JPWO2011080844A1 - 火花点火式内燃機関 - Google Patents
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Abstract
内燃機関において、機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構(A)と、吸気弁(7)の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構(B)とを具備する。機関暖機完了後の予め定められた標準状態における実圧縮比および点火時期が夫々基準実圧縮比および基準点火時期として予め記憶されている。機関温度が低いとき又は吸入空気温が低いときには機関高回転時に実圧縮比が基準実圧縮比よりも増大され、機関低回転時に点火時期が基準点火時期よりも進角される。
Description
本発明は火花点火式内燃機関に関する。
機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構と吸気弁の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構とを具備し、機関負荷が低くなるにつれて機械圧縮比を増大すると共に吸気弁の閉弁時期を遅くするようにした火花点火式内燃機関が公知である(例えば特許文献1を参照)。この内燃機関では実圧縮比をノッキングの生じない範囲でできるだけ高くし、それによって熱効率を向上させるようにしている。
しかしながらこの内燃機関では機関始動時におけるように機関温度が低いときや冬季におけるように吸入空気温が低いときに熱効率を向上させることについて何ら考慮が払われていない。
本発明の目的は、機関温度が低いときや吸入空気温が低いときに熱効率を向上することのできる火花点火式内燃機関を提供することにある。
本発明の目的は、機関温度が低いときや吸入空気温が低いときに熱効率を向上することのできる火花点火式内燃機関を提供することにある。
本発明によれば、機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構と、吸気弁の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構とを具備しており、機関暖機完了後の予め定められた標準状態における実圧縮比および点火時期が夫々機関の運転状態に応じた基準実圧縮比および基準点火時期として予め記憶されており、機関温度を代表する温度が標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が標準状態における吸入空気温よりも低いときには、機関高回転時に実圧縮比を基準実圧縮比よりも増大させ、機関低回転時に点火時期を基準点火時期よりも進角させるようにした火花点火式内燃機関が提供される。
機関温度を代表する温度が標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が標準状態における吸入空気温よりも低いときにノッキングを生ずることなく熱効率を向上することができる。
図1は火花点火式内燃機関の全体図である。
図2は可変圧縮比機構の分解斜視図である。
図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図である。
図4は可変バルブタイミング機構を示す図である。
図5は吸気弁および排気弁のリフト量を示す図である。
図6は機械圧縮比、実圧縮比および膨張比を説明するための図である。
図7は理論熱効率と膨張比との関係を示す図である。
図8は通常のサイクルおよび超高膨張比サイクルを説明するための図である。
図9は要求トルクに応じた機械圧縮比等の変化を示す図である。
図10は吸気弁の目標閉弁時期IC等のマップを示す図である。
図11は機関の発生トルクと点火時期の関係等を示す図である。
図12は実圧縮比の変化量ΔACと点火時期の変化量ΔIGと熱効率との関係を説明するための図である。
図13は基準実圧縮比AC等のマップを示す図である。
図14は実圧縮比および点火時期の制御を説明するための図である。
図15は実圧縮比および点火時期の制御を説明するための図である。
図16は運転制御を行うためのフローチャートである。
図17は運転制御を行うためのフローチャートである。
図2は可変圧縮比機構の分解斜視図である。
図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図である。
図4は可変バルブタイミング機構を示す図である。
図5は吸気弁および排気弁のリフト量を示す図である。
図6は機械圧縮比、実圧縮比および膨張比を説明するための図である。
図7は理論熱効率と膨張比との関係を示す図である。
図8は通常のサイクルおよび超高膨張比サイクルを説明するための図である。
図9は要求トルクに応じた機械圧縮比等の変化を示す図である。
図10は吸気弁の目標閉弁時期IC等のマップを示す図である。
図11は機関の発生トルクと点火時期の関係等を示す図である。
図12は実圧縮比の変化量ΔACと点火時期の変化量ΔIGと熱効率との関係を説明するための図である。
図13は基準実圧縮比AC等のマップを示す図である。
図14は実圧縮比および点火時期の制御を説明するための図である。
図15は実圧縮比および点火時期の制御を説明するための図である。
図16は運転制御を行うためのフローチャートである。
図17は運転制御を行うためのフローチャートである。
図1に火花点火式内燃機関の側面断面図を示す。
図1を参照すると、1はクランクケース、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は燃焼室5の頂面中央部に配置された点火栓、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートを夫々示す。吸気ポート8は吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、各吸気枝管11には夫々対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに各燃焼室5内に配置してもよい。
サージタンク12は吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結され、吸気ダクト14内にはアクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17と例えば熱線を用いた吸入空気量検出器18とが配置される。一方、排気ポート10は排気マニホルド19を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒コンバータ20に連結され、排気マニホルド19内には空燃比センサ21が配置される。また、図1に示されるようにシリンダブロック2には機関冷却水温を検出するための温度センサ22が取付けられており、サージタンク12には吸入空気温を検出するための温度センサ23が取付けられており、触媒コンバータ20には三元触媒の温度を検出するための温度センサ24が取付けられている。
一方、図1に示される実施例ではクランクケース1とシリンダブロック2との連結部にクランクケース1とシリンダブロック2のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられており、更に実際の圧縮作用の開始時期を変更可能な実圧縮作用開始時期変更機構Bが設けられている。なお、図1に示される実施例ではこの実圧縮作用開始時期変更機構Bは吸気弁7の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構からなる。
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。吸入空気量検出器18、空燃比センサ21および各温度センサ22,23,24の出力信号は夫々対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火栓6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用アクチュエータ16、可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bに接続される。
図2は図1に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図を示している。図2を参照すると、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50内には夫々断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁面上には互いに間隔を隔てて夫々対応する突出部50の間に嵌合せしめられる複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52内にも夫々断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
図2に示されるように一対のカムシャフト54,55が設けられており、各カムシャフト54,55上には一つおきに各カム挿入孔51内に回転可能に挿入される円形カム56が固定されている。これらの円形カム56は各カムシャフト54,55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム56間には図3においてハッチングで示すように各カムシャフト54,55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57が延びており、この偏心軸57上に別の円形カム58が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示されるようにこれら円形カム58は各円形カム56間に配置されており、これら円形カム58は対応する各カム挿入孔53内に回転可能に挿入されている。
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54,55上に固定された円形カム56を図3(A)において実線の矢印で示される如く互いに反対方向に回転させると偏心軸57が下方中央に向けて移動するために円形カム58がカム挿入孔53内において図3(A)の破線の矢印に示すように円形カム56とは反対方向に回転し、図3(B)に示されるように偏心軸57が下方中央まで移動すると円形カム58の中心が偏心軸57の下方へ移動する。
