(各実施形態の内容に至る経緯)
レーダ装置は、近距離に存在するターゲットと遠距離に存在するターゲットとからの反射波が混合された信号を受信する。ここで、近距離に存在するターゲットからの反射波の信号によって、レンジサイドローブが生じる。レンジサイドローブと遠距離に存在するターゲットからの反射波の信号のメインローブとが混在する場合、レーダ装置における遠距離に存在するターゲットを検出する精度が劣化する。
従って、複数のターゲットに対して高分解能な測定が要求されるパルス信号を用いたレーダ装置には、低いレンジサイドローブレベルとなる自己相関特性(以下「低レンジサイドローブ特性」という)を有するパルス波又はパルス変調波の送信が要求される。
また、レーダ装置は、測定地点から同じ距離に自動車及び歩行者が存在すると、レーダ反射断面積(RCS: Radar cross section)の異なる自動車及び歩行者からの各反射波の信号が混合された信号を受信する。一般に、歩行者のレーダ反射断面積は、自動車のレーダ反射断面積に比べると低い。
レーダ装置は、たとえ測定地点から同じ距離に、自動車及び歩行者が存在していても、自動車及び歩行者からの反射波信号を適正に受信する必要がある。ターゲットの距離又は種別によって反射波信号の出力レベル(受信レベル)は変化するため、レーダ装置には、様々な受信レベルとなる反射波信号が受信可能な受信ダイナミックレンジが要求される。
上述したレーダ装置の一例として、異なる測定エリアに対し各測定エリアに存在するターゲットを検出するための複数のレーダユニットを設けた構成のレーダ装置が知られている。以下、ターゲット検出において、異なる測定エリアをそれぞれ測定する各レーダユニットを、「セクタレーダ」という。各セクタレーダの測定エリアは、それぞれ異なるが、測定エリアが近接している場合には一部重複することもある。
各セクタレーダの測定エリアが近接する場合、各セクタレーダから送信された送信信号間において干渉が発生する。干渉が発生した場合にはSINR(Signal to Interference and Noise power Ratio:信号対干渉雑音電力比)が劣化するため、従来のレーダ装置では、ターゲットの測位推定精度が劣化するという課題があった。
この課題に対して、従来のレーダ装置におけるセクタレーダ間における干渉の抑圧対策として、以下の方法が検討されている。
第1の方法は、各セクタレーダの用いる周波数帯域を、複数の異なる周波数帯域或いは所定の狭帯域な周波数帯域(サブバンド)として、送信信号を周波数分割多重(FDM:Frequency Division Multiplexing)して送信する方法である。
第1の方法によれば、異なる周波数帯域を用いることにより各セクタレーダ間における干渉を抑圧できるが、次の課題が残る。即ち、前者の複数の異なる周波数帯域を用いる場合、多くの周波数資源が必要となる。後者の狭帯域な周波数帯域を用いる場合、各セクタレーダにおけるターゲットの測位推定の時間分解能(距離分解能に相当)が低下する。
第2の方法は、各セクタレーダ間において送信信号を順番に時分割送信する方法である。しかし、第2の方法では、ターゲットからの反射波信号に対するSNRを所定値以上得るために送信信号を繰り返して送信する必要があり、測定時間が長くなる。ここで、測定時間が制約されている場合、所定値のSNRを満たすまでに送信信号を繰り返して送信することが難しくなり、ターゲットの検出精度が劣化する。
第3の方法は、各セクタレーダが、複数の相互相関の低い符号系列を用いて、送信信号を符号分割多重(CDM:Code Division Multiplexing)して送信する方法である。第3の方法によれば、新たな周波数帯域及びサブバンドの追加も必要なく、各セクタレーダにおけるターゲットの測位推定の時間分解能は低下しない。
しかし、送信信号をセクタレーダ毎に符号分割多重して送信した場合、他のセクタレーダからの各送信信号のターゲットにより反射された各反射波信号が、非同期状態において受信され、自セクタレーダにおいて干渉が発生する。ここで、反射波信号の受信レベルが高いほど、自セクタレーダにおけるSINRが劣化し、自セクタレーダにおけるターゲット検出精度が劣化する。
そこで、以下の各実施形態では、複数のセクタレーダを対向配置させた場合に、対向する各セクタレーダ間の送信周期の同期を不要とし、簡易な構成によってセクタレーダ間における干渉を抑圧するレーダ装置の例を説明する。
本開示に係るレーダ装置の各実施形態を説明する前に、以下、各実施形態の前提となる技術内容として、相補符号を簡単に説明する。
(相補符号)
図1(a)は、ペアとなる相補符号系列のうち一方の相補符号系列の自己相関演算結果を示す説明図である。図1(b)は、ペアとなる相補符号系列のうち他方の相補符号系列の自己相関演算結果を示す説明図である。図1(c)は、ペアとなる2つの相補符号系列の自己相関演算結果の加算値を示す説明図である。
相補符号は、複数の相補符号系列、例えば、ペアとなる2つの相補符号系列(An、Bn)を用いた符号である。相補符号は、一方の相補符号系列Anと他方の相補符号系列Bnとの各自己相関演算結果において、遅延時間τ[秒]を一致させた各自己相関演算結果の加算によって、レンジサイドローブがゼロとなる性質を有する。なお、パラメータnはn=1〜Lである。パラメータLは、符号系列長又は単に符号長を示す。
相補符号の生成方法は、例えば下記参考非特許文献1に開示されている。
(参考非特許文献1)BUDISIN, S. Z,「NEW COMPLEMENTARY PAIRS OF SEQUENCES」,Electron. Lett., 26,(13), pp.881−883(1990)
相補符号系列(An,Bn)のうち、一方の相補符号系列Anの自己相関値演算結果は、数式(1)により演算される。他方の相補符号系列Bnの自己相関値演算結果は、数式(2)により演算される。なお、パラメータRは自己相関値演算結果を示す。但し、n>L又はn<1においては、相補符号系列An,Bnはゼロとする(すなわち、n>L又はn<1において、An=0、Bn=0)。なお、アスタリスク*は複素共役演算子を示す。
数式(1)に従って演算された相補符号系列Anの自己相関値演算結果RAA(τ)は、遅延時間(あるいはシフト時間)τがゼロであるとピークが発生し、遅延時間τがゼロ以外では、レンジサイドローブが存在する。同様に、数式(2)に従って演算された相補符号系列Bnの自己相関値演算結果RBB(τ)は、遅延時間τがゼロであるとピークが発生し、遅延時間τがゼロ以外では、レンジサイドローブが存在する。
自己相関値演算結果(RAA(τ),RBB(τ))の加算値は、遅延時間τがゼロであるとピークが発生し、遅延時間τがゼロ以外ではレンジサイドローブが存在せずにゼロになる。以下、遅延時間τがゼロであると発生するピークを「メインローブ」という。上記の関係を数式(3)に示す。
相補符号においては、上述した自己相関特性から、より短い符号長によってピークサイドローブレベルを低減できる。短い符号長を用いる相補符号においては、近距離に存在するターゲットと遠距離に存在するターゲットとからの反射波が混合された信号を受信しても、レーダ装置における受信ダイナミックレンジを低減できる。
(第1の実施形態)
先ず、本開示に係るレーダ装置の第1の実施形態を、図面を参照して説明する。図2は、第1の実施形態のレーダ装置10を構成する各セクタレーダSR1及びSR2と各セクタレーダSR1及びSR2の測定範囲を示す説明図である。レーダ装置10は、複数の例えば2つのセクタレーダSR1及びSR2を含む構成である。
セクタレーダSR1が受信する受信信号には、セクタレーダSR1から送信されたレーダ送信信号がターゲットTAR1により反射された反射波信号と、セクタレーダSR2から送信された干渉波信号としてのレーダ送信信号とが含まれる。同様に、セクタレーダSR2が受信する受信信号には、セクタレーダSR2から送信されたレーダ送信信号がターゲットTAR2により反射された反射波信号と、セクタレーダSR1から送信された干渉波信号としてのレーダ送信信号とが含まれる。
図2に示すセクタレーダSR1及びSR2は、各セクタレーダSR1及びSR2の測定エリアA及びBがほぼ同一直線上となり、各測定エリアA及びBの一部が重複する様に対向的に配置される。セクタレーダSR1及びSR2間の距離Rdと、各セクタレーダSR1及びSR2の最大測定距離R1及びR2との間には数式(4)が成立する。
以下、セクタレーダSR1及びSR2の各送信周期Tr及び送信区間Twは同一とするが、各セクタレーダSR1及びSR2からの各レーダ送信信号は、非同期状態において送信される。また、図2では便宜的に2つの異なるターゲットTAR1及びTAR2を各測定エリアA及びBにそれぞれ存在しているが、例えば1つのターゲットTAR1が各測定エリアA若しくはB又はA及びBの重複範囲に存在してもよい。
第1の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSR1及びSR2の構成及び動作について、図3〜図5を参照して説明する。図3は、第1の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRs(s=1,2)の内部構成を簡易に示すブロック図である。図4は、第1の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRs(s=1,2)の内部構成を詳細に示すブロック図である。図5は、第1の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRs(s=1,2)におけるレーダ送信信号の各送信区間及び各送信周期と各送信位相シフト成分との関係を示す説明図である。
以下の各実施形態では説明を簡略にするために、セクタレーダSR1とセクタレーダSR2との共通の動作についてはパラメータsを用いて包括的に説明し、セクタレーダSR1とセクタレーダSR2との異なる動作についてはそれぞれ個別に説明する。パラメータsは1又は2であり、セクタレーダの序数を表す。
セクタレーダSRsは、レーダ送信部Txsにおいて生成された高周波のレーダ送信信号を、送信アンテナAnt−Txsから送信する。セクタレーダSR1は、ターゲットTARsにより反射されたレーダ送信信号の反射波信号を、受信アンテナAnt−Rxsにおいて受信する。セクタレーダSR1は、受信アンテナAnt−Rxsにおいて受信された反射波信号の信号処理によって、ターゲットTARsの有無を検出する。なお、ターゲットTARsはセクタレーダSRsが検出する対象の物体であり、例えば自動車又は人を含み、以下の各実施形態においても同様である。
先ず、セクタレーダSRsの各部の構成について簡略に説明する。
図3に示すセクタレーダSRsは、基準信号発振器Los、レーダ送信部Txs及びレーダ受信部Rxsを含む構成である。レーダ送信部Txsは、送信信号生成部2s、及び、送信アンテナAnt−Txsと接続される送信RF部3sを有する構成である。送信信号生成部2sは、パルス送信制御部21s、符号生成部22s、変調部23s及び第s送信位相シフト部25sを含む構成である。なお、本実施形態を含む各実施形態において、各送信アンテナ又は受信アンテナは、送信アンテナ素子又は受信アンテナ素子を用いて構成されてもよい。
レーダ送信部Txs及びレーダ受信部Rxsは、基準信号発振器Losに接続され、基準信号発振器Losからリファレンス信号(基準信号)が供給される。従って、レーダ送信部Txs及びレーダ受信部Rxsの処理は同期する。
レーダ受信部Rxsは、受信RF部4s、VGA(Variable Gain Amplifier)部5s、及び信号処理部6sを有する構成である。信号処理部6sは、第s受信位相シフト部62s、相関値演算部63s、コヒーレント積分部64s及び距離推定部65sを含む構成である。
(レーダ送信部)
次に、セクタレーダSRsのレーダ送信部Txsの各部の構成について、図4を参照して詳細に説明する。
送信信号生成部2sは、パルス送信制御部21s、符号生成部22s、変調部23s、LPF(Low Pass Filter)24s、第s送信位相シフト部25s及びD/A(Digital Analog)変換部26sを含む構成である。図4では、送信信号生成部2sはLPF24sを含む構成であるが、LPF24sは送信信号生成部2sと独立してレーダ送信部Txsの中に構成されてもよい。送信RF部3sは、直交変調部31s、周波数変換部32s及び増幅器33sを含む構成である。
次に、レーダ送信部Txsの各部の動作について詳細に説明する。
送信信号生成部2sは、基準信号発振器Losにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍に逓倍した送信基準クロック信号を生成する。送信信号生成部2sの各部は、生成された送信基準クロック信号に基づいて動作する。送信基準クロック周波数をfTxBBと表すと、送信周期Trは、送信基準クロック周波数fTxBBにより定まる離散時刻間隔(1/fTxBB)の整数Nr倍として表せる(数式(5)参照)。なお、送信基準クロック周波数fTxBBは公称値であり、実際上はレーダ送信部Txs毎に異なる周波数誤差を含む。
送信信号生成部2sは、パルス送信制御部21sからの送信周期Tr毎に出力されたレーダ送信信号の送信タイミング信号を基に、符号長Lの符号系列Cnの変調によって、数式(6)のベースバンドの送信信号Gs(ts)を周期的に生成する。パラメータn=1〜Lであり、パラメータLは符号系列Cnの符号長を表す。jは、j2=−1を満たす虚数単位である。パラメータtsは、離散時刻を表す。
送信信号Gs(ts)は、図5に示す様に、例えば各送信周期Trの送信区間Tw[秒]では、符号系列Cnの1つの符号あたり送信基準クロック信号のNo[個]のサンプルを用いて変調されている。従って、送信区間Twにおいては、Nw(=No×L)のサンプルを用いて変調されている。各送信周期Trの無信号区間(Tr−Tw)[秒]では、Nu(=Nr−Nw)[個]のサンプルを用いて変調されている。従って、数式(6)の送信信号Gs(ts)は、数式(7)を用いて表せる。
パルス送信制御部21sは、高周波のレーダ送信信号の送信タイミング信号を、送信周期Tr毎に生成し、符号生成部22s、第s送信位相シフト部25s及び第s受信位相シフト部62sにそれぞれ出力する。
符号生成部22sは、パルス送信制御部21sからの送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、符号長Lの符号系列Cnの送信符号を生成する。符号生成部22sは、生成された符号系列Cnの送信符号を変調部23sに出力する。即ち、1つの符号生成部22sが、1つの符号系列を生成する。
符号系列Cnの要素は、例えば、[−1,1]の2値、若しくは[1,−1,j,−j]の4値を用いて構成される。送信符号は、低レンジサイドローブ特性が得られる例えばBarker符号系列、M系列符号及びGold符号系列のうちいずれかの符号系列である。以下、符号系列Cnの送信符号を、便宜的に送信符号Cnと記載する。
変調部23sは、符号生成部22sから出力された送信符号Cnを入力する。変調部23sは、入力された送信符号Cnをパルス変調し、数式(6)のベースバンドの送信信号Gs(ts)を生成する。パルス変調は、振幅変調(ASK)又は位相変調(PSK)であり、以下の各実施形態においても同様である。
例えば位相変調(PSK)は、符号系列Cnが例えば[−1,1]の2値の位相変調ではBPSK(Binary Phase Shift Keying)となり、符号系列Cnが例えば[1,−1,j,−j]の4値の位相変調ではQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)若しくは4相PSKとなる。即ち、位相変調(PSK)では、IQ平面上のコンスタレーションにおける所定の変調シンボルが割り当てられる。
数式(6)のベースバンドの送信信号Gs(ts)において、Is(ts)は変調信号の同相成分(Inphase成分)を表し、Qs(ts)は変調信号の直交成分(Quadrature成分)を表す。変調部23sは、LPF24sを介して、生成された送信信号Gs(ts)のうち、予め設定された制限帯域以下の送信信号Gs(ts)を第s送信位相シフト部25sに出力する。なお、LPF24sは送信信号生成部2sにおいて省略されても良く、以下の各実施形態においても同様である。
ここで、セクタレーダSRs(s=1)における第s送信位相シフト部25sの動作を個別に説明する。第s送信位相シフト部25sは、変調部23s又はLPF24sから出力された送信信号Gs(ts)を入力する。第s送信位相シフト部25sは、パルス送信制御部21sからの送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、入力された送信信号G(ts)に、1個の送信周期毎に、所定の送信位相シフトを付与する(図5参照)。
具体的には、第s送信位相シフト部25sは、第ms番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21sからの送信タイミング信号を基に、送信周期Trの序数に応じた送信位相シフトexp(j(ms−1)φs)を送信信号G(ts)に付与する(数式(8)参照)。パラメータmsは、送信周期Trの序数を表す。パラメータφsは、第s送信位相シフト部25sにおいて付与される位相回転量(例えば90度)であり、数式(9)の関係を満たすことが好ましい。第s送信位相シフト部25sは、送信位相シフトが付与された送信信号GPs(Nr(ms−1)+ts)をD/A変換部26sに出力する。数式(9)のFdmaxは図8を参照して後述する。
次に、セクタレーダSRs(s=2)における第s送信位相シフト部25sの動作において、セクタレーダSRs(s=1)における動作との相違点は、数式(10)における位相回転量としてのパラメータφ2が、φ1と異なるものである。例えば、パラメータφ1が90度となり、パラメータφ2が−90度となる。
更に、セクタレーダSR1の第s送信位相シフト部25sにより付与される送信位相シフトのパラメータφ1と、セクタレーダSR2の第s送信位相シフト部25sにより付与される送信位相シフトのパラメータφ2とは、逆位相の関係を有する(φ1=−φ2)。
