える影響を低減させることできると考えられる。すなわち、吸気管21により吸気される空間と、流延リボン31と接する空間とを、仕切り板27で仕切ることで、吸気管21の吸気によって引き起こされる空気の流れが、流延リボン31に対して与える影響、具体的には、流延リボン31を揺らす等の影響を低減させることができると考えられる。また、吸気管21で減圧室4の内部を吸気する際、その吸気によって発生する空気の流れが、仕切り板27と支持体6との隙間28を通過すると考えられる。このような空気の流れは、流延リボン31と支持体6との密着性を高める際にも好適に働き、この密着性をより高めると考えられる。以上のことから、樹脂フィルムの製造において、故障の発生をより抑制することができると考えられる。
また、仕切り板27と支持体6との間隔L4は、特に限定されない。具体的には、前記間隔L4は、0.05〜15mmであることが好ましく、1〜12mmであることがより好ましい。間隔L4が、上記範囲内であれば、仕切り板27と支持体6との接触を抑制しつつ、得られた樹脂フィルムに、故障が発生することをより抑制することができる。
また、減圧室4は、図5に示すように、流延ダイ3の、支持体6の走行方向上流側の側面3aに対向した流延ダイ対向側面29aと、支持体6に対向した支持体対向側面29bとを有する構造物29を備えることが好ましい。流延ダイ対向側面29aは、流延ダイ3の、支持体6の走行方向上流側の側面3aに対向した面であれば、特に限定されない。具体的には、流延ダイ対向側面29aは、流延ダイ3の斜面に対向した面であることが好ましく、流延ダイ3の吐出口近傍まで形成されていることが好ましい。また、流延ダイ対向側面29aは、流延ダイ3の斜面全面に対して対向した面であることがより好ましい。また、支持体対向側面29bは、支持体6に対向した面であれば、特に限定されない。具体的には、支持体対向側面29bは、支持体6の幅方向全面を覆うように形成されていることが好ましい。このように構造物29をさらに備えることによって、樹脂フィルムの製造において、故障の発生をより抑制することができる。このことは、以下のことによると考えられる。吸気管21で減圧室4の内部を吸気する際、その吸気によって発生する空気の流れが、流延ダイ3の、支持体6の走行方向上流側の側面3aと構造物29の流延ダイ対向側面29aとの間、及び支持体6と構造物29の支持体対向側面29bとの間を通過することになる。このような面と面との間に空気が流れることによって、これらの空気の流れに、乱れの発生が抑制され、流延リボンの振動をより抑制できると考えられる。このことから、樹脂フィルムの製造において、故障の発生をより抑制することができると考えられる。
また、流延ダイ対向側面29aと流延ダイ3の側面3aとの間隔L5は、特に限定されない。具体的には、前記間隔L5は、0.1〜2mmであることが好ましい。間隔L5が、上記範囲内であれば、流延ダイ対向側面29aと流延ダイ3の側面3aとの間に、乱れを抑制した空気の流れを好適に発生させ、樹脂フィルムの製造において、故障の発生をより抑制することができる。
また、支持体対向側面29bと支持体6との間隔L6は、特に限定されない。具体的には、前記間隔L6は、0.1〜3mmであることが好ましい。間隔L6が、上記範囲内であれば、構造物29と支持体6との接触を抑制しつつ、構造物29と支持体6との間に、乱れを抑制した空気の流れを好適に発生させ、得られた樹脂フィルムに、故障が発生することをより抑制することができる。
以下、上記減圧室を備えた樹脂フィルムの製造装置における、減圧室以外の構成について、説明する。
図1は、無端ベルト支持体6を使用した溶液流延製膜法による樹脂フィルムの製造装置の基本的な構成を示す概略図である。樹脂フィルムの製造装置は、無端ベルト支持体6、流延ダイ3、剥離ローラ8、延伸装置10、乾燥装置11、及び巻取装置13等を備える。流延ダイ3は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液(ドープ)をリボン状に吐出して、無端ベルト支持体6の表面上に流延する。また、樹脂フィルムの製造装置は、流延ダイ3にドープを送液するために、溶解釜(溶解タンク)1及び送液ポンプ2等を備える。溶解釜1は、樹脂等の樹脂フィルムの原料と溶媒とを含むドープ原料を混合して、ドープを調製するための容器である。なお、樹脂や溶媒等のドープ原料については、後述する。また、溶解釜1で調製したドープは、溶解釜1と流延ダイ3とを連通させた配管内を、溶解釜1から流延ダイ3へ送液させる。また、この配管には、配管内をドープが効率的に流通できるように、送液ポンプ2が備えられている。流延ダイ3は、この溶解釜1から送液されたドープを吐出する。無端ベルト支持体6は、一対の駆動ローラ及び従動ローラによって駆動可能に支持され、流延ダイ3から流延されたドープからなる流延膜(ウェブ)を形成し、搬送しながら、剥離ローラ8で剥離可能な程度まで乾燥させる。そして、剥離ローラ8は、ある程度乾燥した流延膜を無端ベルト支持体6から剥離して、フィルム9を得る。剥離されたフィルム9は、延伸装置10によって、幅方向に延伸される。また、延伸されたフィルムは、乾燥装置11によって、さらに乾燥され、乾燥されたフィルムを樹脂フィルムとして巻取装置13に巻き取る。
流延ダイ3は、上述したように、溶解釜1から送液されたドープをリボン状に吐出して、無端ベルト支持体6の表面上に流延することができれば、特に限定されない。また、流延ダイ3は、無端ベルト支持体6の走行方向上流側に、上述したような減圧室4が備えられている。この減圧室4によって、流延ダイ3から吐出されたドープ(流延リボン)に対する同伴風の影響を低減させることができる。ドープの流延方法としては、例えば、流延された流延膜の膜厚を、ブレードで調節するドクターブレード法を用いた方法、逆回転するロールで調節するリバースロールコータによる方法、口金部分のスリット形状(吐出口の形状)を調節できる加圧ダイを用いた方法等が挙げられる。この中でも、膜厚を均一にしやすい加圧ダイを用いた方法が好ましく用いられる。また、加圧ダイとしては、例えば、コートハンガーダイやTダイ等が挙げられる。
無端ベルト支持体6は、図1に示すように、無限に走行する無端ベルトであり、例えば、表面が鏡面の、無限に走行する金属製の無端ベルト等が好ましく用いられる。無端ベルトとしては、流延膜の剥離性の点から、例えば、ステンレス鋼等からなるベルトが好ましく用いられる。流延ダイ3によって流延する流延膜の幅は、無端ベルト支持体6の幅を有効活用する観点から、無端ベルト支持体6の幅に対して、80〜99%とすることが好ましい。そして、最終的に1500〜4000mmの幅の樹脂フィルムを得るためには、無端ベルト支持体6の幅は、1800〜4500mmであることが好ましい。また、無端ベルト支持体の代わりに、図6に示すような、ドラム支持体7を用いてもよい。このドラム支持体7としては、例えば、表面が鏡面の、回転する金属製のドラム等が好ましく用いられる。
