本発明は、不要な回折光の発生と光損失を抑制し、広角で高い解像力を有する回折レンズ、およびこれを用いた撮像装置に関する。
非球面レンズよりも高い撮像性能が得られるレンズとして、非球面レンズの表面に同心円状の回折格子形状部を設けた回折レンズが知られている。回折レンズでは、非球面レンズの屈折効果に回折効果を重畳することにより、色収差や像面湾曲等の各種収差を格段に低減することが可能である。断面がブレーズ状、もしくはブレーズに内接する細かい階段状の回折格子形状部を用いれば、単一波長に対する特定次数の回折効率をほぼ100%にすることができる。
図9に示すように、屈折率n(λ)の基材91の表面に形成されたブレーズ状の回折格子形状部92を考える。理論上、波長λで、回折格子形状部に垂直に入射する光線93に対してm次回折効率(mは整数)が100%となる回折格子形状部の回折段差dは次式で与えられる。ここで、屈折率「n(λ)」は、屈折率が波長の関数であることを表す。
(数1)からわかるように、波長λの変化とともに、m次の回折効率が100%となるdの値も変化する。以下、mを1として1次の回折効率について述べることとするが、mは1に限定されるものではない。
図10は、回折段差が0.93μmのポリカーボネートからなる回折格子形状部に垂直に入斜する光線の1次回折効率を示している。(数1)を用い、波長550nmで回折格子形状部の回折段差dを設計しているため、1次回折光の回折効率は波長550nmにおいてほぼ100%となる。1次回折効率には波長依存性が存在し、波長400nmでは1次回折効率は50%程度となる。1次回折効率が100%から低下した分、0次や2次、あるいは−1次といった不要な回折光が発生する。
図9に示すようなブレーズ状の回折格子形状部が表面に同心円状に形成された非球面の回折レンズに、可視光域全域(波長400〜700nm)の光を入射させると、フレアが顕著に目立つカラー画像が得られる。このフレアは、被写体像の結像に利用される1次回折光以外の不要な回折光によるものである。特に、被写体と背景との輝度の差が大きいほどフレアが顕著になる。
このようなフレアの発生によって、図9に示す回折格子の撮像用途は限定され、背景に対して輝度が高くない被写体の撮影や、高い解像度を必要としない撮影などにとどまっていた。このように、従来の用途は、非球面レンズよりも高い撮像性能を潜在的に有する回折格子の効果を十分に引き出せるものではなかった。
このような回折レンズを用いてフレアの少ないカラー画像を得るために、特定次数の回折効率の波長依存性を低減する提案がなされている(例えば特許文献1)。図11に、特許文献1に開示された回折光学素子を示す。特許文献1には、基材111に形成された回折格子形状部112を覆うように保護膜113を塗布、接合することが開示されている。
この場合、回折格子形状部112に垂直に入射する光線(入射角θ=0°)に対する1次回折効率が100%となる回折格子形状部の回折段差d´は次式で与えられる。
ここで、λは波長、mは回折次数、n1(λ)は基材材料の屈折率、n2(λ)は保護膜材料の屈折率である。(数2)の右辺が、ある波長帯域で一定値になれば、その波長帯域でのm次回折効率の波長依存性がなくなる。このような条件は、基材および保護膜を、高屈折率高アッベ数材料および低屈折率低アッベ数材料の適切な組み合わせで構成した場合に満たされる。基材と保護膜に適当な材料を用いることにより、可視光域全域で垂直入射光に対する回折効率を95%以上にすることが可能である。なお、この構成においては基材の材料と保護膜の材料が入れ替わってもかまわない。また、回折格子形状部の回折段差の高さd´は、(数1)で示した保護膜のない回折格子形状部の回折段差の高さdよりも大きくなる。
図11に示す回折レンズでは、1次回折光以外の不要な回折光が少ないため、図9の回折レンズで問題であったフレアがほとんど発生せず、解像度の高い良好な画像が得られる。
このように、図11に示すようなブレーズ状の回折格子形状部を非球面レンズの表面に設ければ、解像度の高い画像が得られる点で非常に有効である。以下、撮像を主用途として用いる回折レンズを特に回折撮像レンズと呼ぶことにする。
しかしながら本願発明者の検討によれば、図11に示す回折撮像レンズでは次のような問題点が生じる。
図11に示す回折撮像レンズを、画角の小さなカメラレンズ、例えば望遠レンズ等に適用した場合には、図9の回折撮像レンズと比較すると非常に鮮明な画像が得られる。その一方で、図11に示す回折撮像レンズを広角レンズとして用いたカメラでは、フレアが発生し、画像のコントラストが大幅に悪化する。また、画角の大きい画像において周辺の画像が暗くなることによって、画像中央と画像周辺とでは、明るさの著しい差が生じる。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、不要な回折光を低減することによって、フレアの発生を抑制することができ、広角レンズとして用いても周辺部の画像の明るさを確保することができる回折レンズと、それを用いた撮像装置とを提供することにある。
本発明の回折レンズは、第1の非球面形状に沿って、光軸側から順に複数の第1の回折段差と第1の滑面とが設けられた面を有するレンズ基材と、前記レンズ基材の前記第1の回折段差と前記第1の滑面とが設けられた面を覆い、かつ、第2の非球面形状に沿って、光軸側から順に第2の滑面と複数の第2の回折段差とが設けられた面を有する保護膜と、を有し、前記第2の回折段差は、前記第1の回折段差よりも光軸から遠い位置に配置され、かつ、前記第1の回折段差よりも高さが小さく、前記レンズ基材の材料と前記保護膜の材料とのうち、いずれか一方の材料は、他方の材料よりも屈折率が高く、かつアッベ数が大きい性質を有する。
本発明の他の回折レンズは、複数の第1の回折段差が設けられた面を有するレンズ基材と、前記レンズ基材の、前記第1の回折段差が設けられた面を覆う保護膜と、を有し、撮像に用いられる回折レンズであって、前記保護膜は、前記第1の回折段差よりも前記回折レンズの光軸から遠い位置に配置され、かつ、前記第1の回折段差よりも高さの小さい複数の第2の回折段差を表面に有し、前記レンズ基材の材料と前記保護膜の材料とのうち、いずれか一方の材料は、他方の材料よりも屈折率が高く、かつアッベ数が大きい性質を有する。
本発明の撮像装置は、回折レンズを有する光学系と、前記光学系を通過した被写体からの光を電気信号に変換する固体撮像素子とを備える撮像装置であって、前記回折レンズは、複数の第1の回折段差が設けられた面を有するレンズ基材と、前記レンズ基材の、前記第1の回折段差が設けられた面を覆う保護膜とを有し、前記保護膜は、前記第1の回折段差よりも前記回折レンズの光軸から遠い位置に配置され、かつ、前記第1の回折段差よりも高さの小さい複数の第2の回折段差を表面に有し、前記レンズ基材の材料と前記保護膜の材料とのうち、いずれか一方の材料は、他方の材料よりも屈折率が高く、かつアッベ数が大きい性質を有し、前記固体撮像素子は、前記第1の回折段差に入射した光及び前記第2の回折段差に入射した光を、同一の撮像面において受光し前記電気信号に変換する。
本発明によると、第2の回折段差に入射する光の1次回折効率を高くすることができるため、相対的に大きな入射角でレンズに入射する光の1次回折効率を高めることができ、1次回折光以外の不要な回折光を少なくすることができる。
これにより、本発明による回折レンズを広角レンズとして用いた撮像装置では、不要な回折光が原因となるフレアの発生を抑制することができ、画像のコントラストの悪化を回避できる。また、大きな入射角で入射する光の損失が少ないため、画像周辺部の明るさを確保することができる。
本発明による実施形態の回折撮像レンズ11を示す断面図
第1の回折格子形状部20へ垂直に入射する光線に対する1次回折効率の波長依存性を示すグラフ
図1に示した本実施形態の回折撮像レンズ11を用いた撮像装置を示す図
図3に示す2枚組撮像光学系の色収差、像面湾曲量を示す図
図3に示す撮像装置において、回折撮像レンズ11と絞り32とを通過する光線を表した図
入射角0°で回折撮像レンズに入射する光について、回折段差の高さに対する1次回折効率のシミュレーション結果を示す図
入射角5°で回折撮像レンズに入射する光について、回折段差の高さに対する1次回折効率のシミュレーション結果を示す図
入射角10°で回折撮像レンズに入射する光について、回折段差の高さに対する1次回折効率のシミュレーション結果を示す図
従来の回折格子形状部を示す図
従来の回折格子における1次回折効率の波長依存性を示すグラフ
従来における保護膜で覆われた回折格子形状部を示す図
以下、図面を参照しながら、本発明による回折撮像レンズおよび撮像装置の実施形態を説明する。なお、本発明は以下に説明する具体的な例に限定されない。
図1は、本発明による実施形態の回折撮像レンズ11を示す断面図である。本実施形態の回折撮像レンズ11は、レンズ基材15と、保護膜14とを備えている。レンズ基材15は、被写体側に位置する第1面12と、結像側に位置する第2面13とを有し、第2面13には、輪帯状の第1の回折格子形状部20が形成されている。保護膜14はレンズ基材15の第2面を覆うように形成されており、結像側の表面に第3面16を有している。第3面16には、輪帯状の第2の回折格子形状部21が、第1の回折格子形状部20よりも光軸10から遠い位置に形成されている。(第1の回折格子形状部20は、第2の回折格子形状部21よりも光軸10から近い位置に形成されている。)
第1、第2の回折格子形状部20、21は、それぞれ複数形成されている。第1の回折格子形状部20は、第1面(回折段差面)20aと第2面20bとから構成される。第1面20aは、光軸10に対してほぼ平行に配置される。第2面20bは、1つの第1の回折格子形状部20における第1面20aの上端と、その内側に配置される第1の回折格子形状部20における第1面20aの下端とを結ぶ面である。それぞれの第1面20aの回折段差は、光軸を中心とした同心円状に配置される。
同様に第2の回折格子形状部21も、第1面(回折段差面)21aと第2面21bとから構成される。第1面21aは、光軸10に対してほぼ平行に配置される。第2面21bは、1つの第2の回折格子形状部21における第1面21aの上端と、その外側に配置される第2の回折格子形状部21における第1面21aの下端とを結ぶ面である。第1の回折格子形状部20における第2面20bが内側(光軸側)を向いているのに対して、第2の回折格子形状部21における第2面21bは外側を向いている。それぞれの第1面21aの回折段差は、光軸を中心とした同心円状に配置される。
回折撮像レンズ11の基材15の材料と保護膜14の材料とのうち、いずれか一方の材料は、他方の材料よりも高い屈折率を有し、かつ波長分散性が低い(アッベ数が大きい)性質を有する。このような性質を有することによって、1次回折効率が最大となるd´が使用波長によらず一定となる。例えば、基材15のほうに低屈折率高波長分散材料を用い、保護膜14のほうに高屈折率低波長分散材料を用いる場合には、基材15として、ポリカーボネート(d線屈折率1.585、アッベ数27.9)を用い、保護膜14として、アクリル系の紫外線硬化樹脂に粒径が10nm以下の酸化ジルコニウムが分散した樹脂(d線屈折率が1.623、アッべ数40)を用いればよい。
