JPWO2014030506A1 - シールリング - Google Patents
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Abstract
摺動トルクを低下させつつ、シール対象流体の吹き抜けを抑制可能とするシールリングを提供する。環状溝410における低圧側(L)の側壁面に密着し、かつハウジング500における軸400が挿通される軸孔の内周面に対して摺動するシールリング100において、外周面側には、幅方向の中央に設けられ、周方向に伸びる凹部120と、凹部120を介して低圧側(L)に設けられ、軸孔の内周面に対して摺動する第1凸部130と、凹部120を介して高圧側(H)に設けられ、第1凸部130よりも突出量の低い第2凸部140と、を有することを特徴とする。
Description
本発明は、軸とハウジングの軸孔との間の環状隙間を封止するシールリングに関する。
自動車用のAutomatic Transmission(AT)やContinuously Variable Transmission(CVT)においては、油圧を保持させるために、相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するシールリングが設けられている。図18及び図19を参照して、従来例に係るシールリングについて説明する。図18は従来例に係るシールリングにおける油圧を保持していない状態を示す模式的断面図である。図19は従来例に係るシールリングにおける油圧を保持している状態を示す模式的断面図である。従来例に係るシールリング600の場合、軸400の外周に設けられた環状溝410に装着され、軸400が挿通されるハウジング500の軸孔の内周面と環状溝410の側壁面のそれぞれに摺動自在に接触することで、軸400とハウジング500の軸孔との間の環状隙間を封止するように構成される。
上記のような用途で用いられるシールリング600においては、摺動トルクを十分に低くすることが要求される。そのため、シールリング600の外周面の周長はハウジング500の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。したがって、自動車のエンジンがかかり油圧が高くなっている状態においては、シールリング600が油圧により拡径し、軸孔の内周面と環状溝410の側壁面に密着して十分に油圧を保持する機能を発揮する(図19参照)。これに対して、エンジンの停止により油圧がかからない状態においてはシールリング600が軸孔の内周面や環状溝410の側壁面から離れた状態となるように構成されている(図18参照)。
しかしながら、上記のように構成されたシールリング600においても、シールリング600の内周面に作用する油圧が高くなると、軸孔の内周面とシールリング600との間で発生する摺動抵抗が高くなってしまう。そのため、より一層の摺動抵抗の低減化が求められている。
そこで、シールリング600の外周面側に、シール対象流体(油)を導くことを可能とする凹部を設けることが考えられる。これにより、凹部を設けた領域では、内周面側から外周面側に向かう流体圧力と等しい流体圧力が、外周面側から内周面側に向かって作用する。そのため、シールリング600の内周面側の流体圧力の増加に伴う摺動抵抗の増加を抑制することが可能となる。また、摺動面積が狭くなることからも、摺動抵抗を低減させることが可能となる。
しかしながら、上記のように、油圧がかからない状態では、シールリング600は軸孔の内周面に対して離れた状態にある。そのため、差圧が生じた際に、急激に油圧がかかると、シールリング600の外周面側から油が吹き抜けてしまい、シール機能が発揮されなくなるおそれもある。
以上のことからシールリング600の外周面側に、シール対象流体(油)を導くことを可能とする凹部を設ける場合には何らかの工夫が必要と考えられる。なお、本出願人は油の吹き抜けを抑制するための技術について既に提案している(特許文献3)。しかしながら、この技術の場合には、シールリングの内周面に作用する油圧が高くなるにつれて、軸孔の内周面とシールリングとの間で発生する摺動抵抗が高くなってしまう問題については解消していない。
本発明の目的は、摺動トルクを低下させつつ、シール対象流体の吹き抜けを抑制可能とするシールリングを提供することにある。
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
すなわち、本発明のシールリングは、
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持するシールリングであって、
前記環状溝における低圧側の側壁面に密着し、かつ前記ハウジングにおける前記軸が挿通される軸孔の内周面に対して摺動するシールリングにおいて、
外周面側には、
幅方向の中央に形成され、周方向に伸びる凹部と、
該凹部を介して低圧側に形成され、前記軸孔の内周面に対して摺動する第1凸部と、
前記凹部を介して高圧側に形成され、第1凸部よりも突出量の低い第2凸部と、
を有することを特徴とする。
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持するシールリングであって、
前記環状溝における低圧側の側壁面に密着し、かつ前記ハウジングにおける前記軸が挿通される軸孔の内周面に対して摺動するシールリングにおいて、
外周面側には、
幅方向の中央に形成され、周方向に伸びる凹部と、
該凹部を介して低圧側に形成され、前記軸孔の内周面に対して摺動する第1凸部と、
前記凹部を介して高圧側に形成され、第1凸部よりも突出量の低い第2凸部と、
を有することを特徴とする。
なお、本発明において、「高圧側」とは、シールリングの両側に差圧が生じた際に高圧となる側を意味し、「低圧側」とは、シールリングの両側に差圧が生じた際に低圧となる側を意味する。
本発明のシールリングによれば、凹部を介して高圧側に形成されている第2凸部は、軸孔の内周面に対して摺動する第1凸部よりも突出量が低いため、第2凸部と軸孔の内周面との間には隙間が形成される。これにより、差圧が生じた際には、この隙間を介して、凹部内にシール対象流体が導かれる。そのため、流体圧力が高まっても、凹部が設けられた領域及び第2凸部が設けられた領域においては流体圧力が内周面側に向かって作用する。従って、流体圧力の増加に伴う、シールリングによる軸孔の内周面に対する圧力の増加を抑制でき、摺動トルクを低く抑えることができる。また、第2凸部は第1凸部よりも突出量が低いため、第1凸部を軸孔の内周面に対してより確実に摺動させることができる。つまり、第2凸部が軸孔の内周面に接してしまうことで、第1凸部による摺動状態が不安定になってしまうことを抑制できる。また、差圧が生じた際に、第2凸部が障壁となることで、シール対象流体が凹部内に直接的に流れ込むことを抑制でき、当該流体をシールリングの内周面側に好適に導くことが可能となる。これにより、シール対象流体の吹き抜けを抑制することができる。
以上説明したように、本発明によれば、摺動トルクを低下させつつ、シール対象流体の吹き抜けを抑制することができる。