そして、無端ベルト支持体6は、その表面上に形成された流延膜(ウェブ)を搬送しながら、ドープ中の溶媒を乾燥させる。前記乾燥は、例えば、無端ベルト支持体6を加熱したり、加熱風をウェブに吹き付けることによって行う。その際、ウェブの温度が、ドープの溶液によっても異なるが、溶媒の蒸発時間に伴う搬送速度や生産性等を考慮して、−5〜70℃の範囲が好ましく、0〜60℃の範囲がより好ましい。ウェブの温度は、高いほど溶媒の乾燥速度を速くできるので好ましいが、高すぎると、発泡したり、平面性が劣化する傾向がある。
無端ベルト支持体6を加熱する場合、例えば、無端ベルト支持体6上のウェブを赤外線ヒータで加熱する方法、無端ベルト支持体6の裏面を赤外線ヒータで加熱する方法、無端ベルト支持体6の裏面に加熱風を吹き付けて加熱する方法等が挙げられ、必要に応じて適宜選択することが可能である。
また、加熱風を吹き付ける場合、その加熱風の風圧は、溶媒蒸発の均一性等を考慮し、50〜5000Paであることが好ましい。加熱風の温度は、一定の温度で乾燥してもよいし、無端ベルト支持体6の走行方向で数段階の温度に分けて供給してもよい。
無端ベルト支持体6の上にドープを流延した後、無端ベルト支持体6からウェブをフィルムとして剥離するまでの間での時間は、作製する樹脂フィルムの膜厚、使用する溶媒によっても異なるが、無端ベルト支持体6からの剥離性を考慮し、0.5〜5分間の範囲であることが好ましい。
無端ベルト支持体6の走行速度は、特に限定されないが、生産性の観点等から、例えば、50〜200m/分程度であることが好ましい。また、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法の場合、無端ベルト支持体6の走行速度は、80〜200m/分程度の高速であることが好ましい。このような高速であれば、通常の樹脂フィルムの製造方法であれば、得られた樹脂フィルムに故障が発生しやすいが、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法であれば、このような高速であっても、得られた樹脂フィルムに故障が発生することを充分に抑制することができる。よって、このような高速であれば、故障の発生を充分に抑制しつつ、効率的に樹脂フィルムを製造することができる。
また、流延ダイ3から吐出されるドープの流速に対する、無端ベルト支持体6の走行速度の比(ドラフト比)は、0.8〜2程度であることが好ましい。前記ドラフト比がこの範囲内であると、安定して流延膜を形成させることができる。例えば、ドラフト比が大きすぎると、流延膜が幅方向に縮小されるネックインという現象を発生させる傾向があり、そうなると、広幅のフィルムを形成できなくなる。
剥離ローラ8は、無端ベルト支持体6のドープが流延される側の表面近傍に配置されており、無端ベルト支持体6と剥離ローラ8との距離は、1〜100mmであることが好ましい。この剥離ローラ8を支点として、乾燥されたウェブに張力をかけて引っ張ることによって、乾燥されたウェブがフィルムとして剥離される。無端ベルト支持体6からフィルムを剥離する際に、剥離張力及びその後の搬送張力によってフィルムは、フィルムの搬送方向(Machine Direction:MD方向)に延伸する。このため、無端ベルト支持体6からフィルムを剥離する際の剥離張力及び搬送張力は、例えば、20〜400N/mにすることが好ましい。
また、フィルムを無端ベルト支持体6から剥離する時のフィルムの残留溶媒率は、無端ベルト支持体6からの剥離性、剥離時の残留溶媒率、剥離後の搬送性、搬送・乾燥後にできあがる樹脂フィルムの物理特性等を考慮し、30〜200質量%であることが好ましい。なお、フィルムの残留溶媒率は、下記式(1)で定義される。
残留溶媒率(質量%)={(M1−M2)/M2}×100 (1)
ここで、M1は、フィルムの任意時点での質量を示し、M2は、M1を測定したフィルムを115℃で1時間乾燥させた後の質量を示す。
延伸装置10は、無端ベルト支持体6から剥離されたフィルムを、ウェブの搬送方向と直交する方向(Transverse Direction:TD方向)に延伸させる。具体的には、フィルムの搬送方向に垂直な方向の両端部をクリップ等で把持して、対向するクリップ間の距離を大きくすることによって、TD方向に延伸する。なお、本実施形態では、延伸装置10を備えていたが、備えていなくてもよい。その際、下記式(2)で求められる延伸率が3〜100%となるように延伸することが好ましい。さらに、その延伸率としては、5〜80%であることがより好ましく、5〜60%であることがさらに好ましい。
延伸率(%)={(延伸後の幅方向の長さ−延伸前の幅方向の長さ)/延伸前の幅方向の長さ}×100 (2)
延伸率が低すぎると、所望のリタデーション値を得ることができない傾向や、光学フィルムの広幅化が困難になるという傾向がある。また、延伸率が高すぎると、フィルムのヘイズが高くなり、透明性が低下する傾向がある。このため、得られた光学フィルムを液晶パネル等の液晶表示装置に備えられる位相差フィルムとして用いた場合、コントラストが低下する傾向があり、好ましくない。また、場合によっては、把持手段(クリップ)で把持した箇所から、フィルムが裂けて破断するおそれがある。
また、フィルムを延伸させる際、通常、フィルムを加熱して行う。このフィルムの加熱は、例えば、加熱風をフィルムに吹きつけることによって行ってもよいし、赤外線ヒータ等の加熱装置で加熱してもよい。また、その延伸をさせる際の温度(延伸温度)としては、70〜200℃であることが好ましく、120〜180℃であることがより好ましい。延伸温度が低すぎると、フィルムに余分な応力がかかるため、フィルムのヘイズが高くなり、透明性が低下する傾向がある。このため、得られた樹脂フィルムを液晶パネル等の液晶表示装置に備えられる位相差フィルムとして用いた場合、コントラストが低下する傾向があり、好ましくない。また、場合によっては、把持手段(クリップ)で把持した箇所から、フィルムが裂けて破断するおそれがある。また、延伸温度が高すぎると、所望のリタデーション値が得られなかったり、フィルムが溶融したりして、フィルムの表面状態や膜厚等が不均一になる傾向がある。また、延伸装置10は、クリップで把持して延伸する場合、クリップを把持していた領域を切断する装置を備えていてもよい。
また、延伸装置10により延伸されたフィルムの全残留溶媒率は、特に限定されないが、乾燥装置11による作業性の観点等から、例えば、1〜20質量%であることが好ましい。なお、延伸装置10を備えない場合は、乾燥装置11にフィルムを供給するまでに、フィルムの全残留溶媒率が1〜20質量%となっていることが好ましい。
乾燥装置11は、複数の搬送ローラを備え、そのローラ間をフィルムを搬送させる間にフィルムを乾燥させる。その際、図1に示すように、加熱空気12を、乾燥装置11内に流通させることによって乾燥してもよいし、赤外線等を用いて乾燥してもよいし、又は、加熱空気と赤外線とを併用して乾燥してもよい。簡便さの点から加熱空気を用いることが好ましい。乾燥温度としては、フィルムの残留溶媒量により、好適温度が異なるが、乾燥時間、収縮ムラ、伸縮量の安定性等を考慮し、30〜180℃の範囲で残留溶媒量により適宜選択して決めればよい。また、一定の温度で乾燥してもよいし、2〜4段階の温度に分けて、数段階の温度に分けて乾燥してもよい。また、乾燥装置11内を搬送される間に、フィルムを、MD方向に延伸させることもできる。乾燥装置11での乾燥処理後のフィルムの残留溶媒量は、乾燥工程の負荷、保存時の寸法安定性伸縮率等を考慮し、0.01〜15質量%が好ましい。
