JPWO2012099180A1 - 目的物質移行方法、結晶製造方法、組成物製造方法、目的物質移行装置 - Google Patents

目的物質移行方法、結晶製造方法、組成物製造方法、目的物質移行装置 Download PDF

Info

Publication number
JPWO2012099180A1
JPWO2012099180A1 JP2012553760A JP2012553760A JPWO2012099180A1 JP WO2012099180 A1 JPWO2012099180 A1 JP WO2012099180A1 JP 2012553760 A JP2012553760 A JP 2012553760A JP 2012553760 A JP2012553760 A JP 2012553760A JP WO2012099180 A1 JPWO2012099180 A1 JP WO2012099180A1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
phase
target substance
gel
crystal
bubble
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2012553760A
Other languages
English (en)
Inventor
森 勇介
勇介 森
井上 豪
豪 井上
和文 高野
和文 高野
浩由 松村
浩由 松村
安達 宏昭
宏昭 安達
成 杉山
成 杉山
良多 村井
良多 村井
将輝 倉田
将輝 倉田
洋史 吉川
洋史 吉川
美帆子 平尾
美帆子 平尾
智詞 中山
智詞 中山
高橋 義典
義典 高橋
村上 聡
聡 村上
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Osaka University NUC
Original Assignee
Osaka University NUC
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Osaka University NUC filed Critical Osaka University NUC
Publication of JPWO2012099180A1 publication Critical patent/JPWO2012099180A1/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Classifications

    • BPERFORMING OPERATIONS; TRANSPORTING
    • B01PHYSICAL OR CHEMICAL PROCESSES OR APPARATUS IN GENERAL
    • B01JCHEMICAL OR PHYSICAL PROCESSES, e.g. CATALYSIS OR COLLOID CHEMISTRY; THEIR RELEVANT APPARATUS
    • B01J19/00Chemical, physical or physico-chemical processes in general; Their relevant apparatus
    • B01J19/008Processes for carrying out reactions under cavitation conditions
    • BPERFORMING OPERATIONS; TRANSPORTING
    • B01PHYSICAL OR CHEMICAL PROCESSES OR APPARATUS IN GENERAL
    • B01DSEPARATION
    • B01D9/00Crystallisation
    • B01D9/0081Use of vibrations, e.g. ultrasound
    • BPERFORMING OPERATIONS; TRANSPORTING
    • B01PHYSICAL OR CHEMICAL PROCESSES OR APPARATUS IN GENERAL
    • B01JCHEMICAL OR PHYSICAL PROCESSES, e.g. CATALYSIS OR COLLOID CHEMISTRY; THEIR RELEVANT APPARATUS
    • B01J19/00Chemical, physical or physico-chemical processes in general; Their relevant apparatus
    • B01J19/08Processes employing the direct application of electric or wave energy, or particle radiation; Apparatus therefor
    • B01J19/10Processes employing the direct application of electric or wave energy, or particle radiation; Apparatus therefor employing sonic or ultrasonic vibrations
    • BPERFORMING OPERATIONS; TRANSPORTING
    • B01PHYSICAL OR CHEMICAL PROCESSES OR APPARATUS IN GENERAL
    • B01JCHEMICAL OR PHYSICAL PROCESSES, e.g. CATALYSIS OR COLLOID CHEMISTRY; THEIR RELEVANT APPARATUS
    • B01J19/00Chemical, physical or physico-chemical processes in general; Their relevant apparatus
    • B01J19/08Processes employing the direct application of electric or wave energy, or particle radiation; Apparatus therefor
    • B01J19/12Processes employing the direct application of electric or wave energy, or particle radiation; Apparatus therefor employing electromagnetic waves
    • B01J19/121Coherent waves, e.g. laser beams
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C30CRYSTAL GROWTH
    • C30BSINGLE-CRYSTAL GROWTH; UNIDIRECTIONAL SOLIDIFICATION OF EUTECTIC MATERIAL OR UNIDIRECTIONAL DEMIXING OF EUTECTOID MATERIAL; REFINING BY ZONE-MELTING OF MATERIAL; PRODUCTION OF A HOMOGENEOUS POLYCRYSTALLINE MATERIAL WITH DEFINED STRUCTURE; SINGLE CRYSTALS OR HOMOGENEOUS POLYCRYSTALLINE MATERIAL WITH DEFINED STRUCTURE; AFTER-TREATMENT OF SINGLE CRYSTALS OR A HOMOGENEOUS POLYCRYSTALLINE MATERIAL WITH DEFINED STRUCTURE; APPARATUS THEREFOR
    • C30B29/00Single crystals or homogeneous polycrystalline material with defined structure characterised by the material or by their shape
    • C30B29/54Organic compounds
    • C30B29/58Macromolecular compounds
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C30CRYSTAL GROWTH
    • C30BSINGLE-CRYSTAL GROWTH; UNIDIRECTIONAL SOLIDIFICATION OF EUTECTIC MATERIAL OR UNIDIRECTIONAL DEMIXING OF EUTECTOID MATERIAL; REFINING BY ZONE-MELTING OF MATERIAL; PRODUCTION OF A HOMOGENEOUS POLYCRYSTALLINE MATERIAL WITH DEFINED STRUCTURE; SINGLE CRYSTALS OR HOMOGENEOUS POLYCRYSTALLINE MATERIAL WITH DEFINED STRUCTURE; AFTER-TREATMENT OF SINGLE CRYSTALS OR A HOMOGENEOUS POLYCRYSTALLINE MATERIAL WITH DEFINED STRUCTURE; APPARATUS THEREFOR
    • C30B5/00Single-crystal growth from gels

Landscapes

  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Chemical Kinetics & Catalysis (AREA)
  • Crystallography & Structural Chemistry (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Physics & Mathematics (AREA)
  • Materials Engineering (AREA)
  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Toxicology (AREA)
  • Metallurgy (AREA)
  • Dispersion Chemistry (AREA)
  • Optics & Photonics (AREA)
  • Electromagnetism (AREA)
  • Peptides Or Proteins (AREA)
  • Physical Or Chemical Processes And Apparatus (AREA)
  • Apparatus Associated With Microorganisms And Enzymes (AREA)
  • Crystals, And After-Treatments Of Crystals (AREA)

Abstract

簡便かつ効果的に目的物質の高濃度化ができる目的物質移行方法、結晶製造方法、組成物製造方法、目的物質移行装置を提供する。目的物質103を含む液相または固相から形成された第1の相101中の目的物質103を、第2の相102中に移行させる方法であって、第1の相101と第2の相102とを近接させる相近接工程と、第1の相101と第2の相102との境界の近傍に気泡を発生させて崩壊させる気泡崩壊工程とを含むことを特徴とする方法。

