図1に火花点火式内燃機関の側面断面図を示す。
図1を参照すると、1はクランクケース、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は燃焼室5の頂面中央部に配置された点火栓、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートを夫々示す。吸気ポート8は吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、各吸気枝管11には夫々対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに各燃焼室5内に配置してもよい。
サージタンク12は吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結され、吸気ダクト14内にはアクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17と例えば熱線を用いた吸入空気量検出器18とが配置される。一方、排気ポート10は排気マニホルド19を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒コンバータ20に連結され、排気マニホルド19内には空燃比センサ21が配置される。また、触媒コンバータ20には触媒コンバータ20内に内蔵された触媒、例えば三元触媒の温度を検出するための温度センサ22が取付けられている。
一方、図1に示される実施例ではクランクケース1とシリンダブロック2との連結部にクランクケース1とシリンダブロック2のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられており、更に実際の圧縮作用の開始時期を変更可能な実圧縮作用開始時期変更機構Bが設けられている。なお、図1に示される実施例ではこの実圧縮作用開始時期変更機構Bは吸気弁7の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構からなる。
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。吸入空気量検出器18の出力信号、空燃比センサ21の出力信号および温度センサ22の出力信号は夫々対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火栓6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用アクチュエータ16、可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bに接続される。
図2は図1に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図を示している。図2を参照すると、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50内には夫々断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁面上には互いに間隔を隔てて夫々対応する突出部50の間に嵌合せしめられる複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52内にも夫々断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
図2に示されるように一対のカムシャフト54,55が設けられており、各カムシャフト54,55上には一つおきに各カム挿入孔51内に回転可能に挿入される円形カム56が固定されている。これらの円形カム56は各カムシャフト54,55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム56間には図3においてハッチングで示すように各カムシャフト54,55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57が延びており、この偏心軸57上に別の円形カム58が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示されるようにこれら円形カム58は各円形カム56間に配置されており、これら円形カム58は対応する各カム挿入孔53内に回転可能に挿入されている。
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54,55上に固定された円形カム56を図3(A)において実線の矢印で示される如く互いに反対方向に回転させると偏心軸57が下方中央に向けて移動するために円形カム58がカム挿入孔53内において図3(A)の破線の矢印に示すように円形カム56とは反対方向に回転し、図3(B)に示されるように偏心軸57が下方中央まで移動すると円形カム58の中心が偏心軸57の下方へ移動する。
図3(A)と図3(B)とを比較するとわかるようにクランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム56の中心と円形カム58の中心との距離によって定まり、円形カム56の中心と円形カム58の中心との距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース1から離れる。シリンダブロック2がクランクケース1から離れるとピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大し、従って各カムシャフト54,55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