巻取装置13は、乾燥装置11で所定の残留溶媒率となったフィルムFを、巻き芯に巻き取る。また、フィルムFを巻き芯に巻き取る前に、フィルムの幅方向両端部にホットエンボス機構によりエンボス加工を施してもよい。なお、巻き取る際の温度は、巻き取り後の収縮によるすりきず、巻き緩み等を防止するために室温まで冷却することが好ましい。使用する巻取装置は、特に限定なく使用でき、一般的に使用されている巻取装置でよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の巻き取り方法で巻き取ることができる。
また、樹脂フィルムの製造装置は、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法を実施できれば、特に限定されない。具体的には、樹脂フィルムの製造装置は、延伸装置や乾燥装置を備えていなくてもよく、また、それぞれが1つずつではなく、複数個ずつ備えられたものであってもよい。また、樹脂フィルムの製造装置は、上記で説明した態様では、支持体として、無端ベルト支持体を備えたものを例示したが、図6に示すような、ドラム支持体7を備えたものであってもよい。なお、図6は、本発明の実施形態における、樹脂フィルムの製造装置の基本的な構成の他の一例を示す概略図である。具体的には、図6は、ドラム支持体7を使用した溶液流延製膜法による樹脂フィルムの製造装置の基本的な構成を示す概略図である。この樹脂フィルムの製造装置は、無端ベルト支持体6の代わりに、ドラム支持体7を備えたこと以外、図1に示す樹脂フィルムの製造装置と同様である。また、ドラム支持体7としては、例えば、表面にハードクロムめっき処理を施したステンレス鋼製の回転駆動ドラム等が挙げられる。
以下、本実施形態で使用する樹脂溶液(ドープ)の組成について説明する。
本実施形態で使用する樹脂溶液(ドープ)は、透明性樹脂を溶媒に溶解させたものである。
前記透明性樹脂は、溶液流延製膜法等によって基板状に成形したときに透明性を有する樹脂であればよく、特に制限されないが、溶液流延製膜法等による製造が容易であること、ハードコート層等の他の機能層との接着性に優れていること、光学的に等方性であること等が好ましい。なお、ここで透明性とは、可視光の透過率が60%以上であることであり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
前記透明性樹脂としては、具体的には、例えば、セルロースジアセテート樹脂、セルローストリアセテート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート樹脂等のアクリル系樹脂;ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む)系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、セロファン、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、シンジオタクティックポリスチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等のビニル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルケトンイミド樹脂;ポリアミド系樹脂;フッ素系樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、セルロースエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンを含む)系樹脂が好ましい。さらに、セルロースエステル系樹脂が好ましく、セルロースエステル系樹脂の中でも、セルロースアセテート樹脂、セルロースプロピオネート樹脂、セルロースブチレート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルローストリアセテート樹脂が好ましく、セルローストリアセテート樹脂が特に好ましい。また、前記透明性樹脂は、上記例示した透明性樹脂を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
次に、前記セルロースエステル系樹脂について説明する。
セルロースエステル系樹脂の数平均分子量は、30000〜200000であることが、樹脂フィルムに成型した場合の機械的強度が強く、かつ、溶液流延製膜法において適度なドープ粘度となる点で好ましい。また、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が、1〜5の範囲内であることが好ましく、1.4〜3.0の範囲内であることがより好ましい。
また、セルロースエステル系樹脂等の樹脂の平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーを用い測定できる。よって、これらを用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、その比を計算することができる。
セルロースエステル系樹脂は、炭素数が2〜4のアシル基を置換基として有しているものが好ましい。その置換度としては、例えば、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、XとYとの合計値が2.2以上2.95以下であって、Xが0より大きく2.95以下であることが好ましい。
また、アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。これらのセルロースエステル系樹脂は、公知の方法で合成することができる。アシル基の置換度の測定方法は、ASTM−D817−96の規定に準じて測定することができる。
前記セルロースエステル系樹脂の原料であるセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ(針葉樹由来、広葉樹由来)、ケナフ等を挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステル系樹脂はそれぞれ任意の割合で混合使用することができるが、綿花リンターを50質量%以上使用することが好ましい。これらのセルロースエステル系樹脂は、アシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いてセルロース原料と反応させて得ることができる。