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、本実施例に係るシールリングは、自動車用のATやCVTなどの変速機において、油圧を保持させるために、相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する用途に用いられるものである。また、以下の説明において、「高圧側」とは、シールリングの両側に差圧が生じた際に高圧となる側を意味し、「低圧側」とは、シールリングの両側に差圧が生じた際に低圧となる側を意味する。
(実施例1)
図1〜図6を参照して、本発明の実施例1に係るシールリングについて説明する。
図1〜図6を参照して、本発明の実施例1に係るシールリングについて説明する。
<シールリングの構成>
本実施例に係るシールリング100は、軸400の外周に設けられた環状溝410に装着され、相対的に回転する軸400とハウジング500(ハウジング500における軸400が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止する。これにより、シールリング100は、流体圧力(本実施例では油圧)が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本実施例においては、図4〜図6中の右側の領域の流体圧力が変化するように構成されており、シールリング100は図中右側のシール対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、シール対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけるとシール対象領域の流体圧力は高くなる。
本実施例に係るシールリング100は、軸400の外周に設けられた環状溝410に装着され、相対的に回転する軸400とハウジング500(ハウジング500における軸400が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止する。これにより、シールリング100は、流体圧力(本実施例では油圧)が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本実施例においては、図4〜図6中の右側の領域の流体圧力が変化するように構成されており、シールリング100は図中右側のシール対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、シール対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけるとシール対象領域の流体圧力は高くなる。
そして、シールリング100は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材からなる。また、シールリング100の外周面の周長はハウジング500の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。
このシールリング100には、周方向の1箇所に合口部110が設けられている。また、シールリング100の外周面側には、幅方向の中央に設けられ、周方向に伸びる凹部120が形成されている。この凹部120底面は、シールリング100の内周面と同心的な面で構成されている。更に、シールリング100の外周面側には、凹部120を介して低圧側(L)に設けられる第1凸部130と、凹部120を介して高圧側(H)に設けられる第2凸部140とが形成されている。
なお、本実施例に係るシールリング100は、断面が矩形の環状部材に対して、上記の合口部110,凹部120,第1凸部130及び第2凸部140が形成された構成である。ただし、これは形状についての説明に過ぎず、必ずしも、断面が矩形の環状部材を素材として、これらの各部を形成する加工を施すことを意味するものではない。勿論、断面が矩形の環状部材を成形した後に、各部を切削加工により得ることもできる。しかしながら、例えば、予め合口部110を有したものを成形した後に、凹部120,第1凸部130及び第2凸部140を切削加工により得てもよい。このように、製法は特に限定されるものではない。
合口部110は、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカットを採用している。特殊ステップカットに関しては公知技術であるので、その詳細な説明は省略するが、熱膨張収縮によりシールリング100の周長が変化しても安定したシール性能を維持する特性を有する。なお、ここでは合口部110の一例として、特殊ステップカットの場合を示したが、合口部110については、これに限らず、ストレートカットやバイアスカットやステップカットなども採用し得る。なお、シールリング100の材料として、低弾性の材料(PTFEなど)を採用した場合には、合口部110を設けずに、エンドレスとしてもよい。
凹部120,第1凸部130及び第2凸部140は、合口部110付近を除く全周に亘って形成されている。合口部110付近の凹部120が設けられていない部位と、第1凸部130の外周面は同一面となっている。これらによって、シールリング100の外周面側における環状の連続的なシール面を形成する。つまり、シールリング100の外周面において、合口部110付近を除く領域では、凹部120,第1凸部130及び第2凸部140のうち第1凸部130のみが軸孔の内周面に対して摺動する。なお、合口部110を設けない構成を採用する場合には、第1凸部130は環状の凸部とすることで、第1凸部130のみで、環状の連続的なシール面を形成させることが可能となる。
第1凸部130の幅については、狭いほどトルクを低減することができるものの、幅を狭くし過ぎると、シール性及び耐久性が低下してしまう。そこで、使用環境等に応じて、シール性及び耐久性を維持できる程度に、当該幅を可及的に狭くするのが望ましい。なお、例えば、シールリング100の横幅の全長が1.9mmの場合、第1凸部130の幅は、0.3mm以上0.7mm以下程度に設定するとよい。
第2凸部140は、第1凸部130よりも突出量(凹部120からの高さ)が低くなるように構成されている。ここで、第1凸部130の突出量と第2凸部140の突出量の差をXとし、環状溝410とシールリング100の幅方向のクリアランスをYとした場合、X<Yを満たすように設定されている。なお、クリアランスYは、環状溝410の溝幅からシールリング100の幅を引いた長さである(図6参照)。
<シールリングの使用時のメカニズム>
特に、図4〜図6を参照して、本実施例に係るシールリング100の使用時のメカニズムについて説明する。図4は、エンジンが停止して、シールリング100を介して左右の領域の差圧がなく(または、差圧が殆どなく)、無負荷の状態を示している。図5は、エンジンがかかり、シールリング100を介して、差圧が生じた直後(左側の領域に比べて右側の領域の流体圧力の方が高くなった直後)の状態を示している。図6は、エンジンがかかり、シールリング100を介して、差圧が生じてから(左側の領域に比べて右側の領域の流体圧力の方が高くなってから)、ある程度時間が経過した後の状態を示している。