図2に示されるように各カムシャフト54,55を夫々反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸には夫々螺旋方向が逆向きの一対のウォームギア61,62が取付けられており、これらウォームギア61,62と噛合する歯車63,64が夫々各カムシャフト54,55の端部に固定されている。この実施例では駆動モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。なお、図1から図3に示される可変圧縮比機構Aは一例を示すものであっていかなる形式の可変圧縮比機構でも用いることができる。
一方、図4は図1において吸気弁7を駆動するためのカムシャフト70の端部に取付けられた可変バルブタイミング機構Bを示している。図4を参照すると、この可変バルブタイミング機構Bは機関のクランク軸によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転せしめられるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁駆動用カムシャフト70と一緒に回転しかつ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを具備しており、各ベーン75の両側には夫々進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
各油圧室76,77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76,77に夫々連結された油圧ポート79,80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83,84と、各ポート79,80,82,83,84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは図4においてスプール弁85が右方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転せしめられる。
これに対し、吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは図4においてスプール弁85が左方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転せしめられる。
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転せしめられているときにスプール弁85が図4に示される中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。従って可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させることができ、遅角させることができることになる。
図5において実線は可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。従って吸気弁7の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、従って吸気弁7の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
図1および図4に示される可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
次に図6を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図6の(A),(B),(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図6の(A),(B),(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
図6(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示される例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
図6(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。即ち、図6(B)に示されるように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。従って実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図6(B)に示される例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
図6(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示される例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
次に図7および図8を参照しつつ本発明において用いられている超高膨張比サイクルについて説明する。なお、図7は理論熱効率と膨張比との関係を示しており、図8は本発明において負荷に応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