D/A変換部26sは、第s送信位相シフト部25sから出力されたデジタルの送信信号GPs(Nr(ms−1)+ts)をアナログの送信信号に変換する。D/A変換部26sは、アナログの送信信号を送信RF部3sに出力する。
送信RF部3sは、基準信号発振器Losにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍数に逓倍したキャリア周波数帯域の送信基準信号を生成する。送信RF部3sの各部は、生成された送信基準信号に基づいて動作する。
直交変調部31sは、D/A変換部26sから出力された送信信号を入力して直交変調する。直交変調部31sは、直交変調された送信信号を周波数変換部32sに出力する。
周波数変換部32sは、直交変調部31sから出力された送信信号を入力し、入力された送信信号と送信基準信号とを用いて、ベースバンドの送信信号をアップコンバートする。周波数変換部32sは、高周波のレーダ送信信号を生成する。周波数変換部32sは、生成されたレーダ送信信号を増幅器33sに出力する。
増幅器33sは、周波数変換部32sから出力されたレーダ送信信号を入力し、入力されたレーダ送信信号のレベルを所定のレベルに増幅し、送信アンテナAnt−Txsに出力する。増幅されたレーダ送信信号は、送信アンテナAnt−Txsを介した空間への放射によって送信される。
送信アンテナAnt−Txsは、送信RF部3sにより出力されたレーダ送信信号を空間に放射することによって送信する。図5に示す様に、レーダ送信信号は、送信周期Trのうち送信区間Twの間に送信され、無信号区間(Tr−Tw)の間には送信されない。
なお、送信RF部3s及び受信RF部4sには、基準信号発振器Losにより生成されたリファレンス信号が共通に供給されている。これにより、送信RF部3s及び受信RF部4s間が同期した動作ができる。
(レーダ受信部)
次に、レーダ受信部Rxsの各部の構成について、図4を参照して詳細に説明する。
図4に示すレーダ受信部Rxsは、受信アンテナAnt−Rxsが接続された受信RF部4s、VGA部5s及び信号処理部6sを含む構成である。受信RF部4sは、増幅器41s、周波数変換部42s及び直交検波部43sを含む構成である。信号処理部6sは、A/D変換部61s、第s受信位相シフト部62s、相関値演算部63s、コヒーレント積分部64s及び距離推定部65sを含む構成である。信号処理部6sの各部は、各送信周期Trを信号処理区間として周期的に演算する。
次に、レーダ受信部Rxsの各部の動作について詳細に説明する。
受信アンテナAnt−Rxsは、レーダ送信部Txsから送信されたレーダ送信信号がターゲットTARsにより反射された反射波信号、及び対向的に配置された他セクタレーダからのレーダ送信信号を受信する。受信アンテナAnt−Txsにおいて受信された受信信号は、受信RF部4sに入力される。
受信RF部4sは、送信RF部3sと同様に、基準信号発振器Losにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍に逓倍したキャリア周波数帯域の受信基準信号を生成する。
増幅器41sは、受信アンテナAnt−Txsにおいて受信された高周波の受信信号を入力し、入力された受信信号のレベルを増幅して周波数変換部42sに出力する。
周波数変換部42sは、増幅器41sから出力された高周波の受信信号を入力し、入力された高周波の受信信号と受信基準信号とを用いて、高周波の受信信号をベースバンドの受信信号にダウンコンバートする。周波数変換部42sは、ベースバンドの受信信号を生成し、生成されたベースバンドの受信信号を直交検波部43sに出力する。
直交検波部43sは、周波数変換部42sから出力されたベースバンドの受信信号を直交検波することによって、同相信号(In-phase signal、I信号)及び直交信号(Quadrate signal、Q信号)を用いて構成されるベースバンドの受信信号を生成する。直交検波部43sは、生成された受信信号をVGA部5sに出力する。
VGA部5sは、直交検波部43sから出力されたベースバンドのI信号及びQ信号を含む受信信号をそれぞれ入力し、入力された受信信号の出力レベルを調整して、入力されたベースバンドの受信信号の出力レベルをA/D変換部61sの入力レンジ(ダイナミックレンジ)内に収める。
VGA部5sは、出力レベルが調整されたベースバンドのI信号及びQ信号を含む受信信号をA/D変換部61sに出力する。本実施形態においては、説明を簡単にするため、VGA部5sにおける利得は、受信信号の出力レベルがA/D変換部61sの入力レンジ(ダイナミックレンジ)内に収まる様に予め調整されている。
信号処理部6sは、受信RF部4sと同様に、基準信号発振器Losにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍に逓倍した受信基準クロック信号を生成する。信号処理部6sの各部は、生成された受信基準クロック信号に基づいて動作する。
受信基準クロック周波数をfRxBBと表すと、送信周期Trは、受信基準クロック周波数fRxBBにより定まる離散時刻間隔(1/fRxBB)の整数倍Nv倍として表せる(数式(11)参照)。送信基準クロック周波数fTxBBは、受信基準クロック周波数fRxBBの整数NTR倍の関係にあるとする(数式(12)参照)。なお、受信基準クロック周波数fRxBBは公称値であり、実際上はレーダ受信部Rxs毎に異なる周波数誤差を含む。
A/D変換部61sは、VGA部5sから出力されたI信号及びQ信号を含む受信信号を入力し、入力されたI信号及びQ信号を含む受信信号を、受信基準クロック周波数fRxBBを基に、離散時刻(1/fRxBB)毎にそれぞれサンプリングすることにより、アナログデータの受信信号をデジタルデータに変換する。
A/D変換部61sは、離散時刻ks毎に変換されたデジタルデータの受信信号を、離散サンプル値として第s受信位相シフト部62sに出力する。変換された離散サンプル値である受信信号xs(ks)は、離散時刻ksにおける離散サンプル値であるI信号Irs(ks)及びQ信号Qrs(ks)を用いて、数式(13)により複素数として表せる。
ここで、レーダ装置10の測定範囲を、図6及び図7を参照して説明する。図6は、セクタレーダSR2からのレーダ送信信号の送信区間がセクタレーダSR1からのレーダ送信信号の送信周期の開始時に跨る場合におけるセクタレーダSR1の測定期間を説明するための説明図である。図7は、第s番目のセクタレーダSRsにおける測定範囲を説明するための説明図であり、図6に示すレーダ送信信号の送信区間Tw、送信周期Tr及び測定範囲(Tr−Tw)を、離散時刻ksを用いて具体的に説明した図である。
図6の説明を簡単にするため、レーダ送信信号の送信符号(点線参照)は相補符号とし、相補符号のペアとなる各符号系列an,bnのレーダ送信信号は、2個の送信周期を単位として、各送信周期Trの送信区間Twにおいて出力されている。
セクタレーダSR2からのレーダ送信信号(実線参照)の送信区間がセクタレーダSR1からのレーダ送信信号の送信周期Trの開始時に跨る場合、送信周期Trの開始時点の前後において送信位相シフト及び受信位相シフトが異なる場合がある。レーダ装置10は、セクタレーダSR2からのレーダ送信信号の送信区間がセクタレーダSR1からのレーダ送信信号の送信周期Trの開始時に跨る場合、セクタレーダSR2からのレーダ送信信号の送信区間の開始時からセクタレーダSR1の送信周期Trの開始時までの区間を測定範囲に含めない。
即ち、レーダ装置10は、セクタレーダSR2からのレーダ送信信号の送信区間の開始時からセクタレーダSR1からのレーダ送信信号の送信周期Trの開始時までの区間Tsを測定範囲に含めない。図7では、送信区間Twは離散時刻ks=1〜Nw/NTRとなり、測定範囲の区間(Tr−Tw)は送信区間Twを含む離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRとなり、測定範囲外の区間Ts(=Tw)は離散時刻ks=(Nu−Nw)/NTR〜Nu/NTRとなる。
離散時刻ksはA/D変換部61sにおいてサンプリングされるタイミングを表し、離散時刻ks=1は送信周期Trの開始時点を表し、離散時刻ks=Nvは送信周期Trの終了時点を表す。離散時刻ksは実際には1〜Nvを取り得るが、レーダ装置10の送信周期Trのうち測定範囲外Tsは測定範囲に含まれないため、実質的には離散時刻ksは1〜(Nu−Nw)/NTRとなる。
数式(13)の第ms番目の送信周期Trにおいて、A/D変換部61sから出力された受信信号xs(ks)は、複素ベースバンド信号Xs(Nv(ms−1)+ks)として数式(14)を用いて表せる。
ここで、セクタレーダSRs(s=1)における第s受信位相シフト部62sの動作を個別に説明する。第s受信位相シフト部62sは、A/D変換部61sから出力された受信信号Xs(Nv(ms−1)+ks)を入力する。第s受信位相シフト部62sは、パルス送信制御部21sからの送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、入力された受信信号Xs(Nv(ms−1)+ks)に、1個の送信周期毎に、第s送信位相シフト部25sにおいて付与された位相シフト成分の逆方向の受信位相シフトを付与する。
具体的には、第s受信位相シフト部62sは、第ms番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21sからの送信タイミング信号を基に、1個の送信周期毎に、送信周期Trの序数に応じた受信位相シフトexp(j(ms−1)(−φs))を受信信号Xs(Nv(ms−1)+ks)に付与する(数式(15)参照)。第s受信位相シフト部62sは、受信位相シフトが付与された受信信号XPs(Nv(ms−1)+ks)を相関値演算部63sに出力する。
次に、セクタレーダSRs(s=2)における第s受信位相シフト部62sの動作において、セクタレーダSRs(s=1)における動作との相違点は、受信位相シフトφ2がφ1と異なる点である(数式(16)参照)。例えば、パラメータφ1が90度となり、パラメータφ2が−90度となる。
相関値演算部63sは、第s受信位相シフト部62sから出力された受信信号XPs(Nv(ms−1)+ks)を入力する。相関値演算部63sは、リファレンス信号を所定倍に逓倍された受信基準クロック信号に基づいて、離散時刻ksに応じて、第ms番目の送信周期Trにおいて送信する符号長Lの符号系列Cnの送信符号を周期的に生成する。
相関値演算部63sは、入力された受信信号XPs(Nv(ms−1)+ks)と、送信符号Cnとのスライディング相関値AC(ks,m)を演算する。スライディング相関値AC(ks,ms)は、第ms番目の送信周期Trの離散時刻ksにおける、送信符号と受信信号とのスライディング相関演算によって演算された値である。
具体的には、相関値演算部63sは、各送信周期Tr、即ち離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRにおいて、第ms番目の送信周期Trの離散時刻ksにおけるスライディング相関値ACs(ks,ms)を、数式(17)に従って演算する。相関値演算部63sは、数式(17)に従って演算されたスライディング相関値ACs(ks,ms)をコヒーレント積分部64sに出力する。数式(17)において、アスタリスク(*)は複素共役演算子である。
相関値演算部63sは、本実施形態を含む各実施形態において、離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRにおいて演算するが、レーダ装置10の測定対象となるターゲットTARsの存在範囲に応じて、測定レンジ(ksの範囲)を、例えばks=(Nw/NTR)+1〜(Nu−Nw)/NTRの範囲に更に限定してもよい。これにより、レーダ装置10は、相関値演算部63sの演算量を更に低減できる。即ち、レーダ装置10は、信号処理部6sにおける演算量の削減に基づく消費電力量を更に低減できる。
レーダ装置10は、相関値演算部63sが離散時刻ks=(Nw/NTR)+1〜(Nu−Nw)/NTRの範囲におけるスライディング相関値ACs(ks,ms)を演算する場合には、各セクタレーダSRsからの各レーダ送信信号の送信区間Twにおける反射波信号の測定を省略できる。
レーダ装置10は、各セクタレーダSRsからの各レーダ送信信号が各レーダ受信部Rxsに直接的に回り込んだとしても、回り込みによる影響を排除して測定できる。測定レンジ(離散時刻ksの範囲)の限定によって、コヒーレント積分部64s及び距離推定部65sの動作も同様の測定レンジに限定した範囲において動作する。
コヒーレント積分部64sは、相関値演算部63sから出力されたスライディング相関値ACs(ks,ms)を入力する。コヒーレント積分部64sは、第ms番目の送信周期Trにおける離散時刻ks毎に演算されたスライディング相関値ACs(ks,ms)を基に、所定回数(NP回)の送信周期Trの期間(NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACs(ks,ms)を加算する。
コヒーレント積分部64sは、所定回数(NP回)の送信周期Trの期間(NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACs(ks,ms)の離散時刻ks毎の加算により、第vs番目のコヒーレント積分値ACCs(ks,vs)を、離散時刻ks毎に数式(18)に従って演算する。パラメータNPは、コヒーレント積分部64sにおけるコヒーレント積分回数を表す。パラメータvsは、セクタレーダSRsにおけるコヒーレント積分部64sのコヒーレント積分回数NPを1個の単位とした場合におけるコヒーレント積分回数の序数を表す。コヒーレント積分部64sは、演算されたコヒーレント積分値ACCs(ks,vs)を距離推定部65sに出力する。
数式(18)において所定回数NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、コヒーレント積分部64sは、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、回路誤差の影響を低減できる。即ち、レーダ装置10は、セクタレーダSRsにおける所定回数NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、ターゲット測距性能の劣化を防ぐことができる。更に、レーダ装置10は、NP回のコヒーレント積分により反射波信号に含まれる雑音成分を抑圧することにより、反射波信号の受信品質(SNR:Signal to Noise Ratio)を改善できる。
図8(a)は、従来のレーダ装置の受信信号に含まれるDCオフセット成分とドップラ周波数成分との関係を示す説明図である。図8(b)は、本開示に係るレーダ装置10を構成する各セクタレーダSRsの受信位相シフト前における各受信信号に含まれるDCオフセット成分とドップラ周波数成分との関係を示す説明図である。図8(c)は、本開示に係るレーダ装置10を構成する各セクタレーダSRsの受信位相シフト後における各受信信号に含まれるDCオフセット成分とドップラ周波数成分との関係を示す説明図である。
なお、パルスレーダにおけるターゲットからの反射波に含まれるドップラ周波数成分の検出は、例えば下記の参考非特許文献2において記載されている。
(参考非特許文献2)Sang−Dong KIM,Jong−Hun LEE,“A Memory−Efficient Hardware Architecture for a Pulse Doppler Radar Vehicle Detector.”, IEICE Trans, Fundamentals, Vol.E94−A No.5 pp.1210−1213,2011
図8(a)〜(c)は受信信号に定常的にDCオフセット成分が含まれる場合を示す。ターゲットTARsが移動することを想定した場合に、ターゲットTARsにより反射された反射波信号に含まれるドップラ周波数をfd、fdの正方向の最大値をFdmax、fdの負方向の最大値を−Fdmaxと表す。
図8(a)に示す従来のレーダ装置による受信信号では、DCオフセット成分は反射波信号に含まれるドップラ周波数Fdの取り得る範囲(2Fdmax)におけるドップラスペクトラムに現れ、ドップラスペクトラムとDCオフセット成分とを分離することが困難である。従って、従来のレーダ装置はDCオフセット成分の影響を受けることになり、反射波信号におけるレンジサイドローブ比が増加し、ターゲット測距特性が劣化する。
各セクタレーダSRsは、各レーダ送信部Txsにおいて、所定の符号系列を送信符号として用いたベースバンドの送信信号に、送信周期に応じた送信位相シフトを付与し、高周波のレーダ送信信号を生成する。
送信位相シフトにおける位相回転量をφs、送信周期をTrと表すと、図8(b)に示す様に、送信位相シフトにより、ドップラ周波数fdの取り得る範囲(2Fdmax)におけるドップラスペクトラムが(φs/2πTr)シフトする。図8(b)においては、位相回転量φs、送信周期Tr及びドップラ周波数の最大値Fdmaxの間には、数式(19)が成立している場合を示す。
これにより、図8(b)に示す様に、各セクタレーダSRsは、反射波信号に含まれるドップラ周波数fdの取り得る範囲(2Fdmax)におけるドップラスペクトラムとDCオフセット成分とを分離できる。
更に、各セクタレーダSRsは、各レーダ受信部Rxsにおいて、高周波の受信信号をベースバンドの受信信号に変換し、ベースバンドの受信信号に、送信位相シフトの付与時における位相回転量の逆方向の受信位相シフトを付与する。
即ち、図8(c)に示す様に、各セクタレーダSRsは、受信信号に含まれるドップラ周波数fdの取り得る範囲(2Fdmax)におけるドップラスペクトラムとDCオフセットとを(−φ/2πTr)シフトする。これにより、レーダ装置10は、DCオフセット成分とドップラスペクトラムとを分離でき、ドップラスペクトラムの送信位相シフトによる影響を抑制できる。
本実施形態では、各コヒーレント積分部64sは、2個の送信周期毎にコヒーレント積分することにより、セクタレーダSR1からのレーダ送信信号とセクタレーダSR2からのレーダ送信信号との間における干渉を効果的に抑圧できる。干渉抑圧効果の理由を説明する。例えば、セクタレーダSR1において、セクタレーダSR2からのレーダ送信信号が干渉波信号として到来する場合を想定する。