特に、図4〜図6を参照して、本実施例に係るシールリング100の使用時のメカニズムについて説明する。図4は、エンジンが停止して、シールリング100を介して左右の領域の差圧がなく(または、差圧が殆どなく)、無負荷の状態を示している。図5は、エンジンがかかり、シールリング100を介して、差圧が生じた直後(左側の領域に比べて右側の領域の流体圧力の方が高くなった直後)の状態を示している。図6は、エンジンがかかり、シールリング100を介して、差圧が生じてから(左側の領域に比べて右側の領域の流体圧力の方が高くなってから)、ある程度時間が経過した後の状態を示している。
無負荷状態においては、図4に示すように、左右の領域の差圧がなく、かつ内周面側からの流体圧力も作用しないため、シールリング100は、環状溝410における図中左側の側壁面及び軸孔の内周面から離れた状態となり得る。
そして、エンジンがかかり、差圧が生じた直後の状態においては、図5に示すように、高圧側(H)からの流体圧力によって、シールリング100は低圧側(L)へと移動していく。また、高圧側(H)のシール対象流体は、第2凸部140と軸孔の内周面との間の隙間から凹部120内へと流れていくものの、第2凸部140が障壁となるため、その多くは、シールリング100の内周面側へと流れていく(図中、矢印A参照)。これにより、シールリング100は内周面側からの流体圧力を受けて、直ちに拡径し、シールリング100の外周面は軸孔の内周面に密着(摺動)した状態となる。
その後、シールリング100は、環状溝410の低圧側(L)の側壁面に密着した状態となり、かつ軸孔の内周面に対して摺動した状態となる(図6参照)。
<本実施例に係るシールリングの優れた点>
本実施例に係るシールリング100によれば、凹部120を介して高圧側(H)に形成されている第2凸部140は、軸孔の内周面に対して摺動する第1凸部130よりも突出量が低い。そのため、第2凸部140と軸孔の内周面との間には隙間が形成される。これにより、差圧が生じた際には、この隙間を介して、凹部120内にシール対象流体が導かれる。そのため、流体圧力が高まっても、凹部120が設けられた領域及び第2凸部140が設けられた領域においては流体圧力が内周面側に向かって作用する。ここで、本実施例においては、凹部120の底面は、シールリング100の内周面と同心的な面で構成されている。従って、凹部120が設けられている領域においては、内周面側から流体圧力が作用する向きと、外周面側から流体圧力が作用する向きは真逆となる。なお、図6における矢印は、流体圧力がシールリング100に対して作用する様子を示している。これにより、本実施例に係るシールリング100においては、流体圧力の増加に伴う、シールリング100による外周面側への圧力の増加を抑制でき、摺動トルクを低く抑えることができる。
本実施例に係るシールリング100によれば、凹部120を介して高圧側(H)に形成されている第2凸部140は、軸孔の内周面に対して摺動する第1凸部130よりも突出量が低い。そのため、第2凸部140と軸孔の内周面との間には隙間が形成される。これにより、差圧が生じた際には、この隙間を介して、凹部120内にシール対象流体が導かれる。そのため、流体圧力が高まっても、凹部120が設けられた領域及び第2凸部140が設けられた領域においては流体圧力が内周面側に向かって作用する。ここで、本実施例においては、凹部120の底面は、シールリング100の内周面と同心的な面で構成されている。従って、凹部120が設けられている領域においては、内周面側から流体圧力が作用する向きと、外周面側から流体圧力が作用する向きは真逆となる。なお、図6における矢印は、流体圧力がシールリング100に対して作用する様子を示している。これにより、本実施例に係るシールリング100においては、流体圧力の増加に伴う、シールリング100による外周面側への圧力の増加を抑制でき、摺動トルクを低く抑えることができる。
また、本実施例においては、凹部120は、合口部110付近を除く全周に亘って形成されている。このように、本実施例においては、シールリング100の外周面の広範囲に亘って凹部120を設けたことにより、シールリング100とハウジング500の軸孔の内周面との摺動面積を可及的に狭くすることができ、摺動トルクを極めて軽減することができる。なお、シールリング100とハウジング500の軸孔の内周面との摺動面積は、シールリング100と環状溝410の低圧側(L)の側壁面との密着面積よりも十分狭くなっている。これに伴い、シールリング100が環状溝410における低圧側(L)の側壁面に対して摺動してしまうことを抑制できる。従って、本実施例に係るシールリング100は外周面側が摺動する。そのため、環状溝の側壁面との間で摺動するシールリングの場合に比べて、シール対象流体による潤滑膜(ここでは油膜)が形成され易くなり、より一層、摺動トルクを低減させることができる。
このように、摺動トルクの低減を実現できることにより、摺動による発熱を抑制することができ、高速高圧の環境条件下でも本実施例に係るシールリング100を好適に用いることが可能となる。
また、第2凸部140は第1凸部130よりも突出量が低いため、第1凸部130を軸孔の内周面に対してより確実に摺動させることができる。つまり、これらの突出量を等しく設定した場合には、誤差などにより、第1凸部130の突出量の方が、第2凸部140の突出量よりも低くなることもあり得る。この場合、第2凸部140が軸孔の内周面に接し、第1凸部130が(部分的に)軸孔の内周面に接しない状態となってしまい、第1凸部130の軸孔内周面に対する摺動状態が不安定になってしまう虞がある。これに対して、本実施例のように、第2凸部140の突出量を第1凸部130の突出量よりも低くして、第2凸部140が軸孔内周面に接しないようにすることで、第1凸部130の軸孔内周面に対する摺動状態を安定させることができる。これにより、安定的に封止機能を発揮させることができる。
また、差圧が生じた際には、第2凸部140が障壁となることで、シール対象流体が凹部120内に直接的に流れ込むことを抑制でき、当該流体をシールリング100の内周面側に好適に導くことが可能となる。これにより、シール対象流体の吹き抜けを抑制することができる。
(実施例2)
図7には、本発明の実施例2が示されている。上記実施例1では、第2凸部が、合口部110付近を除く全周に亘って形成される場合の構成を示したが、本実施例では、第2凸部が、周方向に間隔を空けて複数形成される場合の構成を示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
図7には、本発明の実施例2が示されている。上記実施例1では、第2凸部が、合口部110付近を除く全周に亘って形成される場合の構成を示したが、本実施例では、第2凸部が、周方向に間隔を空けて複数形成される場合の構成を示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