本実施形態において、第2の回折格子形状部21における回折段差の高さは、第1の回折格子形状部20における回折段差の高さよりも小さい。第1の回折格子形状部20は保護膜14によって覆われるため、その回折段差は(数2)によって表される。(数2)の右辺の分母は、保護膜14の屈折率から基材15の屈折率を引いた値である。一方、保護膜14の表面に形成された第2の回折格子形状部21の回折段差は(数1)によって表される。(数1)の右辺の分母は、保護膜14の屈折率である1.623から空気の屈折率1を引いた値である。基材15の屈折率は1より大きくなるため、(数2)の右辺の分母は、(数1)の右辺の分母よりも小さくなる。その結果、(数2)の回折段差の高さd´は(数1)の回折段差の高さdの値よりも大きくなる。
具体的には、保護膜14で覆われた第1の回折格子形状部20の回折段差の高さは14.9μmであり、このとき(数2)の関係が成り立つ。一方、第2の回折格子形状部21aの回折段差の高さは0.86μmである。波長が550nmのときに(数1)の関係から回折効率が100%になる回折段差の高さは0.88μmであるが、可視全域での回折効率を考慮して、これよりやや小さい回折段差の高さとしている。基材15は、第2面13に、レンズ設計によって決められた非球面形状の曲面を有しており、第1の回折格子形状部20は、この曲面を延長した第1の非球面形状13a上に設けられている。つまり、基材15の第2面13は、第1の非球面形状13aに沿って、第1の回折格子形状部20と、滑面とが設けられた面となっている。また、図1に示すように、第2面13は、光軸10側から順に、第1の回折格子形状20と滑面とが設けられている。なお、「滑面」とは、回折格子形状が設けられていない面のことを言う。以降本願明細書で使用する「滑面」は同一の意味である。
保護膜14も同様に、第3面16に、レンズ設計によって決められた非球面形状の曲面を有しており、第2の回折格子形状部21は、この曲面を延長した第2の非曲面形状16a上に設けられている。つまり、保護膜14の第3面16は、第2の非球面形状16aに沿って、第2の回折格子形状部21と、滑面とが設けられた面となっている。また、第3面16は、図1に示すように、光軸10側から順に、滑面と第2の回折格子形状21とが設けられている。
保護膜14が第3面16に有する曲面の非球面形状、つまり、第1の非球面形状13aと、基材15が第2面13に有する曲面の非球面形状、つまり、第2の非球面形状16aはほぼ同一としても良い。つまり、保護膜14は、光軸10と平行な方向にほぼ一定の厚さを有していてもよい。
回折格子形状部20、21のピッチは不等間隔であり、光軸10から遠くなるにつれて小さくなることが好ましい。なお、分かり易さを優先するため、図面には、回折格子形状部20の数やピッチ、相対的なサイズ、その他のレンズ形状を正確には示していない。
第1の回折格子形状部20へ垂直に入射する光線に対する1次回折効率は図2に示すような波長依存性を示す。図2から、波長400〜700nmの可視光域全域にて1次回折効率が95%以上の値を示すことがわかる。
保護膜14の形成方法としては金型による成形が適している。金型成形面には図1において保護膜が有する第3面16の反転形状を設けておく。実際には保護膜14の硬化時の収縮率を考慮して金型形状を拡大しておいてもよい。このような金型による成形を用いれば比較的簡単に、高精度、短時間で保護膜14を形成することができる。
また、基材15表面に設けられた輪帯状の第1の回折格子形状部20と、保護膜14表面に設けられた輪帯状の第2の回折格子形状部21は、それぞれの輪帯中心が略同一であることが望ましい。すなわち、像面側からみて第1の回折格子形状部20と第2の回折格子形状部21が同心円上に設けられることが望ましい。輪帯中心のずれが20μm以上となるとレンズの撮像性能に影響を及ぼす。第2の回折格子形状部21を表面に有した保護膜14を金型で成形する場合には、第1の回折格子形状部20に対する中心ずれを10μm以下にすることは比較的容易である。
ここで、(数3)は、光軸に垂直なx−y平面における断面形状を示し、実際のレンズ面は(数3)をx−y平面に垂直なz軸(光軸)の周りに回転させたものである。cは中心曲率、A、B、C、D、Eは2次曲面からのずれを表す係数である。係数はEまでとれば十分であるが、それ以上の次数で構成してもよいし、逆に、それ以下でもよく任意である。また、Kの値によって、以下に示すような非球面となる。
0>Kの場合、短径を光軸とする楕円面
K=0の場合、球面
−1<K<0の場合、長径を光軸とする楕円面
K=−1の場合、放物面
K<−1の場合、双曲面
また、回折撮像レンズ11の回折面は、位相関数法を用いて設計している。位相関数法は、レンズ面に回折格子があると仮定し、その面で、(数4)で表される波面の位相変換を行う。最終的に、レンズ形状は先に述べた非球面形状と回折格子形状部との和として決定される。
ただし、φは位相関数、Ψは光路差関数、hは径方向の距離、a2、a4、a6、a8、a10は係数である。係数はa10までとれば十分であるが、それ以上の次数で構成してもよいし、逆に、それ以下の次数までで構成してもよく、任意である。回折次数は1次である。なお、設計波長λについてはレンズの使用波長の中央値などを用いればよい。
本実施形態の回折レンズは図1に示すように基材15の結像側に位置する第2面13により、非球面形状が決定される。本来、回折格子形状部は、(数4)の位相多項式を用いて、光軸と垂直な同一平面上または、光軸を回転軸とした同一非球面上に配置されるものであるが、本発明では、第1、第2の回折格子形状部はそれぞれ別の非球面上に配置されている。つまり、第1、第2の回折格子形状部は、互いに、光軸方向に保護膜14の膜厚分(ここでは約30μm程度)ずれている。しかし、このずれが撮像性能に及ぼす影響はほとんどなく、考慮する必要はない。
実際の製造工程では、位相関数をもとに、材料の屈折率差と設計波長から回折格子のサグ量を求め、非球面形状の表面に回折格子を形成する。例えば、位相関数から回折格子形状部の変換としては、mを回折次数とするとき、2mπごとに回折段差を設けることが行われている。基材15の屈折率又は、保護膜14の屈折率と、回折格子形状部が接する媒質の屈折率との大小関係に応じて、(数4)の位相関数の符号を変えて回折格子形状部の形状変換を行う。基材15表面に設けられた第1の回折格子形状部20と保護膜14表面に設けられた第2の回折格子形状部21とは同一の位相関数に基づいて形成される。
本実施形態では、第1の回折格子形状部20は保護膜14に接しており、基材15の屈折率の方が保護膜14の屈折率よりも低いため、(数4)の位相関数に1を乗算してから基材15の回折格子形状部20の形状変換を行う。その一方で、第2の回折格子形状部21は空気層に接しており、保護膜14の屈折率の方が空気層の屈折率よりも高いため、(数4)の位相関数に−1を乗算してから保護膜14の回折格子形状部21の形状変換を行う。これにより、図1に示す本実施形態の回折撮像レンズ11は、集光パワーが正の回折面を有し、第1の回折格子形状部20のそれぞれにおいて、第1面20a、すなわち回折段差面は、第2面20bよりもレンズの外周部側に設けられているのに対して、第2の回折格子形状部21のそれぞれにおいて、第1面21a、すなわち回折段差面は、第2面21bよりもレンズの光軸10側に設けられている。いずれの第1面20a、21a(回折段差面)も、回折次数が1次の回折光で結像する際には2πごとに設ける。位相関数は、光軸からの距離rに対する波面の光軸方向における位相分布であり、位相関数によって求められた第1面20a、21a(回折段差面)すべてが光軸と平行になる。図1に示すように、ブレーズ状の回折格子形状部において、第1面20a、21a(回折段差面)は非球面形状13a、16a上に設けられており、この非球面形状13a、16aも考慮して、第1面20a、21aが光軸と平行になるように設計される。
本実施形態において、保護膜14の屈折率の方が基材15の屈折率よりも高くてもよい。この場合、基材15の回折格子形状部20および保護膜14の回折格子形状部21の形状変換を、共に、(数4)の位相関数に−1を乗算してから行う。その結果、第1の回折格子形状部20のそれぞれにおいて、第1面20a、すなわち回折段差面は、第2面20bよりもレンズの光軸10側に設けられ、第2の回折格子形状部21のそれぞれにおいて、第1面21a、すなわち回折段差面は、第2面21bよりもレンズの光軸10側に設けられる。
本実施の形態の回折撮像レンズにおいて、被写体側の第1面12の非球面係数と撮像素子側の第2面13及び第3面16の非球面係数および位相係数を以下に示す。本実施形態では、第2面13の非球面形状13aと第3面16の非球面形状16aは同一としている。つまり、保護膜14は、光軸10と平行な方向にほぼ一定の厚さを有している。なお、mは回折次数である。
(第1面の非球面係数)
K=−0.796834
A=−0.00670146
B=0.0380988
C=−0.0364111
D=0.0132840
E=5.82320e−016
(第2面及び第3面の非球面係数)
K=3.749992
A=0.0670042
B=−0.0758092
C=0.0621387
D=−0.0152972
E=5.824155e−016
(第2面及び第3面の位相係数)
m=1
設計波長λ=538nm
a2=−0.0256517
a4=−0.0252208
a6=0.0497239
a8=−0.0376587
a10=0.00965820
図3は、図1に示した本実施形態の回折撮像レンズ11を用いた撮像装置を示す図である。
本実施形態の撮像装置は、回折撮像レンズ11と、回折撮像レンズ11の被写体側に配置されたガラス材料からなる凹レンズ33とを有する2枚組撮像光学系を有する。回折撮像レンズ11の被写体側には、凹レンズ33からの光を受ける絞り32が配置されている。なお、図3には、回折撮像レンズ11における回折格子形状部の図示は省略している。一方、回折撮像レンズ11の絞り32(被写体)と反対側には、カバーガラス34と、固体撮像素子35とが配置される。
以下に、本実施形態における2枚組撮像光学系の数値データを示す。なお、以下のデータにおいて、Ωは全画角、FnoはFナンバー、Lは光学長(凹レンズ被写体側面頂から結像面までの距離)、fは焦点距離、hは最大像高、Rは面の曲率半径[mm]、tは面間隔(光軸上の面中心間距離)[mm]、ndは基材のd線での屈折率、νdは基材のd線でのアッベ数を表す。面番号1、2、3、4、5、6、7はそれぞれ、凹レンズ被写体側面、凹レンズ結像側面、絞り、回折撮像レンズ被写体側面、回折撮像レンズ結像側面、カバーガラス34被写体側面、カバーガラス34結像側面である。なお、本実施形態の回折撮像レンズ11における第1面12は面番号4、第3面16は面番号5にあたる。
