JPWO2014104089A1 - 2軸延伸ポリプロピレンフィルム - Google Patents

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Abstract

本発明の課題は、高温での耐熱性、寸法安定性に優れ、高剛性である2軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供する点にある。そして本発明は、固体NMRで測定されるα2型結晶量が全結晶中の23%以上であり、密度が0.910g/cm3以上であり、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が168℃以上であり、150℃での熱収縮率が15%以下であり、かつ、ヘイズが6%以下であることを特徴とする2軸延伸ポリプロピレンフィルムである点に特徴を有する。

Description

本発明は、延伸ポリプロピレンフィルムに関する。更に詳しくは、高温での寸法安定性や高い剛性が求められる様々な分野で好適に用いることができる、耐熱性、機械特性に優れた2軸延伸ポリプロピレンフィルムに関する。
従来、ポリプロピレンの延伸フィルムは食品や様々な商品の包装用、電気絶縁用、表面保護フィルムなど広範囲な用途で汎用的に用いられていた。しかし、従来のポリプロピレンフィルムは150℃での収縮率が数十%あり、PET等と比べると耐熱性が低く、また、剛性も低いため用途が制限されていた。
これらの問題を解決するため、高立体規則性を持ち、分子量分布の狭いポリプロピレンを用いて延伸フィルムとすることにより高温剛性、耐熱性のフィルムとする技術が知られていた(例えば特許文献1等参照)。
また、高立体規則性を持ち、分子量分布の広いポリプロピレンを用いて延伸フィルムとすることにより電気絶縁性、機械特性等に優れたキャパシターフィルムとして好適に用いることができるという技術が知られていた(例えば特許文献2等参照)。
さらにまた、低分子量であり、昇温分別法による0℃の可溶分量が特定の範囲のポリプロピレンを用いてセパレーターフィルムとする技術が知られており、このフィルムは乾燥工程、印刷工程での寸法安定性にも優れるとされていた(例えば特許文献3等参照)。
しかし、特許文献1〜3に記載のフィルムは延伸性に難があり、耐衝撃性など機械特性も劣るものであった。
長鎖分岐もしくは架橋されたポリプロピレンを微量添加することにより子ラメラの形成を促して延伸性を向上させ、機械特性、耐熱性、耐電圧特性に優れ、諸物性の均一性に優れるフィルムとする技術が知られていた(例えば特許文献4等参照)。
また、高分子量成分と低分子量成分をほぼ同量含み(低分子量成分が少ない)、分子量分布が広く、デカリン可溶分の少ないポリプロピレンを用いてフィルムとすることにより剛性と加工性とをバランスするという技術が知られていた(例えば特許文献5等参照)。
これら特許文献4〜5に記載のフィルムは、高温での耐熱性は十分なものとは言えず、高い耐熱性を持ち、耐衝撃性、透明性に優れたポリプロピレンフィルムは知られていなかった。つまり、これらは従来のポリプロピレンフィルムの域を超えるものではなく、その用途は限られたものであり、例えば150℃を超えるような高温での耐熱性については着目もされていなかった。
特開平8−325327号公報 特開2004−175932号公報 特開2001−146536号公報 特開2007−84813号公報 特表2008−540815号公報
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、150℃でPETに匹敵する低収縮率を有し、高剛性である延伸ポリプロピレンフィルムを提供することにある。
本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明の完成に至った。すなわち本発明は、固体NMRで測定されるα2型結晶量が全結晶中の23%以上であり、密度が0.910g/cm3以上であり、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が168℃以上であり、150℃での熱収縮率が15%以下であり、かつ、ヘイズが6%以下であることを特徴とする2軸延伸ポリプロピレンフィルムである。
この場合において、前記フィルムを構成するポリプロピレン樹脂のアイソタクチックメソペンタッド分率の下限が96%であること及び、フィルムの面配向係数の下限が0.0125であることが好適である。
また、この場合において、前記フィルムを構成するポリプロピレン樹脂の共重合モノマー量の上限が0.1mol%であることが好適である。
さらにまた、この場合において、前記フィルムを構成するポリプロピレン樹脂のキシレン可溶分が7質量%以下であることが好適である。
本発明により、延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、耐熱性や寸法安定性に優れるために、ヒートシール時の収縮による変形が抑えられるだけでなく、印刷時の見当ずれや変形が抑えられ、印刷加工の効率が著しく向上する。
さらに、本発明のポリプロピレンフィルムは150℃以上の環境下に晒されても諸物性を維持することができ、従来のポリプロピレンフィルムでは考えられなかったような高温の環境下でも使用することができる。
実施例1に記載のポリプロピレンフィルムの固体NMRスペクトルの一例である。
本発明は高温での寸法安定性、機械特性に優れた延伸ポリプロピレンフィルムに関する。本発明の延伸ポリプロピレンフィルムは、固体NMRで測定されるα2型結晶量が全結晶中の23%以上であり、密度が0.910g/cm3以上であり、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が168℃以上であり、150℃での熱収縮率が15%以下であり、かつ、ヘイズが6%以下であることを特徴とする2軸延伸ポリプロピレンフィルムである。
(ポリプロピレンの結晶多形)
ポリプロピレンはいくつかの結晶多形を有することが知られているが、通常はα型結晶が優先的に生成する。α型結晶には、α1型とα2型があることが知られているが、α1型結晶と比較して、α2型結晶は分子鎖の向きが揃った秩序性の高い結晶であり、安定性が高いと考えられる(参考文献:M.Hikosaka & T.Seto、Polymer Journal、111(5)、1973)。したがって、α2型結晶を多く含むことにより、種々の物性向上が期待できる。α2型結晶量は、広角X線回折法や固体NMR法により定量できるが、フィルムのような結晶配向が強い試料では、広角X線回折法で定量することは困難であるため、固体NMRを用いた方法が好ましい。固体NMRを用いる方法については、T.Miyoshiら、J.Phys.Chem.B、114、92−100(2010)に記載されている。
ところで、α1型結晶とα2型結晶は生成する温度の範囲が異なり、130℃以下の結晶化温度ではα1型が主体的に、150℃を超えるとα2型が主体的に生成する。しかし、温度が高いほど結晶化速度は低下し、例えば140℃を超えるような結晶化温度では、固化に要する時間が長いため、工業的にα2型結晶が多い製品を製造することは困難とされていた。