セクタレーダSR1の第m1番目の送信周期Trにおける受信信号と、干渉波信号としてのセクタレーダSR2からのレーダ送信信号とを含めた場合のA/D変換部61s(s=1)の出力は、数式(20)により示される。
数式(20)の第1項は、セクタレーダSR1のレーダ送信部Txsからのレーダ送信信号がターゲットTARsに反射されてセクタレーダSR1のレーダ受信部Rxsにおいて受信される所望信号成分を表す。数式(20)の第2項は、セクタレーダSR2のレーダ送信部Txsからのレーダ送信信号が同じターゲットTARsに反射されてセクタレーダSR1のレーダ受信部Rxsにおいて受信される干渉波信号成分を表す。
パラメータh11は、セクタレーダSR1から送信されたレーダ送信信号がセクタレーダSR1において受信される場合の振幅及び位相の複素減衰係数である。パラメータh12は、セクタレーダSR2から送信されたレーダ送信信号がセクタレーダSR1において受信される場合の振幅及び位相の複素減衰係数である。パラメータm2は数式(21)、パラメータNdelayは数式(22)により表される。
|_x_|は、実数xの整数部を出力する演算子である。パラメータτ11は、レーダ送信信号がセクタレーダSR1から送信されてターゲットTARs(s=1)に反射されてセクタレーダSR1において受信されるまでの遅延時間である。パラメータτ12は、レーダ送信信号がセクタレーダSR2から送信されてターゲットTARs(s=2)に反射され若しくは直接的に伝搬されてセクタレーダSR1において受信されるまでの遅延時間である。なお、説明を簡単にするために、各セクタレーダSRsのレーダ送信部Txs及びレーダ受信部Rxsのフィルタの応答特性を含めていない。
更に、セクタレーダSR1の第(m1+1)番目の送信周期Trにおける受信信号と、干渉波信号としてのセクタレーダSR2からのレーダ送信信号とを含めた場合のセクタレーダSR1のA/D変換部61sの出力は、第m1番目の送信周期Trと同じ伝搬環境であると仮定した場合には数式(23)により示される。第m1番目の送信周期Trと同じ伝搬環境である場合とは、複素減衰係数h11,h12、遅延時間τ11,τ12が変化しないと見なせる場合である。
セクタレーダSR1の第m1番目の送信周期Trと第(m1+1)番目の送信周期Trとにおける2個の送信周期における相関値演算部63sの出力、即ちスライディング相関値の加算値は、数式(24)により表される。
セクタレーダSR1の第m1番目の送信周期Tr及び第(m1+1)番目の送信周期Trにおける第s受信位相シフト部62sの各出力は、数式(25)及び数式(26)により表される。
数式(25)及び数式(26)の各第1項は、セクタレーダSR1のレーダ送信部Txsからのレーダ送信信号がターゲットTARsに反射されてセクタレーダSR1のレーダ受信部Rxsにおいて受信される所望信号成分である。従って、数式(25)及び数式(26)の各第1項は、数式(27)に示す様に同相の信号となり、数式(24)のコヒーレント積分によってコヒーレント積分利得を得ることができる。∠[x]は、複素数xの位相成分を出力する演算子である。
一方、数式(25)及び数式(26)の各第2項は、セクタレーダSR2のレーダ送信部Txsからのレーダ送信信号がターゲットTARsに反射されてセクタレーダSR1のレーダ受信部Rxsにおいて受信される干渉波信号成分である。
セクタレーダSR1とセクタレーダSR2とのキャリア周波数誤差がほぼ同一、即ち数式(28)が成立する場合には、第m1番目及び第(m1+1)番目の各送信周期Trにおける各干渉波信号成分の位相関係は、数式(29)の様に、ほぼ位相が反転する関係となる。従って、レーダ装置10は、数式(24)のコヒーレント積分によって、干渉波信号成分を効果的に抑圧できる。
パラメータfdevは、セクタレーダSR1とセクタレーダSR2との間のキャリア周波数誤差を表し、送信基準クロック信号の周波数誤差から生じるキャリア周波数誤差及び受信基準クロック信号の周波数誤差から生じるサンプリング周波数誤差により規定される。
例えば、セクタレーダSR1の送信RF部3sにおけるキャリア周波数を76GHzとし、セクタレーダSR1及びSR2間のキャリア周波数誤差を0.5ppm(=0.5×10−6)とし、送信周期Trを300nsとする。セクタレーダSR1の測定可能距離が45m(=Co×Tr/2、Co:光速度)でも、セクタレーダSR1とセクタレーダSR2との間のキャリア周波数誤差fdevに起因する位相変動は、5度以下となる(図9参照)。
即ち、数式(30)に示す様に、セクタレーダSR1とセクタレーダSR2との間のキャリア周波数誤差fdevに起因する位相変動は、4.1度となり180度の約2.5%程度の値であるため無視できる。レーダ装置10は、干渉波信号成分の20dB以上を抑圧できる。図9は、セクタレーダSR1及びSR2間における周波数誤差による位相回転量と自セクタレーダにおける他セクタレーダからの干渉信号の干渉抑圧量との関係を示すグラフである。
上述した説明は、セクタレーダSR1においてセクタレーダSR2からの干渉波信号が到来する場合を想定したが、セクタレーダSR2においてセクタレーダSR1からの干渉波信号が到来する場合についても同様に適用可能である。
距離推定部65sは、NP回の送信周期Tr毎にコヒーレント積分部64sから出力された離散時刻ks毎のコヒーレント積分値ACCs(ks,vs)を入力する。距離推定部65sは、入力された離散時刻ks毎のコヒーレント積分値ACCs(ks,vs)を基に、ターゲットTARsまでの距離を推定する。距離推定部65sにおける距離推定は、例えば下記参考非特許文献3において開示されている推定方法を適用可能である。
(参考非特許文献3)Bussgang, J.J.;Nesbeda, P.;Safran,H.,“A Unified Analysis of Range Performance of CW, Pulse, and Pulse Doppler Radar”,Proceedings of the IRE, Volume:47, Issue:10, pp.1753−1762,1959
第vs番目の出力周期(vs×NP×Tr)において得られたコヒーレント積分部64sからのコヒーレント積分値の絶対値の自乗値|ACCs(ks,vs)|2は、離散時刻ks毎の反射波信号の受信レベルに相当する。距離推定部65sは、セクタレーダSRsの周囲の雑音レベルから所定値以上を上回るピーク受信レベルの検出時刻kpsを基に、数式(31)に従って距離Range(kps)を推定する。数式(31)において、パラメータC0は光速度である。
以上により、第1の実施形態のレーダ装置10は、複数のセクタレーダを対向配置させた場合に、対向する各セクタレーダ間の送信周期の同期を不要とし、簡易な構成によってセクタレーダ間における干渉を抑圧できる。更に、レーダ装置10は、回路誤差、例えば、DCオフセット、IQインバランスを含む場合においても、回路誤差の補正回路を設けることなく、レンジサイドローブの増加を防ぎ、ターゲット測距性能の劣化を効果的に抑圧できる。
なお、本実施形態ではセクタレーダSR1及びSR2において用いられる送信符号は、符号長Lの同一の符号系列Cnとしたが、同一の符号系列Cnに限定されず、同一の符号長Lの異なる符号系列C(1)n,C(2)nでもよい。特に、セクタレーダSR1及びSR2の各符号生成部21sが異なる符号系列C(1)n,C(2)nに互いに相互相関が小さい符号系列をそれぞれ選択することにより、レーダ装置10は、各セクタレーダSRs間における干渉を一層抑圧できる。
また、本実施形態ではセクタレーダSR1及びSR2において用いられる送信符号は、異なる符号長L1,L2の異なる符号系列C(1)n1,C(2)n2でもよい。特に、セクタレーダSR1及びSR2の各符号生成部21sが異なる符号系列C(1)n,C(2)nに互いに相互相関が小さい符号系列をそれぞれ選択することにより、レーダ装置10は、各セクタレーダSRs間における干渉を一層抑圧できる。セクタレーダSR1及びSR2が異なる符号系列C(1)n,C(2)nのレーダ送信信号を送信するため、各セクタレーダSR1及びSR2からの各レーダ送信信号の送信区間がそれぞれ異なる(図10(a)及び(b)参照)。
図10(a)は、セクタレーダSR1及びSR2における送信符号の符号長が異なる場合のセクタレーダSR1における測定範囲を説明するための説明図である。図10(b)は、セクタレーダSR1及びSR2における送信符号の符号長が異なる場合のセクタレーダSR2における測定範囲を説明するための説明図である。
レーダ装置10は、セクタレーダSR2からのレーダ送信信号の送信区間がセクタレーダSR1からのレーダ送信信号の送信周期Trの開始時に跨る場合、セクタレーダSR2からのレーダ送信信号の送信区間の開始時からセクタレーダSR1の送信周期Trの開始時までの区間を測定範囲に含めない。
即ち、図10(a)に示す様に、セクタレーダSR1では、送信区間Tw1は離散時刻ks=1〜Nw1/NTRとなり、測定範囲の区間(Tr−Tw2)は送信区間Tw1を含む離散時刻ks=1〜(Nu−Nw2)/NTRとなり、測定範囲外の区間Ts(=Tw1)は離散時刻ks=(Nu−Nw2)/NTR〜Nu/NTRとなる。
即ち、図10(b)に示す様に、セクタレーダSR2では、送信区間Tw2は離散時刻ks=1〜Nw2/NTRとなり、測定範囲の区間(Tr−Tw1)は送信区間Tw2を含む離散時刻ks=1〜(Nu−Nw1)/NTRとなり、測定範囲外の区間Ts(=Tw2)は離散時刻ks=(Nu−Nw1)/NTR〜Nu/NTRとなる。
更に、本実施形態では、セクタレーダSR1の第s送信位相シフト部25sは送信位相シフトφ1=90度、セクタレーダSR2の第s送信位相シフト部25sは送信位相シフトφ2=−90度を付与したが、φ1,φ2は90度,−90度に限定されない。
セクタレーダSR1の第s送信位相シフト部25sとセクタレーダSR2の第s送信位相シフト部25sとは、互いに異なる位相回転方向(φ1,φ2)=(φ(q,Ni)+α,−φ(q,Ni)+α)(=((qπ/Ni)+α,(−qπ/Ni)+α)))の位相シフトを付与する。これにより、各セクタレーダSR1及びSR2は、それぞれ対向的に配置された他セクタレーダとなるセクタレーダSR2及びSR1からの各干渉波信号を同様に抑圧し、回路誤差、例えば、DCオフセット、IQインバランスを含む場合においても、回路誤差の補正回路を設けることなく、レンジサイドローブの増加を防ぎ、ターゲット測距性能の劣化を効果的に抑圧できる。
パラメータqは1〜Niであって、パラメータNiは2以上の自然数であって、パラメータαは固定の位相値である。各第sコヒーレント積分部64sは、Ni個の送信周期毎にコヒーレント積分することにより、セクタレーダSR1からのレーダ送信信号とセクタレーダSR2からのレーダ送信信号との間における干渉を効果的に抑圧できる。
例えば、Ni=3、q=1、α=0での位相シフトは、(φ1,φ2)=(φ(1,3,−φ(1,3))=(π/3,−π/3)となる。Ni=3、q=2、α=0での位相シフトは、(φ1,φ2)=(φ(2,3,−φ(2,3))=(2π/3,−2π/3)となる。各第sコヒーレント積分部64sは、3個の送信周期毎にコヒーレント積分することにより、セクタレーダSR1からのレーダ送信信号とセクタレーダSR2からのレーダ送信信号との間における干渉を効果的に抑圧できる。
干渉抑圧効果の理由を、3個の送信周期に限定せずにNi個の送信周期に一般化して説明する。例えば、セクタレーダSR1において、セクタレーダSR2からのレーダ送信信号が干渉波信号として到来する場合を想定する。
セクタレーダSR1の第m1番目の送信周期Trにおける受信信号と、干渉波信号としてのセクタレーダSR2からのレーダ送信信号とを含めた場合のA/D変換部61s(s=1)の出力は、数式(20)により示される。
更に、セクタレーダSR1の第(m1+1)番目から第(m1+(Ni−1))番目までの各送信周期Trにおける受信信号と、干渉波信号としてのセクタレーダSR2からのレーダ送信信号とを含めた場合のセクタレーダSR1のA/D変換部61sの出力は、第m1番目の送信周期Trと同じ伝搬環境であると仮定した場合には数式(32)により示される。数式(32)において、パラメータwは1〜(Ni−1)である。
セクタレーダSR1の第m1番目から第(m1+(Ni−1))番目までのNi個の各送信周期Trにおける相関値演算部63sの出力、即ちスライディング相関値の加算値は、数式(33)により表される。
セクタレーダSR1の第m1番目及び第(m1+w)番目の各送信周期Trにおける各第s受信位相シフト部62sの出力は、数式(34)及び数式(35)により表される。
数式(34)及び数式(35)の各第1項は、セクタレーダSR1のレーダ送信部Txsからのレーダ送信信号がターゲットTARsに反射されてセクタレーダSR1のレーダ受信部Rxsにおいて受信される所望信号成分である。従って、数式(34)及び数式(35)の各第1項は、数式(36)に示す様に同相の信号となり、数式(33)のコヒーレント積分によってコヒーレント積分利得を得ることができる。∠[x]は、複素数xの位相成分を出力する演算子である。
一方、数式(34)及び数式(35)の各第2項は、セクタレーダSR2のレーダ送信部Txsからのレーダ送信信号がターゲットTARsに反射されてセクタレーダSR1のレーダ受信部Rxsにおいて受信される干渉波信号成分である。
セクタレーダSR1とセクタレーダSR2とのキャリア周波数誤差が許容程度内では、即ち数式(28)が成立する場合には、第m1番目から第(m1+w)番目までの各送信周期Trにおける干渉波信号成分の位相関係は、数式(37)の様な位相関係となる。数式(38)は、セクタレーダSR1のコヒーレント積分部64sによる干渉波信号成分のコヒーレント積分を表す。従って、レーダ装置10は、数式(33)のコヒーレント積分によって、数式(38)に示す様に干渉成分が互いに打ち消す位相関係となり、干渉波信号成分を効果的に抑圧できる。但し、Niが大きくなるほど、周波数誤差fdevに起因する位相変動の影響を受け易くなるため、レーダ装置10における基準クロック信号の周波数精度に応じたNiの上限値が存在する。
なお、上述した説明は、セクタレーダSR1においてセクタレーダSR2からの干渉波信号が到来する場合を想定したが、セクタレーダSR2においてセクタレーダSR1からの干渉波信号が到来する場合についても同様に適用可能である。
(第1の実施形態の変形例)
第1の実施形態の変形例では、セクタレーダSRsの第s受信位相シフト部62sを、相関値演算部63sから出力されたスライディング相関値ACs(ks,ms)に受信位相シフトを付与するために配置する(図11参照)。
図11は、第1の実施形態の変形例のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRasの内部構成を詳細に示すブロック図である。セクタレーダSRasとセクタレーダSRsとの各部の構成及び動作が同様のブロックには同一の符号を付し、以下、セクタレーダSRasの構成及び動作の説明において、セクタレーダSRsと同様の内容の説明は省略し、異なる内容に関して説明する。
図11に示すレーダ受信部Rxasは、受信RF部4s、VGA部5s及び信号処理部6asを含む構成である。信号処理部6asは、A/D変換部61s、相関値演算部63as、第s受信位相シフト部62as、コヒーレント積分部64as及び距離推定部65sを含む構成である。
相関値演算部63asは、A/D変換部61sから出力された受信信号Xs(Nv(ms−1)+ks)を入力する。相関値演算部63asは、リファレンス信号を所定倍に逓倍された受信基準クロック信号に基づいて、離散時刻ksに応じて、第ms番目の送信周期Trにおいて送信する符号長Lの符号系列Cnの送信符号を周期的に生成する。
相関値演算部63asは、入力された受信信号Xs(Nv(ms−1)+ks)と、送信符号Cnとのスライディング相関値ACs(ks,ms)を演算する。
具体的には、相関値演算部63asは、各送信周期Tr、即ち離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRにおいて、第ms番目の送信周期Trの離散時刻ksにおけるスライディング相関値ACs(ks,ms)を、数式(39)に従って演算する。相関値演算部63asは、数式(39)に従って演算されたスライディング相関値ACs(ks,ms)を第s受信位相シフト部62asに出力する。数式(39)において、アスタリスク(*)は複素共役演算子である。
ここで、セクタレーダSRas(s=1)における第s受信位相シフト部62sの動作を個別に説明する。第s受信位相シフト部62asは、相関値演算部63asから出力されたスライディング相関値ACs(ks,ms)を入力する。第s受信位相シフト部62asは、第ms番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21sからの送信タイミング信号を基に、入力されたスライディング相関値ACs(ks,ms)に、1個の送信周期毎に、第s送信位相シフト部25sにおいて付与された位相シフト成分の逆方向の受信位相シフトを付与する。
具体的には、第s受信位相シフト部62asは、第ms番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21sからの送信タイミング信号を基に、1個の送信周期毎に、送信周期Trの序数に応じた受信位相シフトexp(j(ms−1)(−φs))をスライディング相関値ACs(ks,ms)に付与する(数式(40)参照)。第s受信位相シフト部62asは、受信位相シフトが付与されたスライディング相関値ACPs(ks,ms)をコヒーレント積分部64asに出力する。
次に、セクタレーダSRas(s=2)における第s受信位相シフト部62sの動作において、セクタレーダSRas(s=1)における動作との相違点は、位相回転量としてのパラメータφ2が、φ1と異なるものである(数式(41)参照)。例えば、パラメータφ1が90度となり、パラメータφ2が−90度となる。
