JP7245026B2 - 樹脂フィルム、金属層一体型樹脂フィルム、及び、フィルムコンデンサ - Google Patents

樹脂フィルム、金属層一体型樹脂フィルム、及び、フィルムコンデンサ Download PDF

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Description

本発明は、樹脂フィルム、金属層一体型樹脂フィルム、及び、フィルムコンデンサに関する。
ポリプロピレンフィルムは、高い耐電圧性や低い誘電損失特性等の優れた電気特性を有し、且つ、高い耐湿性を有する。そのため、広く電子機器や電気機器に用いられている。具体的には、例えば、高電圧コンデンサ、各種スイッチング電源、フィルター用コンデンサ(例えば、コンバーター、インバーター等)、平滑用コンデンサ等に使用されるフィルムとして利用されている。
近年、コンデンサの小型化及び高容量化が更に要求されている。コンデンサの体積を変えないで静電容量を向上させるためには、誘電体としてのフィルムを薄くすることが好ましい。そのため、厚さがより薄いフィルムが求められている。
また、近年、ポリプロピレンフィルムは、電気自動車やハイブリッド自動車等の駆動モーターを制御するインバーター電源機器用コンデンサとして、広く用いられ始めている。自動車等に用いられるインバーター電源機器用コンデンサは、小型、軽量、高容量であり、且つ、広い温度範囲(例えば、-40℃~90℃)で、長期間にわたる高い耐電圧性が求められている。
特許文献1には、110℃での体積抵抗率が5×1014Ω・cm以上であるポリプロピレンフィルム、との記載がある(請求項5参照)。また、110℃での体積抵抗率が5×1014Ω・cmに満たない場合は、信頼性が損なわれる場合がある、との記載がある(段落[0028]参照)。また、信頼性の評価に関して、コンデンサ素子を解体し破壊の状態を調べて、信頼性を評価した、との記載があり(段落[0147])、具体的には、ステップ状に50VDC/1分で徐々に印加電圧を上昇させることを繰り返す操作により、静電容量が初期値に対して10%以下に減少するまで電圧を上昇させた後に、貫通状の破壊が観察されるか否かを評価している(段落[0141]、[0147]-段落[0151])。一般的には電気絶縁性を表す指標として、電圧を印可したときに生じる「絶縁破壊」と、長時間電圧を印可することによって徐々に進行する「絶縁劣化」に大別できる。特許文献1では短時間で高電圧を印加して評価していることから、貫通状の破壊は絶縁破壊を指していると考えられ、前者の特性が良好であることを効果としていると考えられる。つまり、特許文献1では、110℃での体積抵抗率を所定値以上とした場合には、貫通状の絶縁破壊が抑制され、短時間での絶縁耐力が良好であることが記載されていると考えられる。
国際公開第2016/182003号
一方、本発明者らは、長期間の使用に耐え得る信頼性の高いコンデンサを検討する中で、例えば、1000時間の寿命試験において静電容量の低下を抑制できたとしても、必ずしも長期間の使用に耐え得るとはいえないという知見を得た。つまり、コンデンサの寿命試験においては、実際の使用条件と同じ条件とし、且つ、実際の使用と同じ時間をかけて試験を行うことは不可能であるから、実際の使用条件よりもある程度高負荷とした上で、実際に想定している耐用時間よりも短い時間(例えば、1000時間)で測定を中止し、この時点での評価により、長期間の使用に耐え得るかを判断しているが、仮に1000時間の寿命試験において静電容量の低下を抑制できたとしても、そのことが必ずしも長期間の使用に耐え得るとはいえないという知見を得た。
本発明者らは、上記知見に関して鋭意検討を行った。その結果、寿命試験においてコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率を抑制すれば、長期間の使用に耐え得る信頼性の高いコンデンサが得られることを見出した。より具体的に説明すると、例えば、寿命試験において、コンデンサ素子の静電容量の低下が抑制できていたとしても、コンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)が初期値に比較して大きく低下している場合があることに気付いた。このような場合、その後仮に試験を続行していたならば、コンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下に起因して発熱量が増大し、指数関数的にコンデンサ素子の静電容量が低下する等して急激に性能が低下することとなる。つまり、本発明者らは、寿命試験におけるコンデンサ素子の静電容量の低下量は、寿命試験期間内における劣化具合を評価するものであり、寿命試験後の性能がどのようになるのかを明確に把握できるものとはいえないのではないかと考えた。一方、コンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下量(低下率)は、寿命試験期間内の劣化度合いを評価できる指標であると同時に、寿命試験後における劣化進行度合をも評価できる指標であると考えた。つまり、寿命試験期間内においてコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率が大きければ、その後試験を続行すると、指数関数的に静電容量が低下する等して急激に性能が低下することとなるため、寿命試験後における劣化進行度合をも評価できる指標であると考えた。
ところが、コンデンサ素子の寿命試験における絶縁抵抗値(IR)の低下をどのようにして抑制することができるかについては不明であった。
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率を抑制することが可能な樹脂フィルムを提供することにある。また、本発明は、当該樹脂フィルムを有する金属層一体型樹脂フィルム、及び、当該金属層一体型樹脂フィルムを有するフィルムコンデンサを提供することにある。
本発明者らは、この点について鋭意検討を行った。その結果、驚くべきことに、樹脂フィルムの体積抵抗率と比誘電率との積を所定値以上とすることにより、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
なお、従来、コンデンサ素子の寿命試験において、静電容量の低下が抑制できていれば、コンデンサの性能としては問題ないと評価できるという考え方が一般的であり、絶縁抵抗値(IR)については、初期値が問題なければ、その後の低下率を詳細に検討することは行われていない。
また、上述したように、特許文献1は、110℃でのフィルムの体積抵抗率を所定値以上とした場合には、コンデンサ素子の容量低下が抑制でき得ることや、高電圧を印加した場合の短時間絶縁破壊が防止でき得ることが記載されていると考えられるが、フィルムの体積抵抗率の値や、体積抵抗率と比誘電率との積を所定値以上とすることにより、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率を抑制できることについて記載はない。
また、詳細は後述するが、特許文献1におけるフィルムの体積抵抗率の測定方法は、本発明のフィルムの体積抵抗率の測定方法とは異なる。そして、特許文献1における体積抵抗率の測定方法では、体積抵抗率の値と、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率との相関を得ることはできない。従って、仮に、特許文献1における体積抵抗率の測定方法により得られる体積抵抗率が所定値以上の樹脂フィルムを得たとしても、当該樹脂フィルムが、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率を抑制できることにはならない。
本発明に係る樹脂フィルムは、
主成分として結晶性熱可塑性樹脂を含有し、
下記測定方法(1)により測定される23℃での体積抵抗率ρV23℃と下記測定方法(2)により測定される23℃での比誘電率εr23℃との積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であり、
下記測定方法(3)により測定される100℃での体積抵抗率ρV100℃と下記測定方法(4)により測定される100℃での比誘電率εr100℃との積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上であることを特徴とする。
<測定方法>
(1)23℃の雰囲気下で電位傾度200V/μmとなるように電圧を印加し、1分経過時点での電流値から次式により算出する。
ρV23℃=[(有効電極面積)×(印加電圧)]/[(樹脂フィルムの厚さ)×(電流値)]
(2)樹脂フィルムの両面に導電性ペーストを塗布、乾燥させて電極を形成し、得られた電極に導電性ペーストを用いて導線を取り付け、得られた試験用コンデンサの容量Cを23℃の雰囲気下で測定し、次式を用いてεr23℃を算出する。
(容量C)=(εr23℃)×(真空の誘電率ε)×[(電極面積)/(樹脂フィルムの厚さ)]
(3)100℃の雰囲気下で電位傾度200V/μmとなるように電圧を印加し、1分経過時点での電流値から次式により算出する。
ρV100℃=[(有効電極面積)×(印加電圧)]/[(樹脂フィルムの厚さ)×(電流値)]
(4)樹脂フィルムの両面に導電性ペーストを塗布、乾燥させて電極を形成し、得られた電極に導電性ペーストを用いて導線を取り付け、得られた試験用コンデンサの容量Cを100℃の雰囲気下で測定し、次式を用いてεr100℃を算出する。
(容量C)=(εr100℃)×(真空の誘電率ε)×[(電極面積)/(樹脂フィルムの厚さ)]
従来、フィルムの一般的な体積抵抗率の測定方法においては、測定値の精度として、桁数が信用のできる数値であり、桁数よりも詳細な数値については、誤差範囲とみなされている。しかしながら、桁数レベルの精度で測定したフィルムの体積抵抗率では、当該フィルムから製作したコンデンサ素子の寿命試験における絶縁抵抗値(IR)の低下率との明確な相関を得ることはできない。
一方、本発明では、23℃での体積抵抗率ρV23℃は、上記測定方法(1)により測定し、100℃での体積抵抗率ρV100℃は、上記測定方法(3)により測定する。これにより、フィルムの体積抵抗率を、桁数レベルよりもより高い精度で得ることができる。本発明における体積抵抗率の測定方法では、電位傾度を一定(本発明では、200V/μm)としている点が、精度向上の理由の1つである。
一般的に、オームの法則が成立する範囲内においては、どのような電圧で測定しても(どのような電位傾度で測定しても)体積抵抗率は、一定になる。しかしながら、オームの法則が成立しない領域(高電界領域)では、測定時の電圧に応じて体積抵抗率は、異なることになる。具体的には、測定時の電圧が高くなるほど(電位傾度が高くなるほど)、体積抵抗率は低く測定される。そのため、フィルムの体積抵抗率は、電位傾度を揃えた条件で比較することが重要である。
本発明では、電位傾度を一定として体積抵抗率を求めるため、例えば、複数種類のフィルムの体積抵抗率を測定した場合に、従来方法では、同一桁数であるからほぼ同一の体積抵抗率であると評価されていたものについて、明確に異なる値であるとすることが可能となる。そして、実施例からも分かるように、本発明における体積抵抗率の測定方法で得られるフィルムの体積抵抗率と、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率とは、よい相関が得られる。なお、比誘電率は、樹脂フィルムの分子構造と結晶形態に特有の値である。従って、本発明における体積抵抗率と比誘電率との積も、寿命試験における絶縁抵抗値(IR)の低下率とよい相関が得られる。
以上より、本発明におけるフィルムの体積抵抗率が大きいほど、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率は抑制される。
そして、積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であれば、23℃(常温)雰囲気下での実際の長期間の使用に耐え得る。
また、積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上であれば、100℃(高温)雰囲気下での実際の長期間の使用に耐え得る。
なお、積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であると、23℃(常温)雰囲気下での実際の長期間の使用に耐え得るとし、積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上であれば、100℃(高温)雰囲気下での実際の長期間の使用に耐え得るとしたのは、寿命試験における評価基準として、当該数値以上であれば、実際の長期間の使用に耐え得る可能性が極めて高いとの想定で設定したことによる。
また、本発明では、体積抵抗率ρV23℃ではなく、体積抵抗率ρV23℃と比誘電率εr23℃との積[ρV23℃×εr23℃]を用い、1×1016Ω・cm以上であるとしたのは次の理由による。
上述の通り、本発明におけるフィルムの体積抵抗率が大きいほど、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率は抑制される。従って、体積抵抗率は大きいほど好ましい。
一方、比誘電率は、大きいほど電気を貯める能力が高くなる。つまり、電極面積が同じであれば、比誘電率が大きいほど、コンデンサとしての静電容量は、大きくなる。そのため、比誘電率は大きいほど好ましい。
ここで、樹脂材料を検討すると、体積抵抗率が比較的大きいものの、比誘電率は比較的小さいものや、体積抵抗率が比較的小さいものの、比誘電率は比較的大きいもの等、種々の材料が存在する。
このような種々の材料を検討した際に、フィルムの体積抵抗率が比較的大きなものに関しては、寿命試験期間中におけるコンデンサ素子の漏れ電流が小さく抑えられ、コンデンサ素子の発熱が抑制される結果、絶縁抵抗(IR)の低下がより抑制されることになるため、劣化の進行度合いがより遅くなると予想される。そのため、比誘電率が比較的小さくても、性能として、実際の長期間の使用に耐え得ると考えられる。
反対に、フィルムの体積抵抗率が比較的小さいものに関しては、コンデンサ素子の絶縁抵抗(IR)は、体積抵抗率が比較的大きいものと比べると低下しやすく、劣化の進行度合いは、やや速くなると予想される。しかしながら、比誘電率が比較的大きい場合には、もともと電気を溜める能力が高い。そのため、(A)目的の静電容量を得るのに必要なフィルム面積(電極面積)を小さくできる、又は、(B)フィルム面積を維持したままフィルムの厚さを厚くすることができる。その結果、寿命試験期間中におけるコンデンサ素子の漏れ電流を低減することができ、発熱を抑制することができる。
この点につき、より詳細に説明する。
比誘電率の異なるフィルムを用いて静電容量がそれぞれ同一のコンデンサ素子を作製することを想定する。この想定において、比誘電率の比較的大きいフィルムを使用すると、漏れ電流の低減を達成するための選択肢として、次の(1)~(3)の3通りの中から選択可能となる点で有利である。
(1)フィルム厚さを維持したまま使用するフィルム面積を小さくする。