本実施形態で使用される溶媒は、前記透明性樹脂に対する良溶媒を含有する溶媒を用いることができる。前記良溶媒は、使用する透明性樹脂によって異なる。例えば、透明性樹脂がセルロースエステル系樹脂の場合、セルロースエステルのアシル基置換度によって、良溶媒と貧溶媒とが変わり、例えばアセトンを溶媒として用いる時には、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶媒になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶媒となる。したがって、使用する透明性樹脂により、良溶媒及び貧溶媒が異なってくるので、一例としてセルロースエステル系樹脂の場合について説明する。
セルロースエステル系樹脂に対する良溶媒としては、例えば、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、ジオキソラン誘導体、シクロヘキサノン、蟻酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等が挙げられる。これらの中でも、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、ジオキソラン誘導体、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン等が好ましい。これらの良溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、ドープには、透明性樹脂が析出してこない範囲で、貧溶媒を含有させてもよい。セルロースエステル系樹脂に対する貧溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等の炭素原子数1〜8のアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸プロピル、モノクロルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらの貧溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、本実施形態で使用される樹脂溶液は、本発明の効果を阻害しない範囲で、前記透明性樹脂、及び前記溶媒以外の他の成分(添加剤)を含有してもよい。前記添加剤としては、例えば、微粒子、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤、導電性物質、難燃剤、滑剤、及びマット剤等が挙げられる。
前記微粒子は、使用目的に応じて適宜選択される。その使用目的としては、具体的には、例えば、透明性樹脂中に含有することによって、可視光を散乱させる場合や、すべり性を付与させる場合等が挙げられ、透明性樹脂中に前記微粒子を含有することによって、可視光の散乱及びすべり性の向上の両方を改善しうる。また、いずれを目的とした場合であっても、フィルムの透明性を損なわない程度に、前記微粒子の粒径や含有量を調整する必要がある。前記微粒子としては、酸化珪素等の無機微粒子であってもよいし、アクリル系樹脂等の有機微粒子であってもよい。
前記無機微粒子としては、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等の微粒子が挙げられる。この中でも、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等の微粒子が好ましく用いられる。
また、前記有機微粒子としては、ポリメチルメタクリレート樹脂等のアクリル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、メラミン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びポリフッ化エチレン系樹脂等からなる微粒子が挙げられる。この中でも、架橋ポリスチレン粒子、ポリメチルメタクリレート系粒子のアクリル系樹脂微粒子等が好ましい。
また、前記微粒子は、上記例示した微粒子を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記微粒子の平均粒子径としては、0.05〜10μmであることが好ましく、0.3〜5μmであることがより好ましい。微粒子の平均粒子径が小さすぎると、微粒子による機能性を充分に発揮できない傾向がある。また、大きすぎると、微粒子による機能性を充分に発揮できないだけでなく、樹脂フィルムの透光性も低下する傾向がある。なお、微粒子の平均粒子径は、樹脂フィルムの断面をTEM観察することによっても測定できるが、レーザ回折式粒度分布測定装置等を用いて測定することもできる。
前記微粒子の含有量は、前記透明性樹脂に対して0.01〜35質量%であることが好ましく、0.05〜30質量%であることがより好ましい。微粒子の含有量が少なすぎると、微粒子による機能性を充分に発揮できない傾向がある。また、多すぎると、樹脂フィルムの透光性が低下する傾向がある。
また、微粒子の形状は、特に限定されず、球状、平板状、針状等が挙げられ、球状であることが好ましい。
前記可塑剤としては、特に限定なく使用できるが、例えば、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等が挙げられる。前記可塑剤を含有させる場合、その含有量は、寸法安定性、加工性の点を考慮すると、セルロースエステル系樹脂に対して、1〜40質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましく、4〜15質量%であることがさらに好ましい。可塑剤の含有量が少なすぎると、スリット加工や打ち抜き加工した際、滑らかな切断面を得ることができず、切り屑の発生が多くなる傾向がある。すなわち、可塑剤を含有させる効果が充分に発揮できない。
前記酸化防止剤としては、特に限定なく使用できるが、例えば、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられる。また、前記酸化防止剤を含有させる場合、酸化防止剤の含有量は、セルロースエステル樹脂に対して質量割合で1ppm〜1.0%であることが好ましく、10〜1000ppmであることがより好ましい。
本実施形態に係る製造方法によって製造された樹脂フィルムは、その高い寸法安定性から、偏光板又は液晶表示用部材等に使用することが可能であり、この場合、偏光板又は液晶等の劣化防止のため、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
前記紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、且つ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。具体的には380nmの透過率が10%未満であることが好ましく、特に5%未満であることがより好ましい。前記紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤)、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。これらの中では、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましい。前記紫外線吸収剤の含有量は、紫外線吸収剤としての効果、透明性等を考慮し、0.1質量%〜2.5質量%であることが好ましく、0.8質量%〜2.0質量%であることがより好ましい。