図3(A)と図3(B)とを比較するとわかるようにクランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム56の中心と円形カム58の中心との距離によって定まり、円形カム56の中心と円形カム58の中心との距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース1から離れる。シリンダブロック2がクランクケース1から離れるとピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大し、従って各カムシャフト54,55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
図2に示されるように各カムシャフト54,55を夫々反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸には夫々螺旋方向が逆向きの一対のウォームギア61,62が取付けられており、これらウォームギア61,62と噛合する歯車63,64が夫々各カムシャフト54,55の端部に固定されている。この実施例では駆動モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。なお、図1から図3に示される可変圧縮比機構Aは一例を示すものであっていかなる形式の可変圧縮比機構でも用いることができる。
一方、図4は図1において吸気弁7を駆動するためのカムシャフト70の端部に取付けられた可変バルブタイミング機構Bを示している。図4を参照すると、この可変バルブタイミング機構Bは機関のクランク軸によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転せしめられるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁駆動用カムシャフト70と一緒に回転しかつ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを具備しており、各ベーン75の両側には夫々進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
各油圧室76,77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76,77に夫々連結された油圧ポート79,80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83,84と、各ポート79,80,82,83,84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは図4においてスプール弁85が右方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転せしめられる。
これに対し、吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは図4においてスプール弁85が左方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転せしめられる。
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転せしめられているときにスプール弁85が図4に示される中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。従って可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させることができ、遅角させることができることになる。
図5において実線は可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。従って吸気弁7の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、従って吸気弁7の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
図1および図4に示される可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
次に図6を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図6の(A),(B),(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図6の(A),(B),(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
図6(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示される例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
図6(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。即ち、図6(B)に示されるように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。従って実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図6(B)に示される例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
図6(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示される例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
次に図7および図8を参照しつつ本発明において用いられている超高膨張比サイクルについて説明する。なお、図7は理論熱効率と膨張比との関係を示しており、図8は本発明において負荷に応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
図8(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図8(A)に示す例でも図6の(A),(B),(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図8(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。即ち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合の、即ち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、即ち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。従って通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比は膨張比ほど影響を与えないことが見い出されたのである。即ち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギーが必要となり、斯くして実圧縮比を高めても理論熱効率はさほど高くならない。
これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。従って膨張比は大きくすれば大きくするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。このように実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図7の実線で示す如く実圧縮比も膨張比と共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
このように実圧縮比が低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、従って実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大巾に高めることができる。図8(B)は可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比を低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
図8(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少せしめられる。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図8(A)に示される通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図8(B)に示される場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。これが超高膨張比サイクルと称される所以である。
一般的に言って内燃機関では機関負荷が低いほど熱効率が悪くなり、従って機関運転時における熱効率を向上させるためには、即ち燃費を向上させるには機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが必要となる。一方、図8(B)に示される超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室5内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、従ってこの超高膨張比サイクルは機関負荷が比較的低いときにしか採用できないことになる。従って本発明による実施例では機関負荷が比較的低いときには図8(B)に示す超高膨張比サイクルとし、機関高負荷運転時には図8(A)に示す通常のサイクルとするようにしている。
次に図9を参照しつつ機関の暖機完了後における運転制御全般について概略的に説明する。
図9には機関の暖機完了後であって機関回転数が或る回転数のときの機関の要求トルクに応じた吸入空気量、吸気弁閉弁時期、機械圧縮比、膨張比、実圧縮比およびスロットル弁17の開度の各変化が示されている。なお、図9は、触媒コンバータ20内の三元触媒によって排気ガス中の未燃HC,COおよびNOXを同時に低減しうるように燃焼室5内における平均空燃比が空燃比センサ21の出力信号に基いて理論空燃比にフィードバック制御されている場合を示している。
さて、前述したように機関高負荷運転時には、即ち要求トルクTQが高いときには図8(A)に示される通常のサイクルが実行される。従って図9に示されるようにこのときには機械圧縮比は低くされるために膨張比は低く、図9において実線で示されるように吸気弁7の閉弁時期は図5において実線で示される如く早められている。また、このときには吸入空気量は多く、このときスロットル弁17の開度は全開に保持されている。