(2)フィルム面積は変えずにフィルムを厚くする。
(3)前2者の利点を取って、フィルムをやや厚めに、フィルム面積をやや小さめにする。
以上により、コンデンサ素子の絶縁抵抗(IR)の低下が、より抑制されることになり、実際の長期間の使用に耐え得ると考えられる。
そこで、体積抵抗率と比誘電率との積を、実際の長期間の使用に耐え得るか否かの指標として用いることにした。
また、上述した通り、比誘電率は、樹脂フィルムの分子構造(コンフォメーションやパッキング)に特有の値であるものの、従来の比誘電率の測定方法では、薄いフィルムの比誘電率を正確に測定することは困難であった。
一方、本発明では、23℃での比誘電率εr23℃は、上記測定方法(2)により測定し、100℃での比誘電率εr100℃は、上記測定方法(4)により測定する。これにより、薄い樹脂フィルムであっても、比誘電率を簡便、且つ、再現性良く測定することが可能となった。
以上より、積[ρV23℃×εr23℃]、及び、積[ρV100℃×εr100℃]の値について、より正確な値が得られる。
その結果、実際の長期間の使用に耐え得るか否かの指標として、より正確な値を得ることができる。
なお、特許文献1では、電圧100Vで1分間印加し、1分経過時点での体積抵抗値から、体積抵抗率を算出している(段落[0137]参照)。電圧印加に際し、フィルム厚さは考慮されていない。例えば、実施例8のフィルムは、厚さ2.3μmであるところ、電位傾度は、約43.5V/μm(100V/2.3μm)である。一方、実施例9のフィルムは、厚さ5.8μmであるところ、電位傾度は、約17.2V/μm(100V/5.8μm)である。上述した通り、オームの法則が成立しない領域(高電界領域)では、測定時の電圧に応じて体積抵抗率は、異なることになるため、特許文献1のような体積抵抗率の測定方法では、精度は低いと言わざるを得ない。
従って、仮に、特許文献1の方法により体積抵抗率を測定したとしても、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率との明確な相関を得ることはできない。
そもそも、特許文献1において、体積抵抗率は、高電圧を印加した場合のフィルムの貫通状破壊が抑制され、初期特性が良好であることを目的としており、長期使用におけるコンデンサ素子の品質の評価を目的とするものではない。従って、特許文献1には、体積抵抗率の値を用いて、コンデンサ素子の長期間の使用に耐え得るような評価を行おうとする動機付けは全く存在しないと言わざるを得ない。
なお、本明細書において「寿命試験」とは、実際の使用条件よりも過酷な温度や電圧を加えた状態でコンデンサ素子の劣化を促す加速試験であって、実際に想定している耐用使用時間よりも短い時間(例えば、1000時間)で測定を中止し、この時点での評価により、長期間の使用に耐え得るかを推定し、評価する試験をいう。
さらに、本発明に係る樹脂フィルムは、積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であり、かつ、積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上であり、コンデンサ素子の絶縁抵抗(IR)の低下が抑制されているため、静電容量Cの低下も抑制されている。その結果、(C・IR)の低下も抑制される。
なお、一般的に、コンデンサの静電容量Cが大きい(例えば、電極面積が広い、誘電体の厚みが薄い)と、絶縁抵抗(IR)は小さくなる(電流が漏れ易くなる)ことが知られている。一般的に、静電容量Cが異なってもコンデンサを公平に比較する指標として「CR積(静電容量×絶縁抵抗)」が使用されている。本明細書における(C・IR)は、このCR積と同義であり、静電容量Cが異なってもコンデンサを公平に比較することができる点で優れる。
前記構成の樹脂フィルムは、厚さが、0.8~6μmの範囲内であることが好ましい。
厚さが6μm以下であると、静電容量の低下をより抑制できる。また、静電容量の低下をより抑制できるため、(C・IR)の低下率(%)もより抑制できる。
また、前記樹脂フィルムの厚さが6μm以下であると、コンデンサ素子としたときの単位体積当たりの静電容量を大きくすることができるため、コンデンサ用として好適に使用できる。また、前記樹脂フィルムの厚さが0.8μm以上であると、フィルムの製膜安定性の観点から好ましい。
前記構成の樹脂フィルムは、コンデンサ用であることが好ましい。
積[ρV23℃×εr23℃]及び積[ρV100℃×εr100℃]が所定値以上である前記樹脂フィルムは、コンデンサ素子の寿命試験における絶縁抵抗値(IR)の低下率が抑制されるため、コンデンサ用として好適に使用できる。
前記構成の樹脂フィルムは、二軸延伸されていることが好ましい。
二軸延伸されていると、積[ρV23℃×εr23℃]及び積[ρV100℃×εr100℃]が所定値以上である樹脂フィルムとし易い。
前記構成の樹脂フィルムは、厚さが、0.8~22μmの範囲内であることが好ましい。
厚さが、0.8~22μmの範囲内であると、静電容量を大きくすることができるため、コンデンサ用として好適に使用できる。
前記構成の樹脂フィルムにおいて、前記結晶性熱可塑性樹脂は、(a)主鎖が脂肪族炭化水素である、(b)主鎖にアミド結合を有する、(c)主鎖にエーテル結合を有する、のうち、少なくとも1つを満たすことが好ましい。
(a)主鎖が脂肪族炭化水素である、(b)主鎖にアミド結合を有する、(c)主鎖にエーテル結合を有する、のうち、少なくとも1つを満たす結晶性熱可塑性樹脂は、融点が比較的高い。従って、前記結晶性熱可塑性樹脂が、上記(a)~(c)のうち少なくとも1つを満たすと、耐熱性に優れる。
前記構成の樹脂フィルムにおいて、前記結晶性熱可塑性樹脂の主鎖を構成する炭素原子には、それぞれ少なくとも1つの水素原子が結合していることも好ましい。
前記結晶性熱可塑性樹脂の主鎖を構成する炭素原子に、それぞれ少なくとも1つの水素原子が結合していると、誘電体として好適となる。例えば、主鎖を構成する炭素原子に塩素原子やフッ素原子のみが結合し、水素原子が結合していない場合、強誘電体となるおそれがあり、電圧を印加した際に逆圧電効果によるフィルムの変形(歪み)が懸念される。なお、強誘電体であっても、コンデンサ用として使用することが不可能であるわけではない。
前記構成の樹脂フィルムにおいて、前記積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であり、
前記積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上であり、
前記比誘電率εr100℃が2以上5以下であることが好ましい。
前記積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であり、前記積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上であり、前記比誘電率εr100℃が2以上5以下であると、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率がより抑制される。
前記構成の樹脂フィルムにおいて、log10[(ρV23℃×εr23℃)/(ρV100℃×εr100℃)]が5以下であることが好ましい。
前記log10[(ρV23℃×εr23℃)/(ρV100℃×εr100℃)]が5以下であると、23℃(常温)と100℃(高温)とにおいて、寿命試験における絶縁抵抗値(IR)の低下率の差異が少ないといえる。つまり、前記log10[(ρV23℃×εr23℃)/(ρV100℃×εr100℃)]は、耐熱性を示す指標として使用することができ、この指標が5以下であると、より耐熱性に優れるといえる。
前記構成の樹脂フィルムにおいて、前記結晶性熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
ポリプロピレン樹脂は、体積抵抗率が比較的高い樹脂であるため、前記結晶性熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン樹脂であると、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率を好適に抑制できる。
前記樹脂フィルムを構成する樹脂中の灰分は、5ppm以上35ppm以下が好ましい。
前記樹脂フィルムを構成する樹脂(原料樹脂)中の灰分が、5ppm以上35ppm以下であると、極性をもった低分子成分の生成を抑制しつつコンデンサとしての電気特性を向上させることができる。
前記構成の樹脂フィルムにおいては、ヘプタン不溶分が、96%以上99.5%以下であることが好ましい。
ヘプタン不溶分は、多いほど樹脂の立体規則性が高いことを示す。前記樹脂フィルムのヘプタン不溶分(HI)が、96%以上99.5%以下であると、適度に高い立体規則性により、樹脂の結晶性が適度に向上し、高温下での耐電圧性が向上する。一方、キャスト原反シート成形の際の固化(結晶化)の速度が適度となり、適度の延伸性を有する。
前記構成の樹脂フィルムにおいては、分子量分布[(重量平均分子量Mw)/(数平均分子量Mn)]が、5以上12以下であることが好ましい。
前記樹脂フィルムの分子量分布[(重量平均分子量Mw)/(数平均分子量Mn)]が、前記範囲内にあると、二軸延伸時に適度な樹脂流動性が得られ、厚みムラのない極薄化された二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ることが容易となる。それに加えて、高分子量成分、低分子量成分の分布の構成を調整することで、二軸延伸樹脂フィルムを用いて構成されたコンデンサの耐電圧性をより向上させることができる。
前記構成の樹脂フィルムにおいては、広角X線回折法により測定されるα晶(040)面の反射ピークの半価幅からScherrerの式を用いて求められる結晶子サイズが、9nm以上15nm以下であることが好ましい。
前記樹脂フィルムの前記結晶子サイズが、15nm以下であると、漏れ電流が小さくなり、常温や高温での耐電圧性が好ましく向上する。一方、前記結晶子サイズが9nm以上であると、樹脂フィルム(特に、ポリプロピレンフィルム)の機械的強度及び融点を維持する観点から好ましい。
前記構成の樹脂フィルムにおいては、面配向係数が0.010~0.016であることが好ましい。
前記樹脂フィルムの面配向係数が前記範囲内にあると、高温且つ高電圧下における絶縁破壊をより低減できるため好ましい。
前記構成の樹脂フィルムにおいては、融点が170℃以上176℃以下であることが好ましい。
前記樹脂フィルムの融点が170℃以上であると、高温下の耐電圧性や熱寸法安定性に優れる。一方、176℃以下であると、フィルムの剛性が適度になり、延伸フィルムとして形成が容易になる。
前記構成の樹脂フィルムにおいては、融解エンタルピーが90J/g以上125J/g以下であることが好ましい。
前記樹脂フィルムの融解エンタルピーが90J/g以上であると、結晶子が強固となるため、好ましい。一方、125J/g以下であると、結晶子サイズが適度に小さくなるため好ましい。
また、本発明に係る金属層一体型樹脂フィルムは、
前記樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの片面又は両面に積層された金属層とを有することを特徴とする。
前記構成によれば、前記樹脂フィルムの片面又は両面に積層された金属層を有するため、樹脂フィルムを誘電体とし、金属層を電極としたフィルムコンデンサに使用することができる。また、前記積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であり、前記積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上である前記樹脂フィルムを有するため、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率が抑制されている。
また、本発明に係るフィルムコンデンサは、巻回された前記金属層一体型樹脂フィルムを有するか、又は、前記金属層一体型樹脂フィルムが複数積層された構成を有することを特徴とする。
本発明によれば、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率を抑制することが可能な樹脂フィルムを提供することができる。また、当該樹脂フィルムを有する金属層一体型樹脂フィルム、及び、当該金属層一体型樹脂フィルムを有するフィルムコンデンサを提供することができる。
以下、本発明の実施形態について、説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
本明細書中において、「含有」、「含む」という表現は、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」、「のみからなる」という概念を含む。
本明細書において、「素子」「コンデンサ」「コンデンサ素子」「フィルムコンデンサ」は同じものを意味する。
本実施形態に係る樹脂フィルムは、
主成分として結晶性熱可塑性樹脂を含有し、
下記測定方法(1)により測定される23℃での体積抵抗率ρV23℃と下記測定方法(2)により測定される23℃での比誘電率εr23℃との積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であり、
下記測定方法(3)により測定される100℃での体積抵抗率ρV100℃と下記測定方法(4)により測定される100℃での比誘電率εr100℃との積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上である。
<測定方法>
(1)23℃の雰囲気下で電位傾度200V/μmとなるように電圧を印加し、1分経過時点での電流値から次式により算出する。
ρV23℃=[(有効電極面積)×(印加電圧)]/[(樹脂フィルムの厚さ)×(電流値)]
(2)樹脂フィルムの両面に導電性ペーストを塗布、乾燥させて電極を形成し、得られた電極に導電性ペーストを用いて導線を取り付け、得られた試験用コンデンサの容量Cを23℃の雰囲気下で測定し、次式を用いてεr23℃を算出する。
(容量C)=(εr23℃)×(真空の誘電率ε)×[(電極面積)/(樹脂フィルムの厚さ)]
(3)100℃の雰囲気下で電位傾度200V/μmとなるように電圧を印加し、1分経過時点での電流値から次式により算出する。
ρV100℃=[(有効電極面積)×(印加電圧)]/[(樹脂フィルムの厚さ)×(電流値)]
(4)樹脂フィルムの両面に導電性ペーストを塗布、乾燥させて電極を形成し、得られた電極に導電性ペーストを用いて導線を取り付け、得られた試験用コンデンサの容量Cを100℃の雰囲気下で測定し、次式を用いてεr100℃を算出する。
(容量C)=(εr100℃)×(真空の誘電率ε)×[(電極面積)/(樹脂フィルムの厚さ)]
上記測定方法(1)について、詳細に説明する。以下の説明において、特に記載のない測定条件は、JIS C 2139に準拠する。
まず、23℃環境の恒温槽に、体積抵抗率測定用ジグ(以下、単に、「ジグ」ともいう)を配置する。体積抵抗率測定用ジグの構成は下記の通りである。また、ジグの各電極には、直流電源、直流電流計を接続する。