前記熱安定剤としては、例えば、カオリン、タルク、けい藻土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩等が挙げられる。
前記導電性物質としては、特に限定はされないが、例えば、アニオン性高分子化合物等のイオン導電性物質、金属酸化物の微粒子等の導電性微粒子及び帯電防止剤等が挙げられる。前記導電性物質を含有させることによって、好ましいインピーダンスを有する樹脂フィルムを得ることができる。ここでイオン導電性物質とは、電気伝導性を示し、電気を運ぶ担体であるイオンを含有する物質のことである。
次にドープを調製する方法の一例として、透明性樹脂としてセルロースエステル系樹脂を用いた場合について説明する。
ドープを調製する時の、セルロースエステル系樹脂の溶解方法としては、特に限定なく、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせることによって、常圧における溶媒の沸点以上に加熱できることを利用し、常圧における沸点以上で溶媒にセルロースエステル系樹脂を溶解させることが、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止する点から好ましい。また、セルロースエステル系樹脂を貧溶媒と混合して湿潤又は膨潤させた後、さらに良溶媒を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
前記加圧は、窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、密閉容器に溶媒を加熱して、前記加熱によって溶媒の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。前記加熱は、外部から行うことが好ましく、例えば、ジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
セルロースエステル系樹脂を溶解させる時の溶媒の温度(加熱温度)は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度を高くしようとすると、前記加圧によって容器内の圧力を高くしなければならず、生産性が悪化する。よって、前記加熱温度は、45〜120℃であることが好ましい。また、前記圧力は、設定温度で溶媒が沸騰しないような圧力に調整される。もしくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチル等の溶媒にセルロースエステル系樹脂を溶解させることができる。
次に、得られたセルロースエステル系樹脂の溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。前記濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生しやすいという問題がある。このため絶対濾過精度が0.008mm以下の濾過材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾過材がより好ましい。
濾過材の材質は、特に制限はなく、通常の濾過材を使用することができる。例えば、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾過材や、セルロース繊維やレーヨンを用いた濾紙、ステンレススティール等の金属製の濾過材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過により、原料のセルロースエステル系樹脂の溶液に含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。前記輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に樹脂フィルムを置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm2以下であることが好ましい。
濾過は、特に限定なく、通常の方法で行うことができるが、溶媒の常圧での沸点以上で、且つ加圧下で溶媒が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。前記温度としては、35〜60℃であることが好ましい。前記濾圧は、小さい方が好ましく、例えば、1.6MPa以下であることが好ましい。
前記各添加剤を含有させる場合は、例えば、アルコールやメチレンクロライド、ジオキソランなどの有機溶媒に前記添加剤を溶解してからドープに添加するか、又は直接ドープ組成中に添加してもよい。また、無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、添加剤とセルロースエステル系樹脂とをデゾルバーやサンドミルを使用して、セルロースエステル系樹脂中に添加剤を分散したものをドープに添加することが好ましい。
得られたセルロースエステル系樹脂の溶液に前記微粒子を分散させる。分散させる方法は、特に限定なく、例えば、以下のようにして行うことができる。例えば、まず、分散用溶媒と微粒子を撹拌混合した後、分散機で分散を行う。これを微粒子分散液とする。この微粒子分散液を上記セルロースエステル系樹脂の溶液に加えて撹拌する。
前記分散用溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等の低級アルコール類が挙げられる。また、低級アルコール類に特に限定されないが、セルロースエステル系樹脂の溶液を調製する際に用いた溶媒と同様のものを用いることが好ましい。
前記分散機としては、特に限定なく使用でき、一般的な分散機を使用できる。分散機は、大きく分けてメディア分散機とメディアレス分散機に分けられるが、メディアレス分散機のほうかがヘイズが低くなる(透光性が高くなる)点から好ましい。前記メディア分散機としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ダイノミル等が挙げられる。また、前記メディアレス分散機としては、超音波型、遠心型、高圧型等が挙げられ、高圧型分散装置が好ましい。前記高圧分散装置とは、微粒子と溶媒とを混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。前記高圧分散装置としては、例えば、Microfluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザ(商品名マイクロフルイダイザ)、ナノマイザ社製ナノマイザ等が挙げられ、他にマントンゴーリン型高圧分散装置等も挙げられる。また、マントンゴーリン型高圧分散装置としては、例えばイズミフードマシナリ製ホモジナイザ、三和機械株式会社製のUHN−01等が挙げられる。