一方、図9において実線で示されるように機関の要求トルクTQが低くなるとそれに伴って吸入空気量を減少すべく吸気弁7の閉弁時期が遅くされる。またこのときには機関の要求トルクTQが低くなるにつれて実圧縮比が少しずつ増大するように機関の要求トルクTQが低くなるにつれて機械圧縮比が増大される。従ってこのとき機関の要求トルクTQが低くなるにつれて膨張比も増大される。なお、このときにもスロットル弁17は全開状態に保持されており、従って燃焼室5内に供給される吸入空気量はスロットル弁17によらずに吸気弁7の閉弁時期を変えることによって制御されている。
機関の要求トルクTQが更に低くなると機械圧縮比は更に増大せしめられ、機関の要求トルクTQが低負荷寄りのトルクTXまで低下すると機械圧縮比は最大機械圧縮比とされる。機械圧縮比が最大機械圧縮比とされたときのトルクTXよりも要求トルクTQの低い領域では機械圧縮比が最大機械圧縮比に保持される。従って機関低負荷運転時には機械圧縮比は最大となり、膨張比も最大となる。
一方、図9に示される実施例では機関の要求トルクTQがTXまで低下すると吸気弁7の閉弁時期が燃焼室5内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期となる。吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達すると吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときのトルクTXよりも機関の要求トルクTQの低い領域では吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持される。
吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持されるともはや吸気弁7の閉弁時期の変化によっては吸入空気量を制御することができない。図9に示される実施例ではこのとき、即ち吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときのトルクTXよりも機関の要求トルクTQの低い領域ではスロットル弁17によって燃焼室5内に供給される吸入空気量が制御され、機関の要求トルクTQが低くなるほどスロットル弁17の開度は小さくされる。
一方、図9において破線で示すように機関の要求トルクTQが低くなるにつれて吸気弁7の閉弁時期を早めることによってもスロットル弁17によらずに吸入空気量を制御することができる。従って、図9において実線で示される場合と破線で示される場合とをいずれも包含しうるように表現すると、本発明による実施例では吸気弁7の閉弁時期は、機関の要求トルクTQが低くなるにつれて、燃焼室内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期TXまで吸気下死点BDCから離れる方向に移動せしめられることになる。
ところで前述したように図8(B)に示す超高膨張比サイクルでは膨張比が26とされる。この膨張比は高いほど好ましいが図7からわかるように実用上使用可能な下限実圧縮比ε=5に対しても20以上であればかなり高い理論熱効率を得ることができる。従って本発明による実施例では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
上述した如く本発明による実施例では燃焼室5内に供給される吸入空気量は基本的には吸気弁7の閉弁時期を制御することによって制御され、低負荷運転時に限って吸入空気量はスロットル弁17により制御される。この場合、本発明による実施例では要求トルクTQを満たす吸入空気量を得るのに必要な吸気弁7の目標閉弁時期ICが機関の要求トルクTQおよび機関回転数Nの関数として図10(A)に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されている。また、スロットル弁17の目標開度θも機関の要求トルクTQおよび機関回転数Nの関数として図10(B)に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されている。
一方、図11(A)は機関の要求トルクTQが或る要求トルクのときの機関の発生トルクと点火時期との関係を示している。なお、図11(A)において横軸はMBT(Minimum advance for Best Torque)を基準としたクランク角を示している。即ち、図11(A)において横軸の−15°はMBTに対する点火時期の遅角量が15°であることを示している。一方、図11(B)はMBTに対する点火時期の遅角量ΔIGと機関回転数の関係を示している。
図11(A)からわかるように点火時期がMBTにされたときに最大の発生トルクが得られ、従って点火時期はMBTとすることが好ましい。しかしながら機関低回転時には燃焼室5内に発生する乱れが小さいために着火火炎の伝播速度が遅く、このとき点火時期をMBTにすると燃焼室5内の圧力上昇に伴ない燃焼室5周辺部の未燃ガスが自着火してノッキングを生ずることになる。従って機関低回転時には点火時期をMBTとすることはできず、このときノッキングが発生しないように点火時期はMBTに対して遅角せざるを得なくなる。
これに対し、機関高回転時には燃焼室5内に強力な乱れが発生するために点火時期をMBTとしてもノッキングが発生せず、斯くして機関回転時には点火時期がMBTとされる。従って図11(B)に示されるように機関回転数が低くなるにつれてMBTに対する点火時期の遅角量ΔIGが増大せしめられることになる。なお、図11(A)からわかるようにMBTに対する遅角量ΔIGが増大せしめられると機関の発生トルクは低下する。
ところで実圧縮比を高くするとノッキングが発生しやすくなり、点火時期を進角するとノッキングが発生しやすくなる。従って実圧縮比を高くしたときには点火時期を遅角させればノッキングの発生を阻止することができ、逆に点火時期を進角させたときには実圧縮比を低くすればノッキングの発生を阻止することができる。図12(A)はノッキングの発生を阻止しうる実圧縮比の変化量ΔACと点火時期の変化量ΔIGとの関係を示している。
図12(A)から、実圧縮比の増大量ΔACが大きくなるにつれて点火時期の遅角量ΔIGを大きくすればノッキングの発生を阻止することができ、点火時期の進角量ΔIGが大きくなるにつれて実圧縮比の減少量ΔACを大きくすればノッキングの発生を阻止することができることがわかる。なお、図12(A)は図1に示される内燃機関におけるΔACとΔIGとの関係を示しており、図1に示される内燃機関ではΔAC:ΔIG=1:6の関係がある。
一方、図12(B)は図1に示される内燃機関における熱効率と点火時期の変化量ΔIGとの関係を示しており、図12(C)は図1に示される内燃機関における熱効率と実圧縮比の変化量ΔACとの関係を示している。図12(B)からわかるように、MBTに対する点火時期の遅角量ΔIGが増大すると熱効率の低下量が次第に大きくなる。これに対し、図12(C)からわかるように実圧縮比が増大すると熱効率は単調に増大する。
一方、図12(B)および(C)には、点火時期がMBTである場合にΔAC1:ΔIG1=1:6の関係に従って実圧縮比および点火時期を変化させた場合の熱効率の変化と、点火時期がMBTに対して15°遅角されている場合にΔAC2:ΔIG2=1:6の関係に従って点火時期および実圧縮比を変化させた場合の熱効率の変化とが示されている。
前述したように機関高回転時には点火時期がMBTとされる。図12(B)からわかるようにMBT近傍では点火時期が多少変化しても熱効率はあまり変化せず、従ってMBTに対し点火時期をΔIG1だけ遅角したときの熱効率の低下量E1に比べて実圧縮比をΔAC1だけ増大したときの熱効率の増大量F1の方が大きくなる。従って機関高回転時には実圧縮比を増大させると共に点火時期を遅角させることによってノッキングの発生を阻止しつつ熱効率を向上させることができることになる。
この場合、実圧縮比を増大することによる熱効率の増大量F1と点火時期を遅角することによる熱効率と減少量E1との差(F1−E1)が最大となる実圧縮比および点火時期が存在し、機関暖機完了後の予め定められた標準状態において上述の差(F1−E1)が最大となる実圧縮比および点火時期が、即ち最大の熱効率の得られる実圧縮比および点火時期が機関高回転時における基準実圧縮比および基準点火時期とされる。なお、予め定められた標準状態とは例えば大気圧が標準大気圧(0.1MPa)で大気温、即ち吸入空気温が20℃のときを言う。
一方、前述したように機関低回転時には点火時期がMBTに対して大巾に遅角される。このときには図12(B)からわかるように点火時期が変化すると熱効率が大きく変化し、従って実圧縮比をΔAC2だけ低下させたときの熱効率の低下量F2に比べて点火時期をΔIG2だけ進角させたときの熱効率の増加量E2の方が大きくなる。従って機関低回転時には点火時期を進角させると共に実圧縮比を低下させることによってノッキングの発生を阻止しつつ熱効率を向上させることができる。
この場合にも点火時期を進角させることによる熱効率の増大量E2と実圧縮比を低下させることによる熱効率の減少量F2との差(E2−F2)が最大となる点火時期および実圧縮比が存在し、機関暖機完了後の予め定められた標準状態において上述の差(E2−F2)が最大となる点火時期および実圧縮比が、即ち最大の熱効率の得られる点火時期および実圧縮比が機関低回転時における基準点火時期および基準実圧縮比とされる。
本発明による実施例では機関暖機完了後の予め定められた標準状態におけるこれら基準実圧縮比ACおよび基準点火時期IGは機関の要求トルクTQおよび機関回転数Nの関数として夫々図13(A)および(B)に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されており、機関暖機完了後はこれらのマップに基づいて実圧縮比および点火時期が算出される。
さて、機関始動時におけるように機関温度が低いときにはノッキングが生じずらくなり、従ってこのときには実圧縮比を高めるか或いは点火時期を進角させることによって熱効率を更に向上することができる。また、冬季におけるように吸入空気温が低いときにもノッキングが生じずらくなり、従ってこのときには実圧縮比を高めるか或いは点火時期を進角することによって熱効率を更に向上することができる。