Ω=150°
Fno=2.8
L=10.4mm
f=1.9004mm
h=2.25mm
上記有効焦点距離fは、波長550nmのときのものである。
本実施形態の撮像装置では、被写体からの光は凹レンズ33に入射する。凹レンズ33は、高画角から大きな角度で入射する光線の傾斜角度を、高い屈折力によって屈折して、光軸に対しゆるやかにする。凹レンズ33によって、レンズ系全体としての収差を低減することができる。凹レンズ33によって屈折された光は、絞り32を介して回折撮像レンズ11に入射する。本実施形態では、第1、第2の回折格子形状部20、21に共に被写体からの光が入射するため、第1の回折格子形状部20に入射する光の波長帯域と第2の回折格子形状部20に入射する光の波長帯域とは同一である。回折撮像レンズ11から射出した光は、カバーガラス34を透過して固体撮像素子35上で像として観測される。図3に示すように、固体撮像素子35は、回折撮像レンズ11のうち第1の回折格子形状部20から射出した光および第2の回折格子形状部21から射出した光を、同一の撮像面において受光し、電気信号に変換する。固体撮像素子35により検出された電気信号は、被写体像を生成する演算回路(図示せず)にて画像化される。
レンズで発生する収差を低減するためには、レンズ面に入射する光線の入射角、屈折角を小さくすることが望ましい。回折撮像レンズ11に正のパワーを有する回折格子を付加することにより、屈折系で発生するレンズの色収差を補正することができる。
凹レンズ33は、被写体側の面が凸形状である、いわゆるメニスカス凹レンズであることが望ましい。凹レンズ33がメニスカス凹レンズであることによって、凹レンズ33に高画角から入射する光線の入射角度を小さくすることができ、表面での反射ロスを低減することができるためである。高画角から入射する光線の入射角度を小さくするためには、凹レンズ33が高い屈折力(屈折率)を有することが好ましい。
図4は、図3に示す撮像装置の2枚組撮像光学系の色収差および像面湾曲量を表す図であり、それぞれ球面収差図と非点収差図である。球面収差図において、横軸は光軸方向の距離、縦軸は光線が入射瞳に入る高さで、光線が光軸と交わる位置をプロットしたものである。ここで、CはC線(656.27nm)、dはd線(587.56nm)、gはg線(435.83nm)であり、これらの結像位置の差が軸上色収差量である。
一方、非点収差図において、横軸は光軸方向の距離、縦軸は像の高さである。したがって、縦軸からの距離が各像高における像面湾曲収差量である。ここで、Tはタンジェンシャル、Sはサジタルを表し、それぞれ、点線、実線で示す。
図4の非点収差図から、高画角においても色収差が補正されていることが確認できる。本実施形態における光学系と同様の性能の光学系を構築するには、少なくとも3枚以上の非球面レンズが必要であることから、回折撮像レンズの導入により、レンズ枚数の削減や小型、高性能化が図れる。
次に、本実施形態の回折撮像レンズ11の回折段差および回折効率について詳細に説明する。回折撮像レンズ11における第2面13及び第3面16に形成された同心円状の回折段差の総本数は91本である。
図5は、図3に示す撮像装置において、回折撮像レンズ11と絞り32とを通過する光線を表した図である。図5では、回折撮像レンズ11の第3面16における回折格子形状部の図示を省略している。
本光学系の画角は150°であるので、図3における凹レンズ33では、光軸となす角(半画角ω)として−75°から75°の範囲の光線を取り込み、撮像素子35上に結像している。図5において、絞り32に通る光線に着目したとき、同じ画角で入ってきた光であっても、絞り32のどの位置を通るかによって、光軸となす角が異なっている。図5では、75°の半画角で凹レンズに入射した光線を図示しているが、絞り32の中央を通る光線(主光線)51a、紙面内の絞り上端を通る光線51b、および紙面内の絞り下端を通る光線51cでは、絞り32を通過するときに光軸10となす角度は異なり、それぞれ28.9°、35.1°、19.9°となっている。同様に、回折撮像レンズ11の第1面12、第3面16に入射する角度も異なる。
次に、回折撮像レンズ11の第2面13、及び、第3面16について述べる。図1に示したように、基材15が結像側に有する第2面13には、輪帯状の第1の回折格子形状部20が形成されており、保護膜14が結像側の表面に有する第3面16には、輪帯状の第2の回折格子形状部21が形成されている。第2の回折格子形状部21は、第1の回折格子形状部20よりも光軸10から遠い位置に設けられている。
回折撮像レンズ11の第2面13及び第3面16には、光軸10を中心とする同心円状の回折段差(回折撮像レンズ11における第1面20a、21a)が、合計91本存在する。その各回折段差について、光軸10から近い順に番号を付与し、これを回折段差番号と名付ける。(表2−1)、(表2−2)は、各回折段差番号に対して、光軸10からの距離(mm)、1つ回折段差番号が小さい回折段差との距離である回折段差のピッチ(μm)、半画角ωが−75°〜75°で光学系に入射する光線について、その番号の回折段差を通る光線が光軸となす角の値のうち、最小値θminと、その光線の半画角ωmin、および最大値θmaxと、その光線の半画角ωmaxを記載している。θ、ωはそれぞれ図5、図3に示している。
例えば、回折段差番号10の回折段差では、光軸10からの距離、すなわち回折輪帯の半径は0.4318mmであり、隣接する回折段差番号9との距離、すなわち回折段差のピッチは20.8μmである。この回折段差に通る光線の入射角θは−9°〜17°であり、θminである−9°のときの半画角ωは−31°、θmaxである17°のときの半画角ωは75°である。
このように、同じ回折段差に対して異なる入射角の光線が通過する。ここで、(数5)を用いて平均入射角θaveを定義する。
光軸10に垂直で均一な明るさの面状の被写体を考えたとき、レンズ入射瞳に入射する光束量は、半画角ωに対してcosωの4乗に比例する。すなわち半画角ωの絶対値が大きな光線ほどレンズに入射する光量が少なくなる。これを考慮し、ωmin、ωmax、およびその平均の(ωmin+ωmax)/2の3つの半画角に対して、cosωの4乗の重みをつけて平均入射角θaveを定義したのが(数5)である。
これは、異なる入射角で光線が回折格子形状部に入射していても、平均的な角度であるθaveでのみ入射している光線で置換して、その光線について回折効率が高くなる条件を明らかにすれば、最もフレアの少ない回折撮像レンズが得られるとの仮定に基づく。
回折段差番号10の回折段差においてθaveは−1.5°となり、この角度はほぼ光軸に平行である。回折段差番号が増えるにしたがって、θaveの値は大きくなる。つまり、回折段差の位置が光軸10から遠ざかるにしたがって、回折段差に対して入射する光線の平均的な角度は大きくなる。また、回折段差の位置が光軸10から遠ざかるにしたがって、回折段差のピッチも小さくなる。
回折格子形状部に対して光軸から傾いた光線が入ってきたときの回折効率を、電磁界解析の一つであるRCWA法を用い、回折ピッチをパラメータとしてシミュレーションを行った。
図6は、θ=0°、すなわち光軸と平行に入る光線に対する結果を示すグラフ図であり、(a)は、回折格子形状部の上に保護膜が形成された光学系、(b)は、回折格子形状部の上に保護膜が形成されていない光学系の結果を示す。このシミュレーションでは、(a)は回折格子形状部として、ポリカーボネート(d線屈折率1.585、アッベ数27.9)を用い、保護膜14としてアクリル系の紫外線硬化樹脂に粒径が10nm以下の酸化ジルコニウムを分散させた樹脂を用いた。一方、(b)は、回折格子形状部として、保護膜14と同じ材料である、アクリル系の紫外線硬化樹脂に粒径が10nm以下の酸化ジルコニウムを分散させた樹脂を用いた。
図6(a)、(b)では、横軸には回折段差の高さを、縦軸には1次回折効率をとり、回折ピッチが10、20、30、50μmのそれぞれの場合のシミュレーション結果が示されている。ここで、縦軸の1次回折効率は波長に重みをつけた加重平均として算出したものである。固体撮像素子を用いてカラー画像を生成する際、生成画像への赤、緑、青の各色光の寄与は異なる。一般に緑の輝度のウエイトが高くなる。例えば、図2に示した1次回折効率の波長依存性を求め、画像に寄与する度合いで重みをかけて平均的な1次回折効率を算出した。具体的な重み付けの値としては、656nmの波長を有する光を1、589nmの波長を有する光を4、546nmの波長を有する光を7、480nmの波長を有する光を5、405nmの波長を有する光を1とした。
回折格子形状部を保護膜14で覆った光学系では、図2に示すように回折効率が波長に依らず90%以上の値を示す(図2は、回折段差が14.9μmのときの測定結果を示す。)。しかしながら、図6(a)に示すように、ピッチが小さくなるにつれて1次回折効率が低下している。一方、回折格子形状部を保護膜で覆わない光学系についての図6(b)では、1次回折効率は、回折段差の高さには依存しているがピッチにはほとんど依存しないことがわかる。図6(a)より、回折格子形状部を保護膜14で覆った光学系における1次回折効率は、回折ピッチが10μm程度のときには、50%から85%までの範囲内の値となる。この範囲は、図6(b)を見ると、ほとんど回折格子形状部を保護膜で覆わない光学系の1次回折効率と変わらないことがわかる。
図7はθ=5°、図8はθ=10°としたときの1次回折効率と回折段差の高さとの関係を示す。図7(b)および図8(b)に示すように、回折格子形状部を保護膜で覆わない光学系の1次回折効率は、ともに図6(b)のθ=0°の場合の1次回折効率とほとんど変わりがない。
一方、図6(a)に示すグラフにおけるピーク値は、どのピッチにおいても図6(b)に示すピーク値よりも高い。図7(a)に示すグラフでは、ピッチが10μmのプロファイルのピーク値(81%程度)は、図7(b)におけるピッチが10μmのプロファイルのピーク値(85%程度)よりも小さい。図8(a)に示すグラフにおいても、ピッチが10μmのプロファイルのピーク値(67%程度)は、図8(b)におけるピッチが10μmのプロファイルのピーク値(85%程度)よりも小さい。さらに、図8(a)において、ピッチが10μmのプロファイルにおいて回折段差の高さが17μmのときの1次回折効率は、36%程度まで落ち込んでいるのに対して、図8(b)では、1次回折効率の最低値は47%程度である。このように、図8(b)では、図8(a)に示されるほどの1次回折効率の落ち込みは見られない。このように、入射角の大きな光が入射する回折格子に保護膜を設けた場合に1次回折効率が大きく落ち込むのは、保護膜を設けることによって回折段差を大きくする必要があるため、その段差面を横切ることによって設計通りの光路差を進まない光が増加し、所望の回折角で回折する光が減少するためであると考えられる。