Description

本発明は、目的物質移行方法、結晶製造方法、組成物製造方法、目的物質移行装置に関する。
タンパク質、核酸等の生体物質の立体構造を明らかにすることは、産業上極めて有用である。具体的には、例えば、前記生体物質の生体中における機能が明らかになるため、能率的な医薬品の開発が可能となる。
タンパク質、核酸等の立体構造を解析するための方法としては、例えば結晶構造解析、特にX線回折像撮影による結晶構造解析が優れており、広く用いられている。この方法により解析するためには、検体(被解析物質)である前記タンパク質、核酸等の結晶を製造する必要がある。そのために、前記検体を含む溶液から前記検体の結晶を析出(結晶化)させる方法(特許文献1等)が行われている。しかし、タンパク質、核酸等の溶液から結晶を析出(結晶化)させることは困難であり、非常に高度な技術が必要である。この原因は、タンパク質、核酸等の溶液中において、結晶核が発生しないか、または、発生してもすぐに消滅してしまうためと考えられる。
一方、溶液に代えて、ゲル中でタンパク質または核酸を結晶化させることで、より簡便に結晶を得る方法がある(特許文献2)。しかしながら、品質、強度等に優れた結晶をより簡便に得るために、さらなる技術の向上が求められる。
そこで、タンパク質溶液中にレーザー光を照射することで、タンパク質の結晶核を発生させ、結晶化させることが試みられている(非特許文献1)。この方法の原理は、以下のように説明できる。すなわち、まず、タンパク質溶液にレーザー光照射すると、短時間に気泡が発生して消滅する、いわゆるキャビテーションという現象が起こる。気泡が発生して膨張する時、気泡表面に溶液中のタンパク質が吸着される。そして、気泡が収縮して消滅しようとする時に、気泡の表面積が小さくなるために、吸着されたタンパク質が濃縮されてタンパク質濃度(密度)が高くなる。このタンパク質が高濃度になった(濃縮された)部分において、結晶核が発生しやすくなると考えられる。
さらに、タンパク質溶液を高粘性化もしくはゲル化してレーザー光照射することで、より効率的に結晶核発生を誘起可能であることが明らかになっている(非特許文献2)。
国際公開パンフレットWO2004/106598号公報 国際公開パンフレットWO2009/091053号公報
H. Adachi et. al, Jpn. J. Appl. Phys.43 (2003) L1376. R. Murai et. al, Applied Phys. Lett., 96 (2010) 043702
しかし、溶液は、流体であるために、レーザー光照射等によりキャビテーションを起こしても、結晶化の目的物質(タンパク質等)が高濃度である時間は短く、結晶核発生(以下、単に「核発生」という場合がある)のための高濃度化という観点からは限界がある。一方、流動性が低いゲル状物質等では、同じエネルギーのレーザー光を照射しても、溶液と比較して発生する気泡のサイズが小さいために、気泡表面に集まる目的物質の分子が少ない。いずれにしても、従来の技術では、キャビテーションによる目的物質の高濃度化には限界がある。これは、タンパク質、核酸等に限定されず、結晶化の目的物質となり得る全ての物質に共通する課題である。さらには、結晶化に限らず、目的物質の高濃度化が必要な技術に共通する課題でもある。
したがって、本発明は、簡便かつ効果的に目的物質の高濃度化ができる目的物質移行方法、結晶製造方法、組成物製造方法、目的物質移行装置の提供を目的とする。
前記目的を達成するために、本発明の目的物質移行方法は、
目的物質を含む液相または固相から形成された第1の相中の前記目的物質を、液相または固相である第2の相中に移行させる方法であって、
前記第1の相と前記第2の相とを近接させる相近接工程と、
前記第1の相と前記第2の相との境界の近傍に気泡を発生させて崩壊させる気泡崩壊工程とを含むことを特徴とする。
本発明の結晶製造方法は、
結晶化の目的となる目的物質を移行する目的物質移行工程と、結晶析出工程とを含み、
前記目的物質移行工程が、前記本発明の目的物質移行方法により、前記目的物質を前記第1の相中から前記第2の相中に移行させる工程であり、
前記結晶析出工程が、前記目的物質移行工程後、前記第2の相の内部または界面で前記目的物質の結晶を析出させる工程であることを特徴とする。
本発明の組成物製造方法は、
目的物質移行工程を含み、
前記目的物質移行工程が、前記本発明の目的物質移行方法により、前記目的物質を前記第1の相中から前記第2の相中に移行させる工程であり、
前記組成物が、前記第2の相中に前記目的物質を含む組成物であることを特徴とする。
本発明の目的物質移行装置は、
目的物質を含む液相または固相から形成された第1の相中の前記目的物質を、液相または固相である第2の相中に移行させる装置であって、
前記第1の相と前記第2の相とを近接させる相近接手段と、
前記第1の相と前記第2の相との境界の近傍に気泡を発生させて崩壊させる気泡崩壊手段とを含むことを特徴とする。
本発明によれば、簡便かつ効果的に目的物質の高濃度化ができる目的物質移行方法、結晶製造方法、組成物製造方法、目的物質移行装置を提供可能である。
図1は、本発明の目的物質移行装置の一例を示す模式図である。 図2は、リゾチーム溶液一相系中にレーザー光照射した場合の核発生率と照射レーザー光エネルギーとの関係を例示するグラフである。 図3は、リゾチーム溶液一相系中にレーザー光照射した場合の核発生率と照射レーザー光の波長およびエネルギーとの関係を例示するグラフである。 図4は、リゾチーム溶液一相系中にレーザー光照射した場合の気泡の経時変化を例示する写真である。 図5は、リゾチーム溶液一相系中にレーザー光照射した場合の気泡の最大直径とレーザーエネルギーとの関係を例示するグラフである。 図6は、リゾチーム溶液一相系中にレーザー光照射した場合の気泡周囲におけるリゾチーム濃度の経時変化の一例を示す。図6(a)は写真であり、図6(b)はグラフである。 図7は、チトクロムC溶液一相系中にレーザー光照射した場合の気泡周囲におけるチトクロムC濃度の経時変化の一例を示す写真である。 図8は、リゾチーム溶液一相系とリゾチーム含有ゲル一相系とにおける核発生率の一例を示すグラフである。 図9は、キャビテーション発生位置付近に界面がない場合とある場合との気泡の経時変化の一例を示す写真である。同図上段が、界面がない場合であり、同図下段が、界面がある場合である。 図10は、本発明の目的物質移行方法におけるメカニズムの一例を模式的に示す断面図である。 図11は、ウェル中における液相とゲル相の二相系を模式的に例示する断面図である。 図12Aは、実施例における核発生率を示すグラフである。 図12Bは、実施例において析出したリゾチーム結晶の位置を観測した写真である。 図13は、別の実施例における核発生率を示すグラフである。 図14Aは、さらに別の実施例において製造したタンパク質結晶を、比較例とともに示す写真である。 図14Bは、さらに別の実施例において製造したタンパク質結晶を、比較例とともに示す写真である。 図15は、レーザー光集光により気泡を発生させた場合の、集光点から界面までの距離と気泡最大半径と気泡移動距離との関係を例示するグラフである。 図16Aは、さらに別の実施例における結晶の平均析出個数を例示するグラフである。 図16Bは、図16Aの実施例において製造した結晶を例示する写真である。 図17は、さらに別の実施例における核発生率を示すグラフである。 図18Aは、さらに別の実施例における核発生率を示すグラフである。 図18Bは、図18Aの実施例において製造した結晶を例示する写真である。 図19は、さらに別の実施例における核発生率を示すグラフである。 図20Aは、参考例において製造した結晶を例示する写真である。 図20Bは、実施例において製造した結晶を例示する写真である。 図21は、さらに別の実施例において、フロリナート(商品名)中へのタンパク質の移行を示す写真である。 図22は、アガロースゲルのゲル強度測定結果の一例を示すグラフである。 図23は、図22のグラフのデータの一部を抜粋したグラフである。 図24は、さらに別の実施例の、ウェル上におけるゲルの配置を模式的に示す図である。 図25は、図24のウェル上にさらに有機低分子水溶液を分注した状態を模式的に示す図である。 図26は、図24および25の実施例において、レーザー光照射による結晶の析出を示す写真および模式図である。 図27は、さらに別の実施例において、タンパク質水溶液中からゲル中にタンパク質が移動する様子を示す写真である。
以下、本発明について例を挙げて説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定されない。
<目的物質移行方法>
本発明の目的物質移行方法は、前記のとおり、目的物質を含む液相または固相から形成された第1の相中の前記目的物質を、液相または固相である第2の相中に移行させる方法であって、前記第1の相と前記第2の相とを近接させる相近接工程と、前記第1の相と前記第2の相との境界の近傍に気泡を発生させて崩壊させる気泡崩壊工程とを含むことを特徴とする。前記気泡を発生させる位置は、前記第1の相と前記第2の相との境界の近傍であれば特に限定されない。前記気泡を発生させる位置は、例えば、前記第1の相中でも、前記第2の相中でも良いが、前記第1の相中が好ましい。
前記目的物質は、特に限定されないが、有機物質が好ましく、タンパク質、天然タンパク質、人工タンパク質、ペプチド、天然ペプチド、人工ペプチド、核酸、天然核酸、人工核酸、脂質、天然脂質、人工脂質、糖鎖、天然糖鎖、人工糖鎖、有機高分子化合物、有機低分子化合物、生体物質、生体高分子化合物および生体低分子化合物からなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。なお、前記目的物質は、1種類でも良いし複数種類併用しても良い。
本発明において、前記生体物質は、特に制限されないが、例えば、生体高分子化合物、生体低分子化合物、タンパク質、天然タンパク質、人工タンパク質、ペプチド、天然ペプチド、人工ペプチド、核酸、天然核酸、人工核酸、脂質、天然脂質、人工脂質、糖鎖、天然糖鎖、および人工糖鎖があげられ、1種類でも良いし複数種類併用しても良い。また、本発明において、「生体物質」、「生体高分子化合物」および「生体低分子化合物」とは、生体由来の物質でも良いが、それと同一の構造を有する合成物質でも良く、または、生体由来物質と類似の構造を有する誘導体や人工物質であっても良いものとする。例えば、前記生体物質が生体高分子化合物の場合は、生体由来の高分子化合物でも、それと同一の構造を有する合成高分子化合物でも、または、生体由来高分子化合物と類似の構造を有する誘導体や人工高分子化合物であっても良い。前記生体物質が生体低分子化合物の場合は、生体由来の低分子化合物でも、それと同一の構造を有する合成低分子化合物でも、または、生体由来低分子化合物と類似の構造を有する誘導体や人工低分子化合物であっても良い。前記生体物質がタンパク質の場合は、生体由来(天然由来)のタンパク質でも、合成タンパク質でも良いし、天然に存在する構造の天然タンパク質でも、天然に存在しない構造の人工タンパク質でも良い。前記生体物質がペプチドの場合は、生体由来(天然由来)のペプチドでも、合成ペプチドでも良いし、天然に存在する構造の天然ペプチドでも、天然に存在しない構造の人工ペプチドでも良い。前記生体物質が核酸の場合は、生体由来(天然由来)の核酸でも、合成核酸でも良いし、天然に存在する構造の天然核酸でも、天然に存在しない構造の人工核酸でも良い。前記生体物質が脂質の場合は、生体由来(天然由来)の脂質でも、合成脂質でも良いし、天然に存在する構造の天然脂質でも、天然に存在しない構造の人工脂質でも良い。前記生体物質が糖鎖の場合は、生体由来(天然由来)の糖鎖でも、合成糖鎖でも良いし、天然に存在する構造の天然糖鎖でも、天然に存在しない構造の人工糖鎖でも良い。なお、前記天然核酸としては、特に制限されないが、例えば、DNA、RNA等があげられる。前記人工核酸としては、特に制限されないが、例えば、LNA、PNA等があげられる。
なお、本発明において、前記有機物質の分子量は、特に限定されない。例えば、分子量1000以上の有機物質を「有機高分子化合物」とし、分子量1000未満の有機化合物を「有機低分子化合物」としても良いが、これには限定されない。同様に、分子量5000以上の生体物質を「生体高分子化合物」とし、分子量5000未満の生体物質を「生体低分子化合物」としても良いが、これには限定されない。また、前記生体物質がペプチドの場合、分子量は、例えば300以上である。
前記第1の相は、前述のとおり、前記目的物質を含む液相または固相から形成される。前記液相は、特に限定されず、例えば、前記目的物質の溶液でも、懸濁液でも、分散液(例えばエマルジョン、サスペンジョン等)でも良い。前記固相も特に限定されず、例えば、ゲル等でも、前記目的物質の溶液、懸濁液、分散液(例えばエマルジョン、サスペンジョン等)等が固化したものでも、固体に前記目的物質をしみこませたものでも良い。前記第1の相は、例えば、後述の実施例のように、液相であると、前記目的物質を前記第2の相に移行させやすく好ましい。なお、固相(固体)と液相(液体)との区別は必ずしも明確ではなく、例えば、無定形固体(アモルファス)は、粘度が高い液体と考えることができる場合がある。また、例えば、ゲルとは、ゾルが固体化したものをいうが、ゾルが高粘性の液体状となったものもいう場合がある。なお、以下、前記第1の相において、前記目的物質を溶解、懸濁または分散等させている液体または固体を、単に「媒質」という場合がある。前記第1の相において、前記液相または固相は、前記目的物質および前記媒質以外の他の物質を、適宜含んでいても良いし、含んでいなくても良い。例えば、後述するように、前記第1の相が、タンパク質と沈殿化剤とを含む溶液であっても良い。
前記第1の相において、前記目的物質に対する媒質は特に限定されず、前記目的物質の種類、前記第2の相の組成等に応じて適宜選択すれば良い。前記媒質は、1種類のみ用いても、複数種類併用しても良い。前記目的物質の濃度も特に限定されず、本発明の目的物質移行方法の目的等に応じて適宜設定すれば良い。例えば、前記第1の相が溶液の場合、飽和溶液でも、未飽和溶液でも、過飽和溶液でも良い。前記溶液中の前記目的物質の濃度は、その飽和濃度に対し、例えば0.5〜20.0倍、好ましくは0.8〜10.0倍、より好ましくは1.0〜5.0倍である。
前記第2の相は特に限定されず、物理的な境界により前記第1の相と区別できれば良い。前記物理的な境界は、前記第1の相と前記第2の相との界面であることが好ましい。すなわち、前記第1の相と前記第2の相とが接触して界面を形成していることが、前記目的物質の移行のしやすさ等の観点から好ましい。前記第1の相および前記第2の相は、例えば、それら自体が混合しない性質により、前記界面を形成しても良い。例えば、前記第1の相および前記第2の相の少なくとも一方が固相であっても良い。また、例えば、前記第1の相が水相で前記第2の相が油相であっても良いし、逆に、前記第1の相が油相で前記第2の相が水相であっても良い。また、例えば、前記第1の相と前記第2の相は、前記界面に膜(例えば、逆浸透膜)または他の相(固相、液相または気相)等が存在することにより、分離されていても良い。
前記第2の相は、固相(固体)でも、液相(液体)でも良い。前記第1の相においても説明したとおり、固相(固体)と液相(液体)との区別は必ずしも明確ではなく、例えば、無定形固体(アモルファス)は、粘度が高い液体と考えることができる場合がある。また、例えば、ゲルとは、ゾルが固体化したものをいうが、ゾルが高粘性の液体状となったものもいう場合がある。前記第2の相は、例えば、固相、ゲル、液相、油相、水相、またはタンパク質膜であっても良い。液相の場合は、例えば、目的物質の溶解度が高い液体でも良いが、フロリナート(フッ素化合物、3M社の商品名)等の不活性液体でも良い。本発明の目的物質移行方法によれば、例えば、前記第2の相が、通常は目的物質を溶解させることが困難な相であっても、前記目的物質を移行させることもできる。これを利用して、例えば、後述する本発明の結晶製造方法、組成物製造方法等に用いることもできる。前記目的物質を移行させることが困難な前記第2の相としては、特に限定されないが、例えば、不活性液体、水溶性の目的物質に対する油相、非水溶性の目的物質に対する水相、または、通常の方法では前記目的物質が浸透しにくい固相等が挙げられる。
なお、前記第1の相または前記第2の相が固相である場合、その硬さは特に限定されない。固相の硬さは、例えば、圧縮強さで表すことができる。前記第1の相および第2の相が固相である場合の圧縮強さの下限値は、特に限定されないが、例えば、0を超える値または測定機器による測定限界下限値以上である。また、前記第1の相が固相である場合、例えば、前記気泡崩壊工程における気泡の発生させやすさおよび崩壊させやすさの観点から、または、前記目的物質の前記第2の相中への移行しやすさの観点から、硬すぎないことが好ましい。前記第1の相の圧縮強さの上限値は、好ましくは1000Pa以下、より好ましくは800Pa以下、さらに好ましくは600Pa以下、特に好ましくは400Pa以下である。また、前記第2の相が固相である場合、前記目的物質の前記第2の相中への移行しやすさの観点から、硬すぎないことが好ましい。前記第2の相の圧縮強さの上限値は、好ましくは3000Pa以下、より好ましくは2000Pa以下、さらに好ましくは1500Pa以下、特に好ましくは1000Pa以下である。なお、前記圧縮強さは、レオストレス RS1 Rheometer(英弘精機株式会社のレオメーターの商品名)を動的粘弾性測定モードで用い、周波数1Hz、測定温度20℃で測定した数値とする。図22および図23に示す測定値も、この方法で測定した。ただし、この測定方法は、前記圧縮強さの測定方法の一例であって、本発明は、この測定方法における工程および条件によって何ら限定されない。また、他のレオメーターを用いても、同じ測定モード、測定温度および周波数で測定すれば、誤差を除いて同じ圧縮強さの測定値を得ることができる。なお、前記固相がゲルの場合、前記圧縮強さを「ゲル強度」という。また、融解温度(ゲルの場合は、ゲル溶解温度)が20℃よりも低いために20℃で固体(ゲルの場合は、ゲル状態)にならない場合は、前記圧縮強さは、前記融解温度温度よりも低く5で割り切れる摂氏温度(例:15℃、10℃、5℃、0℃、−5℃)のうち最も高い測定可能温度での測定値とする。また、例えば、前記固相が、熱可逆性でありゲル溶解温度が20℃よりも高いために20℃でゲル状態にならない(ゾル状である)ゲルの場合は、前記圧縮強さ(ゲル強度)は、前記ゲル溶解温度よりも高く5で割り切れる摂氏温度(例:25℃、30℃、35℃)のうち最も低い測定可能温度での測定値とする。