図8(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図8(A)に示す例でも図6の(A),(B),(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図8(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。即ち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合の、即ち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、即ち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。従って通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果、実圧縮比が或る程度高いときには理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比はほとんど影響を与えないことが見い出されたのである。即ち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギーが必要となり、斯くして実圧縮比を高めても理論熱効率はほとんど高くならない。
これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。従って膨張比は大きくすれば大きくするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。図7から実圧縮比を10から12程度に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、実線で示す如く実圧縮比も膨張比と共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
このように実圧縮比が10から12程度に維持されているとノッキングが発生することがなく、従って実圧縮比を10から12程度に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大巾に高めることができる。図8(B)は可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比を低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
図8(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少せしめられる。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図8(A)に示される通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図8(B)に示される場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。これが超高膨張比サイクルと称される所以である。
一般的に言って内燃機関では機関負荷が低いほど熱効率が悪くなり、従って機関運転時における熱効率を向上させるためには、即ち燃費を向上させるには機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが必要となる。一方、図8(B)に示される超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室5内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、従ってこの超高膨張比サイクルは機関負荷が比較的低いときにしか採用できないことになる。従って本発明による実施例では機関負荷が比較的低いときには図8(B)に示す超高膨張比サイクルとし、機関高負荷運転時には図8(A)に示す通常のサイクルとするようにしている。
次に図9を参照しつつ運転制御全般について説明する。
図9には或る機関回転数における機関負荷に応じた機械圧縮比、膨張比、吸気弁7の閉弁時期、実圧縮比、吸入空気量、スロットル弁17の開度および、燃焼室5から排出される未燃HC量の各変化が示されている。なお、図9は、触媒コンバータ20内の三元触媒によって排気ガス中の未燃HC,COおよびNOxを同時に低減しうるように燃焼室5内における平均空燃比が空燃比センサ21の出力信号に基いて理論空燃比にフィードバック制御されている場合を示している。
さて、前述したように機関高負荷運転時には図8(A)に示される通常のサイクルが実行される。従って図9に示されるようにこのときには機械圧縮比は低くされるために膨張比は低く、図9において実線で示されるように吸気弁7の閉弁時期は図5において実線で示される如く早められている。また、このときには吸入空気量は多く、このときスロットル弁17の開度は全開又はほぼ全開に保持されている。
一方、図9において実線で示されるように機関負荷が低くなるとそれに伴って吸入空気量を減少すべく吸気弁7の閉弁時期が遅くされる。またこのときには実圧縮比がほぼ一定に保持されるように図9に示される如く機関負荷が低くなるにつれて機械圧縮比が増大され、従って機関負荷が低くなるにつれて膨張比も増大される。なお、このときにもスロットル弁17は全開又はほぼ全開状態に保持されており、従って燃焼室5内に供給される吸入空気量はスロットル弁17によらずに吸気弁7の閉弁時期を変えることによって制御されている。