以上のような、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法によれば、樹脂フィルムを高速で製造しても、故障の発生が充分に抑制された樹脂フィルムを得ることができる。また、上述のようにして得られた樹脂フィルムは、透明性、耐熱性、耐湿性、及び加工性等にも優れたものである。具体的には、例えば、組成等によっても異なるが、得られた樹脂フィルムのヘイズは、1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。また、ヘイズのばらつきが小さい。具体的には、例えば、樹脂フィルムの幅方向に、端部及び中央部の3箇所のヘイズを測定し、測定されたヘイズの最大値と最小値との変化率が10%未満であることが好ましい。ここで、樹脂フィルムのヘイズの測定は、JIS K 7136に準じて測定できる。具体的には、例えば、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製のNDH2000型)等を用いて測定することができる。
また、ここで得られる樹脂フィルムの幅は、大型の液晶表示装置への使用、偏光板加工時の樹脂フィルムの使用効率、生産効率の点から、1000〜4000mmであることが好ましい。また、樹脂フィルムの膜厚は、液晶表示装置の薄型化、光学フィルムの生産安定化の観点等の点から、20〜70μmであることが好ましい。ここで膜厚とは、平均膜厚のことであり、株式会社ミツトヨ製の接触式膜厚計により、光学フィルムの幅方向に20〜200箇所、膜厚を測定し、その測定値の平均値を膜厚として示す。
(偏光板)
本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法によって得られた樹脂フィルムは、偏光板の保護フィルムとして用いることができる。このように樹脂フィルムを保護フィルムとして用いた偏光板は、偏光素子と、前記偏光素子の表面上に配置された透明保護フィルムとを備え、前記透明保護フィルムが、前記樹脂フィルムである。前記偏光素子とは、入射光を偏光に変えて射出する光学素子である。
前記偏光板としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬して延伸することによって作製される偏光素子の少なくとも一方の表面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて、前記樹脂フィルム又は前記積層フィルムを貼り合わせたものが好ましい。また、前記偏光素子のもう一方の表面にも、前記樹脂フィルムを積層させてもよいし、別の偏光板用の透明保護フィルムを積層させてもよい。この偏光板用の透明保護フィルムとしては、例えば、市販のセルロースエステルフィルムとして、KC8UX2M、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC8UY−HA、KC8UX−RHA(以上、コニカミノルタオプト株式会社製)等が好ましく用いられる。あるいは、セルロースエステルフィルム以外の環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート等の樹脂フィルムを用いてもよい。この場合は、ケン化適性が低いため、適当な接着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
前記偏光板は、上述のように、偏光素子の少なくとも一方の表面側に積層する保護フィルムとして、前記樹脂フィルムを使用したものである。その際、前記樹脂フィルムが位相差フィルムとして働く場合、樹脂フィルムの遅相軸が偏光素子の吸収軸に実質的に平行または直交するように配置されていることが好ましい。
また、前記偏光素子の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール系偏光フィルムが挙げられる。ポリビニルアルコール系偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものとがある。前記ポリビニルアルコール系フィルムとしては、エチレンで変性された変性ポリビニルアルコール系フィルムが好ましく用いられる。
前記偏光素子は、例えば、以下のようにして得られる。まず、ポリビニルアルコール水溶液を用いて製膜する。得られたポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸させた後染色するか、染色した後一軸延伸する。そして、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を施す。
前記偏光素子の膜厚は、5〜40μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。
該偏光素子の表面上に、セルロ−スエステル系樹脂フィルムを張り合わせる場合、完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせることが好ましい。また、セルロースエステル系樹脂フィルム以外の樹脂フィルムの場合は、適当な粘着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
上述のような偏光板は、透明保護フィルムとして、本実施形態に係る樹脂フィルムを用いる。この樹脂フィルムは、製造時に流延ダイの外表面に形成される皮膜の発生を抑制するための固化防止液の飛散による打点故障等の不具合の発生が抑制され、さらに、レタデーションや配向等の均一性の高い光学特性に優れたものであるので、得られた偏光板は、例えば、液晶表示装置に適用した際に、液晶表示装置の高画質化を実現できるものである。
(液晶表示装置)
また、前記偏光板は、液晶表示装置の偏光板として用いることができる。前記偏光板を備えた液晶表示装置は、液晶セルと、前記液晶セルを挟むように配置された2枚の偏光板とを備え、前記2枚の偏光板のうち少なくとも一方が、前記偏光板である。なお、液晶セルとは、一対の電極間に液晶物質が充填されたものであり、この電極に電圧を印加することで、液晶の配向状態が変化され、透過光量が制御される。このような液晶表示装置は、偏光板用の透明保護フィルムとして、前記偏光板を用いる。そうすることによって、コントラスト等が向上された、高画質な液晶表示装置が得られる。
本明細書は、上述したように、様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
本発明の一局面は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液を、走行する支持体上に流延ダイから流延して流延膜を形成する流延工程と、前記流延膜を前記支持体から剥離する剥離工程とを備え、前記流延工程において、前記流延ダイの、前記支持体の走行方向上流側に備えられ、前記支持体側が開放された減圧室を用い、前記減圧室が、前記減圧室の内部を吸気するための吸気管と、前記減圧室の、前記支持体の走行方向上流側の壁面に沿って延び、前記減圧室と前記支持体との隙間から流入された空気を前記吸気管まで流通可能な流路を形成するための遮風部材とを備え、前記上流側の壁面と前記遮風部材との間隔が、0.1〜100mmであることを特徴とする樹脂フィルムの製造方法である。