コヒーレント積分部64asは、第s受信位相シフト部62asから出力されたスライディング相関値ACPs(ks,ms)を入力する。コヒーレント積分部64asは、第ms番目の送信周期Trにおける離散時刻ks毎に演算されたスライディング相関値ACPs(ks,ms)を基に、所定回数(NP回)の送信周期Trの期間(NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACPs(ks,ms)を離散時刻ks毎に加算する。
コヒーレント積分部64asは、所定回数(NP回)の送信周期Trの期間(NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACPs(ks,ms)を離散時刻ks毎に加算することにより、第vs番目のコヒーレント積分値ACCs(ks,vs)を、離散時刻ks毎に数式(42)に従って演算する。パラメータNPは、コヒーレント積分部64asにおけるコヒーレント積分回数を表す。コヒーレント積分部64asは、演算されたコヒーレント積分値ACCs(ks,vs)を距離推定部65sに出力する。
数式(42)において所定回数NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、コヒーレント積分部64asは、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、回路誤差の影響を低減できる。即ち、レーダ装置10は、セクタレーダSRasにおける所定回数NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、ターゲット測距性能の劣化を防ぐことができる。更に、レーダ装置10は、NP回のコヒーレント積分により反射波信号に含まれる雑音成分(ノイズ成分)を抑圧することにより、反射波信号の受信品質(SNR)を改善できる。
以上により、第1の実施形態の変形例のレーダ装置10は、第1の実施形態のレーダ装置10と同様の効果を得ることができる。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では送信符号に低レンジサイドローブ特性が得られる、例えばBarker符号系列、M系列符号及びGold符号系列のうちいずれかの符号系列を用いる例を説明した。第2の実施形態では、送信符号に相補符号を用いる例を説明する。
第2の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRbs(s=1,2)の構成及び動作について、図12〜図14を参照して説明する。図12は、第2の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRbs(s=1,2)の内部構成を簡易に示すブロック図である。図13は、第2の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRbs(s=1,2)の内部構成を詳細に示すブロック図である。図14は、第2の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRbs(s=1,2)におけるレーダ送信信号の各送信区間及び各送信周期と各送信位相シフト成分との関係を示す説明図である。
セクタレーダSRbsとセクタレーダSRsとの各部の構成及び動作が同様のブロックには同一の符号を付し、以下、セクタレーダSRbsの構成及び動作の説明において、セクタレーダSRsと同様の内容の説明は省略し、異なる内容に関して説明する。
図12に示すセクタレーダSRbsは、基準信号発振器Los、レーダ送信部Txbs及びレーダ受信部Rxbsを含む構成である。レーダ送信部Txbsは、送信信号生成部2bs、及び、送信アンテナAnt−Txsと接続される送信RF部3sを有する構成である。送信信号生成部2bsは、パルス送信制御部21bs、符号生成部22bs、変調部23bs及び第s送信位相シフト部25bsを含む構成である。符号生成部22bsは、少なくとも1個以上の符号生成部として、第1符号生成部22b1s及び第2符号生成部22b2sを含む構成であり、少なくとも1個以上の符号系列を生成する。
レーダ送信部Txbs及びレーダ受信部Rxbsは、基準信号発振器Losに接続され、基準信号発振器Losからリファレンス信号(基準信号)が供給され、レーダ送信部Txbs及びレーダ受信部Rxbsの処理は同期する。
レーダ受信部Rxbsは、受信RF部4s、VGA部5s、及び信号処理部6bsを有する構成である。信号処理部6bsは、第s受信位相シフト部62bs、相関値演算部63bs、コヒーレント積分部64bs及び距離推定部65sを含む構成である。
(レーダ送信部)
次に、セクタレーダSRbsのレーダ送信部Txbsの各部の構成について、図13を参照して詳細に説明する。
送信信号生成部2bsは、パルス送信制御部21bs、符号生成部22bs、変調部23bs、LPF24s、第s送信位相シフト部25bs及びD/A変換部26sを含む構成である。図12では、送信信号生成部2bsはLPF24sを含む構成であるが、LPF24sは送信信号生成部2bsと独立してレーダ送信部Txbsの中に構成されてもよい。送信RF部3sの構成及び動作は、セクタレーダSRsにおける送信RF部3sと同様のため、送信RF部3の構成及び動作の説明を省略する。
次に、レーダ送信部Txbsの各部の動作について詳細に説明する。
送信信号生成部2bsは、基準信号発振器Losにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍に逓倍した送信基準クロック信号を生成する。送信信号生成部2bsの各部は、生成された送信基準クロック信号に基づいて動作する。送信基準クロック周波数をfTxBBと表すと、送信周期Trは、送信基準クロック周波数fTxBBにより定まる離散時刻間隔(1/fTxBB)の整数Nr倍として表せる(数式(5)参照)。
送信信号生成部2bsは、パルス送信制御部21bsからの送信周期Tr毎に出力されたレーダ送信信号の送信タイミング信号を基に、符号長Lの相補符号系列An,Bnの変調によって、数式(6)のベースバンドの送信信号Gs(ts)を周期的に生成する。パラメータn=1〜Lであり、パラメータLは、符号系列An,Bnの各符号長を表す。jは、j2=−1を満たす虚数単位である。パラメータtsは、離散時刻を表す。
送信信号Gs(ts)は、図14に示す様に、例えば各送信周期Trの送信区間Tw[秒]では、符号系列An,Bnの1つの符号あたり送信基準クロック信号のNo[個]のサンプルを用いて変調されている。従って、送信区間Twにおいては、Nw(=No×L)のサンプルを用いて変調されている。各送信周期Trの無信号区間(Tr−Tw)[秒]では、Nu(=Nr−Nw)[個]のサンプルを用いて変調されている。従って、数式(6)の送信信号Gs(ts)は、数式(7)を用いて表せる。
パルス送信制御部21bsは、高周波のレーダ送信信号の送信タイミング信号を、送信周期Tr毎に生成し、符号生成部22bs、第s送信位相シフト部25bs及び第s受信位相シフト部62bsにそれぞれ出力する。
第1符号生成部22b1sは、パルス送信制御部21bsからの奇数番目の送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、符号長Lの相補符号系列An,Bnのうち一方の相補符号系列Anの送信符号を生成する。第1符号生成部22b1sは、生成された相補符号系列Anの送信符号を変調部23bsに出力する。以下、符号系列Anの送信符号を、便宜的に送信符号Anと記載する。
第2符号生成部22b2sは、パルス送信制御部21bsからの偶数番目の送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、符号長Lの相補符号系列An,Bnのうち一方の相補符号系列Bnの送信符号を生成する。第2符号生成部22b2sは、生成された相補符号系列Bnの送信符号を変調部23bsに出力する。以下、符号系列Bnの送信符号を、便宜的に送信符号Bnと記載する。
なお、本実施形態では、第1符号生成部22b1sは符号長Lの相補符号系列Anを生成し、第2符号生成部22b2sは符号長Lの相補符号系列Bnを生成する旨を説明した。但し、第1符号生成部22b1sが符号長Lの相補符号系列Bnを生成し、第2符号生成部22b2sが符号長Lの相補符号系列Anを生成してもよい。
変調部23bsは、符号生成部22sから出力された送信符号An又は送信符号Bnを入力する。変調部23bsは、入力された送信符号An又は送信符号Bnをパルス変調し、数式(6)のベースバンドの送信信号Gs(ts)を生成する。変調部23bsは、LPF24sを介して、生成された送信信号Gs(ts)のうち、予め設定された制限帯域以下の送信信号Gs(ts)を第s送信位相シフト部25bsに出力する。
ここで、セクタレーダSRbs(s=1)における第s送信位相シフト部25bsの動作を個別に説明する。第s送信位相シフト部25bsは、変調部23bs又はLPF24sから出力された送信信号Gs(ts)を入力する。第s送信位相シフト部25bsは、パルス送信制御部21bsからの送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、入力された送信信号Gs(ts)に、2個の送信周期毎に、所定の送信位相シフトを付与する(図14参照)。
具体的には、第s送信位相シフト部25bsは、第ms番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21bsからの送信タイミング信号を基に、2個の送信周期毎に、送信周期Trの序数に応じた送信位相シフトexp(j floor[(ms−1)/2]φs)を送信信号Gs(ts)に付与する(数式(43)参照)。パラメータφsは、第s送信位相シフト部25bsにおいて付与される位相回転量(例えば90度)であり、数式(9)の関係を満たすことが好ましい。第s送信位相シフト部25bsは、送信位相シフトが付与された送信信号GPs(Nr(ms−1)+ts)をD/A変換部26sに出力する。floor[x]は、実数xの小数点以下を切り下げた整数値を出力する演算子である。
次に、セクタレーダSRbs(s=2)における第s送信位相シフト部25bsの動作において、セクタレーダSRbs(s=1)における動作との相違点は、数式(44)における送信位相シフトexp(j floor[(ms−1)/2]φs)において、位相回転量としてのパラメータφsがφ1と異なるもので、例えば、パラメータφ1が90度となり、パラメータφ2が−90度となる。つまり、パラメータφ1(s=1)とパラメータφ2(s=2)とは逆位相の関係を有する(φ1=−φ2)。
(レーダ受信部)
次に、レーダ受信部Rxbsの各部の構成について、図13を参照して詳細に説明する。
図13に示すレーダ受信部Rxbsは、受信アンテナAnt−Rxsが接続された受信RF部4s、VGA部5s及び信号処理部6bsを含む構成である。信号処理部6bsは、A/D変換部61s、第s受信位相シフト部62bs、相関値演算部63bs、コヒーレント積分部64bs及び距離推定部65sを含む構成である。信号処理部6bsの各部は、各送信周期Trを信号処理区間として周期的に演算する。
次に、レーダ受信部Rxbsの各部の動作について詳細に説明する。
信号処理部6bsは、受信RF部4sと同様に、基準信号発振器Losにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍に逓倍した受信基準クロック信号を生成する。信号処理部6bsの各部は、生成された受信基準クロック信号に基づいて動作する。
ここで、セクタレーダSRbs(s=1)における第s受信位相シフト部62bsの動作を個別に説明する。第s受信位相シフト部62bsは、A/D変換部61sから出力された受信信号Xs(Nv(ms−1)+ks)を入力する。第s受信位相シフト部62bsは、パルス送信制御部21bsからの送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、入力された受信信号Xs(Nv(ms−1)+ks)に、2個の送信周期毎に、第s送信位相シフト部25bsにおいて付与された位相シフト成分の逆方向の受信位相シフトを付与する。
具体的には、第s受信位相シフト部62bsは、第ms番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21bsからの送信タイミング信号を基に、2個の送信周期毎に、送信周期Trの序数に応じた受信位相シフトexp(j floor[(ms−1)/2](−φs))を受信信号Xs(Nv(ms−1)+ks)に付与する(数式(45)参照)。第s受信位相シフト部62bsは、受信位相シフトが付与された受信信号XPs(Nv(ms−1)+ks)を相関値演算部63bsに出力する。
次に、セクタレーダSRbs(s=2)における第s受信位相シフト部62bsの動作において、セクタレーダSRbs(s=2)における動作との相違点は、位相回転量としてのパラメータφ2が、φ1と異なるものである(数式(46)参照)。例えば、パラメータφ1が90度となり、パラメータφ2が−90度となる。
相関値演算部63bsは、第s受信位相シフト部62bsから出力された受信信号XPs(Nv(ms−1)+ks)を入力する。相関値演算部63bsは、リファレンス信号を所定倍に逓倍された受信基準クロック信号に基づいて、離散時刻ksに応じて、奇数番目の第ms番目(ms=2zs−1、zs:自然数)の送信周期Trにおいて送信する符号長Lの符号系列Anの送信符号を周期的に生成する。
また、相関値演算部63bsは、リファレンス信号を所定倍に逓倍された受信基準クロック信号に基づいて、離散時刻ksに応じて、偶数番目の第ms番目(ms=2zs)の送信周期Trにおいて送信する符号長Lの符号系列Bnの送信符号を周期的に生成する。
相関値演算部63bsは、入力された受信信号XPs(Nv(ms−1)+ks)と、送信符号An又はBnとのスライディング相関値ACs(ks,ms)を演算する。スライディング相関値ACs(ks,ms)は、第ms番目の送信周期Trの離散時刻ksにおける、送信符号と受信信号とのスライディング相関演算によって演算された値である。
具体的には、相関値演算部63bsは、各送信周期Tr、即ち離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRにおいて、奇数番目の第ms番目(ms=2zs−1)の送信周期Trの離散時刻ksにおけるスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)を、数式(47)に従って演算する。相関値演算部63bsは、数式(47)に従って演算されたスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)をコヒーレント積分部64bsに出力する。数式(47)において、アスタリスク(*)は複素共役演算子である。
また、相関値演算部63bsは、各送信周期Tr、即ち離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRにおいて、偶数番目の第ms番目(ms=2zs)の送信周期Trの離散時刻ksにおけるスライディング相関値ACs(ks,2zs)を、数式(48)に従って演算する。相関値演算部63bsは、数式(48)に従って演算されたスライディング相関値ACs(ks,2zs)をコヒーレント積分部64bsに出力する。数式(48)において、アスタリスク(*)は複素共役演算子である。
相関値演算部63bsは、本実施形態を含む各実施形態において、離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRにおいて演算するが、レーダ装置10の測定対象となるターゲットTARsの存在範囲に応じて、測定レンジ(離散時刻ksの範囲)を、例えばks=(Nw/NTR)+1〜(Nu−Nw)/NTRの範囲に更に限定してもよい。これにより、レーダ装置10は、相関値演算部63bsの演算量を更に低減できる。即ち、レーダ装置10は、信号処理部6bsにおける演算量の削減に基づく消費電力量を更に低減できる。
レーダ装置10は、相関値演算部63bsが離散時刻ks=(Nw/NTR)+1〜(Nu−Nw)/NTRの範囲におけるスライディング相関値ACs(ks,ms)を演算する場合には、レーダ送信信号の送信区間Twにおける反射波信号の測定を省略できる。
レーダ装置10は、各セクタレーダSRsからの各レーダ送信部Txbsからのレーダ送信信号が各レーダ受信部Rxbsに直接的に回り込んだとしても、回り込みによる影響を排除して測定できる。測定レンジ(離散時刻ksの範囲)の限定によって、コヒーレント積分部64bs及び距離推定部65sの動作も同様の測定レンジに限定した範囲において動作する。
コヒーレント積分部64bsは、相関値演算部63bsから出力されたスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)及びACs(ks,2zs)を入力する。コヒーレント積分部64bsは、奇数番目及び偶数番目の2個の送信周期Trにおける離散時刻ks毎に演算されたスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)及びACs(ks,2zs)を基に、所定回数(2NP回)の送信周期Trの期間(2NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)及びACs(ks,2zs)を加算する。
コヒーレント積分部64bsは、所定回数(2NP回)の送信周期Trの期間(NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)及びACs(ks,2zs)の離散時刻ks毎の加算により、第vs番目のコヒーレント積分値ACCs(ks,vs)を、離散時刻ks毎に数式(49)に従って演算する。パラメータ2NPは、コヒーレント積分部64bsにおけるコヒーレント積分回数を表す。コヒーレント積分部64bsは、演算されたコヒーレント積分値ACCs(ks,vs)を距離推定部65sに出力する。