本実施例に係るシールリング100においても、上記実施例1と同様に、合口部110,凹部120,第1凸部130及び第2凸部140aを備えている。合口部110,凹部120及び第1凸部130については、上記実施例1に係るシールリングと同一の構成であるので、その説明は省略する。なお、合口部110については、本実施例においても、特殊ステップカットを採用した場合を示しているが、これに限られないことは、上記実施例1で説明した通りである。
上記実施例1で説明した通り、第1凸部130は、シールリング100における外周面側のシール面を形成する部位である。そして、封止機能を発揮させるために、シールリング100全体では、環状の連続的なシール面を形成しなければならない。従って、合口部110付近を除く領域においては、第1凸部130を全周に亘って設ける必要がある。
これに対して、第2凸部は、差圧が生じた際にシール対象流体が凹部120内に直接的に流れ込むことを抑制して、当該流体をシールリング100の内周面側に積極的に導かせる機能を発揮すればよい。従って、第2凸部の場合には、全周に亘って設ける必要はない。
そこで、本実施例に係るシールリング100においては、図7に示すように、第2凸部140aについては、周方向に間隔を空けて複数形成する構成を採用している。
以上説明したように、本実施例に係るシールリング100においても、上記実施例1に係るシールリング100の場合と同様の作用効果を得ることができる。
なお、本実施例に係るシールリング100の場合には、第2凸部140aが周方向に間隔を空けて設けられているので、隣り合う第2凸部140aの間の隙間からシール対象流体が凹部120内に導かれる。そのため、障壁としての機能は、実施例1の場合に比べて劣ってしまう。しかしながら、第1凸部130や合口部110付近の凹部120が設けられていない部位は、摺動摩耗によって経時的に突出量が低くなっていく。そのため、いずれは第1凸部130の突出量と第2凸部140の突出量は等しくなる。この場合、上記実施例1の構成を採用した場合には、凹部120内にシール対象流体が導かれなくなってしまう虞があるのに対して、本実施例の構成を採用した場合には、凹部120内にシール対象流体を導くことができる。従って、摺動トルクの低減効果に関しては、上記実施例1の場合よりも長期に亘って発揮させることが可能となる。
(その他)
上記各実施例で示したシールリング100は、その外周面の周長がハウジング500の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。従って、無負荷状態においては、シールリング100の外周面は、軸孔の内周面から離れた状態となり、封止機能が発揮されない。そこで、シールリング100の内周面側に、シールリング100の内周面と環状溝410の溝底面にそれぞれ密着して、シールリング100を外周面側に向かって押圧するゴム状弾性体製のOリングなどのバックリングを設ける構成を採用してもよい。これにより、無負荷状態においても、ある程度封止機能を発揮させることが可能となる。以下、このように、バックリングを設ける構成を採用した参考例について説明する。
上記各実施例で示したシールリング100は、その外周面の周長がハウジング500の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。従って、無負荷状態においては、シールリング100の外周面は、軸孔の内周面から離れた状態となり、封止機能が発揮されない。そこで、シールリング100の内周面側に、シールリング100の内周面と環状溝410の溝底面にそれぞれ密着して、シールリング100を外周面側に向かって押圧するゴム状弾性体製のOリングなどのバックリングを設ける構成を採用してもよい。これにより、無負荷状態においても、ある程度封止機能を発揮させることが可能となる。以下、このように、バックリングを設ける構成を採用した参考例について説明する。
(参考例)
この参考例に係る技術の目的は、摺動トルクを低く抑えつつ、流体圧力が低い状態においても封止機能を発揮させることのできる密封装置を提供することにある。
この参考例に係る技術の目的は、摺動トルクを低く抑えつつ、流体圧力が低い状態においても封止機能を発揮させることのできる密封装置を提供することにある。
本参考例は、この課題を解決するために以下の手段を採用した。
すなわち、本参考例の密封装置は、
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する密封装置において、
前記環状溝における低圧側の側壁面に密着し、かつ前記ハウジングにおける前記軸が挿通される軸孔の内周面に対して摺動する樹脂製の外周リングと、
該外周リングにおける内周面と前記環状溝の溝底面にそれぞれ密着して、前記外周リングを外周面側に向かって押圧するゴム状弾性体製の内周リングと、
を備えると共に、
前記外周リングの外周面側には、
幅方向の中央に設けられ、周方向に伸びる凹部と、
該凹部を介して両側に設けられ、前記軸孔の内周面に対して摺動する一対の凸部と、
を有すると共に、
前記外周リングは、その内周面側から前記凹部の底面に至るように設けられ、かつ内周面側からシール対象流体を前記凹部内に導入可能に設けられた貫通孔を有し、
前記内周リングが前記環状溝における低圧側の側壁面に密着した状態では、該内周リングは前記貫通孔を塞がない位置まで移動するように構成されていることを特徴とする。
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する密封装置において、
前記環状溝における低圧側の側壁面に密着し、かつ前記ハウジングにおける前記軸が挿通される軸孔の内周面に対して摺動する樹脂製の外周リングと、
該外周リングにおける内周面と前記環状溝の溝底面にそれぞれ密着して、前記外周リングを外周面側に向かって押圧するゴム状弾性体製の内周リングと、
を備えると共に、
前記外周リングの外周面側には、
幅方向の中央に設けられ、周方向に伸びる凹部と、
該凹部を介して両側に設けられ、前記軸孔の内周面に対して摺動する一対の凸部と、
を有すると共に、
前記外周リングは、その内周面側から前記凹部の底面に至るように設けられ、かつ内周面側からシール対象流体を前記凹部内に導入可能に設けられた貫通孔を有し、
前記内周リングが前記環状溝における低圧側の側壁面に密着した状態では、該内周リングは前記貫通孔を塞がない位置まで移動するように構成されていることを特徴とする。
なお、本参考例において、「高圧側」とは、密封装置の両側に差圧が生じた際に高圧となる側を意味し、「低圧側」とは、密封装置の両側に差圧が生じた際に低圧となる側を意味する。
本参考例の密封装置によれば、外周リングは内周リングによって外周面側に向かって押圧される。そのため、流体圧力が作用してない(差圧が生じていない)、または流体圧力が殆ど作用していない(差圧が殆ど生じていない)状態においても、外周リングはハウジングの軸孔の内周面に接した状態となり、封止機能が発揮される。従って、シール対象領域の流体圧力が高まりだした直後から流体圧力を保持させることができる。また、外周リングの外周面側には凹部が形成されており、かつ外周リングにはシール対象流体を凹部内に導入可能な貫通孔が設けられていることから、凹部内には流体が導入される。そのため、流体圧力が高まっても、凹部が設けられた領域においては流体圧力が内周面側に向かって作用する。従って、流体圧力の増加に伴う、外周リングによる外周面側への圧力の増加を抑制でき、摺動トルクを低く抑えることができる。更に、凹部の両側に設けられた一対の凸部が、軸孔の内周面に対して摺動するため、外周リングの姿勢を安定させることができる。