したがって、高温でのポリプロピレンの結晶化速度を向上させることが必要であるが、そのためには、立体規則性を高くしたプロピレンホモポリマーを用いることが好ましい。しかしながら、特に、延伸ポリプロピレンフィルムの用途では、生産性向上や物性などの観点から、延伸前原反の結晶化度を低下させるため、エチレンなどコモノマーを共重合したり、立体規則性を低くすることが行われることがある。このため、融点が低くなり、α2型結晶が多くできるような高温での延伸や熱固定が困難になる。
本発明者らは鋭意検討の結果、分子量分布が広いポリプロピレンホモポリマーを用い、高温で延伸や熱固定を行うことによって、α2型結晶が多く含まれるフィルムを製造することが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
(フィルムの結晶構造)
フィルム中に含まれるα2型結晶量の下限は、全結晶量の23%であり、好ましくは25%であり、より好ましくは26%であり、さらに好ましくは27%である。α2型結晶が23%よりも少ないと、耐熱性が不足する。フィルム中に含まれるα2型結晶量の上限は、全結晶量の90%が好ましく、より好ましくは85%であり、更に好ましくは70%以下である。α2型結晶量を90%を超えて増やすためには、結晶化時間が著しく長く必要となり、生産性に劣る。α2型結晶量は、延伸温度や熱固定温度を高くしたり、オフラインアニールを行うことで高くすることができる。
(フィルム物性)
本発明のポリプロピレンフィルムの密度の下限は0.910g/cm3であり、より好ましくは0.911g/cm3であり、さらに好ましくは0.912g/cm3であり、特に好ましくは0.913g/cm3である。上記範囲であると結晶性が高く熱収縮率が小さくなることがある。
フィルム密度の上限は好ましくは0.925g/cm3であり、より好ましくは0.922g/cm3であり、さらに好ましくは0.920g/cm3であり、特に好ましくは0.918g/cm3である。上記範囲であれば現実的な製造が容易となることがある。フィルム密度は、延伸倍率や温度を高くする、熱固定温度を高くする、さらにはオフラインアニールすることで高めることができる。
フィルムの融点(融解ピーク温度)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、20℃/分の速度で室温から230℃まで昇温した際に得られる融解吸熱カーブから融解吸熱ピークとして求めることができる。融点の下限は168℃であり、好ましくは169℃であり、より好ましくは170℃である。上記範囲であると高温での熱収縮率が小さくなることがある。融点の上限は好ましくは180℃であり、より好ましくは178℃であり、さらに好ましくは177℃である。上記範囲であると現実的な製造が容易となることがある。融点は、共重合モノマーを少なくする、またはなくす、延伸温度、熱固定温度を高温に設定するなどの手法により、上記範囲内とすることが出来る。
本発明のポリプロプレンフィルムのMD方向およびTD方向の150℃における熱収縮率の下限は好ましくは0.5%であり、より好ましくは1%であり、さらに好ましくは1.5%であり、特に好ましくは2%であり、最も好ましくは2.5%である。上記範囲であるとコスト面などで現実的な製造が容易となったり、厚みムラが小さくなったりすることがある。MD方向およびTD方向の150℃における熱収縮率の上限は15%であり、より好ましくは13%であり、さらに好ましくは12%であり、特に好ましくは11%であり、最も好ましくは10%である。上記範囲であると150℃程度の高温に晒される可能性のある用途での使用がより容易になる。なお、150℃熱収縮率は2.5%程度までなら、低分子量成分を多くする、延伸条件、固定条件を変更することで調整可能であるが、それ以下はオフラインでアニール処理をすることが好ましい。
本発明の延伸フィルムのヘイズは、現実的な値としての下限は好ましくは0.1%であり、より好ましくは0.2%であり、さらに好ましくは0.3%であり、特に好ましくは0.4%であり、最も好ましくは0.5%である。ヘイズの上限は6%であり、より好ましくは5%であり、さらに好ましくは4.5%であり、特に好ましくは4%であり、最も好ましくは3.5%である。上記範囲であると、透明性が要求される用途で使いやすくなることがある。ヘイズは延伸温度、熱固定温度が高すぎる場合、チルロール温度が高く冷却速度が遅い場合、低分子量成分が多すぎる場合に悪くなる傾向があり、これらを調節することで上記範囲内とすることが出来る。
本発明のポリプロプレンフィルムの面配向係数の下限は好ましくは0.0125であり、より好ましくは0.0126であり、さらに好ましくは0.0127であり、特に好ましくは0.0128である。面配向係数の上限は現実的な値として好ましくは0.0155であり、より好ましくは0.0150であり、さらに好ましくは0.0148であり、特に好ましくは0.0145である。面配向係数は延伸倍率の調整により範囲内とすることが出来る。この範囲であればフィルムの厚みムラも少なく良好である。
本発明のポリプロプレンフィルムのMD方向の屈折率(Nx)の下限は好ましくは1.502であり、より好ましくは1.503であり、さらに好ましくは1.504である。Nxの上限は好ましくは1.520であり、より好ましくは1.517であり、さらに好ましくは1.515である。
TD方向の屈折率(Ny)の下限は好ましくは1.523であり、より好ましくは1.525である。Nyの上限は好ましくは1.535であり、より好ましくは1.532である。
厚み方向の屈折率(Nz)の下限は好ましくは1.480であり、より好ましくは1.489であり、さらに好ましくは1.500である。Nzの上限は好ましくは1.510であり、より好ましくは1.507であり、さらに好ましくは1.505である。
本発明の延伸フィルムの耐衝撃性(室温、23℃)の下限は好ましくは0.5Jであり、より好ましくは0.6Jである。上記範囲であるとフィルムとして十分な強靱性があり、取り扱い時に破断したりすることがない。耐衝撃性の上限は現実的な面から好ましくは2Jであり、より好ましくは1.8Jであり、さらに好ましくは1.6Jであり、特に好ましくは1.5Jである。耐衝撃性は低分子量成分が多い場合、全体での分子量が低い場合、高分子量成分が少ない場合や高分子量成分の分子量が低い場合に耐衝撃性が低下する傾向となるため、用途に合わせて、これらの成分を調整して範囲内とすることが出来る。
延伸フィルムが二軸延伸フィルムである場合、MD方向のヤング率(23℃)の下限は好ましくは2GPaであり、より好ましくは2.1GPaであり、さらに好ましくは2.2GPaであり、特に好ましくは2.3GPaであり、最も好ましくは2.4GPaである。MD方向のヤング率の上限は好ましくは4GPaであり、より好ましくは3.7GPaであり、さらに好ましくは3.5GPaであり、特に好ましくは3.4GPaであり、最も好ましくは3.3GPaである。上記範囲であれば、現実的な製造が容易であったり、MD−TDバランスが良化することがある。