前記相近接工程において、前記第1の相と前記第2の相との最短距離を、前記気泡の最大半径の4倍以下とすることが好ましく、2倍以下とすることがさらに好ましい。この距離以下であれば、前記気泡崩壊工程において、前記目的物質を前記第1の相から前記第2の相に移行させやすいためである。なお、気泡の最大半径は、例えば後述の実施例のように、高速カメラ(高速度カメラまたはCCDカメラなどともいう場合がある)を用いて測定することができる。前記第1の相と前記第2の相との最短距離は、前記気泡の最大半径によって異なるが、例えば5000μm以下、好ましくは3000μm以下、より好ましくは1000μm以下である。前記相近接工程は、前記第1の相と前記第2の相とを接触させて界面を形成させる界面形成工程であることが好ましい。すなわち、前記のとおり、前記第1の相と前記第2の相とが接触して界面を形成していることが、前記目的物質の移行のしやすさ等の観点から、より好ましい。この場合において、前記気泡崩壊工程が、前記界面近傍に気泡を発生させて前記界面に衝突させる気泡衝突工程であることが、前記目的物質の移行のしやすさの観点から、さらに好ましい。前記気泡衝突工程において、前記気泡を発生させる位置は、前記第1の相中でも前記第2の相中でも良いが、前記第1の相中が好ましい。
前記気泡崩壊工程において、気泡を発生させる方法は特に限定されないが、前記第1の相中または前記第2の相中における、他方の相との境界の近傍(前記第1の相と前記第2の相とが接触して界面を形成している場合は、前記界面近傍)にレーザー光および超音波の少なくとも一方を照射することが好ましい。例えば、前記第1の相中または前記第2の相中における、他方の相との境界の近傍に適宜な条件でレーザー光を集光すると、その集光点またはその近傍で気泡を発生させることもできる。レーザー光は、照射強度、集光点等の制御がしやすいため、目的物質の移行に適切な条件を設定しやすい。一方、超音波照射は、低コストで行うことができる。前記レーザー光および超音波の照射エネルギーの総和も特に限定されないが、例えば60nJ以上、好ましくは100nJ以上、より好ましくは200nJ以上である。前記照射エネルギーの総和の上限値は、特に限定されないが、例えば、10J以下である。
前記気泡崩壊工程において、前記気泡を崩壊させる方法は、特に限定されない。例えば、前記気泡を崩壊させる特別の手段を用いず、前記気泡が示すキャビテーション挙動により崩壊させても良い。また、前記気泡衝突工程において、気泡を前記界面に衝突させる方法は、特に限定されない。例えば、前記第1の相または前記第2の相に、任意の手段により圧力等を加えることにより、前記気泡を前記界面の方向に移動させ、衝突させても良い。または、前記気泡が示すキャビテーション挙動により、前記気泡を前記界面に衝突させても良い。この場合、例えば後述の実施例のように、前記気泡を前記界面に衝突させるための特別の手段を用いず、キャビテーション挙動により自動的に、前記気泡を前記界面に衝突させても良い。図9に、前記キャビテーション挙動の一例を示す。同図は、超純水に、ガラスセル中でレーザー光を集光した時のキャビテーション挙動の例示であり、高速カメラ(高速度カメラまたはCCDカメラなどともいう場合がある)で撮影した写真である。同図上段は、前記容器の壁面から離れた位置にレーザー光を集光(照射)させたときの、キャビテーション挙動すなわち気泡の経時変化を表す図である。同図下段は、前記容器の壁面近傍にレーザー光を集光(照射)させたときの、キャビテーション挙動すなわち気泡の経時変化を表す図である。気泡は、いずれも、レーザー光集光位置またはその近傍で発生している。図中の「μs」は、レーザー光照射開始時からの経過時間(マイクロ秒)を表す。図示のとおり、壁面から離れた位置で発生した気泡は、壁面に接することなく消滅している。これに対し、容器壁面近傍でのレーザー照射により発生した気泡は、壁に吸い寄せられるように加速して壁に衝突し、消滅している。本発明者らは、このような現象を見出し、本発明に到達した。例えば、図9の下段のキャビテーション挙動を利用して、気泡表面に吸着した目的物質の分子を、第2の相との界面方向に加速し、前記第2の相中に注入する事で、前記第2の相中において通常では到達できない目的物質濃度を達成することもできる。これにより、例えば、後述するように、前記第2の相中で結晶核発生を促進することもできるし、ゲル中にタンパク質が高濃度で凝縮されたタンパク質チップ等を製造することもできる。ただし、このメカニズムは例示であって、本発明を限定するものではない。
図9のメカニズム(キャビテーション挙動)を用いた目的物質移行方法は、例えば、図10の断面図のように、模式的に例示することができる。図10において、101は、目的物質を含む第1の相(例えば溶液)であり、102は、第2の相(例えばゲル)である。103は、目的物質の粒子(例えば分子)である。第1の相101に、レーザー光104を集光すると、集光点またはその近傍で気泡が発生する。その気泡が、矢印105の方向に移動して第2の相102との界面に衝突し、第2の相102内において、衝突位置106の近傍に、目的物質の濃度が高い領域が形成される。なお、104は、レーザー光に限定されず、例えば、超音波等の他の刺激でも良い。同図から分かるとおり、このメカニズムによれば、気泡発生点の直下において、局所的に目的物質(例えば、タンパク質)の高濃度領域が形成されるため、第2の相102の特定部位に集中的に目的物質を注入できると考えられる。このように、特定部位への目的物質の注入というのは、結晶核発生の分野において、全く新しい概念の技術である。これにより、例えば、半導体へのイオン注入法のように、平衡状態では実現できないレベルの高濃度状態の実現も可能であり、前述のように、結晶核発生の促進のみならず、他の技術分野にも有用である。
なお、前記気泡が前記界面に衝突しなくても、気泡が崩壊することで、前記第1の相中の前記目的物質を前記第2の相中に移行させることは可能である。ただし、前述のとおり、前記気泡を前記界面に衝突させると、前記目的物質が前記第2の相中にさらに移行しやすいため好ましい。
前記気泡崩壊工程において、前記第1の相と前記第2の相との境界の近傍にレーザー光を集光することにより、前記気泡を発生させる場合、前記レーザー光の集光点から前記第2の相における前記第1の相側表面までの距離(前記第1の相と前記第2の相とが接触して界面を形成している場合は、前記界面までの距離)が、前記気泡の最大半径の4倍以下であることが、前記目的物質の前記第2の相中への移行しやすさの観点から好ましい。前記レーザーの集光点から前記第2の相における前記第1の相側表面までの距離は、より好ましくは、前記気泡の最大半径の2倍である。特に好ましくは、前記第1の相と前記第2の相とが接触して界面を形成しており、かつ、前記レーザー光の集光点から前記界面までの距離が、前記気泡の最大半径の2倍以下である。この条件を満たすと、キャビテーション挙動により、前記気泡が前記界面に衝突しやすいので、前記目的物質が前記第2の相中にさらに移行しやすいためである。
なお、本発明の目的物質移行方法において、前記第1の相中の前記目的物質が前記第2の相中に移行するメカニズムは、必ずしも明らかでない。前記メカニズムは、前記第2の相がゲルである場合は、例えば、以下のように推測される。すなわち、まず、前記気泡崩壊工程において、前記第1の相中または前記ゲル(第2の相)中で前記気泡が崩壊する時に(特に、前記気泡衝突工程において前記気泡が前記界面に衝突する時に)、前記第1の相中の物質が前記ゲル(第2の相)中に向かう流れが生じる。この時に、前記ゲル(第2の相)に力が加わり、前記ゲルが変形する。このため、前記力が加わった箇所において、前記ゲルのメッシュサイズ(分子の網の目のサイズ)が大きくなり、その大きくなった網の目を、前記第1の相中の前記目的物質が通り抜けて、前記ゲル中に移動する。その後、例えば、前記ゲルのメッシュサイズが元に戻ることにより、前記ゲル中の目的物質が前記第1の相中に戻ることが防止される。このため、前記ゲルの変形しやすさの観点から、前述のとおり、ゲル強度が高過ぎないことが好ましいと推測される。ただし、これらは、推測されるメカニズムの一例に過ぎず、本発明を何ら限定しない。
<結晶の製造方法>
本発明による結晶の製造方法は、前記のとおり、結晶化の目的となる目的物質を移行する目的物質移行工程と、結晶析出工程とを含み、前記目的物質移行工程が、前記本発明の目的物質移行方法により、前記目的物質を前記第1の相中から前記第2の相中に移行させる工程であり、前記結晶析出工程が、前記目的物質移行工程後、前記第2の相中または界面で前記目的物質の結晶を析出させる工程であることを特徴とする。
以下、主に、ゲル中におけるタンパク質、核酸等の生体物質の結晶化(結晶の製造方法)について説明するが、本発明による結晶の製造方法は、これに限定されない。例えば、前記目的物質は、有機低分子化合物、またはその他の任意の物質であっても良い。前記第1の相および前記第2の相も、特に限定されず、任意である。また、以下においては、主に、前記気泡崩壊工程において前記第1の相(例えば、タンパク質溶液)中に気泡を発生させる場合について説明する。しかし、本発明は、これに限定されず、例えば、前記気泡崩壊工程において、前記第2の相中に気泡を発生させても良い。これらについて、具体的には、例えば、前記本発明の目的物質移行方法において説明したとおりである。
前記第1の相は、固相(例えばゲル等)でも良いが、液相が好ましい。以下、主に、液相について説明する。固相の場合は、例えば、以下に述べる液相に、後述する第2の相と同様のゲル化剤等を加えたものでも良い。前記第1の相における媒質(溶媒等)は特に制限されない。前記媒質は、具体的には、例えば、水、エタノール、メタノール、アセトニトリル、アセトン、アニソール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、シクロヘキサン、ジエチルアミン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トルエン、ブタノール、ブチルメチルエーテル、ヘキサン、ベンゼン、メチルエチルケトン、ジクロロエタン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸イソプロピル、ジオキサン、ジクロルエタン、テトラヒドロフラン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、1種類でも複数種類併用しても良い。前記目的物質が水溶性の場合、例えば、水または水を含む混合溶媒を用いることが簡便で好ましい。前記目的物質の濃度は、特に制限されないが、タンパク質、核酸等の生体物質の場合、例えば0.5〜200mg/mL、好ましくは1.0〜100mg/mL、より好ましくは2.0〜50mg/mLである。また、必要に応じ、pH調整剤、後述の沈殿化剤等を適宜加えてもよい。
前記第2の相は、前述のように任意である。特に、タンパク質、核酸等の生体物質の結晶を製造する場合、前記第2の相は、例えば、ゲルが好ましい。ゲル中での結晶製造は、強度および品質に優れた結晶が得やすい、結晶がゲルにより被覆されるため破壊されにくい等の利点がある。このことは、例えば、タンパク質、核酸等の、脆くて壊れやすい結晶を、X線結晶構造解析等に供する場合に、特に有利である。また、前記第2の相がゲルである場合は、例えば、前記第2の相が溶液である場合よりも結晶が析出しやすい。この理由は必ずしも明らかではないが、例えば、前記第2の相がゲルであると、前記第2の相中における前記目的物質の拡散が抑制され、前記目的物質が前記第2の相に移行した部分において前記目的物質濃度が局所的に高くなりやすいためと考えられる。ただし、この説明は、推測可能なメカニズムの一例であり、本発明を限定しない。
前記第2の相がゲルである場合、前記ゲルは、例えば、ゲル化剤を溶媒に溶解させ、固化(ゲル化)させて製造できる。前記溶媒は、特に限定されないが、例えば、水、エタノール、メタノール、アセトニトリル、アセトン、アニソール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、シクロヘキサン、ジエチルアミン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トルエン、ブタノール、ブチルメチルエーテル、ヘキサン、ベンゼン、メチルエチルケトン等が挙げられ、1種類でも複数種類併用しても良い。
前記ゲル化剤は特に限定されないが、例えば、多糖類、増粘多糖類、タンパク質、および昇温時ゲル化型ゲルからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましく、アガロース、寒天、カラギーナン、ゼラチン、コラーゲン、ポリアクリルアミド、昇温時ゲル化型ポリアクリルアミドゲルからなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。ゲル化温度は特に制限されないが、結晶製造の行いやすさの観点から、例えば0〜90℃、好ましくは0〜60℃、より好ましくは0〜35℃である。
前記ゲル化剤は、例えば、低温でゲル化し高温でゾル化するゲルでも良いし、逆に低温でゾル化し高温でゲル化するゲルでも良い。低温でゾル化し高温でゲル化するゲルは、「昇温時ゲル化型ゲル」という。また、例えば、冷却により得られたゲルを再び昇温した時、あるいは昇温により得られたゲルを再び冷却した時、再びゾルに戻るゲルであることが好ましい。このようなゲル化剤は「熱可逆性ゲル」という。また、前記ゲル化剤は、例えば、ハイドロゲルでもオルガノゲルでも良いが、ハイドロゲルが好ましい。ハイドロゲルとしては、例えば、昇温時ゲル化型ハイドロゲルを用いることがより好ましい。昇温時ゲル化型ハイドロゲルは、低温でゲル化し高温でゾル化する一般的なゲルとは逆に、前述のように低温でゾル化し高温でゲル化する性質を持っている。このため、昇温時ゲル化型ハイドロゲルで被覆された被覆結晶は、例えば、乾燥に特に強い、冷却によりゲルを簡便に除去できる、などの利点を有する。昇温時ゲル化型ハイドロゲルとしては、特に制限されないが、例えば、メビオールジェルが挙げられる。メビオールジェルは、メビオール株式会社の昇温時ゲル化型ハイドロゲルの商品名であり、例えば下記の化学構造を有する。メビオールジェルは、昇温時ゲル化型ハイドロゲルとしての性質および熱可逆性ハイドロゲルとしての性質を有するポリアクリルアミドゲルである。
また、前記第2の相は、前記目的物質を含んでいても良いし、含んでいなくても良い。前記第2の相が前記目的物質を含む場合、例えば、目的物質を含む第2の相を製造してから、前記第1の相と接触させて界面を形成させても良い。または、目的物質を含まない第2の相を製造し、前記第1の相と接触させて界面を形成させた後に、しばらく静置等することによって、前記第1の相中の目的物質を、前記第2の相中に移行させても良い。より具体的には、例えば、目的物質を含む溶液(第1の相)を、ゲル(第2の相)に接触させ、前記ゲル中に前記目的物質を移行させても良い。例えば、前記第1の相および前記第2の相中の前記目的物質の濃度が平衡に達するまで静置することが好ましい。このようにして、前記第1の相と前記第2の相がともに前記目的物質を含み、かつ、それらの界面が形成された状態を形成し、その後に、前記気泡衝突工程を行うと、例えば、前記第2の相中で、通常では実現不可能な高い目的物質濃度を実現しやすい。
前記第2の相が、前記目的物質を含むゲルである場合、例えば、前記目的物質溶液にゲル化剤を加え、ゲル化させて調製できる。ゲル化剤は、前記目的物質溶液中に直接加えても良いが、別途ゲル化剤溶液を調製した後、前記目的物質溶液に混合すると、均一に混合しやすいため好ましい。前記ゲル化剤溶液の溶媒は特に制限されないが、例えば、前記目的物質溶液と同じである。また、前記ゲル化剤溶液中におけるゲル化剤濃度は特に制限されないが、後述のゲル強度等の観点から、前記ゲル化剤溶液の全質量に対し、例えば0.1〜50質量%、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.1〜20質量%、さらに好ましくは0.2〜15質量%、特に好ましくは0.2〜10質量%である。前記目的物質溶液にゲル化剤を加えた後、ゲル化させる方法は特に制限されない。例えば、ゲル化温度よりも高い温度(例えば20〜45℃)で前記ゲル化剤溶液を調製し、前記目的物質溶液と混合した後、ゲル化温度以下の温度で静置すれば良い。より具体的には、例えば、前記ゲル化剤溶液と前記目的物質溶液を混合した後、キャピラリーに封入し、キャピラリー中でゲル化させてもよい。これにより、ゲルがキャピラリーに封入された状態となる。また、熱可逆性ハイドロゲルの場合は、例えば前記とは逆に、低温で前記ゲル化剤溶液を調製し、前記目的物質溶液と混合した後、温度を上昇させてゲル化させてもよい。
前記ゲル化後のゲル強度は、後述する結晶析出工程で析出した前記目的物質結晶を物理的衝撃から保護しやすい等の観点から、例えば5Pa以上、好ましくは10Pa以上、より好ましくは30Pa以上、さらに好ましくは50Pa以上、特に好ましくは100Pa以上である。また、前記ゲル化後のゲル強度は、前述のように、前記目的物質のゲル中への移行しやすさの観点から、高すぎないことが好ましい。その上限値は、例えば、前記本発明の目的物質の移行方法において、前記第2の相の圧縮強さの上限値として記載しているとおりである。
前記ゲル化後のゲル強度は、前記ゲル化剤濃度を調節することによって、適宜設定することができる。同じゲル化剤濃度における前記ゲル強度は、前記ゲル化剤の種類によって異なる。例えば、図22のグラフに示すとおり、アガロースIII、アガロースSP(アガロースSea Plaque)、アガロース9A(いずれもタカラバイオ株式会社の商品名)は、同じ濃度であれば、ゲル化後は、通常、アガロースIII>アガロースSP>アガロース9Aの順にゲル強度が高くなる。なお、図23のグラフに、図22におけるアガロース9Aのみの測定結果を示す。図22および23において、横軸は前記各アガロースの濃度(質量%)であり、縦軸はゲル強度(g/cm)である。なお、1g/cmは、98.0665Paに相当する。また、ゲル化剤濃度が一定の臨界的濃度未満である場合、前記ゲル化剤を含む溶液が明確にゲル化しないため、ゲル強度は測定不能(グラフ上の記載としては0)である。しかしながら、ゲル化剤濃度が前記臨界的濃度以上になると、前記溶液が明確にゲル化することが可能であるため、ゲル強度が測定可能となる。本発明においては、前記ゲル化剤濃度を前記臨界的濃度以上にすることが好ましい。前記臨界的濃度は、アガロースIII、アガロースSP、アガロース9Aの場合、図22および図23に示すとおり、いずれも、約0.6質量%である。