このような構成によれば、樹脂フィルムを高速で製造しても、故障の発生が充分に抑制された樹脂フィルムを製造することができる。このことは、以下のことによると考えられる。
まず、前記吸気管で前記減圧室の内部を吸気することで、前記減圧室の内部が減圧され、前記流延ダイで形成された流延リボンと前記支持体との密着性が高まると考えられる。さらに、前記吸気管で前記減圧室の内部を吸気する際、前記減圧室と前記支持体との隙間から流入された空気が、前記流路を好適に流通して、前記吸気管で吸引されると考えられる。このことにより、前記減圧室と前記支持体との隙間から流入された同伴風が、流延リボンに直接あたることを抑制できると考えられる。すなわち、樹脂フィルムの製造において、同伴風により発生する故障の発生を充分に抑制できると考えられる。これらのことから、樹脂フィルムを高速で製造して、減圧室内に流入される空気の量が増加しても、同伴風により発生する故障等の発生が充分に抑制された樹脂フィルムを製造することができると考えられる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記遮風部材と前記支持体との間隔が、0.05〜5mmであることが好ましい。
このような構成によれば、前記遮風部材と前記支持体との接触を抑制しつつ、故障の発生をより抑制することができる。このことは、前記遮風部材と前記支持体との接触を抑制できる程度に、前記遮風部材と前記支持体と近づけることによって、前記減圧室と前記支持体との隙間から流入された同伴風が、前記前記遮風部材と前記支持体との隙間を通過することを抑制できることによると考えられる。すなわち、同伴風の発生をより抑制できことによると考えられる。よって、前記遮風部材と前記支持体との接触を抑制しつつ、同伴風により発生する故障の発生をより抑制できると考えられる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記吸気管が、前記遮風部材より前記流延ダイに近い側に設けられ、前記遮風部材には、前記流路が前記減圧室と前記支持体との隙間から流入された空気を前記吸気管まで流通可能な流路となるように、前記支持体より前記吸気管に近い位置に間隙が形成されていることが好ましい。
このような構成によれば、樹脂フィルムの製造において、故障の発生をより抑制することができる。このことは、以下のことによると考えられる。
まず、上述したように、前記吸気管で前記減圧室の内部を吸気する際、前記減圧室と前記支持体との隙間から流入された空気が、前記流路を好適に流通して、前記吸気管で吸引することができると考えられる。さらに、前記減圧室内部の、前記流路以外の領域を、前記吸気管で好適に吸気できるので、前記減圧室内部を好適に減圧できると考えられる。これらのことから、同伴風の発生を抑制しつつ、前記流延リボンと前記支持体との密着性をより高めることができると考えられる。よって、樹脂フィルムの製造において、故障の発生をより抑制することができると考えられる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記減圧室が、前記吸気管より前記流延ダイに近い側に、前記減圧室の内部を仕切るための仕切り板を備えることが好ましい。
このような構成によれば、樹脂フィルムの製造において、故障の発生をより抑制することができる。このことは、以下のことによると考えられる。
前記吸気管で前記減圧室の内部を吸気する際、その吸気によって発生する空気の流れが、前記流延リボンに与える影響を低減させることできると考えられる。すなわち、前記吸気管により吸気される空間と、前記流延リボンと接する空間とを、前記仕切り板で仕切ることで、前記吸気管の吸気によって引き起こされる空気の流れが、前記流延リボンに対して与える影響、具体的には、前記流延リボンを揺らす等の影響を低減させることができると考えられる。以上のことから、樹脂フィルムの製造において、故障の発生をより抑制することができると考えられる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記減圧室が、前記流延ダイの、前記支持体の走行方向上流側の側面に対向した側面と、前記支持体に対向した側面とを有する構造物を備えることが好ましい。
このような構成によれば、樹脂フィルムの製造において、故障の発生をより抑制することができる。このことは、以下のことによると考えられる。
前記吸気管で前記減圧室の内部を吸気する際、その吸気によって発生する空気の流れが、前記流延ダイの、前記支持体の走行方向上流側の側面と前記構造物との間、及び前記支持体と前記構造物との間を通過することになる。よって、これらの空気の流れに、乱れの発生が抑制され、流延リボンの振動をより抑制できると考えられる。このことから、樹脂フィルムの製造において、故障の発生をより抑制することができると考えられる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
(ドープの調製)
まず、メチレンクロライド418質量部及びエタノール23質量部を入れた溶解タンクに、透明性樹脂としてセルローストリアセテート樹脂(アセチル基の置換度2.88)100質量部を添加し、さらに、トリフェニルホスフェート8質量部、エチルフタリルエチルグリコール2質量部、チヌビン326(BASFジャパン株式会社製)1質量部、及びアエロジル200V(日本アエロジル株式会社製)0.1質量部を添加した。そして、液温が80℃になるまで昇温させた後、3時間攪拌した。そうすることによって、樹脂溶液が得られた。その後、攪拌を終了し、液温が43℃になるまで放置した。そして、放置後の樹脂溶液を、濾過精度0.005mmの濾紙を使用して濾過した。濾過後の樹脂溶液を一晩放置することにより、樹脂溶液中の気泡を脱泡させた。このようにして得られた樹脂溶液を、ドープとして使用して、以下のように、樹脂フィルムを製造した。
(樹脂フィルムの製造)
まず、得られたドープの温度を35℃に、無端ベルト支持体の温度を20℃に調整した。そして、図1に示すような樹脂フィルムの製造装置を用い、走行速度(流延速度)70m/分の無端ベルト支持体に流延ダイ(コートハンガーダイ)からドープを流延した。無端ベルト支持体としては、ステンレス鋼(SUS316製)、かつ走査型原子間力顕微鏡(AFM)による3次元表面粗さ(Ra)が、平均1.0nmの超鏡面に研磨したエンドレスベルトからなる無端ベルト支持体を用いた。
また、流延ダイに備えられる減圧室としては、図2に示す構成のものを採用した。また、減圧室内の圧力が、大気圧より500Pa低くなるように、吸気管から減圧室内の空気を吸引した。そして、減圧室の、支持体の走行方向上流側の壁面と遮風部材との間隔(流路の幅)L1を、10mmとし、遮風部材と支持体との間隔L2を、3mmとし、減圧室と支持体との間隔L3を、1mmとした。