延伸フィルムが2軸延伸フィルムである場合、TD方向のヤング率(23℃)の下限は好ましくは3.8GPaであり、より好ましくは4GPaであり、さらに好ましくは4.2GPaであり、特に好ましくは4.3GPaである。TD方向のヤング率の上限は好ましくは8GPaであり、より好ましくは7.5GPaであり、さらに好ましくは7GPaであり、特に好ましくは6.5GPaである。上記範囲だと現実的な製造が容易であったり、MD−TDバランスが良化することがある。
なお、ヤング率は延伸倍率を高くすることで高めることができ、MD−TD延伸の場合はMD延伸倍率を低めに設定し、TD延伸倍率を高くすることでTD方向のヤング率を大きくすることができる。
本発明の延伸フィルムの厚み均一性の下限は好ましくは0%であり、より好ましくは0.1%であり、さらに好ましくは0.5%であり、特に好ましくは1%である。厚み均一性の上限は好ましくは20%であり、より好ましくは17%であり、さらに好ましくは15%であり、特に好ましくは12%であり、最も好ましくは10%である。上記範囲だとコートや印刷などの後加工時に不良が生じにくく、精密性を要求される用途に用いやすい。
(ポリプロピレン樹脂)
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、α2型結晶の生成に必要な高温での結晶化が生じることを阻害しない範囲で、プロピレン単独重合体や共重合モノマーとの共重合体であっても良い。共重合モノマー種としてはエチレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等が可能である。
本発明のフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は特徴的な広い分子量分布を有する。高分子の分子量を表すパラメータとしては、数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、Z+1平均分子量(Mz+1)、ピーク分子量(Mp)などが挙げられ、これらは、分子量(Mi)の分子数(Ni)により以下のように定義される。
数平均分子量:Mn=Σ(Ni・Mi)/ΣNi
質量平均分子量:Mw=Σ(Ni・Mi 2)/Σ(Ni・Mi
Z平均分子量:Mz=Σ(Ni・Mi 3)/Σ(Ni・Mi 2
Z+1平均分子量:Mz+1=Σ(Ni・Mi 4)/Σ(Ni・Mi 3
ピーク分子量:Mp(GPC曲線のピーク位置の分子量)
また、分子量分布を表すパラメータとしては、これらの平均分子量の比が一般的に用いられ、例えば、Mw/Mn、Mz/Mw、Mz/Mnなどが挙げられる。このような分子量や分子量分布の測定方法としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)が一般的に用いられる。
本発明に用いるポリプロピレン樹脂は、例えば低分子量成分を主とし、さらに非常に分子量の高い高分子量成分が含まれているのが好ましい。低分子量成分を主とすることで結晶性を大きく高めることができるだけでなく、α2型結晶量も多くでき、従来にはない高剛性、高耐熱性の延伸ポリプロピレンフィルムが得られていると考えられる。一方、低分子量のポリプロピレン樹脂は加熱軟化した場合の溶融張力が低く、一般には延伸フィルムとすることは困難である。そこに高分子量成分を数%〜数十%存在させることで、特にα2型結晶生成に有利な高温条件下において、延伸しやすくすると共に、高分子量成分が結晶核の役割を果たして、高温での結晶化速度を増大し、本発明の延伸フィルムの効果を達成しているものと考えられる。
このような分子量分布を表す指標としては、高分子量成分を重視した平均分子量としてはMz+1を用い、Mnとの比として得られるMz+1/Mnが好適である。Mz+1/Mnの下限は好ましくは50であり、より好ましくは60であり、さらに好ましくは70であり、特に好ましくは80であり、最も好ましくは90である。上記未満であると高温での低い熱収縮率など本発明の効果が得られにくくなることがある。Mz+1/Mnの上限は好ましくは300であり、より好ましくは200である。上記を超えると現実的な樹脂の製造が困難になることがある。
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体のMz+1の下限は好ましくは2500000であり、より好ましくは3000000であり、さらに好ましくは3300000であり、特に好ましくは3500000であり、最も好ましくは3700000である。Mz+1が2500000以上であると、高分子量成分が十分であり、本発明の効果が得られやすい。全体のMz+1の上限は好ましくは40000000であり、より好ましくは35000000であり、さらに好ましくは30000000である。Mz+1が40000000以下であれば、現実的な樹脂の製造が容易であったり、延伸が容易となったり、フィルム中のフィッシュアイが少なくなることがある。
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体のMnの下限は好ましくは20000であり、より好ましくは22000であり、さらに好ましくは24000であり、特に好ましくは26000であり、最も好ましくは27000である。Mnが上記範囲であると延伸が容易となる、厚み斑が小さくなる、延伸温度や熱固定温度が上げられやすく熱収縮率が低くなるという利点が生じることがある。全体のMnの上限は好ましくは65000であり、より好ましくは60000であり、さらに好ましくは55000であり、特に好ましくは53000であり、最も好ましくは52000である。Mnが上記範囲であると低分子量成分の効果である高温での低い熱収縮率など本発明の効果が得られやすくなったり、延伸容易となることがある。
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体のMwの下限は好ましくは250000であり、より好ましくは260000であり、さらに好ましくは270000であり、特に好ましくは280000であり、最も好ましくは290000である。上記範囲であると延伸が容易となる、厚み斑が小さくなる、延伸温度や熱固定温度を上げやすく熱収縮率が低くなるという利点が生じることがある。全体のMwの上限は好ましくは500000であり、より好ましくは450000であり、さらに好ましくは400000であり、特に好ましくは380000であり、最も好ましくは370000である。上記範囲であると機械的負荷が小さく延伸容易となることがある。