<体積抵抗率測定用ジグ>
主電極(直径50mm)
対電極(直径85mm)
主電極を囲うリング状のガード電極(外径80mm、内径70mm)
各電極は、金メッキされた銅製で、試料と接する面には導電ゴムが貼付されている。使用した導電ゴムは、信越シリコーン社製、EC-60BL(W300)で、導電ゴムの光沢のある面を、金メッキされた銅と接するように貼付する。
次に、樹脂フィルム(以下、試料ともいう)を23℃、50%RHの環境に24時間置く。その後、試料を恒温槽内のジグにセットする。具体的には、試料の一方の面に、主電極、及び、ガード電極を密着させ、他方の面に対電極を密着させ、荷重5kgfで試料と各電極を密着させる。その後、30分間静置する。
次に、電位傾度200V/μmとなるように試料に電圧を印加する。
電圧の印加後、1分経過時点での電流値を読み取り、次式により体積抵抗率を算出する。なお、電圧の印加にはKeithley社製の2290-10(直流電源)を用い、電流値の測定には、Keithley社製の2635B(直流電流計)を用いる。
体積抵抗率=[(有効電極面積)×(印加電圧)]/[(試料の厚さ)×(電流値)]
ここで、有効電極面積は、下記式により求める。
(有効電極面積)=π×[[[(主電極の直径)+(ガード電極の内径)]/2]/2]
本実施形態では、有効電極面積を、主電極の面積とはせず、主電極とガード電極との離間部分のうち、主電極から同じ、又は、主電極よりも近い部分を有効電極面積としている。これにより、より正確な電流値の測定を可能としている。
以上、測定方法(1)について説明した。
次に、上記測定方法(2)について、詳細に説明する。
まず、樹脂フィルム(以下、試料ともいう)の一方の面に直径30mmの型枠を当てて、導電性ペーストを塗布する。溶媒が充分に揮発し、型枠を外しても導電性ペーストが流れださなくなった後、型枠を外し、半日放置する。これにより電極を形成する。次に、試料の他方の面にフィルムを挟んで先の電極と重なるように、同様にして電極を形成する。以上により、両面に各直径30mmの電極を有するコンデンサを得る。
作成したコンデンサを測定装置と接続するために、コンデンサの各電極部分に導線を導電性ペーストで接続する。このとき、各導線がフィルムを挟んで対向すると、導線部分においても静電容量が形成されてしまうので、各導線はできるだけ離した位置で接続する。前記導線としては、特に限定されないが、錫メッキ銅が挙げられる。
次に、各導線を測定装置に接続し、作成したコンデンサの容量Cを測定する。測定は、23℃に設定された恒温槽内に、30分静置した後、下記条件にて行う。
<測定条件>
印加電圧:1V
測定周波数:1kHz
その後、次式を用いて比誘電率εr23℃を算出する。
(容量C)=(εr23℃)×(真空の誘電率ε)×[(電極面積)/(樹脂フィルムの厚さ)]
以上、測定方法(2)について説明した。
上記測定方法(3)の詳細は、恒温槽の温度を100℃とすること以外は、上記測定方法(1)と同様である。従って、ここでの詳細な説明は省略する。
上記測定方法(4)の詳細は、恒温槽の温度を100℃とすること以外は、上記測定方法(2)と同様である。従って、ここでの詳細な説明は省略する。
従来、フィルムの一般的な体積抵抗率の測定方法においては、測定値の精度として、桁数が信用のできる数値であり、桁数よりも詳細な数値については、誤差範囲とみなされている。しかしながら、桁数レベルの精度で測定したフィルムの体積抵抗率では、当該フィルムから製作したコンデンサ素子の寿命試験における絶縁抵抗値(IR)の低下率との明確な相関を得ることはできない。
一方、本実施形態では、23℃での体積抵抗率ρV23℃は、上記測定方法(1)により測定し、100℃での体積抵抗率ρV100℃は、上記測定方法(3)により測定する。これにより、フィルムの体積抵抗率を、桁数レベルよりもより高い精度で得ることができる。本実施形態における体積抵抗率の測定方法では、電位傾度を一定(本実施形態では、200V/μm)としている点が、精度向上の理由の1つである。
一般的に、オームの法則が成立する範囲内においては、どのような電圧で測定しても(どのような電位傾度で測定しても)体積抵抗率は、一定になる。しかしながら、オームの法則が成立しない領域(高電界領域)では、測定時の電圧に応じて体積抵抗率は、異なることになる。具体的には、測定時の電圧が高くなるほど(電位傾度が高くなるほど)、体積抵抗率は低く測定される。そのため、フィルムの体積抵抗率は、電位傾度を揃えた条件で比較することが重要である。
本実施形態では、電位傾度を一定として体積抵抗率を求めるため、例えば、複数種類のフィルムの体積抵抗率を測定した場合に、従来方法では、同一桁数であるからほぼ同一の体積抵抗率であると評価されていたものについて、明確に異なる値であるとすることが可能となる。そして、実施例からも分かるように、本実施形態における体積抵抗率の測定方法で得られるフィルムの体積抵抗率と、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率とは、よい相関が得られる。なお、比誘電率は、樹脂フィルムの分子構造(コンフォメーションやパッキング)に特有の値である。従って、本実施形態における体積抵抗率と比誘電率との積も、寿命試験における絶縁抵抗値(IR)の低下率とよい相関が得られる。
また、本実施形態では、測定した電流値から体積抵抗率を算出する際、有効電極面積を、主電極の面積とはせず、主電極とガード電極との離間部分のうち、主電極から同じ、又は、主電極よりも近い部分を有効電極面積としている。これにより、より正確な電流値の測定を可能としている。
以上より、本実施形態における体積抵抗率が大きいほど、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率は抑制される。
そして、積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であれば、23℃(常温)雰囲気下での実際の長期間の使用に耐え得る。
また、積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上であれば、100℃(高温)雰囲気下での実際の長期間の使用に耐え得る。
なお、積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であると、23℃(常温)雰囲気下での実際の長期間の使用に耐え得るとし、積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上であれば、100℃(高温)雰囲気下での実際の長期間の使用に耐え得るとしたのは、寿命試験における評価基準として、当該数値以上であれば、実際の長期間の使用に耐え得る可能性が極めて高いとの想定で設定したことによる。
また、本実施形態では、体積抵抗率ρV23℃ではなく、体積抵抗率ρV23℃と比誘電率εr23℃との積[ρV23℃×εr23℃]を用い、1×1016Ω・cm以上であるとしたのは次の理由による。
上述の通り、本実施形態におけるフィルムの体積抵抗率が大きいほど、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率は抑制される。従って、体積抵抗率は大きいほど好ましい。
一方、比誘電率は、大きいほど電気を貯める能力が高くなる。つまり、比誘電率が大きいほど、コンデンサとしての静電容量は、大きくなる。そのため、比誘電率は大きいほど好ましい。
ここで、樹脂材料を検討すると、体積抵抗率が比較的大きいものの、比誘電率は比較的小さいものや、体積抵抗率が比較的小さいものの、比誘電率は比較的大きいもの等、種々の材料が存在する。
このような種々の材料を検討した際に、フィルムの体積抵抗率が比較的大きなものに関しては、寿命試験期間中におけるコンデンサ素子の漏れ電流が小さく抑えられ、コンデンサ素子の発熱が抑制される結果、絶縁抵抗(IR)の低下がより抑制されることになるため、劣化の進行度合いがより遅くなると予想される。そのため、比誘電率が比較的小さくても、性能として、実際の長期間の使用に耐え得ると考えられる。
反対に、フィルムの体積抵抗率が比較的小さいものに関しては、コンデンサ素子の絶縁抵抗(IR)は、体積抵抗率が比較的大きいものと比べると低下しやすく、劣化の進行度合いは、やや速くなると予想される。しかしながら、比誘電率が比較的大きい場合には、もともと電気を溜める能力が高い。そのため、(A)目的の静電容量を得るのに必要なフィルム面積(電極面積)を小さくできる、又は、(B)フィルム面積を維持したままフィルムの厚さを厚くすることができる。その結果、寿命試験期間中におけるコンデンサ素子の漏れ電流を低減することができ、発熱を抑制することができる。
この点につき、より詳細に説明する。
比誘電率の異なるフィルムを用いて静電容量がそれぞれ同一のコンデンサ素子を作製することを想定する。この想定において、比誘電率の比較的大きいフィルムを使用すると、漏れ電流の低減を達成するための選択肢として、次の(1)~(3)の3通りの中から選択可能となる点で有利である。
(1)フィルム厚さを維持したまま使用するフィルム面積を小さくする。
(2)フィルム面積は変えずにフィルムを厚くする。
(3)前2者の利点を取って、フィルムをやや厚めに、フィルム面積をやや小さめにする。
以上により、コンデンサ素子の絶縁抵抗(IR)の低下が、より抑制されることになり、実際の長期間の使用に耐え得ると考えられる。
そこで、体積抵抗率と比誘電率との積を、実際の長期間の使用に耐え得るか否かの指標として用いることにした。
また、上述した通り、比誘電率は、樹脂フィルムの分子構造(コンフォメーションやパッキング)に特有の値であるものの、従来の比誘電率の測定方法では、薄いフィルムの比誘電率を正確に測定することは困難であった。
一方、本実施形態では、23℃での比誘電率εr23℃は、上記測定方法(2)により測定し、100℃での比誘電率εr100℃は、上記測定方法(4)により測定する。これにより、薄い樹脂フィルムであっても、比誘電率を簡便、且つ、再現性良く測定することが可能となった。
以上より、積[ρV23℃×εr23℃]、及び、積[ρV100℃×εr100℃]の値について、より正確な値が得られる。
その結果、実際の長期間の使用に耐え得るか否かの指標として、より正確な値を得ることができる。
上述した通り、本実施形態に係る樹脂フィルムの前記積[ρV23℃×εr23℃]は、1×1016Ω・cm以上である。前記積[ρV23℃×εr23℃]は、2×1016Ω・cm以上であることが好ましく、3×1016Ω・cm以上であることがより好ましい。また、前記積[ρV23℃×εr23℃]は、大きいほど好ましいが、例えば、1×1022Ω・cm以下、1×1021Ω・cm以下とすることができる。
また、上述した通り、本実施形態に係る樹脂フィルムの前記積[ρV100℃×εr100℃]は、1×1014Ω・cm以上である。前記積[ρV100℃×εr100℃]は、2×1014Ω・cm以上であることが好ましく、3×1014Ω・cm以上であることがより好ましく、1×1015Ω・cm以上であることがさらに好ましく、2×1015Ω・cm以上であることがさらに一層好ましく、3×1015Ω・cm以上が特に好ましい。また、前記積[ρV100℃×εr100℃]は、大きいほど好ましいが、例えば、5×1019Ω・cm以下、1×1019Ω・cm以下とすることができる。
前記体積抵抗率ρV23℃は、1×1015Ω・cm以上であることが好ましく、5×1015Ω・cm以上であることがより好ましい。前記体積抵抗率ρV23℃が1×1015Ω・cm以上であると、23℃(常温)での絶縁抵抗値(IR)の低下率がより抑制される。前記体積抵抗率ρV23℃は、大きい方が好ましいが、例えば5×1021Ω・cm以下、5×1020Ω・cm以下とすることができる。
比誘電率εr23℃は、2.0以上であることが好ましく、2.2以上であることがより好ましい。前記比誘電率εr23℃が2.0以上であると、コンデンサとしての静電容量をより大きくすることができる。前記比誘電率εr23℃は、大きい方が好ましいが、例えば、9.0以下、5.0以下とすることができる。
前記体積抵抗率ρV100℃は、5×1013Ω・cm以上であることが好ましく、5×1014Ω・cm以上であることがより好ましい。前記体積抵抗率ρV100℃が5×1013Ω・cm以上であると、100℃(高温)での絶縁抵抗値(IR)の低下率がより抑制される。前記体積抵抗率ρV100℃は、大きい方が好ましいが、例えば、3×1019Ω・cm以下、5×1018Ω・cm以下とすることができる。
比誘電率εr100℃は、2.0以上であることが好ましく、2.2以上であることがより好ましい。前記比誘電率εr100℃が2.0以上であると、コンデンサとしての静電容量をより大きくすることができる。前記比誘電率εr100℃は、大きい方が好ましいが、例えば、9.0以下、5.0以下とすることができる。
前記樹脂フィルムは、なかでも、前記積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であり、前記積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1015Ω・cm以上であり、前記比誘電率εr100℃が2以上5以下であることが好ましい。前記積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であり、前記積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1015Ω・cm以上であり、前記比誘電率εr100℃が2以上5以下であると、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率がより抑制される。
前記樹脂フィルムは、log10[(ρV23℃×εr23℃)/(ρV100℃×εr100℃)]が5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2以下であることがさらに好ましい。
前記log10[(ρV23℃×εr23℃)/(ρV100℃×εr100℃)]が5以下であると、23℃(常温)と100℃(高温)とにおいて、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率の差異が少ないといえる。つまり、前記log10[(ρV23℃×εr23℃)/(ρV100℃×εr100℃)]は、耐熱性を示す指標として使用することができ、この指標が5以下であると、より耐熱性に優れるといえる。前記log10[(ρV23℃×εr23℃)/(ρV100℃×εr100℃)]は、小さい方が好ましいが、例えば0.01以上、0.1以上、0.5以上である。
前記[ρV23℃×εr23℃)]、前記[ρV100℃×εr100℃]、及び、前記log10[(ρV23℃×εr23℃)/(ρV100℃×εr100℃)]は、(i)前記樹脂フィルムを構成する樹脂(原料樹脂)の種類選定、立体規則性、灰分、及び分子量分布、(ii)前記樹脂フィルム全体に対する前記樹脂の含有量、(iii)延伸の際の縦及び横の延伸倍率、並びに横延伸角度、(iv)前記樹脂フィルムの結晶化度及び結晶子サイズ、(v)前記樹脂のポーリング処理の有無及びその処理における印加電圧、(vi)添加剤(特に無機フィラー)の種類選定及びその含有量、等で適宜調整することができる。