以上の結果から、θがゼロのときには、どのピッチの回折段差であっても、回折格子形状部を保護膜によって覆ったほうが1次回折効率は高くなるが、θが5°以上になると、保護膜によって覆ったほうがよいかどうかは、回折段差のピッチに依存することがわかる。図7、図8において、ピッチが15〜20μm以下である場合には、保護膜によって覆わないほうが1次回折効率が高い。一方、ピッチが50μm以上である場合には、保護膜によって覆うほうが1次回折効率が高い。
第2の回折格子形状部21は第1の回折格子形状部20よりも光軸10から遠い位置に設けられるため、第2の回折格子形状部21に入射する光の平均の入射角は比較的大きい。また、第1、第2の回折格子形状部20、21のピッチは、光軸10から遠くなるにつれて小さくなり、第2の回折格子形状部21のピッチは、30μm以下となる。そのため、第2の回折格子形状部21を保護膜14の表面に設ける、つまり、保護膜で覆わないほうが、1次回折効率が高くなる。
本実施形態の回折撮像レンズ11は、(表1)に示すように、回折段差番号61以上で平均入射角θaveは5°以上となるが、回折ピッチを考慮して回折段差番号1から30(回折段差番号30より光軸側)の回折格子形状部は基材15上に設けられ、保護膜14で覆った構成とし、回折段差番号31から91(回折段差番号31より外側)の回折格子形状部は、保護膜14の表面に設けられた構成としている。以下に、その理由を具体的に説明する。(表1)から、回折段差番号61の回折段差のピッチは8.3μmである。θが5°の場合の1次回折効率を示す図7(a)において、ピッチ8.3μmに最も近いピッチ10μmのプロファイルは、回折段差の高さが13μmのときに1次回折効率が80%程度となるピークを有する。実際のピッチ8.3μmは10μmよりも小さいため、ピーク値は、82%よりもさらに小さい値と考えられる。一方、図7(b)において、ピッチ10μmのプロファイルは、回折段差の高さが0.9μmのときに1次回折効率が85%程度となるピークを有する。図7(b)に示すグラフでは、どのピッチにおいても1次回折効率は同様の挙動を示すため、ピッチ8.3μmの場合も、ピーク値は85%程度となると考えられる。この結果から、回折格子形状部を、基材15上に設けた構成、すなわち、保護膜14で覆われた構成とせずに、保護膜14表面に設けたほうが、回折段差番号61の回折格子形状部の1次回折効率を高くすることができる。このように、それぞれの回折段差番号において、どちらの場合に1次回折効率が高くなるか検討した結果、本実施形態では、回折段差番号31から91の回折格子形状部に保護膜を設けていない。
なお、回折段差番号1から30の回折段差の高さは14.9μmとし、回折段差番号31以降の回折段差の高さは、図7(b)において最も回折効率の高い0.9μmとしている。
本実施形態では、第1の回折格子形状部20における回折段差の高さを、光軸から離れるにしたがって小さくしてもよい。例えば、第1の回折格子形状部20の回折段差の高さを、14.9μmから13μmの範囲内で、光軸から離れるにしたがって小さくしていけばよい。図6(a)、図7(a)、図8(a)において、例えばピッチ20μmのプロファイルに着目すると、ピークとなるときの回折段差の高さは、図6(a)では15μm、図7(a)では13から15μmの間、図8(a)では13μmとなっている。この結果から、光の入射角度が大きくなれば、1次回折効率がピークとなる回折段差の高さは小さくなることがわかる。第1の回折段差形状20に入射する光の平均の入射角度は、光軸から離れるほど大きくなるため、第1の回折段差形状20の回折段差の高さを、光軸から離れるにしたがって小さくすれば、それぞれの第1の回折格子形状部20において、高い1次回折効率を実現することができる。
なお、第2の回折格子形状部21の回折段差の高さも、光軸から離れるにしたがって小さくしていってもよい。
本実施形態では、第1の回折格子形状部20を保護膜14によって覆い、第2の回折格子形状部21を保護膜14の表面に設けて空気と接触させることによって、第2の回折格子形状部21においても、1次回折効率を高くすることができ、1次回折光以外の不要な回折光を少なくすることができる。このように、相対的に大きな入射角でレンズに入射する光の1次回折効率を高めることができるため、回折撮像レンズ11を広角レンズとして用いても、不要な回折光が原因となるフレアの発生を抑制することができ、画像のコントラストの悪化を回避できる。また、大きな入射角で入射する光の損失が少ないため、画像周辺部の明るさを確保することができる。
図3に示す本実施形態の撮像装置では、2枚のレンズで高い解像度の広い範囲のカラー画像を得ることができる。このように、本実施形態の撮像装置では、従来よりもレンズ枚数を削減できるため、薄型、小型化が可能になるとともに、各レンズの位置決め調整工程も簡略化でき、生産性、経済性が高くなる。本実施形態の撮像装置は、車載用のカメラ、監視用、医療用のカメラ、あるいは携帯電話用のカメラやデジタルカメラとして特に好適である。
なお、本発明の回折撮像レンズは、本実施形態の回折撮像レンズ11のレンズ形状、レンズ材料に限定されるものではない。
上述の説明では、基材15の材料としてポリカーボネートを、保護膜14として酸化ジルコニウムが分散したアクリル系の紫外線硬化樹脂を用いる例を挙げた。しかしながら、基材15および保護膜14の材料はこれらの材料に限られず、例えばガラス材料を用いてもよい。ただし、生産性およびコスト面からは、レンズ基材15、保護膜14ともに樹脂を主成分とすることが好ましく、特にレンズ基材としては、生産性のよい熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。
特に、アクリル系の紫外線硬化樹脂のように、低屈折率高波長分散である熱可塑性樹脂材料をレンズ基材15に用い、高屈折率低波長分散材料として、樹脂に酸化ジルコニウムのような無機粒子を分散させた材料を保護膜14に用いることが望ましい。紫外線硬化樹脂等の光硬化樹脂を用いることで、塗布や、型による表面形状の成型ができ、保護膜形成が容易になるという特長がある。また、分散させる無機粒子としては、無色透明な酸化物材料が望ましい。特に、高屈折率低波長分散の保護膜を実現するためには、高屈折率低波長分散の無機材料が必要である。このような無機材料としては、酸化ジルコニウム以外に、酸化イットリウムや酸化アルミニウムが該当し、これらは特に有効である。これらの酸化物は、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
高屈折率低波長分散材料をレンズ基材15に用い、低屈折率高波長分散材料を保護膜14に用いる場合には、第1の回折格子形状部20の第1面20a及び第2面20bの向きを本実施の形態と反転させる。
また、本実施形態の回折撮像レンズ11は2枚組撮像光学系の1枚として用いているが、適切なレンズ形状および回折格子の形状を選定することにより、本発明を、単レンズ撮像装置または3枚以上の組レンズ撮像装置にも適用できる。
また、本実施形態の回折撮像レンズ11の表面に、反射防止コートを設けてもよい。また、使用波長として可視波長400〜700nmとしたが、本発明はこれに限られるものではなく、また、本実施形態の回折撮像レンズ11の第1面12にも回折格子形状部を設けてもよい。
なお、回折撮像レンズ11の第2面13における各回折段差での平均入射角度θaveを(数5)を用いて計算したが、中間的な入射角度も含めて重み付けを変えてもよい。
(比較例1)
比較例1として、図1に示す保護膜14を有さず、図1の回折格子形状部21と同様の回折格子形状部が第2面(撮像側の面)の全体に形成された回折撮像レンズを試作した。回折段差の高さは0.9μmとした。比較例1の回折撮像レンズにおける第1面(被写体側の面)の非球面係数、第2面の非球面係数および位相係数は、実施形態の回折撮像レンズ11の各係数と全く同じである。比較例1の回折撮像レンズを、図3の回折撮像レンズ11の代わりに用いて画像評価を行った。その結果、画像の中央付近を中心にフレアが目立ち、解像度の低下が見られた。
画像の中央付近は半画角ωの小さい光線から形成される。先述したように、レンズ入射瞳に入射する光束量は、cosωの4乗に比例することから、半画角ωの小さい光線は、半画角ωの大きい光線に比べ、画像への寄与が極めて大きい。半画角ωの小さい光線が回折格子形状部へ入射する際の入射角θは比較的小さいため、θ=0°の場合の1次回折効率を示す図6(b)を参照すると、保護膜のない回折格子形状部では、1次回折効率の最大値が85%程度であり、残りの15%が不要な回折光となっている。比較例1の回折撮像レンズを用いた場合には、半画角ωが小さく、画像への寄与が極めて大きい光線のうちの15%が、不要な回折光となって画像に重畳されるため、フレアが目立つものとなったと考えられる。
(比較例2)
比較例2として、図1に示す回折格子形状部20と同様の回折格子形状部が、第2面(撮像側の面)の全体に形成され、かつ、表面に回折格子形状部を有さない保護膜によって覆われている、回折撮像レンズを試作した。回折段差の高さは14.9μmとした。比較例2の回折撮像レンズの保護膜および回折格子形状部を構成する材料は、実施形態の回折撮像レンズ11の材料と全く同じである。また、比較例2の回折撮像レンズにおける第1面(被写体側の面)の非球面係数、第2面の非球面係数および位相係数は、実施形態の各係数と全く同じである。比較例2の回折撮像レンズを、図3の回折撮像レンズ11の代わりに用いて画像評価を行った。その結果、画像中央と画像周辺の明るさの差が著しく、画角の大きい画像周辺の画像が暗いという問題があった。また、画像の周辺部にフレアが目立ち、解像度の低下が見られた。
画像の周辺部は半画角ωの絶対値が大きい光線から形成される。半画角ωの絶対値が大きい光線では、概して、回折格子形状部への入射角θの絶対値が比較的大きい。特に、(表1)における回折段差番号の大きい段差では回折ピッチが小さいので、図7(a)、図8(a)からわかるように1次回折効率は低下してしまう。1次以外の不要次数の回折光の発生だけでなく、高い回折段差を横切る光が屈折することによって、結像に寄与せずロスや迷光となってしまう。これにより、画像中央と画像周辺の明るさの差が著しく、画角の大きい画像周辺の画像が暗くなったとともに画像の周辺部にフレアが目立つものとなったと考えられる。
本発明の回折撮像レンズは、少ないレンズ枚数で光学系を構成できるため小型化に有利であり、高い解像力を有し、周辺部も明るい広い範囲の画像を撮像できるため、撮像装置に特に有用である。本発明の撮像装置は、車載用カメラ、監視用カメラ、医療用のカメラ、あるいは携帯電話用カメラ、デジタルカメラとして特に好適である。
10 光軸
11 回折撮像レンズ
12 第1面
13 第2面
14 保護膜
15 レンズ基材
16 第3面
20、21 回折格子形状部
20a、21a 第1面
20b、21b 第2面
32 絞り
33 凹レンズ
34 カバーガラス
35 固体撮像素子
51a 半画角75°の主光線
51b 半画角75°で紙面内の絞り上端を通る光線
51c 半画角75°で紙面内の絞り下端を通る光線