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kgf)の下限は好ましくは1g/10分であり、より好ましくは1.2g/10分であり、さらに好ましくは1.4g/10分であり、特に好ましくは1.5g/10分であり、最も好ましくは1.6g/10分である。上記範囲であると機械的負荷が小さく延伸が容易となることがある。全体のMFRの上限は好ましくは11g/10分であり、より好ましくは10g/10分であり、さらに好ましくは9g/10分であり、特に好ましくは8.5g/10分であり、最も好ましくは8g/10分である。上記範囲であると延伸が容易となったり、厚み斑が小さくなったり、延伸温度や熱固定温度が上げられやすく熱収縮率がより低くなることがある。
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体のGPC積算カーブを測定した場合、分子量1万以下の成分の量の下限は好ましくは2質量%であり、より好ましくは2.5質量%であり、さらに好ましくは3質量%であり、特に好ましくは3.3質量%であり、最も好ましくは3.5質量%である。上記範囲であると低分子量成分の効果である高温での低い熱収縮率など本発明の効果がより得られやすくなったり、延伸が容易となることがある。GPC積算カーブでの分子量1万以下の成分の量の上限は好ましくは20質量%であり、より好ましくは17質量%であり、さらに好ましくは15質量%であり、特に好ましくは14質量%であり、最も好ましくは13質量%である。上記範囲であると延伸が容易となったり、厚み斑が小さくなったり、延伸温度や熱固定温度が上げられやすく熱収縮率が低くなることがある。
分子量1万以下程度の分子は分子鎖同士の絡み合いには寄与せず、可塑剤的に分子同士の絡み合いをほぐす効果がある。分子量1万以下の成分の量が特定量含まれることで延伸時の分子の絡み合いがほどけやすく、低い延伸応力での延伸が可能となり、その結果として残留応力も低く高温での収縮率を低くできているものと考えられる。
GPC積算カーブでの分子量10万以下の成分の量の下限は好ましくは35質量%であり、より好ましくは38質量%であり、さらに好ましくは40質量%であり、特に好ましくは41質量%であり、最も好ましくは42質量%である。上記範囲であると低分子量成分の効果である高温での低い熱収縮率など本発明の効果が得られやすくなったり、延伸が容易となることがある。GPC積算カーブでの分子量10万以下の成分の量の上限は好ましくは65質量%であり、より好ましくは60質量%であり、さらに好ましくは58質量%であり、特に好ましくは56質量%であり、最も好ましくは55質量%である。上記範囲であると延伸が容易となったり、厚み斑が小さくなったり、延伸温度や熱固定温度が上げられやすく熱収縮率が低くなることがある。
このような分子量分布の特徴を有するポリプロピレン樹脂を得るために好ましく用いられる高分子量成分と低分子量成分に関して説明する。
(高分子量成分)
高分子量成分のMFR(230℃、2.16kgf)の下限は好ましくは0.0001g/10分であり、より好ましくは0.0005g/10分であり、さらに好ましくは0.001g/10分であり、特に好ましくは0.005g/10分である。上記範囲であると現実的な樹脂の製造が容易であったり、フィルムのフィッシュアイを低減できることがある。なお、高分子量成分の230℃、2.16kgfでのMFRは小さすぎて現実的測定が困難となる場合がある。10倍の荷重(21.6kgf)でのMFRであらわすと、好ましい下限は0.1g/10分であり、より好ましくは0.5g/10分であり、さらに好ましくは1g/10分であり、特に好ましくは5g/10分である。
高分子量成分のMFRの上限は好ましくは0.5g/10分であり、より好ましくは0.35g/10分であり、さらに好ましくは0.3g/10分であり、特に好ましくは0.2g/10分であり、最も好ましくは0.1g/10分である。上記範囲であると全体のMFRを維持するために多くの高分子量成分の量が必要でなく、低分子量成分の効果である高温での低い熱収縮率などの本発明の効果がより得られやすくなることがある。
高分子量成分のMwの下限は好ましくは500000であり、より好ましくは600000であり、さらに好ましくは700000であり、特に好ましくは800000であり、最も好ましくは1000000である。上記範囲であると全体のMFRを維持するために多くの高分子量成分の量が必要でなく、低分子量成分の効果である高温での低い熱収縮率などの本発明の効果がより得られやすくなることがある。
高分子量成分のMwの上限は好ましくは10000000であり、より好ましくは8000000であり、さらに好ましくは6000000であり、特に好ましくは5000000である。上記範囲であると現実的な樹脂の製造が容易であったり、フィルムのフィッシュアイを低減できることがある。
高分子量成分の量の下限は好ましくは2質量%であり、より好ましくは3質量%であり、さらに好ましくは4質量%であり、特に好ましくは5質量%である。上記範囲であると全体のMFRを維持するため低分子量成分の分子量を上げる必要がなく、高温での低い熱収縮率など本発明の効果がより得られやすくなることがある。
高分子量成分の量の上限は好ましくは30質量%であり、より好ましくは25質量%であり、さらに好ましくは22質量%であり、特に好ましくは20質量%である。上記範囲であると低分子量成分の効果である高温での低い熱収縮率など、本発明の効果がより得られやすくなることがある。
ここで、高分子量成分は、直鎖状のポリプロピレン樹脂の代わりに、長鎖分岐や架橋構造を有するポリプロピレン樹脂を用いることもでき、これは高溶融張力ポリプロピレンとして知られており、例えば、Borealis社製Daploy WB130HMS、WB135HMS等がある。
(低分子量成分)
低分子量成分のMFR(230℃、2.16kgf)の下限は好ましくは70g/10分であり、より好ましくは80g/10分であり、さらに好ましくは100g/10分であり、特に好ましくは150g/10分であり、最も好ましくは200g/10分である。上記範囲であると結晶性が良くなり、高温での低い熱収縮率など、本発明の効果がより得られやすくなることがある。
低分子量成分のMFRの上限は好ましくは2000g/10分であり、より好ましくは1800g/10分であり、さらに好ましくは1600g/10分であり、特に好ましくは1500g/10分であり、最も好ましくは1450g/10分である。上記範囲であると全体でのMFRを維持しやすくなり、製膜性に優れることがある。
低分子量成分のMwの下限は好ましくは50000であり、より好ましくは53000であり、さらに好ましくは55000であり、特に好ましくは60000であり、最も好ましくは70000である。上記範囲であると全体でのMFRを維持しやすくなり、製膜性に優れることがある。
低分子量成分のMwの上限は好ましくは150000であり、より好ましくは140000であり、さらに好ましくは130000であり、特に好ましくは120000であり、最も好ましくは110000である。上記範囲であると結晶性が良くなり、高温での低い熱収縮率など、本発明の効果がより得られやすくなることがある。
低分子量成分の量の下限は好ましくは40質量%であり、より好ましくは50質量%であり、さらに好ましくは55質量%であり、特に好ましくは60質量%である。上記範囲であると低分子量成分の効果である高温での低い熱収縮率など、本発明の効果がより得られやすくなることがある。