このように機関高負荷運転状態から機関負荷が低くなるときには実圧縮比がほぼ一定のもとで吸入空気量が減少するにつれて機械圧縮比が増大せしめられる。即ち、吸入空気量の減少に比例してピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積が減少せしめられる。従ってピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は吸入空気量に比例して変化していることになる。なお、このとき図9に示される例では燃焼室5内の空燃比は理論空燃比となっているのでピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は燃料量に比例して変化していることになる。
機関負荷が更に低くなると機械圧縮比は更に増大せしめられ、機関負荷がやや低負荷寄りの中負荷L0まで低下すると機械圧縮比は燃焼室5の構造上限界となる限界機械圧縮比に達する。機械圧縮比が限界機械圧縮比に達すると、機械圧縮比が限界機械圧縮比に達したときの機関負荷L0よりも負荷の低い領域では機械圧縮比が限界機械圧縮比に保持される。従って低負荷側の機関中負荷運転時および機関低負荷運転時には即ち、機関低負荷運転側では機械圧縮比は最大となり、膨張比も最大となる。別の言い方をすると機関低負荷運転側では最大の膨張比が得られるように機械圧縮比が最大にされる。
一方、図9に示される例では機関負荷がL0よりも低くなると吸気弁7の閉弁時期が予め定められている基準閉弁時期に制御される。図9に示される例ではこの基準閉弁時期は一定値であり、従って図9に示される例では機関負荷がL0よりも低くなると吸気弁7の閉弁時期は一定に保持されることになる。
一方、このように吸気弁7の閉弁時期が一定に保持されるともはや吸気弁7の閉弁時期の変化によっては吸入空気量を制御することができない。図9に示される実施例ではこのとき、即ち機関負荷がL0よりも低い領域ではスロットル弁17によって燃焼室5内に供給される吸入空気量が制御される。このときスロットル弁17の開度は機関負荷が低くなるにつれて小さくされる。
一方、図9において破線で示すように機関負荷がL0よりも高い領域においては、機関負荷が低くなるにつれて吸気弁7の閉弁時期を早めることによってもスロットル弁17によらずに吸入空気量を制御することができる。従って、図9において実線で示される場合と破線で示される場合とをいずれも包含しうるように表現すると、本発明による実施例では吸気弁7の閉弁時期は、機関負荷が低くなるにつれて、予め定められている基準閉弁時期まで吸気下死点BDCから離れる方向に移動せしめられることになる。
ところで前述したように図8(B)に示す超高膨張比サイクルでは膨張比が26とされる。この膨張比は高いほど好ましいが20以上であればかなり高い理論熱効率を得ることができる。従って本発明では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
さて、図9に示される如く機関負荷がL0よりも低い領域では機械圧縮比および吸気弁7の閉弁時期が共に一定に維持されるので実圧縮比も一定に維持されている。このときの実圧縮比は機関高負荷運転時と同じ実圧縮比とされ、従って図9に示される例では機関負荷にかかわらず実圧縮比が一定とされている。
一方、図7に示されるように実圧縮比εが低くなると膨張比が同一であっても理論熱効率は実圧縮比εが低くなるほど低下する。なお、図7において実圧縮比ε=5は実用上使用可能な下限実圧縮比を示している。図7からわかるように理論熱効率からみると実圧縮比εはノッキングが発生しない限り、高くすることが好ましく、従って図9に示される例では実圧縮比は機関負荷にかかわらずに10から12程度とされている。
さて、図9からわかるように機関負荷がL0よりも低い機関低負荷運転側では10〜12程度の実圧縮比のもとで20以上の膨張比とされており、従って図7からわかるように理論熱効率はかなり高くなっている。しかしながら理論熱効率が高くなると排気ガス温が低下し、その結果機関始動時であれば触媒コンバータ20内の触媒例えば三元触媒を活性化させるのが困難になり、機関運転時であれば三元触媒の温度が活性温度以下に低下するのを阻止するのが困難になるという問題を生ずる。
このような問題を解決するためには機関始動時に熱効率を低下させ、或いは機関運転中において機関負荷が低負荷運転側となったときに一時的に熱効率を低下させ、それによって排気ガス温を上昇させればよいことになる。この場合、熱効率を低下させる方法は基本的に二つの方法があり、次にこのことについて図7と同様な図10を参照しつつ説明する。
例えば機関負荷が低負荷運転側であるときに機械圧縮比が25とされ、実圧縮比εが10とされていたとすると、このときの状態は図10のA点で示されることになる。このような状態で理論熱効率を矢印で示すだけ低下させるための一つの方法はA点からB1点に向けて実圧縮比εを変化させることなく膨張比、即ち機械圧縮比を低下させる方法であり、もう一つの方法はA点からB2点に向けて膨張比、即ち機械圧縮比を変化させることなく実圧縮比εを低下させる方法である。無論、機械圧縮比および実圧縮比εを共に変化させることにより理論熱効率を矢印で示すだけ低下させることもできる。
ところで三元触媒のように触媒が酸化機能を有している場合には、触媒の温度は、排気ガス温を増大させるよりも、排気ガス中に含まれる未燃HCの量を増大させてこの未燃HCによる酸化反応熱を増大させた方がはるかに急速に上昇する。即ち、触媒の温度を上昇させるには排気ガス中に含まれる未燃HCの量を増大させることが好ましいことになる。