本発明は、不要な回折光の発生と光損失を抑制し、広角で高い解像力を有する回折レンズ、およびこれを用いた撮像装置に関する。
非球面レンズよりも高い撮像性能が得られるレンズとして、非球面レンズの表面に同心円状の回折格子形状部を設けた回折レンズが知られている。回折レンズでは、非球面レンズの屈折効果に回折効果を重畳することにより、色収差や像面湾曲等の各種収差を格段に低減することが可能である。断面がブレーズ状、もしくはブレーズに内接する細かい階段状の回折格子形状部を用いれば、単一波長に対する特定次数の回折効率をほぼ100%にすることができる。
図9に示すように、屈折率n(λ)の基材91の表面に形成されたブレーズ状の回折格子形状部92を考える。理論上、波長λで、回折格子形状部に垂直に入射する光線93に対してm次回折効率(mは整数)が100%となる回折格子形状部の回折段差dは次式で与えられる。ここで、屈折率「n(λ)」は、屈折率が波長の関数であることを表す。
(数1)からわかるように、波長λの変化とともに、m次の回折効率が100%となるdの値も変化する。以下、mを1として1次の回折効率について述べることとするが、mは1に限定されるものではない。
図10は、回折段差が0.93μmのポリカーボネートからなる回折格子形状部に垂直に入斜する光線の1次回折効率を示している。(数1)を用い、波長550nmで回折格子形状部の回折段差dを設計しているため、1次回折光の回折効率は波長550nmにおいてほぼ100%となる。1次回折効率には波長依存性が存在し、波長400nmでは1次回折効率は50%程度となる。1次回折効率が100%から低下した分、0次や2次、あるいは−1次といった不要な回折光が発生する。
図9に示すようなブレーズ状の回折格子形状部が表面に同心円状に形成された非球面の回折レンズに、可視光域全域(波長400〜700nm)の光を入射させると、フレアが顕著に目立つカラー画像が得られる。このフレアは、被写体像の結像に利用される1次回折光以外の不要な回折光によるものである。特に、被写体と背景との輝度の差が大きいほどフレアが顕著になる。
このようなフレアの発生によって、図9に示す回折格子の撮像用途は限定され、背景に対して輝度が高くない被写体の撮影や、高い解像度を必要としない撮影などにとどまっていた。このように、従来の用途は、非球面レンズよりも高い撮像性能を潜在的に有する回折格子の効果を十分に引き出せるものではなかった。
このような回折レンズを用いてフレアの少ないカラー画像を得るために、特定次数の回折効率の波長依存性を低減する提案がなされている(例えば特許文献1)。図11に、特許文献1に開示された回折光学素子を示す。特許文献1には、基材111に形成された回折格子形状部112を覆うように保護膜113を塗布、接合することが開示されている。
この場合、回折格子形状部112に垂直に入射する光線(入射角θ=0°)に対する1次回折効率が100%となる回折格子形状部の回折段差d´は次式で与えられる。
ここで、λは波長、mは回折次数、n1(λ)は基材材料の屈折率、n2(λ)は保護膜材料の屈折率である。(数2)の右辺が、ある波長帯域で一定値になれば、その波長帯域でのm次回折効率の波長依存性がなくなる。このような条件は、基材および保護膜を、高屈折率高アッベ数材料および低屈折率低アッベ数材料の適切な組み合わせで構成した場合に満たされる。基材と保護膜に適当な材料を用いることにより、可視光域全域で垂直入射光に対する回折効率を95%以上にすることが可能である。なお、この構成においては基材の材料と保護膜の材料が入れ替わってもかまわない。また、回折格子形状部の回折段差の高さd´は、(数1)で示した保護膜のない回折格子形状部の回折段差の高さdよりも大きくなる。
図11に示す回折レンズでは、1次回折光以外の不要な回折光が少ないため、図9の回折レンズで問題であったフレアがほとんど発生せず、解像度の高い良好な画像が得られる。
このように、図11に示すようなブレーズ状の回折格子形状部を非球面レンズの表面に設ければ、解像度の高い画像が得られる点で非常に有効である。以下、撮像を主用途として用いる回折レンズを特に回折撮像レンズと呼ぶことにする。
しかしながら本願発明者の検討によれば、図11に示す回折撮像レンズでは次のような問題点が生じる。
図11に示す回折撮像レンズを、画角の小さなカメラレンズ、例えば望遠レンズ等に適用した場合には、図9の回折撮像レンズと比較すると非常に鮮明な画像が得られる。その一方で、図11に示す回折撮像レンズを広角レンズとして用いたカメラでは、フレアが発生し、画像のコントラストが大幅に悪化する。また、画角の大きい画像において周辺の画像が暗くなることによって、画像中央と画像周辺とでは、明るさの著しい差が生じる。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、不要な回折光を低減することによって、フレアの発生を抑制することができ、広角レンズとして用いても周辺部の画像の明るさを確保することができる回折レンズと、それを用いた撮像装置とを提供することにある。
本発明の回折レンズは、第1の非球面形状に沿って、光軸側から順に複数の第1の回折段差と第1の滑面とが設けられた面を有するレンズ基材と、前記レンズ基材の前記第1の回折段差と前記第1の滑面とが設けられた面を覆い、かつ、第2の非球面形状に沿って、光軸側から順に第2の滑面と複数の第2の回折段差とが設けられた面を有する保護膜と、を有し、前記第2の回折段差は、前記第1の回折段差よりも光軸から遠い位置に配置され、かつ、前記第1の回折段差よりも高さが小さく、前記レンズ基材の材料と前記保護膜の材料とのうち、いずれか一方の材料は、他方の材料よりも屈折率が高く、かつアッベ数が大きい性質を有する。
本発明の他の回折レンズは、複数の第1の回折段差が設けられた面を有するレンズ基材と、前記レンズ基材の、前記第1の回折段差が設けられた面を覆う保護膜と、を有し、撮像に用いられる回折レンズであって、前記保護膜は、前記第1の回折段差よりも前記回折レンズの光軸から遠い位置に配置され、かつ、前記第1の回折段差よりも高さの小さい複数の第2の回折段差を表面に有し、前記レンズ基材の材料と前記保護膜の材料とのうち、いずれか一方の材料は、他方の材料よりも屈折率が高く、かつアッベ数が大きい性質を有する。
本発明の撮像装置は、回折レンズを有する光学系と、前記光学系を通過した被写体からの光を電気信号に変換する固体撮像素子とを備える撮像装置であって、前記回折レンズは、複数の第1の回折段差が設けられた面を有するレンズ基材と、前記レンズ基材の、前記第1の回折段差が設けられた面を覆う保護膜とを有し、前記保護膜は、前記第1の回折段差よりも前記回折レンズの光軸から遠い位置に配置され、かつ、前記第1の回折段差よりも高さの小さい複数の第2の回折段差を表面に有し、前記レンズ基材の材料と前記保護膜の材料とのうち、いずれか一方の材料は、他方の材料よりも屈折率が高く、かつアッベ数が大きい性質を有し、前記固体撮像素子は、前記第1の回折段差に入射した光及び前記第2の回折段差に入射した光を、同一の撮像面において受光し前記電気信号に変換する。
本発明によると、第2の回折段差に入射する光の1次回折効率を高くすることができるため、相対的に大きな入射角でレンズに入射する光の1次回折効率を高めることができ、1次回折光以外の不要な回折光を少なくすることができる。
これにより、本発明による回折レンズを広角レンズとして用いた撮像装置では、不要な回折光が原因となるフレアの発生を抑制することができ、画像のコントラストの悪化を回避できる。また、大きな入射角で入射する光の損失が少ないため、画像周辺部の明るさを確保することができる。
本発明による実施形態の回折撮像レンズ11を示す断面図
第1の回折格子形状部20へ垂直に入射する光線に対する1次回折効率の波長依存性を示すグラフ
図1に示した本実施形態の回折撮像レンズ11を用いた撮像装置を示す図
図3に示す2枚組撮像光学系の色収差、像面湾曲量を示す図
図3に示す撮像装置において、回折撮像レンズ11と絞り32とを通過する光線を表した図
入射角0°で回折撮像レンズに入射する光について、回折段差の高さに対する1次回折効率のシミュレーション結果を示す図
入射角5°で回折撮像レンズに入射する光について、回折段差の高さに対する1次回折効率のシミュレーション結果を示す図
入射角10°で回折撮像レンズに入射する光について、回折段差の高さに対する1次回折効率のシミュレーション結果を示す図
従来の回折格子形状部を示す図
従来の回折格子における1次回折効率の波長依存性を示すグラフ
従来における保護膜で覆われた回折格子形状部を示す図
以下、図面を参照しながら、本発明による回折撮像レンズおよび撮像装置の実施形態を説明する。なお、本発明は以下に説明する具体的な例に限定されない。
図1は、本発明による実施形態の回折撮像レンズ11を示す断面図である。本実施形態の回折撮像レンズ11は、レンズ基材15と、保護膜14とを備えている。レンズ基材15は、被写体側に位置する第1面12と、結像側に位置する第2面13とを有し、第2面13には、輪帯状の第1の回折格子形状部20が形成されている。保護膜14はレンズ基材15の第2面を覆うように形成されており、結像側の表面に第3面16を有している。第3面16には、輪帯状の第2の回折格子形状部21が、第1の回折格子形状部20よりも光軸10から遠い位置に形成されている。(第1の回折格子形状部20は、第2の回折格子形状部21よりも光軸10から近い位置に形成されている。)
第1、第2の回折格子形状部20、21は、それぞれ複数形成されている。第1の回折格子形状部20は、第1面(回折段差面)20aと第2面20bとから構成される。第1面20aは、光軸10に対してほぼ平行に配置される。第2面20bは、1つの第1の回折格子形状部20における第1面20aの上端と、その内側に配置される第1の回折格子形状部20における第1面20aの下端とを結ぶ面である。それぞれの第1面20aの回折段差は、光軸を中心とした同心円状に配置される。
同様に第2の回折格子形状部21も、第1面(回折段差面)21aと第2面21bとから構成される。第1面21aは、光軸10に対してほぼ平行に配置される。第2面21bは、1つの第2の回折格子形状部21における第1面21aの上端と、その外側に配置される第2の回折格子形状部21における第1面21aの下端とを結ぶ面である。第1の回折格子形状部20における第2面20bが内側(光軸側)を向いているのに対して、第2の回折格子形状部21における第2面21bは外側を向いている。それぞれの第1面21aの回折段差は、光軸を中心とした同心円状に配置される。
回折撮像レンズ11の基材15の材料と保護膜14の材料とのうち、いずれか一方の材料は、他方の材料よりも高い屈折率を有し、かつ波長分散性が低い(アッベ数が大きい)性質を有する。このような性質を有することによって、1次回折効率が最大となるd´が使用波長によらず一定となる。例えば、基材15のほうに低屈折率高波長分散材料を用い、保護膜14のほうに高屈折率低波長分散材料を用いる場合には、基材15として、ポリカーボネート(d線屈折率1.585、アッベ数27.9)を用い、保護膜14として、アクリル系の紫外線硬化樹脂に粒径が10nm以下の酸化ジルコニウムが分散した樹脂(d線屈折率が1.623、アッべ数40)を用いればよい。