なお、前記ゲル(第2の相)が目的物質を含まない場合は、目的物質を添加しない以外は上記と同様にして(例えば、ゲル化剤のみを溶媒に溶解させて)前記ゲルを調製することができる。また、例えば、後述する実施例のように、目的物質を含まないゲル(第2の相)を、目的物質を含む溶液(第1の相)に接触させて静置し、目的物質を含浸させた後に、前記気泡衝突工程を行っても良い。このための前記第1の相と前記第2の相との接触時間は、特に限定されないが、例えば0〜240hr、好ましくは0〜72hr、より好ましくは0〜24hrである。例えば、前記目的物質濃度が、前記第1の相中および前記第2の相中で平衡に達するまで接触させた後に、前記気泡衝突工程を行っても良い。
前記ゲル中から前記目的物質の結晶が析出しやすくするために、例えば、沈殿化剤を用いても良い。この方法は、前記目的物質が結晶化しにくい物質(例えば、タンパク質、核酸等)である場合に特に有効である。前記沈殿化剤の使用方法は特に限定されない。例えば、後述する実施例のように、前記第2の相に前記沈殿化剤を含ませておいても良い。前記沈殿化剤は特に制限されないが、例えば、公知の結晶製造方法に用いる沈殿化剤と同じ物を用いてもよい。前記沈殿化剤は、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酒石酸カリウムナトリウム、クエン酸ナトリウム、PEG(ポリエチレングリコール)、塩化マグネシウム、カコジル酸ナトリウム、HEPES(2-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕エタンスルホン酸)、MPD(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)、およびTris-HCl(塩酸トリスヒドロキシメチルアミノメタン)からなる群から選択される少なくとも一つである。前記沈殿化剤を前記第1の相中に含ませる場合、その濃度は特に限定されないが、例えば0.0001〜10M、好ましくは0.0005〜8M、より好ましくは0.0005〜6Mである。また、前記沈殿化剤は、必要に応じ、pH調整剤等を適宜含んでいてもよい。なお、沈殿化剤は、「沈殿剤」とも言うことがある。また、前記第2の相中に代えて、またはこれに加え、前記第1の相中に前記沈殿化剤を含ませても良い。前記沈殿化剤を前記第1の相中に含ませる場合、その濃度は特に限定されないが、例えば、前記第2の相中に含ませる場合と同様である。また、例えば、前記沈殿化剤を含む前記第1の相を、前記第2の相(ゲル等)に接触させ、前記沈殿化剤を含浸させても良い。このための前記第1の相と前記第2の相との接触時間は、特に限定されないが、例えば0〜240hr、好ましくは0〜72hr、より好ましくは0〜24hrである。例えば、前記沈殿化剤濃度が、前記第1の相中および前記第2の相中で平衡に達するまで接触させた後に、前記気泡衝突工程を行っても良い。
目的物質(例えば、タンパク質、核酸等)の結晶化(結晶析出)は、例えば、用いる前記目的物質と沈殿化剤との物質量比により制御することができる。この物質量比をより詳細に制御することで、例えば、さらに高品質かつ大型の単結晶を得ることも可能である。本発明では、例えば、網目の分子構造を持ったゲル(例えばアガロースゲル)に沈殿化剤を含む溶液(例えば、前記第1の相)を接触させ、沈殿化剤を拡散させることによって、前記ゲル中で前記沈殿化剤の濃度勾配を形成することもできる。これにより、前記第2の相中で、前記目的物質と前記沈殿化剤との物質量比を容易に制御することが可能である。この場合、沈殿化剤の拡散速度が結晶成長速度に比べ十分遅いことがより好ましい。これにより、最適な混合比の条件で前記タンパク質等の目的物質の結晶化が実現できるため、結晶の製造がさらに簡便になる。また、これにより、本発明の製造方法は、様々な組み合わせの混合比を一気に検索することが可能な“コンビナトリアル結晶化技術”として、結晶化スクリーニング方法に応用することもできる。
以上のような第1の相および第2の相を近接させる(前記「相近接工程」)。この相近接工程は、前述のとおり、前記第1の相と前記第2の相とを接触させて界面を形成させる界面形成工程であることが好ましい。この界面形成工程は、例えば、前記のように、第1の相および第2の相を接触させてしばらく静置し、前記目的物質等を前記第2の相(ゲル等)に含浸させる工程を含んでいても良い。
つぎに、前記第1の相における前記界面近傍に気泡を発生させて崩壊させる(前記「気泡崩壊工程」)。この気泡崩壊工程は、前述のとおり、前記第1の相中における前記界面近傍に気泡を発生させて前記界面に衝突させる気泡衝突工程であることが好ましい。気泡を発生および崩壊(好ましくは、前記界面に衝突)させる方法は、例えば、前記本発明の目的物質移行方法において説明したとおりである。すなわち、例えばレーザー光照射により、前記第1の相中における前記第2の相の近傍(前記第1の相と前記第2の相とが接触して界面を形成している場合は、前記界面近傍)に気泡を発生させる。発生した気泡は、例えば、前述のように、キャビテーション挙動により、崩壊(好ましくは、前記界面に衝突)する。レーザー光を用いる場合、集光点および気泡サイズ等を制御しやすいという観点、または、不要な熱や化学反応が誘起され難い等の観点から、フェムト秒レーザーが特に好ましい。前記レーザー光の照射エネルギーの総和は特に限定されないが、例えば、前記本発明の目的物質移行方法において記載したとおりである。前記レーザー光のパルス幅は、特に限定されないが、例えば10−15〜10−6秒、好ましくは10−15〜10−9秒、より好ましくは10−15〜10−12秒である。前記レーザー光の周波数は、特に限定されないが、例えば1〜10Hz、好ましくは1〜10Hz、より好ましくは1〜10Hzである。前記レーザー光の照射時間は、特に限定されないが、例えば0.01〜10秒、好ましくは0.1〜10秒、より好ましくは1〜10秒である。
このような目的物質移行工程により、前記目的物質を前記第1の相中から前記第2の相中に移行させた後、前記第2の相中または界面で結晶を析出させる(前記「結晶析出工程」)。結晶を析出させる方法は特に限定されないが、例えば、前記第1の相および前記第2の相を接触させたまま、または、前記第1の相を除去した後、結晶が析出するまで前記第2の相を静置しておけば良い。析出させた結晶の安定性、および前記目的物質の継続的供給等の観点からは、前記第1の相を除去せずにそのまま静置することが好ましい。静置時の温度は、特に限定されないが、例えば、0〜200℃、好ましくは0〜150℃、より好ましくは0〜100℃である。例えば、前記目的物質移行工程によって前記目的物質(例えばタンパク質)を浸透させ、前記目的物質濃度が高くなった前記第2の相(例えばゲル)中に、前記目的物質を保持させたまま静置することもできる。
本発明の結晶製造方法によれば、例えば、目的物質を含む液相(溶液、分散液、懸濁液等)一相系、または固相(ゲル等)中へのレーザー光照射では結晶化しにくい目的物質であっても、結晶化させて結晶を得ることが可能である。このため、本発明の結晶製造方法は、結晶化しにくい目的物質(例えば、タンパク質、核酸等の生体物質)の結晶の製造に、特に有効である。この理由は不明であるが、例えば、前述のように、前記第2の相中における前記目的物質の濃度を、通常の方法よりも高濃度にしやすいためと考えられる。または、前記気泡の崩壊(好ましくは、前記第1の相との界面への前記気泡の衝突)による衝撃が、前記第2の相中または前記界面における結晶核の発生を誘発し、結晶化が起こりやすくなると考えられる。ただし、これらのメカニズムは推測であり、本発明を限定しない。
前記第2の相が固相(例えばゲル)である場合、前記第2の相中または界面で析出させた結晶は、例えば、その全体または一部が前記第2の相で被覆されていると、メカニズムは不明であるが、例えば、前述のように、強度および品質等に優れた結晶が得やすい等の利点がある。また、後述するように、結晶がゲルにより被覆されるため破壊されにくい等の利点がある。
前記目的物質移行工程および前記結晶析出工程の少なくとも一方において、前記第1の相および前記第2の相の少なくとも一方を撹拌することが好ましい。これによると、メカニズムは不明であるが、例えば、X線結晶構造解析等にさらに適した、より高分解能の(分解能が小さい)結晶を得ることもできる。この方法は、例えば、撹拌を行わなければX線結晶構造解析等に適した高分解能の結晶が得にくい目的物質(例えば、キシナラーゼ、AcrB、ヒトリゾチーム、アデノシンデアミナーゼ等のタンパク質、核酸等)に特に有効である。X線結晶構造解析に供するための分解能は、例えば3.5Å以下、好ましくは3.0Å以下、より好ましくは2.6Å以下、さらに好ましくは2.2Å以下、特に好ましくは1.8Å以下である。前記分解能の下限値は、特に限定されないが、例えば、0Åを超える値である。なお、1Åは、10−10m(10分の1nm)に等しい。前記撹拌の速度は、特に限定されないが、例えば10〜250rpm、好ましくは20〜200rpm、より好ましくは30〜150rpmである。前記撹拌の時間は、特に限定されないが、例えば、0.5分間〜1.0×10分間、より好ましくは1.0分間〜1.0×10分間、特に好ましくは1.0分間〜5.0×10分間である。例えば、タンパク質等をゲル中で結晶化させる従来の技術では、ゲルそのものを撹拌できないために、撹拌による前記効果を得ることが困難な場合がある。本発明における結晶析出工程は、前述のとおり、前記第1の相を除去して行っても、除去せずに行っても良いが、たとえば、前記第1の相を除去せず、かつ前記第1の相を撹拌しながら行うことで、撹拌による前記効果を得ることも可能である。
なお、前記第2の相は、例えば、前記のようにゲルでも良いが、ゲル化剤を含むゾル状態の溶液でも良い。メカニズムは明らかではないが、ゾル状態の溶液でも、ゲル化剤を含むことにより、結晶が析出しやすくなり、結晶の破損等が起こりにくくなるという効果が得られる場合がある。前記ゾル状態のゲル化剤溶液中で前記生体物質を結晶化させる方法は、例えば、前記ゲル化剤が熱可逆性ハイドロゲルである場合に特に有用である。また、例えば、前記生体物質および前記熱可逆性ハイドロゲルを含むゾル状態溶液を攪拌しながら前記目的物質(例えば、タンパク質、核酸等の生体物質)を結晶化させ、その後前記溶液をゲル化させ、そのゲル中で前記目的物質結晶をさらに成長させることが特に好ましい。
本発明の結晶製造方法により製造される結晶は、例えば、前記ゲルで被覆された被覆結晶であることが好ましい。この被覆結晶の製造条件は特に制限されないが、例えば、本発明の結晶製造方法において、前記ゲル中から前記生体物質の結晶を析出させることで、必然的に、前記ゲルで被覆された被覆結晶としてもよい。前記被覆結晶は、全体が前記ゲルで被覆されていることが特に好ましいが、一部のみが前記ゲルで被覆されていても良い。一般に、タンパク質等の生体物質の結晶は、脆く、かつ、乾燥等により変質しやすい。このため、生体物質結晶は、例えば、結晶構造解析の試料として供する操作(マウント)および種結晶として供する操作(Seeding)時など、慎重にかつ手早く操作を行わないと、物理的衝撃や乾燥により破損、変質等を起こしてしまうことが多い。これに対し、前記被覆結晶は、結晶がゲルで被覆されていることにより、乾燥や物理的衝撃に対する耐性が向上しており、結晶の変質、破損等が起こりにくい。このため、例えば、前記マウント操作やSeeding操作が極めて行いやすくなる。さらに、結晶の保存性も向上する。
なお、前記被覆結晶において、結晶を被覆している前記ゲルは、例えば、後述の結晶構造解析において測定ノイズの原因となるなどの支障がある場合は、あらかじめ除去することが好ましい。除去方法は特に制限されない。例えば、前記ゲルが熱可逆性ハイドロゲルであれば、冷却により前記ゲルがゾル化するため、簡便に除去できる。ゾル化させるための冷却温度は特に制限されないが、メビオールジェルの場合、例えば、15℃以下である。また、前記被覆結晶を適宜な方法で加工し、前記ゲルを含まない結晶だけを取り出すこともできる。前記加工の方法は特に制限されないが、例えば、レーザー光を用いた加工がある。前記レーザー光も特に制限されないが、フェムト秒レーザーを用いることが特に好ましい。フェムト秒レーザーは、集光点付近のみで加工を行うことが可能であるため、例えば、結晶製造(育成)用容器を密封したままで簡便に加工できる等の利点があるためである。また、レーザー光を用いた加工によれば、例えば、結晶を、構造解析等の用途に適した大きさや形状に切り出すこともできる。このような加工工程により、結晶を適切な大きさや形状に切り出すことで、前記適切な大きさや形状の結晶を製造することもできる。また、例えば、前記加工工程により、前記被覆結晶からゲルのみを適切に除去し、結晶部分のみを残した加工結晶を製造することもできる。すなわち、前記加工結晶は、ゲルで被覆された被覆結晶でも良いし、ゲルで被覆されていなくても良い。
なお、レーザー光によるこのような加工は、ゲルで被覆されていない結晶に対しても行うことができる。しかしながら、前記被覆結晶であれば、結晶がゲルにより固定および保護されているため、結晶が加工しやすく損傷を受けにくい、加工の際のデブリ(切りくずや結晶の破片など)が拡散せず結晶表面に再付着しにくい、などの利点がある。
本発明の結晶製造方法によれば、例えば、従来よりも高い確率で高品質かつ大型の結晶が得られ、かつ、前述の濃度勾配形成を利用したスクリーニング法(濃度勾配法)によれば、結晶化条件の広範な探索(コンビナトリアル探索)が可能である。これらに関しては、例えば、従来、タンパク質等の結晶化で最も良く用いられてきた蒸気拡散法よりも優れた結果を得ることもできる。
また、本発明の結晶製造方法によれば、例えば、前記第2の相(例えばゲル)中または前記第1の相との界面から前記生体物質の結晶を析出させることで、以下のような利点を得ることもできる。
構造ゲノム科学の分野におけるタンパク質結晶の構造解析等では、結晶のマウントに高度な技能を有する。例えば、低温における結晶構造解析を行うに際しては、抗凍結条件下に置いた結晶をナイロン糸を用いたループ状のマウント器具を用いて溶液ごとすくい取り、表面張力でループ内に結晶を保持した状態で凍結および測定を行う方法が従来から行われている。この方法では結晶の周りを抗凍結剤溶液が取り囲むので、測定中に結晶を非接触で保持が可能である。その反面、結晶の取り出し時にループの接触等による物理的な損傷を与える可能性がある。すなわち、溶液中で得られた結晶は、結晶マウントの際、溶液中を自由に移動するため、前記ループ等への間接・直接的な接触により、X線測定前に損傷を受けるおそれがある。このため、精度良い測定を行うにはループの取り扱いについての熟練した技能が要求される。
一方、本発明の結晶製造方法では、例えばゲル中または前記第1の相との界面から、特にゲル中から前記生体物質(タンパク質等)の結晶を析出させることにより前記生体物質結晶がゲルで固定された状態となる。したがって、前記生体物質結晶がゲルで固定され移動が阻害されること、ゲルで保護され損傷を受けにくいこと等により、マウント操作が容易であり、再現性の高いマウント操作が可能となる。これによれば、例えば、結晶マウント工程を自動化することにより、従来達成不可能であったタンパク質結晶等のX線構造解析のフルオートメーション化も達成可能となる。また、ゲル中またはその界面から、特にゲル中から前記生体物質(タンパク質等)の結晶を析出させることで、得られた結晶はゲルに被覆されるため、結晶の凍結と簡便なマウント操作が可能となり、結晶の質を低下させずに凍結できるため高精度データが得られる。
以上、前記第2の相がゲル等の固相である場合について、前記目的物質がタンパク質、核酸等の生体物質である場合を中心に説明したが、前記目的物質は、前述のとおり、これ以外の任意の物質であっても良い。
また、本発明において、前記第2の相は、前述のとおり、ゲル等の固相に限定されない。例えば、前記第2の相が液相であっても良い。より具体的には、例えば、前記目的物質が水溶性であり、前記第1の相が水相であり、前記第2の相が油相であっても良い。または、前記目的物質が非水溶性であり、前記第1の相が油相であり、前記第2の相が水相であっても良い。また、例えば、前記目的物質および前記第1の相にかかわらず、前記第2の相が、フロリナート等の不活性の液体であっても良い。前記第2の相が、通常は前記目的物質を移行させることが困難な液相であっても、前述のとおり、本発明の目的物質移行方法によれば、前記第2の相中に前記目的物質を移行させ、例えば前記第2の相中に溶解、懸濁、分散等させることができる。前記第2の相として液相を用いる本発明の結晶製造方法は、例えば、前記目的物質が、有機低分子、機能性有機高分子等である場合に、特に有効である。この方法は、例えば、薬理活性を有する有機低分子、機能性有機高分子等の目的物質の結晶を製造し、さらに前記目的物質を含む医薬または薬学的組成物を製造するために用いることができる。ただし、前記目的物質はこれに限定されず、他の任意の物質でも良い。具体的には、例えば、前記本発明の目的物質移行方法で説明したとおりである。
<組成物製造方法>
本発明による、組成物製造方法は、前述のとおり、目的物質移行工程を含み、前記目的物質移行工程が、前記本発明の目的物質移行方法により、前記目的物質を前記第1の相中から前記第2の相中に移行させる工程であり、前記組成物が、前記第2の相中に前記目的物質を含む組成物であることを特徴とする。これ以外は、本発明の組成物製造方法は特に限定されない。
本発明の組成物製造方法により製造される組成物は、特に限定されないが、例えば、前述のように、ゲル中にタンパク質が高濃度で凝縮されたタンパク質チップが挙げられる。また、これ以外に、例えば、分析等で使用する解析標本、有機機能デバイスなどの回路もしくは集積体等が挙げられる。前述のとおり、通常の方法では、前記第2の相中への前記目的物質の移行、または前記第2の相中での前記目的物質の高濃度等が達成困難であっても、本発明の目的物質移行方法によれば、これらを達成することもできる。これを利用して、本発明の組成物製造方法では、従来の方法では製造困難であった新規な組成を有する組成物を製造することも可能である。
<目的物質移行装置>
本発明の目的物質移行装置は、前述のとおり、目的物質を含む液相または固相から形成された第1の相中の前記目的物質を、液相または固相である第2の相中に移行させる装置であって、前記第1の相と前記第2の相とを近接させる相近接手段と、前記第1の相と前記第2の相との境界の近傍に気泡を発生させて崩壊させる気泡崩壊手段とを含むことを特徴とする。これ以外は、本発明の目的物質移行装置は特に限定されない。