一方、本発明におけるように機械圧縮比を変更可能な場合には機械圧縮比が高くされるほど圧縮行程末期におけるシリンダヘッド3の内壁面とピストン4の頂面間の間隙が小さくなるために燃焼火炎が燃焼室5の周辺部まで広がりずらくなり、斯くして機械圧縮比が高くされるほど未燃HCの発生量が増大する。事実、図1に示される内燃機関では図11に示されるように排気ガス中に含まれる未燃HCの量は機械圧縮比が高くなるほど増大する。従って触媒の温度を急速に上昇させるには機械圧縮比を低下させないことが好ましいことになる。
さて、前述したように熱効率を低下させて排気ガス温を上昇させるには機械圧縮比を低下させるか、或いは実圧縮比を低下させるかのいずれかである。この場合、触媒の温度を急速に上昇させるには機械圧縮比はできる限り低下させないことが好ましく、主に実圧縮比を低下させることが好ましいことになる。一方、実圧縮比を低下させるには、機械圧縮比を低下させるか、或いは吸気弁7の閉弁時期を吸気下死点から離れる方向に移動させるかのいずれかである。この場合、触媒の温度を急速に上昇させるには上述した如く機械圧縮比はできる限り低下させないことが好しく、従って、主に吸気弁7の閉弁時期を吸気下死点から離れる方向に移動させることが好ましいことになる。
従って本発明では、 吸気弁7の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構Bと、機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構Aとを具備しており、燃焼室5内に供給される吸入空気が吸気弁7の閉弁時期を変化させることによって制御され、機関低負荷運転側では機械圧縮比が最大機械圧縮比に維持されると共に吸気弁7の閉弁時期が予め定められている基準閉弁時期に制御される火花点火式内燃機関において、機械圧縮比が最大機械圧縮比に維持される機関低負荷運転側において排気浄化用触媒を昇温すべきときには実圧縮比が低下せしめられ、この実圧縮比の低下作用は主に吸気弁7の閉弁時期を基準閉弁時期よりも吸気下死点から離れる方向に移動させることによって行われる。
このように本発明では実圧縮比の低下作用が主に吸気弁7の閉弁時期を吸気下死点から離れる方向に移動させることによって行われるので燃焼室5からは多量の未燃HCが排出される。その結果、排気ガス温の増大による触媒の昇温作用に加え、未燃HCの酸化反応熱による触媒の昇温作用が行われるので触媒を急速に昇温させることができることになる。
図12は図9に示される運転制御が行われている場合において機関負荷がL1のときに触媒の急速昇温が行われた場合の具体的な制御例を示している。図12に示されるようにこの場合には機械圧縮比は低下せしめられず、吸気弁7の閉弁時期をΔICだけ遅角させることによって実圧縮比がA点からB2点まで低下せしめられる。即ち、この具体的な制御例では、実圧縮比の低下作用は機械圧縮比を最大機械圧縮比に維持しつつ吸気弁7の閉弁時期を基準閉弁時期よりも吸気下死点から離れる方向に移動させることによって行われる。
なお、図12に示されるように吸気弁7の閉弁時期が遅角されると吸入空気量が減少するのでこのとき吸気弁7の閉弁時期が遅角されても吸入空気量が変化しないようにスロットル弁17の開度が増大せしめられる。なお、機関負荷に応じた吸入空気量の得られるスロットル弁17の開度は機関負荷、機関回転数および吸気弁7の閉弁時期の関数として予めROM32内に記憶されており、従ってスロットル弁17の開度はこのROM32内に記憶されている開度に基づいて制御される。
一方、このときには機械圧縮比は低下せしめられず、最大機械圧縮比に維持されているので図12に示されるように燃焼室5から排出される未燃HCの量は変化しない。即ち、このとき燃焼室5からは多量の未燃HCが排出されるので触媒が急速に加熱されることになる。
ところで触媒が活性化していないときに燃焼室5から多量の未燃HCが排出されるとこれら未燃HCは触媒において酸化されることなく大気中に排出されることになり、好ましくない。従って本発明による実施例では図12に示される実圧縮比の低下作用は触媒が活性化しているときに行うようにしている。
即ち、触媒が活性化していないときには燃焼室5から未燃HCができる限り排出しないようにして排気ガス温を上昇させることが好ましく、そのためには機械圧縮比を低下させることが好ましいと言える。従って本発明による実施例では触媒を昇温すべきときに触媒が活性化していないときには、触媒の昇温作用は主に機械圧縮比を最大機械圧縮比から低下させることによって行うようにしている。
図13は触媒が活性化していない場合において機関負荷がL1のときに触媒の昇温作用が行われた場合の具体的な制御例を示している。図13に示されるようにこの場合には機械圧縮比がA点からB1点までΔCRだけ低下せしめら、このとき実圧縮比が変化しないように吸気弁7の閉弁時期がΔICだけ進角される。即ち、このとき触媒の昇温作用は実圧縮比を一定に維持しつつ機械圧縮比を最大機械圧縮比から低下させることによって行われる。このとき図13に示されるように燃焼室5から排出される未燃HCの量は減少せしめられる。
一方、吸気弁7の閉弁時期が進角されると吸入空気量が増大するのでこのときには吸入空気量が変化しないように図13に示される如くスロットル弁17の開度が減少せしめられる。
図14に触媒の昇温制御のタイムチャートを示す。なお、図14には機関負荷の変化、触媒温度TCの変化、活性フラグの状態および昇温制御の形態が示されている。また、図14の触媒温度TCにおいてT0は触媒の活性温度、TXは活性温度T0よりも若干高い温度であって触媒がまちがいなく活性していると判断しうる活性判断温度であり、TCOは触媒を昇温する際の昇温目標温度を示している。