なお、本明細書において、横延伸角度は、以下をいう。
横延伸角度:横延伸開始地点の樹脂フィルム幅を構成する第1線分の両端を第1端と第2端とで定義し、横延伸終了地点の樹脂フィルム幅を構成する第2線分の両端を第3端と第4端とで定義し、第1線分の中点から流れ方向に沿って延びる基準仮想直線の片側に第1端と第3端とが位置すると定義したとき、第1端および第3端をつなぐ第1仮想直線と、第1端から流れ方向に沿って延びる第2仮想直線とがなす角度(当該角度は90°未満)。横延伸角度は、8.5°以上が好ましく、9.0°以上がより好ましい。また、横延伸角度は、13.0°以下が好ましく12.0°以下がより好ましい。横延伸角度を大きくすると[ρV23℃×εr23℃]及び[ρV100℃×εr100℃]は大きくなる傾向にある。
前記樹脂フィルムを用いて製作したコンデンサ素子の寿命試験における絶縁抵抗値(IR)の低下率は、50%以下が好ましく、25%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、15%以下であることがさらに一層好ましく、10%以下であることが特に好ましい。また、前記絶縁抵抗値(IR)の低下率は、小さい方が好ましいが、例えば、-1000%以上、-500%以上、-100%以上等とすることができる。前記絶縁抵抗値(IR)の低下率は、下記式により算出される値である。また、コンデンサ素子の絶縁抵抗値の測定方法、及び、寿命試験後の絶縁抵抗値の測定方法は、下記の通りである。
<コンデンサ素子の絶縁抵抗値の測定、寿命試験後の絶縁抵抗値の測定、及び、絶縁抵抗値(IR)の低下率の算出>
コンデンサ素子の絶縁抵抗値を、日置電機株式会社製 超絶縁抵抗計DSM8104を用いて評価する。絶縁抵抗値の低下率は、以下の手順で求める。コンデンサ素子を23℃で24時間静置後、コンデンサ素子に250V/μmの電位傾度(但しフィルムの厚みが2μm以上である場合は500V)で電圧を印加し、印加後、1分経過時の絶縁抵抗値を測定する。これを、寿命試験前の絶縁抵抗値」とする。次に、コンデンサ素子を超絶縁抵抗計から取り外して、105℃の恒温槽中にて、コンデンサ素子に直流高圧電源で直流280V/μmの電位傾度で電圧を1000時間印加(負荷)し続ける。1000時間経過後、コンデンサ素子を取り外した後にコンデンサ素子に放電抵抗を接続して除電する。次いで、コンデンサ素子を23℃で24時間時間静置し、その後、コンデンサ素子の絶縁抵抗値を測定する。これを、寿命試験後の絶縁抵抗値とする。その後、絶縁抵抗値の低下率を算出する。絶縁抵抗値の低下率は、コンデンサ2個の平均値により評価する。
[絶縁抵抗値の低下率(%)]=[[(寿命試験前の絶縁抵抗値)-(寿命試験後の絶縁抵抗値)]/((寿命試験前の絶縁抵抗値)]×100
前記樹脂フィルムを用いて製作したコンデンサ素子の寿命試験における(C・IR)の低下率は、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。前記(C・IR)の低下率(%)は、下記式により算出される値である。前記(C・IR)の低下率(%)が50%以下であると、寿命試験中のコンデンサ素子の自己発熱が低く抑えられるため樹脂フィルムの劣化の進行が緩やかとなり、長期間の使用に耐え得る信頼性の高いコンデンサとなる。
[(C・IR)の低下率(%)]=[[(寿命試験前のコンデンサの容量)×(寿命試験前の絶縁抵抗値)-(寿命試験後のコンデンサ容量)×(寿命試験後の絶縁抵抗値)]/[(寿命試験前のコンデンサの容量)×(寿命試験前の絶縁抵抗値)]]×100
前記樹脂フィルムを構成する樹脂中の灰分は、35ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましく、25ppm以下であることがさらに好ましい。前記灰分は、5ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、15ppm以上がさらに好ましく、20ppm以上がさらに好ましい。前記灰分は、前記樹脂フィルムとして、添加剤(後述する添加剤の説明の項を参照)が含有されていない樹脂フィルムを採用する場合には、実施例に記載の方法により得られる値をいう。一方、前記樹脂フィルムとして、添加剤が含有されている樹脂フィルムを採用する場合には、原料樹脂のみで作成した灰分測定用樹脂フィルムを用い、実施例に記載の方法により得られる値をいう。
前記樹脂フィルムを構成する樹脂(原料樹脂)中の灰分は、極性をもった低分子成分の生成を抑制しつつコンデンサとしての電気特性を向上させるために、5ppm以上35ppm以下が好ましい。
前記樹脂フィルムは、ヘプタン不溶分が、96%以上99.5%以下であることが好ましく、97.0%以上99.3%以下であることがより好ましく、97.5%以上99.0%以下であることがさらに好ましい。前記ヘプタン不溶分の測定方法は、実施例に記載の方法による。
ヘプタン不溶分は、多いほど樹脂の立体規則性が高いことを示す。前記樹脂フィルムのヘプタン不溶分(HI)が、96%以上99.5%以下であると、適度に高い立体規則性により、樹脂の結晶性が適度に向上し、高温下での耐電圧性が向上する。一方、キャスト原反シート成形の際の固化(結晶化)の速度が適度となり、適度の延伸性を有する。
前記樹脂フィルムの重量平均分子量Mw、及び、前記樹脂フィルムの数平均分子量Mnは、特に限定されない。
前記樹脂フィルムの分子量分布[(重量平均分子量Mw)/(数平均分子量Mn)]は、5以上12以下であることが好ましく、5.2以上10.5以下であることがより好ましく、5.5以上9以下であることがさらに好ましい。
前記樹脂フィルムの分子量分布[(重量平均分子量Mw)/(数平均分子量Mn)]が、前記数値範囲内であると、延伸工程を行う場合に適度な樹脂流動性が得られ、厚みムラのないフィルムを得ることが容易となるため好ましい。また、コンデンサ用として使用する際に、耐電圧性の観点から好ましい。
本明細書において、前記樹脂フィルムの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び、分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)装置を用いて測定した値である。より具体的には、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵型高温GPC測定機のHLC-8121GPC-HT(商品名)を使用して測定した値である。GPCカラムとして、東ソー株式会社製の3本のTSKgel GMHHR-H(20)HTを連結して使用する。カラム温度を140℃に設定して、溶離液としてトリクロロベンゼンを1.0ml/10分の流速で流して、MwとMnの測定値を得る。東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いてその分子量Mに関する検量線を作成して、測定値をポリスチレン値に換算して、Mw、及び、Mnを得る。ここで、標準ポリスチレンの分子量Mの底10の対数を、対数分子量(「Log(M)」)という。
前記樹脂フィルムは、広角X線回折法により測定されるα晶(040)面の反射ピークの半価幅からScherrerの式を用いて求められる結晶子サイズが、9nm以上15nm以下であることが好ましく、10nm以上13.5nm以下であることがより好ましく、11nm以上12.2nm以下であることがさらに好ましく、11.3nm以上12.0nm以下が特に好ましい。前記結晶子サイズの測定方法は、実施例に記載の方法による。
前記樹脂フィルムの前記結晶子サイズが、15nm以下であると、漏れ電流が小さくなり、常温や高温での耐電圧性が好ましく向上する。一方、前記結晶子サイズが9nm以上であると、樹脂フィルム(特に、ポリプロピレンフィルム)の機械的強度及び融点を維持する観点から好ましい。
前記樹脂フィルムは、面配向係数が0.010~0.016であることが好ましく、0.011~0.0155であることがより好ましく、0.0115~0.015であることがさらに好ましく、0.0121~0.0134がさらに一層好ましく、0.0125~0.0131が特に好ましい。
前記樹脂フィルムの面配向係数が前記範囲内にあると、高温且つ高電圧下における絶縁破壊をより低減できるため好ましい。
<面配向係数ΔP>
本明細書において、「面配向係数ΔP」とは、光学的複屈折測定により求めた樹脂フィルムの厚さ方向に対する複屈折値ΔNyz及びΔNxzの値から算出される面配向係数ΔP(ただし、ΔP=(ΔNyz+ΔNxz)/2)をいう。
明細書において、樹脂フィルムの厚さ方向に対する「複屈折値ΔNyz」とは、光学的複屈折測定により求められる厚さ方向に対する複屈折値ΔNyzをいう。より具体的には、フィルムの面内方向の主軸をx軸及びy軸、また、フィルムの厚さ方向(面内方向に対する法線方向)をz軸とし、面内方向のうち、屈折率のより高い方向の遅相軸をx軸とすると、y軸方向の三次元屈折率からz軸方向の三次元屈折率を差し引いた値が、複屈折値ΔNyzとなる。
また、本明細書において、樹脂フィルムの厚さ方向に対する「複屈折値ΔNxz」とは、光学的複屈折測定により求められる厚さ方向に対する複屈折値ΔNxzをいい、より具体的には、x軸(遅相軸)方向の三次元屈折率からz軸方向の三次元屈折率を差し引いた値が、複屈折値ΔNxzとなる。
フィルムの配向の強度の指標として、複屈折値ΔNyz及び/又はΔNxzの値を用いることができる。フィルムの配向強度が強い場合、面内屈折率である、y軸方向の三次元屈折率及び/又はx軸方向の三次元屈折率が高くなり、厚さ方向の屈折率であるz軸方向の三次元屈折率が低くなるので、複屈折値ΔNyz及び/又はΔNxzの値が大きくなる。
本実施形態では、樹脂フィルムの厚さ方向に対する「複屈折値ΔNyz」を測定するために、具体的には、大塚電子株式会社製、位相差測定装置 RE-100を用いる。レタデーション(位相差)の測定は傾斜法を用いて行う。より具体的には、フィルムの面内方向の主軸をx軸及びy軸、また、フィルムの厚さ方向(面内方向に対する法線方向)をz軸とし、面内方向のうち、屈折率のより高い方向の遅相軸をx軸とする。x軸を傾斜軸として、0°~50°の範囲でz軸に対して10°ずつ傾斜させたときの各レタデーション値を求める。得られたレタデーション値から、非特許文献「粟屋裕、高分子素材の偏光顕微鏡入門,105~120頁 、2001年」に記載の方法を用いて、厚さ方向(z軸方向)に対するy軸方向の複屈折ΔNyzを計算する。まず、各傾斜角φに対し、測定されたレタデーション値Rを、傾斜補正が施された厚さdで割ったR/dを求める。φ=10°、20°、30°、40°、50°のそれぞれのR/dについて、φ=0°のR/dとの差を求め、それらをさらにsin2r(r:屈折角)で割ったものを、それぞれのφにおける複屈折ΔNzyとし、正負の符号を逆にして複屈折値ΔNyzとする。φ=20°、30°、40°、50°におけるΔNyzの平均値として、複屈折値ΔNyzを算出する。なお、例えば、逐次延伸法において、MD方向(流れ方向)の延伸倍率よりも、TD方向(幅方向)の延伸倍率が高い場合、TD方向が遅相軸(x軸)となり、MD方向がy軸となる。また、ポリプロピレンを用いる場合、ポリプロピレンについての、各傾斜角における屈折角rの値は、前記文献の109頁に記載されているものを用いる。
また、本実施形態では、樹脂フィルムの厚さ方向に対する「複屈折値ΔNxz」は、傾斜角φ=0°で測定された上記レタデーション値Rを、厚さdで割った値より、前述で求めたΔNzyを除算し、複屈折値ΔNxzを算出する。
樹脂フィルムの面方向(x軸方向及び/又はy軸方向)に配向を与えると、厚さ方向の屈折率Nzが変化して、複屈折値ΔNyz及び/又はΔNxzが大きくなり、耐電圧性が向上する(絶縁破壊電圧が高くなる)。これは、以下の理由によると考えられる。樹脂(例えば、ポリプロピレン)の分子鎖が面方向に配向すると、厚さ方向の屈折率Nzは低くなる。フィルム厚さ方向の電気伝導性は分子鎖間での伝達となるので低くなる。従って、樹脂分子鎖(例えば、ポリプロピレン分子鎖)が面方向に配向した(複屈折値ΔNyz及び/又はΔNxzが大きい)場合、フィルム厚さ方向の電気伝導性は分子鎖間での伝達となりえるので、樹脂の分子鎖が面方向に配向していない(複屈折値ΔNyz及び/又はΔNxzが小さい)場合と比較して、耐電圧性が向上すると考えられる。
一般的に、製膜条件(延伸倍率調整など)を変えることで、樹脂の分子鎖の配向を変更して、「複屈折値ΔNyz」及び/又は「複屈折値ΔNxz」を制御することができる。また、樹脂の特性(分子量、重合度、分子量分布等)を変えることで、「複屈折値ΔNyz」及び/又は「複屈折値ΔNxz」を制御することもできる。
「面配向係数ΔP」は、複屈折値ΔNyz及びΔNxzを、式:ΔP=(ΔNyz+ΔNxz)/2に代入して求める。本発明では、複屈折値ΔNyzで表されるy軸方向の配向強度のみならず、複屈折値ΔNxzで表されるx軸方向の配向強度をも考慮に入れて算出される「面配向係数ΔP」に着目した点に、1つの特徴を有する。面配向係数ΔPは、例えば複屈折値ΔNyzが非常に大きくとも、複屈折値ΔNxzが極端に小さければ、比較的小さな値となる。樹脂の分枝鎖のある部位の断面の長軸と短軸の長さの差が大きい場合を想定すると、複屈折値の一方が極端に小さいことにより該長軸方向がフィルム厚み方向に近づく(或いは一致する)こととなり得、この場合はフィルム厚み方向の電気伝導性が高まり、耐電圧性が低下すると考えられる。よって、複屈折値ΔNyzと複屈折値ΔNxzが両方とも極端に低い値ではなく、それにより面配向係数ΔPが一定以上であることにより、耐電圧性は高くなると考えられる。
前記面配向係数の具体的な測定方法は、実施例に記載の方法による。
前記樹脂フィルムは、融点が170℃以上176℃以下であることが好ましく、171℃以上175.5℃以下であることがより好ましく、171.5℃以上175℃以下であることがさらに好ましく、172℃以上174.5℃以下が特に好ましい。
前記樹脂フィルムの融点が170℃以上であると、高温下の耐電圧性や熱寸法安定性に優れる。一方、176℃以下であると、フィルムの剛性が適度になり、延伸フィルムとして形成が容易になる。前記融点の測定方法は、実施例に記載の方法による。
前記樹脂フィルムは、融解エンタルピーが90J/g以上125J/g以下であることが好ましく、100J/g以上123J/g以下であることがより好ましく、108J/g以上122J/g以下であることがさらに好ましい。
前記樹脂フィルムの融解エンタルピーが90J/g以上であると、結晶子が強固となるため、好ましい。一方、125J/g以下であると結晶子サイズが適度に小さくなるため好ましい。前記融解エンタルピーの測定方法は、実施例に記載の方法による。
前記樹脂フィルムは、厚さが、0.8~22μmの範囲内であることが好ましく、1.2~12.0μmの範囲内であることがより好ましく、1.4~6.0μmの範囲内であることがより一層好ましく、1.5~4.0μmがさらに好ましく、1.5~3.0μmがさらに一層好ましく、1.5~2.9μmが特に好ましい。