この場合でも熱効率と点火時期の遅角量ΔIGとの関係は図12(B)に示されるような関係となり、熱効率と実圧縮比の変化量ΔACとの関係は図12(C)に示されるような関係となる。即ち、前述したように機関高回転時には点火時期がMBT付近とされ、MBT近傍では点火時期が多少変化しても熱効率はあまり変化しない。従って機関高回転時には点火時期を進角させるよりも実圧縮比を増大させた方が熱効率が向上する。従って本発明では機関温度が低いとき或いは吸入空気温が低いときの機関高回転時には実圧縮比を基準実圧縮比よりも増大させることによって熱効率を向上させるようにしている。
一方、機関低回転時には前述したように点火時期を変化させると熱効率が大きく変化する。従って機関低回転時には実圧縮比を増大させるよりも点火時期を進角させた方が熱効率が向上する。従って本発明では機関温度が低いとき或いは吸入空気温が低いときの機関低回転時には点火時期を基準点火時期よりも進角させることによって熱効率を向上させるようにしている。
即ち、本発明では機関暖機完了後の予め定められた標準状態における実圧縮比および点火時期が夫々機関の運転状態に応じた基準実圧縮比および基準点火時期として予め記憶されており、機関温度を代表する温度が標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が標準状態における吸入空気温よりも低いときには、機関高回転時に実圧縮比を基準実圧縮比よりも増大させ、機関低回転時に点火時期を基準点火時期よりも進角させるようにしている。
ところでこのように機関温度が低いとき或いは吸入空気温が低いときに実圧縮比を増大させるか或いは点火時期を進角させることによって熱効率を向上させると排気ガス温が低下してしまう。その結果、三元触媒、即ち排気浄化用触媒が活性化するまでに時間を要することになる。
そこで本発明による一実施例では、機関温度を代表する温度が標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が標準状態における吸入空気温よりも低いときであって排気浄化用触媒が活性化しているときに、機関高回転時には実圧縮比を基準実圧縮比よりも増大させ、機関低回転時には点火時期を基準点火時期よりも進角させるようにしている。
即ち、この実施例では排気浄化用触媒が活性化していないときには実圧縮比の増大や点火時期の進角による熱効率の向上作用を停止し、排気浄化用触媒が活性化しているときに実圧縮比の増大や点火時期の進角による熱効率の向上作用を行うようにしている。
なお、排気浄化用触媒が活性化していないときには熱効率を低下させて排気ガス温を上昇させることにより排気浄化用触媒を早期に活性化させることができる。この場合、実圧縮比が低いほど熱効率が低下し、点火時期が遅いほど熱効率が低下する。従ってこの実施例では機関温度を代表する温度が標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が標準状態における吸入空気温よりも低いときであっても排気浄化用触媒が活性化していないときには、実圧縮比を最小実圧縮比まで低下させると共に点火時期を最大遅角量まで遅角させるようにしている。
さて、前述したように本発明では機関温度が低いとき或いは吸入空気温が低いときには、機関高回転時に実圧縮比が増大され、機関低回転時に点火時期が進角される。ところがこのときにも既に説明した機関暖機完了後の標準状態における場合と同様に、機関高回転時に実圧縮比を増大することによる熱効率の増大量と点火時期を遅角することによる熱効率と減少量との差が最大となる実圧縮比および点火時期が存在し、機関低回転時に点火時期を進角させることによる熱効率の増大量と実圧縮比を低下させることによる熱効率の減少量との差が最大となる点火時期および実圧縮比が存在する。
従って本発明による別の実施例ではノッキングの発生を阻止しつつ更に熱効率を向上させるために図4(A)に示されるように機関高回転時には実圧縮比を増大させると共に点火時期を遅角させ、機関低回転時には点火時期を進角させると共に実圧縮比を低下させるようにしている。
図14(B)はこの別の実施例における異なる吸入空気温a,b,cについての実圧縮比の増大量又は減少量ΔAC1と機関回転数Nとの関係を示しており、図14(C)はこの別の実施例における異なる吸入空気温a,b,cについての点火時期の進角量又は遅角量ΔIG1と機関回転数Nとの関係を示している。なお、図14(B),(C)において吸入空気温はa>b>cなる関係にある。従って図14(B),(C)から、機関回転数Nが高いほどおよび吸入空気温が低いほど実圧縮比の増大量ΔAC1が増大せしめられると共に点火時期の遅角量ΔIG1が増大せしめられ、機関回転数Nが低いほどおよび吸入空気温が低いほど実圧縮比の低下量ΔAC1が増大せしめられると共に点火時期の進角量ΔIG1が増大せしめられることがわかる。
また、図15(A),(B)はこの別の実施例において機関温度を代表する温度として機関冷却水温が用いられた場合の各関係を示している。即ち、図15(A)は異なる機関冷却水温a,b,cについての実圧縮比の増大量又は減少量ΔAC2と機関回転数Nとの関係を示しており、図15(B)は異なる機関冷却水温a,b,cについての点火時期の進角量又は遅角量ΔIG2と機関回転数Nとの関係を示している。なお、図15(A),(B)において機関冷却水温はa>b>cなる関係にある。
従って図15(A),(B)から、機関回転数Nが高いほどおよび機関冷却水温が低いほど実圧縮比の増大量ΔAC2が増大せしめられると共に点火時期の遅角量ΔIG2が増大され、機関回転数Nが低いほどおよび機関冷却水温が低いほど実圧縮比の低下量ΔAC2が増大せしめられると共に点火時期の進角量ΔIG2が増大せしめられることがわかる。
代表的な運転制御ルーチンとしてこの別の実施例の運転制御ルーチンを図16に示す。なお、このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図16を参照するとまず初めにステップ100において図10(A)に示されるマップから吸気弁7の目標閉弁時期ICが算出される。次いでステップ101では図13(A)に示されるマップから機関暖機完了後の標準状態における基準実圧縮比ACが算出される。次いでステップ102では温度センサ24により検出された触媒温度TCが触媒活性化温度TC0よりも高いか否かが判別される。TC≦TC0のときにはステップ106に進んで目標実圧縮比AC0が最小実圧縮比AC0とされる。次いでステップ107に進む。これに対し、TC>TC0のときにはステップ103に進む。
ステップ103では温度センサ23により検出された吸入空気温および機関回転数Nに基づいて図14(B)に示される関係から実圧縮比の増大量又は低下量ΔAC1が算出される。次いでステップ104では温度センサ22により検出された機関冷却水温および機関回転数Nに基づいて図15(A)に示される関係から実圧縮比の増大量又は低下量ΔAC2が算出される。次いでステップ105では基準実圧縮比ACにΔAC1およびΔAC2を加算することによって目標実圧縮比AC0(=AC+ΔAC1+ΔAC2)が算出される。次いでステップ107に進む。
ステップ107では実圧縮比を目標実圧縮比AC0とするのに必要な目標機械圧縮比CRが算出される。次いでステップ108では図10(B)に示されるマップからスロットル弁17の目標開度θが算出される。次いでステップ109では図13(B)に示されるマップから機関暖機完了後の標準状態における基準点火時期IGが算出される。次いでステップ110では再び温度センサ24により検出された触媒温度TCが触媒活性化温度TC0よりも高いか否かが判別される。TC≦TC0のときにはステップ114に進んで目標点火時期IG0が最大遅角量IG0とされる。次いでステップ115に進む。これに対し、TC>TC0のときにはステップ111に進む。
ステップ111では温度センサ23により検出された吸入空気温および機関回転数Nに基づいて図14(C)に示される関係から点火時期の進角量又は遅角量ΔIG1が算出される。次いでステップ112では温度センサ22により検出された機関冷却水温および機関回転数Nに基づいて図15(B)に示される関係から点火時期の進角量又は遅角量ΔIG2が算出される。次いでステップ113では基準点火時期IGにΔIG1およびΔIG2を加算することによって目標点火時期IG0(=IG+ΔIG1+ΔIG2)が算出される。次いでステップ115に進む。ステップ115では機械圧縮比が目標機械圧縮比CRとなるように可変圧縮比機構Aが制御され、吸気弁7の閉弁時期が目標閉弁時期ICとなるように可変バルブタイミング機構Bが制御され、点火時期が目標点火時期IG0となるように点火栓6による点火作用が制御され、スロットル弁17の開度が目標開度θとなるようにスロットル弁17が制御される。
図1を参照すると、1はクランクケース、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は燃焼室5の頂面中央部に配置された点火栓、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートを夫々示す。吸気ポート8は吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、各吸気枝管11には夫々対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに各燃焼室5内に配置してもよい。
サージタンク12は吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結され、吸気ダクト14内にはアクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17と例えば熱線を用いた吸入空気量検出器18とが配置される。一方、排気ポート10は排気マニホルド19を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒コンバータ20に連結され、排気マニホルド19内には空燃比センサ21が配置される。また、図1に示されるようにシリンダブロック2には機関冷却水温を検出するための温度センサ22が取付けられており、サージタンク12には吸入空気温を検出するための温度センサ23が取付けられており、触媒コンバータ20には三元触媒の温度を検出するための温度センサ24が取付けられている。
一方、図1に示される実施例ではクランクケース1とシリンダブロック2との連結部にクランクケース1とシリンダブロック2のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられており、更に実際の圧縮作用の開始時期を変更可能な実圧縮作用開始時期変更機構Bが設けられている。なお、図1に示される実施例ではこの実圧縮作用開始時期変更機構Bは吸気弁7の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構からなる。