低分子量成分の量の上限は好ましくは98質量%であり、より好ましくは97質量%であり、さらに好ましくは96質量%であり、特に好ましくは95質量%である。上記範囲であると全体のMFRを維持するために低分子量成分の分子量を上げる必要がなく、高温での低い熱収縮率など本発明の効果がより得られやすくなることがある。
低分子量成分のMFR/高分子量成分のMFR比の下限は好ましくは500であり、より好ましくは1000であり、さらに好ましくは2000であり、特に好ましくは4000である。上記範囲であると高温での低い熱収縮率など本発明の効果がより得られやすくなることがある。なお、低分子量成分のMFR/高分子量成分のMFR比の上限は好ましくは1000000である。
高分子量成分、低分子量成分はそれぞれの成分に該当する2つ以上の樹脂の混合物であっても良く、その場合の配合量は合計量である。
高分子量成分、低分子量成分を用いてポリプロピレン樹脂の分子量分布を好ましい状態とするためには、例えば、用いる低分子量成分の分子量が低めの場合は高分子量成分の分子量を上げる、高分子量成分の量を増やすなどして分子量分布の状態を調整すると共に延伸フィルムとして製造しやすいMFRになるように調整することができる。
また、上記の高分子量成分や低分子量成分以外に、ポリプロピレン樹脂全体でのMFRを調整するために本発明の低分子量成分や高分子量成分以外の分子量を有する成分を添加しても良い。例えば、低分子量成分よりも大きく高分子量成分よりも小さいMwであるポリプロピレン(以下、中分子量成分という)を含んでいてもよい。
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体に対する中分子量成分の比率の下限は、用いる中分子量成分のMwにもよるが、好ましくは5質量%であり、より好ましくは10質量%であり、さらに好ましくは13質量%であり、特に好ましくは15質量%であり、最も好ましくは16質量%である。中分子量成分の比率が5質量%以上であるとフィッシュアイが低減できたり、延伸が容易となることがある。
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体に対する中分子量成分の比率の上限は好ましくは58質量%であり、より好ましくは56質量%であり、さらに好ましくは54質量%であり、特に好ましくは52質量%であり、最も好ましくは50質量%である。中分子量成分の比率が58質量%以下であると延伸が容易となったり、厚み斑が小さくなったり、延伸温度や熱固定温度が上げられやすく熱収縮率が低くなることがある。
さらに、分子鎖の絡み合いをほぐしやすくして延伸性などを調節するために好ましくはMw5万未満のポリプロピレン、さらに好ましくはMw3万以下のポリプロピレン樹脂、特に好ましくはMw1万以下のポリプロピレン樹脂を添加しても良い。
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体に対するMw5万未満のポリプロピレンの比率の下限は好ましくは0質量%であり、より好ましくは1質量%であり、さらに好ましくは2質量%であり、特に好ましくは3質量%であり、最も好ましくは4質量%である。Mw5万未満のポリプロピレンを添加することにより高温での低い熱収縮率など本発明の効果がより得られやすくなることがある。
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体に対するMw5万未満のポリプロピレンの比率の上限は好ましくは50質量%であり、より好ましくは45質量%であり、さらに好ましくは40質量%であり、特に好ましくは35質量%であり、最も好ましくは30質量%である。Mw5万未満のポリプロピレンの比率が50質量%以下であると延伸が容易となったり、厚み斑が小さくなることがある。
w5万未満のポリプロピレン分子は分子鎖同士の絡み合いが形成しにくく、可塑剤的にポリプロピレン樹脂全体の分子同士の絡み合いをほぐす効果がある。Mw5万未満のポリプロピレンの成分の量が特定量含まれることで、低い延伸応力での延伸が可能となり、その結果として残留応力も低く高温での収縮率を低くできているものと考えられる。
(ポリプロピレン樹脂の立体規則性)
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂の立体規則性の指標であるアイソタクチックメソペンタッド分率の下限は好ましくは96%であり、より好ましくは96.5%であり、さらに好ましくは97%である。上記範囲であると結晶性や融点が向上し、高温での熱収縮率がより低くなることがある。アイソタクチックメソペンタッド分率の上限は好ましくは99.5%であり、より好ましくは99.3%であり、さらに好ましくは99%である。上記範囲であると現実的な製造が容易となることがある。
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂の異種結合は認められないことが好ましい。なお、ここで、異種結合が認められないとは、13C−NMRでピークが見られないことを言う。
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂のキシレン可溶分の下限は現実的な面から好ましくは0.1質量%である。キシレン可溶分の上限は好ましくは7質量%であり、より好ましくは6質量%であり、さらに好ましくは5質量%である。上記範囲であると結晶性が向上し、高温での熱収縮率が小さくなることがある。
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂のアイソタクチックメソ平均連鎖長の下限は好ましくは100であり、より好ましくは120であり、さらに好ましくは130である。上記範囲であると結晶性が向上し、高温での熱収縮率が小さくなることがある。アイソタクチックメソ平均連鎖長の上限は現実的な面から好ましくは5000である。
フィルムを構成するポリプロピレン樹脂はプロピレンモノマーのみから得られる完全ホモポリプロピレンであることが最も好ましいが、微量であれば共重合モノマーとの共重合体であっても良い。共重合モノマー種としてはエチレン、ブテンが好ましい。
共重合モノマー量の上限は好ましくは0.1mol%であり、より好ましくは0.05mol%であり、さらに好ましくは0.01mol%である。上記範囲であると結晶性が向上し、高温での熱収縮率が小さくなることがある。
なお、従来の延伸ポリプロピレンフィルムは、工業的には完全なホモポリプロピレンでは、結晶性の高さや、溶融軟化後に急速に溶融張力が低下するなど、延伸できる条件範囲が非常に狭いために製膜しづらく、通常は0.5mol%前後の共重合成分(主にエチレン)を共重合していた。しかし、上記のような本発明の分子量分布状態のポリプロピレン樹脂は共重合成分がほとんどもしくは全くなくても溶融軟化後の張力低下が穏やかであり、工業的な延伸が可能である。
(ポリプロピレン樹脂の製造方法)