厚さが、22μm以下であると、静電容量を大きくすることができるため、コンデンサ用として好適に使用できる。また、製造上の観点から、厚さ0.8μm以上とすることができる。
前記樹脂フィルムは、特に、厚さが、0.8~6μmの範囲内であることが好ましい。コンデンサ素子が発熱すると、コンデンサ素子の内部で樹脂フィルムの温度も上昇して絶縁抵抗値(IR)の低下を引き起こす。そこで、樹脂フィルムの厚さを小さくすると、同じ静電容量でもコンデンサ素子を小型にできるため、コンデンサ素子の比表面積が大きくなり、放熱に有利となる。従って、厚さが6μm以下であると、静電容量の低下をより抑制できる。また、静電容量の低下をより抑制できるため、(C・IR)の低下率(%)もより抑制できる。
また、前記樹脂フィルムの厚さが6μm以下であると、コンデンサ素子としたときの単位体積当たりの静電容量を大きくすることができるため、コンデンサ用として好適に使用できる。また、フィルムの製膜安定性の観点から、前記樹脂フィルムの厚さは0.8μm以上であることが好ましい。
この点について、以下に詳細に説明する。
樹脂フィルムは、厚さが薄いほど、単位体積当たりの静電容量を大きくできる。より具体的に説明すると、静電容量Cは、誘電率ε、電極面積S、誘電体厚さd(樹脂フィルムの厚さd)を用いて、以下のように表される。
C=εS/d
ここで、フィルムコンデンサの場合、電極の厚さは、樹脂フィルム(誘電体)の厚さと比較して3桁以上薄いため、電極の体積を無視すると、コンデンサの体積Vは、以下のように表される。
V=Sd
従って、上記2つの式より、単位体積当たりの静電容量C/Vは、以下のように表される。
C/V=ε/d
上記式から分かるように、単位体積当たりの静電容量(C/V)は、樹脂フィルム厚さの自乗に反比例する。また、誘電率εは、使用する材料により決まる。そうすると、材料を変更しない限りは、厚さを薄くすること以外で単位体積当たりの静電容量(C/V)を向上させることはできないことが分かる。
なお、電極面積は、単位体積当たりの静電容量(C/V)に影響しない。この点について以下に説明する。
同じ材料、同じ厚さのフィルムを巻回してコンデンサを作製する場合を想定する。例えば、ターン数(巻き数)を増やして、10倍長く(電極面積を10倍大きく)巻いたとする。そうすると、静電容量は10倍になるが、体積も10倍になるので単位体積当たりの静電容量(C/V)は、電極面積が変化しても変わらない。
上記説明は、理解を容易にするために理想化している。つまり、実際には、例えば、フィルム間にわずかな空隙が存在する場合があることや、電極端でのフリンジ効果の影響があること等により、面積に応じて単位体積当たりの静電容量(C/V)の値に多少の変化が見られる場合はある。しかしながら、一般的には、単位体積当たりの静電容量(C/V)は、樹脂フィルム厚さによって決まるということが理解できる。
以上より、前記樹脂フィルムの厚さは、製膜安定性が担保される範囲内で、なるべく薄くすることが好ましい。そこで、前記樹脂フィルムの厚さは、6μm以下であることが好ましい。
前記樹脂フィルムの厚さは、シチズンセイミツ社製の紙厚測定器MEI-11を用いて100±10kPaで測定したこと以外、JIS-C2330に準拠して測定した値をいう。
前記樹脂フィルムは、二軸延伸フィルムであってもよく、一軸延伸フィルムであってもよく、無延伸フィルムであってもよい。なかでも、面配向係数を高めることができる観点から、二軸延伸フィルムであることが好ましい。
前記樹脂フィルムは、上述の通り、主成分として結晶性熱可塑性樹脂を含有する。本明細書において、主成分として結晶性熱可塑性樹脂を含有する、とは、樹脂フィルム全体に対して(樹脂フィルム全体を100質量%としたときに)、結晶性熱可塑性樹脂を50質量%以上含有することをいう。樹脂フィルム全体に対する前記結晶性熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは、75質量%以上であり、より好ましくは、90質量%以上である。前記結晶性熱可塑性樹脂の含有量の上限は、樹脂フィルム全体に対して、例えば、100質量%、98質量%等である。
前記結晶性熱可塑性樹脂としては、(a)主鎖が脂肪族炭化水素である、(b)主鎖にアミド結合を有する、(c)主鎖にエーテル結合を有する、のうち、少なくとも1つを満たす樹脂が好ましい。
(a)主鎖が脂肪族炭化水素である結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂等が挙げられる。
なお、本明細書において、脂肪族炭化水素とは、飽和炭化水素と不飽和炭化水素との両方を意味する。
(b)主鎖にアミド結合を有する結晶性熱可塑性樹脂としては、6ナイロン(PA6)、66ナイロン(PA66)等が挙げられる。
(c)主鎖にエーテル結合を有する結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂等が挙げられる。
前記結晶性熱可塑性樹脂は、上記(a)~上記(c)の2つ以上を満たすコポリマーであってもよい。
また、前記結晶性熱可塑性樹脂としては、前記結晶性熱可塑性樹脂の主鎖を構成する炭素原子に、それぞれ少なくとも1つの水素原子が結合している樹脂であってもよい。
主鎖を構成する炭素原子に、それぞれ少なくとも1つの水素原子が結合している結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂等が挙げられる。
なお、本明細書において、主鎖を構成する炭素原子にそれぞれ少なくとも1つの水素原子が結合している、とは、主鎖にベンゼン環が含まれる場合には、ベンゼン環に少なくとも1つの水素原子が結合していることを意味する。また、主鎖に炭素原子以外の原子がある場合、当該炭素原子以外の原子には、水素原子が結合していても、結合していなくてもよいことを意味する。
前記結晶性熱可塑性樹脂は、一種の結晶性熱可塑性樹脂を単独で使用してもよく、二種以上の結晶性熱可塑性樹脂を併用して使用してもよい。前記結晶性熱可塑性樹脂は、特に、二種以上の結晶性熱可塑性樹脂を併用して使用することが好ましい。
前記結晶性熱可塑性樹脂は、なかでも、ポリプロピレン樹脂が好ましい。ポリプロピレン樹脂は、体積抵抗率が比較的高い樹脂であるため、前記結晶性熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン樹脂であると、寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率を好適に抑制できる。
前記ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mwは、25万以上45万以下であることが好ましく、25万以上40万以下であることがより好ましい。前記ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mwが25万以上45万以下であると、樹脂流動性が適度となる。その結果、キャスト原反シートの厚さの制御が容易であり、薄い延伸フィルムを作製することが容易となる。また、キャスト原反シートに適度な延伸性を与えることができる。ポリプロピレン樹脂を2種以上使用する場合、上記Mwが25万以上33万未満のポリプロピレン樹脂と上記Mwが33万以上45万以下のポリプロピレン樹脂を併用することが好ましい。
前記ポリプロピレン樹脂の分子量分布[(重量平均分子量Mw)/(数平均分子量Mn)]は、5以上12以下であることが好ましく、5以上11以下であることがより好ましく、5以上10以下であることがさらに好ましい。ポリプロピレン樹脂を2種以上使用する場合、上記分子量分布が5以上8.5未満のポリプロピレン樹脂と上記分子量分布が8.5以上11以下のポリプロピレン樹脂を併用することが好ましい。
本明細書において、前記ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び、分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)装置を用いて測定した値である。より具体的には、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵型高温GPC測定機のHLC-8121GPC-HT(商品名)を使用して測定した値である。GPCカラムとして、東ソー株式会社製の3本のTSKgel GMHHR-H(20)HTを連結して使用する。カラム温度を140℃に設定して、溶離液としてトリクロロベンゼンを1.0ml/10分の流速で流して、MwとMnの測定値を得る。東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いてその分子量Mに関する検量線を作成して、測定値をポリスチレン値に換算して、Mw、及び、Mnを得る。ここで、標準ポリスチレンの分子量Mの底10の対数を、対数分子量(「Log(M)」)という。
ポリプロピレン樹脂の微分分布値差Dが、-5%以上14%以下であることが好まく、-4%以上12%以下であることがより好ましく、-4%以上10%以下であることがさらに好ましい。ここで、「微分分布値差D」は、分子量微分分布曲線において、対数分子量Log(M)=4.5のときの微分分布値からLog(M)=6.0のときの微分分布値を引いた差である。
なお、「微分分布値差Dが、-5%以上14%以下である」とは、ポリプロピレン樹脂の有するMwの値より、低分子量側の分子量1万から10万の成分(以下、「低分子量成分」ともいう)の代表的な分布値としての対数分子量Log(M)=4.5の成分と、高分子量側の分子量100万前後の成分(以下、「高分子量成分」ともいう)の代表的な分布値としてのLog(M)=6.0前後の成分とを比較したときに、差分が正の場合は低分子量成分の方が多く、差分が負の場合は高分子量成分の方が多いと理解できる。
つまり、分子量分布Mw/Mnが5~12であるといっても単に分子量分布幅の広さを表しているに過ぎず、その中の高分子量成分、低分子量成分の量的な関係までは分からない。そこで、安定製膜性とキャスト原反シートの厚み均一性の観点から、ポリプロピレン樹脂は、広い分子量分布を有すると同時に、低分子量成分を適度に含むようにするために分子量1万から10万の成分を、分子量100万の成分と比較して、微分分布値差が-5%以上14%以下となるようにポリプロピレン樹脂を使用することが好ましい。
微分分布値は、GPCを用いて、次のようにして得た値である。GPCの示差屈折(RI)検出計によって得られる、時間に対する強度を示す曲線(一般には、「溶出曲線」ともいう)を使用する。標準ポリスチレンを用いて得た検量線を使用して、時間軸を対数分子量(Log(M))に変換することで、溶出曲線をLog(M)に対する強度を示す曲線に変換する。RI検出強度は、成分濃度と比例関係にあるので、強度を示す曲線の全面積を100%とすると、対数分子量Log(M)に対する積分分布曲線を得ることができる。微分分布曲線は、この積分分布曲線をLog(M)で、微分することによって得る。したがって、「微分分布」とは、濃度分率の分子量に対する微分分布を意味する。この曲線から、特定のLog(M)のときの微分分布値を読みとる。
前記ポリプロピレン樹脂のヘプタン不溶分(HI)は、96.0%以上であることが好ましく、より好ましくは97.0%以上である。また、前記ポリプロピレン樹脂のヘプタン不溶分(HI)は、99.5%以下であることが好ましく、より好ましくは99.0%以下である。ここで、ヘプタン不溶分は、多いほど樹脂の立体規則性が高いことを示す。前記ヘプタン不溶分(HI)が、96.0%以上99.5%以下であると、適度に高い立体規則性により、樹脂の結晶性が適度に向上し、高温下での耐電圧性が向上する。一方、キャスト原反シート成形の際の固化(結晶化)の速度が適度となり、適度の延伸性を有する。ヘプタン不溶分(HI)の測定方法は、実施例記載の方法による。
前記ポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(MFR)は、1.0~8.0g/10minであることが好ましく、1.5~7.0g/10minであることがより好ましく、2.0~6.0g/10minであることがさらに好ましい。前記ポリプロピレン樹脂のメルトフローレートの測定方法は、実施例記載の方法による。
前記ポリプロピレン樹脂は、一般的に公知の重合方法を用いて製造することができる。前記重合方法としては、例えば、気相重合法、塊状重合法及びスラリー重合法を例示できる。
重合は、1つの重合反応機を用いる単段(一段)重合であってもよく、2つ以上の重合反応器を用いた多段重合であってもよい。また、重合は、反応器中に水素又はコモノマーを分子量調整剤として添加して行ってもよい。
重合の際の触媒には、一般的に公知のチーグラー・ナッタ触媒を使用することができ、前記ポリプロピレン樹脂を得ることができる限り特に限定されない。前記触媒は、助触媒成分やドナーを含んでもよい。触媒や重合条件を調整することによって、分子量、分子量分布、立体規則性等を制御することができる。
前記ポリプロピレン樹脂の分子量分布等は、樹脂混合(ブレンド)により調整することができる。例えば、互いに分子量や分子量分布の異なるもの2種類以上の樹脂を混合する方法が挙げられる。一般的には、主樹脂に、それより平均分子量が高い樹脂、又は、低い樹脂を、樹脂全体を100質量%とすると、主樹脂が55質量%以上90質量%以下である2種のポリプロピレン混合系が、低分子量成分量の調整が行い易いため、好ましい。
なお、前記の混合調整方法を採用する場合、平均分子量の目安として、メルトフローレート(MFR)を用いても構わない。この場合、主樹脂と添加樹脂のMFRの差は、1~30g/10分程度としておくのが、調整の際の利便性の観点から好ましい。
樹脂混合する方法としては、特に制限はないが、主樹脂と添加樹脂の重合粉、又は、ペレットを、ミキサー等を用いてドライブレンドする方法や、主樹脂と添加樹脂の重合粉、又は、ペレットを、混練機に供給し、溶融混練してブレンド樹脂を得る方法が挙げられる。
前記ミキサーや前記混練機は、特に制限されない。前記混練機は、1軸スクリュータイプ、2軸スクリュータイプ、それ以上の多軸スクリュータイプの何れでもよい。2軸以上のスクリュータイプの場合、同方向回転、異方向回転のどちらの混練タイプでも構わない。
溶融混練によるブレンドの場合は、良好な混練物が得られれば、混練温度は特に制限されない。一般的には、200℃から300℃の範囲であり、樹脂の劣化を抑制する観点から、230℃から270℃が好ましい。また、樹脂の混練混合の際の劣化を抑制するため、混練機に窒素などの不活性ガスをパージしても構わない。溶融混練された樹脂は、一般的に公知の造粒機を用いて、適当な大きさにペレタイズしてもよい。これにより、混合ポリプロピレン原料樹脂ペレットを得ることができる。
ポリプロピレン原料樹脂中に含まれる重合触媒残渣等に起因する総灰分は、ポリプロピレン樹脂を基準(100重量部)として、50ppm以下であることが好ましい。
前記総灰分(ポリプロピレン原料樹脂中に含まれる総灰分)は、極性をもった低分子成分の生成を抑制しつつコンデンサとしての電気特性を向上させるために、5ppm以上35ppm以下が好ましく、5ppm以上30ppm以下がより好ましく、10ppm以上25ppm以下がさらに好ましい。