本実施形態において、第2の回折格子形状部21における回折段差の高さは、第1の回折格子形状部20における回折段差の高さよりも小さい。第1の回折格子形状部20は保護膜14によって覆われるため、その回折段差は(数2)によって表される。(数2)の右辺の分母は、保護膜14の屈折率から基材15の屈折率を引いた値である。一方、保護膜14の表面に形成された第2の回折格子形状部21の回折段差は(数1)によって表される。(数1)の右辺の分母は、保護膜14の屈折率である1.623から空気の屈折率1を引いた値である。基材15の屈折率は1より大きくなるため、(数2)の右辺の分母は、(数1)の右辺の分母よりも小さくなる。その結果、(数2)の回折段差の高さd´は(数1)の回折段差の高さdの値よりも大きくなる。
具体的には、保護膜14で覆われた第1の回折格子形状部20の回折段差の高さは14.9μmであり、このとき(数2)の関係が成り立つ。一方、第2の回折格子形状部21aの回折段差の高さは0.86μmである。波長が550nmのときに(数1)の関係から回折効率が100%になる回折段差の高さは0.88μmであるが、可視全域での回折効率を考慮して、これよりやや小さい回折段差の高さとしている。基材15は、第2面13に、レンズ設計によって決められた非球面形状の曲面を有しており、第1の回折格子形状部20は、この曲面を延長した第1の非球面形状13a上に設けられている。つまり、基材15の第2面13は、第1の非球面形状13aに沿って、第1の回折格子形状部20と、滑面とが設けられた面となっている。また、図1に示すように、第2面13は、光軸10側から順に、第1の回折格子形状20と滑面とが設けられている。なお、「滑面」とは、回折格子形状が設けられていない面のことを言う。以降本願明細書で使用する「滑面」は同一の意味である。
保護膜14も同様に、第3面16に、レンズ設計によって決められた非球面形状の曲面を有しており、第2の回折格子形状部21は、この曲面を延長した第2の非曲面形状16a上に設けられている。つまり、保護膜14の第3面16は、第2の非球面形状16aに沿って、第2の回折格子形状部21と、滑面とが設けられた面となっている。また、第3面16は、図1に示すように、光軸10側から順に、滑面と第2の回折格子形状21とが設けられている。
保護膜14が第3面16に有する曲面の非球面形状、つまり、第1の非球面形状13aと、基材15が第2面13に有する曲面の非球面形状、つまり、第2の非球面形状16aはほぼ同一としても良い。つまり、保護膜14は、光軸10と平行な方向にほぼ一定の厚さを有していてもよい。
回折格子形状部20、21のピッチは不等間隔であり、光軸10から遠くなるにつれて小さくなることが好ましい。なお、分かり易さを優先するため、図面には、回折格子形状部20の数やピッチ、相対的なサイズ、その他のレンズ形状を正確には示していない。
第1の回折格子形状部20へ垂直に入射する光線に対する1次回折効率は図2に示すような波長依存性を示す。図2から、波長400〜700nmの可視光域全域にて1次回折効率が95%以上の値を示すことがわかる。
保護膜14の形成方法としては金型による成形が適している。金型成形面には図1において保護膜が有する第3面16の反転形状を設けておく。実際には保護膜14の硬化時の収縮率を考慮して金型形状を拡大しておいてもよい。このような金型による成形を用いれば比較的簡単に、高精度、短時間で保護膜14を形成することができる。
また、基材15表面に設けられた輪帯状の第1の回折格子形状部20と、保護膜14表面に設けられた輪帯状の第2の回折格子形状部21は、それぞれの輪帯中心が略同一であることが望ましい。すなわち、像面側からみて第1の回折格子形状部20と第2の回折格子形状部21が同心円上に設けられることが望ましい。輪帯中心のずれが20μm以上となるとレンズの撮像性能に影響を及ぼす。第2の回折格子形状部21を表面に有した保護膜14を金型で成形する場合には、第1の回折格子形状部20に対する中心ずれを10μm以下にすることは比較的容易である。
ここで、(数3)は、光軸に垂直なx−y平面における断面形状を示し、実際のレンズ面は(数3)をx−y平面に垂直なz軸(光軸)の周りに回転させたものである。cは中心曲率、A、B、C、D、Eは2次曲面からのずれを表す係数である。係数はEまでとれば十分であるが、それ以上の次数で構成してもよいし、逆に、それ以下でもよく任意である。また、Kの値によって、以下に示すような非球面となる。
0>Kの場合、短径を光軸とする楕円面
K=0の場合、球面
−1<K<0の場合、長径を光軸とする楕円面
K=−1の場合、放物面
K<−1の場合、双曲面
また、回折撮像レンズ11の回折面は、位相関数法を用いて設計している。位相関数法は、レンズ面に回折格子があると仮定し、その面で、(数4)で表される波面の位相変換を行う。最終的に、レンズ形状は先に述べた非球面形状と回折格子形状部との和として決定される。
ただし、φは位相関数、Ψは光路差関数、hは径方向の距離、a2、a4、a6、a8、a10は係数である。係数はa10までとれば十分であるが、それ以上の次数で構成してもよいし、逆に、それ以下の次数までで構成してもよく、任意である。回折次数は1次である。なお、設計波長λについてはレンズの使用波長の中央値などを用いればよい。
本実施形態の回折レンズは図1に示すように基材15の結像側に位置する第2面13により、非球面形状が決定される。本来、回折格子形状部は、(数4)の位相多項式を用いて、光軸と垂直な同一平面上または、光軸を回転軸とした同一非球面上に配置されるものであるが、本発明では、第1、第2の回折格子形状部はそれぞれ別の非球面上に配置されている。つまり、第1、第2の回折格子形状部は、互いに、光軸方向に保護膜14の膜厚分(ここでは約30μm程度)ずれている。しかし、このずれが撮像性能に及ぼす影響はほとんどなく、考慮する必要はない。
実際の製造工程では、位相関数をもとに、材料の屈折率差と設計波長から回折格子のサグ量を求め、非球面形状の表面に回折格子を形成する。例えば、位相関数から回折格子形状部の変換としては、mを回折次数とするとき、2mπごとに回折段差を設けることが行われている。基材15の屈折率又は、保護膜14の屈折率と、回折格子形状部が接する媒質の屈折率との大小関係に応じて、(数4)の位相関数の符号を変えて回折格子形状部の形状変換を行う。基材15表面に設けられた第1の回折格子形状部20と保護膜14表面に設けられた第2の回折格子形状部21とは同一の位相関数に基づいて形成される。
本実施形態では、第1の回折格子形状部20は保護膜14に接しており、基材15の屈折率の方が保護膜14の屈折率よりも低いため、(数4)の位相関数に1を乗算してから基材15の回折格子形状部20の形状変換を行う。その一方で、第2の回折格子形状部21は空気層に接しており、保護膜14の屈折率の方が空気層の屈折率よりも高いため、(数4)の位相関数に−1を乗算してから保護膜14の回折格子形状部21の形状変換を行う。これにより、図1に示す本実施形態の回折撮像レンズ11は、集光パワーが正の回折面を有し、第1の回折格子形状部20のそれぞれにおいて、第1面20a、すなわち回折段差面は、第2面20bよりもレンズの外周部側に設けられているのに対して、第2の回折格子形状部21のそれぞれにおいて、第1面21a、すなわち回折段差面は、第2面21bよりもレンズの光軸10側に設けられている。いずれの第1面20a、21a(回折段差面)も、回折次数が1次の回折光で結像する際には2πごとに設ける。位相関数は、光軸からの距離rに対する波面の光軸方向における位相分布であり、位相関数によって求められた第1面20a、21a(回折段差面)すべてが光軸と平行になる。図1に示すように、ブレーズ状の回折格子形状部において、第1面20a、21a(回折段差面)は非球面形状13a、16a上に設けられており、この非球面形状13a、16aも考慮して、第1面20a、21aが光軸と平行になるように設計される。
本実施形態において、保護膜14の屈折率の方が基材15の屈折率よりも高くてもよい。この場合、基材15の回折格子形状部20および保護膜14の回折格子形状部21の形状変換を、共に、(数4)の位相関数に−1を乗算してから行う。その結果、第1の回折格子形状部20のそれぞれにおいて、第1面20a、すなわち回折段差面は、第2面20bよりもレンズの光軸10側に設けられ、第2の回折格子形状部21のそれぞれにおいて、第1面21a、すなわち回折段差面は、第2面21bよりもレンズの光軸10側に設けられる。
本実施の形態の回折撮像レンズにおいて、被写体側の第1面12の非球面係数と撮像素子側の第2面13及び第3面16の非球面係数および位相係数を以下に示す。本実施形態では、第2面13の非球面形状13aと第3面16の非球面形状16aは同一としている。つまり、保護膜14は、光軸10と平行な方向にほぼ一定の厚さを有している。なお、mは回折次数である。
(第1面の非球面係数)
K=−0.796834
A=−0.00670146
B=0.0380988
C=−0.0364111
D=0.0132840
E=5.82320e−016
(第2面及び第3面の非球面係数)
K=3.749992
A=0.0670042
B=−0.0758092
C=0.0621387
D=−0.0152972
E=5.824155e−016
(第2面及び第3面の位相係数)
m=1
設計波長λ=538nm
a2=−0.0256517
a4=−0.0252208
a6=0.0497239
a8=−0.0376587
a10=0.00965820
図3は、図1に示した本実施形態の回折撮像レンズ11を用いた撮像装置を示す図である。
本実施形態の撮像装置は、回折撮像レンズ11と、回折撮像レンズ11の被写体側に配置されたガラス材料からなる凹レンズ33とを有する2枚組撮像光学系を有する。回折撮像レンズ11の被写体側には、凹レンズ33からの光を受ける絞り32が配置されている。なお、図3には、回折撮像レンズ11における回折格子形状部の図示は省略している。一方、回折撮像レンズ11の絞り32(被写体)と反対側には、カバーガラス34と、固体撮像素子35とが配置される。
以下に、本実施形態における2枚組撮像光学系の数値データを示す。なお、以下のデータにおいて、Ωは全画角、FnoはFナンバー、Lは光学長(凹レンズ被写体側面頂から結像面までの距離)、fは焦点距離、hは最大像高、Rは面の曲率半径[mm]、tは面間隔(光軸上の面中心間距離)[mm]、ndは基材のd線での屈折率、νdは基材のd線でのアッベ数を表す。面番号1、2、3、4、5、6、7はそれぞれ、凹レンズ被写体側面、凹レンズ結像側面、絞り、回折撮像レンズ被写体側面、回折撮像レンズ結像側面、カバーガラス34被写体側面、カバーガラス34結像側面である。なお、本実施形態の回折撮像レンズ11における第1面12は面番号4、第3面16は面番号5にあたる。