前記外周リングの内周面側には、高圧側において高圧側に向かうにつれて拡径する傾斜面と、低圧側において低圧側に向かうにつれて拡径する傾斜面とが設けられており、前記貫通孔における前記外周リングの内周面側の開口部は、これらの傾斜面の間の位置に設けられているとよい。
これにより、内周リングは、外周リングにおける低圧側の傾斜面と環状溝の溝底面との間の位置に安定的に保持される。従って、内周リングが貫通孔を塞いでしまうことをより確実に抑制できる。
以上説明したように、本参考例の密封装置によれば、摺動トルクを低く抑えつつ、流体圧力が低い状態においても封止機能を発揮させることができる。
以下、より具体的に本参考例に係る密封装置について説明する。なお、本参考例に係る密封装置は、自動車用のATやCVTなどの変速機において、油圧を保持させるために、相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する用途に用いられるものである。また、以下の説明において、「高圧側」とは、密封装置の両側に差圧が生じた際に高圧となる側を意味し、「低圧側」とは、密封装置の両側に差圧が生じた際に低圧となる側を意味する。
(参考例1)
図8〜図13を参照して、本発明の参考例1に係る密封装置について説明する。
図8〜図13を参照して、本発明の参考例1に係る密封装置について説明する。
<密封装置の構成>
特に、図8、図11〜図13を参照して、本発明の参考例1に係る密封装置の構成について説明する。本参考例に係る密封装置1000は、軸400の外周に設けられた環状溝410に装着され、相対的に回転する軸400とハウジング500(ハウジング500における軸400が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止する。これにより、密封装置1000は、流体圧力(本参考例では油圧)が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本参考例においては、図11〜図13中の右側の領域の流体圧力が変化するように構成されており、密封装置1000は図中右側のシール対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、シール対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけるとシール対象領域の流体圧力は高くなる。
特に、図8、図11〜図13を参照して、本発明の参考例1に係る密封装置の構成について説明する。本参考例に係る密封装置1000は、軸400の外周に設けられた環状溝410に装着され、相対的に回転する軸400とハウジング500(ハウジング500における軸400が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止する。これにより、密封装置1000は、流体圧力(本参考例では油圧)が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本参考例においては、図11〜図13中の右側の領域の流体圧力が変化するように構成されており、密封装置1000は図中右側のシール対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、シール対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけるとシール対象領域の流体圧力は高くなる。
そして、本参考例に係る密封装置1000は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂製の外周リング2000と、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)、水素化ニトリルゴム(HNBR)などのゴム状弾性体製の内周リング3000とから構成される。内周リング3000は、断面形状が円形のいわゆるOリングである。ただし、内周リング3000については、Oリングに限らず、角リングなどのその他のシールリングを採用することもできる。
また、外周リング2000と内周リング3000が組み合わされた状態においては、外周リング2000の外周面の周長は、ハウジング500における軸孔の内周面の周長よりも長くなるように構成されている。なお、外周リング2000単体については、その外周面の周長はハウジング500の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。従って、仮に内周リング3000を装着しない状態で、かつ外力が作用しない状態にすると、外周リング2000の外周面はハウジング500の軸孔の内周面には接しない。
<外周リング>
特に、図8〜図10を参照して、本発明の参考例1に係る外周リング2000について、より詳細に説明する。外周リング2000には、周方向の1箇所に合口部2100が設けられている。また、外周リング2000の外周面側には、幅方向の中央に設けられ、周方向に伸びる凹部2200が形成されている。更に、外周リング2000の外周面側には、凹部2200を介して両側に設けられる一対の凸部2300,2400が設けられている。また、外周リング2000には、その内周面側から凹部2200の底面に至るように貫通孔2500が設けられている。本参考例においては、合口部2100付近を除き、等間隔に合計7か所に貫通孔2500が設けられている。ただし、貫通孔2500の個数については特に限定されるものではなく、外周リング2000の大きさや貫通孔2500の径等によって、適宜、設定することができ、少なくとも1つあればよい。
特に、図8〜図10を参照して、本発明の参考例1に係る外周リング2000について、より詳細に説明する。外周リング2000には、周方向の1箇所に合口部2100が設けられている。また、外周リング2000の外周面側には、幅方向の中央に設けられ、周方向に伸びる凹部2200が形成されている。更に、外周リング2000の外周面側には、凹部2200を介して両側に設けられる一対の凸部2300,2400が設けられている。また、外周リング2000には、その内周面側から凹部2200の底面に至るように貫通孔2500が設けられている。本参考例においては、合口部2100付近を除き、等間隔に合計7か所に貫通孔2500が設けられている。ただし、貫通孔2500の個数については特に限定されるものではなく、外周リング2000の大きさや貫通孔2500の径等によって、適宜、設定することができ、少なくとも1つあればよい。