数式(49)において所定回数2NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、コヒーレント積分部64bsは、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、回路誤差の影響を低減できる。即ち、レーダ装置10は、所定回数2NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、ターゲット測距性能の劣化を防ぐことができる。更に、レーダ装置10は、2NP回のコヒーレント積分により反射波信号に含まれる雑音成分を抑圧することにより、反射波信号の受信品質(SNR)を改善できる。
以上により、第2の実施形態のレーダ装置10は、送信符号に相補符号を用いた場合においても、第1の実施形態のレーダ装置10と等価な効果を得ることができる。
(第2の実施形態の変形例)
第2の実施形態の変形例1では、第1の実施形態の変形例と同様に、第2の実施形態の第s受信位相シフト部62bsを、相関値演算部63bsから出力されたスライディング相関値ACs(ks,2zs)及びACs(ks,2zs−1)に受信位相シフトを付与するために配置する(図15参照)。
図15は、第2の実施形態の変形例のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRcsの内部構成を詳細に示すブロック図である。セクタレーダSRcsとセクタレーダSRbsとの各部の構成及び動作が同様のブロックには同一の符号を付し、以下、セクタレーダSRcsの構成及び動作の説明において、セクタレーダSRbsと同様の内容の説明は省略し、異なる内容に関して説明する。
図15に示すレーダ受信部Rxcsは、受信RF部4s、VGA部5s及び信号処理部6csを含む構成である。信号処理部6csは、A/D変換部61s、相関値演算部63cs、第s受信位相シフト部62cs、コヒーレント積分部64cs及び距離推定部65sを含む構成である。
相関値演算部63csは、A/D変換部61sから出力された受信信号Xs(Nv(ms−1)+ks)を入力する。相関値演算部63csは、リファレンス信号を所定倍に逓倍された受信基準クロック信号に基づいて、離散時刻ksに応じて、奇数番目の第ms番目(ms=2zs−1)の送信周期Trにおいて送信する符号長Lの符号系列Anの送信符号を周期的に生成する。
相関値演算部63csは、リファレンス信号を所定倍に逓倍された受信基準クロック信号に基づいて、離散時刻ksに応じて、偶数番目の第ms番目(m=2zs)の送信周期Trにおいて送信する符号長Lの符号系列Bnの送信符号を周期的に生成する。相関値演算部63csは、入力された受信信号Xs(Nv(ms−1)+ks)と、パルス圧縮符号An又はBnとのスライディング相関値ACs(ks,ms)を演算する。
具体的には、相関値演算部63csは、各送信周期Tr、即ち離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRにおいて、奇数番目の第ms番目の送信周期Trの離散時刻ksにおけるスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)を、数式(50)に従って演算する。相関値演算部63csは、数式(50)に従って演算されたスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)を第s受信位相シフト部62csに出力する。数式(50)において、アスタリスク(*)は複素共役演算子である。
また、相関値演算部63csは、各送信周期Tr、即ち離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRにおいて、偶数番目の第ms番目の送信周期Trの離散時刻ksにおけるスライディング相関値ACs(ks,2zs)を、数式(51)に従って演算する。相関値演算部63csは、数式(51)に従って演算されたスライディング相関値ACs(ks,2zs)を第s受信位相シフト部62csに出力する。数式(51)において、アスタリスク(*)は複素共役演算子である。
ここで、セクタレーダSRcs(s=1)における第s受信位相シフト部62sの動作を個別に説明する。第s受信位相シフト部62csは、相関値演算部63csから出力されたスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)及びACs(ks,2zs)、即ちスライディング相関値ACs(ks,ms)を入力する。第s受信位相シフト部62csは、第ms番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21sからの送信タイミング信号を基に、入力されたスライディング相関値ACs(ks,ms)に、2個の送信周期毎に、第s送信位相シフト部25sにおいて付与された位相シフト成分の逆方向の受信位相シフトを付与する。
具体的には、第s受信位相シフト部62csは、第ms番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21sからの送信タイミング信号を基に、2個の送信周期毎に、送信周期Trの序数に応じた受信位相シフトexp(j floor[(m−1)/2](−φs))をスライディング相関値ACs(ks,ms)に付与する(数式(52)参照)。第s受信位相シフト部62csは、受信位相シフトが付与されたスライディング相関値ACPs(ks,ms)をコヒーレント積分部64csに出力する。
次に、セクタレーダSRcs(s=2)における第s受信位相シフト部62sの動作において、セクタレーダSRcs(s=1)における動作との相違点は、位相回転量としてのパラメータφ2が、φ1と異なるものである。(数式(53)参照)。例えば、パラメータφ1が90度となり、パラメータφ2が−90度となる。
コヒーレント積分部64csは、第s受信位相シフト部62csから出力されたスライディング相関値ACPs(ks,ms)を入力する。コヒーレント積分部64csは、第ms番目の送信周期Trにおける離散時刻ks毎に演算されたスライディング相関値ACPs(ks,ms)を基に、所定回数(2NP回)以上の送信周期Trの期間(2NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACPs(ks,ms)を離散時刻ks毎に加算する。
コヒーレント積分部64csは、所定回数(2NP回)以上の送信周期Trの期間(2NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACPs(ks,ms)を、離散時刻ks毎に加算することにより、第vs番目のコヒーレント積分値ACCs(ks,vs)を、離散時刻ks毎に数式(54)に従って演算する。パラメータ2NPは、コヒーレント積分部64csにおけるコヒーレント積分回数を表す。コヒーレント積分部64csは、演算されたコヒーレント積分値ACCs(ks,vs)を距離推定部65sに出力する。
数式(54)において所定回数2NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、コヒーレント積分部64csは、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、回路誤差の影響を低減できる。即ち、レーダ装置10は、所定回数2NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、ターゲット測距性能の劣化を防ぐことができる。更に、レーダ装置10は、2NP回のコヒーレント積分により反射波信号に含まれる雑音成分を抑圧することにより、反射波信号の受信品質(SNR)を改善できる。
以上により、第2の実施形態の変形例のレーダ装置10は、相補符号を送信符号として用いた場合においても、第1の実施形態のレーダ装置1と同様の効果を得ることができる。
(第3の実施形態)
上述した各実施形態では、対向的に配置された2つのセクタレーダSR1及びSR2間において非同期状態において送信されるレーダ送信信号間の干渉を抑圧する例を説明した。第3の実施形態では、対向的に配置されたNR個(NR≧3の自然数)のセクタレーダ間において非同期状態において送信されるレーダ送信信号間の干渉を抑圧する例を説明する。
本実施形態では、パラメータsは1〜NRであり、各セクタレーダの構成は第2の実施形態のセクタレーダSRbs又は第2の実施形態の変形例のセクタレーダSRcsと同様である。本実施形態では、例えば第2の実施形態のセクタレーダSRbsと異なる内容について説明する。
また、本実施形態では、第2の実施形態と同様に送信符号に相補符号を用いる例を説明するが、第1の実施形態と同様の送信符号を用いても同様に適用可能である。各セクタレーダの構成は第1の実施形態のセクタレーダSRs又は第1の実施形態の変形例のセクタレーダSRasと同様である。
(レーダ送信部)
セクタレーダSRbsの第s送信位相シフト部25bsは、変調部23bs又はLPF24sから出力された送信信号Gs(ts)を入力する。第s送信位相シフト部25bsは、パルス送信制御部21bsからの送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、入力された送信信号Gs(ts)に、2個の送信周期毎に、所定の送信位相シフトを付与する(図14参照)。
具体的には、第s送信位相シフト部25bsは、第m番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21bsからの送信タイミング信号を基に、2個の送信周期毎に、送信周期Trの序数msに応じた送信位相シフトexp(j floor[(ms−1)/2]φs)を送信信号Gs(ts)に付与する(数式(43)参照)。パラメータφsは、第s送信位相シフト部25bsにおいて付与される位相回転量(例えば90度)であり、数式(9)の関係を満たすことが好ましい。第s送信位相シフト部25bsは、送信位相シフトが付与された送信信号GPs(Nr(ms−1)+ts)をD/A変換部26sに出力する。
(レーダ受信部)
第s受信位相シフト部62bsは、A/D変換部61sから出力された受信信号Xs(Nv(ms−1)+ks)を入力する。第s受信位相シフト部62bsは、パルス送信制御部21bsからの送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、入力された受信信号Xs(Nv(ms−1)+ks)に、2個の送信周期毎に、第s送信位相シフト部25bsにおいて付与された位相シフト成分の逆方向の受信位相シフトを付与する。
具体的には、第s受信位相シフト部62bsは、第ms番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21bsからの送信タイミング信号を基に、2個の送信周期毎に、送信周期Trの序数msに応じた受信位相シフトexp(j floor[(ms−1)/2](−φs))を受信信号Xs(Nv(ms−1)+ks)に付与する(数式(45)参照)。第s受信位相シフト部62bsは、受信位相シフトが付与された受信信号XPs(Nv(ms−1)+ks)を相関値演算部63bsに出力する。
コヒーレント積分部64bsは、相関値演算部63bsから出力されたスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)及びACs(ks,2zs)を入力する。コヒーレント積分部64bsは、奇数番目及び偶数番目の2送信周期Trにおける離散時刻ks毎に演算されたスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)及びACs(ks,2zs)を基に、所定回数(2NP回)の送信周期Trの期間(2NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)及びACs(ks,2zs)を加算する。
コヒーレント積分部64bsは、所定回数(2NP回)の送信周期Trの期間(2NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)及びACs(ks,2zs)の離散時刻ks毎の加算により、第vs番目のコヒーレント積分値ACCs(ks,vs)を、離散時刻ks毎に数式(49)に従って演算する。パラメータ2NPは、コヒーレント積分部64bsにおけるコヒーレント積分回数を表す。コヒーレント積分部64bsは、演算されたコヒーレント積分値ACCs(ks,vs)を距離推定部65sに出力する。
数式(49)において所定回数2NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、コヒーレント積分部64bsは、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、回路誤差の影響を低減できる。即ち、レーダ装置10は、所定回数2NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、ターゲット測距性能の劣化を防ぐことができる。更に、レーダ装置10は、2NP回のコヒーレント積分により反射波信号に含まれる雑音成分(ノイズ成分)を抑圧することにより、反射波信号の受信品質(SNR)を改善できる。
セクタレーダSRbs(s=1〜NR)の第s送信位相シフト部25sは、互いに異なる位相回転方向φs=φ(qs,NR)+α(=((2qs−1)π/NR)+α)の位相シフトを付与する。これにより、各セクタレーダSRbsは、他セクタレーダからの干渉波信号を同様に抑圧し、回路誤差、例えば、DCオフセット、IQインバランスを含む場合においても、回路誤差の補正回路を設けることなく、レンジサイドローブの増加を防ぎ、ターゲット測距性能の劣化を効果的に抑圧できる。
パラメータqs=0〜NR−1=s−1であって、パラメータαは固定の位相値である。各第sコヒーレント積分部64sは、2NR個の送信周期毎にコヒーレント積分することにより、自セクタレーダからのレーダ送信信号と他セクタレーダからのレーダ送信信号との間における干渉を効果的に抑圧できる。
例えば、NR=3、α=0での位相シフトは、(φ1,φ2,φ3)=(φ(−1,3,φ(1,3),φ(2,3))=(π/3,−π/3,π)となる。各第sコヒーレント積分部64sは、2NR個の送信周期毎にコヒーレント積分することにより、自セクタレーダからのレーダ送信信号と他セクタレーダからのレーダ送信信号との間における干渉を効果的に抑圧できる。
干渉抑圧効果の理由を、2NR個の送信周期に一般化して説明する。例えば、セクタレーダSR1において、第z番目のセクタレーダからのレーダ送信信号が干渉波信号として到来する場合を想定する。パラメータzは、2〜NRである。
セクタレーダSR1の第m1番目の送信周期Trにおける受信信号と、干渉波信号としての第z番目のセクタレーダからのレーダ送信信号とを含めた場合のA/D変換部61s(s=1)の出力は、数式(55)により示される。パラメータmzは数式(56)、パラメータNdelay(z)は数式(57)により表される。
更に、セクタレーダSR1の第(m1+1)番目から第(m1+(2NR−1))番目までの各送信周期Trにおける受信信号と、干渉波信号としての第z番目のセクタレーダからのレーダ送信信号とを含めた場合のセクタレーダSR1のA/D変換部61sの出力は、第m1番目の送信周期Trと同じ伝搬環境であると仮定した場合には数式(58)により示される。数式(58)において、パラメータwは1〜(2NR−1)である。
セクタレーダSR1の第m1番目から第(m1+(2NR−1))番目までの2NR個の各送信周期における相関値演算部63sの出力、即ちスライディング相関値の加算値は、数式(59)により表される。数式(59)において、符号系列Cnは、相補符号系列An,Bnのうちいずれかである。
セクタレーダSR1の第m1番目及び第(m1+w)番目の各送信周期Trの各第s受信位相シフト部62sの出力は、数式(60)及び数式(61)により表される。
数式(60)及び数式(61)の各第1項は、セクタレーダSR1のレーダ送信部Txsからのレーダ送信信号がターゲットTARsに反射されてセクタレーダSR1のレーダ受信部Rxsにおいて受信される所望信号成分である。従って、数式(60)及び数式(61)の各第1項は、数式(62)に示す様に同相の信号となり、数式(59)によってコヒーレント積分利得を得ることができる。∠[x]は、複素数xの位相成分を出力する演算子である。
一方、数式(60)及び数式(61)の各第2項は、第z番目のセクタレーダのレーダ送信部からのレーダ送信信号がターゲットに反射されてセクタレーダSR1のレーダ受信部Rxsにおいて受信される干渉波信号成分である。
セクタレーダSR1と第z番目のセクタレーダとのキャリア周波数誤差が許容程度内であれば、即ち数式(63)が成立する場合には、第m1番目から第(m1+w)番目までの各送信周期Trにおける干渉波信号成分の位相関係は、数式(64)の位相関係となる。数式(65)は、コヒーレント積分部64sによる干渉波信号成分のコヒーレント積分を表す。従って、レーダ装置10は、数式(59)のコヒーレント積分によって、干渉信号成分は、互いの信号成分を打ち消しあう関係となり、数式(65)に示す様に干渉波信号成分を効果的に抑圧できる。但し、NRが大きくなるほど、周波数誤差fdevに起因する位相変動の影響を受け易くなるため、レーダ装置10における基準クロック信号の周波数精度に応じたNRの上限値が存在する。
なお、上述した説明は、セクタレーダSR1において第z番目のセクタレーダからの干渉波信号が到来する場合を想定したが、第z番目のセクタレーダにおいてセクタレーダSR1からの干渉波信号が到来する場合についても同様に適用可能である。
(第4の実施形態)
上述した各実施形態では、対向的に配置された複数のセクタレーダ間において非同期状態において送信されるレーダ送信信号間の干渉を抑圧する例を説明した。第4の実施形態では、各セクタレーダが同期してレーダ送信信号を送信する複数のレーダ送信部及びレーダ受信部を有する構成である場合に、対向的に配置された複数のセクタレーダ間において非同期状態において送信されるレーダ送信信号間の干渉を抑圧する例を説明する。本実施形態のレーダ装置10を構成する複数のセクタレーダは、例えば図2又は図16に示す様に、対向的に配置されている。以下、本実施形態のレーダ装置10を構成する複数のセクタレーダは2つとし、パラメータsは1又は2とする。