Ω=150°
Fno=2.8
L=10.4mm
f=1.9004mm
h=2.25mm
上記有効焦点距離fは、波長550nmのときのものである。
本実施形態の撮像装置では、被写体からの光は凹レンズ33に入射する。凹レンズ33は、高画角から大きな角度で入射する光線の傾斜角度を、高い屈折力によって屈折して、光軸に対しゆるやかにする。凹レンズ33によって、レンズ系全体としての収差を低減することができる。凹レンズ33によって屈折された光は、絞り32を介して回折撮像レンズ11に入射する。本実施形態では、第1、第2の回折格子形状部20、21に共に被写体からの光が入射するため、第1の回折格子形状部20に入射する光の波長帯域と第2の回折格子形状部20に入射する光の波長帯域とは同一である。回折撮像レンズ11から射出した光は、カバーガラス34を透過して固体撮像素子35上で像として観測される。図3に示すように、固体撮像素子35は、回折撮像レンズ11のうち第1の回折格子形状部20から射出した光および第2の回折格子形状部21から射出した光を、同一の撮像面において受光し、電気信号に変換する。固体撮像素子35により検出された電気信号は、被写体像を生成する演算回路(図示せず)にて画像化される。
レンズで発生する収差を低減するためには、レンズ面に入射する光線の入射角、屈折角を小さくすることが望ましい。回折撮像レンズ11に正のパワーを有する回折格子を付加することにより、屈折系で発生するレンズの色収差を補正することができる。
凹レンズ33は、被写体側の面が凸形状である、いわゆるメニスカス凹レンズであることが望ましい。凹レンズ33がメニスカス凹レンズであることによって、凹レンズ33に高画角から入射する光線の入射角度を小さくすることができ、表面での反射ロスを低減することができるためである。高画角から入射する光線の入射角度を小さくするためには、凹レンズ33が高い屈折力(屈折率)を有することが好ましい。
図4は、図3に示す撮像装置の2枚組撮像光学系の色収差および像面湾曲量を表す図であり、それぞれ球面収差図と非点収差図である。球面収差図において、横軸は光軸方向の距離、縦軸は光線が入射瞳に入る高さで、光線が光軸と交わる位置をプロットしたものである。ここで、CはC線(656.27nm)、dはd線(587.56nm)、gはg線(435.83nm)であり、これらの結像位置の差が軸上色収差量である。
一方、非点収差図において、横軸は光軸方向の距離、縦軸は像の高さである。したがって、縦軸からの距離が各像高における像面湾曲収差量である。ここで、Tはタンジェンシャル、Sはサジタルを表し、それぞれ、点線、実線で示す。
図4の非点収差図から、高画角においても色収差が補正されていることが確認できる。本実施形態における光学系と同様の性能の光学系を構築するには、少なくとも3枚以上の非球面レンズが必要であることから、回折撮像レンズの導入により、レンズ枚数の削減や小型、高性能化が図れる。
次に、本実施形態の回折撮像レンズ11の回折段差および回折効率について詳細に説明する。回折撮像レンズ11における第2面13及び第3面16に形成された同心円状の回折段差の総本数は91本である。
図5は、図3に示す撮像装置において、回折撮像レンズ11と絞り32とを通過する光線を表した図である。図5では、回折撮像レンズ11の第3面16における回折格子形状部の図示を省略している。
本光学系の画角は150°であるので、図3における凹レンズ33では、光軸となす角(半画角ω)として−75°から75°の範囲の光線を取り込み、撮像素子35上に結像している。図5において、絞り32に通る光線に着目したとき、同じ画角で入ってきた光であっても、絞り32のどの位置を通るかによって、光軸となす角が異なっている。図5では、75°の半画角で凹レンズに入射した光線を図示しているが、絞り32の中央を通る光線(主光線)51a、紙面内の絞り上端を通る光線51b、および紙面内の絞り下端を通る光線51cでは、絞り32を通過するときに光軸10となす角度は異なり、それぞれ28.9°、35.1°、19.9°となっている。同様に、回折撮像レンズ11の第1面12、第3面16に入射する角度も異なる。
次に、回折撮像レンズ11の第2面13、及び、第3面16について述べる。図1に示したように、基材15が結像側に有する第2面13には、輪帯状の第1の回折格子形状部20が形成されており、保護膜14が結像側の表面に有する第3面16には、輪帯状の第2の回折格子形状部21が形成されている。第2の回折格子形状部21は、第1の回折格子形状部20よりも光軸10から遠い位置に設けられている。
回折撮像レンズ11の第2面13及び第3面16には、光軸10を中心とする同心円状の回折段差(回折撮像レンズ11における第1面20a、21a)が、合計91本存在する。その各回折段差について、光軸10から近い順に番号を付与し、これを回折段差番号と名付ける。(表2−1)、(表2−2)は、各回折段差番号に対して、光軸10からの距離(mm)、1つ回折段差番号が小さい回折段差との距離である回折段差のピッチ(μm)、半画角ωが−75°〜75°で光学系に入射する光線について、その番号の回折段差を通る光線が光軸となす角の値のうち、最小値θminと、その光線の半画角ωmin、および最大値θmaxと、その光線の半画角ωmaxを記載している。θ、ωはそれぞれ図5、図3に示している。
例えば、回折段差番号10の回折段差では、光軸10からの距離、すなわち回折輪帯の半径は0.4318mmであり、隣接する回折段差番号9との距離、すなわち回折段差のピッチは20.8μmである。この回折段差に通る光線の入射角θは−9°〜17°であり、θminである−9°のときの半画角ωは−31°、θmaxである17°のときの半画角ωは75°である。
このように、同じ回折段差に対して異なる入射角の光線が通過する。ここで、(数5)を用いて平均入射角θaveを定義する。
光軸10に垂直で均一な明るさの面状の被写体を考えたとき、レンズ入射瞳に入射する光束量は、半画角ωに対してcosωの4乗に比例する。すなわち半画角ωの絶対値が大きな光線ほどレンズに入射する光量が少なくなる。これを考慮し、ωmin、ωmax、およびその平均の(ωmin+ωmax)/2の3つの半画角に対して、cosωの4乗の重みをつけて平均入射角θaveを定義したのが(数5)である。
これは、異なる入射角で光線が回折格子形状部に入射していても、平均的な角度であるθaveでのみ入射している光線で置換して、その光線について回折効率が高くなる条件を明らかにすれば、最もフレアの少ない回折撮像レンズが得られるとの仮定に基づく。
回折段差番号10の回折段差においてθaveは−1.5°となり、この角度はほぼ光軸に平行である。回折段差番号が増えるにしたがって、θaveの値は大きくなる。つまり、回折段差の位置が光軸10から遠ざかるにしたがって、回折段差に対して入射する光線の平均的な角度は大きくなる。また、回折段差の位置が光軸10から遠ざかるにしたがって、回折段差のピッチも小さくなる。
回折格子形状部に対して光軸から傾いた光線が入ってきたときの回折効率を、電磁界解析の一つであるRCWA法を用い、回折ピッチをパラメータとしてシミュレーションを行った。
図6は、θ=0°、すなわち光軸と平行に入る光線に対する結果を示すグラフ図であり、(a)は、回折格子形状部の上に保護膜が形成された光学系、(b)は、回折格子形状部の上に保護膜が形成されていない光学系の結果を示す。このシミュレーションでは、(a)は回折格子形状部として、ポリカーボネート(d線屈折率1.585、アッベ数27.9)を用い、保護膜14としてアクリル系の紫外線硬化樹脂に粒径が10nm以下の酸化ジルコニウムを分散させた樹脂を用いた。一方、(b)は、回折格子形状部として、保護膜14と同じ材料である、アクリル系の紫外線硬化樹脂に粒径が10nm以下の酸化ジルコニウムを分散させた樹脂を用いた。
図6(a)、(b)では、横軸には回折段差の高さを、縦軸には1次回折効率をとり、回折ピッチが10、20、30、50μmのそれぞれの場合のシミュレーション結果が示されている。ここで、縦軸の1次回折効率は波長に重みをつけた加重平均として算出したものである。固体撮像素子を用いてカラー画像を生成する際、生成画像への赤、緑、青の各色光の寄与は異なる。一般に緑の輝度のウエイトが高くなる。例えば、図2に示した1次回折効率の波長依存性を求め、画像に寄与する度合いで重みをかけて平均的な1次回折効率を算出した。具体的な重み付けの値としては、656nmの波長を有する光を1、589nmの波長を有する光を4、546nmの波長を有する光を7、480nmの波長を有する光を5、405nmの波長を有する光を1とした。
回折格子形状部を保護膜14で覆った光学系では、図2に示すように回折効率が波長に依らず90%以上の値を示す(図2は、回折段差が14.9μmのときの測定結果を示す。)。しかしながら、図6(a)に示すように、ピッチが小さくなるにつれて1次回折効率が低下している。一方、回折格子形状部を保護膜で覆わない光学系についての図6(b)では、1次回折効率は、回折段差の高さには依存しているがピッチにはほとんど依存しないことがわかる。図6(a)より、回折格子形状部を保護膜14で覆った光学系における1次回折効率は、回折ピッチが10μm程度のときには、50%から85%までの範囲内の値となる。この範囲は、図6(b)を見ると、ほとんど回折格子形状部を保護膜で覆わない光学系の1次回折効率と変わらないことがわかる。
図7はθ=5°、図8はθ=10°としたときの1次回折効率と回折段差の高さとの関係を示す。図7(b)および図8(b)に示すように、回折格子形状部を保護膜で覆わない光学系の1次回折効率は、ともに図6(b)のθ=0°の場合の1次回折効率とほとんど変わりがない。
一方、図6(a)に示すグラフにおけるピーク値は、どのピッチにおいても図6(b)に示すピーク値よりも高い。図7(a)に示すグラフでは、ピッチが10μmのプロファイルのピーク値(81%程度)は、図7(b)におけるピッチが10μmのプロファイルのピーク値(85%程度)よりも小さい。図8(a)に示すグラフにおいても、ピッチが10μmのプロファイルのピーク値(67%程度)は、図8(b)におけるピッチが10μmのプロファイルのピーク値(85%程度)よりも小さい。さらに、図8(a)において、ピッチが10μmのプロファイルにおいて回折段差の高さが17μmのときの1次回折効率は、36%程度まで落ち込んでいるのに対して、図8(b)では、1次回折効率の最低値は47%程度である。このように、図8(b)では、図8(a)に示されるほどの1次回折効率の落ち込みは見られない。このように、入射角の大きな光が入射する回折格子に保護膜を設けた場合に1次回折効率が大きく落ち込むのは、保護膜を設けることによって回折段差を大きくする必要があるため、その段差面を横切ることによって設計通りの光路差を進まない光が増加し、所望の回折角で回折する光が減少するためであると考えられる。