図1に、本発明の目的物質移行装置の一例を模式的に示す。ただし、これは例示に過ぎず、本発明の目的物質移行装置は、これにより何ら限定されない。図示のとおり、この装置は、フェムト秒レーザー1、グリーンレーザー2、容器3、レンズ4、ビームスプリッター5、ダイクロイックミラー6および7、シャッター8、赤外光遮断フィルター9、フォトディテクター10、ファンクションジェネレーター11、CCDカメラ12、ストロボ光源13および対物レンズ14を有する。フェムト秒レーザー1から発射したレーザー光は、ビームスプリッター5により分離することができる。その分離したレーザー光の一部を、ダイクロイックミラー6で反射させ、対物レンズ14を通して、容器3中の試料に照射することができる。前記試料は、前記第1の相および第2の相を含み、前記第1の相中における第2の相の近傍に、前記レーザー光を照射する。ビームスプリッター5で分離した前記レーザー光の残りは、フォトディテクター10で検出し、シャッター8およびファンクションジェネレーター11の制御に用いることができる。シャッター8を開閉することにより、フェムト秒レーザー1から発射したレーザー光の、容器3中の試料ヘの照射(パルス幅、照射時間等)を制御することができる。ファンクションジェネレーター11は、例えば、フェムト秒レーザー1に対し、任意波形を発生させるための発生器として機能させることができるとともに、CCDカメラ12およびストロボ光源13の制御にも用いることができる。ストロボ光源13により容器3中の試料に光照射するとともに、その光を、対物レンズ14および赤外光遮断フィルター9を通してCCDカメラ12で観察し、写真撮影可能である。グリーンレーザー2は、フェムト秒レーザー1から発射するレーザー光の集光点制御等に用いることができる。グリーンレーザー2から発射したレーザー光は、レンズ4を透過させた後、ダイクロイックミラー7により反射させ、対物レンズ14を通して容器3中の試料に照射することが可能である。同図の装置では、容器3中で前記第1の相と前記第2の相を近接(好ましくは、接触させて界面を形成)させるので、例えば、容器3が、前記「相近接手段」であるということができる。また、同図の装置は、発生した気泡を前記界面に衝突させるための特別の手段を有さず、前記気泡は、キャビテーション挙動により、崩壊(好ましくは、前記界面に衝突)する。この装置では、フェムト秒レーザー1、ビームスプリッター5、フォトディテクター10、シャッター8およびダイクロイックミラー6により前記第1の相中における前記第2の相の近傍にレーザー光を照射して気泡を発生させ、崩壊(好ましくは、前記第2の相との界面に衝突)させる。したがって、例えば、フェムト秒レーザー1、ビームスプリッター5、フォトディテクター10、シャッター8およびダイクロイックミラー6を合わせたものが、前記「気泡崩壊手段」であるということができる。
以下、本発明の実施例について、参考例と併せて説明する。しかし、本発明は、以下の実施例における結果およびその考察のみには限定されない。
以下の実施例および参考例において、レーザー光照射には、図1に示す構造の装置を用いた。フェムト秒レーザー1は、Cyber Laser社のIFRIT−SA10(商品名)を用いた。このレーザーの基本波長は780nmであり、波長変換により260nmのレーザー光を発振することが可能である。また、パルス時間幅は200〜2000fsの間で選択できる。また、レーザー光の周波数は、以下の実施例および参考例では、特に断らない限り、1kHzとした。集光点の様子は高速度(CCD)カメラ12(株式会社島津製作所のHyperVision HPV−2[商品名]、またはPrinceton InstrumentsのPhoton MAX 512B[商品名])により、マイクロ秒オーダーの時間分解能で観察することが可能である。
また、以下の実施例および参考例において、結晶製造(育成)用の容器(図1の符号3)は、特に断らない限り、Greiner社の、96ウェル Imp@ct plate(商品名)を用いた。各実施例または参考例において示した核発生率は、特に断らない限り、結晶の発生が観察されたウェル数を、用いた全てのウェル数で割った値である。「shot」または「shots」は、特に断らない限り、レーザー光の照射回数を表す。
<参考例1:リゾチーム溶液一相系における、リゾチーム結晶製造>
第2の相を含まない、リゾチーム溶液一相系を用いて、結晶を製造した。すなわち、まず、結晶製造用容器(プレート)に、40mg/mLのリゾチーム水溶液(pH調整剤として酢酸ナトリウムを0.1M含む水溶液(pH4.5)に、リゾチームおよび沈殿化剤としての塩化ナトリウム3wt%を溶解させたもの)100μLを、各ウェルに等量ずつ分注した。2種類のパルス時間幅(200fsまたは1800fs、共に波長780nm)を用い、照射したレーザー光のエネルギーの総和(レーザーエネルギー)を種々変化させて、核発生率を確認した。その結果、図2のグラフに示すように、一定のエネルギーしきい値(200fs: 0.7μJ/pulseまたは1800fs: 1μJ/pulse)以上でレーザーを照射した場合に、レーザー光を照射しない場合と比較して核発生率の増加(核発生促進)がみられた。パルス時間幅が長くなると、核発生に要するしきい値が増加することから、フェムト秒レーザーによる非線形吸収をトリガー(要因)として核発生が誘起されると考えられる。図3のグラフに示す通り、波長を260nmに変えても、核発生促進が起こるレーザーエネルギー強度には同様にしきい値が見られた。なお、前記しきい値は、図2とは若干異なるが、これは、使用した対物レンズの開口数(N.A.)が異なるためである。また、波長260nmのレーザー光を照射した場合は、レーザー光の吸収効率が高いため、集光点にタンパク質の変性物と思われる沈殿が生じた。この沈殿は核発生促進が起こらないような条件でも見られたことから、光化学的に生成されたタンパク質変性物は、本参考例における核発生のメイントリガー(主要因)ではないと推測される。
<参考例2:タンパク質溶液中へのレーザー光照射によるキャビテーション挙動>
参考例1におけるリゾチーム溶液(水溶液)中にレーザー光照射した時の前記リゾチーム溶液の様子を、高速度(CCD)カメラを用いて観察した。その結果、図4の写真に示すように、レーザー光照射後数マイクロ秒以内に集光点から気泡が発生し、膨張と収縮を繰り返しながら数十マイクロ秒程度で崩壊し、細かい気泡が残るというキャビテーション挙動が確認された。また、キャビテーション発生時に衝撃波が発生することを、液中圧力センサーを用いて確認した。この時の気泡の直径のレーザー光強度依存性から、図5のグラフに示す通り、キャビテーション発生(気泡発生)のしきい値(200fs: 0.2μJ/pulse, 1800fs: 0.7μJ/pulse)を定量的に決定し、リゾチームの核発生のしきい値と同程度であることを確認した。また、この観察結果から見積もられるキャビテーションの最大膨張および収縮速度(〜60μm/μs)は、溶質の自由拡散速度(リゾチーム〜0.015μm/μs)よりも3桁以上大きいことを確認した。このような高速膨張・収縮挙動は、溶液中に局所的な濃度ゆらぎを生じさせると考えられ、これが核発生のトリガー(要因)となりうると推測される。
さらに、蛍光分子(テトラメチルローダミン−5−イソチオシアネート[tetra-methylrhodamine-5-isothiocyanate])をラベルしたリゾチームの溶液を用いて、キャビテーション周囲の濃度ゆらぎの直接観察を試みた。実験では、高感度カメラ(高感度なCCDカメラの一種である、EMCCDを使用)を組み込んだ顕微システムを構築し、溶液中の高速蛍光像観察を行った。その結果、図6に示す通り、気泡の収縮時に周囲の領域より数倍程度強い蛍光を発する領域が生じることを観測した。図6(a)は、前記高速蛍光像観察の経時変化を示す写真であり、図6(b)は、レーザー照射後20μs時の蛍光強度分布を示すグラフである。図6(b)において、横軸は測定位置(μm)を表し、80μm付近が集光点である。縦軸は、蛍光強度を表す。同図に示す通り、集光点付近において、特に強い傾向が観測された。
さらに、リゾチームに代えて有色の水溶性タンパク質チトクロムCを用いて、溶液の濃度分布を画像の明度分布として観察した結果、図7の写真に示す通り、キャビテーションの発生前後でチトクロムCの濃度分布が変化し、集光点付近に低濃度領域が、その周囲に高濃度領域が形成されることを確認した。
以上の結果から、タンパク質溶液中において、気泡の膨張および収縮(キャビテーション)によって周囲の分子が強制的に移動させられ、局所的に高タンパク質濃度領域が形成されることで核発生の促進が起こると推測される。
光を利用したタンパク質の結晶化手法(結晶製造方法)には、光電場による分子配列、紫外光吸収により生じたタンパク質変性物を核とした結晶化などがある。これらに対し、本参考例の方法は、過飽和度という核発生の本質的な部分に作用する。そのため、本参考例の原理によれば、リゾチームに限定されず、他の任意のタンパク質または他の任意の目的物質に対しても、その種類および物性によらず、核発生の誘起が可能であると推論できる。この原理を、前記第1の相と前記第2の相との二相系に応用すれば、例えば、後述の実施例のように、本発明の結晶製造方法を実施することができる。
<参考例3:ゲル中へのレーザー光照射によるタンパク質結晶製造>
本参考例では、参考例1と同様のリゾチーム溶液(水溶液)にゲルを添加して高粘性化し、これにより分子拡散を抑制し、キャビテーションによる高タンパク質濃度領域の緩和時間を長くして核発生確率を高めることを試みた。前記ゲルとしては、1wt%(重量%)のアガロースを添加し、リゾチームモノマーの拡散定数を50〜80%まで低下させた。このゲル添加溶液に、5.5μJ/pulse、1pulse、80shotの条件で、フェムト秒レーザー光照射し、その後、一定時間静置させて、結晶(結晶核)の発生を観測し、核発生率(%)を算出した。なお、前記「80shot」は、照射回数ではなく、1ウェル中の80箇所に照射したことを表す。本参考例では、リゾチームの濃度を種々変化させるとともに、比較対照のために、ゲル(アガロース)を添加しないリゾチーム水溶液についても、同様に結晶製造(核発生)を行った。図8のグラフに、その結果を示す。同図は、本参考例の結晶製造(核発生)における核発生率と各種条件との相関関係を、三次元的に示すグラフである。同図において、奥行き方向の軸には、前記レーザー照射後の静置時間(1〜5日)を示し、紙面横方向の軸には、それ以外の各種条件を、並列的に示す。「Agarose free」は、アガロースを添加しなかったことを表し、「1wt% agarose」は、1wt%のアガロースを添加したことを表す。「7mg/mL」「8mg/mL」「4mg/mL」「6mg/mL」は、それぞれ、リゾチームの濃度を表す。「σ」は、過飽和度であり、σ=((タンパク質濃度)−(溶解度))/(溶解度)で表される。なお、それぞれ、沈殿化剤としての塩化ナトリウムを8wt%含む。また、溶媒としては、参考例1と同様に、pH調整剤として酢酸ナトリウムを0.1M含む水溶液(pH4.5)を用いた。さらに、紙面縦方向の軸には、核発生率を示す。図示のとおり、アガロースを添加しない場合は、過飽和度σが1.3以下の低過飽和溶液では、レーザー光照射の有無にかかわらず、全く核発生が見られなかった。これに対し、アガロースを添加した場合は、σ=1.0の低過飽和溶液において結晶(結晶核)の発生がみられ、レーザー光照射によりさらに核発生率が増加した。アガロースを添加したσ=0.3の低過飽和溶液の場合は、レーザー光照射なしでは結晶(結晶核)の発生がみられなかったが、レーザー光照射により、核発生が誘起され、結晶が製造できた。なお、細胞増殖必須因子SATや膜タンパク質AcrB等の難結晶性タンパク質においても、溶液をゲル化してレーザー照射を行うことにより、より低過飽和度で核発生を誘起することができた。
<参考例4:界面からの距離とキャビテーション挙動との相関関係>
超純水に、ガラスセル中でレーザー光を集光した時のキャビテーション挙動を、高速カメラ(CCDカメラ)で撮影した。図9の写真に、その結果を示す。前記「発明を実施するための形態」で説明したように、容器(ガラスセル)の壁面から離れた位置で発生した気泡は、壁面に接することなく消滅した(図9上段)。これに対し、容器壁面近傍でのレーザー照射により発生した気泡は、壁に吸い寄せられるように加速して壁に衝突し、消滅した(図9下段)。さらに、レーザー光の集光点から壁面までの距離と、CCDカメラで観測される気泡の最大半径および移動距離との相関関係を確認した。図15のグラフに、その結果を示す。同図において、横軸は、レーザー光の集光点から壁面までの距離(μm)を示す。なお、レーザー光の集光点は、気泡の発生点とほぼ等しいと推定できる。縦軸は、気泡の最大半径(μm)または気泡の移動距離(μm)を示す。図中、◆は、気泡の最大半径と、レーザー光の集光点から壁面までの距離との相関関係を表す。■は、気泡の移動距離と、レーザー光の集光点から壁面までの距離との相関関係を表す。図示のとおり、レーザー照射位置(集光点)が容器(ガラスセル)壁面に近い場合に、気泡が壁面に向かって大きく移動し、収縮せずに崩壊した。このような気泡の移動および崩壊は、集光点と壁面の距離が気泡最大半径の2倍以下のときに顕著に見られた。なお、レーザー光照射により生じる気泡は、通常、膨張と収縮を繰り返した後に崩壊するが、照射するレーザーエネルギーが大きくなるにつれて膨張および収縮の回数は多くなり、気泡の最大半径は大きくなる傾向がある。
なお、本参考例の溶液にアガロースを添加して粘度を増加させるとキャビテーションが抑制されることも確認した。すなわち、照射するレーザー光エネルギーが同じ場合、粘度の増加に伴い、気泡の最大半径は小さくなり、0.5wt%以上のアガロース濃度では気泡の崩壊が抑制された。
さらに、前記参考例1および2と同様のリゾチーム溶液一相系(ゲルなし)の条件で、レーザー光の集光点および気泡半径と、キャビテーション挙動および核発生との相関関係について確認した。その結果、収縮せずに崩壊するような条件下(すなわち、容器壁面のごく近く)では、照射レーザー光エネルギーが同じであっても、核発生誘起効率に減少が見られた。また、レーザー光照射位置(集光点)を容器壁面から300μmに固定し、核発生率の気泡半径に対する依存性を調べた。その結果、核発生の誘起効率は、気泡の移動および壁面への衝突が起こらない半径50〜100μm程度のときに最大となった。したがって、気泡の容器壁面への衝突による崩壊は、結晶化目的物質の高濃度領域の形成を抑制すると考えられる。この結果は、結晶育成容器のサイズおよび溶液ボリュームが、核発生に適したレーザーエネルギーを決める一つの要素になり得る事を示唆している。
本参考例のタンパク質溶液一相系では、容器壁面近傍にレーザー光照射して気泡の移動および壁面への衝突が起こると、核発生の誘起効率が低下した。このことから推論すると、溶液とゲルとの二相系では、溶液中においてゲルとの界面近傍にレーザー光照射すると、界面から遠くにレーザー光照射する場合よりも、核発生(結晶製造)効率が低下するとも考えられる。しかし、本発明者らは、逆に、ゲルとの界面近傍にレーザー光照射して気泡を前記界面に衝突させると、核発生(結晶製造)効率が向上することを見出した。以下の実施例に、その結果を示す。
<実施例1:溶液とゲルとの二相系におけるリゾチーム結晶製造>
リゾチーム溶液(前記「第1の相」)とゲル(前記「第二の相」)との二相系において、リゾチーム結晶を製造した。すなわち、まず、図11に示すように、結晶製造(育成)容器(Imp@ct plate)のウェルの底に、沈殿化剤入りのゲル102を敷いた。具体的には、アガロースSP(アガロースSea Plaque、タカラバイオ株式会社の商品名)を0〜4wt%、および沈殿化剤としてのNaClを5wt%、およびpH調整剤としてのNaAc(酢酸ナトリウム)を0.1M含む水溶液を、各ウェル中に3〜4μLずつ分注し、1日以上置いて完全にゲル化させた。さらにその上に、図11に示すように、13mg/mLリゾチーム水溶液101を、各ウェル中に5〜6μLずつ分注し、3日以上置いて、ゲル中にリゾチームをしみこませた。なお、未確認であるが、この間に、リゾチーム水溶液(第1の相)101およびゲル(第2の相)102中におけるリゾチーム濃度は、平衡に達したと考えられる。
そのウェルに、フェムト秒レーザーによりレーザー光照射し、その後静置して結晶を析出させた。レーザー光の照射エネルギーは、30μJ/pulseとし、周波数は、1kHzとした。図12Aに、その結果を示す。同図は、本実施例の結晶製造(核発生)における核発生率と各種条件との相関関係を、三次元的に示すグラフである。左側のグラフは、前記ゲル(第2の相)におけるアガロース濃度が0.5wt%の場合を表し、右側のグラフは、前記ゲル(第2の相)におけるアガロース濃度が4wt%の場合を表す。各グラフにおいて、奥行き方向の軸には、前記レーザー照射後の静置時間(1〜5日)を示し、紙面横方向の軸には、レーザー光の照射条件a〜gを、並列的に示す。「In Gel」は、ゲル中にレーザー光照射したことを表し、「On Gel」は、溶液中におけるゲルとの界面近傍にレーザー光照射したことを表す。5shots(5回照射)の場合、各照射の間隔は、1秒とした。さらに、紙面縦方向の軸には、核発生率を示す。
図示のとおり、アガロース濃度0.5wt%の場合は、レーザー光照射しないとき(a)およびゲル中にレーザー光照射したとき(b)は、全く結晶核の発生が見られなかったが、溶液中におけるゲルとの界面近傍にレーザー光照射したとき(c〜g)は、結晶核が発生した。一方、アガロース濃度4wt%の場合は、レーザー光照射しないとき(a)およびゲル中にレーザー光照射したとき(b)も結晶核が発生したが、溶液中におけるゲルとの界面近傍にレーザー光照射したとき(c〜g)のうち条件eにおいて、最も核発生率が高かった。さらに、図示していないが、アガロースを用いなかった(すなわち、リゾチーム溶液一相系を用いた)こと以外は本実施例と同様の条件で結晶化を試みたところ、レーザー光照射の有無にかかわらず、全く核発生が見られなかった。