ポリプロピレン樹脂は、チーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒等の公知の触媒を用いて、原料となるプロピレンを重合させて得られる。中でも上記異種結合をなくすためには、チーグラー・ナッタ触媒を用い、その中でも立体規則性の高い重合が可能な触媒を用いることが好ましい。
プロピレンの重合方法としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン等の不活性溶剤中で重合する方法、液状のプロピレンやエチレン中で重合する方法、気体であるプロピレンやエチレン中に触媒を添加し、気相状態で重合する方法、または、これらを組み合わせて重合する方法が挙げられる。
高分子量成分、低分子量成分は別々に重合した後に混合しても良く、多段階の反応器で1連のプラントで製造しても良い。特に、多段階の反応器を持つプラントを用い、高分子量成分を最初に重合した後にその存在下で低分子量成分を重合する方法が好ましい。なお、分子量の調節は重合中に混在させる水素の量で行うことができる。
本発明のフィルム成形用樹脂組成物には、必要に応じて、添加剤やその他の樹脂を添加しても良いが、これらの成分は30質量%以下であることが好ましい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、粘着剤、防曇剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、無機または有機の充填剤等が挙げられる。その他の樹脂としては、本発明で用いられるポリプロピレン樹脂以外のポリプロピレン樹脂、エチレンやα−オレフィンとの共重合体であるランダムコポリマーや、各種エラストマー等が挙げられる。α―オレフィンには、ブテン、ヘキセン、オクテン等が挙げられる。これらは、ポリプロピレン樹脂とヘンシェルミキサーでブレンドするか、事前に溶融混錬機を用いて作製したマスターペレットを所定の濃度になるようにポリプロピレンで希釈するか、予め全量を溶融混練して使用しても良い。
このような特徴的分子量分布を持つポリプロピレン樹脂を用いることで、従来では十分な延伸が不可能であった低分子量成分を主体としたポリプロピレンを延伸することが可能となり、また、高い熱固定温度を採用することができ、高い結晶性、強い熱固定の相乗効果で、高温での熱収縮率を低くすることができているものと考えられる。
(ポリプロピレンフィルムの製造方法)
本発明の延伸フィルムとしては長手方向(MD方向)もしくは横方向(TD方向)の1軸延伸フィルムでも良いが、2軸延伸フィルムであることが好ましい。2軸延伸の場合は逐次2軸延伸であっても同時2軸延伸であっても良い。
延伸フィルムとすることで、従来のポリプロピレンフィルムでは予想できなかった150℃でも熱収縮率が低いフィルムを得ることができる。
以下に最も好ましい例である縦延伸−横延伸の逐次2軸延伸のフィルムの製造方法を説明する。
まず、ポリプロピレン樹脂を単軸または2軸の押し出し機で加熱溶融させ、チルロール上に押し出して未延伸フィルムを得る。
溶融押出し条件としては、樹脂温度として200〜280℃となるようにして、Tダイよりシート状に押出し、10〜100℃の温度の冷却ロールで冷却固化する。ついで、120〜160℃の延伸ロールでフィルムを長さ(MD)方向に3〜8倍に延伸し、引き続き幅(TD)方向に155℃〜175℃、好ましくは157℃〜170℃の温度で4〜15倍延伸を行う。
さらに、165〜175℃、好ましくは166〜173℃の雰囲気温度で1〜15%のリラックスを許しながら熱処理を施す。
こうして得られたポリプロピレンフィルムの少なくとも片面にコロナ放電処理を施した後、ワインダーで巻取ることによりロールフィルムを得ることができる。
MDの延伸倍率の下限は好ましくは3倍であり、より好ましくは3.5倍である。上記未満であると膜厚ムラとなることがある。MDの延伸倍率の上限は好ましくは8倍であり、より好ましくは7倍である。上記を超えると引き続き行うTD延伸がしにくくなることがある。
MDの延伸温度の下限は好ましくは120℃であり、より好ましくは125℃であり、さらに好ましくは130℃である。上記未満であると機械的負荷が大きくなったり、厚みムラが大きくなったり、フィルムの表面荒れが起こることがある。MDの延伸温度の上限は好ましくは165℃であり、より好ましくは160℃であり、さらに好ましくは155℃であり、特に好ましくは150℃である。温度が高い方が熱収縮率の低下には好ましいが、ロールに付着し延伸できなくなることがある。
TDの延伸倍率の下限は好ましくは4倍であり、より好ましくは5倍であり、さらに好ましくは6倍である。上記未満であると厚みムラとなることがある。TD延伸倍率の上限は好ましくは15倍であり、より好ましくは14倍であり、さらに好ましくは13倍である。上記を超えると熱収縮率が高くなったり、延伸時に破断することがある。
TD延伸での予熱温度は速やかに延伸温度付近にフィルム温度を上げるため、好ましくは延伸温度より5〜15℃高く設定する。TDの延伸では従来のポリプロピレンフィルムより高温で行う。TDの延伸温度の下限は好ましくは155℃であり、より好ましくは157℃であり、さらに好ましくは158℃である。上記未満であると、得られたフィルム中のα2型結晶の生成量が十分でないばかりでなく、延伸プロセス中で、フィルムが十分に軟化せずに破断したり、熱収縮率が高くなることがある。
TD延伸温度の上限は好ましくは175℃であり、より好ましくは170℃であり、さらに好ましくは168℃である。熱収縮率を低くするためには温度は高い方が好ましいが、上記を超えると低分子量成分が融解、再結晶化して表面荒れやフィルムが白化するだけでなく、延伸時に結晶化が進まず、α2型結晶分率が増大せずに、耐熱性が低下することがある。
延伸後のフィルムは熱固定される。熱固定は従来のポリプロピレンフィルムより高温で行うことが可能である。熱固定温度の下限は好ましくは165℃であり、より好ましくは166℃である。上記未満であると、得られたフィルム中のα2型結晶の生成量が十分でないばかりでなく、融点が低くなったり、熱収縮率が高くなることがある。また、熱収縮率を低くするために長時間が必要になり、生産性が劣ることがある。
熱固定温度の上限は好ましくは175℃であり、より好ましくは173℃である。上記を超えると低分子量成分が融解、再結晶化して表面荒れやフィルムが白化することがある。
熱固定時にリラックス(緩和)させることが好ましい。リラックスの下限は好ましくは1%であり、より好ましくは2%であり、さらに好ましくは3%である。上記未満であると熱収縮率が高くなることがある。リラックスの上限は好ましくは15%であり、より好ましくは10%であり、さらに好ましくは8%である。上記を超えると厚みムラが大きくなることがある。
さらに、熱収縮率を低下させるためには上記の工程で製造されたフィルムを一旦ロール状に巻き取った後、オフラインでアニールさせることもできる。