以下、ポリプロピレン樹脂を2種以上使用する場合における各ポリプロピレン樹脂について説明する。
ポリプロピレン樹脂を2種以上使用する場合、下記ポリプロピレン樹脂A-1と下記ポリプロピレン樹脂B-1、下記ポリプロピレン樹脂A-2と下記ポリプロピレン樹脂B-2、又は、下記ポリプロピレン樹脂A-3と下記ポリプロピレン樹脂B-3の組み合わせが好適なものとして挙げられる。本実施形態において、ポリプロピレン樹脂Aという表現は、ポリプロピレン樹脂A-1、ポリプロピレン樹脂A-2及びポリプロピレン樹脂A-3という概念を含む。ポリプロピレン樹脂Bという表現は、ポリプロピレン樹脂B-1、ポリプロピレン樹脂B-2及びポリプロピレン樹脂B-3という概念を含む。ポリプロピレン樹脂A、A-1、A-2、A-3、ポリプロピレン樹脂B、B-1、B-2、B-3は、いずれも直鎖ポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
<ポリプロピレン樹脂A>
(ポリプロピレン樹脂A-1)
微分分布値差Dが8.0%以上であるポリプロピレン樹脂。
(ポリプロピレン樹脂A-2)
ヘプタン不溶分(HI)が98.5%以下であるポリプロピレン樹脂。
(ポリプロピレン樹脂A-3)
230℃におけるメルトフローレート(MFR)が4.0~10.0g/10minであるポリプロピレン樹脂。
<ポリプロピレン樹脂B>
(ポリプロピレン樹脂B-1)
微分分布値差Dが8.0%未満であるポリプロピレン樹脂。
(ポリプロピレン樹脂B-2)
ヘプタン不溶分(HI)が98.5%を超えるポリプロピレン樹脂。
(ポリプロピレン樹脂B-3)
230℃におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~3.9g/10minであるポリプロピレン樹脂。
ポリプロピレン樹脂Aの重量平均分子量Mwは、25万以上45万以下であることが好ましく、25万以上40万以下であることがより好ましく、25万以上34万以下であることがさらに好ましい。ポリプロピレン樹脂Aの重量平均分子量Mwが25万以上45万以下であると、樹脂流動性が適度となる。その結果、キャスト原反シートの厚さの制御が容易であり、薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを作製することが容易となる。また、キャスト原反シートおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みにムラが発生し難くなり、適度な延伸性が得られるので好ましい。
ポリプロピレン樹脂Aの分子量分布Mw/Mnは、8.5以上12.0以下であることが好ましく、8.5以上11.0以下であることがより好ましく、9.0以上11.0以下であることがさらに好ましい。
ポリプロピレン樹脂Aの分子量分布Mw/Mnが上記好ましい範囲内であると、キャスト原反シートおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みにムラが発生し難くなり、適度な延伸性が得られるので好ましい。
ポリプロピレン樹脂Aの微分分布値差Dは、8.0%以上が好ましく、8.0%以上18.0%以下であることがより好ましく、8.5%以上17.0%以下であることがさらに好ましく、9.0%以上16.0%以下であることが特に好ましい。
微分分布値差Dが、8.0%以上18.0%以下である場合、低分子量成分を、高分子量成分と比較すると、8.0%以上18.0%以下の割合で多く含む。したがって、延伸工程での破断頻度を低減することができ、連続成膜性が向上するため、好ましい。
ポリプロピレン樹脂Aのヘプタン不溶分(HI)は、96.0%以上であることが好ましく、より好ましくは97.0%以上である。また、ポリプロピレン樹脂Aのヘプタン不溶分(HI)は、99.5%以下であることが好ましく、より好ましくは98.5%以下であり、さらに好ましくは98.0%以下である。
ポリプロピレン樹脂Aの230℃におけるメルトフローレート(MFR)は、1.0~15.0g/10minであることが好ましく、2.0~10.0g/10minであることがより好ましく、4.0~10.0g/10minであることがさらに好ましく、4.3~6.0g/10minが特に好ましい。ポリプロピレン樹脂Aの230℃におけるMFRが上記範囲内である場合、溶融状態での流動特性に優れるため、メルトフラクチャーといった不安定流動が発生しにくく、また、延伸時の破断も抑えられる。したがって、膜厚均一性が良好であるため、絶縁破壊の起こり易い薄肉部の形成が抑制されるという利点がある。
ポリプロピレン樹脂Aの含有率は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム全体に対して55質量%以上90質量%以下であることが好ましく、60質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましい。
ポリプロピレン樹脂Bの重量平均分子量Mwは、30万以上40万以下であることが好ましく、33万以上38万以下であることがより好ましく、35万以上38万以下であることがさらに好ましい。
ポリプロピレン樹脂Bの分子量分布Mw/Mnは、6.0以上8.5未満であることが好ましく、6.5以上8.4以下であることがより好ましく、7.0以上8.3以下であることがさらに好ましい。
ポリプロピレン樹脂Bの分子量分布Mw/Mnが上記好ましい範囲内であると、キャスト原反シートおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みにムラが発生し難くなり、適度な延伸性が得られるので好ましい。
ポリプロピレン樹脂Bの微分分布値差Dは、8.0%未満であることが好ましく、-20.0%以上8.0%未満であることがより好ましく、-10.0%以上7.9%以下であることがさらに好ましく、-5.0%以上7.5%以下であることが特に好ましい。
ポリプロピレン樹脂Bのヘプタン不溶分(HI)は、97.5%以上であることが好ましく、より好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは98.5%超えであり、特に好ましくは98.6%以上である。また、ポリプロピレン樹脂Bのヘプタン不溶分(HI)は、99.5%以下であることが好ましく、より好ましくは99%以下である。
ポリプロピレン樹脂Bの230℃におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1~6.0g/10minであることが好ましく、0.1~5.0g/10minであることがより好ましく、0.1~3.9g/10minであることがさらに好ましい。
ポリプロピレン樹脂としてポリプロピレン樹脂Bを使用する場合、ポリプロピレン樹脂Bの含有率は、ポリプロピレン樹脂を100質量%とすると、10質量%以上45質量%以下であることが好ましく、15質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。
ポリプロピレン樹脂として、ポリプロピレン樹脂Aとポリプロピレン樹脂Bとを併用する場合、ポリプロピレン樹脂全体を100質量%とすると、55~90重量%のポリプロピレン樹脂Aと、45~10重量%のポリプロピレン樹脂Bとを含むことが好ましく、60~85重量%のポリプロピレン樹脂Aと、40~15重量%のポリプロピレン樹脂Bと含むことがより好ましく、60~80重量%のポリプロピレン樹脂Aと、40~20重量%のポリプロピレン樹脂Bとを含むことが特に好ましい。
ポリプロピレン樹脂が、ポリプロピレン樹脂Aとポリプロピレン樹脂Bとを含む場合、二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂Aとポリプロピレン樹脂Bとの微細混合状態(相分離状態)となるため、高温での耐電圧性が向上する。
以上、ポリプロピレン樹脂を2種以上使用する場合における各ポリプロピレン樹脂について、説明した。
前記樹脂フィルムは、積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上となり、積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上となる範囲内において、前記結晶性熱可塑性樹脂とは異なる他の樹脂を含んでもよい。
前記他の樹脂としては、非結晶性熱可塑性樹脂等が挙げられる。
前記非結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリアミドイミド(PAI)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。
前記樹脂フィルムは、添加剤を含んでもよい。前記樹脂フィルムに添加剤を含ませることにより、前記積[ρV23℃×εr23℃]、前記積[ρV100℃×εr100℃]、前記log10[(ρV23℃×εr23℃)/(ρV100℃×εr100℃)]の値を調整することができる。
前記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、塩素吸収剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられる。前記無機フィラーとしては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化アルミニウム等が挙げられる。
なお、前記樹脂フィルムは、結晶造核剤(特に、α晶核剤)を含まないことが好ましい。結晶造核剤として、樹脂に可溶なもの(溶解型造核剤)と、樹脂に不溶なもの(分散型造核剤)がある。溶解型造核剤として、例えばノニトール系核剤、ソルビトール系核剤などが挙げられるが、溶解型造核剤の分子量は熱可塑性樹脂に対して非常に小さい。そのため、熱可塑性樹脂に添加された溶解型造核剤は、樹脂フィルムの製造加工中にフィルム表面にブリードアウトを起こし易く、製造設備(特にフィルムに接触する金属ロール)の表面を徐々に汚染してしまう。汚染が蓄積されると、製造設備を停止して汚染を除去する作業が必要となり、生産性の悪化を招くことがある。一方、分散型造核剤として、例えばタルク、マイカ、リン酸エステル金属塩系核剤、カルボン酸金属塩系造核剤などが挙げられるが、熱可塑性樹脂と分散型造核剤の界面は導電パスとなり易いため、耐電圧性を低下させることがある。さらに、結晶造核剤、結晶造核剤の熱分解生成物、結晶造核剤に含まれる不純物のいずれかがイオン性物質であるなどの理由で、フィルムに含まれるイオン性物質が増加すると、イオン性電気伝導が増加して体積抵抗率を悪化させる原因となる。これらの理由により、前記樹脂フィルムは、結晶造核剤(特に、α晶核剤)を含まないことが好ましい。
前記樹脂フィルムを二軸延伸樹脂フィルムとする場合、二軸延伸樹脂フィルムを製造するための延伸前のキャスト原反シートは、次のようにして作製することができる。
まず、結晶性熱可塑性樹脂ペレット、ドライ混合された結晶性熱可塑性樹脂ペレット、又は、予め溶融混練して作製した混合結晶性熱可塑性樹脂ペレットを押出機に供給して、加熱溶融する。
加熱溶融時の押出機回転数は、5~40rpmが好ましく、10~30rpmがより好ましい。
溶融混練の温度は、熱可塑性樹脂の種類によって異なるが、ポリプロピレン樹脂の場合、加熱溶融時の押出機設定温度は、220~280℃が好ましく、230~270℃がより好ましい。また、加熱溶融時の樹脂温度は、220~280℃が好ましく、230~270℃がより好ましい。加熱溶融時の樹脂温度は、押出機に挿入された温度計にて測定される値である。
なお、加熱溶融時の押出機回転数、押出機設定温度、樹脂温度は、使用する結晶性熱可塑性樹脂の物性も考慮して選択する。なお、加熱溶融時の樹脂温度を前記数値範囲内にすることにより、樹脂の劣化を抑制することもできる。
次に、Tダイを用いて溶融樹脂をシート状に押し出し、少なくとも1個以上の金属ドラムで、冷却、固化させることで、未延伸のキャスト原反シートを成形する。
前記金属ドラムの表面温度(押し出し後、最初に接触する金属ドラムの温度)は、50~100℃であることが好ましく、より好ましくは、60~80℃である。前記金属ドラムの表面温度は、使用する結晶性熱可塑性樹脂の物性等に応じて決定することができる。
ポリプロピレン樹脂の場合、前記キャスト原反シートのメルトフローレート(MFR)は、1.0~9.0g/10minであることが好ましく、2.0~8.0g/10minであることがより好ましく、3.0~7.0g/10minであることがさらに好ましい。前記ポリプロピレンフィルムのメルトフローレートの測定方法は、実施例記載の方法による。
前記キャスト原反シートの厚さは、前記樹脂フィルムを得ることができる限り、特に制限されることはないが、通常、0.05mm~2mmであることが好ましく、0.1mm~1mmであることがより好ましい。
前記樹脂フィルムは、前記樹脂キャスト原反シートに延伸処理を行って製造することができる。延伸は、縦及び横に二軸に配向せしめる二軸延伸が好ましく、延伸方法としては逐次二軸延伸方法が好ましい。逐次二軸延伸方法としては、例えば、まず、キャスト原反シートを100~170℃の温度に保ち、速度差を設けたロール間に通して流れ方向に3~7倍に延伸する。引き続き、当該シートをテンターに導いて、横方向に、3~11倍に延伸する。その後、2~10倍に緩和、熱固定を施す。以上により、二軸延伸樹脂フィルムが得られる。
前記樹脂フィルムには、金属蒸着加工工程などの後工程において、接着特性を高める目的で、延伸及び熱固定工程終了後に、オンライン又はオフラインにてコロナ放電処理を行ってもよい。コロナ放電処理は、公知の方法を用いて行うことができる。雰囲気ガスとして空気、炭酸ガス、窒素ガス、又は、これらの混合ガスを用いて行うことが好ましい。
コンデンサとして加工するために、前記樹脂フィルムの片面又は両面に金属層を積層し、金属層一体型樹脂フィルムとしてもよい。前記金属層は、電極として機能する。前記金属層に用いられる金属としては、例えば、亜鉛、鉛、銀、クロム、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属単体、それらの複数種の混合物、それらの合金などを使用することができるが、環境、経済性及びコンデンサ性能などを考慮すると、亜鉛、アルミニウムが好ましい。
前記樹脂フィルムの片面又は両面に金属層を積層する方法としては、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法を例示することができる。生産性及び経済性などの観点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法として、一般的にるつぼ法式やワイヤー方式などを例示することができるが、特に限定されることはなく、適宜最適なものを選択することができる。
蒸着により金属層を積層する際のマージンパターンも特に限定されるものではないが、コンデンサの保安性等の特性を向上させる点から、フィッシュネットパターンないしはTマージンパターンといった、いわゆる特殊マージンを含むパターンをフィルムの片方の面上に施すことが好ましい。保安性が高まり、コンデンサの破壊、ショートの防止、などの点からも効果的である。