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。吸入空気量検出器18、空燃比センサ21および各温度センサ22,23,24の出力信号は夫々対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火栓6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用アクチュエータ16、可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bに接続される。
図2は図1に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図を示している。図2を参照すると、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50内には夫々断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁面上には互いに間隔を隔てて夫々対応する突出部50の間に嵌合せしめられる複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52内にも夫々断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
図2に示されるように一対のカムシャフト54,55が設けられており、各カムシャフト54,55上には一つおきに各カム挿入孔51内に回転可能に挿入される円形カム56が固定されている。これらの円形カム56は各カムシャフト54,55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム56間には図3においてハッチングで示すように各カムシャフト54,55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57が延びており、この偏心軸57上に別の円形カム58が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示されるようにこれら円形カム58は各円形カム56間に配置されており、これら円形カム58は対応する各カム挿入孔53内に回転可能に挿入されている。
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54,55上に固定された円形カム56を図3(A)において実線の矢印で示される如く互いに反対方向に回転させると偏心軸57が下方中央に向けて移動するために円形カム58がカム挿入孔53内において図3(A)の破線の矢印に示すように円形カム56とは反対方向に回転し、図3(B)に示されるように偏心軸57が下方中央まで移動すると円形カム58の中心が偏心軸57の下方へ移動する。
図3(A)と図3(B)とを比較するとわかるようにクランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム56の中心と円形カム58の中心との距離によって定まり、円形カム56の中心と円形カム58の中心との距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース1から離れる。シリンダブロック2がクランクケース1から離れるとピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大し、従って各カムシャフト54,55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
図2に示されるように各カムシャフト54,55を夫々反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸には夫々螺旋方向が逆向きの一対のウォームギア61,62が取付けられており、これらウォームギア61,62と噛合する歯車63,64が夫々各カムシャフト54,55の端部に固定されている。この実施例では駆動モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。なお、図1から図3に示される可変圧縮比機構Aは一例を示すものであっていかなる形式の可変圧縮比機構でも用いることができる。
一方、図4は図1において吸気弁7を駆動するためのカムシャフト70の端部に取付けられた可変バルブタイミング機構Bを示している。図4を参照すると、この可変バルブタイミング機構Bは機関のクランク軸によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転せしめられるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁駆動用カムシャフト70と一緒に回転しかつ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを具備しており、各ベーン75の両側には夫々進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
各油圧室76,77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76,77に夫々連結された油圧ポート79,80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83,84と、各ポート79,80,82,83,84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは図4においてスプール弁85が右方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転せしめられる。
これに対し、吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは図4においてスプール弁85が左方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転せしめられる。
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転せしめられているときにスプール弁85が図4に示される中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。従って可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させることができ、遅角させることができることになる。
図5において実線は可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。従って吸気弁7の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、従って吸気弁7の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
図1および図4に示される可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
次に図6を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図6の(A),(B),(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図6の(A),(B),(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
図6(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示される例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
図6(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。即ち、図6(B)に示されるように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。従って実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図6(B)に示される例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
図6(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示される例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
次に図7および図8を参照しつつ本発明において用いられている超高膨張比サイクルについて説明する。なお、図7は理論熱効率と膨張比との関係を示しており、図8は本発明において負荷に応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
図8(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図8(A)に示す例でも図6の(A),(B),(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図8(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。即ち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合の、即ち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、即ち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。従って通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比は膨張比ほど影響を与えないことが見い出されたのである。即ち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギーが必要となり、斯くして実圧縮比を高めても理論熱効率はさほど高くならない。
これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。従って膨張比は大きくすれば大きくするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。このように実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図7の実線で示す如く実圧縮比も膨張比と共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