オフラインアニール温度の下限は好ましくは160℃であり、より好ましくは162℃であり、さらに好ましくは163℃である。上記未満であるとアニールの効果が得られないことがある。オフラインアニール温度の上限は好ましくは175℃であり、より好ましくは174℃であり、さらに好ましくは173℃である。上記を超えると透明性が低下したり、厚みムラが大きくなったりすることがある。
オフラインアニール時間の下限は好ましくは0.1分であり、より好ましくは0.5分であり、さらに好ましくは1分である。上記未満であるとアニールの効果が得られないことがある。オフラインアニール時間の上限は好ましくは30分であり、より好ましくは25分であり、さらに好ましくは20分である。上記を超えると生産性が低下することがある。
フィルムの厚みは各用途に合わせて設定されるが、フィルム厚みの下限は好ましくは2μmであり、より好ましくは3μmであり、さらに好ましくは4μmである。フィルム厚みの上限は好ましくは300μmであり、より好ましくは250μmであり、さらに好ましくは200μmであり、特に好ましくは100μmであり、最も好ましくは50μmである。
このようにして得られたポリプロピレンフィルムは通常、幅2000〜12000mm、長さ1000〜50000m程度のロールとして製膜され、ロール状に巻き取られる。さらに、各用途に合わせてスリットされ、幅300〜2000mm、長さ500〜5000m程度のスリットロールとして供される。
本発明のポリプロピレンフィルムは上記の様な従来にはない優れた特性を有する。
包装フィルムとしても用いた場合には、高剛性であるため薄肉化が可能であり、コストダウン、軽量化ができる。
また、耐熱性が高いため、コートや印刷の乾燥時に高温乾燥か可能となり、生産の効率化や従来用いられにくかったコート剤やインキ、ラミネート接着剤などを用いることができる。
さらには、コンデンサーやモーターなどの絶縁フィルム、太陽電池のバックシート、無機酸化物のバリアフィルム、ITOなどの透明導電フィルムのベースフィルムとして用いることも可能である。
なお本願は、2012年12月25日に出願された日本国特許出願第2012−281685号に基づく優先権の利益を主張するものである。2012年12月25日に出願された日本国特許出願第2012−281685号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
以下に本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。実施例における物性の測定方法は次のとおりである。
1)メルトフローレート(MFR、g/10分)
MFRは、JIS K7210に準拠し、温度230℃で測定した。
2)分子量および分子量分布
分子量および分子量分布は、GPCを用いて単分散ポリスチレン基準により求めた。
GPC測定での使用カラム、溶媒は以下のとおりである。
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン
カラム:TSKgel GMHHR−H(20)HT×3
流量:1.0ml/min
検出器:RI
測定温度:140℃
数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、Z+1平均分子量(Mz+1)はそれぞれ、分子量校正曲線を介して得られたGPC曲線の各溶出位置の分子量(Mi)の分子数(Ni)により次式で定義される。
数平均分子量:Mn=Σ(Ni・Mi)/ΣNi
質量平均分子量:Mw=Σ(Ni・Mi 2)/Σ(Ni・Mi
Z平均分子量:Mz=Σ(Ni・Mi 3)/Σ(Ni・Mi 2
Z+1平均分子量:Mz+1=Σ(Ni・Mi 4)/Σ(Ni・Mi 3
また、GPC曲線のピーク位置の分子量をMpとした。
ベースラインが明確でないときは、標準物質の溶出ピークに最も近い高分子量側の溶出ピークの高分子量側のすそ野の最も低い位置までの範囲でベースラインを設定することとする。
得られたGPC曲線から、分子量の異なる2つ以上の成分にピーク分離を行った。各成分の分子量分布はガウス関数を仮定し、それぞれのピーク幅がMw/Mn=4となるように設定した。得られた各成分のカーブから平均分子量をそれぞれ計算した。
また、フィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体のGPC曲線から、フィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体における分子量1万以下となる成分の比率及び分子量10万以下となる成分の比率を求めた。
3)立体規則性
アイソタクチックメソペンタッド分率(メソペンタッド分率、[mmmm])およびアイソタクチックメソ平均連鎖長(メソ平均連鎖長)の測定は、13C−NMRを用いて行った。アイソタクチックメソペンタッド分率は、Zambelliら、Macromolecules,第6巻,925頁(1973)に記載の方法に従い、アイソタクチックメソ平均連鎖長は、J.C.Randallによる、“Polymer Sequence Distribution”第2章(1977年)(Academic Press,New York)に記載の方法に従って算出した。
NMR測定は、BRUKER社製AVANCE500を用いて行い、試料200mgをo−ジクロロベンゼンと重ベンゼンの8:2の混合液に135℃で溶解し、110℃で13C−NMR測定を実施した。
4)固体NMR測定
各試料を300mgずつ、ZrO2ローター中に均一かつ密に充填した後、固体核磁気共鳴装置に挿入した。その後、ローターを外部磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜し、4000Hzの速度で回転させ、13C−NMR測定をCP/MAS法を用いて行った。条件を以下に記す。
装置名:BRUKER社製 AVANCE300
測定核:13
測定周波数:75.5MHz
回転数:4000Hz
待ち時間(D1):5秒
データ取り込み時間(Aq):34.9ms
フリップ角:90°
積算回数:3000〜10000回
測定温度:室温
得られた13C−NMRスペクトルに対して、T.Miyoshiら、J.Phys.Chem.B、114、92−100(2010)に記載の解析方法を適用し、α2型結晶の比率を算出した。リファレンスとして、α1型結晶の比率が100%である標準試料を用意して用いた。
5)密度(g/cm3
フィルムの密度は、JIS K7112に従って密度勾配管法により測定した。
6)融点(Tmp、℃)
島津製作所製DSC−60示差走査熱量計を用いて熱測定を行った。フィルムから約5mgの試料を切り出して測定用のアルミパンに封入した。20℃/分の速度で室温から230℃まで昇温し、試料の融解吸熱ピーク温度をTmpとした。
7)冷キシレン可溶部(CXS、質量%)
ポリプロピレン試料1gを沸騰キシレン200mlに溶解して放冷後、20℃の恒温水槽で1時間再結晶化させ、ろ過液に溶解している質量の、元の試料量に対する割合をCXS(質量%)とした。
8)熱収縮率(%)