そして、無端ベルト支持体側の乾燥機から、30℃の乾燥風を、無端ベルト支持体上のウェブに送ることによって、ウェブを乾燥させる。その乾燥したウェブを、無端ベルト支持体からフィルムとして剥離した。
剥離したフィルムを、搬送ローラで搬送しながら、残留溶媒率が80質量%まで乾燥した。その乾燥したフィルムを、延伸装置(テンター)を用いて、100℃の環境下で、フィルムの両端をクリップで把持しながら、TD方向に6%延伸した後、クリップを解放した。そして、延伸されたフィルムを、搬送ローラで搬送しながら、乾燥装置を用いて125℃で乾燥させた。その後、乾燥したフィルムを巻取装置で巻き取ることによって、ロール状に巻き取られた樹脂フィルムが得られた。
このようにして得られた樹脂フィルムは、膜厚30μm、幅2000mm、巻取長3000mのセルローストリアセテートフィルムであった。
[実施例2〜6、比較例2,3]
実施例2〜6、比較例2,3は、L1を、下記表1の値に変更したこと以外、実施例1と同様である。
[実施例7〜9]
実施例7〜9は、L2を、下記表1の値に変更したこと以外、実施例1と同様である。
[比較例1]
比較例1は、流路を形成しないこと、すなわち、減圧室に遮風部材を備えないこと以外、実施例1と同様である。
上記のようにして得られた各樹脂フィルムに対して、以下の評価(横段むらの評価)を行い、その結果を、L1及びL2の値とともに、表1に示す。なお、遮風部材を備えていない場合、L1及びL2は、「−」と示す。
[横段むら]
得られた樹脂フィルムの厚みを、膜厚計(東京精密株式会社製の膜厚測定器DH−150)を用いて、樹脂フィルムの長手方向(搬送方向)に連続測定した。その連続測定により得られた測定値(チャート)から、樹脂フィルムの厚みの最大値と最小値との差、及び平均膜厚を算出した。その算出した値を用いて、下記式から、横段むらの評価に用いる評価値を算出した。
評価値(%)=最大値と最小値の差/平均膜厚×100
横段とは、樹脂フィルムに、搬送方向に垂直に延びる段である。このことから、樹脂フィルムの長手方向(搬送方向)に連続測定した厚みの最大値と最小値との差を、平均膜厚に対する割合を評価値として用いることで、横段の大きさが平均膜厚に対してどの程度の大きさであるかを評価できる。この評価値が大きいほど、横段が大きく、横段むらが大きいことを示す。また、この評価値が小さいほど、横段が小さく、横段むらが小さいことを示す。
具体的には、この評価値が、0.4%未満であれば、「◎」と評価し、0.4%以上0.6%未満であれば、「○」と評価し、0.6%以上0.8%未満であれば、「△」と評価し、0.8%以上であれば、「×」と評価した。
表1からわかるように、流延ダイの、支持体の走行方向上流側に備える減圧室に、幅L1が、0.1〜100mmとなる流路が形成されるように、遮蔽部材を備えた場合(実施例1〜9)は、遮蔽部材を備えない場合(比較例1)、流路の幅が0.1mm以下である場合(比較例2)、及び流路の幅が100mmを越える場合(比較例3)と比較して、横段むらの発生が抑えられている。このことから、幅L1が、0.1〜100mmとなる流路が形成されるように、遮蔽部材を備えることによって、樹脂フィルムの製造において、故障の発生を充分に抑制できることがわかった。
また、実施例1と実施例9との比較から、遮蔽部材と支持体との間隔L2が、5mm以下であるほうが、横段むらの発生をより抑制できることがわかった。さらに、実施例1と実施例7,8との比較から、遮蔽部材と支持体との間隔L2が狭いほど、横段むらの発生を抑制できることがわかった。これらのことから、遮蔽部材と支持体との接触を回避できる範囲内で、遮蔽部材と支持体との間隔L2が狭いことが好ましいことがわかった。
次に、減圧室内の構造を変化させた場合について検討する。例えば、減圧室内に、遮風部材以外の、仕切り板や構造物を備えた場合について検討する。
[実施例10]
流延速度を、70m/分から100m/分に変更したこと以外、実施例7と同様である。この変更は、流延速度を高めることにより、同伴風の影響が出やすく、横段むら等の故障の発生が起こりやすい状況への変更である。以後の実施例及び比較例は、この故障が発生しやすい流延速度で検討する。
このときの横段むらの評価は、「△」であった。
[実施例11]
流延ダイに備えられる減圧室としては、図3に示す構成のものを採用したこと以外、実施例10と同様である。なお、L1〜L3は、実施例7(実施例10)と同様であり、具体的には、L1は、10mmであり、L2は、2mmであり、L3は、1mmであった。
このときの横段むらの評価は、「○」であった。
[実施例12]
流延ダイに備えられる減圧室としては、図4に示す構成のものを採用したこと以外、実施例10と同様である。なお、L1〜L3は、実施例7(実施例10)と同様であり、具体的には、L1は、10mmであり、L2は、2mmであり、L3は、1mmであった。また、仕切り板と支持体との間隔L4は、5mmであった。
このときの横段むらの評価は、「◎」であった。
[実施例13]
流延ダイに備えられる減圧室としては、図3に示す構成のものに、図5に示す構造物を備えた構成のものを採用したこと以外、実施例10と同様である。なお、L1〜L3は、実施例7(実施例10)と同様であり、具体的には、L1は、10mmであり、L2は、2mmであり、L3は、1mmであった。また、構造物の流延ダイ対向側面と流延ダイの側面(斜面)との間隔L5は、1mmであった。また、構造物の支持体対向側面と支持体との間隔L6は、2mmであった。
このときの横段むらの評価は、「◎」であった。
[実施例14]
流延ダイに備えられる減圧室としては、図5に示す構成のものを採用したこと以外、実施例10と同様である。なお、L1〜L3は、実施例7(実施例10)と同様であり、具体的には、L1は、10mmであり、L2は、2mmであり、L3は、1mmであった。また、L4〜L6は、それぞれ、5mm、1mm、及び2mmであった。
このときの横段むらの評価は、「◎」であった。
[比較例4]
流延ダイに備えられる減圧室としては、図2に示す構成のものから、遮風部材を除去し、図4に示す仕切り板を備えた構成のものを採用したこと以外、実施例10と同様である。なお、減圧室の、上流側の壁面と仕切り板との間隔は、150mmであった。
このときの横段むらの評価は、「×」であった。
[比較例5]
流延ダイに備えられる減圧室としては、図3に示す構成のものから、遮風部材を除去し、図5に示す構造物を備えた構成のものを採用したこと以外、実施例10と同様である。
このときの横段むらの評価は、「×」であった。なお、L5及びL6は、それぞれ、1mm、及び2mmであった。
以上の結果から、まず、吸気管が、遮風部材より流延ダイに近い側に設けられ、遮風部材には、流路が減圧室と支持体との隙間から流入された空気を吸気管まで流通可能な流路となるように、支持体より吸気管に近い位置に間隙が形成されている場合(実施例11)は、流延速度を高め、故障の発生しやすい状況であっても、故障の発生を抑制することができることがわかった。また、減圧室に、遮風部材を備え、図4に示すような仕切り板や図5に示すような構造物をさらに備えた場合(実施例12〜14)は、故障の発生をより抑制することができることがわかった。