図17は、第4の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRds(s=1,2)の内部構成を簡易に示すブロック図である。図18は、第4の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRds(s=1,2)の内部構成を詳細に示すブロック図である。図19は、第4の実施形態のレーダ装置を構成するセクタレーダSRds(s=1,2)の第1レーダ送信部及び第2レーダ送信部におけるレーダ送信信号の各送信区間及び各送信周期と各送信符号との関係を示す説明図である。
先ず、セクタレーダSRdsの各部の構成について簡略に説明する。以下、同一のセクタレーダSRds内の複数のレーダ送信部又は複数のレーダ受信部の動作が共通の内容についてはパラメータyを用いて包括的に説明し、複数のレーダ送信部又は複数のレーダ受信部の動作が異なる内容についてはそれぞれ個別に説明する。パラメータyは、1又は2であり、同一セクタレーダSRds内のレーダ送信部及びレーダ受信部の序数を表す。
図17に示すセクタレーダSRdsは、基準信号発振器Los、パルス送信制御部21ds、第1レーダ送信部Txd1s、第2レーダ送信部Txd2s、第1レーダ受信部Rxd1s及び第2レーダ受信部Rxd2sを含む構成である。第1レーダ送信部Txd1sは、送信信号生成部2d1s、及び、送信アンテナAnt−Tx1sと接続される送信RF部31sを有する構成である。送信信号生成部2d1sは、符号生成部221s、変調部231s及び第s送信位相シフト部25d1sを含む構成である。なお、各送信アンテナAnt−Tx1s又は受信アンテナAnt−Rx1sは、送信アンテナ素子又は受信アンテナ素子を用いて構成されてもよい。第2レーダ送信部Txd2sの構成は第1レーダ送信部Txd1sの構成と同様であるため、説明を省略する。
第1レーダ送信部Txd1s、第2レーダ送信部Txd2s、第1レーダ受信部Rxd1s及び第2レーダ受信部Rxd2sは、基準信号発振器Losに接続され、基準信号発振器Losからリファレンス信号(基準信号)が供給されている。第1レーダ送信部Txd1s、第2レーダ送信部Txd2s、第1レーダ受信部Rxd1s及び第2レーダ受信部Rxd2sの処理は同期する。
第1レーダ受信部Rxd1sは、受信RF部41s、VGA部51s、及び信号処理部6d1sを有する構成である。信号処理部6d1sは、第s受信位相シフト部62d1s、相関値演算部63d1s、コヒーレント積分部64d1s及び距離推定部651sを含む構成である。第2レーダ受信部Rxd2sの構成は第1レーダ受信部Rxd1sの構成と同様であるため、構成の説明を省略する。
(第y番目のレーダ送信部:yは1又は2)
次に、セクタレーダSRdsの第y番目(y=1)の第1レーダ送信部Txd1sの各部の構成について、図18を参照して詳細に説明する。
送信信号生成部2d1sは、符号生成部221s、変調部231s、LPF241s、第s送信位相シフト部25d1s及びD/A変換部261sを含む構成である。図18では、送信信号生成部2d1sはLPF241sを含む構成であるが、LPF241sは送信信号生成部2d1sと独立して第1レーダ送信部Txd1sの中に構成されてもよい。送信RF部31sの構成及び動作は上述した各実施形態の送信RF部3sと同様の構成及び動作のため、送信RF部31sの構成及び動作の説明を省略する。
次に、第y番目のレーダ送信部の各部の動作について、y=1である第1レーダ送信部Txd1sを例示して詳細に説明するが、以下の説明はy=2である第2レーダ送信部Txd2sについても同様に適用可能である。以下の各実施形態では説明を簡略にするために、同一のセクタレーダSRds内における複数のレーダ送信部の動作のうち共通の動作についてはパラメータyを用いて包括的に説明し、複数のレーダ送信部の動作のうち異なる動作についてはそれぞれ個別に説明する。
パルス送信制御部21dsは、高周波のレーダ送信信号の送信タイミング信号を、送信周期Tr毎に生成する。パルス送信制御部21dsは、送信タイミング信号を、第1レーダ送信部Txd1s及び第2レーダ送信部Txd2sの各符号生成部及び各第s送信位相シフト部、並びに第1レーダ受信部Rxd1s及び第2レーダ受信部Rxd2sの各第s受信位相シフト部にそれぞれ出力する。
送信信号生成部2d1sは、基準信号発振器Losにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍に逓倍した送信基準クロック信号を生成する。送信信号生成部2d1sの各部は、生成された送信基準クロック信号に基づいて動作する。送信基準クロック周波数をfTxBBと表すと、送信周期Trは、送信基準クロック周波数fTxBBにより定まる離散時刻間隔(1/fTxBB)の整数Nr倍として表せる(数式(66)参照)。なお、送信基準クロック周波数fTxBBは公称値であり、実際上はレーダ送信部Txs毎に異なる周波数誤差を含む。
送信信号生成部2d1sは、パルス送信制御部21dsからの送信周期Tr毎に出力されたレーダ送信信号の送信タイミング信号を基に、符号長Lの符号系列C(1)nの変調によって、数式(67)のベースバンドの送信信号Gs(ts)を周期的に生成する。パラメータn=1〜Lであり、パラメータLは、符号系列C(1)nの符号長を表す。jは、j2=−1を満たす虚数単位である。パラメータtsは、離散時刻を表す。
なお、第2レーダ送信部Txd2sの送信信号生成部は、パルス送信制御部21dsからの送信周期Tr毎に出力されたレーダ送信信号の送信タイミング信号を基に、符号長Lの符号系列C(2)nの変調によって、数式(67)のベースバンドの送信信号Gs(ts)を周期的に生成する。符号系列C(1)n,C(2)nは、異なる符号系列であって、互いに直交する符号系列又は互いに相関の低い符号系列とする。
送信信号Gs(ts)は、図19に示す様に、例えば各送信周期Trの送信区間Tw[秒]では、符号系列C(1)n又は符号系列C(2)nの1つの符号あたり送信基準クロック信号のNo[個]のサンプルを用いて変調されている。従って、送信区間Twにおいては、Nw(=No×L)のサンプルを用いて変調されている。各送信周期Trの無信号区間(Tr−Tw)[秒]では、Nu(=Nr−Nw)[個]のサンプルを用いて変調されている。従って、数式(67)の送信信号Gs(ts)は、数式(68)を用いて表せる。
符号生成部221sは、パルス送信制御部21dsからの送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、符号長Lの符号系列C(1)nの送信符号を生成する。符号生成部221sは、生成された符号系列C(1)nの送信符号を変調部231sに出力する。即ち、1つの符号生成部22sが、1つの符号系列を生成する。
第2レーダ送信部Txd2sの符号生成部は、パルス送信制御部21dsからの送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、符号長Lの符号系列C(2)nの送信符号を生成する。符号生成部は、生成された符号系列C(2)nの送信符号を変調部に出力する。即ち、1つの符号生成部が、1つの符号系列を生成する。
符号系列C(1)n,C(2)nの要素は、例えば、[−1,1]の2値、若しくは[1,−1,j,−j]の4値を用いて構成される。送信符号は、低レンジサイドローブ特性が得られる、例えばBarker符号系列、M系列符号及びGold符号系列のうちいずれかの符号系列である。
変調部231sは、符号生成部221sから出力された送信符号C(1)n又はC(2)nを入力する。変調部231sは、入力された送信符号C(1)n又はC(2)nをパルス変調し、数式(67)のベースバンドの送信信号G(ts)を生成する。
数式(67)のベースバンドの送信信号Gy s(ts)において、Iy s(ts)は変調信号の同相成分を表し、Qy s(ts)は変調信号の直交成分を表す。変調部231sは、LPF241sを介して、生成された送信信号Gy s(ts)のうち、予め設定された制限帯域以下の送信信号Gy s(ts)を第s送信位相シフト部25d1sに出力する。なお、LPF241sは送信信号生成部2d1sにおいて省略されても良く、以下の各実施形態においても同様である。
ここで、セクタレーダSRds(s=1)における各第s送信位相シフト部の動作を個別に説明する。第1レーダ送信部Txd1s及び第2レーダ送信部Txd2sの各第s送信位相シフト部は、変調部又はLPFから出力された送信信号Gy s(ts)を入力する。各第s送信位相シフト部は、パルス送信制御部21dsからの送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、入力された送信信号G(ts)に、1個の送信周期毎に、共通の所定の送信位相シフトを付与する(図19参照)。
具体的には、第1レーダ送信部Txd1s及び第2レーダ送信部Txd2sの各第s送信位相シフト部は、第ms番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21dsからの送信タイミング信号を基に、1個の送信周期毎に、送信周期Trの序数に応じた共通の送信位相シフトexp(j(ms−1)φs)を送信信号Gy s(ts)に付与する(数式(69)参照)。パラメータmsは、自然数であって、送信周期Trの序数を表す。パラメータφsは、第s送信位相シフト部において付与される共通の位相回転量(例えば90度)であり、数式(9)の関係を満たすことが好ましい。第s送信位相シフト部は、送信位相シフトが付与された送信信号GPy s(Nr(ms−1)+ts)をD/A変換部261sに出力する。
次に、セクタレーダSRds(s=2)における各第s送信位相シフト部の動作において、セクタレーダSRds(s=2)における動作との相違点は、数式(70)における送信位相シフトexp(j(m2−1)(φ2))において、位相回転量であるパラメータφ2がφ1と異なるものであり、例えばφ1=90度、φ2=−90度となる点である。
更に、セクタレーダSRds(s=1)の第1レーダ送信部Txd1s及び第2レーダ送信部Txd2sの各第s送信位相シフト部により付与される送信位相シフトのパラメータφ1と、セクタレーダSRds(s=2)の第1レーダ送信部及び第2レーダ送信部の各第s送信位相シフト部により付与される送信位相シフトのパラメータφ2とは、逆位相の関係を有する(φ1=−φ2)。
D/A変換部261sは、第s送信位相シフト部25d1sから出力されたデジタルの送信信号GPy s(Nr(ms−1)+ts)をアナログの送信信号に変換する。D/A変換部261sは、アナログの送信信号を送信RF部31sに出力する。
(第y番目のレーダ受信部:yは1又は2)
次に、セクタレーダSRdsの第y番目(y=1)の第1レーダ受信部Rxd1sの各部の構成について、図18を参照して詳細に説明する。
第1レーダ受信部Rxd1sは、受信アンテナAnt−Rx1sが接続された受信RF部41s、VGA部51s及び信号処理部6d1sを含む構成である。受信RF部41sの構成及び動作は、上述した各実施形態の受信RF部4sと同様の構成及び動作であるため、説明を省略する。信号処理部6d1sは、A/D変換部611s、第s受信位相シフト部62d1s、相関値演算部63d1s、コヒーレント積分部64d1s及び距離推定部651sを含む構成である。信号処理部6d1sの各部は、各送信周期Trを信号処理区間として周期的に演算する。
次に、第y番目のレーダ受信部の各部の動作について、y=1である第1レーダ受信部Rxd1sを例示して詳細に説明するが、以下の説明はy=2である第2レーダ受信部Rx2sについても同様に適用可能である。
受信アンテナAnt−Rx1sは、第1レーダ送信部Txd1s又は第2レーダ送信部Txd2sから送信されたレーダ送信信号がターゲットTARsにより反射された反射波信号、及び対向的に配置された他セクタレーダからのレーダ送信信号を受信する。受信アンテナAnt−Tx1sにおいて受信された受信信号は、受信RF部41sに入力される。
受信RF部41sは、送信RF部31sと同様に、基準信号発振器Losにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍に逓倍した受信基準信号を生成する。
VGA部51sは、受信RF部41sから出力されたベースバンドのI信号及びQ信号を含む受信信号がそれぞれ入力され、入力された受信信号の出力レベルを調整して、入力されたベースバンドの受信信号の出力レベルをA/D変換部611sの入力レンジ(ダイナミックレンジ)内に収める。
VGA部51sは、出力レベルが調整されたベースバンドのI信号及びQ信号を含む受信信号をA/D変換部611sに出力する。本実施形態においては、説明を簡単にするため、VGA部51sにおける利得は、受信信号の出力レベルがA/D変換部611sの入力レンジ(ダイナミックレンジ)内に収まる様に予め調整されているとする。
信号処理部6d1sは、受信RF部41sと同様に、基準信号発振器Losにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍に逓倍した受信基準クロック信号を生成する。信号処理部61sの各部は、生成された受信基準クロック信号に基づいて動作する。
受信基準クロック周波数をfRxBBと表すと、送信周期Trは、受信基準クロック周波数fRxBBにより定まる離散時刻間隔(1/fRxBB)の整数倍Nv倍として表せる(数式(71)参照)。以下、送信基準クロック周波数fTxBBは、受信基準クロック周波数fRxBBの整数NTR倍の関係にあるとする(数式(72)参照)。
A/D変換部611sは、VGA部51sから出力されたI信号及びQ信号を含む受信信号を入力し、入力されたI信号及びQ信号を含む受信信号を、受信基準クロック周波数fRxBBを基に、離散時刻(1/fRxBB)毎にそれぞれサンプリングすることにより、アナログデータの受信信号をデジタルデータに変換する。
A/D変換部611sは、離散時刻ks毎に変換されたデジタルデータの受信信号を、離散サンプル値として第s受信位相シフト部621sに出力する。変換された離散サンプル値である受信信号xs(ks)は、離散時刻ksにおける離散サンプル値であるI信号Iry s(ks)及びQ信号Qry s(ks)を用いて、数式(73)により複素数として表せる。
数式(73)の第ms番目の送信周期Trにおいて、A/D変換部61sから出力された受信信号xy s(ks)は、複素ベースバンド信号Xy s(Nv(ms−1)+ks)として数式(74)を用いて表せる。
ここで、セクタレーダSRds(s=1)における各第s受信位相シフト部の動作を個別に説明する。第1レーダ受信部Rx1s及び第2レーダ受信部Rx2sの各第s受信位相シフト部は、A/D変換部から出力された受信信号Xy s(Nv(ms−1)+ks)を入力する。各第s受信位相シフト部は、パルス送信制御部21dsからの送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、入力された受信信号Xy s(Nv(ms−1)+ks)に、1個の送信周期毎に、各第s送信位相シフト部において付与された位相シフト成分の逆方向の共通の受信位相シフトを付与する。
具体的には、第1レーダ受信部Rx1s及び第2レーダ受信部Rx2sの各第s受信位相シフト部は、第ms番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21dsからの送信タイミング信号を基に、1個の送信周期毎に、送信周期Trの序数に応じた共通の受信位相シフトexp(j(ms−1)(−φs))を受信信号Xy s(Nv(ms−1)+ks)に付与する(数式(75)参照)。パラメータφsは、第s送信位相シフト部において付与される共通の位相回転量(例えばφ1=−90度)であり、数式(9)の関係を満たすことが好ましい。第s受信位相シフト部は、受信位相シフトが付与された受信信号XPy s(Nv(ms−1)+ks)を相関値演算部に出力する。
次に、セクタレーダSRds(s=2)における各第s受信位相シフト部の動作において、セクタレーダSRds(s=1)における動作との相違点は、位相回転量としてのパラメータφ2が、φ1と異なるものである。(数式(76)参照)。例えば、パラメータφ1=90度となり、パラメータφ2=−90度となる。
相関値演算部63d1sは、第s受信位相シフト部62d1sから出力された受信信号XPy s(Nv(ms−1)+ks)を入力する。相関値演算部63d1sは、リファレンス信号を所定倍に逓倍された受信基準クロック信号に基づいて、離散時刻ksに応じて、第ms番目の送信周期Trにおいて送信する符号長Lの符号系列C(y)nの送信符号を周期的に生成する。
相関値演算部63d1sは、入力された受信信号XPy s(Nv(ms−1)+ks)と、送信符号C(y)nとのスライディング相関値ACs(ks,ms)を演算する。スライディング相関値ACs(ks,ms)は、第ms番目の送信周期Trの離散時刻ksにおける、送信符号と受信信号とのスライディング相関演算によって演算された値である。
具体的には、相関値演算部63d1sは、各送信周期Tr、即ち離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRにおいて、第ms番目の送信周期Trの離散時刻ksにおけるスライディング相関値ACs(ks,ms)を、数式(77)に従って演算する。相関値演算部63d1sは、数式(77)に従って演算されたスライディング相関値ACs(ks,ms)をコヒーレント積分部64d1sに出力する。数式(77)において、アスタリスク(*)は複素共役演算子である。
相関値演算部63d1sは、本実施形態を含む各実施形態において、離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRにおいて演算するが、レーダ装置10の測定対象となるターゲットTARsの存在範囲に応じて、測定レンジ(離散時刻ksの範囲)を、例えばks=(Nw/NTR)+1〜(Nu−Nw)/NTRの範囲に更に限定してもよい。これにより、レーダ装置10は、相関値演算部63d1sの演算量を更に低減できる。即ち、レーダ装置10は、信号処理部6d1sにおける演算量の削減に基づく消費電力量を更に低減できる。