マージンを形成する方法はテープ法、オイル法など、一般に公知の方法が、何ら制限無く使用することができる。
前記金属層一体型樹脂フィルムは、従来公知の方法で積層するか、巻回してフィルムコンデンサとすることができる。
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
〔結晶性熱可塑性樹脂〕
実施例及び比較例の樹脂フィルムを製造するために使用した結晶性熱可塑性樹脂を、表1に示す。
表1には、樹脂の種類を示している。表1中、PPは、直鎖ポリプロピレン樹脂を示す。
表1に示す樹脂Aは、プライムポリマー株式会社製の製品である。樹脂Bは、大韓油化社製のHPT-1である。樹脂Cは、ボレアリス社製のHC300BFである。樹脂Dは、Basell社製のHF500Nである。樹脂Eは、Basell社製のHP400Rである。樹脂Fは、Basell社製のHP501Lである。
表1に、樹脂A~Fの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び、分子量分布(Mw/Mn)を示した。これらの値は、原料樹脂ペレットの形態での値である。測定方法は以下の通りである。
<樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、及び、微分分布値差Dの測定>
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、以下の条件で、樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、微分分布値差Dを測定した。
東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵高温GPC装置であるHLC-8121GPC-HT型を使用した。カラムとして、東ソー株式会社製のTSKgel GMHHR-H(20)HTを3本連結して使用した。140℃のカラム温度で、溶離液として、トリクロロベンゼンを、1.0ml/minの流速で流して測定した。検量線を、東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いて作製し、測定された分子量の値をポリスチレンの値に換算して、数平均分子量(Mn)、及び、重量平均分子量(Mw)を得た。このMwとMnの値を用いて分子量分布(Mw/Mn)を得た。
また、微分分布値差Dを、次のような方法で得た。まず、RI検出計を用いて検出される強度分布の時間曲線(溶出曲線)を、上記標準ポリスチレンを用いて作製した検量線を用いて標準ポリスチレンの分子量M(Log(M))に対する分布曲線に変換した。次に、分布曲線の全面積を100%とした場合のLog(M)に対する積分分布曲線を得た後、この積分分布曲線をLog(M)で、微分することによってLog(M)に対する微分分布曲線を得た。この微分分布曲線から、Log(M)=4.5およびLog(M)=6.0のときの微分分布値を読んだ。Log(M)=4.5のときの微分分布値とLog(M)=6.0のときの微分分布値との差を微分分布値差Dとした。なお、微分分布曲線を得るまでの一連の操作は、使用したGPC測定装置に内蔵されている解析ソフトウェアを用いて行った。結果を表1に示す。
<ヘプタン不溶分(HI)の測定>
樹脂A~樹脂Fについて、10mm×35mm×0.3mmにプレス成形して約3gの測定用サンプルを作製した。次に、ヘプタン約150mLを加えてソックスレー抽出を8時間行った。抽出前後の試料質量よりヘプタン不溶分を算出した。結果を表1に示す。
<メルトフローレート(MFR)の測定>
各樹脂について原料樹脂ペレットの形態でのメルトフローレート(MFR)を、東洋精機株式会社のメルトインデックサを用いてJIS K 7210の条件Mに準じて測定した。具体的には、まず、試験温度230℃にしたシリンダ内に、4gに秤りとった試料を挿入し、2.16kgの荷重下で3.5分予熱した。その後、30秒間で底穴より押出された試料の重量を測定し、MFR(g/10min)を求めた。上記の測定を3回繰り返し、その平均値をMFRの測定値とした。結果を表1に示す。
Figure 0007245026000001
上述の樹脂を用いて、実施例、及び、比較例の樹脂フィルムを作製し、その物性を評価した。
<樹脂フィルムの作製>
(実施例1)
樹脂Aと樹脂Bとをドライブレンドした。混合比率は、質量比で(樹脂A):(樹脂B)=66.7:33.3とした。その後、ドライブレンドした樹脂を用い、樹脂温度250℃で溶融した後、Tダイを用いて押出し、表面温度を95℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させてキャスト原反シートを作製した。得られた未延伸キャスト原反シートを130℃の温度に保ち、速度差を設けたロール間に通して流れ方向に4.5倍に延伸し、直ちに室温に冷却した。引き続き、延伸フィルムをテンターに導いて、9°の延伸角度で、158℃の温度で幅方向に8倍に延伸した後、緩和、熱固定を施して巻き取り、40℃程度の雰囲気中でエージング処理を施して二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。このようにして、樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムの厚さは、表2の通りであった(2.32μm)。
(実施例2)
樹脂Cを用いて樹脂組成物の吐出量を変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ4.94μmの樹脂フィルムを得た。
(実施例3)
樹脂組成物の吐出量を変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ1.95μmの樹脂フィルムを得た。
(実施例4)
樹脂組成物の吐出量を変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ2.51μmの樹脂フィルムを得た。
(実施例5)
樹脂組成物の吐出量を変更すること、及び、幅方向の延伸倍率を8.1倍に変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ2.07μmの樹脂フィルムを得た。
(実施例6)
樹脂組成物の吐出量を変更すること、及び、流れ方向の延伸倍率を4.6倍に変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ2.55μmの樹脂フィルムを得た。
(実施例7)
樹脂組成物の吐出量を変更すること、及び、流れ方向の延伸倍率を4.4倍に変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ2.54μmの樹脂フィルムを得た。
(実施例8)
樹脂組成物の吐出量を変更すること、及び、流れ方向の延伸倍率を4.3倍に延伸すること以外は、実施例1と同様にして厚さ2.31μmの樹脂フィルムを得た。
(実施例9)
樹脂Cを用い、フィラー(チタン酸バリウム、平均粒子径80nm(透過型電子顕微鏡で観察したn=100の数平均値))を60,000ppm添加すること、及び、樹脂組成物の吐出量を変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ4.90μmの樹脂フィルムを得た。
(比較例1)
樹脂Dを用いたこと及び樹脂組成物の吐出量を変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ4.90μmの樹脂フィルムを得た。
(比較例2)
樹脂Eを用いたこと及び樹脂組成物の吐出量を変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ5.20μmの樹脂フィルムを得た。
(比較例3)
樹脂Fを用いたこと及び樹脂組成物の吐出量を変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ5.00μmの樹脂フィルムを得た。
(比較例4)
樹脂組成物の吐出量を変更すること、及び、幅方向の延伸倍率を8.4倍に変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ1.96μmの樹脂フィルムを得た。
(比較例5)
樹脂組成物の吐出量を変更すること、及び、幅方向の延伸倍率を8.7倍に変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ2.07μmの樹脂フィルムを得た。
(比較例6)
樹脂組成物の吐出量を変更すること、及び、流れ方向の延伸倍率を4.0倍に変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ1.96μmの樹脂フィルムを得た。
(比較例7)
樹脂組成物の吐出量を変更すること、及び、流れ方向の延伸倍率を4.2倍に変更すること以外は、実施例1と同様にして厚さ2.31μmの樹脂フィルムを得た。
なお、樹脂フィルムの厚みは、JIS-C2330に記載のマイクロメーター法厚さとした。ただし、測定機器はシチズンセイミツ株式会社製の紙厚測定器MEI-11を用いた。
<体積抵抗率ρV23℃の測定>
体積抵抗率の具体的な測定手順を以下に記すが、特に記載のない条件はJIS C 2139に準拠して測定を実施した。
まず、23℃環境の恒温槽に、体積抵抗率測定用ジグ(以下、単に、「ジグ」ともいう)を配置した。体積抵抗率測定用ジグの構成は下記の通りである。また、ジグの各電極には、直流電源、直流電流計を接続する。
<体積抵抗率測定用ジグ>
主電極(直径50mm)
対電極(直径85mm)
主電極を囲うリング状のガード電極(外径80mm、内径70mm)
各電極は、金メッキされた銅製で、試料と接する面には導電ゴムが貼付されている。使用した導電ゴムは、信越シリコーン社製、EC-60BL(W300)で、導電ゴムの光沢のある面を、金メッキされた銅と接するように貼付されている。
次に、実施例、比較例の樹脂フィルム(以下、試料ともいう)を23℃、50%RHの環境に24時間置いた。その後、試料を恒温槽内のジグにセットした。具体的には、試料の一方の面に、主電極、及び、ガード電極を密着させ、他方の面に対電極を密着させ、荷重5kgfで試料と各電極を密着させた。その後、30分間静置した。
次に、電位傾度200V/μmとなるように試料に電圧を印加した。
電圧の印加後、1分経過時点での電流値を読み取り、次式により体積抵抗率を算出した。なお、電圧の印加にはKeithley社製の2290-10(直流電源)を用い、電流値の測定には、Keithley社製の2635B(直流電流計)を用いた。
体積抵抗率=[(有効電極面積)×(印加電圧)]/[(試料の厚さ)×(電流値)]
ここで、有効電極面積は、下記式により求めた。
(有効電極面積)=π×[[[(主電極の直径)+(ガード電極の内径)]/2]/2]
<比誘電率εr23℃の測定>
まず、実施例、及び、比較例の樹脂フィルム(以下、試料ともいう)の一方の面に直径30mmの型枠を当てて、導電性ペースト(藤倉化成(株)社製、ドータイト D-500)を刷毛で塗布した。溶媒が充分に揮発し、型枠を外しても導電性ペーストが流れださなくなった後、型枠を外し、半日放置した。これにより電極を形成した。次に、試料の他方の面に試料を挟んで先の電極と重なるように、同様にして電極を形成した。以上により、両面に各直径30mmの電極を有するコンデンサを得た。
作成したコンデンサを測定装置と接続するために、コンデンサの各電極部分に導線(錫メッキ銅線)を導電性ペーストで接続した。このとき、各導線がフィルムを挟んで対向すると、導線部分においても静電容量が形成されてしまうので、各導線はできるだけ離した位置で接続した。
次に、各導線を測定装置(日置電機社製、LCRハイテスタ3522-50)に接続し、作成したコンデンサの容量Cを測定した。測定は、23℃に設定された恒温槽内に、30分静置した後、下記条件にて行った。
<測定条件>
印加電圧:1V
測定周波数:1KHz
その後、次式を用いて比誘電率εr23℃を算出した。なお、真空の誘電率εは、8.55×10-12F/mを用いた。結果を表2に示す。また、積[ρV23℃×εr23℃]も算出した。結果を表2に示す。なお、表2中、「E+16」等の「E+n」形式の表記は、指数を表す。例えば、「E+16」は、10の+16乗を意味する。また、「2.44E+16」等のEの左側にある数字は、係数であり、例えば、「2.44E+16」は、2.44×1016を意味する。
(容量C)=(εr23℃)×(真空の誘電率ε)×[(電極面積)/(樹脂フィルムの厚さ)]
<体積抵抗率ρV100℃の測定>
恒温槽の温度を100℃としたこと以外は、体積抵抗率ρV23℃の測定と同様にして、実施例、比較例の樹脂フィルムの体積抵抗率ρV100℃を測定した。結果を表2に示す。
<比誘電率εr100℃の測定>
恒温槽の温度を100℃としたこと以外は、比誘電率εr23℃の測定と同様にして、実施例、比較例の樹脂フィルムの比誘電率εr100℃を測定した。結果を表2に示す。また、積[ρV100℃×εr100℃]も算出した。結果を表2に示す。
<log10[(ρV23℃×εr23℃)/(ρV100℃×εr100℃)]の算出>
上記測定結果を用いて、実施例、比較例の樹脂フィルムのlog10[(ρV23℃×εr23℃)/(ρV100℃×εr100℃)]を算出した。結果を表2に示す。
<灰分の測定>
実施例、比較例の樹脂フィルムについて、JIS-K 7250-1(2006)に準拠して測定した。具体的には、800℃で40分間の灰化処理を行い、得られた灰分の割合(ppm)を測定した。結果を表2に示す。
<ヘプタン不溶分(HI)の測定>
実施例、比較例の樹脂フィルムについて、約3gの測定用サンプルを作製した。次に、ヘプタン約150mLを加えてソックスレー抽出を8時間行った。抽出前後の試料質量よりヘプタン不溶分を算出した。結果を表2に示す。
<樹脂フィルムの分子量分布(Mw/Mn)の測定>
実施例、比較例の樹脂フィルムについて、樹脂A~樹脂Fと同様にして、分子量分布(Mw/Mn)を測定、算出した。その結果、実施例1は7.3、実施例2は7.7、実施例3は7.4、実施例4は7.3、実施例5は7.3、実施例6は7.3、実施例7は7.3、実施例8は7.3、実施例9は7.7、比較例1は4.0、比較例2は3.5、比較例3は、6.1、比較例4は7.3、比較例5は7.3、比較例6は7.3、比較例7は7.3であった。
<樹脂フィルムの結晶子サイズの測定>
実施例、比較例に係る樹脂フィルムの結晶子サイズを、XRD(広角X線回折)装置を用いて、以下の条件にて測定した。
測定機:リガク社製のX線回折装置「MiniFlex300」
X線発生出力:30kV、10mA
照射X線:モノクローメーター単色化CuKα線(波長0.15418nm)
検出器:シンチュレーションカウンター
ゴニオメーター走査:2θ/θ連動走査
得られたデータから、解析コンピューターを用い、装置標準付属の統合粉末X線解析ソフトウェアPDXLを用い、α晶(040)面の回折反射ピークの半価幅を算出した。半価幅から、Scherrerの式(D=K×λ/(β×Cosθ))を用いて結晶子サイズを求めた。結果を表2に示す。