以上の結果から、θがゼロのときには、どのピッチの回折段差であっても、回折格子形状部を保護膜によって覆ったほうが1次回折効率は高くなるが、θが5°以上になると、保護膜によって覆ったほうがよいかどうかは、回折段差のピッチに依存することがわかる。図7、図8において、ピッチが15〜20μm以下である場合には、保護膜によって覆わないほうが1次回折効率が高い。一方、ピッチが50μm以上である場合には、保護膜によって覆うほうが1次回折効率が高い。
第2の回折格子形状部21は第1の回折格子形状部20よりも光軸10から遠い位置に設けられるため、第2の回折格子形状部21に入射する光の平均の入射角は比較的大きい。また、第1、第2の回折格子形状部20、21のピッチは、光軸10から遠くなるにつれて小さくなり、第2の回折格子形状部21のピッチは、30μm以下となる。そのため、第2の回折格子形状部21を保護膜14の表面に設ける、つまり、保護膜で覆わないほうが、1次回折効率が高くなる。
本実施形態の回折撮像レンズ11は、(表1)に示すように、回折段差番号61以上で平均入射角θaveは5°以上となるが、回折ピッチを考慮して回折段差番号1から30(回折段差番号30より光軸側)の回折格子形状部は基材15上に設けられ、保護膜14で覆った構成とし、回折段差番号31から91(回折段差番号31より外側)の回折格子形状部は、保護膜14の表面に設けられた構成としている。以下に、その理由を具体的に説明する。(表1)から、回折段差番号61の回折段差のピッチは8.3μmである。θが5°の場合の1次回折効率を示す図7(a)において、ピッチ8.3μmに最も近いピッチ10μmのプロファイルは、回折段差の高さが13μmのときに1次回折効率が80%程度となるピークを有する。実際のピッチ8.3μmは10μmよりも小さいため、ピーク値は、82%よりもさらに小さい値と考えられる。一方、図7(b)において、ピッチ10μmのプロファイルは、回折段差の高さが0.9μmのときに1次回折効率が85%程度となるピークを有する。図7(b)に示すグラフでは、どのピッチにおいても1次回折効率は同様の挙動を示すため、ピッチ8.3μmの場合も、ピーク値は85%程度となると考えられる。この結果から、回折格子形状部を、基材15上に設けた構成、すなわち、保護膜14で覆われた構成とせずに、保護膜14表面に設けたほうが、回折段差番号61の回折格子形状部の1次回折効率を高くすることができる。このように、それぞれの回折段差番号において、どちらの場合に1次回折効率が高くなるか検討した結果、本実施形態では、回折段差番号31から91の回折格子形状部に保護膜を設けていない。
なお、回折段差番号1から30の回折段差の高さは14.9μmとし、回折段差番号31以降の回折段差の高さは、図7(b)において最も回折効率の高い0.9μmとしている。
本実施形態では、第1の回折格子形状部20における回折段差の高さを、光軸から離れるにしたがって小さくしてもよい。例えば、第1の回折格子形状部20の回折段差の高さを、14.9μmから13μmの範囲内で、光軸から離れるにしたがって小さくしていけばよい。図6(a)、図7(a)、図8(a)において、例えばピッチ20μmのプロファイルに着目すると、ピークとなるときの回折段差の高さは、図6(a)では15μm、図7(a)では13から15μmの間、図8(a)では13μmとなっている。この結果から、光の入射角度が大きくなれば、1次回折効率がピークとなる回折段差の高さは小さくなることがわかる。第1の回折段差形状20に入射する光の平均の入射角度は、光軸から離れるほど大きくなるため、第1の回折段差形状20の回折段差の高さを、光軸から離れるにしたがって小さくすれば、それぞれの第1の回折格子形状部20において、高い1次回折効率を実現することができる。
なお、第2の回折格子形状部21の回折段差の高さも、光軸から離れるにしたがって小さくしていってもよい。
本実施形態では、第1の回折格子形状部20を保護膜14によって覆い、第2の回折格子形状部21を保護膜14の表面に設けて空気と接触させることによって、第2の回折格子形状部21においても、1次回折効率を高くすることができ、1次回折光以外の不要な回折光を少なくすることができる。このように、相対的に大きな入射角でレンズに入射する光の1次回折効率を高めることができるため、回折撮像レンズ11を広角レンズとして用いても、不要な回折光が原因となるフレアの発生を抑制することができ、画像のコントラストの悪化を回避できる。また、大きな入射角で入射する光の損失が少ないため、画像周辺部の明るさを確保することができる。
図3に示す本実施形態の撮像装置では、2枚のレンズで高い解像度の広い範囲のカラー画像を得ることができる。このように、本実施形態の撮像装置では、従来よりもレンズ枚数を削減できるため、薄型、小型化が可能になるとともに、各レンズの位置決め調整工程も簡略化でき、生産性、経済性が高くなる。本実施形態の撮像装置は、車載用のカメラ、監視用、医療用のカメラ、あるいは携帯電話用のカメラやデジタルカメラとして特に好適である。
なお、本発明の回折撮像レンズは、本実施形態の回折撮像レンズ11のレンズ形状、レンズ材料に限定されるものではない。
上述の説明では、基材15の材料としてポリカーボネートを、保護膜14として酸化ジルコニウムが分散したアクリル系の紫外線硬化樹脂を用いる例を挙げた。しかしながら、基材15および保護膜14の材料はこれらの材料に限られず、例えばガラス材料を用いてもよい。ただし、生産性およびコスト面からは、レンズ基材15、保護膜14ともに樹脂を主成分とすることが好ましく、特にレンズ基材としては、生産性のよい熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。
特に、アクリル系の紫外線硬化樹脂のように、低屈折率高波長分散である熱可塑性樹脂材料をレンズ基材15に用い、高屈折率低波長分散材料として、樹脂に酸化ジルコニウムのような無機粒子を分散させた材料を保護膜14に用いることが望ましい。紫外線硬化樹脂等の光硬化樹脂を用いることで、塗布や、型による表面形状の成型ができ、保護膜形成が容易になるという特長がある。また、分散させる無機粒子としては、無色透明な酸化物材料が望ましい。特に、高屈折率低波長分散の保護膜を実現するためには、高屈折率低波長分散の無機材料が必要である。このような無機材料としては、酸化ジルコニウム以外に、酸化イットリウムや酸化アルミニウムが該当し、これらは特に有効である。これらの酸化物は、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
高屈折率低波長分散材料をレンズ基材15に用い、低屈折率高波長分散材料を保護膜14に用いる場合には、第1の回折格子形状部20の第1面20a及び第2面20bの向きを本実施の形態と反転させる。
また、本実施形態の回折撮像レンズ11は2枚組撮像光学系の1枚として用いているが、適切なレンズ形状および回折格子の形状を選定することにより、本発明を、単レンズ撮像装置または3枚以上の組レンズ撮像装置にも適用できる。
また、本実施形態の回折撮像レンズ11の表面に、反射防止コートを設けてもよい。また、使用波長として可視波長400〜700nmとしたが、本発明はこれに限られるものではなく、また、本実施形態の回折撮像レンズ11の第1面12にも回折格子形状部を設けてもよい。
なお、回折撮像レンズ11の第2面13における各回折段差での平均入射角度θaveを(数5)を用いて計算したが、中間的な入射角度も含めて重み付けを変えてもよい。
(比較例1)
比較例1として、図1に示す保護膜14を有さず、図1の回折格子形状部21と同様の回折格子形状部が第2面(撮像側の面)の全体に形成された回折撮像レンズを試作した。回折段差の高さは0.9μmとした。比較例1の回折撮像レンズにおける第1面(被写体側の面)の非球面係数、第2面の非球面係数および位相係数は、実施形態の回折撮像レンズ11の各係数と全く同じである。比較例1の回折撮像レンズを、図3の回折撮像レンズ11の代わりに用いて画像評価を行った。その結果、画像の中央付近を中心にフレアが目立ち、解像度の低下が見られた。
画像の中央付近は半画角ωの小さい光線から形成される。先述したように、レンズ入射瞳に入射する光束量は、cosωの4乗に比例することから、半画角ωの小さい光線は、半画角ωの大きい光線に比べ、画像への寄与が極めて大きい。半画角ωの小さい光線が回折格子形状部へ入射する際の入射角θは比較的小さいため、θ=0°の場合の1次回折効率を示す図6(b)を参照すると、保護膜のない回折格子形状部では、1次回折効率の最大値が85%程度であり、残りの15%が不要な回折光となっている。比較例1の回折撮像レンズを用いた場合には、半画角ωが小さく、画像への寄与が極めて大きい光線のうちの15%が、不要な回折光となって画像に重畳されるため、フレアが目立つものとなったと考えられる。
(比較例2)
比較例2として、図1に示す回折格子形状部20と同様の回折格子形状部が、第2面(撮像側の面)の全体に形成され、かつ、表面に回折格子形状部を有さない保護膜によって覆われている、回折撮像レンズを試作した。回折段差の高さは14.9μmとした。比較例2の回折撮像レンズの保護膜および回折格子形状部を構成する材料は、実施形態の回折撮像レンズ11の材料と全く同じである。また、比較例2の回折撮像レンズにおける第1面(被写体側の面)の非球面係数、第2面の非球面係数および位相係数は、実施形態の各係数と全く同じである。比較例2の回折撮像レンズを、図3の回折撮像レンズ11の代わりに用いて画像評価を行った。その結果、画像中央と画像周辺の明るさの差が著しく、画角の大きい画像周辺の画像が暗いという問題があった。また、画像の周辺部にフレアが目立ち、解像度の低下が見られた。
画像の周辺部は半画角ωの絶対値が大きい光線から形成される。半画角ωの絶対値が大きい光線では、概して、回折格子形状部への入射角θの絶対値が比較的大きい。特に、(表1)における回折段差番号の大きい段差では回折ピッチが小さいので、図7(a)、図8(a)からわかるように1次回折効率は低下してしまう。1次以外の不要次数の回折光の発生だけでなく、高い回折段差を横切る光が屈折することによって、結像に寄与せずロスや迷光となってしまう。これにより、画像中央と画像周辺の明るさの差が著しく、画角の大きい画像周辺の画像が暗くなったとともに画像の周辺部にフレアが目立つものとなったと考えられる。
本発明の回折撮像レンズは、少ないレンズ枚数で光学系を構成できるため小型化に有利であり、高い解像力を有し、周辺部も明るい広い範囲の画像を撮像できるため、撮像装置に特に有用である。本発明の撮像装置は、車載用カメラ、監視用カメラ、医療用のカメラ、あるいは携帯電話用カメラ、デジタルカメラとして特に好適である。
10 光軸
11 回折撮像レンズ
12 第1面
13 第2面
14 保護膜
15 レンズ基材
16 第3面
20、21 回折格子形状部
20a、21a 第1面
20b、21b 第2面
32 絞り
33 凹レンズ
34 カバーガラス
35 固体撮像素子
51a 半画角75°の主光線
51b 半画角75°で紙面内の絞り上端を通る光線
51c 半画角75°で紙面内の絞り下端を通る光線