図14に示されるように本発明による実施例では機関の始動後、触媒温度TCが活性判断温度TXを越えるまでは図13に示される昇温制御Iが行われ、触媒温度TCが活性判断温度TXを越えると活性フラグがセットされると共に触媒温度TCが昇温目標温度TCOを越えるまで図12に示される昇温制御IIが行われる。その後、触媒温度TCが活性判断温度TX以下になると触媒温度TCが昇温目標温度TCOを越えるまで再び図12に示される昇温制御IIが行われる。即ち、活性フラグが一旦セットされるとその後は昇温制御Iは行われることはなく、昇温制御IIのみが行われることになる。
なお、昇温制御IおよびIIを行う際の吸気弁7の閉弁時期の進角量や遅角量ΔICおよび機械圧縮比の低下量ΔCRは触媒の昇温作用時における触媒温度TCと昇温目標温度TCOとの温度差ΔTに基づいて制御される。即ち、昇温制御Iのときには図15に示されるように触媒温度TCと昇温目標温度TCOとの温度差ΔTが大きいほど最大機械圧縮比からの機械圧縮比の低下量ΔCRが大きくされると共に吸気弁7の閉弁時期の進角量ΔICが増大される。即ち、このとき吸気弁7の閉弁時期は吸気下死点に近づく方向に移動せしめられる。
これに対し、昇温制御IIのときには図16に示されるように触媒温度TCと昇温目標温度TCOとの温度差ΔTが大きいほど吸気弁7の閉弁時期の遅角量ΔICが増大される。即ち、このときには吸気弁7の閉弁時期は基準閉弁時期よりも吸気下死点から離れる方向に移動せしめられる。即ち、昇温制御IおよびIIが行われたときには熱効率をできるだけ低下させないように昇温制御Iにおいて温度差ΔTが小さくなったときには機械圧縮比の低下量ΔCRが小さくされ、昇温制御IIにおいて温度ΔTが小さくなったときには実圧縮比が増大するように吸気弁7の閉弁時期の遅角量ΔICが小さくされる。
図17は図14に示される活性フラグのセット処理ルーチンを示しており、このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図17を参照するとまず初めにステップ90において活性フラグがセットされているか否かが判別される。活性フラグがセットされていないときにはステップ91に進んで触媒温度TCが活性判断温度TXを越えたか否かが判別される。TC>TXとなったときにはステップ92に進んで活性フラグがセットされる。この活性フラグは機関が停止されるとリセットされる。
図19は運転制御ルーチンを示しており、このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図19を参照するとまず初めにステップ100において図18に示すマップから吸気弁7の閉弁時期ICが算出される。即ち、要求吸入空気量を燃焼室5内に供給するのに必要な吸気弁7の閉弁時期ICが機関負荷Lおよび機関回転数Nの関数として図18に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されており、このマップから吸気弁7の閉弁時期ICが算出される。次いでステップ101では実圧縮比を予め定められた実圧縮比とするのに必要な機械圧縮比CRが算出される。
次いでステップ102では機関負荷Lが予め定められた機関負荷L0よりも低いか否かが判別される。L≧L0のときにはステップ103にジャンプしてスロットル弁17の開度が算出される。前述したようにこのスロットル弁17の開度θは予めROM32内に記憶されている。次いでステップ104では機械圧縮比が機械圧縮比CRとなるように可変圧縮比機構Aが制御され、吸気弁7の閉弁時期が閉弁時期ICとなるように可変バルブタイミング機構Bが制御され、スロットル弁17の開度が開度θとなるようにスロットル弁17が制御される。
一方、ステップ102においてL<L0であると判断されるとステップ105に進んで活性フラグがセットされているか否かが判別される。活性フラグがセットされていないときにはステップ106に進んで昇温フラグがセットされる。次いでステップ107に進んで図14に示される昇温制御Iが行われる。
即ち、ステップ107では図15に示す関係から温度差ΔTに基づいて機械圧縮比の低下量ΔCRが算出され、次いでステップ108では図15に示す関係から温度差ΔTに基づいて吸気弁閉弁時期の進角量ΔICが算出される。次いでステップ109ではステップ101において算出された機械圧縮比ICとステップ107において算出された低下量ΔICから最終的な機械圧縮比ICが算出され、次いでステップ110ではステップ100において算出された吸気弁7の閉弁時期ICとステップ108において算出された進角量ΔICから最終的な空気弁7の閉弁時期ICが算出される。次いでステップ103に進む。
一方、ステップ105において活性フラグがセットされたと判断されるとステップ111に進んで図14に示される昇温制御IIを実行すべきことを示す昇温フラグがセットされているか否かが判別される。昇温フラグがセットされているときにはステップ114にジャンプして触媒温度TCが昇温目標温度TCOを越えたか否かが判別される。TC≦TCOのときにはステップ115に進んで図16に示す関係から温度差ΔTに基づいて吸気弁閉弁時期の遅角量ΔICが算出される。次いでステップ110ではステップ100において算出された吸気弁7の閉弁時期ICとステップ115において算出された遅角量ΔICから最終的な吸気弁7の閉弁時期ICが算出される。次いでステップ103に進む。
次いでステップ114においてTC>TCOになったと判断されるとステップ116に進んで昇温フラグがリセットされ、昇温制御IIが停止される。昇温フラグがリセットされるとステップ111からステップ112に進んで触媒温度TCが活性判断温度TX以下に低下したか否かが判別される。TC<TXになるとステップ113に進んで昇温フラグがセットされる。次いでステップ114を経てステップ115に進み、再び昇温制御IIが行われる。