なお、本参考例に係る外周リング2000は、断面が矩形の環状部材に対して、上記の合口部2100等が形成された構成である。ただし、これは形状についての説明に過ぎず、必ずしも、断面が矩形の環状部材を素材として、これらの各部を形成する加工を施すことを意味するものではない。勿論、断面が矩形の環状部材を成形した後に、各部を切削加工により得ることもできる。しかしながら、例えば、予め合口部2100を有したものを成形した後に、凹部2200,一対の凸部2300,2400及び貫通孔2500を切削加工等により得てもよい。このように、製法は特に限定されるものではない。
合口部2100は、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカットを採用している。これにより、外周リング2000においては、切断部を介して一方の側の外周側には第1嵌合凸部2110a及び第1嵌合凹部2120aが設けられ、他方の側の外周側には第1嵌合凸部2110aが嵌る第2嵌合凹部2120bと第1嵌合凹部2120aに嵌る第2嵌合凸部2110bが設けられている。特殊ステップカットに関しては公知技術であるので、その詳細な説明は省略するが、熱膨張収縮により外周リング2000の周長が変化しても安定したシール性能を維持する特性を有する。なお、ここでは合口部2100の一例として、特殊ステップカットの場合を示したが、合口部2100については、これに限らず、ストレートカットやバイアスカットなども採用し得る。なお、外周リング2000の材料として、低弾性の材料(PTFEなど)を採用した場合には、合口部2100を設けずに、エンドレスとしてもよい。
凹部2200とその両側の一対の凸部2300,2400は、合口部2100付近を除く全周に亘って形成されている。ここで、凹部2200の底面は、外周リング2000の内周面と同心的な面で構成されている。そして、合口部2100付近の凹部2200が設けられていない部位と、一対の凸部2300,2400の外周面は同一面となっている。これらによって、外周リング2000の外周面側における環状の連続的なシール面を形成する。なお、合口部2100を設けない構成を採用する場合には、一対の凸部2300,2400を環状の凸部とすることにより、これらによって、環状の連続的なシール面を形成させることが可能となる。
凹部2200の深さについては、浅い方が、一対の凸部2300,2400の剛性が高くなる。一方、これら一対の凸部2300,2400は摺動により摩耗するため、凹部2200の深さは経時的に浅くなっていく。そのため、凹部2200の深さが浅くなり過ぎると流体を導入することができなくなってしまう。そこで、上記剛性と経時的な摩耗が進んでも流体の導入を維持することの両者を考慮して、初期の凹部2200の深さを設定するのが望ましい。例えば、外周リング2000の肉厚が1.7mmの場合、凹部2200の深さを0.1mm以上0.3mm以下程度に設定するとよい。
一対の凸部2300,2400の幅については、狭いほどトルクを低減することができるものの、幅を狭くし過ぎると、シール性及び耐久性が低下してしまう。そこで、使用環境等に応じて、シール性及び耐久性を維持できる程度に、当該幅を可及的に狭くするのが望ましい。なお、例えば、外周リング2000の横幅の全長が1.9mmの場合、一対の凸部2300,2400の幅は、0.3mm以上0.7mm以下程度に設定するとよい。
<密封装置の使用時のメカニズム>
特に、図11〜図13を参照して、本参考例に係る密封装置1000の使用時のメカニズムについて説明する。図11は、エンジンが停止して、密封装置1000を介して左右の領域の差圧がなく(または、差圧が殆どなく)、無負荷の状態を示している。なお、図11中の外周リング2000は図9中のAA断面に相当する。図12及び図13は、エンジンがかかり、密封装置1000を介して、左側の領域に比べて右側の領域の流体圧力の方が高くなった状態を示している。なお、図12中の外周リング2000は図9中のBB断面に相当し、図13中の外周リング2000は図9中のAA断面に相当する。
特に、図11〜図13を参照して、本参考例に係る密封装置1000の使用時のメカニズムについて説明する。図11は、エンジンが停止して、密封装置1000を介して左右の領域の差圧がなく(または、差圧が殆どなく)、無負荷の状態を示している。なお、図11中の外周リング2000は図9中のAA断面に相当する。図12及び図13は、エンジンがかかり、密封装置1000を介して、左側の領域に比べて右側の領域の流体圧力の方が高くなった状態を示している。なお、図12中の外周リング2000は図9中のBB断面に相当し、図13中の外周リング2000は図9中のAA断面に相当する。
密封装置1000が環状溝410に装着された状態においては、ゴム状弾性体製の内周リング3000は、外周リング2000における内周面と環状溝410の溝底面にそれぞれ密着して、その弾性反発力によって、外周リング2000を外周面側に向かって押圧する機能を発揮する。
ここで、無負荷状態においては、図11に示すように、左右の領域の差圧がないため、外周リング2000及び内周リング3000はいずれも環状溝410における図中左側の側壁面から離れた状態となり得る。しかしながら、上記の通り、外周リング2000は内周リング3000によって、外周面側に向かって押圧される。従って、外周リング2000の外周面(一対の凸部2300,2400の外周面と、合口部2100付近の凹部2200が形成されていない部分の外周面)は、ハウジング500の軸孔の内周面に接した状態を維持する。
そして、エンジンがかかり、差圧が生じた状態においては、図12及び図13に示すように、高圧側(H)からの流体圧力によって、外周リング2000は、環状溝410における低圧側(L)の側壁面に密着した状態となる。なお、外周リング2000は、ハウジング500における軸孔の内周面に対して接した(摺動した)状態を維持していることは言うまでもない。また、内周リング3000についても、環状溝410における低圧側(L)の側壁面に密着した状態となる。このとき、内周リング3000は貫通孔2500を塞がない位置まで移動するように構成されている。これにより、貫通孔2500を介して、外周リング2000の内周面側からシール対象流体が凹部2200内に導かれる。
<本参考例に係る密封装置の優れた点>
本参考例に係る密封装置1000によれば、外周リング2000は内周リング3000によって外周面側に向かって押圧される。そのため、流体圧力が作用してない(差圧が生じていない)、または流体圧力が殆ど作用していない(差圧が殆ど生じていない)状態においても、外周リング2000はハウジング500の軸孔の内周面に接した状態となり、封止機能が発揮される。従って、シール対象領域の流体圧力が高まりだした直後から流体圧力を保持させることができる。つまり、アイドリングストップ機能を有するエンジンにおいては、エンジン停止状態から、ブレーキペダルが解除されたり、アクセルが踏み込まれたりすることでエンジンが始動することによって、シール対象領域側の油圧が高まりだした直後から油圧を保持させることができる。ここで、一般的には、樹脂製のシールリングの場合、流体の漏れを抑制する機能はあまり発揮されない。しかしながら、本参考例においては、外周リング2000が内周リング3000により外周面側に向かって押圧されることによって、ある程度流体の漏れを抑制する機能が発揮される。そのため、エンジンが停止することでポンプなどによる作用が停止した後も、しばらくの間差圧が生じた状態を維持させることが可能となる。従って、アイドリングストップ機能を有するエンジンにおいて、エンジンの停止状態がそれほど長くない場合には、差圧が生じた状態を維持できる。従って、エンジンを再始動させた際に、その直後から好適に流体圧力を保持させることができる。