レーダ装置10は、相関値演算部63d1sが離散時刻ks=(Nw/NTR)+1〜(Nu−Nw)/NTRの範囲におけるスライディング相関値ACs(ks,ms)を演算する場合には、レーダ送信信号の送信区間Twにおける反射波信号の測定を省略できる。
レーダ装置10は、レーダ送信信号が第1レーダ受信部Rx1s又は第2レーダ受信部Rx2sに直接的に回り込んだとしても、回り込みによる影響を排除して測定できる。測定レンジ(離散時刻ksの範囲)の限定によって、コヒーレント積分部64d1s及び距離推定部651sの動作も同様の測定レンジに限定した範囲において動作する。
コヒーレント積分部64d1sは、相関値演算部63d1sから出力されたスライディング相関値ACy s(ks,ms)を入力する。コヒーレント積分部64d1sは、第ms番目の送信周期Trにおける離散時刻ks毎に演算されたスライディング相関値ACy s(ks,ms)を基に、所定回数(NP回)の送信周期Trの期間(NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACy s(ks,ms)を加算する。
コヒーレント積分部64d1sは、所定回数(NP回)の送信周期Trの期間(NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACy s(ks,ms)の離散時刻ks毎の加算により、第vs番目のコヒーレント積分値ACCy s(ks,vs)を、離散時刻ks毎に数式(78)に従って演算する。パラメータNPは、コヒーレント積分部64d1sにおけるコヒーレント積分回数を表す。コヒーレント積分部64d1sは、演算されたコヒーレント積分値ACCy s(ks,vs)を距離推定部651sに出力する。
数式(78)において所定回数NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、コヒーレント積分部64d1sは、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、回路誤差の影響を低減できる。即ち、レーダ装置10は、セクタレーダSRdsにおける所定回数NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、ターゲット測距性能の劣化を防ぐことができる。更に、レーダ装置10は、NP回のコヒーレント積分により反射波信号に含まれる雑音成分を抑圧することにより、反射波信号の受信品質(SNR)を改善できる。
セクタレーダSRdsの第1レーダ受信部Rx1s及び第2レーダ受信部Rx2sの各第s送信位相シフト部は、互いに異なる位相回転方向φs=φ(qs,Ni)+α(=((2qs−1)π/Ni)+α)の位相シフトを付与する。これにより、各セクタレーダSRdsは、他セクタレーダからの干渉波信号を同様に抑圧し、回路誤差、例えば、DCオフセット、IQインバランスを含む場合においても、回路誤差の補正回路を設けることなく、レンジサイドローブの増加を防ぎ、ターゲット測距性能の劣化を効果的に抑圧できる。
パラメータqs=0〜Ni−1=s−1であって、パラメータαは固定の位相値である。各第sコヒーレント積分部は、Ni個の送信周期毎にコヒーレント積分することにより、自セクタレーダからのレーダ送信信号と他セクタレーダからのレーダ送信信号との間における干渉を効果的に抑圧できる。
例えば、Ni=2、qs=1、α=0での位相シフトは、(φ1,φ2)=(π/2,−π/2)となる。各第sコヒーレント積分部は、Ni個(2個)の送信周期毎にコヒーレント積分することにより、自セクタレーダからのレーダ送信信号と他セクタレーダからのレーダ送信信号との間における干渉を効果的に抑圧できる。
例えば、NR=3、qs=1、α=0での位相シフトは、(φ1,φ2,φ3)=(φ(−1,3,φ(1,3),φ(2,3))=(π/3,−π/3,π)となる。各第sコヒーレント積分部64sは、NR個(3個)の送信周期毎にコヒーレント積分することにより、自セクタレーダからのレーダ送信信号と他セクタレーダからのレーダ送信信号との間における干渉を効果的に抑圧できる。
本実施形態では、セクタレーダSRds(s=1)の第1レーダ受信部Rxd1s及び第2レーダ受信部Rxd2sの各コヒーレント積分部64d1sは、2個の送信周期毎にコヒーレント積分する。これにより、セクタレーダSRds(s=1)の第1レーダ受信部Rxd1s及び第2レーダ受信部Rxd2sの各コヒーレント積分部64d1sは、セクタレーダSRds(s=1)からのレーダ送信信号とセクタレーダSRds(s=2)からのレーダ送信信号との間における干渉を効果的に抑圧できる。干渉抑圧効果の理由を説明する。例えば、セクタレーダSRds(s=1)において、セクタレーダSRds(s=2)からのレーダ送信信号が干渉波信号として到来する場合を想定する。
セクタレーダSRds(s=1)の第m1番目の送信周期Trにおける受信信号と、干渉波信号としてのセクタレーダSRds(s=2)からのレーダ送信信号とを含めた場合のA/D変換部61s(s=1)の出力は、数式(79)により示される。
数式(79)の第1項は、セクタレーダSRds(s=1)の各レーダ送信部からのレーダ送信信号がターゲットTARsにより反射されてセクタレーダSRds(s=1)の各レーダ受信部において受信される所望信号成分を表す。数式(79)の第2項は、セクタレーダSRds(s=2)の各レーダ送信部からのレーダ送信信号が同じターゲットTARsにより反射されてセクタレーダSRds(s=1)の各レーダ受信部において受信される干渉波信号成分を表す。
数式(79)において、パラメータh11 yは、セクタレーダSRds(s=1)の第y番目のレーダ送信部から送信されたレーダ送信信号がセクタレーダSRds(s=1)の第y番目のレーダ受信部において受信される場合の振幅及び位相の複素減衰係数である。パラメータh12 yは、セクタレーダSRds(s=2)の第y番目のレーダ送信部から送信されたレーダ送信信号がセクタレーダSRds(s=1)の第y番目のレーダ受信部において受信される場合の振幅及び位相の複素減衰係数である。パラメータm2は数式(80)、パラメータNdelayは数式(81)により表される。
|_x_|は、実数xの整数部を出力する演算子である。パラメータτ11 yは、セクタレーダSRds(s=1)の第y番目のレーダ送信部からのレーダ送信信号がターゲットTARs(s=1)に反射されてセクタレーダSRds(s=1)において受信されるまでの遅延時間である。なお、y=1である場合のパラメータτ11 yと、y=2である場合のパラメータτ11 yとは、同一の送信周期Trにあるとする。
パラメータτ12 yは、セクタレーダSRds(s=2)の第y番目のレーダ送信部からのレーダ送信信号がターゲットTARs(s=2)に反射され若しくは直接的に伝搬されてセクタレーダSRds(s=1)において受信されるまでの遅延時間である。なお、y=1である場合のパラメータτ12 yと、y=2である場合のパラメータτ12 yとは、同一の送信周期Trにあるとする。
なお、説明を簡単にするために、各セクタレーダSRdsの各レーダ送信部Txs及びレーダ受信部Rxsのフィルタの応答特性を含めていない。
更に、セクタレーダSRds(s=1)の第y番目のレーダ受信部における第(m1+1)番目の送信周期Trにおける受信信号と、干渉波信号としてのセクタレーダSRds(s=2)からのレーダ送信信号とを含めた場合のセクタレーダSRds(d=1)のA/D変換部611sの出力は、第m1番目の送信周期Trと同じ伝搬環境であると仮定した場合には数式(82)により示される。第m1番目の送信周期Trと同じ伝搬環境である場合とは、複素減衰係数h11 y,h12 y、遅延時間τ11 y,τ12 yが変化しないと見なせる場合である。
セクタレーダSRds(s=1)の第y番目のレーダ受信部における第m1番目の送信周期Trから第(m1+(Ni−1))番目までのNi個の各送信周期における相関値演算部の出力、即ちスライディング相関値の加算値は、数式(83)により表される。数式(83)において、符号系列Cnは、符号系列An,Bnのうちいずれかである。
セクタレーダSRds(s=1)の第m1番目及び第(m1+w)番目の送信周期Trの各第s受信位相シフト部の出力は、数式(84)及び数式(85)により表される。
数式(84)及び数式(85)の各第1項は、セクタレーダSRds(s=1)の各レーダ送信部Txd1sからのレーダ送信信号がターゲットTARsに反射されて各レーダ受信部Rxd1sにおいて受信される所望信号成分である。従って、数式(84)及び数式(85)の各第1項は、数式(86)に示す様に同相の信号となり、数式(83)によってコヒーレント積分利得を得ることができる。∠[x]は、複素数xの位相成分を出力する演算子である。
一方、数式(84)及び数式(85)の各第2項は、セクタレーダSRds(s=2)の各レーダ送信部からのレーダ送信信号がターゲットTARsに反射されてセクタレーダSRds(s=1)の各レーダ受信部Rxd1sにおいて受信される干渉波信号成分である。
セクタレーダSRds(s=1)とセクタレーダSRds(s=2)とのキャリア周波数誤差が許容程度内では、即ち数式(63)が成立する場合には、第m1番目及び第(m1+w)番目の各送信周期Trにおける干渉波信号成分の位相関係は、数式(87)に示す位相関係となる。
数式(87)において、パラメータfdevは、セクタレーダSRds(s=1)とセクタレーダSRds(s=2)との間のキャリア周波数誤差を表し、送信基準クロック信号の周波数誤差から生じるキャリア周波数誤差及び受信基準クロック信号の周波数誤差から生じるサンプリング周波数誤差により規定される。
セクタレーダSR1とセクタレーダSR2との間のキャリア周波数誤差が許容程度内では、即ち数式(63)が成立する場合には、第m1番目から第(m1+w)番目までの各送信周期Trにおける各干渉波信号成分の位相関係は、数式(87)に示す位相関係となる。数式(88)は、コヒーレント積分部64sによる干渉波信号成分のコヒーレント積分を表す。従って、レーダ装置10は、数式(83)のコヒーレント積分によって、数式(88)に示す様に干渉信号成分は、互いの信号成分を打ち消しあう関係となり、干渉波信号成分を効果的に抑圧できる。但し、Niが大きくなるほど、周波数誤差fdevに起因する位相変動の影響を受け易くなるため、レーダ装置10における基準クロック信号の周波数精度に応じたNiの上限値が存在する。
上述した説明は、セクタレーダSRds(s=1)においてセクタレーダSRds(s=2)からの干渉波信号が到来する場合を想定したが、セクタレーダSRds(s=2)においてセクタレーダSRds(s=1)からの干渉波信号が到来する場合についても同様に適用可能である。
距離推定部651sは、NP回の送信周期Tr毎にコヒーレント積分部641sから出力された離散時刻ks毎のコヒーレント積分値ACCy s(ks,vs)を入力する。距離推定部651sは、入力された離散時刻ks毎のコヒーレント積分値ACCy s(ks,vs)を基に、ターゲットTARsまでの距離を推定する。距離推定部651sにおける距離推定は、例えば上記参考非特許文献3において開示されている推定方法を適用可能である。
第vs番目の出力周期(vs×NP×Tr)において得られたコヒーレント積分部641sからのコヒーレント積分値の絶対値の自乗値|ACCy s(ks,vs)|2は、離散時刻ks毎の反射波信号の受信レベルに相当する。距離推定部651sは、セクタレーダSRdsの周囲の雑音レベルから所定値以上を上回るピーク受信レベルの検出時刻kpsを基に、数式(31)に従って距離Range(kps)を推定する。数式(31)において、パラメータC0は光速度である。
以上により、第4の実施形態のレーダ装置10は、複数のセクタレーダを対向配置させた場合に、対向する各セクタレーダ間の送信周期の同期を不要とし、簡易な構成によってセクタレーダ間における干渉を抑圧できる。更に、レーダ装置10は、回路誤差、例えば、DCオフセット、IQインバランスを含む場合においても、回路誤差の補正回路を設けることなく、レンジサイドローブの増加を防ぎ、ターゲット測距性能の劣化を効果的に抑圧できる。
(第5の実施形態)
第5の実施形態では、第4の実施形態のレーダ装置10が送信符号として相補符号を用いる例を説明する。
第5の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRes(s=1,2)の構成及び動作について、図20〜図22を参照して説明する。図20は、第5の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRes(s=1,2)の内部構成を簡易に示すブロック図である。図21は、第5の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRes(s=1,2)の内部構成を詳細に示すブロック図である。図22は、第5の実施形態のレーダ装置10を構成するセクタレーダSRes(s=1,2)の第1レーダ送信部及び第2レーダ送信部におけるレーダ送信信号の各送信区間及び各送信周期と各送信符号との関係を示す説明図である。
セクタレーダSResとセクタレーダSRdsとの各部の構成及び動作が同様のブロックには同一の符号を付し、以下、セクタレーダSResの構成及び動作の説明において、セクタレーダSRdsと同様の内容の説明は省略し、異なる内容に関して説明する。
図20に示すセクタレーダSResは、基準信号発振器Los、パルス送信制御部21es、第1レーダ送信部Txe1s、第2レーダ送信部Txe2s、第1レーダ受信部Rxe1s及び第2レーダ受信部Rxe2sを含む構成である。第1レーダ送信部Txe1sは、送信信号生成部2e1s、及び、送信アンテナAnt−Tx1sと接続される送信RF部31sを有する構成である。送信信号生成部2e1sは、符号生成部22e1s、変調部231s及び第s送信位相シフト部25e1sを含む構成である。符号生成部22e1sは、少なくとも1個以上の符号生成部として、第1符号生成部22e11s及び第2符号生成部22e12sを含む構成であり、少なくとも1個以上の符号系列を生成する。
第1レーダ送信部Txe1s、第2レーダ送信部Txe2s、第1レーダ受信部Rxe1s及び第2レーダ受信部Rxe2sは、基準信号発振器Losに接続され、基準信号発振器Losからリファレンス信号(基準信号)が供給される。第1レーダ送信部Txe1s、第2レーダ送信部Txe2s、第1レーダ受信部Rxe1s及び第2レーダ受信部Rxe2sの処理は同期する。
第1レーダ受信部Rxe1sは、受信RF部41s、VGA部51s、及び信号処理部6e1sを有する構成である。信号処理部6e1sは、第s受信位相シフト部62e1s、相関値演算部63e1s、コヒーレント積分部64e1s及び距離推定部651sを含む構成である。第2レーダ受信部Rxe2sの構成は第1レーダ受信部Rxe1sの構成と同様であるため、構成の説明を省略する。
(第y番目のレーダ送信部:yは1又は2)
次に、セクタレーダSResの第y番目(y=1)の第1レーダ送信部Txe1sの各部の構成について、図21を参照して詳細に説明する。
送信信号生成部2e1sは、符号生成部22e1s、変調部231s、LPF241s、第s送信位相シフト部25e1s及びD/A変換部261sを含む構成である。図21では、送信信号生成部2e1sはLPF241sを含む構成であるが、LPF241sは送信信号生成部2e1sと独立して第1レーダ送信部Txe1sの中に構成されてもよい。送信RF部31sの構成及び動作は上述した各実施形態の送信RF部3sと同様のため、送信RF部31sの構成及び動作の説明を省略する。
次に、第y番目のレーダ送信部の各部の動作について、y=1である第1レーダ送信部Txe1sを例示して詳細に説明するが、以下の説明はy=2である第2レーダ送信部Txd2sについても同様に適用可能である。
パルス送信制御部21esは、高周波のレーダ送信信号の送信タイミング信号を、送信周期Tr毎に生成する。パルス送信制御部21esは、送信タイミング信号を、第1レーダ送信部Txe1s及び第2レーダ送信部Txe2sの各符号生成部及び各第s送信位相シフト部、並びに第1レーダ受信部Rxe1s及び第2レーダ受信部Rxe2sの各第s受信位相シフト部にそれぞれ出力する。
送信信号生成部2e1sは、基準信号発振器Losにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍に逓倍した送信基準クロック信号を生成する。送信信号生成部2e1sの各部は、生成された送信基準クロック信号に基づいて動作する。送信基準クロック周波数をfTxBBと表すと、送信周期Trは、送信基準クロック周波数fTxBBにより定まる離散時刻間隔(1/fTxBB)の整数Nr倍として表せる(数式(66)参照)。なお、送信基準クロック周波数fTxBBは公称値であり、実際上はレーダ送信部Txs毎に異なる周波数誤差を含む。
送信信号生成部2e1sは、パルス送信制御部21esからの送信周期Tr毎に出力されたレーダ送信信号の送信タイミング信号を基に、符号長Lの相補符号系列Anの変調によって、数式(67)のベースバンドの送信信号Gs(ts)を周期的に生成する。パラメータn=1〜Lであり、パラメータLは、符号系列Anの符号長を表す。jは、j2=−1を満たす虚数単位である。パラメータtsは、離散時刻を表す。
なお、第2レーダ送信部Txe2sの送信信号生成部は、パルス送信制御部21esからの送信周期Tr毎に出力されたレーダ送信信号の送信タイミング信号を基に、符号長Lの相補符号系列Bnの変調によって、数式(67)のベースバンドの送信信号Gs(ts)を周期的に生成する。パラメータn=1〜Lであり、パラメータLは、符号系列Bnの符号長を表す。
送信信号Gs(ts)は、図22に示す様に、例えば各送信周期Trの送信区間Tw[秒]では、符号系列An,Bnの1つの符号あたり送信基準クロック信号のNo[個]のサンプルを用いて変調されている。従って、送信区間Twにおいては、Nw(=No×L)のサンプルを用いて変調されている。各送信周期Trの無信号区間(Tr−Tw)[秒]では、Nu(=Nr−Nw)[個]のサンプルを用いて変調されている。従って、数式(67)の送信信号Gs(ts)は、数式(68)を用いて表せる。