すなわち、図12Aに示す通り、本実施例(溶液中において、ゲルとの界面近傍にレーザー光照射)によれば、核発生率にばらつきはあるものの、タンパク質溶液一相系またはゲル中へのレーザー光照射では全く核発生(結晶の製造)ができない条件でも核発生が可能であるという極めて優れた効果が確認できた。なお、前記参考例3において、細胞増殖必須因子SATや膜タンパク質AcrB等の難結晶性タンパク質も、ゲル中へのレーザー照射により低過飽和度で核発生を誘起できたことを示した。しかし、本発明によれば、それよりもさらに優れた核発生(結晶の製造)効果を得ることも可能であることを、本実施例は示している。
また、析出したリゾチーム結晶の位置を観測するために、側方(溶液―ゲル界面と平行方向)より顕微観察を行った。その結果、図12Bに示すように、レーザー照射位置において、ゲル中から溶液方向に向かって成長している結晶が観察された。これは溶液からゲル中に高濃度のタンパク質分子が注入されて核発生が起こったことを明確に示している。
<実施例2:溶液とゲルとの二相系におけるグルコースイソメラーゼ結晶製造>
結晶化の目的物質として、リゾチームに代えてグルコースイソメラーゼを用い、実施例1と同様にして結晶を製造した。ただし、本実施例では、アガロースSPの濃度を2wt%とし、レーザー光照射条件を、30μJ、125pulses、5shots(各照射の間隔は、1秒)に固定した。図13に、その結果を示す。同図は、本実施例の結晶製造(核発生)における核発生率と各種条件との相関関係を、三次元的に示すグラフである。同図において、奥行き方向の軸には、前記レーザー照射後の静置時間(1〜7日)を示し、紙面横方向の軸には、グルコースイソメラーゼの濃度を示す。各濃度において、左側の棒グラフは、レーザー光照射しない場合を示し、右側の棒グラフには、レーザー光照射した場合を示す。さらに、紙面縦方向の軸には、核発生率を示す。図示のとおり、レーザー光照射しない場合は、全く核発生が見られなかったが、本実施例によれば、グルコースイソメラーゼ濃度4.3mg/mLおよび5.4mg/mLにおいて、高い核発生率が確認された。また、図示していないが、ゲル中にレーザー光照射した場合、またはアガロースを用いない(すなわち、タンパク質溶液一相系)場合は、レーザー光照射の有無にかかわらず、全く核発生が見られなかった。すなわち、本実施例によれば、目的物質の結晶化がきわめて困難な条件でも、溶液とゲルとの二相系を用い、かつ、溶液中におけるゲルとの界面近傍にレーザー光照射することで、はじめて結晶化(核発生)が可能になる場合があることが確認された。
<実施例3:溶液とゲルとの二相系における膜タンパク質AcrBの結晶製造>
結晶化の目的物質として、リゾチームまたはグルコースイソメラーゼに代えて、難結晶性の膜タンパク質AcrBを用い、実施例1および2と同様にして結晶を製造した。
前記参考例3においては、細胞増殖必須因子SATや膜タンパク質AcrB等の難結晶性タンパク質も、ゲル中へのレーザー照射により低過飽和度で核発生を誘起できたことを示した。また、前記実施例1では、ゲル中へのレーザー光照射よりもさらに優れた核発生(結晶の製造)効果を示した。そして、本実施例では、実際に難結晶性の膜タンパク質AcrBを用い、ゲル中へのレーザー光照射よりもさらに優れた効果を実証した。
本実施例においては、タンパク質溶液(水溶液)調製時におけるタンパク質(AcrB)濃度を28mg/mLとし、アガロースSP濃度を0.5wt%とし、沈殿化剤として、NaClに代えてPEG2000(ポリエチレングリコール2000)の18wt%水溶液を用いた。各ウェルへの分注量は、ゲルを4μL、AcrB水溶液を2μL、沈殿化剤(18wt%のPEG2000水溶液)2μLとした。AcrB水溶液およびPEG2000を混合したものが第1の相であるため、第1の相中においては、AcrB濃度は14mg/mL、PEG2000濃度は9wt%となる。レーザー光照射条件は、20μJ、1pulse、5shots(各照射の間隔は、1秒)とした。これら以外は、実施例1および2と同様である。図14Aの左側に、本実施例により得られた結晶の写真を示す。なお、この写真は、レーザー光照射後、3日静置した後に撮影した。図示のとおり、本実施例によれば、結晶形がはっきりした大きなAcrB単結晶が得られた。また、同図右側の写真は、レーザー光照射しない以外は同条件で撮影した写真である。この場合は、図示のとおり、結晶(結晶核)が得られなかった。
さらに、図14Bに、ゲル中にレーザー光照射した場合との比較結果を示す。同図左側の写真が、本実施例の結果を示す写真である。ただし、この写真の場合は、アガロースSP濃度を6wt%、PEG2000(ポリエチレングリコール2000)水溶液の濃度を17wt%とした。図示のとおり、この実施例では、結晶析出(育成)中に、容器中の沈殿(濁り)が消え、透明度が高く、面のはっきりとした結晶が得られた。また、同図右側は、ゲル中にレーザー光照射した場合の写真である。図示のとおり、結晶は得られたが、本実施例と比較すると、結晶形(面)の鮮明さ、透明度の高さ等の品質が劣っていた。なお、この写真における条件は、アガロースSP濃度が2wt%、PEG2000(ポリエチレングリコール2000)水溶液の濃度が10wt%であり、本実施例と異なる。これは、本実施例と同条件では、全く結晶化(核発生)が起こらなかったためである。
以上のとおり、本実施例によれば、ゲル中へのレーザー照射よりもさらに面のはっきりとした透明度の高いAcrB結晶が得られた。本発明の結晶製造方法は、これに限定されず、例えば、SAT、AcrB等よりもさらに難結晶性な種々のタンパク質等の結晶製造に適用しても良い。
<実施例4:高過飽和度溶液とゲルとの二相系におけるリゾチーム結晶製造>
リゾチーム水溶液調製時のリゾチーム濃度を20mg/mLにすること以外は実施例1と同様にしてリゾチーム結晶の製造を行った。本実施例では、ゲルおよび水溶液の、ウェル中への分注(界面形成)後、48時間静置し、さらに、レーザー光照射後、1日静置して結晶を析出させた。図16Aのグラフに、その結果を示す。同図において、横軸は、レーザー光照射条件を表し、縦軸は、各ウェル中における結晶の平均析出個数を表す。なお、レーザー光照射回数は、1shot(1回)とした。また、各照射条件において、アガロース濃度2wt%、アガロース濃度4wt%、およびアガロースなし(すなわちリゾチーム溶液一相系であり、参考例に相当する)について、それぞれ結晶化を試みた。図示のとおり、アガロースゲルなし(リゾチーム溶液一相系)では、レーザー光照射しない場合は全く結晶核が発生せず、レーザー光照射しない場合も、きわめてわずかしか結晶核が発生しなかった。これに対し、アガロースゲルを用いた場合(本実施例)は、5μJ、1pulseの照射条件のとき、レーザー光照射しない場合と比較して結晶析出個数が増加した。さらに高エネルギーの照射条件では、図示のとおり、レーザー光照射しない場合と比較して結晶析出個数は減少したが、より大きくて高品質の結晶が得られた。図16Bの写真に、本実施例で得られた結晶を例示する。図示のとおり、この結晶は、最大径が数十μmと大きく、結晶形(面)もはっきりしており、透明度も高い。
<実施例5:リゾチームおよびグルコースイソメラーゼの結晶製造(2)>
溶液(第1の相)調製時のリゾチーム濃度を14mg/mLとすることと、レーザー光の照射強度を20μJ/pulseとすること以外は実施例1と同様にして、リゾチームの結晶製造(結晶化)を行った。図17のグラフに、その結果を示す。同図は、レーザー光照射後3日静置した後の結果である。横軸は、レーザー光照射条件を示す。実施例1と同様、「In Gel」は、ゲル中にレーザー光照射したことを示し、「On Gel」は、溶液中におけるゲルとの界面近傍にレーザー光照射したことを示す。縦軸は、核発生率である。図示のとおり、レーザー光照射による核発生率の向上が見られた。
また、溶液(第1の相)調製時のリゾチーム濃度を、14mg/mLから実施例1と同じ13mg/mLに変えること以外は同様にして、結晶製造(結晶化)を行った。図18Aのグラフに、その結果を示す。同図を、図17と対比すると、レーザー照射なし、およびゲル中へのレーザー光照射では、リゾチームの濃度がわずかに低くなっただけで、全く結晶化しなくなったことが分かる。これに対し、溶液中におけるゲルとの界面近傍へのレーザー光照射(本実施例)では、安定して結晶が得られた。また、図18Aに示す本実施例で得られた結晶は、例えば、図18Bの写真に示す通り、最大径百数十μmという大きな結晶であり、結晶形(面)もはっきりしており、透明度もすぐれていた。
また、レーザー光照射条件を、20μJ、125pulses、5shotsとすること以外は実施例2と同様にして、グルコースイソメラーゼの結晶製造(結晶化)を行った。図19のグラフに、その結果を示す。同図は、レーザー光照射後4日静置した後の結果である。図示のとおり、実施例2と同様に良好な核発生率で結晶が得られた。また、レーザー光照射しなかった場合、および、図示していないがゲル中にレーザー光照射した場合およびゲルを用いなかった場合(タンパク質溶液一相系)は、全く結晶核が得られなかった。
さらに、本発明の結晶製造方法によれば、高品質の結晶が得られることを、あらためて確認した。図20Aおよび図20Bに、その結果を示す。図20Aは、0.5wt%のアガロース9A(タカラバイオ株式会社の商品名)または1.0wt%のアガロースSP(タカラバイオ株式会社の商品名)中にレーザー光照射して得られた結晶(参考例に相当)の写真である。ゲル中には、タンパク質としてAcrBを9.3mg/mL、沈殿化剤としてPEG2000を6.5wt%含む。レーザー光照射条件は、5.5μJ、1pulse、20shots(照射間隔1秒)とし、レーザー光照射後、2日静置した。また、図20Bは、タンパク質溶液とゲルの二相系において、溶液中におけるゲルとの界面近傍にレーザー光照射した、本発明の実施例により製造した結晶である。この実施例では、ゲル(第2の相)調製時に、ゲルとしてアガロースSPを0.5wt%用いた。タンパク質水溶液(第1の相)調製時には、AcrBの28mg/mL水溶液と、沈殿化剤としてのPEG2000の20wt%水溶液とを、実施例3と同様にウェル中で同量ずつ混合させて第1の相とした。レーザー光照射条件は、20μJ、1pulse、5shots(照射間隔1秒)とし、レーザー光照射後、3日静置した。図示のとおり、本発明の実施例(図20B)の結晶は、参考例(図20A)の結晶と比較して、きわめて大きく、結晶形(面)がはっきりしており、透明度にも優れていた。
<実施例6:タンパク質溶液からフロリナート中へのタンパク質の移行>
本実施例では、タンパク質溶液からフロリナート中へのタンパク質の移行を行った。反応容器としては、Nunclon DELTA Surface96ウェル マイクロバッチプレートを用いた。そこに、フロリナート(フッ素化合物、3M社の商品名)100μLを、各ウェルに当量ずつ分注し、さらにその上に、タンパク質としてリゾチームを16mg/mL含む水溶液を100μL、各ウェルに当量ずつ分注した。その後、タンパク質水溶液中における、フロリナートとの界面に、レーザー光を、30μJ、100pulses、10shotsで照射した。図21の左側の写真に、レーザー光照射直後のフロリナートの写真を示す。図示のとおり、レーザー光照射後すぐに、フロリナート中へのタンパク質の移行により、フロリナート中にタンパク質のドロップ(液滴)が観測された。このドロップは、タンパク質水溶液をフロリナート上から除去せずそのままにしておいても、少なくとも1日はフロリナート中に保持された。これに対し、レーザー光照射しなかった場合、または、タンパク質溶液中においてフロリナートとの界面から離れた(界面からの距離300μm)位置にレーザー光照射した場合は、図21の右側の写真に示すように、タンパク質のフロリナート中への移行は起こらなかった。
このように、本実施例によれば、第1の相と第2の相との界面近傍でのキャビテーション挙動(気泡の界面への衝突)により、通常の方法ではタンパク質の移行が難しい不活性液体中にタンパク質を移行させ、前記不活性液体中で保持させることができた。タンパク質に代えて、例えば有機低分子化合物、機能性有機高分子化合物等の任意の目的物質を用いてもよく、不活性液体に代えて、水相、油相等を用いても良い。
<実施例7:溶液とゲルの二相系における有機低分子化合物パラセタモールの結晶製造>
本実施例では、結晶化の目的物質として、タンパク質に代えて有機低分子化合物であるパラセタモール(N−(4−ヒドロキシフェニル)アセトアミド、またはアセトアミノフェンともいう)を用い、パラセタモール溶液(前記「第1の相」)とゲル(前記「第2の相」)との二相系において、パラセタモール結晶を製造した。すなわち、まず、図24に示すように、結晶製造(育成)容器(マツナミボトムディッシュ)のウェルの一部にゲルを配置した。図示のとおり、この結晶製造(育成)容器241は、丸皿形状であり、その中央部にウェル242を有する。本実施例では、図示のとおり、ウェル242上の、図中左半分のみにゲル243を配置した。具体的には、まず、アガロースSPの6wt%水溶液を冷蔵庫にて固化し、その後95℃に加熱したブロックインキュベータにて15分間加熱してゲルに流動性を持たせた。これを、前記結晶製造(育成)容器のウェル242内に100μL分注し、再度ゲルを固化させた。その後、ゲルカッターにてウェル242上の一部のゲルを切断除去し、図24に示すような状態にした。つぎに、図25に示すように、前記ゲルを切断除去した箇所のウェル242上(同図において、ウェル242上の右半分)に、40mg/mLパラセタモール(純度98%、Acros社製)水溶液244を50μL分注した。なお、前記パラセタモール水溶液は、ブロックインキュベータにて70℃で1時間加熱して完全に溶解させた後、60℃に温度降下させてから分注した。分注後、室温にて直ちにパラセタモール水溶液244内のゲル―溶液界面近傍に、フェムト秒レーザー(波長800nm、パルス幅182fs、サイバーレーザー社製)によりレーザー光照射した。レーザー光の照射エネルギーは10μJ/pulseとし、周波数は1kHz、照射パルス数は125pulseとした。その後静置して結晶を析出させた。図26にその結果を示す。図26(a)(図26上段)は、レーザー光照射および結晶析出の様子を経時的に追跡した写真(CCDカメラによる透過像)であり、図26(b)(図26下段)は、図26(a)における経時変化を模式的に示す図(スキーム)である。図示のとおり、有機低分子溶液261(図25のパラセタモール水溶液244に相当する)とゲル262(図24および25のゲル243に相当する)との境界(界面)近傍において、レーザー光263を、有機低分子溶液261側の集光点264に照射した。レーザー照射後、さらに20秒間静置し、10秒毎にCCDカメラで観察した。図示のとおり、レーザー照射後10〜20秒程度で、レーザー照射した界面付近からパラセタモール(有機低分子化合物)の結晶265が析出している様子が確認できた。また、レーザー照射後10秒時よりも、レーザー照射後20秒時の方が、パラセタモール結晶265がさらに大きく成長していることが確認できた。
<実施例8:溶液とゲルの二相系におけるタンパク質のゲル内注入過程の可視化>
本実施例では、キャビテーションによりタンパク質がゲル中に注入される過程を可視化するために、クマシーブリリアントブルー(以下CBB)で染色したリゾチーム溶液(前記「第1の相」)とゲル(前記「第2の相」)との二相系において、高速カメラによる撮影を行った。
まず、タンパク質水溶液として、クマシーブリリアントブルー R−250(和光純薬工業株式会社)0.0475mg/mlおよびニワトリ卵白リゾチーム(6回再結晶、Lot No.E40314, 生化学工業株式会社)20.2mg/mlを含む水溶液を5wt% NaCl, 0.1M NaAc(pH4.5)に調整した過飽和水溶液200μLを準備した。一方、6.0wt%に調整して4℃で保存しておいたAgarose SP(Agarose Sea Plaque(商品名), Lot No.0000215866, Lonza社)を95℃のインキュベーターで15分以上加熱した。その加熱後のAgarose SPを、1.0wt% agarose, 5wt% NaCl, 0.1M NaAc(pH4.5)に調整した。それを、最大容量400μLの円筒状容器(Nunc製)の側面を平面に加工した自作容器に45μLずつ分注し、プレート遠心機(PlateSpin(商品名),KUBOTA(久保田商事株式会社))により2500rpmで30分間遠心した後、4℃のインキュベーターで24時間静置した。その後、前記自作容器中のゲルを、前記自作容器ごと20℃のインキュベーターに移し、更に1時間以上静置した。そのゲル上に、前記タンパク質の過飽和水溶液を分注し、15分静置した。静置後、ゲル−溶液界面近傍のゲル側(ゲル中)に、フェムト秒レーザー(波長800nm, パルス時間幅182fs, エネルギー30μJ/pulse)を対物レンズ(×10, OLYMPUS(オリンパス株式会社))で1pulse集光照射した(照射方向は界面と平行)。動画撮影は2μs/frameで行った。その結果、図27に示すように、気泡が発生し崩壊していくキャビテーション挙動の中で、透明なゲルに向かって染色した溶液が流れ込んでいく様子が確認できた。これはゲル中にタンパク質が注入された(移動した)ことを明確に示している。また、レーザー光照射位置を、ゲル−溶液界面近傍の溶液側(溶液中)とする以外は同様にしたところ、図9下段(参考例4)と同様、壁(本実施例ではゲル−溶液界面)に気泡が衝突して崩壊した。このとき、溶液中のタンパク質が気泡とともに移動し、気泡がゲル−溶液界面に衝突して崩壊した後に、前記溶液中のタンパク質がゲル中に移動したのが確認された。
以上説明したとおり、本発明によれば、簡便かつ効果的に目的物質の高濃度化ができる目的物質移行方法、結晶製造方法、組成物製造方法、目的物質移行装置を提供可能である。本発明は、例えば、タンパク質、核酸等の生体物質、有機低分子化合物、機能性有機高分子化合物等の結晶化、または、これらの物質を高濃度で含む組成物の製造等に利用できるが、これらに限定されず、広範な技術分野に適用可能である。
1 フェムト秒レーザー
2 グリーンレーザー
3 容器
4 レンズ
5 ビームスプリッター
6、7 ダイクロイックミラー
8 シャッター
9 赤外光遮断フィルター
10 フォトディテクター
11 ファンクションジェネレーター
12 CCDカメラ
13 ストロボ光源
14 対物レンズ
101 第1の相
102 第2の相
103 目的物質
104 レーザー光
105 気泡の移動方向
106 目的物質の高濃度領域
241 結晶製造(育成)容器
242 ウェル
243 ゲル
244 パラセタモール水溶液
261 有機低分子溶液
262 ゲル
263 レーザー光
264 集光点
265 パラセタモール(有機低分子化合物)結晶