このように実圧縮比が低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、従って実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大巾に高めることができる。図8(B)は可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比を低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
図8(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少せしめられる。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図8(A)に示される通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図8(B)に示される場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。これが超高膨張比サイクルと称される所以である。
一般的に言って内燃機関では機関負荷が低いほど熱効率が悪くなり、従って機関運転時における熱効率を向上させるためには、即ち燃費を向上させるには機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが必要となる。一方、図8(B)に示される超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室5内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、従ってこの超高膨張比サイクルは機関負荷が比較的低いときにしか採用できないことになる。従って本発明による実施例では機関負荷が比較的低いときには図8(B)に示す超高膨張比サイクルとし、機関高負荷運転時には図8(A)に示す通常のサイクルとするようにしている。
次に図9を参照しつつ機関の暖機完了後における運転制御全般について概略的に説明する。
図9には機関の暖機完了後であって機関回転数が或る回転数のときの機関の要求トルクに応じた吸入空気量、吸気弁閉弁時期、機械圧縮比、膨張比、実圧縮比およびスロットル弁17の開度の各変化が示されている。なお、図9は、触媒コンバータ20内の三元触媒によって排気ガス中の未燃HC,COおよびNOXを同時に低減しうるように燃焼室5内における平均空燃比が空燃比センサ21の出力信号に基いて理論空燃比にフィードバック制御されている場合を示している。
さて、前述したように機関高負荷運転時には、即ち要求トルクTQが高いときには図8(A)に示される通常のサイクルが実行される。従って図9に示されるようにこのときには機械圧縮比は低くされるために膨張比は低く、図9において実線で示されるように吸気弁7の閉弁時期は図5において実線で示される如く早められている。また、このときには吸入空気量は多く、このときスロットル弁17の開度は全開に保持されている。
一方、図9において実線で示されるように機関の要求トルクTQが低くなるとそれに伴って吸入空気量を減少すべく吸気弁7の閉弁時期が遅くされる。またこのときには機関の要求トルクTQが低くなるにつれて実圧縮比が少しずつ増大するように機関の要求トルクTQが低くなるにつれて機械圧縮比が増大される。従ってこのとき機関の要求トルクTQが低くなるにつれて膨張比も増大される。なお、このときにもスロットル弁17は全開状態に保持されており、従って燃焼室5内に供給される吸入空気量はスロットル弁17によらずに吸気弁7の閉弁時期を変えることによって制御されている。
機関の要求トルクTQが更に低くなると機械圧縮比は更に増大せしめられ、機関の要求トルクTQが低負荷寄りのトルクTXまで低下すると機械圧縮比は最大機械圧縮比とされる。機械圧縮比が最大機械圧縮比とされたときのトルクTXよりも要求トルクTQの低い領域では機械圧縮比が最大機械圧縮比に保持される。従って機関低負荷運転時には機械圧縮比は最大となり、膨張比も最大となる。
一方、図9に示される実施例では機関の要求トルクTQがTXまで低下すると吸気弁7の閉弁時期が燃焼室5内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期となる。吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達すると吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときのトルクTXよりも機関の要求トルクTQの低い領域では吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持される。
吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持されるともはや吸気弁7の閉弁時期の変化によっては吸入空気量を制御することができない。図9に示される実施例ではこのとき、即ち吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときのトルクTXよりも機関の要求トルクTQの低い領域ではスロットル弁17によって燃焼室5内に供給される吸入空気量が制御され、機関の要求トルクTQが低くなるほどスロットル弁17の開度は小さくされる。
一方、図9において破線で示すように機関の要求トルクTQが低くなるにつれて吸気弁7の閉弁時期を早めることによってもスロットル弁17によらずに吸入空気量を制御することができる。従って、図9において実線で示される場合と破線で示される場合とをいずれも包含しうるように表現すると、本発明による実施例では吸気弁7の閉弁時期は、機関の要求トルクTQが低くなるにつれて、燃焼室内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期TXまで吸気下死点BDCから離れる方向に移動せしめられることになる。
ところで前述したように図8(B)に示す超高膨張比サイクルでは膨張比が26とされる。この膨張比は高いほど好ましいが図7からわかるように実用上使用可能な下限実圧縮比ε=5に対しても20以上であればかなり高い理論熱効率を得ることができる。従って本発明による実施例では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
上述した如く本発明による実施例では燃焼室5内に供給される吸入空気量は基本的には吸気弁7の閉弁時期を制御することによって制御され、低負荷運転時に限って吸入空気量はスロットル弁17により制御される。この場合、本発明による実施例では要求トルクTQを満たす吸入空気量を得るのに必要な吸気弁7の目標閉弁時期ICが機関の要求トルクTQおよび機関回転数Nの関数として図10(A)に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されている。また、スロットル弁17の目標開度θも機関の要求トルクTQおよび機関回転数Nの関数として図10(B)に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されている。
一方、図11(A)は機関の要求トルクTQが或る要求トルクのときの機関の発生トルクと点火時期との関係を示している。なお、図11(A)において横軸はMBT(Minimum advance for Best Torque)を基準としたクランク角を示している。即ち、図11(A)において横軸の−15°はMBTに対する点火時期の遅角量が15°であることを示している。一方、図11(B)はMBTに対する点火時期の遅角量ΔIGと機関回転数の関係を示している。
図11(A)からわかるように点火時期がMBTにされたときに最大の発生トルクが得られ、従って点火時期はMBTとすることが好ましい。しかしながら機関低回転時には燃焼室5内に発生する乱れが小さいために着火火炎の伝播速度が遅く、このとき点火時期をMBTにすると燃焼室5内の圧力上昇に伴ない燃焼室5周辺部の未燃ガスが自着火してノッキングを生ずることになる。従って機関低回転時には点火時期をMBTとすることはできず、このときノッキングが発生しないように点火時期はMBTに対して遅角せざるを得なくなる。
これに対し、機関高回転時には燃焼室5内に強力な乱れが発生するために点火時期をMBTとしてもノッキングが発生せず、斯くして機関回転時には点火時期がMBTとされる。従って図11(B)に示されるように機関回転数が低くなるにつれてMBTに対する点火時期の遅角量ΔIGが増大せしめられることになる。なお、図11(A)からわかるようにMBTに対する遅角量ΔIGが増大せしめられると機関の発生トルクは低下する。
ところで実圧縮比を高くするとノッキングが発生しやすくなり、点火時期を進角するとノッキングが発生しやすくなる。従って実圧縮比を高くしたときには点火時期を遅角させればノッキングの発生を阻止することができ、逆に点火時期を進角させたときには実圧縮比を低くすればノッキングの発生を阻止することができる。図12(A)はノッキングの発生を阻止しうる実圧縮比の変化量ΔACと点火時期の変化量ΔIGとの関係を示している。
図12(A)から、実圧縮比の増大量ΔACが大きくなるにつれて点火時期の遅角量ΔIGを大きくすればノッキングの発生を阻止することができ、点火時期の進角量ΔIGが大きくなるにつれて実圧縮比の減少量ΔACを大きくすればノッキングの発生を阻止することができることがわかる。なお、図12(A)は図1に示される内燃機関におけるΔACとΔIGとの関係を示しており、図1に示される内燃機関ではΔAC:ΔIG=1:6の関係がある。
一方、図12(B)は図1に示される内燃機関における熱効率と点火時期の変化量ΔIGとの関係を示しており、図12(C)は図1に示される内燃機関における熱効率と実圧縮比の変化量ΔACとの関係を示している。図12(B)からわかるように、MBTに対する点火時期の遅角量ΔIGが増大すると熱効率の低下量が次第に大きくなる。これに対し、図12(C)からわかるように実圧縮比が増大すると熱効率は単調に増大する。
一方、図12(B)および(C)には、点火時期がMBTである場合にΔAC1:ΔIG1=1:6の関係に従って実圧縮比および点火時期を変化させた場合の熱効率の変化と、点火時期がMBTに対して15°遅角されている場合にΔAC2:ΔIG2=1:6の関係に従って点火時期および実圧縮比を変化させた場合の熱効率の変化とが示されている。