本参考例に係る密封装置1000によれば、外周リング2000は内周リング3000によって外周面側に向かって押圧される。そのため、流体圧力が作用してない(差圧が生じていない)、または流体圧力が殆ど作用していない(差圧が殆ど生じていない)状態においても、外周リング2000はハウジング500の軸孔の内周面に接した状態となり、封止機能が発揮される。従って、シール対象領域の流体圧力が高まりだした直後から流体圧力を保持させることができる。つまり、アイドリングストップ機能を有するエンジンにおいては、エンジン停止状態から、ブレーキペダルが解除されたり、アクセルが踏み込まれたりすることでエンジンが始動することによって、シール対象領域側の油圧が高まりだした直後から油圧を保持させることができる。ここで、一般的には、樹脂製のシールリングの場合、流体の漏れを抑制する機能はあまり発揮されない。しかしながら、本参考例においては、外周リング2000が内周リング3000により外周面側に向かって押圧されることによって、ある程度流体の漏れを抑制する機能が発揮される。そのため、エンジンが停止することでポンプなどによる作用が停止した後も、しばらくの間差圧が生じた状態を維持させることが可能となる。従って、アイドリングストップ機能を有するエンジンにおいて、エンジンの停止状態がそれほど長くない場合には、差圧が生じた状態を維持できる。従って、エンジンを再始動させた際に、その直後から好適に流体圧力を保持させることができる。
また、貫通孔2500を介して、凹部2200内には高圧側(H)から流体が導入される(図12参照)。そのため、流体圧力が高まっても、凹部2200が設けられた領域においては流体圧力が内周面側に向かって作用する。また、本参考例においては、凹部2200の底面は、外周リング2000の内周面と同心的な面で構成されているので、凹部2200が設けられている領域においては、内周面側から流体圧力が作用する向きと、外周面側から流体圧力が作用する向きは真逆となる。更に、内周面側と外周面側の双方から圧力を受けている領域において、内径よりも外径の方が、径が大きなことは言うまでもなく、流体圧力が作用する面積も外周面側の方が広くなる。なお、図12及び図13における矢印は、流体圧力が外周リング2000に対して作用する様子を示している。以上のことから、本参考例に係る密封装置1000においては、流体圧力の増加に伴う、外周リング2000による外周面側への圧力の増加を抑制でき、摺動トルクを低く抑えることができる。
また、本参考例においては、内周リング3000は外周リング2000の内周面と環状溝410の溝底面に密着しており、これらの密着部位にて封止機能を発揮している。従って、図12及び図13に示すように、内周リング3000よりも低圧側(L)の領域においては、外周リング2000の内周面に対して流体圧力の作用を抑制できる。これにより、外周リング2000に対して、流体圧力が作用する領域について、内周面側よりも外周面側の方をより広くすることができる。従って、高圧側(H)の流体圧力が増加しても、外周リング2000による外周面側への圧力の増加を効果的に抑制できる。
更に、本参考例においては、凹部2200は、合口部2100付近を除く全周に亘って形成されている。このように、本参考例においては、外周リング2000の外周面の広範囲に亘って凹部2200を設けたことにより、外周リング2000とハウジング500の軸孔の内周面との摺動面積を可及的に狭くすることができ、摺動トルクを極めて軽減することができる。なお、外周リング2000とハウジング500の軸孔の内周面との摺動面積は、外周リング2000と環状溝410の低圧側(L)の側壁面との密着面積よりも十分狭くなっている。これに伴い、外周リング2000が環状溝410における低圧側(L)の側壁面に対して摺動してしまうことを抑制できる。従って、本参考例に係る外周リング2000は外周面側が摺動するため、環状溝の側壁面との間で摺動するシールリングの場合に比べて、密封対象流体による潤滑膜(ここでは油膜)が形成され易くなり、より一層、摺動トルクを低減させることができる。
このように、摺動トルクの低減を実現できることにより、摺動による発熱を抑制することができ、高速高圧の環境条件下でも本参考例に係る密封装置1000を好適に用いることが可能となる。
また、本参考例に係る外周リング2000においては、凹部2200の両側に設けられた一対の凸部2300,2400が、軸孔の内周面に対して摺動するため、外周リング2000の姿勢を安定させることができる。
更に、本参考例に係る外周リング2000は、軸方向の中心面に対して対称的な形状をなしている。従って、環状溝410内に外周リング2000を取り付ける際に、取付方向を気にする必要がなく、装着性に優れている。また、高圧側と低圧側が入れ替わるような環境下でも用いることができる。
(参考例2)
図14及び図15には、本発明の参考例2が示されている。上記参考例1においては、外周リングの内周面が円柱面で構成される場合を示したが、本参考例においては、外周リングの内周面に一対の傾斜面が設けられる場合の構成を示す。その他の構成および作用については参考例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
図14及び図15には、本発明の参考例2が示されている。上記参考例1においては、外周リングの内周面が円柱面で構成される場合を示したが、本参考例においては、外周リングの内周面に一対の傾斜面が設けられる場合の構成を示す。その他の構成および作用については参考例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
図14は本発明の参考例2に係る密封装置における無負荷状態を示す模式的断面図である。図15は本発明の参考例2に係る密封装置における高圧状態を示す模式的断面図である。
本参考例においては、上記参考例1に係る密封装置の構成に対して、外周リング2000の内周面の形状についてのみ異なっており、その他の構成については同一である。本参考例に係る外周リング2000の場合には、その内周面側に、高圧側(H)において高圧側(H)に向かうにつれて拡径する傾斜面2600と、低圧側(L)において低圧側(L)に向かうにつれて拡径する傾斜面2700とが設けられている。そして、貫通孔2500における外周リング2000の内周面側の開口部は、これらの傾斜面2600,2700の間の位置に設けられている。