Claims (15)

  1. 目的物質を含む液相または固相から形成された第1の相中の前記目的物質を、液相または固相である第2の相中に移行させる方法であって、
    前記第1の相と前記第2の相とを近接させる相近接工程と、
    前記第1の相と前記第2の相との境界の近傍に気泡を発生させて崩壊させる気泡崩壊工程とを含むことを特徴とする方法。
  2. 前記目的物質が、有機物質である請求項1記載の方法。
  3. 前記有機物質が、タンパク質、天然タンパク質、人工タンパク質、ペプチド、天然ペプチド、人工ペプチド、核酸、天然核酸、人工核酸、脂質、天然脂質、人工脂質、糖鎖、天然糖鎖、人工糖鎖、有機高分子化合物、有機低分子化合物、生体物質、生体高分子化合物および生体低分子化合物からなる群から選択される少なくとも一つである請求項2記載の方法。
  4. 前記相近接工程が、前記第1の相と前記第2の相とを接触させて界面を形成させる界面形成工程である請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記気泡崩壊工程が、前記界面近傍に気泡を発生させて前記界面に衝突させる気泡衝突工程である請求項4記載の方法。
  6. 前記気泡崩壊工程において、前記第1の相と前記第2の相との境界の近傍にレーザー光および超音波の少なくとも一方を照射することにより、前記気泡を発生させる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記レーザー光および超音波の照射エネルギーの総和が、60nJ以上である請求項6記載の方法。
  8. 前記気泡崩壊工程において、前記第1の相と前記第2の相との境界の近傍にレーザー光を集光することにより、前記気泡を発生させ、前記レーザー光の集光点から前記第2の相における前記第1の相側表面までの距離が、前記気泡の最大半径の4倍以下である請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 前記第2の相が、固相、ゲル、液相、油相、水相、またはタンパク質膜である請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 結晶の製造方法であって、
    結晶化の目的となる目的物質を移行する目的物質移行工程と、結晶析出工程とを含み、
    前記目的物質移行工程が、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法により、前記目的物質を前記第1の相中から前記第2の相中に移行させる工程であり、
    前記結晶析出工程が、前記目的物質移行工程後、前記第2の相の内部または界面で前記目的物質の結晶を析出させる工程であることを特徴とする製造方法。
  11. 前記目的物質移行工程および前記結晶析出工程の少なくとも一方において、前記第1の相および前記第2の相の少なくとも一方を撹拌する、請求項10記載の製造方法。
  12. 組成物の製造方法であって、
    目的物質移行工程を含み、
    前記目的物質移行工程が、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法により、前記目的物質を前記第1の相中から前記第2の相中に移行させる工程であり、
    前記組成物が、前記第2の相中に前記目的物質を含む組成物であることを特徴とする製造方法。
  13. 目的物質を含む液相または固相から形成された第1の相中の前記目的物質を、液相または固相である第2の相中に移行させる装置であって、
    前記第1の相と前記第2の相とを近接させる相近接手段と、
    前記第1の相と前記第2の相との境界の近傍に気泡を発生させて崩壊させる気泡崩壊手段とを含むことを特徴とする装置。
  14. 前記相近接手段が、前記第1の相と前記第2の相とを接触させて界面を形成させる界面形成手段である請求項13記載の装置。
  15. 前記気泡崩壊手段が、前記界面近傍に気泡を発生させて前記界面に衝突させる気泡衝突手段である請求項14記載の装置。
JP2012553760A 2011-01-18 2012-01-18 目的物質移行方法、結晶製造方法、組成物製造方法、目的物質移行装置 Pending JPWO2012099180A1 (ja)