前述したように機関高回転時には点火時期がMBTとされる。図12(B)からわかるようにMBT近傍では点火時期が多少変化しても熱効率はあまり変化せず、従ってMBTに対し点火時期をΔIG1だけ遅角したときの熱効率の低下量E1に比べて実圧縮比をΔAC1だけ増大したときの熱効率の増大量F1の方が大きくなる。従って機関高回転時には実圧縮比を増大させると共に点火時期を遅角させることによってノッキングの発生を阻止しつつ熱効率を向上させることができることになる。
この場合、実圧縮比を増大することによる熱効率の増大量F1と点火時期を遅角することによる熱効率と減少量E1との差(F1−E1)が最大となる実圧縮比および点火時期が存在し、機関暖機完了後の予め定められた標準状態において上述の差(F1−E1)が最大となる実圧縮比および点火時期が、即ち最大の熱効率の得られる実圧縮比および点火時期が機関高回転時における基準実圧縮比および基準点火時期とされる。なお、予め定められた標準状態とは例えば大気圧が標準大気圧(0.1MPa)で大気温、即ち吸入空気温が20℃のときを言う。
一方、前述したように機関低回転時には点火時期がMBTに対して大巾に遅角される。このときには図12(B)からわかるように点火時期が変化すると熱効率が大きく変化し、従って実圧縮比をΔAC2だけ低下させたときの熱効率の低下量F2に比べて点火時期をΔIG2だけ進角させたときの熱効率の増加量E2の方が大きくなる。従って機関低回転時には点火時期を進角させると共に実圧縮比を低下させることによってノッキングの発生を阻止しつつ熱効率を向上させることができる。
この場合にも点火時期を進角させることによる熱効率の増大量E2と実圧縮比を低下させることによる熱効率の減少量F2との差(E2−F2)が最大となる点火時期および実圧縮比が存在し、機関暖機完了後の予め定められた標準状態において上述の差(E2−F2)が最大となる点火時期および実圧縮比が、即ち最大の熱効率の得られる点火時期および実圧縮比が機関低回転時における基準点火時期および基準実圧縮比とされる。
本発明による実施例では機関暖機完了後の予め定められた標準状態におけるこれら基準実圧縮比ACおよび基準点火時期IGは機関の要求トルクTQおよび機関回転数Nの関数として夫々図13(A)および(B)に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されており、機関暖機完了後はこれらのマップに基づいて実圧縮比および点火時期が算出される。
さて、機関始動時におけるように機関温度が低いときにはノッキングが生じずらくなり、従ってこのときには実圧縮比を高めるか或いは点火時期を進角させることによって熱効率を更に向上することができる。また、冬季におけるように吸入空気温が低いときにもノッキングが生じずらくなり、従ってこのときには実圧縮比を高めるか或いは点火時期を進角することによって熱効率を更に向上することができる。
この場合でも熱効率と点火時期の遅角量ΔIGとの関係は図12(B)に示されるような関係となり、熱効率と実圧縮比の変化量ΔACとの関係は図12(C)に示されるような関係となる。即ち、前述したように機関高回転時には点火時期がMBT付近とされ、MBT近傍では点火時期が多少変化しても熱効率はあまり変化しない。従って機関高回転時には点火時期を進角させるよりも実圧縮比を増大させた方が熱効率が向上する。従って本発明では機関温度が低いとき或いは吸入空気温が低いときの機関高回転時には実圧縮比を基準実圧縮比よりも増大させることによって熱効率を向上させるようにしている。
一方、機関低回転時には前述したように点火時期を変化させると熱効率が大きく変化する。従って機関低回転時には実圧縮比を増大させるよりも点火時期を進角させた方が熱効率が向上する。従って本発明では機関温度が低いとき或いは吸入空気温が低いときの機関低回転時には点火時期を基準点火時期よりも進角させることによって熱効率を向上させるようにしている。
即ち、本発明では機関暖機完了後の予め定められた標準状態における実圧縮比および点火時期が夫々機関の運転状態に応じた基準実圧縮比および基準点火時期として予め記憶されており、機関温度を代表する温度が標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が標準状態における吸入空気温よりも低いときには、機関高回転時に実圧縮比を基準実圧縮比よりも増大させ、機関低回転時に点火時期を基準点火時期よりも進角させるようにしている。
ところでこのように機関温度が低いとき或いは吸入空気温が低いときに実圧縮比を増大させるか或いは点火時期を進角させることによって熱効率を向上させると排気ガス温が低下してしまう。その結果、三元触媒、即ち排気浄化用触媒が活性化するまでに時間を要することになる。
そこで本発明による一実施例では、機関温度を代表する温度が標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が標準状態における吸入空気温よりも低いときであって排気浄化用触媒が活性化しているときに、機関高回転時には実圧縮比を基準実圧縮比よりも増大させ、機関低回転時には点火時期を基準点火時期よりも進角させるようにしている。
即ち、この実施例では排気浄化用触媒が活性化していないときには実圧縮比の増大や点火時期の進角による熱効率の向上作用を停止し、排気浄化用触媒が活性化しているときに実圧縮比の増大や点火時期の進角による熱効率の向上作用を行うようにしている。
なお、排気浄化用触媒が活性化していないときには熱効率を低下させて排気ガス温を上昇させることにより排気浄化用触媒を早期に活性化させることができる。この場合、実圧縮比が低いほど熱効率が低下し、点火時期が遅いほど熱効率が低下する。従ってこの実施例では機関温度を代表する温度が標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が標準状態における吸入空気温よりも低いときであっても排気浄化用触媒が活性化していないときには、実圧縮比を最小実圧縮比まで低下させると共に点火時期を最大遅角量まで遅角させるようにしている。
さて、前述したように本発明では機関温度が低いとき或いは吸入空気温が低いときには、機関高回転時に実圧縮比が増大され、機関低回転時に点火時期が進角される。ところがこのときにも既に説明した機関暖機完了後の標準状態における場合と同様に、機関高回転時に実圧縮比を増大することによる熱効率の増大量と点火時期を遅角することによる熱効率と減少量との差が最大となる実圧縮比および点火時期が存在し、機関低回転時に点火時期を進角させることによる熱効率の増大量と実圧縮比を低下させることによる熱効率の減少量との差が最大となる点火時期および実圧縮比が存在する。
従って本発明による別の実施例ではノッキングの発生を阻止しつつ更に熱効率を向上させるために図4(A)に示されるように機関高回転時には実圧縮比を増大させると共に点火時期を遅角させ、機関低回転時には点火時期を進角させると共に実圧縮比を低下させるようにしている。
図14(B)はこの別の実施例における異なる吸入空気温a,b,cについての実圧縮比の増大量又は減少量ΔAC1と機関回転数Nとの関係を示しており、図14(C)はこの別の実施例における異なる吸入空気温a,b,cについての点火時期の進角量又は遅角量ΔIG1と機関回転数Nとの関係を示している。なお、図14(B),(C)において吸入空気温はa>b>cなる関係にある。従って図14(B),(C)から、機関回転数Nが高いほどおよび吸入空気温が低いほど実圧縮比の増大量ΔAC1が増大せしめられると共に点火時期の遅角量ΔIG1が増大せしめられ、機関回転数Nが低いほどおよび吸入空気温が低いほど実圧縮比の低下量ΔAC1が増大せしめられると共に点火時期の進角量ΔIG1が増大せしめられることがわかる。
また、図15(A),(B)はこの別の実施例において機関温度を代表する温度として機関冷却水温が用いられた場合の各関係を示している。即ち、図15(A)は異なる機関冷却水温a,b,cについての実圧縮比の増大量又は減少量ΔAC2と機関回転数Nとの関係を示しており、図15(B)は異なる機関冷却水温a,b,cについての点火時期の進角量又は遅角量ΔIG2と機関回転数Nとの関係を示している。なお、図15(A),(B)において機関冷却水温はa>b>cなる関係にある。
従って図15(A),(B)から、機関回転数Nが高いほどおよび機関冷却水温が低いほど実圧縮比の増大量ΔAC2が増大せしめられると共に点火時期の遅角量ΔIG2が増大され、機関回転数Nが低いほどおよび機関冷却水温が低いほど実圧縮比の低下量ΔAC2が増大せしめられると共に点火時期の進角量ΔIG2が増大せしめられることがわかる。
代表的な運転制御ルーチンとしてこの別の実施例の運転制御ルーチンを図16に示す。なお、このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図16を参照するとまず初めにステップ100において図10(A)に示されるマップから吸気弁7の目標閉弁時期ICが算出される。次いでステップ101では図13(A)に示されるマップから機関暖機完了後の標準状態における基準実圧縮比ACが算出される。次いでステップ102では温度センサ24により検出された触媒温度TCが触媒活性化温度TC0よりも高いか否かが判別される。TC≦TC0のときにはステップ106に進んで目標実圧縮比AC0が最小実圧縮比AC0とされる。次いでステップ107に進む。これに対し、TC>TC0のときにはステップ103に進む。
ステップ103では温度センサ23により検出された吸入空気温および機関回転数Nに基づいて図14(B)に示される関係から実圧縮比の増大量又は低下量ΔAC1が算出される。次いでステップ104では温度センサ22により検出された機関冷却水温および機関回転数Nに基づいて図15(A)に示される関係から実圧縮比の増大量又は低下量ΔAC2が算出される。次いでステップ105では基準実圧縮比ACにΔAC1およびΔAC2を加算することによって目標実圧縮比AC0(=AC+ΔAC1+ΔAC2)が算出される。次いでステップ107に進む。
ステップ107では実圧縮比を目標実圧縮比AC0とするのに必要な目標機械圧縮比CRが算出される。次いでステップ108では図10(B)に示されるマップからスロットル弁17の目標開度θが算出される。次いでステップ109では図13(B)に示されるマップから機関暖機完了後の標準状態における基準点火時期IGが算出される。次いでステップ110では再び温度センサ24により検出された触媒温度TCが触媒活性化温度TC0よりも高いか否かが判別される。TC≦TC0のときにはステップ114に進んで目標点火時期IG0が最大遅角量IG0とされる。次いでステップ115に進む。これに対し、TC>TC0のときにはステップ111に進む。