JIS Z 1712に準拠して測定した。すなわち、延伸フィルムを20mm巾で200mmの長さでMD、TD方向にそれぞれカットし、熱風オーブン中に吊して5分間加熱した。加熱後の長さを測定し、元の長さに対する収縮した長さの割合で熱収縮率を求めた。
9)耐衝撃性
東洋精機製フィルムインパクトテスターを用いて、23℃にて測定した。
10)ヤング率(単位:GPa)
JIS K 7127に準拠して、MDおよびTDの引張強度を23℃で測定した。
11)ヘイズ(単位:%)
JIS K7105に従って測定した。
12)屈折率
アタゴ製アッベ屈折計を用いて測定した。MD、TD方向に沿った屈折率をそれぞれNx、Nyとし、厚み方向の屈折率をNzとした。
13)面配向係数
上記12)で測定したNx、Nyとし、厚み方向の屈折率をNzから[(Nx+Ny)/2]−Nzの式を用いて計算した。
14)厚み斑
巻き取ったフィルムロールから長さが1mの正方形のサンプルを切り出し、MD方向およびTD方向にそれぞれ10等分して測定用サンプルを100枚用意した。測定用サンプルのほぼ中央部を接触式のフィルム厚み計で厚みを測定した。
得られた100点のデータの平均値を求め、また最小値と最大値の差(絶対値)を求め、最小値と最大値の差の絶対値を平均値で除した値をフィルムの厚み斑とした。
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂として、Mw/Mn=7.7、Mz+1/Mn=140、MFR=5.0g/10分、[mmmm]=97.3%であるプロピレン単独重合体(日本ポリプロ(株)製:「ノバテック(登録商標)PP SA4L」)を用いた。60mm押出機を用いて、250℃でTダイよりシート状に押出し、30℃の冷却ロールで冷却固化した後、135℃で長さ方向に4.5倍に延伸し、次いで両端をクリップで挟み、熱風オーブン中に導いて、170℃で予熱後、160℃で横方向に8.2倍に延伸し、次いで6.7%のリラックスをさせながら168℃で熱処理した。その後、フィルムの片面にコロナ処理を行い、ワインダーで巻き取った。こうして得られたフィルムの厚みは20μmであり、表1、表2、表3に示すとおり、熱収縮率が低く、ヤング率が高いフィルムが得られた。図1に固体NMRで得られたスペクトルと、α1型結晶100%の試料のスペクトルを重ねて示す。これらの面積比から全結晶中のα2型結晶の分率(%)を求めた。
(実施例2)
SA4Lの90質量部に対して、分子量分布が狭く、分子量10000である低分子量プロピレン単独重合体を10質量部加え、30mmの2軸押出機にて溶融混錬して、混合物のペレットを得た。このペレットを、実施例1と同様な方法でフィルムを得た。ポリプロピレン樹脂の特性と得られたフィルムの物性を表1、表2、表3に示した。
(実施例3)
SA4Lの70質量部に対して、Mw/Mn=4.6、Mz+1/Mn=22、MFR=120g/10分、[mmmm]=98.1%であるプロピレン単独重合体を30質量部添加し、ドライブレンドした後、実施例1と同様な方法でフィルムを得た。ポリプロピレン樹脂の特性と得られたフィルムの物性を表1、2、3に示した。
(実施例4)
SA4Lを用い、横延伸における予熱温度を173℃、延伸温度と熱処理温度を167℃とした以外は、実施例1と同様な方法でフィルムを得た。ポリプロピレン樹脂の特性と得られたフィルムの物性を表1、表2、表3に示した。
(実施例5)
長さ方向に5.5倍、横方向に12倍延伸した以外は、実施例2と同様な方法でフィルムを得た。ポリプロピレン樹脂の特性と得られたフィルムの物性を表1、表2、表3に示した。
(実施例6)
実施例1で作製したフィルムを用いて、テンター式熱風オーブン中で、170℃で5分間熱処理を行った。ポリプロピレン樹脂の特性と得られたフィルムの物性を表1、表2、表3に示した。
(実施例7)
ポリプロピレン樹脂として、Mw/Mn=8.9、Mz+1/Mn=110、MFR=3.0g/10分、mmmm=97.1%であるプロピレン単独重合体(サムスントタル(株)製「HU300」)を用い、予熱温度を171℃、TD方向の延伸温度を161℃、熱固定温度を170℃とした以外は、実施例1と同様の方法でポリプロピレンフィルムを得た。ポリプロピレン樹脂の特性と、得られたフィルムの物性を表1、2、3に示した。
(比較例1)
ポリプロピレン樹脂として、住友化学(株)製の「住友(登録商標)ノーブレン(登録商標)FS2011DG3」を用い、縦延伸温度を125℃、横延伸における予熱温度を168℃、延伸温度を155℃、熱処理温度を163℃とした以外は、実施例1と同様な方法でフィルムを得た。Mw/Mn=4、Mz+1/Mn=21、MFR=2.5g/10分であった。ポリプロピレン樹脂の特性と得られたフィルムの物性を表1、表2、表3に示した。
(比較例2)
予熱温度を171℃、延伸温度を160℃、熱処理温度を165℃とした以外は、比較例1と同様にフィルムを作製した。ポリプロピレン樹脂の特性と得られたフィルムの物性を表1、表2、表3に示した。
(比較例3)
ポリプロピレン樹脂として、日本ポリプロ(株)製の「ノバテック(登録商標)PP SA03」(MFR=30g/10分)を用い、縦延伸温度を130℃とした以外は実施例1と同様に2軸延伸を試みたが、横延伸で破断してフィルムを得ることができなかった。
以上の実施例にて明らかなように、本発明の2軸延伸ポリプロピレンフィルムは、α2型結晶分率が高く、耐熱性に優れる。
本発明の2軸延伸ポリプロピレンフィルムは、包装用途、工業用途に広く使用することができるが、特に耐熱性、寸法安定性に優れるため、高温でのヒートシール用途、印刷加工等に適する。
また、耐熱性が高いため、コートや印刷の乾燥時に高温乾燥か可能となり、生産の効率化や従来用いられにくかったコート剤やインキ、ラミネート接着剤などを用いることができる。
さらには、コンデンサーやモーターなどの絶縁フィルム、太陽電池のバックシート、無機酸化物のバリアフィルム、ITOなどの透明導電フィルムのベースフィルムにも適している。

Claims (4)

  1. 固体NMRで測定されるα2型結晶量が全結晶中の23%以上であり、密度が0.910g/cm3以上であり、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が168℃以上であり、150℃での熱収縮率が15%以下であり、かつ、ヘイズが6%以下であることを特徴とする2軸延伸ポリプロピレンフィルム。
  2. フィルムを構成するポリプロピレン樹脂のアイソタクチックメソペンタッド分率の下限が96%であり、フィルムの面配向係数の下限が0.0125である請求項1に記載の2軸延伸ポリプロプレンフィルム。
  3. フィルムを構成するポリプロピレン樹脂の共重合モノマー量の上限が0.1mol%である請求項1または2に記載の2軸延伸ポリプロプレンフィルム。
  4. フィルムを構成するポリプロピレン樹脂のキシレン可溶分が7質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の2軸延伸ポリプロプレンフィルム。
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