第1符号生成部22e11sは、パルス送信制御部21esからの奇数番目の送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、符号長Lの相補符号系列An,Bnのうち一方の相補符号系列Anの送信符号を生成する。第1符号生成部22e11sは、生成された相補符号系列Anの送信符号を変調部231sに出力する。
第2符号生成部22e12sは、パルス送信制御部21esからの偶数番目の送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、符号長Lの相補符号系列An,Bnのうち一方の相補符号系列Bnの送信符号を生成する。第2符号生成部22e12sは、生成された相補符号系列Bnの送信符号を変調部231sに出力する。
なお、第2レーダ送信部Txe2sの第1符号生成部は、パルス送信制御部21esからの奇数番目の送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、符号長Lの相補符号系列An,Bnのうち一方の相補符号系列Bnの送信符号を生成する。第1符号生成部は、生成された相補符号系列Bnの送信符号を変調部に出力する。
更に、第2レーダ送信部Txe2sの第2符号生成部は、パルス送信制御部21esからの偶数番目の送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、符号長Lの相補符号系列An,Bnのうち一方の相補符号系列Anの送信符号を生成する。第2符号生成部は、生成された相補符号系列Anの送信符号を変調部に出力する。
変調部231sは、符号生成部22e1sから出力された送信符号An又は送信符号Bnを入力する。変調部231sは、入力された送信符号An又は送信符号Bnをパルス変調し、数式(67)のベースバンドの送信信号Gs(ts)を生成する。変調部231sは、LPF241sを介して、生成された送信信号Gs(ts)のうち、予め設定された制限帯域以下の送信信号Gs(ts)を第s送信位相シフト部25e1sに出力する。
ここで、セクタレーダSRes(s=1)における各第s送信位相シフト部の動作を個別に説明する。第1レーダ送信部Txe1s及び第2レーダ送信部Txe2sの各第s送信位相シフト部は、変調部又はLPFから出力された送信信号Gs(ts)を入力する。各第s送信位相シフト部は、パルス送信制御部21esからの送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、入力された送信信号Gs(ts)に、2個の送信周期毎に、共通の所定の送信位相シフトを付与する(図22参照)。
具体的には、第1レーダ送信部Txe1s及び第2レーダ送信部Rxe2sの各第s送信位相シフト部は、第ms番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21esからの送信タイミング信号を基に、2個の送信周期毎に、送信周期Trの序数に応じた共通の送信位相シフトexp(j floor[(ms−1)/2]φs)を送信信号Gs(ts)に付与する(数式(89)参照)。パラメータφsは、第s送信位相シフト部25e1sにおいて付与される位相回転量(例えば90度)であり、数式(9)の関係を満たすことが好ましい。各第s送信位相シフト部は、送信位相シフトが付与された送信信号GPy s(Nr(ms−1)+ts)をD/A変換部261sに出力する。floor[x]は、実数xの小数点以下を切り下げた整数値を出力する演算子である。
次に、セクタレーダSRes(s=2)における各第s送信位相シフト部の動作において、セクタレーダSRes(s=1)における動作との相違点は、数式(90)における送信位相シフトexp(j floor[(ms−1)/2]φs)において、位相回転量としてのパラメータφ2が、φ1と異なるもので、例えば位相回転量としたのパラメータφsが−90度となる点である。
更に、セクタレーダSRes(s=1)の第1レーダ送信部Txe1s及び第2レーダ送信部Txe2sの各第s送信位相シフト部により付与される送信位相シフトのパラメータφ1と、セクタレーダSRes(s=2)の第1レーダ送信部及び第2レーダ送信部の各第s送信位相シフト部により付与される送信位相シフトのパラメータφ2とは、逆位相の関係を有する(φ1=−φ2)。
(第y番目のレーダ受信部:yは1又は2)
次に、セクタレーダSResの第y番目(y=1)の第1レーダ受信部Rxe1sの各部の構成について、図21を参照して詳細に説明する。
レーダ受信部Rx1sは、受信アンテナAnt−Rx1sが接続された受信RF部41s、VGA部51s及び信号処理部6e1sを含む構成である。受信RF部41sの構成及び動作は、上述した各実施形態の受信RF部4sと同様の構成及び動作であるため、説明を省略する。信号処理部6e1sは、A/D変換部611s、第s受信位相シフト部62e1s、相関値演算部63e1s、コヒーレント積分部64e1s及び距離推定部651sを含む構成である。信号処理部6e1sの各部は、各送信周期Trを信号処理区間として周期的に演算する。
次に、第y番目のレーダ受信部の各部の動作について、y=1である第1レーダ受信部Rxe1sを例示して詳細に説明するが、以下の説明はy=2である第2レーダ受信部Rxe2sについても同様に適用可能である。
受信アンテナAnt−Rx1sは、第1レーダ送信部Txe1s又は第2レーダ送信部Txe2sから送信されたレーダ送信信号がターゲットTARsにより反射された反射波信号、及び対向的に配置された他セクタレーダからのレーダ送信信号を受信する。受信アンテナAnt−Tx1sにおいて受信された受信信号は、受信RF部41sに入力される。
VGA部51sは、受信RF部41sから出力されたベースバンドのI信号及びQ信号を含む受信信号がそれぞれ入力され、入力された受信信号の出力レベルを調整して、入力されたベースバンドの受信信号の出力レベルをA/D変換部611sの入力レンジ(ダイナミックレンジ)内に収める。
VGA部51sは、出力レベルが調整されたベースバンドのI信号及びQ信号を含む受信信号をA/D変換部611sに出力する。本実施形態においては、説明を簡単にするため、VGA部51sにおける利得は、受信信号の出力レベルがA/D変換部611sの入力レンジ(ダイナミックレンジ)内に収まる様に予め調整されているとする。
信号処理部6e1sは、受信RF部41sと同様に、基準信号発振器Losにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍に逓倍した受信基準クロック信号を生成する。信号処理部6e1sの各部は、生成された受信基準クロック信号に基づいて動作する。
ここで、セクタレーダSRes(s=1)における第s受信位相シフト部の動作を個別に説明する。第1レーダ受信部Rxe1s及び第2レーダ受信部Rxe2sの各第s受信位相シフト部は、A/D変換部から出力された受信信号Xy s(Nv(ms−1)+ks)を入力する。各第s受信位相シフト部は、パルス送信制御部21esからの送信周期Tr毎に出力された送信タイミング信号を基に、入力された受信信号Xy s(Nv(ms−1)+ks)に、2個の送信周期毎に、各第s送信位相シフト部において付与された位相シフト成分の逆方向の受信位相シフトを付与する。
具体的には、第1レーダ受信部Rxe1s及び第2レーダ受信部Rxe2sの各第s受信位相シフト部は、第ms番目の送信周期Trにおけるパルス送信制御部21esからの送信タイミング信号を基に、2個の送信周期毎に、送信周期Trの序数に応じた共通の受信位相シフトexp(j floor[(ms−1)/2](−φs))を受信信号Xy s(Nv(ms−1)+ks)に付与する(数式(91)参照)。各第s受信位相シフト部は、受信位相シフトが付与された受信信号XPy s(Nv(ms−1)+ks)を相関値演算部に出力する。
次に、セクタレーダSRes(s=2)における第s受信位相シフト部の動作において、セクタレーダSRes(s=1)における動作との相違点は、位相回転量としてのパラメータφ2が、φ1と異なる点(数式(92)参照)である。例えばφ1=90度、φ2=−90度となる点である。
相関値演算部63e1sは、第s受信位相シフト部62e1sから出力された受信信号XPy s(Nv(ms−1)+ks)を入力する。相関値演算部63e1sは、リファレンス信号を所定倍に逓倍された受信基準クロック信号に基づいて、離散時刻ksに応じて、奇数番目の第ms番目(ms=2zs−1、zs:自然数)の送信周期Trにおいて送信する符号長Lの符号系列Anの送信符号を周期的に生成する。また、相関値演算部63e1sは、リファレンス信号を所定倍に逓倍された受信基準クロック信号に基づいて、離散時刻ksに応じて、偶数番目の第ms番目(ms=2zs)の送信周期Trにおいて送信する符号長Lの符号系列Bnの送信符号を周期的に生成する。
相関値演算部63e1sは、入力された受信信号XPy s(Nv(ms−1)+ks)と、送信符号An又はBnとのスライディング相関値ACy s(ks,ms)を演算する。スライディング相関値ACy s(ks,ms)は、第ms番目の送信周期Trの離散時刻ksにおける、送信符号と受信信号とのスライディング相関演算によって演算された値である。
具体的には、相関値演算部63e1sは、各送信周期Tr、即ち離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRにおいて、奇数番目の第ms番目(ms=2zs−1)の送信周期Trの離散時刻ksにおけるスライディング相関値ACs(ks,2zs−1)を、数式(93)に従って演算する。相関値演算部63e1sは、数式(93)に従って演算されたスライディング相関値ACy s(ks,2zs−1)をコヒーレント積分部64e1sに出力する。数式(93)において、アスタリスク(*)は複素共役演算子である。
また、相関値演算部63e1sは、各送信周期Tr、即ち離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRにおいて、偶数番目の第ms番目(ms=2zs)の送信周期Trの離散時刻ksにおけるスライディング相関値ACy s(ks,2zs)を、数式(94)に従って演算する。相関値演算部63e1sは、数式(94)に従って演算されたスライディング相関値ACy s(ks,2zs)をコヒーレント積分部64e1sに出力する。数式(94)において、アスタリスク(*)は複素共役演算子である。
相関値演算部63e1sは、本実施形態を含む各実施形態において、離散時刻ks=1〜(Nu−Nw)/NTRにおいて演算するが、レーダ装置10の測定対象となるターゲットTARsの存在範囲に応じて、測定レンジ(離散時刻ksの範囲)を、例えばks=(Nw/NTR)+1〜(Nu−Nw)/NTRの範囲に更に限定してもよい。これにより、レーダ装置10は、相関値演算部63e1sの演算量を更に低減できる。即ち、レーダ装置10は、信号処理部6e1sにおける演算量の削減に基づく消費電力量を更に低減できる。
レーダ装置10は、相関値演算部63e1sが離散時刻ks=(Nw/NTR)+1〜(Nu−Nw)/NTRの範囲におけるスライディング相関値ACy s(ks,ms)を演算する場合には、レーダ送信信号の送信区間Twにおける反射波信号の測定を省略できる。
レーダ装置10は、各レーダ送信部からのレーダ送信信号が各レーダ受信部に直接的に回り込んだとしても、回り込みによる影響を排除して測定できる。測定レンジ(離散時刻ksの範囲)の限定によって、コヒーレント積分部64e1s及び距離推定部651sの動作も同様の測定レンジに限定した範囲において動作する。
コヒーレント積分部64e1sは、相関値演算部63e1sから出力されたスライディング相関値ACy s(ks,2zs−1)及びACy s(ks,2zs)を入力する。コヒーレント積分部64e1sは、奇数番目及び偶数番目の2個の送信周期Trにおける離散時刻ks毎に演算されたスライディング相関値ACy s(ks,2zs−1)及びACy s(ks,2zs)を基に、所定回数(2NP回)の送信周期Trの期間(2NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACy s(ks,2zs−1)及びACy s(ks,2zs)を加算する。
コヒーレント積分部64e1sは、所定回数(2NP回)の送信周期Trの期間(2NP×Tr)にわたるスライディング相関値ACy s(ks,2zs−1)及びACs(ks,2zs)の離散時刻ks毎の加算により、第vs番目のコヒーレント積分値ACCy s(ks,vs)を、離散時刻ks毎に数式(95)に従って演算する。パラメータ2NPは、コヒーレント積分部64e1sにおけるコヒーレント積分回数を表す。コヒーレント積分部64e1sは、演算されたコヒーレント積分値ACCy s(ks,vs)を距離推定部651sに出力する。
数式(95)において所定回数2NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、コヒーレント積分部64e1sは、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、回路誤差の影響を低減できる。即ち、レーダ装置10は、所定回数2NPを2π/φの整数倍単位に設定することにより、反射波信号にDCオフセット成分及びIQインバランスの回路誤差が含まれていても、ターゲット測距性能の劣化を防ぐことができる。更に、レーダ装置10は、2NP回のコヒーレント積分により反射波信号に含まれる雑音成分を抑圧することにより、反射波信号の受信品質(SNR)を改善できる。
以上により、第5の実施形態のレーダ装置10は、送信符号に相補符号を用いた場合においても、第4の実施形態のレーダ装置10と等価な効果を得ることができる。
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
上述した第1の実施形態では、パルス送信制御部21sは各セクタレーダSRs(s=1、2)の各レーダ送信部Txsに含まれると説明した。しかし、パルス送信制御部21sは、2つのセクタレーダSRs(s=1、2)の各レーダ送信部Txsの外部に設けられてもよく、2つのセクタレーダSRs(s=1、2)に対して1つのパルス送信制御部を共用してもよい。また、2つのセクタレーダSRs(s=1、2)に対して1つのパルス送信制御部を共用してもよいことは第2及び第3の各実施形態においても同様である。
なお、上述した第2の実施形態s=1、2における第1符号生成部22b1sは符号長Lの相補符号系列Anを生成し、第2符号生成部22b2sは符号長Lの相補符号系列Bnを生成する旨を説明したが、これに限定されず、s=1における第1符号生成部22b1sは符号長Lの相補符号系列Anを生成し、第2符号生成部22b2sは符号長Lの相補符号系列Bnに対し、s=2における第1符号生成部22b1sは、符号長Lの相補符号系列Unを生成し、第2符号生成部22b2sは符号長Lの相補符号系列Vnを生成し、符号Unは符号Anと異なり、符号Vnは符号Bnと異なる符号を用いても、同様の効果が得られる(図24参照)。
図24は、第2の実施形態のレーダ装置を構成するセクタレーダSRbs(s=1,2)毎に異なる相補符号系列が用いられる場合におけるレーダ送信信号の各送信区間及び各送信周期と各送信位相シフト成分との関係を示す説明図である。図24において、相補符号系列Unと、相補符号系列Vnとは、相補符号の関係を有する。
更に、符号系列Unと符号系列Anとのうち互いに相互相関値が小さい符号系列をそれぞれ選択することにより、レーダ装置10は、各セクタレーダSRbs(s=1,2)間における干渉を一層抑圧できる。
ここで、符号系列Unと符号系列Anとの相互相関値は、符号間の干渉量を規定するため、ゼロとなるものが最良であるが、少なくとも符号間の干渉抑圧量を20[dB]以下とすることが好適であるため、相互相関値は0.1以下の符号系列が選択されることが好ましい。
更に、符号系列Vnと符号系列Bnとのうち互いに相互相関値が小さい符号系列をそれぞれ選択することにより、レーダ装置10は、各セクタレーダSRbs(s=1,2)間における干渉を一層抑圧できる。
更に、符号系列Unと符号Anとの相互相関値と、符号系列Vnと符号系列Bnとの相互相関値と、の和がゼロとなる符号系列をそれぞれ選択することにより、レーダ装置10は、各セクタレーダSRbs(s=1,2)間における干渉を一層抑圧できる。
即ち、相補符号系列(An,Bn)と相補符号系列(Un,Vn)のうち、前者の相補符号系列のうち一方の符号系列Anと後者の相補符号系列のうち一方の符号系列Unとの相互相関演算結果(相互相関値)RAU(τ)は、数式(96)に従って演算される。
前者の相補符号系列のうち他方の符号系列Bnと後者の相補符号系列のうち他方の符号系列Vnとの相互相関演算結果(相互相関値)RBV(τ)は、数式(97)により演算される。なお、Rは相互相関値演算結果(相互相関値)を示す。但し、n>L又はn<1においては、相補符号系列An,Bnはゼロとする(すなわち、n>L又はn<1において、An=0、Bn=0、Un=0、Vn=0)。なお、アスタリスク*は複素共役演算子を示す。
数式(96)に従って演算された相互相関値演算結果RAU(τ)は、遅延時間(あるいはシフト時間)τがゼロであるとピークが発生し、遅延時間τがゼロ以外ではレンジサイドローブが存在する。同様に、数式(97)に従って演算された相互相関値演算結果RBV(τ)は、遅延時間τがゼロであるとピークが発生し、遅延時間τがゼロ以外では、レンジサイドローブが存在する。
相互相関値演算結果(RAU(τ),RBV(τ))の遅延時間τをそろえて加算した値が遅延時間τによらずゼロとなる相補符号系列(An,Bn)と相補符号系列(Un,Vn)を選択することで(数式(98)参照)、レーダ装置10は、各セクタレーダSRbs(s=1,2)間における干渉を一層抑圧できる。
なお、本出願は、2011年11月17日出願の日本特許出願(特願2011−252100)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。