ステップ111では温度センサ23により検出された吸入空気温および機関回転数Nに基づいて図14(C)に示される関係から点火時期の進角量又は遅角量ΔIG1が算出される。次いでステップ112では温度センサ22により検出された機関冷却水温および機関回転数Nに基づいて図15(B)に示される関係から点火時期の進角量又は遅角量ΔIG2が算出される。次いでステップ113では基準点火時期IGにΔIG1およびΔIG2を加算することによって目標点火時期IG0(=IG+ΔIG1+ΔIG2)が算出される。次いでステップ115に進む。ステップ115では機械圧縮比が目標機械圧縮比CRとなるように可変圧縮比機構Aが制御され、吸気弁7の閉弁時期が目標閉弁時期ICとなるように可変バルブタイミング機構Bが制御され、点火時期が目標点火時期IG0となるように点火栓6による点火作用が制御され、スロットル弁17の開度が目標開度θとなるようにスロットル弁17が制御される。
1…クランクケース
2…シリンダブロック
3…シリンダヘッド
4…ピストン
5…燃焼室
7…吸気弁
22,23,24…温度センサ
70…吸気弁駆動用カムシャフト
A…可変圧縮比機構
B…可変バルブタイミング機構
2…シリンダブロック
3…シリンダヘッド
4…ピストン
5…燃焼室
7…吸気弁
22,23,24…温度センサ
70…吸気弁駆動用カムシャフト
A…可変圧縮比機構
B…可変バルブタイミング機構
【0002】
にある。
課題を解決するための手段
本発明によれば、機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構と、吸気弁の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構とを具備しており、機関暖機完了後の予め定められた標準状態における実圧縮比および点火時期が夫々機関の運転状態に応じた基準実圧縮比および基準点火時期として予め記憶されており、機関温度を代表する温度が標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が標準状態における吸入空気温よりも低いときには、機関高回転時であれば実圧縮比を基準実圧縮比よりも増大させることによって熱効率を向上させ、機関低回転時であれば点火時期を基準点火時期よりも進角させることによって熱効率を向上させるようにした火花点火式内燃機関が提供される。
発明の効果
機関温度を代表する温度が標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が標準状態における吸入空気温よりも低いときにノッキングを生ずることなく熱効率を向上することができる。
図面の簡単な説明
図1は火花点火式内燃機関の全体図である。
図2は可変圧縮比機構の分解斜視図である。
図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図である。
図4は可変バルブタイミング機構を示す図である。
図5は吸気弁および排気弁のリフト量を示す図である。
図6は機械圧縮比、実圧縮比および膨張比を説明するための図である。
にある。
課題を解決するための手段
本発明によれば、機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構と、吸気弁の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構とを具備しており、機関暖機完了後の予め定められた標準状態における実圧縮比および点火時期が夫々機関の運転状態に応じた基準実圧縮比および基準点火時期として予め記憶されており、機関温度を代表する温度が標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が標準状態における吸入空気温よりも低いときには、機関高回転時であれば実圧縮比を基準実圧縮比よりも増大させることによって熱効率を向上させ、機関低回転時であれば点火時期を基準点火時期よりも進角させることによって熱効率を向上させるようにした火花点火式内燃機関が提供される。
発明の効果
機関温度を代表する温度が標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が標準状態における吸入空気温よりも低いときにノッキングを生ずることなく熱効率を向上することができる。
図面の簡単な説明
図1は火花点火式内燃機関の全体図である。
図2は可変圧縮比機構の分解斜視図である。
図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図である。
図4は可変バルブタイミング機構を示す図である。
図5は吸気弁および排気弁のリフト量を示す図である。
図6は機械圧縮比、実圧縮比および膨張比を説明するための図である。
【0020】
低回転時に点火時期が進角される。ところがこのときにも既に説明した機関暖機完了後の標準状態における場合と同様に、機関高回転時に実圧縮比を増大することによる熱効率の増大量と点火時期を遅角することによる熱効率と減少量との差が最大となる実圧縮比および点火時期が存在し、機関低回転時に点火時期を進角させることによる熱効率の増大量と実圧縮比を低下させることによる熱効率の減少量との差が最大となる点火時期および実圧縮比が存在する。
従って本発明による別の実施例ではノッキングの発生を阻止しつつ更に熱効率を向上させるために図14(A)に示されるように機関高回転時には実圧縮比を増大させると共に点火時期を遅角させ、機関低回転時には点火時期を進角させると共に実圧縮比を低下させるようにしている。
図14(B)はこの別の実施例における異なる吸入空気温a,b,cについての実圧縮比の増大量又は減少量ΔAC1と機関回転数Nとの関係を示しており、図14(C)はこの別の実施例における異なる吸入空気温a,b,cについての点火時期の進角量又は遅角量ΔIG1と機関回転数Nとの関係を示している。なお、図14(B),(C)において吸入空気温はa>b>cなる関係にある。従って図14(B),(C)から、機関回転数Nが高いほどおよび吸入空気温が低いほど実圧縮比の増大量ΔAC1が増大せしめられると共に点火時期の遅角量ΔIG1が増大せしめられ、機関回転数Nが低いほどおよび吸入空気温が低いほど実圧縮比の低下量ΔAC1が増大せしめられると共に点火時期の進角量ΔIG1が増大せしめられることがわかる。
また、図15(A),(B)はこの別の実施例において機関温度を代表する温度として機関冷却水温が用いられた場合の各関係を示している。即ち、図15(A)は異なる機関冷却水温a,b,cに
低回転時に点火時期が進角される。ところがこのときにも既に説明した機関暖機完了後の標準状態における場合と同様に、機関高回転時に実圧縮比を増大することによる熱効率の増大量と点火時期を遅角することによる熱効率と減少量との差が最大となる実圧縮比および点火時期が存在し、機関低回転時に点火時期を進角させることによる熱効率の増大量と実圧縮比を低下させることによる熱効率の減少量との差が最大となる点火時期および実圧縮比が存在する。
従って本発明による別の実施例ではノッキングの発生を阻止しつつ更に熱効率を向上させるために図14(A)に示されるように機関高回転時には実圧縮比を増大させると共に点火時期を遅角させ、機関低回転時には点火時期を進角させると共に実圧縮比を低下させるようにしている。
図14(B)はこの別の実施例における異なる吸入空気温a,b,cについての実圧縮比の増大量又は減少量ΔAC1と機関回転数Nとの関係を示しており、図14(C)はこの別の実施例における異なる吸入空気温a,b,cについての点火時期の進角量又は遅角量ΔIG1と機関回転数Nとの関係を示している。なお、図14(B),(C)において吸入空気温はa>b>cなる関係にある。従って図14(B),(C)から、機関回転数Nが高いほどおよび吸入空気温が低いほど実圧縮比の増大量ΔAC1が増大せしめられると共に点火時期の遅角量ΔIG1が増大せしめられ、機関回転数Nが低いほどおよび吸入空気温が低いほど実圧縮比の低下量ΔAC1が増大せしめられると共に点火時期の進角量ΔIG1が増大せしめられることがわかる。
また、図15(A),(B)はこの別の実施例において機関温度を代表する温度として機関冷却水温が用いられた場合の各関係を示している。即ち、図15(A)は異なる機関冷却水温a,b,cに
Claims (5)
- 機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構と、吸気弁の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構とを具備しており、機関暖機完了後の予め定められた標準状態における実圧縮比および点火時期が夫々機関の運転状態に応じた基準実圧縮比および基準点火時期として予め記憶されており、機関温度を代表する温度が上記標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が上記標準状態における吸入空気温よりも低いときには、機関高回転時に実圧縮比を上記基準実圧縮比よりも増大させ、機関低回転時に点火時期を上記基準点火時期よりも進角させるようにした火花点火式内燃機関。
- 機関温度を代表する温度が上記標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が上記標準状態における吸入空気温よりも低いときであって排気浄化用触媒が活性化しているときに、機関高回転時には実圧縮比を上記基準実圧縮比よりも増大させ、機関低回転時には点火時期を上記基準点火時期よりも進角させる請求項1に記載の火花点火式内燃機関。
- 機関温度を代表する温度が上記標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が上記標準状態における吸入空気温よりも低いときであっても排気浄化用触媒が活性化していないときには実圧縮比を最小実圧縮比まで低下させると共に点火時期を最大遅角量まで遅角させる請求項2に記載の火花点火式内燃機関。
- 機関温度を代表する温度が上記標準状態における温度よりも低いとき又は吸入空気温が上記標準状態における吸入空気温よりも低いときには、機関高回転時には実圧縮比を上記基準実圧縮比よりも増大させると共に点火時期を上記基準点火時期よりも遅角させ、機関低回転時に点火時期を上記基準点火時期よりも進角させると共に実圧縮比を上記基準実圧縮比よりも低下させるようにした請求項1又は2に記載の火花点火式内燃機関。
- 機関温度を代表する温度が上記標準状態における温度よりも低いほど又は吸入空気温が上記標準状態における吸入空気温よりも低いほど、機関高回転時に実圧縮比を増大させると共に点火時期を遅角させ、機関低回転時に点火時期を進角させると共に実圧縮比を低下させる請求項4に記載の火花点火式内燃機関。
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