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2011008320 2011-01-18
JP2011008320 2011-01-18
PCT/JP2012/051002 WO2012099180A1 (ja) 2011-01-18 2012-01-18 目的物質移行方法、結晶製造方法、組成物製造方法、目的物質移行装置

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JPWO2012099180A1 true JPWO2012099180A1 (ja) 2014-06-30

Family

ID=46515802

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2012553760A Pending JPWO2012099180A1 (ja) 2011-01-18 2012-01-18 目的物質移行方法、結晶製造方法、組成物製造方法、目的物質移行装置

Country Status (4)

Country Link
US (1) US9751068B2 (ja)
EP (1) EP2659962B1 (ja)
JP (1) JPWO2012099180A1 (ja)
WO (1) WO2012099180A1 (ja)

Families Citing this family (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US10775322B2 (en) * 2015-06-16 2020-09-15 Arizona Board Of Regents On Behalf Of Arizona State University Inert crystal delivery medium for serial femtosecond crystallography
US11414777B2 (en) * 2019-07-23 2022-08-16 New York University Systems and methods for continuous-flow laser-induced nucleation
WO2022134000A1 (zh) * 2020-12-25 2022-06-30 深圳晶泰科技有限公司 连续激发结晶的方法及系统
CN113521791A (zh) * 2021-06-23 2021-10-22 福建江夏学院 一种光电半导体薄膜的超声波振荡制备装置

Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2005168495A (ja) * 2003-11-17 2005-06-30 Japan Science & Technology Agency 細胞外物質の細胞内への導入方法
WO2006104048A1 (ja) * 2005-03-25 2006-10-05 Hamano Life Science Research Foundation 微小粒子の配置方法

Family Cites Families (12)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH02298303A (ja) * 1989-05-11 1990-12-10 Power Reactor & Nuclear Fuel Dev Corp 粉末中の水溶性物質の抽出方法
US6066229A (en) 1997-07-10 2000-05-23 Sony Corporation Method of recycling disk recording medium and apparatus for recovering metal reflective film
JPH1134057A (ja) * 1997-07-22 1999-02-09 Sony Corp ディスク状の情報記録媒体のリサイクル方法
JP3621283B2 (ja) 1999-03-05 2005-02-16 日本原子力研究所 高分子固体中における微小領域への有機分子注入法
CA2493335A1 (en) 2002-07-30 2004-02-12 Kurt Hoffmann Protein crystallization method
TW200403362A (en) 2002-08-26 2004-03-01 Osaka Ind Promotion Org Process for producing crystalline nucleus and method of screening crystallization conditions
JP4354457B2 (ja) 2003-05-27 2009-10-28 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 生体高分子結晶生成装置及び方法
CN1878602A (zh) 2003-11-28 2006-12-13 三菱化学株式会社 有机化合物微粒的制造方法
JP2005177746A (ja) * 2003-11-28 2005-07-07 Mitsubishi Chemicals Corp 有機化合物微粒子の製造方法
JP2009096663A (ja) * 2007-10-16 2009-05-07 Teruki Sugiyama 結晶生成方法および結晶成長制御方法
JP5466361B2 (ja) 2007-11-28 2014-04-09 学校法人慶應義塾 晶析方法及び晶析装置
JP5351771B2 (ja) 2008-01-17 2013-11-27 株式会社創晶 結晶製造方法、凍結結晶製造方法、結晶、結晶構造解析方法、結晶化スクリーニング方法、結晶化スクリーニング装置

Patent Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2005168495A (ja) * 2003-11-17 2005-06-30 Japan Science & Technology Agency 細胞外物質の細胞内への導入方法
WO2006104048A1 (ja) * 2005-03-25 2006-10-05 Hamano Life Science Research Foundation 微小粒子の配置方法

Non-Patent Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
JPN6014027956; 倉田将輝ら: '溶液ゲル化によるフェムト秒レーザー誘起タンパク質結晶核発生技術の高度化' 第57回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集 , 201003, 04-304 *
JPN6014027957; 村井良多ら: '高粘性液体中でのフェムト秒レーザー誘起タンパク質結晶核発生' 第56回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集 , 2009, 1354頁 *
JPN7014002017; Evelyne Zeira et al.: 'Femtosecond infrared laser-an efficient and safe in vivo gene delivery system for prolonged expressi' Mokecular therapy vol.8,no.2, 2003, 342-350 *
JPN7014002018; Makoto Ogura et al.: 'Delivery of photosensitizer to cells by the stress wave induced by a single nanosecond pulse' The Japan society of applied physics part 2, no.8A, 2003, L977-L979 *

Also Published As

Publication number Publication date
EP2659962A1 (en) 2013-11-06
US9751068B2 (en) 2017-09-05
WO2012099180A1 (ja) 2012-07-26
EP2659962B1 (en) 2018-08-29
EP2659962A4 (en) 2017-07-19
US20130299099A1 (en) 2013-11-14

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP4029987B2 (ja) 結晶核の製造方法および結晶化条件スクリーニング方法
Khurshid et al. Porous nucleating agents for protein crystallization
Yoshikawa et al. Laser ablation for protein crystal nucleation and seeding
JP5351771B2 (ja) 結晶製造方法、凍結結晶製造方法、結晶、結晶構造解析方法、結晶化スクリーニング方法、結晶化スクリーニング装置
Vivarès et al. Quantitative imaging by confocal scanning fluorescence microscopy of protein crystallization via liquid–liquid phase separation
WO2012099180A1 (ja) 目的物質移行方法、結晶製造方法、組成物製造方法、目的物質移行装置
Svitkina Electron microscopic analysis of the leading edge in migrating cells
JP2010220618A (ja) タンパク質の結晶化法
Cuttitta et al. Acoustic transfer of protein crystals from agarose pedestals to micromeshes for high-throughput screening
Opara et al. Direct protein crystallization on ultrathin membranes for diffraction measurements at X-ray free-electron lasers
Barber et al. Laser-induced nucleation promotes crystal growth of anhydrous sodium bromide
JP5747388B2 (ja) 結晶化用容器、結晶化装置、結晶の製造方法、及び、結晶化用基板
JP2003306497A (ja) 巨大分子結晶の製造方法及びそれに用いる製造装置
JP2007254415A (ja) 巨大分子結晶及びその製造方法並びにそれに用いる製造装置
JP5833127B2 (ja) 無機または有機物質の結晶化装置および方法
Thippeshappa et al. Effect of biocompatible nucleants in rapid crystallization of natural amino acids using a CW Nd: YAG laser
US9987610B2 (en) Crystallization substrate, crystallization container, crystallization device, and crystal producing method
JP2009096663A (ja) 結晶生成方法および結晶成長制御方法
Shilpa et al. Effect of nucleants in photothermally assisted crystallization
Dimitrov Crystal nucleation from solutions of proteins with temperature-independent solubility: a case study of apoferritin
Candoni et al. Nanotechnologies dedicated to nucleation control
JP2010001220A (ja) 生体高分子結晶の製造方法
Zhang et al. Precipitants and additives for membrane crystallization of lysozyme
JP2010013420A (ja) 生体高分子結晶の製造方法
JP2008528559A (ja) 生体高分子の結晶化条件を検査するための方法と用具セット

Legal Events

Date Code Title Description
A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20140702

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20140826

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20150312