以上のように構成された密封装置1000においても、上記参考例1に係る密封装置1000の場合と同様の効果を得ることができる。また、上記参考例1に係る密封装置1000の場合には、外周リング2000の内周面が円柱面で構成されていることから、内周リング3000は軸方向に移動し易い。これに対して、本参考例に係る密封装置1000の場合には、外周リング2000の内周面に一対の傾斜面2600,2700を設けたことにより、内周リング3000の軸方向への移動を規制することができる。より具体的には、内周リング3000は、外周リング2000における低圧側(L)の傾斜面2700と環状溝410の溝底面との間の位置に安定的に保持される。従って、内周リング3000が貫通孔2500を塞いでしまうことをより確実に抑制できる。なお、図示の例では、傾斜面2600,2700がテーパ面の場合を示しているが、断面で見た場合に湾曲した傾斜面を採用してもよい。
(参考例3)
図16及び図17には、本発明の参考例3が示されている。本参考例においては、上記参考例1及び2に示す構成において、合口部についての変形例を示す。その他の構成および作用については参考例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
図16及び図17には、本発明の参考例3が示されている。本参考例においては、上記参考例1及び2に示す構成において、合口部についての変形例を示す。その他の構成および作用については参考例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
本参考例に係る外周リング2000における合口部2800も、上記参考例1の場合と同様に、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカットを採用している。これにより、外周リング2000においては、切断部を介して一方の側の外周側には第1嵌合凸部2810a及び第1嵌合凹部2820aが設けられ、他方の側の外周側には第1嵌合凸部2810aが嵌る第2嵌合凹部2820bと第1嵌合凹部2820aに嵌る第2嵌合凸部2810bが設けられている。
なお、図16においては、合口部2800において、切断部を介して一方の側の端部を斜視図にて示している。また、図17においては、合口部2800付近を側面から見た図を示している。
一般的に、特殊ステップカットの場合、切断部における内周側の端面(一方の端部の端面)から第1嵌合凸部の先端までの長さ(図中L1に相当)と、当該端面から第1嵌合凹部の後端までの長さ(図中L2に相当)と、切断部における内周側の端面(他方の端部の端面)から第2嵌合凸部の先端までの長さ(図中L1に相当)と、当該端面から第2嵌合凹部の後端までの長さ(図中L2に相当)はいずれも等しくなるように設定されている。従って、熱膨張により外周リングの周長が長くなっていくと、ある時点で、第1嵌合凸部の先端と第2嵌合凹部の後端、第2嵌合凸部の先端と第1嵌合凹部の後端、及び内周側の端面同士は同時に突き当たる。つまり、切断部を介して両側の端面同士の間には隙間がなくなった状態となる。
従って、外周リングの熱膨張収縮に伴って、合口部においては、切断部を介して両側の端面同士の隙間が大きくなったり小さくなったりする。そのため、外周リングの内側にゴム状弾性体製の内周リングが備えられる構成においては、上記のような隙間に内周リングの外周側の一部が入り込んだ状態で、当該隙間が小さくなると、当該一部が挟み込まれて破損してしまう虞がある。
そこで、本参考例に係る外周リング2000の合口部2800においては、切断部における内周側の端面(一方の端部の端面)から第1嵌合凸部2810aの先端までの長さL1は、切断部における内周側の端面(一方の端部の端面)から第1嵌合凹部2820aの後端までの長さL2よりも長く、切断部における内周側の端面(他方の端部の端面)から第2嵌合凸部2810bの先端までの長さL1は、切断部における内周側の端面(他方の端部の端面)から第2嵌合凹部2820bの後端までの長さL2よりも長くなるように設定している。なお、切断部における内周側の端面(一方の端部の端面)から第1嵌合凸部2810aの先端までの長さと、切断部における内周側の端面(他方の端部の端面)から第2嵌合凸部2810bの先端までの長さはいずれも同じL1である。また、切断部における内周側の端面(一方の端部の端面)から第1嵌合凹部2820aの後端までの長さと、切断部における内周側の端面(他方の端部の端面)から第2嵌合凹部2820bの後端までの長さはいずれも同じL2である。
なお、内周リング3000や外周リング2000の外周面に設けられた凹部2200等については、上記参考例1で説明した通りであるので、その説明は省略する。
以上のように、本参考例に係る密封装置においても、上記参考例1と同様の効果を得ることができる。また、本参考例に係る密封装置の場合には、熱膨張により外周リング2000の周長が長くなって、第1嵌合凸部2810aの先端が第2嵌合凹部2820bの後端に突き当たり、第2嵌合凸部2810bの先端が第1嵌合凹部2820aの後端に突き当たった状態となっても、切断部における内周側の端面同士の間には隙間Sが形成された状態が維持される(図17参照)。従って、切断部における内周側の端面同士の挟み込みによって、内周リング3000が破損してしまうことを抑制できる。なお、使用環境や内周リング3000の剛性等に応じて、内周リング3000に破損が生じないような隙間Sを設定し、当該隙間Sに応じて、L1とL2の差を設定すればよい。
100 シールリング
110 合口部
120 凹部
130 第1凸部
140,140a 第2凸部
400 軸
410 環状溝
500 ハウジング
1000 密封装置
2000 外周リング
2100,2800 合口部
2110a,2810a 第1嵌合凸部
2110b,2810b 第2嵌合凸部
2120a,2820a 第1嵌合凹部
2120b,2820b 第2嵌合凹部
2200 凹部
2300,2400 凸部
2500 貫通孔
2600,2700 傾斜面
3000 内周リング
110 合口部
120 凹部
130 第1凸部
140,140a 第2凸部
400 軸
410 環状溝
500 ハウジング
1000 密封装置
2000 外周リング
2100,2800 合口部
2110a,2810a 第1嵌合凸部
2110b,2810b 第2嵌合凸部
2120a,2820a 第1嵌合凹部
2120b,2820b 第2嵌合凹部
2200 凹部
2300,2400 凸部
2500 貫通孔
2600,2700 傾斜面
3000 内周リング
Claims (1)
- 軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持するシールリングであって、
前記環状溝における低圧側の側壁面に密着し、かつ前記ハウジングにおける前記軸が挿通される軸孔の内周面に対して摺動するシールリングにおいて、
外周面側には、
幅方向の中央に設けられ、周方向に伸びる凹部と、
該凹部を介して低圧側に設けられ、前記軸孔の内周面に対して摺動する第1凸部と、
前記凹部を介して高圧側に設けられ、第1凸部よりも突出量の低い第2凸部と、
を有することを特徴とするシールリング。
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