なお、Scherrerの式中、Dは、結晶子サイズ(nm)、Kは定数(形状因子:本実施例では0.94を採用)、λは使用X線波長(nm)、βは求めた半価幅、θは回折ブラッグ角である。λとして0.15418nmを用いた。
<面配向係数の測定>
<レタデーション値>
まず、実施例、比較例に係る樹脂フィルムのレタデーション(位相差)値を、下記の通り、傾斜法により測定した。
測定機:大塚電子社製レタデーション測定装置 RE-100
光源:波長550nmのLED光源
測定方法:次のような傾斜法により、レタデーション値の角度依存性を測定した。フィルムの面内方向の主軸をx軸及びy軸、また、フィルムの厚さ方向(面内方向に対する法線方向)をz軸とし、面内方向のうち、屈折率のより高い方向の遅相軸をx軸としたとき、x軸を傾斜軸として、0°~50°の範囲でz軸に対して10°ずつ傾斜させたときの各レタデーション値を求めた。例えば、逐次延伸法において、MD方向(流れ方向)の延伸倍率よりも、TD方向(幅方向)の延伸倍率が高い場合、TD方向が遅相軸(x軸)、MD方向がy軸となる。
<複屈折値及び面配向係数ΔP>
レタデーション値から、非特許文献「粟屋裕、高分子素材の偏光顕微鏡入門、105~120頁、2001年」に記載の通り、次のようにして面配向係数ΔPを算出した。
まず、各傾斜角φに対し、測定されたレタデーション値Rを、傾斜補正が施された厚さdで割ったR/dを求めた。φ=10°、20°、30°、40°、50°のそれぞれのR/dについて、φ=0°のR/dとの差を求め、それらをさらにsin2r(r:屈折角)で割ったものを、それぞれのφにおける複屈折ΔNzyとし、正負の符号を逆にして複屈折値ΔNyzとした。φ=20°、30°、40°、50°におけるΔNyzの平均値として、複屈折値ΔNyzを算出した。
次に、傾斜角φ=0°で測定されたレタデーション値Rを、厚さdで割った値より、前述で求めたΔNzyを除算し、複屈折値ΔNxzを算出した。
最後に、複屈折値のΔNyzとΔNxzを、式:ΔP=(ΔNyz+ΔNxz)/2に代入しΔPを求めた。なお、ポリプロピレンについての、各傾斜角φにおける屈折角rの値は、前記非特許文献の109頁に記載されているものを用いた。結果を表2に示す。
<融点、及び、融解エンタルピーの測定>
実施例、比較例にて得た樹脂フィルムの融点、及び、融解エンタルピーを、パーキン・エルマー社製、入力補償型DSC Diamond DSCを用い、以下の手順により得た。まず、樹脂フィルムを約5mg秤りとり、アルミニウム製のサンプルホルダーに詰め、DSC装置にセットした。窒素流下、30℃から280℃まで20℃/minの速度で昇温(ファーストラン)し、その融解曲線を測定した。DSC測定の結果、100℃から190℃の間には少なくとも1つ以上の融解ピークを得ることができ、その最も高温側の融解ピーク曲線のピークトップ(頂点)温度を融点として評価した。また、ファーストランの結果から、融解エンタルピーを求めた。結果を表2に示す。
<寿命試験におけるコンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率の測定>
実施例、比較例にて得た樹脂フィルムを用いて以下の通りコンデンサ素子を作製した。樹脂フィルムに対して、Tマージン蒸着パターンを蒸着抵抗15Ω/□にてアルミニウム蒸着を施すことにより、上記フィルムの片面に金属膜を含む金属化フィルムを得た。60mm幅にスリットした後に、2枚の金属化フィルムを相合わせて、株式会社皆藤製作所製、自動巻取機3KAW-N2型を用い、φ20mmの巻芯に、巻き取り張力250gにて蒸着フィルムを巻き付け、完成したコンデンサ素子の静電容量が75μF(実施例1、実施例3、実施例4、実施例5~8、比較例4~7)又は50μF(実施例2、実施例5、実施例9)となるよう巻回ターン数を調整して、巻回を行った。素子巻きした素子は、プレスしながら120℃にて15時間熱処理を施した後、素子端面に亜鉛金属を溶射し、扁平型コンデンサを得た。扁平型コンデンサの端面にリード線をはんだ付けし、その後エポキシ樹脂で封止した。
得られたコンデンサ素子の絶縁抵抗値を、日置電機株式会社製 超絶縁抵抗計DSM8104を用いて評価する。絶縁抵抗値の低下率は、以下の手順で求めた。コンデンサ素子を23℃で24時間静置後、コンデンサ素子に250V/μmの電位傾度(但しフィルムの厚みが2μm以上である場合は500V)で電圧を印加し、印加後、1分経過時の絶縁抵抗値を測定した。これを、寿命試験前の絶縁抵抗値とした。
次に、コンデンサ素子を超絶縁抵抗計から取り外して、105℃の恒温槽中にて、コンデンサ素子に直流高圧電源で直流280V/μmの電位傾度で電圧を1000時間印加(負荷)し続けた。具体的に、直流電圧は、次の式により決定した。
[寿命試験で印加する直流電圧(V)]=750×[フィルム厚さ(μm)]÷εr100℃-50
つまり、印加電圧を、実施例1では707V、実施例2では1561V、実施例3では586V、実施例4では768V、実施例5では1717V、実施例6では625V、実施例7では782V、実施例8では778V、実施例9では703V、実施例10では1031V、比較例1では1548V、比較例2では1646V、比較例3では1580V、比較例4では589V、比較例5では625V、比較例6では589V、比較例7では703Vとした。
1000時間経過後、コンデンサ素子を取り外した後にコンデンサ素子に放電抵抗を接続して除電した。次いで、コンデンサ素子を23℃で24時間時間静置し、その後、コンデンサ素子の絶縁抵抗値を測定した。これを、寿命試験後の絶縁抵抗値(以下、「IR1000」ということがある。)」とした。その後、絶縁抵抗値の低下率を算出した。絶縁抵抗値の低下率は、コンデンサ2個の平均値により評価した。結果を表2に示す。
[絶縁抵抗値の低下率(%)]=[[(寿命試験前の絶縁抵抗値)-(寿命試験後の絶縁抵抗値)]/((寿命試験前の絶縁抵抗値)]×100
<静電容量の変化率ΔCの測定>
寿命試験前後での静電容量を測定し、下記式により、静電容量の変化率ΔCを求めた。結果を表2に示す。
[静電容量の変化率ΔC(%)]=[[(寿命試験前のコンデンサの容量)-(寿命試験後のコンデンサの容量)]/((寿命試験前のコンデンサの容量)]×100
なお、(C・IR)の低下率(%)についても合わせて表2に示す。
Figure 0007245026000002
(結果)
表2より、積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であり、積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上である樹脂フィルムは、コンデンサ素子の絶縁抵抗値(IR)の低下率(%)が抑制されていることが分かる。
また、積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であり、積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上である樹脂フィルムは、(C・IR)の低下率(%)が50%以下であり、(C・IR)の低下率(%)か抑制されていることが分かる。
<体積抵抗率の測定精度の検証>
本開示における体積抵抗率の測定方法の測定精度が、特許文献1(国際公開第2016/182003号)のそれよりも高いことを検証した。以下、説明する。
参考例1は、特許文献1における体積抵抗率の測定方法を想定した試験例である。参考例2は、電位傾度を参考例1よりも高くした場合に、参考例1と比較して、測定精度がどのように変化するかを確認するため試験例である。
(参考例1)
上述の実施例で用いた体積抵抗率測定用のジグ、直流電源、直流電流計を準備した。
次に、特許文献1の実施例1と同じ厚さの2.3μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(特許文献1記載の実施例1の二軸延伸ポリプロピレンフィルムとは異なる、王子ホールディングス社製の二軸延伸ポリプロピレンフィルム)を、上記ジグにセットし、120℃で30分間、保持した。その後、100Vの電圧を印加した。つまり、電位傾度は、43V/μmとした。その結果、電圧印加後1分経過した時点で0.1~0.5nAレベルの微少電流が測定された。
この電圧と電流の結果を用いて、電極面積の直径が10mmと仮定したときの体積抵抗値を求めると、6.8×1014Ω・cmとなった。この値は、再現テスト(n=4)の平均値である。なお、電極面積の直径が10mmと仮定したときの体積抵抗値を求めたのは、特許文献1の体積抵抗率の測定方法では、電極面積の直径が10mmとされており、これに合わせるためである。
この体積抵抗値(6.8×1014Ω・cm)は、特許文献1の実施例1の値である6.5×1014Ω・cmに近い値となった。従って、この参考例1の測定方法は、特許文献1の測定方法を想定した試験として妥当であることが分かる。
次に、再現テスト(n=4)の電流測定値のバラつきから、標準偏差を求めた。その結果、標準偏差は、1.2×1014Ω・cmとなった。また、変動係数(Coefficient of variation)を算出した結果、約18%となった。
なお、変動係数は、下記により求められる値である。
(変動係数)=(標準偏差)/(平均値)
ここで、特許文献1では、110℃で測定している一方、参考例1では、120℃で測定している。これは、以下の理由による。
参考例1の試験方法において110℃で測定すると、測定される電流値が特許文献1よりも小さくなった。そこで、より正確に特許文献1の測定方法を再現させるために、参考例1では、120℃で測定することとした。参考例1の試験方法において110℃で測定すると、測定される電流値が特許文献1と同じ電流値とならない理由としては、測定に使用した二軸延伸ポリプロピレンフィルムが特許文献1のものと同じものではないことによると考えられる。
(参考例2)
参考例1と同様に、上述の実施例で用いた体積抵抗率測定用のジグ、直流電源、直流電流計を準備した。
次に、参考例1で使用したのと同じ二軸延伸ポリプロピレンフィルムを上記ジグにセットし、120℃で30分間、保持した。その後、参考例2では、200Vの電圧を印加した。つまり、参考例2では、電位傾度を、87V/μmとした。電位傾度以外については、参考例1と同様にして電流値を測定した。その結果、11~12nAの電流が測定された。
この電圧と電流の結果を用いて、電極面積の直径が10mmと仮定したときの体積抵抗値を求めると、5.9×1013Ω・cmとなった。この値は、再現テスト(n=4)の平均値である。
次に、再現テスト(n=4)の電流測定値のバラつきから、標準偏差を求めた。その結果、標準偏差は、3.3×1012Ω・cmとなった。また、変動係数(Coefficient of variation)を算出した結果、約6%となった。
(考察)
参考例1のように、特許文献1の体積抵抗率の測定方法では、得られる電流がpA(ピコアンペア)レベルとなり、値が安定しないが、参考例2のようにnA(ナノアンペア)レベルの電流として測定すれば値が安定することが分かる。
なお、参考例2では、電位傾度を87V/μmとした場合に、電位傾度を43V/μmとした参考例1と比較して値が安定することが示されているので、電位傾度200V/μmとした場合(本体積抵抗率の測定方法とした場合)には、特許文献1の体積抵抗率の測定方法と比較して、さらに値が安定することが分かる。
以上より、本開示における本体積抵抗率の測定方法の精度が高いことが分かる。

Claims (6)

  1. 樹脂フィルムであって、
    主成分として結晶性熱可塑性樹脂を含有し、
    前記結晶性熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン樹脂であり、
    前記樹脂フィルムを構成する樹脂中の灰分が、5ppm以上35ppm以下であり、
    前記樹脂フィルムのヘプタン不溶分が、96%以上99.5%以下であり、
    前記樹脂フィルムの分子量分布[(重量平均分子量Mw)/(数平均分子量Mn)]が、5以上12以下であり、
    前記樹脂フィルムの面配向係数が0.010~0.016であり、
    前記樹脂フィルムの融点が170℃以上176℃以下であり、
    前記樹脂フィルムの融解エンタルピーが90J/g以上125J/g以下であり、 下記測定方法(1)により測定される23℃での体積抵抗率ρV23℃と下記測定方法(2)により測定される23℃での比誘電率εr23℃との積[ρV23℃×εr23℃]が、1×1016Ω・cm以上であり、
    前記比誘電率εr23℃が、5.0以下であり、
    下記測定方法(3)により測定される100℃での体積抵抗率ρV100℃と下記測定方法(4)により測定される100℃での比誘電率εr100℃との積[ρV100℃×εr100℃]が、1×1014Ω・cm以上であり、
    前記比誘電率εr100℃が、5.0以下であることを特徴とする樹脂フィルム(ただし、α晶核剤を含む場合を除く)
    <測定方法>
    (1)23℃の雰囲気下で電位傾度200V/μmとなるように電圧を印加し、1分経過時点での電流値から次式により算出する。
    ρV23℃=[(有効電極面積)×(印加電圧)]/[(樹脂フィルムの厚さ)×(電流値)]
    (2)樹脂フィルムの両面に導電性ペーストを塗布、乾燥させて電極を形成し、得られた電極に導電性ペーストを用いて導線を取り付け、得られた試験用コンデンサの容量Cを23℃の雰囲気下で測定し、次式を用いてεr23℃を算出する。
    (容量C)=(εr23℃)×(真空の誘電率ε)×[(電極面積)/(樹脂フィルムの厚さ)]
    (3)100℃の雰囲気下で電位傾度200V/μmとなるように電圧を印加し、1分経過時点での電流値から次式により算出する。
    ρV100℃=[(有効電極面積)×(印加電圧)]/[(樹脂フィルムの厚さ)×(電流値)]
    (4)樹脂フィルムの両面に導電性ペーストを塗布、乾燥させて電極を形成し、得られた電極に導電性ペーストを用いて導線を取り付け、得られた試験用コンデンサの容量Cを100℃の雰囲気下で測定し、次式を用いてεr100℃を算出する。
    (容量C)=(εr100℃)×(真空の誘電率ε)×[(電極面積)/(樹脂フィルムの厚さ)]
  2. 厚さが、0.8~6μmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂フィルム。
  3. コンデンサ用であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂フィルム。
  4. 二軸延伸されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の樹脂フィルム。
  5. 請求項1~のいずれか1に記載の樹脂フィルムと、
    前記樹脂フィルムの片面又は両面に積層された金属層とを有することを特徴とする金属層一体型樹脂フィルム。
  6. 巻回された請求項に記載の金属層一体型樹脂フィルムを有するか、又は、請求項に記載の金属層一体型樹脂フィルムが複数積層された構成を有することを特徴とするフィルムコンデンサ。
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